パブリックスペース活用が推進されて 7つのメソッド ... · 2020. 4. 8. ·...

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18 便使使稿 使使使使

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Page 1: パブリックスペース活用が推進されて 7つのメソッド ... · 2020. 4. 8. · (改善提案) : 空間提案を行う。この①実験結果をもとに、今後の政策検討や

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ストリート活用にまつわる背景

パブリックスペース活用が推進されて

久しいが、これまでの規制緩和に加え、

二〇二〇年以降、都市再生特別措置法

改正によるウォーカブル(「居心地が良

く歩きたくなる」まちなか)の推進や、

道路法改正による「歩行者利便増進道

路」制度による最大二〇年の道路占用

許可期間に緩和されるなど、パブリッ

クスペースもまた一つステージが進ん

だ。一方で、制度や仕組みがかなり充

実してきたところで、国もその制度を

どう使いやすくしていくかというよう

な環境づくりにも力を入れ始め、人材

育成、普及啓発、ビジョンやプラットフ

ォーム構築などにも支援をし始めてい

る。そのような中で、なぜやるのか、ど

のようなプロセスで進めるのかといっ

た、本質的な部分が重要になってきて

おり、各自治体がこういった制度や仕

組みを使いこなしつつも、自分の街で必

要な政策を考え、打ち出していくこと

が求められてきている。本誌は主に自

治体、建設関連企業向けとのことで、

本稿でもストリート活用を仕掛ける視

点を自治体、建設関連企業向けにまと

めたい。先日、自治体研修「官民連携

による低未利用地の活用に関するワー

クショップ」(国土交通省中国地方整備

局主催)や「新たな都市空間創造スク

ール課題発表会」(国土交通省主催)の

講評などを仰せつかった経験も踏まえ

てまとめてみたい。ぜひ、一人の担当者

からでもアクションできるようなメッセ

ージやポイントを受け取って欲しい。

(1)なぜストリートを活用するのか

まず、そもそも「なぜストリートを

活用するのか」である。意外にここが

定まっていないことがあまりにも多

い。国はあくまで方向性を示している

だけであって、それを必ずしもやらな

ければいけないわけではない。自分の

街やプロジェクトの中で、ストリート

を活用することにどんな意味や価値が

あるのか、しっかり考えることが必要

である。ちなみに、「活用」は「潜在

的な価値があるとされる場所の価値を

引き上げること」だと考える。あなた

の街のストリート、活かされていない

点、潜在的な価値とは何か、考え、共

有することから始めよう。

(2)�賑わい・活性化など曖昧な言葉

を禁止してみる

あなたはつい、「賑わい」、「活性化」

と言ってはいないだろうか?他にも、

「回遊性」、「若者」などもよく使われる

でしょう。これらの言葉自体の問題で

はなく、あまりにも曖昧な言葉で議論

されていることが非常に多いことがわ

かった。先日、自治体研修で「賑わい」・

「活性化」の言葉の使用を禁止してみた。

相当この言葉を使用しているというこ

とがわかったが、つい言ってしまう。

伝えたいことは、曖昧な言葉はお互い

の共通言語にならないので、曖昧なワ

ードが出たら、因数分解して具体的な

言葉を使うことが必要だと思う。賑わ

いの場合、人を呼びたいのか、歩行者

交通量を増やしたいのか、アクティビ

ティ(人の滞留活動)を増やしたいのか、

滞在時間を増やしたいのか、様々な要

素の結果でしかないのである。また、「回

遊性」などでスタンプラリーなどの政

策を打っても、そもそも目的となるよ

うな施設や魅力がなければ、人はそこ

ストリート活用を仕掛ける

7つのメソッド

泉山 

塁威

東京大学

先端科学技術研究センター

助教

一般社団法人

ソトノバ

共同代表理事・編集長

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まで歩かない。何が必要なのか、本質

的な課題に向き合う必要がある。

(3)�

住みやすい都市のための

ストリート活用

また、世界と日本でパブリックスペ

ース活用を見ていると、方向性の違い

に気づく。日本は、ストリートやパブ

リックスペース活用の目的を「賑わい」

に置いている。「賑わい」の字は「かい

へん」の文字で、同様の文字は、賭博、

賄賂、貯金、販売などお金に絡む漢字

である。人口減少や低成長時代に突入

している国内において、いつまで賑わい

だけを追い求めるのだろうか。バブル

を引きずっているとしか思えない。世

界では、「住みやすい都市」(Livable

City

)のためにパブリックスペース活用

を行っていることをよく目にする。住

みやすいとは住環境だけを思い描きが

ちだが、都市の生活(パブリックライフ)

も含めたライフスタイルやQOL

(Quality of Life

:生活の質)にも通ず

る。H

appy City

という本が出ているよ

うに、一人ひとりの生活の質が高く、

幸せで、健康であるという都市のあり

方を世界では求めているように思う。

ストリート活用を仕掛ける

7つのメソッド

ここからは主に自治体や企業がスト

リート活用を仕掛

けていくにあたっ

て大事なポイント

を紹介しよう。

(1)市民ニーズを

把握して政策を打つ

何のためにスト

リート活用をする

のか。市民の生活

を豊かにするため

である。それには

市民のニーズを把

握することが重要

だ。もちろん、現

在の市民のニーズ

ももちろんだが、

将来の市民ニーズ

も予測しながら考えていくことが望ま

しい。当たり前のように感じるが、意

外に大きな街では、自治体と市民の距

離があり、声が届きにくく、クレーム

などのネガティブな声ばかりが届く。

市民ニーズを確認しながら、政策を

打っていくやり方として、アクション指

向型プランニング(A

OP:A

ction O

rineted Planning

)がある〈図1〉。

まずは①M

EASU

RE

(測定):現状の

都市調査、アンケート、パブリックスペ

ースのアクティビティ調査など、現状診

断を行う。②T

EST

(実験):現状診断

で見えた、魅力や改善点を確認し、仮

説を立て、社会実験など行い、仮説を

検証する。データ測定を同時に行い、

現状診断結果と比較し、効果を検証す

る。この時に、市民の反応やアンケート

などできるだけニーズを把握すること

が重要である。③REFIN

E

(改善提案):

実験結果をもとに、今後の政策検討や

空間提案を行う。この①M

EASU

RE

②TEST

、③REFIN

E

をぐるぐる回し

ながら検討していく〈図2〉。

(�

2)�

組織や仕組みからではなく︑

事業や人から始める

政策を検討していく際に、先に考え

図1.アクション指向型プランニング

図2.アクション指向型プランニングのMEASURE-TEST-REFINEサイクル

快適な都市空間の形成とストリートの活用

特集

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がちなのが、組織や制度などの仕組み

である。社会実験を実施し、民間プレ

ーヤーを発掘、エリアマネジメント組

織を設立、都市再生推進法人指定、道

路占用許可の特例の取得と、公式のよ

うな手順を考えがちだが、その組織で

何の事業をするのか?事務局や運営は

誰がする?と、組織や仕組みが先行す

ると、人や事業をどうするかで止まっ

てしまう。考える順番が逆である。人

や事業から考えることが先で、そこか

ら何ができるかを考えるようにしよう。

(3)ペルソナで考える

それ誰が使うの?と、人が見えない

で議論をしていることが多い。その場

合はペルソナで考えよう。ペルソナ

(persona

)とは、

サービス・商品の

典型的なユーザー

像のことで、マー

ケティングなどで

よく用いられるが、

まちには、たくさ

んの人がいる。七

五歳の高齢者、三

二歳のママ、三五

歳の男性起業家、

二一歳の学生など、

年齢、性別、属性

などを仮で設定

し、街歩きをした

り、プロジェクト

の検討をしてみよ

う。その人だった

ら、どうするかな

どを具体的に考え

てみる。具体的な個人名が浮かべられ

れば、その人でもいい。ロールプレイン

グゲーム(RPG)のようにペルソナを

設定して検討をすると、誰のためにや

っているのか、この人ならこうするなど、

より解像度の高い検討が進むだろう。

(4)�

当事者市民の小さなアクション�

から始める

人から考えるといっても、誰でもい

いわけではない。地域のステークホル

ダーは重要な人物に違いないが、多く

の場合は既に疲れていたり、担うパワ

ーが足りない。その時に、当事者意識、

自分ゴトと捉えてプロジェクトを担っ

てくれる人が重要だ。もちろん、その

人の人生に大きな影響を与える。当然

仕事になるということも考えなければ

いけないし、何よりその人と同じくら

いの熱量を自治体や企業側が持つこと

が大事だ。熱量を持った人と同等かそ

れ以上の熱量を持って誘わないと誰も

船には乗ってくれない。そんな当事者

市民と、まずはできる範囲の小さなア

クションから始めていくことだ。LQ

C(手軽に、素早く、簡単に)という

手法があるように、身の丈にあったこ

とから積み上げよう。

(5)小さなアクションをデータ測定する

小さなアクションをするだけでも、

それなりの労力がかかる。しかし、や

ることだけに注力しすぎると、どんな

効果があったのか?といったデータを示

せない。アクションの目的や仮説に応じ

て、データを測定しよう。簡単なもの

でもいい。歩行者交通量調査やアンケ

ート、アクティビティ調査もあれば、

笑顔の数のカウント、座った人の数など、

数えられるものを考えよう。何を調査

するかは、アクションの狙いや仮説を見

直すことにもつながる〈図3〉。

(6)�

市民との関わり:エンゲージメ

ントを重ねながら進めていく

アクションをする際には、市民との

写真1�.Point�Cook�POP-UP�Park(オーストラリア・ヴィクトリア州メルボルン郊外ポイントクック市)� Photo�by�Rui�IZUMIYAMA

図3.アクティビティ調査の例(渋谷中央街フェス)出典:ソトノバ(https://sotonoba.place/shibuyatyuogairesearch)

◯�

×

座る(椅子および�車椅子含む)座る(地面など)

立つ

滞在時間

5����10�15�20�25�30

立つ(路面) 座る(椅子・車椅子を含む) 座る(地面等) パフォーマンス  商業  食べる  飲む  読む

・姿勢で最も多かったのは、「立つ(路面)」の143名、続いて、

座る(椅子・車椅子含む)53名、座る(地面等)1名であった。

・活動の種類としては、「商業」65名、「食べる」63名と、本イ

ベントのカレーバトル参加者が多く集まっていたことが分かる。

・a〜d席では最長でも約30分以内に人の入れ替わりがあった

が、e席では長時間飲食を楽しむグループが確認できた。

スマホなど  会話など  人を眺める  写真を撮る

犬と遊ぶ  店や人を眺める  日陰で涼む  名刺交換

うろうろ  電話  立ち止まる

バスケ選手の所へ集まる  子供の遊び  喫煙  スポーツ

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関わりが重要だ。椅子を置いたら、市

民は座るのか。コミュニケーションを

とりながら、市民は何を望んでいるの

か、求めているのかを探るように観察

する。また、SNSなどで発信したら、

コメントやいいねを記録しよう。エン

ゲージメントが高いプロジェクトはそ

れだけ関係人口も多く、関わった市民

の熱量も高い。そんなプロジェクトは

応援したくなるし、人に紹介したくな

る。結果、たくさんの人がきたり、認

知してもらえるようになっていく。オ

ーストラリア・ポイントクックのプロ

ジェクトは参考になる〈写真1〉。

(7)�

小さなアクションを

大きなムーブメントに進化させる

小さなアクションを大きなムーブメ

ントにすることも大事だ。例えば、ア

メリカ・サンフランシスコ市で二〇〇

五年に行われた、Park

(ing

)day

(パ

ーキングデー)は、路上駐車場を小さ

な公園のように活用する世界的ムーブ

メント。九月の第三金曜日に毎年実施

される〈写真2〉。SNSのハッシュ

タグで #Parkingday

と検索すると、

世界中のParkingday

の写真がアップ

されている。このPark

(ing

)day

は、

国内では二〇一七年からソトノバが毎

年実施しているが〈写真3〉、世界で

は十五年行われている。最初に始めた

のは、カルフォルニア大学バークレー

校の学生だ。ゲリラ的アクションから

生まれた。法律的にもお金を払えば路

上駐車場を使えることは調べ済みだ。

そのようなプロジェクトはWebサイ

トと、やり方ガイド(park

(ing

)day

マニュアル)をPDFで無料で公開し

たことで、誰もがやれるようになった

ということである。これは、ストリー

ト活用は自治体や企業、専門家しかで

きないような高度なものであっては普

及しないことを示していることでもあ

る。市民でもストリートを活用にする

のはどうしたらいいのか。それができ

れば、ストリート活用は大きなムーブ

メントになっていく。勝手にやりたい

人が増えてくるスパイラルアップ(好

循環)をどう作っていくかがキモだ。

すべての街やストリートは特殊解

カスタマイズしてオーダーメイドする

いかがでしたでしょうか。これからス

トリート活用を仕掛けようという時の

進め方やその時のポイントを紹介した。

もちろん、具体的に検討していく際に

は、どんな制度を使った方がいいのか、

参考事例から学ぶ、専門家と相談しな

がら進めるなど、様々あるでしょう。

参考事例など必要な素材を集めたら、

自分の街でカスタマイズしてオーダーメ

イドで進めていく。すべての街やストリ

ートは特殊解。自分で考え、作り上げ

ていく必要があります。そんな時は、

泉山に声をかけてください。ソトノバ

からの問い合わせでもOKです。

︻参考文献︼

ソトノバ:https://sotonoba.place/

﹇速報考察﹈法律・予算・税制のウォーカブルパ

ッケージ揃う:都市再生特別措置法改正︑泉

山塁威︑ソトノバ︑2020/2/27

(https://sotonoba.place/20200227-

walkablenew

s

﹇速報考察﹈道路法改正により歩行者中心の道

路空間:﹁歩行者利便増進道路﹂創設へ︑泉

山塁威︑ソトノバソ︑2020/2/4

(https://sotonoba.place/20200204-streetnew

s

ストリートデザイン・マネジメント:�

公共空間を活

用する制度・組織・プロセス︑出口敦�

︑三浦詩乃︑

中野卓編著︑泉山塁威ほか著︑学芸出版社︑

2019/3

オーストラリア・メルボルン・ポイントクック︑

Point�Cook�PO

P-UP�Park

https://www.pointcookpopuppark.com

.au/

国土交通省ストリートデザイン懇談会・泉山委

員資料

http

://www.mlit.g

o.jp/toshi/

content/001306829.pdf

写真3.Park(ing)day2019渋谷宮益坂(東京都渋谷区)Photo�by�ソトノバ�Takahisa�Yamashita

写真2.Park(ing)day�(サンフランシスコ市・2005年)Photo�by�REBAR

快適な都市空間の形成とストリートの活用

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