アフター・コロナにおけるサービス産業の 生産性についての視点 · 1 day...

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アフター・コロナにおけるサービス産業の 生産性についての視点 2020年7月27日@第1回サービス産業生産性研究会 宮川 (学習院大学) 参考2

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Page 1: アフター・コロナにおけるサービス産業の 生産性についての視点 · 1 day ago · 2.危機後のサービス産業の生産性(4) •接触型産業、非接触型産業に分けて目

アフター・コロナにおけるサービス産業の生産性についての視点

2020年7月27日@第1回サービス産業生産性研究会

宮川 努

(学習院大学)

参考2

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1.サービス産業の生産性指標を考える上でのポイント

(1)コロナ危機は、通常の景気後退とは異なる→サービス産業の今後の動向を考えるのであれば、危機からの回復+成長を考慮する必要がある。

(2)生産性指標を労働生産性指標におくとすれば、

ー労働生産性上昇率=全要素生産性上昇率+資本・労働比率の変化率

・サービス業だけでなく、経済全体で就業者数が増加→資本・労働比率の低下、労働生産性の低下につながっていないか

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2.危機後のサービス産業の生産性(1)• 今回のコロナ危機と性格は異なるが、日本は1997,98年の金融危機、

2008,09年の世界金融危機、2011年の東日本大震災と、通常の経済循環とは異なる要因(金融危機は経済的要因だが、大きなバブルの崩壊は、通常の景気後退とは異なる)による経済の落ち込みを経験している。

• 今後5年程度の目標を設定する場合、①危機後5年間について、危機前と同様の目標を設定するのか、②危機前の水準に戻すことを目標とするのか、③危機前からのトレンドの延長線上を目標とするのか、を明確にしなくてはならない。

• ③についての数値例。危機前の生産性水準を100とする。危機後生産性水準が90に低下したとする。危機前に年率2%の生産性の伸びを考えていたとすると、危機がなかった場合の6年後(危機から5年後)の水準は、112.6.しかしこの水準に危機後から到達するには、年率2.4%の伸びが必要。つまり目標を高めに設定する必要がある。

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2.危機後のサービス産業の生産性(2)

• 世界金融危機をはさんだサービス業(市場経済)の労働生産性の推移を見ると、危機前の水準(2007年)を超えるまで4年を要している。

• 2009年を起点とすると、2013年までの労働生産性上昇率は、1.4%だが、2007年の水準から見ると、年率0.5%しか伸びていない。

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(出所)JIPデータベース2018

労働生産性の推移1(2007年=100)

全産業 サービス業(市場経済)

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2.危機後のサービス産業の生産性(3)

• 特に今回の危機では、接触型(F2F)産業と非接触型産業では、回復状況が異なると予想される。

• また個別の産業では東日本大震災の影響も受けている。

• 宿泊業が2007年の水準を超えたのは、2013年。娯楽業は、2012年である。飲食サービス業は、ずっと低迷したまま(就業者数は減っているが、付加価値はそれ以上に減少)。

• 非接触型産業の代表である情報サービス業も2007年の水準を超えたのは、2015年。

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(出所)JIPデータベース2018

労働生産性の推移2(2007年=100)

宿泊業 飲食サービス業 娯楽業 情報通信業

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2.危機後のサービス産業の生産性(4)

• 接触型産業、非接触型産業に分けて目標を作成することも一つの案だが、労働生産性の分子、分母に分けてその長期的変化を踏まえて分類をして、その分類毎に目標を設定するという考え方もある。

• 右の4つのカテゴリーでは、政府の対策も異なるのではないか。

• 例えば飲食サービスは、就業者以上に付加価値が減少しているため、付加価値の減少を食い止める政策を考える必要がある。情報通信業は、付加価値、労働投入量とも増えているが、付加価値の伸びが鈍い。少子化を考えれば、労働投入量の増加を抑えて付加価値を維持する戦略をうながすべき。

増加 減少

付加価値>労働投入

量→上昇

付加価値<労働投入

量→低下

付加価値>労働投入

量→上昇

付加価値<労働投入

量→低下

付加価値

労働投入量

増加

減少

労働生産性低下

労働生産性上昇

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3.サービス業の資本蓄積は十分だったか?(1)

•労働生産性の伸びは全要素生産性の伸びと資本・労働比率の伸びに分解できる。

•日本のサービス業の資本・労働比率の推移を見ると、2000年代初めまでは上昇傾向にあったが、それ以降は緩やかに下落。2018年は、2000年比96%。

•国民経済計算は、研究開発やソフトウエアなどの無形資産も含んでいるが、有形資産だけを取り出してもこの傾向は変わらない。

•この結果平成年間に資本年齢は10年近く上昇。

•ヨーロッパの主要国は、日本と同じく最近でも2000年とほぼ同じ水準。しかし、米国だけは2000年の1.4倍

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3.サービス業の資本蓄積は十分だったか?(2)

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(出所)内閣府「国民経済計算」

日本のサービス業の資本/労働比率の推移(2000年=100)

資本/労働比率(無形資産含む) 資本/労働比率(有形資産のみ)

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(出所)EUKLEMS 2019

欧米主要国の資本/労働比率の推移(サービス業、2000年=100)

米国 英国 フランス ドイツ

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出所:財務省「法人企業統計」

設備年齢(ヴィンテージ)の推移

全産業(金融・保険除く) 製造業 非製造業

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3.サービス業の資本蓄積は十分だったか?(3)

•急速な資本蓄積を続けてきた米国も世界金融危機以降の資本・労働比率はほぼ横ばい。雇用の増加と資本蓄積のスピードがほぼ同じで労働生産性の伸びが低下→長期停滞

•設備投資の減少要因を探る研究(Gutierrez and Philippon (2017), Crouzet and Eberly (2018))→トービンのQで説明できない設備投資の部分を投資ギャップとして表し、このギャップを説明する変数を探る。変数の候補としては、無形資産投資や独占度

•米国も日本もサービス業の方が投資ギャップが大きい。現在日本と欧米主要国の投資ギャップは、無形資産投資のシェアで説明できるところまでは分析できている。

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3.サービス業の資本蓄積は十分だったか?(4)

日本 米国