ワイン・ツーリズムの可能性と示唆...ワイン・ツーリズムの可能性と示唆...

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本レポートに掲載されている情報の正確性については万全を期してはおりますが、人為的・機械的その他何らかの理由により誤りがある可能 性があります。当社は、利用者がこれらの情報を用いて行う判断の一切について責任を負うものではありません。 ©2009 Space & Environment Institute, Mitsui Fudosan Co., Ltd. All Rights Reserved 1 ワイン・ツーリズムの可能性と示唆 2009 年 2 月 25 日 S&E総合研究所 はじめに 本レポートでは、西欧諸国や米国・豪州等で近年盛んになり、日本でもその機運が生じ てきたワイン・ツーリズムについて、ホスピタリティ産業としての飲食業やリゾート業に おける可能性とその動向が示唆する余暇生活の方向性を考察します。 ワインは、種類の豊富さと複雑で深い味わいから、嗜好品の域をはるかに超えて、その 虜になっている熱狂的愛好家が少なくありません。他方で、結婚式や誕生日などハレの場 で飲む特別なお酒ではなく、家庭やレストランで食事と一緒に飲むごく普通のお酒として も定着してきました。したがってワイン・ツーリズムは、富裕層や一部の好事家のためだ けにあるものではなく、ワインをたしなむ一般の人、あるいはお酒は飲めないがワイン文 化に興味のある人などが気楽に参加して楽しむものです。 またワイン・ツーリズムはニューツーリズムの一形態であり、スローライフやスローフ ードなどライフスタイルの変化とも関連しています。したがって、その動向を観察するこ とで、消費者が余暇や非日常に求めるテイストを理解する手掛かりを得ることができます。 このようなワイン・ツーリズムの実際を、本レポートを通じて多少なりともお伝えでき れば幸いです。 なお本レポートは、酒造業としてのワイナリーを論じることが目的ではありませんが、 ワイン・ツーリズムの背景的な基礎知識として、ワインの製法と市場のあらましを末尾に まとめておきましたので、興味のある方は参考にしてください。 目次 1.ワイン・ツーリズムとは 2.首都圏近郊の注目すべきワイナリー 3.ワイン・ツーリズムにみる現代人が余暇に求めるもの 参考:ワインの製法と市場のあらまし 1. ワイン・ツーリズムとは まずワイン・ツーリズムとはどういうものかを概観しましょう。 (1)世界中で盛んになるワイン・ツーリズム この 10 年間で、ワイン・ツーリズムがあらゆるワイン生産国で盛んになり、今やツーリ ズムにおける一分野となりました。ではワイン・ツーリズムの目的はどこにあるのでしょ うか。

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Page 1: ワイン・ツーリズムの可能性と示唆...ワイン・ツーリズムの可能性と示唆 本レポートに掲載されている情報の正確性については万全を期してはおりますが、人為的・機械的その他何らかの理由により誤りがある可能

本レポートに掲載されている情報の正確性については万全を期してはおりますが、人為的・機械的その他何らかの理由により誤りがある可能

性があります。当社は、利用者がこれらの情報を用いて行う判断の一切について責任を負うものではありません。

©2009 Space & Environment Institute, Mitsui Fudosan Co., Ltd. All Rights Reserved 1

ワイン・ツーリズムの可能性と示唆

2009 年 2 月 25 日

S&E総合研究所

内 藤 伸 浩

はじめに

本レポートでは、西欧諸国や米国・豪州等で近年盛んになり、日本でもその機運が生じ

てきたワイン・ツーリズムについて、ホスピタリティ産業としての飲食業やリゾート業に

おける可能性とその動向が示唆する余暇生活の方向性を考察します。

ワインは、種類の豊富さと複雑で深い味わいから、嗜好品の域をはるかに超えて、その

虜になっている熱狂的愛好家が少なくありません。他方で、結婚式や誕生日などハレの場

で飲む特別なお酒ではなく、家庭やレストランで食事と一緒に飲むごく普通のお酒として

も定着してきました。したがってワイン・ツーリズムは、富裕層や一部の好事家のためだ

けにあるものではなく、ワインをたしなむ一般の人、あるいはお酒は飲めないがワイン文

化に興味のある人などが気楽に参加して楽しむものです。

またワイン・ツーリズムはニューツーリズムの一形態であり、スローライフやスローフ

ードなどライフスタイルの変化とも関連しています。したがって、その動向を観察するこ

とで、消費者が余暇や非日常に求めるテイストを理解する手掛かりを得ることができます。

このようなワイン・ツーリズムの実際を、本レポートを通じて多少なりともお伝えでき

れば幸いです。

なお本レポートは、酒造業としてのワイナリーを論じることが目的ではありませんが、

ワイン・ツーリズムの背景的な基礎知識として、ワインの製法と市場のあらましを末尾に

まとめておきましたので、興味のある方は参考にしてください。

目次

1.ワイン・ツーリズムとは

2.首都圏近郊の注目すべきワイナリー

3.ワイン・ツーリズムにみる現代人が余暇に求めるもの

参考:ワインの製法と市場のあらまし

1. ワイン・ツーリズムとは

まずワイン・ツーリズムとはどういうものかを概観しましょう。

(1)世界中で盛んになるワイン・ツーリズム

この 10 年間で、ワイン・ツーリズムがあらゆるワイン生産国で盛んになり、今やツーリ

ズムにおける一分野となりました。ではワイン・ツーリズムの目的はどこにあるのでしょ

うか。

Page 2: ワイン・ツーリズムの可能性と示唆...ワイン・ツーリズムの可能性と示唆 本レポートに掲載されている情報の正確性については万全を期してはおりますが、人為的・機械的その他何らかの理由により誤りがある可能

ワイン・ツーリズムの可能性と示唆

本レポートに掲載されている情報の正確性については万全を期してはおりますが、人為的・機械的その他何らかの理由により誤りがある可能

性があります。当社は、利用者がこれらの情報を用いて行う判断の一切について責任を負うものではありません。

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ワインはいうまでもなくぶどう酒であり、美味しいぶどう酒をつくるには、ぶどうの実

が決め手となります。そしてぶどうの実の良し悪しは、ヴィンヤード(ワインの原料とな

るぶどうを栽培する畑)の地理や気候、土壌等に左右されます。そうしたヴィンヤードを

取り巻く一切の環境は「テロワール」と呼ばれます。ワイン愛好家なら自分の好きなワイ

ンがどんなテロワールで育ったぶどうからつくられたものなのか、大いに興味がわくとこ

ろであり、これがワイン・ツーリズムの動機を形成するもっとも基本的な心情でしょう。

さて、フランスやイタリア、スペインなど古代からワインを生産し、食生活に深くワイ

ンが根付いている西欧諸国では、以前からワイン・ツーリズムがありました。フランスの

アルザス地方やブルゴーニュ地方では、造り酒屋が旅行者に自家のワインをふるまうこと

で、自分の作るワインの素晴らしさを訴え、同時に彼らに現金収入を得る機会をもたらし

ました。ワイン愛好家にとっても、日頃からなじみのある銘醸ワインの産地を実際に訪れ、

ワイナリー(ワイン醸造所)や産地の風土を知ることで、さらに愛着と感慨をもってワイ

ンを飲むことができるようになります。またテイスティング(味見)をしながら、生産者

から直接ワイン造りの苦労話を聞くことも楽しみの一つです。さらに割安のワインを直販

してもらえるという実利もあります。

こうしてワイン・ツーリストが増加する中、多くのシャトー1を擁し銘醸地の誉れ高いボ

ルドー地方においても、世界的に有名なシャトー・ムートン・ロートシルトが構内にワイ

ン美術館を作ったり、シャトー・ランシュ・バージュが 17 世紀の建物を改装して「シャト

ー・コルディアン・バージュ」という直営ホテルを開設したりするなどツーリストを積極

的に受け入れる姿勢に転じたことが、フランスそして西欧諸国のワイン・ツーリズムをさ

らに盛り上げることになりました。

写真 1 ナパ・ヴァレーのヴィンヤード 写真 2 「オーパスワン」(ナパ)の建物

アメリカやオーストラリア、ニュージーランドなどの入植後ワインを作り始めた、いわ

ゆる新世界ワインの生産国においても、そのワインの評価の高まりとともにワイナリー見

学に訪れる人々が増加していきました。

1 シャトーとは元来、貴族の館(城)を意味するフランス語ですが、特にワインとの関係では、ヴィンヤードを所有する貴族の邸宅という意味で使われ、現在は、ボルドー地方で、ぶどうの栽培から醸造、瓶詰までを一貫してワインを製造するワイナリーのことをシャトーと呼んでいます。

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ワイン・ツーリズムの可能性と示唆

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なかでも大小約 300 のワイナリーが集積する米国のナパ・ヴァレー2には、今や年間 500

万もの人々がワイナリーを目当てに訪れています。多くのワイナリーが広大なヴィンヤー

ドとアート感覚にあふれる優雅な建物を持っており、ワインのテイスティングとともに、

それらを見学するのがツーリストの楽しみになっています。100 室超の高級リゾートホテ

ル9件を含む約 100 件の多様な宿泊施設があり、ゆっくりと滞在しながらワイナリーめぐ

りが楽しめます。また小粋なレストランが数多くあり、豊富なバラエティから自分の好み

に合ったお店を選べます。さらに、現代アートを中心にしたいくつものユニークなミュー

ジアムがエリア内に点在し、コンサートやファーマーズ・マーケット、ワイン・トレイン、

熱気球ツアーなどの多彩なアクティビティも用意されています。まさに‘ワイン・リゾー

ト’と言うべきリゾート・デスティネーションが形成されています。

(2)ワイン・ツーリズムの定義

このように世界的に拡大したワイン・ツーリズムには、以下の要素が含まれています。

・ワイナリーによる見学者受け入れ

・レストラン、宿泊施設、ヴィンヤードを見渡せる場所

・ワイン関連イベント(ex.収穫祭やワイン展示会、ワインセミナーなど)

・ミュージアム(ex.美術館、博物館)

・ライブイベント(ex.コンサート、演劇、気球ツアー)

「ワイナリーによる見学者受け入れ」は、ワイン・ツーリズムが成立するための必須条

件です。ワイナリーがツーリストを迎え入れる体制を整えていなければワイン・ツーリズ

ムは成立しないからです。

「レストラン、宿泊施設、ヴィンヤードを見渡す場所」も、準必須条件といってよく、

ツーリストがワインとワインを育む風土を満喫するためにはぜひとも必要な施設です。

ワイン関連イベントやミュージアム、ライブイベントは、必ずしもなくてはならないも

のではありませんが、ツーリストがより豊かな時間を過ごすための仕掛けとして重要なも

のです。ただし中途半端なものは、地域の雰囲気を壊し、かえってマイナスに働くおそれ

もあります。

さてこのように幅広い要素を含むワイン・ツーリズムを、ワインの主要生産国の一つで

あるオーストラリアの研究者3は次のように定義しています。

「ワインのテイスティング(味見)ないしワイン産地の風土の体験を主たる目的として、

ぶどう畑やワイナリー、ワイン祭り、ワイン展示会などに訪れること」4(翻訳および下

線は本レポート筆者)。

またオーストラリアのワイン生産者協会の定義は、以下のとおりです。

2 カリフォルニア州サンフランシスコの北東約 80km のところにある Napa の街から北に約 50km ほど続く盆地状の土地。ナパ・ヴァレーを含むナパ郡(county)の人口は、約 12 万 5 千人。 3ワイン・ツーリズムは、イギリスやオーストラリア、アメリカなどで、大学(観光学部等)の研究分野となっています。 4 Jack Carlsen and Stephen Charters;GLOBAL WINE TOURISM,p1

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「ワインと食事、ワイン産地の風景と文化的行事などワインにまつわる様々な楽しみを伴

ったオーストラリアの今日的ライフスタイルの特徴を体験するために、ワイナリーとワ

イン産地を訪れること」5(翻訳および下線は本レポート筆者)。

つまりワイン・ツーリズムの核となるアクティビティは、ワイナリーを訪れることです

が、それだけではなく、ヴィンヤードあるいはその周辺の風土や地域文化を体験し見聞す

ることもワイン・ツーリズムの重要な要素であることを、これらの定義は示しています。

このことは、やはりオーストラリアの研究者が指摘する、ワイン・ツーリズムをより一

層充実する8つの要素(eight key enhancement factors)をみることで、より明らかにな

ります。

「①本物の体験(Authenticity of experience)

②お値うち感(Value for money)

③サービスにおけるツーリストとの相互交流(Service interactions)

④施設と環境(Setting and surroundings)

⑤様々な商品サービスの提供(Product offerings)

⑥有用情報の広報(Information dissemination)

⑦個人の成長:学習体験(Personal growth:learning experiences)

⑧気ままさ:ライフスタイル(Indulgence:lifestyle)」6(翻訳は本レポート筆者)

特に①本物の体験、③相互交流、⑦学習体験、⑧ライフスタイルの4つは、ワイン・ツ

ーリズムが単にワインという「もの」を楽しむだけではなく、ワインを媒介にした幅広い

「こと」を経験し享受する活動であることを示唆しています。

(3)日本のワイン・ツーリズム

日本でも近年ワイン・ツーリズムが盛んになってきました。本格的なワインを生産する

有名ワイナリーやおしゃれなレストランのあるワイナリーには、多くの観光客が押し寄せ

ています。

日本には、北は北海道から南は九州まで、100 件以上のワイナリーが存在し、多くのワ

イナリーが見学者を積極的に受け入れています。特に自治体や地元農協が直営あるいは第

3セクター方式で運営するワイナリーは、ワイン生産とともに、観光資源開発や町おこし・

村おこしの視点をふまえて設立されています。これらの多くは駐車場を完備した立派な建

物の中にレストランや地元物産店を併設し、ワイン・ツーリズムに積極的に取り組んでい

ます。

北海道・池田町(「十勝ワイン」)、北海道・富良野市(「ふらのワイン」)、山形県・朝日

町(「朝日町ワイン」)、兵庫県・神戸市(「神戸ワイン」)、広島県・三次市(「みよしワイン」)、

島根県・出雲市(「島根わいん」)などのワイナリーは、いずれも本格派ワインの生産に取

り組み、地域名を冠したブランドでワインを販売するともに、それ自身が多くの観光客が

訪れる観光拠点となっています。

5 同上,p2 6 同上,pp47-55

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例えば瀟洒な建物の「島根ワイナリー」(出雲市)は、出雲大社を含む島根観光ルートの

ひとつとして年間 100 万人が訪れ、売店とレストランの売上が合計 20 億円にのぼる人気ス

ポットです。

写真 3「池田ワイン城」(十勝ワイン) 写真 4「ふらのワイン」のレストラン

もちろん次章で詳しくご紹介するように、民間でもこうしたワイン・ツーリズムに積極

的に対応するワイナリーが増えています。

他方で、日本ではワイン・カントリーと呼べるような、ワイナリーがまとまった形で集

積する地域はごく限られており、甲州市勝沼町(山梨県)、塩尻市(長野県)、山形県南部

地区の3つといってよいでしょう。さらにこの中でも、ワイン・ツーリズムのデスティネ

ーション性を整えた地域は、今のところ、130 年のワインづくりの歴史と日本一のワイナ

リー集積を誇る勝沼町だけでしょう。塩尻市には赤ワイン用メルロー種栽培で有名な「桔

梗が原」のあり、ここを中心に 10 件近いワイナリーが集まっています。しかし、常時見学

者を受け入れているワイナリーは限られていますし7、レストランもあまりありません。山

形県南部地区も7件のワイナリーが比較的近くにあるものの、上山、高畠、赤湯、米沢に

分散し、地域的一体性はあまり強くありません。

これに対して 30 件を超えるワイナリーが集積する勝沼町では、訪れる多くのワイン愛好

家のために、ほとんどのワイナリーが常時見学者を受け入れています。また多くのワイナ

リーに気軽に試飲ができるカウンターや買い物ができるショップがあります。さらにワイ

ンとともに本格的な食事が楽しめるレストランがワイナリー構内やその周辺で多数営業し

ています。

なかでも甲州市直営の「ぶどうの丘」は、ぶどう畑に囲まれた小高い丘の上に建つ複合

施設であり、勝沼のワイン・ツーリズムの中心的存在です。

7 ただしワイナリー・フェスタの開かれる 10 月~11 月の土日に限っては、ほぼすべてのワイナリーで見学者を受け入れ、ツーリストのための臨時バスも運行されています。その意味では塩尻地区においてもワイン・ツーリズムの胎動が始まっています。

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ヨーロッパ的雰囲気をもつ山荘風ホテル、甲府盆地から南アルプスまでを見渡せる眺望

のよいレストラン、大きな地下ワインカーブ、バーベキューガーデン、温浴施設「天空の

湯」、イベント・ホール、噴水広場、見晴らしの良い散策路など、ワイン・ツーリズムをゆ

ったりと楽しむための施設が整っています。

写真 5 勝沼「ぶどうの丘」

とりわけ秀逸なのがワインカーブです。ここには年2回行われる審査会をパスした 170

銘柄約2万本の甲州ワインがそろっていて、1,100 円を支払えば、すべてのワインを試飲

することができます。バスで乗り付ける団体客も多く、週末ともなると大勢の観光客でに

ぎわっています。ホテルの予約も週末は半年先までほぼ満室状態です。年間約 20 万人がぶ

どうの丘を訪れていて、総売上高は約 10 億円ですが、約半分はワイン販売によるものです。

このように勝沼はエリア全体がまさに「ぶどうとワインの町」としてのアイデンティテ

ィを共有し、ワイン・ツーリズムのデスティネーション性を確立しています。惜しむらく

は、勝沼には本格的ホテルが「ぶどうの丘」以外になく、「ぶどうの丘」のサービスも、や

はり公営による限界を感じざるを得ない面がある点です。勝沼のワイナリー集積度と都心

から車や電車で 1 時間強という利便性を考えれば、より充実した宿泊施設があってよいで

しょう。首都東京を後背地にもつ勝沼は、ナパ・ヴァレーのような洗練されたワイン・カ

ントリーとなる可能性を秘めています。

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ワイン・ツーリズムの可能性と示唆

本レポートに掲載されている情報の正確性については万全を期してはおりますが、人為的・機械的その他何らかの理由により誤りがある可能

性があります。当社は、利用者がこれらの情報を用いて行う判断の一切について責任を負うものではありません。

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2. 首都圏近郊の注目すべきワイナリー ワイナリーとはワインの醸造を行う酒造メーカー8のことですが、本レポートは酒造業と

してのワイナリーを論じることが目的ではありませんので、ワイナリーが製造するワイン

の内容やその評価については 小限の記述にとどめ、ワイナリーがワイン・ツーリズムに

どのように向きあい対応しているかを、主としてホスピタリティ産業としての飲食業やリ

ゾート業の観点から記述します。

こうした意味で、注目すべきワイナリーが国内外に数多くあります。また自治体系ワイ

ナリーには地域おこしの視点から、ボルドーやナパ・ヴァレーなど欧米のワイン・カント

リーには大規模リゾートの視点から、それぞれ注目すべきワイナリーがあります。しかし

それらの紹介は別の機会に譲り、今回は首都圏から2時間以内で行くことのできる身近な

ワイナリーに絞ってご紹介します。

(1)緑の中の小粋な本格派ワイナリー

まずご紹介する「ヴィラデスト」と「ココ・ファーム」は、小規模ワイナリーであるに

もかかわらず、どちらも沖縄サミットや洞爺湖サミットの会食会用ワインに選ばれた本格

派ワインを生産しています。そしてワイナリー直営のレストランとショップを併設し、決

して交通の便がよいとはいえない場所にあるにもかかわらず、週末ともなると予約しなけ

れば入れないほど多くの人々が訪れるワイン・ツーリズムの人気スポットです。

ヴィラデスト・ガーデンファーム・アンド・ワイナリー

【所在地】長野県東御市和 6027

【アクセス】在来線:しなの鉄道大屋駅からタクシーで約 15 分

新幹線:上田駅からタクシーで約 20 分

自動車:上信越自動車道・東部湯の丸 IC から約 10 分

【開業】2004 年【自社畑】約 3ha

【付帯施設】カフェレストラン、フラワーガーデン、野菜ファーム、ワイン&セレクトグ

ッズ・ショップ

【ワイナリー・ツアー】土日祝(2 回/日)

ヴィラデストは長野県東御市(とうみし)の北方、標高約 850mの緑に囲まれた小高い

丘の上にあります。文筆家でもある玉村豊男ご夫妻が 10 年がかりで一からつくり上げたワ

イナリーです。趣味で始めたぶどう畑の規模を拡大し、現在のワイナリーを開業したのは

2004 年。まだ歴史が浅くワイン製造施設も 小限のものですが、2008 年には国産ワインコ

ンクールで入賞し、また洞爺湖サミットのワーキングランチのワインにも選ばれました。

8 日本ワイナリー協会に問い合わせたところ、法律的に「ワイナリー」の定義はないが、当協会としては、ワインの醸造者、すなわち酒税法上の醸造免許を取得して醸造過程を自ら行うものを会員資格としている、とのことでした。

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ワイン・ツーリズムの可能性と示唆

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ワイナリー施設と製造工程はすべてカフェからガラス越しにいつでも見ることができ、

土日には無料のワイナリー・ツアーが日に2回開催されています。しかし何といってもこ

この魅力は、豊かな緑に囲まれた静かな自然環境とレストランからのすばらしい眺めです。

特にテラス席からは、ヴィンヤードと四季折々の花やハーブを楽しめるガーデンが眼前に

広がり、その先に上田盆地と千曲川の流れを見下ろしながら、遠く北アルプスの稜線を望

むことができます。また自家農園野菜を中心にしたヘルシーな食事やセンスのよい食器や

オリジナルグッズを揃えた小粋なショップも魅力的です。

軽井沢から車で小 1 時間のところにあるとはいえ、もより駅からはタクシーを使うしか

ない不便な立地にもかかわらず、土日ともなれば多くの人々が集まり、大変なにぎわいで

す。規模が小さいこともあり、レストランは予約をしておかなければ何時間も待つことに

なる場合があります。

この人気の秘訣は、里山の暮らしをワイナリーの営みを通じて体験してもらう「ミュー

ジアム農業」というコンセプト9をたて、それに沿って建物やランドスケープをつくり込ん

でいるところにあるからでしょう。顧客は畑に入ってレストランで供される色鮮やかな野

菜を直に見ることができ、従業員が野菜を採りにいく場面にも遭遇します。里山というと

和のイメージが強くワイナリーとは一見ミスマッチに感じるかもしれませんが、自然の恵

みを享受しながら人間が自然と共生するという点では同じです。日本の現代生活は洋の要

素を深く取り込んでおり、その意味で今日的な里山暮らしを表現したものといえましょう。

大きなコストをかけていないにもかかわらず、居心地のよい明るい雰囲気をつくりだして

いるヴィラデストは、ホスピタリティ産業としての飲食業やリゾート業にとっても多くの

示唆を与える存在です。

9玉村豊男『里山ビジネス』,pp94-104

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ワイン・ツーリズムの可能性と示唆

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写真 6 「ヴィラデスト・ガーデンファーム・アンド・ワイナリー」

ココ・ファームワイナリー

【所在地】栃木県足利市田島町 611

【アクセス】電車:足利駅(東武・JR)からタクシーで約 20 分

自動車:東北自動車道・佐野藤岡 IC から約 40 分

【開業】1980 年【自社畑】約 4ha

【付帯施設】カフェレストラン、ワイン&自家製チーズ・洋菓子ショップ

【ワイナリー・ツアー】3回/日

ココ・ファームは、栃木県足利市の市街地北方の山間にあります。知的障害者更生施設

「こころみ学園」を母体に 1980 年に設立されたもので、そのヴィンヤードは、1950 年代

から園児が農作業を通じて自立すること目指して山の急斜面を開墾したぶどう畑がもとに

なっています。

しかしそのワインづくりは本格的なものであり、1989 年にカリフォリルニアからワイン

づくりの専門技術者を招聘し、原料となるぶどうも自社畑のもの以外に、北海道から山梨

まで各地のぶどう栽培農家と委託栽培契約を結んで様々な品種を仕入れています。年間 16

万本を製造し、全国 200 店舗以上で販売されています。沖縄サミットと洞爺湖サミットの

夕食会用ワインにも選ばれました。

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ワイン・ツーリズムの可能性と示唆

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性があります。当社は、利用者がこれらの情報を用いて行う判断の一切について責任を負うものではありません。

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ワイナリー・ツアーは毎日3回行われ、参加者はヴィンヤードや醸造場内を、案内者の

説明を聞きながら見学することがきます。ワイン・ショップでは、有料ですが、常にワイ

ンの試飲ができ、カフェレストランで本格的なコース料理をとりながらワインを楽しむこ

ともできます。秋には収穫祭が催され、足利駅から臨時のシャトルバスが運行されていま

す。

このワイナリーの魅力は、広々として解放感あふれるデッキとセンスのよいショップで

す。デッキのテーブル席に座れば、眼前に広がるヴィンヤードを眺めながら戸外の新鮮な

空気の中で食事を楽しむことができます。またランチ・ボックスとワインを買って、園内

ピクニックも可能です。ワイン・ショップは広くはありませんが、センスのよいインテリ

アでまとめられ、ワインの他、おしゃれなパッケージの自家製クッキーやジャム、チーズ

なども売られており、バラエティに富んだお土産選びができます。

もより駅からはタクシーで来るしかない不便な場所にあり、周辺に他の施設は何もない

にもかかわらず、週末ともなると、ここを訪れる人々の車で渋滞になるほどの人気ぶりで

す。ヴィラデストに比べれば全体に素朴ですが、それが周りの環境によくマッチしていま

す。2007 年には「デザイン・エクセレント・カンパニー賞」を受賞しています。ヴィラデ

ストと同様、ヴィンヤードや周りの自然との調和をはかることで、大きなお金をかけずに

気持ちのよい飲食物販空間の創造に成功しています。

写真 7 「ココ・ファーム・ワイナリー」

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ワイン・ツーリズムの可能性と示唆

本レポートに掲載されている情報の正確性については万全を期してはおりますが、人為的・機械的その他何らかの理由により誤りがある可能

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(2)ワイナリー・ウェディング

ここでご紹介するワイナリーは、比較的規模が大きく、ワイナリーの敷地内にレストラ

ンやショップの他に本格的なチャペルを持ちブライダル・ユースに積極的に対応していま

す。ハウス・ウェディングやガーデン・ウェディングの人気が高まっていますが、ワイナ

リーでのウェディングは、この両方の要素を兼ね備えています。豊穣の象徴であるぶどう

を育みキリスト教に深いかかわりをもつワインを醸し出すワイナリーは、結婚式や披露宴

にうってつけの舞台です。またワイナリーは自然豊かで風光明媚な地域にあることが多く、

リゾート・ウェディングの側面も持っています。日本人のためにナパ・ヴァレーなど海外

ワイン・カントリーでのウェディングを専門的に斡旋する業者もいるくらいであり、今後

日本国内でもワイナリー・ウェディングが増加していくものと思われます。

サンクゼール・ワイナリー

【所在地】長野県上水内郡飯綱町芋川 1260

【アクセス】電車:JR 長野駅より信越線で約 20 分の牟礼駅からタクシーで約 5 分

自動車:上信越自動車道・信州中野 IC から約 12 分

【開業】1990 年【自社畑】約 10ha

【付帯施設】レストラン、バンケット、チャペル、ワイン&自家製ジャムショップ

【ワイナリー・ツアー】3回/日、有料ヴィンヤード・ツアー(要予約、2000 円)

写真 8 「サンクゼール・ワイナリー」

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ワイン・ツーリズムの可能性と示唆

本レポートに掲載されている情報の正確性については万全を期してはおりますが、人為的・機械的その他何らかの理由により誤りがある可能

性があります。当社は、利用者がこれらの情報を用いて行う判断の一切について責任を負うものではありません。

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サンクゼールのある飯綱町は、長野市のある善光寺平から北へ 20km、野尻湖から南へ

10kmのところに位置します。斑尾山の南麓、また飯綱山の東麓にあたる、標高 600 メー

トルの見晴らしのよい丘の上に、ワイナリー、ジャム工房、レストラン、バンケット、チ

ャペルがそれぞれ独立して建てられています。オーナーの久世良三氏は、外食産業用食材

卸の大手、㈱久世(ジャスダック上場)を経営する一族の一員ですが、㈱久世とは取引関

係はあるもののワイナリーはその子会社ではないようです。

サンクゼールの魅力は、豊かな緑に囲まれた丘の上の牧歌的な雰囲気と、ヴィンヤード

越しに見下ろす小布施方面ののびやかな眺めです。漆喰と木でまとめられたレストランの

内装は落ち着いた高級感を漂わせ、大きな窓からはぶどう畑を見下ろすことができます。

戸外の広いデッキに座れば、ヴィンヤードとの一体感に浸れます。有機農法による自家栽

培野菜をふんだんに使った料理も魅力のひとつです。

ワイナリーはレストランとは少し離れた場所にありますが、石畳のエントランスからワ

イナリーのシンボルであるアーチをくぐると、ガーデン・ウェディングもできる芝生広場

があり、その先には、信州の田園風景が広がります。広々としたショップには、ワインの

他に、モンドセレクションを受賞したバラエティに富むオリジナル・ジャムが華やかに店

内を彩っています。団体バスもやってきて、善光寺や小布施方面の観光客も立ち寄り、非

常なにぎわいをみせています。

ブライダル・ユースにも本格的に対応しているサンクゼールでは、専用バンケットの他、

レストランを貸し切っての披露宴も可能です。緑の丘の上にたつ純白のチャペルが南欧風

のリゾート・ウェディングを演出し、その魅力に魅かれて、近傍はもとより遠方からも多

くのカップルが訪れて、結婚式を挙げています。

なおサンクゼールは長野・山梨や関東・関西に多くの直売店を持ち、「ラゾーナ川崎」や

「ららぽーと甲子園」の中にも出店しています。

中伊豆ワイナリー・シャトーT.S

【所在地】静岡県伊豆市下白岩 1433-27

【アクセス】電車:伊豆箱根鉄道修善寺駅からタクシーで約 15 分(送迎バス有り)

自動車:東名高速道路・沼津 IC から約 45 分

【開業】2000 年【自社畑】約 7ha

【付帯施設】レストラン2か所、カフェ、屋外バーベキューテラス、バンケット、チャペ

ル、ワイン&お土産ショップ、ワインコレクションセラー

【ワイナリー・ツアー】有り(無料)

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シャトーT.S は、伊豆半島の中央、温泉地として名高い修善寺の丘陵地帯にあります。

屋上に鐘楼をいただく4階建てのワイナリーは、シャトーというネーミングにふさわしい

堂々たる建物です。広々とした 1 階テラスから一面に広がる美しいぶどう畑を見下ろし、

いくつものレストランやカフェ、バーベキューテラス、バンケット、チャペル、陶芸ハウ

ス、ワインコレクションセラー、グラッパ蒸留所、ワイン・ショップなど多様な付帯施設

を有するシャトーT.S は、まさにワイナリー・リゾートといってよい規模とグレードを持

っています。

オーナーはカラオケ・レストランを全国展開するシダックスの創業者、志太勤(しだ・

つとむ)氏であり、「T.S」は同氏のイニシャルです。カリフォルニアのワイン・カントリ

ーに魅せられた同氏が、故郷である伊豆の地で世界に通ずる本格的ワインづくりを目指し

てこのワイナリーを起こしました。本来雨の多い伊豆地方はワイン用ぶどうの生産には向

いていませんが、レインカット方式10を導入するなどして、そのハンディキャップを乗り

越え、国産ワインコンクールで入賞を果たすワインを生産しています。年間 30 万本を生産

し、そのうち 15 万本がシダックスのカラオケ店で消費されているということです。

写真 9 「中伊豆ワイナリー・シャトーT.S」

10 ぶどうの樹の上にビニールシートの傘をつくり、根が雨水を吸収する量を調整することで、実の水分が多くなり過ぎないようにする方法です。

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このワイナリーの特色は、ワインの生産だけでなく、リゾートをつくるという明確な目

的を持って、ワイナリーを訪れる人々の飲食やブライダル・ユースを意図した本格的施設

が設けられているところです。カップルから家族連れや団体客まで、多様な飲食ニーズに

対応できるようコンセプトの異なる4つのレストランがあり、テイスティング・カウンタ

ーもワインのグレードに応じていくつかに分かれています。自社製品以外の海外有名ワイ

ンを飲むこともできます。

またブライダルにも本腰を入れて取り組んでいます。専用コーナーにプランナーが常駐

し、モダンなデザインによるチャペルと 大 150 人を収容するメインホールを含め大中小

の3つのバンケットが用意されています。また 200 人が着席可能な広大なぶどう棚の下で

ガーデン・ウェディングも可能です。春は新緑が天然の日傘となり、夏はみずみずしいぶ

どうの房が参列者の頭上を覆い、秋には紅葉が青空に映える、ぶどう棚の下での挙式は、

他では演出できない豊かさと華やかさをもたらします。シャトーT.S では、豊かな自然と

広大なぶどう園の中でのリゾート・ウェディングというコンセプトを明確に打ち出してい

ます。

大きな設備投資を伴った施設だけに、投下資金に見合った収益性が得られているかどう

かはわかりませんが、ブライダル・ニーズも取り込み、ワイン・ツーリズムに本格的に対

応した大規模かつ高級感のあるワイナリー・リゾートを日本で実現しているという点で、

本施設は一見の価値があります。特に豊かで潤いのある雰囲気をもつぶどう棚は、大きな

敷地やコストを必要としないので、リゾート施設や商業施設の飲食ゾーンやブライダルシ

ーンの演出として取り入れてみてもよいのではないでしょうか。

なお少し離れた場所に、プール・テニスコート・野球場・温浴施設をもつ「ホテル・ワ

イナリーヒル」が、同じくシダックスグループによって経営され、シャトーT.S とあわせ

て「伊豆ワイナーリーヒルズ」と命名されています。しかし、それらはもともと他社が経

営していた施設をシダックスが引き継いだものであり、ワイナリーとは施設コンセプトが

かなり異なっています。ワイナリーが瀟洒な雰囲気を実現しているだけに、両者を結びつ

けるのは少々無理が感じられ、少なくともワイン・ツーリズムの顧客とは別の層をターゲ

ットとした施設と思われます。

(3)古民家を利用したワイナリー

ワイナリーというと、ボルドーの重厚なシャトー風建物や白い漆喰壁の南欧風建物をつ

いイメージしがちですが、ここでご紹介する2つのワイナリーは、いずれも日本の古民家

を利用した施設が人気のワイナリーです。西洋建築は単体として見れば美しく荘重ですが、

日本の風景の中においてみると、どこか異質で陳腐な印象を与えることがあります。これ

に対して日本の古民家のもつ素朴で落ち着いた風情は、当たり前のこととはいえ日本の家

並みや自然環境によく調和します。またその室内空間はテーブルやワイングラスなどの洋

風家具調度ともよく調和して、初めて訪れてもどこか懐かしさを感じる独特な雰囲気を持

っています。洋風建築とは一味違う飲食物販空間として、その評価が高まっています。

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勝沼醸造

【所在地】山梨県甲州市勝沼町下岩崎 371

【アクセス】電車:J 電車:JR 勝沼ぶどう郷駅より徒歩 20 分

自動車:中央自動車道勝沼 IC より5分

【開業】1937 年【自社畑】約 2ha

【付帯施設】ギャラリー、ワイン・ショップ

【ワイナリー・ツアー】有り(有料)

勝沼醸造は 1937 年創業の老舗であり、多くの国際コンクールで入賞しヨーロッパにも輸

出する本格派ワイナリーです。約 130 年前に建てられた古民家を改造し、一階をショップ

とテイスティング・カウンター、二階をギャラリーとして利用しています。ギャラリーに

はワイングラス専門メーカーとして名高いリーデル社製のグラスやデキャンタを展示して

います。また少し離れた場所にあるワイナリー直営の「風」は、勝沼で大変人気の高い本

格的欧風料理レストランです。長崎の大浦天主堂をイメージしたクラシックな内装は、洋

風建築の中に和のテイストを漂わせています。

ワイナリー・ツアーは、醸造・栽培に関わるスタッフやソムリエが2時間をかけてヴィ

ンヤードやワインセラーを案内し、十数種のワインをテイスティングする機会を提供しま

す。またオーナー自らがガイドを務めレストラン「風」で一緒に昼食をとる4時間コース

もあります。ホームページにはワインづくりやワインのいろいろを分かりやすく説明する

コーナーが設けられています。このようなワイナリーらしい地道な活動によって、勝沼醸

造は当地におけるワイン・ツーリズムを盛り上げています。

写真 10 「勝沼醸造」(上段)、レストラン「風」(下段)

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原茂ワイン

【所在地】山梨県甲州市勝沼町勝沼 3181

【アクセス】電車:JR 勝沼ぶどう郷駅より徒歩 20 分

自動車:中央自動車道勝沼 IC より5分

【開業】1924 年【自社畑】約 1.5ha

【付帯施設】カフェレストラン、ガーデンテラス、ワイン・ショップ

【ワイナリー・ツアー】有り(無料)

原茂ワインは、勝沼の老舗ワイナリーのひとつであり、築 130 年以上の古民家を改造し

て作られたショップとカフェレストランが人気です。ワイナリーを訪れてまず目につくの

が敷地を囲む趣のある石垣と木製の看板です。そして入り口をくぐると、ぶどう棚におお

われた広い前庭があり、ぶどうの葉と房が陽光に照らされて明るく輝いています。その下

には気持ちのよいテラス席が設けられています。ワイナリーには、2階建ての母屋と平屋

建ての醸造場があり、どちらも趣のある木造建築です。明治初年建築の母屋は、1階をワ

イン・ショップとして利用し、薪ストーブがよく似合うシックで落ちついた雰囲気が魅力

的です。バーのような木製カウンターでは無料のテイスティング・サービスを行っていま

す。2階がカフェレストランで、コース料理こそありませんが、ワインによく合うプレー

ト料理に人気があり、週末ともなると行列ができるほどの繁盛ぶりです。

写真 11 「原茂ワイン」

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(4)大きなポテンシャルを秘めた大手酒造メーカー系ワイナリー

ここでご紹介する「サントリー登美の丘ワイナリー」と「シャトーカミヤ」は、どちら

も日本を代表する総合酒造メーカーの経営する施設です。また双方とも広大な敷地の中に

長い歴史を有する風格ある建物を有しています。来訪者への対応も充実しており、多くの

ワイン・ツーリストが訪れています。

サントリー登美の丘ワイナリー

【所在地】山梨県甲斐市大岱 2786

【アクセス】電車:JR 甲府駅からタクシーで約 25 分

自動車:中央自動車道・甲府昭和 IC から約 25 分

【開業】1936 年【自社畑】約 45ha

【付帯施設】レストラン、ワイン&ベーカリー・ショップ、

【ワイナリー・ツアー】定休日を除く毎日 5 回(無料)

登美の丘は、甲府駅から車で約 25 分、甲府盆地の北西端、茅ヶ岳山麓の南斜面にありま

す。総面積 150ha の広大なワイナリーであり、 も標高の高い見晴らし台園(600m)と麓

の醸造所の間には約 200m もの高低差があります。約 45ha の自社畑で、カベルネソービニ

ヨンやシャルドネなどの欧州系ぶどう品種を中心に栽培が行われています。

ここはサントリーの国内ワインづくりの中心であり、その歴史と規模、生産するワイン

の質において日本のワイナリーの頂点に立つ存在といって過言でありません。前所有者が

1909 年に創業した「登美農場」を 1936 年にサントリーが承継し、「日本のワインぶどうの

父」といわれる川上善兵衛がぶどう作りに取り組んで以来、栽培法や品種改良など日本の

ワインづくりを常にリードしてきました。2003 年には本ワイナリーの「登美 1997」が、フ

ランス・ボルドーの国際ワインコンクール「レ・シタデル・デュ・ヴァン」で、国産の赤

ワインとして初めて金賞を受賞しました。

丘の斜面をくり抜いてつくられた巨大な地下貯蔵庫には、フレンチ・オークの樽や 20

万本もの瓶が果てしなく並び、静かに熟成の時を刻んでいます。100 年の歴史がつもった

構内に佇めば、ヨーロッパの田舎町にいるような気分です。ワイナリーのもっとも高い位

置にある見晴らし台園には、来訪者のために、有料・無料のテイスティングができる大き

なワイン・ショップとレストランとがあります。その前には、れんがタイル張りの広々と

したテラスがあり、そこから望む雄大な眺めはまさに圧巻です。庭園のようにきれい手入

れされたヴィンヤード越しに甲府盆地を見下ろし、その先に富士山のそびえる風景は、第

一級のリゾート地のようです。

見学者のために専門の受付嬢が常駐し、ツアーガイドに構内を丁寧に案内してもらえる

体制は,さすがサントリー経営の大規模ワイナリーであり、ワイン・ツーリストなら一度

は訪れてみたいところです。ただし、ワイナリーまでのアクセスはタクシーか自家用車で

来るしかなく、宿泊施設もありません。またレストランは一つだけで、座席の予約はでき

ません。

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これらは本ワイナリーがあくまでぶどう栽培とワイン醸造を行うための生産拠点であっ

て、訪問者にサービスを提供することを本務としているわけではないからでしょう。もし

サンクゼールやシャトーT.S のようにワイナリーをホスピタリティ産業たるサービス業と

しても位置づければ、本ワイナリーは素晴らしいワイナリー・リゾ-トにもなるでしょう。

写真 12 「サントリー登美の丘ワイナリー」

シャトーカミヤ

【所在地】茨城県牛久市中央 3-20-1

【アクセス】電車:JR 牛久駅から徒歩約 8 分

自動車:常磐自動車道つくば牛久 IC から約 10 分

【開業】1903 年【自社畑】-

【付帯施設】レストラン2か所、カフェ、バーベキューテラス、ワイン・ショップ、チ

ャペル、

【ワイナリー・ツアー】-

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写真 13 「シャトーカミヤ」

シャトーカミヤは JR 常磐線牛久駅から徒歩8分の場所にあります。乗用車 280 台、大型バ

ス 40 台の駐車スペースもあり、電車でも車でも大変便利なところです。浅草・神谷バーで

知られる実業家神谷傳兵衛が 1903 年に開設したものであり、当時は周りに広大な自社ぶど

う園を有する日本有数の本格的ワイン醸造場でした。しかし今は、ぶどう畑はほとんど住

宅地に変わり、ワイン醸造もごくわずかに行われているだけでワイナリーとしての機能は

ほぼ休止しています。ただしその産業遺産としての歴史的価値は高く、2007 年に経済産業

省から「近代化産業遺産」に認定され、2008 年には旧醸造場施設 3 棟(事務室、醗酵室、

貯蔵庫)が「 初期の本格的ワイン醸造施設」として国の重要文化財に指定されました。

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現在のオーナーは、焼酎の「鍛高譚」や「博多の華」、清酒の「富久娘」や「北の誉」な

どの製造子会社を傘下に持つ総合酒造メーカーオエノンホールディングスです。

約 6ha の広大な敷地の中に、3つの本格的なレストラン、バーベキューガーデン、カフ

ェ、チャペル、ワインセラー&ショップ、お土産ショップ、神谷傳兵衛記念館などがあり、

飲食業を中心とした複合商業施設になっています。専用チャペルと、100 年の歴史を持つ

ワイン貯蔵庫を改装したフレンチレストランがブライダル・ニーズにも対応しています。

ワインづくりの歴史と神谷傳兵衛の足跡を展示した「神谷傳兵衛記念館」や重要文化財

の建物は一見の価値があるものです。また豊かな木々と煉瓦造りの建築に囲まれた空間は、

明治時代にタイムトリップしたような雰囲気があり便利な市街地にあって別世界を構成し

ています。

3. ワイン・ツーリズムにみる現代人が余暇に求めるもの ワイン・ツーリズムの動向と人気ワイナリーの取り組みに関する前2章での検討をふま

えて、現代人が余暇活動-その代表としての観光-に何を求めているのかを考えてみまし

ょう。

(1)観光(余暇活動)に必要な要素とワイン・ツーリズム

まず観光に必要な要素を、心の高揚感(情動)と緊張度の2軸から分析します(図1)。

「緊張-情動マトリクス」によってできる4つの象限それぞれに、挑戦、学習、保養、行

楽という名前を当てはめます。「挑戦」は、ダインビングやジェットコースターなど大き

な高揚感と緊張感とを伴う体験やイベントです。「学習」は、緊張感は大きいが高揚感は

小さいものであり、工場見学やレクチャーを受ける機会などです。「保養」は、温泉やエ

ステなど心身に寛ぎを与える体験です。「行楽」は、高揚感はあってもリラックスできる

ものであり、紅葉狩りやお祭り見物などがその典型です。

図 1 観光の4要素(緊張-情動マトリクス)

行楽保養

挑戦学習

緊張度小

緊張度大

情動大

情動小

ex. 工場見学やレクチャー ex. ダイビングやジェットコースター

ex. 温泉やエステ ex. 紅葉や祭りの見物

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心の昂ぶりは、人間の快楽のひとつですが、その状態がずっと続けば疲労して、少し落

ち着きたくなるでしょう。またスリリングな緊張感も快感を与えるものですが、それが続

けば困憊し、ゆったりと寛ぎたくなるのが人情でしょう。他方で平穏で弛緩した状態にず

っといると、退屈して何か新しい刺激や緊張感がほしくなるものです。

したがって観光では、例えば主目的が保養や行楽であっても、挑戦あるいは学習といっ

た刺激的な要素が一部にあったほうがメリハリがついて、より大きな満足感につながりま

す。つまり濃淡があるせよ、これらの要素がすべて備わっていることが観光の理想です。

そしてホテルやリゾートの中だけで実現しなくとも、エリア全体でこれらを満たせばよい

わけです。

ワイン・ツーリズムについて考えてみると、以下のとおりすべての要素がワイン・ツー

リズムの中に含まれていることがわかります。逆にいえばワイン・ツーリズムの人気の高

さが、これらの要素をすべて持つことがこれからの観光には必要であることを示していま

す。

挑戦:ウェディング

学習:ワイナリー見学、テイスティング、ワインセミナー

保養:ヴィンヤードの景色(ファームイン)

行楽:食事とワイン、収穫祭、ショッピング

(2)ニューツーリズムとしてのワイン・ツーリズム

つぎにニューツーリズムの動向とワイン・ツーリズムとの関係について考えてみましょ

う。ニューツーリズムとは、従来型の観光、すなわち温泉地での保養や風光明媚な地への

物見遊山などとは異なる観光です。具体的にはアグリ・ツーリズム(農業観光)、エコ・ツ

ーリズム(自然観光)、インダストリアル・ツーリズム(産業観光)、カルチュラル・ツー

リズム(文化観光)などです。

ニューツーリズムの背景には、消費の高度化や成熟化あるいは環境意識の高まりなどが

あり、それらが、団体から個人へ、モノ消費からコト消費へ、機能消費から感覚消費へ、

満足から感動へとツーリズムのあり方を変化させています。

こうしたニューツーリズムの中で、ワイン・ツーリズムは以下のとおり、多くのニュー

ツーリズムの要素を備えています(図2)。ワイン・ツーリズムはニューツーリズムの申し

子のような存在です。

○アグリ・ツーリズム:ぶどう生産者との交流、収穫祭

○エコ・ツーリズム:ぶどう畑を中心とする緑豊かな里山的風土や地域文化の体験

○インダストリアル・ツーリズム:ワイン生産現場の見学、ワイン生産者との交流

○カルチュラル・ツーリズム:ワインを中心にしたトータルな食文化や生活文化の学習

(ex.ワインを美味しく飲む方法、料理やチーズとワインの相性、ワインの種別とワイ

ングラスの対応など)

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図 2 ニューツーリズムとワイン・ツーリズム

(3)人気リゾート施設の特徴に重なるワイン・ツーリズム

さて一昨年に当研究所では、内外の人気リゾート施設を調査分析し、そこから人気リゾ

ート施設の特徴として、以下の8点を抽出しました。

①農山村の原風景~土俗的な懐かしさ~

②風土や地域文化との融合~民俗の取り込み~

③癒されて美しくなる(愉悦としての美容)~エステ、アロマ、タラソテラピー~

④ライフ・エンハンスメント(健康増進)~アンチエイジング、メタボリック症対策~

⑤自然に浸る~自然との調和~

⑥アートに浸る~施設全体が総合芸術~

⑦上質な刺激と安らぎ~ライブ・エンターテインメント~

⑧地球環境にやさしい~地産地消、省エネ、リサイクル~

これらをワイン・ツーリズムに照らしてみると、多くの要素がワイン・ツーリズムの中

に含まれていることがわかります。ワイン・カントリーとして人気が高く、高級リゾート

施設やミュージアム、豊富なアクティビティのあるナパ・ヴァレーでは、これらのすべて

がそろっているといってもよいでしょう。

つまりワイン・ツーリズムは、現代リゾートの向かう方向をもっとも先鋭的に表してい

るということができます。

(4)「官能と知能」「癒しと体験」~現代的余暇のキーワード~

カリフォルニアワインの父といわれるロバート・モンダヴィが「ワイン造りは芸術であ

り、文化である」と言うように、ワインは舌(官能)で味わうとともに、頭(知能)でも

味わうようなところがあります。飲んだことのないワインの講釈をさんざん聞かされるの

は鼻白むものがありますが、ワインとワイナリーが経てきた歴史やヴィンヤードに思いを

馳せながら味わうのは、それはそれで楽しいものです。ワインに限らず「地酒」を飲むと

きには、その地への思いが酒の味わいを一層深くします。

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前3節でみてきた観光の4要素(挑戦、学習、保養、行楽)、ニューツーリズム(農業・

自然・産業・文化観光)、人気リゾート施設の特徴、そしてそれらと重なるワイン・ツーリ

ズム。これらを全体として眺めると、その 大公約数として「官能と知能」および「癒し

(ヒーリング)と体験(エクスペリアエンス)」というキーワードが浮かんできます。

つまり「官能と知能」を同時に刺激しながら、ストレスフルな現代社会で疲れた心身を

「癒し」、他方で感覚消費やこと消費のニーズを満たす「体験」を得ることが、現代人が余

暇活動に求めるものであるという仮説にたどり着くわけです。そしてワイン・ツーリズム

は、官能と知能を上品に刺激しながら、洗練された癒しと体験とをバランスよく与えるも

のだといえましょう。

参考:ワインの製法と市場のあらまし ワイン・ツーリズムの背景的な基礎知識として、ワインのつくり方と市場のあらましを

整理します。

(1)ぶどうの良し悪しがワイン造りの鍵

ぶどうの果実から作られるワインは、ぶどうの実に含まれるもの以外は一切使わないの

が原則であり、日本酒のように水11や醸造アルコール12を加えたりすることはありません。

人工培養酵母や糖を加えることはあっても、それらはアルコール発酵のためであり、ワイ

ンの味付け13を直接の目的とするものではありません。ただしワインのなかった日本で明

治以降多くの日本人に受け入れられたのは、「電気ブラン」で有名な神谷伝兵衛の作った「蜂

ブドー酒」やサントリー(当時は寿屋)の創始者である鳥居信治郎が作った「赤玉ポート

ワイン(現・赤玉スイートワイン)」などの人工甘味ぶどう酒です。これらは醸造ぶどう酒

に砂糖やブランディ、香料などを加えて、ワインに全くなじみのなかった日本人が飲み易

いよう工夫をしたものでした。しかし洋風の生活スタイルや食事が浸透した今では、こう

した人工甘味ぶどう酒の人気はなくなりました。

このようにぶどうの果実だけで作られるワインにとって、ぶどうの実の良し悪しがその

品質を決める も重要な要素です。したがっていかに良いぶどうの実を栽培できるかがワ

インづくりの決め手となります。そして美味しいワインにとって良いぶどうの実とは、水

分が少なく酸や糖分が凝縮したものです。

凝縮度の高い実が育つには、水はけがよく痩せた土壌と乾燥した気候が必要です。特に

果実の生育する夏期に雨が少なく、昼夜の温度差が大きいことが重要です。フランスやイ

タリア、アメリカのカリフォルニア、チリなど名醸地といわれるところは何れも、そうし

た土壌と気候を持った場所です。

11日本酒の名産地は米どころであると同時に名水地であることが多いのはこのせいであり、同じ醸造酒でもワインとは異なる点です。 12 「醸造アルコール」とは、でんぷん類や糖質類を原料として発酵・蒸留して純度の高いアルコールを工業的に抽出したものです。なおスペインのシェリーやポルトガルのポルト酒など「酒精強化ワイン」といわれるものは、ブランディやリキュールを加えることで作られますが、狭義のワインではこうしたことは行われません。 13イタリアのベルモットなど「フレーバード・ワイン」と呼ばれるものは、薬草や果実、甘味料が添加され、独特の風味付けが行われますが、狭義のワインでは行われません。

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この点、日本は温帯モンスーン気候に属し、ぶどうの実が成熟する夏季に雨が多く、土

壌も養分を多く含んでいるため、ワイン用ぶどうの生産には不向きです。特に本格的な赤

ワインによく用いられるカベルネソービニオン種やピノノワール種などの育成は、なかな

か難しいようです。その難点を補うために土壌を改良したり栽培方法を工夫したりするこ

とで日本のワイン用ぶどうは生産されており、その努力が実り国際コンクールで入賞は果

たすような優れたワインがいろいろなワイナリーで造られるようになっています。しかし、

手間暇をかけて生産するだけにコストがかさみ、規模の小ささや人件費の高さも加わって、

残念ながらコストパフォーマンスの点では、チリやオーストラリア、南アフリカなどのニ

ューワールド・ワインにはかないません14。

(2)ワインの製造工程

さて栽培・収穫されたぶどうの実を発酵・熟成することでワインは造られます。

発酵は、ぶどう果汁に含まれる糖分を酵母によってアルコールと炭酸ガスに分解するプ

ロセスです。そしてアルコール発酵を終えた発酵液は、木樽あるいは金属製タンクに移し

替えられて、短いもので半年程度、長いもので数年間、熟成されます。

特に樽熟成では、木樽に含まれるタンニンや芳香をワインに移すことで、まろやかで味

や匂いに複雑性を付与します。しかしそのためにはフレンチ・オークなどの高価な新樽を

使う必要があります。また樽に仕込めばあとはそのままほっておけばよいのではなく、木

樽に仕込んだワインは木に吸収されたり蒸発したりして少なくなるので、少なくなった分

発酵液を何度も補填(ウイヤージュ)する必要があります。さらに残留酵母や酒石酸塩な

どからできる澱(おり)や微細な不純物が樽に沈殿するため、それを取り除き、同時に適

度に空気をふれさせるために別の樽への移し替え(スーティラージュ)を定期的に行わな

ければなりません。このように樽熟成には、手間とコストのかかる作業が必要です。

14 筆者のまったくの感覚的判断で、客観的根拠はありませんが、日常酒として飲まれる5千円以下程度のボトルワインの小売価格について、同じ品質・グレードのチリやオーストラリアから輸入されたものと比べると、日本のワインは、白ワインで1.5~2倍、赤ワインで2倍~3倍くらいの価格で売られていると思います。

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図 3 ワインの製造工程(赤ワインの場合)

さらに赤ワインや一部の白ワインでは、アルコール発酵に続けて、ぶどう果汁に含まれ

るリンゴ酸を乳酸に変える乳酸発酵が行われます。これによってワインがよりまろやかに

なります。このプロセスを「マロラクティック発酵」といいます。

このマロラクティック発酵を、「バリック」と呼ばれる小型の木樽で行うスタイルが近年

広まっています。木樽(特に新樽)から出るタンニンには攻撃的な渋みや焦げたような強

い香りをワインに与えてしまう難点がありますが、これを乳酸菌がふせいでくれ、ワイン

にとって好ましいなめらかなタンニンや豊かな芳香性だけを木樽から得ることができるか

らです。ただし大量に仕込むには小樽では樽の数が多くなり過ぎて管理が困難なため、大

量生産には不向きな製法といわれています15。

こうして熟成させたワインを瓶に詰めるわけですが、味を整えたり複雑味を出すために

異なるぶどう品種からつくられたワインを調合(アッサンブラージュ)した上で瓶詰めす

る場合もあります。またワインは瓶の中でも熟成し、さらにまとまりや複雑性を増すもの

15田崎真也『ワイン上手』pp75-81

収穫・選果

除梗・破砕

アルコール発酵

圧搾

マロラクティック発酵

樽・タンク熟成

滓引き・移し替え

清澄・濾過

調合・瓶詰め

瓶熟成

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があります。高級なボルドーワインなどには、瓶熟成を 10 年以上経ることでようやく飲み

ごろを迎えるようなものも存在します。

このようにしてワインは造られるわけですが、自家消費のための小ロットの生産なら、

発酵・熟成のための大小いくつかの樽と、除梗・破砕・圧搾のための簡単な道具があれば、

個人が自家製造することも可能です。しかし日本では、酒税法が許可なくアルコール醸造

をすることを禁止しています。そして年間 6000 リットル(720ml ボトル換算で約 8300 本)

以上を生産できる規模の設備と施設を持った者でなければ、その許可を得ることはできま

せん。したがって、醸造技術の発達や衛生管理上の要請もあり、ワインづくりには近代的

装置・施設の利用が求められ、設備だけでも 低 5000 万円の投資が必要になるということ

です16。

(3)ワインの生産と消費の状況

ア.世界のワイン生産量と輸出量

表1は、2005 年のワイン生産国のベスト 10 であり、イタリア、フランス、スペインの

上位3カ国で、世界生産量の約 50%を占めています。また上位 10 カ国では約8割を占めて

います。日本のワイン生産の世界シェアは約 0.3%です。

表 1 2005 年の世界のワイン生産量ベスト 10

出典:O.I.V.(Organisation Internationale de la Vigne et du Vin)

SITUATION REPORT FOR THE WORLD VITIVINICULTURAL SECTOR IN 2005 よりS&E総合研究所作成

16玉村豊男『里山ビジネス』pp45-64

単位:1000hℓ国 総生産量 シェア

① イタリア 54,021 19.1%② フランス 52,105 18.5%③ スペイン 36,158 12.8%④ 米国 22,888 8.1%⑤ アルゼンチン 15,222 5.4%⑥ オーストラリア 14,301 5.1%⑦ 中国 12,000 4.3%⑧ ドイツ 9,153 3.2%⑨ 南アフリア 8,406 3.0%⑩ チリ 7,886 2.8%

日本 900 0.3%

世界合計 282,276

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表 2 は、2005 年のワイン輸出国ベスト 10 です。イタリア、スペイン、フランスの上位

3カ国で、世界輸出量の約 56%を占めています。また上位 10 カ国の合計シェアは 9 割弱で

す。日本はごくわずかですが輸出をしています。

表 2 2005 年の世界のワイン輸出量ベスト 10

出典:O.I.V.(Organisation Internationale de la Vigne et du Vin)

SITUATION REPORT FOR THE WORLD VITIVINICULTURAL SECTOR IN 2005 よりS&E総合研究所作成

イ.世界のワイン消費量と輸入量

表 3 は、2005 年の国別ワイン総消費量のベスト 10 であり、フランス、イタリア、米国、

ドイツ、スペインの上位5カ国で、世界の総消費量の約 50%を占めています。また上位 10

カ国では約7割になります。日本のワイン消費量の世界シェアは 1.1%です。

表 3 2005 年の世界のワイン消費量(国別総量ベスト 10)

出典:O.I.V.(Organisation Internationale de la Vigne et du Vin)

SITUATION REPORT FOR THE WORLD VITIVINICULTURAL SECTOR IN 2005 よりS&E総合研究所作成

単位:1000hℓ国 総輸出量 シェア

① イタリア 15,721 19.7%② スペイン 14,439 18.1%③ フランス 14,077 17.7%④ オーストラリア 7,019 8.8%⑤ チリ 4,209 5.3%⑥ 米国 3,459 4.3%⑦ ドイツ 2,970 3.7%⑧ 南アフリカ 2,811 3.5%⑨ ポルトガル 2,620 3.3%⑩ モルドバ 2,425 3.0%

日本 4 0.0%

世界合計 79,738

単位:1000hℓ国 総消費量 シェア

① フランス 33,530 14.1%② イタリア 27,016 11.4%③ 米国 25,110 10.6%④ ドイツ 19,848 8.4%⑤ スペイン 13,686 5.8%⑥ 中国 13,500 5.7%⑦ 英国 12,000 5.0%⑧ アルゼンチン 10,972 4.6%⑨ ロシア 10,500 4.4%⑩ ポルトガル 4,900 2.1%

日本 2,561 1.1%

世界合計 237,674

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表 4 は、一人あたり消費量のベスト10で、やはりヨーロッパ諸国の消費量が群を抜い

て高いことがわかります。日本は国際的にみると消費量は小さく、1位のフランスの約 30

分の1、英国の約 10 分の1、米国の約 4 分の1です。

表 5 は、2005 年のワイン輸入量のベスト 10 です。ドイツ、英国、米国、ロシア、フラ

ンスの上位5カ国で、世界輸入量の約 57%を占めています。また上位 10 カ国で約7割にな

ります。日本の輸入量の世界シェアは 2.1%です。

表 4 2005 年の世界のワイン消費量(一人あたりベスト 10)

出典:O.I.V.(Organisation Internationale de la Vigne et du Vin)

SITUATION REPORT FOR THE WORLD VITIVINICULTURAL SECTOR IN 2005 よりS&E総合研究所作成

表 5 2005 年の世界のワイン輸入量ベスト 10

出典:O.I.V.(Organisation Internationale de la Vigne et du Vin)

SITUATION REPORT FOR THE WORLD VITIVINICULTURAL SECTOR IN 2005 よりS&E総合研究所作成

単位:ℓ国 消費量

① フランス 55.4② ルクセンブルク 54.6③ ポルドガル 46.7④ イタリア 46.5⑤ スロベニア 44.7⑥ クロアチア 40.8⑦ スイス 39.3⑧ ハンガリー 34.7⑨ ギリシャ 32.2⑩ スペイン 31.8

ドイツ 24.0英国 20.0米国 8.4日本 2.0

単位:1000hℓ国 輸入量 シェア

① ドイツ 13,262 17.2%② 英国 11,727 15.2%③ 米国 7,052 9.1%④ ロシア 6,227 8.1%⑤ フランス 5,495 7.1%⑥ オランダ 3,799 4.9%⑦ ベルギー 2,897 3.7%⑧ カナダ 2,809 3.6%⑨ デンマーク 1,852 2.4%⑩ イタリア 1,833 2.4%

日本 1,585 2.1%

世界合計 77,286

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ウ.日本のワイン市場の動向

表 6 は、日本の一人あたりのワイン消費量の推移であり、ポリフェノール効果でワイン

ブームとなった 1998 年を除き、近年ほぼ横ばいです。しかし、ボトルワインの国別輸入数

量シェアを 1996 年と 2006 年とで対比した表7をみてみると、ドイツワインの輸入量が減

り、フランス、スペイン、チリ、オーストラリアがそれに代わっています。これは比較的

甘い白ワインが主流のドイツワインから、食中酒に適した甘みの少ない赤ワインや白ワイ

ンに需要がシフトしたことをうかがわせ、量はともかくとして日本人のワインの飲み方が

欧米に近づいてきたことを示しています。これは、売れ筋しか置かないコンビニエンスス

トアーに、甘みの少ないワインが置かれるようになったことからも裏付けられるでしょう。

表8は、日本のワイン消費における国内生産・輸入別シェアの推移ですが、2000 年以降、

輸入ワインのシェアが少し増加しています。これは、チリ、アルゼンチン、ニュージーラ

ンド、オーストラリア、南アフリカなど安価で質の高い新世界ワインの人気が高まってい

ることが原因かもしれません。

表 6 日本の一人あたりのワイン消費量の推移

出典:O.I.V.(Organisation Internationale de la Vigne et du Vin)

SITUATION REPORT FOR THE WORLD VITIVINICULTURAL SECTOR IN 2005 よりS&E総合研究所作成

表 7 ボトルワインの国別輸入数量シェア(1996 年と 2006 年対比)

出典:東京税関『ボトルワインの輸入』(平成 19 年 10 月 26 日)より S&E 総合研究所作成

表 8 日本のワイン消費の国内生産・輸入の別の推移

出典:『WINE BOOK』、原資:国税庁資料

単位:ℓ1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

一人あたりの消費量 1.4 1.9 3.1 2.6 2.1 2.2 2.2 2.0 2.0 2.0

1996年 2006年 2006-1996フランス 39.6% 46.2% 6.6%ドイツ 19.7% 4.2% -15.5%イタリア 19.6% 19.0% -0.6%米国 9.2% 9.3% 0.1%スペイン 3.0% 6.0% 3.0%チリ 2.7% 6.7% 4.0%オーストラリア 2.2% 5.2% 3.0%その他 3.9% 3.3% -0.6%

単位:kℓ1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

国産ワイン 48% 38% 44% 39% 38% 39% 37% 33% 38% 34%輸入ワイン 52% 62% 56% 61% 62% 61% 63% 67% 62% 66%

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コラム~そこでしか飲めない‘カルト’なハウスワイン~

カリフォルニアには、「カルトワイン」と呼ばれる高級ワインがあります。カルトワイン

とは、1990 年代に生まれた言葉で、零細な生産者によってごく少量しか生産されないワイ

ンですが、ワイン評論家から高く評価されたことにより有名になり、 熱狂的なワイン愛好

家が必死に買い求めることによって異常なプレミアが付き高額で取引されるようになった

ものです。

日本のワインは、コストパフォーマンスでは海外ワインにはかないませんが、土壌や気

候条件など幾多のハンディキャップを乗り越えて海外ワインに負けない本格的な味や高貴

な香りを実現し、国際コンクールで入賞するようなものが生まれています。しかし日本に

はカルトワインに相当するものはほとんどありません。なぜでしょうか。

美味しいワインを作るには、多くの手間とコストをかける必要があります。もしワイン

の製造原価に1本1万円かかった場合、ワイナリーが原価で卸しても下代価格が 1 万円な

ら上代価格は2万円以上となるでしょう。日本のワインでは、いくら美味しいものであっ

ても、その値段で採算のとれる量を販売するのは困難です。したがって大規模ワイナリー

が宣伝のために、あるいはオーナーの趣味でやっているワイナリーが自家消費のために採

算を度外視してつくる場合を除いて、実力があっても、そうした高級ワインづくりに取り

組むのは難しいでしょう。この点でワイン愛好家の層が厚く、いったん評判になれば製造

原価の何倍何十倍もの価格で取引される米国とは事情が異なっています。また日本では酒

税法によって生産設備に大きなコストをかけなければワインづくりができないという事情

も影響しているかもしれません。

さてそこで、力量のある中堅ワイナリーに、そのホテルあるいはリゾートのためだけの

高級ワインを 1000 本生産してもらい、それを 1000 万円で買い取ります。これをハウスワ

インとして1杯 1500 円程度で売る。テーブルワインクラスを使った一般のハウスワインに

比べれば高い値段ですが、シャトーワインやドメーヌワインクラスの高級ワインのグラス

売りと考えれば決して高いものではありません。量としても、日に3~4本、グラスにし

て25~30杯分ですから、ホテルチェーンなら十分消費できる量です。

もしそのワインが高く評価されて、そこでしか飲めない希少なワイン、カルトなハウス

ワインとして評判になれば、そのホテルやリゾートにとって大きな宣伝となります。また

ワイナリーの評価も上がります。さらにハウスワイン飲みたさに泊まる客が現れるかもし

れません。

もちろん常に原価に見合った味が実現できるとは限りませんが、ボルドーの有名シャト

ーが毎年何十万本ものグレートワインを生産するのとは異なり、1000 本程度のごく少量の

高級ワインをつくることは、それほど難しいことではないのではないでしょうか。

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<参考文献>

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[2] 石井もと子監修『日本のワイナリーに行こう 2009』イカロス出版、2008 年

[3] 児島速人『ワイン教本 2009 年版』イカロス出版、2009 年

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[6] 濱本純『ナパ・ヴァレーのワインに休日 ワイナリーが織りなす究極のスローライフ』

樹立社、2008 年

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[9] 森枝卓士『ワインを飲みにオーストラリア』早川書房、1997 年

[10] 邸景一・遠山敏之『ボルドーワインの宝庫を訪ねて』日経 BP 企画、2007 年

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