カリフォルニア州における会社設立時の税務会計マニュアル ·...

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1 Copyright © 2008 JETRO. All rights reserved. カリフォルニア州における会社設立時の税務会計マニュアル 本書は、米国で事業を始める際に必要な手続きについて、会社設立から閉鎖までに直面する、税務、 会計手続きについてまとめたものです。日本に本社を置く会社が、カリフォルニア州に100 パーセント所有の 子会社を設立し、その後も100%の所有関係を維持することを前提とした場合、ほとんどのケースがC Corporation (普通法人)になりますので、本書では、C Corporationを設立した場合を想定して説明します。複数 の会社が合弁事業として会社を設立する際にパートナーシップを設立したり、個人が自営業を始めるために LLCS Corporation(小規模法人)を作ったり、個人や会社が投資家からの資金を得ながら将来、新規株式上 場(IPO)を目指してベンチャー企業を設立するような場合、および発行した株式の転売を予定しているような場 合は、100 パーセント子会社の設立、運営とは異なった税務会計の知識が必要とされますが、本書の説明は、 そのような形態の会社を設立しようとしている方々にも、大いに役立つことと思います。 本書の内容は一般情報として提供されており、特定の案件に対する個々の状況に適した会計、税務アドバイ スではありませんので、ご了承ください。個々の状況に適した会計、税務アドバイスが必要である場合は、会計 士にご相談ください。 なお、本書の作成に当たっては、EOS Accountants LLP の金子氏、小澤氏に執筆、助言いただきました。こ の場を借りて、感謝申し上げたいと思います。 2008 3 月吉日 ジェトロ サンフランシスコセンター / US-Japan Business Innovation Center <免責事項> ジェトロは、本報告書の記載内容に関して生じた直接的、間接的、あるいは懲罰的損害および利益の喪失 については、一切の責任を負いません。これは、たとえ、ジェトロがかかる損害の可能性を知らされていても 同様とします。

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カリフォルニア州における会社設立時の税務会計マニュアル

本書は、米国で事業を始める際に必要な手続きについて、会社設立から閉鎖までに直面する、税務、

会計手続きについてまとめたものです。日本に本社を置く会社が、カリフォルニア州に100 パーセント所有の

子会社を設立し、その後も100%の所有関係を維持することを前提とした場合、ほとんどのケースがC

Corporation (普通法人)になりますので、本書では、C Corporationを設立した場合を想定して説明します。複数

の会社が合弁事業として会社を設立する際にパートナーシップを設立したり、個人が自営業を始めるために

LLCや S Corporation(小規模法人)を作ったり、個人や会社が投資家からの資金を得ながら将来、新規株式上

場(IPO)を目指してベンチャー企業を設立するような場合、および発行した株式の転売を予定しているような場

合は、100 パーセント子会社の設立、運営とは異なった税務会計の知識が必要とされますが、本書の説明は、

そのような形態の会社を設立しようとしている方々にも、大いに役立つことと思います。

本書の内容は一般情報として提供されており、特定の案件に対する個々の状況に適した会計、税務アドバイ

スではありませんので、ご了承ください。個々の状況に適した会計、税務アドバイスが必要である場合は、会計

士にご相談ください。

なお、本書の作成に当たっては、EOS Accountants LLP の金子氏、小澤氏に執筆、助言いただきました。こ

の場を借りて、感謝申し上げたいと思います。

2008年 3月吉日

ジェトロ サンフランシスコセンター / US-Japan Business Innovation Center

<免責事項>

ジェトロは、本報告書の記載内容に関して生じた直接的、間接的、あるいは懲罰的損害および利益の喪失

については、一切の責任を負いません。これは、たとえ、ジェトロがかかる損害の可能性を知らされていても

同様とします。

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目次

1.米国進出前準備

1-1.会社設立形態の決定

1-1-1.駐在員事務所

1-1-2.支店

1-1-3.現地法人

1-2.会計、税務業務の事前調査

1-2-1.米国会計事務所

1-2-2.会計事務所との事前打ち合わせ、及び見積もり依頼

1-2-3.米国赴任者の給与、福利厚生等に関する決定

2.米国進出前後の会計税務業務

2-1.事業計画の策定

2-2.本社との連結業務の確認、会計ソフトウェアの選定

2-3.米国赴任者の給与のグロスアップ計算

2-4.会計税務申告に関する手続きの確認

3.給与関連の税金

3-1.給与に関する連邦税

3-2.給与に関するカリフォルニア州税

3-3.給与支払代行会社

4.連邦法人税

4-1.連邦法人税の税額計算の概要

4-2.予定納税(Estimate Tax)

5.カリフォルニア法人税

5-1.カリフォルニア法人税(フランチャイズタックス)

5-2.ユニタリータックス

5-3.売上税・使用税

5-4.資産税

6.米国法人設立時の注意事項

6-1.過少資本税制

6-2.移転価格税制

7.米国と日本の会計制度の相違点

7-1.GAAP(Generally Accepted Accounting Principles – 一般に公正妥当と認められた会

計原則)と日米会計制度上の相違

7-2. 米国での財務諸表監査とレビュー

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1. 米国進出前準備

1-1.会社設立形態の決定

米国で会社を設立する際には法人形態をまず選び、どのような形態で事業を設立するかを決めなけれ

ばなりません。法人形態としては、Sole Proprietorship(個人自営業者)、駐在員事務所、支店、

Partnership(パートナーシップ )、 S Corporation(小規模法人 )、 LLC(有限責任会社)、 C

Corporation(普通法人)などがありますが、ここでは、通常、日本法人の米国オフィスの選択肢となる、

駐在員事務所、支店、C Corporation(普通法人)について、ご説明します。

1-1-1.駐在員事務所

駐在員事務所は、営業活動を行わない事務所であり、米国に進出する日本企業の最も初期の段階にお

ける形態です。駐在員事務所は連邦法人税の対象になりません。その法的根拠は、新日米租税条約第 5

条にあります。この条項において、日本企業が米国国内に恒久的施設(PE)(事業を行う一定の場所)

を有する場合は米国で課税が生ずると規定されています。しかし、もしその日本企業の米国における活

動が以下の活動に限られている場合には、恒久的施設(PE)の例外とされ、米国における事業活動には該

当しません。

1) 本社の物品または商品の保管・展示

2) 本社の物品または商品を他の者による加工のために保有

3) 本社のために物品または商品を購入

4) 本社のために情報を収集

5) その他の準備的・補完的な活動

6) 上記活動を組み合わせた活動

上記の活動や、一般市場調査、得意先との単純な連絡に業務が限定されており、受注、勧誘、契約の

締結等の事業活動を行わない場合は、米国での事業活動とはみなされないことになっています。しかし

駐在員事務所であれ、税務申告義務はあるため、連邦法人税については、連邦法人税申告書 Form1120F

を提出する必要があります。州および、その他の地方法人税に関しては、駐在員事務所に関しての明確

な規定がありません。通常、州の税法上、従業員を雇用して、事務所を保有することや賃貸料を支払う

ことは、州内において事業活動に従事していることになります。よって、州税上は、駐在員事務所と支

店の区別はなく、これらは同一に扱われます。

駐在員事務所を開設するための州政府当局への申請は必要とされませんが、州法人税、給与関係税な

どの対象となるため、それらの登録や申請を行わなければなりません。駐在員事務所の諸経費は日本本

社の必要経費であり、日本の法人税計算上の損金算入が認められています。

別冊のカリフォルニア州における会社開設、維持、閉鎖ガイドブックで駐在員事務所についての説明

にあるとおり、カリフォルニア州で支店登録をしていない駐在員事務所は、ビジネスに従事できないこ

とになっています。日米租税条約上、事業活動に該当しない活動を行っていても、日米租税条約に縛ら

れないカリフォルニア州からは、それらがビジネス活動であるという指摘がされる場合もありえます。

もし支店登記をしないでビジネス活動をした場合は、ペナルティーを支払わなければならない可能性も

あり得ます。このように駐在員事務所は非常にあいまいな存在であり、ペナルティーを取られる可能性

があるデメリットと比べれば、駐在員事務所という選択肢を取らないほうが安全といえます。

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1-1-2.支店

支店は販売促進活動、役務の提供、資金の運用や調達、本社製品の維持、アフターサービス、修理な

どの営業行為を目的とした恒久的施設(PE)と見なされます。支店に対する米国での税率、課税所得の算

定方法は、現地法人と同様ですが、支店の課税所得を計算する際には、本社の本部経費配賦額を控除す

ることが認められています。本部経費配賦額の例として、本社から支社へ送金した資金のコストや、社

内人事部が米国支店駐在員を管理する際のコストなどが当てはまります。しかし具体的な指針がないた

めに、後日 IRS(Internal Revenue Service:米国国税庁)の検査の際に、問題になることもありますの

で、本部経費配賦額の控除には、注意を要します。

以下、支店を選択するメリット、デメリットについてまとめました。

支店を選択するメリット

1) 支店開設費や支店の欠損金は、日本本社の税務申告の際に、控除することが認められているた

め、それらを本社の損益と合算し、日本での納税の際に節税することが可能。

2) 支店の課税所得を計算する際に、本社の本部経費配賦額を控除することが可能。(現地法人の

場合は、本社の本部経費の控除は認められていない。)

3) 米国で課税された法人所得税は、日本本社の税務申告の際に、外国税控除を取ることが可能。

支店を選択するデメリット

1) 訴訟事件が生じた場合、支店であれば直接、日本法人が原告または被告となり、日本本社が米

国法の管轄下になり裁判所の裁定を受けることになる。現地法人の場合は、通常、現地法人が

原告または被告になり、現地法人のみの問題として対応可能。

2) 本社損益と合算するために、日本の会計処理基準および税務上の規定に従わなければならず、

その作業に時間がかかる。また日本の税務当局の調査権は、支店にもおよぶので、日本側で支

店の決算内容や実態を把握しておく必要がある。

3) カリフォルニア州や一部の州税ではユニタリータックス(州外の関係会社の所得も合算し、課

税所得を計算する方式)を採用しているため、本社利益が州税の課税対象になる可能性があり、

州税務当局の税務調査が、日本本社にまで及ぶことがある。

1-1-3.現地法人

現地法人は、米国国内に別個の組織である現地法人を設立して、その組織を通じて米国国内でビジネ

スを行う形態です。これは、米国に進出する日本企業にとって、最も一般的な進出方法です。

事業運営は、資金提供者の株主(親会社)と経営陣である役員と取締役によって行われ、株主は有限

責任、つまり出資額までの責任を負います。現地法人は米国において課税され、毎年の所得を計算し、

法人所得税を支払わなければなりません。日本においては現地法人が本社に配当を支払うまでは、日本

での課税関係は生じません。

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以下、現地法人を選択するメリット、デメリットについてまとめました。

現地法人を選択するメリット

1)主有限責任のため、現地法人の負債に対する親会社(株主)の責任は無限ではなく出資額まで

に限定されている。

2)訴訟事件が生じた場合、現地法人が原告または被告となり、現地法人のみの問題として対応可能。

現地法人を選択するデメリット

1)現地法人で損失が発生した場合、親会社はその損失を相殺できない。

2)親会社と子会社間の取引について移転価格税制(*1)や過小資本税制(*2)の問題が生じる可

能性があり、現地法人が税務調査や追徴課税や受ける場合がある。(移転価格税制と過小資本税

制についての説明は、第 6章を参考にしてください。)

(*1) 移転価格税制--- 移転価格税制(いてんかかくぜいせい)とは、通常行われる取引の価格とは異なる価格をもって関連会社間の取引が

行われた場合において、その取引の価格を正常な価格に引きなおして課税を行う制度である。英語では、Transfer pricing という。

(*2) 過少資本税制--- 資本金が借入金に比べて過少となっている場合に、借入金が資本とみなされて借入金にかかる支払利息の損金算

入が否認される取り扱いのことを過少資本税制(Thin Capitalization)と呼んでいる。

1-2.会計、税務業務の事前調査

会社設立に関する法的な相談および手続きは、弁護士に依頼することになりますが、設立後の会計税

務に関しては会計事務所と事前に相談しておくことをお勧めいたします。

会計・税務業務は、会社立ち上げと同時に始まりますので、それらの業務をサポートする会計事務所

の役割は重要です。米国進出後に自らの業務に専念するためにも、会計事務所の選定および必要業務の

把握、諸手続きについての理解は必須です。会社立ち上げ時から必要となる、月々の記帳代行や税務申

告業務、また必要ならば期中および期末の財務諸表監査、レビューなどの業務依頼などについても会計

事務所と相談して、それぞれの業務についての見積もりを会計事務所から事前に取り、事務所の選定を

行っておくべきでしょう。

1-2-1.米国会計事務所

米国における会計事務所は、大別して 3つに分けられます。1つは、いわゆるビック 4といわれるイ

ンターナショナルファームです。これらのインターナショナルファームは、主に大企業相手を相手にし

た、全世界規模でのサービスを提供できる事務所です。2 つ目は、中堅の事務所ですが、中堅とはいえ、

数千人規模で全米展開している事務所や西海岸に数十の事務所をもち、海外にも提携ファームを持つ規

模から、数十人規模で州内にいくつかの事務所を持つ規模まで、さまざまな事務所があります。3つ目

は、個人事務所としてサービスを行う、ローカルな事務所です。どの事務所に依頼するかは、企業の期

待するサービスの内容や会計費用の違いによりまちまちですので、事前によく検討します。

1-2-2.会計事務所との事前打ち合わせ、及び見積もり依頼

候補となる会計事務所との事前の打ち合わせや、見積もり依頼は、日本での準備段階で、電話会議や

現地視察を通じて行います。その際、事前に、候補となる会計事務所の特徴や、サービスの内容を確認

して、依頼するサービスを決めておきます。一般的に現地法人を設立し、徐々に米国国内での事業拡大

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を目指す場合や、それほど規模を大きくする予定のない会社は、中小の会計事務所でも十分に対応でき

ます。中小会計事務所の利点は、木目細やかなサービスができ、日々の細かな質問等の相談がしやすい

ことです。しかし、進出後の早い段階での上場や、M&Aなどを前提にして、大規模な資金を投入して

企業活動をする場合は、大手の会計事務所に依頼する必要があると思われます。大手の会計事務所に依

頼する利点の 1つは、マネージメントコンサルティング部門などをもち、企業合併やM&Aなどの、幅

広い業務に対応できる能力があることです。どのタイプの事務所に依頼するかは、それぞれの企業の目

的や活動によって異なりますので慎重に検討します。

会計事務所での一般的なサービス料金についてですが、会計事務所の規模や行うサービスの内容によ

り異なります。米国では通常時間ベースの請求になり、日本のように決まった顧問料を月々支払うよう

な方法はあまり見られません。会計事務所には、通常、スタッフ、シニア、マネージャー、シニアマネ

ージャー、パートナーという役割があり、それぞれの役割分担があります。請求額は、これらの役割に

より決められています。例えば、中小規模の会計事務所では、1時間当たりの請求額は、通常、スタッ

フやシニアが$85-150、マネージャーやシニアマネージャーが$150-300、パートナーは、$300–500ぐら

いの請求額になります。大手会計事務所や準大手の事務所では、スタッフやシニアが$150-300、マネー

ジャーやシニアマネージャーが$300-500、パートナーは、$500以上の金額になります。

1-2-3.米国赴任者の給与、福利厚生等に関する決定

赴任者給与の支払い方法を、総額方式(グロス)とするのか、手取保障方式(ネットギャランティ

ー)とするのかを、本社人事部と事前に決定しておきます。グロス方式の場合は、基本的に日本での給

与の支払いがないことが前提になります。この方式の場合には、支払う税金も赴任者が負担し、還付に

関しても本人の帰属になります。

日系企業の駐在員の場合、支給する手取給与を保障して、所得税や社会保障税などの税金を会社が保

証するネットギャランティー方式を採用するケースがよく見られます。この場合、会社は、手取給与額

と、その金額に相当する税金額を加えたグロス給与額を計算します。通常、グロスアップの計算は、会

計事務所に依頼して行います。

米国の居住者となった場合には、日本で支給されている給与や米国での住宅補助手当、車のリース料

などの諸手当など、すべてが米国での課税所得となり、そのすべてを含めて総額の給与額を算出します

が、ネットギャランティーの場合は、仮に税金の還付金がある場合は、その還付金は会社の帰属となり

ます。また、ネットギャランティーの場合は、通常、申告者の作成を給与金額のグロスアップ計算と合

わせて、米国法人の管理部門が一括して、会計事務所に申告書の作成を依頼します。

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2.米国進出前後の会計税務業務

依頼する会計事務所を決定した後、会計事務所の会計士と相談の上、進出時期や会計年度を決定し、

具体的なアクションプランを決めておくことが重要です。

2-1.事業計画の策定

事業計画や予算は、実現可能性の低いものを作りがちです。実際に作成した予算が現地の実情に即し

ているかどうかを会計士に見てもらうのもよいでしょう。予算を作成する段階での予算の見積もり不足

が多く見られます。当初予定した予算を大幅に上回ってしまうケースも多く、結果として、追加増資や

借入金に頼ることになることがあります。そのようなことがないように、ゆとりのある資金計画を作る

ようにします。

2-2.本社との連結業務の確認、会計ソフトウェアの選定

月次締め、四半期締め、半期締め、年度末締めの方法や、内部レポートの作成手順等を、本社経理部

と確認しておきます。場合によっては、内部レポートを会計事務所にアウトソースすることもあります。

会計ソフトについては、スタートアップ企業や中小企業は、市販の会計ソフトウェアを使っているケー

スがほとんどです。市販の会計ソフトはユーザーフレンドリーに設計がなされており、簿記の知識があ

まり無くとも使えるようになっています。反面、本社の経理担当者や会計事務所にとっては、使いづら

いこともあります。その例としては、過去に記帳した取引を遡って修正することができたり、その記録

が残らなかったり、入力の際に誤入力に気が付かないなどがあります。ERP といった、より大規模ソフ

トウェアを、いつのタイミングで導入するか、といったことも話し合っておきます。

2-3.米国赴任者の給与のグロスアップ計算

赴任者給与の支払い方法を手取保障方式(ネットギャランティー)とした場合は、会計事務所にグロ

スアップ計算をしてもらいます。このネットギャランティー方式では、手取給与額とその金額に相当す

る税金を加えたグロス給与額を計算します。

2-4.会計税務申告に関する手続きの確認

12月決算期の場合、会計担当者の米国会計税務の作業日程は、おおむね以下のような流れとなりま

す。

初年度

日程 作業内容

1 月初旬 会計ソフトのセットアップ、勘定科目の設定、給与支払代行会社

に給与の設定作業を依頼

4 月 15日 今年度、連邦・カリフォルニア州法人税、第一回目予定納税納付

6 月 15日 今年度、連邦・カリフォルニア州法人税、第二回予定納税納付

7 月初旬 半期決算の確定作業

7 月中旬 or 下旬

会計事務所による、今年度半期決算会計監査もしくはレビューフィ

ールドワーク

9 月 15日 今年度、連邦・カリフォルニア州法人税、第三回予定納税納付

12 月 15日 今年度、連邦・カリフォルニア州法人税、第四回予定納税納付

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12 月 31日 決算日

次年度以降

日程 作業内容

1 月初旬 前年度決算の確定作業

1 月中旬もしくは下旬

会計事務所による、前年度決算会計監査もしくはレビューのフィー

ルドワーク(監査とレビューについては第 7章を参照してください。)

3 月 15日 前年度、連邦法人税申告書 Form 1120提出期限

前年度、カリフォルニア州法人税申告書 Form 100 提出期限

前年度、連邦延長申請書 Form7004 提出期限(6ヶ月延長可能)

カリフォルニア州は、Automatic extension(自動的に 7 ヶ月間の延

長が可能)

前年度、源泉徴収税申告書 1042

前年度、支払調書 1042-T, 1042-S

4 月 15日 今年度、連邦・カリフォルニア州法人税、第一回目予定納税納付

前年度、連邦・カリフォルニア州個人所得税申告書提出期限

6 月 15日 今年度、連邦・カリフォルニア州法人税、第二回予定納税納付

7 月初旬 半期決算の確定作業

7 月中旬 or 下旬

会計事務所による、今年度半期決算会計監査もしくはレビューフィ

ールドワーク

9 月 15日 前年度、連邦延長後法人税申告書提出期限

今年度、連邦・カリフォルニア州法人税、第三回予定納税納付

10 月 15日 前年度、カリフォルニア州延長後法人税申告書提出期限

前年度、連邦・カリフォルニア州個人所得税申告書提出期限

12 月 15日 今年度、連邦・カリフォルニア州法人税、第四回予定納税納付

12 月 31日 決算日

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3.給与関連の税金

米国で従業員を雇用する場合には、雇用主は、従業員の給与にかかる税金の源泉徴収義務、給与関係

税の納税報告義務があります。通常、Payroll Taxまたは Employment Taxといわれるこれらの税金につ

いて、以下ご説明します。

3-1.給与に関する連邦税

1)連邦所得税

会社を設立した際に、IRS に Form SS-4(雇用主番号の申請書)を提出し、連邦雇用主番号(FEIN)を

取得します。この雇用主番号を取得することにより、連邦に関わる法人税、給与関係税、失業保険の支

払い義務が発生することになります。

給与から源泉徴収される源泉所得税は、個人の所得税申告の際には、前払いとなります。米国では、

日本で行うような年末調整は会社では行わず、毎年 4 月 15 日までに、個人の所得税申告書を IRS に提

出します。従業員は、会社に入社時に、Form W-4(扶養家族数申告数書)を雇用者に提出して、給与か

ら毎月いくら源泉徴収してもらうかを申告しておきます。従業員は、扶養家族の人数が変わった場合、

源泉金額を変更したい場合には、新たに Form W-4 を記入して雇用者に再度提出します。この Form W-4

は、会社が従業員の給与からいくら源泉徴収するかを報告するフォームであるので、給与が支給される

前に必ず記入、提出する必要があります。

2)連邦社会保障税(FICA税:Federal Insurance Contribution Act)

社会保障税は、ソーシャルセキュリティー税 6.2%(老齢者、遺族、障害者保険)とメディケア税

1.45%(老齢者、障害者医療保険)からなり、それぞれ従業員と雇用者双方が、給与総額の 50%ずつ負担

します。ソーシャルセキュリティー税は年間課税対象上限額が毎年定められており、2006年度は、

$102,000(2008 年度)です。メディケア税は、上限がなく、従業員(被用者)と雇用者が給与に応じて、

1.45%をそれぞれ負担します。

3)連邦失業保険税(FUTA 税:Federal Unemployment Tax Act)

失業保険税は雇用者が負担することになります。連邦失業保険は、従業員 1人につき年間給与総額の

うち$7,000部分が課税の対象になります。税率は 6.2%ですが、州の失業保険税納付によって 5.4%の控

除が与えられるため、通常は 0.8%となります。ただし、被用者の入れ替わりが激しい会社の場合などは

それだけ失業保険の申請が多くなり、その会社に対する税率が高くなる場合があります。

4)社会保険料の二重負担

2004年、日米間で日米社会保障協定が調印され、2005 年 10月 1日に発効しされました。この協定に

より、日米両国の社会保障制度への年金保険料の二重負担の問題と、米国での年金制度への短期加入に

よる保険金の掛け捨ての問題が解消されました。協定発効以前は、日本から赴任して米国に滞在し給与

を受け取る日本人は、米国の社会保障税を支払う義務がありました。つまり、通常、米国滞在時も、日

本の厚生年金保険料を支払い続けているので、社会保険料の二重払いという状況になっていました。米

国では、10年(日本では 25 年)の年金加入の期間要件を満たさなければ、年金の受給権が取得できな

いので、ほとんどの日本からの赴任者は、米国でのソーシャルセキュリティー税は掛け捨てになってい

ました。

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3-2.給与に関するカリフォルニア州税

1)州所得税(カリフォルニア州)

カリフォルニア州では、カリフォルニア州の居住者、非居住者に関わらず、カリフォルニア州内から

得た所得に関して課税されます。給与所得に関しては、連邦と同様に源泉徴収の対象となります。

2)州失業保険税

連邦失業保険税と同様、州失業保険税は雇用者が負担することになります。カリフォルニア州の失業

保険(Unemployment Insurance)に関しては、新規雇用者に対しては、3年目まで 3.4%のレートが適用

されます。その後は、それぞれの雇用者の状況によりレートが決まり、毎年 12月に EDD (Employment

Development Department)より翌年のレートが通知されます。

3)州障害者保険(State Disability insurance and Paid Family Leave)

従業員(被用者)の年間給与総額のうち、給与総額のはじめの$86,698(2008 年度)部分につき

0.8%を、雇用者が給与から源泉徴収して支払います。

4)カリフォルニア州トレーニング税(Employment Training Tax)

従業員(被用者)の年間給与総額の$7,000部分につき 0.1%を、雇用者が支払います。

3-3.給与支払代行会社

米国における給与関係税の納付・申告作業は雇用者にとって煩雑な手続きですが、米国では、これら

の手続きを、給与支払い代行会社に依頼するのが一般的です。給与支払い代行会社は、給与関係税の計

算、納付や、関連する連邦及び州への給与関係税務申告書の作成と提出を代行します。代表的な給与支

払代行会社は、ADP、 Paycheck などですが、会計ソフトを発売している会社の関連企業なども、この業

種に参入しています。ほとんどの場合、Web ページ上に従業員の給与金額を入れると、税金の計算をす

る仕組みになっています。会社の銀行口座から自動引き落としの手続きをしておけば、連邦、州への税

金額の引き落としや従業員への口座への自動送金も代行します。給与関係税の諸規則を順守することは、

細心の注意を必要とすることですが、たとえ故意の違反でなくとも違反した会社にはペナルティーが科

せられますので、このような給与支払代行会社に依頼することは、時間と経費の節約になります。これ

らの会社は、会計事務所と連携していますので、会計業務を依頼する会計事務所から担当者を紹介して

もらい、手続きを行うとスムーズに進みます。

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4.連邦法人税

非課税法人を除く米国法人は、課税所得の有無に関わらず、法人税申告書である Form 1120を IRS

に提出する必要があります。

なお、米国には、法人以外にパートナーシップや Limited liability Company(LLC)といった法律的

な権利を持つ組織体もあります。これらは、法人として課税を受けることもありますし、パートナー

シップとして課税をされる場合もあります。パートナーシップや LLCは、課税上パートナーシップと

して取り扱われる場合、それ自体は納税主体とはならず、パートナーシップアグリーメントで決めら

れた損益配分比率により、パートナーシップや LLCのメンバーに損益が配分され、そのパートナーや

メンバーがそれぞれの申告書にその利益を取り込んで課税を受けます。ここでは、これらの説明は省

きますが、設立した会社がパートナーシップや LLCの場合は、個人の税務とも関係してきますので、

この分野に詳しい会計士に相談することをお勧めします。

4-1.連邦法人税の税額計算の概要

日本の法人税は、財務諸表作成のための「計算規定」が商法にて定められており、株主総会で承認

された決算に基づいて作成されます。これを「確定決算主義」といいます。日本では税法上、引当金

などの損金を計上するためには、その損金が企業会計上の決算に反映されていなければなりません。

その結果として、会計上の利益と、課税所得は大きな差がないことになります。

一方、米国では、各州の会社法には日本のような計算規定がないので、企業は年に一度、決算を行

うことだけが定められています。従って、米国では、法人税と会計基準の会計処理が異なることがあ

り、損益認識のタイミングがずれるケースが頻繁に見られます。例えば、減価償却の方法は、会計上

と税務上では異なります。

米国での法人税の算出は、Gross Income(総益金)から Deduction(損金)および Loss(損失)を差し引

いて計算された Taxable Income(課税所得))に税率をかける方法をとりますが、財務会計上とは別に、

税務上の会計処理基準を採用することになります。また、米国での法人税は全世界で生じた益金に対

して課税されます。

法人税の計算式、Gross Income(総益金)、Deduction(損金)の内訳、2005年度の法人税率について、

以下に示します。法人のある支出が損金算入できるか、また損金参入可能な時期についての詳細は、

IRC(Internal revenue Code-内国歳入法)やレギュレーション(財務省規則)に細かく定められてい

ます。

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法人税計算過程(通常の法人税計算)

Gross Income(総益金)(*1)

- Deduction(損金) (*2)

Income before NOL and Credit(繰越欠損金・控除前利益)

Income before NOL and Credit(繰越欠損金・控除前利益)- NOL and Credit(繰越欠損金・控除)

Taxable Income(課税所得)

Taxable Income(課税所得)× Tax rate(税率)

Total tax before special credit(税額控除前税額)

Total tax before special credit(税額控除前税額)- Tax credit(外国税額控除等)

Total tax(法人税)

Total tax(法人税)+ Alternative Minimum Tax(代替ミニマム税)

Total tax(当期法人税)

Total tax(当期法人税)- Estimate tax payment(予定納税額)

Tax Due (申告納税金額)

(*1)Gross Income(総益金) (*2)Deduction(損金)  

売上総利益(=売上高-売上原価) 給与・報酬    受取利息  賃貸料賃貸収入 修繕費ロイヤリティー 貸倒損失受取配当金 支払利息債務免除益 広告宣伝費キャピタルゲイン ライセンス料事業売却益 租税公課その他 減価償却費

寄付金福利厚生費その他

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法人税率(2005年)

課税所得超 以下 税率

$0 $50,000 15%

$50,000 $75,000 25%

$75,000 $100,000 34%

$100,000 $335,000 39%

$335,000 $10,000,000 34%

$10,000,000 $15,000,000 35%

$15,000,000 $18,333,333 38%

$18,333,333 - 35%

上の表で税率が上下しているのは、課税所得が大きくなるにつれて、軽減された税額の取り戻しが起

こるためです。

例えば課税所得が$1,400,000 の場合の法人税は、累進課税ですので、(50,000x15%)+{(75,000-

50,000)x25% } + {(100,000-75,000)x34%} + {(335,000-100,000)x39%} + {(1,400,000-

335,000)x34%}=$476,000になります。

4-2.予定納税(Estimate Tax)

予定納税とは、当期の見込み税額が$500以上の法人を対象に、当期確定税額の 100%にあたる金額を 4

回に分けて 25%ずつ分割納税し、当該年度中に前もって税金を納付する制度です。暦年(12月 31日決

算)の法人の場合、予定納税期限は、4月 15日、6月 15日、9月 15日、12月 15 日と定められていま

す。最終的な法人税申告書での税額に予定納税の金額が満たない場合は、その不足分について利息相当

分のペナルティーが課せられます。ペナルティーを避けるためには、前年度における申告税額の 100%を

4 回に分けて納付するか(適用制限あり)、年次換算法による納付額を見積計算する必要があります。

細かい計算方法は省略しますが、予定納税の計算は、税務申告を担当している会計事務所が計算を行い、

納付金額を伝えてきますので、会計事務所の指示に従い、予定納税の納付を行ってください。予定納税

の額が過尐納付であった企業は「過尐期間」中の過尐金額に延滞利率を掛けた金額がペナルティーとし

て科せられますので注意が必要です。

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5.カリフォルニア法人税

5-1.カリフォルニア法人税(フランチャイズタックス)

ある法人がある州で法人税の課税対象になるかどうかは、その法人がその州で「事業活動を行ってい

る(Doing Business)」どうかで決定されます。各州によって課税対象となる事業活動の定義は異なりま

すが、一般にある州で従業員を雇用したり、事務所を保有したり、棚卸資産などの有形資産を保有して

いる場合、直接の販売活動を行っていなくとも、「事業活動」を行っているとみなされます。このよう

にある法人の活動や取引によって州に課税権が生じることをネクサス(Nexus)と呼びます。カリフォル

ニア州では、州内での「事業活動」の有無を基準に、フランチャイズタックス、又は、インカムタック

スを法人税として課しています。通常、日本企業が米国カリフォルニア州にて事業を行う際には、州内

で「事業活動」を行いますので、ここでは、フランチャイズタックスについて説明します。

C Corporationの場合、カリフォルニア州の法人税率は、8.84%です。連邦税同様に予定納税を 4半期

ごとに行います。初年度は支払う必要はありませんが、1年目以降は毎年、赤字法人でもミニマム Tax

の$800を支払う必要があります。複数の州にネクサスがあり、それらの州の課税対象となる場合は、法

人の所得を各州に配賦(Allocationまたは Apportionment)する必要があります。各州への所得の配布

方法は州によって違いますが、一般的には、収入、資産、給与の 3つの要素を使って配賦計算をするの

が一般的な方法です。カリフォルニア州の場合、同州に帰属する所得は、以下のように決定されます。

1.所得を事業取得と非事業所得に区分する。

2.非事業所得に区分される受取利息、受取配当金、ロイヤリティー、キャピタルゲイン等については、

配賦計算は行われず、納税者の主たる事業所在地や資産の主たる使用地にある州に全額割り当てる。

3.事業所得については、資産、給与、売上の 3つの配賦要素(Apportionment Factors)のそれぞれ

について、全社ベースの金額に対するカリフォルニア州に帰属する金額の比率を計算して、その金

額を単純平均して配賦比率を算出する。この配賦比率を事業所得に乗じて、カリフォルニア州に帰

属する所得を計算する。カリフォルニア州の課税対象となる非事業所得と、同州に配賦された事業

所得の合計が同州の課税取得になり、これに税率をかけた金額が課税金額となります。

5-2.ユニタリータックス

ユニタリータックスとは、法律的には別の会社であっても事業の活動から見ると 1つの会社として行

動しているとされる場合に、それらの会社をグループとしてまとめて課税しようという考え方です。こ

の方法では、州の課税所得の算出を行う際、まず、当該企業の全世界の関連会社を含めた全企業の所得

を合算して、その次にその合算所得の中のカリフォルニア州に帰属する部分を、全世界グループに占め

るカリフォルニア企業の売上高、資産、給与の三要素の比率で割り出す方法で行われます。一般的に、

ある一定以上の株式の持分関係にある親子会社あるいは関係会社間で、管理の集中、人的および機能的

統合がある場合に、ユニタリービジネスを行っているとみなされます。ユニタリービジネスとみなされ、

カリフォルニア企業単体で見れば赤字であっても、全世界グループで利益を出しているため、その利益

の一定比率分が自動的にカリフォルニアに配分され、予定外の納税と言う事態にもなりえます。このよ

うなことから、全世界ベースのユニタリー課税方式の代替方式として、1988年の税制改正にて、米国内

のユニタリーグループだけの合算申告方式である水際選択(Water’s Edge Election)が認められまし

た。その後 1993 年の改正により水際選択の規定が改正されましたが、この水際選択は、1 度選択すると、

原則その課税年度も含めて 84ヶ月(7年間)拘束されます。基本的に、米国内企業が黒字で米国外企業

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が赤字の場合、または、全世界合算課税によって、カリフォルニア州に帰属する課税比率を引き下げる

ことができる場合は、全世界ベースでの課税のほうが有利になります。そのため、水際選択の際には、

今後 7年間の全世界および米国内ベースの利益水準と、カリフォルニア州への配賦率を考慮し、水際選

択を行うかどうかの検討が必要となります。

5-3.売上税・使用税

売上税は、州内の「課税対象」売上に対して課される最終消費者関連取引税です。カリフォルニア州

での売上税の税率は 6.25%ですが、郡(カウンティー)や市(シティー)などが、売上税を別途課してい

ます。ほとんどすべての州で、売上税は、物品等の最終購買者が支払う義務があり、売上税の徴収義務

者は、それぞれの州で事業をおこなっている販売者とされています。課税対象となる「売上」は、有形

固定資産の移転・交換・賃貸やサービスの対価などで、州内の課税品目を販売する業者が売上を上げた

時点で、購入者から徴収しなければなりません。物品の購入者がその物品を再販売する場合には、その

販売者は、売上税を徴収する義務を免除されるのが一般的です。この場合、購入者(再販売業者)より

再販売証明書(Resale Certificate)を入手して保管する必要があります。(カリフォルニア州の場合は

BOE-230)

使用税は、州内において物品を所有、保有、貯蔵、使用または消費することに対して課される税です。

ある物品を他州で購入して使用する場合、売上税の徴収されていない物品に対して使用税を課すことに

なっています。使用税の場合、購入者が自己申告で使用税を納めるので、申告および納税が忘れがちに

なります。米国子会社が日本から資産を購入した場合、使用税の対象になりますが、使用税を納めてい

ないことにより、後日税務調査で追徴されることがあるので注意が必要です。

5-4.資産税

州や地方自治体が課税する資産税(Property Tax)の対象資産は、州によって異なりますが、一般には、

土地、建物に課せられる不動産税、什器備品、機械装置、工具などに課せられる動産税、フランチャイ

ズ権や証券、売掛金等に課せられる無形固定資産税等からなっています。カリフォルニア州では、不動

産課税と動産課税からなり、棚卸資産に対する動産税は、非課税となっています。

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6.米国法人設立時の注意事項

6-1.過尐資本税制

過小資本税制(Thin Capitalization)とは、資本金が借入金に比べて過尐となっている場合に、借

入金が資本とみなされ、借入金にかかる支払利息の損金算入が否認されることを言います。過小資本の

問題では、例えば、日本の親会社が米国の子会社に資金を貸し付ける場合、米国子会社が借り入れ時に、

将来的に借入金元本を返済し、利息が支払うことができる能力があったかどうかが問題になります。こ

の場合、もし銀行が資金を貸し付けないような米国の子会社に対して親会社が貸付を行うような場合、

親会社は経済的合理性のある貸し手として行動したのではなく、あくまでも株主の立場で資金を提供し

たのであり、その場合は、税務上、資本支出とみなされる可能性が高いのです。資本的支出とみなされ

た場合は、支払利息の損金算入を否認されるだけではなく、利子および借入金元本の返済が、日本の親

会社への配当金とみなされ、日本での課税対象となる場合もあります。したがって、日本の親会社が米

国の子会社に融資する際は、注意が必要となります。また、米国の子会社が日本の銀行の米国支店ある

いは米国の銀行から借入れを行う際に、日本の親会社からの債務保証を受ける場合があります。このよ

うな場合、銀行は米国の子会社の返済能力ではなく、親会社の返済能力に頼って子会社に融資を行った

として、米国子会社の日本の親会社からの借り入れを投資とみなし、借入金に対する利息の損金不算入

や、親会社への利子の支払、元本返済が配当とみなされる場合があります。

米国進出の際に、資本金を尐なくし、残りを親会社からの借入金や親会社の保証による銀行からの借

入金に頼りビジネスを行う場合は、上記のような問題が生じる可能性がありますので注意が必要です。

資本金と借入金の比率などを会計士とよく相談して、適切な債務資本政策を行うようにしてください。

6-2.移転価格税制

移転価格税制とは、支配関係のない第三者と行われる取引価格とは異なる価格で関連会社間の取引が

行われた場合に、正常な価格に修正した上で、課税する制度です。米国では、関係会社間取引の税務上

の取り扱いについては、IRC 第 482条によって規定されています。第 482条の目的は、前述のとおり、

支配関係のない納税者の一般的な取引基準にのっとり、支配関係のある納税者に対しても、適正な課税

所得を決定することにより、支配関係のある納税者を、支配関係のない納税者と同じに扱うことにあり

ます。IRSは、国際間の企業の取引に関して、第 482 条の適用基準として、外国企業と米国の関係会社

間に支配関係が存在するかどうか、米国の関係企業が外国企業との取引から得る利益を適正に申告して

いるかどうか、といった点を判断します。

以下の関係会社間取引が、移転価格税制の対象取引となります。(IRC482条規則)

・ 有形資産の移転(棚卸資産の販売等)

・ 無形資産の移転(譲渡、ライセンス等)

・ 金銭賃借取引(ローン)

・ 役務提供取引(サービス)

・ 有形資産の賃貸借(リース)

・ 費用分担契約(コストシェアリング)

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移転価格税制の仕組み(図解)

移転価格に関しては、重要な点は、関係会社をひとつの独立した企業としてとらえ取引を行う必要が

あることです。通常、第三者間取引の価格決定に関連する諸要素(製品原価、製品の研究開発費、市場

における競争力、同業他社の価格などの資料)を収集して、それらを分析し、関係会社間の価格構成を

確立して資料を残す必要があります。このような情報を収集することは簡単ではありませんが、進出間

もない現地法人は、関係会社間取引の妥当性を証明する一つの方法として、関係会社間取引に関して、

正式な契約書等を整えておく必要があります。移転価格に関しては、専門の会計士と十分なコミュニケ

ーションをとり、関係会社間取引を行うに際しては、事前に相談することをお勧めします。

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7.日米会計制度、監査の相違

7-1.GAAP(Generally Accepted Accounting Principles – 一般に公正妥当と認められた会計原則)

と日米会計制度上の相違

会計全般については日米間には多くの共通点がありますが、その制度上で大きな違いがあります。日

本の会計原則では、株主総会に提出する計算書類は、商法の計算規定に準拠して処理され、その表示は

商法計算規則にしたがって作成されます。また、上場会社等の証券取引法適用会社は、有価証券届出書

や有価証券報告書を提出しますが、それに添付される財務諸表は、「企業会計原則」に準拠して処理さ

れ、「財務諸表規則」にしたがって表示・作成されます。法人税は、確定決算主義により、株主総会で

承認を受ける計算書類の基礎となる会計処理と、課税所得の計算に適用される税務処理は、原則として

統一する必要があります。このように、日本では商法と企業会計原則と税法が相互に関連して、広義の

会計原則が構成されています。一方、米国の会計原則は、商法や税法から独立した独自のものとして考

えられており、法的規制よりも、時代の経済的実態を反映する自然発生的会計慣行が確立しています。

それでは、米国で GAAP(Generally accepted accounting principles - 一般に公正妥当な会計原則)

とは、どのようなものなのでしょうか? この「一般に公正妥当と認められた会計原則」の定義が、米

国の監査基準書の第 69 号に記載されています。それは、ある時点において一般に認められた、会計実

務を定義づけるための諸慣行、規則および手続きであり、一般に適用される広範囲なガイドラインのみ

ならず、詳細な実務や手続きをも含みます。詳細は省きますが、具体的には、以下の 4 つの階層からな

る基準を、米国の会計原則と呼んでいます。

1 FASB基準書、FASB解釈指針、APB意見書、AICPA ARB(会計調査公報)

2 FASB技術基準公報、AICPA 業種別監査会計ガイド、AICPA意見書

3 AICPAの会計基準執行委員会の実務基準公報、FASB の緊急問題専門委員会の合

意事項

4 AICPAの会計解釈および FASBスタッフが発行した実務ガイドならびに一般また

は産業界で広く認識され普及している会計実務

このように、GAAPは、条文となっているものではなく、1を中心としたさまざまな基準書や文献の集

合体となっています。長年にわたり培われたものであり、その量は膨大なものとなります。

7-2.米国での財務諸表監査とレビュー

財務諸表監査とはどのようなものなのでしょうか?まず、財務諸表は、会社によって作成されます。

株主、債権者、その他の利害関係者は、財務諸表を投資意思決定、その他の重要な判断材料として利用

します。したがって、その財務諸表の内容や表示が適正かどうか、それが信頼できるものかどうかは非

常に重要です。監査の目的とは、Generally Accepted Auditing Standards(GAAS:一般に認められた監

査基準 )に基づいた財務諸表の監査を実施し、財務諸表が Generally Accepted Accounting

Principles(GAAP:一般に公正妥当と認められた会計基準)に基づいて、企業のある時点の財務状況、経

営結果、キャッシュフローを適正に表示しているかどうか報告することにあります。「適正に表示す

る」とは、財務諸表の利用者に誤解を与えることではなく、合理的な判断ができるように表示するとい

うことです。会計士の仕事は、監査を通じて財務諸表の適正性について、客観的意見を表明することな

のです。

監査には法廷監査と任意監査があります。法廷監査は、上場企業等の米国証券取引法の規定による監

査やその他連邦法や州法で規定されている監査です。任意監査は、法律上の義務がなくとも、その企業

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や、日本の親会社による任意の依頼に基づき行う監査です。米国では、多くの会社で任意監査やレビュ

ーを受けているのが普通です。日系の米国法人が任意監査やレビューを受けるケースとしては、米国で

銀行の融資を受ける際の条件となっている場合や、親会社が日本で上場しているまたは上場準備をして

いるために、親会社から監査やレビューを依頼する場合が多くみられます。レビューの目的は、監査の

目的と異なります。監査の目的は、前述したとおり、財務諸表に対して意見を表明することであり、そ

のために合理的な根拠を得ることになります。この合理的な根拠を得るために監査法人は、的確で十分

な証拠を得なければなりません。レビューの目的は、財務諸表が GAAP に準拠する上で、修正しなけれ

ばならない重要事項がないという、limited assurance(限定的確証)を与えるための根拠を得ることに

あります。よってレビューでは、財務諸表を裏付ける証拠を得るための手続きは実施されないことから、

財務諸表に対する意見は表明されないのです。このようにレビューで実施される手続きは監査で実施さ

れる手続きと比べると相当範囲が狭いものとなります。