中小企業にとってのマイナンバー制度とは€¦ ·...

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本原稿はマイナビニュースにおける連載「中小企業にとってのマイナンバー制度とは?」の第 1 回(2015 年 6 月 8 日掲載)から 第 9 回(2015 年 8 月 3 日掲載)までを再編集したものです。掲載当時と比較し、レイアウト、情報の更新などが加えられており ますことをご了承ください。 2015 9 月改修 ver01 中小企業にとってのマイナンバー制度とは? アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役マイナンバーエバンジェリスト 中尾 健一

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Page 1: 中小企業にとってのマイナンバー制度とは€¦ · マイナンバー制度に対応するために 4 どのような準備が必要となるのか 取扱担当者に対する必要かつ適切な監督や、適切な

本原稿はマイナビニュースにおける連載「中小企業にとってのマイナンバー制度とは?」の第 1 回(2015 年 6 月 8 日掲載)から

第 9 回(2015 年 8 月 3 日掲載)までを再編集したものです。掲載当時と比較し、レイアウト、情報の更新などが加えられており

ますことをご了承ください。

2015年 9月改修 ver01

中小企業にとってのマイナンバー制度とは?

アカウンティング・サース・ジャパン株式会社

取締役マイナンバーエバンジェリスト 中尾 健一

Page 2: 中小企業にとってのマイナンバー制度とは€¦ · マイナンバー制度に対応するために 4 どのような準備が必要となるのか 取扱担当者に対する必要かつ適切な監督や、適切な

マイナンバー制度はすべての中小企業に

影響があります

TV コマーシャルなどでも紹介されているマイナンバー

制度。個人レベルでは色々と便利になるように案内さ

れています。また、現在国会では、マイナンバーの民

間利用を進める法案が審議され、2018 年からは民間

利用が開始されるようになることから、こうした将来を見

据えた報道も増えてきました。(注:改正マイナンバー

法は平成 27年 9月 3日国会で可決、成立しました。)

その一方で、マイナンバー制度が事業者である中小

企業にどのような影響を与えるのかについては、まだ

まだ周知されているとはいえない状況ではないでしょう

か。いろいろな機関から発表されている事業者のマイ

ナンバー制度対応についての調査では、大企業の場

合fは準備を始めている状況がうかがえますが、中小

企業については、マイナンバー制度への理解も含め

て、まだこれからといった現状がうかがえます。

マイナンバー制度は、「行政手続における特定の個人

を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下

「番号法」2013 年(平成 25 年)5 月 31 日公布)という法

律などによって成立した制度です。法律名にあるとお

り、行政手続においてマイナンバー、すなわち個人を

識別するための番号を利用することになるわけですが、

ここに事業者がどのように係わることになるか、この点

の理解が進んでいないため、中小企業への周知や準

備が進んでいないのではないでしょうか。

毎年年末近くになるとサラリーマンなどが会社に提出

する「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」、今年

の年末から使用することになる「平成 28 年分 給与所

得者の扶養控除等(異動)申告書」の、現時点で国税

庁から公表されている書式(図 1)では、給与所得者で

あるサラリーマンなどの従業員本人はもちろん、扶養

親族の各氏名欄にマイナンバーを記入する欄が追加

される予定です。

この書類を集めることになる中小企業では、このマイナ

ンバー入りの書類を取り扱う以上、法律で規定された

ルールを守って雇用者のマイナンバーを取り扱う必要

があります。

(図 1)

平成28年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書イメージ

http://www.nta.go.jp/mynumberinfo/jizenjyoho/pdf/jizenjyo

ho07.pdf

つまり、個人情報保護法において扱う個人情報の数

により規制の対象とならなかった中小企業でも、マイナ

ンバー制度では「番号法」など関係法令の規制を受け

ることになるわけです。

特にマイナンバーを含む個人情報は、特定個人情報

として漏洩などについて厳しい罰則も設けられており、

中小企業でもルールをきちんと理解して対応を準備し

ていく必要があります。

第 1回 マイナンバー制度で中小企業の業務のここが変わる

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どの業務でマイナンバーの取り扱いが

必要になるのか

マイナンバー制度は「社会保障・税番号制度」とも呼

ばれ、中小企業で社会保障や税に係る業務を行うシ

ーンで、従業員一人ひとりに割り振られたマイナンバ

ーを取り扱うことになります。

中小企業の事業者にとって具体的にマイナンバーの

取り扱いが必要となる業務は、社会保障の分野では、

雇用保険や健康保険、厚生年金関連で行政機関や

健康保険組合などへ提出する諸手続き書類の作成、

提出。税の分野では源泉所得税に係る業務、なかで

もどの中小企業でも行われている給与計算業務がメイ

ンとなり、年末調整における源泉徴収票の作成、提出

といった業務でマイナンバーの取り扱いが必要になり

ます。

その他、外部の個人に依頼した業務で一定額以上の

支払いが発生するケースがあれば「報酬、料金、契約

金及び賞金の支払調書」を作成、提出するためにマイ

ナンバーを取り扱うことになります。

マイナンバー制度に対応するために

どのような準備が必要となるのか

これらのマイナンバーが記載されることになる書類の

作成、提出は 2016年(平成 28年)1月からとなっていま

す。また、住民票を有する個人に 2015 年 10 月 5 日よ

り市区町村よりマイナンバーの通知カードが送付され

ます。マイナンバーの送付開始まで、もう半年を切って

いますが、今からでも準備は遅くありません。(注:本稿

は 2015 年 6 月 8 日に掲載されました。)

まずは、前項であげた業務で、実際にマイナンバーを

取り扱う業務や特定個人情報の範囲を明確にし、マイ

ナンバーを取り扱う業務にあたる事務取扱担当者およ

び責任者を決めることです。

その上で、特定個人情報保護委員会(※1)が公表し

ている、「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイ

ドライン(事業者編)」(※2)を参考に必要な準備をして

いくことになります。

主な項目をあげると以下のようになります。

1.基本方針の策定

従業員に制度を周知させるためにも、策定することが

重要とされています。

2.取扱規定などの策定

特定個人情報の適正な取扱を確保するために策定し

ます。前項であげた業務についてすでに業務マニュア

ルなどがある場合は、それに特定個人情報の取り扱い

を明確化した項目を加えて作成することも考えられま

す。

3.組織的安全管理措置

担当者、責任者の明確化などの組織体制の整備や取

扱規定に基づく運用、取扱状況が分かる記録を作成、

保存するなどの措置。

4.人的安全管理措置

取扱担当者に対する必要かつ適切な監督や、適切な

教育を行うことなどの措置。

5.物理的安全管理措置

特定個人情報を取り扱う業務を行う区域、特定個人情

報ファイルを扱う情報システムを管理する管理区域と

特定個人情報を取り扱う事務を実施する取扱区域を

明確にし、管理区域に対しては入退室管理、取扱区

域に対しては間仕切りなどの安全管理を行うなどの措

置。

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6.技術的安全管理措置

担当者や責任者のみが特定個人情報ファイルにアク

セスできるように限定するアクセス制御を行うなどの措

置。

以上の項目を準備していくことになるわけですが、より

詳しい内容については次号以降でみていきます。

(※1)特定個人情報保護委員会は、個人番号その他の特定

個人情報の有用性に配慮しつつ、その適正な取扱いを確保

するために必要な措置を講ずることを任務とする内閣府外局

の第三者機関。

(※2)特定個人情報保護委員会 「特定個人情報の適正な

取扱いに関するガイドライン(事業者編)」

http://www.ppc.go.jp/files/pdf/261211guideline2.pdf

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前回は、今年 10月 5日に施行となる「マイナンバー制

度」がすべての中小企業に影響する制度であり、施行

前に準備を進める必要性についてみてきました。準備

を進めるにあたり、理解を深めるためにも、そもそもマ

イナンバー制度とはどのような制度なのか、その概要と

今後のスケジュールを整理してみましょう。

マイナンバー制度とは

政府公報のホームページ(※3)ではマイナンバーに

ついて、以下のように記述されています。

「国民一人ひとりが持つ 12 桁の個人番号のことです。

マイナンバー制度(社会保障・税番号制度)は、複数の

機関に存在する個人の情報を同一人の情報であると

いうことの確認を行うための基盤であり、社会保障・税

制度の効率性・透明性を高め、国民にとって利便性の

高い公平・公正な社会を実現するための社会基盤(イ

ンフラ)です。」

そしてメリットとして、「国民の利便性の向上 面倒な手

続きが簡単に」、「行政の効率化 手続きが正確で早く

なる」、「公平・公正な社会の実現 給付金などの不正

受給の防止」が掲げられています。

こうしたメリットの実現を目的に制定されたのが「行政

手続における特定の個人を識別するための番号の利

用等に関する法律」(以下「番号法」2013 年(平成 25

年)5 月 31 日公布)などの法律です。

そして現在国会では、このマイナンバーの民間利用を

可能にする法律が審議されており(注:改正マイナン

バー法は平成 27 年 9 月 3 日国会で可決、成立しまし

た)、個人や社会といったレベルでは、この番号制度

はこれから様々な利便性をもたらすことが想定されま

すが、今年、来年といったところでは、「番号法」の正

式名称にある通り、行政手続きに限定して運用が始ま

ることになっています。

この行政手続き、個人のレベルでは、例えば児童手当

の現況届の際に市町村にマイナンバーを提示すると

か、厚生年金の請求の際にマイナンバーを提示する

などの利用方法が予定されています。そのため、2016

年(平成 28年)1月からは、マイナンバーの提示の際に

利用できる個人番号カードの発行も、個人の申請によ

り行われるようになります。

事業者である中小企業では、前回みた通り、社会保障

や税の分野で、事業者として行わなければならない行

政手続きで、マイナンバーの記載が義務づけられる書

類の作成、提出に際して、マイナンバーを取り扱うこと

になります。

今後のスケジュール

2015年(平成 27年) 10月 5日

「番号法」施行、マイナンバー通知カード

送付開始

「番号法」は 2015 年(平成 27 年)10 月 5 日施行されま

す。

そして、この日からマイナンバーの通知カード(図 2)の

送付が始まります。住民票を有する個人宛に市区町

村からマイナンバーの通知カードや個人番号カードの

申請書などが簡易書留で送付されてきます。

住民票を有するすべての個人に対して簡易書留が送

付されるわけですから、実際に送付が完了するのは

11 月にずれ込むことも考えられます。

例えば、引っ越したにもかかわらず、住民票を移して

第 2回 マイナンバー制度の概要と今後のスケジュール

(※3)政府公報オンライン

http://www.gov-online.go.jp/tokusyu/mynumber/index.html

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ないようなケースでは、宛先の住所に本人がいないこ

とになりますので、送付元の市区町村に送り返されるこ

とになり、実際に本人に届かないような事態も起こり得

ます。従業員のマイナンバーを収集しなければならな

い事業者は、あらかじめ住民票の住所に住んでいるの

か、そうでない場合は、10 月までに住民票を移すよう

に従業員に注意を促す必要があります。

(図 2)

マイナンバー通知カードイメージ

2016年(平成 28年) 1月

個人番号カードの交付開始、

マイナンバーの利用開始

個人番号の通知後に、市区町村に申請すると、身分

証明書や様々なサービスに利用できる個人番号カー

ド(図 3)が 2016 年(平成 28 年)1 月より交付されます。

表面に顔写真や氏名、住所などが記載され、裏面に

マイナンバーが記載された個人番号カードは、e-Tax

などの電子申告・申請時の電子証明書としての利用

や図書館利用、印鑑登録証など、地方公共団体が条

例で定めるサービスにも利用できる予定です。

(図 3)

個人番号カードイメージ

なお、これに伴い住基カードの交付は終了することに

なります。

中小企業が行う行政手続きでのマイナンバーの利用

も 2016 年(平成 28 年)1 月よりスタートすることになりま

す。社会保障や税の分野で、早いものでは 1 月に従

業員などのマイナンバーを記載した書類の作成が必

要となるケース(例:退職所得の源泉徴収票など)もあり

ます。必要になった時点で都度該当する従業員から

のマイナンバーを収集するという方法も考えられます

が、マイナンバーの通知後時間が経ってしまうと、従業

員が通知カードを紛失するなど、マイナンバーの収集

がスムーズにいかないことも想定されます。

従業員のマイナンバーの収集は、通知カードが届い

た直後、少なくとも年内に行うのがベストな選択だと考

えられます。

2017年(平成 28年) 1月

「マイナポータル」運用開始

そして 2017 年(平成 29 年)1 月からは、自分の個人情

報のやりとりの記録が確認できる「マイナポータル」の

運用が開始される予定です。

この「マイナポータル」では、自分の個人情報をいつ、

誰が、何のために提供したのか、行政機関などが持っ

ている自分の個人情報の内容などが確認できる機能

が提供される予定です。そしてこの「マイナポータル」

の後には、「マイナポータル」を活用し、利便性の高い

オンラインサービスをパソコンや携帯端末など多様な

チャンネルで利用可能にする「マイガバメント」が構想

されています。ただし、この「マイガバメント」は現在政

府で検討段階であり、実際にどのようなオンラインサー

ビスが実現するのか、詳細が明らかになるのはこれか

らといったところです。(※4)

(※4)政府公報オンライン

http://www.gov-online.go.jp/tokusyu/mynumber/index.html

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前回は、マイナンバー制度とはどのような制度なのか、

その概要と今後のスケジュールを整理してみてきまし

た。マイナンバー制度のなかで中小企業は「個人番号

関係事務実施者」という役割をおうことになります。今

回は個人番号関係事務とはどのような事務なのか、そ

れを行う個人番号関係事務実施者に求められる役割

などをみていきます。

個人番号関係事務実施者とは

マイナンバー制度では、1 人でも従業員を雇用してい

ると他人のマイナンバーを取り扱うことになります。

特定個人情報保護委員会の「特定個人情報の適正な

取扱いに関するガイドライン(事業者編)」(以下「ガイド

ライン」)では、従業員を有する事業者、中小企業が、

他人のマイナンバーを取り扱うことを、個人番号関係

事務とよんでいます。

具体的には、従業員などのマイナンバーを源泉徴収

票や健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届な

どの書類に記載して、行政機関や健康保険組合など

に提出する事務が、個人番号関係事務に該当します。

そして、この事務をおこなう事業者や担当者および事

業者の委託を受けて個人番号関係事務をおこなうも

のを、個人番号関係事務実施者とよんでいます。

小規模な事業者であっても、法で定められた社会保

障や税などの手続きで、従業員などのマイナンバーを

取り扱うことになりますので、すべての中小企業が個人

番号関係事務実施者となります。小規模な事業者は、

個人情報保護法で定める義務の対象外ですが、番号

法で定められる義務は規模にかかわらず、すべての

中小企業に適用されることになります。

個人番号関係事務を適正に実施するために

知っておくべきこと

個人番号関係事務を適正に実施するためには、番号

法や「ガイドライン」で示されている「してはならないこ

と」、「しなければならないこと」をきちんと確認しておく

ことです。

この回では、「してはならないこと」を中心に、知ってお

くべきことを整理してみましょう。

マイナンバーの利用制限

マイナンバーの利用範囲は、法律に規定された社会

保障、税および災害対策に関する事務に限定されて

います。一般の中小企業の場合は、社会保障および

税の分野に限定されていると考えれば良いでしょう。

個人情報保護法では本人の同意があれば、他の用途

に個人情報を利用することができましたが、マイナンバ

ーはたとえ本人の同意があっても、社会保障および税

の事務以外で利用することはできません。たとえば、

社員番号にマイナンバーを流用することはできませ

ん。

マイナンバーの提供の求めの制限、

収集制限

利用に制限がありますので、従業員などにマイナンバ

ーの提供を求め、収集する場合も、社会保障および税

の事務を利用目的とする範囲でしか、提供を求めるこ

とおよび収集することはできません。

前項の例のように、社員管理のためにマイナンバーの

提供を求め、収集することはできません。

第 3回 すべての中小企業が「個人番号関係事務実施者」へ

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マイナンバーの提供制限

中小企業がマイナンバーを提供できるのは、社会保

障および税に関する事務のために従業員などのマイ

ナンバーを行政機関や健康保険組合などに提供する

場合に限られます。

たとえば、系列会社間で従業員が出向などで移動し

た場合に、系列会社間でマイナンバーを提供すること

はできません。この場合、出向先の会社は改めて本人

にマイナンバーの提供を求め、収集しなければなりま

せん。

マイナンバーの保管(廃棄)制限

マイナンバーは社会保障および税に関する事務を処

理するために収集、保管するわけですから、それらの

事務を行う必要がある場合に限り、保管し続けることが

できます。継続的な雇用契約がある場合、従業員など

から収集したマイナンバーを源泉徴収や健康保険・厚

生年金保険などの関連事務で翌年以降も継続的に利

用することが予定されますので、継続的に保管するこ

とができます。

ただし、講演や原稿などを依頼し、支払調書を作成す

るために、講演者や原稿の執筆者から提供を受けた

マイナンバーは、翌年以降同じ講演者や執筆者に依

頼する予定がない場合は、継続的に保管することはで

きません。こうしたケースでは、必要がなくなったマイナ

ンバーをできるだけ速やかに廃棄しなければなりませ

ん。

番号法の罰則規定

「ガイドライン」では、「しなければならない」および「し

てはならない」と記述されている事項について従わな

かった場合、法令違反と判断される可能性があるとし

ています。法令違反と判断されると、罰則が科される

可能性もでてきます。

番号法では、個人情報保護法よりも罰則の種類が多く、

法定刑も重くなっているので注意が必要です。

番号法で規定されている罰則には、国の行政機関や

地方公共団体の職員などを対象にしているものと、民

間事業者や個人を対象としているものがあります。

表1は民間事業者や個人を対象としている罰則規定と

対応する法定刑を整理したものです。

この中でも最も重い法定刑のものは、個人番号利用事

務、個人番号関係事務などに従事する者や従事して

いた者が、正当な理由なく、業務で取り扱う個人の秘

密が記録された特定個人情報ファイル(※5)を提供す

るケースで、4年以下の懲役または 200万円以下の罰

金となっています。

また、前項で取り上げた制限事項を守らず特定個人

情報保護委員会の命令を受け、それに違反したケー

スでも 2 年以下の懲役または 50 万円以下の罰金とな

っています。

個人番号関係事務実施者となるすべての中小企業で

は、限られたリソースのなかでマイナンバーを取り扱う

ことになりますが、罰則の適用を受けるような事態を避

けるためにも、マイナンバー制度への対応をしっかり

準備していかなければなりません。

(※5)特定個人情報ファイルは、個人番号をその内容に含

む個人情報ファイルのこと。(個人情報データベースなど)

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(表 1)

主体 行為 法定刑

個人番号利用事務、個人番号関係事務など

に従事する者や従事していた者

正当な理由なく、業務で取り扱う個人の秘密が記録された特定

個人情報ファイルを提供

4年以下の懲役 または

200万円以下の罰金

(併科されることもある)

業務に関して知り得たマイナンバーを自己や第三者の不正な利

益を図る目的で提供し、または盗用

3年以下の懲役 または

150万円以下の罰金

(併科されることもある)

主体の限定なし

人を欺き、暴行を加え、または脅迫することや財物の窃取、施設

への侵入、不正アクセス行為などによりマイナンバーを取得

3年以下の懲役 または

150万円以下の罰金

偽りその他不正の手段により通知カード又は個人番号カードの

交付を受けること

6か月以下の懲役 または

50万円以下の罰金

特定個人情報の取扱いに関して法令違反の

あった者 特定個人情報保護委員会の命令に違反

2年以下の懲役 または

50万円以下の罰金

特定個人情報保護委員会から報告や資料提

出の求め、質問、立入検査を受けた者

虚偽の報告、虚偽の資料提出、答弁や検査の拒否、検査妨害

など

1年以下の懲役 または

50万円以下の罰金

内閣官房 「マイナンバー 社会保障・税番号制度」 http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/faq/faq5.html

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前回は、マイナンバー制度のなかで中小企業は「個人

番号関係事務実施者」という役割をおうことになること、

個人番号関係事務とはどのような事務なのか、それを

行う個人番号関係事務実施者に求められる役割や「し

てはならないこと」などをみてきました。今回は、実際に

中小企業が「個人番号関係事務実施者」として行わな

ければならない実務の内容と、そのためにどのような

準備をしていけばよいのかをみていきましょう。

マイナンバーを

取り扱う事務の範囲を特定する(※6)

マイナンバーの取り扱いの準備で、まず行うべきは、

中小企業が実際に行っている事務のなかで、従業員

などのマイナンバーを取り扱う事務の範囲を確認し、

特定することです。

どの企業でも行われている従業員やその扶養親族の

マイナンバーが必要となる事務には以下のようなもの

があります。

雇用保険・健康保険・厚生年金保険関連

従業員の入退社に伴う「雇用保険被保険者資格取得

(喪失)届」、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格

取得(喪失)届」などを作成、提出する事務。

源泉所得税関連

年末調整に際し、従業員から給与所得者の扶養控除

等(異動)申告書などを受け取り、「源泉徴収票」や「給

与支払報告書」などを作成、提出する事務。

社員の退職にあたり、「退職所得の源泉徴収票」を作

成、提出する事務。

そのほか、従業員以外の個人のマイナンバーが必要

となるケースとして、以下のような支払調書の作成、提

出事務があります。

支払調書関連

税理士など士業への顧問報酬など源泉所得税の発生

する支払に伴い、支払調書(「報酬、料金、契約金及

び賞金の支払調書」)を作成、提出する事務。この場

合は支払先となる税理士などのマイナンバーが必要と

なります。

講演や原稿などを外部の第三者に依頼し、講演料や

原稿料など一定額以上の支払が発生するのに伴い、

支払調書(「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調

書」)を作成、提出する事務。この場合は、講演者や原

稿の執筆者のマイナンバーが必要となります。

事業所など不動産を借りている場合には「不動産の使

用料等の支払調書」を作成しますが、家主が個人の場

合は、家主のマイナンバーが必要となります。

中小企業でマイナンバーの取り扱いが想定される各

種書類の作成事務には上記のようなものがあります。

実際のどの書類の作成を行っているのか確認すること、

これがマイナンバーの取り扱う事務の範囲を特定する

ことになります。

第 4回 中小企業が「個人番号関係事務実施者」として行う

実務の内容と必要となる準備

(※6)ここにかかげた書類は、マイナンバーの記載が義務づ

けられる書類の一部です。くわしくは、以下のホームページ

でご確認ください。

【社会保障関連】 厚生労働省 「事業主の皆さまへ」

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/00000632

73.html

【税務関連】 国税庁 「国税の番号制度に関する情報」

http://www.nta.go.jp/mynumberinfo/jyoho.htm#kisai

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マイナンバーを取り扱うプロセスの確認

マイナンバーの記載が義務づけられる書類を作成、提

出するには、その書類で必要となるマイナンバーを収

集しなければなりません。

源泉徴収票の作成を例として、収集から保管、利用、

提出までのプロセスを確認しておきましょう。

従業員および扶養親族のマイナンバーの収集

事業者はマイナンバーの利用目的を明示した上で、

従業員に本人および扶養親族のマイナンバーの提供

をもとめ、全従業員からマイナンバーを収集します。収

集に際しては、従業員の本人確認も必要となります。

収集したマイナンバーの保管

収集したマイナンバーは、実際に利用するまで、保管

しておくことになります。多くの場合、サーバーやパソ

コンなどに電子データとして保管することになると考え

られますが、書面での保管も考えられます。

マイナンバーを利用した源泉徴収票の作成

平成 28 年分の給与所得の源泉徴収票から従業員本

人および扶養親族それぞれの個人番号欄が用意され

ます。平成 28 年分の源泉徴収票の作成にあたって、

それぞれの個人番号欄へ収集、保管していたマイナ

ンバーを記載することになります。(図 4)

(図 4)

平成 28 年分の給与所得の源泉徴収票イメージ

https://www.nta.go.jp/mynumberinfo/pdf/mynumber_modific

ation.pdf

マイナンバーを記載した源泉徴収票などの

提出

マイナンバーを記載した源泉徴収票は、「給与所得の

源泉徴収票等の法定調書合計表」に添付して税務署

へ提出することになります。また、従業員の居住する市

区町村には給与支払報告書(源泉徴収票とほぼ同様

式になると想定されます)を提出することになります。書

面で提出するか、電子データで提出(電子申請)するこ

とになります。

前項でマイナンバーの取り扱いが必要となる書類の作

成事務の範囲をみてきましたが、それぞれの書類の作

成にあたっては、上記のような、マイナンバーの収集、

保管、利用、提出というプロセスがあります。

マイナンバーの取り扱いが必要となる書類は、社会保

障と税の分野の書類ですが、実際に企業で作成して

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いるのか、それぞれの分野の専門家である社会保険

労務士や税理士に書類の作成を委託しているのかで

中小企業が果たすべき役割が異なってきます。

ただし、書類の作成を委託している場合でも、マイナ

ンバーの収集は中小企業の役割となりますので、「個

人番号関係事務実施者」としての責務はおうことに変

わりはありません。また、マイナンバーの記載が必要な

書類の作成を委託していることは、マイナンバーの取

り扱いを委託することにもなり、委託先である社会保険

労務士や税理士が適切にマイナンバーの管理をして

いるかを監督する義務も生じます。

準備はどこから始めていけば良いのか

中小企業によって、マイナンバーを取り扱う事務の範

囲や、マイナンバーを取り扱うプロセスで担う役割が異

なることはあっても、「個人番号関係事務実施者」とし

て共通して行うべき準備があります。それは、基本方

針および取扱規定の策定です。これらの策定は義務

ではありませんが、従業員へのマイナンバー制度の教

育という意味でも策定しておくことが重要です。

基本方針および取扱規定の策定に先立って、マイナ

ンバーの取り扱い事務に携わる事務取扱担当者およ

び責任者を決めておきます。

基本方針の策定

基本方針には以下のような事項を記載します。

●事業者の名称

●関係法令や「ガイドライン」(※7)を遵守してマイ

ナンバーおよびそれを含む特定個人情報の適切

な取り扱いを行うこと

●前項のために必要となる安全管理措置を適切に

講じること

●委託する場合はマイナンバーおよびそれを含む

特定個人情報の適切な取り扱いができる委託先を

選定し、委託先に対して適切な監督を行うこと

●質問などの問い合わせや苦情処理の窓口として

事務取扱担当者および責任者の明記

取扱規定の策定

取扱規定には、前項でみたプロセスに必要がなくなっ

たマイナンバーを削除・廃棄を行うプロセスも加えて、

各プロセスでの実際の取扱方法、取り扱いにあたって

事務取扱担当者および責任者の任務などを明確にし、

記載することになります。

次回以降、この取扱規定に記載すべきことを念頭にお

いて、各プロセスでの実務の詳細とそれに対応して準

備すべきことをみていきます。

(※7)特定個人情報保護委員会「特定個人情報の適正な取

扱いに関するガイドライン(事業者編)」

http://www.ppc.go.jp/files/pdf/261211guideline2.pdf

Page 13: 中小企業にとってのマイナンバー制度とは€¦ · マイナンバー制度に対応するために 4 どのような準備が必要となるのか 取扱担当者に対する必要かつ適切な監督や、適切な

前回は、中小企業が「個人番号関係事務実施者」とし

て行う実務の内容と必要となる準備についてみてきま

した。引き続き、必要となる準備を確認するために、マ

イナンバーを取り扱う各プロセスの実務の詳細と、それ

に応じて準備すべきことをみていきます。今回は、マイ

ナンバー取り扱いの最初のプロセスとなる従業員など

からの個人番号の収集のプロセスをみていきましょう。

従業員のマイナンバー、

まず収集時期を決める

中小企業が従業員などにマイナンバーの提供を求め、

収集する時期をいつにすべきかは、マイナンバー制

度で特に決められているわけではありません。いつま

でにという期限で考えれば、前回みてきた個人番号関

係事務でマイナンバーを記載しなければならない書類

を作成、提出する直前までにその書類に必要なマイ

ナンバーを収集しておけば良いことになります。源泉

徴収業務で考えると、退職者がでなければ、源泉徴収

票などにマイナンバーの記載が必要となるのは、平成

28年分の給与所得から、つまり平成 28年末の年末調

整業務で作成する源泉徴収票からとなりますが、では

来年のその時期に従業員などにマイナンバーの提供

を求めて、スムーズに収集することができるでしょう

か?

マイナンバーの通知カードが送付されるのは今年の

10 月からです。

1 年後の平成 28 年末では、従業員本人だけではなく

扶養親族の分までマイナンバーを収集することは、通

知カードの紛失などにより、より難しくなると考えられま

す。従業員などが通知カードの送付を受ける今年の

10 月から 11 月、この時期がマイナンバーを受け取る

すべての個人がマイナンバーをもっともよく認識する

時期でもあります。

以上のように考えれば、中小企業が従業員などにマイ

ナンバーの提供を求め、収集するベストな時期は、通

知カードが送付される今年の 10 月から 11 月です。ま

ず、マイナンバーの収集時期を通知カードが送付され

る今年の 10 月から 11 月を決めて、そのための準備を

進めていきましょう。

従業員にマイナンバーの提供を

求めるために準備すること

今年の10月から11月に、従業員に本人と扶養親族の

マイナンバーの提供を求めるために準備すべきことを

整理してみましょう。マイナンバーの事務取扱担当者

および責任者が、以下の準備にあたることになります。

従業員などにマイナンバーの提供を

求める案内をする

マイナンバーの利用目的(雇用保険・健康保険・厚生

年金保険関連の手続き、源泉所得税関連の手続き)

を明示した上で、マイナンバーの収集を、各個人にマ

イナンバーが送付される今年 10 月以降に行うことを、

まず従業員などに案内することから始めましょう。その

際、政府公報などのホームページを参考に、マイナン

バー制度の意義や目的なども文書に盛り込むことで、

より従業員などにマイナンバーへの理解を深めておく

ことが大事です。文書だけではなかなか伝わらないこ

とも考えられますので、政府が提供しているインターネ

第 5回 従業員からの個人番号の収集、知っておくべきルールと

収集方法の検討

Page 14: 中小企業にとってのマイナンバー制度とは€¦ · マイナンバー制度に対応するために 4 どのような準備が必要となるのか 取扱担当者に対する必要かつ適切な監督や、適切な

ットテレビ(※8)を活用して、従業員などにマイナンバ

ーについて研修する機会を設けることをお勧めしま

す。

(※8)政府インターネットテレビ

「マイナンバー 社会保障・税番号制度が始まります」

<個人向け編>

http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg11626.html

「マイナンバー 社会保障・税番号制度が始まります」

<事業者向け編>

http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg11625.html

案内する際にあらかじめ従業員などに

注意しておくべきこと

上記の案内をする際に、以下の注意事項も盛り込ん

でおきましょう。

●住所票と現在の居住地がことなる場合

入社後に引っ越ししている従業員が、住民票を移す

のを忘れているようなケースでは、現在居住している

住所にマイナンバーの通知カードが届かず、収集を行

う時期までに通知カードが手元に届いていないという

事態が起こります。このように現在の居住地と住民票

住所が異なる従業員には、早めに住民票の移動を行

うように促す必要があります。

(東日本大震災や DV などで住民票の住所に居住で

きないやむを得ない事情がある場合は平成 27年 9月

25日までに現在の居所を届け出ることで、現在の居所

で通知カードを受け取ることができます。)

●同居していない扶養親族がいる場合

従業員の扶養親族がすべて同居している場合は、マ

イナンバーは世帯単位で送られてきますので、従業員

が扶養親族まで含めたマイナンバーをスムーズに提

供することができます。一方、同居していない両親など

を扶養している場合は、両親の分の通知カードのコピ

ーなどをあらかじめ送付してもらうなどの準備を該当す

る従業員にしてもらう必要があります。

以上のような従業員などに対する案内は、実際に収集

を行う時期がくるまで、繰り返し行い、スムーズに収集

が行えるように準備していくことが大事です。

なお、中小企業が社会保障や税に関連する事務のた

めに収集しなければならないマイナンバーは、正規雇

用の従業員だけではなくパートやアルバイトの方の分

も対象となります。ただし、派遣社員の場合は派遣会

社にマイナンバーを提供することになりますので、派

遣社員にマイナンバーの提供を求めることはできませ

ん。その点も留意して案内していくことになります。

従業員などのマイナンバーの収集にあたって

守らなければならないルール

中小企業がマイナンバーを記載して作成、提出しなけ

ればならない書類を書面で作成しているのか、パソコ

ンなどで電子データとして作成しているのかによって、

収集方法も異なってきます。ただし、いずれのケース

でも収集に当たって守らなければならないルールがあ

ります。

それは、利用目的の明示と本人確認です。

利用目的の明示については、従業員などに対する事

前の案内で示していれば、それを再確認することで大

丈夫です。

では、本人確認ですが、これは番号確認と身元確認を

あわせておこなうこととされています。平成 28年 1月以

Page 15: 中小企業にとってのマイナンバー制度とは€¦ · マイナンバー制度に対応するために 4 どのような準備が必要となるのか 取扱担当者に対する必要かつ適切な監督や、適切な

降発行される予定の個人番号カードであれば、このカ

ードだけで番号確認、身元確認をおこなうことができま

すが、収集を今年の 10 月から 11 月におこなうのであ

れば、この個人番号カードによることはできません。年

内に収集をおこなう場合の原則的な本人確認方法とし

て、「マイナンバーの通知カード+運転免許証」などの

組み合わせが推奨されています。ただし、従業員など

雇用関係にあるもので、雇用契約時に身元確認がお

こなわれている場合は、人違いではないことが明らか

であると事務取扱担当者または責任者が認めれば、

身元確認のための書類の提示は必要がないとされて

いますので、通常は収集時番号確認のみおこなえば

よいことになります。

(図 5)

https://www.nta.go.jp/mynumberinfo/pdf/kakunin.pdf

なお、扶養親族の本人確認は、従業員がおこなうこと

になっていますので、中小企業側で扶養親族の本人

確認までおこなう必要はありません。

ただし、扶養親族のマイナンバーの正しさを担保する

ために、扶養親族の通知カードのコピーなどの提示を

求めることは可能です。

収集方法と考慮すべき安全管理措置

マイナンバーを記載して作成、提出しなければならな

い書類を書面で作成している場合は、収集も書面で

おこなうことになるのでしょうが、書面での収集、保管

は電子データでおこなう場合に比べて漏洩、紛失など

のリスクが高くなります。中小企業でもさまざまな事務

にパソコンを利用しているのであれば、収集時から電

子データにしていく方法をとりたいものです。

以下、電子データ、書面での具体的な収集方法と考

慮すべき安全管理措置をみておきましょう。

収集時に電子データとして入力、

保管する方法

第 1回に記載したとおり、今年の年末調整時に従業員

などが提出する「平成 28 年分 給与所得者の扶養控

除等(異動)申告書」から本人および扶養親族の氏名

欄にマイナンバーを記入する欄が追加されます。

ただし、国税庁の「国税分野における FAQ」(※9)内

の解説によると、「平成28年分の扶養控除等申告書を

平成 27 年中に源泉徴収義務者に提出する場合、そ

の申告書に給与所得者本人等の個人番号を記載す

る必要はありません。」としています。

マイナンバーが記載された書類は施錠可能な書庫な

どで厳重に管理することが求められますので、収集時

にパソコンなどに入力し電子データとして保管する方

法を取る場合は、平成 28 年分の扶養控除等申告書

への個人番号の記載は求めず、従業員などから扶養

親族の分も含めた通知カードを提供してもらい、それ

を確認しながら事務取扱担当者または責任者が個人

番号を入力する方法を考えましょう。ただし、この方法

Page 16: 中小企業にとってのマイナンバー制度とは€¦ · マイナンバー制度に対応するために 4 どのような準備が必要となるのか 取扱担当者に対する必要かつ適切な監督や、適切な

では一時的ではあれ通知カードを預かることになり、こ

れらの通知カードは従業員などに返還するまで施錠

可能な書庫などで厳重に管理することが求められま

す。

可能であれば、事務取扱担当者または責任者が番号

確認のために立ち会い、本人に入力してもらう方法が

とれれば、通知カードを預かる必要もありませんので、

より良い方法となります。

なお、収集したマイナンバーの正しさをのちのちも担

保するために、提示された通知カードをその場で画像

データにして登録しておくことができると、のちのちま

でマイナンバーの正確さを担保することができますの

で、このような対応は検討しておきたい大事なポイント

になります。

そして、入力された従業員などのマイナンバーデータ

は事務取扱者および責任者以外は、みたり印刷したり

できないようにする必要があります。

書面で収集、書面で保管する方法

どうしても書面でマイナンバーを収集するしかない場

合は、通知カードのコピーを集める方法もありますが、

これでは施錠可能な書庫などで厳重に管理しなけれ

ばならないことに加えて、従業員本人および扶養親族

の分を関連づけて保管しなければならない手間も増え

てしまいます。

前項でみた「国税分野における FAQ」では、平成 28

年 1 月より前であっても、従業員などに対し、平成 28

年分の扶養控除等申告書に従業員本人などの個人

番号を記載するよう求めても差し支えないとしています。

どうしても書面で収集、保管するしかない場合は、個

人番号欄が設けられた「平成 28 年分 給与所得者の

扶養控除等(異動)申告書」に個人番号を記載してもら

い、提出時に従業員本人および扶養親族の通知カー

ドの提示を求めて番号確認をおこなう方法をとることが

ベターな方法といえます。

この場合、提出を受けた扶養控除等申告書は、施錠

可能な書庫などで厳重に管理し、事務取扱担当者お

よび責任者以外はみることができないように管理する

必要があります。

なお、この場合は、のちのちまでマイナンバーの正しさ

を担保することは難しくなりますので、本人確認時によ

り厳格に番号確認をしておく必要があります。

次回は、収集したマイナンバーの保管から利用、提出

までのプロセスを確認し、必要となる安全管理措置に

ついてより詳細にみていきます。

(※9) 国税庁

https://www.nta.go.jp/mynumberinfo/FAQ/04kokuze

ikankei.htm

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前回は、中小企業がマイナンバーを取り扱う最初のプ

ロセスとなる従業員などからの個人番号の収集のプロ

セスにむけて準備しておくことや収集方法などについ

てみてきました。引き続き、マイナンバーの保管から利

用までのシーンで求められる安全管理措置と、そのた

めに何をしなければならないのかをみていきましょう。

マイナンバーの保管・廃棄、利用・提供の

ルールを再確認

従業員などから収集したマイナンバーは、電子データ

であれ、書面であれ、マイナンバーの記載が義務付け

られている書類の作成に利用するまで、保管しておく

ことになります。

源泉徴収票などの作成を利用目的に収集した従業員

などのマイナンバーは、雇用が続く限り継続的に利用

されることが予定されますので、保管し続けることがで

きます。ただし、講演料や原稿執筆料などで支払調書

の作成を利用目的に収集した講演者や執筆者のマイ

ナンバーは、講演や原稿執筆が単発の依頼であれば

保管し続けることはできず、支払調書作成後は速やか

に廃棄しなければなりません。また、保存期限が決め

られているマイナンバー記載の書類の場合は、保存

期限終了後は、速やかに廃棄する必要があります。電

子データとしてマイナンバーを保管している場合、例

えば退職者のように継続的な利用が予定されなくなっ

た場合でも、利用目的とする書類の保存期限にあわ

せてデータを廃棄することになります。

また、マイナンバーの利用・提供は、源泉徴収票や給

与支払報告書などのように税務署や地方自治体など

の行政機関、社会保障関連では健康保険組合などに

提供する場合に限られます。要は、収集時に利用目

的として明示した用途以外では利用・提供はできない

ということです。

ここで、ひとつ気をつけておきたいことは、従業員が所

得証明のために源泉徴収票を金融機関などに提供す

る場合です。平成 28年分の給与所得から源泉徴収票

へのマイナンバーの記載が必要となり、本人へ交付す

る源泉徴収票にも原則本人および扶養親族のマイナ

ンバーを記載することとされています。では、従業員が

所得証明のために金融機関へ源泉徴収票を提出する

場合、マイナンバーが記載された源泉徴収票を提出

することになるのかというと、それは番号法で決められ

た利用・提供ではないため、記載されているマイナン

バーを確認できない程度にマスキングして提供しなけ

ればならないとされています。こうした点をあらかじめ

従業員に周知させることも大事ですが、本人の希望が

あればマイナンバーを記載しない源泉徴収票を発行

するということもできますので、従業員から所得証明の

ために源泉徴収票の再発行を求められた場合に備え

て、そのような対処もできるようにしておくと、従業員に

対して親切な対応となるのではないでしょうか。

マイナンバーの保管、利用シーンで

求められる安全管理措置

では、マイナンバーを保管、利用するシーンで必要と

なる安全管理措置について、「特定個人情報の取り扱

いに関するガイドライン」(特定個人情報委員会:以下

「ガイドライン」)にそって確認していきましょう。

マイナンバーを電子データで保管、

利用する場合の物理的安全管理措置

まず「ガイドライン」で物理的安全管理措置といわれて

いる安全管理措置をみていきましょう。

第 6~7回 マイナンバーの保管、利用シーンで求められる安全管理

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マイナンバーを登録・保管している情報システム、具

体的にはサーバーやパソコンが設置されている区域

を「ガイドライン」では「管理区域」とし、サーバールー

ムなどとして他のスペースと区切り施錠して入退室も管

理できるようにすることを安全管理措置の一例として例

示しています。

また、マイナンバーを取り扱う事務を行う区域、例えば

個人番号欄が用意された書類を作成するためにマイ

ナンバーが表示された状態でパソコン操作をするとか、

マイナンバーが入力された書類を印刷するなどの作

業を行う区域を「ガイドライン」では「取扱区域」とし、通

常の事務スペースとの間をパーテーションで区切るこ

となどを例示しています。

さらに、マイナンバーを登録、保管しているサーバー

やパソコンの盗難防止のための安全管理措置として、

セキュリティワイヤーで固定することなども例示されて

います。

上記で取り上げた例示はあくまで「ガイドライン」で示さ

れている例ですので、実際はそれぞれの中小企業の

実態に即した安全管理措置をとればよいわけですが、

どこまでやればよいのかという目安をきめることは難し

いものがあります。

例えば小規模な企業でパソコン 1台にマイナンバーを

登録、保管している場合、施錠できる部屋を新たに作

りそこにパソコンを設置し、その部屋の入退室まで管

理しなければならないかというと、必ずしもそこまでの

措置が求められているわけではありません。要は、マイ

ナンバーの漏洩や紛失を防ぐために、その企業規模

に応じてできる安全管理措置を取ることが大事です。

このようなケースでは、「管理区域」と「取扱区域」は区

別せず、マイナンバーを保管し利用するために作業す

るパソコンは、作業時はマイナンバーの取扱担当者や

責任者以外は画面を覗き見されないような位置に配

置して作業し、使用しないときは施錠できる場所に収

納し鍵の管理を責任者が行うといったやり方も、中小

企業として取りうる物理的安全管理措置のあり方のひ

とつといえます。

なお、マイナンバーが記載された書類を保管する場合

は、必ず施錠できる書棚に保管すること、これも大事な

物理的安全管理措置のひとつになります。

マイナンバーを電子データで保管、

利用する場合の技術的安全管理措置

次に「ガイドライン」で技術的安全管理措置といわれて

いる安全管理措置についてみていきましょう。

技術的安全管理措置は、電子データとして登録・保管

されているマイナンバーへのアクセス制御を行うこと、

これがメインとなります。給与計算などに使用されてい

るパッケージソフトでは、マイナンバーを登録できる機

能を追加するとともに、給与計算を利用できるユーザ

ーID にアクセス権限を設定できる機能なども追加して

くるものと予想されます。こうした機能があれば、これら

を適切に使用することでアクセス制御を行えばよいこと

になります。

給与計算に表計算を利用しているなど、アプリケーシ

ョンレベルでアクセス制御ができない場合は、パソコン

に標準装備されているユーザーアカウントの制御機能

(パソコン起動時などにユーザーアカウントとパスワード

によるログインが求められる機能)を利用することで、ア

クセス制御を行うことも技術的安全管理措置となりま

す。

いずれのケースでも大事なことは、ユーザーID やユー

ザーアカウントは取扱担当者や責任者一人一人にひ

とつずつ設定し、ひとつの IDやアカウントを使いまわし

しないこと。また、パスワードは第三者に漏れることが

Page 19: 中小企業にとってのマイナンバー制度とは€¦ · マイナンバー制度に対応するために 4 どのような準備が必要となるのか 取扱担当者に対する必要かつ適切な監督や、適切な

ないように適切に管理することです。

プロセスをとおした安全管理措置の整理

マイナンバーの収集から、保管・廃棄、利用・提供、各

プロセスのルールや求められる安全管理措置をみて

きましたが、安全管理措置全体を再度整理しておきま

しょう。

安全管理措置には、組織的・人的・物理的・技術的の

4 つがあります。

組織的安全管理措置

まず、マイナンバーの取扱担当者や責任者を決め、

基本方針や取扱規定を作成します。

取扱規定には、各プロセスで実施する事務作業の方

法を明記し、同時に安全管理措置に基づいて運用し

ていくことを明記しておきます。

そして実際に取扱規定に基づく運用が行われている

ことが確認できるように、マイナンバーが含まれる特定

個人情報ファイルの利用や出力状況の記録(誰がい

つ誰のマイナンバーにどのような操作をしたのかなど

を内容とする記録)を残していくことが組織的安全管理

措置では求められます。

人的安全管理措置

中小企業などの事業者が、取扱担当者を適切に監督

し、適正な取り扱いができるように教育すること、これが

人的安全管理措置となります。

教育については、取扱担当者だけでなくマイナンバー

の取扱に対する他の従業員の理解を得るためにも、で

きれば従業員全員に、以前とりあげた政府インターネ

ットテレビなどを活用して教育を行うことで、社内でスム

ーズにマイナンバーを取り扱う環境づくりを行うことが

望まれます。

また、マイナンバーを含む特定個人情報などについて

の秘密保持に関する事項を、就業規則などに盛り込

むことも、人的安全管理措置のひとつとなります。

物理的安全管理措置

マイナンバーを電子データで取り扱う場合の、物理的

安全管理措置は先にみた通りですが、上記で触れな

かった措置も含めて、もう一度ここで整理しておきまし

ょう。

●マイナンバーなどを取り扱う区域を他のスペースと

パーテーションなどで区切るなどの管理を行う。

●マイナンバーを登録したパソコンや電子媒体、マイ

ナンバーを記載した書類を盗難などから防止するため

に、パソコンはセキュリティワイヤーで固定するかまた

は施錠できる場所に収納、保管する。電子媒体や書

類なども施錠できる書棚などに保管する。

●マイナンバーを登録した電子媒体などを持ち出す

場合は漏えいなどを防ぐためにデータの暗号化やパ

スワードによる保護などの方策を講じる。

●マイナンバーを記載した書類を持ち出す場合は、

封筒に封入してからカバンにいれて運ぶなどの方策を

講じる。

●保管しているマイナンバーが必要なくなったり、法令

などで定められている保存期間を経過した場合は、マ

イナンバーを復元できない手段で削除または廃棄す

る。

Page 20: 中小企業にとってのマイナンバー制度とは€¦ · マイナンバー制度に対応するために 4 どのような準備が必要となるのか 取扱担当者に対する必要かつ適切な監督や、適切な

技術的安全管理措置

技術的安全管理措置についても、物理的安全管理措

置同様に、ここで整理しておきましょう。

●個人番号関係事務で取り扱う特定個人情報ファイ

ルの取り扱い範囲を限定するために担当者および責

任者のみにアクセスを制御する。具体的にはユーザー

ID、パスワードなどでアクセス権を認証するなどの方策

を講じる。

●外部からの不正アクセスをファイアウォールなどで

遮断する。

●ウィルスによるデータ漏えいに備えて、ウィルス対策

ソフトウェアを導入する。

以上、みてきました安全管理措置を企業の規模や実

態に合わせて準備していかなければなりません。

そして、この準備が整ってはじめて、マイナンバーの収

集から始まるマイナンバーの取り扱いのプロセスを進

めていくことができるわけです。

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前回は、マイナンバーの保管から利用までのシーンで

求められる安全管理措置と、そのために何をしなけれ

ばならないのかをみてきました。

これまでの流れの中で、中小企業が源泉徴収票の作

成など年末調整業務や社会保障関連の書類作成を

行うことを前提に、準備しなければならないことなどが

みえてきたのではないでしょうか。

しかし、多くの中小企業では、これらの業務を税理士

や社会保険労務士に委託しているのが実際です。

今回は、マイナンバーの取り扱いを税理士事務所など

に委託する場合の注意点や相互の役割分担により安

全に運用するためのポイントなどをみていきます。

マイナンバー委託についてのルール

中小企業がマイナンバーの取り扱いを税理士事務所

などに委託する場合、中小企業は委託先となる税理

士事務所において、安全管理措置などが講じられるよ

う必要かつ適切な監督を行う必要があります。

「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン

(事業者編)」(特定個人情報保護委員会 以下「ガイド

ライン」)では、この「必要かつ適切な監督」について以

下の 3 つをあげています。

委託先の適切な選定

委託先の選定にあたって、事業者自らが果たすべき

安全管理措置と同等の措置が講じられているかどうか、

あらかじめ確認しなければなりません。

安全管理措置に関する委託契約の締結

契約内容として、秘密保持義務やマイナンバーを含む

特定個人情報の目的外利用の禁止、再委託する場合

の条件、漏えいなどが発生した場合の委託先の責任

などを盛り込んだ契約を結ぶ必要があります。

委託先における

特定個人情報の取扱状況の把握

委託した特定個人情報が、安全管理措置のもと委託

契約にそって適切に取り扱われているか、その状況を

把握できるようにする必要があります。

委託する場合は税理士事務所などに

まず相談することから始める

「ガイドライン」が示す委託についてのルールは上記の

とおりですが、実際に従来から年末調整などを税理士

事務所に委託している多くの中小企業では、そのまま

同じ税理士事務所に従業員などのマイナンバーの取

り扱いも委託することになると考えられます。

税理士の方々の集まりである日本税理士会連合会で

は、このマイナンバー制度、特にマイナンバーの取り

扱いについて早くから問題意識をもって取り組み、「税

理士のためのマイナンバー対応ガイドブック」を発行、

全税理士に発送するとともに、研修会などを通して、マ

イナンバー制度への理解を促し、税理士が中小企業

からの委託を受けるための対応など取り組みを早めに

進められるように活動されています。年末調整だけで

なく所得税など個人の税務関連でもマイナンバーを取

り扱うことになる税理士事務所では、大量のマイナンバ

ーを取り扱うことになりますので、事務所での対応準備

に加えて、顧問先である中小企業に対してもどのよう

な準備をすれば良いのかなど、すでに案内を始めて

いる事務所も多いようです。

第 8回 マイナンバーの取り扱いを税理士事務所などに委託する場合

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従来から企業として法人税などの税務代理をお願いし、

年末調整も依頼している場合、経理指導や税務につ

いてのアドバイスを税理士事務所から受ける立場の中

小企業が、マイナンバーの取り扱いについては税理

士事務所を監督する立場となるわけですが、実際にど

のようにすれば良いのか、顧問の税理士事務所に相

談することからまず始めましょう。

現実的な役割分担を決める

年末調整業務を税理士事務所に委託する場合を例に、

中小企業と税理士事務所でどのように役割を分担す

ることになるのか考えてみましょう。

マイナンバーの取り扱いでは、収集・保管(廃棄)・利用

といったプロセスを経て、最終的に番号法で決められ

た利用目的に即してマイナンバーを記載した源泉徴

収票などを行政機関に提出することになります。

従来税理士事務所が、年末調整業務として、中小企

業の従業員や扶養親族の情報をパソコンなどに登録

し、1 年分の給与所得などを入力して源泉徴収票など

を作成し税務署に提出するまでの業務を請け負って

いるとすると、マイナンバーの保管(廃棄)・利用・提供と

いうプロセスは、税理士事務所が行うことになります。

では、従業員から本人および扶養親族のマイナンバ

ーを収集するというプロセスは、どちらが行うことにす

べきでしょうか。

収集に際して必須となる本人確認において、継続的な

雇用関係にあり人違いでないことを企業の取扱事務

担当者または責任者が確認すれば身元確認書類は

不要とされていますので、従業員に身元確認書類を

用意させる手間を省くためにも、中小企業側で収集を

行うほうが良いと考えられます。

役割分担に応じた準備と

考慮すべき安全管理措置

収集は中小企業で、保管(廃棄)・利用・提供は税理士

事務所でと役割分担した場合、中小企業側ではどの

ような準備をしていけばよいでしょうか。

従業員からの収集にあたっての準備の詳細は、「第 5

回 従業員からの個人番号の収集、知っておくべきル

ールと収集方法の検討」でみたとおりですが、従業員

への案内の方法や利用目的として明示する内容につ

いては、あらためて税理士事務所と相談しておくのが

よいでしょう。

その上で、収集方法や収集した従業員のマイナンバ

ーの受け渡し方法を税理士事務所と相談して決めま

しょう。

例えば、収集時に表計算ソフトなどを利用して電子デ

ータとして登録する場合は、USBメモリーなどで受け渡

す方法などが考えられます。この場合、税理士事務所

に渡したあと、中小企業側ではマイナンバーの利用用

途がないのであれば、税理士事務所できちんと保管さ

れていることを確認し、一旦登録した従業員のマイナ

ンバーは破棄してしまえば、保管に関する安全管理措

置までは必要ないことになります。

書面で収集する場合、従業員から「給与所得者の扶

養控除等(異動)申告書」にマイナンバーを記載して提

出させる方法が考えられますが、コピーを税理士事務

所に渡し、原本は中小企業で保管しなければなりませ

んので、施錠できる書庫などに保管するなどの安全管

理措置は必要となります。

いずれの方法をとる場合でも、受け渡しに際してマイ

ナンバーを持ち出す際のリスクを軽減するために安全

管理措置を講じる必要はあります。

Page 23: 中小企業にとってのマイナンバー制度とは€¦ · マイナンバー制度に対応するために 4 どのような準備が必要となるのか 取扱担当者に対する必要かつ適切な監督や、適切な

以上のような受け渡し方法は、税理士事務所が利用し

ているシステムに依存して決まってくると考えられます。

税理士事務所の多くは、事務所内のパソコンやサー

バーにデータを保管するシステムを利用しており、そ

のために、上記のような方法で顧問先である中小企業

が収集しても、受け渡す際の安全管理措置や、税理

士事務所でのデータの取り込みまたはデータ入力で、

税理士事務所にも大きな負荷がかかってきます。

では、クラウドのシステムを利用している税理士事務所

の場合は、中小企業でのマイナンバーの収集方法や

データの受け渡し方法はどのようになってくるのでしょ

うか。もともとクラウドシステムの大きな特徴は、税理士

事務所と顧問先中小企業でデータをリアルタイムで共

有できることです。この特徴を活かしてクラウドシステム

では、中小企業でマイナンバーを収集する際に、イン

ターネットにつないだパソコン(またはスマートフォンや

タブレット)で従業員本人または取扱事務担当者がク

ラウド上のマイナンバー用のデータベースに入力、保

存すれば、クラウド上で保管され、それはそのまま税理

士事務所に共有される仕組みが提供されます。税理

士事務所では、共有されたマイナンバーを利用して源

泉徴収票などを作成、電子申告までそのままスムーズ

にできれば、手元でマイナンバーを管理することなく、

申告まで完了します。

このようにクラウドであれば、受け渡し時の安全管理措

置は不要となりますし、中小企業、税理士事務所とも

事務所内にマイナンバーを保管することもありません

ので、その部分での安全管理措置も大幅に軽減でき

ます。また、クラウドシステムで利用されるデータセンタ

ーはセキュリティ対策にさまざまな施策を施しており、

中小企業や税理士事務所で対応できるセキュリティ対

策に比べれば格段に高いセキュリティ対策が取られて

います。

中小企業が税理士事務所にマイナンバーの取り扱い

を委託する場合、「委託先の適切な選定」のために、

中小企業と税理士事務所の連携でどれだけマイナン

バーの安全な管理ができるのかという視点で、税理士

事務所がマイナンバーの取り扱い、管理に利用しよう

とするシステムについても確認しておくことは、大事な

ポイントとなります。

Page 24: 中小企業にとってのマイナンバー制度とは€¦ · マイナンバー制度に対応するために 4 どのような準備が必要となるのか 取扱担当者に対する必要かつ適切な監督や、適切な

前回までは、よりセキュアな取り扱いが求められるマイ

ナンバー(個人番号)について、中小企業が担わなけ

ればならない役割や、マイナンバーの取り扱いに際し

て必要となる準備などを詳細にみてきました。

今回は、この連載の最終回として、マイナンバー制度

のもう一つの番号である法人番号についてみていくと

ともに、マイナンバー制度の将来像と中小企業への影

響を考えてみます。

法人番号はどのように使われるのか

マイナンバー制度ともよばれる社会保障・税番号制度

では、どうしてもマイナンバー=個人番号に焦点があ

てられた記事が多くなりがちですが、この番号制度で

は法人に対しても番号があらたに付番されることにな

っています。

この法人番号は、国税庁が国の機関、地方公共団体、

会社法その他の法令の規定により設立登記した法人

などに付番する 13 桁の番号です。

法人番号も平成 27年 10月以降、書面により各法人に

国税庁長官より通知されます。中小企業などの場合は、

登記されている本店または主たる事務所の所在地に

通知されることになります。また、国税庁が開設する法

人番号公表サイトで、①名称、②所在地、③法人番号

の 3 情報が公開されることになっています。

マイナンバーは特定個人情報として様々な安全管理

措置のもと取り扱わなければなりませんが、法人番号

はインターネットを通じて公表されることもあり、その取

り扱いは大きく異なっています。

国税庁が開設する法人番号公表サイトでは、検索機

能やデータダウンロード機能、Web-API機能(システム

から法人情報を直接取得するためのインターフェース)

などが提供される予定です。

こうして法人番号が公開されることにより、

「わかる」・・・法人番号により企業等法人の名称・所在

地がわかる

「つながる」・・・法人番号を軸に企業等法人がつなが

「ひろがる」・・・法人番号を活用したあらたなサービス

がひろがる

ことが期待されています。

法人番号がふられることで中小企業にとってどのような

影響があるのか、現状の情報では計りかねるところが

あります。社会保障や税の分野で、法人名などの記載

が必要となる書類では法人番号の記載が求められる

ようになりますが、行政機関での法人番号を利用した

情報連携がはかられていけば、これらの行政手続に

おける届出・申請などの簡素化などのメリットもみえてく

ると考えられます。一方、民間で法人番号の活用がど

のように進み、その結果中小企業にどのような影響が

でてくるのかは、実際の運用が始まってみないとわか

らないというのが正直なところです。

マイナンバー制度の将来像「マイナポータル」

政府が示すマイナンバー制度実施の流れ(図 6)では、

平成29年1月から個人ごとのポータルサイト「マイナポ

ータル」が運用開始することとなっています。この「マイ

ナポータル」では、自分のマイナンバーをいつ誰が何

のために行政機関などに提供したのかなどの情報が

確認できる機能が提供される予定です。

そして、平成 29 年 7 月には、政府機関と地方公共団

体なども含めた情報連携がスタートし、そこに民間企

第 9回 法人番号とマイナンバー制度の将来像

Page 25: 中小企業にとってのマイナンバー制度とは€¦ · マイナンバー制度に対応するために 4 どのような準備が必要となるのか 取扱担当者に対する必要かつ適切な監督や、適切な

業なども連携することで、暮らしがもっと便利になるよう

なワンストップサービスができるように構想されていま

す。

平成27年6月19日の日本経済新聞朝刊一面に、「医

療費控除、領収書不要に」という記事が掲載されまし

た。この記事では、医療費控除の申告をする場合に必

要となる医療費の領収書がマイナンバーの個人用サ

イト「マイナポータル」にネット上で通知されることにより、

電子申告する際には領収書の内容入力も不要となる

としています。

この記事にあるようなことが実現するためには、健康保

険組合が保有している医療費の情報とマイナンバー

が結びつく必要があります。こうした構想を推進してい

る政府の「IT 総合戦略本部」が公表しているマイナン

バー関連の今後の活用についての検討資料をみると、

マイナンバー(個人番号)カードによるワンカード化とい

うことが構想されています。その一環として、マイナン

バーカードを健康保険証として利用できるようにするこ

とが検討されており、その実現がベースとなって、日本

経済新聞の記事にあるような「医療費控除」の話も現

実のものになります。

また、保険会社などからは保険料の支払証明書なども

「マイナポータル」へ電子交付されるような構想もあり、

さらに民間企業をまきこんで様々な書類の電子交付が

実現し「マイナポータル」へ集約されていくとなると、現

状のような年末調整業務は「マイナポータル」に交付さ

れるデータで電子的に完結するような社会になってい

く可能性もあります。

法人向けにも個人向けの「マイナポータル」のような、

法人番号をキーとした同様のサービスを提供する構想

も考えられているようです

マイナンバー制度は、「行政の効率化」、「国民の利便

性向上」、「公平・公正な社会の実現」を目指し、社会

的基盤(インフラ)となることが期待されている制度で

す。

そして、マイナンバー制度がインフラとして機能するこ

とは、紙ベースで情報が行き交う現状のアナログ社会

から、上記でみてきた「マイナポータル」に代表される

ような、電子データで情報がやりとりされる本格的な IT

社会への大きな変革ともいえます。

紙から電子中心の本格 IT社会への対応こそ

中小企業の課題

マイナンバー制度が中小企業に与える影響をみてき

たこのシリーズでは、前回まで直近で必要となるマイナ

ンバーへの対応を中心にみてきました。正直なところ、

「負担ばかりが増えて・・・」というのが、当面の対応を

考えたときの、中小企業や中小企業から委託されてマ

イナンバーを取り扱う税理士・社会保険労務士の方々

の感想ではないでしょうか。

しかし、前項のようにマイナンバー制度の将来像まで

見とおして考えると、紙から電子データが主となる本格

的な IT 社会の到来を見据えた対応を、中小企業も税

理士・社会保険労務士の方々も課題として見据えてお

く必要があります。

これから行うマイナンバーへの対応も、そこに向かう第

一歩として、先進の IT を上手に活用して、より安全な

対応とすることが大事です。

前回、税理士事務所などにマイナンバーの取り扱いを

委託する場合の、より安全な対応としてクラウドシステ

ムの活用を検討しました。中小企業および中小企業の

委託を受けてマイナンバーを取り扱う税理士事務所な

Page 26: 中小企業にとってのマイナンバー制度とは€¦ · マイナンバー制度に対応するために 4 どのような準備が必要となるのか 取扱担当者に対する必要かつ適切な監督や、適切な

どの方々には、マイナンバー対応はもちろん自らの主

業務に、こうした先進の IT を積極的に取り入れていく

ことでマイナンバー制度の将来に備えていくことをご提

案いたします。

本原稿はマイナビニュースにおける連載「中小企業にとってのマイナンバー制度とは?」の第 1 回(2015 年 6 月 8 日掲載)から

第 9 回(2015 年 8 月 3 日掲載)までを再編集したものです。掲載当時と比較し、レイアウト、情報の更新などが加えられており

ますことをご了承ください。

(図 6)

http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/download/leaflet.pdf

Page 27: 中小企業にとってのマイナンバー制度とは€¦ · マイナンバー制度に対応するために 4 どのような準備が必要となるのか 取扱担当者に対する必要かつ適切な監督や、適切な

<連載掲載メディア>マイナビニュース

中小企業にとってのマイナンバー制度とは?

第 1 回はこちらから

http://news.mynavi.jp/series/mynumber/001/

続きもご覧いただけます。

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中尾 健一 (なかお けんいち)

アカウンティング・サース・ジャパン株式会社

取締役マイナンバーエバンジェリスト

1982 年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30 年以上にわた

って日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観

点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・

給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営する

アカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参

画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マ

イナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。

アカウンティング・サース・ジャパンからのお知らせ

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