シビックテックで 雪国 地域と 雪氷 分野を盛り上げ...

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シビックテックで雪国地域と雪氷分野を盛り上げよう! 澤田 学*1 1.雪国地域雪氷分野を盛り上げたい 筆者は雪国地域雪氷分野に大変な興味.関心があ るが、生まれと現住地が大阪、大学と大学院が奈良で、 いずれも雪とはほとんど無縁の地域である。実家が鳥取 県にあり、筆者自身も小学生から高校生まで雪の多い鳥 取県に住んだ。その経験から筆者は、雪国地域氷分野 に興味を持ち始めた。関西に戻ってから、大学 と大学院は地理学を専攻 し、その後市民主体で自らの望 む社会をつくり上げるための活動( シビックテック) も定 期的に行った。2016年にネットでの学会が存在する ことを知り、日本雪氷学会に迷わず入会した。2017年に は十日町の大会で、2018年には札幌の大会(開催直前に発 生した北海道胆振東部地震のため誌上開催 ) で発表を 行った。研究発表大会以外でも各種発表会、シンポジウ ム、越後雪かき道場などに積極的に参加した。また、個 人的に雪国地域に赴いて、地域を実際に歩いて観察 し、雪国地域を理解しようと努めた。図1 は、2017 雪国地域を訪問した場所と訪問目的である。図2 その時の写真の一部である。長々と記載したが、 雪国 地域雪氷分野の魅力に取りつかれたので、何かしら 自分なりに貢献できないかと考えてみた。 1:2017冬 雪国地域訪問場所と訪問目的 *1所属 オープンデータ京都実践会 2:2017冬 雪国地域訪問場所写真 2.シビックテックとは 唐突ではあるが、シビックテックという言葉をご存 知だろうか ? あまり馴染みのない言葉かもしれない。シ ビック(市民)とテック(テクノロジー)を掛け合わせた造語 で、市民主体で自らの望む社会を創り上げる活動とその ためのテクノロジーである。具体的な内容として、「地 域の魅力を世界各地にITを駆使して情報発信、地域に存 在する様々な諸課題をITを使ってみんなで解決し、より 良い地域を目指す」市民活動である。それを実現するた めのコミュニティが各地に存在して様々な活動を行って いる。 シビックテックという言葉が最初に使用され始めたの はアメリカである。2000年代中頃にウェブの新しい利用 法を指す言葉として「Web 2.0」が使われはじめた。提唱 者であるオライリー社の創業者ティム・オライリーはこ れを行政に当てはめて「Government2.0」を提唱した。 Government2.0」は、税金を払えば必要な行政サービス が受けられる従来型モデルでは市民の要望に応えられな くなっているため、行政は必要なデータやリソースをで きるだけ市民に提供し、市民自らが必要なサービスを決 定したり、創ったりすることができるような仕組みが必 要だと考えた。その仕組みで行政と協働しながら市民が 課題を解決していく活動がシビックテック活動の興りで ある。

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シビックテックで”雪国”地域と”雪氷”分野を盛り上げよう!

澤田 学*1

1.”雪国地域”と”雪氷分野”を盛り上げたい 筆者は”雪国地域”と”雪氷分野”に大変な興味.関心があるが、生まれと現住地が大阪、大学と大学院が奈良で、いずれも雪とはほとんど無縁の地域である。実家が鳥取県にあり、筆者自身も小学生から高校生まで雪の多い鳥取県に住んだ。その経験から筆者は、”雪国地域”と”雪氷分野”に興味を持ち始めた。関西に戻ってから、大学と大学院は地理学を専攻 し、その後市民主体で自らの望む社会をつくり上げるための活動(シビックテック)も定期的に行った。2016年にネットで”雪”の学会が存在することを知り、日本雪氷学会に迷わず入会した。2017年には十日町の大会で、2018年には札幌の大会(開催直前に発生した北海道胆振東部地震のため誌上開催 )で発表を行った。研究発表大会以外でも各種発表会、シンポジウム、越後雪かき道場などに積極的に参加した。また、個人的に雪国地域に赴いて、地域を実際に歩いて観察し、”雪国地域”を理解しようと努めた。図1は、2017冬に”雪国地域”を訪問した場所と訪問目的である。図2はその時の写真の一部である。長々と記載したが、”雪国地域”と”雪氷分野”の魅力に取りつかれたので、何かしら自分なりに貢献できないかと考えてみた。

図1:2017冬 雪国地域訪問場所と訪問目的

*1所属オープンデータ京都実践会

図2:2017冬 雪国地域訪問場所写真

2.シビックテックとは 唐突ではあるが、”シビックテック”という言葉をご存知だろうか?あまり馴染みのない言葉かもしれない。シビック(市民)とテック(テクノロジー)を掛け合わせた造語で、市民主体で自らの望む社会を創り上げる活動とそのためのテクノロジーである。具体的な内容として、「地域の魅力を世界各地にITを駆使して情報発信、地域に存在する様々な諸課題をITを使ってみんなで解決し、より良い地域を目指す」市民活動である。それを実現するためのコミュニティが各地に存在して様々な活動を行っている。 シビックテックという言葉が最初に使用され始めたのはアメリカである。2000年代中頃にウェブの新しい利用法を指す言葉として「Web 2.0」が使われはじめた。提唱者であるオライリー社の創業者ティム・オライリーはこれを行政に当てはめて「Government2.0」を提唱した。「Government2.0」は、税金を払えば必要な行政サービスが受けられる従来型モデルでは市民の要望に応えられなくなっているため、行政は必要なデータやリソースをできるだけ市民に提供し、市民自らが必要なサービスを決定したり、創ったりすることができるような仕組みが必要だと考えた。その仕組みで行政と協働しながら市民が課題を解決していく活動がシビックテック活動の興りである。 

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 2009年にアメリカでCode for Americaという非営利組織が誕生し、「21世紀の政府は、市民のために働き、市民によってい運営されるべき」という理念のもと、テクノロジーを利用した行政サービスの変革に挑戦している。また、全米各地にCode for America Brigadeと呼ばれるシビックテックコミュニティが存在している。Code for Americaが全米の組織であるのに対しBrigadeは各地域で活動している。 日本でもCode for Americaの活動に感銘を受けた福島健一郎氏が「Code for KANAZAWA」を設立した。「できるだけオープンに、中立で、その地域に住む市民のために活動する」ことを基本スタンスとしている。実際に課題解決をテクノロジーで行う活動を具体的に証明するために、実際の課題解決をテクノロジーで行うプロダクトの開発を行った。そして、「5374.jp」というアプリが誕生した。これは、「ごみの分別や情報収集がわかりづらい」という課題を解決するために開発された。どのゴミがいつ出せばいいか(何日後に回収予定か?)一目で確認できる(図3) 

図 3:5374jp画面(http://5374.jp)

 5374.jpはその後、オープンソースで公開され、全国に拡大している。 その後、日本全体をカバーするCode for JAPANが設立された。 Brigadeの立ち位置だが、アメリカはCode for Americaが名付けた各地域版のシビックテック団体であり、Code for Americaの教育プログラムに則って認定を受けている。日本は各都市から自発的にシビックテック団体が立ち上がることを大事にするスタンスから、それぞれが独立して活動することとし、Code for JAPANは各ブリゲイドが活発に活動できるように下支えする役割とすることに決まった。2018年10月17日現在、公認団体50団体、公認準備中36団体となっている(Code for Japan HPより)。それ以外でも、ブリゲイドとしての活動に向けて準備中の団体も数多くあることが推察される。

また、Code for Japan Brigade以外でも同様の活動をしている団体も多くある。シビックテック活動は様々な立場の人間が、楽しく活動することがモットーである。

2.2シビックテック 先行事例 シビックテック活動は各地で多種多様な活動が行われている。筆者もオープンデータ京都実戦会、Code for Nara、Code for Osaka IKEDAの運営メンバーとなっている。その地域に住む市民のために活動する基本スタンスは同じ方向でも、地域の課題やコミュニティメンバーが取り組んでみたい活動内容が、個々のシビックテックコミュニティ違うため活動内容は様々である。また、ほとんどのシビックテックコミュニティで共通するのは、メンバーのほとんどは別の仕事を持っており、別のコミュニティを掛け持ちしている人も少なくないため、1つのコミュニティで活動できる時間が制限されている。シビックテックコミュニティは活動できる時に活動できる人がやるスタンスなので、無理なく活動することが可能である。 さて、シビックテックの先行事例だが、筆者が活動しているオープンデータ京都実戦会について紹介させていただくこととする。みんなでオープンデータを作るイベントを定期的に開催している。オープンデータとは、誰もが自由に利用でき、再配布や再加工も可能なデータである。加えて機械可読性が高い形式であることが求められている。オープンデータは、行政公開型と自分たちで作るものと2種類ある。前者は、いわゆる行政がHPのオープンデータカタログサイトで公開している統計データ等である。後者は、OpenStreetMapやウィキペディアなどである。オープンデータ京都実戦会では、後者のようなデータをオープンデータソンというイベントを開催して、イベント参加者みんなでデータを作って地域情報を充実させることを主目的としている。イベントの流れは以下の図4の通りである。

図4:オープンデータソンのイベントの流れ

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3.Code for Snowについて シビックテックで”雪国地域”と”雪氷分野”を盛り上げたいという思いが強い筆者は、どのように活動するのが最適かを模索していた。そんな時、シビックテックの未来を切り拓くための一般参加型イベントシビックテックフォーラムに初めて参加し、発表もさせていただいた。全国各地のシビックテックの関係者が共に学び合う場であり、大変有意義な時間を過ごせた。参加者の中でCode for Catというコミュニティと出会った。Code for ○○の、”○○”部分には地名が入ることがほとんどである。その地域に住む市民のために活動することを基本としているからである。Code for Catは、地域猫を地域の資産であると捉え、殺処分(収容数)ゼロを目指している団体の活動を支援するために、IT技術を活用した、持続可能な仕組みを開発し、継続的な支援を行っていくことを活動コンセプトとして定めている。筆者は、この時にCode for Snowを設立しようと考えついた。コンセプトは、“雪国”を世界に誇る場所として捉え、観光客増加と移住者増加を狙う。また、”雪”そのものに関心を持つ人を増やし、雪氷防災意識の向上も図ることを目的とする。

3.1 Code for Snowの活動の目標 Code for Snowの活動の目標は、図5に示すように3つの目標を掲げている。

図5.Code for Snowの3つの目標

1.は地域の魅力発信、2.地域の課題解決、3.雪氷分野への興味関心を高める。詳細は今後詰めていく予定である。

活動地域であるが、基本的には図6に示すように豪雪地帯対策特別措置法に基づいた「豪雪地帯」と「特別豪雪地帯」がとなる予定である。活動範囲が広範囲であるため、どのような活動ができるのか、どこを中心に活動するのか、今後詰めていく予定である。一緒に活動してくれるメンバーを探すなど、人脈作りがまず行うべきことである。

図6:全国積雪寒冷地帯振興協議会豪雪地帯指定図

3.2 活動内容(予定)

 Code for Snowはまだ設立準備段階のため、まだ活動の内容も構想を練っている段階ではあるが、活動内容を図7に示す。

図7:Code for Snowの活動内容(案)

基本的には、前出の3つの活動目標を軸に活動を行うことを目標とする予定である。

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4.まとめ シビックテックで”雪国地域”と”雪氷分野”を盛り上げたいと考える一番の理由は、”雪国地域”と”雪氷分野”に対して何よりも筆者が強い興味と関心があるからである。さらに、”雪国””雪氷”は日本独特の文化でもあり、その地域の魅力、雪国地域の諸課題、雪氷分野について共有することは、”雪”、に対する明るい未来を作るきっかけになるのではと筆者は考えている。 Code for Snowの活動について、まだまだ未定が多いので、今後活動目標や活動方針を明確に定めていく作業が早急に必要であると筆者は考えている。

<参考資料>

・稲継裕昭(2018)「シビックテック ICTを使って課題解決を自分たちで解決する」勁草書房,pp.1-26、38、76-77

・Code for Japan HP

https://www.code4japan.org(・Code for Cat HP

https://code4cat.org