スターリングエンジン図示仕事の最大化 に関する理...

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広島国際学院大学研究報告,第45巻(2012),1~10 1 スターリングエンジン図示仕事の最大化 に関する理論的研究 黄  樹偉 A Theoretical Study on the Maximization of the Indicated Work of Stirling Engines (平成24年10月16日受理) Shuwei HUANG (Received October 16, 2012) In the present study, it was firstly showed that, under the isothermal conditions, the indicated work of the cycle performed by a Stirling engine model which has ideal volume variations referred to as iVV cycleis the maximum work achievable for any Stirling engines having the same dead volumes of heater, cooler as well as regenerator. The iVV cycle was then analyzed thermodynamically to obtain its pressure history, mean pressure as well as indicated work analytically. From the obtained results, the effects on the maximum indicated work, of the dead volumes of heater, cooler and regenerator, respectively, are clarified as follows: (1)The indicated work of the Stirling engine was greatly decreased by the existence of the dead volumes of the heater, cooler and regenerator; (2) The indicated work decreased by the dead volume of the cooler is much larger than that by the heater with the same dead volume. KeywordStirling Engine, iVV cycle, Stirling Engine Cycle, Indicated work, Maximization, P-V Diagram, Diagram Factor, Dead Volume 本研究は,理想容積変化を有するスターリングエンジンモデルが行うサイ クル(iVVサイクル)が等温条件下で,同じ無効容積を持つスターリングエ ンジンの熱力学サイクルにおいて最大な図示仕事を有することを示した上, このモデルに対する熱力学的解析を行い,その圧力変化,平均圧力と図示仕 事などの解析的結果を得た。その結果から,加熱器,冷却器及び熱再生器そ れぞれの無効容積がこの最大図示仕事に与えるそれぞれの影響を解析的に示

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広島国際学院大学研究報告,第45巻(2012), 1~10 1

スターリングエンジン図示仕事の最大化に関する理論的研究

黄  樹偉

A Theoretical Study on the Maximization of the Indicated Work of Stirling Engines

(平成24年10月16日受理)

Shuwei HUANG(Received October 16, 2012)

  In the present study, it was firstly showed that, under the isothermal conditions, the indicated work of the cycle performed by a Stirling engine model which has ideal volume variations (referred to as iVV cycle) is the maximum work achievable for any Stirling engines having the same dead volumes of heater, cooler as well as regenerator. The iVV cycle was then analyzed thermodynamically to obtain its pressure history, mean pressure as well as indicated work analytically. From the obtained results, the effects on the maximum indicated work, of the dead volumes of heater, cooler and regenerator, respectively, are clarified as follows: (1) The indicated work of the Stirling engine was greatly decreased by the existence of the dead volumes of the heater, cooler and regenerator; (2) The indicated work decreased by the dead volume of the cooler is much larger than that by the heater with the same dead volume.

Keyword:Stirling Engine, iVV cycle, Stirling Engine Cycle, Indicated work, Maximization, P-V Diagram, Diagram Factor, Dead Volume

 本研究は,理想容積変化を有するスターリングエンジンモデルが行うサイクル(iVVサイクル)が等温条件下で,同じ無効容積を持つスターリングエンジンの熱力学サイクルにおいて最大な図示仕事を有することを示した上,このモデルに対する熱力学的解析を行い,その圧力変化,平均圧力と図示仕事などの解析的結果を得た。その結果から,加熱器,冷却器及び熱再生器それぞれの無効容積がこの最大図示仕事に与えるそれぞれの影響を解析的に示

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黄  樹偉2

した。そこでは,スターリングエンジンの図示仕事は,加熱器,冷却器及び熱再生器の無効容積により大きく減少されることと,冷却器の無効容積による図示仕事の減少が,同じ無効容積を持つ加熱器による減少より遥かに大きいことを明らかにした。

1.はじめに スターリングエンジンは,従来の化石燃料のほか,太陽熱,地熱,バイオマスなど種々な再生可能エネルギーも熱源として利用することができるので,将来の循環化社会を支える重要な技術の1つとして期待されている。しかしながら,このエンジンの比出力が低いことは,この技術を普及する際の主な障害となっており,これを大幅に向上する必要がある。 一方,スターリングエンジンの設計段階では,エンジンの出力は,シュミット理論など等温モデルを用いて,エンジン各部の寸法や温度比などから図示仕事を算出し,これに経験的なエンジン回転速度と機械効率と併せて算出する方法[₁︲₄]や,エンジンの出力特性の相似性を示す Beale数を用いて,エンジン膨張空間の容積と平均圧力から出力を見積もる方法[2,5]が用いられている。しかしながら,何れの方法においてもエンジン出力が平均圧力と膨張空間容積に比例することのみが明確に分かっているが,ほかの要素による出力への影響は複雑なため明確にされておらず,この段階では,主に膨張空間の容積を大きくすることと,作動ガスの平均圧力を上げることにより,エンジン出力の向上を図っている。 しかしながら,膨張空間の大きさはエンジン全体の大きさにほぼ比例するので,これを大きくすることによる比出力の向上はほとんど期待できない。このため,主に作動ガスの平均圧力を材料の許容応力までに最大限に上げる方法がとられているが,これに伴う材料の高性能化や,密封の高度化,さらには高度な密封による摩擦損失の急増など,二次的な問題を解決しなければならず,比出力のさらなる向上は一段と困難な状況となってきている。 この状況を避けるため,本研究では,スターリングエンジンの出力がその熱力学サイクルの図示仕事に比例することに着目し,膨張空間容積と平均圧力がほぼ一定の下で,この仕事を最大化することを目的とした。これを達成するため,まず最高な熱効率と最大な図示仕事を有する理想スターリングサイクルの熱効率について考察し,高効率を達成するための熱再生器,高出力を得るための加熱器と冷却器の必要性を検討した上,理想的なスターリングエンジンのモデル化を行った。このモデルに対する熱力学的解析の結果に基づいて,実エンジンの図示仕事を最大化する方法について検討を行った。

2.主な記号 C: 式⑺で表す定数 cp: 定圧比熱,J/(kg・K) Cpart: 式⑵で表す係数 cv: 定容比熱,J/(kg・K) m: 作動空間全ガス質量,kg P: 圧力,Pa R: ガス定数,J/(kg・K) TC: 冷却部温度,K

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3スターリングエンジン図示仕事の最大化に関する理論的研究

 TE: 加熱部温度,K TR: 熱再生器中のガス平均温度,K V:  瞬時全容積,m3

 VC: 圧縮側シリンダ瞬時容積,m3

 VDC: 冷却器など圧縮側無効容積,m3

 VDE: 加熱器など膨張側無効容積,m3

 VE: 膨張側シリンダ瞬時容積,m3

 Vmax: 作動空間最大容積,m3

 Vmin: 作動空間最小容積,m3

 Vv, max:シリンダ最大行程容積(図 4),m3

 Vv, mix:膨張行程始点シリンダ容積(図 4),m3

 VDR: 熱再生器無効容積,m3

 Wivv: iVVサイクルの図示仕事 Wr: 実際エンジンサイクルの図示仕事 WST: 理想スターリングサイクルの図示仕事 xDC: 圧縮側無効容積比,=VDC/Vv, max

 xDE: 膨張側無効容積比,=VDE/Vv, max

 xDR: 熱再生器無効容積比,=VDR/Vv, max

 ε: 圧縮比,=Vmax/Vmin

 εv: εv=Vv, max/Vv, min

 γ: 比熱比,=cp/cv

 μ: 式⑻で表す定数 ηCarnot:カルノーサイクルの熱効率 ηpart: 部分熱再生理想スターリングサイクルの熱効率 ηreg: 再生器の熱再生効率,=Qreg/Q21(図1) θ: クランク角度 τ: 温度比,=TC/TE

3.理想スターリングサイクルと実際のスターリングエンジンサイクルの比較₃.₁ 理想スターリングサイクルの熱再生と実際スターリングエンジンの無効容積について スターリングサイクルは,ディーゼルサイクルやオットーサイクルと異なって,熱再生の条件が付加されているため,この用語の使い方に多少の混乱が生じている。一般に,図1⒜に示す 2つの定温過程と 2つの定容過程からなる熱力学サイクルは「スターリングサイクル」と称するが,定容放熱過程₃︲₄で放出される熱 Q21 が,定容加熱過程₁︲₂で完全に加熱量 Q11 として利用される場合,即ち,熱再生効率が100%の場合,本文では「理想スターリングサイクル」または,「完全熱再生理想スターリングサイクル」と称する。これに対し,熱再生が不完全な場合,既報[6] のように「部分熱再生理想スターリングサイクル」と称している。ここで,「理想」とは,実エンジンでは実現が困難である 2つの定温過程と 2つの定容過程が厳密に行われていることを指すものである。完全熱再生理想スターリングサイクルは最高な熱効率を有するカルノーサイクルと同じ熱効率を有することがよく知られている。

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黄  樹偉4

 しかしながら,スターリングサイクルを実現しようとする種々の実際のスターリングエンジンが行っているサイクルでは,熱再生器の空間的制限と伝熱速度の時間的制限により完全な熱再生は不可能であるため,部分熱再生によるサイクルの熱効率への影響を考察する必要がある。 部分熱再生の場合,熱再生効率ηreg=Qreg/Q21 とするとき,このスターリングサイクルの熱効率ηpartは次式となる[6]。

⑴ 

式中,

⑵ 

 ここで,τは温度比,γは比熱比,εは圧縮比である。また,ηCarnotはカルノーサイクルの熱効率で,Cpartは部分熱再生によりカルノーサイクル熱効率を修正する係数である。熱再生効率ηregによるこの修正係数 Cpartへの影響を考察するため,試しに,γ=₁.₄(空気など 2原子分子のガス),圧縮比と温度比をそれぞれ,ε=₁.₅とτ=₀.₃₅(一般的な実用エンジンの条件)として,ηregとCpartの関係を図 2に示す。図 2より,ηreg= 0の時 Cpart~~ ₀.₂,ηreg=₀.₈の時 Cpart~~ ₀.₅₅となることが分かる。この結果から,部分熱再生サイクルの熱効率は再生器の熱再生効率に大きく依存することと,十分高い熱効率を得るために,非常に高い熱再生効率が必要であることがわかる。

図1 理想スターリングサイクルと熱再生

図 2 熱再生効率ηregによる修正係数 Cpartへの影響

6

「理想」とは,実エンジンでは実現が困難である2つの定温過程と2つの定容過

程が厳密に行われていることを指すものである.完全熱再生理想スターリングサ

イクルは最高な熱効率を有するカルノーサイクルと同じ熱効率を有することがよ

く知られている.

しかしながら,スターリングサイクルを実現しようとする種々の実際のスター

リングエンジンが行っているサイクルでは,熱再生器の空間的制限と伝熱速度の

時間的制限により完全な熱再生は不可能であるため,部分熱再生によるサイクル

の熱効率への影響を考察する必要がある.

部分熱再生の場合,熱再生効率 21/QQregreg η とするとき,このスターリングサイ

クルの熱効率 partη は次式となる [6 ].

(1) C 1εln)1()1)(1(

εln)1(part     

ηCarnot

regpart ηη

式中,

(2) εln)1()1)(1(

εln)1(Cpart   η

reg

ここで,τは温度比,γは比熱比,εは圧縮比である.また, carnotη はカルノーサ

イクルの熱効率で, partC は部分熱再生によりカルノーサイクル熱効率を修正する

係数である.熱再生効率 regη によるこの修正係数 partC への影響を考察するため,試

しに,γ=1.4(空気など 2 原子分子のガス),圧縮比と温度比をそれぞれ,ε=1.5

とτ=0.35(一般的な実用エンジンの条件 )として, regη と partC の関係を図 2 に示す.

図 2 より, 0regη の時 2.0partC , 0.8regη の時 55.0partC となることが分かる.この結

果から,部分熱再生サイクルの熱効率は再生器の熱再生効率に大きく依存するこ

とと,十分高い熱効率を得るために,非常に高い熱再生効率が必要であることが

わかる.

Q11

q2

Q12

Q22

1

2

3

4TC

TE

Vmin Vmax V

p Qreg

Q21

1

2 3

4

Q11

Q12

Q21

Q22

(a) (b)

図1 理想スターリングサイクルと熱再生

7

図2 熱再生効率 regη による修正係数 partC への影響

以上の結果はそのまま定量的に実エンジンに適用できない可能性があるが,定

性的には適用できると思われる.このことから,実エンジンでも高い熱再生効率

を有する熱再生器が必要不可欠となり,その中に含まれる無効容積を考慮する必

要がある.

また,理想サイクルでは, 2 つの等温過程が実現されているが,これは加熱又

は放熱時の熱抵抗がゼロであることを意味するものである.実際のエンジンでは,

熱抵抗があるため,十分大きな伝熱面積をもつ加熱器と冷却器が必要となり,こ

れら熱交換器に無効容積が必ず生じる.また,一部模型スターリングエンジンで

は,単独の加熱器や冷却器がなくても,ピストンとシリンダー間の隙間容積や,

膨張側シリンダーと圧縮側シリンダーを連接する管に含まれる容積が必ず存在す

る.従って,加熱側にも冷却側にも無効容積は存在し,これらによる影響を考慮

する必要がある.

3.2 理 想 スターリングサイクルと実 際 スターリングエンジンサイクルとの比 較

図3に,理想スターリングサイクルと実際スターリングエンジンサイクルとの

比較を示す.図中のエンジンサイクルは,クランク機構を用いたβ形のスターリ

ングエンジンを,等温条件を用いて算出したものである.図3から,実際サイク

ルと理想サイクルとは大きく異なり,前者の図示仕事が後者より遥かに小さく,

この例では,その約 38.5%にしか達していない.実際エンジンサイクルの図示仕

事を最大化するには,この両者の相異の原因を明らかにして,箇々の原因に応じ

てその相異を最小化することにより,実際のエンジンサイクルを理想サイクルに

近付けることが必要となる.

実際スターリングエンジンサイクルと理想サイクルとの相異の原因について,

作動ガスへ出入りする熱伝達という熱的要素と,作動空間の容積及びその変化に

ηpart = ・(1-τ)=Cpart・ηCarnot{ }(1-τ)(1-ηreg)+(γ-1)lnε(γ-1)lnε

Cpart=(1-τ)(1-ηreg)+(γ-1)lnε

(γ-1)lnε

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5スターリングエンジン図示仕事の最大化に関する理論的研究

 以上の結果はそのまま定量的に実エンジンに適用できない可能性があるが,定性的には適用できると思われる。このことから,実エンジンでも高い熱再生効率を有する熱再生器が必要不可欠となり,その中に含まれる無効容積を考慮する必要がある。 また,理想サイクルでは, 2つの等温過程が実現されているが,これは加熱又は放熱時の熱抵抗がゼロであることを意味するものである。実際のエンジンでは,熱抵抗があるため,十分大きな伝熱面積をもつ加熱器と冷却器が必要となり,これら熱交換器に無効容積が必ず生じる。また,一部模型スターリングエンジンでは,単独の加熱器や冷却器がなくても,ピストンとシリンダー間の隙間容積や,膨張側シリンダーと圧縮側シリンダーを連接する管に含まれる容積が必ず存在する。従って,加熱側にも冷却側にも無効容積は存在し,これらによる影響を考慮する必要がある。

₃.₂ 理想スターリングサイクルと実際スターリングエンジンサイクルとの比較 図 3に,理想スターリングサイクルと実際スターリングエンジンサイクルとの比較を示す。図中のエンジンサイクルは,クランク機構を用いたβ形のスターリングエンジンを,等温条件を用いて算出したものである。図 3から,実際サイクルと理想サイクルとは大きく異なり,前者の図示仕事が後者より遥かに小さく,この例では,その約₃₈.₅%にしか達していない。実際エンジンサイクルの図示仕事を最大化するには,この両者の相異の原因を明らかにして,箇々の原因に応じてその相異を最小化することにより,実際のエンジンサイクルを理想サイクルに近付けることが必要となる。 実際スターリングエンジンサイクルと理想サイクルとの相異の原因について,作動ガスへ出入りする熱伝達という熱的要素と,作動空間の容積及びその変化に関する幾何学的要素に分けて考えることができる。実サイクルに等温条件を用いたことにより,熱伝達における差がなくなったので,図 3に示す P︲V線図の差は単に幾何学的要素によるものであることが分かる。即ち,実エンジンサイクルと理想サイクルに同じ等温条件を用いることにより,熱伝達など熱的要素による影響を消去することができる。 作動空間の幾何学的要素による影響では,実際のエンジンサイクルと理想サイクルとの相異は,熱交換器などが持つ無効容積が存在することと,実用のピストン駆動機構が生成する容積変化が等容変化を実現できないことにある。この 2種類の幾何学的要素それぞれの影響を明らかにするため,次節に述べる iVVモデルを用いてこれらの影響を分解する必要がある。

図 3 理想スターリングサイクルと実際スターリングエンジンサイクルとの比較例

8

関する幾何学的要素に分けて考えることができる.実サイクルに等温条件を用い

たことにより,熱伝達における差がなくなったので,図3に示す P-V 線図の差は

単に幾何学的要素によるものであることが分かる.即ち,実エンジンサイクルと

理想サイクルに同じ等温条件を用いることにより,熱伝達など熱的要素による影

響を消去することができる.

作動空間の幾何学的要素による影響では,実際のエンジンサイクルと理想サイ

クルとの相異は,熱交換器などが持つ無効容積が存在することと,実用のピスト

ン駆動機構が生成する容積変化が等容変化を実現できないことにある.この2種

類の幾何学的要素それぞれの影響を明らかにするため,次節に述べる iVV モデル

を用いてこれらの影響を分解する必要がある.

図3 理想スターリングサイクルと実際スターリングエンジンサイクルとの比

較例

4 iVV モデルによる幾何学的要素影響の分解

2 種類の幾何学的要素影響の中に,非等容変化に由来するものがわかれば,全

体の影響からこれを差し引いたものは,無効容積による影響となることがわかる.

非等容変化による影響分を割り出すため,実際のスターリングエンジンと同じ無

効容積を持ち,かつ等容変化を実現できる次の理想容積変化を有するスターリン

グエンジンモデルによるサイクルと,実際のスターリングエンジンサイクルとの

比較を行う.

4.1 理 想 容 積 変 化 を有 するスターリングエンジンモデル(iVV モデル)

図 4 は理想容積変化を有するスターリングエンジンモデルを示している.理想

容積変化の英語 ideal Volume Variations から,既報 [7 ]でこれを iVV モデル,そのサ

イクルは iVV サイクルと称している.iVV モデルは,実際のスターリングエンジ

ンが理想スターリングサイクルを実現する原理の説明に定性的に描かれることが

ある [ e .g .4 ,5 ].また,Organ[4]は等温条件において,その圧力変化と図示仕事を形式

的に示したが,具体的な計算には至らなかった.具体的な計算を行うため,著者

Real St i r l ing engine cycle

Ideal St i r l ing cycle

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4.iVVモデルによる幾何学的要素影響の分解  2種類の幾何学的要素影響の中に,非等容変化に由来するものがわかれば,全体の影響からこれを差し引いたものは,無効容積による影響となることがわかる。非等容変化による影響分を割り出すため,実際のスターリングエンジンと同じ無効容積を持ち,かつ等容変化を実現できる次の理想容積変化を有するスターリングエンジンモデルによるサイクルと,実際のスターリングエンジンサイクルとの比較を行う。₄.₁ 理想容積変化を有するスターリングエンジンモデル(iVVモデル) 図 4は理想容積変化を有するスターリングエンジンモデルを示している。理想容積変化の英語ideal Volume Variationsから,既報[7]でこれを iVVモデル,そのサイクルは iVVサイクルと称している。iVVモデルは,実際のスターリングエンジンが理想スターリングサイクルを実現する原理の説明に定性的に描かれることがある[e.g.4,5]。また,Organ[4]は等温条件において,その圧力変化と図示仕事を形式的に示したが,具体的な計算には至らなかった。具体的な計算を行うため,著者らは既報[7]で図 4に示すように,モデル化を行った。 この iVVモデルは次の特徴を有する。⑴ 図1に示す₁︲₂と₃︲₄の 2 つの定容過程が,クランク角度0~π/2と,π~3π/2の, 2つの行程によりそれぞれ厳格に実行される。⑵ クランク角π/2~πの間に行われる膨張過程では,圧縮空間に作動ガスを残すことなく,無効容積以外の全てのガスが最高の温度(定温条件下では TE)となり,圧力も最大となり,膨張仕事は最大に達する。⑶ クランク角3π/2~2πの間に行われる圧縮過程では,膨張空間に作動ガスがなく,無効容積以外の全てのガスが最低の温度(定温条件下では TC)となり,圧力も最小となり,所要圧縮仕事は最小に達する。⑷ 上記⑵と⑶より,このサイクルの図示仕事は,同じ無効容積を持つ任意のスターリングサイクルにおいて最大値に達することがわかる。即ち,これが同じ無効容積を持つ全てのスターリングエンジンの図示仕事の上限値である。

図 4 iVVモデルにおける膨張空間と圧縮空間容積の時間変化

9

らは既報 [7 ]で図4に示すように,モデル化を行った.

この iVV モデルは次の特徴を有する.

(1) 図1に示す 1-2 と 3-4 の2つの定容過程が,クランク角度 0~π /2 と,π~

3π /2 の,2つの行程によりそれぞれ厳格に実行される.

(2) クランク角π /2~πの間に行われる膨張過程では,圧縮空間に作動ガスを残

すことなく,無効容積以外の全てのガスが最高の温度(定温条件下では TE)

となり,圧力も最大となり,膨張仕事は最大に達する.

(3) クランク角 3π /2~ 2πの間に行われる圧縮過程では,膨張空間に作動ガス

がなく,無効容積以外の全てのガスが最低の温度(定温条件下では TC)と

なり,圧力も最小となり,所要圧縮仕事は最小に達する.

(4) 上記 (2)と (3)より,このサイクルの図示仕事は,同じ無効容積を持つ任意の

スターリングサイクルにおいて最大値に達することがわかる.即ち,これ

が同じ無効容積を持つ全てのスターリングエンジンの図示仕事の上限値で

ある.

iVV モデルは理想的な容積変化を有するので,その図示仕事から,同じ等温条

件下での実際のピストン駆動機構を用いたスターリングエンジンのものを差し引

いて得られる仕事は,実際ピストン駆動機構が生成する「非理想的な容積変化」

による幾何学的要素により減少されたものである.また,無効容積を持たない理

想スターリングサイクルとの比較により,無効容積のみによる影響を明らかにす

ることができる.

0

VD

CV

DR

VD

E

Vv,

min

Vv,

max

π3π2

2ππ

2

VD

Dis

plac

emen

t(E

xpan

sion

)D

ispl

acem

ent

(Com

pres

sion

)

θ

IsovolumetricHeating

IsoermalExpansion

IsoermalCompression

IsovolumetricCooling

Vv,

min

Vv,

max

Dead volume of cooler and compression cylinderDead volume of heat regeneratorDead volume of heater and expansion cylinder

図 4. iVV モデルにおける膨張空間と圧縮空間容積の時間変化

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7スターリングエンジン図示仕事の最大化に関する理論的研究

 iVVモデルは理想的な容積変化を有するので,その図示仕事から,同じ等温条件下での実際のピストン駆動機構を用いたスターリングエンジンのものを差し引いて得られる仕事は,実際ピストン駆動機構が生成する「非理想的な容積変化」による幾何学的要素により減少されたものである。また,無効容積を持たない理想スターリングサイクルとの比較により,無効容積のみによる影響を明らかにすることができる。

₄.₂ iVVモデルの仮定 iVVモデルを定式化するため,以下の仮定を行った。① 作動ガスは完全ガスで,その質量は変化しない。② サイクルの任意時刻において,膨張空間と加熱器中の温度は TEに,圧縮空間と冷却器中の温度は TCに,それぞれ保たれる。

③ 熱再生器中のガスの質量平均温度は,加熱温度 TEと冷却温度 TCの算術平均である。④ 作動空間中に至る所の圧力が一様である。⑤ 膨張過程始点での膨張空間容積は圧縮過程終点での圧縮空間容積と等しく,膨張行程終点での膨張空間容積は圧縮行程始点での圧縮空間容積と等しく,それぞれ,Vv,minと Vv,maxとする。

⑥ 各変化過程において圧縮空間と膨張空間の容積はそれぞれ,線形的に変化する。⑦ 各変化過程の所要時間は等しい。 以上の各仮定について,①~④は,一般に図 5に示す等温条件と称する。仮定⑤は等容変化過程を実現するためのもので,⑥と⑦は,膨張空間と圧縮空間の容積を表す関数を簡単にするためのものであり,等温条件では,作動空間の圧力は,各部の瞬時容積のみにより決定されるので,省略可能なものである。

₄.₃ iVVモデルの定式化 iVVモデルの仮定⑤~⑦に基づいて,各変化過程における膨張空間と圧縮空間の容積変化 VEとVCを表1に示す。また,作動空間の最大容積 Vmaxと最小容積 Vminは次式となる。

⑶ ⑷ 

 従って,圧縮比εは

⑸ 

となる。

10

4.2 iVV モデルの仮 定

iVV モデルを定式化するため,以下の仮定を行った.

① 作動ガスは完全ガスで,その質量は変化しない.

② サイクルの任意時刻において,膨張空間と加熱器中の温度は TE に,圧縮空間

と冷却器中の温度は TC に,それぞれ保たれる.

③ 熱再生器中のガスの質量平均温度は,加熱温度 TE と冷却温度 TC の算術平均

である.

④ 作動空間中に至る所の圧力が一様である.

⑤ 膨張過程始点での膨張空間容積は圧縮過程終点での圧縮空間容積と等しく,

膨張行程終点での膨張空間容積は圧縮行程始点での圧縮空間容積と等しく,

それぞれ,Vv, min と Vv,max とする.

⑥ 各変化過程において圧縮空間と膨張空間の容積はそれぞれ,線形的に変化す

る.

⑦ 各変化過程の所要時間は等しい.

以上の各仮定について,①~④は,一般に図5に示す等温条件と称する.仮定

⑤は等容変化過程を実現するためのもので,⑥と⑦は,膨張空間と圧縮空間の容

積を表す関数を簡単にするためのものであり,等温条件では,作動空間の圧力は,

各部の瞬時容積のみにより決定されるので,省略可能なものである.

VE

TE

PV

C

P

TC

ExpansionSpaceRegenerator

CompressionSpace

P,VDR

,TRP,V

DC,T

C

HeaterCooler

P,VDE

,TE

図5 iVV モデルに用いる等温条件

4.3 iVV モデルの定 式 化

iVV モデルの仮定⑤~⑦に基づいて,各変化過程における膨張空間と圧縮空間

の容積変化 VE と VC を表1に示す.また,作動空間の最大容積 Vmax と最小容積

Vmin は次式となる.

(4) (3)

min,min

max,max,max

Dv

DvDEDRDCv

VVVVVVVVVV

従って,圧縮比εは

(5) min,

max,

min

max

Dv

Dv

VVVV

VV

となる.

図 5 iVVモデルに用いる等温条件

min,min

max,max,max

Dv

DvDEDRDCv

VVVVVVVVVV

+=+=+++=

min,

max,

min

max

Dv

Dv

VVVV

VVε

++

==

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黄  樹偉8

表1 各変化過程における膨張空間と圧縮空間の容積

 また,仮定①~④に基づき,作動空間内の圧力 Pは次式で計算される。

 式中,Cは次の定数項である。

 実際のスターリングエンジンでは,通常,作動ガス質量mの代わりに,平均圧力 Pmeanが示されるので,mは Pmeanから算出する。

 式⑹と表1より,

となる。また,iVVサイクルの図示仕事WiVVは式⑹と表1より次式となる。

₄.₄ iVVモデルによる幾何学的要素影響の分解  2種類の幾何学的要素影響の中から,非等容変化による影響分を割り出すため,図 6のように,幾何学的要素の影響が存在しない理想サイクル(図中の Conventional Stirling cycle)と,無効容積のみの幾何学的影響を受けている iVVサイクル及び無効容積と非等容変化両方の影響を受けている実際のスターリングエンジンサイクルを,同時に同じ P︲V座標に示す。図中の実際のスターリングエンジンサイクルは,ロンビック機構を用いたスターリングエンジンを等温条件下で算出し

11

表1 各変化過程における膨張空間と圧縮空間の容積

また,仮定①~④とに基づき,作動空間内の圧力 P は次式で計算される.

(6) C

TV

TV

mRP

E

E

C

C

式中,C は次の定数項である.

(7) 2 max, E

v

E

DE

EC

DR

C

DC

TV

TV

TTV

TVC

)8( 1

2                      

ττDE

DRDC xxx

実際のスターリングエンジンでは,通常,作動ガス質量 m の代わりに,平均圧力

Pme a n が示されるので,m は Pme a n から算出する.

(9) 21 2

πPdPmean

式 (6)と表1より,

(10) /11ln

/11ln

1

1/1ln

1/1ln

)1(4 max,

       τ       

  τ

τ

vvv

v

v

vv

v

Emean V

mRTP

となる.また, iVV サイクルの図示仕事 WiVV は式 (6)と表1より次式となる.

(11) /11ln

/11lniVV

vv

ECE mRTVVPdPdVW

4.4 iVV モデルによる幾 何 学 的 要 素 影 響 の分 解

2 種類の幾何学的要素影響の中から,非等容変化による影響分を割り出すため,

図 6 の よ う に , 幾 何 学 的 要 素 の 影 響 が 存 在 し な い 理 想 サ イ ク ル ( 図 中 の

Conventional Stirling cycle)と,無効容積のみの幾何学的影響を受けている iVV

CTV

TV

mRP

E

E

C

C ++=

2 max, µE

v

E

DE

EC

DR

C

DC

T

V

TV

TTV

TV

C =++

+=

12ττ DE

DRDC xxx+

++=µ

21 2

0∫=π

πPdPmean θ

( ) /11ln

/11ln

1

1/1ln

1/1ln

(14 max,

τ

τ)τ

+++

++

-+

+++

++

-=

vvv

v

v

vv

v

Emean V

mRTPε

ε ε

ε

εε

ε τ

τμτμ

μ μμ μ

μμ

τ

( )/11ln

/11lniVV

++-

++=+==∫ ∫

vvECE mRTVVPdPdVW

τμτμ

μμ τ

εε

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9スターリングエンジン図示仕事の最大化に関する理論的研究

たもので,iVVサイクルは,実際のエンジンと同じ無効容積(加熱器,冷却器及び熱再生器を含む)を有し,理想サイクルは,全ての無効容積を持たないものである。 図 6において,iVVサイクルと実際のエンジンサイクルの差は,実際のピストン駆動機構が生成する容積変化が非等容変化から乖離した結果である。主に,膨張過程後半の圧力低下と,圧縮過程後半の過度な圧力上昇が見られる。前者は膨張過程の後半に圧縮空間の容積が過早に大きくなったためで,後者は圧縮過程の後半に膨張空間の容積が過早に大きくなったためである。即ち,実際のエンジンサイクルの図示仕事を最大化するためには,膨張空間と圧縮空間の位相差や,ピストン駆動機構構成部品の寸法などを最適化することにより,両者の差を小さくすることが求められる。 また,無効容積のみによる図示仕事への影響は iVVサイクルと理想サイクルとの比較からわかる。図 6から,理想サイクルに比べ,iVVサイクルの膨張圧力は,全過程にわたり,大幅に低減されていることがわかる。これは,iVVモデルの冷却器と熱再生器中に存在する作動ガスの温度が,加熱部温度 TEより遙かに低く,作動空間の圧力を大きく押し下げているためである。特に,冷却器中にあるガスの温度が最も低く,密度が最も高いため,多くの作動ガスが低温に保たれるため,その影響がよりいっそう顕著となる。図示仕事を最大化するには,冷却器無効容積を最大限に小さくする必要がある。 一方,図 6の理想サイクルに比べ,iVVサイクルの圧縮圧力は,顕著に高くなることがわかる。これは,iVVモデルの加熱器と熱再生器中の作動ガスが,冷却部温度 TCより遙かに高いため,作動空間の圧力を押し上げているためである。ただし,図 6のように加熱器と冷却器の無効容積が同じ場合,加熱器中のガスの質量が比較的小さいため,その影響が,膨張過程における冷却器無効容積の影響に比べ相対的に小さい。しかしながら,既述した実際エンジンサイクルにおける非等容変化による図示仕事への影響に比べ,これがなお著しく大きいので,図示仕事を最大化するには,加熱器と熱再生器の無効容積を最大限に小さくする必要もある。 また,図 6中に,冷却器と加熱器の無効容積が同じく 10cm3 であるが,“Work decreased by VDC & VDR”の面積は“Work decreased by VDE & VDR”のそれより遥かに大きいことがわかる。即ち,加熱器の無効容積に比べ冷却器のそれによる仕事の減少がより顕著であることが分かる。

図 6 幾何学要素によるスターリングサイクルへの影響

12

サイクル及び無効容積と非等容変化両方の影響を受けている実際のスターリング

エンジンサイクルを,同時に同じ P-V 座標に示す.図中の実際のスターリングエ

ンジンサイクルは,ロンビック機構を用いたスターリングエンジンを等温条件下

で算出したもので, iVV サイクルは,実際のエンジンと同じ無効容積(加熱器,

冷却器及び熱再生器を含む)を有し,理想サイクルは,全ての無効容積を持たな

いものである.

図6 幾何学要素によるスターリングサイクルへの影響

図6において, iVV サイクルと実際のエンジンサイクルの差は,実際のピスト

ン駆動機構が生成する容積変化が非等容変化から乖離した結果である.主に,膨

張過程後半の圧力低下と,圧縮過程後半の過度な圧力上昇が見られる.前者は膨

張過程の後半に圧縮空間の容積が過早に大きくなったためで,後者は圧縮過程の

後半に膨張空間の容積が過早に大きくなったためである.即ち,実際のエンジン

サイクルの図示仕事を最大化するためには,膨張空間と圧縮空間の位相差や,ピ

ストン駆動機構構成部品の寸法などを最適化することにより,両者の差を小さく

することが求められる.

また,無効容積のみによる図示仕事への影響は iVV サイクルと理想サイクルと

の比較からわかる.図 6 から,理想サイクルに比べ,iVV サイクルの膨張圧力は,

全過程にわたり,大幅に低減されていることがわかる.これは, iVV モデルの冷

却器と熱再生器に存在する作動ガスの温度が,加熱部温度 TE より遙かに低く,作

動空間の圧力を大きく押し下げているためである.特に,冷却器にあるガスの温

度が最も低く,密度が最も高いため,多くの作動ガスが低温に保たれるため,そ

の影響がよりいっそう顕著となる.図示仕事を最大化するには,冷却器無効容積

を最大限に小さくする必要がある.

J/(kgK) 287cm 45.56

cm 38.22

cm 10cm 10cm 20

K323.15 K973.15

kg 1096.4

3max,

3min,

3

3

3C

E

5

RV

VVVVTTm

v

v

DC

DE

DR

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黄  樹偉10

5.終わりに スターリングエンジンの出力に比例するその図示仕事の最大化について,理想容積変化を有するスターリングエンジンモデルを,等温条件下におけるサイクル(iVVサイクル)を解析したうえ,実エンジンサイクルの図示仕事に対する,作動空間無効容積とピストン駆動機構による非等容変化それぞれの影響を分けて,定量的な比較・検討を行い,次の結論を得た。⑴ iVVサイクルの図示仕事は,同じ無効容積(加熱器,冷却器及び熱再生器を含む)を持つ全てのスターリングエンジンにおいて,最大な図示仕事を有することが分かった。⑵ 実エンジンの図示仕事への種々の影響は,等温モデルを用いることにより,伝熱など熱的要素によるものと,作動空間の幾何学的要素によるものとに分けることができることが分かった。⑶ 作動空間の幾何学的要素による図示仕事への影響は,iVVサイクルを用いることにより,各種交換器の無効容積によるものと,ピストン駆動機構が生成する非等容変化によるものとに分解できることが分かった。⑷ 無効容積による図示仕事への影響は,ピストン駆動機構が生成する非等容変化によるものに比べ,遥かに大きいことが分かった。⑸ 加熱器に比べ,同じ無効容積を有する冷却器による図示仕事の減少がより顕著であることが分かった。

謝  辞 本研究の経費の一部は「平成24年度学内特別研究費」より支弁されたものである。ここに謝意を表す。

参 考 文 献

[ 1]  濱口和洋,平田宏一,松尾政弘,戸田富士夫,“模型スターリングエンジン(第 2版)”,山海堂(2000).

[ 2]  山下巌,濱口和洋,香川澄,平田宏一,百瀬豊,“スターリングエンジンの理論と設計”,山海堂(1999).

[ 3]  黄樹偉,吉岡力, “熱工学実験用小型スターリングエンジンの研究開発”, 日本機械学会第10回スターリングサイクルシンポジウム講演論文集(2006),pp.23︲26.

[ 4]  Organ, A. J., “Thermodynamics and Gas Dynamics of the Stirling Cycle Machine”, Cambridge Univ. Press(1992).

[ 5]  Walker, G. “Stirling Engines”, Oxford Univ. Press(1980).[ 6]  黄樹偉,“スターリングサイクルに関する一考察―熱再生効率と圧縮比による熱効率への影

響”,日本機械学会第11回スターリングサイクルシンポジウム講演論文集(2008),pp.65︲68.

[ 7]  Huang, S., “A Thermodynamic Analysis of the Stirling Cycles”, 14th International Stirling Engine Conference(2009).