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Meiji University Title Author(s) �,Citation �, 91(1): 413-466 URL http://hdl.handle.net/10291/19838 Rights Issue Date 2018-10-24 Text version publisher Type Departmental Bulletin Paper DOI https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

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Page 1: フレデリック フェラン フランス既判力論の不明確さ URL DOI...Harmonisation》,in:Festschrift Peter Gottwald,Munchen, Beck, 2014, S. 143¨ ff. ; Rolf Sturner,¨

Meiji University

 

Titleフレデリック フェラン フランス既判力論の不明確さ

と矛盾

Author(s) 芳賀,雅顯

Citation 法律論叢, 91(1): 413-466

URL http://hdl.handle.net/10291/19838

Rights

Issue Date 2018-10-24

Text version publisher

Type Departmental Bulletin Paper

DOI

                           https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

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明治大学 法律論叢 91巻 1号:責了 book.tex page413 2018/10/17 09:23

法律論叢第 91巻第 1号(2018.10)

【翻 訳】

フランス既判力論の不明確さと矛盾

フレデリック・フェラン ∗

訳・芳 賀 雅 顯 ∗∗

目 次Ⅰ 序論

A. 既判力の基礎――覆すことができない真実推定か、それとも社会平和の制度か

B. 諸概念――判決効と関連する他の諸概念との関係――C. 既判力の抗弁(exception de chose jugee)Ⅱ 既判力を有する裁判Ⅲ 既判力の内容に関する範囲(既判力の客観的範囲)

A. “消極的”既判力(新訴の不適法性)1.概念2.法律上の要件: 民法 1355条3.既判力と裁判官の義務(民事訴訟法 12条)4.既判力の時的限界5.既判力が生じる判決の部分:理由には生じない

B. “積極的”既判力(先例拘束性)は原則として認められないⅣ 結語

Ⅰ 序論

既判力は、ほとんどの法秩序において、困難で、複雑かつ秘密に覆われたテーマ

∗ リヨン第三大学教授∗∗ 慶應義塾大学教授

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法律論叢 91巻 1号

であり(1)、法律の規定からだけでは理解することができない(2)。そのため(簡潔

な)民事訴訟法の教科書からは、フランスにおける既判事項の権威(autorite de

chose jugee:既判力)という概念を明確かつ明白に把握することができないとす

る学説の指摘は適切である(3)。

既判力という概念とその法的効果について言及するに際して、判例は重要な役割

を果たす。というのも、判例は、ときには精緻な解決をもたらし、またときには実

用的ではあるものの堅実性や論理性に欠ける方法を採用し、それゆえその方法は学

説によって厳しく批判されてきたからである。他の国々におけるのと同様に、フラ

ンス法における既判力の概念とその規律は長い伝統に基づいている。しかし、この

伝統は驚くべきことに民事訴訟法ではなく民法に淵源を有している(4)。もっとも、

(1) S. Claude Brenner,《Les conceptions actuelles de l’autorite de la chose jugeeen matiere civile au regard de la jurisprudence》, in: Jacques Foyer/ CatherinePuigelier (Hrsg.), Le Nouveau Code de procedure civile (1975-2005), Paris,Economica, 2006, S. 221. つぎの文献もまた参照。L’etendue de l’autorite de chosejugee en droit compare, Etude realisee par l’Institut de droit compare EdouardLambert de l’Univ. Jean Moulin Lyon 3 pour la Cour de cassation,http://www.courdecassation.fr/IMG/File/Plen-06-07-07-0410672-rapport-definitif-anonymise-annexe-2.pdf

(2)いくつかの比較法に基づく研究が、既判力の体系的相違の分析を行っている。以下の文献を参照。Cecile Chainais, ,,L’autorite de la chose jugee en procedure civile:perspectives de droit comparee“, Revue de l’arbitrage (Rev. arb.) 2006, S. 1 ff. ;Frederique Ferrand,《Res judicata: From National Law to a Possible EuropeanHarmonisation》, in : Festschrift Peter Gottwald, Munchen, Beck, 2014, S. 143ff. ; Rolf Sturner,《Rechtskraft in Europa》, in : Reinhold Geimer (Hrsg), Wegezur Globalisierung des Rechts, Festschrift fur Rolf A. Schutze, Munchen, Beck,1999, S. 913 ff. ; Rolf Sturner,《Preclusive Effects of Foreign Judgments - TheEuropean Tradition》, in Rolf Sturner/Masanori Kawano (ed.), Current Topics ofInternational Litigation, p. 242.: A. Zeuner und H. Koch,《Chapter 9. Effects ofjudgments (Res judicata)》, Band XVI, Civil Procedure International Encyclopediaof Comparative Law, Tubingen Mohr Siebeck, 2012.

(3) Georges Wiederkehr,《Sens, signifiance et signification de l’autorite de chosejugee》, in: Justice et Droits fondamentaux, Etudes offertes a Jacques Normand,Paris, Litec, S. 507は、以下のように説明している。すなわち、民事訴訟法はプラグマティックな実務家の法であり、また、家屋の柱に相当する民事訴訟法の基本概念は部分的には不明確、不安定かつ意見の対立がある、と。

(4)民法 1351条(2016年 10月 1日以降は、1355条)を参照のこと(既判力は、裁判所の判断対象についてのみ生ずる。申し立てられた事件は同一でなければならず、請求は同一の法的根拠(cause)に基づくものでなければならず、かつ同一当事者間において、その当事者によって、またはその当事者に対して同一の資格で提起されたものでなければ

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

この伝統は、最近は判例によって部分的に打ち破られている。

A. 既判力の基礎――覆すことができない真実推定か、それとも社会平和の制度か

伝統的に、フランス法における既判力は、覆すことができない推定(presomption

irrefragable de verite)、つまり証拠法上のルールとして考えられていた。すなわ

ち、1804年から 2016年 9月 30日までの民法 1350条によると、法律上の推定は、

特別法に基づく特定の法律行為ないし事実に関する推定であるとされていた(5)。そ

して、同条には 4つの推定が掲げられており、その 3号には、“法律によって既判力

に付与される権威”とされていた(6)。2016年 2月 10日の契約法改正によって(7)、

民法 1350条は 1354条となった。同条は、現在、法律上の推定の定義に関して、

いわゆる既判力から生ずる真実推定を廃止した。この伝統の基礎は、とくにラテン

語の格言“既判事項は真実とみなされるRes judicata pro veritate habetu”(8)に

基づくものとされ(9)、また既判力は覆すことができない推定(presomption

ならない)。(5)以下の文献を参照。Claire Quetand-Finet, Les presomptions en droit prive,

Bibliothek der IRJS, Band 44, Paris, 2013 ; RdNr. 298 ff.(6) ,,L’autorite que la loi attribue a la chose jugee“.(7) Ordonnance Nr. 2016-131 v. 10.02.2016.(8)このラテン語の格言に関する歴史的誤解については、以下の文献を参照のこと。Cedric Bouty,《Chose jugee》, Repertoire de procedure civile Dalloz, RdNr.262. ドマ(Domat)およびポティエ(Pothier)は、この格言を証拠の局面で用い、その後、民法典(Code civil)において採用された。

(9)これは通説によって否定されているが、この通説の立場はウルピアン(Ulpian)の引用を誤って解釈したことに基づいている(たとえ事実は解放による自由人といえども、判決をもって生来の自由人なりと言い渡された者はまたこれを生来の自由人なりとせざるべからず、なんとなれば判決は事実と認めらるればなり ,,Ingenuum accipire debemusetiam eum, de quo sententia lata est, quamvis fuerit libertinus quia res judicatapro veritate accipitur“)。元々、この引用は、判決言渡し後は、裁判によって認められた真実(gerichtliche Wahrheit)を通じて補充された事実関係がもはや重要ではないことを意図していた。Claire Quetand-Finet, Les presomptions en droit prive, RdNr. 298は、つぎのことを詳細に述べている。すなわち、推定は既知の事実を要求し、その既知の事実から未知の事実を導き出すとされていることから、既判力は推定ではありえないとする(RdNr. 303 ff.)。既判力は法律に基づくのであり、既知の事実から未知の事実を演繹することによるのではない。以下の文献も参照のこと。Pierre Mayer,《Reflexionssur l’autorite negative de chose jugee》, in: Melanges Jacques Heron, Paris, LGDJ,2008, S. 336 f.

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法律論叢 91巻 1号

irrefragable, absolue)に結び付けられていることから、反対事実の証明は法律上

完全に排除されているが、こんにちの有力説は(10)、これを疑問視しており争いが

ある(11)。民事訴訟は、真実に向けられたものではないし、かりに真実に向けられ

たとしてもいつもそうであるとは限らない。真実は、“裁判上”(verite judiciaire)、

相対的なものであり、また形式的な三段論法に基づくものとされている(12)。裁判

によって認識された真実は、推定というよりもむしろ擬制に相当するとされる(13)。

というのも、誤った裁判(誤判)が、しばしば言い渡されているからである。裁判

所の判断の不可撤回性(irrevocabilite)は、誤判の場合をも含む(14)。ローマ法

から生じた真実擬制は、長きにわたって既判力と結び付けられたものであり、裁判

所の判断は変更することができない(immutabilite:Unveranderbarkeit)とす

る扱いに貢献するものとされた(15)。たしかに 2016年契約法改正は、既判力と法

律上の真実推定との間の明示的関係を廃止した。しかし、法律上最も重要な既判

力の根拠は、民法 1355条である。この条文は、民法典第 3編の債務法上(16)の証

(10)しかしながら、反対説が日本人研究者によって唱えられている。Naoki Kanayama,,,Verite, droits substantiels et autorite de la chose jugee“, in Justices et droit duproces, Melanges Serge Guinchard, Paris, Dalloz, 2010, S. 759 ff.

(11)多くの文献の代わりに、以下を参照。Cedric Bouty,《Chose jugee》, Repertoire deprocedure civile Dalloz, RdNr. 260 ff.; Cecile Chainais/Frederique Ferrand/SergeGuinchard, Procedure civile, Droit interne et europeen du proces civil, Paris, Dalloz,33. Aufl. 2016, RdNr.1124 ff. ; Jacques Heron/Thierry Le Bars, Droit judiciaireprive, 56. Aufl. 2015, Paris, LGDJ, RdNr. 351 ; Daniel Tomasin, Essai sur l’autoritede la chose jugee en matiere civile, Diss. Toulouse I, Paris, LGDJ, S. 243, RdNr. 329; Georges Wiederkehr, ,,Autorite de chose jugee“, in Loıc Cadiet, Dictionnaire dela Justice, PUF, 2004.

(12) Daniel Tomasin, Essai sur l’autorite de la chose jugee en matiere civile, Diss.Toulouse I, Paris, LGDJ, RdNr. 329.

(13) Cedric Bouty,《Chose jugee》, RdNr. 264.(14)たとえば、つぎを参照。Cass. Civ. I, 22.07.1986, Nr. 83-13.359, Bulletin Civil de la

Cour de cassation 1986. I, Nr. 225 (控訴裁判所は既判力を誤解などしておらず、既判力の一般的絶対的原則を適用し、その原則は誤った判決に対しても適用されるのである).

(15) Cecile Chainais/Frederique Ferrand/Serge Guinchard, Procedure civile, Droitinterne et europeen du proces civil, RdNr. 1126.

(16)少なくともタイトルはそのように述べており、この法律の規定は債務法のみならず一般的に適用される。

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

明問題を扱う新しい第 4bis章(TitelⅣ bis)(17)に位置するものである(18)。しか

し、方法論上は正当ではない。

こんにちの通説はつぎのような見解を主張している。すなわち、既判力とは、

手続はいつか終えられなければならないという考え(19)(終局性の原則(20))に

基づいた社会平和のための制度である。また、既判力は、両当事者が訴訟上の義

務を遵守することをコントロールし、場合によっては制裁を課することに貢献

する(21)。そのため、既判力は、新たな同一訴訟の提起を阻止する(obstacle au

recommencement de l’action)(22)。実体的確定力は、既判力を伴って確定した

法的効果に関する新たな弁論および裁判をすべて排除する。紛争は、原則として、

裁判を求めるために同一審級の裁判所に再び提起されることは許されない。既判力

は抗弁を根拠づけ、これに基づいて相手方当事者は、訴える資格がないこと(defaut

de droit d’agir)を理由に、訴えが不適法である(irrecevable)と非難することが

できる(したがって、訴えの理由具備性を審査することはない)。このことは、“一

事不再理”(23)の原則が適用される一つの場面であり、この原則は、フランス民事

訴訟法上は“autorite negative de chose jugee”(消極的既判力、いくつかの留保

はあるもののドイツ法上の実体的確定力に類似する)という名称のもとで適用され

(17)第 4bis章、第 1節(一般規定)(Titel IV bis, Kapitel 1 (allgemeine Bestimmungen))。この規定箇所は正しくない。

(18)このことは、古くからの伝統が意味を有しない場合であっても、そこから決別することが、フランスの立法者にとっていかに難しいかを示している。

(19)以下の文献を参照。Henri Roland, Lexique juridique des expressions latines, 7. Aufl.2016, Paris, LexisNexis, S. 331 ; M. Douchy-Oudot, JurisClasseur Commercial,Fasc. 20, Art. 1349-1353, 2013, RdNr. 5. ドイツ法については、以下の文献を参照。Peter Gottwald, Zivilprozessrecht, 17. Aufl. 2010, Munchen, Beck, § 151, RdNr. 1(法的平和の維持 ,,Bewahrung des Rechtsfriedens“). また、イギリス法における終局性の原則(,,finality“)については、以下の文献を参照。Neil Andrews, On Civil Processes,vol. 1, Court proceedings, Intersentia, 2013, RdNr. 16.07.

(20)比較法的検討として、以下の文献を参照。Rolf Sturner,《Rechtskraft in Europa》, in:Reinhold Geimer (Hrsg), Wege zur Globalisierung des Rechts, Festschrift fur RolfA. Schutze, Munchen, Beck, 1999, S. 913 (手続の本質的目的は、権利を実現し、それによって法的平和をもたらすことである。終局性および法的安定性を有しない権利の実現は、考えられない).

(21) M. Douchy-Oudot, JurisClasseur Commercial, RdNr. 5.(22)以下の文献を参照。Cedric Bouty,《Chose jugee》, RdNr. 268.(23)以下の文献を参照。Pierre Mayer, ,,Reflexions sur l’autorite negative de chose jugee“,

in : Melanges Jacques Heron, Paris, LGDJ, S. 331 ff.

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法律論叢 91巻 1号

ている。最近の学説は、既判力の本来の目的および社会的有用性(24)を強調し、既

判力は、法的安定性の最も重要な手段であること(25)、および矛盾判決の危険を回

避するものであるとする。

B. 諸概念――判決効と関連する他の諸概念との関係――

既判力は、判決の効力(26)と関連性を有するいくつかの法概念と区別されなけれ

ばならない。既判力は、まず、執行力(force executoire)と区別されなければな

らない。この執行力は、必ずしも既判力と関連性があるわけではない(27)。

いわゆる裁判所の“実体的効力 efficacite substantielle”(28)も、同様に既判力

とは区別されなければならない。つまり、この効力は、両当事者の実体法上の地

位を変更したり確定したりするものであり、判決を通じて効力が生ずるものであ

る(29)。この効力は、判決の拘束性(force obligatoire)から、あるいは判決の第

(24)以下の文献を参照。Cedric Bouty,《Chose jugee》, RdNr. 269 ; Cecile Chainais/Frederique Ferrand/Serge Guinchard, Procedure civile, Droit interne et europeendu proces civil, RdNr. 1127.

(25)ヨーロッパ人権裁判所判決も同様である。たとえば、以下の判例を参照。EGMR,29.10.1999, Brumarecu 対ルーマニア, Nr.28342/95, Recueil Dalloz 2000. Somm.187 mit Anm. Fricero (法治国家性の主要な要素のうちの一つは法的関係の確実性に関する原則であり、この原則は、とくに裁判所を通じた法的紛争の終局的解決が再び蒸し返されないことを要求している) - EGMR, 24.7.2003, Riabykh 対ロシア, Nr. 52854/99.ヨーロッパ司法裁判所については、以下の判例を参照。EuGH, 30.09.2002, Kobler, Rs.C-224/01, RdNr. 38(ここで確認されなければならないことは、既判力の原則の重要性は争い得ないことである (Urteil Eco Swiss, Randnr. 46)。法的平和ならびに法的関係および秩序だった司法の安定性を維持するために、審級が尽きた後または相応の上訴期間を徒過した後には、取消可能性がなくなった裁判所の判決はもはや問題視することはできないとすべきである); 16.03.2006, Kapferer, Rs. C-234/04, RdNr. 20.

(26)たとえば、エロン(Heron)とル・バー(Le Bars)が用いている判決効(effets :Urteilswirkungen)と司法行為による付与(attributs de l’acte juridictionnel)の区別を参照。Jacques Heron/Thierry Le Bars, Droit judiciaire prive, RdNr. 347. それによると、判決効は実体的なものであり、両当事者によって主張された請求に対する裁判所の応答に関係するものである。これに対して、既判力が属するところである、付与(Attribute)は、立法者の意思によって創設され判決に自動的に認められるものである。また、以下の文献も参照。Cedric Bouty,《Chose jugee》, RdNr. 9.

(27)したがって、判決は不可撤回性(irrevocable)がなくなっていなくても(すなわち、形式的確定力が生じていなくても)、仮執行宣言を下すことができる。

(28)いわゆるカン学派(Caen-Schule)が発展させた、実体的効力(efficacite substantielle)の詳細については、以下の文献を参照。Cedric Bouty, ,,Chose jugee“, RdNr. 18 ff.

(29)以下の文献を参照。 Corinne Blery, L’efficacite substantielle des jugements civils,

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明治大学 法律論叢 91巻 1号:責了 book.tex page419 2018/10/17 09:23

フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

三者に対する効力(対抗力 opposabilite)から生ずるものである。長い間、この判

決効は(フランスの最上級審である、破毀院によっても)、既判力と混同されてい

たが(30)、こんにちの理解では既判力は実体的効力とは異なり、実体法上の効力を

拡張するものではなく、訴訟上の役割を果たすにすぎない。すなわち、すでに裁判

所の判断対象であった事項に関する新たな訴訟を回避するものである。

また、判決の証明力(force probante)(31)および“裁判官の事件関与からの解

放 dessaisissement du juge”(裁判官が判断し判決を言い渡した場合には、訴訟

法律関係と訴訟係属が終了すること)(32)も、既判力の概念から区別されなければ

ならない。

フランス民事訴訟法が既判力に関して直面している主要問題のうちの一つは、判

決効が次第に強化されていることである。しかし、このことは大きな混乱をもたら

している。既判事項の権威(autorite de la chose jugee)は、フランス民事訴訟法

において“不可撤回性Unwiderruflichkeit”と訳することができる、形式的確定

力をただちに意味するものではない。

Paris, LGDJ, 2000; Jacques Heron/Thierry Le Bars, Droit judiciaire prive, RdNr.348 ff.

(30) Heron/Le Bars (RdNr. 348)によって引用された例を参照(Cass. Com. 6.10.2010, Nr.09-70.218)。破毀院(Kassationshof)は、以下のように判断した。すなわち、両当事者のうちの一方に対する、倒産手続開始前に判決を通じてなした相殺が、債権の即時の消滅をもたらした。その結果、債務者の倒産手続において債権は届出がなされるべきではなかった。相殺は、判決の――実体的――効力を生じるからである。しかしながら、破毀院は、判決は言渡し後に既判力を(autorite de chose jugee)有し、また仮執行宣言がなされたという事実に基づいて解決を根拠づけた。しかし、債権の消滅は、(まだ生じていない形式的)確定力ではなく、判決の実際的効率性(die substantielle Effizienz desUrteils)によることは明らかである。

(31)民事訴訟法 457条によると、裁判所の判決は、非常に強力である公署証書(acte authentique)の証明力を有する。すなわち、裁判官自身によって確定された事実ないし裁判官によってなされた行為について、判決で言及された場合には、その真正性は、公署証書偽造の申立て(inscription de faux)という特別手続によってのみ争うことができる。

(32)ラテン語の格言を参照。《Lata sententia, judex desinit esse judex》(判決を下したならば、裁判官はもはや裁判官ではなくなる)。民事訴訟法 481条参照(判決の言渡しと同時に、裁判官は、自身が判断した事件の関与から解き放たれる。しかし、裁判官は、手続に対する異議、第三者異議または再審の申立てがなされた場合には、その決定を見直すことができる。同様に、裁判官は、461条から 464条に定められる区別に基づき、判決を解釈しあるいは訂正することもできる)。

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法律論叢 91巻 1号

――フランス法上用いられている概念――漸次強化されている既判力――ドイツ法と異なりフランス法上は、判決が(もはや)上訴に至ることがない場合

(ドイツ民事訴訟法 705条)(33)に生じる形式的確定力と、実体的確定力の区別を

していない。このドイツ法の実体的確定力は、フランス法上の既判力に相当するも

のであるが、ドイツの判決は形式的確定力が生じた場合にはじめて実体的確定力が

得られる点において、重大な留保がなされている。内容上フランスの消極的既判力

(autorite negative de chose jugee : negative Rechtskraft)と類似するドイツの

実体的確定力によって、[ドイツでは]判決内容(すなわち、裁判所によって確定

された法的結果)は、同一の法的問題が論じられる新しい訴訟すべてで顧慮されな

ければならないことになる。そのため、ドイツ法上の実体的確定力――フランス法

上の既判力(autorite de chose jugee)に相当する――が、矛盾する第二判決の危

険に対処することになる(34)

フランスでは、若干多義的かつ一部誤った理解に基づく用語が用いられている

が、その用語が既判力について一定の発展をもたらしたり、あるいは既判力を強化

している。つまり、

――判断された紛争に関する既判力(autorite de chose jugee)は、法的紛争またはその一部につき判決主文(訴訟判決による場合も)において判断

された判決すべてが有するものであり、言渡しと同時に(des son prononce)

生ずる。既判力は、とりわけ、同一事件に関する第二の訴訟(第二審ではな

い)を禁止すること、すなわち、第二の矛盾判決の危険に対処することに役

立つ。他方、既判力は、適法に提起された上訴を妨げるものではない。した

がって、既判力が生じうる(35)判決が第一審で下されるとすぐに、その結果と

(33)以下の文献を参照。Peter Gottwald, Zivilprozessrecht, 17. Aufl. 2010, Munchen,Beck, § 149, Nr. 1 ff. ドイツ法における形式的確定力は、既判力の範囲の問題には直接かかわることはない。なぜならば、形式的確定力は、判決が攻撃されることがなく、また撤回されることがなくなることを通じて、いつ訴訟が終了するのかといった時点を確定させることを定めるだけだからである。

(34)ドイツの学説は、確定力(Feststellungswirkung)についても言及する。以下の文献を参照。Peter Gottwald, aaO, § 149, RdNr. 2. また、実体的確定力は、裁判所を通じた権利保護を求める権利の結果であり、法治国家原則に基づくものである。

(35)この点に関する詳細は、第 2章で論ずる。

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

して、フランス法上は、第一審で提起された新たな訴えに対しては、訴訟係属

の抗弁ではなく既判力の抗弁が提出されなければならない(36)。しかし、この

ことは、民事訴訟法 102条の定めるところとは異なる。同条は、同一訴訟が

上級審にすでに係属しているときに、第一審にさらに提起された場合には、第

一審裁判所においてのみ訴訟係属の抗弁を提出することができると定める。

――確定力(force de chose jugee)は、通常の不服申立て(控訴Berufung

や異議Widerspruch)を有しない裁判所の判断に認められるものである。フラ

ンスでは、通常の不服申立ては、原則としてつぎのような意味における停止効

を有している。それは、通常の不服申立ては判決の執行を阻止するが(37)、法

律が例外的に仮執行(execution provisoire)を認めたり、あるいは裁判所が個

別具体的事件で仮執行を命ずる場合はこの限りではないという意味においてで

ある(38)。たしかに判決は言渡しのときから拘束力(force obligatoire)(39)を

有するが、停止効を伴う不服申立ての攻撃がもはやなされなくなった場合に初

めて強制執行が可能となる(40)。

――不可撤回性(irrevocable: unwiderruflich)は、通常の不服申立ておよび特別の不服申立て(41)がもはや提起できなくなった判決に認められる。こ

の概念は、ドイツ法上の形式的確定力に相当する。フランス法上、判決の不可

(36)判決がまだ下されていないときには、訴訟係属の抗弁が提出されなければならない(民事訴訟法 100条)。第一訴訟の判決に対するすべての上訴が尽き、第二訴訟が民法 1351条の要件を満たしている場合、既判力の抗弁を提出することができる。

(37)破毀申立て(pourvoi en cassation)は、原則として、取り消された判決の執行力を妨げる停止効を有するものではない。しかし、たとえば身分関係事件(監護権や離婚事件など)のような一定の領域では例外がある。

(38)参照、民事訴訟法 514条。(39)以下の文献を参照。Loıc Cadiet/Emmanuel Jeuland, Droit judiciaire prive, 9. Aufl.

2016, RdNr. 727, Fußnote 142.(40)例外は、一定の判決について法律の規定によって認められる場合や、個別具体的事件に

おいて裁判所によって命じられる仮執行の場合である。さらに、敗訴当事者は、停止効を伴う上訴可能な裁判に服することがある。

(41)再審手続(recours en revision)は、その場合に考慮されないので、一方の当事者が後に再審事由の存在を知り、実際に新訴を提起した場合でも、判決は理論的には不可撤回性を有する。

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法律論叢 91巻 1号

撤回性は、訴訟がもはや上訴を通じてさらに進行することがないことを意味す

るが、既判事項の権威(autorite de la chose jugee)は第一審における新たな

訴訟を阻止するものである。

C. 既判力の抗弁(exception de chose jugee)

ドイツ法では、実体的確定力は、とくに、すでに確定力を伴って判断された対

象と同一性がある新たな訴訟を不適法にする消極的訴訟要件として作用する(42)。

フランスでは、既判力(autorite de chose jugee)は、第二訴訟において被告によっ

て訴訟不受理事由 fin de non recevoir(抗弁)(43)として提出される。この抗弁は、

他の防御の理由に先立って主張される必要はなく、訴訟の経過の中でいつでも主

張することができる(民事訴訟法 123条)(44)。2004年からは(45)、裁判官は、こ

の抗弁を職権で顧慮することができる(民事訴訟法 125条 2項)。しかし、裁判官

は、ドイツ法と異なり、そうしなければならないわけではない。その理由は、破毀

院によると、これは公序に基づく抗弁(moyen d’ordre public: eine zwingende

Einrede)ではないからであり、このことは既判力という制度が秩序だった訴訟手

続(bonne administration de la justice)に貢献するとしても変わりはないから

(42)以下の文献を参照。Peter Gottwald, aaO, § 151, RdNr. 10. ドイツの裁判所は、消極的訴訟要件を職権で顧慮しなければならない。なぜならば、消極的訴訟要件は、法的安定性および法的平和を担保するからである。以下の判例を参照。BGH, 14. Februar 1992,BGHZ 36. 365 (367).

(43)民事訴訟法 122条にある、訴訟不受理事由(fin de non recevoir)の定義を参照。すなわち、相手方の申立てを、理由具備性を審査することなく、訴える資格を欠く(defaut dudroit d’agir: fehlender Klagebefugnis)として不適法であると宣言させることを目的とした主張である。この訴える資格を欠く場合には、訴訟追行権(Prozessfuhrungsbefugnis)や権利保護の資格(Rechtsschutzinteresse)の欠缺、時効、または既判力が該当する。

(44)民事訴訟法 123条(訴えの不適法性の抗弁は、いかなる場合でも主張することができる。もっとも、裁判官は、抗弁を早期に提出できたにもかかわらず、そのようにしなかったことにつき意図的に訴訟遅延をした者に対して損害賠償を命ずることができる)。しかしながら、既判力の抗弁は、原則として破毀院における取消手続で初めて主張することはできない。以下の判例を参照。Cass. Com. 19.07.1983, Nr. 82-12.215, Bulletin Civil dela Cour de cassation 1983. IV, Nr. 225; Civ. I, 17.01.2006, Nr. 05-10.875, BulletinCivil de la Cour de cassation 2006. I, Nr. 11.

(45) Dekret Nr. 2004-836 v. 20.08.2004. 2004年以前の判例は、裁判所は既判力の抗弁を職権で顧慮することは許されないとしていた。多くの判例があるが、以下のみ参照。Cass.Civ. III, 20.05.1992, Nr. 90-13.598, Bulletin Civil de la Cour de cassation 1992.III, Nr. 159.

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

である。ドイツ法の解決は既判力の抗弁をつねに職権で顧慮すべきものと位置付

けているが(46)、この考えは、両当事者の個人的な利益だけでなく一般的な利益に

資する既判力という制度の目的に、より適切に適合するように思われる(47)。

論述の構成――以下では既判力の内容に関する正確な範囲を述べる前に(Ⅲ)、いかなる判決が既判力を有するのかについて言及する(Ⅱ)。Ⅳでは、フランス既

判力について批判的考察を要約的に行う。

Ⅱ 既判力を有する裁判

本案についての判決(Entscheidung in der Hauptsache)と、証拠ないし暫定的処分のみを命ずる判決との区別――裁判所による判断のすべてが既判力(autorite de chose jugee)を有するわけではない。民事訴訟法 480条(48)および482条(49)は、判決の種類を 2つに分けている。すなわち、終局判決(jugement

(46) BGH, 14.02.1962, BGHZ 36, S. 365 [367]. また、以下の文献も参照。Peter Gottwald,Zivilprozessrecht, 17. Aufl. 2010, Munchen, Beck, § 152, RdNr. 4(訴訟法すなわち公法上の制度である既判力は、私人の合意からは遠ざけられている). したがって、[ドイツ法上]両当事者は、たとえば、放棄をなすことで判決から既判力を奪うことはできないが、他方で、フランス法ではこのことは可能である。[フランス法上]放棄は、明示でも黙示でもなし得る(Cass. Civ. II, 25.06.1965, Bulletin Civil de la Cour de cassation 1965. II,Nr. 565 ; Douai, 19.10.1977, Gazette du Palais, Tables 1977-1979, S. ,,Chose jugee“,S. 427)。この点については、以下の文献も参照。M. Douchy-Oudot, JurisClasseurCommercial, 2013, RdNr. 198.

(47)以下の事実もまた、そのことを明らかにする。すなわち、既判力が相対的であり、その結果として、判決が第三者に直接的な効力を有しない(=第三者に不利または有利に権利義務が生じない)としても、既判力は第三者効Drittwirksamkeit(対抗力 opposabilite)を生じ、それによって、判決を通じて創設された実体的法律状態を顧慮し尊重することを第三者は強制される。以下の文献を参照。Cecile Chainais/Frederique Ferrand/SergeGuinchard, Procedure civile, Droit interne et europeen du proces civil, RdNr. 1120f. 判決を通じて権利が侵害されるおそれのある第三者を保護するために、フランス民事訴訟法典は、第三者異議(Drittwiderspruch: tierce opposition)という特別の上訴を定めている(民事訴訟法 582条以下)。

(48)民事訴訟法 480条(本案のすべて、ないし一部についての裁判、手続の例外についての判断、訴訟不受理事由(fin de non recevoir)またはその他の紛争は、その言渡時に判断された事項について既判力が生じる)。本案とは、第 4条の定める紛争の対象を指す。

(49)民事訴訟法 482条(主文において証拠調べないし仮の措置を命ずるにすぎない裁判は、

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法律論叢 91巻 1号

definitif)(50)と中間判決(jugement avant dire droit)である。終局判決は、その

主文において本案(51)または抗弁(たとえば、無管轄、既判力、上訴期間徒過による

上訴不適法、訴訟手続の滅効(52)といった抗弁など)(53)に関して、そのすべてまた

は一部分について判断がなされる。終局判決には既判力が生じる。これと同時に、

裁判官は、係属を解かれる(dessaisi)。これが意味するところは、裁判官は、すで

に判断された事件について新たに審理することは許されないということである(54)。

本案に関する判決(Entscheidung uber die Hauptsache)は、さらに、本案につ

いての判決(jugement au principal: Entscheidung in der Hauptsache)と仮

の裁判 ,,jugement provisoire“(暫定的裁判、仮の命令(55)。これは、たとえば、

[暫定的]措置に対して深刻に争われることがない場合(56)、または紛争の存在が

本案につき既判力が生じない)。(50)実務および学説において発展してきたこの表現は、誤りである。Definitifが意味

するところは、取消不可能(unwiderruflich: irrevocable)ではない。以下の文献を参照。Yves Strickler,《La localisation de l’autorite de la chose jugee》, in LoıcCadiet/Dominique Loriferne (Hrsg), L’autorite de la chose jugee, Paris, IRJS, 2012,S. 43.

(51)ここでは本案判決が問題となる。なぜならば、本案判決は、訴訟物、すなわち本案そのものに関する裁判所の判断を指すからである。“本案Hauptsache (le principal)”は、民事訴訟法 4条によると両当事者のそれぞれの請求(Anspruche: pretentions)によって特定される訴訟物(Streitgegenstand: objet du litige)に関係する。請求は、訴状および防御書面によって確定される(民事訴訟法 4条)。

(52)訴訟手続の滅効(Peremption d’instance)は、両当事者が 2年以上訴訟を追行しなかった場合に生ずる。

(53)ここでは、訴訟判決が問題となる。なぜならば、たんに訴訟上の問題について判断されたからである。

(54)以下の文献を参照。Jacques Heron/Thierry Le Bars, Droit judiciaire prive, RdNr.379(訴訟係属の終了と既判力とは、親子のような緊密な関係がある。前者は、後者を手続上補完するものである。既判力は、裁判官に自ら下した判決の変更を禁じ、訴訟係属の終了によってその不可変更可能性を支える)。

(55)ここでのフランス語の用語は、さらに二つの意味に分かれる。なぜならば、暫定的な仮の裁判( jugement provisoire)は、2つの状況に分かれるからである。すなわち、第 1に、仮の権利保護の範囲内で下された暫定的命令、そして第 2に、本案に関与している裁判官が下した、暫定的な措置を含む判決である(たとえば、親の監護権の行使、子の滞在、および子の養育費の支払いを定めた離婚決定は、本案判決(Entscheidung in derHauptsache)であるが、そのいくつかの部分は新しい事情に基づき裁判上変更をなし得る。以下の判例を参照。Cass. Civ. I, 25.5.1987, Nr. 85-15.038, Bulletin Civil de laCour de cassation - Bull. Civ. - 1985. I, Nr.159)。

(56)たとえば、債権の存在について深刻に争われていない場合である、その場合には、裁判官(レフェレ裁判官 juge des referes)は、仮の命令によって被告に対して金銭(Provision)

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

[暫定的]措置を正当化する場合で(57)、緊急を要するときに裁判官が下すものであ

る)に分かれる。暫定的(=仮の)裁判は、本案について(in der Hauptsache)

既判力が生ずるものではないが(58)、仮の(au provisoire)権利保護については

生じるので、他の裁判官は事情変更がないかぎり仮の命令を変更ないし取消すこと

ができない(民事訴訟法 488条 2項)。

これに対して、中間判決(jugement avant dire droit)は、証拠調べまたは仮

処分のみを命じ、本案に既判力が生ずるものではない。なぜならば、この中間判決

は、本案の部分または民事訴訟法 480条にいう抗弁について判断されたものでは

ないからである。したがって、裁判官が中間判決を言い渡したとしても、訴訟法律

関係および訴訟係属を終了させることはない(59)。

混合判決(jugements mixtes)――この概念には、本案の一部(partie du

principal)(60)について判断し、かつ証拠調べ(たとえば、鑑定)ないし暫定的処分

を命ずる裁判が含まれる。民事訴訟法 544条によると、この判決に対してはただち

に控訴を申し立てることができる(61)。部分的に本案に関して判断している判決の

一部には既判力を生じるが(62)、これに対して、暫定的処分または証拠調べのみを命

じている部分には既判力が生じない(63)。本案の一部分(partie du principal)(64)

という概念を正確に限界づけることは難しい。この点について、破毀院の各部の判

の支払いを命ずることができるが、その額は債権の全額になることもある。(57)民事訴訟法 808条を参照(レフェレの命令 ordonnance de refere。これは、対審手続の

後に下される仮の命令である)。(58)民事訴訟法 488条(レフェレ(対審的な仮の手続)命令は、本案について既判力を有しな

い。この命令は、新たな事情が生じた場合にのみ、レフェレによる変更ないし取消しが可能である)。例については、以下の判例を参照。Cass. Civ. I, 16.4.2015, Nr. 14-11.809.

(59)民事訴訟法 482条を参照(前掲注 49)。(60)たとえば、ドイツの原因判決(Grundurteil)と同様に、賠償額について判断せずに責任

の存否について判断する。(61)あるいは、破毀院への不服申立てがある。民事訴訟法 606条参照。(62)参照、民事訴訟法 480条 1項およびCass. Civ. II, 9.3.1978, Nr. 76-14.053, Bulletin

Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 1978. II, Nr. 71 - Cass. Civ. III, 28.1.2016,Nr. 14-26.450.

(63) Cass. Civ. II, 16.5.2013, Nr. 12-17.613.(64)たとえば、抗弁を退けて証拠調べを命ずる決定は、本案部分について判断していない。以

下の判例を参照。Cass. Civ. III, 16.12.1992, Nr. 90-21.450, Bulletin Civil de la Courde cassation (Bull. civ.) 1992. III, Nr. 323 - Cass. Civ. I, 13.5.2015, Nr. 14-11.116.

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明治大学 法律論叢 91巻 1号:責了 book.tex page426 2018/10/17 09:23

法律論叢 91巻 1号

断は一致していない。たとえば、第一民事部および商事部は(65)、訴えの適法性の

みを判断した判決は本案の部分を判断していないとしたが、これと反対のことを第

三民事部は述べた(66)。原則として、即時上訴の可能性(67)に関する手続問題は、

訴訟物に属さないと考えられる(したがって、本案に属しない)。このことが混合

判決(jugements mixtes)の既判力にも妥当するのかは、私にはまだ明確に判断

されているようには思われない。

裁判所の管轄を判断するのに重要な本案の問題(Sachfrage)について判断した判決――この問題は民事訴訟法 95条に定められていた(68)。同条は、本案の問

題(Sachfrage)について(69)下された判決には既判力が生じると定めていたが、

これは判決主文において判断されたものに限られていた(70)。もっとも、この規定

は、2017年 5月 6日のデクレ 2017-891号によって廃止され、民事訴訟法 79条に

よって補充された。同条によると、本案について裁判しなかったが、管轄を確定さ

せるために本案の問題を解明しなければならなかった裁判官は、本案の問題および

管轄のそれぞれについて主文で明確にしなければならない。その判決は、本案の問

題(question de fond)に関しては既判力が生じる。

訴訟事件について両当事者の合意がある判決――この点について、フランスの判例は 2つの判決形態を区別している。すなわち、第 1に、認定判決(jugement de

donne acte)は、両当事者の合意を裁判所が調書にしたものである。裁判所の判

(65)たとえば、以下の判例を参照。Cass. Civ. I, 24.2.1993, RdNr. 91-12.456 und Nr.91-17.001, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 1993. I, Nr. 71 - Cass.com. 11.6.1985, Nr. 83-15.982, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.)1985. IV, Nr. 184.

(66) Cass. Civ. III, 14.11.1991, Nr. 90-12.210, Bulletin Civil de la Cour de cassation(Bull. civ.) 1991. III, Nr. 269.

(67)民事訴訟法 544条および 606条が意味するところである。(68)以下の文献を参照。Serge Guinchard (Herg.), Droit et pratique de la procedure civile,

Dalloz-Action 2017-2018, RdNr. 421.36 (Natalie Fricero).(69)以下の判例を参照。Cass. civ. II, 24.5.2007, Nr. 05-21.732, Bulletin Civil de la Cour

de cassation (Bull. civ.) 2007. II, Nr. 130 - Cass. Civ. III, 10.6.2009, Nr. 08-15.405,Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 2009. II, Nr. 139.

(70) Cass. Soc., 6.10.2010, Nr. 08-45.393 - Casss. Com., 24.11.2015, Nr. 14-18.292.

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明治大学 法律論叢 91巻 1号:責了 book.tex page427 2018/10/17 09:23

フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

断はまったくなされていないので(71)、この判決には既判力が生じない。第 2に、

非常にまれではあるが、合意判決(jugement d’expedient)がある。これは、両当

事者の合意内容を反映した執行力のある判決を得るために、両当事者が紛争を装っ

たものである(72)。裁判官は実際に判断をしているため、この判決には既判力が生

じると解されている。

非訟事件手続における決定( jugement gracieux)(73)――破毀院は、昔も(74)、

また 90年代に入って幾度も(75)、非訟事件手続で下された裁判(たとえば、養子

決定や協議離婚決定)(76)には既判力が生じないとの判断を下してきた。破毀院は、1996年に同様に、同一事件について新たな事情が生じた場合に裁判官は新たに審

理することが許されるとした。このことは、フランスの学説の一部から厳しく批判

された(77)。どのようにして、裁判官は、事情が変わったことを理由に協議離婚を

(71)すなわち、裁判所の支配が及んでいない。以下の文献を参照。Claude Brenner,《Lesconceptions actuelles de l’autorite de la chose jugee en matiere civile au regard dela jurisprudence》, S. 225.

(72)以下の文献を参照。Cedric Bouty, Repertoire de procedure civile Dalloz,《Chosejugee》, RdNr. 309. 同所では、帰責性に基づく離婚という古くからの例が挙げられている。すなわち、一方配偶者の帰責性がある場合にのみ裁判所に離婚を申立て、離婚を言い渡すことができるときに、配偶者双方が侮辱し、罵倒する手紙のやり取りをし、それによって裁判官が双方の帰責性を認定し、離婚の申立てを認めることができたのである。

(73)この概念については、民事訴訟法 25条を参照(裁判官は、その管轄下にある請求について紛争がない場合に、事件の性質または申立人の資格を理由として、法令に基づき非訟事件について裁判をする)。非訟事件は、民事訴訟法 25条から 29条に詳細に規定されている。

(74) Cass. Civ. 25.10.1905, Dalloz Periodique (D.P.) 1906. I. S. 337.(75)以下の事件を参照。Cass. Civ. I, 3.1.1996, Nr. 94-04.069 - Cass. Civ. I, 6.4.1994, Nr.

95-12.170, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 1994. I, Nr. 141- Cass.Civ. I, 27.10.1992, Nr. 91-13.449, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.)1992. I, Nr. 272.

(76)民事訴訟法 1067条(不在宣告の申立て)、民事訴訟法 1088条(同意離婚)、民事訴訟法1167条(養子縁組の申立て)、民事訴訟法 1301条(夫婦財産制変更の裁判所による認証)も参照。

(77)以下の文献を参照。Loıc Cadiet/Emmanuel Jeuland, Droit judiciaire prive, 9. Aufl.2016, Paris, LexisNexis, RdNr. 728 ; Cecile Chainais/Frederique Ferrand/SergeGuinchard, Procedure civile, Droit interne et europeen du proces civil, RdNr.1870und 1873 ; Jacques Heron/Thierry Le Bars, Droit judiciaire prive, RdNr. 379. Vgl.Serge Guinchard (Herg.), Droit et pratique de la procedure civile, Dalloz-Action2017-2018, RdNr. 421.22 (Natalie Fricero).

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法律論叢 91巻 1号

後戻りさせることができるのであろうか。非訟事件手続における決定(jugement

gracieux)は裁判上の行為であるから、これに対しては上訴を提起することができ

る(78)。そして、このことは、第一審での訴訟法律関係が終了していること(裁判

官の事件の関与からの解除 dessaisissement du juge)、および、裁判は既判力が生

じていることを意味する。(既判力を欠く)いわゆる非訟事件手続における決定は、

それゆえ、フランス法上は不確実性と不調和が支配することとなる。非訟事件手続

における決定は、しばしば申立てに基づく命令(ordonnances sur requete)という

特別の事案と混同される。この申立てに基づく命令は、暫定的措置であり(79)、事

前に対審手続を経ることなく下され、また暫定的であることから事情が変わった場

合には裁判官によって取消・変更を受けるものである。原則として訟事件手続にお

ける決定の既判力は承認されるべきであり、その理由は裁判所による判断であるこ

と、そして、判断の言渡し(actes juridictionnels)であることに求められる(80)。

Ⅲ 既判力の内容に関する範囲(既判力の客観的範囲)

既判力の客観的範囲に関するフランスの専門用語は、慣習上必要とされたもので

あり、若干の説明を要する。したがって、学説上は、(A)消極的既判力と(B)積

極的既判力を区別する。

A. “消極的”既判力(81) (新訴の不適法性)

1.概念消極的既判力は、一事不再理の原則(Ne bis in idem-Grundsatz)として理解

(78)たとえば、民事訴訟法 543条を参照。控訴は、非訟事件の裁判に対しても認められ、また、相手方なしに提起することができる(民事訴訟法 547条 2項)。

(79)民事訴訟法 493条を参照(一方の申立てによる命令とは、申立人に相手方を呼び出すことを要しない権限が認められている場合に、対審を経ずに仮に下される決定である)。

(80)以下の文献を参照。Cecile Chainais/Frederique Ferrand/Serge Guinchard, Procedurecivile, Droit interne et europeen du proces civil, RdNr. 1867 ff. ; Jacques Heron/Thierry Le Bars, Droit judiciaire prive, RdNr. 375.

(81)以下の文献を参照。Pierre Mayer,《Reflexions sur l’autorite negative de chose jugee》,in : Melanges Jacques Heron, Paris, LGDJ, 2008, S. 331 ff.

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明治大学 法律論叢 91巻 1号:責了 book.tex page429 2018/10/17 09:23

フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

されている(82)。すなわち、適法な上訴提起がなされる場合を除いて、裁判所に、

すでに裁判所の判断対象であった事項を新たに審理するために提出することは禁

止される。もちろん、この場合の主たる問題は、何がすでに裁判所の判断対象で

あった事柄であるかを判断する点にある。

とくにここで問題となるのは、双方の訴訟で主張された請求(demandes)(83)を

比較すべきなのか、あるいは、第一訴訟の裁判所によって実際に判断された事項

と、第二訴訟で提起された請求権(84)との比較をなすべきなのかである。複数の判

決が、双方の訴訟上の請求(Klageanspruchen)を比較しているが(85)、これに

対して別の裁判所は、実際の[第一訴訟の]判決対象(Gegenstand des Urteils)

であった事項と第二訴訟で提起された請求権(Anspruch)とを比較している(86)。

(82)以下の文献を参照。Pierre Mayer, aaO, S. 332 f.(83)この解釈に賛成するのは、以下の文献を参照。Pierre Mayer, aaO, S. 333. この見解は、

フランスの既判事項の権威(autorite de la chose jugee)は、最終的な効果の点において、コモンローの訴訟原因に関する禁反言(cause of action estoppel)にむしろ近いとされる。

(84)この点については、とくに以下の文献を参照。Pierre Mayer, aaO, S. 333 ff.; HenriMotulsky,《Pour une delimitation plus precise de l’autorite de chose jugee enmatiere civile》, Dalloz Sirey (D.S.) 1958, Chron. 1 ; Ecrits, Etudes et Notes deprocedure civile, Paris, Dalloz, 2. Aufl. 2010, S. 201 ff. 民事事件における既判力の明確な限界づけを支持する論文において、Motulskyは、以下のように述べている。すなわち、比較されるのは判決内容と申し立てられた要求だけが行われるべきであり、判決内容と新たな要求(Begehren)の内容のみが相互に対比させられるべきであるにもかかわらず、現在は、申し立てられた事件(Sache)を前訴の要求(Begehren)の対象と対比させる誘惑が大きい、と。このことは、ドイツ民事訴訟法 322条においても重要である。同条は、2つの要素を既判力の範囲を確定するために掲げている。すなわち、(要求Begehren, pretention formuleeという意味における)提起された請求と裁判所の判断(decision du juge sur cette pretention)の 2つであり、このことが判決内容と新たな訴えで主張された請求権の比較に必要な事柄である。Motulskyによると、フランス民法 1351条で用いられている対象(objet)および根拠(cause)という概念は、とりたてて適切というわけではなく、その概念は裁判官の権能および義務(office dujuge)を定めたり、既判力の範囲についての統一的な専門用語に用いることはできない。Motulskyの諸提案については以下の文献を参照。Frederique Ferrand, ,,Der Einflussdes deutschen Zivilprozessrechts auf Henri Motulskys Lehre“, in: Festschrift furRolf Sturner, Tubingen, Mohr Siebeck, 2013, S. 1485 ff.

(85)たとえば以下の判例を参照。Cass. Civ. II, 27.4.2017, Nr. 16-13.869 - Cass. Civ. II,22.9.2016, Nr. 15-24.707 - Cass. Civ. III, 5.10.1994, Nr. 92-12.951, Bulletin Civilde la Cour de cassation (Bull. civ.) 1994. III, Nr. 163(賃貸借契約の更新を求める訴えと同一契約の解除を求める訴えの比較)。

(86)裁判所が[前訴で]実際に判断した事項と第二訴訟で提起された請求との比較を支持

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法律論叢 91巻 1号

その際に、フランス民事訴訟法は、民法 1335条が有する 3つの基準を用いてい

る(87)。

2.法律上の要件: 民法 1355条民法 1355条は、既判力が新訴提起の可能性を遮断する場合を定めている。すな

わち、“既判力は、裁判所の判断対象であった事項についてのみ生ずる。申し立てら

れた要求は同一でなければならず、訴訟上の要求(Klagebegehren)は同一の法的

根拠に基づくものでなければならず、また同一の当事者間において、その当事者に

よってまたはその当事者に対して同一資格で提起されたものでなければならない。”

したがって、3つの観点からの同一性が語られており(88)、既判力の遮断効が生

ずるためには、これら 3つが要求される。第 1に、新しい訴訟に再び関与する者

が、同一当事者(memes parties)でなければならない。第 2に、訴訟上の要求

(Klagebegehren: la chose demandee)が同一でなければならない。第 3に、訴

訟上の要求が同一の法的根拠(meme cause)に基づくものでなければならない。

これら 3つの要件のうちの一つでも満たされないと、既判力が訴えを阻止すること

なく、ただちに新たな訴訟を進行させることができる。すなわち、両当事者のうち

の一人が当事者として、あるいは同一の資格で第一訴訟に関与しなかった場合に

は、既判力の抗弁をもはや有効に提出することができなくなる。同様に、訴訟上の

するものとして、たとえば以下の判例を参照。Cass. Com. 15.3.2017, Nr. 15-23.010- Cass. Com. 4.10.2016, Nr. 14-22.245 - Cass. Civ. II, 23.6.2016, Nr. 15-24.707 -Cass. Civ. II, 19.5.2016, Nr. 15-18.737.

(87) 2016年施行までの民法 1351条。条文の文言は従前のままである。(88)参照、ドイツ民事訴訟法 322条(判決は、訴えまたは反訴を通じて提起された請求につい

て判断された限りにおいてのみ既判力が生ずる)。ドイツの学説および判例によると(この点については、最近の以下の判例のみ参照。BGH NJW 2017, 893, RdNr. 11 ff.)、請求(Anspruch)という概念は訴訟法的意味で理解されなければならず、訴訟物(Streitgegenstand)と呼ばれる(以下の文献を参照。Hans Joachim Musielak/WolfgangVoit, Grundkurs ZPO, 12. Aufl. 2014, Munchen, Beck, RdNr. 580; BGH, 23.9.1992,NJW 1993, S. 333 ff. [334]; 11.11.1994, NJW 1995, S. 967; BGH, 26.6.2003, NJW2003, S. 3058 ff [3058])。フランス民法 1355条とは異なり、ドイツ民事訴訟法 322条は訴訟の対象と根拠(Klagegegenstand- und -grund : objet et cause de la demande)の区別をしない。フランス法上の概念である根拠(cause)は、ドイツ法では観念されておらず、むしろ、請求(Anspruch)、要求(Begehren)および生活事実関係(Lebenssachverhalt)が用いられている。

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

要求が異なる場合、または第一訴訟(89)と請求の根拠が異なる場合も、既判力の抗

弁を有効に提出することができなくなる。

非常に多くの破毀院の判決が、既判力が別訴を阻止する場合に存在しなければな

らない要件に関して下されている(90)。1804年の旧ナポレオン法典と結びついた、既判力に関するこの伝統的な定義に

よって、既判力の限定的な概念が支持されたと説かれる。

本テーマと結びついた困難な問題は、この特別な関係性(訳者注:民法上の概念

と訴訟法上の概念の特殊な関係性)から、民事訴訟法の他の領域におけるのとは異

なる意味が、民法 1355条で用いられている専門用語に与えられている点である。

すなわち、既判力については、請求の対象(objet)と請求の根拠(cause)の意味

がさらに解釈される(91)。

a)三局面からの同一性aa)当事者の同一性(Identite de parties)

本稿序論で述べたように、判決の実体法的な確定力または形成力(die materielle

Festsellungs- oder Gestaltungswirkung: effet substantiel)は何人によっても

尊重されなければならないのに対して、既判力は相対的でしかない。民法 1355条

は、第二訴訟において同一当事者が同一の資格(en la meme qualite: in derselben

Eigenschaft)において相対立することを求めている。

両当事者が、第一訴訟において在廷しまたは代理されている(presentes ou

representees)場合には(92)、これらの当事者が同一の資格(en la meme qualite)

において手続を行っていること(93)(さらに、紛争対象と請求の根拠が同一である

(89)これは、第一審とは異なる。というのも、いわゆる既判力(autorite de chose jugee)は、第一審判決にも生ずるものであるが、法律によって認められる上訴提起を妨げるものではないからである。

(90)多くの判決のかわりに、以下の判例のみ参照。Cass. civ. II, 27.4.2017, Nr. 16-13.869- Cass. com. 20.4.2017, Nr. 15-26.181 und Nr. 15-28.415 - Cass. com. 8.3.2017,Nr. 15-20.062 - Cass. soc. 3.2.2017, Nr. 15-23.499 - Cass. com. 29.11.2016, Nr.15-17.297 - Cass. com. 4.10.2016, Nr. 14-22.245.

(91)以下の文献を参照。Cecile Chainais/Frederique Ferrand/Serge Guinchard, Procedurecivile, Droit interne et europeen du proces civil, RdNr. 1130.

(92) Cass. Civ. II, 22.3.2006, Nr. 04-15.352.(93)以下の判例を参照。Cass. com. 20.4.2017, Nr. 15-26.181 und Nr. 15-28.415. また、

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法律論叢 91巻 1号

こと)を前提に、原則として既判力は新たな訴えを阻止することができる。

そこで、ある有限責任会社の経営者が、第一訴訟において当事者としてではなく

会社の代理人としての資格で出廷した場合には、第二訴訟において会社経営者とし

てその者に対して訴訟を提起することができる(94)。

さらに、既判力は、両当事者の権利承継人(包括承継人、相続人―ayant cause

universel―および包括名義の承継人― ayant cause a titre universel)に対して

も拡張される。なぜならば、これらの者は当事者を引き継いでいるからである。特

定承継人が権利を取得して、権利が移転する前に下された判決についても、同様に

特定承継人に既判力が拡張される。

フランスの判例は、いくつかの事案において、――法律上の根拠はないものの

――既判力の抗弁を主張することができる人的範囲を著しく拡張しており、これに

よって第三者異議(tierce opposition)が不適法となる範囲も拡張されている。た

とえば、ある連帯債務者(Gesamtschuldner: debiteur solidaire)に対して下さ

れた判決は、他の連帯債務者に対しても既判力が及ぶ(95)。このような既判力の拡

張は、主たる債務者に対して下された判決について連帯保証人(Solidarburgen:

caution solidaire)(96)に対する関係でも認められるが、最近の判例は他の手段を

選択しているように見受けられ、連帯保証人に第三者異議という上訴を認めてい

る(97)。また、夫婦共有財産に属する財産に関して、夫婦の一方に対して言い渡さ

以下の判例も参照。Cass. com. 15.3.2017, Nr. 15-23.010(既判力が認められるのは、同じ資格の同じ原告が同じ資格の被告に対する請求の場合についてである。したがって、民法 1351条に違反する。その理由は、第一訴訟では労働者としての資格で被告の責任が根拠づけられ、第二訴訟ではこれと異なる資格(株主および取締役)において理由づけられたにもかかわらず、控訴裁判所が既判力の抗弁を認めたからである).

(94)以下の判例を参照。Cass. Civ. I, 7.1.1976, Nr. 73-12.716, Bulletin Civil de la Courde cassation (Bull. civ.) 1976. I, Nr. 7.

(95) Cass. Com. 16.12.2014, Nr. 13-22.106 - Cass. civ. I, 28.5.2009, Nr. 07-12.578 undNr. 07-12.609.

(96) Cass. Com. 18.10.1982, Nr. 81-14.228, Bulletin civil de la Cour de cassation (Bull.civ.) 1982. IV, Nr. 316(以下の文献で引用されている。Jacques Heron/Thierry Le Bars,Droit judiciaire prive, RdNr. 362, Fn. 132).

(97) Cass. com. 5.5.2015, Nr. 14-16.644. この判決は、裁判所への実効的なアクセスを求める権利に言及している(裁判への実効的アクセス権は、仲裁の当事者でなかった連帯保証人に、債権者に対して負う主たる債務者の債務の額を決めた仲裁判断に対する第三者異議を認める)。もっとも、倒産債権の理由具備性が認められるとの裁判は、債権の存在、額および性質について保証人との関係で効力を有する。以下の判例を参照。Cass.Com.

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

れた判決は、もう一方に対しても既判力が拡張される(98)。

集団訴訟および第三者に対する既判力の拡張?――このこととの関係で、集団訴訟において獲得された判決の既判力が、第一訴訟で当事者とならなかった当事者に

拡張されるのかという問題が論じられている。フランス法は、今日に至るまで、オ

プト・アウト型訴訟については判断をしていない。近年、さまざまなタイプの集団

訴訟が法律によって定められた(2014年には(99)、消費者法において集団訴訟が

導入された(100)。2016年には集団訴訟が労働法上の差別に関して(101)、公衆衛

生の領域において(102)、また環境保護の領域において(103)創設された)(104)。こ

れらすべての集団訴訟では、特定の団体または組織(105)に訴訟追行権限が認めら

れ、オプト・イン型を規定しており、その結果として、被告の責任を確定した被害

者グループによる判決が公にされたときから裁判所が定めた期間内に申し出た被

害者に対してのみ、判決の既判力が拡張される。その他の被害者は、時効期間が経

過するまでは、企業ないし加害者に対して個別訴訟を提起する権利を有する。

15.11.2016, Nr.15-12.179.(98) Cass. Civ. II, 21.1.2010, Nr. 08-17.707, Bulletin civil de la Cour de cassation (Bull.

civ.) 2010. II, Nr. 14(配偶者はそれぞれ、夫婦共有財産の名の下に共同管理人の資格で行動する結果、夫婦共有財産に関する判決は、他方の配偶者に対しても同様に既判力の効力が及ぶ).

(99) Loi Hamon Nr. 2014-344 v. 17.3.2014 は、消費者に関するものである。この 2年間にわずかに 9件の消費者集団訴訟(Verbrauchsgruppenklage)が提起されたにすぎない。

(100) 集団訴訟は、法律または契約上の権利が侵害された場合に、政府によって認証された団体のみによる専門家によって提起される。参照、Art. L. 623-1 ff. Code de laconsommation (消費者法典).

(101) 21世紀の司法現代化に関する法律 Nr. 2016-1547および施行デクレNr.2017-888 v.6.5.2017.

(102) 公衆衛生現代化に関する法律Nr. 2016-41 v. 20.1.2016および施行デクレNr. 2016-1249v. 22.9.2016.

(103) 21世紀の司法現代化に関する法律 Nr. 2016-1547 および施行デクレNr.2017-888 v.6.5.2017.

(104) もっとも、21世紀の司法現代化に関する法律Nr. 2016-1547の第 5章は、立法者によって創設された集団訴訟に適用される一般規定を含む。

(105) アメリカ合衆国のクラスアクションをモデルにした、個別的な授権なくして弁護士の行動がグループ全体についてカバーするということは、フランス法では認められなかった。

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法律論叢 91巻 1号

bb)訴訟物の同一性(Identite d’objet)専門用語――まず、“申立事項 chose demandee”が第一訴訟と同一の場合にの

み、既判力は、新たな訴訟の進行を妨げる。この用語は、民法典に特有のものであ

る。フランス民事訴訟法典においては、むしろ、訴訟物(Streitgegenstand: objet

du litige)という表現が用いられている(106)。第二訴訟を阻止する既判力を判断

するに際しては、判例によれば、第一に、第一訴訟で何が具体的に申し立てられた

のか、第二に、主張された権利の性質が審理されなければならない(107)。

比較の実施――2つの訴訟上の要求(Klagebegehren)を比較しなければならな

いとき、一般的な対象(たとえば、リース契約、組合契約、事故など)だけでな

く、その正確な性質(無効確認訴訟、取得時効、損害賠償請求訴訟など)が考慮さ

れなければならない。

たとえば、倒産手続においてある専門家を選任する申立てと、責任追及訴訟の対

象とは、2つの請求権が同一の契約に基づくものであったとしても同一対象ではな

いと破毀院は判断した(108)。また、第一訴訟の事案が一方当事者の雇用契約の解

消に関するものであり、そしてその当事者の一方が同一の相手方に対して株主およ

び取締役としての資格で、不正競争を理由に第二訴訟を提起した場合も、同様に同

一ではない(109)。ある不動産が自身に専属することを認めてもらうことを目的と

する当事者の一方による第一訴訟と、その当事者に対して必要な出捐(110)を理由

に債権が共有に属すると主張された第二訴訟は同一対象ではない。

第一訴訟では“実際に”訴訟上の要求について裁判されたことが求められる(111)。

(106) 民事訴訟法 4条 1項を参照(訴訟物は、両当事者のそれぞれの主張によって特定される)。 一般的に民事訴訟法では、請求の対象(Gegenstand des Anspruchs: objet dela demande)という概念は、訴訟によって追求された経済的ないし社会的目的を意味する。以下の文献を参照。Cecile Chainais/Frederique Ferrand/Serge Guinchard,Procedure civile, Droit interne et europeen du proces civil, RdNr. 1133.

(107) 以下の文献を参照。Cecile Chainais/Frederique Ferrand/Serge Guinchard, Procedurecivile, Droit interne et europeen du proces civil, RdNr. 1133 ; Jacques Heron/Thierry Le Bars, Droit judiciaire prive, RdNr. 358. 例については、以下の判例を参照。Cass. civ. II, 23.6.2016, Nr. 15-19.746.

(108) Cass. Com. 8.3.2017, Nr. 15-20.392.(109) Cass. Com. 15.3.2017, Nr. 15-23.010.(110) Cass. Civ. I, 22.1.2016, Nr. 15-14.059.(111) Cass. civ. II, 22.9.2016, Nr. 15-24.707.

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

既判力は、すでに審理され、かつ判断された事柄についてのみ生ずる(112)。たと

えば、ある団体に対して保証請求訴訟を提起した原告が、裁判所に出廷せず、また

代理人も選任しなかったところ訴えが退けられた場合に、同一訴訟を新たに提起す

ることは許されない。このことは、たとえ、第一訴訟裁判所が訴えの理由具備性を

審理することができなかった場合においても妥当する。というのも、原告は、裁判

所に対して、書面も自己の請求権を根拠づける如何なる要素も得させなかったから

である(113)。2006年に破毀院によって、請求の根拠(cause de la demande)という概念が

書き換えられて以来(114)、請求の対象(objet)の要件が、現在では重要な役割を

果たしている(115)。

黙示的判断?――事案によっては、必然性はあるものの、黙示的に判断されたに過ぎない事項に既判力が生ずるのか?原則として、つぎのことが前提となる。すな

わち、別訴を阻止することができる既判力は、第一訴訟において提起された訴訟上

の要求(Klagebegehren)が裁判所によって判断されたことを前提としている。そ

して、判決の脱漏(infra petita: omission de statue)はこれにあたらない(116)。

厳密に何が判断された事柄なのかを判断することは容易ではないので、たんに黙示

的に審理された事項に既判力が生じるのかという問題が提起されている(117)。し

(112) Cass. civ. II, 19.5.2016, Nr. 15-18.737:《la chose jugee ne porte que sur ce qui aete precedemment debattu et juge》(既判力は、すでに審理され、かつ判断された事柄についてのみ生ずる).

(113) Cass. Civ. I, 11.3.2014, Nr. 12-29.878, Procedures 2014, Comm. 134 mit Anm.Perrot. 第二訴訟の受訴裁判所は、これと異なり、つぎのような見解であった。すなわち、第一訴訟の判決は本案について判断していないから新たな訴訟は適法であり、このことは申し立てられた事件(beantragte Sache)が同一であっても変わらないとした。しかし、この判決は、両訴訟間の当事者の同一性、対象の同一性および請求の根拠の同一性が認められるとして、破毀院によって取消された。

(114) 後掲、第 3章A. 2. cc)を参照。(115) 多くの判例の代わりに、以下の判例を参照。Cass. Civ. III, 10.11.2009, Nr. 08-19.756,

Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 2009. III, Nr. 249 - Cass. Civ. II,20.5.2010, Nr. 09-67.662, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 2010.II, Nr.97 - Cass. Civ. I, 23.6.2011, Nr. 10-20.110.

(116) 以下の文献を参照。Jacques Heron/Thierry Le Bars, Droit judiciaire prive, RdNr.360.

(117) たとえば、以下の事件における破毀申立人(Kassationsbeschwerdefuhrer)の主張を

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法律論叢 91巻 1号

かし、判例の傾向は、訴訟上の要求が認容または棄却されたかどうかが判決主文か

ら明らかでなければならないとしている(118)。

cc)請求の根拠の同一性 Identite de cause(提起された要求の根拠の同一性)と排除:2006年Cesareo判決、既判力発生の法定要件を失わせる擬制

フランス既判力論の最も困難な問題は、請求の根拠の同一性である。“根拠 cause”

という概念は、問題が多く、不安定な対象であり、2006年に判例によって変更さ

れた。

民法 1355条によると、事件が第一訴訟と同じ根拠である場合には、既判力が新た

な訴訟を阻止する。根拠(cause)は、多義的でありうる。すなわち、根拠は、事実関

係全体と関連性を有することがあるし、または請求の基礎(Anspruchsgrundlage:

法的根拠 fondement juridique)に限定されることもあるが、判例は、民法 1351

条(その後の 1355条)に関して請求の根拠(cause de la demande)よりも広い

概念を前提にしている。ここにいう請求の根拠は、自己の請求を根拠づけるために

両当事者が主張した要素に対してのみ及ぶと解されている(119)。そして、既判力

との関係では、援用された事実関係だけでなく、主張され議論された法的根拠も考

慮されていた。2006年まで破毀院は、既判力との関係では、原則(120)として cause、つまり請

求の根拠(Grund des Anspruchs)という狭い概念を支持していた。すなわち、

第一訴訟が依拠した具体的な請求の基礎だけが考えられていた。そこで、第一訴訟

参照。Cass. com. 30.1.2001, Nr. 98-15.160(既判力が主文にのみ生じ、判決理由には及ばないのであるならば、既判力は判決主文(Urteilsformel)の必然的な結果として黙示的に判断された事項に拡張される).

(118) たとえば、以下の基本判決を参照。Cass. Ass. Plen., 13.3.2009, Nr. 08-16.033, Bulletinde la Cour de cassation (Bull. Ass. Plen.) 2009. Nr. 3. これは、取消された判決について主文で言及がなかった反訴(demande reconventionnelle)に関するものである。

(119) Cecile Chainais/Frederique Ferrand/Serge Guinchard, Procedure civile, Droitinterne et europeen du proces civil, RdNr. 1134.

(120) もっとも、かつて破毀院のいくつかの部は、causeについて広い概念を説いていた。以下の判例を参照。Cass. Civ. I, 28.3.1995, Nr. 92-20.236, Bulletin Civil de la Courde cassation (Bull. Civ.) 1995. I, Nr. 139 - Cass. Civ. II, 4.3.2004, Nr. 02-12.141,Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. Civ.) 2004. II, Nr. 84.

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

で敗訴した当事者が、別の請求の基礎を主張した場合には、新たな訴訟を第一審で

開始することができた(121)。当事者は自己の請求を、第一訴訟ではたとえば契約

に基づき、第二訴訟では不法行為に基づき、あるいは、まずは契約に基づき、その

後に不当利得に関する一般的な法律の規定(122)に基づかせることができた。この

判例の寛容な態度は、もちろん、訴訟の増大をもたらし、その結果、被告は常に警

戒しなければならず、このことは一部から批判を浴びていた(123)。破毀院は、訴

訟における両当事者の義務に関して厳格な判例を 10年以上維持していたが、2006

年に(124)、判決の既判力の範囲を拡張した。

破毀院は、2006年 7月 7日の判決(Cesareo判決)(125)で、(当時の)民法 1351

(121) 以下の判例を参照。Cass. Ass. Plen., 3.6.1994, Nr. 92-12.157, Bulletin AssembleePleniere de la Cour de cassation (Bull. Ass. Plen.) 1994. Nr. 4; Recueil Dalloz(D.) 1994, S. 397 mit Schlussantragen Jeol.

(122) 多くの判例の代わりに、以下の判例を参照。Cass. Civ. III, 17.5.2006, Nr. 05-13.013,Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 2006. III, Nr. 131 - Cass. Civ. I,21.9.2005, Nr. 02-15.586, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 2005.I, Nr. 340.

(123) Pierre Mayer, a.a.O, S. 343. それによると、学説は、錯誤ないし不知の場合における原告の[裁判を受ける]権利との関係でCesareo判決を批判しているが、この錯誤ないし不知の被害者が誰であるのかを知ることが重要であるとしている。

(124) 破毀院第二民事部は、いまから振り返ると、すでに 2004年に警告として理解すべき趣旨の判決を下していた。以下の判例を参照。Cass. Civ. II, 4.3.2004, Nr. 02-12.141,Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 2004. II, Nr. 84.

(125) Nr. 04-10.672, Bulletin Assemblee Pleniere de la Cour de cassation 2006, (Ass.Plen.) 2006. Nr. 8; Jurisclasseur periodique edition Generale (JCP G) 2007II. 10 070 mit Anm. G. Wiederkehr; Recueil Dalloz (D). 2006. 2135 mit Anm.L. Weiller; Revue trimestrielle de droit civil (RTD Civ.) 2006. 825 mit Anm.R. Perrot; Procedures 2006, Nr. 201 mit Anm. R. Perrot; Bulletin des avoues(Bull. Avoues) 2007. 3 mit Anm. M. Bencimon; Jurisclasseur periodique editionGenerale (JCP G) 2006. I. 183, Nr. 15 mit Anm. S. Amrani-Mekki; Gazette duPalais (Gaz. Pal.) 2006. 2515; Droit et procedures 2006. 348 mit Anmerkung N.Fricero. -この判例変更は、やがて破毀院の複数の部の多くの判例によって確認された(たとえば、以下の判例を参照。Cass. Civ. I, 7.12.2016, Nr. 16-12.216 - Cass. Civ. II,25.9.2014, Nr. 13-21189 - Cass. Com., 26.1.2016, Nr. 12-21.285 - Cass. Civ. III,14.1.2016, Nr. 14-20.871 - Cass. Civ. III, 16.6.2011, Nr. 10-18.925) - Cass. Com.,13.7.2010, Nr. 09-67.137 - Cass. Civ. I, 25.2.2010, Nr. 09-11.537 - Cass. Civ. II,12.3.2009, Nr. 08-11.925, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 2009.II, Nr. 69 - Cass. Civ. III, 13. 2.2008, Nr. 06-22.093, Bulletin Civil de la Cour decassation (Bull. civ). 2008. III, Nr. 28 - Cass. Civ. I, 16. 1.2007, Nr. 05-21.571,Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 2007. I, Nr. 18)。

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法律論叢 91巻 1号

条に忠実な狭い(126)既判力(autorite de chose jugee)の概念を支持していた従

来の判例を変更した。現在、破毀院は、訴えを根拠づけるすべての攻撃防御方法

(moyens)を第一訴訟の裁判所で提出することは原告の義務であるとした(127)。

このようにして、攻撃防御方法集中原則(principe de concentration des moyens)

が設けられた。この事件では、両親の死亡前に無償で一緒に働いていた相続人が問

題となった。両親の死亡後に、兄弟(共同相続人)から、支払いが延期された賃金

債権(aufgeschobene Lohnzahlung: creance de salaire differe)として一定額

の支払いを求める訴えが提起されたが、請求は棄却された。原告は、第二訴訟で改

めて同額の支払いを求めたが、今度は、不当利得を理由とするものであった。ア

ジャン控訴院(Appellationsgericht Agen)は、既判力によって請求は阻止され

ると判断したが、このことを原告は上告審において、つぎのように批判した。すな

わち、既判力は、同一の法的根拠(cause)についてのみ認められるのであり、そ

れは相互に提起された訴えが同一の法律の規定ないしは同一の根拠にしているこ

とを要求している。そして、本件では、同一金額が請求されたものの、同一の法律

の規定に基づかないため、法的根拠は異なる、というものであった。1994年に、

破毀院は、この考えを認めていた。しかし、2006年に破毀院は、原告には攻撃防

御方法集中義務(principe de concentration des moyens)があるとした。すなわ

ち、原告は、訴えを根拠づけるために、自己が有していると考えられる、すべての

攻撃防御方法(moyens)(128)を最初の訴訟で可能なかぎり主張しなければならな

いとした。破毀院はさらに詳しく述べて、同一当事者間で提起された最初の訴訟

が、“無償提供と考えられる労務としての金額”を含むと考えられるとした。それ

ゆえ裁判所は、原告が、適時(en temps utile)に主張することを怠った請求原因

に依拠して、双方の訴訟の根拠が同一性を欠くとすることはできないとした。そこ

で、破毀院は、[第二訴訟の]請求権は、同一紛争に関して従前に判断された事件

(既判力)に阻止されるとの判断を行った。

(126) Cass. ass. plen., 3.6.1994, Bulletin Assemblee pleniere de la Cour de cassation(Bull. Ass. plen.) 1994. Nr. 4.

(127)《Mais attendu qu’il incombe au demandeur de presenter des l’instance relative ala premiere demande l’ensemble des moyens qu’il estime de nature a fonder celle-ci》.

(128) フランス民事訴訟法上、moyensという概念は、法的主張と事実の主張の双方を含むものである。

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

Cesareo事件判決の前に、破毀院は、リヨン第三大学比較法研究所に、ドイツ

法、イギリス法、イタリア法およびスペイン法について[既判力に関する]比較法

研究をまとめることを委嘱した(129)。その報告によると、ドイツ法およびイタリ

ア法は比較的狭い概念を採用し、他方でイギリス法およびスペイン法は既判力につ

いて広い範囲で判断してきたとの研究結果が得られた。現在、破毀院は、両当事

者(原告だけでなく被告も)が、民事訴訟法 6条および 9条における訴訟上の負担

を負い(130)、これを遵守しない場合には第二訴訟は不適法になるとの判断をした。

すなわち、両当事者は、第一訴訟において(131)、すべての事実上および法律上の

主張をしなければならないというものである。フランス民事訴訟法典は、両当事者

に一定の義務を課しているが、申立てを根拠づけるすべての攻撃防御方法を集中さ

せることを課してはいない(132)。フランスの有力説は、この訴訟上の責任は、裁

判官の任務を軽減し制限するために(133)、破毀院によって発展されたものである

が、この義務は過酷であることから、当事者に不利益になるとの結論を導き出し

ている。民事訴訟法の規定は、判決手続について十分適切な枠組みを設定してい

る(たとえば、抗弁、訴訟上の抗弁(exceptions de procedure)、訴訟不受理事由

(fins de non recevoir)、または本案に対する防御(defenses au fond)といった

さまざまな防御方法が提出されなければならないとする一連の規定がある。民事

(129) 以下を参照。L’etendue de la chose jugee en droit compare, Internet-Webseite desKassationshofes,www.courdecassation.fr/IMG/File/Plen-06-07-07-0410672-rapport-definitif-anonymise-annexe-2.pdf.

(130) 民事訴訟法 6条(両当事者は、自己の請求権を根拠づけるために、請求権を理由づけるのに適切な事実を主張する負担を負う)、民事訴訟法 9条(当事者は、自己の主張を理由あらしめるのに必要な事実を法律に従って証明する義務を負う)。

(131) Cesareo判決の表現は適切ではないが、それでも第一審を意味するものではないとすると、控訴審において新たな証拠方法、法的根拠および若干の新たな請求を提出することが許されると民事訴訟法が明文(民事訴訟法 563条以下)で定めていたことが、判例変更によって効力を失うことになる。しかし、このような解釈は許されないだろう。

(132) 批判するものとして、以下の文献を参照。Georges Bolard, L’office du juge et lerole des parties : entre arbitraire et laxisme, Jurisclasseur periodique editionGenerale (JCP G) 2008. I. 156 RdNr. 4. そこでは、正当にも、集中義務は、民事訴訟法 6条で定められた《charge de l’allegation》(請求を理由づけるのに重要な事実を主張する義務)という状況であるとの指摘をしている。しかし、6条は、当事者の自由に対する制限を含むものではない。Georges Wiederkehr, Jurisclasseur Periodique(JCP G) 2006.II. 10 070.

(133) Georges Bolard, aaO.

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法律論叢 91巻 1号

訴訟法 74条以下)。これ以上の要件は必要ではないし、また民事訴訟法典からは

導き出すことができない。したがって、破毀院は、新たに提起された第二訴訟を

既判力の観点から不適法にするために、十分な法律上の根拠がないにもかかわら

ず集中原則を承認し、それによって裁判所の負担を軽減した。さらに、破毀院は、2006年 7月 7日判決で“審級”と“訴訟”を区別しなかったが、そのことがもた

らす結論は想像のつくところである。この判決は、第二審(控訴審)において請求

を根拠づけるために新たな法的根拠や新たな攻撃防御方法を提出することは許さ

れないとしたが(134)、これは民事訴訟法典とは明らかに相容れないであろう。し

たがって、集中原則は、同一訴訟(135)(同一審級である必要はない)において、両

当事者が自己の請求を根拠づけるためにすべての攻撃防御方法を主張しなければ

ならず、別の法的根拠に基づく同一請求権に関する第二訴訟は不適法になる、と理

解することができる。

もっとも、この解釈は、法律、すなわち既判力を定義する民法 1355条に反す

る(136)。すなわち、既判力は、判決の対象であったことに対してのみ生ずるから

である。申し立てられた事件は同一でなければならず、それは請求(要求)が同

一の法的根拠(cause)に基づき、かつ同一当事者間で、一方の当事者が相手方当

事者に対して同一の資格において提起されたものでなくてはならない。破毀院は、2006年 7月 7日判決によって、同一の法的根拠(identite de cause)がある場合

にのみ既判力が第二訴訟を妨げるとの要件を削除した(137)。さらに破毀院は、第

(134) 破毀院は、準備手続裁判官(conseiller de la mise en etat)に対して控訴を不適法にするすべての手続上の抗弁を提出することが被控訴人には求められているとして、控訴審における一定の提出集中を要求した。以下の判例を参照。Cass. Civ. II, 13.11.2014, Nr.13-15.642, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 2014. II, Nr. 229. 別の法的根拠に基づく新たな抗弁の提出は、既判力によって妨げられるであろう。このことは、Dekret Nr. 2017-891 v. 6. Mai 2017に基づく民事訴訟法 914条において明示的に確認された。

(135) 集中原則は仲裁手続においても妥当する。たとえば、以下の判例を参照。Cass. Civ. I,12.4.2012, Nr. 11-14.123, Procedures 2012, Comm. 180 mit Anm. L. Weiller.

(136) 以下の文献を参照。Yves-Marie Serinet, Anm. zu Cass. civ. II, 26. Mai 2011,Jurisclasseur Periodique (JCP G) 2011. 861 :「破毀院は、新たな訴訟上の負担を追加するために、民法 1351条から生ずる伝統的な 3つの同一性に関するルールを新たに構成した。その負担とは、第一審において主張することを怠った新たな法的根拠に基づいて別の訴訟を行うことを、当事者に禁止するものである。」

(137) 以下の文献を参照。R. Perrot, Revue trimestrielle de droit civil (RTDCiv.) 2006.

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

一訴訟で提起された請求権に関係し、依拠することができるすべての攻撃防御方法

は議論され判断されたものとするとの推定(むしろ擬制に相当する)を打ち立て

た。Bolardが適切にもつぎのように述べている。すなわち、“訴えないし防御を根

拠づけることができるすべての事実および法規範は、擬制的に訴訟手続の中に含ま

れる”ものとされ、それらについては、“たとえ両当事者や裁判官が言及しなかっ

たとしても、判決で判断された”との推定がなされる(138)。この、裁判官による、

実体法に反する(139)(contra legem)法の継続形成(訳者注:判例法の展開の意)

が有意義かどうかは非常に疑わしい(140)。この既判力の消極的効力(force negative)

は(141)、純粋なフィクションに基づくものである(142)。これは、法律の規定に基

826 ; G. Wiederkehr, Jurisclasseur periodique edition Generale (JCP G) 2007. II.10 070(《cause》の役割は空洞化するであろう。というのも、既判力は申し立てられた事件と当事者の同一性によってのみ定まるからである).

(138) G. Bolard,《L’office du juge et le role des parties : entre arbitraire et laxisme》,Jurisclasseur periodique edition Generale (JCP G) 2008. I. 156 RdNr. 8. また、以下の文献も参照。Serge Guinchard,《L’autorite de la chose qui n’a pas ete jugeea l’epreuve des nouveaux principes directeurs du proces civil》, in : MelangesGeorges Wiederkehr, Paris, Dalloz, 2009, S. 379 ff.

(139) これは、民法典の文言のみならずその精神に反する。以下の文献を参照。Yves-MarieSerinet, Anm. zu Cass. civ. II, 26. Mai 2011, Jurisclasseur Periodique (JCP G)2011. 861.

(140) 批判的ではない文献として、つぎを参照。Philippe Blondel,《La charge de la concentrationet le respect d’un principe de completude》, Jurisclasseur Periodique editionGenerale (JCP G) 2012, Nr. 464, RdNr. 6 ff.

(141) Yves-Marie Serinet, Anm. zu Cass. civ. II, 26. Mai 2011, Jurisclasseur Periodique(JCP G) 2011. 861, S. 1424.

(142) 新民事訴訟法典の起草に著しい貢献をした、非常に著名なドイツ系フランス人法律家であるMotulskyは、1958年に、《Pour une delimitation plus precise de l’autorite dechose jugee en matiere civile》と題する論文において既判事項(chose jugee)に関する彼自身の理解を発展させた(Dalloz Sirey 1958, Chron. 1 ; Ecrits, Etudes et Notesde procedure civile, Paris, Dalloz, 2. Aufl. 2010, Paris, S. 201 ff.)。 Motulskyの立場は、Cesareo判決とはいくつかの観点で異なる。すなわち、第 1に、Motulskyの出発点は実体的既判力を支持しており、法的審問を考慮して裁判所において弁論がなされ、かつ、裁判官によって実際に判断された事項に既判力は制限されるというものである。第 2に、訴訟資料(Streitstoff: matiere litigieuse)を集中させる両当事者の義務は、Motulskyの学説では例外であり、そして法律の規定、裁判官の判断権(Beurteilungsspielraum: pouvoir d’appreciation)、あるいはその双方の混合形態に基づいていなければならない。第 3に、Motulskyによって提唱された既判力の範囲は、つぎに述べるような積極的な裁判官 einen《aktiven Richter》を前提としている。その裁判官とは、,,裁判官は法を知る Jura novit curia“および ,,汝は事実を語れ、我は法

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明治大学 法律論叢 91巻 1号:責了 book.tex page442 2018/10/17 09:23

法律論叢 91巻 1号

づかない“裁判官による即興演奏”である(143)。

このような解決に対しては、別の批判があり得る。とくに、既判力は判決自身に

のみその根拠を有することができるのであり、当事者が負う訴訟上の義務にその根

拠はないという点である(144)。既判力の及ぶ範囲と原告の訴訟上の義務との間に

いかなる関係があるのかは、問題である。既判力は、民事裁判所によって判断さ

れたことについてのみ及ぶ。それ以上ではなく、それ以下でもない(145)。それに

を語らん da mihi factum dabo tibi jus“をその意味のとおりに自発的に、かつ、紛争に適用される規定に合致して適用する裁判官である (Henri Motulsky,《La cause dela demande dans la delimitation de l’office du juge》, D. 1964, S. 235 und Ecrits,Etudes et Notes de procedure civile, S. 120 ff.)。

(143) Roger Perrot, Revue trimestrielle de droit civil (RTD Civ.) 2010, S. 156.(144) Henry Motulsky (Ecrits, Etudes et Notes de procedure civile, Paris, Dalloz, 2.

Aufl. 2010, S. 225 ff., RdNr. 35 ff.) は、若干の例外を伴う原則的な基準を定めることを提案している。そして、その基準は、当事者の訴訟引延し戦術に対抗することを目的とし、また、権利追求者に既判力の抗弁によって訴えが阻止される危険の評価を可能ならしめるほどに正確でなければならないものとされる。Motulskyは、民法 1351条において求められている 3つの同一性の廃止に賛成し、既判力の及ぶ範囲の基準として、争点(Streitfrage: question litigieuse)を提案している。すなわち、裁判所において法的審問を顧慮して弁論がなされ、かつ裁判所によって実際に判断された争点に既判力が生ずるというものである。紛争(Streitigkeit)と判決(Entscheidung)は、必要かつ十分な要素であり、また唯一の確実な基準である。Motulskyは、排除(Praklusion: forclusion)について 2つの種類を認めている。すなわち、実体的排除(forclusion substantielle)と手続的排除(forclusion procedurale)である。実体的排除は、訴訟資料集中責任(Streitstoffskonzentrationslast: charge de la concentration de la matiere litigieuse)および訴訟経済を根拠にする。そのような責任は、本来、一定の法領域では明文で定められなければならないとしている(訴状の提出は、覆すことができない推定によって完全なもの(Vollstandigkeit)とされている)。あるいは、裁判所は、第二訴訟において、つい今しがた提出された攻撃防御方法が訴訟遅延を意図していたり、第一訴訟で当事者が重過失により主張しなかったことが認められる場合には、明文なくしてそのような責任を問うことが許される。これら 2つの場合(法律の規定または裁判所の判断による集中責任)は、組み合わせることができるとされる。手続的排除は、すでにMotulskyによって“擬制的推論 fiktiver Schlussfolgerung”の事例として示された場合が該当する。たとえば、覆すことができない推定としては、調査(Untersuchungsmaßnahme)を命じ、裁判所の管轄と訴えの許容性(Statthaftigkeit der Klage)を実体的確定力を伴って認定した場合があり、この点に関する弁論がなされず判決において言及がない場合でも反証を許さないとされる。

(145) さらに、問題であるのは、2006年 7月 7日判決が、批判を受けたCesareo判決を制限していると考えられている 2009年 3月 13日大法廷判決 (Cass. ass. plen., 1. Marz2009, Nr. 08-16.033, Jurisclasseur periodique edition Generale (JCP G) 2009. II.10 077 mit Anm. Y.M. Serinet)と整合しているか否かである。2009年 3月 13日判

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

もかかわらず、破毀院は、本来は既判力と関係のないCesareo判決を堅持し(146)、

遮断を認めた。破毀院は、第一訴訟において自らの[訴訟上の]請求を根拠づける

ことになる、考え得るあらゆる法的根拠を主張すべき両当事者の義務を繰り返し述

べている(147)。この集中義務は、裁判所への効率的アクセスと公正な手続を保証

するヨーロッパ人権条約 6条 1項に反するものではないとされる(148)。学説の大

部分は(149)、つぎのような立場である。すなわち、判例の一部は、効率性につい

決では、破毀院大法廷は、判決の既判力は主文において判断対象となった事項に対してのみ生ずるとした。この理論上も実務上も非常に重要な判決は、判決理由(フランス法上の決定的理由motifs decisifsないし決訟的理由motifs decisoires)に既判力が生ずるのかという論争に決着をつけた。破毀院は、法的安定性を優先させ、既判事項(chose jugee)という手続上の概念を尊重しなければならないと判断した。そして、民事訴訟法 480条を類推し、既判力はもっぱら判決主文にその所在が見いだされなければならないとした。判決の決定的理由(motifs decisifs)にも、本案の一部を判断する理由にも、既判力は生じない。主文が不明確である場合にのみ、理由が主文の意味を詳細に特定することができる。したがって、当事者には、何について判断がなされ、それゆえ第二訴訟の対象となることが許されないかが明確になった。この 2009年 3月 13日判決が 7月 7日Cesareo判決と矛盾するかのような印象を起こさせた“黙示の判決implizite Entscheidung”は存在しない。判決理由に既判力が生じないことについては、後述の第 3章A.5を参照。

(146) 以下の文献を参照。Philippe Blondel, ,,La charge de la concentration et le respectd’un principe de completude“, Jurisclasseur Periodique edition Generale (JCP G)2012. Doct. 404, RdNr. 8: 破毀院は、既判力概念とは訴訟上異なる新たな責任を創設した。

(147) たとえば以下の判例を参照。Cass. com. 29.3.2017, Nr. 15-21.861(当事者は、最初の訴えにおいて、第一審の段階から根拠となる主張のすべてを提出しなければならない。新たな訴えは、集中の要求Konzentrationsgebotおよび既判力に反する). また、多くの判例の代わりに、以下の判例を参照。Cass. Civ. I, 16.1.2007, Nr. 05-21.571,Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 2007. I, Nr. 18 - Cass. Civ. II,12.3.2009, Nr. 08-11/925, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 2009.II, Nr. 69 - Cass. Civ. III, 13.2.2008, Nr. 06-22.093, Bulletin Civil de la Cour decassation (Bull. civ.) 2008. III, Nr. 28 - Cass. Com. 6.7.2010, Nr. 09-15.137.

(148) Cass. Civ. I, 24.9.2009, Nr. 08-10.517, Bulletin Civil de la Cour de cassation(Bull. civ.) 2009. I, Nr. 177 ; Revue trimestrielle de droit civil (RTD Civ.) 2010, S.147 mit Anm. P. Thery und S. 155 mit Anm. R. Perrot (《sans encourir les griefsde violation de l’article 6 1 de la Convention europeenne des droits de l’homme,des articles 544, 545 du code civil et de l’article 1er du protocole additionnel n◦ 1a la Convention》). Cesareo判決の適用を支持する文献として、以下のものを参照。Florence Meuris, Jurisclasseur Periodique edition Generale (JCP G) 2012. 1134.

(149) たとえば、以下の文献を参照。Yves-Marie Serinet, Anm. zu Cass. civ. II, 26. Mai2011, Jurisclasseur Periodique (JCP G) 2011. 861 - Emmanuelle Jeuland, JurisclasseurPeriodique edition Generale (JCP G) 2010. 1052.

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法律論叢 91巻 1号

て極端でおおげさな論理の影響を受けており、それによって権利を追及する者を危

険にさらす訴訟運営を生じさせる可能性がある、としている。

被告に負担となる集中の要求――最近、破毀院は、被告に対しても集中の要求を適用する判断を下している。被告もまた、“同一審級において(150)、請求棄却

を生じさせるのに適切なすべての攻撃防御方法を主張(151)”しなければならな

い。いくつかの判決では、被告(連帯保証人)もまた、第一訴訟においてただち

に反訴を提起しなかったとして破毀院によって非難されている(152)。しばしば、

請求の集中(concentration des demandes: 訴訟上の要求の集中Konzentration

der Begehren)という言葉が明示的に用いられるが(153)、ときおり、(訴訟上の

要求Begehrenであるにもかかわらず)誤って“攻撃防御方法moyens”(154)が述

べられている(155)。これは、訴訟上の要求(demandes)について集中の要求を

(150) しかしながら、これは訴訟を指すものであって、審級とは考えられていない。そうでなければ、この判例は控訴に関する民事訴訟法の規定に反することとなろう。

(151) たとえば以下の判例を参照。Cass. Civ. II, 22.9.2016, Nr. 15-22.410 - Cass. Civ. III,13.2.2008, Nr. 06-22.093, Recueil Dalloz (D.) 2010. Pan. S. 172 mit Anm. Fricero- Cass. Com., 20.2.2007, Nr. 05-18.322, Bulletin Civil de la Cour de cassation(Bull. civ.) 2007. IV, Nr. 49.

(152) 以下の判例を参照。Cass. Civ. I, 1.7.2010, Nr. 09-10.364, Bulletin Civil de laCour de cassation (Bull. civ.) 2010. I, Nr. 150 ; Jurisclasseur Periodique editionGenerale (JCP G) 2010. 1052 mit Anm. E. Jeuland - Cass. Com., 6.7.2010, Nr.09-15.671, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 2010. IV, Nr. 120 ;Procedures 2010, Comm. 335 mit Anm. R. Perrot - Cass. Com., 25.10.2011, Nr.10-21.383, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 2011. IV, Nr. 169. 以下の判例も参照。Cass. civ. III, 13.2.2008, Nr. 06-22.093, Bulletin Civil de la Courde cassation (Bull. civ.) 2008. III, NR. 28(売買の強制調整が求められた被告が、同一訴訟で給付と反対給付の著しい不均衡―過剰損害 lesion―を理由に契約を取消さなければならなかったところ、被告の後訴が既判力を理由に認められないと宣言された)。

(153) Cass. Civ. I, 28.5.2008, Nr. Nr. 07-13.266, Jurisclasseur Periodique editionGenerale (JCP G) 2008. II. 10 170 mit Anm. G. Bolard ; Jurisclasseur Periodiqueedition Generale (JCP G) 2008. II. 10 157 mit Anmerkung G. Chabot.

(154) このように攻撃防御方法moyensという概念が非常に拡張されており、この概念は訴訟対象を含んでいる。この意味で、以下の文献を参照。E. Jeuland, Jurisclasseur Periodiqueedition Generale (JCP G) 2010. 1052.

(155) たとえば以下の判例を参照。Cass. Civ. I, 1.7.2010, Nr. 09-10.364, Bulletin Civil dela Cour de cassation (Bull. civ.) 2010. I, Nr. 150 - Cass. Civ. III, 13.2.2008, Nr.06-22.093, Recueil Dalloz (D.) 2010. Pan. S. 172 mit Anm. Fricero.

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

認めることとなるが、しかしあまりに行き過ぎであり、訴訟における当事者自治

(Dispositionsmaxime)を著しく害することになろう。

訴訟上の要求それ自体について集中の要求はない(pas de concentration des

demandes)――2008年 5月 28日判決において(156)、破毀院第一民事部は、同

一の仲裁手続においては同一の法的根拠に基づく要求(Begehren)を提起する義

務を申立人に課し、また、申立人は、適時に提出しなかった請求の根拠を以後の手

続で援用することはできないとの判断を下した(157)。この集中要求[原則]の極

端な拡張が、仲裁裁判所に[事件処理を]委ねることを内容とする両当事者の仲裁

合意に基づく仲裁手続についてのみ妥当するのか否かは、今のところ不透明であ

る。これに対して、とくに民事訴訟手続に特化している第二民事部は、拡張を拒

み、そして両当事者には法的観点(rechtliche Art)に関する攻撃防御方法の提出

集中のみを求め、請求や申立て(Ansprueche und Antraege)の提出集中を求め

ないと判断した(158)。最終的に民事第一部は、この[第二民事部の]方法を踏襲

(156) Cass. Civ. I, 28.5.2008, Nr. 07-13.266, Jurisclasseur Periodique edition Generale(JCP G) 2008. II. 10 170 mit Anm. G. Bolard ; Jurisclasseur Periodique editionGenerale (JCP G) 2008. II. 10 157 mit Anmerkung G. Chabot. この判決については、以下の文献も参照。Frederique Ferrand, ,,Konzentrationsgrundsatz inder Schiedsinstanz nach franzosischem Recht - Erstreckung der in derZivilgerichtsbarkeit geltenden Prinzipien“, Zeitschrift fur Europaisches Privatrecht(ZEuP) 2/2010, S. 401 ff. この解決方法は 2012年にふたたび用いられた。以下の判例を参照。Cass. Civ. I, 12.4.2012, Nr. 11-14.123, Bulletin Civil de la Cour decassation (Bull. civ.) 2012. I, Nr. 89. もっとも、この判決は後に第一民事部で破毀された。以下の判例を参照。Cass. Civ. O, 12.4.2012, Nr. 11-14.123, Recueil Dalloz(D.) 2012, S. 1132 - 7.12.2016, Nr. 16-12.216, Revue trimestrielle de droit civil(RTD Civ.) 2017, S. 78 mit Anm. Casey.

(157) 要求の集中(concentration des demandes)について非常に批判的である以下の文献を参照。Jacques Heron/Thierry Le Bars, Droit juciciaire prive, RdNr. 359. 同掲載箇所は、被告に対して攻撃防御方法の提出の集中を拡大することが、この集中原則が不幸にも請求にまで拡張されることにつながったとしている。

(158) 多くの判例の代わりに、以下の判例を参照。Cass. civ. II, 23.9.2010, Nr. 09-69.730, Jurisclasseur Periodique edition Generale (JCP G) 2010. 1052 mit Anm. E.Jeuland ; Recueil Dalloz (D.) 2010. 2300 - Cass. Civ. II, 16.3.2017, Nr. 16-15.426- 22.11.2012, Nr. 11-24.493 - 16.5.2012, Nr. 11-16.973 - 26.5.2011, Nr. 10-16.735,Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 2012. II, Nr. 117 ; JurisclasseurPeriodique edition Generale (JCP G) 2011.861 mit Anm. Y.-M. Serinet. これらすべての判例は、同じ文言を繰り返している(《s’il incombe au demandeur de presenter

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法律論叢 91巻 1号

したが(159)、それは学説が民法 1351条(現 1355条)の文言に関する従前の判例

と一致していないことを幾度も強調した後になされた(160)。同様に、第二民事部

は、第一民事部および商事部と異なり、保証人による銀行に対する責任追及訴訟

は、保証人に対する銀行による支払請求訴訟と同一の対象を有するものではないと

したので(161)、その結果、第二訴訟は既判力に妨げられるものではないことにな

る。また、連帯保証人に対して主たる債務の支払いを求める訴訟が提起された事案

において自らを防御し、第二訴訟において事案解明義務違反を理由に保険会社を相

手に損害賠償を求める訴えを提起した場合、現在では(162)、両方の請求は同一対

象を有するものではないと判断されている。近年、破毀院第二民事部は幾度も、集

中要求[原則]は攻撃防御方法(moyens)のみについて妥当するのであり、訴訟

上の要求(Klagebegehren)には当てはまらないことを明示しているが(163)、こ

れは歓迎されるべきである(164)。第二民事部は、双方の訴訟の対象が異なる場合

des l’instance relative a la premiere demande l’ensemble des moyens qu’il estimede nature a fonder celle-ci, il n’est pas tenu de presenter dans la meme instancetoutes les demandes fondees sur les memes faits》). また、つぎの判例も参照。Cass.Civ. III ; 17.6.2015, Nr. 14-14.372, Jurisclasseur Periodique edition Generale(JCP G) 2015. 788 mit Anm. Y.-M. Serinet.

(159) Cass. Civ. I, 7.12.2016, Nr. 16-12.216(夫婦共有財産の設定に関する合意を含む条項の効力の制限を主張する申立ては、合意の無効の申立てと同一の対象である)。また、以下の判例も参照。Cass. Civ. I, 12.4.2012, Nr. 11-14.123, Bulletin Civil de la Courde cassation (Bull. civ.) 2012. I, Nr. 89 - 30.11.2011, Nr. 15-20.043 - 12.5.2016,Nr. 15-16.743 und 15-18.595.

(160) たとえば、以下の文献を参照。E. Jeuland,《Concentration des demandes : un conflitlatent entre des chambres de la Cour de cassation》, Jurisclasseur Periodiqueedition Generale (JCP G) 2010. 1052.

(161) Cass. Civ. II, 23.9.2010, Nr.09-69.730, Jurisclasseur Periodique edition Generale(JCP G) 2010. 1052 mit Anm. E. Jeuland ; Recueil Dalloz (D.) 2010. 2300.

(162) Cass. Civ. II, 10.11.2016, Nr. 15-22.862.(163) たとえば以下の判例を参照。Cass. Civ. II, 16.3.2017, Nr. 16-15.426. Dem hat

sich der 3. Zivilsenat angeschlossen, s. Cass. Civ. III, 11.1.2012, Nr. 10-23.141,Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. Civ.) 2012. III, Nr. 4 ; JurisclasseurPeriodique edition Generale (JCP G) 2012. 442 mit Anm. J. Ghestin und Y.-M.Serinet.

(164) さらに、既判力の範囲と控訴審における新たな攻撃防御方法の提出とは密接な関係がある。フランス法上は、当事者は、控訴審において新たな主張と証拠方法の提出が認められているが(民事訴訟法 563条)、新たな請求の申立て(Anspruche: pretentions nouvelles)は、民事訴訟法 564条以下に多くの例外が定められているものの、原則として認められていない。したがって、新たな請求の申立ては新たな訴訟においてなすことができる。

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

にこの解釈態度を維持している(165)。

これは、(少なくとも現時点で)破毀院が、同一の歴史的事実関係から生じる訴

訟上の請求について、一般的集中原則を創設するつもりはないことを意味する。ロ

ルフ・シュテュルナーは、ドイツ法について同様のことを述べている(166)。すな

わち、“むしろ、当事者は自らの訴訟上の請求を通じて、いかなる権利保護の目

的をもって歴史的事実が裁判官の判断に服すべきかを定める”、と。ある判決は、

必ずしも歴史的事実のすべてを覆い尽くすのではなく、別の訴訟を締め出すもの

ではない。むしろ、当事者自治(principe dispositif)が尊重される。法的な訴訟

上の要求を選択することによって、両当事者は、“[紛争対策についての]終局性

の限界”(167)を自ら設定することができる。したがって、破毀院のCesareo判決

は、両当事者にできる限り完全に訴訟資料を提出することを促すとともに手続の濫

用を回避しあるいは制裁を加える、イギリス法上のHenderson vs. Henderson判

決(168)と対をなすものではない。

以下の文献も参照。E. Jeuland,《Concentration des demandes: un conflit latententre des chambres de la Cour de cassation》, Jurisclasseur Periodique editionGenerale (JCP G) 2010. 1052.

(165) たとえば以下の判例を参照。Cass. Civ. II, 10.11.2016, Nr. 15-22.862. Vgl. fur den3. Zivilsenat Cass. Civ. III, 20.1.2010, Nr. 09-65.272, Bulletin Civil de la Courde cassation (Bull. civ.) 2010. III, Nr. 14.

(166) Rolf Sturner,《Rechtskraft in Europa》, S. 917. 同所は、さらにつぎのように述べている。すなわち、まず、当事者の申立ては訴訟の対象および既判力の範囲を限界づけ、それによって、一部請求による歴史的事実関係を分割する自由を当事者に認めるのである、と。

(167) Rolf Sturner,《Rechtskraft in Europa》, S. 913.(168) この判例とその限界については、以下の文献を参照。Ioannis Delicostopoulos/Constantin

Delicostopoulos,《L’autorite de la chose jugee et les faits》, in: Justices et droit duproces, Du legalisme procedural a l’humanisme processuel, Melanges en l’honneurde Serge Guinchard, Paris, Dalloz 2010, S. 685 ff. また、以下の文献も参照。Frederique Ferrand,《Res Judicata - From National law to a Possible EuropeanHarmonisation?》, in Festschrift fur Peter Gottwald, Munchen, Beck, 2014, S. 153「イングランド法は、より進んでいた。すなわち、イングランド法は、判断された争点の再訴を阻止するだけでなく、同一当事者間での前訴における請求または抗弁の一部として一方当事者が含ませていた争点に関する訴訟を排除する。このルールは、1843年のHenderson v. Henderson判決で確立された。2002年のTaylor v. Lawrence事件で再構成されたように、“訴訟に関与した両当事者は、その訴訟に関係するすべての争点を裁判所に提出することが期待される。もし両当事者がそれをなさない場合、彼らは、通常は再チャレンジすることは許されないであろう。”これは、手続排除効は判断

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法律論叢 91巻 1号

訴訟の分断を回避するために、両当事者に対する攻撃防御方法の集中要求[原

則]が意味をなすのは、裁判官が、“裁判官は法を知る(jura novit curia)(169)”

“汝は事実を語れ、我は法を語らん(da mihi factum, dabo tibi jus)(170)”とい

う格言を遵守し、当事者によって主張された法的根拠で十分であるとはせずに、準

拠すべき法を職権で確定することが前提となろう。フランス民事訴訟法典 12条の

文言が、このことを想起させる。しかし、破毀院は、この規定の明確な文言を無視

している。

3.既判力と裁判官の義務(民事訴訟法 12条)破毀院大法廷(Assemblee pleniere)は、当事者の訴訟上の義務を厳格にしただ

けでなく、民事裁判官の任務を法に反して(contra legem)制限した(171)。その

理由は、理論上のものではない。その根拠は、民事裁判所への長蛇の列を阻止し、

裁判統計に影響を及ぼそうとする政治的意図によるものである。このことが、権力

分立および裁判所にアクセスする権利に適合するものであるかどうかは、大いに疑

問である。

破毀院は、2007年 12月 21日の非常に保守的な判決で(172)、破毀院の複数の部

されなかった事項にも及ぶことを意味する。その正当化根拠は、濫訴の防止にある。しかし、2002年に貴族院House of Lordsは(Johnson v. Gore Wood & Co事件)、ヘンダーソン理論はあまりにもドグマに偏りすぎであり適用すべきでないと強調し、濫訴であるためには先行訴訟を無駄にする意図があったことを証明する必要はないとしても、後行の受訴裁判所は、当事者が先行訴訟で[攻撃防御方法の提出]機会を有していたと期待することが適切かつ合理的であったかどうかを評価しなければならないとした。通常は、第二訴訟が濫訴に当たるとの証明責任は、第二訴訟の被告が負う。」

(169) Dem Gericht ist das Recht bekannt.(170) Gib mir den Sachverhalt, dann gebe ich dir das Recht.(171) 攻撃防御方法の提出の集中は、完全性原則(Vollstandigkeitsgebot: principe de

completude)によって補充されるが、これは裁判官に対して、考慮しうるすべての法的根拠と包摂Subsumtionenの審査を義務付ける。以下の文献を参照。Philippe Blondel,,,La charge de la concentration et le respect d’un principe de completude“,Jurisclasseur Periodique edition Generale (JCP G) 2012. Doct. 404.

(172) Nr. 06-11.343, Bulletin de la Cour de cassation (Bull. Ass. plen.) 2007. Nr. 101;Gazette du Palais (Gaz. Pal.) 2008. I.290 mit Stellungnahme R. de Gouttes;Jurisclasseur periodique edition Generale (JCP G) 2008. II. 10 006 mit Anm. G.Weiller; Recueil Dalloz (D.) 2008. 228 mit Anm. L. Dargent; Procedures 2008 Nr.71 mit Anm. R. Perrot. 以下の文献も参照。O. Deshayes,《L’office du juge a larecherche de sens》, Recueil Dalloz (D.) 2008. 1102.

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

における判例の相違を除去しようとして、大法廷を開いた。この事件は、原告がそ

の請求を物の瑕疵担保責任(民法 1641条)に基づかせたところ、裁判官は契約不

適合(Falschlieferung : defaut de conformite)があるか否かを審理することな

く請求を棄却した。原告は上告を提起し、控訴裁判所の裁判官が民事訴訟法 12条

を顧慮しなかったことを述べた。同条が定めるところによると、裁判官は紛争を適

用すべき法規範に基づいて判断し、また、当事者によって提案された[法的]包摂

関係にとらわれることなく、裁判官は争われている事実を適切に[法的に]包摂し

なければならないとされる。

しかし、大法廷は、つぎのような判断を下した。すなわち、主要な支配原理のも

とで、民事訴訟法 12条が裁判官に対して、当事者が自らの請求を根拠づけるために

主張した事実や活動を適切に[法的に]包摂することを義務付けていたとしても、

この規定は裁判官に特別規定を除いて請求の呼称(Bezeichnung: denomination

訳者注:当事者は、ある事実や行為に呼称を付して法的概念への分類分けを行うが、

裁判官は、この当事者の呼称にとらわれることなく性質決定を行う。民事訴訟法12条 2項)ないし法的根拠の変更を促すものではない、と(173)。この立場は、破

毀院第一民事部がそれまで判断してきたように、12条の明確な文言に反する。事

実関係は当事者の問題、そして法[の解釈適用]は裁判官の問題である。2006年

に下された問題のCesareo判決が、当事者が自らの請求を根拠づけるために主張す

ることができ、また新たな訴訟において既判力によって遮断される攻撃防御方法を

前提にしていたならば、裁判官に対しては――ドイツ法と同様に――事実関係に適

用されるあらゆる法規範を考慮することが期待される。しかし、そのような義務を

否定するとなると、民事訴訟法 12条の命ずるところは、純粋にフィクションとな

る。なぜならば、裁判官は、当事者が依拠しなかった適切な法規範を適用する権利

はあるものの、適用する義務はないからである。フランスの圧倒的学説は、民事訴

訟法 12条を厳格に適用するとしているが、大法廷は、法律に違反して裁判官の任

務を制限した。その(非公式の)根拠は、Loriferne裁判官の報告書と de Gouttes

(173) この裁判官による包摂と呼称ないし法的根拠の変更の区別は技巧的であり、追従可能ではない。以下の文献を参照。Philippe Blondel, ,,La charge de la concentration et lerespect d’un principe de completude“, Jurisclasseur Periodique edition Generale(JCP G) 2012. Doct. 404, RdNr. 14(これは同じような行動方式であり、いずれの場合も包摂という結果に落ち着く).

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法律論叢 91巻 1号

検事の意見表明に書かれている(174)。すなわち、適切な法規範を職権で適用する

ことを事実審裁判官が怠った場合に、国家が責任を負うことに対する危惧である!

適切な法規範を事実関係に適用する裁判官の権利だけを認め、そのようにすべき

裁判官の義務を認めないことは、[裁判官の]恣意を非常に広範囲に認めることに

なる。なぜ破毀院が、当事者の訴訟上の地位を困難にし、また手続の公正さを著し

く侵害する、理論的に主張することができない道を作り出したのか理解することが

できない(175)。

4.既判力の時的限界請求の根拠“cause”という概念は、同一事実関係(les memes faits)に関する

同一事件(la meme chose)が申し立てられた場合に、もはや、もっぱら第一訴訟

で主張された法的根拠に関するものだけではなく、可能性のあるあらゆる法的根拠

を包摂するものとなった。そして、この概念の再構成を通じて消極的既判力は著し

く拡張された。そこで、判例によって拡張された既判力ないし排除効の時的限界が

問題となる。

最近下されたCesareo判決が過度に不公正な結論や裁判所へのアクセスを拒否

することのないように、破毀院は、この判決に対して一定の時的限界を設定した。

原則として既判力は、事実審の最終時点における事実関係にのみ及ぶため、その後

に生じた事象は常に新たな訴訟において提出可能であった。このことは、長きにわ

たり、判例によって認められてきた(176)。Cesareo判決によって設定された集中要求[原則]の範囲において、破毀院は、

二つの例外を明示的に認めた。

――既判力が生じた判決が基礎にしていた事実関係に変動が生じた場合(177)、

(174) 以下でアクセス可能である。www.courdecassation.fr/jurisprudence 2/assemblee pleniere 22/gouttes premier11072.html.

(175) 以下の文献を参照。Philippe Blondel, ,,La charge de la concentration et le respectd’un principe de completude“, Jurisclasseur Periodique edition Generale (JCP G)2012. Doct. 404, RdNr. 16.

(176) たとえば以下の判例を参照。(賃貸借契約から生じた新たな義務違反) - Cass. Civ. II,5.1.1994, Nr. 92-12.185, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 1994.II, Nr. 15.

(177) 以下の判例を参照。Cass. Civ. II, 10.7.2008, Nr. 07-14.620 - Cass. civ. III,

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

または、

――第一訴訟を終了させた判決の後に新たな権利が発生した場合(178)、である。

そこで、ある土地利用計画を承認した県の許可を取り消した変更可能性のない行

政裁判は、民事判決から既判力を奪う新たな法的事実を形成し、そのため新訴提

起は適法となる(179)。破毀院のすべての部において一般的に承認されていること

は(180)、諸般の事情が以前に裁判所で認定された状況を変えた場合には、既判力

は阻止することができないという点である(181)。もっとも、当事者による新たな

攻撃防御方法の主張が、新しい判断要素(Beurteilungselemente)の発生を根拠

とする場合には、このことは妥当しない(182)。また、2013年には破毀院は、つぎ

25.4.2007, Nr. 06-10.662, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull civ.) 2007.III, Nr. 59.

(178) 以下の判例を参照。Cass. Civ. II, 10.6.2010, Nr. 09-67.172, Procedures 2010, comm.305, mit Anm. R. Perrot(最初の申立てをした訴訟において、当事者が、自らの考えによれば請求を根拠づけることになるすべての攻撃防御方法を主張する義務を負う場合でも、当初の訴訟で下された判決以降に発生した権利に基づいて、当事者は事後の訴訟で新たな請求を申し立てることができる)。

(179) Cass. civ. III, 25.4.2007, Nr. 06-10.662, Bulletin Civil de la Cour de cassation(Bull civ.) 2007. III, Nr. 59. Vgl. Cass. Civ. II, 3.7.2008, Nr. 07-16.398, BulletinCivil de la Cour de cassation (Bull civ.) 2008. II, Nr. 161 - Cass. Civ. II, 10.7.2008,Nr. 07-14.620 - Cass. Civ. I, 24.9.2009, Nr. 08-10.517, Bulletin Civil de la Courde cassation (Bull civ.) 2009. I, Nr. 177. また、以下の判例も参照。Cass Civ. III,30.9.2014, Nr. 13-18.761.

(180) ドイツの学説および判例によると、当事者は、第二訴訟において同一の請求(同一の訴訟上の要求という意味において)を主張した場合、事実審の最終口頭弁論終結後に発生した事実を新たに提出することができる(BGH, 2.3.2000, NJW 2002, S. 2023 ff.;Peter Gottwald, Zivilprozessrecht, § 154, RdNr. 1)。自然に考えて判決が下された事実関係に属するとされた新たな事実主張は、第二訴訟で排除される(BGH, 11.11.1994,NJW 1995, S. 967 ; BGH 7.7.1993, BGHZ 123, S. 137 ff. [140])が、この事実が第一訴訟の訴訟資料と関連性を有しない場合にはこの限りではない(BGH, 16. 10. 1995,NJW 1996, S. 57; BGH 11.11. 1994, NJW 1995, S. 967 ff.)。

(181) Cass. Civ. II, 10.7.2008, Nr. 07-14.620(既判力は、事後の事象がそれまで司法が認めた状況を変更する場合にのみ、排除される). Cass. Soc. 13.9.2005, Nr. 03-45.562- Cass. Civ. II, 3.6.2004, Nr. 03-14.204, Bulletin Civil de la Cour de cassation(Bull. Civ.) 2004. II, Nr. 264(申立てが判決を導いたのとは異なる根拠に基づく場合、または事後に生じた出来事が裁判所によって判断された状況を変更した場合、既判力に対する異議申立てを行うことはできない).

(182) Cass. Soc. 13.9. 2005, Nr. 03-45.562.

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法律論叢 91巻 1号

のような判断を下した。すなわち、当事者の一方が株主としての自己の権利を回復

させた判決に基づき、自己の第二訴訟(今度は、その後になされた総会決議の取消

を求めた)を根拠づけるために新たな権利を主張しうるし、また、この権利は第二

訴訟の既判力の抗弁を退けなければならないとした(183)。

これに対して、判例変更は原則として既判力を打ち破ることにはならない(184)。

判例変更について、判例および学説はつぎのことを前提にしている。すなわち、

新たな法律は変更および取消不可能な判決の既判力を脅かすものではないが(185)、

新たな法律が当事者の一方に有利な真に新たな権利を創設する場合にはこの限り

ではない(改正法がたんに新たな攻撃防御方法をもたらすのではなくて、真に新

たな請求原因を認めていることが要求された)(186)。また、立法者自身が新しい法

律の文言に、特別の訴え(たとえば、父性確認の訴え(187))を提起することがで

きるとし、その際に、取消不可能な判決で確定された排除効に阻止されない(188)、

(183) Cass. Civ. II, 26.9.2013, Nr. 12-23.129.(184) Cesareo判例変更は、ただちに従前の事件に対して適用可能であると宣言されたが、それら

の事件では当事者は[判例変更による]判決効の範囲が著しく拡大する点を考慮することができなかった。以下の判例を参照。Cass. Civ. II, 18.10.2007, Nr. 06-13.068 - 25.10.2007, Nr. 06-19.524, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. Civ.) 2007. II,Nr. 241; Procedures 2007, comm. 274 mit Anm. Perrot - Civ. II, 24.9.2009, Nr.08-10.517, Recueil Dalloz (D.) 2009. AJ. 2433; Revue trimestrielle de droit civil(RTD Civ.) 2010, S. 147 mit Anm. Thery und S. 155 mit Anm. Perrot. しかしながら、このことはヨーロッパ人権裁判所によって是認された。以下の判例を参照。EGMR,26.5.2011, Legrand gegen Frankreich, Nr. 23228/08, Procedures 2011, comm. 229mit Anm. Fricero (ヨーロッパ人権裁判所によると、判例変更に基づく既判力の範囲の拡大によって異議申立人の裁判所へのアクセスが侵害されたことにはならないとされた。人権裁判所は、新たなフランス判例の合目的性について言及することを拒み、また政府が援用した秩序だった司法、法的安定性および手続的誠実性を考慮した。参照、RdNr. 41). また、以下の判例も参照。EGMR, 17.3.2015, Barras gegen Frankreich,Nr. 12686/10 und Lucie Mayer, ,,La CEDH elude la question de la conformite ala Convention d’une application contestable de la jurisprudence Cesareo par laCour de cassation“, Gazette du Palais (Gaz. Pal.) Nr. 167 v. 14.6.2015, S. 21.

(185) 多くの判例の代わりに、以下の判例を参照。Cass. Ass. Plen., 2.2.1990, Nr. 88-85.724,Bulletin Assemblee Pleniere (Bull. Ass. Plen.) 1990. Nr. 1 ; Gazette du Palais(Gaz. Pal.) 1990. 1. Pan. S. 49.

(186) 以下の判例を参照。Cass. Civ. I, 25.1.1960, Bulletin Civil de la Cour de cassation(Bull. Civ.) 1960. I, Nr. 52 (この事案は、父性確認訴訟であった。新法は、“誘惑”に関する適法な証拠方法の修正を行ったにすぎず、請求原因を修正したものではなかった)。

(187) 以下を参照。Gesetz Nr. 76-1036 v. 15.11.1976.(188) 以下の文献を参照。Melina Douchy-Oudot, Jurisclasseur Commercial, Art. 1349

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

と明示的に定める場合もありうる。

矛盾判決と既判力――矛盾判決については、民事訴訟法 617条および 618条が

破毀申立てを認めている。民事訴訟法 617条によると、一方の当事者が既判力の

抗弁を提出し、それが効を奏しなかったとしても、破毀院に第二判決の取消を申立

てることができる。二つの判決の矛盾が破毀院によって確定されると、第二訴訟の

無効が宣言されなければならない。民事訴法 618条は、別のケースを定めている。

すなわち、二つの判決(第一審または第二審)が相互に矛盾し、いずれの判決に対

しても通常の不服申立方法(控訴や欠席判決における故障の申立て)が提起されて

いない場合である。この場合には、双方の判決の一方がすでに破毀申立ての対象と

なりその後退けられた場合であっても、破毀申立てが認められる。この場合の破毀

申立ては双方の判決に向けられ、破毀院が不一致を確認した場合には判決の双方ま

たは一方を取り消す。

再審の申立て(recours en revision)――フランスでは、他の多くの国の法秩序(たとえば、ドイツ、イタリア、ポーランド、スペイン)と同様に、例外的

に特別な上訴(再審 recours en revision)を提起することができる。民事訴訟法595条は、再審手続を開始する限られた場合を掲げている。すなわち、第 1号は、

判決言渡し後に、勝訴当事者の詐欺により判決が獲得されたことが判明した場合、

第 2号は、判決言渡し以降に、相手方当事者が提出しなかった重要な証拠が提出さ

れた場合、第 3号は、判決が依拠した書類が、のちに虚偽であったと認められた

か、裁判所によって虚偽であると宣言された場合、第 4号は、判決が依拠した書面

または口頭による証言もしくは宣誓が、のちに裁判所によって虚偽であったと宣

言された場合である。再審の申立てが適法とされるのは、判決が確定力(force de

chose jugee)を得る(すなわち、通常の不服申立てが尽きる)前に、当事者が帰責

性なしに重大な判決の過誤を主張することができなかった場合に限られる(189)。

bis 1353, Fasc. 20, RdNr. 215 ff.(189) 民事訴訟法 596条以下によると、当事者は、2か月以内に再審申立てを行わなければな

らない。この期間は、当事者が再審事由を知った時から開始する。再審事由は重大な過誤ないし一方当事者の可罰行為を前提とするため、検察官に通知されなければならない(民事訴訟法 600条)。裁判所が申立てを認めると、裁判所は事件を審理する(民事訴訟

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法律論叢 91巻 1号

5.既判力が生じる判決の部分:理由には生じない判決は、事実、主文および判決理由から成る。そこで、実体的確定力が、判決主

文に限定されるのか、主文を導き出した判決理由(motifs, soutien necessaire du

dispositif)には及ばないのかが問題となる。

ドイツ法上は、既判力に関する民事訴訟法 322条 1項の文言は[既判力を]狭

い範囲で認めており、その範囲はドイツの判例によると、“裁判所によって確定さ

れた法的効果”、すなわち両当事者によって提出された事実関係に適切な法を適用

した結果、さらに換言すると原則として判決主文に限定される(190)。では、訴え

を退ける判決の場合、既判力の範囲はどのようにして定まるのであろうか。この場

合、主文はほとんどない(191)。そこでドイツおよびフランスの判例は、不明確な

点を具体化する努力を払ってきた。

関係する民事訴訟法の規定――民事訴訟法典の 2つの条文から、判決のどの部

分に既判力が生じるのかという問題に対する解答を導き出すことができる。まず、

民事訴訟法 455条 2項は、判決は主文において判断を示すものと定めており (Il

enonce la decision sous forme de dispositif)、このことは、既判力が生じる判決

は、その理由を探ることは許されないことを意味する。民事訴訟法 480条 1項が定

めるところによると、判決は、その主文において訴訟物の全部または一部について、

もしくは訴訟上の抗弁、妨訴抗弁(fin de non recevoir)、あるいは訴訟を終了さ

せる他の申立てを判断し、その言渡しによって判断がなされた紛争について既判力

が生じる。この規定は、私見によると、既判力が生じうる裁判の種類を定義してい

法 601条)。(190) 以下の文献を参照。Hans Joachim Musielak/Wolfgang Voit, Grundkurs ZPO, RdNr.

580; Peter Gottwald, Zivilprozessrecht, § 153, RdNr.9 ff. 裁判所によって確定された事実関係に既判力は生じない。以下の判例を参照。BGH, 14.7.1993, NJW 1995, S.2993.

(191) そのため、連邦通常裁判所は確定判例においてつぎのように判示している。すなわち、判決主文が既判力の範囲を十分に確定しない場合には、事実関係および判決理由から導き出さなければならないし (BGH, 27.2.1961, BGHZ 34, S. 337 und 339; 13.12.1989, NJW1990, S. 1895 ff.),また、両当事者の書面や口頭での陳述(mundliche Ausfuhrungen)が、訴訟物特定のために考慮されなければならない(BGH, 27.2.1961, BGHZ 34. S.337 ff.; 13.12. 1989, NJW 1990, S. 1795 ff.)。

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

るが、判決の如何なる部分に既判力が生じるのかについては言及していない(192)。

判決主文に関する既判力――もちろん、争いのある本案や抗弁についての判断(jugement contentieux definitif)に関する判決の主文(dispositif)には既判力が

生じる。なぜならば、この部分には、実体的効力を有する裁判官の確認ないしは命

令を含んでいるからである。もっとも、主文は、両当事者の対審に基づく討論の対

象であり(193)、また無条件に(194)、裁判官によって実際に判断された争点に関し

てのみ既判力が生じる(195)。

判決理由に関する既判力?――判例の展開――判決理由に既判力が生じるのか否かという問題については、フランスの判例は、さまざまな展開局面を通じて特徴

づけられる。まず、主文に黙示的に含まれている事項(すなわち、判決を下すた

めに、裁判官が必然的に回答しなければならない前提問題)については既判力が

承認されている(196)。もっとも、その際に注意しなければならないのは、審理の

対象ではなかった問題について黙示的判決を認めるとすると、権利追求をしよう

とする者に対して、裁判所にアクセスする権利を不当に遮断することとなる点で

ある(197)。一部では、“判決の当然の帰結 suite necessaire de la decision”であっ

(192) 以下の文献を参照。Cecile Chainais/Frederique Ferrand/Serge Guinchard, Procedurecivile, Droit interne et europeen du proces civil, RdNr. 1147 は、フランス民事訴訟法480条の不明確さを強調している。

(193) Cass. Civ. II, 19.11.1965, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. Civ.) 1965.II, Nr. 918 - Cass. civ. III, 29.10.1973, Nr. 72-13.562, Bulletin Civil de la Cour decassation (Bull. Civ.) 1973. III, Nr. 550 (控訴裁判所は民法 1351条の判断を誤った。なぜなら、裁判所は、裁判所の判断対象ではなく、また判決が黙示的に判断することもできなかった争点について従前の判決に既判力が生ずるとしたからである).

(194) Cass. Com. 22.1.1969, Jurisclasseur Periodique (JCP) 1968. II. 16 066 mit Anm.Hemard.

(195) Cass. Com. 15.5.1974, Nr. 72-13.270, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull.Civ.) 1974. IV, Nr. 157.

(196) たとえば以下の判例を参照。Cass. Civ. II, 22.5.1995, Nr. 93-19.016, Bulletin Civilde la Cour de cassation (Bull. Civ.) 1995. II, Nr. 150 ; Revue trimestrielle de droitcivil (RTD Civ.) 1995, S. 961 mit krit. Anm. R. Perrot (裁判所が手続中止の申立てを却下した判決を取り消したことで、控訴裁判所は本案に関する判決言渡しをも黙示的に取り消した). また、以下の判例も参照。Cass. Com. 28.6.1988, Nr. 86-17.359,Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. Civ.) 1988. IV, Nr. 215.

(197) この点については、以下の文献を参照。Cecile Chainais/Frederique Ferrand/Serge

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法律論叢 91巻 1号

たことにも既判力が認められた(198)。

さらに、2009年までの判例は、2種類の判決理由について既判力を認めてい

た。判決理由中の決訟的理由(motifs decisoires)は、本来は主文の一部を構成す

べきものであり(199)、当事者によって裁判の申立てがなされていたにもかかわら

ず、誤って裁判官が理由中に引用した場合である。これは、判決を誤って書いた場

合であり、とくに、訴訟物と証拠に関する命令に関する一部判決を含む“混合判決jugements mixtes”の場合や、適法性の問題について判断された中間判決の場合が

該当する(200)。長い間(201)、学説上支持されてきた判例は、この場合、判決理由

に既判力が生ずるとしてきた。もっとも、この解決は、前述の民事訴訟法 455条

および 480条を有する 1975年新民事訴訟法が施行されて以降は、ほとんど支持さ

れていない(202)。そこで、しだいに(まずは、破毀院第二民事部によって、その

後は次第に他の民事部においても)、判決理由中の決訟的理由(motifs decisoires)

についての既判力は判例によって否定された(203)。これは、現在は一貫した解決

Guinchard, Procedure civile, Droit interne et europeen du proces civil, RdNr.1143.

(198) 以下の判例を参照。Cass. Com. 2.12.1968, Bulletin Civil de la Cour de cassation(Bull. civ.) 1968. IV, Nr. 335 - Cass. Civ. II, 22.5.1995, Nr. 93-19.016, BulletinCivil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 1995. II, Nr. 150.

(199) 以下の文献を参照。Jacques Heron/Thierry Le Bars, Droit judiciaire prive, Nr. 376(これは、判決理由部分に入り込んでしまった主文の一部である).

(200) 以下の文献を参照。Rolf Sturner,《Rechtskraft in Europa》, aaO, S. 926.(201) 多くの判例の代わりに、以下の判例を参照。Cass. Civ. III, 21.11.1974, Bulletin Civil

de la Cour de cassation (Bull. Civ.) 1974. III, Nr. 432 - Cass. Civ. II, 8.5.1974,Nr. 73-12.608, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 1974. II, Nr.153.

(202) 民事訴訟法 482条も参照。同条は極めて明確につぎのように規定している。すなわち、主文において証拠の提出または暫定的措置を命ずる判決は、本案につき既判力を有しない、と。

(203) 現在、判例は一貫して決訟的理由(motifs decisoires)の既判力に反対している。多くの判例の代わりに、以下の判例を参照。Cass. Civ. III, 22.6.1977, Nr. 75-15.316,Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 1977. III, Nr. 280 ; Revuetrimestrielle de droit civil (RTD Civ.) 1078. S. 187 mit Anm. J. Normand - Cass.Civ. II, 16.11.1983, Nr. 82-14.282, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull.civ.) 1983. II, Nr. 180(既判力は判決の対象であり、主文において判断された事項にのみ生ずる)- Cass. Civ. II, 17.5.1993, Nr. 91-19.381, Bulletin Civil de la Cour decassation (Bull. civ.) 1993. II, Nr. 173 - Cass. Civ. II, 22.1.2004, Nr. 02-16.377,Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 2004. II, Nr. 15.

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

であるが、この解決はつぎのことをもたらした。すなわち、“中間判決 jugement

avant dire droit”(民事訴訟法 482条)(204)であるか民事訴訟法 480条にいう“終

局判決 jugement definitif”かどうかを判断することが問題となる場合には、判決

理由は考慮することが許されない。たとえば、判決理由において本案の一部につい

て判断がなされたが、主文において鑑定を命ずるだけであった場合は、判決は中間

判決(avant dire droit)として通用し、それゆえ既判力を有しない。

同様に、判例は、判決中の決定的理由(motifs decisifs)にも既判力を認めてい

た。これは、判決主文にとってきわめて重要な判決理由であるため、ここでの理由

は判決に必須の根拠である場合である。学説上は、これは論理的であるとみなされ

ている。なぜならば、新訴提起がなされた場合に、裁判所は、第二訴訟の訴訟物お

よび根拠が第一訴訟のそれらと同一かどうかを、第一訴訟判決の理由を用いて判断

することができるからである。消極的既判力の範囲を判断するためには、第一訴訟

判決の理由部分を放棄することは難しい。そこで、長年にわたって、この理由につ

いて消極的既判力が生ずると判断されてきた(205)。

判決理由中の決訟的理由(motifs decisoires)にも判決の決定的理由(motifs

decisifs)にも該当しない場合には、判例は、判決理由に既判力は生じないとして

きた(206)。2009年に破毀院大法廷の基本原則を示した判決は(207)、判決理由の既判力に関

(204) 後述 IIを参照。(205) 多くの判例の代わりに、以下の判例を参照。Cass. ch. mixte, 6.6.1984, Nr. 80-12.965,

Jurisclasseur Periodique (JCP) 1985. II. 20 338 - Cass. Soc. 10.6.1976, Nr. 75-40.263, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 1976. V, Nr. 456 - Cass.Civ. II, 17.10.1973, Nr. 72-12.706, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull.civ.) 1973. II, Nr. 269(刑事裁判所の判断の既判力は、判決主文、および主文を必然的に根拠づける理由のみに生ずる).

(206) 多くの判例の代わりに、以下の判例を参照。Cass. Civ. II, 22.5.1995, Nr. 93-19.016,Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. civ.) 1995. II, Nr. 150 - Cass. Civ. II,8.6.2000, Nr. 98-19.038.

(207) Cass. Ass. Plen., 13.3.2009, Nr. 08-16.033, Bulletin Assemblee Pleniere (Bull.Ass. Plen.) 2009. Nr. 3; Jurisclasseur Periodique edition Generale (JCP G) 2009.II. 10 077 mit Anm. Y.-M. Serinet ; Revue trimestrielle de droit civil (RTD Civ.)2009, S. 366 mit Anm. R. Perrot. この基本原則に関する判決において大法廷は、既判力を有する判決は主文において被告による反訴について判断をしていないため、反訴と関わりを有する判決理由には既判力が生ずることはないとした。

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法律論叢 91巻 1号

する判例に終止符を打った(208)。複数の部の見解が一致していないことから法的

安定性が危険にさらされていることを理由に、大法廷に申立てがなされた(209)。

民法 1351条(現行 1355条)および民事訴訟法 480条に関して、“既判力は、判決

の対象であり、主文で判断された事項にのみ生ずる”と、厳粛に一般的に述べら

れている。破毀院大法廷の基本判決は、明確性と法的安定性を生み出すものであ

り(210)、また裁判官に判決を正確かつ詳細に記述することを促すものである(211)。

すなわち、明確かつ明白に主文から導き出すことができたことについてのみ、既判

力が生じる。この判断が決訟的理由(motifs decisoires)にのみ認められるのか、

あるいは判決の決定的理由(motifs decisifs)にも認められるべきなのかは、まっ

たく不透明である。学説の一部からは、破毀院は、この点についてより明確に言及

して、判決主文に不可欠な根拠である理由に既判力が認められないことを再考する

ことが求められている(212)。

破毀院が[既判力の範囲について]極めて厳格な姿勢でいることが有用であると

いえるのかは、同裁判所が判決主文の意味および範囲を判決理由が明らかにするこ

とを認めてきているが(213)、その際に、既判力が判決理由に生じることを述べて

(208) ドイツの判例によると、実体的確定力は判決主文にのみ生じ、事実認定には生じない(BGH, 11.11.1994, NJW 1995, S. 967)。ドイツの学説は、事実関係を確定させるためにのみ訴えを提起することは許されないことを理由に、このような解決を正当化している。以下の文献を参照。 Peter Gottwald, Zivilprozessrecht, § 152, RdNr. 11. 判決理由(RG, 30.10.1908, RGZ 69, S. 385)または先決的法律関係(先決的法律関係は判決主文とは関係なく既判力が生じない。BGH, 7.7.1993, BGHZ 123, S. 137 ff. [140])には既判力は生じない。

(209) すでに第二民事部は、既判力はもっぱら主文にのみ認められると説いていた(Cass.Civ. II, 26.5.2004, Nr. 02-11.504)。

(210) 以下の文献を参照。Cedric Bouty, Repertoire de procedure civile Dalloz,《ChoseJugee》, RdNr. 428 ; Loıc Cadiet/Emmanuel Jeuland, Droit judiciaire prive, RdNr.730.

(211) Cedric Bouty, aaO, RdNr. 429 -また、以下の文献も参照。Perdriau, “Les dispositifsimplicites des jugements”, Jurisclasseur Peridique (JCP) 1988. I. 3352.

(212) Cecile Chainais/Frederique Ferrand/Serge Guinchard, Procedure civile, Droitinterne et europeen du proces civil, RdNr. 1149 ; Jacques Heron/Thierry Le Bars,Droit judiciaire prive, Nr. 377.

(213) Cass. Civ. II, 3.7.2008, Nr. 07-16.398, Bulletin Civil de la Cour de cassation(Bull. Civ.) 2008. II, Nr. 161 - Cass. Com. 17.2.2015, Nr. 13-27.749. これは、争点に既判力が生ずるか否かについて判断することに資する。以下の文献を参照。 CedricBouty, Repertoire de procedure civile Dalloz,《Chose Jugee》, RdNr. 432.

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

いないため、疑問である(214)。判決主文の範囲を判断する際の判決理由と(215)、

既判力が生じることを認めない判決理由とを明確に区別する可能性はどこに求め

られるのか(216)。限界線は、判例からは明らかでない(217)。

有力説は(218)、判決理由中の既判力を排除する立場を批判するものであり、こ

れに[私も]賛成するものである。なぜならば多くの場合、この判決理由は、必要

不可欠な前提、あるいは簡潔に表明された主文の根拠だからである(219)。判決主

文に含まれなかったものの、理由中で言及があり、または応答があった争点が、新

たな訴訟の対象となることを受け入れるべきであろうか。

もっとも、強調しておかなければならないことは、破毀院によって既判力が否定

された多くの判決は、フランス判例において原則として否定されてきた積極的既判

力(positive Rechtskraft)が問題となったものであり(220)、したがって、判決の

決定的理由(motifs decisifs)に関する既判力を原則的に否定するのではなく、積

極的既判力を厳格に制限あるいは否定することについて、判例がより望ましい対応

をなしえたか否かを考察できたのではないかということである。しばしば強調さ

れるのは、判決主文を必然的に根拠づける判決の決定的理由(motifs decisifs)に

消極的既判力を認めることを、判例は、最終的に否定してはいない(221)。もっと

(214) Cass. Com. 17.1.1997, Nr. 95-12.108, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull.Civ.) 1997. IV, Nr. 15 ; Recueil Dalloz (D.) 1995, S. 315 mit Bericht Remery(決定理由の中で主文の範囲を明らかにすることが禁じられていないのであるならば、既判力についても同様である)。

(215) たとえば、“原告の全ての請求を棄却する”との判決主文の場合、どの申立てについて裁判所が判断したのか、判決理由の助けをかりて調べなければならない (Cass. Com.17.2.2015, Nr. 13-27.749 - Cass. civ. II, 9.11.2006, Nr. 05-10.453)。

(216) 疑問を呈する以下の文献を参照。Cedric Bouty, Repertoire de procedure civile Dalloz,《Chose Jugee》, RdNr. 432.

(217) 明確化に賛成するのは、以下の文献を参照。Loıc Cadiet/Emmanuel Jeuland, Droitjudiciaire prive, RdNr. 731.

(218) とくに、以下の文献を参照。Cedric Bouty, aaO, rdNr. 438 ff. ; Loıc Cadiet/EmmanuelJeuland, Droit judiciaire prive, RdNr. 731 ; Cecile Chainais/Frederique Ferrand/Serge Guinchard, aaO; Jacques Heron/Thierry Le Bars, aaO.

(219) 以下の文献を参照。Jacques Heron/Thierry Le Bars, aaO, RdNr. 378. それによると、裁判所によって判断された訴訟資料の 99%は、判決理由に記述がある。

(220) 以下の文献を参照。Jacques Heron/Thierry Le Bars, aaO.(221) 以下の文献を参照。Cedric Bouty, Repertoire de procedure civile Dalloz,《Chose

Jugee》RdNr. 439 f. ; Claude Brenner,《Les conceptions actuelles de l’autorite dela chose jugee en matiere civile au regard de la jurisprudence》, S. 223 ; Jacques

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法律論叢 91巻 1号

も、判例に混乱がみられ、また不明確であることから、このことが確実性をもって

主張されているわけではない。

B. “積極的”既判力(先例拘束性)は原則として認められない

消極的既判力が、すでに判決の対象であった事項に関する新たな訴訟を禁止する

ものであるのに対して、積極的既判力は(222)、同一当事者間ではあるが別の訴訟

物が問題となっている場合に、最初の訴訟において裁判所がなした確認ないしは

法的包含関係に拘束力を肯定し、その結果、この点について新しい訴訟ではもは

や問題にすることが許されないとすることで(223)、矛盾が回避されるというもの

である(224)。それゆえ、これは、主文において既判力を伴って確定された法的効

果が第二訴訟の請求権の先例としての前提条件となり、裁判所が判決を下すに際

して既判力ある裁判を基礎におかなければならない場合における、先例的拘束力

(Prajudizialitat)ではない(225)。この場合、既判力は、消極的訴訟要件としてで

Heron/Thierry Le Bars, aaO. 同所は、そのテーゼを根拠づけるためにいくつかの破毀院判例を掲げている。Cass. Com. 22.3.1994, Nr.91-15.348, Bulletin Civil de laCour de cassation (Bull. Civ). 1994. IV, Nr. 123 - Cass. Ass. Plen., 3.6.1994, Nr.92-12.157, Bulletin de l’Assemblee Pleniere de la Cour de cassation (Bull. Ass.Plen.) 1994. Nr. 4.

(222) 以下の文献を参照。Thierry Le Bars, “Autorite positive et autorite negative dechose jugee”, Procedures 2007, Etude Nr. 12.

(223) イギリス法上の争点排除効との比較は、以下の文献を参照。Frederique Ferrand, “ResJudicata - From National Law to a Possible European Harmonisation?”, S. 174:“争点排除効は、解決がより一層柔軟である。これは、2つの場合に分けることができる(See N. Andrews, “Res judicata and finality: Estoppel in the context of judicialdecisions and arbitration awards”, p. 59)。すなわち、1)法が遡及的に変更され(aretrospective change)、そのため争点排除効によってカバーされた点が明白に誤りとなった場合である(Arnold v. National Westminster Bank plc [1991] 2 AC 93, 112,HL)。あるいは、2)新たな証拠を提出することができ、そのことによって事件の状況が完全に変化した場合である。後者の場合、合理的な注意義務(reasonable diligence)を尽くしたにもかかわらず、第一訴訟の時点でこの証拠を発見することができなかったことについて、原告に説明が求められる。

(224) 以下の文献を参照。Pierre Mayer,《Reflexions sur l’autorite negative de chosejugee》, in : Melanges Jacques Heron, S. 335 :《des lors qu’il ne s’agit pas derecommencer un proces, les considerations d’economie procedurale ne sont pas enjeu, et la seule preoccupation pertinente est d’eviter une contradiction avec ce quia deja ete juge ; l’accent est donc necessairement mis sur le contenu du jugement》

(225) ドイツ法については、以下の文献を参照。Peter Gottwald, Zivilprozessrecht, § 151,

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

はなく、一事不再理(ne bis in idem)によって同じように作用する(226)。

とくに問題となるのは、第一訴訟の判決理由において事実と包摂を含むケースで

ある。つぎの具体例が、積極的既判力の機能をより分かりやすく説明するであろ

う。すなわち、第一訴訟において、契約上の損害賠償請求訴訟(継続的債務契約)

が認容された。その判決を下すために、裁判官は、損害賠償の額を制限するかもし

れない契約条項の有効性を判断しなければならない。被告の防御方法の提出に応

答するために、裁判官は、判決理由において、なぜこの条項が有効であったのかを

説明した。数年後、同一当事者が、再び同一契約当事者に対して訴えを提起した

が、その理由は新たな契約違反であった。したがって、請求の根拠および対象は、

第一訴訟と同一ではない。第二訴訟を判断しなければならない裁判所は、第一訴訟

の判決理由において確定された契約条項の有効性に拘束されるのであろうか。こ

のことは、フランス学説によれば、積極的既判力に根拠を与えるものである。

フランス民事訴訟法典は、積極的既判力に関する規定を有していない。基本的

に、フランスの判例および学説は、積極的既判力に対しては懐疑的である(227)。そ

して、破毀院はつぎのように判断した。つまり、労働災害後に被害者に生じた損害

が、事故ではなく、その者のそれまでの膝の調子が原因であるとする判決理由は、

積極的既判力を有さず、したがって、同一人の人的損害に関して判断しなければな

らない第二裁判所を拘束しない、と(228)。また、問題となっている住居が夫婦の

別荘ではないとした最初の裁判所の判決理由は、夫婦財産の清算を判断しなければ

RdNr. 15 und BGH, NJW 2003, S. 3058 [3059]:「なぜならば、裁判官は、既判力を伴って判断された先決問題を同じ内容で判断しているわけではなく、前訴判決の存在および効果を判断しなければならないからである、」と。しかし、フランスの学説はそれほど明確ではなく、判決理由における事実認定および包摂の先決性(Prajudizialitat)と、主文から生じる先決性との明確な区別をおこなっておらず、一部からは“積極的”既判力という問題がとくに前訴判決の理由に生じると述べられている。以下の文献を参照。 Jacques Heron/Thierry Le Bars, aaO, RdNr. 368 f.

(226) Peter Gottwald, aaO.(227) J. Heron, ,,Localisation de l’autorite de la chose jugee ou rejet de l’autorite

positive de chose jugee?“, in : Melanges Roger Perrot, Paris, Dalloz 1995, S. 137ff. 積極的既判力を一定の限度で承認することについては、以下の文献を参照。CecileChainais/Frederique Ferrand/Serge Guinchard, Procedure civile, Droit interne eteuropeen du proces civil, RdNr. 1152.

(228) Cass. Civ. II, 22.1.2004, Nr. 02-16.377, Bulletin Civil de la Cour de cassation(Bull. Civ.) 2004. II, Nr. 15.

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法律論叢 91巻 1号

ならない第二裁判所を拘束しない(229)。同様に、第一訴訟において、判決主文で

はなく判決理由においてのみ、離婚によって生ずる夫婦間の経済的不均衡を認定し

た場合に、この認定は、富を得た一方の夫婦に相手方へ調整金の支払いを命ずる法

律上の要件が存在することを判断しなければならない、第二訴訟の裁判所を拘束す

るものではない(230)。

もっとも、判例は明確性を欠いている。というのも、“黙示的判断 implizit

Entschiedenen”(231)という方法によって、特定の理由に積極的既判力を与えてい

るからである(232)。したがって、フランス判例の正確な現状を記述するのは難し

く、また破毀院の各部で相違がみられることから一層困難である。しかし、多く

の判例、とくに最近の判例が(233)、積極的既判力に反対していることは確かであ

る(234)。わずかに、つぎのような場合に例外が認められる。それは、とくに、刑

事事件の既判力が民事手続に及ぶ場合(235)、そして最近では競争法違反の場合に

(229) Cass. Civ. I, 22.11.2005, Nr. 02-20.122, Bulletin Civil de la Cour de cassation(Bull. Civ.) 2005. II, Nr. 425.

(230) Cass. Civ. I, 13.12.2005, Nr. 04-16.502, Bulletin Civil de la Cour de cassation(Bull. Civ.) 2005. I, Nr. 490.

(231) 参照、後掲 III.A.5.(232) たとえば、以下の判例を参照。Cass. Civ. I, 28.3.1995, Nr. 92-20.236, Bulletin Civil

de la Cour de cassation (Bull. Civ.) 1995. I, Nr. 139 (しかし、別の見解として以下の判例を参照。Cass. Civ. I, 18.1.2000, Nr. 97-19.674, Bulletin Civil de la Cour decassation (Bull. Civ.) 2000. I, Nr. 11) - Cass. Civ. II, 15.9.2005, Nr. 03-20.213 (第一訴訟の判決は資金の出処について黙示的に判断した、とした).

(233) Cass. Civ. II, 22.5.2014, Nr. 13-17.821 und 13-19.500 (控訴裁判所による民事訴訟法 480条違反を認めた。この控訴裁判所は、契約の付随条項が保険契約に関するものであるとした従前の判決理由に既判力を認めたが、破毀院は、たとえ理由が主文を導き出すのに不可欠なものであったとしても、既判力を有することはできないとした) - Cass.Civ. I, 16.4.2015, Nr. 14-13.280. しかし、以下の判例も参照。Cass. Com. 5.2.2013,Nr. 12-12.808 und 12-14.571: 第一裁判所は、会社と経営者の財産が混同していることはないとの理由で、EARL会社とX氏に対する 2つの異なる倒産手続を開始した。第二手続において、第二裁判所は、第一訴訟の判決(当該組合は当事者ではなかった)では、主文を明らかにする理由において財産の混同が否定されたとして、組合による相殺の申立てを認めなかった。

(234) Cecile Chainais/Frederique Ferrand/Serge Guinchard, Procedure civile, Droitinterne et europeen du proces civil, RdNr. 1151.

(235) Cass. Com. 9.10.2001, Nr. 00-17.007, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull.Civ.) 2001. IV, Nr. 161. 同所は、明確につぎのように述べる。すなわち、刑事判決の既判力は、無罪を言渡した判決主文に必要不可欠な理由に及ぶ、と。- Cass. Civ. II,5.6.2008, Nr. 07-13.256, Procedures 2008, comm. 226 mit Anm. Perrot.

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

おける消費者団体による集団訴訟についてである。消費者法典 623条、624条に

よると、企業の責任は、国内を管轄する競争法に関する官署または裁判所、もしく

はEUの官署または裁判所による企業に対して下された判断のみに基づいて、集団

訴訟が係属した裁判所(同法 623の 1条以下)によって下される。その際に、こ

の判断は、競争法違反を確定し、違反を認定した部分については上訴を提起するこ

とは許されない(236)。

たしかに積極的既判力は、矛盾判決の回避に貢献し、当事者の訴訟上の誠実性を

促し、また第二訴訟の裁判所の労力負担を軽減する(237)。もっとも、積極的既判

力は重大な危険を伴う(238)。なぜならば、たとえば、当事者の一方が、判決主文

に満足し上訴を提起することを考えなかった場合、後になって判決理由の積極的既

判力が障害となることがあるからである(239)。たしかに、非常にわずかであるが

判例によって明確に作り出された、思慮深い例外的事案は、判決理由の積極的既判

力を承認している(240)。もっとも、その場合には、両当事者が争点を争うことが

できる状況にあったことが必要である。しかし現在、裁判所への効率的なアクセス

(236) この間廃止された消費者法 423の 17条は、国内裁判所、ヨーロッパ官庁またはヨーロッパ裁判所が競争法違反を認定した場合には、集団訴訟が係属している裁判所によって証明されたものとみなされなければならないと定めていた。

(237) 以下の文献を参照。Cecile Chainais/Frederique Ferrand/Serge Guinchard,Procedure civile, Droit interne et europeen du proces civil, RdNr. 1152.

(238) 以下の文献を参照。Jacques Heron/Thierry Le Bars, Droit judiciaire prive, RdNr.369.

(239) この点については、以下の文献を参照。Jacques Heron/Thierry Le Bars, aaO. 同所では、正当にも、上訴は取り消された判決の主文に向けられるものであり、理由に向けられるものではないと強調する。

(240) Jacques Heron/Thierry Le Bars (aaO) は、労働契約や賃貸借契約のような継続的債権債務関係を伴う契約の紛争に際して、同一問題が第二訴訟で異なって判断されることが明らかに不可解であるような場合に、積極的既判力を認めることを提案している。この見解に従うべきである。たとえば以下の判例も参照。Cass. Civ. I, 4.1.1995, Nr.93-10.870, Bulletin Civil de la Cour de cassation (Bull. Civ.) 1995. I, Nr. 7: 婚外子の母親が、第一訴訟で推定上の父親に対して子の養育費(action a fins de subsides:その訴訟では、父親であることが肯定的に証明されるのではなく、母親が法定期間中に被告と性的関係にあったという事実のみが証明されなければならない)の支払いを求める訴えを提起した。訴えは認容された。子が成年に達したとき、その子が、同一の男性に対して婚姻関係にない父であることの確認を求める訴えを提起した。第二訴訟で控訴裁判所は、母と被告との性的関係の存在は、第一訴訟で下された判決を通じて既判力をもって確定され、そしてもはや争うことが許されないとした。破毀院はこれに同意した。

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法律論叢 91巻 1号

が確保されるためにも、早急に必要とされているにもかかわらず、判例の立場が明

確になったとは、残念ながら言えない。

Ⅳ 結語

フランスの既判力論は、専門用語上の法的不安定性、そして不必要に複雑であ

り、また判例によって形作られた解決および概念の輪郭が不明確であることによっ

て特徴づけられる。

フランス法の理解が困難である第 1の特色は、次第に既判力が強化されているこ

とであり、この既判力は原則として第一訴訟判決の言渡しによってただちに生じ、

通常の上訴が消滅することで強化され、最後に特別の上訴の消滅によって、ドイツ

法の形式的確定力と比較可能なものとなる。

第 2の困難な点は、民法典起草者の負の遺産に関係する。これは、既判力を民事

訴訟法典ではなく、民法典に規定し、その際に、民事訴訟法がカバーしない民法上

の専門用語を用いたことである。本稿で明らかにしようと試みた三つの局面から

の同一性は、理論的にも実務的にも問題のあることが明らかになった。2006年の

破毀院大法廷による非常に重要な意義を有する基本判例の変更によって、判例は、

法に反して民法 1355条の同一性に関する 3つの要件のうちの一つを廃止した。そ

の際に、根拠として既判力の概念が用いられたが、これは既判力ではなく排除効

(攻撃防御方法集中原則)がであった。新しいCesareo判決による解決の輪郭を、

破毀院の複数の部が異なって解釈していたので(241)、権利追求者は、新訴提起が

適法か否かについて不明確性に晒されることとなった。

第 3の問題点は、実務上法的不安定性が増大することとなったが(242)、判決主

(241) 以下の文献を参照。Yves-Marie Serinet, Jurisclasseur Periodique edition Generale(JCP G) 2015. 788: 問題であるのは、判例による、いわば即興的になされた命令の及ぶ範囲である。なぜなら、破毀院の複数の部が、その命令の持つ強さを異なって解釈していたからである。

(242) 以下の文献を参照。Philippe Blondel, ,,La charge de la concentration et le respectd’un principe de completude“, Jurisclasseur Periodique edition Generale (JCP G)2012. Doct. 404, RdNr.6. それによると、すでに 1968年には予測可能性がないと説かれていた。

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フランス既判力論の不明確さと矛盾(フェラン/訳・芳賀)

文を必然的に根拠づける判決理由に原則として消極的既判力を認めなかったこと

である。この極端な姿勢は、例外を認めずには貫徹することができない。そのた

め、判決は、“主文の意味および範囲”を明らかにするために、判決理由を用いざ

るを得なかった。このことは、とくに、訴えを退ける判決について、およそ欠くこ

とができない。

判例が学説の助けを借りて、[既判力の概念を]より明確にし、また当事者や代

理人の責任や義務の負担から解放させる努力が望まれる。当事者の一方がこの訴

訟上の義務に違反した場合には、立法者が裁判官(とりわけ準備裁判官)に幾多の

厳格な制裁を認めることを通じて、立法者が裁判官を助けることも望ましいであろ

う。[フランスの]判例および法律は、裁判所の負担よりも正義の実現を重視する

というところまでは到達していないとの理解が得られたのではないだろうか。

【訳者あとがき】

本稿は、2017年 10月 30日(火)に明治大学駿河台校舎において行われた、リヨン第三

大学法学部フレデリック・フェラン教授(Professorin Dr. Frederique FERRAND)

の講演原稿“Unscharfe Konturen und Widerspruche in der franzosischen

Rechtskraftlehre”の翻訳である。タイトルが示すように、講演はドイツ語で行

われた。その理由は、訳者がかねてから、フランス民事訴訟法をドイツ民事訴訟

法の観点から表現した場合にどのような記述になるのか興味があったことによる。

フェラン教授は、ドイツのアウグスブルク大学教授も務めておりドイツ語も非常に

堪能であることから、原稿の執筆および同日の質疑応答をドイツ語で行うことをお

願いし、ご快諾いただいた。本稿では、折に触れてドイツ民事訴訟法との対比がな

されており、訳者による依頼の意図も汲み取っていただいている。なお、訳者が交

流のある幾人かのドイツの民事訴訟法研究者に聞いた範囲では、現在、フランスの

民事訴訟法研究者で詳細にドイツ語による講演を行うことができるのはフェラン

教授くらいではないかとのことであった。

翻訳を行うに際しては、原文を尊重しつつも日本語の語感にそぐわない場合には、

フェラン教授の了承のもとで日本語の表現を優先させることにしている。また、専

門用語についてはドイツ語の表現を優先させたが、講演原稿においてフランス語の

テクニカルタームを併記している箇所はそのままフランス語の表現を残している。

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法律論叢 91巻 1号

ドイツ語によるフランス民事訴訟法の解説という方法を採ったため、フランス民事

訴訟法における我が国でのフランス語の定訳と一致しない箇所があると考えられ

ることから、フランス語の原語を残しておいた方が読者の方々の理解に資すると考

えたからである。注表記は、講演原稿を尊重した。なお、本翻訳を作成するに際し

ては、北浜法律事務所・生田美弥子弁護士(日本国、フランス共和国、ニューヨー

ク州)に助言をいただいた。もちろん、本翻訳の責任はすべて訳者自身にある。

本講演を行うに際しては、石川明教授記念手続法研究所(理事長・三上威彦慶應

義塾大学名誉教授)による援助をいただき、また、当日の講演準備に関しては川地

宏行明治大学法学部教授にお世話になった。ここに感謝申し上げる次第である。

訳者が明治大学法学部に在職中には、折に触れて村山眞維教授からいろいろとア

ドバイスをいただいた。そのことに対しては、今もって感謝の念に堪えない。本

来、村山先生の古稀記念号には論文を献呈すべきであるが、明治大学の前身である

明治法律学校の創立者の一人である宮城浩蔵がリヨンに留学をしていたこともあ

り、フェラン教授の許しを得て法律論叢に本講演原稿を掲載することで、明治大学

とリヨンとの関係を再確認する機会を得たいと考えた。村山先生のご海容を賜る

ことができれば幸いである。

(慶應義塾大学法科大学院教授)

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