オーストラリア英語アクセント...個別論文 オーストラリア英語アクセント...

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ݸผจ ΦʔετϥϦΞӳޠΞΫηϯτ ߽ӳޠಛʹͷҰߟ۽ Abstract In Australia, regional variation in pronunciation tends to exist in terms of urban versus rural, as well as social and stylistic, rather than simply geographical. Traditionally, there have been three main classifications of contemporary Australian English accent. They are Cultivated, General and Broad, identified primarily by differences in the quality of certain vowels. In Cultivated Australian, the pronunciation of vowels is similar to that of RP, whereas in General and Broad Australian the vowel qualities are very similar to those found in Cockney or Estuary English, since they have undergone Diphthong Shift. Just as Estuary English, serving as a bridge, is located between RP and Cockney, the General Australian English accent may be located somewhere between the Cultivated and Broad Australian English accents. Thus, the General Australian English accent is neither as radical as the Broad Australian English accent, nor as conservative as the Cultivated Australian English accent. Based on the recent studies of the Sydney sociolects, there seems to be an increasing preference for the General variety of Australian English, moving away from the extreme (General and Broad) varieties. In this paper, a number of literatures on Australian English accent features are reviewed to consider the vital question: What gives their English an Aussie flavour? Keywords : Australian English accent, Sociolects, Cultivated-General-Broad accents, Diphthong shift, Aussie flavour. ΦʔετϥϦΞͷͱ߽ӳ ޠΦʔετϥϦΞେɼΠΪϦεͷଠฏ༸໘ਐग़ͷجΛΩϟϓςϯɾΫοΫ ʢCaptain James CookʣɼΦʔετϥϦΞ౦؛Λ୳ݕɾௐΛߦɼ1770 ʹ Λ New South Wales ͱɼΠΪϦεͱ༗ɻͷޙɼΠΪϦεͷܐຽ ͱ ఆ Ίɼ1788 Β 1868 · Ͱ ͷ 80 ʹɼNew South Walesʢ1788 ʙ 1840 ʣɼ Tasmaniaʢ1803 ʙ 1853 ʣɼWestern Australiaʢ1829 ʙ 1868 ʣͳͲͷʹ߹ ܭ800 ճҎ ͷ༌ૹΛܦ 162,000 ਓͷनਓૹΓ·ࠐΕʢTames, 1996ʣɻΠΪϦεຊʹͱͷ ܐɼ1780 ɼۀʹΑΔ෦ͷେۀԽɼΑͼޱͷՃͱػցԽ ʹͱͳۀͷٸʹΑΓɼ൜Ίʹ৽ͳ൜ऩ༰ॴอͷඞཁ ʵ 107 ʵ

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Page 1: オーストラリア英語アクセント...個別論文 オーストラリア英語アクセント 豪英語特徴についての一考察 津熊良政 Abstract In Australia, regional

個別論文

オーストラリア英語アクセント─豪英語特徴についての一考察─

津熊良政

Abstract

In Australia, regional variation in pronunciation tends to exist in terms of urban versus rural, as

well as social and stylistic, rather than simply geographical. Traditionally, there have been three

main classifications of contemporary Australian English accent. They are Cultivated, General and

Broad, identified primarily by differences in the quality of certain vowels. In Cultivated Australian,

the pronunciation of vowels is similar to that of RP, whereas in General and Broad Australian the

vowel qualities are very similar to those found in Cockney or Estuary English, since they have

undergone Diphthong Shift. Just as Estuary English, serving as a bridge, is located between RP

and Cockney, the General Australian English accent may be located somewhere between the

Cultivated and Broad Australian English accents. Thus, the General Australian English accent is

neither as radical as the Broad Australian English accent, nor as conservative as the Cultivated

Australian English accent. Based on the recent studies of the Sydney sociolects, there seems to be

an increasing preference for the General variety of Australian English, moving away from the

extreme (General and Broad) varieties. In this paper, a number of literatures on Australian English

accent features are reviewed to consider the vital question: What gives their English an Aussie flavour?

Keywords : Australian English accent, Sociolects, Cultivated-General-Broad accents, Diphthong

shift, Aussie flavour.

オーストラリアの歴史と豪英語

オーストラリア大陸は,イギリスの太平洋方面進出の基礎をつくったキャプテン・クック(Captain James Cook)が,オーストラリア東岸を探検・調査を行っていた際,1770 年に上陸した土地を New South Walesと命名し,イギリス領として占有した。その後,イギリスの流刑殖民地と定め,1788 年から 1868 年までの 80 年間に,New South Wales(1788 ~ 1840 年),Tasmania(1803 ~ 1853 年),Western Australia(1829 ~ 1868 年)などの各地に合計 800 回以上の輸送を経て 162,000 人もの囚人が送り込まれた(Tames, 1996)。イギリス本土にとってこの流刑制度は,1780 年代当時,産業革命による都市部の大工業化,および都市人口の増加と機械化にともなう失業者の急増により,犯罪件数が激増したために新たな犯罪者収容場所確保の必要

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性と同時に,植民地建設のための労働力供給という一石二鳥の目的があった。強制的に送られてきたのは流刑囚,軍関係者,役人の他,やがて英国政府の奨励により自由意志で新天地を求めて移住してきた者も多く,1900 年までには約 380 万人に増加した初期のオーストラリアの人口の大部分は,主としてロンドンを中心とするイギリス南東部地域やイギリス中部の新興工業都市周辺地域,さらにアイルランドからの貧しい労働者階級の出身者が大きな比重を占めていていた。そして,初期の一般移住者と流刑囚の比率は,1:4または 1:5と推定されている(Mitchell & Delbridge, 1965b)。さらに,初期の植民地社会では,最上階級の司政官・行政官や軍の将校レベルは 19 世紀初期の英国式標準語を使用していたが,流刑囚や一般の軍人階級は主に,当時のロンドン地域方言(コックニー)またはその周辺地域の方言を用いていたと推測されている(Partridge & Clark,

1968; Turner, 1972)。2006 年 6 月現在の国勢調査データによると,オーストラリアの全人口の 24%が外国生まれで,その約半分がヨーロッパ系国籍で,残り半分が非ヨーロッパ系国籍で占められるようになったが,このような比率は 19 世紀末までの人口構成について述べる限り,非英国系の占める割合が全人口の 1割を超えたことはなかった。但し,現在においても外国生まれの上位 5国籍は,英国 24%,ニュージーランド 9%,イタリア 5%,中国・ベトナム各 4%となっている。また,この分野における過去 10 年間(1996~2005 年)の全体的傾向としては,英国およびイタリアからの移民が減少した反面,ニュージーランドおよび中国からの移民が増加し,ベトナムからの移民には変動がなかったことが挙げられる(Australian Bureau of Statistics, 2006)。

アクセントとダイアレクト

アクセントとダイアレクトという語句の使われ方は,一般的に混乱を引き起こしやすいが,言語学の定義では明確に区別されている。すなわち,アクセントは言語の発音上の特徴を言い,ダイアレクトは発音も含めた語彙や文法などその言語全体の特徴を取り上げるものである。したがって,一般的な話者にとって,アクセントだけは地方色濃い特徴を伴っていても,使用するその他の言語的特徴は,標準的なものであることは英語に限らず他の言語でも,ごく普通であることが多い。

A regional accent refers to features of pronunciation which convey information about a person’s

geographical origin. A regional dialect refers to features of grammar and vocabulary which convey

information about a person’s geographical origin. Speakers who have a distinctive regional dialect

will have a distinctive regional accent, but the reverse does not necessarily follow. It is possible to

have a regional accent yet speak a dialect which conveys nothing about geographical origin, as in

the case of Standard English.(Crystal, 1995)

さらに,なぜ言語にはアクセントの違いが生じるのかについて,次のような言語学的な解説がある。

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オーストラリア英語アクセント(津熊)

When people with different regional(or social)backgrounds meet, there is a tendency for their

speech patterns to become more alike, or converge. This process, known as accommodation, can be

observed in all aspects of language structure, but is especially noticeable in accents. Some people

cannot stop themselves unconsciously picking up the accent of the person they are talking to. Less

noticeably, when people encounter others with whom they wish to maintain a distance, their

language tends to become less alike, or diverge.(Crystal, 1995)

これは何も言語活動だけに限らないが,われわれは,社会生活のあらゆる分野において仲間と同様の振舞いをする習性がある。一人の人間は社会において,必然的にいくつかのグループに同時に所属して生活しているが,これらのグループの中ではある一定の規範とされている範囲内で振舞おうとするのが一般的である。たとえば,われわれは,ジェンダーの観点からであれば,男性は男性らしいことば使いを,年齢の観点からであれば,若者は若者ことばを使い,地理的な観点からであれば,地方出身者であれば,仲間内ではその土地独特の御国ことばを使い,仕事の観点からであれば,各分野の業界ことばを使いこなしている。同時に,われわれ日本人であれば,身内に対することば使いと他人に対することば使いをはっきりと区別させるという,言語的には多次元社会の中でことばを使いこなしている。オーストラリアのようなさまざまな国々からの移民者の割合が多い社会の中では,概して,移民第 1世代は新しい言語や文化に馴染みにくく,それぞれ地域社会言語のサークルの範囲内で生活することが多い。実際,シドニーやメルボルンのような大都市の郊外ではイタリア系,ギリシャ系,中国系,ベトナム系,ロシア系,ユダヤ系,そしてレバノン人に代表されるイスラム教系の居住区が形成されている。しかし,一般に,第 2世代からさらに世代を重ねるごとに,言語的な障害による不自由さはなくなり,職業選択の自由度向上や異人種間の婚姻率増加などにより,第 1世代にとって新しく馴染みにくかった異種の言語や社会文化にほぼ完全に適応していくことになる。1996 年のオーストラリア国勢調査によると,現在オーストラリアで最も多く家庭内で使用されている英語以外の地域社会言語の上位 5種は,イタリア語>ギリシャ語>広東語>アラビア語>ベトナム語の順序になっている。イタリア語とギリシャ語が圧倒的に多いが,移民一世の言語転換(ここでは,家庭内においても英語を使うことを意味する)を実現している度合の上位人種は,オランダ人>ドイツ人>マルタ人>フィリピン人>スペイン人の順序になっている。一方,イタリア人,ギリシャ人,広東語系中国人,レバノン人,ベトナム人の度合は低い。言語転換の度合の比較的高い上記の人種は,国際結婚率も高く,職業選択の自由度も高い結果,異文化社会への溶け込みが比較的早くなるが,逆に,低い言語転換率を有する人種は,移民第 2世代においても同様の言語転換率の低さが受け継がれる傾向がある。(Australian Bureau of

Statistics, 2006)。

豪英語の定義

Cox(2005)によると,「オーストラリア英語(豪英語)」とは,「オーストラリアで生まれ育っ

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た者か,思春期早期以前にオーストラリアに移住して,主に豪英語をしゃべる仲間同士と交わった者が話すことばである」と定義している。また,豪英語は,「オーストラリアにおいて標準的にしゃべられていることばで,オーストラリア人としての国民性を顕著に表すことばでもある」とも加えて定義している。しかし,豪英語だけがオーストラリア生まれのオーストラリア人によって話される唯一の英語の種類ではないはずである。すなわち,先住民である人々の話すアボリジニー英語,イタリア人やギリシャ人などのコミュニティで話されている各種エスニック英語などもそうである。

英国式英語らしさと言語同一性

オーストラリアは歴史的には,約 200 年前に主に英国式英語を話すイギリス人たちによって植民地化された大陸であることを考慮すると,現在の豪英語アクセントがイギリス英語アクセントに似ていても不思議なことではない。事実,ほぼ同時期に植民地化された南アフリカやニュージーランドも同様の英国式英語アクセントを呈している。オーストラリアは,東西 3,860Km,南北 3,200Km,総面積約 770 万平方キロメートルで,ほぼアメリカ合衆国ほどの面積で,英国本土の約 32 倍,日本の約 21 倍もの面積を有する大陸であるが,総人口は約 2056 万人(2006 年 6 月現在)と,人口密度は 1キロ平方メートルに 1.6 人(日本の約 160 分の 1)と極めて低い国でもある。そして,その人口の 84%(約 480 万人)が東部・東南部海岸沿いの都市部に居住している。このような広大な地理的観点から考慮すると,オーストラリアの英語は,特に英国本土や北アメリカに比べると極めて均質であると言える(Trudgill,

1982; Wells, 1982)。

オーストラリアの海外線と行政境界を示した地図(http://www.canobiehouse.com.au/ locality.htmlより)

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オーストラリア英語アクセント(津熊)

過去に豪英語の地域変化を研究した言語学者(Bradley, 1989; Bernard, 1989a; Horvath/

Horvath, 2001)の調査結果によると,豪英語の地域格差は,都市部と地方とにおいて強いという傾向はあるが,その他の地理的な地域差は認められなかった。Bernard(1970)は,この豪英語アクセントの均質性特徴の理由について,次の 2点を挙げている。すなわち,1)初期の英語話者白人入植者は,オーストラリア東岸の限られた港からだけしか入ってこなかったし,深く内陸部へ移動することはなく常に港に隣接した沿岸地域に居住していた。2)初期の入植者(強制入植者および自由入植者の両方)は,大英帝国軍やその行政官に対する社会的団結力が強く,そのような社会環境下で異なったアクセント間の混和・調和が起こった。その結果,オーストラリアにおいては,英国や北米などに比べて独特な社会的方言の形成と成長が押さえられてきたと考えられると仮説している。しかし,現時点では豪英語アクセントの研究データには限りがあるため,このオーストラリアにおける均質アクセントについての妥当性についての結論は出し難い。さらに,一般的傾向として,これまで豪英語アクセントの研究は,NSW(ニューサウスウェールズ)州のシドニー周辺地域の話者からのサンプルデータによるものが多く,メルボルン,パース,アデレード,ダーウィンなどその他の都市の話者からのサンプルデータによる観察分析結果は比較的少ない。前述の通り,オーストラリアでの地理的・地域別によるアクセントの差は,都市に対して地方という形で存在するようで,地方における豪英語アクセントの特徴は,一般的には都市部に比べて母音を長く引き伸ばしてゆっくりとした調子で発音し,これまで外部の基準英語として考えてこられた英国式容認発音(RP)から最も大きくかけ離れた話し方になる傾向があり,初期の旅行者や研究者にはこのような発音特徴は否定的に捉えられていた(Baker 1945, 1966)。また,アクセントの差は,どのような教育を受けてきたかや家庭の経済状況や親の職業などといった社会的要因や,カジュアルな状況下で話すのかそれともフォーマルな状況下で話すのかなどといった発話スタイルにもよることが多い。このような特徴を持つ豪英語では,地理的な意味での地域差によることばの違いが観察されるとすれば,それは主に語彙や文法などの部分が占める割合が大きく,音声特徴(アクセント)の差の割合は少ないと考えられている(Wells

1982)。

3種類の豪英語アクセント(Cultivated, General, Broad)

オーストラリアにおける社会言語学研究の草分け的存在であるMitchell & Delbridge(1965a)によると,現代豪英語アクセントには大きく Cultivated・General・Broadという 3 種類のSociolects(社会方言,つまり特定の社会階層に見られる独特のアクセントやことばの用法)に分類される。これらの分類は,主に長母音や 2重母音の特徴的変化で決定されるが,1960 年代においてでさえもMitchell & Delbridgeは,このようなアクセント区分の境界線は比較的柔軟で,1人の話者が必ずしも 1種類の社会方言だけしかしゃべらないということではなく,むしろ全てのアクセントの種類の発話特徴を含むのが普通であるとしている。豪英語だけに限らないが,言語のアクセント特徴とは継続線上にある点的存在であり,明確に区切られる性質のものではないと考えるのが自然である。

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立命館言語文化研究20巻 4 号

母音の質的変化は,英語のアクセント間における特徴を比較対照しようとするとき重要な要素であり,過去半世紀ほどの間,印象主義的音声学および音響学的音声学の両方面から考察されてきた。

The Australian English accent is dif ferentiated from other varieties of English mainly by the

pronunciation of vowel sounds. There are some consonantal dif ferences but it is primarily the

vowels that give our accent its distinctly Australian flavour.(Cox, 1998)

したがって,豪英語アクセント特徴の内の何が最も Aussie(オーストラリア人)らしさを出すのかという当初の疑問に対しては,この段階では「母音」という答えが有力になる。Mitchell

& Delbridgeの 3種類のアクセント区分から現在まですでに約半世紀の時の隔たりがあり,当時と現在の社会言語学的状況は大きく変化しているが,これらの伝統的アクセント区分の印象は根強く,現在でも豪英語アクセントに関する研究においては,当時は音声分析機器による音声特徴の測定によるものではなかったが,7,000 を越す大規模なデータをもとに科学的手法で研究されたアクセント変化のルーツ的存在として認識されている。豪英語 Cultivatedアクセントでは,母音の発音は英国式 RP発音(英語アクセント研究におい

てしばしば外部基準として使用される英国南東部式容認発音)と近似している。実際,権威のあるオーストラリア英語辞書として代表的な The Australian Oxford Dictionary やMacquarie

Dictionaryでは,豪英語独特の意味特徴に関しては明記されているが,発音記号に関しては現実の一般的オーストラリア人の発音ではなく,明らかに RPを権威のある標準発音として意識し,RP式発音を手本として使用している。このために,EFL/ESLの現場における学習者の混乱は避けられない。上記の辞書において理想とされている RPアクセントによる音声表記と現実の典型的な豪英語アクセントによる発音の間の明確な相違点は,少なくとも将来改善が必要とされる部分である。一方,豪英語の Generalや Broadアクセントでは,2重母音推移現象を歴史的に経験してきている英国南東部におけるアクセントと共通点があるので,母音の質が Cockneyや Estuary英語アクセントと近似している。ちなみに,Estuary Englishとは,ロンドンおよびロンドン周辺地域で広く使用されているアクセントで,その名前の由来はテムズ川河口周辺地域で話されている特徴的な発音であると定義されている。これは,1984 年にイギリスの言語学者 David

Rosewarne(1984)によって,ロンドン地域のアクセントが周辺地域に及ぼす影響を考察するための論文の中で造りだされた新語で,その後,音声学や言語学分野では無論のこと,新聞紙上などでも大きく取り上げられるようになった(Estuary Englishについては,ロンドン大学音声学教授の J.C. Wellsのウェブサイトから詳細な関連情報を参照することができる(2008 年 5 月現在):http://www.phon.ucl.ac.uk/home/estuary/)。丁度,アクセントの連続線上において,英国英語では Estuary Englishが RPと Cockneyの中間的存在であると考えると,豪英語では Generalアクセントが,Cultivatedと Broadの両アクセント間に位置することになる。もし「アクセント偏差値」があるとすれば,ある意味では,Generalアクセントは Broadアクセントほど過激に大きくもないが,Cultivatedアクセントほど

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オーストラリア英語アクセント(津熊)

保守的に小さくもないという平均的存在になる。したがって,特に母音・二重母音の発音特徴において,豪英語 Cultivatedアクセントは RPアクセントに最も近く,BroadアクセントがCockneyに近いとすれば,Generalアクセントは Estuary英語アクセントに近い特徴を有すると仮定できる。

Australia Cultivated AusE ……… General Australian English ……… Broad AusE

England RP English ……………… Estuary English ………………… Cockney

豪英語アクセントと英国南東部アクセントの関係を示した図式

英国式英語 Estuary アクセントと豪英語 Generalアクセントの特徴比較

下記の英文は,IDEA(International Dialects of English Archive)が 2008 年 5 月現在ネット上で公開している世界各国の英語アクセント音声データベースのサンプル英文の一部であるが,この中に含まれている Cockney話者による音声データを分析観察してみると,以下のような特徴を挙げることができる。

IDEA: Well, here’s a story for you: Sarah Perry was a veterinary nurse who had been working

daily at an old zoo in a deserted district of the territory, so she was very happy to start a new job at

a superb private practice in north square near the Duke Street Tower.

2 重母音のシフト(diphthong-shift):

daily /→ /

private /→ /

前舌化母音(fronted vowels):

tower /→ /

2 重母音のスムージング(diphthong-smoothing of /, /):Sarah /→ /, square /→ /

here’s /→ /, near /→ /

弱母音(weak // for //):

deserted /→ /

子音直前の破裂音声門閉鎖化(preconsonantal plosive-glottalization):

had been / → /, old zoo / → /,

deserted district / → ()/,

superb private practice / /,

Duke Street Tower / → /

母音直前の //の声門閉鎖化(prevocalic //-glottalization):

start /→ /

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//の母音化(//-vocalization):

well /→ /

また,次の ANDOSL(Australian National Database of Spoken Language)による音声データベースに含まれている豪英語(Generalアクセント)話者のサンプル英文を分析観察した結果,以下に示すように IDEA の Cockneyデータ分析結果と同じようなアクセント特徴が見出された。

S045: The world is becoming increasingly dangerous but hardly anyone cares.

gの脱落(g -dropping):

becoming /→ /

2 重母音のシフト(diphthong-shift):

dangerous /()→ ()/

2 重母音のスムージング(diphthong-smoothing of //):

cares /→ /

S062: Water was cascading down the mountain at a rate of knots.

2 重母音のシフト(diphthong-shift):

cascading /→ /, rate /→ /

前舌化母音(fronted vowels):

down /→ /, mountain /→ /

豪英語アクセントの変化

Horvath(1985)によるシドニー地域における社会方言研究(特定の社会階層に見られる独特のアクセントやことばの用法に関する研究)によると,豪英語アクセント連続線上において,特に若年者層に両極端(Cultivated/ Broad)アセントから中間(General)アクセントへ向けての緩やかな移行が起こりつつある旨の報告がある。すなわち,この地域での若者の発話のアクセント変化方向は,Cultivatedアクセントからの移行(C→ G)と同時に,Broadアクセントからの移行(B→ G)の 2通りが同時進行していると考えられる。従って,Mitchell & Delbridge

の 3種類のアクセント区分がこれまでの時点で有効であったとしても,将来的にも有効なカテゴリー区分であり続けるかどうかは,これからはますます疑問になってくる。下の表は,Mitchell & Delbridge(1965a)の調査以来,Horvath(1985)や Cox(2004)の調査を通じて豪英語 Generalアクセントカテゴリーが過去 40 年の間に使用されてきた増加・減少率を示したものであるが,各調査に関わった被験者数に差はあるものの,シドニー地域の若年層話者に関する限り,Generalアクセントへ向けての急激な移行現象が起こりつつあることを見ることができる。このようにアクセント連続線上の区分比率が収縮しているため(Cox, 2005),近い将来,オー

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オーストラリア英語アクセント(津熊)

ストラリアにおいて Cultivatedアクセントや Broadアクセント話者が皆無に近い状態になった場合,Generalアクセント自体が,豪英語標準アクセントに昇格するようになると考えられる。

豪英語 3種類のアクセントカテゴリーの過去 40年間における使用増加・減少率の比較

Estimated Use of Sociolects in Sydney from 1965 to 2004Mitchell & Delbridge (1965a) n = 7000 Horvath (1985) n = 180 Cox (2004) n =120Cultivated 11% Cultivated (SL 4) 6% Cultivated 0General 55% General (SL 2 +3) 81% General 100%Broad 34% Broad (SL 1) 13% Broad 0

Mitchell & Delbridge(1965a)の研究は,オーストラリア 6州からの被験者 7000 人以上に及ぶ大規模な調査に基づくもので,309 の参加中等学校から青年期の男女のスピーチをテープに録音したものを分析者自身が耳で聴いて判断した集計結果である。この場合の評価基準は,1)豪英語母音,2)連続音中の音の消失と同化,3)イントネーション,4)スピーチのスピード,5)鼻音化,の 5項目であった。Mitchell & Delbridgeは,これらの音声的要因の他にアクセントにはいくつかの社会的要因が影響していると判断していたが,直接,社会的要因に基づく方言の限定までには範囲を広げなかった。ここで言う社会的要因とは,性別,学校のタイプ,両親の職業,日常生活範囲が都会か田舎の区別などであった。

Horvath(1985)は,シドニーを中心に社会方言を調査したが,アメリカの社会言語学者Labov(1966)の調査方法に基づき,180 人の被験者に対して社会言語インタビューを行った。その結果,シドニーの言語コミュニティを大きく Core(中核)と Periphery(抹消・周辺)の 2種類のグループに分け,Coreグループをさらに 4種類の社会方言に,Peripheryグループを 2種類の社会方言に分類した。Horvathの研究の 1つの大きな特徴は,これまで豪英語調査の対象として含められなかった非アングロサクソン系人種以外のギリシャ人やイタリア人のようなエスニックグループをも対象にしたことであった。

Cox(2004)の調査は,シドニー地区で最も多様な社会層が混在すると言われる Northern

Beaches地区に住む男女各 60 名,合計 120 名の中高生対象に行われたが,事前調査の結果,参加者全員が豪英語 Generalアクセント話者であることが判明した。Generalアクセント話者のみにターゲットを絞って被験者募集をしたわけではなかったが,Cultivatedや Broadアクセント話者は皆無であった。無論,厳密に言うと,被験者の規模,出身地,アクセント判定基準の詳細などの差異が存在するため,これら 3種類のアクセント調査における被験者のアクセント割合を全く同じ尺度で比較することはできないが,過去 40 年間のアクセント推移の大まかな様子は少なくとも見て取れる。これは文化的な面から言うと,第 2次世界大戦後,オーストラリアは徐々にイギリスから文化的に分離し,英国式 RPアクセントを使うことの社会的・経済的なメリットが少なくなっていった結果,それまで外部標準とされてきたイギリス英語の影響力が急激に消失してきたために起こった現象であると考えられる。特に,1980 年代の後半において,オーストラリアの若

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年層が使う英語は老齢層が使う英語とも違うし,前世代の若年層の英語とも違うようになってきた(Cox. 2005)。

南半球英語

現在,南半球で使用されている英語圏の代表的な 3種類の英語,即ち,オーストラリア,ニュージーランド,南アフリカの英語のアクセントは,すべて英国式で大部分において互いに似通っている。これは,これらの国々は,ほぼ 19 世紀の初めに大英帝国によって植民地化された結果,初期においてはイギリスからの移住者がその人口の大部分を占めていたため,言語文化も英国式になったためである。特に,ニュージーランドとオーストラリアの英語アクセントは近似していて,その理由のひとつは,初期のニュージーランド移住者の大部分がオーストラリアからであったためであると考えられている(Tames 1996)。しかしながら,ブリテン島からオーストラリアへの移住という点では,ロンドンを中心とするイギリス南東部地域やその周辺地域からのアングロサクソン系人種の人口が圧倒的に多く,英語アクセントの観点からもロンドンアクセントが初期の植民地において優位な地位を占めていたと考えられる。したがって,19 世紀初頭にイギリス南東部,特に,ロンドン周辺で使用されていたアクセントが主流となって当時の南半球の植民地に反映したと推測できる。

英国式(イギリス南東部)英語アクセント特徴

19 世紀初期,オーストラリアを含む南半球英語圏に移植され,現在においても根強く生き残っている英国式英語アクセント特徴の典型的な具体例としては,次のような項目を挙げることができる。

1)r音消失/r/→ Ø / ___ {C, #}

/r/は,子音や単語の境界の直前で消失する。e.g. barn //, beard //, farmer //, father //, thirty //, worm //, etc.

RPにおいて,母音の前に来ない(すなわち,子音や語の境界前の)環境下で正字法の綴り字中にある rは発音しないという言語習慣の定着は,18 世紀終わり頃までに完了していたようである(Wells 1982)。但し,語末に来る rの場合に限って,その直後に母音で始る語が続けば,正字法で語末に rが存在する場合,たとえ RP式アクセントであっても /r/が甦ってくる(リンキング r)現象や,正字法で語末に rが存在しない場合でも /, , , /のような非高母音で終わる単語の直後に母音で始る語が続く場合,/r/が挿入されるイントゥルーシヴ(嵌入の)r

現象がある。因みに,このような現象は,英国式英語の中で唯一,南アフリカ英語には起こりにくいことが報告されている(Trudgill & Hannah 1985)。さらに,興味深い社会言語文化的現象としては,北米においては,母音の前に来ない rを発

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オーストラリア英語アクセント(津熊)

音することが洗練された標準米語とされるが,逆に英国では,同様の環境下で rを発音しないことが洗練された標準英国式英語(RP)とされることである。Labov(1966)は,この r化についてニューヨーク市の社会階層の違う地域の 3種類のデパートで調査を行ったことで有名であるが,ニューヨーク市においては,英語の子音や語境界直前の r音を発音しないアクセントと老年層および,中・下級階層の話者との間に正の相関関係があり,そのような音韻環境では,急激に /r/を挿入して発音するアクセントタイプに移行しつつあることが観察されている。北米では,一般的には母音の前に来ない rを発音しないが,北米においてでもそのような環境下で rを発音するという例外地域が,前述のニューヨーク市とその周辺地域や,下の図で示されているように,東部ニューイングランド,南フィラデルフィア,および南部海岸地域に点在している。

一方,ブリテン島においては,スコットランドやアイルランドはまだ根強く母音の前に来ない rを発音する傾向があるし,イギリス南西部(Cornwall, Dorset, Devon, Wiltshire, Somerset等)の地方でもそのような環境下で /r/の音色が残っている(Trudgill, 2005)。

アメリカ東部・南部海岸における非 r化地域(Map based on Labov, Ash, and Boberg 2006)

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立命館言語文化研究20巻 4 号

2)Bath母音長音化//→ // ___ [- VOICE, + FRICATIVE, /n/ + C]

ある一定の語の語中に来る無声摩擦音や鼻音の直前の aは,//から //(豪英語アクセントでは前母音 //)に変化する。e.g. bath //→ //, can’ t //→ //

上記の音韻変化ルールからこの音声特徴には 2種類のタイプが存在することになる。まず,1)無声摩擦子音直前のタイプと,次に,2)鼻音 nまたは mの直前のタイプの変化である。但し,それぞれのタイプにおいて,歴史的にいくつかの例外とされる語が存在する。つまり,英国式アクセントでは,以下のような語群においては,一般的には下記の通り,例)に挙げられている語中の aは //になるが,例外)に挙げられている語中の aは //として発音される。

Type 1. Vowel ‘a’ + [- VOICE, + FRICATIVE, + C]:

 例)after, bath, castle, pass, glass, last, laugh, etc.

 例外)math(s), mass, tassel, dash, gas, etc.

Type 2. Vowel ‘a’ + N(occasionally M)+ a Consonant or Consonants:

 例)answer, aunt, branch, can’t, chance, dance, example, etc.

 例外)ant, cancer, cancel; stand, grand, ample, etc.

ブリテン島における r音発音習慣の有無(グレー部分は r化あり,ホワイト部分は r化なし)

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オーストラリア英語アクセント(津熊)

南オーストラリア地方の豪英語では,この RP同様の Bath長母音化現象化は見られるが,特に New South Walesのシドニー地域では同様の音韻環境においても,英北部や北米式の //が使われると報告されている(Wells 1982)。2005 ~ 2006 年にかけて,筆者が口頭で調査した結果によると,一般的な傾向としては,メルボルン地域であっても,大学在学中の若年層については //を使う割合が多く,年配層になるほど //を使う傾向があることがわかった。例えば,若年層ほど,I can’t dance so fast. のような文中では,can’t ,dance,fastの母音は 2語または 3語全部が //として発話されることが多くなってきている。ただし,豪国内の EFL/ESLの現場では,使用されている教科書の多くがイギリスで出版されたものであったり,もともと米国で出版された米語版を英国式英語版に改訂したものであったりする。さらに,たとえオーストラリアで出版された教科書であっても,オーストラリアにおける英・英辞書の権威である The

Macquarie Australian Dictionary(2005)や The Australian Oxford Dictionary(2004)の発音記述はすべて英国式 RPに基づいたものであるため,教室を一歩出た街で現実に話されている発音とは裏腹に,例えば BATH母音を含む短・長母音や 2重母音の発音は,英国式 RPが現在においても最も権威のある発音として考えられている。また,//を使う割合を地域的に調査した結果(Bradley 1991)によると,アデレードを除けば,上記 1)の無声摩擦音直前タイプよりも 2)の鼻音直前タイプの方がその割合が大きい。また,//を使う割合が大きい地域ほど南部に位置していることが観察できる。

豪英語における地域別 //使用度比較(Bladley, 1991)

地域 無声摩擦音直前の aが//と発音される割合(%)

鼻音直前の aが//と発音される割合(%) 平均(%)

Hobart 38 93 66Melbourne 40 42 41Brisbane 31 42 37Sydney 11 30 21Adelaide 14 9 12平均(%) 27 43

3)2 重母音の移動2重母音の調音位置の移動はロンドンを中心に起こり,19 世紀初頭までに完成したと考えられている(Wells 1982)。従って,初期の植民地としてのオーストラリアへの移住者は,ロンドンの 2重母音の特徴をそのまま新天地に持ち込んだと推測できる。一般の外国人の耳には,bay

が buyのように,buyが boyのように,noが nowのように,また,nowが鼻音の強いネコの鳴き声[]のように聞こえる。そして,オーストラリアにおいては現在でも実際この様な特徴は,ローカルラジオ局の電話による聴取者参加番組を聞いたり,街で買い物をしていると頻繁に耳にすることができる。事実,オーストラリア前首相であるジョン・ハワード(John Howard)1)

のスピーチを聞くと上記のような母音のシフトが起こっていることを確かめることができる。英語のアクセント変化は,その大部分が母音の変化によって引き起こされていると言っても

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立命館言語文化研究20巻 4 号

過言ではない。200 年前までにロンドンで起こってしまっていた 2重母音の移動は大きく次のような変化であった。また,音色の異なる 2重母音の場合,変化の全てが第 1母音で生じていることが分かる(Wells 1982)。

[] FLEECE → [, ] 長母音 []の 2重母音化[] FACE → [, ] []の第 1母音の降下[] PRICE → [, , ] []の第 1母音の後退[] CHOICE → [] []の第 1母音の上昇[] GOOSE → [] 長母音 []の 2重母音化[, ] GOAT → [, ] [, ]の第 1母音の前進[] MOUTH → [, , ] []の第 1母音の前進

豪英語アクセントと英国南東部ロンドン地域アクセント

オーストラリアに英語がもたらされてからすでに 2世紀になることを考慮すると,少なくとも現在の英国南東部,特に,ロンドンおよびその周辺地域と全く同じようなアクセントのままの形で定着し発展してきたわけがなく,オーストラリア独特のアクセントの発展があったはずである。さらに,言語環境的には,祖国から遠く離れた新天地において移住者が既存の社会言語的束縛を受けることも少なく,比較的自由に変化や発展を起こすことを可能にさせた環境が存在したであろうと考えられる。一方,イギリスにおけるロンドンアクセントも過去 200 年の間に,独特な変遷を遂げてきたはずである。しかし驚くべきことに,実際には,一部のロンドン独特のアクセント特徴を例外として,現在の豪英語の一般的(General・Broad)アクセントは,現在のロンドンコックニーアクセントと大変よく似た特徴を持っている。以下に示すアクセント特徴は,現在のところ主にロンドンコックニーに限って見られる特徴である(Wells 2005, 2006)。

//-声門閉鎖化(特に,/t/が語末に来たり,語末の /t/の直後に閉鎖子音やその他の子音が来る場合や,極端な場合には,/t/が語中の子音間に来る環境で,その /t/が声門閉鎖音となって実現される。) 例)語末 start, bit, 子音の前 football, partly, Gatwick, 母音の前 twenty, city, butter, water, etc.

//-母音化(語末の dark-//が後母音 //や //または,/w/として実現する。) 例)myself //, tables //, milk //, middle //,etc.

もし,現在の豪英語において,上記のようなアクセント特徴が見られないとしたら,これらのアクセント特徴は,豪英語形成後の過去 200 年の間に,主にロンドンにおいてのみ発展し定着したものと考えられる(Wells, 1982)。しかし,Cox(2005)の報告によると,T-声門閉鎖化および L-母音化は,最近シドニーの若年層の発話において観察し始められてきた特徴でもある

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オーストラリア英語アクセント(津熊)

らしい。このような傾向は,本家イギリスにおいてもロンドンを発信地としてその周辺地域にも影響を及ぼしており,いわゆる,Estuary English使用者にとってのアクセント特徴にもなってきている。結局,人々の移動は過去 200 年間絶え間なく継続して行われてきたし,過去半世紀ほどの間の視聴覚メディア媒体の急激な発達と普及,とりわけ,1980 年代以降のサテライト放送やインターネットを媒介とするメディアの発展は,アメリカ英語やイギリス英語を中心とした世界中の英語のバラエティを身近なものし,特に,若年層の豪英語アクセントに少なからず影響を及ぼしてきたことは否定できない。

オーストラリア母音特徴

およそ 200 年前に英国式英語アクセントがオーストラリアに持ち込まれて以来,その元来の特徴自体が基本的な部分において変わっていないのは,驚きに値する。以下に,英国式アクセントと比較して,豪英語アクセントの変化を考察したい(Wells, 1982)。

1)上・前舌化母音特徴(ロンドンアクセントと共通)中舌化 : /→ , → , → /

GOOSE//→ //, MOUSE//→ //, GOAT//→ //, etc.

前舌化 : / → /

PALM//→ //, START//→ //, etc.

2)2 重母音の移動(ロンドンアクセントと共通)/ → , → , → /

FLEECE //→ /-/, FACE//→ //, PRICE //→ //, etc.

3)弱母音のあいまい化(/→ /)(ロンドンとその周辺地域アクセントと共通)OFFICE /→ /, CABBAGE /→ /, PASSIVE /→ /, etc.

  二重母音 /, /の長母音化(//のみがロンドンとその周辺地域アクセントと共通)NEAR, HERE /→ /, HAIR, PAIR /→ /, etc.

5)HappYの //の長音化(ロンドンとその周辺地域アクセントと共通)/→ ()/

例)happy, coffee, valley, various, radiate, etc.

HappY//とは,ストレスが置かれない弱母音 //が語末や語中に来ると,長音化されやすい現象である。長音化はされるが,//までの長音ではないので,中間的な //が当てられている(Wells, 2000)。

音響学的観点からの母音システム音響分析以上の章では IPA記号を使用して,母音や子音の特徴を見てきた。印象主義による音声学では,主に研究者の聴覚に頼って,発話をできるだけ正確に表記・分類してきたが,このような聴覚的印象主義に基づく方法の長所の 1つは,人間の聴覚は多くの複雑な音声データを抽象的では

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立命館言語文化研究20巻 4 号

あるが単純な音声記号に翻訳することができる点にある。しかし短所もある。たとえ音声表記訓練を受けたスピーチトレーナーや音声学者であっても個人差が大きく,この点が印象主義による音声観察の弱点になりえるのである。このような熟練音声学者間の個人差について,Ladefoged(1965)はカーディナル母音2)の生成による個人間の偏差値の大きさを指摘している。以下の表は,豪英語 Generalアクセントを IPA表記したものであるが,各研究者によって若

干異なった記号が使用されている。現在,Macquarie Dictionary の発音表記法の基準となっているMichelle(1946)および, Michelle & Delbridge(1965)の表記は英国式 RPアクセントそのものなので,少なくともこの表記法は,現状に照らし合わせて改善すべきであると Clark(1989)は強く主張している。Clarkの表記法は,標準的な豪英語 Generalアクセント話者の発話を反映したものであるが,元々は,Bernard(1970)の発話データを分析した結果考案したものであった。また,Harrington, et al.(1996)は,最近のスピーチデータに基づきこの Clerkの表記法を更に改変したものを使用している。ANDOSL(1995)では,特殊な IPAフォントがインストールされていないコンピュータのワープロ機能でも表記できる方法をとっている。

一方,音響分析による音声研究は,多くのデータ収集・分析を通じて,統計処理を経たのち初めて音声特徴を概観することができる手法である。豪英語については,Bernard(1970)が初めて収集したスピーチデータの音響分析を行ったが,その詳細なデータは後の音声学者たちによっても再利用され,過去と現在のアクセント推移を観察し比較するために大いに役立っている Cox(1998)。

単母音

下の図は,男性の豪英語話者の発話 head, had, hard のスペクトログラムである。暗い横線は,

The vowel symbols used by Michelle & Delbridge (1965), Wells (1982), Harrington, Cox and Evans (1996), and ANDOSL Corpus (Vonwiller, Rogers, Cleirigh and Lewis, 1995)

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オーストラリア英語アクセント(津熊)

母音の周波数の集中したフォーマントと呼ばれる高エネルギー部分で,各母音はそれぞれ特徴的なフォーマントの組み合わせを有している。母音の音響的記述は高度な物理学的現象の描写であるが,母音の音響分析とは基本的には,これらの母音に特徴的なフォーマントを見つけ出し,その周波数を計測し,2次元のグラフにプロットした後,他の母音や他の被験者が発話した同一の母音と対照・比較する点にある。

一般的には,人間のスピーチを聴き取り,意味を理解する聴覚的手がかりとなる最初(周波数の低い順)の 3つのフォーマントが最も重要であるとされている。これらのフォーマント周波数は,口腔内における母音発話中の舌・唇・顎などの音声器官の位置に関係している。すなわち,第 1フォーマント(F1)は主に舌の高低の位置に関係があり,第 2フォーマント(F2)は主に,舌の前後の位置に関係がある。第 3フォーマント(F3)は,円唇性(唇の丸め度)に関係があると言われている(Cox, 1996; Cox et al, 2001)。実質的には,3つのフォーマントの中でも F1 および F2 が英語の様々なアクセントにおける母音調音点調査研究に使用されている。豪英語の音響分析を通じての母音調査のパイオニアである Bernard(1970)やその後の音響音声学者はおおよそ次のような手順を踏んで分析・観察を行うことになってきた:

1.単母音のスペクトログラム上で,母音のフォーマントの最も安定した部分を見つける。2.F1 および F2 の周波数値を読み取り,表にまとめる。3. グラフに F1・F2 のデータをプロットし,他の種類の母音や他の被験者の同一母音と比較する。

豪英語の 3種類の母音を含む head, had, hardの音響スペクトログラムスペクトログラム上の黒い横帯は各母音の特徴的な高エネルギーの集中箇所フォーマント(低いものから

F1, F2, F3)を表している。各単語の下の数字はそれぞれ F1 と F2 の周波数を示している。

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(Hz) // // //

F1 455 640 740

F2 2080 1890 1350

統計的に意味があるように更に多くの被験者の音声を使って,豪英語のすべての母音の F1・F2 周波数値をグラフ上にプロットすると,11 個の母音楕円形ができる。これら楕円形は各母音の 95%の座標点の範囲を示し,各母音の音声記号の位置は,平均値を示している(Cox, 2004)。各母音の F1 と F2 の座標点の平均値を結ぶことによって,口腔内におけるおおよその母音スペースを示すことができる(Cox, 2004)。

豪英語単母音 head, had, hardの F1・F2周波数値と母音スペースの上に口腔内の上下・前後関係を示した例

(Mannel, 2001 の音声データをもとに作成)

豪英語単母音の F1/F2周波数値プロットとその平均値を結んでできる母音スペース(Mannel and Cox, 2001 のデータをもとに作成)

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オーストラリア英語アクセント(津熊)

2重母音

下記の図は,シドニー豪英語の男性話者の hideの //のスペクトログラムであるが,2重母音の分割点の例を示している。2重母音とは,2つの連続する母音が単一音節を成したもので,普通,第 2母音(ターゲット 2)は,第 1母音(ターゲット 1)に比べてきわめて弱い。2重母音の分割は,ターゲット 1オンセット,ターゲット 1,ターゲット 1オフセット,ターゲット 2オンセット,ターゲット 2,ターゲット 2オフセットの線で分けられる。ターゲット 1・2 のオンセットは,母音の F1 / F2 が比較的水平状態になり始めた時点であり,ターゲットは,フォーマントが最も安定している時点であり,普通,オンセットとオフセットの中間地点になる。

したがって,2重母音のフォルマント周波数の計測は,おおよそ次のような手順を踏んで行うことになる:

1.2重母音のスペクトログラム上で,各母音のフォーマントの推移を見つける。2. 第 1母音から第 2母音へのフォーマントの変わり目を見極め,各母音の最も安定した部分を見つける。

3.F1 および F2 の周波数値を読み取り,表にまとめる。4.グラフに F1・F2 のデータをプロットし,他の種類の母音や他の被験者の同一母音と比較する。

豪英語の男性話者の hideの //のスペクトログラムとその区切り方の例(Mannel, 2001 の音声データをもとに作成)

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(Hz) // //

F1 680 450

F2 1200 1800

豪英語と RPの単母音の比較

上記図中の円・楕円は各母音の 95%の座標点の範囲を示し,各母音内の矢印の起点・終点の位置は,中心点(平均値)を示している。この母音図は豪英語と RPの両アクセント発話者間の固有周波数は考慮されていないが,この図から豪英語と英国式 RP英語間の全体的な違いを通じての比較はできる。Mannel and Cox(2001)の上記の母音スペース上での比較からも分かるように,豪英語アクセントと RPアクセントの母音における主な相違点は,全体的に豪英語の母音は,口腔内において,RPよりも前方か上方のどちらか,あるいはその両方の方向に調音点(舌や顎の位置)が移動していることである。すなわち,母音スペースを時計の文字盤のごとく 1~ 12 に区切ると,RPの各母音を基点とすると,豪英語の母音はその大部分が時計の 9時方向

豪英語 2重母音 hideの //の第 1母音(T1)から第 2母音(T2)に至るまでの軌道図(Mannel, 2001 の音声データをもとに作成)

豪英語(黒丸で表示)と英国式 RP英語(白丸で表示)の母音とカーディナル母音との関係(Mannel and Cox, 2001 のデータをもとに作成)

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オーストラリア英語アクセント(津熊)

から 12 時方向までの間に向かって移動していることが分かる。具体的には,RP母音と比べて,豪英語母音の / , , , /は,すべて調音点が上方向に移動

しているし,/, , , , /は,前方向に移動していると同時に上方向にも移動している。豪英語 //は,[]というように一音から他音へとグライド(移行)している特徴がある。更に,HARDの母音 //は RPでは後部母音であるが,豪英語では前方(時計の 9時の方向)に移動している反面,HUDの母音 //が時計の3~4時方向に移動して両者はほぼ重なっているため,豪英語 //の //との区別は,母音の質的相違というよりも,継続時間の長短が決め手となる。さらに,HADの母音 //は,例外的に下方向(時計の 5時の方向)に移動しているので,//と //の調音点は,RPに比べてより互いに接近していることが分かる。また,RPにおいて後部母音であるWHO’ Dの母音 //および HOODの母音 //は,互いに接近しているが,豪英語では //は上方向に移動しているのと同時に若干後方(1時の方向)にも動いているので,ほぼ RPの //に重なっているが,豪英語では //の前方向(9時の方向)への大きな移動のために,結果的に両者の距離は大きく離れることになる。従って,豪英語の母音スペース全体から見ると,//と //以外の母音はすべて RPの各母音を基点として,上方向または前方向に移動しているため,half-open付近のスペースが大きく空いた反面,closeやhalf-close付近のスペースが窮屈になっていることが分かる。最後に,Cox(1998)は,豪英語の特徴として,本来 2重母音であった //が長母音化して //になる傾向があるため,豪英語 //の //との区別同様,HEADの母音 //と HAIREDの母音 //の区別も母音の継続時間の長短であると仮定し,聴き取り実験でその仮説を立証している。豪英語では,一般的に,母音の長短継続時間が重要になってくる。これは,上記のような2重母音の長母音化現象だけではなく,RPに比べて豪英語母音の全体的な前方向と上方向への偏りのため F1 / F2 周波数の座標で重なり合う母音ができるためである。典型的な例が,/a/

(hard)と /ʌ/ (hud)のペアであるが,Cox (1996)の母音の音長判定のための聴き取りテストによると,母音の長さ情報を伴った場合と伴わない場合において正解率に最も差があったのは,やはり,2重母音の //,// と短母音の /ʌ/であった。

推移した上方向 2重母音

Mitchell & Delbridge (1965a)は,3種類の社会方言を分類するのに 6つの母音(2つの長母音と 4つの 2重母音)が決め手となると主張し,後に Bernard(1989a)による調査によりこれら決め手になる母音の効果が確認されたが,中でも 2重母音が大きなアクセント間の相違を示していたことが報告されている。Cox(1998)が Bernard(1970; 1989a; 1989b)のデータを再調査したところ,Cultivated(Cアクセント)と General(Gアクセント)に比較して,Broad(Bアクセント)の顕著な特徴は,1)//の大きな渡り音化,2)//発話時,第1母音の舌の後方向移動 (/→ /),3)//発話時,第1母音の舌の後方向および上方向移動(/→ /),4)//発話時,第1母音の舌の前方向および上方向への移動 (/→ /),5)//発話時,舌の第1母音の下方向および第 2母音の前方向移動(中舌化)(/→ /),6)2重母音の長母音化(/→ /および /→ /)であった。

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Mitchellによる豪英語 3タイプ(C/G/B)の典型的な母音変化

RP Keywords Cultivated General BroadHarrington,

Cox & Evans

//FLEECE

(HEED)[] [] []

//GOOSE

(WHO’ D)[] [, ] []

//FACE

(HADE)[] [] [, ]

//PRICE

(HIDE)[] [] []

//GOAT

(HODE)[] [] [, ]

//MOUTH

(HOWD)[] [] [, ]

(Wells 1982 のデータをもとに作成)カッコ内のキーワードは,Cox(1998)によるものそれ以外は,Wells(1982)

上記の表の中で使われている大文字のキーワードは,他の母音と混乱を起こさないための工夫で,どのようなアクセントでこれらのキーワードを発音したとしても比較的安定していると考えられる単語が選ばれている。豪英語 Cアクセントは,英国式 RPとほぼ同様の特徴を持ち,他の 2タイプ(G・Bアクセント)

とは推移していない 2重母音を有するという点で,明確に区別されている。したがって,G・B

アクセントについて言えば,ロンドンのコックニーを代表とするロンドン地域方言が有するような 2重母音の推移が反映されている。さらに,Bアクセントは,2重母音の第 1母音の継続時間引き延ばしを伴う傾向があるという点においても,Gアクセントとさらに区別される(Cox,

1996)。

母音スペースにおける豪英語(実線で表示)と英国式 RP英語(破線で表示)との非中心方向(上方向)2重母音の位置とその軌道図

(Cox, 1996 のデータをもとに作成)

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オーストラリア英語アクセント(津熊)

豪英語と RPの 2重母音軌道比較

豪英語(General・Broad)アクセントの 2重母音の軌道を RPと比較してみると,差異が最も顕著な二重母音については次のような特徴が観察できる。1)2重母音 // (loud/ how)の特徴は,豪英語の第 1母音の場合 front/openの位置から時計の2時の /, /方向に向かって back/half-openの位置まで移動するが,RPの場合は,back/open,

half-openの中間点からほぼ真上である時計の 12 時の //方向に向かって大きく half-closeまで移動する。これが,一般の外国人の耳には,nowが鼻音の強いネコの鳴き声のように聞こえる由縁である。

2)2重母音 //(paid)の特徴は,豪英語の第 1母音の開始点が front/ openの低い位置から一気に時計の 11 時の方向の closeと half-closeの中間点まで大きく移動するが,RPの場合,half-

closeから時計の 1時方向に短く推移するだけである。この豪英語 2重母音の第 1母音と RPとの開始点の大きなずれが聴覚的にも両者の間の差の印象を際立たせているようである。これが,bayが buyのように聞こえる理由である。

3)2重母音 //(hide)の特徴は,両アクセントの第 2母音の終点はほぼ同じであるが,豪英語の第 1母音の開始点が back/ open, half-open (時計の 11 時の方向)であるのに対して,RPはfront/ open, half-open (時計の 10 時の方向)である。これが,われわれ日本人には,buyが boy

のように聞こえる理由である。

4)2重母音 //(toad/ tow)の特徴は,両アクセントの第 1母音の開始点はmiddle/ half-open

とほぼ同地点であるが,豪英語の第2母音の終点が back/ open, half-open (時計の 11 時の方向)であるのに対して,RPは front/ open, half-open (時計の1時の方向)である。これが,noがnowのように聞こえる由縁である。

5)2重母音 // (Boyd)の特徴は,豪英語アクセントの第 1母音の開始点は back/ half-closeから front/ central(時計の 9時半の方向)方向へと伸びているが,RP //(toy)の第1母音の始点が half-openから front/ central(時計の 10 時半の方向)方向へと伸びている。この 2重母音の特徴も,オーストラリア人が一般的に顎をあまり動かさないで開口度が小さくあまり変化がない発音をするような印象に貢献しているのかもしれない。

弱母音 []→ []の相補分布

音素 //は,豪英語では弱音節のみに現れ,//と //は /, , /などのような軟口蓋子音の直前に来る場合に限って区別される傾向があるが,その他の環境下では区別されない。また,スコットランド英語やニュージーランド英語のように,一部の豪英語話者にとって,//と //

は全く相補分布する関係にある。したがって,そのような場合には,//に代わって //だけが

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立命館言語文化研究20巻 4 号

現れることになるため,以下のような語は豪英語では同音異義語ということになる (Wells, 1982)。

RP AusE

offices // – officers //→ //

founded //– foundered //→ //

tended // – tendered //→ //

さらに,綴り字に eや iが含まれる接尾辞(–age, -ate, -ess, -est, -et, -id, -ist, -ive, -less, -left, -let,

-ness,等)の発音も,RP(さらに豪英語 Cアクセント)では一般的には //であるが,豪英語では //で発音される (Wells, 1982)。

RP/ Cultivated AusE AusE

cabbage // //

village // //

massive // //

2重母音の長母音化

豪英語では,アクセントがブロードになるほど中央方向2重母音(NEAR //,SQUARE

//,POOR // )は,特に,rの直前で長母音として実現されやすい。したがって,2重母音はそれぞれ,NEAR [→ ],SQUARE [→ ],POOR [→ ]というふうに長母音化することになるが,POOR [→ ]は,英国式 RPアクセントにおいても既に長母音化している (Wells, 2005)。

RP/ Cultivated AusE AusE

year //→ [](英国式英語では,//もある)scared //→ []

here and there / /→ [ ]

fair-haired //→ [](-haired []と head []は母音の長短が弁別特徴)shared //→ [] (shared []と shed []は母音の長短が弁別特徴)poor //→ (Cultivated) []; (Broad) []

豪英語アクセントその他の特徴

子音特徴1)非 r音化

/r/→ Ø / _ {C, #}(/r/は,子音や語の境界直前では消える。但し,far away //

や a pair of //のように,次に母音が続く場合は,/r/音がリンキングとして復活する)

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オーストラリア英語アクセント(津熊)

AusE RP GenAme

far // // //

far away // // / ; /

idea of // // //

(Trudgill, 2005)

2)h脱落/h/→ Ø (主に語頭の h音が系統的に脱落しやすい)hammer /→ /, healthy heart / → /

3)G脱落/-→ - or -/(-ingなどの //が //や //になりやすい)running /→ /, morning /→ /

4)//有声化→ , , / V _ V(母音間に来る //が有声化しやすい)water /→ /, writer /→ /, city/→ /, etc.

 この場合,豪英語を含む英国式英語アクセント話者には //音はせいぜい有声化されて単に//音になるぐらいであるが,米国式英語アクセントの典型的な特徴の1つである母音間の //

音有声化現象は,弾音や巻舌化された弾音にもなる。

5)非 //声門閉鎖化t→ / _C, _#C, _#V, _||(英国式英語アクセント,特に Cockneyや Estuary

英語において,get out, right, water, littleなどの //が,声門閉鎖化される傾向がある) この場合の環境は,子音,語(語幹)境界,母音,文末などの直前に来る //がこの変化の対象になる。ただし,母音直前の //の声門閉鎖化は英国式アクセントでは,まだ Cockneyだけの特徴であるので,目下の時点では Estuary英語や豪英語に影響を与えるまでには至っていないようである (Wells, 2005)。

6)//の非母音化(= [])→ / __ {C, ||}(英国式英語アクセント,特に Cockneyや Estuary英語において,milk, shelf, middleなどの語末の //が,短母音 //や //や半母音 //のような半母音に変化しやすい傾向がある)

7)音節子音の形成 豪英語の弱母音が schwa//になりやすいという特徴があるために音節子音(Syllabic

Consonant)を形成することにつながる。

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//→ //, //→ //, //→ /// [stressed V], [plosive C] _

middle /→ /,

sudden /→ /,

happen /→ → /(/, , /がストレスの置かれる破裂音で終わる音節の直後に来ると,//が脱落しやすく /, , /がそれぞれ子音だけで音節に成り得る。調音的には,//の場合,直前の破裂音の息が舌の側面から,//や //の場合,鼻腔から開放される)

 従って,普通,RPでは //で発音される LatinやMartinの最後の音節は,音節子音化の音韻的条件を満たさないが,豪英語ではすべて,//で発音されるため //になりやすい(Wells,

2005)。

RP AusE

Latin //→ *SCF Latin // -SCF→ //Martin //→ *SCF Martin // -SCF→ //(*SCF= Syllabic Consonant Formation音節子音形成は起こらない)

 また,豪英語 Broadアクセントでは,語末の -ingが //ではなく,/→ /として実現されやすいため,ここでも音節子音化現象が起こる可能性がでてくる(Mitchell & Delbridge

1965a)。

RP/ Cultivated AusE AusE

riding // //→ //

rabbiting // //→ //

以上の英国式アクセントの子音変化に関する傾向を RP,Estuary,Cockney,AusE(General

& Broad)の間で比較してみると,次の表のようにまとめられる。さらに,最近の報告 Horvath

(1985),Cox(2005)では,以前は Cockney英語だけに見られたアクセント特徴が,現在では豪英語にも見られるようになってきている。即ち,特に,最近の若年層における豪英語アクセントは,母音間の //の有声化という特徴以外は,Cockneyや Estuary Englishアクセントにますます近づいてきていると言える。

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オーストラリア英語アクセント(津熊)

プロソディ特徴

1)陳述文の上昇イントネーション使用プロソディの分野は,一般的には子音 ・母音以外の特徴であるイントネーション,リズム,ストレス,テンポ,ポーズ,鼻音化現象などを含むが,豪英語において顕著な特徴の一つに,句末・文末ピッチ上昇(イントネーション型では High Head + Rising Nucleusで表記される)現象がある。Mitchell & Delbridge(1965a)は,この特徴をインタビュー・チューン(The

Interview Tune)と呼び,インタビュー形式の質問に答えているような状況下で多く使われるとし, Collins(1989)は,豪式質問イントネーション(Australian Question Intonation)と呼称した。発話中におけるこのような上昇ピッチの繰り返しは,一般的に中流階級よりも労働者階級に,大人よりも若者層に,20 歳以上の年齢層よりも 20 歳以下の年齢層に(この場合,6倍も多く),男性よりも女性に多く用いられるようである。豪式質問イントネーションの主な機能は聞き手に対しての理解度確認であるという点から考えると,間投詞的疑問文として頻繁に用いられる,つまり, ’You know? You see?’ などと同様の効果を持つものと考えられる。次のピッチ曲線は,メルボルン生まれ・育ちの女性発話者,発話文は,I was born in

Melbourne,/ which is in the state of Victoria,/ in the southern part of Australia,/ not as

southern as Tasmania./ I just have to correct myself there./で,統語境界である斜線の部分でピッチの急激な上昇が繰り返されていることが分かる。

子音特徴に関するアクセント間の比較(+ yes, - no, ±maybe)

豪英語の百分率データは Horvath(1985)の調査によるもので,シドニー出身若者層に見られる特徴に基づいている。

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立命館言語文化研究20巻 4 号

2)鼻音化もう 1 つの特徴は,母音の鼻音化である。早くも 1884 年イギリスの旅行家Mrs. Charles

Meredithによって,当時のオーストラリア生まれの話者がアメリカ英語のような「鼻声」(鼻音化現象)で話す際の不快感について記述した日記(Mrs. Charles Meredith’s Notes and Sketches

of New South Wales)が残っている(Mitchell & Delbridge 1965a)。このことを理解していたMitchell & Delbridgeは,彼らの調査の項目に,鼻音化度を加えている。   分析の結果,7000 人を超える中高生被験者において,全体の 34%の Broadアクセント話者の内,14%が顕著な鼻音化を起こしているとされ,55%の Generalアクセント話者の内,約 5%が顕著な鼻音化を起こしているとされ,11%の Cultivatedアクセント話者の内,たった 1%が顕著な鼻音化を起こしていると観察された。

ここで言う顕著な鼻音化というのは,コンテクストによる鼻音化とそれ以外の広範囲に及ぶ鼻音化を意味し,特に //に伴う鼻音化現象が指摘されている(Mckiewicz-Krassowska 1976)。Wells(1982)は,さらに,このアメリカ式の TRAP-RAISING(// → //)特徴が豪英語に影響を与えていることを示唆している。

豪英語による陳述文の上昇イントネーションの典型的な例(International Dialects of English Archive 2006 からの音声データをもとに作成)

鼻音化の調査結果(Michelle and Delbride, 1965)

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オーストラリア英語アクセント(津熊)

結論

1.オーストラリアは19世紀の初め頃から主に英国式英語話者によって入植し始められ,したがって,豪英語のアクセント特徴は,全体的に英国式英語アクセントと似ている。2.豪英語アクセントの基本的特徴としては,RPの調音点に比べて上方向・前方向に移動した長母音,シフトした 2重母音,母音直前以外の r音脱落,BATH母音の長母音化,内方向 2重母音の長母音化,母音間の t音有声化,陳述分文末イントネーションなどがある。3.豪英語アクセントは地理的には比較的単一であるが,都市部と田舎,社会的,スタイル的要素による区別は存在するようである。4.豪英語アクセントは,伝統的に 3種類の社会方言(Sociolects),即ち,Cultivated,General,Broadに分類され,その主な識別材料は長母音と 2重母音である。5.過去 40 年間これら 3種類の社会方言を比較してみると,両極端の Cultivated・Broadアクセントより,中間の社会方言である Generalアクセントを好む豪英語話者が増えている。また,シドニー地域の若者層については,最近では Generalアクセントが豪英語の標準アクセントになりつつある。6.近年,豪英語のアクセント変化は音響学的に研究されてきた。その結果,音響学的なフォルマント周波数という数値によってアクセント変化が客観的に捉えられるようになってきた。また,過去のデータと比較することによって,過去と現在のアクセント変化を分析・観察できるようになった。7.特に,EFL/ ESLなどの教育現場においては,まだ標準(権威のある)アクセントはCultivatedアクセントとして捉えられている。

注1)ジョン・ハワード(John Howard)は,1939 年シドニー郊外に生まれ,地元の高校を出た後,シドニー大学(法律)を卒業した。1957 年に自由党に入党し,1985 年に自由党党首となった。出身家庭はメソジストを信仰するごく普通の家庭で,言語形成期(0~ 10 歳)にはガソリンスタンドと機械工場をシドニー郊外で経営していた一家の男ばかり 4人兄弟の末子として過ごした(Nichigo Press, 2007)。2)Daniel Jonesによって 1956 に作成されたもので,いずれも口腔内における硬・軟口蓋と舌との上下前後位置関係により,母音四角形と呼ばれる人工的なスペースを築き,第 1次基本母音 8種類,第 2次基本母音 8種類,合計 16 種類

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本小論は 2005 年 9 月~ 2006 年 9 月にかけて,オーストラリアメルボルンのオーストラリアカトリック大学の高等研究所(Australian Catholic University, the ACU Institute for the Advancement of Research, St

Patrick’s Campus)に客員研究員(Research Fellow)として招待された機会に執筆したものである。ACU

でのセミナーやメルボルン大学の応用言語学セミナーを通じて多くの言語学者と学問的交流が可能になっ

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た。このような貴重な研究の機会を与えていただいて,立命館大学,オーストラリアカトリック大学,文部科学省,その他の関係諸氏に心よりの感謝を述べたい。I am grateful to the many friends and teachers who have educated me over the past twelve months about

Australian phonetics. In particular I would mention Peter Trudgill, Caroline Odell, Martin Checklin, Margaret

Brennan.