スキルアップセミナー 言語聴覚士のための新しい姿勢・嚥下...

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─ 23 ─ 嚥下においては舌骨・喉頭の動きが重要である.し かし姿勢変化によってその舌骨・喉頭の動きが阻害さ れ,嚥下機能低下を招いていることが多い.そこで, 姿勢の問題を予防・改善し,嚥下反射時の舌骨・喉頭 の動きを改善させることを目的として,「嚥下をよく するポールエクササイズ(Pole Exercise Program for Improved Swallowing:PEPIS)」 が 西 尾(2018) に より考案され,摂食嚥下障害の臨床現場で役立てられ ている.PEPIS を臨床現場で自信を持って実践して 行くためにも,ストレッチポールの基礎を身につけて おくことは必須であろう.まず,安全かつ効果的に指 導を行うために,ツールの選択,安全な乗り方,降り 方,使用時間のポイントを押さえておくことが必要で ある.また,対象者を脱力しやすい基本姿勢や種目ご との快適なポジションへと誘導してあげられることも 重要である.さらに,対象者が体の変化を感じられる 言葉がけや環境設定をすることで,自発的にこの運動 を取り入れようという意識が生まれ,習慣化し,継続 することで姿勢の予防改善効果が得られやすくなる. ストレッチポールを使った基本的な運動として「ベ ーシックセブン」と言われる3つの予備運動と7つの 主運動からなるプログラムが運動療法や運動指導の現 場で広く普及している.ベーシックセブンの効果とし ては,胸郭の可動性の向上,肩関節可動域の向上,股 関節可動域の向上,背筋群の筋緊張低下が報告されて いる.これらの効果が得られる理論背景及び機序とし ては,ストレッチポールが脊柱に与える影響が考えら れる.ストレッチポールの基本姿勢では,自重により スキルアップセミナー 日本コアコンディショニング協会 石塚利光 略歴 一般財団法人日本コアコンディショニング協会リサーチ ディレクター・アスレティックトレーナー,東京大学女子 バレーボール部アスレティックトレーナー,JATO ジャパ ン・アスレティックトレーナーズ・機構理事を兼任.理学 修士. 順天堂大学スポーツ健康科学部スポーツ科学科卒業,アメ リカ・ネブラスカ大学オマハ校 大学院アスレティックト レーニング学科入門レベル文学修士取得,アメリカ・ペン シルベニア州立カルフォルニア大学大学院アスレティック トレーニング学科上級プログラム理学修士取得. 第3回アメリカンフットボールワールドカップ2007 川 崎大会 USA チーム アシスタントアスレティックトレー ナー,順天堂大学女子バスケットボール部コンディショニ ングコーチ,福岡大学スポーツ科学部助教などを経て現職. 言語聴覚士のための新しい姿勢・嚥下改善アプローチ PEPISを理解するためのストレッチポールの基礎の基礎 胸椎は伸展方向へ作用し,胸郭は挙上及び拡張性が担 保される.この状態にて脱力を促す呼吸や運動を実施 することで,胸郭前面の筋群が腕の重さによりゆっく りと伸ばされることで,肩甲帯が適切なポジションへ と導かれることになる.発表にて,ストレッチポール の運動指導の特徴である簡便性,安全性,再現性を理 解していただくことを目的に,ストレッチポールでの 基本姿勢及びベーシックセブンの運動指導の方法を紹 介する. 文 献 西尾正輝:嚥下をよくするポールエクササイズ(Pole Exercise Program for Improved Swallowing:PEPIS).医道の日本, 77(4月号):66-82,2018. 予備運動 2 股関節の運動 予備運動 1 胸の運動 予備運動 3 対角の運動 主運動 1 床みがきの運動 主運動 2 肩甲骨の運動 主運動 3 腕の内外転運動 主運動 4 ワイパー運動 主運動 5 膝ゆるめ運動 主運動 6 小さな揺らぎ運動 主運動 7 呼吸運動

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スキルアップセミナー

嚥下においては舌骨・喉頭の動きが重要である.しかし姿勢変化によってその舌骨・喉頭の動きが阻害され,嚥下機能低下を招いていることが多い.そこで,姿勢の問題を予防・改善し,嚥下反射時の舌骨・喉頭の動きを改善させることを目的として,「嚥下をよくするポールエクササイズ(Pole Exercise Program for Improved Swallowing:PEPIS)」が西尾(2018)により考案され,摂食嚥下障害の臨床現場で役立てられている.PEPIS を臨床現場で自信を持って実践して行くためにも,ストレッチポールの基礎を身につけておくことは必須であろう.まず,安全かつ効果的に指導を行うために,ツールの選択,安全な乗り方,降り方,使用時間のポイントを押さえておくことが必要である.また,対象者を脱力しやすい基本姿勢や種目ごとの快適なポジションへと誘導してあげられることも重要である.さらに,対象者が体の変化を感じられる言葉がけや環境設定をすることで,自発的にこの運動を取り入れようという意識が生まれ,習慣化し,継続することで姿勢の予防改善効果が得られやすくなる.

ストレッチポールを使った基本的な運動として「ベーシックセブン」と言われる3つの予備運動と7つの主運動からなるプログラムが運動療法や運動指導の現場で広く普及している.ベーシックセブンの効果としては,胸郭の可動性の向上,肩関節可動域の向上,股関節可動域の向上,背筋群の筋緊張低下が報告されている.これらの効果が得られる理論背景及び機序としては,ストレッチポールが脊柱に与える影響が考えられる.ストレッチポールの基本姿勢では,自重により

スキルアップセミナー

日本コアコンディショニング協会

石塚利光

■略歴 一般財団法人日本コアコンディショニング協会リサーチディレクター・アスレティックトレーナー,東京大学女子バレーボール部アスレティックトレーナー,JATO ジャパン・アスレティックトレーナーズ・機構理事を兼任.理学修士.順天堂大学スポーツ健康科学部スポーツ科学科卒業,アメリカ・ネブラスカ大学オマハ校 大学院アスレティックトレーニング学科入門レベル文学修士取得,アメリカ・ペンシルベニア州立カルフォルニア大学大学院アスレティックトレーニング学科上級プログラム理学修士取得.第3回アメリカンフットボールワールドカップ 2007 川崎大会 USA チーム アシスタントアスレティックトレーナー,順天堂大学女子バスケットボール部コンディショニングコーチ,福岡大学スポーツ科学部助教などを経て現職.

言語聴覚士のための新しい姿勢・嚥下改善アプローチPEPISを理解するためのストレッチポールの基礎の基礎

胸椎は伸展方向へ作用し,胸郭は挙上及び拡張性が担保される.この状態にて脱力を促す呼吸や運動を実施することで,胸郭前面の筋群が腕の重さによりゆっくりと伸ばされることで,肩甲帯が適切なポジションへと導かれることになる.発表にて,ストレッチポールの運動指導の特徴である簡便性,安全性,再現性を理解していただくことを目的に,ストレッチポールでの基本姿勢及びベーシックセブンの運動指導の方法を紹介する.

文 献西尾正輝:嚥下をよくするポールエクササイズ(Pole Exercise

Program for Improved Swallowing:PEPIS).医道の日本,77(4 月号):66-82,2018.

言語聴覚士のための新しい姿勢・嚥下改善アプローチ

を理解するためのストレッチポールの基礎の基礎

1 )日本コアコンディショニング協会

○石塚利光

嚥下においては舌骨・喉頭の動きが重要である.しかし姿勢変化によってその舌骨・喉

頭の動きが阻害され,嚥下機能低下を招いていることが多い.そこで,姿勢の問題を予防・

改善し,嚥下反射時の舌骨・喉頭の動きを改善させることを目的として,「嚥下をよくする

ポールエクササイズ(Pole Exercise Program for Improved Swallowing:PEPIS)」が西

尾(2018)により考案され,摂食嚥下障害の臨床現場で役立てられている.PEPIS を臨床

現場で自信を持って実践して行くためにも,ストレッチポールの基礎を身につけておくこ

とは必須であろう.まず,安全かつ効果的に指導を行うために,ツールの選択,安全な乗

り方,降り方,使用時間のポイントを押さえておくことが必要である.また,対象者を脱

力しやすい基本姿勢や種目ごとの快適なポジションへと誘導してあげられることも重要で

ある.さらに,対象者が体の変化を感じられる言葉がけや環境設定をすることで,自発的

にこの運動を取り入れようという意識が生まれ,習慣化し,継続することで姿勢の予防改

善効果が得られやすくなる. ストレッチポールを使った基本的な運動として「ベーシックセブン」と言われる3つの

予備運動と7つの主運動からなるプログラムが運動療法や運動指導の現場で広く普及して

いる.ベーシックセブンの効果としては,胸郭の可動性の向上,肩関節可動域の向上,股

関節可動域の向上,背筋群の筋緊張低下が報告されている.これらの効果が得られる理論

背景及び機序としては,ストレッチポールが脊柱に与える影響が考えられる.ストレッチ

ポールの基本姿勢では,自重により胸椎は伸展方向へ作用し,胸郭は挙上及び拡張性が担

保される.この状態にて脱力を促す呼吸や運動を実施することで,胸郭前面の筋群が腕の

重さによりゆっくりと伸ばされることで,肩甲帯が適切なポジションへと導かれることに

なる.発表にて,ストレッチポールの運動指導の特徴である簡便性,安全性,再現性を理

解していただくことを目的に,ストレッチポールでの基本姿勢及びベーシックセブンの運

動指導の方法を紹介する.

予備運動 2 股関節の運動

予備運動 1 胸の運動

予備運動 3 対角の運動

主運動 1 床みがきの運動

主運動 2 肩甲骨の運動

主運動 3 腕の内外転運動

主運動 4 ワイパー運動

主運動 5 膝ゆるめ運動

主運動 6 小さな揺らぎ運動

主運動 7 呼吸運動