ニトロアレーンを用いたクロスカップリング反応alternative coupling agent for the...

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25 ニトロアレーンを用いたクロスカップリング反応 中  尾  佳  亮 *1 Cross-Coupling Reactions Using Nitroarenes Yoshiaki NAKAO We successfully developed a palladium-catalyzed cross-coupling reaction using nitroarenes as electrophiles. We have indentified that a BrettPhos ligand is optimal for the Suzuki-Miyaura coupling reaction and the Buchwald- Hartwig amination reaction of nitroarenes. These studies show the potential for nitroarenes to be used as an alternative coupling agent for the conventionally used aryl halides. 1.はじめに パラジウム触媒によるクロスカップリング反応は、 医薬、農薬、有機材料の工業合成に欠かせない有機合 成反応である。特に、C − C 結合形成においては、有 機ホウ素反応剤を求核剤として用いる鈴木−宮浦カッ プリング反応 1) がビアリール合成に多用され、アミン を求核剤として用いる Buchwald Hartwig アミノ化反 2) は、C − N 結合形成法として極めて重要である。 これらのクロスカップリング反応において、求電子剤 としてハロゲン化アリール 3),4) を用いることが一般 的であるが、ハロゲン残渣の混入が問題になることが あるため、ハロゲン化アリールの代替求電子剤が近年 活発に研究されている 5) 。例えばパラジウム触媒によ る鈴木−宮浦カップリング反応において、アレーンス ルホナート 6) 、アレーンジアゾニウム塩 7) 、アリール チオエーテル 8) 、塩化アレーンスルホニル 9) を求電子 剤として用いる例が報告され、さらにニッケル触媒を 用いると、アリールアンモニウム塩 10) 、アリールエー テル 11) 、アリールエステル 12) 、アレーンカルボン酸 エステル 13) をハロゲン化アリール代替反応剤として 反応させることができる。しかしながらこれらの多く は、母体アレーンから複数の工程を経て合成されてお * 1 京都大学大学院工学研究科 り、原料からクロスカップリング体を得るためのトー タルの合成プロセスは必ずしも効率的ではない。 一方、母体アレーンのニトロ化によって一段階で得 られるニトロアレーンは、多置換ベンゼンの工業的製 造における出発原料としても位置付けられており、多 種多様な誘導体が市販品として入手可能である。した がって、ニトロアレーンをハロゲン化アリールの代替 求電子剤としてクロスカップリング反応に利用できれ ば、多置換ベンゼン製造プロセスの効率化に寄与する ものと考えられる(Fig. 1)。このような動機から、我々 はニトロアレーンを求電子剤として用いるクロスカッ プリング反応の開発に取り組んだ。BrettPhos 14) を配 位子とするパラジウム触媒を用いることによって、ニ トロアレーンの鈴木−宮浦カップリング反応 15) 、なら びに Buchwald Hartwig アミノ化反応 16) の開発に成 功したので紹介する。 2.ニトロアレーンの鈴木−宮浦カップリング反応 [1]反応条件の最適化 ニトロアレーンの鈴木−宮浦カップリングに最適な 反応条件を検討した(Table 1)。4 ニトロアニソー ル(0.30 mmol)とフェニルボロン酸(0.45 mmol)を、 Pd(acac) 2 (5 mol%)、18 クラウン6(10 mol%)、

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Page 1: ニトロアレーンを用いたクロスカップリング反応alternative coupling agent for the conventionally used aryl halides. 1.はじめに パラジウム触媒によるクロスカップリング反応は、

25

ニトロアレーンを用いたクロスカップリング反応

中  尾  佳  亮* 1

Cross-Coupling Reactions Using Nitroarenes

Yoshiaki NAKAO

 We successfully developed a palladium-catalyzed cross-coupling reaction using nitroarenes as electrophiles. We

have indentified that a BrettPhos ligand is optimal for the Suzuki-Miyaura coupling reaction and the Buchwald-

Hartwig amination reaction of nitroarenes. These studies show the potential for nitroarenes to be used as an

alternative coupling agent for the conventionally used aryl halides.

1.はじめに

 パラジウム触媒によるクロスカップリング反応は、

医薬、農薬、有機材料の工業合成に欠かせない有機合

成反応である。特に、C − C 結合形成においては、有

機ホウ素反応剤を求核剤として用いる鈴木−宮浦カッ

プリング反応 1)がビアリール合成に多用され、アミン

を求核剤として用いる Buchwald − Hartwig アミノ化反

応 2)は、C − N 結合形成法として極めて重要である。

これらのクロスカップリング反応において、求電子剤

としてハロゲン化アリール 3),4)を用いることが一般

的であるが、ハロゲン残渣の混入が問題になることが

あるため、ハロゲン化アリールの代替求電子剤が近年

活発に研究されている 5)。例えばパラジウム触媒によ

る鈴木−宮浦カップリング反応において、アレーンス

ルホナート 6)、アレーンジアゾニウム塩 7)、アリール

チオエーテル 8)、塩化アレーンスルホニル 9)を求電子

剤として用いる例が報告され、さらにニッケル触媒を

用いると、アリールアンモニウム塩 10)、アリールエー

テル 11)、アリールエステル 12)、アレーンカルボン酸

エステル 13)をハロゲン化アリール代替反応剤として

反応させることができる。しかしながらこれらの多く

は、母体アレーンから複数の工程を経て合成されてお* 1 京都大学大学院工学研究科

り、原料からクロスカップリング体を得るためのトー

タルの合成プロセスは必ずしも効率的ではない。

 一方、母体アレーンのニトロ化によって一段階で得

られるニトロアレーンは、多置換ベンゼンの工業的製

造における出発原料としても位置付けられており、多

種多様な誘導体が市販品として入手可能である。した

がって、ニトロアレーンをハロゲン化アリールの代替

求電子剤としてクロスカップリング反応に利用できれ

ば、多置換ベンゼン製造プロセスの効率化に寄与する

ものと考えられる(Fig. 1)。このような動機から、我々

はニトロアレーンを求電子剤として用いるクロスカッ

プリング反応の開発に取り組んだ。BrettPhos14)を配

位子とするパラジウム触媒を用いることによって、ニ

トロアレーンの鈴木−宮浦カップリング反応 15)、なら

びに Buchwald − Hartwig アミノ化反応 16)の開発に成

功したので紹介する。

2.ニトロアレーンの鈴木−宮浦カップリング反応

[1]反応条件の最適化

 ニトロアレーンの鈴木−宮浦カップリングに最適な

反応条件を検討した(Table 1)。4 −ニトロアニソー

ル(0.30 mmol)とフェニルボロン酸(0.45 mmol)を、

Pd(acac)2(5 mol%)、18 −クラウン− 6(10 mol%)、

Page 2: ニトロアレーンを用いたクロスカップリング反応alternative coupling agent for the conventionally used aryl halides. 1.はじめに パラジウム触媒によるクロスカップリング反応は、

26 TOSOH Research & Technology Review Vol.61(2017)

リン酸カリウム n 水和物(0.90 mmol)、1,4 −ジオキサ

ン溶媒中 130 ℃で 24 時間反応させ、まず配位子(20

mol%)を検討した。Buchwald の開発したビアリー

ル(ジシクロヘキシル)ホスフィン 17)を用いると 4 −

メトキシビフェニルが生成した。特に、BrettPhos を

用いた場合にクロスカップリング反応が収率よく進行

した。一方、ハロゲン化アリールの鈴木−宮浦カップ

リングにおいて、塩化アリールなど反応性の低い求

電子剤に対して有効であることが知られている PCy3、

PtBu3、N −へテロ環状カルベン配位子を用いると、反

応はほとんど進行しなかった。また、リン上のシクロ

ヘキシルを tert −ブチル基に代えた tBuBrettPhos でも

反応は全く進行しなかった。同配位子は、ハロゲン化

アリールのニトロ化において最適配位子として報告さ

今回の鈴木-宮浦カップリング反応

従来の鈴木-宮浦カップリング反応

R1NO2

R2

Z

(HO)2B

R1

R2

Z

有機ボロン酸

Pd触媒

芳香族ニトロ化合物 ビアリール化合物R1, R2 =位置および種類が任意の置換基

Z=CHまたはN

医療、農薬、液晶、有機 EL

R1NO2

Z

H2

還元

HONO

ジアゾ化R1

NH2

ZR1

N2+

Z

CuX

ハロゲン化X=ハロゲン

医療、農薬、液晶、有機 ELR1

X

Z

R2

(HO)2B

R1

R2

Z

有機ボロン酸

Pd触媒

芳香族ハロゲン化物

Fig.1 鈴木-宮浦カップリングによるビアリール合成プロセスの比較:ニトロアレーン vs ハロゲン化アリール

MeO

NO2(0.30 mmol)

(HO)2B

(0.45 mmol)

R1

R1

R2

R3

R2

Cy2P

Pd(acac)2(5.0 mol%)Ligand (20 mol%)18-crown-6 (10 mol%)

Base (0.90 mol%)1,4-dioxane, 130℃, 24h

R1 R2 R3

OMeHHHH

iPriPrNMe2OMeOiPr

iPriPrHHH

BrettPhosXPhosCPhosSPhosRuPhos

MeO

N N

lPr

Entry123456789101112a

LigandBrettPhosXPhosCPhosSPhosRuPhosPCy3PtBu3IPrBrettPhosBrettPhosBrettPhosBrettPhos

BaseK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK2CO3CsCO3CsFK3PO4・nH2O

NMR yield(%)86569815<5<5<5<5497869

a Reaction run without 18-crown-6.

Table1 4-ニトロアニソールとフェニルボロン酸との鈴木-宮浦カップリング反応における配位子と塩基の効果

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27東ソー研究・技術報告 第 61 巻(2017)

れている 18)。この反応は、後に述べるニトロアレーン

の酸化的付加の逆反応を含むものであり、同じ配位子

骨格でもリン上の置換基によって反応の正逆が変わる

点において興味深い。塩基としては、炭酸セシウムや

フッ化セシウムも有効であったが、炭酸カリウムでは

反応はほとんど進行しなかった。クラウンエーテルを

添加しないと、若干の収率低下が見られた。

[2]基質適用範囲

 最適反応条件におけるニトロアレーンおよびアリー

ルボロン酸の基質適用範囲を Table 2 に示す。良好な

官能基許容性を示すことがわかったが、ニトロベンゼ

ンのパラ位に電子求引性基を有する基質の反応は収率

が低く、特にカルボニルが置換したものでは目的物が

ほとんど得られなかった。アルデヒドやケトンに関し

ては対応するアセタールを用いることによって、4 位

(HO)2BNO2 Ar2Ar1 Ar2Ar1

(0.90 mmol)(0.60 mmol)

Pd(acac)2(5.0 mol%)BrettPhos (20 mol%)18-crown-6 (10 mol%)

Base (1.8 mmol%)1,4-dioxane, 130℃

Entry123456a7a8b9b101112131415161718c1920212223b24252627d28d293031323334353637383940414243e

Ar2

PhPh4-MeO-C6H4Ph4-MeO-C6H4PhPh4-MeO-C6H4(1.2 mmol)4-MeO-C6H4Ph4-MeO-C6H4(1.2 mmol)4-MeO-C6H4Ph(1.2 mmol)PhPh(1.2 mmol)Ph4-MeO-C6H44-MeO-C6H4(1.2 mmol)PhPhPh(1.2 mmol)4-MeO-C6H4PhPhPhPhPhPh4-Me2N-C6H44-Me-C6H44-tBu-C6H44-Ph-C6H44-Me(O)C-C6H4(1.2 mmol)4-MeO2C-C6H44-F3C-C6H44-F3C-C6H44-F-C6H43-MeO-C6H42-Me-C6H42.6-Me2-C6H4naphthalen-2-ylthiophen-2-yl(1.2 mmol)thiophen-2-yl

Ar1

4-MeO-C6H44-(N-morpholino)-C6H44-Me-C6H44-Ph-C6H4Ph

4-F3C-C6H44-F-C6H43-MeO-C6H43,5-Me2-C6H43-Ph-C6H43-MeO2C-C6H43-MeO2S-C6H43-O2N-C6H42-MeO-C6H42-Me-C6H42-Ph-C6H42-O2N-C6H4naphthalen-l-yl5-O2N-naphthalen-l-yl5-Ph-naphthalen-l-ylanthracen-9-ylnaphthalen-2-ylpyridin-3-yl2-MeO-pyridin-3-ylquinolin-5-ylisoquinolin-5-yl3-MeO2S-C6H44-MeO-C6H44-MeO-C6H4Ph2-MeO-C6H42-MeO-C6H42-MeO-C6H43-MeO2C-C6H44-MeO-C6H4Ph2-MeO-C6H4naphthalen-l-yl2-MeO-C6H43-MeO2S-C6H42-MeO-pyridin-3-yl

4-H(O)C-C6H44-Me(O)C-C6H4

BaseK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OCsFCsF(3.0 mmol)K3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OCsFCsFK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OCsFK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OCsFK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OK3PO4・nH2OCsFK3PO4・nH2OCsFK3PO4・nH2O

Time (h)24242416121414141518241412125122436312318241212122414162412141616141424121420181616

Yield(%)76637871727072544674717469656584683464826169448179807170817980665766656373726736814154

a Isolated yields after hydrolysis of the acetals. b Reaction run in toluene. c Reaction run with RuPhos instead of BrettPhos. d Reaction run without 18-crown-6. e Reaction run with 10 mol% Pd(acac)2.

Table2 ニトロアレーンの鈴木-宮浦カップリング反応:基質適用範囲

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28 TOSOH Research & Technology Review Vol.61(2017)

にカルボニルを有するビフェニルを得ることが可能で

ある。4 −フルオロニトロベンゼンの反応は、中程度の

収率ながらニトロ基選択的にクロスカップリング反応

が進行したが、他のハロゲンを有するニトロアレーン

においては、ハロゲンが優先的に反応した。フェニル

ボロン酸の誘導体については、パラ位のカルボニル置

換基を含め、様々な官能基が共存可能であった。複素

環を有するニトロアレーン、アリールボロン酸のいく

つかも対応するビアリールを与えた。

[3]反応機構

 本反応は、ニトロアレーンのパラジウム(0)への

η 2 −配位、Ar − NO2 結合の酸化的付加、トランスメタ

ル化、還元的脱離を経て進行するものと考えている

(Fig. 2)。各素反応は、量論反応によって確かめるこ

とができた(Fig. 3 および Fig. 4)。η 2 −配位について

は、ニトロベンゼン由来の錯体が不安定で単離できな

かったため、1 −ニトロナフタレンを用いた。最も高温

を必要とする酸化的付加が律速段階であると考えてい

PdSiMe3

SiMe3

BrettPhos(1.0 equiv)

(Me3SiCH2)2cod

THF, 60℃, 48h

(1.0 equiv)NO2

toluene, 25℃, 20h

(3.0 equiv)NO2

MeO Cy2P PdiPr

iPriPr

NO2

MeO

MeO Cy2P PdiPr

iPriPr

NO2

MeO

28%

83%

Fig.3 量論反応による素反応の検証:ニトロアレーンのパラジウム(0)への酸化的付加およびη2-配位

MeO Cy2P PdiPr

iPr

NO2

MeO

iPr

Ph

(26 μmol)

(51μmol)

(HO)2B

OMe

K3PO4・nH2O(103μmol)

THF-d8, 25℃, 24h OMe

Ph

51% (GC yield)

Fig.4 量論反応による素反応の検証:トランスメタル化および還元的脱離によるビアリールの生成

MeO Cy2P PdiPr

iPriPr

NO2

MeO

MeO Cy2P PdiPr

iPriPr

NO2

MeO

MeO Cy2P PdiPr

iPriPr

NO2

MeO

(HO)2BK3PO4(or CsF)

(HO)2BPO4/KNO2[or (HO)2BF/CsNO2]

Fig.2 ニトロアレーンの鈴木-宮浦カップリング:想定触媒サイクル

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29東ソー研究・技術報告 第 61 巻(2017)

る。触媒反応を 31P NMR で観測すると、η 2 −配位錯

体が resting state であること、反応次数は両基質に対

してほぼ 0 次で、パラジウム触媒に対して 1 次である

こともこれを支持している。また、DFT 法による理

論化学計算の結果も、酸化的付加を律速段階とする触

媒サイクルをサポートしている(Fig. 5)。

[4]ニトロアレーンの鈴木−宮浦カップリングを利用

した多置換ベンゼンの合成

 ニトロアレーンは、ニトロ基の強い電子求引性がも

たらす芳香環のユニークな反応性によって、様々に修

飾することができる。これらの反応と本クロスカップ

リング反応を組み合わせることによって、多置換ベン

MeO

MeO

Cy2P Pd

iPr

iPriPr

0.0 O2N

OMe

NO2

OMe

MeO

MeO

Cy2P Pd

iPr

iPriPr

MeO

MeO

Cy2P Pd

iPr

iPriPr MeO

MeO

Cy2P Pd

iPr

iPriPr

MeO

MeO

Cy2P Pd

iPr

iPriPr

MeO

MeO

Cy2P Pd

iPr

iPriPr

MeO

MeO

Cy2P Pd

iPr

iPriPr MeO

MeO

Cy2P Pd

iPr

iPriPr

MeO

MeO

Cy2P Pd

iPr

iPriPr

MeO

MeO

Cy2P Pd

iPr

iPr

iPr

MeO

MeO

Cy2P Pd

iPr

iPriPr

MeO

MeO

Cy2P Pd

iPr

iPriPr

MeO

MeO

Cy2P Pd

iPr

iPriPr

MeO

NO2

OMe NO O

OH

OH

Cs

F BMeO

NO O

OH

OH

Cs

F

B

NO2

OMe OMe

OHOH

Cs

FB

N

OO

OH

OH

Cs

F B MeO

OMe

MeO

OMe

OMe

OMe

O2N

NO2-31.9

OMe

O2N

-26.7

-3.9

-33.8 -35.3

-9.7

-31.4

-19.9

-46.7

-53.73

-28.1

-60.0

ligand exchangereductive eliminationtransmetalationoxidative additionπ-coordination

Gdioxane (kcal mol

-1)

Fig.5 DFT計算による反応機構

F

NO2

carbazole, CsF

DMSO, 110℃

phenol, K2CO3

DMF, 40℃

phenol, K2CO3

DMF, 100℃

N

NO282%

PhO

NO290%

(HO)2B-Ph

cat. Pd

(HO)2B-Ph

cat. Pd

(HO)2B-Ph

cat. Pd

(HO)2B-Ph

cat. Pd

(HO)2B-Ph

cat. Pd

N

Ph59%

PhO

Ph67%

62%

71%

F

NO2

88%

53% 52%

NO2

NO2

NO2

OPh OPh

Ph

Ph

Ph

NO2

H H

Me Me

OMe

OMe OMe

O

O O

O

O

O

EtO

EtO EtO

Brcat. Pd

ref. 19

ref. 20

Cl

Me

Fig.6 ニトロアレーン修飾反応と鈴木-宮浦カップリングによる多置換ベンゼンの高効率合成

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30 TOSOH Research & Technology Review Vol.61(2017)

ゼンの合成を効率的に行える(Fig. 6)。例えば、4 −

ニトロフルオロベンゼンに様々な求核剤を作用させる

と、芳香族求核置換反応が進行する。また、ニトロベ

ンゼンのパラ位 19)およびオルト位 20)は、求電子剤と

の反応によって直接官能基化できる。これらの反応の

後に本クロスカップリング反応を行うことによって、

様々な多置換ベンゼンを効率よく合成することが可能

である。

3.ニトロアレーンのBuchwald − Hartwig アミノ化

反応

 パラジウム− BrettPhos 触媒は、ニトロアレーンの

Buchwald − Hartwig アミノ化にも有効である。いろい

ろなニトロアレーンとジフェニルアミンとの反応に

よるトリアリールアミンの合成例を Table 3 に示す。

塩基としては、リン酸カリウムが良好で、Buchwald

− Hartwig アミノ化反応でよく用いられる NaOtBu や

KOtBu などの強塩基は、ニトロ基と共存できないため

か、アミノ化体をほとんど生じなかった。他のアミン

と 4 −ニトロアニソールとの反応も DMF あるいは 1,4

−ジオキサン溶媒中で良好に進行した。

4.ま と め

 ニトロアレーンを求電子剤として用いる鈴木−宮浦

カップリングおよび Buchwald − Hartwig アミノ化反応

について述べた。両反応において、BrettPhos をはじ

めとするビアリール(ジシクロヘキシル)ホスフィン

を配位子とするパラジウム触媒が有効であることを見

出した。鈴木−宮浦カップリング反応においては、反

応機構の詳細について精査し、これまでに前例のない

Ar − NO2 結合のパラジウム(0)への酸化的付加を経由

する触媒サイクルを提案した。化学工業的に川上原料

に位置付けられ、ファインケミカル用途でも多種多様

な製品が入手容易なニトロアレーンは、一連のクロス

カップリング反応におけるハロゲン化アリールの代替

求電子剤として有望である。

5.謝  辞 

 本研究を進めるにあたり,東ソー株式会社にご協力

いただきました。江口久雄氏,宮崎高則氏をはじめ,

関係各位に感謝申し上げます。

H NNO2R1

R2Ar1 Ar1

(0.90 mmol)(0.60 mmol)

Pd(acac)2(5.0 mol%)BrettPhos (20 mol%)

K3PO4 (1.8 mol%)Solvent, 130℃, 24h

Table3 ニトロアレーンのBuchwald-Hartwig アミン化反応:基質適用範囲

NR1

R2

Entry12a, b, c345678a9a, b10d11b, d, e12131415b16b17b18b19b

HNR1R2

HNPh2HNPh2(1.8 mmol)HNPh2HNPh2(1.8 mmol)HNPh2HNPh2HNPh2HNPh2(1.8 mmol)HNPh2(1.8 mmol)HNPh2HNPh2HN(4-tBu-C6H4)2(1.8 mmol)HN(4-tBu-C6H4)2HNPh2(1.8 mmol)H2NPhHNMePhpiperidineH2NCH2PhH2NHex

Ar4-MeO-C6H44-(N-carbazolyl)-C6H44-Me-C6H44-Ph-C6H4Ph4-F3C-C6H43,5-Me2-C6H33-MeO2C-C6H43-MeO2S-C6H42-MeO-C6H42-Me-C6H4naphthalen-l-ylnaphthalen-2-ylN-Me-indol-5-yl4-MeO-C6H44-MeO-C6H44-MeO-C6H43,5-Me2-C6H44-MeO-C6H4

Solventn-heptane1,4-dioxanen-heptanen-heptanen-heptanen-heptanen-heptanetoluenetoluenen-heptanen-heptanen-heptanen-heptanen-heptaneDMF1,4-dioxane1,4-dioxane1,4-dioxane1,4-dioxane

Yield(%)66577374836277515078647465526441618172

a CPhos was used instead of BrettPhos. b K3PO4・nH2O was used instead of K3PO4. c Reaction run for 72 h. d XPhos was used instead of BrettPhos. e Reaction run for 48 h.

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31東ソー研究・技術報告 第 61 巻(2017)

6.文  献

[ 1 ]N. Miyaura, Cross-Coupling Reactions A Practical

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[ 2 ]D. S. Surry, S. L. Buchwald, Angew. Chem. Int. Ed., 47, 6338 (2008)

[ 3 ]N. Miyaura, T. Yanagi, A. Suzuki, Synth. Commun., 11, 513 (1981)

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6679 (1989)

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Page 8: ニトロアレーンを用いたクロスカップリング反応alternative coupling agent for the conventionally used aryl halides. 1.はじめに パラジウム触媒によるクロスカップリング反応は、