フルスペック8kスーパーハイビジョン 制作に向けた研究開発 …rec. itu-r...

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研究発表 ■ 1 1.はじめに 2018年までの8Kスーパーハイビジョン(以下,8K) の実用放送開始に向けてオールジャパンでの取り組みが 進む中で,当所では,その先を見据えた「フルスペック 8K」を実現するための研究開発を進めている。フルスペッ ク8Kの映像信号のデータレートは144Gbpsに及び,さら に,被写体の高輝度部をより忠実に再現するために,ダ イナミックレンジを拡大することも視野に入れている。 本研究発表では,フルスペック8Kの内容を説明し, 高データレートへの対応や,ダイナミックレンジの拡大 と広色域化のための課題,さらに実用性を向上させるた めの課題などに触れた後,これらの課題の克服に向けた 各要素技術の研究開発状況について述べる。 2.フルスペック8K 2.1 フルスペック8Kとは ITU-R(International Telecommunication Union - Radiocommunication Sector:国際電気通信連合無線通 フルスペック8Kスーパーハイビジョン 制作に向けた研究開発 池田哲臣 Content Production Technology for Full- Specification 8K Super Hi-Vision Tetsuomi IKEDA ABSTRACT Preparations are underway throughout Japan for the start of 8K Super Hi-Vision (8K) broadcasting by 2018, but at STRL we are looking beyond that moment to a day when the most advanced form of 8K will be deployed. The video format of this full-specification 8K has the full resolution (33 megapixels in each R, G, and B channel), a frame rate of 120Hz, a wide color gamut inclusive of almost all surface colors, and a 12-bit depth for each color. Its data rate is up to 144Gbps. We also intend to include high dynamic range technology in this system, so that highlight areas of the subject can be reproduced more faithfully. To handle such extremely high data rates, capture and display devices must be driven at very high speeds, and technology must be developed for high-speed real-time signal processing as well as high-capacity data recording and signal transmission. To expand the dynamic range and widen color gamut in cameras, the spectral characteristics must be improved and noise must be reduced, and various characteristics of the light sources in the display equipment must be improved. Another aspect to make 8K more practical will be to make its equipment smaller. In particular, the advent of compact 8K cameras will expand the range of production options. We present the state of research and development on various technologies intended to resolve these issues. 50 NHK技研 R&D/No.152/2015.8

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研究発表 ■1

1.はじめに

2018年までの8Kスーパーハイビジョン(以下,8K)の実用放送開始に向けてオールジャパンでの取り組みが進む中で,当所では,その先を見据えた「フルスペック8K」を実現するための研究開発を進めている。フルスペック8Kの映像信号のデータレートは144Gbpsに及び,さらに,被写体の高輝度部をより忠実に再現するために,ダイナミックレンジを拡大することも視野に入れている。

本研究発表では,フルスペック8Kの内容を説明し,

高データレートへの対応や,ダイナミックレンジの拡大と広色域化のための課題,さらに実用性を向上させるための課題などに触れた後,これらの課題の克服に向けた各要素技術の研究開発状況について述べる。

2.フルスペック8K

2.1 フルスペック8KとはITU-R(International Telecommunication Union -

Radiocommunication Sector:国際電気通信連合無線通

フルスペック8Kスーパーハイビジョン制作に向けた研究開発池田哲臣

Content Production Technology for Full-Specification 8K Super Hi-Vision

Tetsuomi IKEDA

ABSTRACT

Preparations are underway throughout Japan for the

start of 8K Super Hi-Vision (8K) broadcasting by 2018,

but at STRL we are looking beyond that moment to a day

when the most advanced form of 8K will be deployed.

The video format of this full-specification 8K has the full

resolution (33 megapixels in each R, G, and B channel),

a frame rate of 120Hz, a wide color gamut inclusive of

almost all surface colors, and a 12-bit depth for each

color. Its data rate is up to 144Gbps. We also intend to

include high dynamic range technology in this system,

so that highlight areas of the subject can be reproduced

more faithfully. To handle such extremely high data

rates, capture and display devices must be driven at

very high speeds, and technology must be developed

for high-speed real-time signal processing as well as

high-capacity data recording and signal transmission.

To expand the dynamic range and widen color gamut in

cameras, the spectral characteristics must be improved

and noise must be reduced, and various characteristics

of the light sources in the display equipment must be

improved. Another aspect to make 8K more practical

will be to make its equipment smaller. In particular, the

advent of compact 8K cameras will expand the range

of production options. We present the state of research

and development on various technologies intended to

resolve these issues.

50 NHK技研 R&D/No.152/2015.8

Page 2: フルスペック8Kスーパーハイビジョン 制作に向けた研究開発 …Rec. ITU-R BT.20202)(以下,Rec. 2020と呼ぶ)で規定 された測色パラメーター(3原色点と基準白色(D65

※1色差信号の水平および垂直の画素数が輝度信号と等しいものを4:4:4,水平方向に半分に間引いたものを4:2:2,水平方向と垂直方向ともに半分に間引いたものを4:2:0と呼ぶ。

※2 CIE(国際照明委員会)が1931年に定めた色空間における座標。

信部門),SMPTE(Society of Motion Picture and Tele-vision Engineers:米国映画テレビ技術者協会),ARIB

(Association of Radio Industries and Businesses:電波産業会)などの標準化機関において,超高精細テレビ(UHDTV:Ultra High Definition Television)用映像フォーマットの規格化1)〜3)がなされている。各規格の主な共通部分を1表に示す。この中でも,カラーサンプリング構造が 4:4:4,画素数が約3,300万(フル解像度8K),ビット階調が各色12ビット,フレーム周波数が120Hz,色域がUHDTVのスタジオ規格の1つであるRec. ITU-R BT.2020 2)(以下,Rec. 2020と呼ぶ)で規定された測色パラメーター(3原色点と基準白色(D65*1))で示される色域(Rec. 2020色域),の各条件を満たす映像フォーマットを「フルスペック8K」と呼ぶ。

フルスペック8Kの各映像パラメーターの選定経緯については文献4)を参照していただきたい。この映像フォーマットは,放送による家庭で楽しめる2次元映像として,放送側にとってはより自由な表現を,視聴者側にとってはこれまでにない映像体験をもたらすフォーマットであると考えられる。

2016年に予定されている8Kの試験放送では,フレーム周波数60/1.001Hzによるサービスが想定されているが,当所では,将来の実用放送や本格普及期におけるフルスペック化を目指して,その研究開発を推進している。2.2 フルスペック8K制作における課題

8Kの画素数を取り扱うためには,当然ながら,8Kを撮影もしくは表示するためのフル解像度8Kデバイスが必要である。8Kの研究開始当初は800万画素デバイスを4つ使った画素ずらし*2でしか8Kシステムを構築できなかったが,ここ数年状況が変化しており,特に表示においては,複数社から種々のサイズのフル解像度8Kデ

バイスが発表されている5)〜7)。さらにフレーム周波数120Hzへの対応については,撮

像,表示デバイスの駆動の高速化とともに,信号処理の高速化が必要である。信号処理においては,ピクセル

(画素)周波数は3,300万画素×120Hz=約4GHzに及ぶが,FPGA(Field Programmable Gate Array)などのデバイスを用いる場合,取り扱える信号周波数は高々数百MHzであるため,10 〜 20個程度のFPGAによる並列処理を行う。この場合,信号処理の種類によって,サブサンプル,面分割,列分割など,並列処理の分割方法を適切に選択する必要がある。

Rec. 2020色域では,RGB(赤緑青)の3原色点がスペクトル軌跡*3上に存在し,3原色点の色度がレーザーのような単波長光源の色度に相当するため,撮像側では入射光を適切に分光もしくはフィルターするための手段,表示側では光源やカラーフィルターの開発が重要になる。

また,従来のテレビでは,明るさ(輝度)方向の再現幅(ダイナミックレンジ)の制限により,高輝度部の色相変化や精細度低下(白つぶれ)が発生することがあり,大きな明暗差を含むシーンの再現が困難であった。この問題を解決するとともに,ハイライト部分を再現・強調した映像によって視聴体験を向上させることを目的として,高ダイナミックレンジ(HDR:High Dynamic Range)映像方式が各所で検討されている。将来的に,8Kのフルスペック化の一要素として,HDR化にも取り

1表 UHDTV用映像フォーマットの各規格の主な共通部分

 

項目 規格

画素数(水平×垂直) 8K(7,680×4,320)または4K(3,840×2,160)

フレーム周波数(Hz) 120,60,60/1.001

カラーサンプリング構造※1 4:4:4,4:2:2,4:2:0

映像のサンプリングビット数(bit) 12または10

3原色と基準白色

色度座標(CIE1931)※2は次のとおりとする。

x y

赤(R) 0.708 0.292

緑(G) 0.170 0.797

青(B) 0.131 0.046

基準白色(D65) 0.3127 0.3290

*1 CIE(国際照明委員会)が規定する標準の白色光源。

*2複数の撮像素子や表示用素子を用いて,それらの相対的な位置を水平・垂直方向に半画素ピッチずらすことにより,合成した画像を高解像度化する技術。

*3色度図上において,単色可視光の波長を変えたときにプロットされる曲線。

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0

0.8

0.7

0.6

0.5

0.4

0.3

0.2

0.1

0

y

x0.80.70.60.50.40.30.20.10

G

B

R

3828

14435

11

1640

127 36

31

3915

332526

9

1

219630

183 52927

42

817 41

10321337

34

参照値カメラBT.2020BT.709

組んでいく必要がある。次章においては,撮像,表示,記録,インターフェー

スの各分野におけるフルスペック化の開発状況に加え,HDRの検討状況も紹介する。

3.各分野における開発・検討状況

3.1 撮像(1)フルスペック8Kリファレンスカメラ

フルスペック8K規格を満たし,さらにU-SDI(Ultrahigh-definition Signal/Data Interface)インターフェース(3.4節参照)を内蔵したフルスペック8Kリファレンスカメラを,2014年に開発した8)(1図)。

このカメラを開発するために,まず2005年に,3,300万画素イメージセンサーの開発に着手した。また,2007年にはフレーム周波数60Hzに9),2012年にはフレーム周波数120Hzに対応した10)。特に120Hz化においては,高速化に有利なパイプライン処理を可能とする2段サイクリックA/D変換*4 (ADC:Analogue to Digital Convertor)を用いた。さらに,感度の向上を図るために,画素サイズを3.2μmと従来よりも大きくし,65nmルールの半導体プロセスを用いたイメージセンサーを開発した。

本カメラは,RGBそれぞれの色情報を1枚ずつのイメージセンサーで捉える構成としたため,入射光を3つに分光する光学プリズムが必要である。このため,Rec. 2020色域に対応する新たな分光特性を備えた光学プリズムを試作した11)。本カメラでは,プリズム,撮像素子,信号処理を含めたカメラの総合分光特性が,Rec. 2020における理想撮像特性と一致するように設計した。2図に,本カメラの色再現特性の評価結果を示す。2

図のグラフの座標(x,y)は,CIE*5xy色度図(CIE 1931)の座標を表している。2図では,24色カラーチャート(上部左)と彩度を高めたカラーチャート(上部右)

を撮像し,その撮像結果の色度(2図の×印)と,カラーチャートを分光放射計*6で測定した参照値(2図の●印)とを比較したところ,色差ΔE*7の平均値は1.0,最大値は2.9(No.38の色)であり,Rec. 2020に規定された色再現範囲(2図の赤線で囲まれた三角形)を満たす実用上十分な特性であることを確認した。なお,2図の破線で囲まれた三角形は,Rec. ITU-R BT.709で規定される従来のハイビジョンの色再現範囲である。(2)1億3,300万画素単板イメージセンサー 12)

上記のとおり,リファレンスカメラでは3枚のイメージセンサーと光学プリズムによる3板カラー撮像方式を用いたが,カメラを小型化するためには,1枚の撮像素子でRGB 3色のカラー信号を取得でき,プリズムが不要な単板カラー撮像方式とする必要がある。

単板カラー撮像方式によりRGB 3色とも3,300万画素の情報を得るためには,9,900万画素以上のイメージセンサーが必要である。また,各画素上に形成するカラー

1図 フルスペック8Kリファレンスカメラ

*4画素のアナログ信号をデジタル信号に変換する回路の1つで,巡回型A/D変換器を上位ビットと下位ビットの2段階に分けて構成することにより,高速動作を実現させた方式。

*5 CommissionInternationaledel'Eclairage(国際照明委員会)。

*6測定対象物からの光の分光分布特性を測定するための計測器。

*7対象とする色度図上の各点の間の距離。

2図 �フルスペック8Kリファレンスカメラの�色再現特性の評価結果

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研究発表 ■1

フィルターの配列については種々考えられるが,今回は一般的なベイヤー配列*8を採用し,1億3,300万画素の単板カラーイメージセンサー(フレーム周波数60Hz)を開発した(3図)。この結果,G画素については合計6,600万画素となり,前記のリファレンスカメラの画素数を上回る。本イメージセンサーの駆動実験を,2014年のNHK技研公開で展示した。(3)3,300万画素単板イメージセンサー+デモザイク

1億3,300万画素単板カラーイメージセンサーを用いることで,フル解像度8Kの情報が1枚のイメージセンサーのみで得られるものの,画素数が増加し,ひいてはセンサー内の回路規模が増大することから,製造の歩留まりに課題が残る。そこで,比較的高い歩留まりが見込める3,300万画素イメージセンサー(単板)を用いた超小型カメラ(キューブカメラ)13)(4図)の出力を,信号処理によって高品質なフル解像度8K映像にアップコンバート(デモザイク)することも検討した。デモザイクの手法として,カラーフィルターの特性を適応的に制御して色信号を精度良く補間する手法を考案し14),自然なフル解像度8K映像を生成できることを確認した。3.2 表示(フルスペック8Kプロジェクター)

コンテンツ制作において多人数での視聴が想定される,試写室などで使用するためのプロジェクターの開発を行ってきた(2表)。2009年以降,液晶素子のフル解像度化,画素ずらし技術の利用によるフレーム周波数の120Hz化など,フルスペック化に向けた要素技術の蓄積を進めてきた。

2014年には,Rec. 2020色域を実現するためのアプローチの1つとして,レーザー光源を使用したフルスペック8Kプロジェクターを開発した。このプロジェクターは,新たに開発したフレーム周波数120Hz,3,300万画素の液晶素子と,半導体レーザー光源を用いている。この液晶素子は対角1.3インチで,従来の800万画素液晶素子と同じサイズであり,フルスペック化とともに1/4の小型化も実現した。3.3 記録(フルスペック8K対応圧縮記録装置)

フルスペック8Kに対応した小型記録装置の実現に向けて,固体メモリー(Solid State Memory)パックを用いた圧縮記録技術の開発を進めている。

2014年度には,1億3,300万画素単板カラーイメージセンサーを用いたカメラの出力信号を記録するためのフレーム周波数60Hzの記録装置を開発した15)16)。そして今回,フルスペックのフレーム周波数120Hzへの対応を目的として,以下に述べるように,U-SDI対応の映像入出力インターフェースの開発,圧縮信号処理の高速化,メモリーパックの高速化を行った。

映像入出力インターフェースに関しては,フレームバッファーを用いたフレーム単位での信号処理を行うために,U-SDIインターフェースによる入出力に対応した記録装置用のインターフェースボードを新たに開発した。これにより,光ケーブル1本での映像の入出力が可能となった。

3図 1億3,300万画素の単板カラーイメージセンサー 4図 キューブカメラ

*8縦2×横2の4画素を繰り返し単位とし,対角2画素に緑を,残る2画素に赤と青を1画素ずつ割り当てるカラーフィルターの配列パターン。

2表 8Kプロジェクターの比較

開発年度 2002年 2009年 2011年 2012年 2013年 2014年

液晶素子のサイズ 1.7インチ 1.3インチ

液晶素子の画素数 800万×4板 3,300万×3板 800万×3板(画素ずらし使用) 3,300万×3板

フレーム周波数 60Hz 120Hz

光源 キセノンランプ 高圧水銀ランプ レーザー 

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また圧縮信号処理に関しては,画像圧縮用のIPコア(Intellectual Property Core)* 9 をFPGA内 に 実 装 し,フレーム周波数120Hzに対応するためにIPコアの並列数を2倍として,複数のFPGAを用いることにより,リアルタイム処理を実現した。

さらにメモリーパックに関しては,記録装置に内蔵したメモリー制御ボードでメモリーへの並列記録制御を行うことにより,メモリーパックはメモリーのみから成る構成とした。また,メモリー制御ボードとメモリーパックの間は,複数の高速シリアルインターフェースで接続することにより,メモリーパックのみを着脱可能とした。メモリーパックは,最大16チャンネルの並列記録を行い,更に,映像記録に適した大きなブロックサイズを使用することで,チャンネル当たりの記録速度を改善し,高速化を実現した。メモリー制御ボードと記録装置のシステムボードとの間のデータ転送にはボトルネックがあったが,データ転送に伴うオーバーヘッドを削減することにより,このボトルネックを解消した。

以上で述べたような改善により,本記録装置は20Gbps以上の記録速度を達成した。5図に,試作したフルスペック8K対応圧縮記録装置

の外観を示す。この記録装置は,8K映像を分割せずにフレーム単位で記録しているため,ジョグやスロー再生などの特殊再生にも比較的容易に対応できる。また,メモリー制御ボードをパソコンへ実装することにより,映像ファイルの高速バックアップや,バックアップしたファイルを編集機へ容易に入出力することが可能になっている。高速化したメモリーパックを用いて試作した記録装置により,8K映像をリアルタイムで記録・再生できることを確認した。3.4 UHDTV用機器間接続インターフェース(U-SDI)

U-SDIは,4K/8KのUHDTV信号を複数の10Gbps信号(以下,マルチリンク信号と呼ぶ)にマッピングし,多

芯のマルチモードファイバー*10を用いて伝送するインターフェース(I/F)として,ARIB標準規格STD-B5817)

に規定されている。ここで使用する光ケーブルは,従来の同軸ケーブルとほぼ同等の太さや強度で,コネクターも従来とほぼ同等のサイズである。また,約144Gbpsのフルスペック8K映像信号をケーブル1本で伝送できる特長を持つ(6図)。しかし,マルチモードファイバーを用いる場合は伝送距離が100m程度に制限されるため,中継現場やスタジオ間での使用に適した数kmの伝送を目的として,マルチリンク信号を波長分割多重し,シングルモードファイバー*11で伝送する方式をSTD-B58に追加した。また,本I/Fの補助データ領域に最大32チャンネルの音声信号(サンプリング周波数48kHzまたは96kHz)を多重する方式が,ARIB標準規格STD-B6418)

として規定されている。3.5 HDR化

液晶ディスプレーの普及に伴い,そのバックライトの制御により,これまでにない輝度範囲の再現が可能になっている。また撮像においても,低ノイズ化が進むことで,取得できる明るさのレンジが広がっている。このようなHDR化の流れの中で,8KにおいてもHDRを導入する方法を検討しており,運用上の基準白レベルを100%から50%に下げることでハイライト部分を再現・強調する方法を,規格化団体などへ提案している。

一方,これらのHDRに対応した信号制作のワークフローは確立していない。8KとHDTVの一体化制作などを見据えた場合,8KのHDR信号を, HDTVの標準的なダイナミックレンジへ,どのように適切に変換するか,といった課題の検討が重要である。

*9集積回路の中で機能的にまとめられた回路プログラム。

*10コア径が50μm程度で,複数のモード(光の伝搬のしかた)の光を通す光ファイバー。

*11コア径が10μm程度で,1つのモードの光のみを通す光ファイバー。

5図 フルスペック8K対応圧縮記録装置6図 �U-SDI 用光ケーブル(左)と�

従来のHDTV用同軸ケーブル(右)

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研究発表 ■1

4.今後について

制作用の機器については,本研究発表で挙げたもののほかに,編集機,信号スイッチャー,ビデオエフェクト装置,広色域対応照明などの開発も必要である。これらの開発と並行して,フレーム周波数120Hzに対応したタ

イムコード*12や,広色域モニターのガイドラインなどの規格化も進めていく必要がある。今後は,HDR制作が本格化した場合のワークフローの検討と,それに適した機材の開発にも取り組んでいく。

池いけ

田だ

哲てつ

臣おみ

1984年入局。旭川放送局を経て,1989年から放送技術研究所において,地上デジタル放送伝送方式,番組中継用伝送方式,スタジオ用ワイヤレスカメラの研究に従事。現在,放送技術研究所テレビ方式研究部部長。

参考文献

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6) S.Kawashima,S.Inoue,M.Shiokawa,A.Suzuki,S.Eguchi,Y.Hirakata,J.Koyama,S.Yamazaki,T.Sato,T.Shigenobu,Y.Ohta,S.Mitsui,N.UedaandT.Matsuo:“DistinguishedPaper:13.3-in.8K×4K664-ppiOLEDDisplayUsingCAAC-OSFETs,”SIDSymposiumDigestofTechnicalPapers,44.1,Vol.45,Issue1,pp.627-630(2014)

7) J.Donelan:“TheBestofDisplayWeek,”InformationDisplay,Vol.30,No.5,pp.6-10(2014)

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9) T.Yamashita,S.Huang,R.Funatsu, B.Mansoorian,K.MitaniandY.Nojiri:“ExperimentalColorVideoCapturingEquipmentwithThree33-megapixelCMOSImageSensors,”ProceedingsofSPIE,Vol.7249,72490H(2009)

10) K.Kitamura,T.Watabe,T.Sawamoto,T.Kosugi,T.Akahori,T.Iida,K.Isobe,T.Watanabe,H.Shimamoto,H.Ohtake,S.Aoyama,S.KawahitoandN.Egami:“A33-Megapixel120-Frames-Per-Second2.5-WattCMOSImageSensorWithColumn-ParallelTwo-StageCyclicAnalog-to-DigitalConverters,”IEEETransactionsonElectronDevices,Vol.59,No.12(2012)

11) K.Masaoka,T.Yamashita,Y.Iwasaki,Y.NishidaandM.Sugawara:“ColorManagementforWide-Color-GamutUHDTVProduction,”SMPTE2014AnnualTechnicalConference&Exhibition(2014)

12) R.Funatsu,S.Huang,T.Yamashita,K.Stevulak,J.Rysinski,D.Estrada,S.Yan,T.Soeno,T.Nakamura,T.Hayashida,H.ShimamotoandB.Mansoorian:“133-Mpixel60-fpsCMOSImageSensorwith32-ColumnSharedHigh-SpeedColumnParallelSAR-ADCs,”IEEEInternationalSolid-StateCircuitsConference(ISSCC),6.2(2015)

13) 安江,北村,塚本,遠藤,島本:“超小型8Kスーパーハイビジョンカメラのフレーム周波数120Hz化,”映情学年次大,20-6(2014)

14) 白井,西田:“エッジ強度に基づく適応補間フィルタを用いたカラーデモザイキング法,”映情学年次大,16-5(2014)

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16) 梶山,菊池,宮下:“8Kスーパーハイビジョン圧縮記録装置,”映情学技報,Vol.39,No.7,pp.31-34(2015)

17) 電波産業会:“超高精細度テレビジョン信号スタジオ機器間インタフェース規格,”ARIBSTD-B581.1版(2015)

18) 電波産業会:“超高精細度テレビジョン信号機器間インタフェースにおけるデジタル音声規格,”ARIBSTD-B641.0版(2015)

*12映像のひとコマごとに,時間に対応して付加されるラベル。

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