マレーシア、ペトロナスに関する考察(後編)...murphy oil 28.99 42.38 71.37...

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Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータ および情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定の アドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の 図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 1 更新日:2019/6/28 調査部:加藤 マレーシア、ペトロナスに関する考察(後編) ( ペトロナス HP、同年次報告書、Wood Mackenzie, IHS Markit, Platts 他) 要旨: マレーシアの国営石油・ガス会社であるペトロナスは、 Fortune Global 500 2018 版では総収入 ベースで 191 位に、また Petroleum Intelligence Weekly 誌の 2018 年世界の NOC & IOC ランキング 100 によれば 21 位に位置し、世界の石油・ガス会社の中では堅実なポジションを維持している。 前編では、その生い立ちと歴史ならびに組織的な特徴および 2018 年のマレーシアにおける総選 挙の影響を中心に、会社としての仕組みを分析した。 後編は、マレーシアの国内外におけるペトロナスの上流開発への取り組みを紹介する。 主な内容は次のとおり。 マレーシア全体の石油・天然ガスの探鉱開発、生産およびオフショア鉱区について 国内上流開発におけるペトロナスのポジション ペトロナスが主導する LNG ビジネス FLNG の活動 サバ-サラワク ガスパイプラインについて 海外におけるペトロナスの積極的な上流開発と LNG ビジネス サラワク州の Royalty に関する論争 マレーシアにおける PSC の特徴 1. マレーシアにおける原油および天然ガスの生産量 ペトロナスを含む、マレーシアの原油および天然ガスの生産の推移を図 13 に示す。BP 統計 2019 によると原油とガスを併せた 2018 年原油換算生産量は、インドネシアが 207 万バレル/ 日であ るのに対し、マレーシアは、インドネシアにほぼ匹敵する 193 万バレル/ 日である。 このうち、ペトロナスとその 100%株式を所有する上流開発子会社である Petronas Carigali (以下 Carigali 、チャリガリ、という)が生産する割合は、Wood Mackenzie によると半分強の 51.2%を占 める(P3、表 1)。

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Page 1: マレーシア、ペトロナスに関する考察(後編)...Murphy Oil 28.99 42.38 71.37 ConocoPhillips 9.42 59.28 68.70 PTTEP 46.20 4.15 50.35 Repsol 13.55 20.51 34.06 プルタミナ

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータ

および情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定の

アドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の

図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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更新日:2019/6/28

調査部:加藤 望

マレーシア、ペトロナスに関する考察(後編) (ペトロナス HP、同年次報告書、Wood Mackenzie, IHS Markit, Platts他)

要旨: マレーシアの国営石油・ガス会社であるペトロナスは、Fortune Global 500 の2018版では総収入

ベースで191位に、またPetroleum Intelligence Weekly誌の2018年世界のNOC & IOCランキング

100によれば21位に位置し、世界の石油・ガス会社の中では堅実なポジションを維持している。 前編では、その生い立ちと歴史ならびに組織的な特徴および 2018 年のマレーシアにおける総選

挙の影響を中心に、会社としての仕組みを分析した。 後編は、マレーシアの国内外におけるペトロナスの上流開発への取り組みを紹介する。 主な内容は次のとおり。 マレーシア全体の石油・天然ガスの探鉱開発、生産およびオフショア鉱区について 国内上流開発におけるペトロナスのポジション ペトロナスが主導するLNGビジネス FLNGの活動 サバ-サラワク ガスパイプラインについて 海外におけるペトロナスの積極的な上流開発とLNGビジネス サラワク州のRoyaltyに関する論争 マレーシアにおけるPSCの特徴

1. マレーシアにおける原油および天然ガスの生産量

ペトロナスを含む、マレーシアの原油および天然ガスの生産の推移を図 1~3 に示す。BP 統計

2019によると原油とガスを併せた2018年原油換算生産量は、インドネシアが207万バレル/日であ

るのに対し、マレーシアは、インドネシアにほぼ匹敵する193万バレル/日である。

このうち、ペトロナスとその100%株式を所有する上流開発子会社であるPetronas Carigali(以下

Carigali、チャリガリ、という)が生産する割合は、Wood Mackenzie によると半分強の51.2%を占

める(P3、表1)。

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アドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の

図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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図 1 マレーシアの原油生産量推

移(1978年~2018年)

出所 BP統計

図 2 マレーシアの天然ガス生産

量推移(1978年~2018年)

出所 BP統計

図 3 マレーシアの油・ガス合計

生産量推移(1978年~2018年)

出所 BP統計

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ペトロナスの原油とガスの生産量については、同社Financial Report(2018 Q4)によると、2018

年は国内(ペトロナスグループおよび他のオペレーター生産分)と海外(ペトロナスグループのみ)

を合わせた生産量の合計2,361 thousand boed であった。一方、BP統計による2018年のマレーシア

国内における油・ガスの生産量は下記のとおり1,931.11 thousand boedであるので、その差の約430

thousand boed がペトロナスグループの海外生産量と推定される。

表1 マレーシアにおける主な上流開発会社および2018年生産量

会社名 ガス生産量(原油換算

thousand boed*) 原油生産量( thousand bbld)

合 計 ( 原 油 換 算 量

thousand boed) ペトロナス(上流開発子

会社 Petronas Carigali を

含む) 739.94 248.89 988.83

Shell 156.64 85.47 242.11 ExxonMobil 106.76 28.78 135.54 Hess 82.28 6.63 88.91 Murphy Oil 28.99 42.38 71.37 ConocoPhillips 9.42 59.28 68.70 PTTEP 46.20 4.15 50.35 Repsol 13.55 20.51 34.06 プルタミナ 12.43 18.16 30.59 ペトロベトナム 11.62 9.52 21.14 その他 41.37 158.14 199.51

合計 1,249.20 681.91 1,931.11

出所 BP統計およびWood Mackenzie より 注1 :生産量はMalaysia – Thailand Joint Development Area(JDA)における生産分を含む。JDAに権益を持つ

のはPertamina、Hessとペトロナスの3 社である。 2: boed = barrels of oil equivalent bbld = barrels per day

2. マレーシアのオフショア鉱区の概要

2.1 オフショア位置図

マレーシア連邦の位置を図4で眺めてみる。マレーシアは半島マレーシアとボルネオ島の西側に

分かれている(インドネシアでは一般的にボルネオ島をカリマンタンと呼ぶ)。ボルネオ島には、

サラワク州とサバ州がある。その二つの州の間に挟まれるようにブルネイ・ダルサラーム国(通称

ブルネイ)があるがブルネイの国境はサラワク州とのみ接している。歴史的にサラワクとサバの両

州ではイギリス領マラヤ時代よりアブラヤシからのパーム油の生産、天然ゴム等の大規模プランテ

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ーションが行われてきた。また、今ではその面積を著しく減じているが、原生林による木材資源が

豊富であった。1957年マレーシア半島でマラヤ連邦が独立したあと1963年にマラヤ、サバ、サラ

ワクおよびシンガポールでマレーシア連邦を結成した。後にシンガポールが 1965 年に分離独立し

現在のマレーシア連邦の形となった。

図4 マレーシア位置図 各種資料より JOGMEC作成

2.2 オフショア鉱区

マレーシアのオフショア鉱区は、以下の三つの地域に分けられる。オンショア鉱区も存在してい

るが、生産量は少ない。

マレー半島沖(マレー半島の東から北東沖)

サラワク沖(ボルネオ島南西沖)

サバ沖(ボルネオ島北西沖)

三つの地域のそれぞれの油・ガスの産出量については明確な資料はないが、ライセンス数をみる

とおよそ4:3:3の比率である。

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図4からも分かるように、ボルネオとマレー半島との間には、マレーシアが管理する排他的経済

水域(EEZ)がなく、インドネシアの EEZ が間に存在する。このためサラワク州沖で採取された

天然ガスをパイプラインでマレー半島に直接輸送することは必ずしも容易ではない(国連海洋法条

約上は可能だが、インドネシアの同意が必要である)。また、距離も海底部分だけで1000kmを超

えることからパイプライン敷設による経済性を確保することが難しい。原油はFPSOを利用してタ

ンカーで輸送・輸出することは容易いが、サラワク沖の天然ガスはBintuluのLNG液化基地でLNG

として出荷している.。一方、マレー半島沖で生産されたガスは、パイプラインで半島のトレンガ

ヌ州ケルテ(Kerte)に送られ半島で使用されている。しかし、それだけでは人口の多いマレー半

島の需要には応えられず、後述するように現在 2隻のFSRU にて輸入LNG の再ガス化を行い供給

している。

図5 マレーシア半島沖鉱区図

出所 ペトロナス 2019 年鉱区

入札資料より

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図6 出所 ペトロナス 2019年鉱区入札資料より

2.3 マレーシアの鉱区の特徴

(1) ポテンシャルが高いと見込まれているエリアの探鉱はだいぶ進んできており、成熟化している

といってよい。未探鉱未開発鉱区は、小型化し、遠隔地にあり大水深に位置する。したがっ

て、探鉱と生産に要する費用が嵩むことになる。

(2) 開発可能と思われる鉱区は、ペトロナスが優先して優良鉱区を手懸けることができる仕組みと

なっている。上流開発子会社はCarigaliである。入札が行われる場合には、未開発鉱区もしく

は外国上流会社により放棄された鉱区、探鉱されたが開発には至らず中断となった鉱区で

Carigaliが引き継がなかった鉱区が入札の対象となるのが一般的である。

(3) 有望鉱区が減ってきていると述べたが、実際には、資源量は豊富なものの二酸化炭素含有量が

高いガス田が残されていることが挙げられる。特に、マレー半島沖とサラワク沖に存在するガ

ス田は CO2 含有量が 25%から高いものは 70%にもなる。CO2 含有量が多いガス田の開発は

採算性の観点からは難しいが、ペトロナスとしては、これらガス田を将来的に活かし生産に結

び付けたいと考えており、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)およびCCUS (Carbon dioxide,

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Capture, Utilization and Storage)の研究をマレーシア工科大学および外国企業と共同で進めてい

る 1。

2.4 地域別の油・ガス田の特徴

(1) マレー半島沖

マレー半島沖は主として油田がメインであり。ガスは随伴ガスとして生産されている。原油と

ガスは海底パイプラインでトレンガヌ州のKertehに送られ、原油は精油所に送られ精製される。

ガスは、ガス発電の燃料および石油化学プラントの原料および燃料として使用される。マレー

半島沖では、CO2 濃度が高いガス田が多く見つかっているが技術やコストの問題から開発が

遅れている。

(2) サラワク沖

サラワク州沖はガス田の開発が主である。生産されたガスのほとんどは、Bintulu にあるLNG

液化プラントに送られ、そこでLNGとして輸出される。LNG液化プラントの概要は後述する

が、9トレイン、2,930万トン/年の生産能力を持つ。陸上LNG液化プラントの原料ガスとして

サラワク沖のガスがいつまで充分な量を供給できるかが気になるところだが、ペトロナスの説

明では 2026 年までは確保しているという。その中にはこれから開発されるガス田の生産量が

含まれているようだ。マレーシア全体のガス生産量は2022年をピークとして2023年から減退

が始まるという。その減退を補完するため、サバ沖で生産されたガスを Bintulu まで輸送する

サバ-サラワク・パイプラインが重要となってくる。サラワク沖もCO2 濃度が高い未開発の

ガス田が多く残されている。

(3) サバ沖

サバ沖の特徴は、大水深(最大水深約 1,800m、平均 800m~1,200m)で油田が比較的多いとい

うことである。また、油・ガス田のサイズも比較的小型であり、海底パイプラン網も密には発

達していない。原油に関しては、Kikeh油田ではFPSO にて直接輸出しているが、ガスは陸上

に送られるものの、人口が少なく産業が未発達なサバ州にはガス需要はそれ程大きくない。後

1 CCSおよびCCUSの用語の説明は、経済産業省資源エネルギー庁のWebsite「知っておきたいエネルギ

ーの基礎用語」を参照願いたい。https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ccus.html また、Cameronと多繊維膜分離技術を共同研究している。

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述するようにサバ-サラワク・パイプラインがフルに稼動していないことから、発見されても

開発に着手できない油・ガス田(既発見未開発)が存在する。

図7 マレーシア 油・ガス田 全体図 出所 GlobalData Oil and Gas

2.5 マレーシアのLNG液化設備

ペトロナスのビジネスで重要な位置を占めるのがLNGの販売である。2017年のペトロナスの売

り上げ中22%をLNGが占めている。ただし、一部海外のLNG液化プラント(豪州GLNG:Gladstone

LNG)による売り上げが含まれている(注:エジプトELNGのLNGはこれまで原料ガスの減少により細々

と運転していたがEniによるZohr ガス田の発見と開発により2019年に本格的な生産再開が始まった)。

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表2 ペトロナスのマレーシアにおけるLNG液化プラントの現状と計画

プラント名 トレイン数液化能力

(万トン/年)液化方式 生産開始年 Location 参加者 コントラクター

MLNG I (Satu) (Train 1-3) 3 840 C3MR(APCI) 1983 BintuluMLNG (ペトロナス90%、サラワク州5%、三菱商事5%)

KBR、日揮

MLNG II (Dua) (Train 4-6) 3 960 C3MR(APCI) 1995 同上MLNG Dua (ペトロナス80%、サラワク州10%、三菱商事10%)

KBR、日揮

MLNG III (Tiga) Train 7, 8) 2 770 C3MR(APCI) 2003 同上MLNG Tiga (ペトロナス60%、サラワク州25%、JXTG 10%、DGN(三菱商事/石油資源開発=4:1)

KBR、日揮

Petronas LNG 9 (Train 9) 1 360 C3MR(APCI) 2017 同上ペトロナス70%、JXTG 10%、PTTGlobal LNG 10%、サラワク州10%

日揮

Petronas FLNG 1 (Satu)(浮体式)

1 120AP-N LNG(Air Products &Chemicals)

2017Kebangbang(サバ沖)

ペトロナス 100% Technip, DSME

Petronas FLNG 2 (Dua)(浮体式)

1 150AP-N LNG(Air Products &Chemicals)

2020上半期予定

Kanowit (サバ沖)

ペトロナス 100%日揮、SamsungHeavy Industries

合計 113200

(予定)出所 JOGMEC 天然ガスリファレンスブック2019

また、世界で初の浮体式LNG(FLNG)である、ペトロナスFLNG Satu (PFLNG Satu: Petronas Floating

LNG Satu、120万トン/年)はサラワク沖最大水深80mのKanowit ガス田に据え置かれ、2017年12

月に LNG の生産を開始したが、一年数ヶ月稼動しただけで 2019 年 3 月にサバ沖の水深 120m の

Kebabangan フィールドに移動し 5 月より生産を再開している。この移動のためのエンジニアリン

グ、Hook-upとCommissioning はマレーシアのSapura Energyが手懸け、水深の違いによるMooring

Chainの付け替えは三井海洋開発が請け負った。これに要した費用は2億ドルといわれている。

更に、ペトロナスは、PFLNG Dua(生産能力150万トン/年)を現在韓国のSamusung Heavy Industries

で建造中であり、2020年上半期に同じくサバ沖Rotanガス田に配置の上、生産が開始される見通し

である。

また、マレー半島ではガスが不足しているためにLNG を輸入して再ガス化している。そのため

FSRU(Floating Storage and Regasification Unit)を二隻、半島の西側に配置している。

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表3 ペトロナスの国内LNG再ガス化プラント

国名 タンク数受入能力

(万トン/年)再ガス化方式 受入開始年 参加者 コントラクター

Sungai Udang (RGT1), Melaka N.A 380 Seawater-Propane 2013 ペトロナス100% N.A

Pengerang (RGT2)、Johor 2 350 N.A 2017PLNG2(ペトロナス65%、Dialog LNG 25%、Jphor州10%)

Samusung C&T

プラント名

マレーシア

出所 JOGMEC 天然ガスリファレンスブック2019

2.6 サバ・サラワク ガスパイプライン(SSGP)とBintulu LNG液化基地について

サバ沖で生産された天然ガスは、一部サバ州の発電所や工場、民生用で消費され、残りは、2014

年に運転開始となったサバ・サラワク ガスパイプライン(SSGP)を通じてサラワク州 Bintulu

のLNG液化プラント(生産量2,930万トン/年)に送られる。そこでLNGに液化され輸出される。

SSGPは、送ガス開始から約5年半が経過しているが、これまで3回ガス漏れとそれに伴う火災

と爆発事故を起こしている。詳細な報告は公表されていないが、修理と復旧で半分弱の期間、2年

以上SSGPは使用できなかったといわれている。

パイプラインは、インドとサバ州の工事業者が建設した。ルートは、直線ルート上にブルネイが

あることから迂回せざるを得ず、熱帯雨林の峻険な山裾を通っている。熱帯モンスーン特有のスコ

ール等集中豪雨により土壌が軟弱になり、土砂崩れが起きパイプランが流されたというのが前述の

火災や爆発事故の直接的な原因である。一方、パイプラインは集中豪雨による土砂崩れを考慮して

おらず設計段階において安全上の瑕疵があったとの指摘もある。

幸い、Bintulu向けの天然ガスはサラワク沖ガス田の開発・生産が順調であり、Bintuluにおけ

るLNGの長期生産維持に向けた取り組みが平行して始まっている。

また、SSGPが信頼性に欠けつことから、もう一本新たにサバからBintuluに向けてガスパイプ

ランを建設・敷設するという計画も取り沙汰されている。

SSGPの来歴

・ 2008年契約、2011年竣工(512km、36 inches、600mcf/d≒450万トンLNG/年)。建

設・敷設コンソーシアムはインド企業Punj LloydとDialog E&C およびサバ州政府

の企業であるPetrosab Logisticsで構成。建設資金は、14.4億ドルである。

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アドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の

図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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・ 2014年1月 送ガス開始

・ 2014年6月10日 Lawasにて爆発。原因ガス漏れ

・ 2018年1月9日 ガス漏れ 復旧に1年間は要すると。2019年5月3日復旧。

・ 2019年5月8日 火災発生。2時間ほどで鎮火され爆発にはならず。ペトロナスは

直ちに運転中止し、現在原因究明と復旧作業中。

2.6 Murphy Oilのマレーシアからの撤退について

ここではマレーシアの石油開発を管理する唯一の事業主体というペトロナスの観点から

Murphy Oilの撤退について述べてみる。

2019年3月21日に米国アンカンソーに本拠を置く独立系中堅のMurphy Oil(Murphy)がそ

の保有しているマレーシアの権益のすべてをタイの PTT の子会社である PTT Exploration &

Production Public Company Limited(PTTEP)に譲渡する旨を発表した。総額US$2.117 Billion

の取引であり、取引は2019年6月末に完了する予定である。

同社は、オフショアに強みを持つ探鉱開発企業で、北米、南米、東南アジアおよび豪州で活動し

ている。1999 年にマレーシアに進出し、三ヶ所のオフショア鉱区の権益を取得し、ペトロナスと

PSC(生産分与契約)を締結した。Murphy社は2001年にサラワク沖で最初の油田を発見。次い

でサバ州沖Kikehで2002年8月に油・ガス田を発見した。この発見は同社の歴史の中でも特筆す

べきものであった。同社は、開発にあたってプラットフォームと FPSO を使用した。そのときの

エンジニアリングはフランスのTechnipが担当した。また、マレーシアの Malaysia Marine and

Heavy Engineeringが建設を請け負った。Kikehからの生産は2007年に開始した。12万バレル

相当/日の油・ガス処理能力を持つFPSOを配している。

Murphyは、2014と2015年に7つのマレーシア資産(Kikeh, Sarawak Gas Project in Blocks

SK309 & SK311, Blocks K. H, P とSK314A およびPM311)の権益30%、当時86,000バレル

相当/日をインドネシアのPertaminaに約20億ドルで売却した経緯がある。今回の取引は、Murphy

によるとその資産を見直し、負債を圧縮し北米を強化(Eagle Ford のShaleとメキシコ湾)する

と述べている 2。より投資回収期間の短い北米シェールとメキシコ湾に資産を集中する狙いがある

2 Murphy Oil 2019年3月21日ニュースリリース

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とされている。ペトロナスは、Murphyが手放す権益の買収には動かなかったようだ。ペトロナス

は自ら有望鉱区の新規の探鉱開発権を取得できるのであるから、20億ドル超の対価を払ってまで、

民間会社保有の自国の権益資産を取得することはないと判断したのであろう。Murphyは、マレー

シアの資産売却に続いて、ベトナムとブルネイでも保有している権益資産も売却し、東南アジアか

ら撤退するものとみられている。

表4 Murphy Oilのマレーシアにおける主要資産 フィールド名 ロケーシ

ョン 石油 /ガス

生産開

始 水深(m) 生産規模 権益保持者

Kikeh Block K、

サバ沖 石

油・ガ

2007 1,330 FPSO能力 120,000bopd

Murphy* 56% Pertamina 24% Carigali 20%

Kakap Block K、

サバ沖 石油 2012 1,220 FPO 能 力

150,000bbld Murphy 8.05% Shell 29.05%* ConocoPhillips 29.05% Carigali 16.8% Pertamina 2.7% その他 14.35%

Siakap North Block K、

サバ沖 石油 2014 1,400 Unknown Murphy* 42%

Carigali 40% Pertamina 18%

West Patricia Block SK309, サラワク

石油 2003 40 FSO能力 700,000bbld

Murphy* 59.5% Pertamina 25.5% Carigali 15%

Sarawak Gas Project(6 fields か

ら構成)

Block SK309 & 311サラ

ワク沖

ガス 2009 30-40 250 mmcfd Murphy* 59.5% Pertamina 25.5% Carigali 15%

Sarawak Oil Project

Blocks SK309 & 311、 サラ

ワク沖

石油 /ガス

2013 32-48 Tie-back to West Patricia

Murphy* 59.5% Pertamina 25.5% Carigali 15%

Block H Gas Development Project (Rotan)

Block H、

サバ沖 ガス 2020

前半 1,128 PFLNG Dua

(LNG 150 万ト

ン/年)

Murphy* 42%(Block H), 56% (Rotan) Carigali 40% (H), 20% (Rotan) Pertamina 18%(H), 25% (Rotan)

Block SK314A サラワク

沖 - - 10-34 - Murphy* 59.5%

Pertamina 25.5% Carigali 15%

出所 Murphy Oil HP 注:*印はオペレーターを示す

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過去4年間のMurphy Oilの業績は以下のとおりである。マレーシアの生産が会社全体の生産

の約30%を占めている。ただし、同国における原油、コンデンセートおよびNGL (Natural Gas

Liquid)の合計を示す液分(Liquid)の生産量が落ち込んできているのが分かる。同社の資産の約

30%を占めるマレーシア資産の売却に踏み切った背景には、以下に示すように同社の財務状況の厳

しさもあるようだ。

表5 Murphy Oil 過去4年間の業績推移 単位:US$ million (除く生産量) 項目/年 2018年 2017年 2016年 2015年

売り上げ

2,586 うちマレーシア

石油 709 ガス 148

2,079 うちマレーシア

石油 640 ガス 138

1, 863 うちマレーシア

石油 624 ガス 128

2,787 うちマレーシア

石油 791 ガス 185

純利益(損失) 411 ▲312 ▲276 ▲2,271

油・ガス生産量

170,945 boed うちマレーシア

Liquid 29,468 bbld ガス 110,223千cfd

(20,590 boed)

163,536 boed うちマレーシア

Liquid 33,815 bbld ガス 112,974千cfd

(21,104 boed)

175,654 boed うちマレーシア

Liquid 38,770 bbld ガス 116,450千cfd

(21,754 boed)

207,930 boed うちマレーシア Liquid 41,373

bbld ガス143,468千 cf

d (21,754 boed)

出所 Murphy Oil Annual Reports

3. ペトロナスの海外展開

3.1 上流開発

ペトロナスの海外における上流開発の展開は、NOCの枠を超え始めているのではないだろうか。

イージーオイルが少なく反対にマージナル油田(限界油田)の多いマレーシア国内では十分な成長

が望めないために、技術力を磨いて海外のよりポテンシャルが高いエリアに進出せざるを得ない事

情があった。メジャーズが保有する最先端の技術は後述する PSC に参加することによって自ら獲

得する、もしくは 100%所有の上流開発会社の Carigali によって吸収されていった。特にサバ沖

での大水深の油・ガス田の開発を通じ、Carigaliは技術と経験を蓄積していった。

2017 年末時点におけるペトロナスの海外における上流権益は、以下の17 カ国に広がっており、

その上流開発契約数(ライセンス契約、PSCおよびサービス契約)は120を越える。

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カナダ(1)、メキシコ(10)、アルゼンチン(1)、アイルランド(3)、エジプト(11)、アルジェリア

(1)、チャド(1)、ガボン(1)、スーダン(3)、南スーダン(8)、イラク(3)、アゼルバイジャン(1)、

トルクメニスタン(1)、ブルネイ(3)、インドネシア(20)、ミャンマー(6)およびオーストラ

リア(45)である。(注:カッコ内は契約数を示す)

このうち、生産中のフィールドは 37 ヶ所、非在来型はカナダとアルゼンチンの 2 ヶ所である。

以下、特筆すべきフィールドを何ヶ所か取り上げる。

(1) カナダ・アルゼンチン(非在来)

ペトロナスがオペレーターを務めたものの、Capex が嵩むこと等から経済性が得られないと

の理由で2017年7月に撤退を決めたPacific NorthWest LNG Projectは、ペトロナスがオペレー

ターである確認埋蔵量22.3tcfという大型のNorth Montney(ブリティッシュ・コロンビア州:ペ

トロナス62%、Sinopec15%、Japex10%、Indian Oil 10% 、Petroleum Brunei 3%)のシェール

ガス田から生産されたガスを原料にすることが想定されていた。ペトロナスはPacific NorthWest

LNG プロジェクトからの撤退は決めたものの、如何に North Montney からのガスを効果的に販

売するのかという問題を抱えていた。結局、既に組成が終わり先行していたShellがオペレーター

である LNG Canada Project に参画し、権益を 25%取得した(Shell 40%、ペトロナス 25%、

PetroChina 15%、三菱商事15%、Kogas 5%)。なお、LNG Canada Projectは2018年10月に

最終投資決定(FID)がされた。

また、ペトロナスはアルゼンチンの大型シェールプレイであるVaca Muerta のLa Amanga

China鉱区にアルゼンチンのYPFとともに開発に参画している。

(2) メキシコ (大水深)

ペトロナスは、自らまたは Carigali を通じ 2015 年からメキシコの鉱区入札に参加し、2016

年12月のラウンド1.4の結果、Salina del Istmo Basinで3鉱区を、また2018年1月のラウンド

2.4ではCorillerasエリアの 鉱区10、12と14 およびCuenca Salina エリアで鉱区25、26なら

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びに 28 の権益を取得した。浅海の一鉱区を除き水深は 1,500m を超える大水深である。中でも、

Petronas Carigaliが単独で権益を取得した鉱区25および26は最大水深が2,000m近くもあり、

サバ沖の開発以上の困難を伴うオペレーションが予想される。Carigali の開発力量が試されるこ

とにもなる。

表6 ペトロナスのメキシコ鉱区入札(ラウンド1-4、2-1および2-4)の結果 入札名 実施年月 Area 参加者 水深

Round 01-L04 2015年12月 Area 4-Perdido CNOOC E&P Mexico (CNOOC 64.4%、その他 35.6%)70%、Petronas 30%

最小2,900m、最大

3,100m

同上 2015年12月 Area 4 Wintershall* 50%、Petronas 50% 最小3,000m、最大

3,200m 同上 2015年12月 Area 5 - Salina Murphy* 30%, Petronas 23.34%,

Wintershall 23.33%, Medco 23.33% 最小3,000m、最大

3,200m

Round 02-L01 2016年7月 6 Petronas* 50%、Ecopetrol Global Energy(コロンビア) 50%

最小0m、最大80m

Round 02-L04 2017年7月 Area 10 Repsol* 40%、Petronas 40%、Medco 20%

最小820m、最大

1,825m 同上 同上 Area 12 Petronas* 60%、PTTEP 20%、Medco

20% 最小1,250m、最大

1,850m 同上 2017年7月 Area 14 Repsol* 50%、 Petronas 50% 最小1,300m、最大

2,000m 同上 2017年7月 Area 25 Petronas* 100% 最小820m、最大

1,825m 同上 2017年7月 Area 26 Petronas* 100% 最小1,775m、最大

2,100m 同上 2017年7月 Area 29 Repsol* 30%、Petronas 28.33%、

Wintershall 25%、PTTEP 16.67% 最小1,476m、最大

3,280m

出所 JOGMEC

(3) 豪州

オーストラリアでは45のライセンス契約を締結しているが、アラフラ海でEniがオペレータ

ーを務めるオフショア開発の一鉱区と Santos がオペレーターの Queensland 州の陸上 Coalbed

Methane (CBM:炭層ガス) 開発に参加している。ただし、フラクチャリングに対する水汚染、土

壌汚染等環境破壊への不安感から法規制が必要と認識されている。

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(4) イラク

イラクHalfaya油田は、イラクにおける大型油田のひとつである。2018年の推定生産量は25

万バレル/日であるが、増産により 2019 年中には 40 万バレルの生産を目指しており 2019 年5 月

時点では35万バレル/日まで生産量が増加していると思われる。このサービス契約への参加企業の

権益比率は、PetroChina(CNPC)45%、Carigali 22.5%、Total 22.5%、Basra Oil(イラク石油省)

10%となっている。

3.2 ペトロナスの海外におけるLNGプロジェクトへの展開

ペトロナスの LNG の海外展開は以下の表のとおり、液化プラントが計画中も含めて 3 ヶ所、

再ガス化プラントは、1ヶ所である。エジプトのELNGは、2012年頃からエジプトのガス生産が

著しく落ち込んだことにより LNG の生産も僅かとなったが、Eni が発見開発した大型Zohr ガス

田が生産に移行したことにより2019 年後半からは国内消費分を超える生産ガスはLNG として輸

出されることになっている。

表7 ペトロナスの海外におけるLNG液化プラントの現在と計画

国名 トレイン数液化能力

(万トン/年)液化方式 生産開始年 参加者 コントラクター

Egyptian LNG (ELNG)(Train 1) 1 360Shell35.5%、ペトロナス35.5%、EGAS12%、EGPC12%、Total 5%

(Train 2) 1 360Shell38%、ペトロナス38%、EGAS12%、EGPC12%

カナダ LNG Canada, BC (Train 1,2) 2 1,400 DMR (Shell) 2020年代半ばShell40%、ペトロナス25%、PetroChina 15%、三菱商事15%、KOGAS 5%

日揮、Fluor

GLNG (Train 1) 1 390 2015年

(Train 2) 1 390 2016年

2005年エジプト Bechtel、Phillips

Opt. Cascde(ConocoPhillips)

Santos 30%、ペトロナス27.5%、Total 27.5%、KOGAS 15%

Bechtel豪州

プラント名

Opt. Cascde(ConocoPhillips)

出所 JOGMEC 天然ガスリファレンスブック2019

表8 ペトロナスの海外におけるLNG再ガス化プラント 国名 タンク数

受入能力(万トン/年)

再ガス化方式 受入開始年 参加者 コントラクター

UK 2 441 SCV x 6 2009 Shell 50%、ペトロナス50%Whessoe、VolkerStevin

注: SCV=Submerged Combustion Vaporizer

プラント名

Dragon

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4. サラワク州が要求するRoyalty問題

サラワク州は、石油とガスの生産に伴う現行Royaltyの州政府の取り分5%を20%に引き上げよ

と2017年以来主張している(因みにマレーシアのPSC上、Royaltyは10%である。連邦政府が5%、

油・ガス田が存在する各州(サバ州、サラワク州、クランタン州およびトレンガヌ州)が5%の取

り分となっている)。

ただし、20%の解釈が政権与党とサラワク州政府の間で異なっている。2018 年 5 月の総選挙で

勝利したマハティール率いるPakatan Harapan(希望連盟)は、選挙時の公約は「利益の20%」

であると主張。一方、サラワク州政府は従来の5%と同様、「生産量の20%」をRoyaltyとしてサ

ラワク州に与えるべきとし、Pakatanの公約に違反すると主張。一方、1974年の石油開発法です

べての石油とガスの権限が与えられたペトロナスは、2018 年 6 月にサラワク州政府の主張は石油

開発法1974に違反するとして連邦裁判所に提訴したものの、連邦裁判所は、本件はまずサラワク

州の地方裁判所で審議すべきとの管轄違いの理由で門前払いをしている(2018 年6 月 22 日付連邦

裁判所)。

既に、サラワク州はペトロナスに代わる事業体として、州の上流開発企業“Petroleum Sarawak

(Petros)”を2017年に設立しており、2018年7 月1日よりサワラク州で操業する上流開発企業お

よびその他コントラクター、サービス企業に業者登録をするよう呼びかけている。

この問題は、サラワク州(サバ州も同様)の成り立ちという歴史的な背景を押さえないと、本質

には辿りつけないため以下にサラワク州の石油開発を巡る歴史を簡単にまとめさせて頂いた。20%

のRoyalty 問題の解決は、マハティール首相は 2019 年 10 月までには解決できるだろうと述べて

いるが、一方では数年掛かるのではないかともいわれている。ペトロナスは本件について連邦政府、

即ち政治の問題であるとして距離を置いているが、2019 年鉱区入札の対象からサラワク沖が除外

されている等の影響が出始めている。

<サラワク州の石油開発を巡る歴史>

(注:本稿は、金沢大学人間社会学域経済学類 中島健二教授のご了解の下、同士の論文「マレ

ーシアの石油権益における連邦と州の対立-連邦国家の形成の一事例」(京都大学経済学会「経

済叢書第147巻、第148巻」を参考に要約した。)

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サラワク州は1963 年のマラヤ連邦と統合してマレーシア連邦になるまでは英国の植民地であ

った。英国は石油管轄権をサラワクに与え、かつ大陸棚まで延長することを認めていたが、その

当時は石油開発の揺籃期であり、今日のようなサラワクが石油・ガス開発の中心地ではなかった。

また、植民地時代はサラワクの取り分はRoyalty のみであった。このため、統合の時にはサラワ

クはマレーシア連邦からの潤沢な財政援助を期待していた。一方、隣国のブルネイは、主力油田

は海岸に位置しており1963 年のマレーシア連邦統合期の前より油田の存在が明らかになってい

たためマレーシア連邦の財政援助に期待する必要がなかった。また、統合後 10 年間に限り英国

の保護領時代の権益を保障するという誘いにも魅力を感じなかったためブルネイは統合に参加

せず独立を維持した。

実際、マラヤ政府とサラワクとの交渉では、石油開発の権限に対する議論はなかったようだ。

1966年までマレーシアで生産していた石油生産会社はシェルのみであった。同社はサラワク

の連邦参加以前にイギリスの植民地当局によって同地域の利権を譲渡されていた。1952年に沖

合鉱区を植民地時代の鉱業法(1949)によりリースされ、57年より探鉱を開始した。63年の連

邦加盟の年を境に沖合油田が次々と発見されていったのは皮肉としかいいようがない。これらの

新油田は沖合30kmから250kmほどであった。マレーシア連邦が大陸棚法と石油鉱業法を制定

したのは1966年である。それまでは、土地および資源に関する権限は各州に帰属すると定めら

れていたが、大陸棚法および2012年に制定された領海法(Territorial Sea Act 2012) によって

3マイル(約5km)を超える大陸棚資源は連邦政府によって領有されることになった。しかし、

大陸棚法の適用範囲はマレー半島に限られ、サバとサラワクのボルネオ2州には適用が見送ら

れ、領海法もサバ州、サラワク州とも同意していない。サバとサラワクに対してはマレーシア連

邦に帰属させるために大幅な自治が与えられた。かつ、サバ、サラワクともイスラム教徒は当時

30%強と少数であり、マレー半島からマレー・イスラムの浸透や人の移動の自由に対する警戒か

ら現在でも、サバ、サラワクに行くにはパスポートの提出が義務付けられている。

1974年に、これまでの石油鉱業法に代わり石油開発法が制定された。その眼目は、インドネ

シアのプルタミナに倣ってペトロナスを設立すること。そしてペトロナスにマレーシアの石油資

源を全面的に委譲することにあった。したがって、これまで法的に未解決であったサバ、サラワ

ク両州の石油管轄権もペトロナスに移転され、同時にそれまで石油会社に譲渡されていた石油の

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および情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定の

アドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の

図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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5. マレーシアPSCの特徴

現行のPSCの基本となっているのが1997年モデルである。そのほか限界油田を想定した別Risk

Service Contract(RSC)モデルおよびEOR使用を考慮したPSCがある。

また、近年2010年以降徐々に「費用を上回る収益」という概念に基づくPSC(new PSC based

on “revenue over cost” concept、R/C PSC) が登場し使用されている。R/C PSCは、他の国のPSC

には類をみないペトロナスによる革新的な試みである 3。以下、東北大学名誉教授の猿渡氏の論文

から引用する。

「R/C PSCは、探鉱・開発のための作業を自社のコスト負担で請負い、コストの回収分および

報酬を取り決められた割合のコスト・オイル(ガス)および利益オイル(ガス)として生産物で受け

3 「国営石油会社ペトロナスの技術能力構築と競争優位-石油探鉱開発契約と市場セグメントの創出を通じ

た技術能力構築-」東北大学経済学部名誉教授 猿渡啓子 2017年8月31日発行

http://hdl.handle.net/10097/00123662

利権はすべて無効とされることとなった。次に、ペトロナスが石油資源の所有者であるのみな

らず、その開発を管理する唯一の機関となったことである。

ペトロナスと石油開発上流会社が新たに締結した生産分与契約により予想利潤が圧縮された

エッソは操業の一時停止をして抵抗し、コノコは撤退した。

この石油開発法の結果、州政府の取り分はRoyaltyの半分5%となった。連邦側取り分は、

当時ペトロナスが生産量の27%、政府が36.5%となった。

サラワクとサバの両州は当然石油権限の委譲に難色を示したが、その間に力を付けたマレー

シア連邦政府は、中央に反発する州政府の首相を解任し、また非常事態宣言を発して圧力をか

け続けた。

連邦体制における石油資源の主権の保障という特権的な地位がサバとサラワクを連邦へと引

き付けたひとつの要因であるが、マレーシア連邦政府は発足より中央集権の拡大を目指したの

である。

Page 20: マレーシア、ペトロナスに関する考察(後編)...Murphy Oil 28.99 42.38 71.37 ConocoPhillips 9.42 59.28 68.70 PTTEP 46.20 4.15 50.35 Repsol 13.55 20.51 34.06 プルタミナ

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取るという点では従来のPSCと変わらないが、従来のPSCにはなかった「費用を上回る収益」と

いう概念がコントラクターの収益性を測る指標として開発され、その概念に基づいて財務管理され

る。一般的には利益率は IRR として計算されるが、「費用を上回る収益」概念に基づく財務管理

では、収益性はコントラクターのR/C Indexで判断される。

コントラクターのR/C Indexは次のように定義される。交渉に合意した時点の条件および技術に

基づいて、コスト、埋蔵量、原油(ガス)価格が見積もられ、それらの推定値を用いて R/C Index

が作成されるが、R/C Indexの分母はコントラクターの探鉱・開発のための投資や作業コスト、分

子は契約発効日からのコントラクターの累積的コスト回収原油(ガス)+累積的利益原油(ガス)と

なる。」

また、2019年の鉱区入札から大水深と浅海の区分が導入され、生産期間が25年から20年に短

くなった他、コスト認定の限度額が低くなったなど浅海での条件は若干厳しくなった。

このように、マレーシアのPSC はペトロナスとコントラクターの取り分がケースバイケースで

可変であることから複雑であり、かつインドネシアや他の国と異なり交渉により決定される余地も

残され、落札してから PSC が締結されるまで半年以上掛かることも珍しくない。通常毎年 10 月

末に翌年の鉱区入札が発表されるが、決着はこれまで翌年秋頃であったという(ただし2019年は6

月末に Award を目指している)。ペトロナスは、何種類かの PSC およびガスの買い取り契約の

フォームを準備しており、フィールド条件ごとに使い分けているという。

次に、マレーシアのFiscal Terms の概要を別紙に示す。R/Cという概念の導入により一見した

だけでは分かりにくくなっている。最終的なコントラクターの手元に残るキャッシュは標準的な油

の場合で 20%弱、ガスの場合で 25%程度といわれており、世界的にみて条件面は上流開発コント

ラクターにとっては厳しい。しかしながら、ペトロナスの監督体制への信頼性、多くの油・ガス田

があり探鉱の結果、生産に繋がる可能性が高いという、まったくのニューフロンティアではないた

め、投資的には堅実といえよう。

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6. 最後に

一見磐石そうにみえるペトロナスであるが、国内の上流開発に限れば、今後数年間のガス生産は

増加基調であるが、その後2023年以降に減産が見込まれる。未開発ガス田は、既に述べたとおり

規模が小さく、深海にあり、また高濃度の二酸化炭素を含んでおり現在のLNG価格からすると開

発コストを考えると採算性がとりづらいかもしれない。また、油田も同様に開発が困難になってき

ており、いわゆる“イージー・オイル・ガス”の時代は去り、開発は常にチャレンジングである。

一方、これまでの開発からサバ沖を除きパイプラインネットワークは発達しており、またCarigali

は大水深での経験を積んできている、更にペトロナスは、世界初の FLNG の運用にも成功し技術

的には東南アジアのNOCの中では抜きん出いるといわれている。ただし、一部にはCarigaliの技

術もプロジェクト・マネージメント能力も未だグローバルレベルには達していないとの指摘もある。

PSC とそれに基づく財務条件は、交渉によって決められる事項があるが、ガスはペトロナスが

全量買い取りすることが決められている。BintuluでのLNG液化プラントに優先的にまわすため

サラワク沖で生産されたガスの買い取り価格は、LNG 販売価格で優位性を保つためにマレー半島

沖のガスと比べ特に低く抑えられているようだ。しかし、今後は探鉱・開発費が嵩むことになり、

採算性の問題が浮上してこよう。

ペトロナスは、PSC の規定を柔軟に変更しようと試み、交渉を通じて外国投資家の要望を取り

入れ投資を惹きつけようと努力はしている痕跡は認められる。しかし、前編で眺めた国家機関とし

てのペトロナスの特性から判断して、ペトロナスおよび国家の取り分を大幅に減じ、コントラクタ

ーに与えることは容易ではないと推察される。今後のペトロナス、マレーシア連邦とサラワク州と

の問題を含め石油・ガス上流開発の舵取りに注目していきたい。

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別紙 マレーシア 1997年PSCモデルに基づくFiscal Terms(財務条件)概要

1 サインボーナス

2 プロダクションボーナス

3 PSC期間(大水深200m超、浅海)

4国の参加率(ただし、探鉱・評価費用は100%コントラクター負担)

5 Royalty (連邦:州=50:50)

6 Profit Sharing

7 Cost Recovery

8 Excess Cost Recovery

9 Income Tax

10 Taxable base

11 Loss Carry Forward

12

Additonal Petroleum Tax (油・ガスのBasePriceを超過した分) ただし、R/C Ratio1.0超。2019年 Base Price:油価US$59.25/bbl、GasUS$ 4.26/MMBtu

13 Withholding Tax

14 Export Duty

15 Trainning Fee(探鉱開始から)

16 Research Cess (Tax) (生産開始から)

17 国内販売義務(Domestic Supply Obligation)

18 Abandonment Fund

19Investment Allowance(大水深、EOR、高二酸化炭素濃度、大水深かつ高温高圧)

項目

80%-20% *別表3参照

内容

なし

なし

最低15%(通常20%以上、50-60%もある。交渉可能)

最大10%ただし、10%以外の例なし

油:要求ベース(30日前通知で最大50%)ガス:100%ペトロナスへ売却(ペトロナスと共同で買い手と販売契約を結ぶ場合あり)

資本的支出の60% 、課税対象から減額

探鉱5年、開発6年、生産25年(浅海:同4年、4年、20年)

年間生産量、残りの生産量見込み、廃坑費用見積もりおよび既に廃校ファンドに拠出した額から導き出された年間拠出額

限度額は各四半期毎の70-30% (コントラクターのR/C Ratioによる)*別表2参照

課税ベース:Royalty控除後のプロフィット、コストリカバリー減額:定義された探鉱費用、トレーニング費、Research Cess、Abandonment Fund拠出額、Export Tax、SupplementaryPayment、減価償却費、運転費用、定義された資本的支出の一部

コントラクター取り分10%~80% *別表1参照

38%(限界油ガス田25%)

No time limitation (PSC期間中)

70% for Oil, 60% of Gas

なし

10%(ただし、限界油ガス田なし)

交渉可能。概ね探鉱期間10万ドル/年

コントラクターのコストリカバリーと利益の0.5%

出所 各種資料をもとにJOGMEC作成

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図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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別表1 Profit Sharing with Revenue over Cost (R/C) Ratio

Profit Sharing Pool

Cumulative Production ≤Cumulative ThresholdValue

CumulativeProduction .>Cumulative ThresholdValue

0 < R/C ≤ 1.0 80 40

1.0 < R/C ≤ 1.4 70

1.4 < R/C ≤ 2.0 60

2.0 < R/C ≤ 2.5 50

2.5 < R/C ≤ 3.0 40

R/C > 3.0 30 10

Contractor's Share

Gross Production less Royalty and Cost Recovery

Rate (%)

30

Non-Incremental slidingscale tied to contractor'sR/C Ratio and cumulativeproduction

MethodContractor's R/C

Ratio

出所 各種資料をもとにJOGMEC作成

別表2 Cost Recovery Ceiling (限度額) Profit Sharing Pool

0 < R/C ≤ 1.0 70

1.0 < R/C ≤ 1.4 60

1.4 < R/C ≤ 2.0 50

R/C > 2.0 30

Rate

MethodContractor's R/C

RatioRate (%)

Gross Production less Royalty and Cost Recovery

Non-Incremental slidingscale tied to contractor'sR/C Ratio and cumulative

production

出所 各種資料をもとにJOGMEC作成

別表3 Excess Cost Recovery (限度額に達しない場合の追加コスト回収)

Cumulative Production ≤Cumulative ThresholdVolume

Cumulative Production >Cumulative ThresholdVolume

R/C ≤ 1.4 80

1.4 < R/C ≤2.0 70

2.0 < R/C ≤ 2.5 60

2.5 < R/C ≤ 3.0 50

R/C > 3.0 40 20

40

Contractor's Share of Excess Cost Recovery (%)

Non-Incremental slidingscale tied to contractor'sR/C Ratio and cumulative

production

where: Threshold Volume for each field is the lesser of (a) gross production of 30MMbbl

Method Contractor's R/C Ratio

出所 各種資料をもとにJOGMEC作成