インクルージョン研究と学習障害研究の最前線(2) ·...

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Page 1: インクルージョン研究と学習障害研究の最前線(2) · 自己評価は生徒の学習プロセスに関する重要な情報を提 供してくれる。また、自己評価は、教師が行う指導のフィー

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1., はじめに

2001年4月30日(月)から5月4日(金)までの5日間

にわたってニューヨーク市で開催された国際会議に参加し

た。こ の 会 議 は、YAI : National Institute for People with

Disabilities(YAI/NIPD)(YAI 国立障害者研究所)が主催す

る、22nd Annual International Conference on MR/DD(第 22

回精神遅滞/発達障害に関する年次国際会議)という名称の

ものであった。この第22回の大会のメインテーマは、Keeping

the Promise in Developmental and Learning Disabilities(発達

障害や学習障害におけるその約束を守る)であった。この

意味は、「私たち消費者への最高の質のサービスを提供す

る」「私達がサービスを提供する家族のニーズを理解し対応

する」ことであるとしている。

この会議には2年前の第20回大会(1999年)にも参加し、

会議の歴史や趣旨、それに会議を主催している機関の説明

等については、その報告(柘植, 2000)で既に紹介してい

る。そこで、今回の報告では、先回紹介しなかった会議プ

ログラムの全体構造を紹介すると共に、個々の研究発表を

紹介することに重心を置くことにする。なお、研究発表の紹

介については、今回筆者が参加した研究発表のセッション

は、先回と同様にインクルージョン関係と学習障害等

(ADHD、アスペルガー症候群等を含む)関係が中心であっ

たため、それらを中心にする。

2.プログラムの構造

研究発表はその内容により、表1の様にグルーピングさ

れていた。200を越える研究発表が、この20項目に分類され

るのだが、これらの項目が日本の同様の学会発表における

分類項目と比べると、改めてその守備範囲が格段と広いこ

とが分かる。この中で、特に発表件数が多かったものは、4.

チャレンジング行動、5.医療、16.住まい/地域インク

ルージョン、18.スペシャル教育/学校インクルージョン

/学習障害、19.スタッフの採用、維持、及びトレーニン

グ/仕事の実施上の問題、であった。また、1.アドボカ

シー/自己決定/人を中心にした対応、6.文化の多様性、

13.法律/経費/将来の企画、14.マネージメントの問題、

15.人生の質(QOL)、は、日本における学会発表ではグ

ルーピングの項目としては、あまり採用されないものであ

ろう。

表1 研究発表のグルーピングの項目

1.アドボカシー/自己決定/人を中心にした対応

2.加齢

3.自閉症/アスぺルガー症候群/PDD

4.チャレンジング行動

5.医療

6.文化の多様性

7.デイサービス

8.重複診断

9.年少の子ども

10.雇用/移行

11.家族

12.健康ケア

13.法律/経費/将来の企画

14.マネージメントの問題

15.人生の質(QOL)

16.住まい/地域インクルージョン

17.社会的スキル/性の問題

18.特殊教育/学校インクルージョン/学習障害

19.スタッフの採用、維持、及びトレーニング/

仕事の実施上の問題

20.テクノロジー/サイエンス

曜日毎のプログラムは下記の通りである。

4月30日(月曜日),2001

9 : 00-10 : 30 キーノーツ

YAI/NIPD 大会会長挨拶

YAI/NIPD 代表挨拶

講演「人権と発達障害者の職業」

(Stanley S. Herr, AAMR アメリカ精神遅滞学会前会

長, 法律学博士)

インクルージョン研究と学習障害研究の最前線(2)-第22回精神遅滞/発達障害に関する国際会議(ニューヨーク)に参加して-

柘 植 雅 義(文部科学省 初等中等教育局 特別支援教育課)

第四部 国際派遣研究集会報告

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講演「MR/DD 分野における最新成果:それは消費者、

スタッフ、そしてエージェンシーにとってどんな意味

を持つのか」

10 : 45-12 : 00 モーニングセッション

学校インクルージョン、マネージメント、アドボカシー

/自己決定、など13の研究発表が同時進行。

12 : 10-5 : 00 アフタヌーンセッション

暴力からの回避、家族、学校インクルージョン、マネー

ジメント、など41の研究発表が、1時間ずつの割り当

てで8会場で同時進行。

2 : 45-5 : 00 特別セッション

デイサービス、自閉症/アスペルガー、性の問題、ス

タッフトレーニングの4テーマについて、それぞれ複

数の発表者による長時間のセッション。

5月1日(火曜日),2001

9 : 00-10 : 30 キーノーツ

講演「発達障害における新しい方向」

(ニューヨーク州の精神遅滞 発達障害課)

講演「供給者コミュニティーのための緊急的な問題」

(コミュニティーオプション&リソースの米国ネット

ワーク)

10 : 45-12 : 00 モーニングセッション

QOL、学校インクルージョン、自己決定、コミュニ

ティーインクルージョン、将来的な計画、等12の研究

発表が同時進行。

1 : 15-5 : 00 アフタヌーンセッション

スペシャルエデュケーション、将来計画、QOL、住ま

い、精神遅滞や発達障害の子どもを持つ保護者等9つ

の分科会が設置され、それぞれ3つの研究発表が行わ

れた。

2 : 45-5 : 00 特別セッション

住まい、スタッフの採用と維持、性の問題、音に基づ

くセラピー、の4つの課題について、複数の発表者に

よる長時間のセッション(シンポジウム形式)。

5月2日(水曜日),2001

9 : 00-10 : 15 モーニングセッション(1)

セルフ アドボカシー、加齢、芸術療法、ADD、雇用、

等、13の研究発表。

10 : 30-12 : 00 モーニングセッション(2)

テクノロジー/代替コミュニケーション、スタッフト

レーニング、社会的スキル、ADD 等、14の研究発表。

12 : 10-5 : 00 アフタヌーンセッション

多様な文化、医療、緊急的課題、健康ケア、スペシャ

ル教育等、9つのテーマについいて、それぞれ4つの

研究発表が行われた。

2 : 45-5 : 00 特別セッション

テクノロジー、加齢、健康ケア、チャレンジング行動、

スタッフの仕事の5つのテーマについての複数の発表

者による長時間のセッション。

9 : 00-5 : 00 終日ワークショップ

アスペルガー症候群について

5月3日(木曜日),2001

9 : 00-10 : 15 モーニングセッション(1)

自閉症、移行、本人中心、学校インクルージョン、ス

ペシャル教育等、14の研究発表。

10 : 30-12 : 00 モーニングセッション(2)

移行、住まい、学校インクルージョン、年少の子ども

等、14の研究発表。

12 : 10-5 : 00 アフタヌーンセッション

コミュニティーインクルージョン、レクレーシヨン等、

8つのテーマでそれぞれ4つの研究発表。

5月4日(金曜日),2001

10 : 00-4 : 00 終日ワークショップ

肯定的行動支援計画(Positive Behavioral Support Plan)

をデザインする

スタッフの採用と能力の保持の方略の2つのテーマの

ワークショップが同時進行。

3.研究発表のいくつかの紹介

自己評価は生徒の学習プロセスに関する重要な情報を提

供してくれる。また、自己評価は、教師が行う指導のフィー

ドバックや、個々の生徒の強いところと弱いところを見せ

てくれること、生徒の学習の進捗状況を見せてくれるなど

の理由から、教師にとっても重要である。ここでは、生徒自

己評価チェックリスト(Students Self-Evaluation Checklist)

をもとに、自己評価の具体的な進め方と留意事項について

紹介された。紹介されたチェックリストは、文章を作成する

課題について評価するチェックリストであり、文章構成、

文章形式、語の使用、文章技法の観点から構成された。

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この報告では、先ず、ADHD、ED & ADHD、ED の別に

その行動特徴が紹介され、3者を分けてその対応を考えて

いくことの大切さが強調された。 ED は、情緒/行動面での

障害を指し、引っ込み、分離、攻撃、過去の経験に生きる、

怒り、恐れ、幻覚、買い物行動の誇示、無差別な愛着、落

胆、情緒的な爆発、等を特徴として報告された。その後、教

室内での具体的な支援の在り方の具体的なスキル等が紹介

された。

75学校区のインクルーシブ教育オフィスとは、ニューヨー

ク市のいくつかの学校区におけるインクルージョン政策を

専門的にコーディネートする部門である。このオフィスは、

ブルックリン、マンハッタン、クイーンズなど5つのブラ

ンチを持つ。このオフィスの案内パンフレットには、「スペ

シャルエデュケーションは、サービスであり場所ではない」

とゴシックの大文字で書かれている。この報告では、この

オフィスの様々なサービスの現状と課題を検討する内容で

あった。特に、スタッフトレーニングでは、多様なタイトル

のものが提供されている。例えば、 ジェネラルエデュケー

ションやスペシャルエデュケーションの管理職者、教師、

保護者向けのインクルージョン教育の哲学や価値等に関す

るもの、 リソースルーム教師のための IEP ミーティング

に関するもの、 インクルーシブな教室で学ぶ子どもの保

護者、家族、友人のためのもの、 インクルージョン教育

のリーダーシップの問題と題されたものでは、校長や教頭

のためのものであった。

アシスティブテクノロジーには、シンプルなもの(low

end)から複雑なもの(high end)なものまであり、low-end

technology には、録音されたテープの本、計算機、映画や

ビデオ等があり、high-end technology には、コンピュータ、

インターネット、スキャナー、デジタルカメラ等があると

している。また、コンサルテーションの技術、機能的行動ア

セスメントの手法、肯定的な行動を引き起こす介入の方法、

等様々なテクノロジーが紹介され、その特徴と限界が検討

された。また、関係するテクノロジーを提供する企業やイ

ンターネットとリソースが紹介された。

多様な子どものいる学級において有効な行動マネージメ

ント(Behavioral Management)の技法について紹介され、

その特徴と限界について検討が行われた。特に、LD、ADHD、

重度の情緒障害のある子どものアセスメントの手法では、

24項目からなる強化(好み)の調査(Reinforcement Survey)、

学習のスタイル 読み 書き 問題解決 コミュニケー

ション等13項目の視覚的 聴覚的 作業的の観点から優れ

ているところを見つけるチェックリスト、48項目からなる

保護者向けの質問紙、それに、一般情報 教育的情報 家

庭/地域情報 医学的情報 行動面の情報からなる生態学

的調査(Ecological Survey)が取り上げられた。

アスペルガーに関する3連続の研究発表の1番目である。

ここでは、アスペルガー症候群の全体的な特徴の紹介の後、

言語/コミュニケーション、社会的/情緒的発達、バーバ

ルコミュニケーション、ノンバーバルコミュニケーション、

認知、セルフマネージメント、粗大 微細運動等の観点か

らそれぞれの特徴が紹介され検討された。そして、「課題を

始める前のリラクゼーション」、「声を出して考えること」、

「言語チャートの活用」、「他者との関係でルールを明確にし

ておく」等、効果的な介入の手法が紹介された。例えば、こ

の最後の、「他者との関係におけるルールを明確にしてお

く」ことの例としては、課題を予め定義しておく、ルール

を定義しておく、期待されることの明確化、課題の終了を

判断する目安の設定、話す人と聞く人との確認等であった。

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アスペルガーに関する3連続の研究発表の2番目である。

ここでは、先ず、隠れたカリキュラム(Hidden Curriculum)

が話題になった。これは、いわゆる一般のカリキュラムに対

する概念で、表に公的に上がるわけではないが、暗黙の了

解として関係者が理解しているものとして、「隠れた」カリ

キュラムと呼ばれている。その要素として、教師の期待、

教師の好む行動、教師の好み、学校内の安全もしくは安全

ではない場所、よい注意もしくは悪い注意を向けてしまう

社会的な行動等があると紹介された。そして、この隠れたカ

リキュラムを適切に理解し活用できるかどうかが、アスペ

ルガー症候群のある子どもへの介入の鍵となると説明され、

より具体的な運用が検討された。次に、先ずは、社会的スキ

ルの訓練を通した行動マネージメントの有効性が強調され、

その具体的なプログラムや教材の紹介があった。最後に、

「社 会 の 中 で の 実 際 の 課 題 場 面 の 記 述 シ ー ト(Social

Autopsies Worksheet)」、状況、オプション、結果、選択、方

略、シュミレーションを記述する「SOCCSS シート(Situation

- Options - Consequences - Choices - Strategies - Simulation)」、

「感覚 運動の好みのチェックリスト(Sensory - Motor

Preference Checklist)」等本人が活用する様々なシートが紹

介されその有効性が検討された。

アスペルガーに関する3連続の研究発表の3番目である。

ここでは、社会的スキル、日常生活スキル、自己を知るこ

と、問題解決スキルなどが主要なゴールであるとされた。そ

して、適切な学校環境を選ぶこと、トレーニング、そして、

生徒のオリエンテーションについて検討された。先ず、環

境の選択では、公立学校、私立学校、特別な学校(マグネッ

トスクールやギフティットスクール)、ホームスクールのそ

れぞれの特徴と限界が検討された。次に、トレーニングで

は、ホームワークのより良い方略の検討と、学校プログラ

ムの生徒のニーズによる変更の在り方の検討等が話題に

なった。そして、生徒のオリエンテーションでは、日々の

スケジュールのこなし方、スケジュール管理の手法、スケ

ジュールの提示の工夫等が検討された。

米国カリフォルニア州ロサンゼルス地区と日本3大都市

圏(東京圏、大阪圏、名古屋圏)における中学校 高等学

校の通常学級、リソースルーム(日本では通級指導教室)、

特殊学級の教師、及び校長に対して、学習障害のある生徒

への教育の状況について質問紙調査の結果が報告された。そ

の結果の一部として、アメリカでは、学習障害のある生徒

が通常学級、リソースルーム、特殊学級のいずれに学んで

いても他の学級から支援を受けているとより多くの教師が

考えていることが分かった。また、アメリカでは、より多く

の通常学級の教師が特殊教育に関する研修を受けているこ

とが明らかになった。さらに、学習障害のある生徒が在籍す

る学級での指導に困難を感じていると答えた教師の割合は

日米でほぼ同じであったが、それにも関わらず指導に好意

的な気持ちを持っている教師はアメリカの方で特に多いこ

とが分かった。(Tsuge, 2001)

4.おわりに

先の紹介した9の研究発表を中心に、今回の会議で発表

された関連する研究の動向をまとめてみる。

○インクルーシブセッティングでの自己評価

学習障害など軽度の障害のある生徒による自己評価の意

義や具体的な手法に関する研究は、アメリカでは大きな比

重になっている。学習障害等に関するアメリカ国内での会

議や国際会議では、このテーマでの研究発表がかならずい

くつか見られる。今回のこの会議では、自己評価チェック

リストを含む自己評価システムをいかに構築していくか、

その際の配慮事項は何かが実際の運用例を元に検討された。

また、アスペルガー症候群のある生徒が自己の学習の状況

をモニターしていく方法についても検討された。自己評価

の有用性は確固たるものとして既に位置づけれ、学業のモ

ニター等の目的別や、アスペルガー症候群等障害の特性に

応じた自己評価システムの構築と実際の運用の段階に入っ

てきている。

○多様な生徒のインクルージョン教育

ADHD、ADHD に情緒的な問題のある場合、ADHD はな

く情緒的な問題のみがある場合の別で、通常の学級での支

援をどう工夫していくか、学習障害、あるいはチャレンジ

ング行動のある場合、重度の情緒障害のある場合、さらに

は、多様な文化背景のある場合など、個々の生徒の個別の

ニーズに応じてインクルージョン教育を展開していくこと

の大切さを感じる。それと共に、インクルージョン教育を

総括的あるいは理念的に論じる段階から、上記のような多

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様なニーズの違いに応じてどう展開していくのかという段

階に入ったとの認識を新たにする。

○各地区におけるインクルーシブ教育の企画と展開

各学級や各学校の中でインクルーシブ教育をいかに実践

するかという視点ではなく、学校区や市というレベルでい

かに企画 展開していくべきか、あるいはしていったか、

その成果と課題は何かという研究発表がいくつか見られる。

ニューヨーク市という大都市では、ある学校区におけるイ

ンクルーシブ教育の企画と展開に集中的に関わるセクショ

ンを設置し、各学校の指導上等の具体的な支援の他に、関

係者への理解推進や研修の企画と実施等を行う専門機関と

して有効に機能している現状が紹介された。このような地

域でのインクルーシブ教育のシステム作りに関する試みで

は、その対象(あるいは範囲)をいかに設定し、対象のニー

ズ等に応じてどのようなタイプの指導の形態や場を用意し

たらよいのかが重要な話題となっている。

○アスペルガー症候群への教育的支援を巡る問題

カリキュラムには上がらないものの、教室等の指導で重

要な役割を果たすいくつかの配慮事項がある。アスペルガー

症候群のある子どもにとっても、この隠れたカリキュラム

(Hidden Curriculum)の指導の重要性がいくつかの研究発表

で話題になった。これらは、人との関係をスムーズに進め

る際の鍵となるものが多い。コミュニケーションには特に

問題ないが、対人関係などに困難を示すアスペルガー症候

群にとっては、このような隠れたカリキュラムを意図的に

指導していくことは需要である。他者から何が期待されて

いるのかの理解しにくさからくる人間関係の不自然さやト

ラブル等にどう援助していけるのかの検討は、この隠れた

カリキュラムの例であろう。そして、この場合、本人が努

力して「期待」を理解するだけではなく、本人に対応する

周りの人からの「期待」の表現の仕方を修正する等、本人

に関わる周りの環境側の調整も重要であろう。

○行動マネージメントの有効性

通常の学級に多様なニーズにある子どもがいる場合の、

行動分析(Behavioral Analysis)の理論に基づいた行動マ

ネージメント(Behavioral Management)の技法が研究され

実際に適用されて久しい。この技法は、アメリカ等では通

常学級の教師の研修プログラムに組み込まれることも多く、

その効果については一般的に認知されるまでに至っている。

この会議では、いくつかの研究発表でも、この技法を使っ

た指導の効果や課題が紹介された。また、この技法の背景

にある行動分析は、IEPを作成する際に重要な基礎的な

ものとして考えられている。特に、アスペルガー症候群の

ある子どもへの介入では、社会的スキルの訓練を通した行

動マネージメントの有効性が紹介される等、個々の子ども

のニーズのアセスメントの結果に応じてこの手法を適用し

ようとする様になってきている。

○学習障害に関する国際比較

この会議では、カナダ、オーストラリア等、諸外国から

の参加もあり、それぞれの国の状況や研究成果が報告され

た。学習障害の分野での教育実践の状況に関する日米比較

研究は多くない。中学校や高校での通常学級、リソースルー

ム(日本では通級指導教室)、特殊学級における教師への質

問紙調査により明らかになった両国の現状と課題は、アメ

リカの関係者にとっても自国の状況を客観的な尺度で比較

してみる機会であった。

注:今回の国際会議への参加及び研究発表は、会議の事務

局から研究発表の依頼(invitation)を受けたこと、そし

て、文部科学省から「平成13年度国際研究集会派遣研究

員」に関する補助を得たことにより実現したことを記し

ておく。なお、この会議への参加時は、筆者は国立特殊

教育総合研究に所属しており、その後2001年10月から 文

部科学省に異動した。

文 献

柘植雅義(2000)インクルージョン研究と学習障害研究の

最前線-第 20 回精神遅滞/発達障害に関する国際会議

(ニューヨーク)に参加して-. 国立特殊教育総合研究

所, 世界の特殊教育, 第14巻.

Tsuge M.(2001)International Comparative Questionnaire

Survey on Education for Students with Learning Disabilities

in Lower and Upper Secondary Schools : Tokyo, Osaka,

and Nagoya in Japan, and Los Angeles in The US. Ministry

of Education, Scientific Research Program(Kiban(C)),

Report.

Page 6: インクルージョン研究と学習障害研究の最前線(2) · 自己評価は生徒の学習プロセスに関する重要な情報を提 供してくれる。また、自己評価は、教師が行う指導のフィー

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Abstract:

This is a short report for attending a international

conference that was held from April 30(Mon.)to May

4(Fri.), 2001 at New York. The conference name is

22nd Annual International Conference on MR/DD

(Mental Retardation / Developmental Disabilities)

sponsored by YAI: National Institute for People with

Disabilities. The main theme of this 22nd conference was

Keeping the Promise in Developmental and Learning

Disabilities. In research presentations, especially research

for inclusion and learning disabilities, following issues

were presented and discussed: Self-evaluation in Inclusive

Setting, Inclusive Education for Students with Diverse

Needs such as LD, ADHD, Asperger Syndrome,

Emotional Disturbance, and Multi-culture, Planning and

Practice of Inclusive Education in Each School District

or City Office, Issues on Education Support for Students

and Adolescents with Asperger Syndrome, Effectiveness

of Behavioral Management, and International Comparative

Research in Learning Disabilities.

要約の和訳:

これは、2001年4月30日(月)から5月4日(金)まで

の5日間、ニューヨークで開催された国際会議への参加報

告である。この会議は、国立障害者研究所(YAI : National

Institute for People with Disabilities)が主催する、第22精神

遅 滞/ 発 達 障 害 に 関 す る 年 次 国 際 会 議(22nd Annual

International Conference on MR/DD)という名称のもので

あった。この第22回の大会のメインテーマは、「発達障害や

学習障害におけるその約束を守る」(Keeping the Promise in

Developmental and Learning Disabilities)であった。研究発

表の中の、特にインクルージョン研究や学習障害研究に関

わるものとしては、インクルーシブセッティングでの自己

評価、多様な生徒のインクルージョン教育、各地区におけ

るインクルーシブ教育の企画と展開、アスペルガー症候群

への教育的支援をめぐる問題、行動マネージメントの有効

性、学習障害に関する国際比較等が話題として提供され協

議された。

Short Report for YAI National Institute for People with Disabilities

22nd Annual International Conference on MR/DD in New York:

Keeping the Promise in Developmental and Learning Disabilities

TSUGE Masayoshi(Ministry of Education, Special Support Education Division)