カスタムポンプ系製品を振り返って...2016/08/24  · 580 m3/h×286.5 m ×726 kw 1382.8...

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エバラ時報 No. 250(2016-1) ─  ─ 30 1ɽ Ί ʹ 量産品の製造拠点としてスタートした藤沢工場は,多 くの機種を当時の川崎工場から移転させながら,画期的 な生産・販売方式によって順調にその規模を拡大させた。 1986 年には川崎工場を藤沢工場に統合し,受注生産品で あるカスタムポンプもその生産ラインナップに加えること で,家庭用から海外の石油化学工業用まで,ほとんどの 需要に対応できる総合的な小型ポンプ生産工場となった。 同時にグローバル化に伴い,世界レベルの製品開発と各 国の規格・法令に適合した製品の生産体制によって,世 界中の顧客が訪れる工場に変貌した。次の2 ~ 8 項にそ れらの製品の各業界・用途ごとに藤沢工場で生産された 各種カスタムポンプのハイライト製品 ※1 を紹介する。 2ɽੴ༉Ҡૹ༻ϙϯϓ 2-1ɹੴ༉ʢݪ༉ʣඋ༻ϙϯϓ 1990 年前後,オイルショックの経験を踏まえ国家石油 備蓄基地が建設され,原油払出ポンプや雨水排水ポンプ が設置された。当社は 1989 年に地中式原油タンク用油中 モータポンプを,1992 年には国内初の原油岩盤備蓄用油 中モータポンプ(1)を製作・納入した。 岩盤備蓄は,地下水面下の岩盤内に空洞を掘削し貯油 槽をつくり,地下水圧を利用してその空洞内に原油を貯 蔵する方式である()。立坑上部室が狭いため,特にポン プの据付・保守点検時の作業性,安全性については設計 段階から十分に検討が重ねられた。これらのポンプは藤 沢工場での修理を含め継続したサービス&サポートに よって,20 年以上経過した現在でも順調に稼働している。 2-2ɹύΠϓϥΠϯϙϯϓ 1994 年に,海外某国向けに精製油パイプラインポンプ ʤ౻ 50 ه೦ʥ ΧελϜϙϯϓܥΛৼΓฦ 1 地下備蓄用油中モータポンプ 16-06 01/250 ؠGranite layer ड෦ Shaft upper room Րน Refractory wall αʔϏετϯωϧ Service tunnel αʔϏετϯωϧ Service tunnel ݪ༉डೖ Oil in ݪ༉डೖ Oil in ݪ༉ग़ Oil out ഉਫ Ground water ԼਫҐ Underground water level ϓϥά Plug ਫ෧ਫ Sealing water ؠ൫λϯΫɹ3Ϣχοτɹ1 750 000 kL Rock cavern tank, 3 units ߴɹ22 m Height ෯ɹ18 m Width ɹ555 mʷ10 جLength ؠ൫λϯΫɹ3Ϣχοτɹ1 750 000 kL Rock cavern tank, 3 units ߴɹ22 m Height ෯ɹ18 m Width ɹ555 mʷ10 جLength ෆ೩Ψε Non-combustible gas ݪCrude oil ݪCrude oil ݪCrude oil ਫচ໘ Oli/water interface ʢؠ൫λϯΫʣ (Rock cavern tank) ʢؠ൫λϯΫʣ (Rock cavern tank) ݪ༉ग़ϙϯϓ Crude oil transfer pump ఈਫഉਫϙϯϓ Underground water drainage pump ԼਫͷΕΈ Underground water 地下石油備蓄の原理図 ※ 1 主にエバラ時報 No.142(1989-1)から No.246(2015-1)間の 当社製品ハイライトを参考とした。

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エバラ時報 No. 250(2016-1)─  ─30

1.は じ め に

 量産品の製造拠点としてスタートした藤沢工場は,多くの機種を当時の川崎工場から移転させながら,画期的な生産・販売方式によって順調にその規模を拡大させた。1986年には川崎工場を藤沢工場に統合し,受注生産品であるカスタムポンプもその生産ラインナップに加えることで,家庭用から海外の石油化学工業用まで,ほとんどの需要に対応できる総合的な小型ポンプ生産工場となった。同時にグローバル化に伴い,世界レベルの製品開発と各国の規格・法令に適合した製品の生産体制によって,世界中の顧客が訪れる工場に変貌した。次の2 ~ 8項にそれらの製品の各業界・用途ごとに藤沢工場で生産された各種カスタムポンプのハイライト製品※1を紹介する。

2.石油移送用ポンプ

2-1 石油(原油)備蓄用ポンプ

 1990年前後,オイルショックの経験を踏まえ国家石油備蓄基地が建設され,原油払出ポンプや雨水排水ポンプが設置された。当社は1989年に地中式原油タンク用油中モータポンプを,1992年には国内初の原油岩盤備蓄用油中モータポンプ(写真1)を製作・納入した。 岩盤備蓄は,地下水面下の岩盤内に空洞を掘削し貯油槽をつくり,地下水圧を利用してその空洞内に原油を貯蔵する方式である(図)。立坑上部室が狭いため,特にポンプの据付・保守点検時の作業性,安全性については設計段階から十分に検討が重ねられた。これらのポンプは藤沢工場での修理を含め継続したサービス&サポートによって,20年以上経過した現在でも順調に稼働している。

2-2 パイプラインポンプ

 1994年に,海外某国向けに精製油パイプラインポンプ

〔藤沢工場 50周年記念〕

カスタムポンプ系製品を振り返って

写真1 地下備蓄用油中モータポンプ

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岩盤Granite layer

受払立坑上部室Shaft upper room

耐火仕切壁Refractory wall

サービストンネルService tunnelサービストンネルService tunnel

原油受入Oil in原油受入Oil in

原油払出Oil out排水

Ground water

地下水位Underground water level

プラグPlug

水封水Sealing water岩盤タンク 3ユニット 1750000 kLRock cavern tank, 3 units 高さ 22 m Height 幅 18 m Width 長さ 555 m×10基 Length

岩盤タンク 3ユニット 1750000 kLRock cavern tank, 3 units 高さ 22 m Height 幅 18 m Width 長さ 555 m×10基 Length

不燃性ガスNon-combustible gas

原油Crude oil

原油Crude oil原油Crude oil

水床面Oli/water interface

(岩盤タンク)(Rock caverntank)

(岩盤タンク)(Rock caverntank)

原油払出ポンプCrude oil transfer pump

底水排水ポンプUnderground water drainage pump

地下水の流れ込みUnderground water

図 地下石油備蓄の原理図

※1  主にエバラ時報No.142(1989-1)からNo.246(2015-1)間の当社製品ハイライトを参考とした。

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(写真2)としてKSM型12台を納入した。通常メンテナンス性から軸方向水平分割ケーシングが好まれるが,取扱液及び直列運転による高圧力を考慮し,より信頼性の高い軸方向垂直分割ケーシングが採用されている。 また,直列運転のため,最終ポンプの入口は高圧力となり,軸封部の設計圧力15.3 MPaの記録的製品である。

3.石油・ガス精製,石油化学用ポンプ

 低温(−105 ℃)から高温(+400 ℃)の様々な危険液を昇圧するこれらのポンプは,爆発・火災・有害物質の漏えい等の事故が発生しないよう,信頼性の高い製品でなければならない。また,寿命・保守性・部品の互換性も考慮しなければならない。さらに,ポンプは各プラントで使用される回転機械の中で最も数量が多いため,個別の仕様ごとに設計・品質の信頼性を検証すると膨大な労力を費やすことになる。 そのため米国では早くから石油関連用遠心ポンプに対する要求事項をAPI 610※2として規格化し,ユーザ,コントラクタ,ベンダの基本指針とし,標準化を図っている。当社は1970年代から本格的にAPI 610準拠の製品を生産し,規格が改定されるごとに設計の変更を行っている。規格は社会情勢によっても影響を受け,1989年版のノンアスベスト化,1994年版のメカニカルシール部分のAPI 682※3 への移行などは,米国の環境規制が規格改定の発端となっている。※2 API 610(石油精製等用ポンプ設計規格,米国石油協会発行)※3  API 682(ポンプ用メカニカルシールに関する規格,米国石油

協会発行)

3-1 深度脱硫装置用チャージポンプ

 1997年にディーゼル車の排気ガス中の硫黄酸化物(SOx)規制が実施されることを受け,国内石油精製各

社で軽油中の硫黄分を大幅に低減する深度脱硫装置が建設された。当社は本装置の心臓部である次のチャージポンプ(写真3)を同年に国内石油精製会社3社へ納入した。 A社 機名 200×150DCS8M 2台    要項 309 m3/h×1108 m×1040 kW B 社 機名 200×150DCD8M 2台    要項 257.6 m3/h×1111 m×850 kW    (動力回収タービン付) C 社 機名 200×150DCD7M 2台    要項 335.9 m3/h×1263.8 m×1230 kW

3-2 動力回収タービン付吸収液ポンプ

 吸収液ポンプは,ガス精製の工程で不純物であるCO2

やH2Sを除去するために使用されるポンプである。ポンプで加圧された溶液は不純物を吸収した後,減圧され不純物を分離し再度吸収液となり再循環される。この減圧工程において,省エネルギーを目的として液体の圧力エネルギーをタービン(逆転ポンプ)で回収し動力に変換するプロセスが多く採用されている。回収した動力でポンプ駆動用モータの負荷を軽減する方式(表1)と,ポンプを機械的に直接駆動する方式(表2)がある。

3-3 天然ガス処理プラント用ポンプ

 近年,クリーンエネルギーとしてのLNG需要増大に伴い,大型天然ガス処理プラントが建設され,2013年にはカタール向けにAPI 610規格に準拠した226台のポンプが納入された。厳しい顧客仕様の一つに,外気環境によ

写真2 大容量胴体垂直分割精製油パイプラインポンプ

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写真3 深度脱硫装置用チャージポンプ

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る塩化物応力腐食割れ対策があり,スーパーオーステナイトステンレス鋼,ニッケル合金,ポンプ外面へのアルミニウム溶射(写真7)などが採用された。

3-4 石油化学,肥料プラント用ポンプ

 毎年世界各国の各種プラントに,API 610規格に準拠した多数のポンプを輸出している。 (1)石油化学向け 2008年にはオマーンの芳香族プラント向けに58台,サウジアラビアの総合化学コンビナート向けに40台,タイのポリエチレンプラント向けに38台,ブルネイのメタノールプラント向けに27台,ベネズエラの肥料プラント向けに18台の各種API ポンプを納入した(写真8)。

表2 直接駆動方式(海外某国向け1992年納入)(写真6)

機名高圧多段渦巻ポンプ(両吸込) 動力回収タービン300×250(C)SPD3 450×400CFP

要目 580 m3/h×286.5 m ×726 kW

1382.8 m3/h×197.7 m ×726 kW(回収動力)

取扱液 ベンフィールド液 リッチベンフィールド液液温 111.7 ℃ 117.8 ℃比重 1.25 1.26台数 3台 1台

 2009年に欧州向けに納入した各種APIポンプ26台(写真9)は,EU域内のためCEマーキング,ATEX防爆指針に適合したポンプとなっている。

写真4 吸収液ポンプ

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写真7 アルミニウム溶射を施工したポンプ

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写真5 動力回収タービン

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写真6 動力回収タービン駆動溶液ポンプ

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表1 負荷軽減方式(海外某国向け1991年納入)

機名高圧多段渦巻ポンプ(両吸込)(写真4) 動力回収タービン(写真5)200×150SPD5M 150SPD2

要目 398 m3/h×598.4 m×860 kW 370 m3/h×358.4 m ×267 kW(回収動力)

取扱液 アミン溶液 リッチ液液温 75 ℃ 90.4 ℃比重 1.05 1.082台数 2台 1台

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 (2)肥料プラント向け 尿素肥料プラントに使用されるカーバメイト用多段高速の高圧ポンプを多数製作し,各国に納入した。応力腐食割れ,液温低下による固化,運転中のガス発生等の諸問題を解決し,往復動型から遠心型にすることによって尿素プラント全体の近代化に貢献した。 1995年に納入したブースタポンプ,電動機,増速機,主ポンプ,強制給油装置をユニット化した製品を写真10

に示す。

4.液化ガス用ポンプ

 難易度の高いポンプの一つに液化ガス用がある。ガスの沸点以下とするため低温液が多いこと,ポンプ内部でガス化しやすいこと,軸封部が特殊となること,保冷が必須となることなどがその理由である。 一般工業用としては,アンモニア(−33 ℃),プロパン

(−45 ℃),エチレン(−102 ℃),LNG(−162 ℃)などに使われるポンプが多く,金属材料はその取扱液の性質から低温脆性を考慮しなければならず,低温用炭素鋼,Ni合金,オーステナイト系ステンレス鋼,アルミニウム合金等が使用される。さらに,ガス抜きを容易とするため立軸ポンプが好まれ,軸封部がメカニカルシールのタイプと,電動機・ポンプとも液中で運転されるサブマージドモータタイプがある。どちらを選択するかは,設置条件,経済性等を考慮して決定されるが,近年は−105 ℃以下の場合,ほとんどサブマージドモータタイプが採用される。

4-1 エチレン移送用ポンプ

 1990年に軸封部がダブルメカニカルシール構造のプロセス用の立軸ポンプを化学工場に納入した(写真11)。取扱液の液温は−102 ℃であることから,シール部非金属材料の耐低温性を考慮した対策や,大気中水分の氷結防止対策がとられ,メカニカルシール室温度・圧力調整ユニットが附属されている。 2000年に国内化学工場に納入したエチレン輸送用ポンプ(写真12)は,軸封部に二重のノンコンタクトガスシー

写真8 500×300KSM型カーボネート溶液ポンプ

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写真9 400×300KSM型CEマーキング適合ポンプ

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写真11 300×200VPCS2M型エチレン出荷用ポンプ

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写真10 肥料プラント向け遠心式多段尿素ポンプSSP型

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ルを採用したポンプで,取扱液の液温が−104 ℃であることから,ガスシール間に加熱された低圧窒素ガスを循環させ,始動前のシール部の氷結を防止している。

4-2 サブマージドモータポンプ

 液化ガス運搬船,一般工業,石油化学,LNG液化基地等の用途向けサブマージドモータポンプは,軸封装置が不要で完全無漏えいのポンプである。ポンプ・モータ全てが液中にあり,軸受の潤滑液が液化ガス(LNG等)で極めて低粘度のため,設計的な配慮が必要である。玉軸受に作用する負荷を軽減させるため,軸方向スラストが最小となるようTEM(Thrust Equalizing Mechanism)を標準採用している。 1988 年,西オーストラリアから日本へ海上輸送するLNGタンカー 7隻に搭載される,液温−163 ℃のLNGを取り扱うカーゴポンプ(写真13)及びスプレーポンプ(写真14)全 84台を納入したほか,2014 年にはLNG 受入基地向けにLNG用15台,LPG用4台を納入した(写真15)。本ポンプは−162 ℃のLNG,−42 ℃のLPGに潜設される。

5.一般化学工業用ポンプ

 一般化学工業用ポンプは,取扱液の種類も多く,仕様条件が多岐にわたるため,プラントの計画・検討段階における最適なポンプ型式提案から,納入後の保守・点検のアドバイスに至るまで,総合的な製品サポートが求められる。 業種やプロセスにおける千差万別の使用流体に対し,当社の長年の経験と技術の蓄積によって,各製造工程に適したポンプを数多く納入してきた。また,プロセス用ポンプのほかに,工場内で使用される工業用水系及び排水系の補助的ポンプも当社製で供給可能である。ここでは,代表的な機種について,接液部材料,インペラ形状,及び軸封部品のバリエーションの視点から紹介する。

5-1 片吸込単段渦巻ポンプ

 基本となるクローズドインペラを搭載したIFW型片吸込単段渦巻ポンプ(写真16)は,1970年代に国際標準規格ISO 2858(片吸込遠心ポンプ)に準拠して製品化さ

写真14 スプレーポンプ

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写真13 カーゴポンプ

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写真12 エチレン出荷ポンプ

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写真15 LNGサブマージドモータポンプ(ECR型)

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写真16 IFW型

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れた。ISO(50 Hz)を基本に60 Hz用としてもシリーズ化し,改善・改良を加えながら現在も主力機種として生産されている。材料は,鋳鉄,鋳鋼,ステンレス鋳鋼を基本にしており,軸封部はグランドパッキンと様々な構造のメカニカルシールに対応している。 流体にケミカルスラリーが含まれる場合はオープンインペラを搭載したTFS型片吸込単段渦巻ポンプが採用される。このポンプはIFW型と各種部品を共用しているため,プラントでTFS型とIFW型が混在していても予備品(在庫部品)の種類を最少化できる。また,軸受潤滑油のシールをより確実にする独自構造の非接触シール

(特許出願済み)を開発し,技術的優位性を打ち出すことが可能となった。今後,他分野への展開を視野に入れた活動を推進していく。

5-2 シールレスポンプ

 一般化学工業用途において,完全無漏えいを要求される(人体に有毒,環境影響の甚大,高価)流体がある。この場合は,軸封部品を不要としたシールレスポンプ(写真17)が採用される。当社ではSX型キャンドモータポンプ(商品名:シーレックスポンプ)及びNLF型マグネットポンプを製造している。いずれのポンプも,モータとポンプがユニット化されているポンプである。メカニカルシール付きポンプと比較して,無漏えい,据付け時の芯出し不要,保守部品数が少ないなどの特長がある。これらシールレスポンプにおいて,近年二つの国際的な設計規格(API 685及びISO 15783)が発行されている。無漏えい,非水冷,保守点検性などでライフサイクルコストを低減できるため,環境保護に対する社会動向によっては,今後需要が伸びる可能性がある。 キャンドモータポンプは,メカニカルシール付きポンプのケーシングと羽根車を流用して,45 kWまで標準化

している。軸受はカーボン製のすべり軸受である。軸受の摩耗が許容限度を超えると,回転体が固定側部品に接触する危険があるので,軸受摩耗検知器を装備している。

6.小型ボイラ給水ポンプ

 わが国のごみ焼却施設数は,1200箇所を数えるまでに増加し,その内約25%は発電設備を保有している。小型ボイラ給水ポンプは発電設備のあるごみ焼却施設のボイラに高温水を給水するポンプである。羽根車が数枚ある多段タイプであり,各羽根車が吐き出す流体の速度エネルギーを各段のガイドベーンで効率的に圧力に変換している。また,羽根車によって生じた全軸方向推力は,バランスディスクによって完全にバランスさせ,軸受の負荷を軽減している。 近年,広域化・集約化が進む新設ゴミ焼却施設,高効率化を進める既設ごみ焼却施設,バイオマス発電施設など小規模発電市場の要求に対応するため,小型ボイラ給水ポンプの新シリーズを市場投入した。このポンプは,独自のハイドロ設計によって,高揚程,高効率,低NPSHを実現するとともに,羽根車とガイドベーンは,精密鋳造で製造し性能と品質の安定を保っている。また,軸封に耐高圧・耐高温仕様のメカニカルシールを採用し,クーラとシール配管を不要とすることによって,メンテナンス性を向上させ冷却水量を低減させている。さらに,改良されたバランス室圧力保持方法(特許出願中)を採用し,現地の脱気器へのバランス配管を不要とすることによって機器の設置を容易にしている。主配管への接続も吸込方向,吐出し方向を自由に変更できるノズルアレンジフリー構造(特許出願中)を採用しているため,容易な配管設計が可能である。新シリーズのMSSA型横型輪切り形多段ポンプを写真18に示す。

写真17 シーレックスポンプ

16-06 17/250写真18 MSSA型

16-06 18/250

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7.水産業・温泉水用ポンプ

 地域や場所によって海水及び温泉水の成分は,異なることから,ポンプ材料には耐すきま腐食性に優れたチタンが最適である。しかし,高価なためポンプ材料として適さない面もある。そこで,海水及び温泉水の成分にかかわらず使用できる樹脂材ポリジシクロペンタジエン

(商品名:PENTAM®,ペンタム®※4)をポンプ材料として適用し,ペンタム製ポンプとして実用化している。 ペンタムは,一般的な樹脂と比較して,常温・大気圧下でCASTING-RIM成形法(鋳造法と同一)によって成形できる。また,低温及び高温強度が高く,ガラス繊維を含まないなどの特長があるので,ポンプ材料に適している。 高腐食性流体用の金属材料として,チタン,ハステロイ※5,カーペンタ※6などがあるが,ペンタムはこのような金属の代替材料としても適用できる場合がある。近年は,通常の遠心ポンプだけでなく自吸式ポンプシリーズにも製品展開し,適用範囲を拡大している。ペンタム製ポンプ(写真19)に加えて,ペンタム製急閉逆止弁,圧力タンク,制御盤などの周辺機器を同一ベース上にユニット化し,容易に設置できる製品としている。ペンタム製ポンプを使用したユニット製品の一例を写真20に示す。

※4 「PENTAM」と「ペンタム」は日本ゼオン㈱の登録商標である。※5 「ハステロイ」はHaynes International, Inc.の登録商標である。※6 「Carpenter(カーペンタ)」はCarpenter Technology Corporation の商標である。

8.小型上下水道用ポンプ

 現在,我が国の上水道普及率は平均で98%,同下水道普及率は平均76%となっている。特に下水道は,戦後急速に整備され短期間で先進国としての水準に到達している。一方,世界に目を向けると上下水道設備が普及している国は先進国の一部と言ってよく,世界規模で見れば需要が期待される分野である。 国内において本ポンプは,公共事業用ということもあり,国あるいは地方公共団体の仕様に対応するため,大量生産製品とは異なる受注生産品となる。指定された材料や塗料,試験・検査成績書,細部にわたる製造工程写真,立会検査などが要求されるため,計画・設計から出荷まできめ細やかな工程計画が必要となる。

8-1 小型上水道用ポンプ

 上水道用途の代表機種として,CN型両吸込渦巻ポンプ(写真21),及びMS型横形多段渦巻ポンプが揚げられる。これらのポンプは1980年代までの高度成長経済に

写真20 ペンタム製ポンプユニット外観

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写真19 ペンタム製急閉逆止弁付ポンプ

16-06 19/250

写真21 CN型

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支えられモデルチェンジを加えながら順調に納入実績を増やしてきた。 上水道用ポンプは,我が国のインフラを支える用途として,機器の安定的機能や万が一の事象を想定した構造が求められる。停電時のウォータハンマ防止のためのフライホイール装置,及びエンジン駆動ポンプなどはその代表的な仕様である。高効率な信頼性のある製品とするだけでなく,両軸モータとエンジンの駆動機をもつ製品やフライホイール効果をもつカップリング付の製品を標準化することで,停電対策の要求に対応している。

8-2 小型下水道用ポンプ

 都市部の下水道用には,大流量・低揚程で効率よく処理できるIFMZ型陸上スクリューポンプを,地方では小流量・高揚程の下水中継用として,DSMZ型水中用スクリューポンプを納入している。 スクリューのハイドロ性能は横形と水中形で同一であり,主に横形は下水処理用,水中形はマンホール用及び下水中継用として使用されている。 異物の混入がある下水用のため羽根車は一枚翼・セミオープン形で無閉塞のポンプとなっている。ポンプの高効率化を達成するため,羽根車の翼オープン部と吸込カバーとのすきまが1 mm以下に保たれるようにし,内部漏れ損失を低減している。半径方向推力の変動を低減するために羽根車にスキューを設け,かつ,残留不釣合い量を低減しやすい構造にしている。これによって,2極回転速度の高速スクリューポンプも実用化している。

9.サービス&サポート事業の展開

 ポンプのライフサイクルコストに占めるイニシャルコスト(主にポンプ購入費)比は約14%と推定され,ユーザにとって「80%以上を占める運転・保守コストの低減を,機器の安定運転を継続しながら達成すること」が,重要な課題となっている。当社はこの分野においても豊富な経験を生かし様々なサービス&サポートの提供を行っている。 該当部品ごとの受注・生産・販売だけでなく,事前に

ユーザと部品供給について協定を結び,見積・発注業務の省力化・保守管理費低減を可能とするサービスの提供を行うことや,各地域に部品供給センターを設けてユーザの緊急保全に対応することがその一例である。 また,国内はもとより海外においても多数のポンプを納入した地域にはメンテナンスサービス工場を設立し,顧客密着でのサポートで同一純正部品が供給できる体制を展開中である。 一方,ポンプで使用される材料やシール部品・省エネ手法に代表される技術は日々進化しており,当社では納入済みのポンプの延命・信頼性向上・運転コスト削減等のための最新技術採用提案も積極的に行っている。 近年では製作記録の不明瞭な古いポンプ部品についても,三次元画像計測システムによる部品再生に取り組んでいる。 産業・プロセスポンプのライフサイクルは約15 ~ 20年と言われており,今後もこの分野での最適な技術とサービスの継続提供と顧客サポート体制の強化を図っていきたい。

10.お わ り に

 本稿で述べたポンプは自社開発された製品であるが,特殊液を扱うため開発に当たり,ユーザあるいはコントラクタの方々から終始有益な助言を頂いた機種もある。また,製品納入後に貴重な御指摘を頂き,改良を重ねた機種も少なくない。この場を借りて感謝申し上げたい。 小型カスタムポンプは,多種少量に加え,個々に多様な厳しい要求があるため,設計・生産・品質に特別な検討・技量・管理が必要とされる。別な見方をすると,日本人が最も得意とする分野でもあるため,欧米あるいは新興国のメーカと十分競合していけると信じている。今後も新たな製品開発と生産性向上によって,この藤沢工場から全国及び世界に高品質の製品とサービスを供給していきたい。 〔小嶋秀明・八塚岳夫・和田 朗〕