マーシャルにおける都市アメニティ 保全の理論と政...

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マーシャルにおける都市アメニティ 保 全 の 理 論 と政 策 1.は 環 境 経 済 学 の一 般 的 な テキ ス トにお いて,ア ル フ レ ッ ド ・マ ー シ ャル は,若 干 の 例 外 を除 いて,必 ず しも環 境 税 の 先駆 的 な 唱道 者 と しては みな され て い な い(1)。む しろ環境破壊 を経済学者が 「外 部不(負)経 済 」 の 発 生 と して把 握 す る場合 に用いる 「外部性」概念 を,限 界 収益 の逓 増 お よ び 独 占の 形 成 と関 連づけて議論 した点が,マ ー シャルの業 績 と しては 高 く評 価 され てい る(2)。 本稿ではこうしたマーシャルを,都 市 労 働者 が 被 る住環 境 の 劣 悪 化 へ の政 策的対応 として,単 に環境税の先駆的な形態としての 「空 気浄 化税(fresh airrate)」 を 導 入 す べ き で あ る と提 言 した点 に お い て だ け で評 価 す る もの で はな い。 む しろ,住 環 境 問題 へ の直 接 規 制 の導 入 を具 体 的 に提 言 した点 につ いて も積 極 的 に評 価 す る。 そ して ジ ョ ン ・ス チ ュア ー ト ・ ミル が行 った,主 と して 田園 地 域 を対 象 と し,近 隣住 民 の生 産 活動 と生 活 の 基盤 で あ る入 会 地 (commons,共 有地 とも訳す)を 保存するための理論の構築と実践的な関与 とを,マ ー シ ャル が 積 極 的 に継 承 した側 面 に光 を 当 て る。 ま た マ ー シ ャル に 先 行 す る,効 用価値学説の唱道者であるスタンリー ・ジェヴォンズと功利主 義の倫理学と経済学との境界問題の探求者であるヘンリー ・シジウィック, この両者の理論の継承者あるいは非継承者 としての側面にも,環 境経済学の (685)105

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Page 1: マーシャルにおける都市アメニティ 保全の理論と政 …...マーシャルにおける都市アメニティ保全の理論と政策 問題,と りわけ彼らの劣悪な住環境の問題であった。マーシャルの生まれに

マー シ ャル にお ける都市 アメニ テ ィ

保全 の理論 と政策

大 森 正 之

1.は じ め に

環境経済学の一般的なテキス トにおいて,ア ルフレッド・マーシャルは,若

干の例外を除いて,必 ず しも環境税の先駆的な唱道者としてはみなされていな

い(1)。むしろ環境破壊を経済学者が 「外部不(負)経 済」の発生として把握

する場合に用いる 「外部性」概念を,限 界収益の逓増および独 占の形成 と関

連づけて議論 した点が,マ ーシャルの業績 としては高く評価されている(2)。

本稿ではこうしたマーシャルを,都 市労働者が被る住環境の劣悪化への政

策的対応 として,単 に環境税の先駆的な形態としての 「空気浄化税(fresh

airrate)」 を導入すべきであると提言 した点においてだけで評価するもので

はない。むしろ,住 環境問題への直接規制の導入を具体的に提言 した点につ

いて も積極的に評価する。そしてジョン・スチュアー ト・ミルが行 った,主

として田園地域を対象 とし,近 隣住民の生産活動 と生活の基盤である入会地

(commons,共 有地 とも訳す)を 保存するための理論の構築と実践的な関与

とを,マ ーシャルが積極的に継承 した側面に光を当てる。またマーシャルに

先行する,効 用価値学説の唱道者であるスタンリー ・ジェヴォンズと功利主

義の倫理学と経済学との境界問題の探求者であるヘンリー ・シジウィック,

この両者の理論の継承者あるいは非継承者 としての側面にも,環 境経済学の

(685)105

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視点から光を当てる。 この点で,以 下では極めて一面的なマーシャル評価が

展開される。 しか しながら,こ うした一面的な評価さえ十分になされていな

いのが,環 境経済学の現状ではなかろうか。

以下,ま ず第2章 では,マ ーシャルにおいて都市の住環境問題への関心が

形成され深化する過程,お よびその時代背景について論及する。次に第3章

では,彼 の住環境保全論の理論的な枠組みの独自性とその限界を,先 行する

経済学者および後継者との比較において特徴づける。さらに第4章 では,こ

うした理論的な枠組みに即して導かれた都市アメニティ保全政策の提言内容

を検討する。そして最後に,都 市アメニティの保全問題に焦点を当てたマー

シャルの理論 と政策 とが示唆する,現 代の環境経済学および環境政策にとっ

ての積極的な含意について言及する。

なお,第4章 第2節 で詳述するように,マ ーシャル自身 は,1907年 の論

文 「経済騎士道の社会的可能性」(以 下 「騎士道論文」 とする)に おいて,

はじめて,「 アメニティ」 という語を用い.て都市の住環境の保全を説 いてい

る。 これを一つの到達点とみなして,本 稿では,そ れ以前の段階についての

叙述では,同 一内容を示す用語 として 「住環境」 という表現を用いる。 しか

しなが ら,本 稿の表題 と第4章 では,こ の到達点を強調する意味で,象 徴的

に 「アメニティ」 という語を用いている。

2.マ ー シャルにおける住環境問題への関心 とその背景

2-1住 環境問題への関心の形成と深化

19世 紀半ばにロンドン市内(シ ャルロッテ ・ロウ)で 生を うけた,後 の

経済学者マーシャル(1842~1924)に とって,彼 の生まれと育ちは,当 時の

社会問題群への独自の関心を喚起 し,彼 の人生上の選択に極めて大きな影響

を及ぼ したと考えられる。そしてその関心 とは,主 として都市労働者の貧困

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マー シャルにおけ る都市 ア メニテ ィ保全の理論 と政策

問題,と りわ け 彼 らの 劣 悪 な 住 環 境 の 問 題 で あ った 。 マ ー シ ャル の 生 まれ に

つ い て は,ジ ョン ・メイ ナ ー ド ・ケ イ ンズ の 「マ ー シ ャル 伝 」 で,聖 職 者 の

家 系 で あ るこ とが 過度 に強 調 され(KeyensJ.M.,1981-a,pp.106-107),そ れ

へ の 批 判 が ロナ ル ド ・コ ー ス に よ って な され て い る(Coase,1990-a,pp9-

10)。 と は い え マ ー シ ャル 自身 が,父 親 の影 響 で,幼 少 か ら聖 職 に つ く こ と

を 強 く意 識 させ られ た こ と は,当 時 の労 働 者 の悲 惨 な境 遇 へ の宗 教 的 な慈 悲

心 あ る い は 同情 心 を 彼 が 育 ん だ一 要 因 で あ っ た と考 え られ る。 ま た,近 年 の

西 岡幹 雄 の 詳 細 な研 究(西 岡,1997,pp。7-9)に よれ ば,イ ン グ ラ ン ド銀 行

の 一 般 職 員 であ った マ ー シ ャル の父 親 は,マ ー シ ャル誕 生 の数 年 後 に,ロ ン

ドン郊 外 の 田園 地 域 に(1845年 に シデ ナ ム に,そ して1850年 に ク ラバ ムに)

一 家 を転 居 させ た。 そ して そ の後,マ ー シ ャル の か つ て の生 誕 地 に は 労 働者

が 多 く移 り住 み,徐 々 に ス ラ ム化 す るに い た る。 そ の荒 廃 の進 展 を見 な が ら

マ ー シ ャル は育 ち,労 働 者 の住 宅 問題 へ の 関心 が形 成 され た と推 察 され る。

マ ー シ ャル は1865年 に,ケ ンブ リ ッ ジ大 学 を卒 業 す る と 同 時 に,同 大 学

の セ ン ト ・ジ ョー ンズ ・カ レ ッジの フ ェ ロー とな り,1868年 に 同 カ レ ッ ジ

で道 徳 科 学 を教 え始 め た。 そ して1870年 代 の初 め 頃 に は,経 済 学 の 研 究 を

生 涯 の仕 事 にす る こ とを 決意 した と され て い る。 そ れ は 例 え ば,未 刊 の 「リ

カ ー ド論 」 と 「クー ル ノー論 」 が1870年 に,同 じ く未 刊 の 「ジ ェ ヴ ォ ンズ

評 」 が1872年 に執 筆 され て い る こ とか ら も了解 で き る(ibid.,p.23,p.39)。

そ して,労 働者 の貧 困 問 題 へ の 公 の 場 所 お よ び文 書 で の 言 及 は,翌1873年

に ケ ンブ リッ ジ大学 の 「改 良 ク ラ ブ」 で お こな わ れ た 講 演 とそ の 記 録,「 労

働 者 階 級 の 将来 」 で 最 初 にな され て い る。 そ こで は,後 に,マ ー シ ャル が労

働 者 の 住 環 境 に 言 及 す る際 に必 ず 用 い る キ ー ワ ー ド,す な わ ち 「新 鮮 な空 気

(freshair)」 と言 う語 が,お そ ら く最 初 に使 用 さ れ て い る(Marshall,1873,

p.16)。 と は いえ この 講 演 記 録 に お け る労 働 者 の住 環 境 へ の 関 心 は,ま だ 十

分 に 深 め られ て は いな い。

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次 に この キ ー ワ ー ドが 用 い られ るの は,1884年 に 雑 誌 『同 時 代 評 論 』 に

掲 載 さ れ た論 文 「ロ ン ドンの貧 困者 の住 居 を い か に す べ きか」 に お い て で あ

る。 表 題 か ら うか が え る よ う に,労 働 者 の貧 困 問題 へ の マ ー シ ャル の関心 は,

そ の焦 点 が よ り明 確 にな り,よ り深 め られ る。 そ して1890年 の 『経 済 学 原

理 』(以 下 『原 理』 と略 す)初 版 にお い て,こ の 「新 鮮 な空 気 」 と い う キ ー

ワ ー ドは,当 時 の イ ギ リスの 経 済 状 況 につ い て の マ ー シ ャル の認 識 と 関連 づ

年 表1マ ーシ ャル 「経済学原理』(初 版)に お ける都市住環境保全論 に

いた るまでの理論的基礎の形成過程

著 者,著 書,論 文,そ の他都市の住環境保全に関連する

言及および事項

1870 J.S.ミ ルが土 地保有 改革 連 盟議 長に就任

コ モ ンズ お よ び オ ー プ ン ・ス ペ ー ス

の保 存 を主 張

1871 ジェヴォ ンズ 「経済学の理論』初版

・ 一 」 一 ・ 一...一 丁..「..一

効用価値学説の提唱/労 働の限界負効用について言及

1879 マーシャル夫妻 「産業経済学』初版

.匿 冒..

政治経済学から経済学へ/交 換価値物を物的富とみなす

..一.匿 一..

マー シャル 「国富の一 要素 としての

水」飲料,動 力源,交 通路 と しての水 を

国富 とみなす

ノノジェヴォンズ 「経済学 の理 論』 第2

生活上の 「負の効用物 恢 や汚水)」

に言及

1881マー シャル夫妻 「産業経 済学』 第2

版非交換価値物を富に含あるか否かの議論の重要性を否定

1883 シジウィック 『経済学原理』初 版 個人の効用 と社会の効用 との乖離 に

言 及

1884

.一.一.一..

マー シャル 「ロン ドンの貧 困者 の住

居 をいかにすべ きか」新鮮な空気と余暇空間の必要性を指摘

1887 マ ー シ ャル 「ロ ン ドンは健 康 か」 新 鮮な空 気,陽 光,健 康な遊技場の

必 要性 を指摘

1889マ ー シ ャル か らJ.N.ケ イ ンズ へ の

手 紙

気候 な どの譲 渡不可能な財を比喩的

に 「所得」 と見なす

1890 マーシ ャル 『経済学原理』初版

経済財と自由財を含む財概念の明示/都 市での住宅建設における公私の利害対立および煙害対策技術について言及

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マーシャルにおける都市アメニティ保全の理論と政策

けられることで,彼 の抱 く関心の時代的な妥当性を裏書き している。以上の

3ケ 所での 「新鮮な空気」というキーワー ドの用例について若干補足 しつつ,

なぜマーシャルが,多 様な労働者問題あるいは貧困問題の中で,と りわけ住

環境に着 目したのかについて,次 節で言及 したい。

なお,本 章および次章における叙述の理解を促すために 「年表1:マ ーシャ

ル 『経済学原理』(初 版)に おける都市住環境保全論にいたるまでの理論的

基礎の形成過程」を前頁にあげている。適宜,参 照されたい。

2-2な ぜ労働者の住環境が問題なのか

マ ー シ ャル は 講 演 録 「労 働 者 階 級 の 将 来 」 に お い て,過 酷 な 肉体 労 働 が人

間(親 だ けで な く子 供 も含 む 一 筆 者 注)の 成 長 を妨 げ る こ とへ の 防護 策 と し

て,余 暇 の過 ご し方 の 改 善 に言 及 す る。 そ の 際 に彼 は,自 らが徒 歩 旅 行 時 に

体 験 した 「新 鮮 な空 気 」 と 「景 色 の珍 し さ(noveltyofscene)」 に よ る気

分 転 換 を事 例 と して あ げ る(Marshall,1873,p.16)。 ま た こ の講 演 録 で は,

余 暇 時 間 で の労 働 者 の 自己改 善 と 自己教 育 に よ って,あ る種 の 「協 同社 会」

が実 現 さ れ るべ き で あ る とす る マ ー シ ャル の将 来 展望 が,願 望 を こめ て 表 明

され て い る(ibid.,p.24)。 そ して これ は,明 らか に,所 得 の 公 平 な 分 配 と余

暇 の拡 充 とが実 現 され う る,自 発 的 に選 択 され た 「定 常 状 態 」(資 本 蓄 積 と

人 口増 加 の停 止 を前 提 とす る そ れ)に 関 す る ミル の 『経 済 学 原 理 』(以 下

『原 理 』 と略 す)で の展 望 を ふ ま え た もの で あ った(Mill,1965,p.756)。 し

か し この 講 演 録 に は,ミ ル の 「定 常 状 態 」 論 が 前 提 して い る森 林 や 荒 れ 地 や

水域,さ らに は野 生 生 物 と い っ た天 恵 物(naturalriches)の 保 全 につ い て

の言 及 は ほ とん どな い。 この 点 は,本 稿 が 課 題 と す る マ ー シ ャル に お け る都

市 労 働 者 の住 環 境 の 保 全 論 と,筆 者 が 先 行 論 文(大 森,2002)で 課 題 と した

ミル に お け る 田園 地 域 での 入 会 地 の保 存 論 とが,そ の焦 点 の 当 て方 を全 く異

に して い る こ とに よ ろ う。

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次 に 論 文 「ロ ン ドンの貧 困 者 の 住 居 を い か にす べ きか 」 で,マ ー シ ャル は

冒頭,「 ロ ン ドンの貧 困者 の住 居 が い か に改 善 され よ う と も,ロ ン ドン の 全

域 が そ の人 口に 対 して 新 鮮 な空 気 と健 全 な レ ク リエ ー シ ョンの た め に必 要 な

フ リー ・ス ペ ー ス を 与 え るの に十 分 で な い こ とは,依 然 と して か わ る こ とは

な い」(Marshall,1884,p.205)と 述 べ,都 市 の 労 働 者 の 一 部 を 田 舎 へ 転 居

させ る こ と を 勧告 す る。 ここ に は,明 らか に先 の講 演 録 か らほ ぼ10年 を経

て,労 働 者 の住 環 境 問題 へ の認 識 が 一 層 深 ま っ て い る こ と を見 て とれ る。 そ

して 煤 煙(smoke)の 過 剰化 と陽光 あ ふ れ る緑 地 の 稀 少 化 とが,都 市 の 労

働者 とそ の 子 供 た ち の体 力 を 低 下 させ る状 況(労 働 力 の再 生 産 の 困 難)を 指

摘 して,早 急 な改 善 を要 請 す る(ibid.,p.207)。 ま た,1887年4月13日 付

の 『ポ ー ル ・モー ル ・ガゼ ッ ト』 紙 が 掲 載 した マ ー シ ャル の 「ロ ン ドン は健

康 か」 と題 した論 説 で も,清 浄 な空 気,陽 光,健 康 な遊 技 の不 足 に よって人 々

の 活力 が 奪 わ れ る こ と が危 惧 され て い る(Marshall,1887 ,p.367)。 は た し

て 当時 の イ ギ リス で は,い か な る経 済 状 況 の推移 にお いて,都 市 労 働者 に と っ

て住 環 境 こそ が,極 め て重 要 な 問題 とな って い た の で あ ろ うか。

「原理 』 初 版 第4編 「生 産 また は 供 給 」 の 第13章 「結 論 」 の部 分 で,マ ー

シ ャル は お お よ そ次 の よ うに述 べ て い る。 す なわ ち 当時 の イ ギ リス で は,穀

物 法 の撤 廃(1846年)以 来,海 上 輸 送 技 術 お よ び 外 国 で の 陸 上 輸 送 技 術 の

発展 と相 ま っ て,豊 富 な外 国(植 民 地 を 含 む)産 の 原 材 料 の 輸入(移 入)が,

急速 に 拡 大 す る こ と と な った。 そ して一 方 で は,労 働 者 人 口の 増 加 が 生 じつ

つ も,そ れ を 相 殺 して 余 りあ る衣 食 の 分 野 で の 欲 望 の 充 足 が 可 能 とな った

(Marshall,1890,p.380)。 つ ま り ミル が 危惧 した 「定 常 状 態 」 の 自然 必 然 的

な到 来 は,当 面,回 避 され た の で あ る。 しか し他 方 で は,「 陽 光 や 新 鮮 な空

気 」 な どの 労 働者 の 住 宅 を と りま く 自然 環 境 は劣 悪 化 し,そ れ らへ の欲 望 が

充 足 され る こ とは な か った(ibid.)。 衣 料 と食 料 が 量 的 お よ び質 的 に足 りて,

住 居 の量 的 お よ び 質 的 な 側面 の重 要 性 を労 働 者,経 済 学 者,そ して社 会 改 良

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マー シャルにおける都市 アメニテ ィ保 全の理 論 と政策

家 は知 る こと とな った の で あ る。 こ う した労 働 者 の住 環境 問 題 につ いて の 関

心 の 深 ま りは,同 時 に,こ の 問題 に即 した独 自の 経 済 学 の理 論 的枠 組 み にお

いて,当 該 問 題 を適 切 に位 置 づ け,理 解 し,そ こか ら処方 箋 を 導 く,と い う

課 題 を マ ー シ ャル に課 す こ とに な った。 主 と して ミル,ジ ェ ヴ ォ ンズ,シ ジ

ウ ィ ック と い った先 行 者(ド イ ツ の経 済 学 者 も含 む)の 理 論 の 検討,そ して

それ らか らの 継 承 と断 絶 を経 て,次 章 で示 す よ うに マ ー シ ャル に よ って 独 自

の 理 論 的 な枠 組 み が,ま さ に住 環 境 問題 を強 く意 識 しつ つ,準 備 され た。

3.マ ー シャルにおける都市住環境保全論 の理論的枠組み

3-1財 概念の構成 と射程

3-1-1ミ ル の富 概 念 か らの継 承

こ こで は まず,筆 者 が 先 行 論 文 に お いて 論 及 した ミル に お け る富 概 念 の矛

盾 を,マ ー シ ャル が い か に克 服 し,1890年 の 自己 の 『原 理 』 初 版 に お い て

この 矛 盾 を 統 一 して,財(goods)概 念 を 提 起 す る に い た った の か,そ の 過

程 に着 目 した い。 また この 統 一 は,い わ ゆ る経 済 財(economicgoods)と

自 由財(freegoods)と の 区 別 を含 ん だ そ れ で あ り,マ ー シ ャル が 大 気 や 陽

光 とい った 都 市 の 住 環 境 を 構 成 す る主 た る要 素 を 自 由財 と み なす に い た る過

程 で な され た 統 一 で あ る。 さ ら に この 統一 は,後 述 の よ う に,ミ ル が富 か ら

区 別 し天 恵 物 とみ な して,政 治 的 実 践 の領 域 に追 いや った多 様 な 自然 的 公 共

財 を,再 び 経 済 学 の 領 域 に回 収 す る こ とを も意 味 した 。

以 上 を 敷 宿 す れ ば,ミ ル の 『原 理』 に お い て は,労 働 の 生 産 物 で あ り,そ

れ ゆ え に譲 渡 可 能 な 物 財 こ そが,富(wealth)で あ っ た 。 そ の た め 大 気 や

陽光 とい った 「自然 の 贈 り物 」 は 無 償 で あ り,譲 渡 不 可 能 で あ る こ とか ら,

天 恵 物 と見 な され た。 そ して この 天 恵 物 は,さ ら に野 生 の 動 植 物 な ど の土 地

か らの 自然 発生 的 な 生 産 物(spontaneousproduce)を も含 む もの と され

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政経論叢 第71巻 第5・6号

た。 特 に 田舎 や 田 園地 域 の土 地 は,た と え形 式 的 に は貴 族 の領 地(つ ま り私

有 地)で あ って も,そ こで伝 統 的 に行 わ れ る近 隣 住 民 の共 同 的 な利 用 の 形 態

に着 目す る こ とで,入 会 地 お よ び共 有 物 を意 味 す る コモ ンズ とみ な され た。

そ して ミル は,そ の保 存 を 目指 す 政 治 組 織 とそ の活 動 に参 画 し,あ るい は そ

れ を 主 宰 して,入 会 地 の保 存 を大 衆 に訴 えた。 なお後 述 す るよ うに,マ ー シャ

ル の 着 目 した都 市 の空 き地 や 公 園 な どの 共 有 地 あ る い は公 有 地 は,同 じ くコ

モ ンズ で あ るが,マ ー シ ャル の 時 代 に は,一 般 にオ ー プ ン ・ス ペ ー ス と 呼 ば

れ るよ う にな って い た よ うで あ る。

ま た,ミ ル は個 人 の 所 有 物 につ い て い う富 と,国 民 の所 有 物 につ いて い う

富 と,人 類 の 所 有 物 につ いて い う富 とは,そ の 意 味 に おい て 重 大 な 区別 が あ

る とみ な して い た 。 そ して個 人 の 視 点 か らは 譲 渡 可 能 な もの を 富 と し,国 民

と人 類 の 視 点 か らは効 用 の あ る もの 全 て を 富 とみ な して い る(Mill,1965,p.

8)。 この よ うな 富 概 念 の 二重 化 は,先 に述 べ た 労 働 の 成 果 物 で あ る こ と と譲

渡 可 能 性 とを 条 件 と して 富概 念 を 構 成 す る際 に,そ の 理 論 的 な 基 礎 とな った

労 働 価 値 説(独 自な 生 産 費説 の根 底 に あ るそ れ)と,国 民 や 人 類 の 富 と言 っ

た場 合 に,そ こに 顕 在 す る効 用 価 値説 との 奇 妙 な 矛 盾 的 併 存 を 背 景 と して い

る。 で は マ ー シ ャル は,自 らの課 題 で あ る住環 境 問 題 の 要 で あ り,ま た ミル

が富 か ら除 外 した と ころ の天 恵物(特 に空 気 と陽光)を,ミ ル の 矛 盾 を 乗 り

越 え て,ど の よ うに 経 済 学 の対 象 領 域 に 回 収 す る の で あ ろ うか。

1879年 に 「プル ス トル ・マ ー キ ュ リー&デ イ リー ・ポ ス ト」 誌 に 掲 載 さ

れ た講 演 録 「国 富 の一 要 素 と して の水 」 で,マ ー シ ャル は,ミ ル の 国 民 の 所

有 物 に つ い て い う富 に 言 及 して い る(Marshall,1879)。 水 は,飲 料 や 水 力

源 や国 内水 路 と して 国 富 を構 成 して い る とす る マ ー シ ャル の 見 解 は,「 明 る

い澄 ん だ空 と美 しい 景 色 は … … イ ン グ ラ ン ドの 国 富 」(ibid.,p.69)と い った

見 解 と共 に,ミ ル の そ れ か ら一 歩 も出 る もの で は な い。 ま た この1879年 は,

マ ー シ ャル 夫 妻 が 『産 業 経済 学』 の 初 版 を 出 版 し,斯 学 に対 す るpolitical

112(692)

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マー シャルにお ける都 市 アメニテ ィ保全の理 論 と政策

economyい う用 語 法 を や めeconomic:と 言 う表 記 を 初 め て用 い た年 で もあ

る。 しか し,お そ ら く この著 書 の 出 版 が 「国 富 の 一要 素 と して の水 」 につ い

て の講 演 に先 立 った た め に,『 産 業 経 済 学 』 初 版 で は以 上 の 「水 す な わ ち 国

富 」 とい う叙 述 を欠 く こ とに な った と推 察 で き る。 よ って 我 々 は,「 水 す な

わ ち 国 富」 とい う叙述 を,1881年 の 『産 業 経 済 学 』 第2版 ま で 待 つ こ と に

な る。 そ して 我 々 は こ の第2版 で,マ ー シ ャル の富 概 念 が い っそ う豊 か に な

り,ミ ル か らの 継 承 に加 え て,概 念 の大 幅 な拡 張 がな され て い る点 を確 認 す

る こ とが で き る。

初 版 か ら第2版 に継 承 され て い るの は,富 と福 利(well-being)の 区別,

富 の 条 件 と して の 譲 渡 可 能 性,富 にお け る物 的 と人 的(非 物 的)と の区 別,

技 能 や 知性 や誠 実 さを 人 的 な 国 富 とす る点,さ ら には レク リエ ー シ ョ ンが 労

働者 の 能率 の 向上 に と って必 要 な 富 で あ る こ と,よ って 音 楽 家 が 一 国 の 富 を

増 進 させ る 点,な どで あ る。 そ して,第2版 で 新 た に 追 加 され た 叙 述 部 分 で

は,富 に関 す る個 人 的観 点 と国 家 的観 点 の上 述 の 区 別 が導 入 され た だ けで な

く,さ らに,政 府 や慣 行 に よ って認 め られ た権 利 を 国家 的 あ るい は 国 民 的 観

点 か らの 富 とみ な して,通 行 権(rightsofway),特 許 権,抵 当 権,国 債,

株 式 が加 え られ て い る。(ま た 個 人 の 負 債 が 「負 の 富 」 と され る。)そ して 個

人 の人 的な 富 と して,能 力 や気 質,事 業 上 の評 判,人 間 関係 が あ げ られ る。

これ らは全 て 譲 渡 不 可 能 で あ るが 富 概 念 に包 摂 さ れ る こ と にな った。 さ らに,

河 川 な どの 交 通 路 は,当 然,明 確 に国 富 と み な さ れ るが,そ れ を含 め た 自然

資 源 の 全 て が 国 富 で あ る と され る。 そ して 富 概 念 の検 討 の最 後 で,マ ー シ ャ

ル は,人 間 に と って 有益 で あ るが,無 償 で 入 手 で き,よ って 全 く交 換 価 値 を

持 た な い もの を 「富 を 構 成 す る事 物 の リス トか ら省 くべ きか ど うか につ い て

は い くつ も論 争 が あ った 」 と述 べ る。 さ らに 「そ うい っ た問 題 は科 学 的 な 目

的 の た め に も,あ るい は 実 践 上 も何 ら重 要 性 を 持 た な い」 と述 べ る(Mar・

shat;,1881,p,7)。 こ こで い う 「論 争」 と は,お そ ら く ジ ョ ン ・ラ ス キ ン ら

(693)113

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政経論 叢 第71巻 第5・6号

に よ って,当 時 の ミル に代 表 され る富 概 念 に たい して 表 明 され た不 満 や 論 難

を含 む もの で あ った と推 察 され る。 経 済 学 の 言 う富 概 念 へ の ラ ス キ ンの 批 判

は,ミ ル の 富 概 念 が 労 働 価 値説 に拘 束 さ れ て 狭 い こ との 指 摘 を 含 ん で い た

(大森,2002,pp.154-157)。 と は い え,J.M.ケ イ ンズ の 指 摘 に従 っ て,当 時,

ジ ェ ヴ ォ ンズ の そ れ と は区 別 され る独 自の効 用価 値説 に既 にマ ー シ ャルが立 っ

て い た とみ な す な らば,ミ ル の 天 恵物 を 自然 的 且 つ 集 合 的(collective)な

富 で あ り一 般 的 な 富 で あ る とマ ー シ ャル が み なす こ と は,理 論 的 に は飛 躍 で

も断 絶 で もな か った と いえ よ う。 そ れ は マ ー シ ャル に と って,ミ ル に残 存 す

る用 語 上 の 混 乱 の 単 な る修正,つ ま り譲 渡 可 能 性 条 件 の相 対 化 にす ぎな か っ

た と考 え られ る。 な ぜ な らば,後 に 『原 理』 にお いて さえ,マ ー シ ャル は財

概 念 が 富 概 念 の 単 な る言 い換 え で あ る と して,便 宜上,前 者 を用 い る と述 べ

て い るか らで あ る。 しか しな が ら,マ ー シ ャル の 「富 す な わ ち財 」 とい っ た

概 念 の前 提 に あ る独 自の 効 用 価 値理 論 が,ジ ェ ヴ ォ ンズの それ と ど の よ う に

異 な り,そ れ が 果 た して,マ ー シ ャル の 盲 あ るい は財 の概念 の構 成 に おい て,'

何 らか の影 響 を 及 ぼ して はい な か った か ど うか,こ の 点 につ い て は改 め て 次

項 で環 境 経 済 学 の 立 場 か ら検 討 す る こ と とす る。

な お,『 産 業 経 済学 』 第2版 にお いて着 目す べ き は,既 述 の よ うに,田 園 地

域 での 私 有 地 を地 域 住 民 が慣 行 と して 自由 に(土 地 生 産 物 と居 住 者 の プ ライ

バ シー を侵 害 しない 限 りで)通 行 す る権 利 に ミルが着 目 した 点 をふ ま え,マ ー

シャル が この権 利 を 国 民 的観 点 か らの富 で あ るとみ な して いる点 で あ る。 こ こ

には 単 に ミル の土 地 倫 理 の積 極 的 な継 承 が 指 摘 で きるだ けで は ない。 む しろ こ

の よ うに通 行 権 を 国 民 の富 とす るこ とには,明 らか に,自 然 環 境 の市 民 的 な享

受権 を も富 で あ る とみ なす現 代 の環 境 思 想 へ の飛 躍 の 端 緒 がみ られ る。

3-1-2ジ ェヴォンズの効用概念からの継承と断絶

1871年 のジェヴォンズの 『経済学の理論』(以 下 『理論』 と略す)初 版に

114(694)

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マー シャルにおけ る都市 アメニテ ィ保全の理 論 と政策

つ い て,マ ー シ ャル は翌 年,有 名 な書 評 を 書 い て い る(Marshall ,1872)。

我 々 は そ こ に,ジ ェ ヴ ォ ンズ の 効 用 価 値理 論 や方 法論 に つ い て の マ ー シ ャル

の批 判 を見 い だ す。 しか しな が ら,環 境 経 済学 の立 場 か らは,ジ ェ ヴ ォ ンズ

の効 用 概 念 そ れ 自体 の独 自性 は,む しろ1879年 の 『理 論 』 第2版 に顕 著 で

あ り,マ ー シ ャル は そ の批 判 こそ を展 開す る べ き だ った と考 え る。 な ぜ な ら

ば,初 版 に お いて ジ ェヴ ォ ンズ は,第5章 .「労 働 の理 論 」 で 「負 の効 用 」 を

労 働 につ い て 認 め て い る。 と は い え,ジ ェヴ ォ ンズ は第2版 で は そ れ に加 え

て,第3章 の 「効 用 の理 論 」 に お いて,新 たな 節 を設 けて,初 めて 「負 の効

用(disutility)」 と 「負 の 物 財(discommodity)」 に つ い て 言 及 す る か ら

zあ る。 そ して この 「負 の物 財 」 と は,「 灰 や 汚水(ashesandsewage)と

い った 我 々 が それ らか らまぬ がれ た い と願 うあ らゆ る事 物 」 で あ る(Jevons,

1879,pp.62-63),と 具 体 的 に指 摘 す る。 さ らに こ の節 で,ジ ェヴ ォ ンズ は 自

らを,「 生 活上 の 極 め て 多 くの 行 為 に伴 う苦 痛 の生 産(productionofpain)」

を表 現 す る術 語 の 第1発 見者 で あ る と任 じて い る(ibid.,p.62)。 こ こに は こ

の 苦 痛 が,あ る快 楽 の生 産 に必 然 的 に伴 う もあ,つ ま り副 作 用 あ る い は結 合

生 産 物 で あ る こ とが 示 唆 され て い る。 ま た先 の労 働 に お け る 「負 の効 用 」 が

労 働 者 自身 の そ れ で あ る の に比 して,こ の 「負 の効 用 」 は他 者 に対 して の も

の で あ る こ と も示 唆 され て い る。

以 上 を 敷 術 しよ う。 ジ ェヴ ォ ンズ は 『理 論 』 初 版 で は,第5章 の 「労 働 の

理 論 」 に お い て,「 労 働 の 苦 痛(painfulnessoflabour)」 と生 産 物 の量 お

よ び そ の 効 用 との 関係 を 図 示 して い る。 そ して この 「労 働 の 苦 痛」 は,マ ー

シ ャル が 『原 理 』 初版 に お い て 第4編 「生 産 あ るい は 供 給」 の 序章 で 言 及 す

る,い わ ゆ る 「労 働 の 限 界 負(不)効 用 」(Marshall,1890,p.188)に 言 い

換 え られ る。 こ の点 で,ジ ェ ヴ ォ ンズ の 労働 に お け る 「負 の効 用」 に つ い て

の理 解 を マ ー シ ャル は受 け入 れ て い る。 しか しな が ら,ジ ェヴ ォ ンズ が 『理

論 』 第2版 で発 見 した 「苦 痛 の 生産 」,つ ま り廃 棄 物 に よ り第3者 に何 らか

(695)115

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政経論叢i第71巻 第5・6号

の被 害 が及 ぶ事 態 に つ い て は,マ ー シ ャル は無 視 し,以 後,彼 は この 問題 に

つ い て ほ と ん ど言 及 して い な い の で あ る。

既 に見 た よ うにマ ー シ ャル の 『原 理 』 初 版 で は,財(goods)概 念 が提 示 さ

れ て い る。 そ してそ れ は,効 用 を 有 す る事 物 を広 範 に包 摂 す る もので あ る。 し

か し,も しマ ー シャルが この 「負 の効 用 」 と 「負 の財 貨 」 の 概 念 を ジ ェ ヴ ォ ン

ズか ら継 承 して いた な らば,ほ ぼ80年 後 にE.J.ミ シ ャンの 著 書 『経 済 成 長 の

代 価 』 に お い て,お そ らく最 初 に 使 用 され た で あ ろ う 「負 の 財(bads)」

(Mishan,1969,p.3E)と い う術 語 を,マ ー シャル は 『原 理 』 に おい て使 用 した

であ ろ う。 なぜ な らば,マ ー シ ャル こそ が都 市 の 労 働者 の住 環 境 問題 を理 論 的

およ び実 践 的 な課 題 と して担 い,清 浄 な大 気 と豊 富 な 陽 光 の 回 復 を 求 めて い

たか らで あ る。 で は何 故,マ ー シ ャル は この ジェ ヴォ ンズ の発 見 を無 視 した の

であ ろ うか。 残 念 なが らその理 由 を明 らか に しう る資 料 に乏 しく,多 様 な解 釈

の余 地 が 多 く残 され て いる。 な お以上 の論 点 につ いて は,次 項 で補 足す る。

3-1-3マ ー シ ャル に お け る財 概 念 の構 成 と射 程

『原 理 』 初 版 にお け る財概 念 の構 成 に つ い て,改 め て そ の概 略 を示 し,マ ー

シ ャル が 課 題 と して担 った労 働 者 の 住 環 境 問 題 の解 明 に とっての その有 効性,

あ る い は こ の概 念 の理 論 的な 射 程 につ い て検 討 す る。

マ ー シ ャル は 『原 理」 第2編 第2章 「富」 の 冒頭 で,富(wealth)を 物 財

(commodities)や 財(goods)に 言 い換 え て い る(Marshall,1890,p.106)。

そ して富 は個 人 と国 家 と世 界 の3つ の観 点 か ら考 察 で き る と述 べ るが,こ の

区 別 は既 に ミル の 『原理 』 に お い て な され た個 人 の 富,国 民 の 富,人 類 の 富

の 区別(Mill,1965,p.8)を 実 質 的 に継 承 して い る。 しか しな が ら マ ー シ ャ

ル は,こ れ らの 区 別 が ア ドル フ ・ ワー グ ナ ー の 『国 民 経 済 学 』(Wagner,

1876,pp.6-ll)か らの 引 用で あ る こ とを注 記 し,ま た1883年 の シ ジ ウ ィ ッ

クの 『経 済 学 原 理 』 第1編 第3章 お よ び第5章 にお け る富 概 念 につ いて 参 照

116(696)

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マーシャル における都市 アメニ ティ保全 の理論 と政策

す べ きで あ ると も注記 して い る(Marshall,1890,p.106)。 この ことか ら,マ ー

シ ャルは,ド イ ツ語 の財(Gut)概 念 の 英 語 へ の転 用 と シジ ウ ィ ックの 著 書 の

参 照 を あえて 示 唆 す る こ とで,自 己 の 財 概 念 の,上 述 した ミル お よ び ミル の

富 概 念 か らの継 承 の側 面 では な く,そ れ らか らの 断 絶 の 側 面 を強 調 して い る

よ うに推 察 で き る。 とはい え,こ の章 の表 題 は依 然 と して 「富」 なの で あ る。

ま た次 に ウ ィルヘ ル ム ・ヘ ル マ ンの 『国民 経 済学 研 究 』(Hermann,1832)

か らの 引用 を注 記 しつ つ,財 を外 部 的 な もの と内部 的 な もの に分 け る。 そ し

て さ らに外 部 的 な もの を物 的 な もの と人 的 な もの(非 物 的 な もの)に 分 け,

内部 的 な もの を人 的 な もの とす る。 な お物 的 な財 に は単 に物 的 な もの だ け で

な く,そ れ を保 有 し利 用 す る権 利 お よ び そ こか ら利益 を 得 る権 利 を含 ませ る。

よ っ て 『産 業 経 済 学 』 第2版 を継 承 して,水 や空 気 や気 象 と各 種産 業 の 生 産

物,建 物 や機 械 な ど に加 え,公 社 や企 業 の債 権 や株 式,独 占権,特 許 権,版

権,そ して通 行 権 が 全 て 財 の範 躊 に入 る。 ま た通 行 権 に 類似 す る もの と して

旅 行 の機 会 や良 い景 観 へ の ア ク セ ス権 が そ こに 付 加 され る。 さ らに 物 的 お よ

び人 的 な財 を そ れ ぞ れ,譲 渡 可 能 な もの と不 可 能 な もの に二 分 す る。 全 て の

内部 的 ・人 的 な財 は譲 渡 不 可 能 とみ な し,一 部 の 外 部 的 且 つ 物 的 な 財 も例 外

的 に譲 渡 不 可 能 と み なす 。 そ して こ の 外部 的且 つ物 的 で 譲 渡 不 可能 な 財 を,

物 理 的 に譲 渡 で き な い気 候 や 陽光 や 暖 か さや空 気 で あ る とす る。 な お 土地 は

本 源 的 に は譲 渡 可 能 性 を もた な い が,人 間 に よ って 譲 渡 可 能 と され る とみ な

す(Marshall,1890,pp.108-109)(3)。 ま た個 人 に と っ て の 譲 渡 しえ な い非 自

然 的 な財 と して,集 合 的(共 同 的)な 公共 財 を あ げ,私 的所 有 権 に 包 摂 しえ

な い もの とみ な す。 よ って,国 家 や地 域 社 会 の 構 成 員 で あ る こ とに 伴 う,安

全 性 や公 共 施 設 の利 用権 お よ び社 会 的 な 公 正 を 求 め る権 利 や 無 償 教 育 の 享 受

権 を そ こ に包 摂 す る。 こ う した 自然 的 お よび 社 会 的 な 公 共財 を無 償 とみ な し,

明 示 的 で は な い が ヘ ル マ ン に 由 来 す る 自 由 財 と 経 済 財 の 区 別(Hermann,

1832,p.?)を 受 け入 れ て い る。 な お,消 費 財 と生 産財 の 区別つ いて もマ ー シ ャ

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政経論叢 第71巻第5・6号

ルは言及 してる。

以上のような財概念の構成は,ま ず,住 環境を構成する大気や陽光といっ

た外部的で,物 的で,譲 渡できない自由財を,経 済学の射程距離内におさめ

た点で,大 きな前進であろう。 ミルはこうした財を経済学の対象としてでは

な く,む しろ政治活動によって国家にその保全をなさしめるものとして,す

なわち労働が供給 しえない天恵物とみなして,経 済の領域から排除 した。そ

のためにミルは,入 会地の漸次的な国有化を自らの政治活動の目的としたの

であった。 これに反 し,マ ーシャルは労働者の住環境問題について,経 済学

的観点か ら政府に対 してなされる政策提言をもらてよしとする。例えば後述

のように,マ ーシャルは1897年 に,「空気浄化税」の導入といった政策手段

を政府の 「地方税に関する王立委員会」からの諮問に答えて提言する。そし

てそれは,あ くまでも純然たる経済的な手段の提言を中心としたものであっ

た。 しか しながら,後 述するように,マ ーシャルは都市の住環境問題につい

て1907年 の 『原理』第5版 の付録Gに おいて,地 方政府による直接的な建

築規制についても具体的に提言するにいたる。確かにマーシャルの財概念に

おいては,既 に,あ る種の政治的な問題解決の方法が示唆されている。それ

は 『産業経済学』第2版 で,政 府や慣行によって認め られた権利として通行

権があげられていることに関連すると考えられる。 この権利が不可侵な人権

を構成する財であるならば,同 じように,一 定の良好な水準の住環境を享受

する権利もまた,不 可侵の国民的な富として公認され,政 治的に保護 される

べきではないか。 こうした方向性を明らかにマーシャルは是認 していると思

われる。「空気浄化税」 といった経済的および財政的手法だけでは,問 題は

解決しえないとマーシャルは考えていたと推察できる。処方箋は経済的手法

に限らない。よってマーシャルは,当 然,政 治的手法である直接規制を経済

行為に課すことを正当化することになる。そのために彼は,次 節で見 るよう

に,住 環境問題がいかなる公私の利害の対立構造を持 っているかについて理

118(698)

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マー シャルにおける都市 アメニテ ィ保全の理論 と政策

解 を深 め る こ とに な る。

な お以 下 に,上 述 の マ ー シ ャル の財 概 念 の射 程 に関 し,そ の限界 が ジ ェヴ ォ

ンズ の 「負 の 効 用 」 お よ び 「負 の財 貨Jの 概 念 を マ ー シ ャル が 継 承 しな か っ

た こ と に あ る とす る論 点 につ い て,補 足 的 に言 及 した い。

J.M。 ケ イ ンズ も指 摘 す るよ うに,マ ー シ ャル の 経 済 学 上 の 貢 献 と して 外

部 経 済 と 内部 経 済 の 区 別 を ドイ ツの 経 済 学(主 に ヘ ル マ ンの経 済学)か ら輸

入 し,応 用 した こ とが あ げ られ る。 また 環 境 問題 を経 済 学 的 に特 徴 づ け る際

に,「 外 部 不(負)経 済 」 とい う術 語 が現 在 は 広 く使 わ れ て い る。 しか し以

上 で 見 た よ う に,ジ ェ ヴ ォ ンズ に よ る 「負 の 効 用 物(あ る い は 負 の 財 貨)」

の 発 見 を継 承 しな い 以上,マ ー シ ャル 自身 は 「外 部 不(負)経 済 」 概 念 を提

起 しえ な い。 ま た 次 節 で 見 る よ う に,ミ ル の コ モ ンズ 保 存 論 を都 市 のオ ー プ

ン ・ス ペ ー ス保 全論 と して継 承 す るマ ー シ ャル で あ るが,「 負 の 財 貨 」 の 実

体 と して の 「灰 や汚 水」 へ の 着 目を ジ ェ ヴ ォ ンズ か ら継 承 しな い以 上,そ れ

らが コモ ンズ や オ ー プ ン ・ス ペ ー ス に無 償 で 廃 棄 され る と い っ た問 題 の 本 質

に マ ー シ ャル は迫 れ な い。 さ らに,ミ ル か ら積 極 的 に継 承 した 結 合 生 産 の 概

念 を拡 張 して,正 の 財 貨(goods)と 負 の 財 貨(ミ シ ャ ンのbads)の 結 合

生 産 と して汚 染 物 の 問題 を生 産 論 の次 元 で 捉 え る視 点 を マ ー シ ャル は 獲 得 し

え な い の で あ る。

マ7シ ャル が以 上 の 限 界 を越 え る ため には,ジ ェヴ ォ ンズ が 「理 論 』 初 版 で

図示 した 「労 働 の苦 痛 」 の 曲線(Jevons,1871,p.168)に 対 して,そ の 同 じ

労 働 に起 因す る 「他 者 の被 る苦 痛」 の曲 線 を も ジェヴ ォ ンズ の図 中 に加 え る こ

とが 必 要 で あ ったの で はな い か。 そ して こ う した 負 の 随 伴 現 象 を伴 う生 産 を

「正 の労 働 」 と 「負 の労 働 」 の 同 時 的 な遂 行 とみな す べ き で あ った の で は な い

か ④。 これ らの論 点 につ いて,マ ー シャルは なぜ か環 境 経 済 学 とい う新 た な研

究 領 域 の手 前 で 立 ちす くん で い るか の よ うであ り,ま た軽 率 と飛 躍 を好 まず,

着 実 な前 進 を良 しと して,後 継 者 に これ らの課 題 を残 したか の よ うで もある。

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政経論叢 第71巻 第5・6号

3-2都 市における公私の利害対立とその是正策

3-2-1ミ ルの都市キ.ヤピタルゲイン課税論

ミルが言及 しマーシャルが継承 した都市問題に関連する論点は,次 の2点

である。第1の 論点は,都 市の成長と建築物の増加とに伴う地主層のキ ャピ

タルゲイ ンは 「不労所得」であって,そ れへの重い課税は,公 平性の観点か

ら是認 されるべきである,と みなす ものである。第2の 論点は,王 室や公共

団体に帰属する土地や,慈 善行為や寄付行為によって公的な機関に提供され

うる土地は,個 人や私的団体に有償あるいは無償で譲渡されてはならない,

とみなすものである。そして,そ うした土地は公的な機関に有償あるいは無

償で譲渡され,労 働者の住宅問題の解決を目的として,あ るいは農業協同組

合による当該の土地の農地化とその経営とを目的として,さ らには小規模な

農業者 による開墾 と耕作とを目的として,譲 渡あるいは貸与がなされるべき

である,と みなす ものである。

第1の 論点は,ミ ルの 『原理』第5編 第2章 第5節 の 「自然的諸原因によ

る地代の増加は特別な課税の対象としてふさわしい」 と題 した叙述において

指摘されている(Mill,1965,p.821)。 着 目すべきは,こ の課税が 「立法府に

おける土地所有者たちの支配的な地位のために妨げられてきた」 とみなす ミ

ルの指摘である(ibid.)。 ミルはこれによって,地 主に対立す る資本家 およ 』

び労働者といった リカー ド由来の階級的矛盾の都市部における発現を示唆し

ている。後述するようにマーシャルも,人 口の過密によって生 じる都市の住

環境の悪化が,地 主および開発業者(開 発資本家)と 労働者のあいだの階級

対立として広範に現れることに着 目する。そ してこの対立を公私の間の利害

対立であるとみな している。 しかしそこには,単 なる階級対立 に全てを解消

しえない,個 別的な建物(地 主)の 相互間および市民住宅(中 間層や上層労

働者のそれを含む)の 相互間に一般的に発生する陽光や清浄な空気をめ ぐる

120(700)

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マー シャルにおけ る都市 ア メニテ ィ保全の理 論 と政策

本 来 的 に私 的 な対 立 も,当 然,含 ま れ て い よ う。

第2の 論 点 は乳 ミルが 議 長 を務 めた 「土 地 保 有 改 革 協 会 」(1871年 正 式 発

足)の 綱 領(作 成 は1870年)の 第7条 に含 まれ て い る。 上 記 の 『原 理』 での,

キ ャピタル ゲ イ ン課 税 論 と異 な り,労 働者 の住 環 境 の 劣 悪 化 を解 決 す る手 段

と して,国 家 あ るい は地 方 自治 体 に地 主 階 級 か ら土 地 を 有 償 で 提 供 させ る こ

とが,は っき りと主 張 されて い る(Mill,1967,pp.694-695)。 なお,ミ ル は,

同協 会 の公 開 設 立 集 会 で は,田 園地 域 の入 会 地 あ るいは共 有 地 の 管 理 を 国 家

や 自治 体 に委 ね た場 合 の 官 僚 主 義 的 な 弊害 に も言 及 して お り,後 の ナ シ ョナ

ル ・ トラス トの よ うな非 政 府 組 織 によ る管理 を展 望 して い た と考 え られ る。

以 上 の両 論 点 の うち,前 者 は,税 制 を通 じて の 私 的 な 土地 所 有 へ の 政 府 介

入 で あ り,ま た 後者 は,私 的 な土 地所 有権 の 自由 な 譲 渡 へ の,先 買 権 の 設 定

な どに よ る,強 制 力 を伴 わ な い 政 府介 入 で あ る と考 え られ る。 よ って こ れ ら

は,な お 間接 的且 つ 消極 的 な 介 入 で あ る とい え る。 しか しな が ら,『 原 理 』

第5編 第1章 「政 府 の機 能一 般 につ い て」 に お い て,ミ ル は彼 の い う 「天 恵

物 」,つ ま り 自然 的公 共 財 の 「共 同 的 な 享 受 」 に つ い て は 「規 制(regula-

tions)」 が 必 要 で あ る と も述 べ て い る(Mill,1965,p.80])。 こ の 主 張 を,土

地 や空 気 や 陽光 の私 的 な 利 用 へ の 公 的 な規 制 を含意 す る もの とみな せ ば マ ー

シ ャル の い う 自由財 に 限 って,そ の利 用 へ の 政 府 の直 接 的 且 つ 積 極 的 な 介 入

を ミル は支 持 して い た と考 え られ る。 そ して こ う した観 点 が,ど の よ うにマ ー

シ ャル に継 承 され て い るか を 考 察 す るた め に は,な お 中 継者 の 一 人 と して,

マ ー シ ャル の実 年 齢 上 お よ び 学 問上 の 先輩 に あ た る シ ジ ウ ィ ックの 著 作 の検

討 を必 要 とす る。

3-2-2シ ジウィックにおける 「個人的効用と社会的効用の乖離」 と

その是正策

シジウィックは,1883年 の 『経済学原理』初版の第3編 「経済施策論」,

(701)121

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政経論叢 第71巻 第5・6号

第2章 「生 産 へ の 関連 か らみ た 自然 的 自 由 の シス テ ム」 に お い て,「 個 人 的

効 用 と社 会 的効 用 の乖 離(divergence)」 に つ い て 言 及 して い る。 ま た こ の

乖離 とい っ た現 象 は,「 私 的利 益 と社会 的利 益 の 対立(conflict)」 で あ る と

も言 い 換 え られ て い る(Sidgwick,1883,p.415)。 純 然 た る経 済 人 か ら構 成

され る 社 会,つ ま り 「自然 的 自 由の シス テ ム」 で は,あ る観 点 か ら見 て,ま

た あ る状 況 下 にお いて,「 慈 悲 深 い成 果 を実 現 しえ な い傾 向 」 に あ る と シ ジ

ウ ィ ック は 指 摘 す る。 そ して,個 人 と社 会 の利 益 が 必 ず しも一致 しな い こ と

を,独 占 の 弊害 とい った 問題 を含 む い くつ か の事 例 に よ って 示 す。 また 世 代

間 の 利 益 の不 一 致 に つ い て も言 及 す る。 と りわ け提 示 され た事 例 の 中 で,着

目す べ き は,良 い位 置 に あ る灯 台 が通 行 料 不 払 い の船 舶 を横行 させ る ことや,

降 雨量 を 緩 和 し平 準 化 す る こ とで 国 民 を利 す る植 林 事 業 を私 的企 業 は遂 行 し

え な い こ と の指 摘 で あ る(ibid.,pp.412-413)。

こ う した 自 由放 任(laisser-faire)の 状 況 下 で は,現 実 的 に妥 当 で な い 事

態 を ま ね くこ とか ら,政 府 の 介 入(governmentalinterference)は 当 た り

前 で あ る,と シ ジ ウ ィ ックは主 張 す る。 しか しな が ら同 時 に,そ の 弊 害 と し

て政 府 の権 力 の 強化,民 間か らの反 発 の強 化,財 政 負 担 と課 税額 の増 大 を 彼

は指 摘 す る(ibid.,p.419)。 そ して こ の種 の 対 策 が 私 的 企 業 へ の規 制 と い う

形 態 を と る場 合,そ の経 済的 お よ び政 治 的 な副 作 用 を十 分 に考 慮 す べ き だ と

主 張 す る(ibid.,p.420)。 とは い え,純 然 た る経 済 人 に よ り運 営 され て い て

も完 壁 な 社 会 で な い限 り,注 意 深 くな され る法 と社 会 的 な刑 罰 に よ る強 制 は,

シ ジ ウ ィ ック に と って も不 可 避 なの で あ る。 しか しなが ら シ ジウ ィ ック が 自

ら認 め て い る よ うに,こ の第3編 第2章 で は,法 や 刑 罰 と い った集 合 的 な行

為 の本 質 と範 囲 につ いて 言及 す るだ け に と どめ ざ るを 得 ない 。 それ は,彼 が

採 用 して い る演 繹 的 な 方 法 で は,詳 細 な 実 践 的 な 規 則 は導 きえ ず,ま た 集 合

的行 為 の シス テ ム を構 築 す る こ とが,一 国 の社 会 的 お よ び政 治 的 な 状 況 に大

き く依 存 す る こ とを単 に表 明 しう るに す ぎな いか らで あ る。つ ま りシ ジウ ィ ッ

122(702)

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マー シャルにおけ る都市 ア メニテ ィ保全の理論 と政策

クは一 般 論 を述 べ た に す ぎず,具 体 的 な 社 会 問 題,す な わ ち労 働 者 の 住 環 境

問 題 に つ い て の 原 因 の 究 明 と処 方 箋 の 策 定 と い う課 題 は,依 然 と して後 続 の

マ ー シ ャル た ちに 残 され た ま ま なの で あ る。

な お,上 述 の 灯 台 と植 林 の事 例 は,マ ー シ ャルの 弟子 の アー サー ・セ シル ・

ピグ ーが,「 厚 生 経 済 学』 の 第2編 「国 民 分 配分 の規 模 と 多 様 な 用 途 へ の 資

源 の 配 分 」,第9章 「社会 的 限 界純 生 産 物 と私 的 限 界 純 生 産 物 の 乖 離 」 に お

いて 引 用 して い る(Pigou,1999,F.184)。 で は ピ グ ーに 先 立 っ て,マ ー シ ャ

ル に と って,こ の 「乖 離 」 とい った事 態 は どの よ うに把 握 さ れ,そ の対 策 は

どの よ う に構 想 され た の で あ ろ うか。 次 項 で は こ の点 につ い て検 討 す る。

3-2-3マ ー シ ャル の 都 市 住 環 境 問 題 に お け る 「公 私 の 利 害 対 立 」

マ ー シ ャル は 『原 理 』 初 版 の 第7編 「価 値 あ るい は分 配 お よ び 交 換 」,第

11章 「土 地 に つ い て の 需要 と供 給,土 地 保 有 の 続 き」 の第11節 「オ ー プ ン 。

ス ペ ー ス の建 物 に 関 す る社 会 的 利 益 と 私 的 利 益 の 対 立(conflict)」 に お い

て,次 の よ うに述 べ て い る。

す な わ ち,都 市 の オ ー プ ン ・スペ ー ス に関 して は,私 的 な 利 益 は 公 的 な利

益 と衝 突(collide)す る。つ ま り人 口密 度 の高 い地 区 で は,新 規 の ビル 建 設

や古 い ビルの建 て増 しが起 こる こ とによ って,住 民 が貧 困 化 す る(Marshall,

i890,pp.695-696)。 事 態 は,大 気 と陽 光 の欠 乏 に結 果 し,ま た近 隣住 民 に と っ

て の 野 外 で の 休 息 の 場 の 欠 乏 と,さ らに は子 供 た ち の遊 び場 の欠 乏 とに結 果

す る。 マ ー シ ャル は こ う した状 況 を,大 都 会 に流 入 す る人 々 の血 気 の 消耗 と

み な して,ビ ジネ ス の観 点 か ら も明 らか な失 敗 で あ る と指 摘 す る。 以 上 の叙

述 は,「 原 理 』 の 事 実 上 の 最 終 版 で あ る1920年 の 第8版 に お い て も,ほ ぼ 同

一 の もの と して収 録 さ れ て い る。 しか しな が ら初 版 で は,さ らに,次 の よ う

な叙 述 が それ に続 く。

「既 に建 築 物 の 建 って い る土 地 にオ ー プ ン ・スペ ー ス を設 け る際 の費 用 を,

(703)123

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政経論叢 第71巻第5・6号

近隣の建物の所有者に,ど の程度負担させるべきかを決めるのは難 しい問題

である。 しか し将来,新 規に建設される建物は,田 園地域の場合を除いて,

その近隣にオープンな場所を設けるための出費を,貨 幣あるいは現物で提供

するように要請 されるべきであろう。またそれが妥当であろう」と,マ ーシャ

ルは述べ る(ibid.,p.698)。 そ して事態を 「集団的な利害 と私的な利害 との

間」の 「倫理的一経済的な問題(ethico-economicproblems)」 であるとみ

なしている(5)。確かにこのような叙述は,ま だ,具 体的な政策提言 にまでは

いたつていない。とはいえ,都 市の建造物の過密問題に対 して,採 るべき施

策の方向性 とその骨子は既に明確化されている。つ まり,オ ープン・スペー

スの実物的な減少について,主 として地方政府の介入により,金 銭的あるい

は現物的な補償を原因者である地主に強制する方向性である。具体的には,

前者の金銭補償 とは,都 市での土地の開発および再開発によって喪失するオー

プン・スペースと同等面積の敷地を当局が取得 して(有 償であるいは寄付と

して無償で取得 して),そ こに公園などを整備するための必要経費を,開 発

に関連する近隣の土地所有者から調達する方法であろう。また後者の現物補

償とは,金 銭補償が不可能な場合に,近 隣の土地所有者に代替地を当局にた

い して強制的に寄贈させたり,あ るいは建設可能な敷地全体に占める実際の 『

建築面積の割合を制限することで,オ ープン・スペースをその敷地内に確保

する方法であろう。こうした施策をマーシャルは構想 していたと考えられる。

以上のマーシャルの叙述および構想は,シ ジウィックが演繹的に導出した

「公私の利害対立」,す なわち自由放任の限界を,具 体的な都市の住環境問題

に照射 したものである。このように,あ くまでも都市における住環境問題の

現実の姿を出発点とするマーシャルにとって,当 然,参 照するのは,当 時の

イギリスの住環境問題に関連する既存の不動産関連の税制や職人労働者住居

法(1868年 制定,以 降,労 働者階級住居法として数度 の改正を経 る)や 公

衆衛生法(1875年 制定)で ある。そ してまた,そ れ らの法制度の不完全 さ

124(704)

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マーシャルにおける都市アメニティ保全の理論と政策

を補完すべ く先駆的になされた,労 働者の住宅問題に取 り組む実践家 として

のオクタビア ・ヒルの様々な活動をマーシャルは参照 したと思われる。当該

問題についてのマーシャルのより具体的な政策提言は,次 章で見 るよ うに

1897年 の 「地方税 に関す る王立委員会」か らの諮問への答申で示 された

「空気浄化税」の導入構想である。そ して1907年 の 『原理』第5版 において,

初版 で示 した上記 の方向性 と骨子をよ り明確にす るべ く,付 録Gと して

「地方税の賦課:お よび政策についての示唆」を新たに設け,「空気浄化税」

の導入 と建ぺい率および高 さ制限を伴 う建築規制の制定からなる政策提言を

行 うのである。

なお,『原理』初版でマーシャルは,以 上で指摘 した箇所以外でも,清 浄

な大気や陽光や遊技場などの必要性 について言及 している。例えば,第4編

第5章 の 「労働の供給の続 き,健 康と頑健さ」では,子 供にとっての健全な

遊び場と清浄な大気の不足が,次 世代にまで及んで活力を奪うと指摘 し,私

的および公的な資金のよりよい利用法として,大 都市での公園や遊技場の供

給があげられている(ibid.,pp.253-255)。

4.マ ー シ ャルの都 市 ア メニ テ ィ保全 政策

4-1空 気浄化税の提案

マ ー シ ャル は,『 原理 』 初 版 の 第4編 「生 産 あ る い は供 給 」 第7章 「富 の

増 大 」 に お け る脚 注 で,家 庭 内 の燃 焼 装 置(台 所 の 炉 や ス トー ブ)が 排 出 す

る不 健 康 な空 気 を近 隣地 域 の一 ケ所 に集 め て 浄 化 す る処理 施設 が将 来 で き る

で あ ろ う,と 予 測 して い る(Marshall,1890,p.287)。 とは い え,煤 煙 問 題

につ い て の こ う した技 術 的 な解 決策 へ の 言 及 は,マ ー シ ャル の オ リジナ ル な

構 想 で は な い と考 え るべ きで あ ろ う。 お そ ら く彼 は,オ ク タ ビア ・ ヒル が

1880年 に ロ ン ドン市 サ ウ ス ・ケ ン ジ ン トンの か つ て の 大 英 博 覧 会 会 場 を 借

(705)125

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政経論叢i第71巻 第5・6号

りて開催 した,煙 害の少ない改良型燃料と改良型燃焼炉に関す る(メ ーカー

各社の参加による)展 示会(5)を視察 したか,あ るいはこの展示会の詳細な情

報を入手したのではないかと考えられるの。この様な例にとどまらず,都 市の

労働者の住環境問題の全般について,実 践家 ヒルの活動を理論的に裏付 け,

政策的に後押しする作業を(意 図的であるか否かは不明であるが),マ ーシャ

ルは行っていたと推察できる。マーシャルにとっての実践とは,ミ ルとは異な

り,大 衆の社会的あるいは政治的な活動を直接指導 したり,実 際に政治の場

に身を置 くことではない。経済学者として政府の諮問に答えたり,著 書や講

演をつうじて具体的な政策を提言 し,そ れを政府に実行させることであった。

しかしながら,そ のためにもヒルのような実践家の活動についての検討と評価

が不可欠であったと考えられる。以下にみるように,マ ーシャルの 「空気浄

化税」についての提言は,政 府の諮問に答えるかたちで発想されたが,ヒ ル

が実際に行 っていた労働者への住宅供給事業を含む様 々な社会改良運動にお

ける資産家や慈善家からの募金徴集活動がこうした提言 の発想の基礎にあっ

たと推察できる。なお,こ のようなマーシャルの言論活動とヒルの社会活動,

さらには両者 と住環境問題関連の立法措置 との相互関係を示す 「年表2:都

市アメニティの保全に関するマーシャルの言及,ヒ ルの活動および立法措置」

を次頁にあげたので,こ の章での議論に即 して,適 宜参照されたい。

1897年 にマーシャルは,「地方税に関する王立委員会」 から15項 目から

なる質問状を受けとり,そ れ らに関して,逐 次的にではな く体系的に回答 し

ている。質問の内容は,現 行の国税分類の妥当性,税 の公平性の検証方法,

税の外見的な負担者 と真の負担者との区別,地 方税 と国税の目的の区別,地

方税源への国税補填の可否,地 価への地方目的税の賦課原則,地 代への課税

の影響,地 方 目的税の税収増大化の方法などにおよび,極 めて広範囲なもの

であった(Marshall,1897,pp.329-331)。 グレーネヴェーゲンによれば,特

に1890年 代のイギ リスにおいて,地 方税はその重要性 を徐々に増 していた

126(706)

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マー シャル におけ る都市 アメニ ティ保全の理論 と政策

年 表2都 市 アメニティの保全に関するマーシャルの言及,ヒ ルの活動 および立法措置

マ ーシャル の言論活動 ヒルの社会活動 立法措置

1864 ・ラスキ ンの援助で労働者住

宅の家主にな る(以 降,労

働者への住宅供給活動を主導)

P一 一.一 一・・, 」一.一 ・一一

1866 ・首都圏入会地法の制定

1868 ・職人労働者住居法の制定

1873・「労働階級の 将来」 で余 暇

の健 全なす ご し方 に言及

・共有地保存協会の役員に就任 ・公衆衛生法の制定

1875 ・『ロン ドンの貧 困者 の住居』

をアメ リカで出版

1879 ・「国富の一要素 としての水」

で飲料,動 力源,交 通路 と

しての水 を国富 と見 なす・『産業経済学』(初 版)で

大気汚染に言及/ヒ ルの著書および活動に言及

1880・煙害除去技術の展示会の開

催に積極的に関与

.一...

1884 ・「ロンドンの貧 困者 の住居を

いかにすべきか」で新鮮な空

気と余暇空間の必要性を指摘

1885 ・労働者 階級 の住 宅に関す る ・労働者階級住居法の改正

王立諮問委員会で労働者の住環境問題について証言

1890 ・『経済学原理』(初 版)で 都

市 の空地 をめ ぐる公私 の利・労働者階級住居法の改正

害対立と地域での技術的な住宅用煤煙浄化に言及

1895 ・ハ ン タ ー ,ロ ー ンズ リー と ナ

シ ョナル ・ トラス トを設立

1897 ・地方税 に関す る王立委員会

か らの質問への 回答 で空気

浄化税を提案

1900 ・労働者階級住居法の改正

1905 ・救貧法王立諮問委員会で活躍

1906 ・オ ー プ ン ・ス ペ ー ス 法 制 定

1907 ・『経済学原理』(5版)で 建築 ・ナ シ ョナ ル ・ トラ ス ト法 の

物の建ぺい率および高さ規制 制定と空気浄化税の導入に言及

・「経済騎士道の社会的可能性」

でアメニテ ィ概念を明示

1909 。住居および都市計画法制定

(初 めて アメニ テ ィ概念 を用いて建築規制に言及)

..一 一.一....匿.「 「冒..「 ・一画一.一...一.

1912 ・ヒル死去

1919 ・『産業 と商業』 初版

1920 ・『経済学原理』8版(最 終版)

1924

..一..

・マ ー シ ャル 死 去

(707)127

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政経論叢 第71巻 第5・6号

こ とが,こ の質 問状 の送 付 の 背 景 と して 指 摘 で き る(Groenewegen,1990,

p.95)。 そ して ま た,マ ー シ ャル の課 題 で あ る労 働 者 の 住 環 境 問 題 と 当 時 の

税 制 改 革 論 の 接 点 も,こ の地 方 税,特 に都 市 の地 価 へ の課 税 に あ った。 マ ー

シ ャル は 回 答 の 中 で,次 の よ う に 「空 気 浄 化 税 」 の導 入 を 提 言 す る。

す な わ ち,人 口稠 密 な都市 に形 成 され る特殊 な地 価 に対 しては(そ れ をマ ー

シ ャル は1エ ー カ ー 当 た り300ポ ン ド以 上 とみ な す),ま ず 田 園 地 域 よ り も

重 い救 貧 税 を か け る こ とを主 張 す る。 そ して 清 浄 な空 気 と健 全 な 遊 技 場 を供

給 し,人 々 の 活気 と憩 い の場 を維 持 す るた め に,中 央 政府 の 管 理 下 で地 方 政

府 が こ れ らに支 出 す る際 の財 源 と して,「 空 気 浄 化 税 」 を こ う した 特 殊 な 地

価 に対 して追 加 的 に賦 課 せ よ と主 張 す る。 な お 中央 政 府 の 管理 とは,地 方 政

府 相 互 の 矛 盾(地 主 や企 業 の逃 避 な ど)の 調 整 を意 味 しよ う。 ま た以 上 を補

足 して,こ の 税 が 土 地 所 有 者 に とっ て,過:重 な負 担 に な らな い理 由 と して,

将 来 的 な 地 価 上 昇 に よ って彼 らの負 担 が 相 殺 され る こ とを示 唆 す る。 つ ま り,

こ う した 税 収 か らの支 出や 当 時 の先 駆 的 な非 政 府 組 織 で あ る首 都 圏公 園 協 会

の 支 出(こ れ は,お そ ら く当 協 会 が 公 園 の造 成 や 管 理 を行 うた め に募 る寄 付

を'その 財 源 とす る)が,既 に十 分 に幸 運 な土 地 所 有 者 の残 余 の 土 地 に対 す る

需 要 を い っそ う高 め る こ とで,新 た な 「富 の 無 償 の 贈 与 」 を も た らす こ と を

そ の理 由 と して あ げ て い る(Marshall .1890,pp.360-361)。

この よ うな 「空 気 浄 化 税」 の 提 言 にお いて 着 目す べ きは,第1に ,そ れ が

あ くまで も地 方 税(rate)で あ って 国 税(tax)で は な い 点 で あ る。 住 環 境

の質 を め ぐる 問 題 が,本 来 的 に地 域 社 会 の そ れ で あ る こ との 理 解 に 即 して い

るだ け で な く,G.K.フ ライ が 指摘 して い るよ うに,マ ー シ ャル は 一 般 に 中

央 政 府 よ り地 方 政府 に た の む と ころ が 多 か った か らで あ ろ う(Fry,1990,p.

298)。 こ の 点 で,後 に ピグ ー が 『厚 生経 済 学 』 で,住 環 境 問 題 を 含 む 公 私 の

限 界 純 生 産 物 の乖 離 の調 整 が,国 税(tax)や 国 か らの補 助 金 で 可 能 で あ る

と述 べ て い る こ と と対 蹟 的 で あ る(Pigou,1999,p.192)。 また 第2に,こ の

128(708)

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マーシャルにおける都市アメニティ保全の理論と政策

税が,都 市住環境への負の影響の緩和を目的とした,公 園の造成や管理といっ

た公共事業を自治体が実施する際の,財 源確保の目的税である点が高 く評価

されるべきである。それは上記のピグーの税が,単 に,環 境劣化を伴う生産

活動を課税によって量的に抑制することを主たる目的としている点と比較す

れば,い わゆる環境税の原点が,む しろ環境劣化に対する予防的且つ復元的

なマーシャルの 「空気浄化税」にあることを示唆 している。

以上のような 「地方税に関する王立委員会」の諮問への回答における 「空

気浄化税」の提案部分は,1907年 に 『原理』第5版 の改訂において,新 設

された付録Gに(課 税対象となる都市の敷地価格が1エ ーカー当たり200

ポンドに引き下げられた以外は),若 干の字句を変更 しただけで,ほ ぼその

まま再録された。そ してこの付録Gに おいては,次 に見 るように,都 市の

住環境問題に対する直接的な規制措置が積極的に提案されることになる。

4-2都 市における土地開発および建築への直接規制

『原 理』 第5版 の 付 録Gで は,上 述 の よ う に 「空 気 浄 化 税 」 の導 入 が,そ

の文 末 で提 言 さ れ た が,都 市 の 開発 に 関 わ る租 税措 置 と して,マ ー シ ャル は

そ れ以 前 の叙 述 に お い て,次 の よ うな 提言 を も行 って い る。 そ れ は第1に,

人 口密 集 地 域 で の不 動 産 へ の課 税 が,富 裕 階級 を郊 外 に 移転 させ(マ ー シ ャ

ル 自身 の幼 年 時 の転 居 を想 起 せ よ),都 市 ス ラ ムの 極 貧 者 へ の 生 活 保 護 費 用

を残 さ れ た労 働 者 階 級 に税 と して 負担 させ る場 合 に つ い て で あ る。 こ う した

場 合 に は,問 題 が拡 大 す る以 前 に,課 税地 域 を郊 外 ま で拡 大 す る こと によ り,

貧 困地 域 と富 裕 地 域 を 同一 の予 算 地 域 とす る こ とを,マ ー シ ャル は 解 決 策 の

一 つ と して提 示 して い る(Marshall,1907-a,p.798)。 第2に,い わ ゆ る 都

市 近 郊 の高 い資 産 価 値 を もつ 農 地 に つ い て は,地 代 を基 準 と した課 税 か ら,

実 勢 地 価 を基 準 と した課 税 へ と転 換 させ る こ と を 提 言 して い る(Marshall,

1907-a,p.799)。 さ ら に,こ の 後 者 の いわ ゆ る 「宅 地 なみ 課 税 」 に関 連 して,

(709)129

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政経論叢 第71巻 第5・6号

次 の よ う に開 発 促 進 地 域 と開 発 抑 制 地 域 の 「線 引 き」 の必 要 性 を マ ー シ ャル

は説 い て い る。 す な わ ち 「都 市 の 発 展 が そ れ に沿 って な さ れ る線 引 き を プ ラ 』

ンニ ン グす る際 に,地 方 当 局 の 側 で の 精 力 的 な行 動 が な さ れ な い以 上,拙 速

で不 適 切 な 建 築 が な され るで あ ろ う。 そ の 結 果,美 観 の喪 失 や お そ ら く健 康

上 の被 害 とい った 高 い代 償 を,次 世 代 の 人 々 に払 わ せ る こ と に な ろ う」 と警

告 す る(Marshall,1907-a,p.800)。 こ れ は 明 らか に,直 接 的 な ゾ ー ニ ン グ

規 制 の導 入 につ いて の 政 策 提 言 で あ る。 また さ らに,最 も活 発 な建 築 が 行 わ

れ るの は,空 き地 に既 に 「宅地 な み 課税 」 が 導 入 され て い る郊 外 で あ る と述

べ,そ して,そ こで の 建 築 は 条 例(bylows)に 依 存 す る で あ ろ う と し て,

そ の立 法 化 の 促 進 を 提 言 して い る。 つ ま り将 来 的 に は,あ らゆ る高 層 の 建 物

は,そ の前 方 部 分 の み な らず 後 方 部 分(当 然,左 右 の 部 分 も後 続 の 脚 注 で は

示 唆 され て い る)に,広 い空 き地 を 確保 す べ きで あ る(つ ま りセ ッ トバ ック

を す るべ きで あ る)と して,い わ ゆ る 「建 ぺ い率 規 制 」 の 導 入 を主 張 す る。

そ して後 続 の 脚 注 で は,具 体 的 な建 築事 例 を 仮 定 し,そ こで の 開 発 面 積 と建

物 の 高 さお よ び奥 行 き を設 定 し,「 地 面 か ら45度 の 角 度 で 真 っ直 ぐに空 を見

る こ との で き る」 た め に必 要 な,セ ッ トバ ッ クの距 離 を算 定 して い る(Mar-

shall,1907-a,p.800)。 この よ うな現 在 の先 進 諸 国 に共 通 す る土 地 開 発 お よ

び建 築 へ の直 接 規 制 を,既 に この 時 点 で提言 して い る ことに,我 々 はマ ー シ ャ

ル の先 駆 性 を 認 め る こ とが で き る。 しか しな が ら,こ う した提 言 に お け る規

制 の必 要 性 の 指 摘 それ 自体 は,マ ー シ ャル の 「倫 理 的 一経 済 的 」 な 問 題 把 握

の独 自性 と規 制 内 容 の 具 体 性 を 欠 い た ま ま,ピ グ ー に継 承 され る こ と に な る

(Pigou,1920,pp.194-195)(8)。 欠 落 す る の は,こ う した提 言 を支 え るマ ー シ ャ

ル 独 自の土 地 倫 理 で あ る。 そ して そ れ は,多 分 に ミル の土 地 倫 理 を継 承 して

お り,付 録Gで は引 き続 き次 の よ う に展 開 され る。

す な わ ちマ ー シ ャル に と って,土 地 は 他 の 形 態 の富 と異 な り,そ れ に関 わ

る立 法 が 将 来 の 世 代 へ の大 きな 責 任 を 負 う。 したが っ て 「経 済 的 お よ び倫 理

130(710)

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マー シャル にお ける都市 アメニ ティ保全の理論 と政策

的 な 観 点」 か ら,土 地 はい つ で もど こで も,そ れ 自身 が 独 自 な もの と み な さ

れ な け れ ば な らな い。 そ して 土 地 の 国 有 や 国 に よ る没 収 は,社 会 の 基 礎 を揺

るが す と して退 け つ つ も,国 家 の 介 入 に よ る空 気 と陽 光,そ して 余 暇 を過 ご

す共 有 空 間 の確 保 こそ が 必 要 で あ り,そ の 財 政 基 盤 が 必 要 で あ る と マ ー シ ャ

ル は主 張 す る(Marshall,1907-a,pp.802-803)。 「空 気 浄 化 税 」 の 導 入 に つ

い て の提 言 は,こ の よ うな土 地 倫 理 か ら導 か れ て い るの で あ る。

な お付 録Gを 新 設 した 『原 理 』 第5版 が 出版 され た1907年 は,マ ー シ ャ

ル に と って,翌1908年 に ケ ンブ リ ッ ジ大 学 の経 済 学 の教 授 ポ ス トを ピ グ ー

に禅 譲 す る こ と を控 え,ま た,引 退 記 念論 文 あ るい は集 大 成 論 文 と も言 うべ

き 「騎 士 道 論 文 」 を発 表 した年 で もあ った。 そ して 我 々 は,こ の 「騎 士道 論

文 」 か ら も,「 空 気 浄 化 税 」 導 入 の 提 言 を 「原 理 』 へ と収 録 す る 時 点 で の,

都 市 住 環 境 をめ ぐる 「倫 理 的一経 済 的 問 題」 に関 す るマ ー シ ャル の 到 達 点 が

どの よ うな もの で あ っ た か を うか が い知 る こ とが で き る。

マ ー シ ャル は 「騎 士 道 論 文 」 で,市 街 地 の急 速 な拡 大 に よ る次 世 代 の健 康

と幸 福 へ の 危 惧 が 公 的 機 関 に よ って 自覚 さ れ,ま た,そ の抑 制 に 関 す る計 画

の 必 要 性 も 自覚 され つ つ あ る と み なす 。 なぜ な らそ こで は,私 的 な努 力 が十

分 に及 ばな いゆ え に,公 的 な関 与 が不 可 欠 だ か らで あ る(Marshall,1907-b,

p.600)。 つ ま り,従 来 の 自由放 任 とは 「そ れ ぞ れ を して,自 らの力 で な さ し

め よ」 とい う意 味 で あ っ たが,新 た に そ こ に は 「政 府 自 らを して,不 可 欠 な

事 業 を,そ して 政府 以 外 に効 率 的 には な しえ な い事 業 を,な さ しめ よ」 と い

う意 味 を も付 加 す べ きで あ る こ とが主 張 さ れ る(Marshall,1907-b,p.601)。

これ が都 市 の土 地 お よび 住 環 境 と い った 「倫 理 的一経 済 的 問題」 への マ ー シ ャ

ル の最 終 回 答 で あ った と考 え て 良 い。

な お,こ の 「騎 士 道 論 文」 には,他 に も着 目す べ きい くつ か の言及 が あ る。

例 え ば,マ ー シ ャル は この論 文 で,お そ ら く経 済 学者 と して は 初 め て,大 気

や 陽光 や遊 技 場 や景 観 な どの い わ ゆ る住環 境 を 「ア メニ テ ィ」 と呼 ん で い る

(711)131

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政経論叢 第71巻 第5・6号

(Marshall,1907-b,p.605,p.609)。 ま た,「 空 気 浄 化税 」 に つ い て の 直 接 の言

及 は な い が,騎 士 道 精 神 に基 づ く富 裕 階級 か らの寄 付 が ア メニ テ ィの保 全 に

と って必 要 で あ る こ と に言 及 して い る。 そ して,当 時 ヒル が推 進 して い た都

市 部 で の緑 地 帯 の拡 大 事 業 に対 して も,こ う した寄 付 が な され るな らば,自

治 体 の 活 動 を援 助 す るで あ ろ うと指 摘 して い る(ibid.,p.609)。 最 後 に,マ ー

シ ャル の 提 言 す る都 市 部 で の 開 発 お よ び建 築 へ の 規 制 は,1909年 の 「住 居

お よ び都 市 計 画 法」 にお い で は じめ て,ア メ ニ テ ィ概 念 を 用 い て 条 文 化 され

た こ とを 付言 して お こ う。

5.お わ りにか え て

マーシャルの都市アメニティ保全 に関する理論 と政策についての以上の検

討から,理 論的および政策論的な含意を指摘 して論を結ぶこととしたい。既

に本稿の第3章 第1節 の3に おいて,マ ーシャルにおける財概念の構成と射

程について言及 した。そこではマーシャルの財の概念は,先 行するミルの富

概念の矛盾を克服 した点で,首 尾一貫 したものであった。また特に,通 行権

のような法や慣習が設定する権利自体を も財あるいは富とみなす彼の観点は,

現代 において もなお課題となっている,わ が国の 「入 り浜権」やその他の環

境便益の享受にかかわる市民的権利の設定を,国 民的視点からの富の拡張で

あるとみなすことを可能にし,そ れを積極的に支持す るものである。さらに,

そこには,法 や慣習 と経済との接点を見すえている点で,あ るいは,経 済学

の対象に権利それ自体を 「財」として包摂することを主張する点で,後 に,

生産要素の中に多様な権利を包摂させるべきであると主張するコースの視点

(Coase,1990-b,p.155)に 対 して,あ る種の先駆的な論点の提起であったと

いえよう。

しかしながら,マ ーシャルによる財概念の構成に際 しては,ジ ェヴォンズ

132「(712)

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マーシャルにおける都市アメニティ保全の理論と政策

の提起 した 「負の効用」を実体とする 「負の財貨」およびその具体的な事例

としての 「灰や汚水」をマーシャルが度外視 したことには,明 白な限界が指

摘できた。またそれゆえに,そ こには後続世代に残された理論的課題の所在

が示唆されている。さらにジェヴォンズの指摘には,後 に環境汚染物質を

「負の財(bads)」 とみなす ミシャンによっても,な お十分解明 されてはい

ない,マ ーシャルのいう 「倫理的一経済的問題」の根元についての示唆があ

る。それは既述のように,あ る労働は 「財(goods)」 と共 に同時に 「負の

財(bads)」 をも結合的に生産するという命題であ り,資 本の倫理(騎 士道

精神)の みな らず,労 働の倫理あるいは労働者のそれを問うものである。マー

シャルのこうした限界は,そ れが現代の環境経済学にこうした課題を投げか

けつつも,そ れが依然として未解決であることによって,か えってそこに逆

説的な理論的意義が認められるといえよう。

次に,'マーシャルの提案 した 「空気浄化税」は,ミ ルが土地所有者のキャ

ピタルゲインへの課税による財源を,部 分的に国有化する必要のある環境便

益性の高い入会地の取得と管理とに当てるべきであるとした構想を,都 市住

環境問題へ応用 したことにその起源が求められよう。つまり,ミ ルが田園地

域での自然環境の保存に要する社会的費用の負担論を展開 したのに対 して,

マーシャルは都市の住環境の保全に必要なオープン・スペースを確保 したり代

.替的に復元するための社会的費用の原資を 「空気浄化税」 に求めているので

ある。 この点に我々は,理 論的且つ政策的な相似を見いだすことができる(9)。

2000年 を前後 して,わ が国では地方 自治体の財源確保を主たる目的とし

て,環 境への負荷の大きい企業や消費者の経済行為,さ らには市民のレジャー

活動に対 して課税するいわゆる地方環境税の導入が議論 され,そ の一部が

2002年 の時点で既に導入されている。 しか しそれ らは多 くの場合,地 方税

であり,且 つある種の環境負荷を削減するものではあって も,負 荷を被る環

境それ自体の復元や隣接地での代替的な復元を目的とした公共事業へと,そ

(713)133

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政経論叢 第71巻第5・6号

の税収の使途が特定化されてはいない。ここに,わ が国の地方環境税が,マ ー

シャルの 「空気浄化税」とも,さ らには米国における純損失ゼロの ミチゲー

ション政策(m)とも異なって構想されている問題点を指摘 しておかなければ

ならない。マーシャルの 「空気浄化税」が地方税であ り,ピ グーのいわゆる

「環境税」が国税であることの区別の重要性は,ま さにこの復元視点の有無

なのである。

国際的かつ国民的な地球温暖化対策が叫ばれている状況下において,我 々

はマーシャル型の環境復元を目的とした地方環境税,た とえば温暖化対策に

使途を特定化 した地方環境税の導入こそを真剣に議論するべきであると考え

る。なぜならば,マ ーシャル型の地方環境税は,環 境価値の破壊を単に抑制

し.且つ復元するのみならず,積 極的に自然環境の純便益を創出する手段とも

なりうるからである。

《注 》

(1)室 田(1995)が 例 外 と して あ げ られ る。

(2)こ う し た評 価 は,お も に ケ イ ン ズ の 「マ ー シ ャル 伝 」(Keynes,198]一a,

pp.206-207)以 降 に 定着 した と考 え られ る。

(3)マ ー シ ャル の 『原 理』(初 版)の 財 に 関 す る議 論 にお い て,自 由 財 と し て の

気 候(水,大 気,陽 光,温 度 な どか ら構 成 され るそ れ)に つ い て は,主 と して

集合 的 な 消 費 財 と して の側 面 に 彼 は 着 白 して い る(Marshall,1890,pp.108-10

9)。 しか しな が ら,「 土 地 の篭 渡 」 に つ い て の叙 述(第4編 第2章)で は,初

版 以 来,個 別 農業 者 が生 産 過 程 で私 的 に享 受 す る 「熱 や光(や 空 気)」 を 比 喩

的 に 「年 収(annualincome)」 お よ び 「年 金(annuity)」 と マ ー シ ャル は 呼

ん で い る(ibid.,p.196,p。212)。 こ う した表 現 の起 源 を,コ ース の 指 摘(Coase,

1975,p.410)を 手 が か り と して た どれ ば,我 々 は そ れ を1889年 の お そ ら く7

月 に マ ー シ ャル か らJ.N.ケ イ ンズ に宛 て た手 紙 に見 い だす こ とが で き る。 そ こ

に は 「私 は 『所 得 』 を譲 渡 不 可 能 な 『財 」 に ま で 拡 張 す る」 と明 記 され て い る

か らで あ る(Whitaker,1996,p.30()。 こ の手 紙 は マ ー シ ャル が翌 年 に 『原理1

の 出版 を ひ か え,ケ イ ンズ が翌 々年 に 『経 済 学 の 領 域 と方 法」 の 出 版 を ひか え

て い た 時期 の もの で あ り,両 者 は そ れ ぞ れ の草 稿 を 交 換 して い る こ とが うか が

え る。 志 は い えJ.N.ケ イ ンズ は,彼 の著 書 の 初 版 第3章 第4節 「富 と 経 済 活

134(714)

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マー シャル におけ る都市 アメニテ ィ保全の理論 と政策

動の定義」 において,マ ー シャルの上 述の示唆 を受 け入れて いない。 よって彼

の富の概念 には気候 な どのマー シャルの言 う譲渡不可能財,つ ま り自由財が明

示的には含 まれていない(KeynesJ.N.,1891pp.90-97)。

(4)下 の グラ フは,ジ ェヴ ォンズが,『理論』 初版 の第5章 「労働 の理 論」 にお

いて提示 した,あ る生産 活動 における限界効 用曲線 と限界的な労働苦の曲線を

描 いた グラフに,『理論』第2版 第3章 の 「効用の理論 」で彼 が追加 した 「負

の効用」 および 「負 の財貨」部分 の叙述 内容 を社会的限界負効用曲線 と して付

加 した ものである。

生産物 の限界効用qmと 労働の限界負効用dmが(絶 対値 にお いて)相 等

しいx軸 上 の生産量mの 地 点が 「労働の理論」 における労働 の停止 点で あ る

が,社 会的限界負効用 を考慮すれ ば,労 働 の限界 負効 用に社 会的限界負効用を

加算 した数値d'mノ(正 確にはその絶対値)と 生 産物 の効用q/mノ とが等 しく

なるmノ の地点 まで生産量 を削減す る必要 が生 じている。 しか しなが ら,た と

え生産量を このm'に 削減 して も,社 会的 限界負効用 がなお残 存する場合 が十

分あ りうる。なぜな ら社会的限界負効用 は,ジ ェヴ ォンズの想定 す る一 時的で

ジェヴォンズの労働理論への社会的 限界負効用 の内部比

(効用)

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生産物の限界効用曲線

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'、 社 会的限界負効用曲線

\、 労 働の限界負効 用曲線'、(限 界労働苦)'、 十

社会 的限界負効 用曲線

(715).135

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政経論叢 第71巻 第5・6号

あ り且 つ非 累積的な(回 復可能 な)労 働の 「負の効用」 とは異な り,「 負 の物

財」(ジ ェヴ ォンズの事例 では 「灰 や汚水」)に 起因 する 「負の効 用」 であ るこ

とか ら,持 続 的且 つ累積 的に残存 するであろ う。つ ま り 「負の物 財」 は,お そ

ら くコモ ンズと しての共有空間 に廃棄 されたままそこに残 存 し,「 負 の効 用」

を第3者 に対 して及 ぼ し続 けることになろ う。

このことは,あ る種の技術革新 によ りこの 「負 の効用 物」 が市場 性 の あ る

「正 の効用物」 に転換 され(例 えば汚水 か ら肥料 を産 出する場合),よ って,そ

の生産 を担 う労働 が十分 に正の効用 を持 つにいた らないか ぎ り,社 会 は この残

存的且つ累積 的な 「負の物財」か らの 「負の効用」 をゼロにするために,特 殊

な労働の投入 を 「負 の効用」の被害者 か ら強 い られ ることになる。 ジ ェヴ ォン

ズに即 して言 えば,「灰や汚水」 を処理す る公的 な労働 の投 入 が社会 に対 して

要請 され るで あろう。

(5)コ ーツによれ ば,マ ー シャルの倫理的要素へ の配慮 は,シ ジウィ ックの経済

学 における 「科学」 と倫理 を含 む 「経済施策」 との 二分 法,J,N.ケ イ ンズ に

おけ る 「経済法則 の実証 研究」 と 「応用経済学」 と 「政策提言の ための倫理基

準」 の三分法 とは異 なる。 マー シャル はシジウィ ックとケインズ の区別 と異 な

り,単 に 「相対的 に純粋な科学」 と 「相対的 に応用的 な科学」に科学を二分 し,

経済 学は全体 と して は応 用科学で あるとみなすが,同 時 に純粋な科学の側面 に

は厳 密性を要請す るものであ った。 この点で コーツは,マ ーシャルの立場 がケ

ンブ リッジ大学の前任者,フ ォーセ ッ トのア プ ローチ に近 い とみ な して い る

(Coats,1990,pp.159-160)。 なお,こ の両者の類似性 は,フ ォーセ ッ トが ミル

と共 に入会地保存運動に関与 し,マ ー シャルが都市 住環境問題の解決を課題 に

してい る点,す なわ ちシジウィックがい うところの 「一国の社会的お よび政治

的な状 況に大 き く依存す る」実 践の場 を具体的 に想 定 しつつ,経 済 と倫理 の接

点 を探求 してい ることに起 因す ると考 え られ る。 ここか ら,ミ ル とフォーセ ッ

トの具体 的且つ実践的な 「経済 的一倫理的問題」 の探求者 と して の側面 を マ ー

シャルは適 切 に継承 してい るといえよ う。

(6)モ バ リー ・ベルの著 した ヒルについての伝 記によれば,ヒ ル は1878年 か ら

3年 間の外国での休息を 目的 とした旅 行か ら1880年 に帰 国 した。 そ して その

直後 か ら,煙 害防止問題 に取 り組んでい る。 ヒルは,こ う した煙害が,燃 焼効

率 の悪 さに起 因す ることを認識 していたので,こ の問題について世論を喚起 し,

人 々の空気 浄化への要求 を実現 させるためには,煙 害 のない使いやすい燃料 と

炉 とが安価 で供給 される必 要があ ると考えた。 そ して こうした状 況を作 り出す

ために,サ ウス ・ケ ンジン トンのかつての大英 博覧 会会場 を借 り,複 数の メー

カーが改良 型の燃料 と炉 を公 開す る展 示会を開催 した。 そ こには大学教授や研

136(716)

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マ ーシャル における都市 アメニ ティ保全の理論 と政策

究者のみでな く,マ ンチ ェスターなどの大都市 の役人 も参加 した。 しか しなが

ら,そ の後 ヒル は従来か らの労働者住宅 問題 に引き戻 されて しまい,煙 害 除去

の運動 を十分発展 させ ることが できなかった。 そのためにイギ リスでは,次 回

の煙害防止技術の展示会 までおよそ40年 を要 したようである。 そ してベルは,

この伝記 を執筆 した1942年 時点 で もなお,陽 光 を覆 い健康 を奪 う霧 に市 民 は

坤吟 していると記 している(BellE.Moberly,1942,pp.170-171)。

(7)こ う した事例 にとどま らず,1864に ラスキ ンの援助 を 受 けて ヒルが 労働者

住宅 の家主兼管理者 とな り,以 降,労 働者住宅 の供給 活動 に携わ った経験 と苦

労 を,マ ーシ.ヤルは丹念 にフ ォロ ー して い るよ うで ある。 例 えば1879年 の

・『産業経済学』初版 では1875年 にアメ リカで出版 された ヒルの著書 『ロン ドン

の貧困者 の住居』 と彼女 の活動 に言及 している。 さらに,『原 理』 に おい て も

1907年 の第5版 以 降,ヒ ルが1885年 に 「労働者 階級 の住宅 に関す る王 立諮 問

委員会」 で行 ったロ ン ドンの煤煙 についての証 言について,第6編 第12章 の脚

注でマー シャルは言及 している。 さ らに本文 で後述 するが,論 文 「経済騎士道

の社会 的可能性」 において もヒルの都市 部での緑地 帯造成計画に言及 している。

(8)ピ グーは,マ ー シャルの 「原理」 第5版 について の書 評 の 中で,付 録Gに

ついて も言及 している。 しか し,そ こに新たにマー シャルが追加 した 「空気浄

化税」 の導入 や具体 的な建築規 制の制度化について,そ の内容 にまで踏み込ん

だ評価 を ピグーはほ とん ど行 っていない。 ここには,マ ー シャルが課題 と して

担 った都市住環境 問題が,当 時の ピグーにはほ とん ど共有 されて いな いことが

示唆されている(Pigou,1907)。.と はいえ,ミ ルの田園地域の保存論 とマーシャ

ルの都市 アメニテ ィ保全論は,ピ グーを経てあ るいはピグ ー と共 に,J,M.ケ

イ ンズに問題意識 としては継承 されて いる。ケイ ンズは1933年 の 「国民 的 自

給経 済論」 にお いて以下の ように述べてい る。「自己破壊的 な金融 計 算 のル ー

ルが生活の行 く末を支配 してい る。我 々は 田舎の美 しさを破壊 している。 それ

は私的に所 有 されない 自然の輝 きが何 ら経済的価値 を持 っていないか らである。

我 々は太陽や星が配当を よこさないか らといって,そ れ らを見 えないよ うに し

かねないのであ る。 ロン ドンは文明史上,最 も豊か な都市 である。 しか し,そ

こに暮 らす市民が求あ る最高水準の 「実現』 に到達 しえ ていない。 なぜな らば

それは 『採算」が とれな いか らで ある。」(Keynes,1981-b,p.242)

(9)ミ ルにお ける潜在的な 「社会的損失」 および 「社会的費用」の理論のマーシャ

ルへ の継承 につ いて は,筆 者 の先行 論文 を参 照 され た い(大 森,2002,pp。

168-169)o

(10)ア メ リカの主 と して湿地 を対象 と した ミチゲーシ ョン政策 の概要 と意 義およ

び限界 につ いて は,新 津(1997)(1999)を 参照 され たい。

(717)137

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政経論叢 第71巻 第5・6号

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