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40 41 第2部 安全な食品を作る仕組み CCPのモニタリングと逸脱 ISO22000:2018 8.5.4.38.5.4.4 a CCPは数値が測定できるかたちでモニタリングされなければなりませ ん。管理されていることを示す数値と管理されていない状態を示す数値 の境目が許容限界です。許容限界を外れる数値が測定された場合を逸脱 と呼びます。 さきほど、次亜塩素酸ナトリウム溶液を使ったキャベツの葉の殺菌の 話をしました。「この工程はCCPです」と解説し、殺菌液の有効塩素濃 度と浸漬時間を測定すること、大量調理施設衛生管理マニュアルでは次 亜塩素酸ナトリウム溶液200ppmで5分間、または100ppmで10分間の浸 漬が基準になっているため、これを許容限界にするとよいことを説明し ました。 しかし、これだけの取り決めでは不充分であることを理解しなければ なりません。殺菌効果は殺菌液が表面に触れていることにより発揮され ること、そのため水槽に詰め込みすぎると葉の表面に殺菌液が行き渡ら ない可能性があること、有効塩素濃度はキャベツの葉の処理をするごと に低下していくことを把握し、殺菌効果が落ちた古い殺菌液を捨てて毎 回あらたに殺菌液を作ることを手順化する必要があります。これらもま た殺菌の条件を決める要素となるため、CCPの手順として定め、モニタ リングの対象としなければなりません。投入するキャベツの葉の量につ いては、キログラム数で定めて、毎回測定することもできます。この場 合、何キログラムが許容限界であるかを明確に定めることができます。 CCPの手順についてはハザード管理プラン(HACCPプラン)として 文書化することによって、HACCPの仕組みの中に組み込みます。 逸脱が起きた場合の対応 CCPのモニタリングによって許容限界から逸脱した状態が観察された 先にあげた無菌チャンバーを例に考えてみましょう。この中では食品 が容器に詰められ密封されます。これを食中毒菌の汚染や残留の面から 見てみます。 食品は加熱殺菌工程によって食中毒菌が残留しない状態になります。 包装容器は内面を殺菌剤で殺菌して無菌にします。次に無菌チャンバー 内で食品が容器に詰められ密封されます。密封によりそのあとの工程で 食中毒菌が侵入することが予防されます。いわゆる無菌充填ではこれら の工程の段階、つまり食品の殺菌、容器の滅菌、無菌状態での充填、再 汚染を防ぐ密封という組み合わせにより、常温で保存可能な製品を作っ ています。 どれかひとつの管理が崩れただけでも、常温保存可能な食品はできま せん。また、技術的・設備的にこれらが達成できないのであれば、それ は常温保存可能な食品として販売することはできません。ただし、技術 的に達成できない面を補うために、 「脱酸素剤を入れる」「pHを調整する」 「防腐剤を添加する」などの方法により、常温での保存を可能にするこ ともあります。 弁当の場合であれば、加熱調理で殺菌された惣菜といえども耐熱性の 菌は残存しており、弁当容器に詰めたあとに発芽、増殖の可能性があり ます。それを防ぐ(予防する)ため、調理後の速やかな冷却が必要であ り、何時間以内に何度まで冷却するという基準で冷却工程が設けられて います。これがO-PRPであり、加熱調理(CCP)との組み合わせにより 耐熱性菌による食中毒の発生を防いでいます。 7 モニタリングと逸脱 HACCP適用の12ステップ:ステップ9

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Page 1: モニタリングと逸脱 - PHP研究所 / PHP INTERFACE42 43 第2部 安全な食品を作る仕組み ときは、即座に行動しなければなりません。行動として必要なことは、

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第2部 安全な食品を作る仕組み

  CCPのモニタリングと逸脱 ISO22000:2018 8.5.4.3、8.5.4.4a

CCPは数値が測定できるかたちでモニタリングされなければなりません。管理されていることを示す数値と管理されていない状態を示す数値の境目が許容限界です。許容限界を外れる数値が測定された場合を逸脱と呼びます。

さきほど、次亜塩素酸ナトリウム溶液を使ったキャベツの葉の殺菌の話をしました。「この工程はCCPです」と解説し、殺菌液の有効塩素濃度と浸漬時間を測定すること、大量調理施設衛生管理マニュアルでは次亜塩素酸ナトリウム溶液200ppmで5分間、または100ppmで10分間の浸漬が基準になっているため、これを許容限界にするとよいことを説明しました。

しかし、これだけの取り決めでは不充分であることを理解しなければなりません。殺菌効果は殺菌液が表面に触れていることにより発揮されること、そのため水槽に詰め込みすぎると葉の表面に殺菌液が行き渡らない可能性があること、有効塩素濃度はキャベツの葉の処理をするごとに低下していくことを把握し、殺菌効果が落ちた古い殺菌液を捨てて毎回あらたに殺菌液を作ることを手順化する必要があります。これらもまた殺菌の条件を決める要素となるため、CCPの手順として定め、モニタリングの対象としなければなりません。投入するキャベツの葉の量については、キログラム数で定めて、毎回測定することもできます。この場合、何キログラムが許容限界であるかを明確に定めることができます。

CCPの手順についてはハザード管理プラン(HACCPプラン)として文書化することによって、HACCPの仕組みの中に組み込みます。●逸脱が起きた場合の対応

CCPのモニタリングによって許容限界から逸脱した状態が観察された

先にあげた無菌チャンバーを例に考えてみましょう。この中では食品が容器に詰められ密封されます。これを食中毒菌の汚染や残留の面から見てみます。

食品は加熱殺菌工程によって食中毒菌が残留しない状態になります。包装容器は内面を殺菌剤で殺菌して無菌にします。次に無菌チャンバー内で食品が容器に詰められ密封されます。密封によりそのあとの工程で食中毒菌が侵入することが予防されます。いわゆる無菌充填ではこれらの工程の段階、つまり食品の殺菌、容器の滅菌、無菌状態での充填、再汚染を防ぐ密封という組み合わせにより、常温で保存可能な製品を作っています。

どれかひとつの管理が崩れただけでも、常温保存可能な食品はできません。また、技術的・設備的にこれらが達成できないのであれば、それは常温保存可能な食品として販売することはできません。ただし、技術的に達成できない面を補うために、「脱酸素剤を入れる」「pHを調整する」

「防腐剤を添加する」などの方法により、常温での保存を可能にすることもあります。

弁当の場合であれば、加熱調理で殺菌された惣菜といえども耐熱性の菌は残存しており、弁当容器に詰めたあとに発芽、増殖の可能性があります。それを防ぐ(予防する)ため、調理後の速やかな冷却が必要であり、何時間以内に何度まで冷却するという基準で冷却工程が設けられています。これがO-PRPであり、加熱調理(CCP)との組み合わせにより耐熱性菌による食中毒の発生を防いでいます。

7モニタリングと逸脱

HACCP適用の12ステップ:ステップ9

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第2部 安全な食品を作る仕組み

ときは、即座に行動しなければなりません。行動として必要なことは、第1に逸脱した状態を元に戻すこと、または工程そのものを停止することです。つまり、正常な状態で処理できるように復旧するか、それができなければ停止するということです。続いて、この逸脱によって安全が保証できなくなった製品の範囲を特定して隔離すること、安全ではない製品が工場から出て行かないようにすることが必要です。

  O-PRPのモニタリングと逸脱 ISO22000:2018 8.5.4.3、8.5.4.4b

O-PRPもまたモニタリングしなければなりません。CCPと同様に数値が測定されている場合もありますし、合格か不合格かという状態を観察している場合もあります。CCPと違って許容限界はありませんが、処置基準に従ってモニタリングをおこない、その結果が正常か異常かの判定ができなければなりません。無菌フィルターの差圧のモニタリングの例では、ある数値以下の圧力であれば異常と判定して、フィルターの効果を疑う必要があります。異物検査の例では、例えば、検査されるものを載せたコンベアが所定以上のスピードで動いていた場合、検査の見落としの可能性が大きくなるため、異常と判定しなければなりません。

これらの異常は管理された状態からの逸脱と考えて、CCPにおける場合と同じように、直ちに正常な状態に戻す、該当する製品を特定して隔

ハザード管理プラン(HACCPプラン)の例

工程名 生野菜の殺菌処理

食品安全ハザード 病原性の微生物 

管理手段 次亜塩素酸ナトリウム溶液に浸漬することによる殺菌 

許容限界 100ppmで10分間の浸漬 、1回処理量8kg

モニタリング手順 頻度:殺菌液調整ごと 濃度:試験紙による 時間:電子タイマーによる 1回処理量:野菜重量測定 

逸脱時の修正および是正処置 再殺菌または廃棄、工程異常報告書による是正処置

責任・権限 担当者: 野菜処理室の指名された者、殺菌液の調整と濃

度・時間・重量の測定、逸脱の判断検証者:職場長、記録の検証と逸脱時の修正の指示

モニタリングの記録 野菜処理室 殺菌処理日報

野菜

処理

室 

 殺

菌処

理日

期限20●●年●●月  殺菌液調整:塩素原液350m

L、水200L、

濃度100ppm

以上、浸漬10分、1回処理量10kg程

度 

カット区分:①スライサーNo.1  

②スライサーNo.2 

③ボールカッター ④縦割りカッター  ⑤手切り

作業

時間

製品

名処

理量

kgカ

ット

区分

1回

目2

回目

3回

目備

 考

担当

者検

証者

開始

終了

kgppm

10分kg

ppm10分

kgppm

10分

7:10

7:30

三つ葉洗浄カット

10⑤

10OK

OK

鈴木

千場

7:45

9:15

レタス洗浄

40なし

8OK

OK

8OK

OK

8OK

OK

伊藤

千場

なし

84 OK

OK

85 OK

OK

5回目新試験紙 期限201406

伊藤

千場

9:30

9:50

きゅうり輪切り

5②

5OK

OK

コンベアーベルトほつれ切除→OK

鈴木

千場

10:0011:

00きゅうり巻き芯

15④

10OK

OK

5OK

OK

伊藤

千場

〈連絡事項〉

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第2部 安全な食品を作る仕組み

離する、という対処が必要です。

  CCPやO-PRPのモニタリングをする人 ISO22000:2018 7.2c

CCPやO-PRPのモニタリングを担当する人は、それにふさわしい教育を受けて、内容を理解していなければなりません。教育の内容には、次のものを含むとよいでしょう。担当者の異動や退職によって新しい作業員が配属された場合、モニタリングの作業にあたる前には必ずこの教育を受けなければなりません。●対象となっている食品安全ハザードの把握

担当する工程が何のためにあるのかという点は、当然理解しておく必要があります。殺菌剤によって表面を殺菌する、それによって付着しているかもしれない病原性の微生物をなくす、といったことです。●食品安全ハザードをどのように管理しているかという原理の把握

フィルターやシフターによる異物除去の原理は簡単です。加熱殺菌の原理を本当に学ぼうとすると大変かもしれませんが、キャベツの葉の薬剤による殺菌を例に説明したように、殺菌が効果的であるための管理のポイントについての知識は必要です。

ハザード管理プラン(O-PRP)の例

工程名 タンクへの無菌空気の供給

食品安全ハザード 病原性の微生物 

管理手段 無菌フィルターによる微生物の除去

処置基準 フィルター前後の差圧

モニタリング手順 頻度:空気供給開始時 フィルターの状態:無菌フィルターの差圧計の指示

逸脱時の修正および是正処置

フィルターの交換、機器滅菌のやり直し工程異常報告書による是正処置

責任・権限担当者: 滅菌機運転担当者、フィルター差圧のモニター、    逸脱の判断検証者:職場長、記録の検証と逸脱時の修正の指示

モニタリングの記録 滅菌機運転日報

●モニタリングの方法と記録の方法の把握何をどのようにモニタリングするかという点の理解は不可欠です。モ

ニタリングの方法には、機械についた表示を記録する、チャートの指示が所定の範囲を示していることを確認する、メーターや指示計の針を読み取る、試験紙の指示色が所定の範囲の色を示していることを確認するなど、さまざまなものがあります。単に見て読み取ってわかるものは単純ですが、サンプルを採取してなんらかの操作をして結果がわかるような場合は、その操作の技能訓練も同時にする必要があります。

また、読み取った数値や観察の結果をそのまま記録する、という記録の原則も理解しておくことが重要です。まれに、読み取った数値が所定の範囲から外れていた場合、所定の範囲になるように装置を調整したあと、その数値を記録している場合があります。もし、数値が所定の範囲から外れていたとしても、まずはその数値を記録し、調整後の数値を併記しなければなりません。調整したことがわかるようにするのが正しい記録のつけ方です。もちろん、備考欄に何をどのように調整したかを記録することも忘れてはいけません。●モニタリングが逸脱を示したときの処置

モニタリングの担当者は、モニタリングの結果がどうであれば正常で、どうであれば異常であるかの境界を理解していなければなりません。異常な状態が見つかったときは、装置を正常に戻すこと、それができなければ停止することが必要です。次に、該当する製品を隔離すること、モニタリングをする人にそこまでの権限がない場合は、正常と異常の境界を教えて、異常の場合は直ちに管理者を呼ぶように決めておきましょう。これだけでも事故を防ぐには有効です。

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