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7 2013 No.136 ガバメント ガバメント 2.0 2.0 ―データガバメントと ―データガバメントと 住民参加型行政の2つの方向性― 住民参加型行政の2つの方向性― p4 2013 2013AAAS AAAS科学技術政策年次フォーラム報告 科学技術政策年次フォーラム報告 緊縮財政下における科学技術と社会との 緊縮財政下における科学技術と社会との 関係の変化 関係の変化 p11 オランダ・フードバレーの取り組みと オランダ・フードバレーの取り組みと ワーヘニンゲン大学の役割 ワーヘニンゲン大学の役割 p18 各国の地球観測動向シリーズ(第 各国の地球観測動向シリーズ(第1 回) 回) 米国の地球観測活動の今後の方向性 米国の地球観測活動の今後の方向性 持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査と 持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査と シナリオ分析による将来展望」の結果を公表 シナリオ分析による将来展望」の結果を公表 p32 p37 科学研究の投資効果測定を目指す 科学研究の投資効果測定を目指す 米国の 米国のSTAR METRICS STAR METRICS事業の現状と今後の見通し 事業の現状と今後の見通し p25 レポート レポート 研究成果公表 研究成果公表 レポート・トピックス タイトルをクリックすると 各項目にジャンプします

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N o 1 3 6

ガバメント ガバメント 2020―データガバメントと―データガバメントと

住民参加型行政の2つの方向性―住民参加型行政の2つの方向性―

p420132013年AAASAAAS科学技術政策年次フォーラム報告科学技術政策年次フォーラム報告

緊縮財政下における科学技術と社会との緊縮財政下における科学技術と社会との

関係の変化関係の変化

p11

オランダフードバレーの取り組みとオランダフードバレーの取り組みと

ワーヘニンゲン大学の役割ワーヘニンゲン大学の役割

p18

各国の地球観測動向シリーズ(第各国の地球観測動向シリーズ(第1回)回)米国の地球観測活動の今後の方向性米国の地球観測活動の今後の方向性

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査と持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査と

シナリオ分析による将来展望」の結果を公表シナリオ分析による将来展望」の結果を公表

p32

p37

科学研究の投資効果測定を目指す科学研究の投資効果測定を目指す

米国の米国のSTAR METRICSSTAR METRICS事業の現状と今後の見通し事業の現状と今後の見通し

p25

レポートレポート

研究成果公表研究成果公表

レポートトピックス タイトルをクリックすると 各項目にジャンプします

72013

202013年7月号月号 第13巻第巻第7号号隔月発行月発行 通巻通巻13636号 号 ISSN 134ISSN 1349-36633663

文部科学省 科学技術学術政策研究所

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

2

科学技術動向 概 要

本文は p18 へ

本文は p11 へ

本文は p4 へ

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS 事業の現状と今後の見通し

2013 年 AAAS 科学技術政策年次フォーラム報告緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1 つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

 政府の科学投資が社会の雇用知識創造健康などにどのような影響(インパクト)をもたらしたかを解明するための情報基盤を整備する米国の事業(STAR METRICS)は科学投資の社会的なインパクト測定手法を幅広く開発することからオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の方向性に沿う形で連邦政府の競争的資金に関する省庁横断的なデータ基盤システム整備を図る方向に事業目標を修正している事業の第一段階では人事データに限って連邦政府の科学研究投資の労働誘発効果を検証するためにデータを蓄積可視化するシステムが構築された現在の第二段階では引き続き国立衛生研究所(NIH)がホスト機関となりインプットとアウトプットのデータに重点を置いてデータ蓄積と分析システムを開発中であるSTAR METRICS は社会経済的効果の測定の方法論開発を視野に入れつつも参加機関の財務情報や研究活動の経営分析ベンチマーキングや連邦政府機関のファンディング業務での利用など現場の実情を踏まえた政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積を進めるとみられる

 全米科学振興協会(AAAS)は2013 年 5 月 2 日~3 日にワシントン DC において AAAS 科学技術政策年次フォーラム(AAAS Forum on Science and Technology Policy)を開催したフォーラムは大統領科学顧問による基調講演大統領予算案の分析や予算に関する論議そして最近の科学技術政策のテーマによる分科会さらに科学技術と経済や社会との関係も含めた幅広いテーマについての全体セッション等から構成された 次年度予算案の審議の行方について高い関心が寄せられる例年とは異なり本年は当年度予算が削減を織り込んだ継続決議として成立した歳出法に基づき執行されていることまた次年度以降も大半の科学技術予算が含まれる裁量的予算に対する歳出削減の圧力が強まる見通しであることから講演内容や参加者の関心も予算について積極的に議論しようという空気は薄くむしろより長期的な視点から科学技術の今後を考える論議が目立つものとなった

3科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

各国の地球観測動向シリーズ(第 1回)米国の地球観測活動の今後の方向性

 オランダはEU 圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2 位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲン UR の戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲン UR は世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から「GEOSS(ジオス)10 年実施計画」が開始されている米国も国内外の地球観測衛星の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているこうした中米国は 2013 年 4 月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の4 つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12 の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている このような米国の戦略を我が国の地球観測戦略と対比すると国情の違いも踏まえて相似点と相違点を分析することができ今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える右図は GEOSS の公共的利益分野に対して米国のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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2013年AAAS科学技術政策年次フォーラム報告  緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

 全米科学振興協会(AAAS ① )は2013 年 5 月 2日~3 日にワシントン DC において AAAS 科学技術政策年次フォーラム(AAAS Forum on Science and Technology Policy)を開催した1)このフォーラムはAAAS RampD Colloquium の名称で開催された第 1 回から数えて 38 回目にあたり科学技術政策関係者が集う全国的な会合として定着している フォーラムの構成は大統領科学顧問による基調講演大統領予算案の分析や予算に関する論議そして最近の科学技術政策のテーマによる分科会さらに科学技術と経済や社会との関係も含めた幅広いテーマについての全体セッション等から成っており配布資料によると大学連邦政府機関非営利機関民間企業海外機関等から約 370 人の

 全米科学振興協会(AAAS ① )は2013 年 5 月 2 日~3 日にワシントン DC において AAAS 科学技術政策年次フォーラム(AAAS Forum on Science and Technology Policy)を開催したフォーラムは大統領科学顧問による基調講演大統領予算案の分析や予算に関する論議そして最近の科学技術政策のテーマによる分科会さらに科学技術と経済や社会との関係も含めた幅広いテーマについての全体セッション等から構成された 次年度予算案の審議の行方について高い関心が寄せられる例年とは異なり本年は当年度予算が削減を織り込んだ継続決議として成立した歳出法に基づき執行されていることまた次年度以降も大半の科学技術予算が含まれる裁量的予算に対する歳出削減の圧力が強まる見通しであることから講演内容や参加者の関心も予算について積極的に議論しようという空気は薄くむしろより長期的な視点から科学技術の今後を考える論議が目立つものとなった

キーワード米国予算AAASファンディング科学技術と社会

遠藤 悟 客員研究官

科学技術動向研究

 2 日間にわたり開催されたフォーラムの日程は以下のとおりである

【全体セッション】 2014 年度研究開発予算における予算的お

よ び 政 策 的 枠 組 み(Budgetary and Policy Context for RampD in FY 2014)

W Carey レクチャー米国の科学技術パイプラインの拡大大学教員のイノベーションと人々を包括した卓越性(Expanding Americarsquos Science and Technology Pipeline Academic Innovation and Inclusive Excellence)

より良い政府のための科学的洞察(Scientific Insights for Better Government)

 概  要

参加があった1 はじめに

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緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 フォーラムが開催されるこの時期はこれまでは 2 月上旬の大統領による予算案の発表を受け10 月に始まる次年度予算に関する議会での審議が行われている最中のため参加者の間でも次年度予算案の審議の行方について高い関心が寄せられる時期であったしかし本年は当年度予算が削減を織り込んだ継続決議として成立した歳出法に基づき執行されている状況にありまた次年度以降も大半の科学技術予算が含まれる裁量的予算に対する歳出削減の圧力が強まる見通しであることから講演内容や参加者の関心も予算について積極的に議論しようという空気は薄くむしろより長期的な視点から科学技術の今後を考える論議が目立つものとなった

 最初の「2014 年度研究開発予算における予算的および政策的枠組み」のセッションの基調講演は大統領科学顧問大統領府科学技術政策室(OSTP ④)室長である John P Holdren 氏により行われた 2014 年度大統領予算案に関連し1)科学技術は雇用保健環境国家安全保障などの米国が直面するチャレンジに対応する中心的役割を担っていること2)好奇心に基づき行われる基礎研究の支援は政府の責任であり国立科学財団(NSF ⑤ )エネルギー省(DOE ⑥ )の科学室商務省の国立標準技術局(NIST ⑦ )の基礎研究の強化が必要であることを述べそれらが予算案に反映されていると述べたまた航空宇宙局(NASA ⑧ )の小惑星や火星へのミッションや各省による先進製造研究などを重視していることさらに強制的な歳出削減も考えられる厳しい財政状況下において予算を戦略的に組む必要性を述べ科学技術イノベーションコミュニティーに対してはその活動の重要性について声を上げることを期待しまたこれまでの協力に感謝していると述べた2) さらに 2013 年歳出予算法(継続決議)においてNSF の社会経済科学研究支援のうち国家安全保障面や経済面の利益を明らかとすることができない政治科学研究支援の支出が禁止されたことに触れこのことに対しオバマ政権は1)政治科学は他の社会科学と同様に仮説に基づきピアレビューという手法や再現可能性などの特性を持つ科学であること2)社会科学は基礎研究の定義に合致し実用的な社会の利益に結びつくものであることそして3)社会科学行動科学と自然科学が相対する性格を持つという意見もあるがこれは誤りであることを述べさらに NSF が支援する基礎研究はその直接の成果において実用的利益が明らかでないものもあるが予期されない場合も含め社会に多大な利益をもたらすものであることを強調した 3)そしてNSF をはじめ多くの連邦政府の科学技術関係機関が用いているピアレビューは世界共通に認められている評価における最良の基準(gold standard)であることを科学アカデミー創立 150 周年式典でのオバマ大統領の発言を引用しつつ述べたさらに一部の議員の NSF に対する要求は基礎研究の価値を損ねるものであるとして非難した 4) またHoldren 顧問はオバマ政権における科学技術イニシアチブとして特に科学技術工学数学(STEM)教育について2014 年度予算案の額

世 界 に 広 が る 教 室 に お け る 科 学 技術工学数学分野の高等教育の再構想

(Re-imagining STEM ② Higher Education in the Worldwide Classroom)

環境に関する規制はどの程度経済を阻害 す る か(How Much Do Environmental Regulations Hurt the Economy)

【パラレルセッション】米国の研究イノベーションにおける民間慈

善団体の役割(Roles of Private Philanthropy in US Research and Innovation)

連 邦 政 府 研 究 開 発 支 援 に お け る 実 験(Experiments in Federal RampD Support)

誰がどのようにインターネットをコントロ ー ル し た い の か(Who Wants to Control the Internet and How)

科学技術専門家のためのメンタリング技能望ましい点と必要な点から(Mentoring Skills for Science and Technology Professionals Both Desirable and Required)

変化する特許の展望異なる部門における賛否(The Changing Patent Landscape Cases For and Against Patents in Different Sectors)

【朝食昼食のスピーチ】5 月 2 日の昼食3 日の朝食昼食において

それぞれカナダの科学技術政策神経科学研究国防高等研究計画局(DARPA ③ )をテーマとしたスピーチが行われた

2 オバマ政権の科学技術政策

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

6

が 2012 年度実績に対し 67 増の 31 億ドルとなるイニシアチブで100 万人の新たな科学技術分野の卒業生の輩出や10 万人の優れた STEM 分野の教員の育成などの取り組みを行っていることを述べたさらにホワイトハウスで実施されたサイエンスフェアに象徴されるようにオバマ大統領自身が力を注いでいるイニシアチブであることに加え連邦政府の政策に呼応する形で2020 年までに 100万人の STEM メントーを育成する計画など数多くの STEM プログラムが民間企業や慈善団体により実施されるようになっているとし官民協力が望ましい形で進展していることを報告した 引き続き Sharp AAAS 会長との対話形式により全米製造イニシアチブなどのイノベーション戦略STEM 教育エネルギーと環境オープンガバメント宇宙国際的な科学技術協力そして脳神経科学を含む生物医学研究など広範にわたって議論された幅広い科学技術に対する支援策を行う中で特に基礎研究に対する連邦政府投資を行うと同時に税制措置など民間の活力を引き出す環境を整える考えが示された 

 Matthew Hourihan AAAS 研究開発予算分析プログラム長から2014 年度大統領予算案の解説が

あった予算案の概略は以下のとおりである2014 年度予算案における連邦政府研究開発予算

の額は1428 億ドルであるこの額は比較対象となる 2012 年度予算実績額に比べ13(約19 億ドル)の増である(以下増減については2012 年度比)

連邦政府の基礎研究に対する支援額は 332 億ドル(45 増)応用研究に対する支援額は 350 億ドル(106 増)である

連邦政府の開発支出は715 億ドル(50 減)である

「大統領科学イノベーション計画(Presidentrsquos Plan for Science and Innovation)」 の 対 象 機 関

(NSFDOE 科学室NIST 研究室)の予算は 8増加しているしかしその額は競争力強化法

(2010 年アメリカ COMPETES 再授権法⑨ )に示された授権予算の額を下回っている

製造業のイニシアチブについては「米国を製造 業 の マ グ ネ ッ ト と す る(Makes America a Magnet for Manufacturing)」 の 名 称 でNSFDODDOE商務省などの関連予算により実施されるがその対象となる規模は87 増の 29億ドルである

クリーンエネルギーは2014 年度予算案において引き続き重点項目に含められている

米国地球変動研究プログラム(USGCRP ⑩ )の2014 年度予算案は約 27 億ドルで6 増となっている

生物医学研究における米国の主導的地位の確保

出典参考文献 5

連邦政府各省機関の研究予算の額の変遷(2014 年度は予算案)

3 科学技術予算の現状と今後の見通し

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緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 Arati Prabhakar DARPA 長官が現代世界の軍事政治状況の下での同庁の役割や方向性について述べた冷戦期の 1958 年に高等研究計画局(ARPA⑫ )として創設された同庁は現代世界の環境について1)米国に対する脅威が複雑化しまた変化し続けていること2)財政問題による経費面における要請が高まったこと3)技術が地球規模的に利用可能となったことの 3 点を挙げその状況に対する取り組みについて説明を行った同局は 29 億ドルという国防研究開発費の中では必ずしも大きくない予算規模で95 人のプログラムマネージャーが大きく関与し情報技術から脳神経科学まで多彩なプロジェクトを実施していることを報告したうえでDARPAがこのような優れた研究プロジェクト支援を行える基盤には米国の健全な研究開発のエコシステムがあることを述べた DARPA 以外の省機関もそれぞれのミッションに従い様々な研究プログラムを実施しておりその評価手順も異なっている「連邦政府研究開発支援における実験」のセッションにおいてはNIH農務省(USDA ⑬ )DOE の事例が報告された Kathy Hudson NIH 科学アウトリーチ政策担当次長は国立トレンスレーショナル科学前進センター(NCATS ⑭ )と BRAIN ⑮ イニシアチブを中心に報告を行ったNIH のミッションは基礎研究を実施することと基礎研究を人々の保健医療の向上に結び付けることの二つであるとしたうえでNCATS については NIH の研究者が発見した化合物の実用化や産業化における障壁の低減そして製品化への時間の短縮などの取り組みについて述べたまたBRAIN イニシアチブについて

 海外の事情については中国インド韓国そしてカナダの科学技術政策について報告があった

「2012 年度研究開発予算における予算的および政策的枠組み」の一部として設けられた「科学技術政策に関するアジアの視点米国との相違と共通性」のセッションにおいてはJeannette Wing マイクロソフト社副社長マイクロソフトリサーチ所長が中国とインドの動向について報告した中国の経済発展は1990 年代から始まるがまず人材を育成し次に 211985 などの番号を付した計画を通して基盤を整えそのうえで知識を生み出すための基礎研究と技術イノベーションへの投資が行われたという流れを紹介し今では上位の大学は米国の有力私立大学と並ぶものであるとしたしかし中国の高等教育機関は拡大したが中国の大学生にとって米国の大学を目指す意識に変化はなく中国人人材の米国への供給は続くとの見方を示したインドについて Wing 氏は各地に計 15 校設置されたインド

米国民の健康の改善そして未来のバイオエコノミーの構築のためNIH ⑪ の予算は 313 億ドル

(15 増)となっている高い技能を持つ人材育成のためSTEM の分野の

教育に 31 億ドル(67 増)の支出を行うこととしている

民間部門の投資を拡大させるため試験研究費税額控除の拡大簡素化恒久化を提案している

予算案は米国民に対する見返りが最大化する分野に資源を集中させそうでない分野において削減するとしておりその例として開発予算は 38億ドル削減されている

は研究資金配分成果に対する褒賞(プライズ)DARPA 型のプロジェクト運営を通した成果創出の迅速化研究活性化のためのマッチングさらにクラウドファンディングといったメカニズムについて紹介した Catherine Woteki USDA 主任科学者研究教育経済担当次官は予算削減が続く中での研究開発活動は省内の機関の研究と外部研究支援とのバランスを取りつつ行う必要があることなどを述べたうえで同省の 21 世紀のチャレンジとして食料の安全保障食品の安心人々の栄養と健康気候変動バイオエコノミー(バイオ燃料バイオプロダクト)を挙げたそして共同研究開発契約プログラム

(CRADA ⑯ program)のモデルによる研究成果の民間部門への移転に加え農業技術イノベーションパートナーシッププログラム(ATIP ⑰ Program)調整農業プロジェクト(CAP ⑱ )長期農業生態系研究ネットワーク(LTAR ⑲ Network)等の同省の特徴的なプログラムについて説明を行った Patricia M Dehmer エネルギー省科学室室長代理は簡単に同省の歴史や予算の枠組みに触れた後バイオエネルギー研究センター(BRCs ⑳ )エネルギーフロンティア研究センター(EFRC 21 )そしてエネルギーイノベーションハブ(Energy Innovation Hub)について報告した

4 多様なファンディングシステム

5 他国の科学技術政策に関する報告

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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護や改善を目的とした規制的政策が経済に与えるネガティブな影響について実際よりも拡大してあるいは経済面における利益との関係を考慮せずに論議される傾向があることを指摘した William A Pizer スタンフォード大学公共政策学部准教授は必ずしも相関が明らかではないにも関わらず特定の産業部門での雇用の悪化について規制が行われたことと関連付けて政策論議されまた他の産業における雇用効果について論じられない状況などを指摘した Cary Coglianese ペンシルバニア大学法学政治学教授は「何故政治は環境に関する規制は雇用を殺し研究者はそのようなことがないと言うのか」との表題により規制が競争力の低下をもたらす証拠はないにも関わらず人々がネガティブな影響があると考える背景について考察を加えた Richard Morgenstern 未来のための資源上級フェローは「環境に関する経済的分析の見通し」の表題により便益費用分析に基づくブッシュ政権とオバマ政権の政策決定における観点の相違について述べた

 フォーラムではedX や Coursera といった近年急激な展開を見せている大規模オンラインオープンコース(MOOC 23 )に関するセッションも設けられていた Anant Agarwal edX 会長マサチューセッツ工科大学電気工学コンピューター科学教授はedXは世界の人々がアクセスすることができる新たな教育機会であるとし154763 人の学生が登録し7157人が履修証明書の発行を受けるなどの数字を示したうえで学生が自発的に参加できるよう工夫された宿題や試験などその具体的なシステムについて説明を行った Wendy Newstetter ジョージア工科大学工学部教育研究イノベーション担当主任は教授法について伝統的な教室における教育実験など相互的な教育独立型の教育オンライン教育という区分を示しMOOC が独立型教育とオンライン教育の双方にまたがるものとしたうえで未だ教育学研究者の関心は薄く履修する学生のコンピテンス向上の観点から見るとその要件を満たしていない点が多いことを指摘した Kevin Werbach ペンシルバニア大学ウォートンスクール准教授はMOOC を通して実際に授業を行っ

 フォーラムの多くのセッションはいわゆる「科学のための政策」に関するものであったが科学的知見の(科学技術政策以外の)政策形成への反映すなわち「政策のための科学」に関するセッションも二つ設けられていた 「より良い政府のための科学的洞察」と題されたセッションは標題のとおり科学技術特に社会科学行動科学の知見をどのように政策形成の向上に活かすことができるかをテーマとしたものであった Case R Sunstein ハーバード大学ロースクール教授

(前大統領府情報規制室OIRA22 室長)は前職の OIRA における科学に基づく客観性独立性と大統領府経済諮問委員会とも協力した経済的価値の両面における活動について述べたうえで合理的な政策形成について受け手である一般の人々の認識の面も含め考えられるシステムについて具体的な例示を含めて説明した Arthur Lupia ミシガン大学社会研究所教授は異なるバックグラウンドを持つ人々における社会科学の価値について述べた「社会科学の価値は何であるか」ということと「資金配分を行うべき対象であるか」というふたつの疑問に関し信頼性(credibility)と正当性

(legitimacy)という二つの評価基準から説明を行ったそして講演の最後には最近の議会による NSF の社会科学研究への支出の禁止等の動きに対し社会科学研究が国家にもたらす価値の大きさについて語った 「環境に関する規制はどの程度経済を阻害するか」と題されたセッションはいずれの講演者も環境保

工科大学は今後も拡大する予定があるが博士人材等の点では遅れが見られる等の指摘を行った Jong-Guk Song 科学技術政策研究院(韓国)院長は「クリエイティブエコノミー」と名付けられた韓国の経済政策について報告した労働力供給の変化により今後経済成長の低下が見込まれる状況において他国に比べ韓国が劣っている起業を活発化させる等の政策的枠組みにいての内容であった Gary Goodyear カナダ科学技術担当国務大臣はカナダの科学技術活動の状況について研究開発投資と税制研究基盤宇宙部門物理学医療といった幅広い視点から報告したまた海外との関係について複数の世界的な水準の大学が世界中から人材を引き寄せていることや特に米国との間で緊密な科学技術協力が実施されていることを報告した

7 MOOC-大学の新たな教育モデル

6 科学的知見の政策形成への反映

9

緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 2013 年 3 月になって確定した 2013 年度歳出予算においては研究開発予算においても 5 パーセン

ト程度の歳出削減対象となったものも多くアカデミックコミュニティーにとって予算面で希望の持てる状況にはないしかしながら本フォーラムでは必ずしも予算削減は大きなテーマとなっていなかったその背景には厳しい予算状況が既に現実のものとなったことまたそのような状況にありながらオバマ政権が科学技術に関し手厚い支援を行う意向を示していることがあると考えられるそして参加者の関心はむしろ厳しい財政状況において例えばどのようなファンディングシステムが研究成果を高めるかなど研究開発システム全体に向けられているように感じられた

略称① AAASAmerican Association for the Advancement of Science② STEMScience Technology Engineering and Mathematics③ DARPADefense Advanced Research Projects Agency④ OSTPOffice of Science and Technology Policy⑤ NSFNational Science Foundation⑥ DOEDepartment of Energy⑦ NISTNational Institute of Standards and Technology⑧ NASANational Aeronautics and Space Administration⑨アメリカ COMPETES再授権法America Creating Opportunities to Meaningfully Promote Excellence

in TechnologyEducation and Science Reauthorization Act of 2010 (America COMPETES Reauthorization Act of 2010)

⑩ USGCRPUS Global Change Research Program⑪ NIHNational Institutes of Health⑫ ARPAAdvanced Research Projects Agency⑬ USDADepartment of Agriculture⑭ NCATSNational Center for Advancing Translational Sciences⑮ BRAINBrain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies⑯ CRADACooperative Research and Development Agreement⑰ ATIPAgricultural Technology Innovation Partnership ⑱ CAPCoordinating Agriculture Projects⑲ LTARLong-Term Agroecosystem Research⑳ BRCsBioenergy Research Centers 21 EFRCEnergy Frontier Research Centers 22 OIRAOffice of Information and Regulatory Affairs23 MOOCsMassive open online courses

1) AAAS Forum on Science amp Technology Policy 2013 年 6 月 12 日httpwwwaaasorgspprdforum2) Office of Science and Technology Policy (OSTP) RampD Budgets 2013 年 6 月 12 日

httpwwwwhitehousegovadministrationeopostprdbudgets3) 2013 年度歳出予算法(Consolidated and Further Continuing Appropriations Act 2013) 2013 年 6 月 12 日

httpwwwgpogovfdsyspkgPLAW-113publ6htmlPLAW-113publ6htm

た教員の立場からこの取り組みが非常に興味深いものであり世界中の学生に対しこれまでなかった教育機会を提供するものであるとしたうえで研究を通した人材育成など MOOC では困難なことや費用教員の資質等の検討課題について言及した

8 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

10

出典NISTEP REPORT No153 科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP 定点調査 2012)2013 年 4 月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacebitstream1103511931NISTEP-NR153-FullJpdf

遠藤 悟科学技術動向研究センター 客員研究官httphomepage1niftycombicycletoursci-indexhtm

研究対象は米国を中心とした科学政策2000年に「米国の科学政策」HPを開設し政策動向を発信している近年は科学と社会の関係や高等教育等にも対象を拡大している

4) 科学アカデミー創立 150 周年式典でのオバマ大統領の発言(Remarks by the President on the 150th Anniversary of the National Academy of Sciences) 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovthe-press-office20130429remarks-president-150th-anniversary-national-academy-sciences

5) The 2014 Budget A World-Leading Commitment to Science amp Research 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostp2014_RampDbudget_overviewpdf

NISTEP 定点調査からみる我が国の研究開発資金の状況科学技術学術政策研究所では第 4 期科学技術基本計画期間中の我が国における科学技術やイノベーションの状況変化を把握するため産学官の研究者や有識者への意識定点調査(NISTEP 定点調査)を2011 年度より実施しています以下の図は第 2 回となる 2012 年度の調査における研究費に関する意識調査の結果ですが科学技術に関する政府予算(Q2-16)や基盤的経費(Q1-18)については多くの機関の研究者が前年と同様「不充分との強い認識(雨マーク)」または「著しく不充分との認識(雷マーク)」を持っているようです特に国内論文シェアが 1〜5 の規模である第 2 グループの大学に所属する研究者は「著しく不充分との認識」を持っていることがわかります米国連邦政府の予算はその時々の政策や財政事情により上昇下降の変化が見られますが我が国の研究者にとって研究予算は低空飛行を続けているという印象のようです

執筆者プロフィール

11

科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

概  要

科学研究の投資効果測定を目指す米国のSTAR METRICS事業の現状と今後の見通し

 国際競争力の確保や社会的課題解決のために科学技術によるイノベーションへの期待が高まる中公

 政府の科学投資が雇用知識創造健康などにどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するための情報基盤を整備する米国の事業(STAR METRICS)は科学投資の社会的なインパクト測定手法を幅広く開発することからオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の方向性に沿う形で連邦政府の競争的資金に関する省庁横断的なデータ基盤整備を図る方向に事業目標を修正している事業の第一段階では人事データに限って連邦政府の科学研究投資の労働誘発効果を検証するためにデータを蓄積可視化するシステムが構築された現在の第二段階では引き続き国立衛生研究所(NIH)がホスト機関となりインプットとアウトプットのデータに重点を置いてデータ蓄積と分析システムを開発中であるSTAR METRICSは参加機関の財務情報や研究活動の経営分析ベンチマーキングや連邦政府機関のファンディング業務での利用など現場の実情を踏まえた政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積を進めるとみられる

キーワード政策のための科学研究評価公的研究開発投資オープンガバメントIR(Institutional Research)

白川 展之 上席研究官

的研究開発投資がどのような成果を産みまた今後産み出す可能性を持つかを科学的根拠に基づき評価し政策過程に反映する社会的要請が各国で高まっている日本でも文部科学省では 2011 年度から「科学技術イノベーション政策における『政策のため

表 1 事業開始までの経緯

科学技術動向研究

出典文部科学省作成資料(参考文献 3)およびAPDU News Letter(参考文献 4)をもとに科学技術動向研究センターにて作成

1 はじめに

STT136_レポート2(web用に修正)indd 11STT136_レポート2(web用に修正)indd 11 130712 1557130712 1557

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STAR METRICS とは2-1

 STAR METRICS とはldquoScience and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effect of Research on Innovation Competitiveness and Sciencerdquoの頭字であり連邦政府による科学への投資が雇用知識創造保健などにどのような影響効果(インパクト)を及ぼしたかを測定するデータ基盤および分析ツール等の整備構築を図る事業である連邦政府大学その他機関の連携のもとに実施することから「省庁横断的なベンチャー的事業」とも表現されている

根拠法令等2-2

 本事業開始当初の目的は米国再生再投資法(ARRA①)において同法に基づく科学投資の支出景気刺激効果について納税者に対する説明責任を果たすためと説明されていたこれに加えて2009 年 1 月 21 日付けのオ-プンガバメントに関する大統領覚書(Presidential Memorandum on Transparency and Open Government)と2009年 12 月 8 日付けの行政管理予算局覚書(Office of Management and Budget Memorandum)にも事業実施の根拠を求めているこの前者のオ-プンガバメントに関する大統領覚書は省庁がオンライン上で情報を取得ダウンロード検索されうる一般的

事業の参加機関数とデータ収集の範囲3-1

 連邦政府では大統領行政府科学技術政策局(OSTP③)国立科学財団(NSF④)国立保健研究所(NIH⑤ )が STAR METRICS のリード機関となったこれに大学で研究開発に関わる職員(研究者管理者等)と省庁が連携して研究開発推進の効率化調整を図るイニシアティブである FDP⑥と一部の高等教育機関がパートナーとなり2010 年1 月にパイロット事業を開始したパイロット事業では 2011 年 7 月まで方法論の開発実証継続的改善に取り組むとともに競争的研究資金のファンディングを行う政府機関や高等教育機関に対しプロジェクトへの参加を呼びかけるアウトリーチ普及活動にも積極的に取り組んだNSF の科学政策のための科学の研究助成事業(SciSIP⑦)の初代プログラムディレクターを務めこの事業の立ち上げにも尽力した Julia Lane 氏は安全保障上の機密の存在から情報公開が難しい国防総省(DOD⑧)に対してもプロジェクト参加の提案を行うなど省庁学協会等に対し働きかけた こうした省庁横断的な事業普及の取り組みは一定の成果を見せFDP の他に全米の有力な研究型大学の団体である全米大学協会(AAU⑨)と公立ランドグラント大学協会(APLU⑩)からの協力もあり参画研究機関大学は 2010 年 10 月の正式な事業発足の段階で 86 機関となった連邦政府機関では環境保護庁(EPA⑪)農務省(USDA⑫)エネルギー省(DOE⑬)を加えた合計 6 機関が参加協力を得たこの結果これら参加協力機関のすべてのデータが得られた場合金額ベースで NIH の研究助成額の 3 分の 1参加協力機関の合計では金額ベースで連邦政府全体の科学研究助成半分以上をカバーするデータ収集を狙える体制となった

の科学』推進事業」を実施している米国では 2005年にマーバーガー前科学担当大統領補佐官が「科学政策の科学化」を目指しデータモデルとコミュニティ開発を図る「科学政策のための科学」を提唱して以来各国に先駆けて省庁間連携や公募型研究開発プログラムや情報基盤の整備を推進してきた 本稿では米国政府による科学への投資がどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するため開始された事業(STAR METRICS)についてこれまでの事業展開や今後の見通しを紹介する

なデータ形式で公開する旨を定めたものであるまた後者の行政管理予算局覚書では情報自由法

(FOIR②)の義務付け範囲を超えて有益な情報を積極的に普及させるために先進的な技術を各省庁が利用するよう推奨している

2 事業概要

3 事業の進捗推移

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表 2 STAR METRICS の計画目標の推移

事業推進体制の変更強化3-2

 2011 年 10 月に NIH がホスト機関となり2012年 1 月には本事業の新たな段階への移行を見据えて執行体制を刷新したエクゼクティブコミッティーと機関横断ワーキンググループの 2 層の省庁機関間の連携組織のもとホスト機関の NIH の責任者がNIH(2 名)および NSF(1 名)のプログラムマネージャーを統括する事業推進体制としたデータシステム整備等の実務的な作業は技術プロジェクトマネージャー(プログラムマネージャーと兼任)がさらにその下に置かれシステム開発を行う業務委託先のベンダーとのプロジェクト進行管理を行っている 事業の実質的な進展を図るこうした体制変更はNIH の連邦政府における科学投資の予算額のシェアの大きさとその組織能力ノウハウを反映した結果とみられるNIH は米国再生再投資法

(ARRA)における科学研究投資額が最も多かった何よりNIH には根拠に基づく医療(EBM⑭)に不可欠の情報基盤となっている学術文献データベース PubMed を実質的に運営注 1)するなどライフイノベーション関連の各種データベースを学術文献のオープンアクセス化といった学術情報流通政策とともに強力に牽引実施してきた実績がある ただしNIH の担当部署ではSTAR METRICS

の情報システムの開発は付随的業務の位置付けで実施しているしかし事業のシステム開発調整には相当の人役エフォートが必要で実質的にはフルタイムの人員が複数張り付く状態だという

事業目標の変更修正3-3

 STAR METRICS で は 大 変 な 試 行 錯 誤 の 末に 2012 年 4 月に事業目標が修正された当初はフェーズ 1 とフェーズ 2 という 2 段階の計画がレベル 1 とレベル 2 という 2 段階に分けてデータ基盤とツールの整備を行う計画に変更されている(表 2)連邦政府による科学投資の社会的インパクト測定手法の開発という政策科学として挑戦的な目標を掲げた当初の事業目標から先進的技術を活用した政府情報の公開のためのデータフローを蓄積分析する科学技術学術情報関連の実用的な基盤整備事業へと現実的な方向に軌道修正を図ったとみられる この結果科学政策の透明性を確保するための情報基盤の構築データ蓄積を図るという変更後の事業目標設定はオープンデータオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の下で一定の位置付けを得る整理になっている

注1 NIH に国立医学図書館(NLM⑮)の一部門の国立生物工学情報センター(NCBI⑯)が置かれPubMed が運営されている

出典所期の事業計画の表現については(参考文献 5)から修正された目標については(参考文献 1)をもとに科学技術動向センターにて作成

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 レベル 1 のデータ整備では現場の過度の事務負担を避けるために整理正規化を行うデータは競争的資金の種目被雇用者の種別(研究員研究補助者等の区分)業務従事割合(フルタイム換算データ)や間接経費込みの人件費総額など人事関連の 14 項目に限定された参加研究機関はデータポリシーに従ったフォーマットで 4 半期毎にデータを提出するとデータの質の確認処理の後レポートが返される仕組みである 以下の図 1 及び図 2 にはこれまでの事業の成果例を示す 図 1 は開発されたシステムと収集されたデータによる連邦レベルでの成果例であるここではレベル 1 の事業に参画した機関数について州別に可視化されている図 2 は参加機関地域レベルの成果例である図 2 ではインディアナ州の参加機関である Purdue 大学と Indiana 大学に関する 2011財政年度における連邦科学投資による雇用誘発効果に関する情報について可視化した例である

図 1 レベル 1 の成果例(1)STAR METRICS に参加している州別機関数

図 2 レベル 1 の成果例(2)インディアナ州における連邦科学投資のもたらす雇用誘発効果大学キャンパス別の被雇用数の可視化

出典参考文献 1 出典参考文献 2

 現在実施中のレベル 2 の目標は連邦政府所管のファンディングエージェンシーの科学研究助成に関して幅広い範囲のインプットおよびアウトプットに焦点を置いたデータを連邦政府機関とその他の利害関係者に対し提供することである機関レベルの

合意のもとNIH がEPANIHNSFUSDA のデータを収集し他の参画 3 機関はデータベース構築に際して概念実証に必要な協力を行う現在技術的実装計画を策定しパイロット版のシステムを開発中であり構築テスト修正が繰り返されている データ整備はアウトカムよりも予算配分とアウトプットのリンクに重点が置かれているこれまでのところ2012 年財政年度を中心として参加協力 6 機関の 7 万 6 千件の助成プロジェクトがウェブベースで開発したデータシステムに入力され財政年度助成機関州群等の位置等のデータ項目やプロジェクトの概要結果等が検索可能になっている技術的課題としてはデータ整備上はテキスト検索下院選挙区別検索機関プロジェクト等詳細情報との接続などが挙げられている特に政策形成過程での実際的な利用を想定して下院選挙区別検索のためのデータの付加が重要な取り組み事項とされている システム運用では機関の実情と個人情報の保護に配慮しつつ政府の科学投資の透明性を高める方針である研究者個人の給与など個人情報や人事業績評価とも直結するデータが蓄積されていることから機微に触れる情報と公開すべき情報を層別し連邦政府機関関係者のみにアクセス制限を設けるなどの運用を考えているという一方参加機関大学の側では大学運営上の評価意思決定計画策定支援を行う情報分析である IR⑰と事務システムの合理化の観点から開発を進めている財務情報や研究活動のベンチマーキングを行う測定評価手法やそのレポートの様式を共同で開発するほかオープンソースのソフトウェアを用いた大学間でのソースコードの共用化などが検討されている こうした状況からSTAR METRICS の今後は

4 これまで(レベル 1)の事業成果

5 今後(レベル 2)の状況見通し

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図 3 成果実装イメージ例外部研究資金による下院選挙区別雇用誘発効果(Purdue 大学および Indiana 大学)

出典参考文献 2

1) Update on the State of STAR METRICS George ChackohttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811642) STAR Metrics Data Consistency Marietta HarrisonhttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811643) 科学技術学術審議会総会(第 36 回)平成 23 年 5 月 31 日資料 1「科学技術イノベーション政策のための「政策のため

の科学」の推進について」httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu0shiryo__icsFilesafieldfile201107011307169_01pdf

4) Science and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effects of Research on Innovation Competitiveness and Science (STAR METRICS) George Chacko etal Association of Public Data Users NewsletterhttpwwwamstatorgmiscNewsletterArticleSTAR_METRICShtm

5) 遠藤悟ホームページ「米国の科学政策」STAR METRICShttphomepage1niftycombicycletoursci-ronstar_metricshtm

幅広い国民利害関係者への説明責任を果たすための科学投資の社会経済的効果の測定の方法論開発を長期的視野に入れつつも連邦政府機関がファンディング業務の際に利用できる現場の実情を踏まえた実用的な政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積が進むものとみられる

謝辞 この種の政策効果(インパクト)を測定する困難性試行錯誤は世界共通である公開資料ではわかりにくい点も多い本稿の執筆に際し関係者のコメントやそのニュアンスも含め有用な情報提供助言をいただいた(独)新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)ワシントン事務所新川達也前所長(現経済産業省資源エネルギー庁電力ガス事業部原子力発電所事故収束対応室長)前野武史副所長に御礼申し上げる

略称① ARRAAmerican Recovery and Reinvestment Act of 2009② FOIRFreedom of Information Act③ OSTPWhite House Office of Science and Technology Policy④ NSFNational Science Foundation⑤ NIHNational Institute of Health⑥ FDPFederal Demonstration Partnership⑦ SciSIPScience of Science amp Innovation Policy program⑧ DODUnited States Department of Defense⑨ AAUthe Association of American Universities⑩ APLUthe Association of Public and Land Grant Universities⑪ EPAEnvironmental protection Agency⑫ USDAUnited States Department of Agriculture⑬ DOEUnited States Department of Energy⑭ EBMEvidence-based medicine⑮ NLMNational Library of Medicine⑯ NCBINational Center for Biotechnology Information⑰ IRInstitutional Research

参考文献

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6) Contact Kevin Boatright Office of Research amp Graduate Studies 785-864-7240 Associate vice chancellor accepts visiting assignment with the National Science Foundation May 21 2012httparchivenewskuedu2012may21rosenbloomshtml

7) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Presidential Memorandum on Transparency and Open Government (Jan 21 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_fy2009m09-12pdf

8) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Open Government Directive(Dec 8 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-08pdf

9) RESEARCH INSTITUTION PARTICIPATION GUIDE in STAR METRICS websitehttpswwwstarmetricsnihgovStarParticipatecalculatingjobs

10) Science and Technology Priorities for the FY 2012 Budget(July 21 2010)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-30pdf

白川 展之科学技術情報分析ユニット 上席研究官httpwwwnistepgojp

広島県職員を経て研究者に2008年 9月より現職科学技術予測などに従事専門はイノベーション政策公共経営評価農業から保健医療など幅広い分野の技術マネジメント産学連携の経験から科学技術にとどまらない幅広いイノベーションを研究

執筆者プロフィール

コラム

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

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イノベーション政策のデータ基盤に関する日本での議論 科学技術学術政策研究所では文部科学省の科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環としてエビデンスに基づく科学技術イノベーション政策の基礎となる体系的なデータ情報基盤の構築を進めている多くの専門家が指摘している重要課題はミクロデータの利用複数データベースの接続の 2 点であるつまり各種政策の効果の分析や大学等における研究開発の構造的な分析には従来の集計データのみでは不十分でありミクロデータ利用のニーズが非常に大きいまた複数のデータベースを用いた横断的な分析の必要性からデータベースの接続に大きな関心が寄せられているさらにデータ情報基盤構築が政策評価に役立つ意義とともにデータ情報基盤の構築に際して研究者と政策担当者の相互交流と国際的な交流が不可欠との指摘が出されている

出典NISTEP NOTE(政策のための科学)No3「科学技術イノベーション政策のための科学」におけるデータ情報基盤

構築の推進に関する検討2012 年 11 月科学技術政策研究所 科学技術基盤調査研究室

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

 世界各国の政府は情報やデータの開示およびオープン化を進めており実際に各国でデータガバメント「datagov」が稼働し始めた日本でも日本再興戦略1)の一環として2013 年度末までには日本版 datagov を試行的に立ち上げ2014 年度初めから本格稼働を予定しているしかしdatagov の背景や本質を理解した上で事業を進めなければ決して有用なものとはならないそれには「ガバメント 20」というキーワードが参考になる ガバメント 20 とは(米)オライリーメディア社の創設者 Tim OrsquoReilly 氏が 2009 年に提唱した概念であり彼の主張は「政府はプラットホーム化しなければならない」ということである2)情報通信分野で決定的な勝者になったのはプラットホーム企業である例えばMicrosoft 社は会社や家庭にパソコンを普及させGoogle 社は広告収入で運営され

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

キーワードマシンリーダブル公共データオープンデータデータツールデータシティ鯖江

市口 恒雄 特別研究員

る膨大なスタートアップ企業群を生み出しApple社はアプリ開発の企業を生み出して携帯電話の価値を高めたこれらの企業は「第三者に新たな挑戦の場を与える」ことにより成功したつまり政府のプラットホーム化とは「IT 技術によって国民や市民そして行政に新たな挑戦の場を与えること」である ガバメント 20 は電子政府のことかと言えば決してそうではない単なる IT 化では国民や市民に新たな挑戦の場を与えることはできないからであるそれではガバメント 20 とは具体的にどのようなことであり我々はどの様にそれを実現すれば良いのであろうか 実現のための 1 つの方向性は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく市民が積極的に利用できる webサービスを提供しなければならない米国オバマ大統領は2009 年の就任時にオープンガバメントに対して「透明性」(transparent)「国民参加」

(participatory)「協業」(collaborative)という 3

科学技術動向研究

概  要

1 はじめに―ガバメント 20実現への 2 つ方向性

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

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原則を示した3)この様な背景から生まれたのがdatagav でありガバメント 20 の 1 つの形態であるデータは加工可能な形で提供されるので国民はそのデータを使って新たなサービスや事業を始めることができる もう 1 つの方向性は市民から行政への情報提供とその情報や問題の市民間の共有である国民や市民の意見を聞くというだけではガバメント 20 ではない行政は市民からの情報に即応し即応できない場合には市民と情報を共有し場合によってはボランティアに対応を任せることも重要であるボランティアによる「Do It Ourselves 型」の公共事業または公共社会へと発展し市民と地方行政はより密接に連携することになる世界中の多くの市町村は「シークリックフィックス(SeeClickFix)」4)というアプリを利用して市民参加を促した上で行政サービスを向上させているこのような Do It Ourselves 型の公共政府もローカルガバメント 20 の 1 つの側面と言える

 世界各国の政府は政府が持つ情報やデータの開示およびオープン化を進めつつある具体的にはdatagov(米国)datagovuk(英国)datagovsg (シンガポール)datagovau(オーストラリア)である特に進んでいるのが図表 1 に示す米国の datagov5)で2013 年 4 月末時点で171 の行政機関が参加し373029 のデータセットと1209 のデータツールを提供しているまた312 のアプリと 137のモバイルアプリも提供している(7 月 2 日時点では75714 のデータセット137 のモバイルアプリと 349 の投稿アプリ295 の政府 API を提供している) 英 国 の datagovuk は2013 年 7 月 2 日 時 点 で9596 のデータセットが公開され投稿されたアプリも含め多数のアプリが提供されている天気情報や交通(事故)情報を取得するアプリが人気が高いシンガポールの datagovsg はキーワードを入力してデータセットを探す仕組みになっており最も良くダウンロードされているのは税収や予算関連のものであるオーストラリアの datagovau は114 の行政機関が参加し1126 のデータセットと 20 のアプリが提供されている

 データセットは加工や分析が可能なマシンリ ー ダ ブ ル な フ ォ ー マ ッ ト(CSV XLS XML RSS RDF など)で提供され利用者がデータセットを取得加工分析できるアプリも同時に提供されるまたAPI(Application Programming Interface)も公開されておりAPI を利用したデータの自動取得も可能であるもしAPI が公開されていなければ政府データを使った新たなサービスやビジネスを創造することは困難でありデータガバメントに利用できる様々なアプリすら開発できない単に政府データを公開するのではなく利用者が加工分析しやすい形でデータを提供することがデータガバメントにとって重要である 政府データを上手く利用している 1 つの実例は

(米)Wolfram Research 社がサービス提供している WolframbrvbarAlpha であろう6)「世界の知識を計算可能にする」ことを謳ったこのサービスは政府データを取り込み利用者が入力した様々な質問に答えてくれる例えば「米国で人口が多い都市は」とか「小麦の生産量は」などの質問にその答えを返すだけでなく関連する情報も提示してくれるこれは政府データがマシンリーダブルであるからできることである

 日本でもオープンガバメント化の流れは避けられず首相官邸の高度情報通信ネットワーク社会推

図表 1 米国の datagov

出典参考文献 5

日本の状況2-2

2 公共データのオープン化

世界各国のデータガバメント2-1

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進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

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(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

29

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

36

辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
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科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

2

科学技術動向 概 要

本文は p18 へ

本文は p11 へ

本文は p4 へ

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS 事業の現状と今後の見通し

2013 年 AAAS 科学技術政策年次フォーラム報告緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1 つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

 政府の科学投資が社会の雇用知識創造健康などにどのような影響(インパクト)をもたらしたかを解明するための情報基盤を整備する米国の事業(STAR METRICS)は科学投資の社会的なインパクト測定手法を幅広く開発することからオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の方向性に沿う形で連邦政府の競争的資金に関する省庁横断的なデータ基盤システム整備を図る方向に事業目標を修正している事業の第一段階では人事データに限って連邦政府の科学研究投資の労働誘発効果を検証するためにデータを蓄積可視化するシステムが構築された現在の第二段階では引き続き国立衛生研究所(NIH)がホスト機関となりインプットとアウトプットのデータに重点を置いてデータ蓄積と分析システムを開発中であるSTAR METRICS は社会経済的効果の測定の方法論開発を視野に入れつつも参加機関の財務情報や研究活動の経営分析ベンチマーキングや連邦政府機関のファンディング業務での利用など現場の実情を踏まえた政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積を進めるとみられる

 全米科学振興協会(AAAS)は2013 年 5 月 2 日~3 日にワシントン DC において AAAS 科学技術政策年次フォーラム(AAAS Forum on Science and Technology Policy)を開催したフォーラムは大統領科学顧問による基調講演大統領予算案の分析や予算に関する論議そして最近の科学技術政策のテーマによる分科会さらに科学技術と経済や社会との関係も含めた幅広いテーマについての全体セッション等から構成された 次年度予算案の審議の行方について高い関心が寄せられる例年とは異なり本年は当年度予算が削減を織り込んだ継続決議として成立した歳出法に基づき執行されていることまた次年度以降も大半の科学技術予算が含まれる裁量的予算に対する歳出削減の圧力が強まる見通しであることから講演内容や参加者の関心も予算について積極的に議論しようという空気は薄くむしろより長期的な視点から科学技術の今後を考える論議が目立つものとなった

3科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

本文は p25 へ

本文は p32 へ

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

各国の地球観測動向シリーズ(第 1回)米国の地球観測活動の今後の方向性

 オランダはEU 圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2 位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲン UR の戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲン UR は世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から「GEOSS(ジオス)10 年実施計画」が開始されている米国も国内外の地球観測衛星の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているこうした中米国は 2013 年 4 月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の4 つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12 の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている このような米国の戦略を我が国の地球観測戦略と対比すると国情の違いも踏まえて相似点と相違点を分析することができ今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える右図は GEOSS の公共的利益分野に対して米国のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

4

2013年AAAS科学技術政策年次フォーラム報告  緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

 全米科学振興協会(AAAS ① )は2013 年 5 月 2日~3 日にワシントン DC において AAAS 科学技術政策年次フォーラム(AAAS Forum on Science and Technology Policy)を開催した1)このフォーラムはAAAS RampD Colloquium の名称で開催された第 1 回から数えて 38 回目にあたり科学技術政策関係者が集う全国的な会合として定着している フォーラムの構成は大統領科学顧問による基調講演大統領予算案の分析や予算に関する論議そして最近の科学技術政策のテーマによる分科会さらに科学技術と経済や社会との関係も含めた幅広いテーマについての全体セッション等から成っており配布資料によると大学連邦政府機関非営利機関民間企業海外機関等から約 370 人の

 全米科学振興協会(AAAS ① )は2013 年 5 月 2 日~3 日にワシントン DC において AAAS 科学技術政策年次フォーラム(AAAS Forum on Science and Technology Policy)を開催したフォーラムは大統領科学顧問による基調講演大統領予算案の分析や予算に関する論議そして最近の科学技術政策のテーマによる分科会さらに科学技術と経済や社会との関係も含めた幅広いテーマについての全体セッション等から構成された 次年度予算案の審議の行方について高い関心が寄せられる例年とは異なり本年は当年度予算が削減を織り込んだ継続決議として成立した歳出法に基づき執行されていることまた次年度以降も大半の科学技術予算が含まれる裁量的予算に対する歳出削減の圧力が強まる見通しであることから講演内容や参加者の関心も予算について積極的に議論しようという空気は薄くむしろより長期的な視点から科学技術の今後を考える論議が目立つものとなった

キーワード米国予算AAASファンディング科学技術と社会

遠藤 悟 客員研究官

科学技術動向研究

 2 日間にわたり開催されたフォーラムの日程は以下のとおりである

【全体セッション】 2014 年度研究開発予算における予算的お

よ び 政 策 的 枠 組 み(Budgetary and Policy Context for RampD in FY 2014)

W Carey レクチャー米国の科学技術パイプラインの拡大大学教員のイノベーションと人々を包括した卓越性(Expanding Americarsquos Science and Technology Pipeline Academic Innovation and Inclusive Excellence)

より良い政府のための科学的洞察(Scientific Insights for Better Government)

 概  要

参加があった1 はじめに

5

緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 フォーラムが開催されるこの時期はこれまでは 2 月上旬の大統領による予算案の発表を受け10 月に始まる次年度予算に関する議会での審議が行われている最中のため参加者の間でも次年度予算案の審議の行方について高い関心が寄せられる時期であったしかし本年は当年度予算が削減を織り込んだ継続決議として成立した歳出法に基づき執行されている状況にありまた次年度以降も大半の科学技術予算が含まれる裁量的予算に対する歳出削減の圧力が強まる見通しであることから講演内容や参加者の関心も予算について積極的に議論しようという空気は薄くむしろより長期的な視点から科学技術の今後を考える論議が目立つものとなった

 最初の「2014 年度研究開発予算における予算的および政策的枠組み」のセッションの基調講演は大統領科学顧問大統領府科学技術政策室(OSTP ④)室長である John P Holdren 氏により行われた 2014 年度大統領予算案に関連し1)科学技術は雇用保健環境国家安全保障などの米国が直面するチャレンジに対応する中心的役割を担っていること2)好奇心に基づき行われる基礎研究の支援は政府の責任であり国立科学財団(NSF ⑤ )エネルギー省(DOE ⑥ )の科学室商務省の国立標準技術局(NIST ⑦ )の基礎研究の強化が必要であることを述べそれらが予算案に反映されていると述べたまた航空宇宙局(NASA ⑧ )の小惑星や火星へのミッションや各省による先進製造研究などを重視していることさらに強制的な歳出削減も考えられる厳しい財政状況下において予算を戦略的に組む必要性を述べ科学技術イノベーションコミュニティーに対してはその活動の重要性について声を上げることを期待しまたこれまでの協力に感謝していると述べた2) さらに 2013 年歳出予算法(継続決議)においてNSF の社会経済科学研究支援のうち国家安全保障面や経済面の利益を明らかとすることができない政治科学研究支援の支出が禁止されたことに触れこのことに対しオバマ政権は1)政治科学は他の社会科学と同様に仮説に基づきピアレビューという手法や再現可能性などの特性を持つ科学であること2)社会科学は基礎研究の定義に合致し実用的な社会の利益に結びつくものであることそして3)社会科学行動科学と自然科学が相対する性格を持つという意見もあるがこれは誤りであることを述べさらに NSF が支援する基礎研究はその直接の成果において実用的利益が明らかでないものもあるが予期されない場合も含め社会に多大な利益をもたらすものであることを強調した 3)そしてNSF をはじめ多くの連邦政府の科学技術関係機関が用いているピアレビューは世界共通に認められている評価における最良の基準(gold standard)であることを科学アカデミー創立 150 周年式典でのオバマ大統領の発言を引用しつつ述べたさらに一部の議員の NSF に対する要求は基礎研究の価値を損ねるものであるとして非難した 4) またHoldren 顧問はオバマ政権における科学技術イニシアチブとして特に科学技術工学数学(STEM)教育について2014 年度予算案の額

世 界 に 広 が る 教 室 に お け る 科 学 技術工学数学分野の高等教育の再構想

(Re-imagining STEM ② Higher Education in the Worldwide Classroom)

環境に関する規制はどの程度経済を阻害 す る か(How Much Do Environmental Regulations Hurt the Economy)

【パラレルセッション】米国の研究イノベーションにおける民間慈

善団体の役割(Roles of Private Philanthropy in US Research and Innovation)

連 邦 政 府 研 究 開 発 支 援 に お け る 実 験(Experiments in Federal RampD Support)

誰がどのようにインターネットをコントロ ー ル し た い の か(Who Wants to Control the Internet and How)

科学技術専門家のためのメンタリング技能望ましい点と必要な点から(Mentoring Skills for Science and Technology Professionals Both Desirable and Required)

変化する特許の展望異なる部門における賛否(The Changing Patent Landscape Cases For and Against Patents in Different Sectors)

【朝食昼食のスピーチ】5 月 2 日の昼食3 日の朝食昼食において

それぞれカナダの科学技術政策神経科学研究国防高等研究計画局(DARPA ③ )をテーマとしたスピーチが行われた

2 オバマ政権の科学技術政策

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

6

が 2012 年度実績に対し 67 増の 31 億ドルとなるイニシアチブで100 万人の新たな科学技術分野の卒業生の輩出や10 万人の優れた STEM 分野の教員の育成などの取り組みを行っていることを述べたさらにホワイトハウスで実施されたサイエンスフェアに象徴されるようにオバマ大統領自身が力を注いでいるイニシアチブであることに加え連邦政府の政策に呼応する形で2020 年までに 100万人の STEM メントーを育成する計画など数多くの STEM プログラムが民間企業や慈善団体により実施されるようになっているとし官民協力が望ましい形で進展していることを報告した 引き続き Sharp AAAS 会長との対話形式により全米製造イニシアチブなどのイノベーション戦略STEM 教育エネルギーと環境オープンガバメント宇宙国際的な科学技術協力そして脳神経科学を含む生物医学研究など広範にわたって議論された幅広い科学技術に対する支援策を行う中で特に基礎研究に対する連邦政府投資を行うと同時に税制措置など民間の活力を引き出す環境を整える考えが示された 

 Matthew Hourihan AAAS 研究開発予算分析プログラム長から2014 年度大統領予算案の解説が

あった予算案の概略は以下のとおりである2014 年度予算案における連邦政府研究開発予算

の額は1428 億ドルであるこの額は比較対象となる 2012 年度予算実績額に比べ13(約19 億ドル)の増である(以下増減については2012 年度比)

連邦政府の基礎研究に対する支援額は 332 億ドル(45 増)応用研究に対する支援額は 350 億ドル(106 増)である

連邦政府の開発支出は715 億ドル(50 減)である

「大統領科学イノベーション計画(Presidentrsquos Plan for Science and Innovation)」 の 対 象 機 関

(NSFDOE 科学室NIST 研究室)の予算は 8増加しているしかしその額は競争力強化法

(2010 年アメリカ COMPETES 再授権法⑨ )に示された授権予算の額を下回っている

製造業のイニシアチブについては「米国を製造 業 の マ グ ネ ッ ト と す る(Makes America a Magnet for Manufacturing)」 の 名 称 でNSFDODDOE商務省などの関連予算により実施されるがその対象となる規模は87 増の 29億ドルである

クリーンエネルギーは2014 年度予算案において引き続き重点項目に含められている

米国地球変動研究プログラム(USGCRP ⑩ )の2014 年度予算案は約 27 億ドルで6 増となっている

生物医学研究における米国の主導的地位の確保

出典参考文献 5

連邦政府各省機関の研究予算の額の変遷(2014 年度は予算案)

3 科学技術予算の現状と今後の見通し

7

緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 Arati Prabhakar DARPA 長官が現代世界の軍事政治状況の下での同庁の役割や方向性について述べた冷戦期の 1958 年に高等研究計画局(ARPA⑫ )として創設された同庁は現代世界の環境について1)米国に対する脅威が複雑化しまた変化し続けていること2)財政問題による経費面における要請が高まったこと3)技術が地球規模的に利用可能となったことの 3 点を挙げその状況に対する取り組みについて説明を行った同局は 29 億ドルという国防研究開発費の中では必ずしも大きくない予算規模で95 人のプログラムマネージャーが大きく関与し情報技術から脳神経科学まで多彩なプロジェクトを実施していることを報告したうえでDARPAがこのような優れた研究プロジェクト支援を行える基盤には米国の健全な研究開発のエコシステムがあることを述べた DARPA 以外の省機関もそれぞれのミッションに従い様々な研究プログラムを実施しておりその評価手順も異なっている「連邦政府研究開発支援における実験」のセッションにおいてはNIH農務省(USDA ⑬ )DOE の事例が報告された Kathy Hudson NIH 科学アウトリーチ政策担当次長は国立トレンスレーショナル科学前進センター(NCATS ⑭ )と BRAIN ⑮ イニシアチブを中心に報告を行ったNIH のミッションは基礎研究を実施することと基礎研究を人々の保健医療の向上に結び付けることの二つであるとしたうえでNCATS については NIH の研究者が発見した化合物の実用化や産業化における障壁の低減そして製品化への時間の短縮などの取り組みについて述べたまたBRAIN イニシアチブについて

 海外の事情については中国インド韓国そしてカナダの科学技術政策について報告があった

「2012 年度研究開発予算における予算的および政策的枠組み」の一部として設けられた「科学技術政策に関するアジアの視点米国との相違と共通性」のセッションにおいてはJeannette Wing マイクロソフト社副社長マイクロソフトリサーチ所長が中国とインドの動向について報告した中国の経済発展は1990 年代から始まるがまず人材を育成し次に 211985 などの番号を付した計画を通して基盤を整えそのうえで知識を生み出すための基礎研究と技術イノベーションへの投資が行われたという流れを紹介し今では上位の大学は米国の有力私立大学と並ぶものであるとしたしかし中国の高等教育機関は拡大したが中国の大学生にとって米国の大学を目指す意識に変化はなく中国人人材の米国への供給は続くとの見方を示したインドについて Wing 氏は各地に計 15 校設置されたインド

米国民の健康の改善そして未来のバイオエコノミーの構築のためNIH ⑪ の予算は 313 億ドル

(15 増)となっている高い技能を持つ人材育成のためSTEM の分野の

教育に 31 億ドル(67 増)の支出を行うこととしている

民間部門の投資を拡大させるため試験研究費税額控除の拡大簡素化恒久化を提案している

予算案は米国民に対する見返りが最大化する分野に資源を集中させそうでない分野において削減するとしておりその例として開発予算は 38億ドル削減されている

は研究資金配分成果に対する褒賞(プライズ)DARPA 型のプロジェクト運営を通した成果創出の迅速化研究活性化のためのマッチングさらにクラウドファンディングといったメカニズムについて紹介した Catherine Woteki USDA 主任科学者研究教育経済担当次官は予算削減が続く中での研究開発活動は省内の機関の研究と外部研究支援とのバランスを取りつつ行う必要があることなどを述べたうえで同省の 21 世紀のチャレンジとして食料の安全保障食品の安心人々の栄養と健康気候変動バイオエコノミー(バイオ燃料バイオプロダクト)を挙げたそして共同研究開発契約プログラム

(CRADA ⑯ program)のモデルによる研究成果の民間部門への移転に加え農業技術イノベーションパートナーシッププログラム(ATIP ⑰ Program)調整農業プロジェクト(CAP ⑱ )長期農業生態系研究ネットワーク(LTAR ⑲ Network)等の同省の特徴的なプログラムについて説明を行った Patricia M Dehmer エネルギー省科学室室長代理は簡単に同省の歴史や予算の枠組みに触れた後バイオエネルギー研究センター(BRCs ⑳ )エネルギーフロンティア研究センター(EFRC 21 )そしてエネルギーイノベーションハブ(Energy Innovation Hub)について報告した

4 多様なファンディングシステム

5 他国の科学技術政策に関する報告

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

8

護や改善を目的とした規制的政策が経済に与えるネガティブな影響について実際よりも拡大してあるいは経済面における利益との関係を考慮せずに論議される傾向があることを指摘した William A Pizer スタンフォード大学公共政策学部准教授は必ずしも相関が明らかではないにも関わらず特定の産業部門での雇用の悪化について規制が行われたことと関連付けて政策論議されまた他の産業における雇用効果について論じられない状況などを指摘した Cary Coglianese ペンシルバニア大学法学政治学教授は「何故政治は環境に関する規制は雇用を殺し研究者はそのようなことがないと言うのか」との表題により規制が競争力の低下をもたらす証拠はないにも関わらず人々がネガティブな影響があると考える背景について考察を加えた Richard Morgenstern 未来のための資源上級フェローは「環境に関する経済的分析の見通し」の表題により便益費用分析に基づくブッシュ政権とオバマ政権の政策決定における観点の相違について述べた

 フォーラムではedX や Coursera といった近年急激な展開を見せている大規模オンラインオープンコース(MOOC 23 )に関するセッションも設けられていた Anant Agarwal edX 会長マサチューセッツ工科大学電気工学コンピューター科学教授はedXは世界の人々がアクセスすることができる新たな教育機会であるとし154763 人の学生が登録し7157人が履修証明書の発行を受けるなどの数字を示したうえで学生が自発的に参加できるよう工夫された宿題や試験などその具体的なシステムについて説明を行った Wendy Newstetter ジョージア工科大学工学部教育研究イノベーション担当主任は教授法について伝統的な教室における教育実験など相互的な教育独立型の教育オンライン教育という区分を示しMOOC が独立型教育とオンライン教育の双方にまたがるものとしたうえで未だ教育学研究者の関心は薄く履修する学生のコンピテンス向上の観点から見るとその要件を満たしていない点が多いことを指摘した Kevin Werbach ペンシルバニア大学ウォートンスクール准教授はMOOC を通して実際に授業を行っ

 フォーラムの多くのセッションはいわゆる「科学のための政策」に関するものであったが科学的知見の(科学技術政策以外の)政策形成への反映すなわち「政策のための科学」に関するセッションも二つ設けられていた 「より良い政府のための科学的洞察」と題されたセッションは標題のとおり科学技術特に社会科学行動科学の知見をどのように政策形成の向上に活かすことができるかをテーマとしたものであった Case R Sunstein ハーバード大学ロースクール教授

(前大統領府情報規制室OIRA22 室長)は前職の OIRA における科学に基づく客観性独立性と大統領府経済諮問委員会とも協力した経済的価値の両面における活動について述べたうえで合理的な政策形成について受け手である一般の人々の認識の面も含め考えられるシステムについて具体的な例示を含めて説明した Arthur Lupia ミシガン大学社会研究所教授は異なるバックグラウンドを持つ人々における社会科学の価値について述べた「社会科学の価値は何であるか」ということと「資金配分を行うべき対象であるか」というふたつの疑問に関し信頼性(credibility)と正当性

(legitimacy)という二つの評価基準から説明を行ったそして講演の最後には最近の議会による NSF の社会科学研究への支出の禁止等の動きに対し社会科学研究が国家にもたらす価値の大きさについて語った 「環境に関する規制はどの程度経済を阻害するか」と題されたセッションはいずれの講演者も環境保

工科大学は今後も拡大する予定があるが博士人材等の点では遅れが見られる等の指摘を行った Jong-Guk Song 科学技術政策研究院(韓国)院長は「クリエイティブエコノミー」と名付けられた韓国の経済政策について報告した労働力供給の変化により今後経済成長の低下が見込まれる状況において他国に比べ韓国が劣っている起業を活発化させる等の政策的枠組みにいての内容であった Gary Goodyear カナダ科学技術担当国務大臣はカナダの科学技術活動の状況について研究開発投資と税制研究基盤宇宙部門物理学医療といった幅広い視点から報告したまた海外との関係について複数の世界的な水準の大学が世界中から人材を引き寄せていることや特に米国との間で緊密な科学技術協力が実施されていることを報告した

7 MOOC-大学の新たな教育モデル

6 科学的知見の政策形成への反映

9

緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 2013 年 3 月になって確定した 2013 年度歳出予算においては研究開発予算においても 5 パーセン

ト程度の歳出削減対象となったものも多くアカデミックコミュニティーにとって予算面で希望の持てる状況にはないしかしながら本フォーラムでは必ずしも予算削減は大きなテーマとなっていなかったその背景には厳しい予算状況が既に現実のものとなったことまたそのような状況にありながらオバマ政権が科学技術に関し手厚い支援を行う意向を示していることがあると考えられるそして参加者の関心はむしろ厳しい財政状況において例えばどのようなファンディングシステムが研究成果を高めるかなど研究開発システム全体に向けられているように感じられた

略称① AAASAmerican Association for the Advancement of Science② STEMScience Technology Engineering and Mathematics③ DARPADefense Advanced Research Projects Agency④ OSTPOffice of Science and Technology Policy⑤ NSFNational Science Foundation⑥ DOEDepartment of Energy⑦ NISTNational Institute of Standards and Technology⑧ NASANational Aeronautics and Space Administration⑨アメリカ COMPETES再授権法America Creating Opportunities to Meaningfully Promote Excellence

in TechnologyEducation and Science Reauthorization Act of 2010 (America COMPETES Reauthorization Act of 2010)

⑩ USGCRPUS Global Change Research Program⑪ NIHNational Institutes of Health⑫ ARPAAdvanced Research Projects Agency⑬ USDADepartment of Agriculture⑭ NCATSNational Center for Advancing Translational Sciences⑮ BRAINBrain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies⑯ CRADACooperative Research and Development Agreement⑰ ATIPAgricultural Technology Innovation Partnership ⑱ CAPCoordinating Agriculture Projects⑲ LTARLong-Term Agroecosystem Research⑳ BRCsBioenergy Research Centers 21 EFRCEnergy Frontier Research Centers 22 OIRAOffice of Information and Regulatory Affairs23 MOOCsMassive open online courses

1) AAAS Forum on Science amp Technology Policy 2013 年 6 月 12 日httpwwwaaasorgspprdforum2) Office of Science and Technology Policy (OSTP) RampD Budgets 2013 年 6 月 12 日

httpwwwwhitehousegovadministrationeopostprdbudgets3) 2013 年度歳出予算法(Consolidated and Further Continuing Appropriations Act 2013) 2013 年 6 月 12 日

httpwwwgpogovfdsyspkgPLAW-113publ6htmlPLAW-113publ6htm

た教員の立場からこの取り組みが非常に興味深いものであり世界中の学生に対しこれまでなかった教育機会を提供するものであるとしたうえで研究を通した人材育成など MOOC では困難なことや費用教員の資質等の検討課題について言及した

8 おわりに

参考文献

コラム

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出典NISTEP REPORT No153 科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP 定点調査 2012)2013 年 4 月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacebitstream1103511931NISTEP-NR153-FullJpdf

遠藤 悟科学技術動向研究センター 客員研究官httphomepage1niftycombicycletoursci-indexhtm

研究対象は米国を中心とした科学政策2000年に「米国の科学政策」HPを開設し政策動向を発信している近年は科学と社会の関係や高等教育等にも対象を拡大している

4) 科学アカデミー創立 150 周年式典でのオバマ大統領の発言(Remarks by the President on the 150th Anniversary of the National Academy of Sciences) 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovthe-press-office20130429remarks-president-150th-anniversary-national-academy-sciences

5) The 2014 Budget A World-Leading Commitment to Science amp Research 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostp2014_RampDbudget_overviewpdf

NISTEP 定点調査からみる我が国の研究開発資金の状況科学技術学術政策研究所では第 4 期科学技術基本計画期間中の我が国における科学技術やイノベーションの状況変化を把握するため産学官の研究者や有識者への意識定点調査(NISTEP 定点調査)を2011 年度より実施しています以下の図は第 2 回となる 2012 年度の調査における研究費に関する意識調査の結果ですが科学技術に関する政府予算(Q2-16)や基盤的経費(Q1-18)については多くの機関の研究者が前年と同様「不充分との強い認識(雨マーク)」または「著しく不充分との認識(雷マーク)」を持っているようです特に国内論文シェアが 1〜5 の規模である第 2 グループの大学に所属する研究者は「著しく不充分との認識」を持っていることがわかります米国連邦政府の予算はその時々の政策や財政事情により上昇下降の変化が見られますが我が国の研究者にとって研究予算は低空飛行を続けているという印象のようです

執筆者プロフィール

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

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概  要

科学研究の投資効果測定を目指す米国のSTAR METRICS事業の現状と今後の見通し

 国際競争力の確保や社会的課題解決のために科学技術によるイノベーションへの期待が高まる中公

 政府の科学投資が雇用知識創造健康などにどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するための情報基盤を整備する米国の事業(STAR METRICS)は科学投資の社会的なインパクト測定手法を幅広く開発することからオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の方向性に沿う形で連邦政府の競争的資金に関する省庁横断的なデータ基盤整備を図る方向に事業目標を修正している事業の第一段階では人事データに限って連邦政府の科学研究投資の労働誘発効果を検証するためにデータを蓄積可視化するシステムが構築された現在の第二段階では引き続き国立衛生研究所(NIH)がホスト機関となりインプットとアウトプットのデータに重点を置いてデータ蓄積と分析システムを開発中であるSTAR METRICSは参加機関の財務情報や研究活動の経営分析ベンチマーキングや連邦政府機関のファンディング業務での利用など現場の実情を踏まえた政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積を進めるとみられる

キーワード政策のための科学研究評価公的研究開発投資オープンガバメントIR(Institutional Research)

白川 展之 上席研究官

的研究開発投資がどのような成果を産みまた今後産み出す可能性を持つかを科学的根拠に基づき評価し政策過程に反映する社会的要請が各国で高まっている日本でも文部科学省では 2011 年度から「科学技術イノベーション政策における『政策のため

表 1 事業開始までの経緯

科学技術動向研究

出典文部科学省作成資料(参考文献 3)およびAPDU News Letter(参考文献 4)をもとに科学技術動向研究センターにて作成

1 はじめに

STT136_レポート2(web用に修正)indd 11STT136_レポート2(web用に修正)indd 11 130712 1557130712 1557

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STAR METRICS とは2-1

 STAR METRICS とはldquoScience and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effect of Research on Innovation Competitiveness and Sciencerdquoの頭字であり連邦政府による科学への投資が雇用知識創造保健などにどのような影響効果(インパクト)を及ぼしたかを測定するデータ基盤および分析ツール等の整備構築を図る事業である連邦政府大学その他機関の連携のもとに実施することから「省庁横断的なベンチャー的事業」とも表現されている

根拠法令等2-2

 本事業開始当初の目的は米国再生再投資法(ARRA①)において同法に基づく科学投資の支出景気刺激効果について納税者に対する説明責任を果たすためと説明されていたこれに加えて2009 年 1 月 21 日付けのオ-プンガバメントに関する大統領覚書(Presidential Memorandum on Transparency and Open Government)と2009年 12 月 8 日付けの行政管理予算局覚書(Office of Management and Budget Memorandum)にも事業実施の根拠を求めているこの前者のオ-プンガバメントに関する大統領覚書は省庁がオンライン上で情報を取得ダウンロード検索されうる一般的

事業の参加機関数とデータ収集の範囲3-1

 連邦政府では大統領行政府科学技術政策局(OSTP③)国立科学財団(NSF④)国立保健研究所(NIH⑤ )が STAR METRICS のリード機関となったこれに大学で研究開発に関わる職員(研究者管理者等)と省庁が連携して研究開発推進の効率化調整を図るイニシアティブである FDP⑥と一部の高等教育機関がパートナーとなり2010 年1 月にパイロット事業を開始したパイロット事業では 2011 年 7 月まで方法論の開発実証継続的改善に取り組むとともに競争的研究資金のファンディングを行う政府機関や高等教育機関に対しプロジェクトへの参加を呼びかけるアウトリーチ普及活動にも積極的に取り組んだNSF の科学政策のための科学の研究助成事業(SciSIP⑦)の初代プログラムディレクターを務めこの事業の立ち上げにも尽力した Julia Lane 氏は安全保障上の機密の存在から情報公開が難しい国防総省(DOD⑧)に対してもプロジェクト参加の提案を行うなど省庁学協会等に対し働きかけた こうした省庁横断的な事業普及の取り組みは一定の成果を見せFDP の他に全米の有力な研究型大学の団体である全米大学協会(AAU⑨)と公立ランドグラント大学協会(APLU⑩)からの協力もあり参画研究機関大学は 2010 年 10 月の正式な事業発足の段階で 86 機関となった連邦政府機関では環境保護庁(EPA⑪)農務省(USDA⑫)エネルギー省(DOE⑬)を加えた合計 6 機関が参加協力を得たこの結果これら参加協力機関のすべてのデータが得られた場合金額ベースで NIH の研究助成額の 3 分の 1参加協力機関の合計では金額ベースで連邦政府全体の科学研究助成半分以上をカバーするデータ収集を狙える体制となった

の科学』推進事業」を実施している米国では 2005年にマーバーガー前科学担当大統領補佐官が「科学政策の科学化」を目指しデータモデルとコミュニティ開発を図る「科学政策のための科学」を提唱して以来各国に先駆けて省庁間連携や公募型研究開発プログラムや情報基盤の整備を推進してきた 本稿では米国政府による科学への投資がどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するため開始された事業(STAR METRICS)についてこれまでの事業展開や今後の見通しを紹介する

なデータ形式で公開する旨を定めたものであるまた後者の行政管理予算局覚書では情報自由法

(FOIR②)の義務付け範囲を超えて有益な情報を積極的に普及させるために先進的な技術を各省庁が利用するよう推奨している

2 事業概要

3 事業の進捗推移

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表 2 STAR METRICS の計画目標の推移

事業推進体制の変更強化3-2

 2011 年 10 月に NIH がホスト機関となり2012年 1 月には本事業の新たな段階への移行を見据えて執行体制を刷新したエクゼクティブコミッティーと機関横断ワーキンググループの 2 層の省庁機関間の連携組織のもとホスト機関の NIH の責任者がNIH(2 名)および NSF(1 名)のプログラムマネージャーを統括する事業推進体制としたデータシステム整備等の実務的な作業は技術プロジェクトマネージャー(プログラムマネージャーと兼任)がさらにその下に置かれシステム開発を行う業務委託先のベンダーとのプロジェクト進行管理を行っている 事業の実質的な進展を図るこうした体制変更はNIH の連邦政府における科学投資の予算額のシェアの大きさとその組織能力ノウハウを反映した結果とみられるNIH は米国再生再投資法

(ARRA)における科学研究投資額が最も多かった何よりNIH には根拠に基づく医療(EBM⑭)に不可欠の情報基盤となっている学術文献データベース PubMed を実質的に運営注 1)するなどライフイノベーション関連の各種データベースを学術文献のオープンアクセス化といった学術情報流通政策とともに強力に牽引実施してきた実績がある ただしNIH の担当部署ではSTAR METRICS

の情報システムの開発は付随的業務の位置付けで実施しているしかし事業のシステム開発調整には相当の人役エフォートが必要で実質的にはフルタイムの人員が複数張り付く状態だという

事業目標の変更修正3-3

 STAR METRICS で は 大 変 な 試 行 錯 誤 の 末に 2012 年 4 月に事業目標が修正された当初はフェーズ 1 とフェーズ 2 という 2 段階の計画がレベル 1 とレベル 2 という 2 段階に分けてデータ基盤とツールの整備を行う計画に変更されている(表 2)連邦政府による科学投資の社会的インパクト測定手法の開発という政策科学として挑戦的な目標を掲げた当初の事業目標から先進的技術を活用した政府情報の公開のためのデータフローを蓄積分析する科学技術学術情報関連の実用的な基盤整備事業へと現実的な方向に軌道修正を図ったとみられる この結果科学政策の透明性を確保するための情報基盤の構築データ蓄積を図るという変更後の事業目標設定はオープンデータオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の下で一定の位置付けを得る整理になっている

注1 NIH に国立医学図書館(NLM⑮)の一部門の国立生物工学情報センター(NCBI⑯)が置かれPubMed が運営されている

出典所期の事業計画の表現については(参考文献 5)から修正された目標については(参考文献 1)をもとに科学技術動向センターにて作成

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 レベル 1 のデータ整備では現場の過度の事務負担を避けるために整理正規化を行うデータは競争的資金の種目被雇用者の種別(研究員研究補助者等の区分)業務従事割合(フルタイム換算データ)や間接経費込みの人件費総額など人事関連の 14 項目に限定された参加研究機関はデータポリシーに従ったフォーマットで 4 半期毎にデータを提出するとデータの質の確認処理の後レポートが返される仕組みである 以下の図 1 及び図 2 にはこれまでの事業の成果例を示す 図 1 は開発されたシステムと収集されたデータによる連邦レベルでの成果例であるここではレベル 1 の事業に参画した機関数について州別に可視化されている図 2 は参加機関地域レベルの成果例である図 2 ではインディアナ州の参加機関である Purdue 大学と Indiana 大学に関する 2011財政年度における連邦科学投資による雇用誘発効果に関する情報について可視化した例である

図 1 レベル 1 の成果例(1)STAR METRICS に参加している州別機関数

図 2 レベル 1 の成果例(2)インディアナ州における連邦科学投資のもたらす雇用誘発効果大学キャンパス別の被雇用数の可視化

出典参考文献 1 出典参考文献 2

 現在実施中のレベル 2 の目標は連邦政府所管のファンディングエージェンシーの科学研究助成に関して幅広い範囲のインプットおよびアウトプットに焦点を置いたデータを連邦政府機関とその他の利害関係者に対し提供することである機関レベルの

合意のもとNIH がEPANIHNSFUSDA のデータを収集し他の参画 3 機関はデータベース構築に際して概念実証に必要な協力を行う現在技術的実装計画を策定しパイロット版のシステムを開発中であり構築テスト修正が繰り返されている データ整備はアウトカムよりも予算配分とアウトプットのリンクに重点が置かれているこれまでのところ2012 年財政年度を中心として参加協力 6 機関の 7 万 6 千件の助成プロジェクトがウェブベースで開発したデータシステムに入力され財政年度助成機関州群等の位置等のデータ項目やプロジェクトの概要結果等が検索可能になっている技術的課題としてはデータ整備上はテキスト検索下院選挙区別検索機関プロジェクト等詳細情報との接続などが挙げられている特に政策形成過程での実際的な利用を想定して下院選挙区別検索のためのデータの付加が重要な取り組み事項とされている システム運用では機関の実情と個人情報の保護に配慮しつつ政府の科学投資の透明性を高める方針である研究者個人の給与など個人情報や人事業績評価とも直結するデータが蓄積されていることから機微に触れる情報と公開すべき情報を層別し連邦政府機関関係者のみにアクセス制限を設けるなどの運用を考えているという一方参加機関大学の側では大学運営上の評価意思決定計画策定支援を行う情報分析である IR⑰と事務システムの合理化の観点から開発を進めている財務情報や研究活動のベンチマーキングを行う測定評価手法やそのレポートの様式を共同で開発するほかオープンソースのソフトウェアを用いた大学間でのソースコードの共用化などが検討されている こうした状況からSTAR METRICS の今後は

4 これまで(レベル 1)の事業成果

5 今後(レベル 2)の状況見通し

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図 3 成果実装イメージ例外部研究資金による下院選挙区別雇用誘発効果(Purdue 大学および Indiana 大学)

出典参考文献 2

1) Update on the State of STAR METRICS George ChackohttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811642) STAR Metrics Data Consistency Marietta HarrisonhttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811643) 科学技術学術審議会総会(第 36 回)平成 23 年 5 月 31 日資料 1「科学技術イノベーション政策のための「政策のため

の科学」の推進について」httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu0shiryo__icsFilesafieldfile201107011307169_01pdf

4) Science and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effects of Research on Innovation Competitiveness and Science (STAR METRICS) George Chacko etal Association of Public Data Users NewsletterhttpwwwamstatorgmiscNewsletterArticleSTAR_METRICShtm

5) 遠藤悟ホームページ「米国の科学政策」STAR METRICShttphomepage1niftycombicycletoursci-ronstar_metricshtm

幅広い国民利害関係者への説明責任を果たすための科学投資の社会経済的効果の測定の方法論開発を長期的視野に入れつつも連邦政府機関がファンディング業務の際に利用できる現場の実情を踏まえた実用的な政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積が進むものとみられる

謝辞 この種の政策効果(インパクト)を測定する困難性試行錯誤は世界共通である公開資料ではわかりにくい点も多い本稿の執筆に際し関係者のコメントやそのニュアンスも含め有用な情報提供助言をいただいた(独)新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)ワシントン事務所新川達也前所長(現経済産業省資源エネルギー庁電力ガス事業部原子力発電所事故収束対応室長)前野武史副所長に御礼申し上げる

略称① ARRAAmerican Recovery and Reinvestment Act of 2009② FOIRFreedom of Information Act③ OSTPWhite House Office of Science and Technology Policy④ NSFNational Science Foundation⑤ NIHNational Institute of Health⑥ FDPFederal Demonstration Partnership⑦ SciSIPScience of Science amp Innovation Policy program⑧ DODUnited States Department of Defense⑨ AAUthe Association of American Universities⑩ APLUthe Association of Public and Land Grant Universities⑪ EPAEnvironmental protection Agency⑫ USDAUnited States Department of Agriculture⑬ DOEUnited States Department of Energy⑭ EBMEvidence-based medicine⑮ NLMNational Library of Medicine⑯ NCBINational Center for Biotechnology Information⑰ IRInstitutional Research

参考文献

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6) Contact Kevin Boatright Office of Research amp Graduate Studies 785-864-7240 Associate vice chancellor accepts visiting assignment with the National Science Foundation May 21 2012httparchivenewskuedu2012may21rosenbloomshtml

7) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Presidential Memorandum on Transparency and Open Government (Jan 21 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_fy2009m09-12pdf

8) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Open Government Directive(Dec 8 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-08pdf

9) RESEARCH INSTITUTION PARTICIPATION GUIDE in STAR METRICS websitehttpswwwstarmetricsnihgovStarParticipatecalculatingjobs

10) Science and Technology Priorities for the FY 2012 Budget(July 21 2010)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-30pdf

白川 展之科学技術情報分析ユニット 上席研究官httpwwwnistepgojp

広島県職員を経て研究者に2008年 9月より現職科学技術予測などに従事専門はイノベーション政策公共経営評価農業から保健医療など幅広い分野の技術マネジメント産学連携の経験から科学技術にとどまらない幅広いイノベーションを研究

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コラム

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

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イノベーション政策のデータ基盤に関する日本での議論 科学技術学術政策研究所では文部科学省の科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環としてエビデンスに基づく科学技術イノベーション政策の基礎となる体系的なデータ情報基盤の構築を進めている多くの専門家が指摘している重要課題はミクロデータの利用複数データベースの接続の 2 点であるつまり各種政策の効果の分析や大学等における研究開発の構造的な分析には従来の集計データのみでは不十分でありミクロデータ利用のニーズが非常に大きいまた複数のデータベースを用いた横断的な分析の必要性からデータベースの接続に大きな関心が寄せられているさらにデータ情報基盤構築が政策評価に役立つ意義とともにデータ情報基盤の構築に際して研究者と政策担当者の相互交流と国際的な交流が不可欠との指摘が出されている

出典NISTEP NOTE(政策のための科学)No3「科学技術イノベーション政策のための科学」におけるデータ情報基盤

構築の推進に関する検討2012 年 11 月科学技術政策研究所 科学技術基盤調査研究室

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

 世界各国の政府は情報やデータの開示およびオープン化を進めており実際に各国でデータガバメント「datagov」が稼働し始めた日本でも日本再興戦略1)の一環として2013 年度末までには日本版 datagov を試行的に立ち上げ2014 年度初めから本格稼働を予定しているしかしdatagov の背景や本質を理解した上で事業を進めなければ決して有用なものとはならないそれには「ガバメント 20」というキーワードが参考になる ガバメント 20 とは(米)オライリーメディア社の創設者 Tim OrsquoReilly 氏が 2009 年に提唱した概念であり彼の主張は「政府はプラットホーム化しなければならない」ということである2)情報通信分野で決定的な勝者になったのはプラットホーム企業である例えばMicrosoft 社は会社や家庭にパソコンを普及させGoogle 社は広告収入で運営され

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

キーワードマシンリーダブル公共データオープンデータデータツールデータシティ鯖江

市口 恒雄 特別研究員

る膨大なスタートアップ企業群を生み出しApple社はアプリ開発の企業を生み出して携帯電話の価値を高めたこれらの企業は「第三者に新たな挑戦の場を与える」ことにより成功したつまり政府のプラットホーム化とは「IT 技術によって国民や市民そして行政に新たな挑戦の場を与えること」である ガバメント 20 は電子政府のことかと言えば決してそうではない単なる IT 化では国民や市民に新たな挑戦の場を与えることはできないからであるそれではガバメント 20 とは具体的にどのようなことであり我々はどの様にそれを実現すれば良いのであろうか 実現のための 1 つの方向性は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく市民が積極的に利用できる webサービスを提供しなければならない米国オバマ大統領は2009 年の就任時にオープンガバメントに対して「透明性」(transparent)「国民参加」

(participatory)「協業」(collaborative)という 3

科学技術動向研究

概  要

1 はじめに―ガバメント 20実現への 2 つ方向性

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

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原則を示した3)この様な背景から生まれたのがdatagav でありガバメント 20 の 1 つの形態であるデータは加工可能な形で提供されるので国民はそのデータを使って新たなサービスや事業を始めることができる もう 1 つの方向性は市民から行政への情報提供とその情報や問題の市民間の共有である国民や市民の意見を聞くというだけではガバメント 20 ではない行政は市民からの情報に即応し即応できない場合には市民と情報を共有し場合によってはボランティアに対応を任せることも重要であるボランティアによる「Do It Ourselves 型」の公共事業または公共社会へと発展し市民と地方行政はより密接に連携することになる世界中の多くの市町村は「シークリックフィックス(SeeClickFix)」4)というアプリを利用して市民参加を促した上で行政サービスを向上させているこのような Do It Ourselves 型の公共政府もローカルガバメント 20 の 1 つの側面と言える

 世界各国の政府は政府が持つ情報やデータの開示およびオープン化を進めつつある具体的にはdatagov(米国)datagovuk(英国)datagovsg (シンガポール)datagovau(オーストラリア)である特に進んでいるのが図表 1 に示す米国の datagov5)で2013 年 4 月末時点で171 の行政機関が参加し373029 のデータセットと1209 のデータツールを提供しているまた312 のアプリと 137のモバイルアプリも提供している(7 月 2 日時点では75714 のデータセット137 のモバイルアプリと 349 の投稿アプリ295 の政府 API を提供している) 英 国 の datagovuk は2013 年 7 月 2 日 時 点 で9596 のデータセットが公開され投稿されたアプリも含め多数のアプリが提供されている天気情報や交通(事故)情報を取得するアプリが人気が高いシンガポールの datagovsg はキーワードを入力してデータセットを探す仕組みになっており最も良くダウンロードされているのは税収や予算関連のものであるオーストラリアの datagovau は114 の行政機関が参加し1126 のデータセットと 20 のアプリが提供されている

 データセットは加工や分析が可能なマシンリ ー ダ ブ ル な フ ォ ー マ ッ ト(CSV XLS XML RSS RDF など)で提供され利用者がデータセットを取得加工分析できるアプリも同時に提供されるまたAPI(Application Programming Interface)も公開されておりAPI を利用したデータの自動取得も可能であるもしAPI が公開されていなければ政府データを使った新たなサービスやビジネスを創造することは困難でありデータガバメントに利用できる様々なアプリすら開発できない単に政府データを公開するのではなく利用者が加工分析しやすい形でデータを提供することがデータガバメントにとって重要である 政府データを上手く利用している 1 つの実例は

(米)Wolfram Research 社がサービス提供している WolframbrvbarAlpha であろう6)「世界の知識を計算可能にする」ことを謳ったこのサービスは政府データを取り込み利用者が入力した様々な質問に答えてくれる例えば「米国で人口が多い都市は」とか「小麦の生産量は」などの質問にその答えを返すだけでなく関連する情報も提示してくれるこれは政府データがマシンリーダブルであるからできることである

 日本でもオープンガバメント化の流れは避けられず首相官邸の高度情報通信ネットワーク社会推

図表 1 米国の datagov

出典参考文献 5

日本の状況2-2

2 公共データのオープン化

世界各国のデータガバメント2-1

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進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

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(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

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市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

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団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

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 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

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こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

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金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

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主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

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概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

36

辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
  • 科学技術7月号レポート5
  • 科学技術7月号研究成果公表
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3科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

本文は p25 へ

本文は p32 へ

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

各国の地球観測動向シリーズ(第 1回)米国の地球観測活動の今後の方向性

 オランダはEU 圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2 位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲン UR の戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲン UR は世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から「GEOSS(ジオス)10 年実施計画」が開始されている米国も国内外の地球観測衛星の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているこうした中米国は 2013 年 4 月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の4 つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12 の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている このような米国の戦略を我が国の地球観測戦略と対比すると国情の違いも踏まえて相似点と相違点を分析することができ今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える右図は GEOSS の公共的利益分野に対して米国のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

4

2013年AAAS科学技術政策年次フォーラム報告  緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

 全米科学振興協会(AAAS ① )は2013 年 5 月 2日~3 日にワシントン DC において AAAS 科学技術政策年次フォーラム(AAAS Forum on Science and Technology Policy)を開催した1)このフォーラムはAAAS RampD Colloquium の名称で開催された第 1 回から数えて 38 回目にあたり科学技術政策関係者が集う全国的な会合として定着している フォーラムの構成は大統領科学顧問による基調講演大統領予算案の分析や予算に関する論議そして最近の科学技術政策のテーマによる分科会さらに科学技術と経済や社会との関係も含めた幅広いテーマについての全体セッション等から成っており配布資料によると大学連邦政府機関非営利機関民間企業海外機関等から約 370 人の

 全米科学振興協会(AAAS ① )は2013 年 5 月 2 日~3 日にワシントン DC において AAAS 科学技術政策年次フォーラム(AAAS Forum on Science and Technology Policy)を開催したフォーラムは大統領科学顧問による基調講演大統領予算案の分析や予算に関する論議そして最近の科学技術政策のテーマによる分科会さらに科学技術と経済や社会との関係も含めた幅広いテーマについての全体セッション等から構成された 次年度予算案の審議の行方について高い関心が寄せられる例年とは異なり本年は当年度予算が削減を織り込んだ継続決議として成立した歳出法に基づき執行されていることまた次年度以降も大半の科学技術予算が含まれる裁量的予算に対する歳出削減の圧力が強まる見通しであることから講演内容や参加者の関心も予算について積極的に議論しようという空気は薄くむしろより長期的な視点から科学技術の今後を考える論議が目立つものとなった

キーワード米国予算AAASファンディング科学技術と社会

遠藤 悟 客員研究官

科学技術動向研究

 2 日間にわたり開催されたフォーラムの日程は以下のとおりである

【全体セッション】 2014 年度研究開発予算における予算的お

よ び 政 策 的 枠 組 み(Budgetary and Policy Context for RampD in FY 2014)

W Carey レクチャー米国の科学技術パイプラインの拡大大学教員のイノベーションと人々を包括した卓越性(Expanding Americarsquos Science and Technology Pipeline Academic Innovation and Inclusive Excellence)

より良い政府のための科学的洞察(Scientific Insights for Better Government)

 概  要

参加があった1 はじめに

5

緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 フォーラムが開催されるこの時期はこれまでは 2 月上旬の大統領による予算案の発表を受け10 月に始まる次年度予算に関する議会での審議が行われている最中のため参加者の間でも次年度予算案の審議の行方について高い関心が寄せられる時期であったしかし本年は当年度予算が削減を織り込んだ継続決議として成立した歳出法に基づき執行されている状況にありまた次年度以降も大半の科学技術予算が含まれる裁量的予算に対する歳出削減の圧力が強まる見通しであることから講演内容や参加者の関心も予算について積極的に議論しようという空気は薄くむしろより長期的な視点から科学技術の今後を考える論議が目立つものとなった

 最初の「2014 年度研究開発予算における予算的および政策的枠組み」のセッションの基調講演は大統領科学顧問大統領府科学技術政策室(OSTP ④)室長である John P Holdren 氏により行われた 2014 年度大統領予算案に関連し1)科学技術は雇用保健環境国家安全保障などの米国が直面するチャレンジに対応する中心的役割を担っていること2)好奇心に基づき行われる基礎研究の支援は政府の責任であり国立科学財団(NSF ⑤ )エネルギー省(DOE ⑥ )の科学室商務省の国立標準技術局(NIST ⑦ )の基礎研究の強化が必要であることを述べそれらが予算案に反映されていると述べたまた航空宇宙局(NASA ⑧ )の小惑星や火星へのミッションや各省による先進製造研究などを重視していることさらに強制的な歳出削減も考えられる厳しい財政状況下において予算を戦略的に組む必要性を述べ科学技術イノベーションコミュニティーに対してはその活動の重要性について声を上げることを期待しまたこれまでの協力に感謝していると述べた2) さらに 2013 年歳出予算法(継続決議)においてNSF の社会経済科学研究支援のうち国家安全保障面や経済面の利益を明らかとすることができない政治科学研究支援の支出が禁止されたことに触れこのことに対しオバマ政権は1)政治科学は他の社会科学と同様に仮説に基づきピアレビューという手法や再現可能性などの特性を持つ科学であること2)社会科学は基礎研究の定義に合致し実用的な社会の利益に結びつくものであることそして3)社会科学行動科学と自然科学が相対する性格を持つという意見もあるがこれは誤りであることを述べさらに NSF が支援する基礎研究はその直接の成果において実用的利益が明らかでないものもあるが予期されない場合も含め社会に多大な利益をもたらすものであることを強調した 3)そしてNSF をはじめ多くの連邦政府の科学技術関係機関が用いているピアレビューは世界共通に認められている評価における最良の基準(gold standard)であることを科学アカデミー創立 150 周年式典でのオバマ大統領の発言を引用しつつ述べたさらに一部の議員の NSF に対する要求は基礎研究の価値を損ねるものであるとして非難した 4) またHoldren 顧問はオバマ政権における科学技術イニシアチブとして特に科学技術工学数学(STEM)教育について2014 年度予算案の額

世 界 に 広 が る 教 室 に お け る 科 学 技術工学数学分野の高等教育の再構想

(Re-imagining STEM ② Higher Education in the Worldwide Classroom)

環境に関する規制はどの程度経済を阻害 す る か(How Much Do Environmental Regulations Hurt the Economy)

【パラレルセッション】米国の研究イノベーションにおける民間慈

善団体の役割(Roles of Private Philanthropy in US Research and Innovation)

連 邦 政 府 研 究 開 発 支 援 に お け る 実 験(Experiments in Federal RampD Support)

誰がどのようにインターネットをコントロ ー ル し た い の か(Who Wants to Control the Internet and How)

科学技術専門家のためのメンタリング技能望ましい点と必要な点から(Mentoring Skills for Science and Technology Professionals Both Desirable and Required)

変化する特許の展望異なる部門における賛否(The Changing Patent Landscape Cases For and Against Patents in Different Sectors)

【朝食昼食のスピーチ】5 月 2 日の昼食3 日の朝食昼食において

それぞれカナダの科学技術政策神経科学研究国防高等研究計画局(DARPA ③ )をテーマとしたスピーチが行われた

2 オバマ政権の科学技術政策

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

6

が 2012 年度実績に対し 67 増の 31 億ドルとなるイニシアチブで100 万人の新たな科学技術分野の卒業生の輩出や10 万人の優れた STEM 分野の教員の育成などの取り組みを行っていることを述べたさらにホワイトハウスで実施されたサイエンスフェアに象徴されるようにオバマ大統領自身が力を注いでいるイニシアチブであることに加え連邦政府の政策に呼応する形で2020 年までに 100万人の STEM メントーを育成する計画など数多くの STEM プログラムが民間企業や慈善団体により実施されるようになっているとし官民協力が望ましい形で進展していることを報告した 引き続き Sharp AAAS 会長との対話形式により全米製造イニシアチブなどのイノベーション戦略STEM 教育エネルギーと環境オープンガバメント宇宙国際的な科学技術協力そして脳神経科学を含む生物医学研究など広範にわたって議論された幅広い科学技術に対する支援策を行う中で特に基礎研究に対する連邦政府投資を行うと同時に税制措置など民間の活力を引き出す環境を整える考えが示された 

 Matthew Hourihan AAAS 研究開発予算分析プログラム長から2014 年度大統領予算案の解説が

あった予算案の概略は以下のとおりである2014 年度予算案における連邦政府研究開発予算

の額は1428 億ドルであるこの額は比較対象となる 2012 年度予算実績額に比べ13(約19 億ドル)の増である(以下増減については2012 年度比)

連邦政府の基礎研究に対する支援額は 332 億ドル(45 増)応用研究に対する支援額は 350 億ドル(106 増)である

連邦政府の開発支出は715 億ドル(50 減)である

「大統領科学イノベーション計画(Presidentrsquos Plan for Science and Innovation)」 の 対 象 機 関

(NSFDOE 科学室NIST 研究室)の予算は 8増加しているしかしその額は競争力強化法

(2010 年アメリカ COMPETES 再授権法⑨ )に示された授権予算の額を下回っている

製造業のイニシアチブについては「米国を製造 業 の マ グ ネ ッ ト と す る(Makes America a Magnet for Manufacturing)」 の 名 称 でNSFDODDOE商務省などの関連予算により実施されるがその対象となる規模は87 増の 29億ドルである

クリーンエネルギーは2014 年度予算案において引き続き重点項目に含められている

米国地球変動研究プログラム(USGCRP ⑩ )の2014 年度予算案は約 27 億ドルで6 増となっている

生物医学研究における米国の主導的地位の確保

出典参考文献 5

連邦政府各省機関の研究予算の額の変遷(2014 年度は予算案)

3 科学技術予算の現状と今後の見通し

7

緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 Arati Prabhakar DARPA 長官が現代世界の軍事政治状況の下での同庁の役割や方向性について述べた冷戦期の 1958 年に高等研究計画局(ARPA⑫ )として創設された同庁は現代世界の環境について1)米国に対する脅威が複雑化しまた変化し続けていること2)財政問題による経費面における要請が高まったこと3)技術が地球規模的に利用可能となったことの 3 点を挙げその状況に対する取り組みについて説明を行った同局は 29 億ドルという国防研究開発費の中では必ずしも大きくない予算規模で95 人のプログラムマネージャーが大きく関与し情報技術から脳神経科学まで多彩なプロジェクトを実施していることを報告したうえでDARPAがこのような優れた研究プロジェクト支援を行える基盤には米国の健全な研究開発のエコシステムがあることを述べた DARPA 以外の省機関もそれぞれのミッションに従い様々な研究プログラムを実施しておりその評価手順も異なっている「連邦政府研究開発支援における実験」のセッションにおいてはNIH農務省(USDA ⑬ )DOE の事例が報告された Kathy Hudson NIH 科学アウトリーチ政策担当次長は国立トレンスレーショナル科学前進センター(NCATS ⑭ )と BRAIN ⑮ イニシアチブを中心に報告を行ったNIH のミッションは基礎研究を実施することと基礎研究を人々の保健医療の向上に結び付けることの二つであるとしたうえでNCATS については NIH の研究者が発見した化合物の実用化や産業化における障壁の低減そして製品化への時間の短縮などの取り組みについて述べたまたBRAIN イニシアチブについて

 海外の事情については中国インド韓国そしてカナダの科学技術政策について報告があった

「2012 年度研究開発予算における予算的および政策的枠組み」の一部として設けられた「科学技術政策に関するアジアの視点米国との相違と共通性」のセッションにおいてはJeannette Wing マイクロソフト社副社長マイクロソフトリサーチ所長が中国とインドの動向について報告した中国の経済発展は1990 年代から始まるがまず人材を育成し次に 211985 などの番号を付した計画を通して基盤を整えそのうえで知識を生み出すための基礎研究と技術イノベーションへの投資が行われたという流れを紹介し今では上位の大学は米国の有力私立大学と並ぶものであるとしたしかし中国の高等教育機関は拡大したが中国の大学生にとって米国の大学を目指す意識に変化はなく中国人人材の米国への供給は続くとの見方を示したインドについて Wing 氏は各地に計 15 校設置されたインド

米国民の健康の改善そして未来のバイオエコノミーの構築のためNIH ⑪ の予算は 313 億ドル

(15 増)となっている高い技能を持つ人材育成のためSTEM の分野の

教育に 31 億ドル(67 増)の支出を行うこととしている

民間部門の投資を拡大させるため試験研究費税額控除の拡大簡素化恒久化を提案している

予算案は米国民に対する見返りが最大化する分野に資源を集中させそうでない分野において削減するとしておりその例として開発予算は 38億ドル削減されている

は研究資金配分成果に対する褒賞(プライズ)DARPA 型のプロジェクト運営を通した成果創出の迅速化研究活性化のためのマッチングさらにクラウドファンディングといったメカニズムについて紹介した Catherine Woteki USDA 主任科学者研究教育経済担当次官は予算削減が続く中での研究開発活動は省内の機関の研究と外部研究支援とのバランスを取りつつ行う必要があることなどを述べたうえで同省の 21 世紀のチャレンジとして食料の安全保障食品の安心人々の栄養と健康気候変動バイオエコノミー(バイオ燃料バイオプロダクト)を挙げたそして共同研究開発契約プログラム

(CRADA ⑯ program)のモデルによる研究成果の民間部門への移転に加え農業技術イノベーションパートナーシッププログラム(ATIP ⑰ Program)調整農業プロジェクト(CAP ⑱ )長期農業生態系研究ネットワーク(LTAR ⑲ Network)等の同省の特徴的なプログラムについて説明を行った Patricia M Dehmer エネルギー省科学室室長代理は簡単に同省の歴史や予算の枠組みに触れた後バイオエネルギー研究センター(BRCs ⑳ )エネルギーフロンティア研究センター(EFRC 21 )そしてエネルギーイノベーションハブ(Energy Innovation Hub)について報告した

4 多様なファンディングシステム

5 他国の科学技術政策に関する報告

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護や改善を目的とした規制的政策が経済に与えるネガティブな影響について実際よりも拡大してあるいは経済面における利益との関係を考慮せずに論議される傾向があることを指摘した William A Pizer スタンフォード大学公共政策学部准教授は必ずしも相関が明らかではないにも関わらず特定の産業部門での雇用の悪化について規制が行われたことと関連付けて政策論議されまた他の産業における雇用効果について論じられない状況などを指摘した Cary Coglianese ペンシルバニア大学法学政治学教授は「何故政治は環境に関する規制は雇用を殺し研究者はそのようなことがないと言うのか」との表題により規制が競争力の低下をもたらす証拠はないにも関わらず人々がネガティブな影響があると考える背景について考察を加えた Richard Morgenstern 未来のための資源上級フェローは「環境に関する経済的分析の見通し」の表題により便益費用分析に基づくブッシュ政権とオバマ政権の政策決定における観点の相違について述べた

 フォーラムではedX や Coursera といった近年急激な展開を見せている大規模オンラインオープンコース(MOOC 23 )に関するセッションも設けられていた Anant Agarwal edX 会長マサチューセッツ工科大学電気工学コンピューター科学教授はedXは世界の人々がアクセスすることができる新たな教育機会であるとし154763 人の学生が登録し7157人が履修証明書の発行を受けるなどの数字を示したうえで学生が自発的に参加できるよう工夫された宿題や試験などその具体的なシステムについて説明を行った Wendy Newstetter ジョージア工科大学工学部教育研究イノベーション担当主任は教授法について伝統的な教室における教育実験など相互的な教育独立型の教育オンライン教育という区分を示しMOOC が独立型教育とオンライン教育の双方にまたがるものとしたうえで未だ教育学研究者の関心は薄く履修する学生のコンピテンス向上の観点から見るとその要件を満たしていない点が多いことを指摘した Kevin Werbach ペンシルバニア大学ウォートンスクール准教授はMOOC を通して実際に授業を行っ

 フォーラムの多くのセッションはいわゆる「科学のための政策」に関するものであったが科学的知見の(科学技術政策以外の)政策形成への反映すなわち「政策のための科学」に関するセッションも二つ設けられていた 「より良い政府のための科学的洞察」と題されたセッションは標題のとおり科学技術特に社会科学行動科学の知見をどのように政策形成の向上に活かすことができるかをテーマとしたものであった Case R Sunstein ハーバード大学ロースクール教授

(前大統領府情報規制室OIRA22 室長)は前職の OIRA における科学に基づく客観性独立性と大統領府経済諮問委員会とも協力した経済的価値の両面における活動について述べたうえで合理的な政策形成について受け手である一般の人々の認識の面も含め考えられるシステムについて具体的な例示を含めて説明した Arthur Lupia ミシガン大学社会研究所教授は異なるバックグラウンドを持つ人々における社会科学の価値について述べた「社会科学の価値は何であるか」ということと「資金配分を行うべき対象であるか」というふたつの疑問に関し信頼性(credibility)と正当性

(legitimacy)という二つの評価基準から説明を行ったそして講演の最後には最近の議会による NSF の社会科学研究への支出の禁止等の動きに対し社会科学研究が国家にもたらす価値の大きさについて語った 「環境に関する規制はどの程度経済を阻害するか」と題されたセッションはいずれの講演者も環境保

工科大学は今後も拡大する予定があるが博士人材等の点では遅れが見られる等の指摘を行った Jong-Guk Song 科学技術政策研究院(韓国)院長は「クリエイティブエコノミー」と名付けられた韓国の経済政策について報告した労働力供給の変化により今後経済成長の低下が見込まれる状況において他国に比べ韓国が劣っている起業を活発化させる等の政策的枠組みにいての内容であった Gary Goodyear カナダ科学技術担当国務大臣はカナダの科学技術活動の状況について研究開発投資と税制研究基盤宇宙部門物理学医療といった幅広い視点から報告したまた海外との関係について複数の世界的な水準の大学が世界中から人材を引き寄せていることや特に米国との間で緊密な科学技術協力が実施されていることを報告した

7 MOOC-大学の新たな教育モデル

6 科学的知見の政策形成への反映

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緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

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 2013 年 3 月になって確定した 2013 年度歳出予算においては研究開発予算においても 5 パーセン

ト程度の歳出削減対象となったものも多くアカデミックコミュニティーにとって予算面で希望の持てる状況にはないしかしながら本フォーラムでは必ずしも予算削減は大きなテーマとなっていなかったその背景には厳しい予算状況が既に現実のものとなったことまたそのような状況にありながらオバマ政権が科学技術に関し手厚い支援を行う意向を示していることがあると考えられるそして参加者の関心はむしろ厳しい財政状況において例えばどのようなファンディングシステムが研究成果を高めるかなど研究開発システム全体に向けられているように感じられた

略称① AAASAmerican Association for the Advancement of Science② STEMScience Technology Engineering and Mathematics③ DARPADefense Advanced Research Projects Agency④ OSTPOffice of Science and Technology Policy⑤ NSFNational Science Foundation⑥ DOEDepartment of Energy⑦ NISTNational Institute of Standards and Technology⑧ NASANational Aeronautics and Space Administration⑨アメリカ COMPETES再授権法America Creating Opportunities to Meaningfully Promote Excellence

in TechnologyEducation and Science Reauthorization Act of 2010 (America COMPETES Reauthorization Act of 2010)

⑩ USGCRPUS Global Change Research Program⑪ NIHNational Institutes of Health⑫ ARPAAdvanced Research Projects Agency⑬ USDADepartment of Agriculture⑭ NCATSNational Center for Advancing Translational Sciences⑮ BRAINBrain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies⑯ CRADACooperative Research and Development Agreement⑰ ATIPAgricultural Technology Innovation Partnership ⑱ CAPCoordinating Agriculture Projects⑲ LTARLong-Term Agroecosystem Research⑳ BRCsBioenergy Research Centers 21 EFRCEnergy Frontier Research Centers 22 OIRAOffice of Information and Regulatory Affairs23 MOOCsMassive open online courses

1) AAAS Forum on Science amp Technology Policy 2013 年 6 月 12 日httpwwwaaasorgspprdforum2) Office of Science and Technology Policy (OSTP) RampD Budgets 2013 年 6 月 12 日

httpwwwwhitehousegovadministrationeopostprdbudgets3) 2013 年度歳出予算法(Consolidated and Further Continuing Appropriations Act 2013) 2013 年 6 月 12 日

httpwwwgpogovfdsyspkgPLAW-113publ6htmlPLAW-113publ6htm

た教員の立場からこの取り組みが非常に興味深いものであり世界中の学生に対しこれまでなかった教育機会を提供するものであるとしたうえで研究を通した人材育成など MOOC では困難なことや費用教員の資質等の検討課題について言及した

8 おわりに

参考文献

コラム

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出典NISTEP REPORT No153 科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP 定点調査 2012)2013 年 4 月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacebitstream1103511931NISTEP-NR153-FullJpdf

遠藤 悟科学技術動向研究センター 客員研究官httphomepage1niftycombicycletoursci-indexhtm

研究対象は米国を中心とした科学政策2000年に「米国の科学政策」HPを開設し政策動向を発信している近年は科学と社会の関係や高等教育等にも対象を拡大している

4) 科学アカデミー創立 150 周年式典でのオバマ大統領の発言(Remarks by the President on the 150th Anniversary of the National Academy of Sciences) 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovthe-press-office20130429remarks-president-150th-anniversary-national-academy-sciences

5) The 2014 Budget A World-Leading Commitment to Science amp Research 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostp2014_RampDbudget_overviewpdf

NISTEP 定点調査からみる我が国の研究開発資金の状況科学技術学術政策研究所では第 4 期科学技術基本計画期間中の我が国における科学技術やイノベーションの状況変化を把握するため産学官の研究者や有識者への意識定点調査(NISTEP 定点調査)を2011 年度より実施しています以下の図は第 2 回となる 2012 年度の調査における研究費に関する意識調査の結果ですが科学技術に関する政府予算(Q2-16)や基盤的経費(Q1-18)については多くの機関の研究者が前年と同様「不充分との強い認識(雨マーク)」または「著しく不充分との認識(雷マーク)」を持っているようです特に国内論文シェアが 1〜5 の規模である第 2 グループの大学に所属する研究者は「著しく不充分との認識」を持っていることがわかります米国連邦政府の予算はその時々の政策や財政事情により上昇下降の変化が見られますが我が国の研究者にとって研究予算は低空飛行を続けているという印象のようです

執筆者プロフィール

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

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概  要

科学研究の投資効果測定を目指す米国のSTAR METRICS事業の現状と今後の見通し

 国際競争力の確保や社会的課題解決のために科学技術によるイノベーションへの期待が高まる中公

 政府の科学投資が雇用知識創造健康などにどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するための情報基盤を整備する米国の事業(STAR METRICS)は科学投資の社会的なインパクト測定手法を幅広く開発することからオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の方向性に沿う形で連邦政府の競争的資金に関する省庁横断的なデータ基盤整備を図る方向に事業目標を修正している事業の第一段階では人事データに限って連邦政府の科学研究投資の労働誘発効果を検証するためにデータを蓄積可視化するシステムが構築された現在の第二段階では引き続き国立衛生研究所(NIH)がホスト機関となりインプットとアウトプットのデータに重点を置いてデータ蓄積と分析システムを開発中であるSTAR METRICSは参加機関の財務情報や研究活動の経営分析ベンチマーキングや連邦政府機関のファンディング業務での利用など現場の実情を踏まえた政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積を進めるとみられる

キーワード政策のための科学研究評価公的研究開発投資オープンガバメントIR(Institutional Research)

白川 展之 上席研究官

的研究開発投資がどのような成果を産みまた今後産み出す可能性を持つかを科学的根拠に基づき評価し政策過程に反映する社会的要請が各国で高まっている日本でも文部科学省では 2011 年度から「科学技術イノベーション政策における『政策のため

表 1 事業開始までの経緯

科学技術動向研究

出典文部科学省作成資料(参考文献 3)およびAPDU News Letter(参考文献 4)をもとに科学技術動向研究センターにて作成

1 はじめに

STT136_レポート2(web用に修正)indd 11STT136_レポート2(web用に修正)indd 11 130712 1557130712 1557

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STAR METRICS とは2-1

 STAR METRICS とはldquoScience and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effect of Research on Innovation Competitiveness and Sciencerdquoの頭字であり連邦政府による科学への投資が雇用知識創造保健などにどのような影響効果(インパクト)を及ぼしたかを測定するデータ基盤および分析ツール等の整備構築を図る事業である連邦政府大学その他機関の連携のもとに実施することから「省庁横断的なベンチャー的事業」とも表現されている

根拠法令等2-2

 本事業開始当初の目的は米国再生再投資法(ARRA①)において同法に基づく科学投資の支出景気刺激効果について納税者に対する説明責任を果たすためと説明されていたこれに加えて2009 年 1 月 21 日付けのオ-プンガバメントに関する大統領覚書(Presidential Memorandum on Transparency and Open Government)と2009年 12 月 8 日付けの行政管理予算局覚書(Office of Management and Budget Memorandum)にも事業実施の根拠を求めているこの前者のオ-プンガバメントに関する大統領覚書は省庁がオンライン上で情報を取得ダウンロード検索されうる一般的

事業の参加機関数とデータ収集の範囲3-1

 連邦政府では大統領行政府科学技術政策局(OSTP③)国立科学財団(NSF④)国立保健研究所(NIH⑤ )が STAR METRICS のリード機関となったこれに大学で研究開発に関わる職員(研究者管理者等)と省庁が連携して研究開発推進の効率化調整を図るイニシアティブである FDP⑥と一部の高等教育機関がパートナーとなり2010 年1 月にパイロット事業を開始したパイロット事業では 2011 年 7 月まで方法論の開発実証継続的改善に取り組むとともに競争的研究資金のファンディングを行う政府機関や高等教育機関に対しプロジェクトへの参加を呼びかけるアウトリーチ普及活動にも積極的に取り組んだNSF の科学政策のための科学の研究助成事業(SciSIP⑦)の初代プログラムディレクターを務めこの事業の立ち上げにも尽力した Julia Lane 氏は安全保障上の機密の存在から情報公開が難しい国防総省(DOD⑧)に対してもプロジェクト参加の提案を行うなど省庁学協会等に対し働きかけた こうした省庁横断的な事業普及の取り組みは一定の成果を見せFDP の他に全米の有力な研究型大学の団体である全米大学協会(AAU⑨)と公立ランドグラント大学協会(APLU⑩)からの協力もあり参画研究機関大学は 2010 年 10 月の正式な事業発足の段階で 86 機関となった連邦政府機関では環境保護庁(EPA⑪)農務省(USDA⑫)エネルギー省(DOE⑬)を加えた合計 6 機関が参加協力を得たこの結果これら参加協力機関のすべてのデータが得られた場合金額ベースで NIH の研究助成額の 3 分の 1参加協力機関の合計では金額ベースで連邦政府全体の科学研究助成半分以上をカバーするデータ収集を狙える体制となった

の科学』推進事業」を実施している米国では 2005年にマーバーガー前科学担当大統領補佐官が「科学政策の科学化」を目指しデータモデルとコミュニティ開発を図る「科学政策のための科学」を提唱して以来各国に先駆けて省庁間連携や公募型研究開発プログラムや情報基盤の整備を推進してきた 本稿では米国政府による科学への投資がどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するため開始された事業(STAR METRICS)についてこれまでの事業展開や今後の見通しを紹介する

なデータ形式で公開する旨を定めたものであるまた後者の行政管理予算局覚書では情報自由法

(FOIR②)の義務付け範囲を超えて有益な情報を積極的に普及させるために先進的な技術を各省庁が利用するよう推奨している

2 事業概要

3 事業の進捗推移

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表 2 STAR METRICS の計画目標の推移

事業推進体制の変更強化3-2

 2011 年 10 月に NIH がホスト機関となり2012年 1 月には本事業の新たな段階への移行を見据えて執行体制を刷新したエクゼクティブコミッティーと機関横断ワーキンググループの 2 層の省庁機関間の連携組織のもとホスト機関の NIH の責任者がNIH(2 名)および NSF(1 名)のプログラムマネージャーを統括する事業推進体制としたデータシステム整備等の実務的な作業は技術プロジェクトマネージャー(プログラムマネージャーと兼任)がさらにその下に置かれシステム開発を行う業務委託先のベンダーとのプロジェクト進行管理を行っている 事業の実質的な進展を図るこうした体制変更はNIH の連邦政府における科学投資の予算額のシェアの大きさとその組織能力ノウハウを反映した結果とみられるNIH は米国再生再投資法

(ARRA)における科学研究投資額が最も多かった何よりNIH には根拠に基づく医療(EBM⑭)に不可欠の情報基盤となっている学術文献データベース PubMed を実質的に運営注 1)するなどライフイノベーション関連の各種データベースを学術文献のオープンアクセス化といった学術情報流通政策とともに強力に牽引実施してきた実績がある ただしNIH の担当部署ではSTAR METRICS

の情報システムの開発は付随的業務の位置付けで実施しているしかし事業のシステム開発調整には相当の人役エフォートが必要で実質的にはフルタイムの人員が複数張り付く状態だという

事業目標の変更修正3-3

 STAR METRICS で は 大 変 な 試 行 錯 誤 の 末に 2012 年 4 月に事業目標が修正された当初はフェーズ 1 とフェーズ 2 という 2 段階の計画がレベル 1 とレベル 2 という 2 段階に分けてデータ基盤とツールの整備を行う計画に変更されている(表 2)連邦政府による科学投資の社会的インパクト測定手法の開発という政策科学として挑戦的な目標を掲げた当初の事業目標から先進的技術を活用した政府情報の公開のためのデータフローを蓄積分析する科学技術学術情報関連の実用的な基盤整備事業へと現実的な方向に軌道修正を図ったとみられる この結果科学政策の透明性を確保するための情報基盤の構築データ蓄積を図るという変更後の事業目標設定はオープンデータオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の下で一定の位置付けを得る整理になっている

注1 NIH に国立医学図書館(NLM⑮)の一部門の国立生物工学情報センター(NCBI⑯)が置かれPubMed が運営されている

出典所期の事業計画の表現については(参考文献 5)から修正された目標については(参考文献 1)をもとに科学技術動向センターにて作成

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 レベル 1 のデータ整備では現場の過度の事務負担を避けるために整理正規化を行うデータは競争的資金の種目被雇用者の種別(研究員研究補助者等の区分)業務従事割合(フルタイム換算データ)や間接経費込みの人件費総額など人事関連の 14 項目に限定された参加研究機関はデータポリシーに従ったフォーマットで 4 半期毎にデータを提出するとデータの質の確認処理の後レポートが返される仕組みである 以下の図 1 及び図 2 にはこれまでの事業の成果例を示す 図 1 は開発されたシステムと収集されたデータによる連邦レベルでの成果例であるここではレベル 1 の事業に参画した機関数について州別に可視化されている図 2 は参加機関地域レベルの成果例である図 2 ではインディアナ州の参加機関である Purdue 大学と Indiana 大学に関する 2011財政年度における連邦科学投資による雇用誘発効果に関する情報について可視化した例である

図 1 レベル 1 の成果例(1)STAR METRICS に参加している州別機関数

図 2 レベル 1 の成果例(2)インディアナ州における連邦科学投資のもたらす雇用誘発効果大学キャンパス別の被雇用数の可視化

出典参考文献 1 出典参考文献 2

 現在実施中のレベル 2 の目標は連邦政府所管のファンディングエージェンシーの科学研究助成に関して幅広い範囲のインプットおよびアウトプットに焦点を置いたデータを連邦政府機関とその他の利害関係者に対し提供することである機関レベルの

合意のもとNIH がEPANIHNSFUSDA のデータを収集し他の参画 3 機関はデータベース構築に際して概念実証に必要な協力を行う現在技術的実装計画を策定しパイロット版のシステムを開発中であり構築テスト修正が繰り返されている データ整備はアウトカムよりも予算配分とアウトプットのリンクに重点が置かれているこれまでのところ2012 年財政年度を中心として参加協力 6 機関の 7 万 6 千件の助成プロジェクトがウェブベースで開発したデータシステムに入力され財政年度助成機関州群等の位置等のデータ項目やプロジェクトの概要結果等が検索可能になっている技術的課題としてはデータ整備上はテキスト検索下院選挙区別検索機関プロジェクト等詳細情報との接続などが挙げられている特に政策形成過程での実際的な利用を想定して下院選挙区別検索のためのデータの付加が重要な取り組み事項とされている システム運用では機関の実情と個人情報の保護に配慮しつつ政府の科学投資の透明性を高める方針である研究者個人の給与など個人情報や人事業績評価とも直結するデータが蓄積されていることから機微に触れる情報と公開すべき情報を層別し連邦政府機関関係者のみにアクセス制限を設けるなどの運用を考えているという一方参加機関大学の側では大学運営上の評価意思決定計画策定支援を行う情報分析である IR⑰と事務システムの合理化の観点から開発を進めている財務情報や研究活動のベンチマーキングを行う測定評価手法やそのレポートの様式を共同で開発するほかオープンソースのソフトウェアを用いた大学間でのソースコードの共用化などが検討されている こうした状況からSTAR METRICS の今後は

4 これまで(レベル 1)の事業成果

5 今後(レベル 2)の状況見通し

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図 3 成果実装イメージ例外部研究資金による下院選挙区別雇用誘発効果(Purdue 大学および Indiana 大学)

出典参考文献 2

1) Update on the State of STAR METRICS George ChackohttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811642) STAR Metrics Data Consistency Marietta HarrisonhttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811643) 科学技術学術審議会総会(第 36 回)平成 23 年 5 月 31 日資料 1「科学技術イノベーション政策のための「政策のため

の科学」の推進について」httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu0shiryo__icsFilesafieldfile201107011307169_01pdf

4) Science and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effects of Research on Innovation Competitiveness and Science (STAR METRICS) George Chacko etal Association of Public Data Users NewsletterhttpwwwamstatorgmiscNewsletterArticleSTAR_METRICShtm

5) 遠藤悟ホームページ「米国の科学政策」STAR METRICShttphomepage1niftycombicycletoursci-ronstar_metricshtm

幅広い国民利害関係者への説明責任を果たすための科学投資の社会経済的効果の測定の方法論開発を長期的視野に入れつつも連邦政府機関がファンディング業務の際に利用できる現場の実情を踏まえた実用的な政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積が進むものとみられる

謝辞 この種の政策効果(インパクト)を測定する困難性試行錯誤は世界共通である公開資料ではわかりにくい点も多い本稿の執筆に際し関係者のコメントやそのニュアンスも含め有用な情報提供助言をいただいた(独)新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)ワシントン事務所新川達也前所長(現経済産業省資源エネルギー庁電力ガス事業部原子力発電所事故収束対応室長)前野武史副所長に御礼申し上げる

略称① ARRAAmerican Recovery and Reinvestment Act of 2009② FOIRFreedom of Information Act③ OSTPWhite House Office of Science and Technology Policy④ NSFNational Science Foundation⑤ NIHNational Institute of Health⑥ FDPFederal Demonstration Partnership⑦ SciSIPScience of Science amp Innovation Policy program⑧ DODUnited States Department of Defense⑨ AAUthe Association of American Universities⑩ APLUthe Association of Public and Land Grant Universities⑪ EPAEnvironmental protection Agency⑫ USDAUnited States Department of Agriculture⑬ DOEUnited States Department of Energy⑭ EBMEvidence-based medicine⑮ NLMNational Library of Medicine⑯ NCBINational Center for Biotechnology Information⑰ IRInstitutional Research

参考文献

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6) Contact Kevin Boatright Office of Research amp Graduate Studies 785-864-7240 Associate vice chancellor accepts visiting assignment with the National Science Foundation May 21 2012httparchivenewskuedu2012may21rosenbloomshtml

7) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Presidential Memorandum on Transparency and Open Government (Jan 21 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_fy2009m09-12pdf

8) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Open Government Directive(Dec 8 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-08pdf

9) RESEARCH INSTITUTION PARTICIPATION GUIDE in STAR METRICS websitehttpswwwstarmetricsnihgovStarParticipatecalculatingjobs

10) Science and Technology Priorities for the FY 2012 Budget(July 21 2010)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-30pdf

白川 展之科学技術情報分析ユニット 上席研究官httpwwwnistepgojp

広島県職員を経て研究者に2008年 9月より現職科学技術予測などに従事専門はイノベーション政策公共経営評価農業から保健医療など幅広い分野の技術マネジメント産学連携の経験から科学技術にとどまらない幅広いイノベーションを研究

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コラム

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

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イノベーション政策のデータ基盤に関する日本での議論 科学技術学術政策研究所では文部科学省の科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環としてエビデンスに基づく科学技術イノベーション政策の基礎となる体系的なデータ情報基盤の構築を進めている多くの専門家が指摘している重要課題はミクロデータの利用複数データベースの接続の 2 点であるつまり各種政策の効果の分析や大学等における研究開発の構造的な分析には従来の集計データのみでは不十分でありミクロデータ利用のニーズが非常に大きいまた複数のデータベースを用いた横断的な分析の必要性からデータベースの接続に大きな関心が寄せられているさらにデータ情報基盤構築が政策評価に役立つ意義とともにデータ情報基盤の構築に際して研究者と政策担当者の相互交流と国際的な交流が不可欠との指摘が出されている

出典NISTEP NOTE(政策のための科学)No3「科学技術イノベーション政策のための科学」におけるデータ情報基盤

構築の推進に関する検討2012 年 11 月科学技術政策研究所 科学技術基盤調査研究室

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

 世界各国の政府は情報やデータの開示およびオープン化を進めており実際に各国でデータガバメント「datagov」が稼働し始めた日本でも日本再興戦略1)の一環として2013 年度末までには日本版 datagov を試行的に立ち上げ2014 年度初めから本格稼働を予定しているしかしdatagov の背景や本質を理解した上で事業を進めなければ決して有用なものとはならないそれには「ガバメント 20」というキーワードが参考になる ガバメント 20 とは(米)オライリーメディア社の創設者 Tim OrsquoReilly 氏が 2009 年に提唱した概念であり彼の主張は「政府はプラットホーム化しなければならない」ということである2)情報通信分野で決定的な勝者になったのはプラットホーム企業である例えばMicrosoft 社は会社や家庭にパソコンを普及させGoogle 社は広告収入で運営され

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

キーワードマシンリーダブル公共データオープンデータデータツールデータシティ鯖江

市口 恒雄 特別研究員

る膨大なスタートアップ企業群を生み出しApple社はアプリ開発の企業を生み出して携帯電話の価値を高めたこれらの企業は「第三者に新たな挑戦の場を与える」ことにより成功したつまり政府のプラットホーム化とは「IT 技術によって国民や市民そして行政に新たな挑戦の場を与えること」である ガバメント 20 は電子政府のことかと言えば決してそうではない単なる IT 化では国民や市民に新たな挑戦の場を与えることはできないからであるそれではガバメント 20 とは具体的にどのようなことであり我々はどの様にそれを実現すれば良いのであろうか 実現のための 1 つの方向性は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく市民が積極的に利用できる webサービスを提供しなければならない米国オバマ大統領は2009 年の就任時にオープンガバメントに対して「透明性」(transparent)「国民参加」

(participatory)「協業」(collaborative)という 3

科学技術動向研究

概  要

1 はじめに―ガバメント 20実現への 2 つ方向性

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

原則を示した3)この様な背景から生まれたのがdatagav でありガバメント 20 の 1 つの形態であるデータは加工可能な形で提供されるので国民はそのデータを使って新たなサービスや事業を始めることができる もう 1 つの方向性は市民から行政への情報提供とその情報や問題の市民間の共有である国民や市民の意見を聞くというだけではガバメント 20 ではない行政は市民からの情報に即応し即応できない場合には市民と情報を共有し場合によってはボランティアに対応を任せることも重要であるボランティアによる「Do It Ourselves 型」の公共事業または公共社会へと発展し市民と地方行政はより密接に連携することになる世界中の多くの市町村は「シークリックフィックス(SeeClickFix)」4)というアプリを利用して市民参加を促した上で行政サービスを向上させているこのような Do It Ourselves 型の公共政府もローカルガバメント 20 の 1 つの側面と言える

 世界各国の政府は政府が持つ情報やデータの開示およびオープン化を進めつつある具体的にはdatagov(米国)datagovuk(英国)datagovsg (シンガポール)datagovau(オーストラリア)である特に進んでいるのが図表 1 に示す米国の datagov5)で2013 年 4 月末時点で171 の行政機関が参加し373029 のデータセットと1209 のデータツールを提供しているまた312 のアプリと 137のモバイルアプリも提供している(7 月 2 日時点では75714 のデータセット137 のモバイルアプリと 349 の投稿アプリ295 の政府 API を提供している) 英 国 の datagovuk は2013 年 7 月 2 日 時 点 で9596 のデータセットが公開され投稿されたアプリも含め多数のアプリが提供されている天気情報や交通(事故)情報を取得するアプリが人気が高いシンガポールの datagovsg はキーワードを入力してデータセットを探す仕組みになっており最も良くダウンロードされているのは税収や予算関連のものであるオーストラリアの datagovau は114 の行政機関が参加し1126 のデータセットと 20 のアプリが提供されている

 データセットは加工や分析が可能なマシンリ ー ダ ブ ル な フ ォ ー マ ッ ト(CSV XLS XML RSS RDF など)で提供され利用者がデータセットを取得加工分析できるアプリも同時に提供されるまたAPI(Application Programming Interface)も公開されておりAPI を利用したデータの自動取得も可能であるもしAPI が公開されていなければ政府データを使った新たなサービスやビジネスを創造することは困難でありデータガバメントに利用できる様々なアプリすら開発できない単に政府データを公開するのではなく利用者が加工分析しやすい形でデータを提供することがデータガバメントにとって重要である 政府データを上手く利用している 1 つの実例は

(米)Wolfram Research 社がサービス提供している WolframbrvbarAlpha であろう6)「世界の知識を計算可能にする」ことを謳ったこのサービスは政府データを取り込み利用者が入力した様々な質問に答えてくれる例えば「米国で人口が多い都市は」とか「小麦の生産量は」などの質問にその答えを返すだけでなく関連する情報も提示してくれるこれは政府データがマシンリーダブルであるからできることである

 日本でもオープンガバメント化の流れは避けられず首相官邸の高度情報通信ネットワーク社会推

図表 1 米国の datagov

出典参考文献 5

日本の状況2-2

2 公共データのオープン化

世界各国のデータガバメント2-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

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(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

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 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

30

金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

31

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

32

概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
  • 科学技術7月号レポート5
  • 科学技術7月号研究成果公表
      1. メニューへ戻る メニューへ戻る
Page 4: レポート・トピックス タイトルをクリックすると 各項目に ... · 2017. 1. 18. · ―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

4

2013年AAAS科学技術政策年次フォーラム報告  緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

 全米科学振興協会(AAAS ① )は2013 年 5 月 2日~3 日にワシントン DC において AAAS 科学技術政策年次フォーラム(AAAS Forum on Science and Technology Policy)を開催した1)このフォーラムはAAAS RampD Colloquium の名称で開催された第 1 回から数えて 38 回目にあたり科学技術政策関係者が集う全国的な会合として定着している フォーラムの構成は大統領科学顧問による基調講演大統領予算案の分析や予算に関する論議そして最近の科学技術政策のテーマによる分科会さらに科学技術と経済や社会との関係も含めた幅広いテーマについての全体セッション等から成っており配布資料によると大学連邦政府機関非営利機関民間企業海外機関等から約 370 人の

 全米科学振興協会(AAAS ① )は2013 年 5 月 2 日~3 日にワシントン DC において AAAS 科学技術政策年次フォーラム(AAAS Forum on Science and Technology Policy)を開催したフォーラムは大統領科学顧問による基調講演大統領予算案の分析や予算に関する論議そして最近の科学技術政策のテーマによる分科会さらに科学技術と経済や社会との関係も含めた幅広いテーマについての全体セッション等から構成された 次年度予算案の審議の行方について高い関心が寄せられる例年とは異なり本年は当年度予算が削減を織り込んだ継続決議として成立した歳出法に基づき執行されていることまた次年度以降も大半の科学技術予算が含まれる裁量的予算に対する歳出削減の圧力が強まる見通しであることから講演内容や参加者の関心も予算について積極的に議論しようという空気は薄くむしろより長期的な視点から科学技術の今後を考える論議が目立つものとなった

キーワード米国予算AAASファンディング科学技術と社会

遠藤 悟 客員研究官

科学技術動向研究

 2 日間にわたり開催されたフォーラムの日程は以下のとおりである

【全体セッション】 2014 年度研究開発予算における予算的お

よ び 政 策 的 枠 組 み(Budgetary and Policy Context for RampD in FY 2014)

W Carey レクチャー米国の科学技術パイプラインの拡大大学教員のイノベーションと人々を包括した卓越性(Expanding Americarsquos Science and Technology Pipeline Academic Innovation and Inclusive Excellence)

より良い政府のための科学的洞察(Scientific Insights for Better Government)

 概  要

参加があった1 はじめに

5

緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 フォーラムが開催されるこの時期はこれまでは 2 月上旬の大統領による予算案の発表を受け10 月に始まる次年度予算に関する議会での審議が行われている最中のため参加者の間でも次年度予算案の審議の行方について高い関心が寄せられる時期であったしかし本年は当年度予算が削減を織り込んだ継続決議として成立した歳出法に基づき執行されている状況にありまた次年度以降も大半の科学技術予算が含まれる裁量的予算に対する歳出削減の圧力が強まる見通しであることから講演内容や参加者の関心も予算について積極的に議論しようという空気は薄くむしろより長期的な視点から科学技術の今後を考える論議が目立つものとなった

 最初の「2014 年度研究開発予算における予算的および政策的枠組み」のセッションの基調講演は大統領科学顧問大統領府科学技術政策室(OSTP ④)室長である John P Holdren 氏により行われた 2014 年度大統領予算案に関連し1)科学技術は雇用保健環境国家安全保障などの米国が直面するチャレンジに対応する中心的役割を担っていること2)好奇心に基づき行われる基礎研究の支援は政府の責任であり国立科学財団(NSF ⑤ )エネルギー省(DOE ⑥ )の科学室商務省の国立標準技術局(NIST ⑦ )の基礎研究の強化が必要であることを述べそれらが予算案に反映されていると述べたまた航空宇宙局(NASA ⑧ )の小惑星や火星へのミッションや各省による先進製造研究などを重視していることさらに強制的な歳出削減も考えられる厳しい財政状況下において予算を戦略的に組む必要性を述べ科学技術イノベーションコミュニティーに対してはその活動の重要性について声を上げることを期待しまたこれまでの協力に感謝していると述べた2) さらに 2013 年歳出予算法(継続決議)においてNSF の社会経済科学研究支援のうち国家安全保障面や経済面の利益を明らかとすることができない政治科学研究支援の支出が禁止されたことに触れこのことに対しオバマ政権は1)政治科学は他の社会科学と同様に仮説に基づきピアレビューという手法や再現可能性などの特性を持つ科学であること2)社会科学は基礎研究の定義に合致し実用的な社会の利益に結びつくものであることそして3)社会科学行動科学と自然科学が相対する性格を持つという意見もあるがこれは誤りであることを述べさらに NSF が支援する基礎研究はその直接の成果において実用的利益が明らかでないものもあるが予期されない場合も含め社会に多大な利益をもたらすものであることを強調した 3)そしてNSF をはじめ多くの連邦政府の科学技術関係機関が用いているピアレビューは世界共通に認められている評価における最良の基準(gold standard)であることを科学アカデミー創立 150 周年式典でのオバマ大統領の発言を引用しつつ述べたさらに一部の議員の NSF に対する要求は基礎研究の価値を損ねるものであるとして非難した 4) またHoldren 顧問はオバマ政権における科学技術イニシアチブとして特に科学技術工学数学(STEM)教育について2014 年度予算案の額

世 界 に 広 が る 教 室 に お け る 科 学 技術工学数学分野の高等教育の再構想

(Re-imagining STEM ② Higher Education in the Worldwide Classroom)

環境に関する規制はどの程度経済を阻害 す る か(How Much Do Environmental Regulations Hurt the Economy)

【パラレルセッション】米国の研究イノベーションにおける民間慈

善団体の役割(Roles of Private Philanthropy in US Research and Innovation)

連 邦 政 府 研 究 開 発 支 援 に お け る 実 験(Experiments in Federal RampD Support)

誰がどのようにインターネットをコントロ ー ル し た い の か(Who Wants to Control the Internet and How)

科学技術専門家のためのメンタリング技能望ましい点と必要な点から(Mentoring Skills for Science and Technology Professionals Both Desirable and Required)

変化する特許の展望異なる部門における賛否(The Changing Patent Landscape Cases For and Against Patents in Different Sectors)

【朝食昼食のスピーチ】5 月 2 日の昼食3 日の朝食昼食において

それぞれカナダの科学技術政策神経科学研究国防高等研究計画局(DARPA ③ )をテーマとしたスピーチが行われた

2 オバマ政権の科学技術政策

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

6

が 2012 年度実績に対し 67 増の 31 億ドルとなるイニシアチブで100 万人の新たな科学技術分野の卒業生の輩出や10 万人の優れた STEM 分野の教員の育成などの取り組みを行っていることを述べたさらにホワイトハウスで実施されたサイエンスフェアに象徴されるようにオバマ大統領自身が力を注いでいるイニシアチブであることに加え連邦政府の政策に呼応する形で2020 年までに 100万人の STEM メントーを育成する計画など数多くの STEM プログラムが民間企業や慈善団体により実施されるようになっているとし官民協力が望ましい形で進展していることを報告した 引き続き Sharp AAAS 会長との対話形式により全米製造イニシアチブなどのイノベーション戦略STEM 教育エネルギーと環境オープンガバメント宇宙国際的な科学技術協力そして脳神経科学を含む生物医学研究など広範にわたって議論された幅広い科学技術に対する支援策を行う中で特に基礎研究に対する連邦政府投資を行うと同時に税制措置など民間の活力を引き出す環境を整える考えが示された 

 Matthew Hourihan AAAS 研究開発予算分析プログラム長から2014 年度大統領予算案の解説が

あった予算案の概略は以下のとおりである2014 年度予算案における連邦政府研究開発予算

の額は1428 億ドルであるこの額は比較対象となる 2012 年度予算実績額に比べ13(約19 億ドル)の増である(以下増減については2012 年度比)

連邦政府の基礎研究に対する支援額は 332 億ドル(45 増)応用研究に対する支援額は 350 億ドル(106 増)である

連邦政府の開発支出は715 億ドル(50 減)である

「大統領科学イノベーション計画(Presidentrsquos Plan for Science and Innovation)」 の 対 象 機 関

(NSFDOE 科学室NIST 研究室)の予算は 8増加しているしかしその額は競争力強化法

(2010 年アメリカ COMPETES 再授権法⑨ )に示された授権予算の額を下回っている

製造業のイニシアチブについては「米国を製造 業 の マ グ ネ ッ ト と す る(Makes America a Magnet for Manufacturing)」 の 名 称 でNSFDODDOE商務省などの関連予算により実施されるがその対象となる規模は87 増の 29億ドルである

クリーンエネルギーは2014 年度予算案において引き続き重点項目に含められている

米国地球変動研究プログラム(USGCRP ⑩ )の2014 年度予算案は約 27 億ドルで6 増となっている

生物医学研究における米国の主導的地位の確保

出典参考文献 5

連邦政府各省機関の研究予算の額の変遷(2014 年度は予算案)

3 科学技術予算の現状と今後の見通し

7

緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 Arati Prabhakar DARPA 長官が現代世界の軍事政治状況の下での同庁の役割や方向性について述べた冷戦期の 1958 年に高等研究計画局(ARPA⑫ )として創設された同庁は現代世界の環境について1)米国に対する脅威が複雑化しまた変化し続けていること2)財政問題による経費面における要請が高まったこと3)技術が地球規模的に利用可能となったことの 3 点を挙げその状況に対する取り組みについて説明を行った同局は 29 億ドルという国防研究開発費の中では必ずしも大きくない予算規模で95 人のプログラムマネージャーが大きく関与し情報技術から脳神経科学まで多彩なプロジェクトを実施していることを報告したうえでDARPAがこのような優れた研究プロジェクト支援を行える基盤には米国の健全な研究開発のエコシステムがあることを述べた DARPA 以外の省機関もそれぞれのミッションに従い様々な研究プログラムを実施しておりその評価手順も異なっている「連邦政府研究開発支援における実験」のセッションにおいてはNIH農務省(USDA ⑬ )DOE の事例が報告された Kathy Hudson NIH 科学アウトリーチ政策担当次長は国立トレンスレーショナル科学前進センター(NCATS ⑭ )と BRAIN ⑮ イニシアチブを中心に報告を行ったNIH のミッションは基礎研究を実施することと基礎研究を人々の保健医療の向上に結び付けることの二つであるとしたうえでNCATS については NIH の研究者が発見した化合物の実用化や産業化における障壁の低減そして製品化への時間の短縮などの取り組みについて述べたまたBRAIN イニシアチブについて

 海外の事情については中国インド韓国そしてカナダの科学技術政策について報告があった

「2012 年度研究開発予算における予算的および政策的枠組み」の一部として設けられた「科学技術政策に関するアジアの視点米国との相違と共通性」のセッションにおいてはJeannette Wing マイクロソフト社副社長マイクロソフトリサーチ所長が中国とインドの動向について報告した中国の経済発展は1990 年代から始まるがまず人材を育成し次に 211985 などの番号を付した計画を通して基盤を整えそのうえで知識を生み出すための基礎研究と技術イノベーションへの投資が行われたという流れを紹介し今では上位の大学は米国の有力私立大学と並ぶものであるとしたしかし中国の高等教育機関は拡大したが中国の大学生にとって米国の大学を目指す意識に変化はなく中国人人材の米国への供給は続くとの見方を示したインドについて Wing 氏は各地に計 15 校設置されたインド

米国民の健康の改善そして未来のバイオエコノミーの構築のためNIH ⑪ の予算は 313 億ドル

(15 増)となっている高い技能を持つ人材育成のためSTEM の分野の

教育に 31 億ドル(67 増)の支出を行うこととしている

民間部門の投資を拡大させるため試験研究費税額控除の拡大簡素化恒久化を提案している

予算案は米国民に対する見返りが最大化する分野に資源を集中させそうでない分野において削減するとしておりその例として開発予算は 38億ドル削減されている

は研究資金配分成果に対する褒賞(プライズ)DARPA 型のプロジェクト運営を通した成果創出の迅速化研究活性化のためのマッチングさらにクラウドファンディングといったメカニズムについて紹介した Catherine Woteki USDA 主任科学者研究教育経済担当次官は予算削減が続く中での研究開発活動は省内の機関の研究と外部研究支援とのバランスを取りつつ行う必要があることなどを述べたうえで同省の 21 世紀のチャレンジとして食料の安全保障食品の安心人々の栄養と健康気候変動バイオエコノミー(バイオ燃料バイオプロダクト)を挙げたそして共同研究開発契約プログラム

(CRADA ⑯ program)のモデルによる研究成果の民間部門への移転に加え農業技術イノベーションパートナーシッププログラム(ATIP ⑰ Program)調整農業プロジェクト(CAP ⑱ )長期農業生態系研究ネットワーク(LTAR ⑲ Network)等の同省の特徴的なプログラムについて説明を行った Patricia M Dehmer エネルギー省科学室室長代理は簡単に同省の歴史や予算の枠組みに触れた後バイオエネルギー研究センター(BRCs ⑳ )エネルギーフロンティア研究センター(EFRC 21 )そしてエネルギーイノベーションハブ(Energy Innovation Hub)について報告した

4 多様なファンディングシステム

5 他国の科学技術政策に関する報告

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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護や改善を目的とした規制的政策が経済に与えるネガティブな影響について実際よりも拡大してあるいは経済面における利益との関係を考慮せずに論議される傾向があることを指摘した William A Pizer スタンフォード大学公共政策学部准教授は必ずしも相関が明らかではないにも関わらず特定の産業部門での雇用の悪化について規制が行われたことと関連付けて政策論議されまた他の産業における雇用効果について論じられない状況などを指摘した Cary Coglianese ペンシルバニア大学法学政治学教授は「何故政治は環境に関する規制は雇用を殺し研究者はそのようなことがないと言うのか」との表題により規制が競争力の低下をもたらす証拠はないにも関わらず人々がネガティブな影響があると考える背景について考察を加えた Richard Morgenstern 未来のための資源上級フェローは「環境に関する経済的分析の見通し」の表題により便益費用分析に基づくブッシュ政権とオバマ政権の政策決定における観点の相違について述べた

 フォーラムではedX や Coursera といった近年急激な展開を見せている大規模オンラインオープンコース(MOOC 23 )に関するセッションも設けられていた Anant Agarwal edX 会長マサチューセッツ工科大学電気工学コンピューター科学教授はedXは世界の人々がアクセスすることができる新たな教育機会であるとし154763 人の学生が登録し7157人が履修証明書の発行を受けるなどの数字を示したうえで学生が自発的に参加できるよう工夫された宿題や試験などその具体的なシステムについて説明を行った Wendy Newstetter ジョージア工科大学工学部教育研究イノベーション担当主任は教授法について伝統的な教室における教育実験など相互的な教育独立型の教育オンライン教育という区分を示しMOOC が独立型教育とオンライン教育の双方にまたがるものとしたうえで未だ教育学研究者の関心は薄く履修する学生のコンピテンス向上の観点から見るとその要件を満たしていない点が多いことを指摘した Kevin Werbach ペンシルバニア大学ウォートンスクール准教授はMOOC を通して実際に授業を行っ

 フォーラムの多くのセッションはいわゆる「科学のための政策」に関するものであったが科学的知見の(科学技術政策以外の)政策形成への反映すなわち「政策のための科学」に関するセッションも二つ設けられていた 「より良い政府のための科学的洞察」と題されたセッションは標題のとおり科学技術特に社会科学行動科学の知見をどのように政策形成の向上に活かすことができるかをテーマとしたものであった Case R Sunstein ハーバード大学ロースクール教授

(前大統領府情報規制室OIRA22 室長)は前職の OIRA における科学に基づく客観性独立性と大統領府経済諮問委員会とも協力した経済的価値の両面における活動について述べたうえで合理的な政策形成について受け手である一般の人々の認識の面も含め考えられるシステムについて具体的な例示を含めて説明した Arthur Lupia ミシガン大学社会研究所教授は異なるバックグラウンドを持つ人々における社会科学の価値について述べた「社会科学の価値は何であるか」ということと「資金配分を行うべき対象であるか」というふたつの疑問に関し信頼性(credibility)と正当性

(legitimacy)という二つの評価基準から説明を行ったそして講演の最後には最近の議会による NSF の社会科学研究への支出の禁止等の動きに対し社会科学研究が国家にもたらす価値の大きさについて語った 「環境に関する規制はどの程度経済を阻害するか」と題されたセッションはいずれの講演者も環境保

工科大学は今後も拡大する予定があるが博士人材等の点では遅れが見られる等の指摘を行った Jong-Guk Song 科学技術政策研究院(韓国)院長は「クリエイティブエコノミー」と名付けられた韓国の経済政策について報告した労働力供給の変化により今後経済成長の低下が見込まれる状況において他国に比べ韓国が劣っている起業を活発化させる等の政策的枠組みにいての内容であった Gary Goodyear カナダ科学技術担当国務大臣はカナダの科学技術活動の状況について研究開発投資と税制研究基盤宇宙部門物理学医療といった幅広い視点から報告したまた海外との関係について複数の世界的な水準の大学が世界中から人材を引き寄せていることや特に米国との間で緊密な科学技術協力が実施されていることを報告した

7 MOOC-大学の新たな教育モデル

6 科学的知見の政策形成への反映

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緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

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 2013 年 3 月になって確定した 2013 年度歳出予算においては研究開発予算においても 5 パーセン

ト程度の歳出削減対象となったものも多くアカデミックコミュニティーにとって予算面で希望の持てる状況にはないしかしながら本フォーラムでは必ずしも予算削減は大きなテーマとなっていなかったその背景には厳しい予算状況が既に現実のものとなったことまたそのような状況にありながらオバマ政権が科学技術に関し手厚い支援を行う意向を示していることがあると考えられるそして参加者の関心はむしろ厳しい財政状況において例えばどのようなファンディングシステムが研究成果を高めるかなど研究開発システム全体に向けられているように感じられた

略称① AAASAmerican Association for the Advancement of Science② STEMScience Technology Engineering and Mathematics③ DARPADefense Advanced Research Projects Agency④ OSTPOffice of Science and Technology Policy⑤ NSFNational Science Foundation⑥ DOEDepartment of Energy⑦ NISTNational Institute of Standards and Technology⑧ NASANational Aeronautics and Space Administration⑨アメリカ COMPETES再授権法America Creating Opportunities to Meaningfully Promote Excellence

in TechnologyEducation and Science Reauthorization Act of 2010 (America COMPETES Reauthorization Act of 2010)

⑩ USGCRPUS Global Change Research Program⑪ NIHNational Institutes of Health⑫ ARPAAdvanced Research Projects Agency⑬ USDADepartment of Agriculture⑭ NCATSNational Center for Advancing Translational Sciences⑮ BRAINBrain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies⑯ CRADACooperative Research and Development Agreement⑰ ATIPAgricultural Technology Innovation Partnership ⑱ CAPCoordinating Agriculture Projects⑲ LTARLong-Term Agroecosystem Research⑳ BRCsBioenergy Research Centers 21 EFRCEnergy Frontier Research Centers 22 OIRAOffice of Information and Regulatory Affairs23 MOOCsMassive open online courses

1) AAAS Forum on Science amp Technology Policy 2013 年 6 月 12 日httpwwwaaasorgspprdforum2) Office of Science and Technology Policy (OSTP) RampD Budgets 2013 年 6 月 12 日

httpwwwwhitehousegovadministrationeopostprdbudgets3) 2013 年度歳出予算法(Consolidated and Further Continuing Appropriations Act 2013) 2013 年 6 月 12 日

httpwwwgpogovfdsyspkgPLAW-113publ6htmlPLAW-113publ6htm

た教員の立場からこの取り組みが非常に興味深いものであり世界中の学生に対しこれまでなかった教育機会を提供するものであるとしたうえで研究を通した人材育成など MOOC では困難なことや費用教員の資質等の検討課題について言及した

8 おわりに

参考文献

コラム

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出典NISTEP REPORT No153 科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP 定点調査 2012)2013 年 4 月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacebitstream1103511931NISTEP-NR153-FullJpdf

遠藤 悟科学技術動向研究センター 客員研究官httphomepage1niftycombicycletoursci-indexhtm

研究対象は米国を中心とした科学政策2000年に「米国の科学政策」HPを開設し政策動向を発信している近年は科学と社会の関係や高等教育等にも対象を拡大している

4) 科学アカデミー創立 150 周年式典でのオバマ大統領の発言(Remarks by the President on the 150th Anniversary of the National Academy of Sciences) 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovthe-press-office20130429remarks-president-150th-anniversary-national-academy-sciences

5) The 2014 Budget A World-Leading Commitment to Science amp Research 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostp2014_RampDbudget_overviewpdf

NISTEP 定点調査からみる我が国の研究開発資金の状況科学技術学術政策研究所では第 4 期科学技術基本計画期間中の我が国における科学技術やイノベーションの状況変化を把握するため産学官の研究者や有識者への意識定点調査(NISTEP 定点調査)を2011 年度より実施しています以下の図は第 2 回となる 2012 年度の調査における研究費に関する意識調査の結果ですが科学技術に関する政府予算(Q2-16)や基盤的経費(Q1-18)については多くの機関の研究者が前年と同様「不充分との強い認識(雨マーク)」または「著しく不充分との認識(雷マーク)」を持っているようです特に国内論文シェアが 1〜5 の規模である第 2 グループの大学に所属する研究者は「著しく不充分との認識」を持っていることがわかります米国連邦政府の予算はその時々の政策や財政事情により上昇下降の変化が見られますが我が国の研究者にとって研究予算は低空飛行を続けているという印象のようです

執筆者プロフィール

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

概  要

科学研究の投資効果測定を目指す米国のSTAR METRICS事業の現状と今後の見通し

 国際競争力の確保や社会的課題解決のために科学技術によるイノベーションへの期待が高まる中公

 政府の科学投資が雇用知識創造健康などにどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するための情報基盤を整備する米国の事業(STAR METRICS)は科学投資の社会的なインパクト測定手法を幅広く開発することからオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の方向性に沿う形で連邦政府の競争的資金に関する省庁横断的なデータ基盤整備を図る方向に事業目標を修正している事業の第一段階では人事データに限って連邦政府の科学研究投資の労働誘発効果を検証するためにデータを蓄積可視化するシステムが構築された現在の第二段階では引き続き国立衛生研究所(NIH)がホスト機関となりインプットとアウトプットのデータに重点を置いてデータ蓄積と分析システムを開発中であるSTAR METRICSは参加機関の財務情報や研究活動の経営分析ベンチマーキングや連邦政府機関のファンディング業務での利用など現場の実情を踏まえた政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積を進めるとみられる

キーワード政策のための科学研究評価公的研究開発投資オープンガバメントIR(Institutional Research)

白川 展之 上席研究官

的研究開発投資がどのような成果を産みまた今後産み出す可能性を持つかを科学的根拠に基づき評価し政策過程に反映する社会的要請が各国で高まっている日本でも文部科学省では 2011 年度から「科学技術イノベーション政策における『政策のため

表 1 事業開始までの経緯

科学技術動向研究

出典文部科学省作成資料(参考文献 3)およびAPDU News Letter(参考文献 4)をもとに科学技術動向研究センターにて作成

1 はじめに

STT136_レポート2(web用に修正)indd 11STT136_レポート2(web用に修正)indd 11 130712 1557130712 1557

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STAR METRICS とは2-1

 STAR METRICS とはldquoScience and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effect of Research on Innovation Competitiveness and Sciencerdquoの頭字であり連邦政府による科学への投資が雇用知識創造保健などにどのような影響効果(インパクト)を及ぼしたかを測定するデータ基盤および分析ツール等の整備構築を図る事業である連邦政府大学その他機関の連携のもとに実施することから「省庁横断的なベンチャー的事業」とも表現されている

根拠法令等2-2

 本事業開始当初の目的は米国再生再投資法(ARRA①)において同法に基づく科学投資の支出景気刺激効果について納税者に対する説明責任を果たすためと説明されていたこれに加えて2009 年 1 月 21 日付けのオ-プンガバメントに関する大統領覚書(Presidential Memorandum on Transparency and Open Government)と2009年 12 月 8 日付けの行政管理予算局覚書(Office of Management and Budget Memorandum)にも事業実施の根拠を求めているこの前者のオ-プンガバメントに関する大統領覚書は省庁がオンライン上で情報を取得ダウンロード検索されうる一般的

事業の参加機関数とデータ収集の範囲3-1

 連邦政府では大統領行政府科学技術政策局(OSTP③)国立科学財団(NSF④)国立保健研究所(NIH⑤ )が STAR METRICS のリード機関となったこれに大学で研究開発に関わる職員(研究者管理者等)と省庁が連携して研究開発推進の効率化調整を図るイニシアティブである FDP⑥と一部の高等教育機関がパートナーとなり2010 年1 月にパイロット事業を開始したパイロット事業では 2011 年 7 月まで方法論の開発実証継続的改善に取り組むとともに競争的研究資金のファンディングを行う政府機関や高等教育機関に対しプロジェクトへの参加を呼びかけるアウトリーチ普及活動にも積極的に取り組んだNSF の科学政策のための科学の研究助成事業(SciSIP⑦)の初代プログラムディレクターを務めこの事業の立ち上げにも尽力した Julia Lane 氏は安全保障上の機密の存在から情報公開が難しい国防総省(DOD⑧)に対してもプロジェクト参加の提案を行うなど省庁学協会等に対し働きかけた こうした省庁横断的な事業普及の取り組みは一定の成果を見せFDP の他に全米の有力な研究型大学の団体である全米大学協会(AAU⑨)と公立ランドグラント大学協会(APLU⑩)からの協力もあり参画研究機関大学は 2010 年 10 月の正式な事業発足の段階で 86 機関となった連邦政府機関では環境保護庁(EPA⑪)農務省(USDA⑫)エネルギー省(DOE⑬)を加えた合計 6 機関が参加協力を得たこの結果これら参加協力機関のすべてのデータが得られた場合金額ベースで NIH の研究助成額の 3 分の 1参加協力機関の合計では金額ベースで連邦政府全体の科学研究助成半分以上をカバーするデータ収集を狙える体制となった

の科学』推進事業」を実施している米国では 2005年にマーバーガー前科学担当大統領補佐官が「科学政策の科学化」を目指しデータモデルとコミュニティ開発を図る「科学政策のための科学」を提唱して以来各国に先駆けて省庁間連携や公募型研究開発プログラムや情報基盤の整備を推進してきた 本稿では米国政府による科学への投資がどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するため開始された事業(STAR METRICS)についてこれまでの事業展開や今後の見通しを紹介する

なデータ形式で公開する旨を定めたものであるまた後者の行政管理予算局覚書では情報自由法

(FOIR②)の義務付け範囲を超えて有益な情報を積極的に普及させるために先進的な技術を各省庁が利用するよう推奨している

2 事業概要

3 事業の進捗推移

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表 2 STAR METRICS の計画目標の推移

事業推進体制の変更強化3-2

 2011 年 10 月に NIH がホスト機関となり2012年 1 月には本事業の新たな段階への移行を見据えて執行体制を刷新したエクゼクティブコミッティーと機関横断ワーキンググループの 2 層の省庁機関間の連携組織のもとホスト機関の NIH の責任者がNIH(2 名)および NSF(1 名)のプログラムマネージャーを統括する事業推進体制としたデータシステム整備等の実務的な作業は技術プロジェクトマネージャー(プログラムマネージャーと兼任)がさらにその下に置かれシステム開発を行う業務委託先のベンダーとのプロジェクト進行管理を行っている 事業の実質的な進展を図るこうした体制変更はNIH の連邦政府における科学投資の予算額のシェアの大きさとその組織能力ノウハウを反映した結果とみられるNIH は米国再生再投資法

(ARRA)における科学研究投資額が最も多かった何よりNIH には根拠に基づく医療(EBM⑭)に不可欠の情報基盤となっている学術文献データベース PubMed を実質的に運営注 1)するなどライフイノベーション関連の各種データベースを学術文献のオープンアクセス化といった学術情報流通政策とともに強力に牽引実施してきた実績がある ただしNIH の担当部署ではSTAR METRICS

の情報システムの開発は付随的業務の位置付けで実施しているしかし事業のシステム開発調整には相当の人役エフォートが必要で実質的にはフルタイムの人員が複数張り付く状態だという

事業目標の変更修正3-3

 STAR METRICS で は 大 変 な 試 行 錯 誤 の 末に 2012 年 4 月に事業目標が修正された当初はフェーズ 1 とフェーズ 2 という 2 段階の計画がレベル 1 とレベル 2 という 2 段階に分けてデータ基盤とツールの整備を行う計画に変更されている(表 2)連邦政府による科学投資の社会的インパクト測定手法の開発という政策科学として挑戦的な目標を掲げた当初の事業目標から先進的技術を活用した政府情報の公開のためのデータフローを蓄積分析する科学技術学術情報関連の実用的な基盤整備事業へと現実的な方向に軌道修正を図ったとみられる この結果科学政策の透明性を確保するための情報基盤の構築データ蓄積を図るという変更後の事業目標設定はオープンデータオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の下で一定の位置付けを得る整理になっている

注1 NIH に国立医学図書館(NLM⑮)の一部門の国立生物工学情報センター(NCBI⑯)が置かれPubMed が運営されている

出典所期の事業計画の表現については(参考文献 5)から修正された目標については(参考文献 1)をもとに科学技術動向センターにて作成

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 レベル 1 のデータ整備では現場の過度の事務負担を避けるために整理正規化を行うデータは競争的資金の種目被雇用者の種別(研究員研究補助者等の区分)業務従事割合(フルタイム換算データ)や間接経費込みの人件費総額など人事関連の 14 項目に限定された参加研究機関はデータポリシーに従ったフォーマットで 4 半期毎にデータを提出するとデータの質の確認処理の後レポートが返される仕組みである 以下の図 1 及び図 2 にはこれまでの事業の成果例を示す 図 1 は開発されたシステムと収集されたデータによる連邦レベルでの成果例であるここではレベル 1 の事業に参画した機関数について州別に可視化されている図 2 は参加機関地域レベルの成果例である図 2 ではインディアナ州の参加機関である Purdue 大学と Indiana 大学に関する 2011財政年度における連邦科学投資による雇用誘発効果に関する情報について可視化した例である

図 1 レベル 1 の成果例(1)STAR METRICS に参加している州別機関数

図 2 レベル 1 の成果例(2)インディアナ州における連邦科学投資のもたらす雇用誘発効果大学キャンパス別の被雇用数の可視化

出典参考文献 1 出典参考文献 2

 現在実施中のレベル 2 の目標は連邦政府所管のファンディングエージェンシーの科学研究助成に関して幅広い範囲のインプットおよびアウトプットに焦点を置いたデータを連邦政府機関とその他の利害関係者に対し提供することである機関レベルの

合意のもとNIH がEPANIHNSFUSDA のデータを収集し他の参画 3 機関はデータベース構築に際して概念実証に必要な協力を行う現在技術的実装計画を策定しパイロット版のシステムを開発中であり構築テスト修正が繰り返されている データ整備はアウトカムよりも予算配分とアウトプットのリンクに重点が置かれているこれまでのところ2012 年財政年度を中心として参加協力 6 機関の 7 万 6 千件の助成プロジェクトがウェブベースで開発したデータシステムに入力され財政年度助成機関州群等の位置等のデータ項目やプロジェクトの概要結果等が検索可能になっている技術的課題としてはデータ整備上はテキスト検索下院選挙区別検索機関プロジェクト等詳細情報との接続などが挙げられている特に政策形成過程での実際的な利用を想定して下院選挙区別検索のためのデータの付加が重要な取り組み事項とされている システム運用では機関の実情と個人情報の保護に配慮しつつ政府の科学投資の透明性を高める方針である研究者個人の給与など個人情報や人事業績評価とも直結するデータが蓄積されていることから機微に触れる情報と公開すべき情報を層別し連邦政府機関関係者のみにアクセス制限を設けるなどの運用を考えているという一方参加機関大学の側では大学運営上の評価意思決定計画策定支援を行う情報分析である IR⑰と事務システムの合理化の観点から開発を進めている財務情報や研究活動のベンチマーキングを行う測定評価手法やそのレポートの様式を共同で開発するほかオープンソースのソフトウェアを用いた大学間でのソースコードの共用化などが検討されている こうした状況からSTAR METRICS の今後は

4 これまで(レベル 1)の事業成果

5 今後(レベル 2)の状況見通し

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

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図 3 成果実装イメージ例外部研究資金による下院選挙区別雇用誘発効果(Purdue 大学および Indiana 大学)

出典参考文献 2

1) Update on the State of STAR METRICS George ChackohttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811642) STAR Metrics Data Consistency Marietta HarrisonhttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811643) 科学技術学術審議会総会(第 36 回)平成 23 年 5 月 31 日資料 1「科学技術イノベーション政策のための「政策のため

の科学」の推進について」httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu0shiryo__icsFilesafieldfile201107011307169_01pdf

4) Science and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effects of Research on Innovation Competitiveness and Science (STAR METRICS) George Chacko etal Association of Public Data Users NewsletterhttpwwwamstatorgmiscNewsletterArticleSTAR_METRICShtm

5) 遠藤悟ホームページ「米国の科学政策」STAR METRICShttphomepage1niftycombicycletoursci-ronstar_metricshtm

幅広い国民利害関係者への説明責任を果たすための科学投資の社会経済的効果の測定の方法論開発を長期的視野に入れつつも連邦政府機関がファンディング業務の際に利用できる現場の実情を踏まえた実用的な政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積が進むものとみられる

謝辞 この種の政策効果(インパクト)を測定する困難性試行錯誤は世界共通である公開資料ではわかりにくい点も多い本稿の執筆に際し関係者のコメントやそのニュアンスも含め有用な情報提供助言をいただいた(独)新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)ワシントン事務所新川達也前所長(現経済産業省資源エネルギー庁電力ガス事業部原子力発電所事故収束対応室長)前野武史副所長に御礼申し上げる

略称① ARRAAmerican Recovery and Reinvestment Act of 2009② FOIRFreedom of Information Act③ OSTPWhite House Office of Science and Technology Policy④ NSFNational Science Foundation⑤ NIHNational Institute of Health⑥ FDPFederal Demonstration Partnership⑦ SciSIPScience of Science amp Innovation Policy program⑧ DODUnited States Department of Defense⑨ AAUthe Association of American Universities⑩ APLUthe Association of Public and Land Grant Universities⑪ EPAEnvironmental protection Agency⑫ USDAUnited States Department of Agriculture⑬ DOEUnited States Department of Energy⑭ EBMEvidence-based medicine⑮ NLMNational Library of Medicine⑯ NCBINational Center for Biotechnology Information⑰ IRInstitutional Research

参考文献

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6) Contact Kevin Boatright Office of Research amp Graduate Studies 785-864-7240 Associate vice chancellor accepts visiting assignment with the National Science Foundation May 21 2012httparchivenewskuedu2012may21rosenbloomshtml

7) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Presidential Memorandum on Transparency and Open Government (Jan 21 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_fy2009m09-12pdf

8) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Open Government Directive(Dec 8 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-08pdf

9) RESEARCH INSTITUTION PARTICIPATION GUIDE in STAR METRICS websitehttpswwwstarmetricsnihgovStarParticipatecalculatingjobs

10) Science and Technology Priorities for the FY 2012 Budget(July 21 2010)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-30pdf

白川 展之科学技術情報分析ユニット 上席研究官httpwwwnistepgojp

広島県職員を経て研究者に2008年 9月より現職科学技術予測などに従事専門はイノベーション政策公共経営評価農業から保健医療など幅広い分野の技術マネジメント産学連携の経験から科学技術にとどまらない幅広いイノベーションを研究

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

イノベーション政策のデータ基盤に関する日本での議論 科学技術学術政策研究所では文部科学省の科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環としてエビデンスに基づく科学技術イノベーション政策の基礎となる体系的なデータ情報基盤の構築を進めている多くの専門家が指摘している重要課題はミクロデータの利用複数データベースの接続の 2 点であるつまり各種政策の効果の分析や大学等における研究開発の構造的な分析には従来の集計データのみでは不十分でありミクロデータ利用のニーズが非常に大きいまた複数のデータベースを用いた横断的な分析の必要性からデータベースの接続に大きな関心が寄せられているさらにデータ情報基盤構築が政策評価に役立つ意義とともにデータ情報基盤の構築に際して研究者と政策担当者の相互交流と国際的な交流が不可欠との指摘が出されている

出典NISTEP NOTE(政策のための科学)No3「科学技術イノベーション政策のための科学」におけるデータ情報基盤

構築の推進に関する検討2012 年 11 月科学技術政策研究所 科学技術基盤調査研究室

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

 世界各国の政府は情報やデータの開示およびオープン化を進めており実際に各国でデータガバメント「datagov」が稼働し始めた日本でも日本再興戦略1)の一環として2013 年度末までには日本版 datagov を試行的に立ち上げ2014 年度初めから本格稼働を予定しているしかしdatagov の背景や本質を理解した上で事業を進めなければ決して有用なものとはならないそれには「ガバメント 20」というキーワードが参考になる ガバメント 20 とは(米)オライリーメディア社の創設者 Tim OrsquoReilly 氏が 2009 年に提唱した概念であり彼の主張は「政府はプラットホーム化しなければならない」ということである2)情報通信分野で決定的な勝者になったのはプラットホーム企業である例えばMicrosoft 社は会社や家庭にパソコンを普及させGoogle 社は広告収入で運営され

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

キーワードマシンリーダブル公共データオープンデータデータツールデータシティ鯖江

市口 恒雄 特別研究員

る膨大なスタートアップ企業群を生み出しApple社はアプリ開発の企業を生み出して携帯電話の価値を高めたこれらの企業は「第三者に新たな挑戦の場を与える」ことにより成功したつまり政府のプラットホーム化とは「IT 技術によって国民や市民そして行政に新たな挑戦の場を与えること」である ガバメント 20 は電子政府のことかと言えば決してそうではない単なる IT 化では国民や市民に新たな挑戦の場を与えることはできないからであるそれではガバメント 20 とは具体的にどのようなことであり我々はどの様にそれを実現すれば良いのであろうか 実現のための 1 つの方向性は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく市民が積極的に利用できる webサービスを提供しなければならない米国オバマ大統領は2009 年の就任時にオープンガバメントに対して「透明性」(transparent)「国民参加」

(participatory)「協業」(collaborative)という 3

科学技術動向研究

概  要

1 はじめに―ガバメント 20実現への 2 つ方向性

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

原則を示した3)この様な背景から生まれたのがdatagav でありガバメント 20 の 1 つの形態であるデータは加工可能な形で提供されるので国民はそのデータを使って新たなサービスや事業を始めることができる もう 1 つの方向性は市民から行政への情報提供とその情報や問題の市民間の共有である国民や市民の意見を聞くというだけではガバメント 20 ではない行政は市民からの情報に即応し即応できない場合には市民と情報を共有し場合によってはボランティアに対応を任せることも重要であるボランティアによる「Do It Ourselves 型」の公共事業または公共社会へと発展し市民と地方行政はより密接に連携することになる世界中の多くの市町村は「シークリックフィックス(SeeClickFix)」4)というアプリを利用して市民参加を促した上で行政サービスを向上させているこのような Do It Ourselves 型の公共政府もローカルガバメント 20 の 1 つの側面と言える

 世界各国の政府は政府が持つ情報やデータの開示およびオープン化を進めつつある具体的にはdatagov(米国)datagovuk(英国)datagovsg (シンガポール)datagovau(オーストラリア)である特に進んでいるのが図表 1 に示す米国の datagov5)で2013 年 4 月末時点で171 の行政機関が参加し373029 のデータセットと1209 のデータツールを提供しているまた312 のアプリと 137のモバイルアプリも提供している(7 月 2 日時点では75714 のデータセット137 のモバイルアプリと 349 の投稿アプリ295 の政府 API を提供している) 英 国 の datagovuk は2013 年 7 月 2 日 時 点 で9596 のデータセットが公開され投稿されたアプリも含め多数のアプリが提供されている天気情報や交通(事故)情報を取得するアプリが人気が高いシンガポールの datagovsg はキーワードを入力してデータセットを探す仕組みになっており最も良くダウンロードされているのは税収や予算関連のものであるオーストラリアの datagovau は114 の行政機関が参加し1126 のデータセットと 20 のアプリが提供されている

 データセットは加工や分析が可能なマシンリ ー ダ ブ ル な フ ォ ー マ ッ ト(CSV XLS XML RSS RDF など)で提供され利用者がデータセットを取得加工分析できるアプリも同時に提供されるまたAPI(Application Programming Interface)も公開されておりAPI を利用したデータの自動取得も可能であるもしAPI が公開されていなければ政府データを使った新たなサービスやビジネスを創造することは困難でありデータガバメントに利用できる様々なアプリすら開発できない単に政府データを公開するのではなく利用者が加工分析しやすい形でデータを提供することがデータガバメントにとって重要である 政府データを上手く利用している 1 つの実例は

(米)Wolfram Research 社がサービス提供している WolframbrvbarAlpha であろう6)「世界の知識を計算可能にする」ことを謳ったこのサービスは政府データを取り込み利用者が入力した様々な質問に答えてくれる例えば「米国で人口が多い都市は」とか「小麦の生産量は」などの質問にその答えを返すだけでなく関連する情報も提示してくれるこれは政府データがマシンリーダブルであるからできることである

 日本でもオープンガバメント化の流れは避けられず首相官邸の高度情報通信ネットワーク社会推

図表 1 米国の datagov

出典参考文献 5

日本の状況2-2

2 公共データのオープン化

世界各国のデータガバメント2-1

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進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

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(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

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 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

29

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

30

金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

32

概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
  • 科学技術7月号レポート5
  • 科学技術7月号研究成果公表
      1. メニューへ戻る メニューへ戻る
Page 5: レポート・トピックス タイトルをクリックすると 各項目に ... · 2017. 1. 18. · ―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

5

緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 フォーラムが開催されるこの時期はこれまでは 2 月上旬の大統領による予算案の発表を受け10 月に始まる次年度予算に関する議会での審議が行われている最中のため参加者の間でも次年度予算案の審議の行方について高い関心が寄せられる時期であったしかし本年は当年度予算が削減を織り込んだ継続決議として成立した歳出法に基づき執行されている状況にありまた次年度以降も大半の科学技術予算が含まれる裁量的予算に対する歳出削減の圧力が強まる見通しであることから講演内容や参加者の関心も予算について積極的に議論しようという空気は薄くむしろより長期的な視点から科学技術の今後を考える論議が目立つものとなった

 最初の「2014 年度研究開発予算における予算的および政策的枠組み」のセッションの基調講演は大統領科学顧問大統領府科学技術政策室(OSTP ④)室長である John P Holdren 氏により行われた 2014 年度大統領予算案に関連し1)科学技術は雇用保健環境国家安全保障などの米国が直面するチャレンジに対応する中心的役割を担っていること2)好奇心に基づき行われる基礎研究の支援は政府の責任であり国立科学財団(NSF ⑤ )エネルギー省(DOE ⑥ )の科学室商務省の国立標準技術局(NIST ⑦ )の基礎研究の強化が必要であることを述べそれらが予算案に反映されていると述べたまた航空宇宙局(NASA ⑧ )の小惑星や火星へのミッションや各省による先進製造研究などを重視していることさらに強制的な歳出削減も考えられる厳しい財政状況下において予算を戦略的に組む必要性を述べ科学技術イノベーションコミュニティーに対してはその活動の重要性について声を上げることを期待しまたこれまでの協力に感謝していると述べた2) さらに 2013 年歳出予算法(継続決議)においてNSF の社会経済科学研究支援のうち国家安全保障面や経済面の利益を明らかとすることができない政治科学研究支援の支出が禁止されたことに触れこのことに対しオバマ政権は1)政治科学は他の社会科学と同様に仮説に基づきピアレビューという手法や再現可能性などの特性を持つ科学であること2)社会科学は基礎研究の定義に合致し実用的な社会の利益に結びつくものであることそして3)社会科学行動科学と自然科学が相対する性格を持つという意見もあるがこれは誤りであることを述べさらに NSF が支援する基礎研究はその直接の成果において実用的利益が明らかでないものもあるが予期されない場合も含め社会に多大な利益をもたらすものであることを強調した 3)そしてNSF をはじめ多くの連邦政府の科学技術関係機関が用いているピアレビューは世界共通に認められている評価における最良の基準(gold standard)であることを科学アカデミー創立 150 周年式典でのオバマ大統領の発言を引用しつつ述べたさらに一部の議員の NSF に対する要求は基礎研究の価値を損ねるものであるとして非難した 4) またHoldren 顧問はオバマ政権における科学技術イニシアチブとして特に科学技術工学数学(STEM)教育について2014 年度予算案の額

世 界 に 広 が る 教 室 に お け る 科 学 技術工学数学分野の高等教育の再構想

(Re-imagining STEM ② Higher Education in the Worldwide Classroom)

環境に関する規制はどの程度経済を阻害 す る か(How Much Do Environmental Regulations Hurt the Economy)

【パラレルセッション】米国の研究イノベーションにおける民間慈

善団体の役割(Roles of Private Philanthropy in US Research and Innovation)

連 邦 政 府 研 究 開 発 支 援 に お け る 実 験(Experiments in Federal RampD Support)

誰がどのようにインターネットをコントロ ー ル し た い の か(Who Wants to Control the Internet and How)

科学技術専門家のためのメンタリング技能望ましい点と必要な点から(Mentoring Skills for Science and Technology Professionals Both Desirable and Required)

変化する特許の展望異なる部門における賛否(The Changing Patent Landscape Cases For and Against Patents in Different Sectors)

【朝食昼食のスピーチ】5 月 2 日の昼食3 日の朝食昼食において

それぞれカナダの科学技術政策神経科学研究国防高等研究計画局(DARPA ③ )をテーマとしたスピーチが行われた

2 オバマ政権の科学技術政策

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

6

が 2012 年度実績に対し 67 増の 31 億ドルとなるイニシアチブで100 万人の新たな科学技術分野の卒業生の輩出や10 万人の優れた STEM 分野の教員の育成などの取り組みを行っていることを述べたさらにホワイトハウスで実施されたサイエンスフェアに象徴されるようにオバマ大統領自身が力を注いでいるイニシアチブであることに加え連邦政府の政策に呼応する形で2020 年までに 100万人の STEM メントーを育成する計画など数多くの STEM プログラムが民間企業や慈善団体により実施されるようになっているとし官民協力が望ましい形で進展していることを報告した 引き続き Sharp AAAS 会長との対話形式により全米製造イニシアチブなどのイノベーション戦略STEM 教育エネルギーと環境オープンガバメント宇宙国際的な科学技術協力そして脳神経科学を含む生物医学研究など広範にわたって議論された幅広い科学技術に対する支援策を行う中で特に基礎研究に対する連邦政府投資を行うと同時に税制措置など民間の活力を引き出す環境を整える考えが示された 

 Matthew Hourihan AAAS 研究開発予算分析プログラム長から2014 年度大統領予算案の解説が

あった予算案の概略は以下のとおりである2014 年度予算案における連邦政府研究開発予算

の額は1428 億ドルであるこの額は比較対象となる 2012 年度予算実績額に比べ13(約19 億ドル)の増である(以下増減については2012 年度比)

連邦政府の基礎研究に対する支援額は 332 億ドル(45 増)応用研究に対する支援額は 350 億ドル(106 増)である

連邦政府の開発支出は715 億ドル(50 減)である

「大統領科学イノベーション計画(Presidentrsquos Plan for Science and Innovation)」 の 対 象 機 関

(NSFDOE 科学室NIST 研究室)の予算は 8増加しているしかしその額は競争力強化法

(2010 年アメリカ COMPETES 再授権法⑨ )に示された授権予算の額を下回っている

製造業のイニシアチブについては「米国を製造 業 の マ グ ネ ッ ト と す る(Makes America a Magnet for Manufacturing)」 の 名 称 でNSFDODDOE商務省などの関連予算により実施されるがその対象となる規模は87 増の 29億ドルである

クリーンエネルギーは2014 年度予算案において引き続き重点項目に含められている

米国地球変動研究プログラム(USGCRP ⑩ )の2014 年度予算案は約 27 億ドルで6 増となっている

生物医学研究における米国の主導的地位の確保

出典参考文献 5

連邦政府各省機関の研究予算の額の変遷(2014 年度は予算案)

3 科学技術予算の現状と今後の見通し

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緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 Arati Prabhakar DARPA 長官が現代世界の軍事政治状況の下での同庁の役割や方向性について述べた冷戦期の 1958 年に高等研究計画局(ARPA⑫ )として創設された同庁は現代世界の環境について1)米国に対する脅威が複雑化しまた変化し続けていること2)財政問題による経費面における要請が高まったこと3)技術が地球規模的に利用可能となったことの 3 点を挙げその状況に対する取り組みについて説明を行った同局は 29 億ドルという国防研究開発費の中では必ずしも大きくない予算規模で95 人のプログラムマネージャーが大きく関与し情報技術から脳神経科学まで多彩なプロジェクトを実施していることを報告したうえでDARPAがこのような優れた研究プロジェクト支援を行える基盤には米国の健全な研究開発のエコシステムがあることを述べた DARPA 以外の省機関もそれぞれのミッションに従い様々な研究プログラムを実施しておりその評価手順も異なっている「連邦政府研究開発支援における実験」のセッションにおいてはNIH農務省(USDA ⑬ )DOE の事例が報告された Kathy Hudson NIH 科学アウトリーチ政策担当次長は国立トレンスレーショナル科学前進センター(NCATS ⑭ )と BRAIN ⑮ イニシアチブを中心に報告を行ったNIH のミッションは基礎研究を実施することと基礎研究を人々の保健医療の向上に結び付けることの二つであるとしたうえでNCATS については NIH の研究者が発見した化合物の実用化や産業化における障壁の低減そして製品化への時間の短縮などの取り組みについて述べたまたBRAIN イニシアチブについて

 海外の事情については中国インド韓国そしてカナダの科学技術政策について報告があった

「2012 年度研究開発予算における予算的および政策的枠組み」の一部として設けられた「科学技術政策に関するアジアの視点米国との相違と共通性」のセッションにおいてはJeannette Wing マイクロソフト社副社長マイクロソフトリサーチ所長が中国とインドの動向について報告した中国の経済発展は1990 年代から始まるがまず人材を育成し次に 211985 などの番号を付した計画を通して基盤を整えそのうえで知識を生み出すための基礎研究と技術イノベーションへの投資が行われたという流れを紹介し今では上位の大学は米国の有力私立大学と並ぶものであるとしたしかし中国の高等教育機関は拡大したが中国の大学生にとって米国の大学を目指す意識に変化はなく中国人人材の米国への供給は続くとの見方を示したインドについて Wing 氏は各地に計 15 校設置されたインド

米国民の健康の改善そして未来のバイオエコノミーの構築のためNIH ⑪ の予算は 313 億ドル

(15 増)となっている高い技能を持つ人材育成のためSTEM の分野の

教育に 31 億ドル(67 増)の支出を行うこととしている

民間部門の投資を拡大させるため試験研究費税額控除の拡大簡素化恒久化を提案している

予算案は米国民に対する見返りが最大化する分野に資源を集中させそうでない分野において削減するとしておりその例として開発予算は 38億ドル削減されている

は研究資金配分成果に対する褒賞(プライズ)DARPA 型のプロジェクト運営を通した成果創出の迅速化研究活性化のためのマッチングさらにクラウドファンディングといったメカニズムについて紹介した Catherine Woteki USDA 主任科学者研究教育経済担当次官は予算削減が続く中での研究開発活動は省内の機関の研究と外部研究支援とのバランスを取りつつ行う必要があることなどを述べたうえで同省の 21 世紀のチャレンジとして食料の安全保障食品の安心人々の栄養と健康気候変動バイオエコノミー(バイオ燃料バイオプロダクト)を挙げたそして共同研究開発契約プログラム

(CRADA ⑯ program)のモデルによる研究成果の民間部門への移転に加え農業技術イノベーションパートナーシッププログラム(ATIP ⑰ Program)調整農業プロジェクト(CAP ⑱ )長期農業生態系研究ネットワーク(LTAR ⑲ Network)等の同省の特徴的なプログラムについて説明を行った Patricia M Dehmer エネルギー省科学室室長代理は簡単に同省の歴史や予算の枠組みに触れた後バイオエネルギー研究センター(BRCs ⑳ )エネルギーフロンティア研究センター(EFRC 21 )そしてエネルギーイノベーションハブ(Energy Innovation Hub)について報告した

4 多様なファンディングシステム

5 他国の科学技術政策に関する報告

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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護や改善を目的とした規制的政策が経済に与えるネガティブな影響について実際よりも拡大してあるいは経済面における利益との関係を考慮せずに論議される傾向があることを指摘した William A Pizer スタンフォード大学公共政策学部准教授は必ずしも相関が明らかではないにも関わらず特定の産業部門での雇用の悪化について規制が行われたことと関連付けて政策論議されまた他の産業における雇用効果について論じられない状況などを指摘した Cary Coglianese ペンシルバニア大学法学政治学教授は「何故政治は環境に関する規制は雇用を殺し研究者はそのようなことがないと言うのか」との表題により規制が競争力の低下をもたらす証拠はないにも関わらず人々がネガティブな影響があると考える背景について考察を加えた Richard Morgenstern 未来のための資源上級フェローは「環境に関する経済的分析の見通し」の表題により便益費用分析に基づくブッシュ政権とオバマ政権の政策決定における観点の相違について述べた

 フォーラムではedX や Coursera といった近年急激な展開を見せている大規模オンラインオープンコース(MOOC 23 )に関するセッションも設けられていた Anant Agarwal edX 会長マサチューセッツ工科大学電気工学コンピューター科学教授はedXは世界の人々がアクセスすることができる新たな教育機会であるとし154763 人の学生が登録し7157人が履修証明書の発行を受けるなどの数字を示したうえで学生が自発的に参加できるよう工夫された宿題や試験などその具体的なシステムについて説明を行った Wendy Newstetter ジョージア工科大学工学部教育研究イノベーション担当主任は教授法について伝統的な教室における教育実験など相互的な教育独立型の教育オンライン教育という区分を示しMOOC が独立型教育とオンライン教育の双方にまたがるものとしたうえで未だ教育学研究者の関心は薄く履修する学生のコンピテンス向上の観点から見るとその要件を満たしていない点が多いことを指摘した Kevin Werbach ペンシルバニア大学ウォートンスクール准教授はMOOC を通して実際に授業を行っ

 フォーラムの多くのセッションはいわゆる「科学のための政策」に関するものであったが科学的知見の(科学技術政策以外の)政策形成への反映すなわち「政策のための科学」に関するセッションも二つ設けられていた 「より良い政府のための科学的洞察」と題されたセッションは標題のとおり科学技術特に社会科学行動科学の知見をどのように政策形成の向上に活かすことができるかをテーマとしたものであった Case R Sunstein ハーバード大学ロースクール教授

(前大統領府情報規制室OIRA22 室長)は前職の OIRA における科学に基づく客観性独立性と大統領府経済諮問委員会とも協力した経済的価値の両面における活動について述べたうえで合理的な政策形成について受け手である一般の人々の認識の面も含め考えられるシステムについて具体的な例示を含めて説明した Arthur Lupia ミシガン大学社会研究所教授は異なるバックグラウンドを持つ人々における社会科学の価値について述べた「社会科学の価値は何であるか」ということと「資金配分を行うべき対象であるか」というふたつの疑問に関し信頼性(credibility)と正当性

(legitimacy)という二つの評価基準から説明を行ったそして講演の最後には最近の議会による NSF の社会科学研究への支出の禁止等の動きに対し社会科学研究が国家にもたらす価値の大きさについて語った 「環境に関する規制はどの程度経済を阻害するか」と題されたセッションはいずれの講演者も環境保

工科大学は今後も拡大する予定があるが博士人材等の点では遅れが見られる等の指摘を行った Jong-Guk Song 科学技術政策研究院(韓国)院長は「クリエイティブエコノミー」と名付けられた韓国の経済政策について報告した労働力供給の変化により今後経済成長の低下が見込まれる状況において他国に比べ韓国が劣っている起業を活発化させる等の政策的枠組みにいての内容であった Gary Goodyear カナダ科学技術担当国務大臣はカナダの科学技術活動の状況について研究開発投資と税制研究基盤宇宙部門物理学医療といった幅広い視点から報告したまた海外との関係について複数の世界的な水準の大学が世界中から人材を引き寄せていることや特に米国との間で緊密な科学技術協力が実施されていることを報告した

7 MOOC-大学の新たな教育モデル

6 科学的知見の政策形成への反映

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緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 2013 年 3 月になって確定した 2013 年度歳出予算においては研究開発予算においても 5 パーセン

ト程度の歳出削減対象となったものも多くアカデミックコミュニティーにとって予算面で希望の持てる状況にはないしかしながら本フォーラムでは必ずしも予算削減は大きなテーマとなっていなかったその背景には厳しい予算状況が既に現実のものとなったことまたそのような状況にありながらオバマ政権が科学技術に関し手厚い支援を行う意向を示していることがあると考えられるそして参加者の関心はむしろ厳しい財政状況において例えばどのようなファンディングシステムが研究成果を高めるかなど研究開発システム全体に向けられているように感じられた

略称① AAASAmerican Association for the Advancement of Science② STEMScience Technology Engineering and Mathematics③ DARPADefense Advanced Research Projects Agency④ OSTPOffice of Science and Technology Policy⑤ NSFNational Science Foundation⑥ DOEDepartment of Energy⑦ NISTNational Institute of Standards and Technology⑧ NASANational Aeronautics and Space Administration⑨アメリカ COMPETES再授権法America Creating Opportunities to Meaningfully Promote Excellence

in TechnologyEducation and Science Reauthorization Act of 2010 (America COMPETES Reauthorization Act of 2010)

⑩ USGCRPUS Global Change Research Program⑪ NIHNational Institutes of Health⑫ ARPAAdvanced Research Projects Agency⑬ USDADepartment of Agriculture⑭ NCATSNational Center for Advancing Translational Sciences⑮ BRAINBrain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies⑯ CRADACooperative Research and Development Agreement⑰ ATIPAgricultural Technology Innovation Partnership ⑱ CAPCoordinating Agriculture Projects⑲ LTARLong-Term Agroecosystem Research⑳ BRCsBioenergy Research Centers 21 EFRCEnergy Frontier Research Centers 22 OIRAOffice of Information and Regulatory Affairs23 MOOCsMassive open online courses

1) AAAS Forum on Science amp Technology Policy 2013 年 6 月 12 日httpwwwaaasorgspprdforum2) Office of Science and Technology Policy (OSTP) RampD Budgets 2013 年 6 月 12 日

httpwwwwhitehousegovadministrationeopostprdbudgets3) 2013 年度歳出予算法(Consolidated and Further Continuing Appropriations Act 2013) 2013 年 6 月 12 日

httpwwwgpogovfdsyspkgPLAW-113publ6htmlPLAW-113publ6htm

た教員の立場からこの取り組みが非常に興味深いものであり世界中の学生に対しこれまでなかった教育機会を提供するものであるとしたうえで研究を通した人材育成など MOOC では困難なことや費用教員の資質等の検討課題について言及した

8 おわりに

参考文献

コラム

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出典NISTEP REPORT No153 科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP 定点調査 2012)2013 年 4 月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacebitstream1103511931NISTEP-NR153-FullJpdf

遠藤 悟科学技術動向研究センター 客員研究官httphomepage1niftycombicycletoursci-indexhtm

研究対象は米国を中心とした科学政策2000年に「米国の科学政策」HPを開設し政策動向を発信している近年は科学と社会の関係や高等教育等にも対象を拡大している

4) 科学アカデミー創立 150 周年式典でのオバマ大統領の発言(Remarks by the President on the 150th Anniversary of the National Academy of Sciences) 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovthe-press-office20130429remarks-president-150th-anniversary-national-academy-sciences

5) The 2014 Budget A World-Leading Commitment to Science amp Research 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostp2014_RampDbudget_overviewpdf

NISTEP 定点調査からみる我が国の研究開発資金の状況科学技術学術政策研究所では第 4 期科学技術基本計画期間中の我が国における科学技術やイノベーションの状況変化を把握するため産学官の研究者や有識者への意識定点調査(NISTEP 定点調査)を2011 年度より実施しています以下の図は第 2 回となる 2012 年度の調査における研究費に関する意識調査の結果ですが科学技術に関する政府予算(Q2-16)や基盤的経費(Q1-18)については多くの機関の研究者が前年と同様「不充分との強い認識(雨マーク)」または「著しく不充分との認識(雷マーク)」を持っているようです特に国内論文シェアが 1〜5 の規模である第 2 グループの大学に所属する研究者は「著しく不充分との認識」を持っていることがわかります米国連邦政府の予算はその時々の政策や財政事情により上昇下降の変化が見られますが我が国の研究者にとって研究予算は低空飛行を続けているという印象のようです

執筆者プロフィール

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

概  要

科学研究の投資効果測定を目指す米国のSTAR METRICS事業の現状と今後の見通し

 国際競争力の確保や社会的課題解決のために科学技術によるイノベーションへの期待が高まる中公

 政府の科学投資が雇用知識創造健康などにどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するための情報基盤を整備する米国の事業(STAR METRICS)は科学投資の社会的なインパクト測定手法を幅広く開発することからオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の方向性に沿う形で連邦政府の競争的資金に関する省庁横断的なデータ基盤整備を図る方向に事業目標を修正している事業の第一段階では人事データに限って連邦政府の科学研究投資の労働誘発効果を検証するためにデータを蓄積可視化するシステムが構築された現在の第二段階では引き続き国立衛生研究所(NIH)がホスト機関となりインプットとアウトプットのデータに重点を置いてデータ蓄積と分析システムを開発中であるSTAR METRICSは参加機関の財務情報や研究活動の経営分析ベンチマーキングや連邦政府機関のファンディング業務での利用など現場の実情を踏まえた政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積を進めるとみられる

キーワード政策のための科学研究評価公的研究開発投資オープンガバメントIR(Institutional Research)

白川 展之 上席研究官

的研究開発投資がどのような成果を産みまた今後産み出す可能性を持つかを科学的根拠に基づき評価し政策過程に反映する社会的要請が各国で高まっている日本でも文部科学省では 2011 年度から「科学技術イノベーション政策における『政策のため

表 1 事業開始までの経緯

科学技術動向研究

出典文部科学省作成資料(参考文献 3)およびAPDU News Letter(参考文献 4)をもとに科学技術動向研究センターにて作成

1 はじめに

STT136_レポート2(web用に修正)indd 11STT136_レポート2(web用に修正)indd 11 130712 1557130712 1557

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STAR METRICS とは2-1

 STAR METRICS とはldquoScience and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effect of Research on Innovation Competitiveness and Sciencerdquoの頭字であり連邦政府による科学への投資が雇用知識創造保健などにどのような影響効果(インパクト)を及ぼしたかを測定するデータ基盤および分析ツール等の整備構築を図る事業である連邦政府大学その他機関の連携のもとに実施することから「省庁横断的なベンチャー的事業」とも表現されている

根拠法令等2-2

 本事業開始当初の目的は米国再生再投資法(ARRA①)において同法に基づく科学投資の支出景気刺激効果について納税者に対する説明責任を果たすためと説明されていたこれに加えて2009 年 1 月 21 日付けのオ-プンガバメントに関する大統領覚書(Presidential Memorandum on Transparency and Open Government)と2009年 12 月 8 日付けの行政管理予算局覚書(Office of Management and Budget Memorandum)にも事業実施の根拠を求めているこの前者のオ-プンガバメントに関する大統領覚書は省庁がオンライン上で情報を取得ダウンロード検索されうる一般的

事業の参加機関数とデータ収集の範囲3-1

 連邦政府では大統領行政府科学技術政策局(OSTP③)国立科学財団(NSF④)国立保健研究所(NIH⑤ )が STAR METRICS のリード機関となったこれに大学で研究開発に関わる職員(研究者管理者等)と省庁が連携して研究開発推進の効率化調整を図るイニシアティブである FDP⑥と一部の高等教育機関がパートナーとなり2010 年1 月にパイロット事業を開始したパイロット事業では 2011 年 7 月まで方法論の開発実証継続的改善に取り組むとともに競争的研究資金のファンディングを行う政府機関や高等教育機関に対しプロジェクトへの参加を呼びかけるアウトリーチ普及活動にも積極的に取り組んだNSF の科学政策のための科学の研究助成事業(SciSIP⑦)の初代プログラムディレクターを務めこの事業の立ち上げにも尽力した Julia Lane 氏は安全保障上の機密の存在から情報公開が難しい国防総省(DOD⑧)に対してもプロジェクト参加の提案を行うなど省庁学協会等に対し働きかけた こうした省庁横断的な事業普及の取り組みは一定の成果を見せFDP の他に全米の有力な研究型大学の団体である全米大学協会(AAU⑨)と公立ランドグラント大学協会(APLU⑩)からの協力もあり参画研究機関大学は 2010 年 10 月の正式な事業発足の段階で 86 機関となった連邦政府機関では環境保護庁(EPA⑪)農務省(USDA⑫)エネルギー省(DOE⑬)を加えた合計 6 機関が参加協力を得たこの結果これら参加協力機関のすべてのデータが得られた場合金額ベースで NIH の研究助成額の 3 分の 1参加協力機関の合計では金額ベースで連邦政府全体の科学研究助成半分以上をカバーするデータ収集を狙える体制となった

の科学』推進事業」を実施している米国では 2005年にマーバーガー前科学担当大統領補佐官が「科学政策の科学化」を目指しデータモデルとコミュニティ開発を図る「科学政策のための科学」を提唱して以来各国に先駆けて省庁間連携や公募型研究開発プログラムや情報基盤の整備を推進してきた 本稿では米国政府による科学への投資がどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するため開始された事業(STAR METRICS)についてこれまでの事業展開や今後の見通しを紹介する

なデータ形式で公開する旨を定めたものであるまた後者の行政管理予算局覚書では情報自由法

(FOIR②)の義務付け範囲を超えて有益な情報を積極的に普及させるために先進的な技術を各省庁が利用するよう推奨している

2 事業概要

3 事業の進捗推移

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

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表 2 STAR METRICS の計画目標の推移

事業推進体制の変更強化3-2

 2011 年 10 月に NIH がホスト機関となり2012年 1 月には本事業の新たな段階への移行を見据えて執行体制を刷新したエクゼクティブコミッティーと機関横断ワーキンググループの 2 層の省庁機関間の連携組織のもとホスト機関の NIH の責任者がNIH(2 名)および NSF(1 名)のプログラムマネージャーを統括する事業推進体制としたデータシステム整備等の実務的な作業は技術プロジェクトマネージャー(プログラムマネージャーと兼任)がさらにその下に置かれシステム開発を行う業務委託先のベンダーとのプロジェクト進行管理を行っている 事業の実質的な進展を図るこうした体制変更はNIH の連邦政府における科学投資の予算額のシェアの大きさとその組織能力ノウハウを反映した結果とみられるNIH は米国再生再投資法

(ARRA)における科学研究投資額が最も多かった何よりNIH には根拠に基づく医療(EBM⑭)に不可欠の情報基盤となっている学術文献データベース PubMed を実質的に運営注 1)するなどライフイノベーション関連の各種データベースを学術文献のオープンアクセス化といった学術情報流通政策とともに強力に牽引実施してきた実績がある ただしNIH の担当部署ではSTAR METRICS

の情報システムの開発は付随的業務の位置付けで実施しているしかし事業のシステム開発調整には相当の人役エフォートが必要で実質的にはフルタイムの人員が複数張り付く状態だという

事業目標の変更修正3-3

 STAR METRICS で は 大 変 な 試 行 錯 誤 の 末に 2012 年 4 月に事業目標が修正された当初はフェーズ 1 とフェーズ 2 という 2 段階の計画がレベル 1 とレベル 2 という 2 段階に分けてデータ基盤とツールの整備を行う計画に変更されている(表 2)連邦政府による科学投資の社会的インパクト測定手法の開発という政策科学として挑戦的な目標を掲げた当初の事業目標から先進的技術を活用した政府情報の公開のためのデータフローを蓄積分析する科学技術学術情報関連の実用的な基盤整備事業へと現実的な方向に軌道修正を図ったとみられる この結果科学政策の透明性を確保するための情報基盤の構築データ蓄積を図るという変更後の事業目標設定はオープンデータオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の下で一定の位置付けを得る整理になっている

注1 NIH に国立医学図書館(NLM⑮)の一部門の国立生物工学情報センター(NCBI⑯)が置かれPubMed が運営されている

出典所期の事業計画の表現については(参考文献 5)から修正された目標については(参考文献 1)をもとに科学技術動向センターにて作成

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 レベル 1 のデータ整備では現場の過度の事務負担を避けるために整理正規化を行うデータは競争的資金の種目被雇用者の種別(研究員研究補助者等の区分)業務従事割合(フルタイム換算データ)や間接経費込みの人件費総額など人事関連の 14 項目に限定された参加研究機関はデータポリシーに従ったフォーマットで 4 半期毎にデータを提出するとデータの質の確認処理の後レポートが返される仕組みである 以下の図 1 及び図 2 にはこれまでの事業の成果例を示す 図 1 は開発されたシステムと収集されたデータによる連邦レベルでの成果例であるここではレベル 1 の事業に参画した機関数について州別に可視化されている図 2 は参加機関地域レベルの成果例である図 2 ではインディアナ州の参加機関である Purdue 大学と Indiana 大学に関する 2011財政年度における連邦科学投資による雇用誘発効果に関する情報について可視化した例である

図 1 レベル 1 の成果例(1)STAR METRICS に参加している州別機関数

図 2 レベル 1 の成果例(2)インディアナ州における連邦科学投資のもたらす雇用誘発効果大学キャンパス別の被雇用数の可視化

出典参考文献 1 出典参考文献 2

 現在実施中のレベル 2 の目標は連邦政府所管のファンディングエージェンシーの科学研究助成に関して幅広い範囲のインプットおよびアウトプットに焦点を置いたデータを連邦政府機関とその他の利害関係者に対し提供することである機関レベルの

合意のもとNIH がEPANIHNSFUSDA のデータを収集し他の参画 3 機関はデータベース構築に際して概念実証に必要な協力を行う現在技術的実装計画を策定しパイロット版のシステムを開発中であり構築テスト修正が繰り返されている データ整備はアウトカムよりも予算配分とアウトプットのリンクに重点が置かれているこれまでのところ2012 年財政年度を中心として参加協力 6 機関の 7 万 6 千件の助成プロジェクトがウェブベースで開発したデータシステムに入力され財政年度助成機関州群等の位置等のデータ項目やプロジェクトの概要結果等が検索可能になっている技術的課題としてはデータ整備上はテキスト検索下院選挙区別検索機関プロジェクト等詳細情報との接続などが挙げられている特に政策形成過程での実際的な利用を想定して下院選挙区別検索のためのデータの付加が重要な取り組み事項とされている システム運用では機関の実情と個人情報の保護に配慮しつつ政府の科学投資の透明性を高める方針である研究者個人の給与など個人情報や人事業績評価とも直結するデータが蓄積されていることから機微に触れる情報と公開すべき情報を層別し連邦政府機関関係者のみにアクセス制限を設けるなどの運用を考えているという一方参加機関大学の側では大学運営上の評価意思決定計画策定支援を行う情報分析である IR⑰と事務システムの合理化の観点から開発を進めている財務情報や研究活動のベンチマーキングを行う測定評価手法やそのレポートの様式を共同で開発するほかオープンソースのソフトウェアを用いた大学間でのソースコードの共用化などが検討されている こうした状況からSTAR METRICS の今後は

4 これまで(レベル 1)の事業成果

5 今後(レベル 2)の状況見通し

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

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図 3 成果実装イメージ例外部研究資金による下院選挙区別雇用誘発効果(Purdue 大学および Indiana 大学)

出典参考文献 2

1) Update on the State of STAR METRICS George ChackohttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811642) STAR Metrics Data Consistency Marietta HarrisonhttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811643) 科学技術学術審議会総会(第 36 回)平成 23 年 5 月 31 日資料 1「科学技術イノベーション政策のための「政策のため

の科学」の推進について」httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu0shiryo__icsFilesafieldfile201107011307169_01pdf

4) Science and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effects of Research on Innovation Competitiveness and Science (STAR METRICS) George Chacko etal Association of Public Data Users NewsletterhttpwwwamstatorgmiscNewsletterArticleSTAR_METRICShtm

5) 遠藤悟ホームページ「米国の科学政策」STAR METRICShttphomepage1niftycombicycletoursci-ronstar_metricshtm

幅広い国民利害関係者への説明責任を果たすための科学投資の社会経済的効果の測定の方法論開発を長期的視野に入れつつも連邦政府機関がファンディング業務の際に利用できる現場の実情を踏まえた実用的な政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積が進むものとみられる

謝辞 この種の政策効果(インパクト)を測定する困難性試行錯誤は世界共通である公開資料ではわかりにくい点も多い本稿の執筆に際し関係者のコメントやそのニュアンスも含め有用な情報提供助言をいただいた(独)新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)ワシントン事務所新川達也前所長(現経済産業省資源エネルギー庁電力ガス事業部原子力発電所事故収束対応室長)前野武史副所長に御礼申し上げる

略称① ARRAAmerican Recovery and Reinvestment Act of 2009② FOIRFreedom of Information Act③ OSTPWhite House Office of Science and Technology Policy④ NSFNational Science Foundation⑤ NIHNational Institute of Health⑥ FDPFederal Demonstration Partnership⑦ SciSIPScience of Science amp Innovation Policy program⑧ DODUnited States Department of Defense⑨ AAUthe Association of American Universities⑩ APLUthe Association of Public and Land Grant Universities⑪ EPAEnvironmental protection Agency⑫ USDAUnited States Department of Agriculture⑬ DOEUnited States Department of Energy⑭ EBMEvidence-based medicine⑮ NLMNational Library of Medicine⑯ NCBINational Center for Biotechnology Information⑰ IRInstitutional Research

参考文献

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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6) Contact Kevin Boatright Office of Research amp Graduate Studies 785-864-7240 Associate vice chancellor accepts visiting assignment with the National Science Foundation May 21 2012httparchivenewskuedu2012may21rosenbloomshtml

7) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Presidential Memorandum on Transparency and Open Government (Jan 21 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_fy2009m09-12pdf

8) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Open Government Directive(Dec 8 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-08pdf

9) RESEARCH INSTITUTION PARTICIPATION GUIDE in STAR METRICS websitehttpswwwstarmetricsnihgovStarParticipatecalculatingjobs

10) Science and Technology Priorities for the FY 2012 Budget(July 21 2010)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-30pdf

白川 展之科学技術情報分析ユニット 上席研究官httpwwwnistepgojp

広島県職員を経て研究者に2008年 9月より現職科学技術予測などに従事専門はイノベーション政策公共経営評価農業から保健医療など幅広い分野の技術マネジメント産学連携の経験から科学技術にとどまらない幅広いイノベーションを研究

執筆者プロフィール

コラム

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

イノベーション政策のデータ基盤に関する日本での議論 科学技術学術政策研究所では文部科学省の科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環としてエビデンスに基づく科学技術イノベーション政策の基礎となる体系的なデータ情報基盤の構築を進めている多くの専門家が指摘している重要課題はミクロデータの利用複数データベースの接続の 2 点であるつまり各種政策の効果の分析や大学等における研究開発の構造的な分析には従来の集計データのみでは不十分でありミクロデータ利用のニーズが非常に大きいまた複数のデータベースを用いた横断的な分析の必要性からデータベースの接続に大きな関心が寄せられているさらにデータ情報基盤構築が政策評価に役立つ意義とともにデータ情報基盤の構築に際して研究者と政策担当者の相互交流と国際的な交流が不可欠との指摘が出されている

出典NISTEP NOTE(政策のための科学)No3「科学技術イノベーション政策のための科学」におけるデータ情報基盤

構築の推進に関する検討2012 年 11 月科学技術政策研究所 科学技術基盤調査研究室

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

 世界各国の政府は情報やデータの開示およびオープン化を進めており実際に各国でデータガバメント「datagov」が稼働し始めた日本でも日本再興戦略1)の一環として2013 年度末までには日本版 datagov を試行的に立ち上げ2014 年度初めから本格稼働を予定しているしかしdatagov の背景や本質を理解した上で事業を進めなければ決して有用なものとはならないそれには「ガバメント 20」というキーワードが参考になる ガバメント 20 とは(米)オライリーメディア社の創設者 Tim OrsquoReilly 氏が 2009 年に提唱した概念であり彼の主張は「政府はプラットホーム化しなければならない」ということである2)情報通信分野で決定的な勝者になったのはプラットホーム企業である例えばMicrosoft 社は会社や家庭にパソコンを普及させGoogle 社は広告収入で運営され

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

キーワードマシンリーダブル公共データオープンデータデータツールデータシティ鯖江

市口 恒雄 特別研究員

る膨大なスタートアップ企業群を生み出しApple社はアプリ開発の企業を生み出して携帯電話の価値を高めたこれらの企業は「第三者に新たな挑戦の場を与える」ことにより成功したつまり政府のプラットホーム化とは「IT 技術によって国民や市民そして行政に新たな挑戦の場を与えること」である ガバメント 20 は電子政府のことかと言えば決してそうではない単なる IT 化では国民や市民に新たな挑戦の場を与えることはできないからであるそれではガバメント 20 とは具体的にどのようなことであり我々はどの様にそれを実現すれば良いのであろうか 実現のための 1 つの方向性は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく市民が積極的に利用できる webサービスを提供しなければならない米国オバマ大統領は2009 年の就任時にオープンガバメントに対して「透明性」(transparent)「国民参加」

(participatory)「協業」(collaborative)という 3

科学技術動向研究

概  要

1 はじめに―ガバメント 20実現への 2 つ方向性

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

原則を示した3)この様な背景から生まれたのがdatagav でありガバメント 20 の 1 つの形態であるデータは加工可能な形で提供されるので国民はそのデータを使って新たなサービスや事業を始めることができる もう 1 つの方向性は市民から行政への情報提供とその情報や問題の市民間の共有である国民や市民の意見を聞くというだけではガバメント 20 ではない行政は市民からの情報に即応し即応できない場合には市民と情報を共有し場合によってはボランティアに対応を任せることも重要であるボランティアによる「Do It Ourselves 型」の公共事業または公共社会へと発展し市民と地方行政はより密接に連携することになる世界中の多くの市町村は「シークリックフィックス(SeeClickFix)」4)というアプリを利用して市民参加を促した上で行政サービスを向上させているこのような Do It Ourselves 型の公共政府もローカルガバメント 20 の 1 つの側面と言える

 世界各国の政府は政府が持つ情報やデータの開示およびオープン化を進めつつある具体的にはdatagov(米国)datagovuk(英国)datagovsg (シンガポール)datagovau(オーストラリア)である特に進んでいるのが図表 1 に示す米国の datagov5)で2013 年 4 月末時点で171 の行政機関が参加し373029 のデータセットと1209 のデータツールを提供しているまた312 のアプリと 137のモバイルアプリも提供している(7 月 2 日時点では75714 のデータセット137 のモバイルアプリと 349 の投稿アプリ295 の政府 API を提供している) 英 国 の datagovuk は2013 年 7 月 2 日 時 点 で9596 のデータセットが公開され投稿されたアプリも含め多数のアプリが提供されている天気情報や交通(事故)情報を取得するアプリが人気が高いシンガポールの datagovsg はキーワードを入力してデータセットを探す仕組みになっており最も良くダウンロードされているのは税収や予算関連のものであるオーストラリアの datagovau は114 の行政機関が参加し1126 のデータセットと 20 のアプリが提供されている

 データセットは加工や分析が可能なマシンリ ー ダ ブ ル な フ ォ ー マ ッ ト(CSV XLS XML RSS RDF など)で提供され利用者がデータセットを取得加工分析できるアプリも同時に提供されるまたAPI(Application Programming Interface)も公開されておりAPI を利用したデータの自動取得も可能であるもしAPI が公開されていなければ政府データを使った新たなサービスやビジネスを創造することは困難でありデータガバメントに利用できる様々なアプリすら開発できない単に政府データを公開するのではなく利用者が加工分析しやすい形でデータを提供することがデータガバメントにとって重要である 政府データを上手く利用している 1 つの実例は

(米)Wolfram Research 社がサービス提供している WolframbrvbarAlpha であろう6)「世界の知識を計算可能にする」ことを謳ったこのサービスは政府データを取り込み利用者が入力した様々な質問に答えてくれる例えば「米国で人口が多い都市は」とか「小麦の生産量は」などの質問にその答えを返すだけでなく関連する情報も提示してくれるこれは政府データがマシンリーダブルであるからできることである

 日本でもオープンガバメント化の流れは避けられず首相官邸の高度情報通信ネットワーク社会推

図表 1 米国の datagov

出典参考文献 5

日本の状況2-2

2 公共データのオープン化

世界各国のデータガバメント2-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

20

進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

21

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

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 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

30

金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

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主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

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米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
  • 科学技術7月号レポート5
  • 科学技術7月号研究成果公表
      1. メニューへ戻る メニューへ戻る
Page 6: レポート・トピックス タイトルをクリックすると 各項目に ... · 2017. 1. 18. · ―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

6

が 2012 年度実績に対し 67 増の 31 億ドルとなるイニシアチブで100 万人の新たな科学技術分野の卒業生の輩出や10 万人の優れた STEM 分野の教員の育成などの取り組みを行っていることを述べたさらにホワイトハウスで実施されたサイエンスフェアに象徴されるようにオバマ大統領自身が力を注いでいるイニシアチブであることに加え連邦政府の政策に呼応する形で2020 年までに 100万人の STEM メントーを育成する計画など数多くの STEM プログラムが民間企業や慈善団体により実施されるようになっているとし官民協力が望ましい形で進展していることを報告した 引き続き Sharp AAAS 会長との対話形式により全米製造イニシアチブなどのイノベーション戦略STEM 教育エネルギーと環境オープンガバメント宇宙国際的な科学技術協力そして脳神経科学を含む生物医学研究など広範にわたって議論された幅広い科学技術に対する支援策を行う中で特に基礎研究に対する連邦政府投資を行うと同時に税制措置など民間の活力を引き出す環境を整える考えが示された 

 Matthew Hourihan AAAS 研究開発予算分析プログラム長から2014 年度大統領予算案の解説が

あった予算案の概略は以下のとおりである2014 年度予算案における連邦政府研究開発予算

の額は1428 億ドルであるこの額は比較対象となる 2012 年度予算実績額に比べ13(約19 億ドル)の増である(以下増減については2012 年度比)

連邦政府の基礎研究に対する支援額は 332 億ドル(45 増)応用研究に対する支援額は 350 億ドル(106 増)である

連邦政府の開発支出は715 億ドル(50 減)である

「大統領科学イノベーション計画(Presidentrsquos Plan for Science and Innovation)」 の 対 象 機 関

(NSFDOE 科学室NIST 研究室)の予算は 8増加しているしかしその額は競争力強化法

(2010 年アメリカ COMPETES 再授権法⑨ )に示された授権予算の額を下回っている

製造業のイニシアチブについては「米国を製造 業 の マ グ ネ ッ ト と す る(Makes America a Magnet for Manufacturing)」 の 名 称 でNSFDODDOE商務省などの関連予算により実施されるがその対象となる規模は87 増の 29億ドルである

クリーンエネルギーは2014 年度予算案において引き続き重点項目に含められている

米国地球変動研究プログラム(USGCRP ⑩ )の2014 年度予算案は約 27 億ドルで6 増となっている

生物医学研究における米国の主導的地位の確保

出典参考文献 5

連邦政府各省機関の研究予算の額の変遷(2014 年度は予算案)

3 科学技術予算の現状と今後の見通し

7

緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 Arati Prabhakar DARPA 長官が現代世界の軍事政治状況の下での同庁の役割や方向性について述べた冷戦期の 1958 年に高等研究計画局(ARPA⑫ )として創設された同庁は現代世界の環境について1)米国に対する脅威が複雑化しまた変化し続けていること2)財政問題による経費面における要請が高まったこと3)技術が地球規模的に利用可能となったことの 3 点を挙げその状況に対する取り組みについて説明を行った同局は 29 億ドルという国防研究開発費の中では必ずしも大きくない予算規模で95 人のプログラムマネージャーが大きく関与し情報技術から脳神経科学まで多彩なプロジェクトを実施していることを報告したうえでDARPAがこのような優れた研究プロジェクト支援を行える基盤には米国の健全な研究開発のエコシステムがあることを述べた DARPA 以外の省機関もそれぞれのミッションに従い様々な研究プログラムを実施しておりその評価手順も異なっている「連邦政府研究開発支援における実験」のセッションにおいてはNIH農務省(USDA ⑬ )DOE の事例が報告された Kathy Hudson NIH 科学アウトリーチ政策担当次長は国立トレンスレーショナル科学前進センター(NCATS ⑭ )と BRAIN ⑮ イニシアチブを中心に報告を行ったNIH のミッションは基礎研究を実施することと基礎研究を人々の保健医療の向上に結び付けることの二つであるとしたうえでNCATS については NIH の研究者が発見した化合物の実用化や産業化における障壁の低減そして製品化への時間の短縮などの取り組みについて述べたまたBRAIN イニシアチブについて

 海外の事情については中国インド韓国そしてカナダの科学技術政策について報告があった

「2012 年度研究開発予算における予算的および政策的枠組み」の一部として設けられた「科学技術政策に関するアジアの視点米国との相違と共通性」のセッションにおいてはJeannette Wing マイクロソフト社副社長マイクロソフトリサーチ所長が中国とインドの動向について報告した中国の経済発展は1990 年代から始まるがまず人材を育成し次に 211985 などの番号を付した計画を通して基盤を整えそのうえで知識を生み出すための基礎研究と技術イノベーションへの投資が行われたという流れを紹介し今では上位の大学は米国の有力私立大学と並ぶものであるとしたしかし中国の高等教育機関は拡大したが中国の大学生にとって米国の大学を目指す意識に変化はなく中国人人材の米国への供給は続くとの見方を示したインドについて Wing 氏は各地に計 15 校設置されたインド

米国民の健康の改善そして未来のバイオエコノミーの構築のためNIH ⑪ の予算は 313 億ドル

(15 増)となっている高い技能を持つ人材育成のためSTEM の分野の

教育に 31 億ドル(67 増)の支出を行うこととしている

民間部門の投資を拡大させるため試験研究費税額控除の拡大簡素化恒久化を提案している

予算案は米国民に対する見返りが最大化する分野に資源を集中させそうでない分野において削減するとしておりその例として開発予算は 38億ドル削減されている

は研究資金配分成果に対する褒賞(プライズ)DARPA 型のプロジェクト運営を通した成果創出の迅速化研究活性化のためのマッチングさらにクラウドファンディングといったメカニズムについて紹介した Catherine Woteki USDA 主任科学者研究教育経済担当次官は予算削減が続く中での研究開発活動は省内の機関の研究と外部研究支援とのバランスを取りつつ行う必要があることなどを述べたうえで同省の 21 世紀のチャレンジとして食料の安全保障食品の安心人々の栄養と健康気候変動バイオエコノミー(バイオ燃料バイオプロダクト)を挙げたそして共同研究開発契約プログラム

(CRADA ⑯ program)のモデルによる研究成果の民間部門への移転に加え農業技術イノベーションパートナーシッププログラム(ATIP ⑰ Program)調整農業プロジェクト(CAP ⑱ )長期農業生態系研究ネットワーク(LTAR ⑲ Network)等の同省の特徴的なプログラムについて説明を行った Patricia M Dehmer エネルギー省科学室室長代理は簡単に同省の歴史や予算の枠組みに触れた後バイオエネルギー研究センター(BRCs ⑳ )エネルギーフロンティア研究センター(EFRC 21 )そしてエネルギーイノベーションハブ(Energy Innovation Hub)について報告した

4 多様なファンディングシステム

5 他国の科学技術政策に関する報告

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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護や改善を目的とした規制的政策が経済に与えるネガティブな影響について実際よりも拡大してあるいは経済面における利益との関係を考慮せずに論議される傾向があることを指摘した William A Pizer スタンフォード大学公共政策学部准教授は必ずしも相関が明らかではないにも関わらず特定の産業部門での雇用の悪化について規制が行われたことと関連付けて政策論議されまた他の産業における雇用効果について論じられない状況などを指摘した Cary Coglianese ペンシルバニア大学法学政治学教授は「何故政治は環境に関する規制は雇用を殺し研究者はそのようなことがないと言うのか」との表題により規制が競争力の低下をもたらす証拠はないにも関わらず人々がネガティブな影響があると考える背景について考察を加えた Richard Morgenstern 未来のための資源上級フェローは「環境に関する経済的分析の見通し」の表題により便益費用分析に基づくブッシュ政権とオバマ政権の政策決定における観点の相違について述べた

 フォーラムではedX や Coursera といった近年急激な展開を見せている大規模オンラインオープンコース(MOOC 23 )に関するセッションも設けられていた Anant Agarwal edX 会長マサチューセッツ工科大学電気工学コンピューター科学教授はedXは世界の人々がアクセスすることができる新たな教育機会であるとし154763 人の学生が登録し7157人が履修証明書の発行を受けるなどの数字を示したうえで学生が自発的に参加できるよう工夫された宿題や試験などその具体的なシステムについて説明を行った Wendy Newstetter ジョージア工科大学工学部教育研究イノベーション担当主任は教授法について伝統的な教室における教育実験など相互的な教育独立型の教育オンライン教育という区分を示しMOOC が独立型教育とオンライン教育の双方にまたがるものとしたうえで未だ教育学研究者の関心は薄く履修する学生のコンピテンス向上の観点から見るとその要件を満たしていない点が多いことを指摘した Kevin Werbach ペンシルバニア大学ウォートンスクール准教授はMOOC を通して実際に授業を行っ

 フォーラムの多くのセッションはいわゆる「科学のための政策」に関するものであったが科学的知見の(科学技術政策以外の)政策形成への反映すなわち「政策のための科学」に関するセッションも二つ設けられていた 「より良い政府のための科学的洞察」と題されたセッションは標題のとおり科学技術特に社会科学行動科学の知見をどのように政策形成の向上に活かすことができるかをテーマとしたものであった Case R Sunstein ハーバード大学ロースクール教授

(前大統領府情報規制室OIRA22 室長)は前職の OIRA における科学に基づく客観性独立性と大統領府経済諮問委員会とも協力した経済的価値の両面における活動について述べたうえで合理的な政策形成について受け手である一般の人々の認識の面も含め考えられるシステムについて具体的な例示を含めて説明した Arthur Lupia ミシガン大学社会研究所教授は異なるバックグラウンドを持つ人々における社会科学の価値について述べた「社会科学の価値は何であるか」ということと「資金配分を行うべき対象であるか」というふたつの疑問に関し信頼性(credibility)と正当性

(legitimacy)という二つの評価基準から説明を行ったそして講演の最後には最近の議会による NSF の社会科学研究への支出の禁止等の動きに対し社会科学研究が国家にもたらす価値の大きさについて語った 「環境に関する規制はどの程度経済を阻害するか」と題されたセッションはいずれの講演者も環境保

工科大学は今後も拡大する予定があるが博士人材等の点では遅れが見られる等の指摘を行った Jong-Guk Song 科学技術政策研究院(韓国)院長は「クリエイティブエコノミー」と名付けられた韓国の経済政策について報告した労働力供給の変化により今後経済成長の低下が見込まれる状況において他国に比べ韓国が劣っている起業を活発化させる等の政策的枠組みにいての内容であった Gary Goodyear カナダ科学技術担当国務大臣はカナダの科学技術活動の状況について研究開発投資と税制研究基盤宇宙部門物理学医療といった幅広い視点から報告したまた海外との関係について複数の世界的な水準の大学が世界中から人材を引き寄せていることや特に米国との間で緊密な科学技術協力が実施されていることを報告した

7 MOOC-大学の新たな教育モデル

6 科学的知見の政策形成への反映

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緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

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 2013 年 3 月になって確定した 2013 年度歳出予算においては研究開発予算においても 5 パーセン

ト程度の歳出削減対象となったものも多くアカデミックコミュニティーにとって予算面で希望の持てる状況にはないしかしながら本フォーラムでは必ずしも予算削減は大きなテーマとなっていなかったその背景には厳しい予算状況が既に現実のものとなったことまたそのような状況にありながらオバマ政権が科学技術に関し手厚い支援を行う意向を示していることがあると考えられるそして参加者の関心はむしろ厳しい財政状況において例えばどのようなファンディングシステムが研究成果を高めるかなど研究開発システム全体に向けられているように感じられた

略称① AAASAmerican Association for the Advancement of Science② STEMScience Technology Engineering and Mathematics③ DARPADefense Advanced Research Projects Agency④ OSTPOffice of Science and Technology Policy⑤ NSFNational Science Foundation⑥ DOEDepartment of Energy⑦ NISTNational Institute of Standards and Technology⑧ NASANational Aeronautics and Space Administration⑨アメリカ COMPETES再授権法America Creating Opportunities to Meaningfully Promote Excellence

in TechnologyEducation and Science Reauthorization Act of 2010 (America COMPETES Reauthorization Act of 2010)

⑩ USGCRPUS Global Change Research Program⑪ NIHNational Institutes of Health⑫ ARPAAdvanced Research Projects Agency⑬ USDADepartment of Agriculture⑭ NCATSNational Center for Advancing Translational Sciences⑮ BRAINBrain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies⑯ CRADACooperative Research and Development Agreement⑰ ATIPAgricultural Technology Innovation Partnership ⑱ CAPCoordinating Agriculture Projects⑲ LTARLong-Term Agroecosystem Research⑳ BRCsBioenergy Research Centers 21 EFRCEnergy Frontier Research Centers 22 OIRAOffice of Information and Regulatory Affairs23 MOOCsMassive open online courses

1) AAAS Forum on Science amp Technology Policy 2013 年 6 月 12 日httpwwwaaasorgspprdforum2) Office of Science and Technology Policy (OSTP) RampD Budgets 2013 年 6 月 12 日

httpwwwwhitehousegovadministrationeopostprdbudgets3) 2013 年度歳出予算法(Consolidated and Further Continuing Appropriations Act 2013) 2013 年 6 月 12 日

httpwwwgpogovfdsyspkgPLAW-113publ6htmlPLAW-113publ6htm

た教員の立場からこの取り組みが非常に興味深いものであり世界中の学生に対しこれまでなかった教育機会を提供するものであるとしたうえで研究を通した人材育成など MOOC では困難なことや費用教員の資質等の検討課題について言及した

8 おわりに

参考文献

コラム

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出典NISTEP REPORT No153 科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP 定点調査 2012)2013 年 4 月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacebitstream1103511931NISTEP-NR153-FullJpdf

遠藤 悟科学技術動向研究センター 客員研究官httphomepage1niftycombicycletoursci-indexhtm

研究対象は米国を中心とした科学政策2000年に「米国の科学政策」HPを開設し政策動向を発信している近年は科学と社会の関係や高等教育等にも対象を拡大している

4) 科学アカデミー創立 150 周年式典でのオバマ大統領の発言(Remarks by the President on the 150th Anniversary of the National Academy of Sciences) 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovthe-press-office20130429remarks-president-150th-anniversary-national-academy-sciences

5) The 2014 Budget A World-Leading Commitment to Science amp Research 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostp2014_RampDbudget_overviewpdf

NISTEP 定点調査からみる我が国の研究開発資金の状況科学技術学術政策研究所では第 4 期科学技術基本計画期間中の我が国における科学技術やイノベーションの状況変化を把握するため産学官の研究者や有識者への意識定点調査(NISTEP 定点調査)を2011 年度より実施しています以下の図は第 2 回となる 2012 年度の調査における研究費に関する意識調査の結果ですが科学技術に関する政府予算(Q2-16)や基盤的経費(Q1-18)については多くの機関の研究者が前年と同様「不充分との強い認識(雨マーク)」または「著しく不充分との認識(雷マーク)」を持っているようです特に国内論文シェアが 1〜5 の規模である第 2 グループの大学に所属する研究者は「著しく不充分との認識」を持っていることがわかります米国連邦政府の予算はその時々の政策や財政事情により上昇下降の変化が見られますが我が国の研究者にとって研究予算は低空飛行を続けているという印象のようです

執筆者プロフィール

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

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概  要

科学研究の投資効果測定を目指す米国のSTAR METRICS事業の現状と今後の見通し

 国際競争力の確保や社会的課題解決のために科学技術によるイノベーションへの期待が高まる中公

 政府の科学投資が雇用知識創造健康などにどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するための情報基盤を整備する米国の事業(STAR METRICS)は科学投資の社会的なインパクト測定手法を幅広く開発することからオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の方向性に沿う形で連邦政府の競争的資金に関する省庁横断的なデータ基盤整備を図る方向に事業目標を修正している事業の第一段階では人事データに限って連邦政府の科学研究投資の労働誘発効果を検証するためにデータを蓄積可視化するシステムが構築された現在の第二段階では引き続き国立衛生研究所(NIH)がホスト機関となりインプットとアウトプットのデータに重点を置いてデータ蓄積と分析システムを開発中であるSTAR METRICSは参加機関の財務情報や研究活動の経営分析ベンチマーキングや連邦政府機関のファンディング業務での利用など現場の実情を踏まえた政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積を進めるとみられる

キーワード政策のための科学研究評価公的研究開発投資オープンガバメントIR(Institutional Research)

白川 展之 上席研究官

的研究開発投資がどのような成果を産みまた今後産み出す可能性を持つかを科学的根拠に基づき評価し政策過程に反映する社会的要請が各国で高まっている日本でも文部科学省では 2011 年度から「科学技術イノベーション政策における『政策のため

表 1 事業開始までの経緯

科学技術動向研究

出典文部科学省作成資料(参考文献 3)およびAPDU News Letter(参考文献 4)をもとに科学技術動向研究センターにて作成

1 はじめに

STT136_レポート2(web用に修正)indd 11STT136_レポート2(web用に修正)indd 11 130712 1557130712 1557

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STAR METRICS とは2-1

 STAR METRICS とはldquoScience and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effect of Research on Innovation Competitiveness and Sciencerdquoの頭字であり連邦政府による科学への投資が雇用知識創造保健などにどのような影響効果(インパクト)を及ぼしたかを測定するデータ基盤および分析ツール等の整備構築を図る事業である連邦政府大学その他機関の連携のもとに実施することから「省庁横断的なベンチャー的事業」とも表現されている

根拠法令等2-2

 本事業開始当初の目的は米国再生再投資法(ARRA①)において同法に基づく科学投資の支出景気刺激効果について納税者に対する説明責任を果たすためと説明されていたこれに加えて2009 年 1 月 21 日付けのオ-プンガバメントに関する大統領覚書(Presidential Memorandum on Transparency and Open Government)と2009年 12 月 8 日付けの行政管理予算局覚書(Office of Management and Budget Memorandum)にも事業実施の根拠を求めているこの前者のオ-プンガバメントに関する大統領覚書は省庁がオンライン上で情報を取得ダウンロード検索されうる一般的

事業の参加機関数とデータ収集の範囲3-1

 連邦政府では大統領行政府科学技術政策局(OSTP③)国立科学財団(NSF④)国立保健研究所(NIH⑤ )が STAR METRICS のリード機関となったこれに大学で研究開発に関わる職員(研究者管理者等)と省庁が連携して研究開発推進の効率化調整を図るイニシアティブである FDP⑥と一部の高等教育機関がパートナーとなり2010 年1 月にパイロット事業を開始したパイロット事業では 2011 年 7 月まで方法論の開発実証継続的改善に取り組むとともに競争的研究資金のファンディングを行う政府機関や高等教育機関に対しプロジェクトへの参加を呼びかけるアウトリーチ普及活動にも積極的に取り組んだNSF の科学政策のための科学の研究助成事業(SciSIP⑦)の初代プログラムディレクターを務めこの事業の立ち上げにも尽力した Julia Lane 氏は安全保障上の機密の存在から情報公開が難しい国防総省(DOD⑧)に対してもプロジェクト参加の提案を行うなど省庁学協会等に対し働きかけた こうした省庁横断的な事業普及の取り組みは一定の成果を見せFDP の他に全米の有力な研究型大学の団体である全米大学協会(AAU⑨)と公立ランドグラント大学協会(APLU⑩)からの協力もあり参画研究機関大学は 2010 年 10 月の正式な事業発足の段階で 86 機関となった連邦政府機関では環境保護庁(EPA⑪)農務省(USDA⑫)エネルギー省(DOE⑬)を加えた合計 6 機関が参加協力を得たこの結果これら参加協力機関のすべてのデータが得られた場合金額ベースで NIH の研究助成額の 3 分の 1参加協力機関の合計では金額ベースで連邦政府全体の科学研究助成半分以上をカバーするデータ収集を狙える体制となった

の科学』推進事業」を実施している米国では 2005年にマーバーガー前科学担当大統領補佐官が「科学政策の科学化」を目指しデータモデルとコミュニティ開発を図る「科学政策のための科学」を提唱して以来各国に先駆けて省庁間連携や公募型研究開発プログラムや情報基盤の整備を推進してきた 本稿では米国政府による科学への投資がどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するため開始された事業(STAR METRICS)についてこれまでの事業展開や今後の見通しを紹介する

なデータ形式で公開する旨を定めたものであるまた後者の行政管理予算局覚書では情報自由法

(FOIR②)の義務付け範囲を超えて有益な情報を積極的に普及させるために先進的な技術を各省庁が利用するよう推奨している

2 事業概要

3 事業の進捗推移

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表 2 STAR METRICS の計画目標の推移

事業推進体制の変更強化3-2

 2011 年 10 月に NIH がホスト機関となり2012年 1 月には本事業の新たな段階への移行を見据えて執行体制を刷新したエクゼクティブコミッティーと機関横断ワーキンググループの 2 層の省庁機関間の連携組織のもとホスト機関の NIH の責任者がNIH(2 名)および NSF(1 名)のプログラムマネージャーを統括する事業推進体制としたデータシステム整備等の実務的な作業は技術プロジェクトマネージャー(プログラムマネージャーと兼任)がさらにその下に置かれシステム開発を行う業務委託先のベンダーとのプロジェクト進行管理を行っている 事業の実質的な進展を図るこうした体制変更はNIH の連邦政府における科学投資の予算額のシェアの大きさとその組織能力ノウハウを反映した結果とみられるNIH は米国再生再投資法

(ARRA)における科学研究投資額が最も多かった何よりNIH には根拠に基づく医療(EBM⑭)に不可欠の情報基盤となっている学術文献データベース PubMed を実質的に運営注 1)するなどライフイノベーション関連の各種データベースを学術文献のオープンアクセス化といった学術情報流通政策とともに強力に牽引実施してきた実績がある ただしNIH の担当部署ではSTAR METRICS

の情報システムの開発は付随的業務の位置付けで実施しているしかし事業のシステム開発調整には相当の人役エフォートが必要で実質的にはフルタイムの人員が複数張り付く状態だという

事業目標の変更修正3-3

 STAR METRICS で は 大 変 な 試 行 錯 誤 の 末に 2012 年 4 月に事業目標が修正された当初はフェーズ 1 とフェーズ 2 という 2 段階の計画がレベル 1 とレベル 2 という 2 段階に分けてデータ基盤とツールの整備を行う計画に変更されている(表 2)連邦政府による科学投資の社会的インパクト測定手法の開発という政策科学として挑戦的な目標を掲げた当初の事業目標から先進的技術を活用した政府情報の公開のためのデータフローを蓄積分析する科学技術学術情報関連の実用的な基盤整備事業へと現実的な方向に軌道修正を図ったとみられる この結果科学政策の透明性を確保するための情報基盤の構築データ蓄積を図るという変更後の事業目標設定はオープンデータオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の下で一定の位置付けを得る整理になっている

注1 NIH に国立医学図書館(NLM⑮)の一部門の国立生物工学情報センター(NCBI⑯)が置かれPubMed が運営されている

出典所期の事業計画の表現については(参考文献 5)から修正された目標については(参考文献 1)をもとに科学技術動向センターにて作成

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 レベル 1 のデータ整備では現場の過度の事務負担を避けるために整理正規化を行うデータは競争的資金の種目被雇用者の種別(研究員研究補助者等の区分)業務従事割合(フルタイム換算データ)や間接経費込みの人件費総額など人事関連の 14 項目に限定された参加研究機関はデータポリシーに従ったフォーマットで 4 半期毎にデータを提出するとデータの質の確認処理の後レポートが返される仕組みである 以下の図 1 及び図 2 にはこれまでの事業の成果例を示す 図 1 は開発されたシステムと収集されたデータによる連邦レベルでの成果例であるここではレベル 1 の事業に参画した機関数について州別に可視化されている図 2 は参加機関地域レベルの成果例である図 2 ではインディアナ州の参加機関である Purdue 大学と Indiana 大学に関する 2011財政年度における連邦科学投資による雇用誘発効果に関する情報について可視化した例である

図 1 レベル 1 の成果例(1)STAR METRICS に参加している州別機関数

図 2 レベル 1 の成果例(2)インディアナ州における連邦科学投資のもたらす雇用誘発効果大学キャンパス別の被雇用数の可視化

出典参考文献 1 出典参考文献 2

 現在実施中のレベル 2 の目標は連邦政府所管のファンディングエージェンシーの科学研究助成に関して幅広い範囲のインプットおよびアウトプットに焦点を置いたデータを連邦政府機関とその他の利害関係者に対し提供することである機関レベルの

合意のもとNIH がEPANIHNSFUSDA のデータを収集し他の参画 3 機関はデータベース構築に際して概念実証に必要な協力を行う現在技術的実装計画を策定しパイロット版のシステムを開発中であり構築テスト修正が繰り返されている データ整備はアウトカムよりも予算配分とアウトプットのリンクに重点が置かれているこれまでのところ2012 年財政年度を中心として参加協力 6 機関の 7 万 6 千件の助成プロジェクトがウェブベースで開発したデータシステムに入力され財政年度助成機関州群等の位置等のデータ項目やプロジェクトの概要結果等が検索可能になっている技術的課題としてはデータ整備上はテキスト検索下院選挙区別検索機関プロジェクト等詳細情報との接続などが挙げられている特に政策形成過程での実際的な利用を想定して下院選挙区別検索のためのデータの付加が重要な取り組み事項とされている システム運用では機関の実情と個人情報の保護に配慮しつつ政府の科学投資の透明性を高める方針である研究者個人の給与など個人情報や人事業績評価とも直結するデータが蓄積されていることから機微に触れる情報と公開すべき情報を層別し連邦政府機関関係者のみにアクセス制限を設けるなどの運用を考えているという一方参加機関大学の側では大学運営上の評価意思決定計画策定支援を行う情報分析である IR⑰と事務システムの合理化の観点から開発を進めている財務情報や研究活動のベンチマーキングを行う測定評価手法やそのレポートの様式を共同で開発するほかオープンソースのソフトウェアを用いた大学間でのソースコードの共用化などが検討されている こうした状況からSTAR METRICS の今後は

4 これまで(レベル 1)の事業成果

5 今後(レベル 2)の状況見通し

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図 3 成果実装イメージ例外部研究資金による下院選挙区別雇用誘発効果(Purdue 大学および Indiana 大学)

出典参考文献 2

1) Update on the State of STAR METRICS George ChackohttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811642) STAR Metrics Data Consistency Marietta HarrisonhttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811643) 科学技術学術審議会総会(第 36 回)平成 23 年 5 月 31 日資料 1「科学技術イノベーション政策のための「政策のため

の科学」の推進について」httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu0shiryo__icsFilesafieldfile201107011307169_01pdf

4) Science and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effects of Research on Innovation Competitiveness and Science (STAR METRICS) George Chacko etal Association of Public Data Users NewsletterhttpwwwamstatorgmiscNewsletterArticleSTAR_METRICShtm

5) 遠藤悟ホームページ「米国の科学政策」STAR METRICShttphomepage1niftycombicycletoursci-ronstar_metricshtm

幅広い国民利害関係者への説明責任を果たすための科学投資の社会経済的効果の測定の方法論開発を長期的視野に入れつつも連邦政府機関がファンディング業務の際に利用できる現場の実情を踏まえた実用的な政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積が進むものとみられる

謝辞 この種の政策効果(インパクト)を測定する困難性試行錯誤は世界共通である公開資料ではわかりにくい点も多い本稿の執筆に際し関係者のコメントやそのニュアンスも含め有用な情報提供助言をいただいた(独)新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)ワシントン事務所新川達也前所長(現経済産業省資源エネルギー庁電力ガス事業部原子力発電所事故収束対応室長)前野武史副所長に御礼申し上げる

略称① ARRAAmerican Recovery and Reinvestment Act of 2009② FOIRFreedom of Information Act③ OSTPWhite House Office of Science and Technology Policy④ NSFNational Science Foundation⑤ NIHNational Institute of Health⑥ FDPFederal Demonstration Partnership⑦ SciSIPScience of Science amp Innovation Policy program⑧ DODUnited States Department of Defense⑨ AAUthe Association of American Universities⑩ APLUthe Association of Public and Land Grant Universities⑪ EPAEnvironmental protection Agency⑫ USDAUnited States Department of Agriculture⑬ DOEUnited States Department of Energy⑭ EBMEvidence-based medicine⑮ NLMNational Library of Medicine⑯ NCBINational Center for Biotechnology Information⑰ IRInstitutional Research

参考文献

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6) Contact Kevin Boatright Office of Research amp Graduate Studies 785-864-7240 Associate vice chancellor accepts visiting assignment with the National Science Foundation May 21 2012httparchivenewskuedu2012may21rosenbloomshtml

7) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Presidential Memorandum on Transparency and Open Government (Jan 21 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_fy2009m09-12pdf

8) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Open Government Directive(Dec 8 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-08pdf

9) RESEARCH INSTITUTION PARTICIPATION GUIDE in STAR METRICS websitehttpswwwstarmetricsnihgovStarParticipatecalculatingjobs

10) Science and Technology Priorities for the FY 2012 Budget(July 21 2010)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-30pdf

白川 展之科学技術情報分析ユニット 上席研究官httpwwwnistepgojp

広島県職員を経て研究者に2008年 9月より現職科学技術予測などに従事専門はイノベーション政策公共経営評価農業から保健医療など幅広い分野の技術マネジメント産学連携の経験から科学技術にとどまらない幅広いイノベーションを研究

執筆者プロフィール

コラム

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

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イノベーション政策のデータ基盤に関する日本での議論 科学技術学術政策研究所では文部科学省の科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環としてエビデンスに基づく科学技術イノベーション政策の基礎となる体系的なデータ情報基盤の構築を進めている多くの専門家が指摘している重要課題はミクロデータの利用複数データベースの接続の 2 点であるつまり各種政策の効果の分析や大学等における研究開発の構造的な分析には従来の集計データのみでは不十分でありミクロデータ利用のニーズが非常に大きいまた複数のデータベースを用いた横断的な分析の必要性からデータベースの接続に大きな関心が寄せられているさらにデータ情報基盤構築が政策評価に役立つ意義とともにデータ情報基盤の構築に際して研究者と政策担当者の相互交流と国際的な交流が不可欠との指摘が出されている

出典NISTEP NOTE(政策のための科学)No3「科学技術イノベーション政策のための科学」におけるデータ情報基盤

構築の推進に関する検討2012 年 11 月科学技術政策研究所 科学技術基盤調査研究室

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

 世界各国の政府は情報やデータの開示およびオープン化を進めており実際に各国でデータガバメント「datagov」が稼働し始めた日本でも日本再興戦略1)の一環として2013 年度末までには日本版 datagov を試行的に立ち上げ2014 年度初めから本格稼働を予定しているしかしdatagov の背景や本質を理解した上で事業を進めなければ決して有用なものとはならないそれには「ガバメント 20」というキーワードが参考になる ガバメント 20 とは(米)オライリーメディア社の創設者 Tim OrsquoReilly 氏が 2009 年に提唱した概念であり彼の主張は「政府はプラットホーム化しなければならない」ということである2)情報通信分野で決定的な勝者になったのはプラットホーム企業である例えばMicrosoft 社は会社や家庭にパソコンを普及させGoogle 社は広告収入で運営され

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

キーワードマシンリーダブル公共データオープンデータデータツールデータシティ鯖江

市口 恒雄 特別研究員

る膨大なスタートアップ企業群を生み出しApple社はアプリ開発の企業を生み出して携帯電話の価値を高めたこれらの企業は「第三者に新たな挑戦の場を与える」ことにより成功したつまり政府のプラットホーム化とは「IT 技術によって国民や市民そして行政に新たな挑戦の場を与えること」である ガバメント 20 は電子政府のことかと言えば決してそうではない単なる IT 化では国民や市民に新たな挑戦の場を与えることはできないからであるそれではガバメント 20 とは具体的にどのようなことであり我々はどの様にそれを実現すれば良いのであろうか 実現のための 1 つの方向性は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく市民が積極的に利用できる webサービスを提供しなければならない米国オバマ大統領は2009 年の就任時にオープンガバメントに対して「透明性」(transparent)「国民参加」

(participatory)「協業」(collaborative)という 3

科学技術動向研究

概  要

1 はじめに―ガバメント 20実現への 2 つ方向性

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

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原則を示した3)この様な背景から生まれたのがdatagav でありガバメント 20 の 1 つの形態であるデータは加工可能な形で提供されるので国民はそのデータを使って新たなサービスや事業を始めることができる もう 1 つの方向性は市民から行政への情報提供とその情報や問題の市民間の共有である国民や市民の意見を聞くというだけではガバメント 20 ではない行政は市民からの情報に即応し即応できない場合には市民と情報を共有し場合によってはボランティアに対応を任せることも重要であるボランティアによる「Do It Ourselves 型」の公共事業または公共社会へと発展し市民と地方行政はより密接に連携することになる世界中の多くの市町村は「シークリックフィックス(SeeClickFix)」4)というアプリを利用して市民参加を促した上で行政サービスを向上させているこのような Do It Ourselves 型の公共政府もローカルガバメント 20 の 1 つの側面と言える

 世界各国の政府は政府が持つ情報やデータの開示およびオープン化を進めつつある具体的にはdatagov(米国)datagovuk(英国)datagovsg (シンガポール)datagovau(オーストラリア)である特に進んでいるのが図表 1 に示す米国の datagov5)で2013 年 4 月末時点で171 の行政機関が参加し373029 のデータセットと1209 のデータツールを提供しているまた312 のアプリと 137のモバイルアプリも提供している(7 月 2 日時点では75714 のデータセット137 のモバイルアプリと 349 の投稿アプリ295 の政府 API を提供している) 英 国 の datagovuk は2013 年 7 月 2 日 時 点 で9596 のデータセットが公開され投稿されたアプリも含め多数のアプリが提供されている天気情報や交通(事故)情報を取得するアプリが人気が高いシンガポールの datagovsg はキーワードを入力してデータセットを探す仕組みになっており最も良くダウンロードされているのは税収や予算関連のものであるオーストラリアの datagovau は114 の行政機関が参加し1126 のデータセットと 20 のアプリが提供されている

 データセットは加工や分析が可能なマシンリ ー ダ ブ ル な フ ォ ー マ ッ ト(CSV XLS XML RSS RDF など)で提供され利用者がデータセットを取得加工分析できるアプリも同時に提供されるまたAPI(Application Programming Interface)も公開されておりAPI を利用したデータの自動取得も可能であるもしAPI が公開されていなければ政府データを使った新たなサービスやビジネスを創造することは困難でありデータガバメントに利用できる様々なアプリすら開発できない単に政府データを公開するのではなく利用者が加工分析しやすい形でデータを提供することがデータガバメントにとって重要である 政府データを上手く利用している 1 つの実例は

(米)Wolfram Research 社がサービス提供している WolframbrvbarAlpha であろう6)「世界の知識を計算可能にする」ことを謳ったこのサービスは政府データを取り込み利用者が入力した様々な質問に答えてくれる例えば「米国で人口が多い都市は」とか「小麦の生産量は」などの質問にその答えを返すだけでなく関連する情報も提示してくれるこれは政府データがマシンリーダブルであるからできることである

 日本でもオープンガバメント化の流れは避けられず首相官邸の高度情報通信ネットワーク社会推

図表 1 米国の datagov

出典参考文献 5

日本の状況2-2

2 公共データのオープン化

世界各国のデータガバメント2-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

20

進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

21

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

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 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

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金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

31

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

32

概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
  • 科学技術7月号レポート5
  • 科学技術7月号研究成果公表
      1. メニューへ戻る メニューへ戻る
Page 7: レポート・トピックス タイトルをクリックすると 各項目に ... · 2017. 1. 18. · ―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

7

緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 Arati Prabhakar DARPA 長官が現代世界の軍事政治状況の下での同庁の役割や方向性について述べた冷戦期の 1958 年に高等研究計画局(ARPA⑫ )として創設された同庁は現代世界の環境について1)米国に対する脅威が複雑化しまた変化し続けていること2)財政問題による経費面における要請が高まったこと3)技術が地球規模的に利用可能となったことの 3 点を挙げその状況に対する取り組みについて説明を行った同局は 29 億ドルという国防研究開発費の中では必ずしも大きくない予算規模で95 人のプログラムマネージャーが大きく関与し情報技術から脳神経科学まで多彩なプロジェクトを実施していることを報告したうえでDARPAがこのような優れた研究プロジェクト支援を行える基盤には米国の健全な研究開発のエコシステムがあることを述べた DARPA 以外の省機関もそれぞれのミッションに従い様々な研究プログラムを実施しておりその評価手順も異なっている「連邦政府研究開発支援における実験」のセッションにおいてはNIH農務省(USDA ⑬ )DOE の事例が報告された Kathy Hudson NIH 科学アウトリーチ政策担当次長は国立トレンスレーショナル科学前進センター(NCATS ⑭ )と BRAIN ⑮ イニシアチブを中心に報告を行ったNIH のミッションは基礎研究を実施することと基礎研究を人々の保健医療の向上に結び付けることの二つであるとしたうえでNCATS については NIH の研究者が発見した化合物の実用化や産業化における障壁の低減そして製品化への時間の短縮などの取り組みについて述べたまたBRAIN イニシアチブについて

 海外の事情については中国インド韓国そしてカナダの科学技術政策について報告があった

「2012 年度研究開発予算における予算的および政策的枠組み」の一部として設けられた「科学技術政策に関するアジアの視点米国との相違と共通性」のセッションにおいてはJeannette Wing マイクロソフト社副社長マイクロソフトリサーチ所長が中国とインドの動向について報告した中国の経済発展は1990 年代から始まるがまず人材を育成し次に 211985 などの番号を付した計画を通して基盤を整えそのうえで知識を生み出すための基礎研究と技術イノベーションへの投資が行われたという流れを紹介し今では上位の大学は米国の有力私立大学と並ぶものであるとしたしかし中国の高等教育機関は拡大したが中国の大学生にとって米国の大学を目指す意識に変化はなく中国人人材の米国への供給は続くとの見方を示したインドについて Wing 氏は各地に計 15 校設置されたインド

米国民の健康の改善そして未来のバイオエコノミーの構築のためNIH ⑪ の予算は 313 億ドル

(15 増)となっている高い技能を持つ人材育成のためSTEM の分野の

教育に 31 億ドル(67 増)の支出を行うこととしている

民間部門の投資を拡大させるため試験研究費税額控除の拡大簡素化恒久化を提案している

予算案は米国民に対する見返りが最大化する分野に資源を集中させそうでない分野において削減するとしておりその例として開発予算は 38億ドル削減されている

は研究資金配分成果に対する褒賞(プライズ)DARPA 型のプロジェクト運営を通した成果創出の迅速化研究活性化のためのマッチングさらにクラウドファンディングといったメカニズムについて紹介した Catherine Woteki USDA 主任科学者研究教育経済担当次官は予算削減が続く中での研究開発活動は省内の機関の研究と外部研究支援とのバランスを取りつつ行う必要があることなどを述べたうえで同省の 21 世紀のチャレンジとして食料の安全保障食品の安心人々の栄養と健康気候変動バイオエコノミー(バイオ燃料バイオプロダクト)を挙げたそして共同研究開発契約プログラム

(CRADA ⑯ program)のモデルによる研究成果の民間部門への移転に加え農業技術イノベーションパートナーシッププログラム(ATIP ⑰ Program)調整農業プロジェクト(CAP ⑱ )長期農業生態系研究ネットワーク(LTAR ⑲ Network)等の同省の特徴的なプログラムについて説明を行った Patricia M Dehmer エネルギー省科学室室長代理は簡単に同省の歴史や予算の枠組みに触れた後バイオエネルギー研究センター(BRCs ⑳ )エネルギーフロンティア研究センター(EFRC 21 )そしてエネルギーイノベーションハブ(Energy Innovation Hub)について報告した

4 多様なファンディングシステム

5 他国の科学技術政策に関する報告

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

8

護や改善を目的とした規制的政策が経済に与えるネガティブな影響について実際よりも拡大してあるいは経済面における利益との関係を考慮せずに論議される傾向があることを指摘した William A Pizer スタンフォード大学公共政策学部准教授は必ずしも相関が明らかではないにも関わらず特定の産業部門での雇用の悪化について規制が行われたことと関連付けて政策論議されまた他の産業における雇用効果について論じられない状況などを指摘した Cary Coglianese ペンシルバニア大学法学政治学教授は「何故政治は環境に関する規制は雇用を殺し研究者はそのようなことがないと言うのか」との表題により規制が競争力の低下をもたらす証拠はないにも関わらず人々がネガティブな影響があると考える背景について考察を加えた Richard Morgenstern 未来のための資源上級フェローは「環境に関する経済的分析の見通し」の表題により便益費用分析に基づくブッシュ政権とオバマ政権の政策決定における観点の相違について述べた

 フォーラムではedX や Coursera といった近年急激な展開を見せている大規模オンラインオープンコース(MOOC 23 )に関するセッションも設けられていた Anant Agarwal edX 会長マサチューセッツ工科大学電気工学コンピューター科学教授はedXは世界の人々がアクセスすることができる新たな教育機会であるとし154763 人の学生が登録し7157人が履修証明書の発行を受けるなどの数字を示したうえで学生が自発的に参加できるよう工夫された宿題や試験などその具体的なシステムについて説明を行った Wendy Newstetter ジョージア工科大学工学部教育研究イノベーション担当主任は教授法について伝統的な教室における教育実験など相互的な教育独立型の教育オンライン教育という区分を示しMOOC が独立型教育とオンライン教育の双方にまたがるものとしたうえで未だ教育学研究者の関心は薄く履修する学生のコンピテンス向上の観点から見るとその要件を満たしていない点が多いことを指摘した Kevin Werbach ペンシルバニア大学ウォートンスクール准教授はMOOC を通して実際に授業を行っ

 フォーラムの多くのセッションはいわゆる「科学のための政策」に関するものであったが科学的知見の(科学技術政策以外の)政策形成への反映すなわち「政策のための科学」に関するセッションも二つ設けられていた 「より良い政府のための科学的洞察」と題されたセッションは標題のとおり科学技術特に社会科学行動科学の知見をどのように政策形成の向上に活かすことができるかをテーマとしたものであった Case R Sunstein ハーバード大学ロースクール教授

(前大統領府情報規制室OIRA22 室長)は前職の OIRA における科学に基づく客観性独立性と大統領府経済諮問委員会とも協力した経済的価値の両面における活動について述べたうえで合理的な政策形成について受け手である一般の人々の認識の面も含め考えられるシステムについて具体的な例示を含めて説明した Arthur Lupia ミシガン大学社会研究所教授は異なるバックグラウンドを持つ人々における社会科学の価値について述べた「社会科学の価値は何であるか」ということと「資金配分を行うべき対象であるか」というふたつの疑問に関し信頼性(credibility)と正当性

(legitimacy)という二つの評価基準から説明を行ったそして講演の最後には最近の議会による NSF の社会科学研究への支出の禁止等の動きに対し社会科学研究が国家にもたらす価値の大きさについて語った 「環境に関する規制はどの程度経済を阻害するか」と題されたセッションはいずれの講演者も環境保

工科大学は今後も拡大する予定があるが博士人材等の点では遅れが見られる等の指摘を行った Jong-Guk Song 科学技術政策研究院(韓国)院長は「クリエイティブエコノミー」と名付けられた韓国の経済政策について報告した労働力供給の変化により今後経済成長の低下が見込まれる状況において他国に比べ韓国が劣っている起業を活発化させる等の政策的枠組みにいての内容であった Gary Goodyear カナダ科学技術担当国務大臣はカナダの科学技術活動の状況について研究開発投資と税制研究基盤宇宙部門物理学医療といった幅広い視点から報告したまた海外との関係について複数の世界的な水準の大学が世界中から人材を引き寄せていることや特に米国との間で緊密な科学技術協力が実施されていることを報告した

7 MOOC-大学の新たな教育モデル

6 科学的知見の政策形成への反映

9

緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 2013 年 3 月になって確定した 2013 年度歳出予算においては研究開発予算においても 5 パーセン

ト程度の歳出削減対象となったものも多くアカデミックコミュニティーにとって予算面で希望の持てる状況にはないしかしながら本フォーラムでは必ずしも予算削減は大きなテーマとなっていなかったその背景には厳しい予算状況が既に現実のものとなったことまたそのような状況にありながらオバマ政権が科学技術に関し手厚い支援を行う意向を示していることがあると考えられるそして参加者の関心はむしろ厳しい財政状況において例えばどのようなファンディングシステムが研究成果を高めるかなど研究開発システム全体に向けられているように感じられた

略称① AAASAmerican Association for the Advancement of Science② STEMScience Technology Engineering and Mathematics③ DARPADefense Advanced Research Projects Agency④ OSTPOffice of Science and Technology Policy⑤ NSFNational Science Foundation⑥ DOEDepartment of Energy⑦ NISTNational Institute of Standards and Technology⑧ NASANational Aeronautics and Space Administration⑨アメリカ COMPETES再授権法America Creating Opportunities to Meaningfully Promote Excellence

in TechnologyEducation and Science Reauthorization Act of 2010 (America COMPETES Reauthorization Act of 2010)

⑩ USGCRPUS Global Change Research Program⑪ NIHNational Institutes of Health⑫ ARPAAdvanced Research Projects Agency⑬ USDADepartment of Agriculture⑭ NCATSNational Center for Advancing Translational Sciences⑮ BRAINBrain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies⑯ CRADACooperative Research and Development Agreement⑰ ATIPAgricultural Technology Innovation Partnership ⑱ CAPCoordinating Agriculture Projects⑲ LTARLong-Term Agroecosystem Research⑳ BRCsBioenergy Research Centers 21 EFRCEnergy Frontier Research Centers 22 OIRAOffice of Information and Regulatory Affairs23 MOOCsMassive open online courses

1) AAAS Forum on Science amp Technology Policy 2013 年 6 月 12 日httpwwwaaasorgspprdforum2) Office of Science and Technology Policy (OSTP) RampD Budgets 2013 年 6 月 12 日

httpwwwwhitehousegovadministrationeopostprdbudgets3) 2013 年度歳出予算法(Consolidated and Further Continuing Appropriations Act 2013) 2013 年 6 月 12 日

httpwwwgpogovfdsyspkgPLAW-113publ6htmlPLAW-113publ6htm

た教員の立場からこの取り組みが非常に興味深いものであり世界中の学生に対しこれまでなかった教育機会を提供するものであるとしたうえで研究を通した人材育成など MOOC では困難なことや費用教員の資質等の検討課題について言及した

8 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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出典NISTEP REPORT No153 科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP 定点調査 2012)2013 年 4 月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacebitstream1103511931NISTEP-NR153-FullJpdf

遠藤 悟科学技術動向研究センター 客員研究官httphomepage1niftycombicycletoursci-indexhtm

研究対象は米国を中心とした科学政策2000年に「米国の科学政策」HPを開設し政策動向を発信している近年は科学と社会の関係や高等教育等にも対象を拡大している

4) 科学アカデミー創立 150 周年式典でのオバマ大統領の発言(Remarks by the President on the 150th Anniversary of the National Academy of Sciences) 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovthe-press-office20130429remarks-president-150th-anniversary-national-academy-sciences

5) The 2014 Budget A World-Leading Commitment to Science amp Research 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostp2014_RampDbudget_overviewpdf

NISTEP 定点調査からみる我が国の研究開発資金の状況科学技術学術政策研究所では第 4 期科学技術基本計画期間中の我が国における科学技術やイノベーションの状況変化を把握するため産学官の研究者や有識者への意識定点調査(NISTEP 定点調査)を2011 年度より実施しています以下の図は第 2 回となる 2012 年度の調査における研究費に関する意識調査の結果ですが科学技術に関する政府予算(Q2-16)や基盤的経費(Q1-18)については多くの機関の研究者が前年と同様「不充分との強い認識(雨マーク)」または「著しく不充分との認識(雷マーク)」を持っているようです特に国内論文シェアが 1〜5 の規模である第 2 グループの大学に所属する研究者は「著しく不充分との認識」を持っていることがわかります米国連邦政府の予算はその時々の政策や財政事情により上昇下降の変化が見られますが我が国の研究者にとって研究予算は低空飛行を続けているという印象のようです

執筆者プロフィール

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

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概  要

科学研究の投資効果測定を目指す米国のSTAR METRICS事業の現状と今後の見通し

 国際競争力の確保や社会的課題解決のために科学技術によるイノベーションへの期待が高まる中公

 政府の科学投資が雇用知識創造健康などにどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するための情報基盤を整備する米国の事業(STAR METRICS)は科学投資の社会的なインパクト測定手法を幅広く開発することからオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の方向性に沿う形で連邦政府の競争的資金に関する省庁横断的なデータ基盤整備を図る方向に事業目標を修正している事業の第一段階では人事データに限って連邦政府の科学研究投資の労働誘発効果を検証するためにデータを蓄積可視化するシステムが構築された現在の第二段階では引き続き国立衛生研究所(NIH)がホスト機関となりインプットとアウトプットのデータに重点を置いてデータ蓄積と分析システムを開発中であるSTAR METRICSは参加機関の財務情報や研究活動の経営分析ベンチマーキングや連邦政府機関のファンディング業務での利用など現場の実情を踏まえた政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積を進めるとみられる

キーワード政策のための科学研究評価公的研究開発投資オープンガバメントIR(Institutional Research)

白川 展之 上席研究官

的研究開発投資がどのような成果を産みまた今後産み出す可能性を持つかを科学的根拠に基づき評価し政策過程に反映する社会的要請が各国で高まっている日本でも文部科学省では 2011 年度から「科学技術イノベーション政策における『政策のため

表 1 事業開始までの経緯

科学技術動向研究

出典文部科学省作成資料(参考文献 3)およびAPDU News Letter(参考文献 4)をもとに科学技術動向研究センターにて作成

1 はじめに

STT136_レポート2(web用に修正)indd 11STT136_レポート2(web用に修正)indd 11 130712 1557130712 1557

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STAR METRICS とは2-1

 STAR METRICS とはldquoScience and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effect of Research on Innovation Competitiveness and Sciencerdquoの頭字であり連邦政府による科学への投資が雇用知識創造保健などにどのような影響効果(インパクト)を及ぼしたかを測定するデータ基盤および分析ツール等の整備構築を図る事業である連邦政府大学その他機関の連携のもとに実施することから「省庁横断的なベンチャー的事業」とも表現されている

根拠法令等2-2

 本事業開始当初の目的は米国再生再投資法(ARRA①)において同法に基づく科学投資の支出景気刺激効果について納税者に対する説明責任を果たすためと説明されていたこれに加えて2009 年 1 月 21 日付けのオ-プンガバメントに関する大統領覚書(Presidential Memorandum on Transparency and Open Government)と2009年 12 月 8 日付けの行政管理予算局覚書(Office of Management and Budget Memorandum)にも事業実施の根拠を求めているこの前者のオ-プンガバメントに関する大統領覚書は省庁がオンライン上で情報を取得ダウンロード検索されうる一般的

事業の参加機関数とデータ収集の範囲3-1

 連邦政府では大統領行政府科学技術政策局(OSTP③)国立科学財団(NSF④)国立保健研究所(NIH⑤ )が STAR METRICS のリード機関となったこれに大学で研究開発に関わる職員(研究者管理者等)と省庁が連携して研究開発推進の効率化調整を図るイニシアティブである FDP⑥と一部の高等教育機関がパートナーとなり2010 年1 月にパイロット事業を開始したパイロット事業では 2011 年 7 月まで方法論の開発実証継続的改善に取り組むとともに競争的研究資金のファンディングを行う政府機関や高等教育機関に対しプロジェクトへの参加を呼びかけるアウトリーチ普及活動にも積極的に取り組んだNSF の科学政策のための科学の研究助成事業(SciSIP⑦)の初代プログラムディレクターを務めこの事業の立ち上げにも尽力した Julia Lane 氏は安全保障上の機密の存在から情報公開が難しい国防総省(DOD⑧)に対してもプロジェクト参加の提案を行うなど省庁学協会等に対し働きかけた こうした省庁横断的な事業普及の取り組みは一定の成果を見せFDP の他に全米の有力な研究型大学の団体である全米大学協会(AAU⑨)と公立ランドグラント大学協会(APLU⑩)からの協力もあり参画研究機関大学は 2010 年 10 月の正式な事業発足の段階で 86 機関となった連邦政府機関では環境保護庁(EPA⑪)農務省(USDA⑫)エネルギー省(DOE⑬)を加えた合計 6 機関が参加協力を得たこの結果これら参加協力機関のすべてのデータが得られた場合金額ベースで NIH の研究助成額の 3 分の 1参加協力機関の合計では金額ベースで連邦政府全体の科学研究助成半分以上をカバーするデータ収集を狙える体制となった

の科学』推進事業」を実施している米国では 2005年にマーバーガー前科学担当大統領補佐官が「科学政策の科学化」を目指しデータモデルとコミュニティ開発を図る「科学政策のための科学」を提唱して以来各国に先駆けて省庁間連携や公募型研究開発プログラムや情報基盤の整備を推進してきた 本稿では米国政府による科学への投資がどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するため開始された事業(STAR METRICS)についてこれまでの事業展開や今後の見通しを紹介する

なデータ形式で公開する旨を定めたものであるまた後者の行政管理予算局覚書では情報自由法

(FOIR②)の義務付け範囲を超えて有益な情報を積極的に普及させるために先進的な技術を各省庁が利用するよう推奨している

2 事業概要

3 事業の進捗推移

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

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表 2 STAR METRICS の計画目標の推移

事業推進体制の変更強化3-2

 2011 年 10 月に NIH がホスト機関となり2012年 1 月には本事業の新たな段階への移行を見据えて執行体制を刷新したエクゼクティブコミッティーと機関横断ワーキンググループの 2 層の省庁機関間の連携組織のもとホスト機関の NIH の責任者がNIH(2 名)および NSF(1 名)のプログラムマネージャーを統括する事業推進体制としたデータシステム整備等の実務的な作業は技術プロジェクトマネージャー(プログラムマネージャーと兼任)がさらにその下に置かれシステム開発を行う業務委託先のベンダーとのプロジェクト進行管理を行っている 事業の実質的な進展を図るこうした体制変更はNIH の連邦政府における科学投資の予算額のシェアの大きさとその組織能力ノウハウを反映した結果とみられるNIH は米国再生再投資法

(ARRA)における科学研究投資額が最も多かった何よりNIH には根拠に基づく医療(EBM⑭)に不可欠の情報基盤となっている学術文献データベース PubMed を実質的に運営注 1)するなどライフイノベーション関連の各種データベースを学術文献のオープンアクセス化といった学術情報流通政策とともに強力に牽引実施してきた実績がある ただしNIH の担当部署ではSTAR METRICS

の情報システムの開発は付随的業務の位置付けで実施しているしかし事業のシステム開発調整には相当の人役エフォートが必要で実質的にはフルタイムの人員が複数張り付く状態だという

事業目標の変更修正3-3

 STAR METRICS で は 大 変 な 試 行 錯 誤 の 末に 2012 年 4 月に事業目標が修正された当初はフェーズ 1 とフェーズ 2 という 2 段階の計画がレベル 1 とレベル 2 という 2 段階に分けてデータ基盤とツールの整備を行う計画に変更されている(表 2)連邦政府による科学投資の社会的インパクト測定手法の開発という政策科学として挑戦的な目標を掲げた当初の事業目標から先進的技術を活用した政府情報の公開のためのデータフローを蓄積分析する科学技術学術情報関連の実用的な基盤整備事業へと現実的な方向に軌道修正を図ったとみられる この結果科学政策の透明性を確保するための情報基盤の構築データ蓄積を図るという変更後の事業目標設定はオープンデータオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の下で一定の位置付けを得る整理になっている

注1 NIH に国立医学図書館(NLM⑮)の一部門の国立生物工学情報センター(NCBI⑯)が置かれPubMed が運営されている

出典所期の事業計画の表現については(参考文献 5)から修正された目標については(参考文献 1)をもとに科学技術動向センターにて作成

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 レベル 1 のデータ整備では現場の過度の事務負担を避けるために整理正規化を行うデータは競争的資金の種目被雇用者の種別(研究員研究補助者等の区分)業務従事割合(フルタイム換算データ)や間接経費込みの人件費総額など人事関連の 14 項目に限定された参加研究機関はデータポリシーに従ったフォーマットで 4 半期毎にデータを提出するとデータの質の確認処理の後レポートが返される仕組みである 以下の図 1 及び図 2 にはこれまでの事業の成果例を示す 図 1 は開発されたシステムと収集されたデータによる連邦レベルでの成果例であるここではレベル 1 の事業に参画した機関数について州別に可視化されている図 2 は参加機関地域レベルの成果例である図 2 ではインディアナ州の参加機関である Purdue 大学と Indiana 大学に関する 2011財政年度における連邦科学投資による雇用誘発効果に関する情報について可視化した例である

図 1 レベル 1 の成果例(1)STAR METRICS に参加している州別機関数

図 2 レベル 1 の成果例(2)インディアナ州における連邦科学投資のもたらす雇用誘発効果大学キャンパス別の被雇用数の可視化

出典参考文献 1 出典参考文献 2

 現在実施中のレベル 2 の目標は連邦政府所管のファンディングエージェンシーの科学研究助成に関して幅広い範囲のインプットおよびアウトプットに焦点を置いたデータを連邦政府機関とその他の利害関係者に対し提供することである機関レベルの

合意のもとNIH がEPANIHNSFUSDA のデータを収集し他の参画 3 機関はデータベース構築に際して概念実証に必要な協力を行う現在技術的実装計画を策定しパイロット版のシステムを開発中であり構築テスト修正が繰り返されている データ整備はアウトカムよりも予算配分とアウトプットのリンクに重点が置かれているこれまでのところ2012 年財政年度を中心として参加協力 6 機関の 7 万 6 千件の助成プロジェクトがウェブベースで開発したデータシステムに入力され財政年度助成機関州群等の位置等のデータ項目やプロジェクトの概要結果等が検索可能になっている技術的課題としてはデータ整備上はテキスト検索下院選挙区別検索機関プロジェクト等詳細情報との接続などが挙げられている特に政策形成過程での実際的な利用を想定して下院選挙区別検索のためのデータの付加が重要な取り組み事項とされている システム運用では機関の実情と個人情報の保護に配慮しつつ政府の科学投資の透明性を高める方針である研究者個人の給与など個人情報や人事業績評価とも直結するデータが蓄積されていることから機微に触れる情報と公開すべき情報を層別し連邦政府機関関係者のみにアクセス制限を設けるなどの運用を考えているという一方参加機関大学の側では大学運営上の評価意思決定計画策定支援を行う情報分析である IR⑰と事務システムの合理化の観点から開発を進めている財務情報や研究活動のベンチマーキングを行う測定評価手法やそのレポートの様式を共同で開発するほかオープンソースのソフトウェアを用いた大学間でのソースコードの共用化などが検討されている こうした状況からSTAR METRICS の今後は

4 これまで(レベル 1)の事業成果

5 今後(レベル 2)の状況見通し

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

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図 3 成果実装イメージ例外部研究資金による下院選挙区別雇用誘発効果(Purdue 大学および Indiana 大学)

出典参考文献 2

1) Update on the State of STAR METRICS George ChackohttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811642) STAR Metrics Data Consistency Marietta HarrisonhttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811643) 科学技術学術審議会総会(第 36 回)平成 23 年 5 月 31 日資料 1「科学技術イノベーション政策のための「政策のため

の科学」の推進について」httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu0shiryo__icsFilesafieldfile201107011307169_01pdf

4) Science and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effects of Research on Innovation Competitiveness and Science (STAR METRICS) George Chacko etal Association of Public Data Users NewsletterhttpwwwamstatorgmiscNewsletterArticleSTAR_METRICShtm

5) 遠藤悟ホームページ「米国の科学政策」STAR METRICShttphomepage1niftycombicycletoursci-ronstar_metricshtm

幅広い国民利害関係者への説明責任を果たすための科学投資の社会経済的効果の測定の方法論開発を長期的視野に入れつつも連邦政府機関がファンディング業務の際に利用できる現場の実情を踏まえた実用的な政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積が進むものとみられる

謝辞 この種の政策効果(インパクト)を測定する困難性試行錯誤は世界共通である公開資料ではわかりにくい点も多い本稿の執筆に際し関係者のコメントやそのニュアンスも含め有用な情報提供助言をいただいた(独)新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)ワシントン事務所新川達也前所長(現経済産業省資源エネルギー庁電力ガス事業部原子力発電所事故収束対応室長)前野武史副所長に御礼申し上げる

略称① ARRAAmerican Recovery and Reinvestment Act of 2009② FOIRFreedom of Information Act③ OSTPWhite House Office of Science and Technology Policy④ NSFNational Science Foundation⑤ NIHNational Institute of Health⑥ FDPFederal Demonstration Partnership⑦ SciSIPScience of Science amp Innovation Policy program⑧ DODUnited States Department of Defense⑨ AAUthe Association of American Universities⑩ APLUthe Association of Public and Land Grant Universities⑪ EPAEnvironmental protection Agency⑫ USDAUnited States Department of Agriculture⑬ DOEUnited States Department of Energy⑭ EBMEvidence-based medicine⑮ NLMNational Library of Medicine⑯ NCBINational Center for Biotechnology Information⑰ IRInstitutional Research

参考文献

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6) Contact Kevin Boatright Office of Research amp Graduate Studies 785-864-7240 Associate vice chancellor accepts visiting assignment with the National Science Foundation May 21 2012httparchivenewskuedu2012may21rosenbloomshtml

7) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Presidential Memorandum on Transparency and Open Government (Jan 21 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_fy2009m09-12pdf

8) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Open Government Directive(Dec 8 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-08pdf

9) RESEARCH INSTITUTION PARTICIPATION GUIDE in STAR METRICS websitehttpswwwstarmetricsnihgovStarParticipatecalculatingjobs

10) Science and Technology Priorities for the FY 2012 Budget(July 21 2010)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-30pdf

白川 展之科学技術情報分析ユニット 上席研究官httpwwwnistepgojp

広島県職員を経て研究者に2008年 9月より現職科学技術予測などに従事専門はイノベーション政策公共経営評価農業から保健医療など幅広い分野の技術マネジメント産学連携の経験から科学技術にとどまらない幅広いイノベーションを研究

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コラム

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

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イノベーション政策のデータ基盤に関する日本での議論 科学技術学術政策研究所では文部科学省の科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環としてエビデンスに基づく科学技術イノベーション政策の基礎となる体系的なデータ情報基盤の構築を進めている多くの専門家が指摘している重要課題はミクロデータの利用複数データベースの接続の 2 点であるつまり各種政策の効果の分析や大学等における研究開発の構造的な分析には従来の集計データのみでは不十分でありミクロデータ利用のニーズが非常に大きいまた複数のデータベースを用いた横断的な分析の必要性からデータベースの接続に大きな関心が寄せられているさらにデータ情報基盤構築が政策評価に役立つ意義とともにデータ情報基盤の構築に際して研究者と政策担当者の相互交流と国際的な交流が不可欠との指摘が出されている

出典NISTEP NOTE(政策のための科学)No3「科学技術イノベーション政策のための科学」におけるデータ情報基盤

構築の推進に関する検討2012 年 11 月科学技術政策研究所 科学技術基盤調査研究室

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

 世界各国の政府は情報やデータの開示およびオープン化を進めており実際に各国でデータガバメント「datagov」が稼働し始めた日本でも日本再興戦略1)の一環として2013 年度末までには日本版 datagov を試行的に立ち上げ2014 年度初めから本格稼働を予定しているしかしdatagov の背景や本質を理解した上で事業を進めなければ決して有用なものとはならないそれには「ガバメント 20」というキーワードが参考になる ガバメント 20 とは(米)オライリーメディア社の創設者 Tim OrsquoReilly 氏が 2009 年に提唱した概念であり彼の主張は「政府はプラットホーム化しなければならない」ということである2)情報通信分野で決定的な勝者になったのはプラットホーム企業である例えばMicrosoft 社は会社や家庭にパソコンを普及させGoogle 社は広告収入で運営され

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

キーワードマシンリーダブル公共データオープンデータデータツールデータシティ鯖江

市口 恒雄 特別研究員

る膨大なスタートアップ企業群を生み出しApple社はアプリ開発の企業を生み出して携帯電話の価値を高めたこれらの企業は「第三者に新たな挑戦の場を与える」ことにより成功したつまり政府のプラットホーム化とは「IT 技術によって国民や市民そして行政に新たな挑戦の場を与えること」である ガバメント 20 は電子政府のことかと言えば決してそうではない単なる IT 化では国民や市民に新たな挑戦の場を与えることはできないからであるそれではガバメント 20 とは具体的にどのようなことであり我々はどの様にそれを実現すれば良いのであろうか 実現のための 1 つの方向性は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく市民が積極的に利用できる webサービスを提供しなければならない米国オバマ大統領は2009 年の就任時にオープンガバメントに対して「透明性」(transparent)「国民参加」

(participatory)「協業」(collaborative)という 3

科学技術動向研究

概  要

1 はじめに―ガバメント 20実現への 2 つ方向性

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

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原則を示した3)この様な背景から生まれたのがdatagav でありガバメント 20 の 1 つの形態であるデータは加工可能な形で提供されるので国民はそのデータを使って新たなサービスや事業を始めることができる もう 1 つの方向性は市民から行政への情報提供とその情報や問題の市民間の共有である国民や市民の意見を聞くというだけではガバメント 20 ではない行政は市民からの情報に即応し即応できない場合には市民と情報を共有し場合によってはボランティアに対応を任せることも重要であるボランティアによる「Do It Ourselves 型」の公共事業または公共社会へと発展し市民と地方行政はより密接に連携することになる世界中の多くの市町村は「シークリックフィックス(SeeClickFix)」4)というアプリを利用して市民参加を促した上で行政サービスを向上させているこのような Do It Ourselves 型の公共政府もローカルガバメント 20 の 1 つの側面と言える

 世界各国の政府は政府が持つ情報やデータの開示およびオープン化を進めつつある具体的にはdatagov(米国)datagovuk(英国)datagovsg (シンガポール)datagovau(オーストラリア)である特に進んでいるのが図表 1 に示す米国の datagov5)で2013 年 4 月末時点で171 の行政機関が参加し373029 のデータセットと1209 のデータツールを提供しているまた312 のアプリと 137のモバイルアプリも提供している(7 月 2 日時点では75714 のデータセット137 のモバイルアプリと 349 の投稿アプリ295 の政府 API を提供している) 英 国 の datagovuk は2013 年 7 月 2 日 時 点 で9596 のデータセットが公開され投稿されたアプリも含め多数のアプリが提供されている天気情報や交通(事故)情報を取得するアプリが人気が高いシンガポールの datagovsg はキーワードを入力してデータセットを探す仕組みになっており最も良くダウンロードされているのは税収や予算関連のものであるオーストラリアの datagovau は114 の行政機関が参加し1126 のデータセットと 20 のアプリが提供されている

 データセットは加工や分析が可能なマシンリ ー ダ ブ ル な フ ォ ー マ ッ ト(CSV XLS XML RSS RDF など)で提供され利用者がデータセットを取得加工分析できるアプリも同時に提供されるまたAPI(Application Programming Interface)も公開されておりAPI を利用したデータの自動取得も可能であるもしAPI が公開されていなければ政府データを使った新たなサービスやビジネスを創造することは困難でありデータガバメントに利用できる様々なアプリすら開発できない単に政府データを公開するのではなく利用者が加工分析しやすい形でデータを提供することがデータガバメントにとって重要である 政府データを上手く利用している 1 つの実例は

(米)Wolfram Research 社がサービス提供している WolframbrvbarAlpha であろう6)「世界の知識を計算可能にする」ことを謳ったこのサービスは政府データを取り込み利用者が入力した様々な質問に答えてくれる例えば「米国で人口が多い都市は」とか「小麦の生産量は」などの質問にその答えを返すだけでなく関連する情報も提示してくれるこれは政府データがマシンリーダブルであるからできることである

 日本でもオープンガバメント化の流れは避けられず首相官邸の高度情報通信ネットワーク社会推

図表 1 米国の datagov

出典参考文献 5

日本の状況2-2

2 公共データのオープン化

世界各国のデータガバメント2-1

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20

進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

36

辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
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科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

8

護や改善を目的とした規制的政策が経済に与えるネガティブな影響について実際よりも拡大してあるいは経済面における利益との関係を考慮せずに論議される傾向があることを指摘した William A Pizer スタンフォード大学公共政策学部准教授は必ずしも相関が明らかではないにも関わらず特定の産業部門での雇用の悪化について規制が行われたことと関連付けて政策論議されまた他の産業における雇用効果について論じられない状況などを指摘した Cary Coglianese ペンシルバニア大学法学政治学教授は「何故政治は環境に関する規制は雇用を殺し研究者はそのようなことがないと言うのか」との表題により規制が競争力の低下をもたらす証拠はないにも関わらず人々がネガティブな影響があると考える背景について考察を加えた Richard Morgenstern 未来のための資源上級フェローは「環境に関する経済的分析の見通し」の表題により便益費用分析に基づくブッシュ政権とオバマ政権の政策決定における観点の相違について述べた

 フォーラムではedX や Coursera といった近年急激な展開を見せている大規模オンラインオープンコース(MOOC 23 )に関するセッションも設けられていた Anant Agarwal edX 会長マサチューセッツ工科大学電気工学コンピューター科学教授はedXは世界の人々がアクセスすることができる新たな教育機会であるとし154763 人の学生が登録し7157人が履修証明書の発行を受けるなどの数字を示したうえで学生が自発的に参加できるよう工夫された宿題や試験などその具体的なシステムについて説明を行った Wendy Newstetter ジョージア工科大学工学部教育研究イノベーション担当主任は教授法について伝統的な教室における教育実験など相互的な教育独立型の教育オンライン教育という区分を示しMOOC が独立型教育とオンライン教育の双方にまたがるものとしたうえで未だ教育学研究者の関心は薄く履修する学生のコンピテンス向上の観点から見るとその要件を満たしていない点が多いことを指摘した Kevin Werbach ペンシルバニア大学ウォートンスクール准教授はMOOC を通して実際に授業を行っ

 フォーラムの多くのセッションはいわゆる「科学のための政策」に関するものであったが科学的知見の(科学技術政策以外の)政策形成への反映すなわち「政策のための科学」に関するセッションも二つ設けられていた 「より良い政府のための科学的洞察」と題されたセッションは標題のとおり科学技術特に社会科学行動科学の知見をどのように政策形成の向上に活かすことができるかをテーマとしたものであった Case R Sunstein ハーバード大学ロースクール教授

(前大統領府情報規制室OIRA22 室長)は前職の OIRA における科学に基づく客観性独立性と大統領府経済諮問委員会とも協力した経済的価値の両面における活動について述べたうえで合理的な政策形成について受け手である一般の人々の認識の面も含め考えられるシステムについて具体的な例示を含めて説明した Arthur Lupia ミシガン大学社会研究所教授は異なるバックグラウンドを持つ人々における社会科学の価値について述べた「社会科学の価値は何であるか」ということと「資金配分を行うべき対象であるか」というふたつの疑問に関し信頼性(credibility)と正当性

(legitimacy)という二つの評価基準から説明を行ったそして講演の最後には最近の議会による NSF の社会科学研究への支出の禁止等の動きに対し社会科学研究が国家にもたらす価値の大きさについて語った 「環境に関する規制はどの程度経済を阻害するか」と題されたセッションはいずれの講演者も環境保

工科大学は今後も拡大する予定があるが博士人材等の点では遅れが見られる等の指摘を行った Jong-Guk Song 科学技術政策研究院(韓国)院長は「クリエイティブエコノミー」と名付けられた韓国の経済政策について報告した労働力供給の変化により今後経済成長の低下が見込まれる状況において他国に比べ韓国が劣っている起業を活発化させる等の政策的枠組みにいての内容であった Gary Goodyear カナダ科学技術担当国務大臣はカナダの科学技術活動の状況について研究開発投資と税制研究基盤宇宙部門物理学医療といった幅広い視点から報告したまた海外との関係について複数の世界的な水準の大学が世界中から人材を引き寄せていることや特に米国との間で緊密な科学技術協力が実施されていることを報告した

7 MOOC-大学の新たな教育モデル

6 科学的知見の政策形成への反映

9

緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 2013 年 3 月になって確定した 2013 年度歳出予算においては研究開発予算においても 5 パーセン

ト程度の歳出削減対象となったものも多くアカデミックコミュニティーにとって予算面で希望の持てる状況にはないしかしながら本フォーラムでは必ずしも予算削減は大きなテーマとなっていなかったその背景には厳しい予算状況が既に現実のものとなったことまたそのような状況にありながらオバマ政権が科学技術に関し手厚い支援を行う意向を示していることがあると考えられるそして参加者の関心はむしろ厳しい財政状況において例えばどのようなファンディングシステムが研究成果を高めるかなど研究開発システム全体に向けられているように感じられた

略称① AAASAmerican Association for the Advancement of Science② STEMScience Technology Engineering and Mathematics③ DARPADefense Advanced Research Projects Agency④ OSTPOffice of Science and Technology Policy⑤ NSFNational Science Foundation⑥ DOEDepartment of Energy⑦ NISTNational Institute of Standards and Technology⑧ NASANational Aeronautics and Space Administration⑨アメリカ COMPETES再授権法America Creating Opportunities to Meaningfully Promote Excellence

in TechnologyEducation and Science Reauthorization Act of 2010 (America COMPETES Reauthorization Act of 2010)

⑩ USGCRPUS Global Change Research Program⑪ NIHNational Institutes of Health⑫ ARPAAdvanced Research Projects Agency⑬ USDADepartment of Agriculture⑭ NCATSNational Center for Advancing Translational Sciences⑮ BRAINBrain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies⑯ CRADACooperative Research and Development Agreement⑰ ATIPAgricultural Technology Innovation Partnership ⑱ CAPCoordinating Agriculture Projects⑲ LTARLong-Term Agroecosystem Research⑳ BRCsBioenergy Research Centers 21 EFRCEnergy Frontier Research Centers 22 OIRAOffice of Information and Regulatory Affairs23 MOOCsMassive open online courses

1) AAAS Forum on Science amp Technology Policy 2013 年 6 月 12 日httpwwwaaasorgspprdforum2) Office of Science and Technology Policy (OSTP) RampD Budgets 2013 年 6 月 12 日

httpwwwwhitehousegovadministrationeopostprdbudgets3) 2013 年度歳出予算法(Consolidated and Further Continuing Appropriations Act 2013) 2013 年 6 月 12 日

httpwwwgpogovfdsyspkgPLAW-113publ6htmlPLAW-113publ6htm

た教員の立場からこの取り組みが非常に興味深いものであり世界中の学生に対しこれまでなかった教育機会を提供するものであるとしたうえで研究を通した人材育成など MOOC では困難なことや費用教員の資質等の検討課題について言及した

8 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

10

出典NISTEP REPORT No153 科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP 定点調査 2012)2013 年 4 月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacebitstream1103511931NISTEP-NR153-FullJpdf

遠藤 悟科学技術動向研究センター 客員研究官httphomepage1niftycombicycletoursci-indexhtm

研究対象は米国を中心とした科学政策2000年に「米国の科学政策」HPを開設し政策動向を発信している近年は科学と社会の関係や高等教育等にも対象を拡大している

4) 科学アカデミー創立 150 周年式典でのオバマ大統領の発言(Remarks by the President on the 150th Anniversary of the National Academy of Sciences) 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovthe-press-office20130429remarks-president-150th-anniversary-national-academy-sciences

5) The 2014 Budget A World-Leading Commitment to Science amp Research 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostp2014_RampDbudget_overviewpdf

NISTEP 定点調査からみる我が国の研究開発資金の状況科学技術学術政策研究所では第 4 期科学技術基本計画期間中の我が国における科学技術やイノベーションの状況変化を把握するため産学官の研究者や有識者への意識定点調査(NISTEP 定点調査)を2011 年度より実施しています以下の図は第 2 回となる 2012 年度の調査における研究費に関する意識調査の結果ですが科学技術に関する政府予算(Q2-16)や基盤的経費(Q1-18)については多くの機関の研究者が前年と同様「不充分との強い認識(雨マーク)」または「著しく不充分との認識(雷マーク)」を持っているようです特に国内論文シェアが 1〜5 の規模である第 2 グループの大学に所属する研究者は「著しく不充分との認識」を持っていることがわかります米国連邦政府の予算はその時々の政策や財政事情により上昇下降の変化が見られますが我が国の研究者にとって研究予算は低空飛行を続けているという印象のようです

執筆者プロフィール

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

概  要

科学研究の投資効果測定を目指す米国のSTAR METRICS事業の現状と今後の見通し

 国際競争力の確保や社会的課題解決のために科学技術によるイノベーションへの期待が高まる中公

 政府の科学投資が雇用知識創造健康などにどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するための情報基盤を整備する米国の事業(STAR METRICS)は科学投資の社会的なインパクト測定手法を幅広く開発することからオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の方向性に沿う形で連邦政府の競争的資金に関する省庁横断的なデータ基盤整備を図る方向に事業目標を修正している事業の第一段階では人事データに限って連邦政府の科学研究投資の労働誘発効果を検証するためにデータを蓄積可視化するシステムが構築された現在の第二段階では引き続き国立衛生研究所(NIH)がホスト機関となりインプットとアウトプットのデータに重点を置いてデータ蓄積と分析システムを開発中であるSTAR METRICSは参加機関の財務情報や研究活動の経営分析ベンチマーキングや連邦政府機関のファンディング業務での利用など現場の実情を踏まえた政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積を進めるとみられる

キーワード政策のための科学研究評価公的研究開発投資オープンガバメントIR(Institutional Research)

白川 展之 上席研究官

的研究開発投資がどのような成果を産みまた今後産み出す可能性を持つかを科学的根拠に基づき評価し政策過程に反映する社会的要請が各国で高まっている日本でも文部科学省では 2011 年度から「科学技術イノベーション政策における『政策のため

表 1 事業開始までの経緯

科学技術動向研究

出典文部科学省作成資料(参考文献 3)およびAPDU News Letter(参考文献 4)をもとに科学技術動向研究センターにて作成

1 はじめに

STT136_レポート2(web用に修正)indd 11STT136_レポート2(web用に修正)indd 11 130712 1557130712 1557

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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STAR METRICS とは2-1

 STAR METRICS とはldquoScience and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effect of Research on Innovation Competitiveness and Sciencerdquoの頭字であり連邦政府による科学への投資が雇用知識創造保健などにどのような影響効果(インパクト)を及ぼしたかを測定するデータ基盤および分析ツール等の整備構築を図る事業である連邦政府大学その他機関の連携のもとに実施することから「省庁横断的なベンチャー的事業」とも表現されている

根拠法令等2-2

 本事業開始当初の目的は米国再生再投資法(ARRA①)において同法に基づく科学投資の支出景気刺激効果について納税者に対する説明責任を果たすためと説明されていたこれに加えて2009 年 1 月 21 日付けのオ-プンガバメントに関する大統領覚書(Presidential Memorandum on Transparency and Open Government)と2009年 12 月 8 日付けの行政管理予算局覚書(Office of Management and Budget Memorandum)にも事業実施の根拠を求めているこの前者のオ-プンガバメントに関する大統領覚書は省庁がオンライン上で情報を取得ダウンロード検索されうる一般的

事業の参加機関数とデータ収集の範囲3-1

 連邦政府では大統領行政府科学技術政策局(OSTP③)国立科学財団(NSF④)国立保健研究所(NIH⑤ )が STAR METRICS のリード機関となったこれに大学で研究開発に関わる職員(研究者管理者等)と省庁が連携して研究開発推進の効率化調整を図るイニシアティブである FDP⑥と一部の高等教育機関がパートナーとなり2010 年1 月にパイロット事業を開始したパイロット事業では 2011 年 7 月まで方法論の開発実証継続的改善に取り組むとともに競争的研究資金のファンディングを行う政府機関や高等教育機関に対しプロジェクトへの参加を呼びかけるアウトリーチ普及活動にも積極的に取り組んだNSF の科学政策のための科学の研究助成事業(SciSIP⑦)の初代プログラムディレクターを務めこの事業の立ち上げにも尽力した Julia Lane 氏は安全保障上の機密の存在から情報公開が難しい国防総省(DOD⑧)に対してもプロジェクト参加の提案を行うなど省庁学協会等に対し働きかけた こうした省庁横断的な事業普及の取り組みは一定の成果を見せFDP の他に全米の有力な研究型大学の団体である全米大学協会(AAU⑨)と公立ランドグラント大学協会(APLU⑩)からの協力もあり参画研究機関大学は 2010 年 10 月の正式な事業発足の段階で 86 機関となった連邦政府機関では環境保護庁(EPA⑪)農務省(USDA⑫)エネルギー省(DOE⑬)を加えた合計 6 機関が参加協力を得たこの結果これら参加協力機関のすべてのデータが得られた場合金額ベースで NIH の研究助成額の 3 分の 1参加協力機関の合計では金額ベースで連邦政府全体の科学研究助成半分以上をカバーするデータ収集を狙える体制となった

の科学』推進事業」を実施している米国では 2005年にマーバーガー前科学担当大統領補佐官が「科学政策の科学化」を目指しデータモデルとコミュニティ開発を図る「科学政策のための科学」を提唱して以来各国に先駆けて省庁間連携や公募型研究開発プログラムや情報基盤の整備を推進してきた 本稿では米国政府による科学への投資がどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するため開始された事業(STAR METRICS)についてこれまでの事業展開や今後の見通しを紹介する

なデータ形式で公開する旨を定めたものであるまた後者の行政管理予算局覚書では情報自由法

(FOIR②)の義務付け範囲を超えて有益な情報を積極的に普及させるために先進的な技術を各省庁が利用するよう推奨している

2 事業概要

3 事業の進捗推移

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

表 2 STAR METRICS の計画目標の推移

事業推進体制の変更強化3-2

 2011 年 10 月に NIH がホスト機関となり2012年 1 月には本事業の新たな段階への移行を見据えて執行体制を刷新したエクゼクティブコミッティーと機関横断ワーキンググループの 2 層の省庁機関間の連携組織のもとホスト機関の NIH の責任者がNIH(2 名)および NSF(1 名)のプログラムマネージャーを統括する事業推進体制としたデータシステム整備等の実務的な作業は技術プロジェクトマネージャー(プログラムマネージャーと兼任)がさらにその下に置かれシステム開発を行う業務委託先のベンダーとのプロジェクト進行管理を行っている 事業の実質的な進展を図るこうした体制変更はNIH の連邦政府における科学投資の予算額のシェアの大きさとその組織能力ノウハウを反映した結果とみられるNIH は米国再生再投資法

(ARRA)における科学研究投資額が最も多かった何よりNIH には根拠に基づく医療(EBM⑭)に不可欠の情報基盤となっている学術文献データベース PubMed を実質的に運営注 1)するなどライフイノベーション関連の各種データベースを学術文献のオープンアクセス化といった学術情報流通政策とともに強力に牽引実施してきた実績がある ただしNIH の担当部署ではSTAR METRICS

の情報システムの開発は付随的業務の位置付けで実施しているしかし事業のシステム開発調整には相当の人役エフォートが必要で実質的にはフルタイムの人員が複数張り付く状態だという

事業目標の変更修正3-3

 STAR METRICS で は 大 変 な 試 行 錯 誤 の 末に 2012 年 4 月に事業目標が修正された当初はフェーズ 1 とフェーズ 2 という 2 段階の計画がレベル 1 とレベル 2 という 2 段階に分けてデータ基盤とツールの整備を行う計画に変更されている(表 2)連邦政府による科学投資の社会的インパクト測定手法の開発という政策科学として挑戦的な目標を掲げた当初の事業目標から先進的技術を活用した政府情報の公開のためのデータフローを蓄積分析する科学技術学術情報関連の実用的な基盤整備事業へと現実的な方向に軌道修正を図ったとみられる この結果科学政策の透明性を確保するための情報基盤の構築データ蓄積を図るという変更後の事業目標設定はオープンデータオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の下で一定の位置付けを得る整理になっている

注1 NIH に国立医学図書館(NLM⑮)の一部門の国立生物工学情報センター(NCBI⑯)が置かれPubMed が運営されている

出典所期の事業計画の表現については(参考文献 5)から修正された目標については(参考文献 1)をもとに科学技術動向センターにて作成

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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 レベル 1 のデータ整備では現場の過度の事務負担を避けるために整理正規化を行うデータは競争的資金の種目被雇用者の種別(研究員研究補助者等の区分)業務従事割合(フルタイム換算データ)や間接経費込みの人件費総額など人事関連の 14 項目に限定された参加研究機関はデータポリシーに従ったフォーマットで 4 半期毎にデータを提出するとデータの質の確認処理の後レポートが返される仕組みである 以下の図 1 及び図 2 にはこれまでの事業の成果例を示す 図 1 は開発されたシステムと収集されたデータによる連邦レベルでの成果例であるここではレベル 1 の事業に参画した機関数について州別に可視化されている図 2 は参加機関地域レベルの成果例である図 2 ではインディアナ州の参加機関である Purdue 大学と Indiana 大学に関する 2011財政年度における連邦科学投資による雇用誘発効果に関する情報について可視化した例である

図 1 レベル 1 の成果例(1)STAR METRICS に参加している州別機関数

図 2 レベル 1 の成果例(2)インディアナ州における連邦科学投資のもたらす雇用誘発効果大学キャンパス別の被雇用数の可視化

出典参考文献 1 出典参考文献 2

 現在実施中のレベル 2 の目標は連邦政府所管のファンディングエージェンシーの科学研究助成に関して幅広い範囲のインプットおよびアウトプットに焦点を置いたデータを連邦政府機関とその他の利害関係者に対し提供することである機関レベルの

合意のもとNIH がEPANIHNSFUSDA のデータを収集し他の参画 3 機関はデータベース構築に際して概念実証に必要な協力を行う現在技術的実装計画を策定しパイロット版のシステムを開発中であり構築テスト修正が繰り返されている データ整備はアウトカムよりも予算配分とアウトプットのリンクに重点が置かれているこれまでのところ2012 年財政年度を中心として参加協力 6 機関の 7 万 6 千件の助成プロジェクトがウェブベースで開発したデータシステムに入力され財政年度助成機関州群等の位置等のデータ項目やプロジェクトの概要結果等が検索可能になっている技術的課題としてはデータ整備上はテキスト検索下院選挙区別検索機関プロジェクト等詳細情報との接続などが挙げられている特に政策形成過程での実際的な利用を想定して下院選挙区別検索のためのデータの付加が重要な取り組み事項とされている システム運用では機関の実情と個人情報の保護に配慮しつつ政府の科学投資の透明性を高める方針である研究者個人の給与など個人情報や人事業績評価とも直結するデータが蓄積されていることから機微に触れる情報と公開すべき情報を層別し連邦政府機関関係者のみにアクセス制限を設けるなどの運用を考えているという一方参加機関大学の側では大学運営上の評価意思決定計画策定支援を行う情報分析である IR⑰と事務システムの合理化の観点から開発を進めている財務情報や研究活動のベンチマーキングを行う測定評価手法やそのレポートの様式を共同で開発するほかオープンソースのソフトウェアを用いた大学間でのソースコードの共用化などが検討されている こうした状況からSTAR METRICS の今後は

4 これまで(レベル 1)の事業成果

5 今後(レベル 2)の状況見通し

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

図 3 成果実装イメージ例外部研究資金による下院選挙区別雇用誘発効果(Purdue 大学および Indiana 大学)

出典参考文献 2

1) Update on the State of STAR METRICS George ChackohttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811642) STAR Metrics Data Consistency Marietta HarrisonhttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811643) 科学技術学術審議会総会(第 36 回)平成 23 年 5 月 31 日資料 1「科学技術イノベーション政策のための「政策のため

の科学」の推進について」httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu0shiryo__icsFilesafieldfile201107011307169_01pdf

4) Science and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effects of Research on Innovation Competitiveness and Science (STAR METRICS) George Chacko etal Association of Public Data Users NewsletterhttpwwwamstatorgmiscNewsletterArticleSTAR_METRICShtm

5) 遠藤悟ホームページ「米国の科学政策」STAR METRICShttphomepage1niftycombicycletoursci-ronstar_metricshtm

幅広い国民利害関係者への説明責任を果たすための科学投資の社会経済的効果の測定の方法論開発を長期的視野に入れつつも連邦政府機関がファンディング業務の際に利用できる現場の実情を踏まえた実用的な政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積が進むものとみられる

謝辞 この種の政策効果(インパクト)を測定する困難性試行錯誤は世界共通である公開資料ではわかりにくい点も多い本稿の執筆に際し関係者のコメントやそのニュアンスも含め有用な情報提供助言をいただいた(独)新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)ワシントン事務所新川達也前所長(現経済産業省資源エネルギー庁電力ガス事業部原子力発電所事故収束対応室長)前野武史副所長に御礼申し上げる

略称① ARRAAmerican Recovery and Reinvestment Act of 2009② FOIRFreedom of Information Act③ OSTPWhite House Office of Science and Technology Policy④ NSFNational Science Foundation⑤ NIHNational Institute of Health⑥ FDPFederal Demonstration Partnership⑦ SciSIPScience of Science amp Innovation Policy program⑧ DODUnited States Department of Defense⑨ AAUthe Association of American Universities⑩ APLUthe Association of Public and Land Grant Universities⑪ EPAEnvironmental protection Agency⑫ USDAUnited States Department of Agriculture⑬ DOEUnited States Department of Energy⑭ EBMEvidence-based medicine⑮ NLMNational Library of Medicine⑯ NCBINational Center for Biotechnology Information⑰ IRInstitutional Research

参考文献

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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6) Contact Kevin Boatright Office of Research amp Graduate Studies 785-864-7240 Associate vice chancellor accepts visiting assignment with the National Science Foundation May 21 2012httparchivenewskuedu2012may21rosenbloomshtml

7) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Presidential Memorandum on Transparency and Open Government (Jan 21 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_fy2009m09-12pdf

8) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Open Government Directive(Dec 8 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-08pdf

9) RESEARCH INSTITUTION PARTICIPATION GUIDE in STAR METRICS websitehttpswwwstarmetricsnihgovStarParticipatecalculatingjobs

10) Science and Technology Priorities for the FY 2012 Budget(July 21 2010)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-30pdf

白川 展之科学技術情報分析ユニット 上席研究官httpwwwnistepgojp

広島県職員を経て研究者に2008年 9月より現職科学技術予測などに従事専門はイノベーション政策公共経営評価農業から保健医療など幅広い分野の技術マネジメント産学連携の経験から科学技術にとどまらない幅広いイノベーションを研究

執筆者プロフィール

コラム

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

イノベーション政策のデータ基盤に関する日本での議論 科学技術学術政策研究所では文部科学省の科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環としてエビデンスに基づく科学技術イノベーション政策の基礎となる体系的なデータ情報基盤の構築を進めている多くの専門家が指摘している重要課題はミクロデータの利用複数データベースの接続の 2 点であるつまり各種政策の効果の分析や大学等における研究開発の構造的な分析には従来の集計データのみでは不十分でありミクロデータ利用のニーズが非常に大きいまた複数のデータベースを用いた横断的な分析の必要性からデータベースの接続に大きな関心が寄せられているさらにデータ情報基盤構築が政策評価に役立つ意義とともにデータ情報基盤の構築に際して研究者と政策担当者の相互交流と国際的な交流が不可欠との指摘が出されている

出典NISTEP NOTE(政策のための科学)No3「科学技術イノベーション政策のための科学」におけるデータ情報基盤

構築の推進に関する検討2012 年 11 月科学技術政策研究所 科学技術基盤調査研究室

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

 世界各国の政府は情報やデータの開示およびオープン化を進めており実際に各国でデータガバメント「datagov」が稼働し始めた日本でも日本再興戦略1)の一環として2013 年度末までには日本版 datagov を試行的に立ち上げ2014 年度初めから本格稼働を予定しているしかしdatagov の背景や本質を理解した上で事業を進めなければ決して有用なものとはならないそれには「ガバメント 20」というキーワードが参考になる ガバメント 20 とは(米)オライリーメディア社の創設者 Tim OrsquoReilly 氏が 2009 年に提唱した概念であり彼の主張は「政府はプラットホーム化しなければならない」ということである2)情報通信分野で決定的な勝者になったのはプラットホーム企業である例えばMicrosoft 社は会社や家庭にパソコンを普及させGoogle 社は広告収入で運営され

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

キーワードマシンリーダブル公共データオープンデータデータツールデータシティ鯖江

市口 恒雄 特別研究員

る膨大なスタートアップ企業群を生み出しApple社はアプリ開発の企業を生み出して携帯電話の価値を高めたこれらの企業は「第三者に新たな挑戦の場を与える」ことにより成功したつまり政府のプラットホーム化とは「IT 技術によって国民や市民そして行政に新たな挑戦の場を与えること」である ガバメント 20 は電子政府のことかと言えば決してそうではない単なる IT 化では国民や市民に新たな挑戦の場を与えることはできないからであるそれではガバメント 20 とは具体的にどのようなことであり我々はどの様にそれを実現すれば良いのであろうか 実現のための 1 つの方向性は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく市民が積極的に利用できる webサービスを提供しなければならない米国オバマ大統領は2009 年の就任時にオープンガバメントに対して「透明性」(transparent)「国民参加」

(participatory)「協業」(collaborative)という 3

科学技術動向研究

概  要

1 はじめに―ガバメント 20実現への 2 つ方向性

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

原則を示した3)この様な背景から生まれたのがdatagav でありガバメント 20 の 1 つの形態であるデータは加工可能な形で提供されるので国民はそのデータを使って新たなサービスや事業を始めることができる もう 1 つの方向性は市民から行政への情報提供とその情報や問題の市民間の共有である国民や市民の意見を聞くというだけではガバメント 20 ではない行政は市民からの情報に即応し即応できない場合には市民と情報を共有し場合によってはボランティアに対応を任せることも重要であるボランティアによる「Do It Ourselves 型」の公共事業または公共社会へと発展し市民と地方行政はより密接に連携することになる世界中の多くの市町村は「シークリックフィックス(SeeClickFix)」4)というアプリを利用して市民参加を促した上で行政サービスを向上させているこのような Do It Ourselves 型の公共政府もローカルガバメント 20 の 1 つの側面と言える

 世界各国の政府は政府が持つ情報やデータの開示およびオープン化を進めつつある具体的にはdatagov(米国)datagovuk(英国)datagovsg (シンガポール)datagovau(オーストラリア)である特に進んでいるのが図表 1 に示す米国の datagov5)で2013 年 4 月末時点で171 の行政機関が参加し373029 のデータセットと1209 のデータツールを提供しているまた312 のアプリと 137のモバイルアプリも提供している(7 月 2 日時点では75714 のデータセット137 のモバイルアプリと 349 の投稿アプリ295 の政府 API を提供している) 英 国 の datagovuk は2013 年 7 月 2 日 時 点 で9596 のデータセットが公開され投稿されたアプリも含め多数のアプリが提供されている天気情報や交通(事故)情報を取得するアプリが人気が高いシンガポールの datagovsg はキーワードを入力してデータセットを探す仕組みになっており最も良くダウンロードされているのは税収や予算関連のものであるオーストラリアの datagovau は114 の行政機関が参加し1126 のデータセットと 20 のアプリが提供されている

 データセットは加工や分析が可能なマシンリ ー ダ ブ ル な フ ォ ー マ ッ ト(CSV XLS XML RSS RDF など)で提供され利用者がデータセットを取得加工分析できるアプリも同時に提供されるまたAPI(Application Programming Interface)も公開されておりAPI を利用したデータの自動取得も可能であるもしAPI が公開されていなければ政府データを使った新たなサービスやビジネスを創造することは困難でありデータガバメントに利用できる様々なアプリすら開発できない単に政府データを公開するのではなく利用者が加工分析しやすい形でデータを提供することがデータガバメントにとって重要である 政府データを上手く利用している 1 つの実例は

(米)Wolfram Research 社がサービス提供している WolframbrvbarAlpha であろう6)「世界の知識を計算可能にする」ことを謳ったこのサービスは政府データを取り込み利用者が入力した様々な質問に答えてくれる例えば「米国で人口が多い都市は」とか「小麦の生産量は」などの質問にその答えを返すだけでなく関連する情報も提示してくれるこれは政府データがマシンリーダブルであるからできることである

 日本でもオープンガバメント化の流れは避けられず首相官邸の高度情報通信ネットワーク社会推

図表 1 米国の datagov

出典参考文献 5

日本の状況2-2

2 公共データのオープン化

世界各国のデータガバメント2-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

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 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

27

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

28

 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

29

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

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米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
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  • 科学技術7月号レポート4
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  • 科学技術7月号研究成果公表
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緊縮財政下における科学技術と社会との関係の変化

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 2013 年 3 月になって確定した 2013 年度歳出予算においては研究開発予算においても 5 パーセン

ト程度の歳出削減対象となったものも多くアカデミックコミュニティーにとって予算面で希望の持てる状況にはないしかしながら本フォーラムでは必ずしも予算削減は大きなテーマとなっていなかったその背景には厳しい予算状況が既に現実のものとなったことまたそのような状況にありながらオバマ政権が科学技術に関し手厚い支援を行う意向を示していることがあると考えられるそして参加者の関心はむしろ厳しい財政状況において例えばどのようなファンディングシステムが研究成果を高めるかなど研究開発システム全体に向けられているように感じられた

略称① AAASAmerican Association for the Advancement of Science② STEMScience Technology Engineering and Mathematics③ DARPADefense Advanced Research Projects Agency④ OSTPOffice of Science and Technology Policy⑤ NSFNational Science Foundation⑥ DOEDepartment of Energy⑦ NISTNational Institute of Standards and Technology⑧ NASANational Aeronautics and Space Administration⑨アメリカ COMPETES再授権法America Creating Opportunities to Meaningfully Promote Excellence

in TechnologyEducation and Science Reauthorization Act of 2010 (America COMPETES Reauthorization Act of 2010)

⑩ USGCRPUS Global Change Research Program⑪ NIHNational Institutes of Health⑫ ARPAAdvanced Research Projects Agency⑬ USDADepartment of Agriculture⑭ NCATSNational Center for Advancing Translational Sciences⑮ BRAINBrain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies⑯ CRADACooperative Research and Development Agreement⑰ ATIPAgricultural Technology Innovation Partnership ⑱ CAPCoordinating Agriculture Projects⑲ LTARLong-Term Agroecosystem Research⑳ BRCsBioenergy Research Centers 21 EFRCEnergy Frontier Research Centers 22 OIRAOffice of Information and Regulatory Affairs23 MOOCsMassive open online courses

1) AAAS Forum on Science amp Technology Policy 2013 年 6 月 12 日httpwwwaaasorgspprdforum2) Office of Science and Technology Policy (OSTP) RampD Budgets 2013 年 6 月 12 日

httpwwwwhitehousegovadministrationeopostprdbudgets3) 2013 年度歳出予算法(Consolidated and Further Continuing Appropriations Act 2013) 2013 年 6 月 12 日

httpwwwgpogovfdsyspkgPLAW-113publ6htmlPLAW-113publ6htm

た教員の立場からこの取り組みが非常に興味深いものであり世界中の学生に対しこれまでなかった教育機会を提供するものであるとしたうえで研究を通した人材育成など MOOC では困難なことや費用教員の資質等の検討課題について言及した

8 おわりに

参考文献

コラム

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出典NISTEP REPORT No153 科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP 定点調査 2012)2013 年 4 月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacebitstream1103511931NISTEP-NR153-FullJpdf

遠藤 悟科学技術動向研究センター 客員研究官httphomepage1niftycombicycletoursci-indexhtm

研究対象は米国を中心とした科学政策2000年に「米国の科学政策」HPを開設し政策動向を発信している近年は科学と社会の関係や高等教育等にも対象を拡大している

4) 科学アカデミー創立 150 周年式典でのオバマ大統領の発言(Remarks by the President on the 150th Anniversary of the National Academy of Sciences) 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovthe-press-office20130429remarks-president-150th-anniversary-national-academy-sciences

5) The 2014 Budget A World-Leading Commitment to Science amp Research 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostp2014_RampDbudget_overviewpdf

NISTEP 定点調査からみる我が国の研究開発資金の状況科学技術学術政策研究所では第 4 期科学技術基本計画期間中の我が国における科学技術やイノベーションの状況変化を把握するため産学官の研究者や有識者への意識定点調査(NISTEP 定点調査)を2011 年度より実施しています以下の図は第 2 回となる 2012 年度の調査における研究費に関する意識調査の結果ですが科学技術に関する政府予算(Q2-16)や基盤的経費(Q1-18)については多くの機関の研究者が前年と同様「不充分との強い認識(雨マーク)」または「著しく不充分との認識(雷マーク)」を持っているようです特に国内論文シェアが 1〜5 の規模である第 2 グループの大学に所属する研究者は「著しく不充分との認識」を持っていることがわかります米国連邦政府の予算はその時々の政策や財政事情により上昇下降の変化が見られますが我が国の研究者にとって研究予算は低空飛行を続けているという印象のようです

執筆者プロフィール

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

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概  要

科学研究の投資効果測定を目指す米国のSTAR METRICS事業の現状と今後の見通し

 国際競争力の確保や社会的課題解決のために科学技術によるイノベーションへの期待が高まる中公

 政府の科学投資が雇用知識創造健康などにどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するための情報基盤を整備する米国の事業(STAR METRICS)は科学投資の社会的なインパクト測定手法を幅広く開発することからオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の方向性に沿う形で連邦政府の競争的資金に関する省庁横断的なデータ基盤整備を図る方向に事業目標を修正している事業の第一段階では人事データに限って連邦政府の科学研究投資の労働誘発効果を検証するためにデータを蓄積可視化するシステムが構築された現在の第二段階では引き続き国立衛生研究所(NIH)がホスト機関となりインプットとアウトプットのデータに重点を置いてデータ蓄積と分析システムを開発中であるSTAR METRICSは参加機関の財務情報や研究活動の経営分析ベンチマーキングや連邦政府機関のファンディング業務での利用など現場の実情を踏まえた政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積を進めるとみられる

キーワード政策のための科学研究評価公的研究開発投資オープンガバメントIR(Institutional Research)

白川 展之 上席研究官

的研究開発投資がどのような成果を産みまた今後産み出す可能性を持つかを科学的根拠に基づき評価し政策過程に反映する社会的要請が各国で高まっている日本でも文部科学省では 2011 年度から「科学技術イノベーション政策における『政策のため

表 1 事業開始までの経緯

科学技術動向研究

出典文部科学省作成資料(参考文献 3)およびAPDU News Letter(参考文献 4)をもとに科学技術動向研究センターにて作成

1 はじめに

STT136_レポート2(web用に修正)indd 11STT136_レポート2(web用に修正)indd 11 130712 1557130712 1557

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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STAR METRICS とは2-1

 STAR METRICS とはldquoScience and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effect of Research on Innovation Competitiveness and Sciencerdquoの頭字であり連邦政府による科学への投資が雇用知識創造保健などにどのような影響効果(インパクト)を及ぼしたかを測定するデータ基盤および分析ツール等の整備構築を図る事業である連邦政府大学その他機関の連携のもとに実施することから「省庁横断的なベンチャー的事業」とも表現されている

根拠法令等2-2

 本事業開始当初の目的は米国再生再投資法(ARRA①)において同法に基づく科学投資の支出景気刺激効果について納税者に対する説明責任を果たすためと説明されていたこれに加えて2009 年 1 月 21 日付けのオ-プンガバメントに関する大統領覚書(Presidential Memorandum on Transparency and Open Government)と2009年 12 月 8 日付けの行政管理予算局覚書(Office of Management and Budget Memorandum)にも事業実施の根拠を求めているこの前者のオ-プンガバメントに関する大統領覚書は省庁がオンライン上で情報を取得ダウンロード検索されうる一般的

事業の参加機関数とデータ収集の範囲3-1

 連邦政府では大統領行政府科学技術政策局(OSTP③)国立科学財団(NSF④)国立保健研究所(NIH⑤ )が STAR METRICS のリード機関となったこれに大学で研究開発に関わる職員(研究者管理者等)と省庁が連携して研究開発推進の効率化調整を図るイニシアティブである FDP⑥と一部の高等教育機関がパートナーとなり2010 年1 月にパイロット事業を開始したパイロット事業では 2011 年 7 月まで方法論の開発実証継続的改善に取り組むとともに競争的研究資金のファンディングを行う政府機関や高等教育機関に対しプロジェクトへの参加を呼びかけるアウトリーチ普及活動にも積極的に取り組んだNSF の科学政策のための科学の研究助成事業(SciSIP⑦)の初代プログラムディレクターを務めこの事業の立ち上げにも尽力した Julia Lane 氏は安全保障上の機密の存在から情報公開が難しい国防総省(DOD⑧)に対してもプロジェクト参加の提案を行うなど省庁学協会等に対し働きかけた こうした省庁横断的な事業普及の取り組みは一定の成果を見せFDP の他に全米の有力な研究型大学の団体である全米大学協会(AAU⑨)と公立ランドグラント大学協会(APLU⑩)からの協力もあり参画研究機関大学は 2010 年 10 月の正式な事業発足の段階で 86 機関となった連邦政府機関では環境保護庁(EPA⑪)農務省(USDA⑫)エネルギー省(DOE⑬)を加えた合計 6 機関が参加協力を得たこの結果これら参加協力機関のすべてのデータが得られた場合金額ベースで NIH の研究助成額の 3 分の 1参加協力機関の合計では金額ベースで連邦政府全体の科学研究助成半分以上をカバーするデータ収集を狙える体制となった

の科学』推進事業」を実施している米国では 2005年にマーバーガー前科学担当大統領補佐官が「科学政策の科学化」を目指しデータモデルとコミュニティ開発を図る「科学政策のための科学」を提唱して以来各国に先駆けて省庁間連携や公募型研究開発プログラムや情報基盤の整備を推進してきた 本稿では米国政府による科学への投資がどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するため開始された事業(STAR METRICS)についてこれまでの事業展開や今後の見通しを紹介する

なデータ形式で公開する旨を定めたものであるまた後者の行政管理予算局覚書では情報自由法

(FOIR②)の義務付け範囲を超えて有益な情報を積極的に普及させるために先進的な技術を各省庁が利用するよう推奨している

2 事業概要

3 事業の進捗推移

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

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表 2 STAR METRICS の計画目標の推移

事業推進体制の変更強化3-2

 2011 年 10 月に NIH がホスト機関となり2012年 1 月には本事業の新たな段階への移行を見据えて執行体制を刷新したエクゼクティブコミッティーと機関横断ワーキンググループの 2 層の省庁機関間の連携組織のもとホスト機関の NIH の責任者がNIH(2 名)および NSF(1 名)のプログラムマネージャーを統括する事業推進体制としたデータシステム整備等の実務的な作業は技術プロジェクトマネージャー(プログラムマネージャーと兼任)がさらにその下に置かれシステム開発を行う業務委託先のベンダーとのプロジェクト進行管理を行っている 事業の実質的な進展を図るこうした体制変更はNIH の連邦政府における科学投資の予算額のシェアの大きさとその組織能力ノウハウを反映した結果とみられるNIH は米国再生再投資法

(ARRA)における科学研究投資額が最も多かった何よりNIH には根拠に基づく医療(EBM⑭)に不可欠の情報基盤となっている学術文献データベース PubMed を実質的に運営注 1)するなどライフイノベーション関連の各種データベースを学術文献のオープンアクセス化といった学術情報流通政策とともに強力に牽引実施してきた実績がある ただしNIH の担当部署ではSTAR METRICS

の情報システムの開発は付随的業務の位置付けで実施しているしかし事業のシステム開発調整には相当の人役エフォートが必要で実質的にはフルタイムの人員が複数張り付く状態だという

事業目標の変更修正3-3

 STAR METRICS で は 大 変 な 試 行 錯 誤 の 末に 2012 年 4 月に事業目標が修正された当初はフェーズ 1 とフェーズ 2 という 2 段階の計画がレベル 1 とレベル 2 という 2 段階に分けてデータ基盤とツールの整備を行う計画に変更されている(表 2)連邦政府による科学投資の社会的インパクト測定手法の開発という政策科学として挑戦的な目標を掲げた当初の事業目標から先進的技術を活用した政府情報の公開のためのデータフローを蓄積分析する科学技術学術情報関連の実用的な基盤整備事業へと現実的な方向に軌道修正を図ったとみられる この結果科学政策の透明性を確保するための情報基盤の構築データ蓄積を図るという変更後の事業目標設定はオープンデータオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の下で一定の位置付けを得る整理になっている

注1 NIH に国立医学図書館(NLM⑮)の一部門の国立生物工学情報センター(NCBI⑯)が置かれPubMed が運営されている

出典所期の事業計画の表現については(参考文献 5)から修正された目標については(参考文献 1)をもとに科学技術動向センターにて作成

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 レベル 1 のデータ整備では現場の過度の事務負担を避けるために整理正規化を行うデータは競争的資金の種目被雇用者の種別(研究員研究補助者等の区分)業務従事割合(フルタイム換算データ)や間接経費込みの人件費総額など人事関連の 14 項目に限定された参加研究機関はデータポリシーに従ったフォーマットで 4 半期毎にデータを提出するとデータの質の確認処理の後レポートが返される仕組みである 以下の図 1 及び図 2 にはこれまでの事業の成果例を示す 図 1 は開発されたシステムと収集されたデータによる連邦レベルでの成果例であるここではレベル 1 の事業に参画した機関数について州別に可視化されている図 2 は参加機関地域レベルの成果例である図 2 ではインディアナ州の参加機関である Purdue 大学と Indiana 大学に関する 2011財政年度における連邦科学投資による雇用誘発効果に関する情報について可視化した例である

図 1 レベル 1 の成果例(1)STAR METRICS に参加している州別機関数

図 2 レベル 1 の成果例(2)インディアナ州における連邦科学投資のもたらす雇用誘発効果大学キャンパス別の被雇用数の可視化

出典参考文献 1 出典参考文献 2

 現在実施中のレベル 2 の目標は連邦政府所管のファンディングエージェンシーの科学研究助成に関して幅広い範囲のインプットおよびアウトプットに焦点を置いたデータを連邦政府機関とその他の利害関係者に対し提供することである機関レベルの

合意のもとNIH がEPANIHNSFUSDA のデータを収集し他の参画 3 機関はデータベース構築に際して概念実証に必要な協力を行う現在技術的実装計画を策定しパイロット版のシステムを開発中であり構築テスト修正が繰り返されている データ整備はアウトカムよりも予算配分とアウトプットのリンクに重点が置かれているこれまでのところ2012 年財政年度を中心として参加協力 6 機関の 7 万 6 千件の助成プロジェクトがウェブベースで開発したデータシステムに入力され財政年度助成機関州群等の位置等のデータ項目やプロジェクトの概要結果等が検索可能になっている技術的課題としてはデータ整備上はテキスト検索下院選挙区別検索機関プロジェクト等詳細情報との接続などが挙げられている特に政策形成過程での実際的な利用を想定して下院選挙区別検索のためのデータの付加が重要な取り組み事項とされている システム運用では機関の実情と個人情報の保護に配慮しつつ政府の科学投資の透明性を高める方針である研究者個人の給与など個人情報や人事業績評価とも直結するデータが蓄積されていることから機微に触れる情報と公開すべき情報を層別し連邦政府機関関係者のみにアクセス制限を設けるなどの運用を考えているという一方参加機関大学の側では大学運営上の評価意思決定計画策定支援を行う情報分析である IR⑰と事務システムの合理化の観点から開発を進めている財務情報や研究活動のベンチマーキングを行う測定評価手法やそのレポートの様式を共同で開発するほかオープンソースのソフトウェアを用いた大学間でのソースコードの共用化などが検討されている こうした状況からSTAR METRICS の今後は

4 これまで(レベル 1)の事業成果

5 今後(レベル 2)の状況見通し

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

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図 3 成果実装イメージ例外部研究資金による下院選挙区別雇用誘発効果(Purdue 大学および Indiana 大学)

出典参考文献 2

1) Update on the State of STAR METRICS George ChackohttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811642) STAR Metrics Data Consistency Marietta HarrisonhttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811643) 科学技術学術審議会総会(第 36 回)平成 23 年 5 月 31 日資料 1「科学技術イノベーション政策のための「政策のため

の科学」の推進について」httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu0shiryo__icsFilesafieldfile201107011307169_01pdf

4) Science and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effects of Research on Innovation Competitiveness and Science (STAR METRICS) George Chacko etal Association of Public Data Users NewsletterhttpwwwamstatorgmiscNewsletterArticleSTAR_METRICShtm

5) 遠藤悟ホームページ「米国の科学政策」STAR METRICShttphomepage1niftycombicycletoursci-ronstar_metricshtm

幅広い国民利害関係者への説明責任を果たすための科学投資の社会経済的効果の測定の方法論開発を長期的視野に入れつつも連邦政府機関がファンディング業務の際に利用できる現場の実情を踏まえた実用的な政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積が進むものとみられる

謝辞 この種の政策効果(インパクト)を測定する困難性試行錯誤は世界共通である公開資料ではわかりにくい点も多い本稿の執筆に際し関係者のコメントやそのニュアンスも含め有用な情報提供助言をいただいた(独)新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)ワシントン事務所新川達也前所長(現経済産業省資源エネルギー庁電力ガス事業部原子力発電所事故収束対応室長)前野武史副所長に御礼申し上げる

略称① ARRAAmerican Recovery and Reinvestment Act of 2009② FOIRFreedom of Information Act③ OSTPWhite House Office of Science and Technology Policy④ NSFNational Science Foundation⑤ NIHNational Institute of Health⑥ FDPFederal Demonstration Partnership⑦ SciSIPScience of Science amp Innovation Policy program⑧ DODUnited States Department of Defense⑨ AAUthe Association of American Universities⑩ APLUthe Association of Public and Land Grant Universities⑪ EPAEnvironmental protection Agency⑫ USDAUnited States Department of Agriculture⑬ DOEUnited States Department of Energy⑭ EBMEvidence-based medicine⑮ NLMNational Library of Medicine⑯ NCBINational Center for Biotechnology Information⑰ IRInstitutional Research

参考文献

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6) Contact Kevin Boatright Office of Research amp Graduate Studies 785-864-7240 Associate vice chancellor accepts visiting assignment with the National Science Foundation May 21 2012httparchivenewskuedu2012may21rosenbloomshtml

7) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Presidential Memorandum on Transparency and Open Government (Jan 21 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_fy2009m09-12pdf

8) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Open Government Directive(Dec 8 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-08pdf

9) RESEARCH INSTITUTION PARTICIPATION GUIDE in STAR METRICS websitehttpswwwstarmetricsnihgovStarParticipatecalculatingjobs

10) Science and Technology Priorities for the FY 2012 Budget(July 21 2010)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-30pdf

白川 展之科学技術情報分析ユニット 上席研究官httpwwwnistepgojp

広島県職員を経て研究者に2008年 9月より現職科学技術予測などに従事専門はイノベーション政策公共経営評価農業から保健医療など幅広い分野の技術マネジメント産学連携の経験から科学技術にとどまらない幅広いイノベーションを研究

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コラム

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

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イノベーション政策のデータ基盤に関する日本での議論 科学技術学術政策研究所では文部科学省の科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環としてエビデンスに基づく科学技術イノベーション政策の基礎となる体系的なデータ情報基盤の構築を進めている多くの専門家が指摘している重要課題はミクロデータの利用複数データベースの接続の 2 点であるつまり各種政策の効果の分析や大学等における研究開発の構造的な分析には従来の集計データのみでは不十分でありミクロデータ利用のニーズが非常に大きいまた複数のデータベースを用いた横断的な分析の必要性からデータベースの接続に大きな関心が寄せられているさらにデータ情報基盤構築が政策評価に役立つ意義とともにデータ情報基盤の構築に際して研究者と政策担当者の相互交流と国際的な交流が不可欠との指摘が出されている

出典NISTEP NOTE(政策のための科学)No3「科学技術イノベーション政策のための科学」におけるデータ情報基盤

構築の推進に関する検討2012 年 11 月科学技術政策研究所 科学技術基盤調査研究室

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

 世界各国の政府は情報やデータの開示およびオープン化を進めており実際に各国でデータガバメント「datagov」が稼働し始めた日本でも日本再興戦略1)の一環として2013 年度末までには日本版 datagov を試行的に立ち上げ2014 年度初めから本格稼働を予定しているしかしdatagov の背景や本質を理解した上で事業を進めなければ決して有用なものとはならないそれには「ガバメント 20」というキーワードが参考になる ガバメント 20 とは(米)オライリーメディア社の創設者 Tim OrsquoReilly 氏が 2009 年に提唱した概念であり彼の主張は「政府はプラットホーム化しなければならない」ということである2)情報通信分野で決定的な勝者になったのはプラットホーム企業である例えばMicrosoft 社は会社や家庭にパソコンを普及させGoogle 社は広告収入で運営され

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

キーワードマシンリーダブル公共データオープンデータデータツールデータシティ鯖江

市口 恒雄 特別研究員

る膨大なスタートアップ企業群を生み出しApple社はアプリ開発の企業を生み出して携帯電話の価値を高めたこれらの企業は「第三者に新たな挑戦の場を与える」ことにより成功したつまり政府のプラットホーム化とは「IT 技術によって国民や市民そして行政に新たな挑戦の場を与えること」である ガバメント 20 は電子政府のことかと言えば決してそうではない単なる IT 化では国民や市民に新たな挑戦の場を与えることはできないからであるそれではガバメント 20 とは具体的にどのようなことであり我々はどの様にそれを実現すれば良いのであろうか 実現のための 1 つの方向性は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく市民が積極的に利用できる webサービスを提供しなければならない米国オバマ大統領は2009 年の就任時にオープンガバメントに対して「透明性」(transparent)「国民参加」

(participatory)「協業」(collaborative)という 3

科学技術動向研究

概  要

1 はじめに―ガバメント 20実現への 2 つ方向性

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

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原則を示した3)この様な背景から生まれたのがdatagav でありガバメント 20 の 1 つの形態であるデータは加工可能な形で提供されるので国民はそのデータを使って新たなサービスや事業を始めることができる もう 1 つの方向性は市民から行政への情報提供とその情報や問題の市民間の共有である国民や市民の意見を聞くというだけではガバメント 20 ではない行政は市民からの情報に即応し即応できない場合には市民と情報を共有し場合によってはボランティアに対応を任せることも重要であるボランティアによる「Do It Ourselves 型」の公共事業または公共社会へと発展し市民と地方行政はより密接に連携することになる世界中の多くの市町村は「シークリックフィックス(SeeClickFix)」4)というアプリを利用して市民参加を促した上で行政サービスを向上させているこのような Do It Ourselves 型の公共政府もローカルガバメント 20 の 1 つの側面と言える

 世界各国の政府は政府が持つ情報やデータの開示およびオープン化を進めつつある具体的にはdatagov(米国)datagovuk(英国)datagovsg (シンガポール)datagovau(オーストラリア)である特に進んでいるのが図表 1 に示す米国の datagov5)で2013 年 4 月末時点で171 の行政機関が参加し373029 のデータセットと1209 のデータツールを提供しているまた312 のアプリと 137のモバイルアプリも提供している(7 月 2 日時点では75714 のデータセット137 のモバイルアプリと 349 の投稿アプリ295 の政府 API を提供している) 英 国 の datagovuk は2013 年 7 月 2 日 時 点 で9596 のデータセットが公開され投稿されたアプリも含め多数のアプリが提供されている天気情報や交通(事故)情報を取得するアプリが人気が高いシンガポールの datagovsg はキーワードを入力してデータセットを探す仕組みになっており最も良くダウンロードされているのは税収や予算関連のものであるオーストラリアの datagovau は114 の行政機関が参加し1126 のデータセットと 20 のアプリが提供されている

 データセットは加工や分析が可能なマシンリ ー ダ ブ ル な フ ォ ー マ ッ ト(CSV XLS XML RSS RDF など)で提供され利用者がデータセットを取得加工分析できるアプリも同時に提供されるまたAPI(Application Programming Interface)も公開されておりAPI を利用したデータの自動取得も可能であるもしAPI が公開されていなければ政府データを使った新たなサービスやビジネスを創造することは困難でありデータガバメントに利用できる様々なアプリすら開発できない単に政府データを公開するのではなく利用者が加工分析しやすい形でデータを提供することがデータガバメントにとって重要である 政府データを上手く利用している 1 つの実例は

(米)Wolfram Research 社がサービス提供している WolframbrvbarAlpha であろう6)「世界の知識を計算可能にする」ことを謳ったこのサービスは政府データを取り込み利用者が入力した様々な質問に答えてくれる例えば「米国で人口が多い都市は」とか「小麦の生産量は」などの質問にその答えを返すだけでなく関連する情報も提示してくれるこれは政府データがマシンリーダブルであるからできることである

 日本でもオープンガバメント化の流れは避けられず首相官邸の高度情報通信ネットワーク社会推

図表 1 米国の datagov

出典参考文献 5

日本の状況2-2

2 公共データのオープン化

世界各国のデータガバメント2-1

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進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

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 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

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金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

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概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
  • 科学技術7月号レポート5
  • 科学技術7月号研究成果公表
      1. メニューへ戻る メニューへ戻る
Page 10: レポート・トピックス タイトルをクリックすると 各項目に ... · 2017. 1. 18. · ―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

10

出典NISTEP REPORT No153 科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP 定点調査 2012)2013 年 4 月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacebitstream1103511931NISTEP-NR153-FullJpdf

遠藤 悟科学技術動向研究センター 客員研究官httphomepage1niftycombicycletoursci-indexhtm

研究対象は米国を中心とした科学政策2000年に「米国の科学政策」HPを開設し政策動向を発信している近年は科学と社会の関係や高等教育等にも対象を拡大している

4) 科学アカデミー創立 150 周年式典でのオバマ大統領の発言(Remarks by the President on the 150th Anniversary of the National Academy of Sciences) 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovthe-press-office20130429remarks-president-150th-anniversary-national-academy-sciences

5) The 2014 Budget A World-Leading Commitment to Science amp Research 2013 年 6 月 12 日httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostp2014_RampDbudget_overviewpdf

NISTEP 定点調査からみる我が国の研究開発資金の状況科学技術学術政策研究所では第 4 期科学技術基本計画期間中の我が国における科学技術やイノベーションの状況変化を把握するため産学官の研究者や有識者への意識定点調査(NISTEP 定点調査)を2011 年度より実施しています以下の図は第 2 回となる 2012 年度の調査における研究費に関する意識調査の結果ですが科学技術に関する政府予算(Q2-16)や基盤的経費(Q1-18)については多くの機関の研究者が前年と同様「不充分との強い認識(雨マーク)」または「著しく不充分との認識(雷マーク)」を持っているようです特に国内論文シェアが 1〜5 の規模である第 2 グループの大学に所属する研究者は「著しく不充分との認識」を持っていることがわかります米国連邦政府の予算はその時々の政策や財政事情により上昇下降の変化が見られますが我が国の研究者にとって研究予算は低空飛行を続けているという印象のようです

執筆者プロフィール

11

科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

概  要

科学研究の投資効果測定を目指す米国のSTAR METRICS事業の現状と今後の見通し

 国際競争力の確保や社会的課題解決のために科学技術によるイノベーションへの期待が高まる中公

 政府の科学投資が雇用知識創造健康などにどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するための情報基盤を整備する米国の事業(STAR METRICS)は科学投資の社会的なインパクト測定手法を幅広く開発することからオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の方向性に沿う形で連邦政府の競争的資金に関する省庁横断的なデータ基盤整備を図る方向に事業目標を修正している事業の第一段階では人事データに限って連邦政府の科学研究投資の労働誘発効果を検証するためにデータを蓄積可視化するシステムが構築された現在の第二段階では引き続き国立衛生研究所(NIH)がホスト機関となりインプットとアウトプットのデータに重点を置いてデータ蓄積と分析システムを開発中であるSTAR METRICSは参加機関の財務情報や研究活動の経営分析ベンチマーキングや連邦政府機関のファンディング業務での利用など現場の実情を踏まえた政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積を進めるとみられる

キーワード政策のための科学研究評価公的研究開発投資オープンガバメントIR(Institutional Research)

白川 展之 上席研究官

的研究開発投資がどのような成果を産みまた今後産み出す可能性を持つかを科学的根拠に基づき評価し政策過程に反映する社会的要請が各国で高まっている日本でも文部科学省では 2011 年度から「科学技術イノベーション政策における『政策のため

表 1 事業開始までの経緯

科学技術動向研究

出典文部科学省作成資料(参考文献 3)およびAPDU News Letter(参考文献 4)をもとに科学技術動向研究センターにて作成

1 はじめに

STT136_レポート2(web用に修正)indd 11STT136_レポート2(web用に修正)indd 11 130712 1557130712 1557

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

12

STAR METRICS とは2-1

 STAR METRICS とはldquoScience and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effect of Research on Innovation Competitiveness and Sciencerdquoの頭字であり連邦政府による科学への投資が雇用知識創造保健などにどのような影響効果(インパクト)を及ぼしたかを測定するデータ基盤および分析ツール等の整備構築を図る事業である連邦政府大学その他機関の連携のもとに実施することから「省庁横断的なベンチャー的事業」とも表現されている

根拠法令等2-2

 本事業開始当初の目的は米国再生再投資法(ARRA①)において同法に基づく科学投資の支出景気刺激効果について納税者に対する説明責任を果たすためと説明されていたこれに加えて2009 年 1 月 21 日付けのオ-プンガバメントに関する大統領覚書(Presidential Memorandum on Transparency and Open Government)と2009年 12 月 8 日付けの行政管理予算局覚書(Office of Management and Budget Memorandum)にも事業実施の根拠を求めているこの前者のオ-プンガバメントに関する大統領覚書は省庁がオンライン上で情報を取得ダウンロード検索されうる一般的

事業の参加機関数とデータ収集の範囲3-1

 連邦政府では大統領行政府科学技術政策局(OSTP③)国立科学財団(NSF④)国立保健研究所(NIH⑤ )が STAR METRICS のリード機関となったこれに大学で研究開発に関わる職員(研究者管理者等)と省庁が連携して研究開発推進の効率化調整を図るイニシアティブである FDP⑥と一部の高等教育機関がパートナーとなり2010 年1 月にパイロット事業を開始したパイロット事業では 2011 年 7 月まで方法論の開発実証継続的改善に取り組むとともに競争的研究資金のファンディングを行う政府機関や高等教育機関に対しプロジェクトへの参加を呼びかけるアウトリーチ普及活動にも積極的に取り組んだNSF の科学政策のための科学の研究助成事業(SciSIP⑦)の初代プログラムディレクターを務めこの事業の立ち上げにも尽力した Julia Lane 氏は安全保障上の機密の存在から情報公開が難しい国防総省(DOD⑧)に対してもプロジェクト参加の提案を行うなど省庁学協会等に対し働きかけた こうした省庁横断的な事業普及の取り組みは一定の成果を見せFDP の他に全米の有力な研究型大学の団体である全米大学協会(AAU⑨)と公立ランドグラント大学協会(APLU⑩)からの協力もあり参画研究機関大学は 2010 年 10 月の正式な事業発足の段階で 86 機関となった連邦政府機関では環境保護庁(EPA⑪)農務省(USDA⑫)エネルギー省(DOE⑬)を加えた合計 6 機関が参加協力を得たこの結果これら参加協力機関のすべてのデータが得られた場合金額ベースで NIH の研究助成額の 3 分の 1参加協力機関の合計では金額ベースで連邦政府全体の科学研究助成半分以上をカバーするデータ収集を狙える体制となった

の科学』推進事業」を実施している米国では 2005年にマーバーガー前科学担当大統領補佐官が「科学政策の科学化」を目指しデータモデルとコミュニティ開発を図る「科学政策のための科学」を提唱して以来各国に先駆けて省庁間連携や公募型研究開発プログラムや情報基盤の整備を推進してきた 本稿では米国政府による科学への投資がどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するため開始された事業(STAR METRICS)についてこれまでの事業展開や今後の見通しを紹介する

なデータ形式で公開する旨を定めたものであるまた後者の行政管理予算局覚書では情報自由法

(FOIR②)の義務付け範囲を超えて有益な情報を積極的に普及させるために先進的な技術を各省庁が利用するよう推奨している

2 事業概要

3 事業の進捗推移

13

科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

表 2 STAR METRICS の計画目標の推移

事業推進体制の変更強化3-2

 2011 年 10 月に NIH がホスト機関となり2012年 1 月には本事業の新たな段階への移行を見据えて執行体制を刷新したエクゼクティブコミッティーと機関横断ワーキンググループの 2 層の省庁機関間の連携組織のもとホスト機関の NIH の責任者がNIH(2 名)および NSF(1 名)のプログラムマネージャーを統括する事業推進体制としたデータシステム整備等の実務的な作業は技術プロジェクトマネージャー(プログラムマネージャーと兼任)がさらにその下に置かれシステム開発を行う業務委託先のベンダーとのプロジェクト進行管理を行っている 事業の実質的な進展を図るこうした体制変更はNIH の連邦政府における科学投資の予算額のシェアの大きさとその組織能力ノウハウを反映した結果とみられるNIH は米国再生再投資法

(ARRA)における科学研究投資額が最も多かった何よりNIH には根拠に基づく医療(EBM⑭)に不可欠の情報基盤となっている学術文献データベース PubMed を実質的に運営注 1)するなどライフイノベーション関連の各種データベースを学術文献のオープンアクセス化といった学術情報流通政策とともに強力に牽引実施してきた実績がある ただしNIH の担当部署ではSTAR METRICS

の情報システムの開発は付随的業務の位置付けで実施しているしかし事業のシステム開発調整には相当の人役エフォートが必要で実質的にはフルタイムの人員が複数張り付く状態だという

事業目標の変更修正3-3

 STAR METRICS で は 大 変 な 試 行 錯 誤 の 末に 2012 年 4 月に事業目標が修正された当初はフェーズ 1 とフェーズ 2 という 2 段階の計画がレベル 1 とレベル 2 という 2 段階に分けてデータ基盤とツールの整備を行う計画に変更されている(表 2)連邦政府による科学投資の社会的インパクト測定手法の開発という政策科学として挑戦的な目標を掲げた当初の事業目標から先進的技術を活用した政府情報の公開のためのデータフローを蓄積分析する科学技術学術情報関連の実用的な基盤整備事業へと現実的な方向に軌道修正を図ったとみられる この結果科学政策の透明性を確保するための情報基盤の構築データ蓄積を図るという変更後の事業目標設定はオープンデータオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の下で一定の位置付けを得る整理になっている

注1 NIH に国立医学図書館(NLM⑮)の一部門の国立生物工学情報センター(NCBI⑯)が置かれPubMed が運営されている

出典所期の事業計画の表現については(参考文献 5)から修正された目標については(参考文献 1)をもとに科学技術動向センターにて作成

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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 レベル 1 のデータ整備では現場の過度の事務負担を避けるために整理正規化を行うデータは競争的資金の種目被雇用者の種別(研究員研究補助者等の区分)業務従事割合(フルタイム換算データ)や間接経費込みの人件費総額など人事関連の 14 項目に限定された参加研究機関はデータポリシーに従ったフォーマットで 4 半期毎にデータを提出するとデータの質の確認処理の後レポートが返される仕組みである 以下の図 1 及び図 2 にはこれまでの事業の成果例を示す 図 1 は開発されたシステムと収集されたデータによる連邦レベルでの成果例であるここではレベル 1 の事業に参画した機関数について州別に可視化されている図 2 は参加機関地域レベルの成果例である図 2 ではインディアナ州の参加機関である Purdue 大学と Indiana 大学に関する 2011財政年度における連邦科学投資による雇用誘発効果に関する情報について可視化した例である

図 1 レベル 1 の成果例(1)STAR METRICS に参加している州別機関数

図 2 レベル 1 の成果例(2)インディアナ州における連邦科学投資のもたらす雇用誘発効果大学キャンパス別の被雇用数の可視化

出典参考文献 1 出典参考文献 2

 現在実施中のレベル 2 の目標は連邦政府所管のファンディングエージェンシーの科学研究助成に関して幅広い範囲のインプットおよびアウトプットに焦点を置いたデータを連邦政府機関とその他の利害関係者に対し提供することである機関レベルの

合意のもとNIH がEPANIHNSFUSDA のデータを収集し他の参画 3 機関はデータベース構築に際して概念実証に必要な協力を行う現在技術的実装計画を策定しパイロット版のシステムを開発中であり構築テスト修正が繰り返されている データ整備はアウトカムよりも予算配分とアウトプットのリンクに重点が置かれているこれまでのところ2012 年財政年度を中心として参加協力 6 機関の 7 万 6 千件の助成プロジェクトがウェブベースで開発したデータシステムに入力され財政年度助成機関州群等の位置等のデータ項目やプロジェクトの概要結果等が検索可能になっている技術的課題としてはデータ整備上はテキスト検索下院選挙区別検索機関プロジェクト等詳細情報との接続などが挙げられている特に政策形成過程での実際的な利用を想定して下院選挙区別検索のためのデータの付加が重要な取り組み事項とされている システム運用では機関の実情と個人情報の保護に配慮しつつ政府の科学投資の透明性を高める方針である研究者個人の給与など個人情報や人事業績評価とも直結するデータが蓄積されていることから機微に触れる情報と公開すべき情報を層別し連邦政府機関関係者のみにアクセス制限を設けるなどの運用を考えているという一方参加機関大学の側では大学運営上の評価意思決定計画策定支援を行う情報分析である IR⑰と事務システムの合理化の観点から開発を進めている財務情報や研究活動のベンチマーキングを行う測定評価手法やそのレポートの様式を共同で開発するほかオープンソースのソフトウェアを用いた大学間でのソースコードの共用化などが検討されている こうした状況からSTAR METRICS の今後は

4 これまで(レベル 1)の事業成果

5 今後(レベル 2)の状況見通し

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

図 3 成果実装イメージ例外部研究資金による下院選挙区別雇用誘発効果(Purdue 大学および Indiana 大学)

出典参考文献 2

1) Update on the State of STAR METRICS George ChackohttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811642) STAR Metrics Data Consistency Marietta HarrisonhttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811643) 科学技術学術審議会総会(第 36 回)平成 23 年 5 月 31 日資料 1「科学技術イノベーション政策のための「政策のため

の科学」の推進について」httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu0shiryo__icsFilesafieldfile201107011307169_01pdf

4) Science and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effects of Research on Innovation Competitiveness and Science (STAR METRICS) George Chacko etal Association of Public Data Users NewsletterhttpwwwamstatorgmiscNewsletterArticleSTAR_METRICShtm

5) 遠藤悟ホームページ「米国の科学政策」STAR METRICShttphomepage1niftycombicycletoursci-ronstar_metricshtm

幅広い国民利害関係者への説明責任を果たすための科学投資の社会経済的効果の測定の方法論開発を長期的視野に入れつつも連邦政府機関がファンディング業務の際に利用できる現場の実情を踏まえた実用的な政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積が進むものとみられる

謝辞 この種の政策効果(インパクト)を測定する困難性試行錯誤は世界共通である公開資料ではわかりにくい点も多い本稿の執筆に際し関係者のコメントやそのニュアンスも含め有用な情報提供助言をいただいた(独)新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)ワシントン事務所新川達也前所長(現経済産業省資源エネルギー庁電力ガス事業部原子力発電所事故収束対応室長)前野武史副所長に御礼申し上げる

略称① ARRAAmerican Recovery and Reinvestment Act of 2009② FOIRFreedom of Information Act③ OSTPWhite House Office of Science and Technology Policy④ NSFNational Science Foundation⑤ NIHNational Institute of Health⑥ FDPFederal Demonstration Partnership⑦ SciSIPScience of Science amp Innovation Policy program⑧ DODUnited States Department of Defense⑨ AAUthe Association of American Universities⑩ APLUthe Association of Public and Land Grant Universities⑪ EPAEnvironmental protection Agency⑫ USDAUnited States Department of Agriculture⑬ DOEUnited States Department of Energy⑭ EBMEvidence-based medicine⑮ NLMNational Library of Medicine⑯ NCBINational Center for Biotechnology Information⑰ IRInstitutional Research

参考文献

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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6) Contact Kevin Boatright Office of Research amp Graduate Studies 785-864-7240 Associate vice chancellor accepts visiting assignment with the National Science Foundation May 21 2012httparchivenewskuedu2012may21rosenbloomshtml

7) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Presidential Memorandum on Transparency and Open Government (Jan 21 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_fy2009m09-12pdf

8) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Open Government Directive(Dec 8 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-08pdf

9) RESEARCH INSTITUTION PARTICIPATION GUIDE in STAR METRICS websitehttpswwwstarmetricsnihgovStarParticipatecalculatingjobs

10) Science and Technology Priorities for the FY 2012 Budget(July 21 2010)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-30pdf

白川 展之科学技術情報分析ユニット 上席研究官httpwwwnistepgojp

広島県職員を経て研究者に2008年 9月より現職科学技術予測などに従事専門はイノベーション政策公共経営評価農業から保健医療など幅広い分野の技術マネジメント産学連携の経験から科学技術にとどまらない幅広いイノベーションを研究

執筆者プロフィール

コラム

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

イノベーション政策のデータ基盤に関する日本での議論 科学技術学術政策研究所では文部科学省の科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環としてエビデンスに基づく科学技術イノベーション政策の基礎となる体系的なデータ情報基盤の構築を進めている多くの専門家が指摘している重要課題はミクロデータの利用複数データベースの接続の 2 点であるつまり各種政策の効果の分析や大学等における研究開発の構造的な分析には従来の集計データのみでは不十分でありミクロデータ利用のニーズが非常に大きいまた複数のデータベースを用いた横断的な分析の必要性からデータベースの接続に大きな関心が寄せられているさらにデータ情報基盤構築が政策評価に役立つ意義とともにデータ情報基盤の構築に際して研究者と政策担当者の相互交流と国際的な交流が不可欠との指摘が出されている

出典NISTEP NOTE(政策のための科学)No3「科学技術イノベーション政策のための科学」におけるデータ情報基盤

構築の推進に関する検討2012 年 11 月科学技術政策研究所 科学技術基盤調査研究室

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

 世界各国の政府は情報やデータの開示およびオープン化を進めており実際に各国でデータガバメント「datagov」が稼働し始めた日本でも日本再興戦略1)の一環として2013 年度末までには日本版 datagov を試行的に立ち上げ2014 年度初めから本格稼働を予定しているしかしdatagov の背景や本質を理解した上で事業を進めなければ決して有用なものとはならないそれには「ガバメント 20」というキーワードが参考になる ガバメント 20 とは(米)オライリーメディア社の創設者 Tim OrsquoReilly 氏が 2009 年に提唱した概念であり彼の主張は「政府はプラットホーム化しなければならない」ということである2)情報通信分野で決定的な勝者になったのはプラットホーム企業である例えばMicrosoft 社は会社や家庭にパソコンを普及させGoogle 社は広告収入で運営され

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

キーワードマシンリーダブル公共データオープンデータデータツールデータシティ鯖江

市口 恒雄 特別研究員

る膨大なスタートアップ企業群を生み出しApple社はアプリ開発の企業を生み出して携帯電話の価値を高めたこれらの企業は「第三者に新たな挑戦の場を与える」ことにより成功したつまり政府のプラットホーム化とは「IT 技術によって国民や市民そして行政に新たな挑戦の場を与えること」である ガバメント 20 は電子政府のことかと言えば決してそうではない単なる IT 化では国民や市民に新たな挑戦の場を与えることはできないからであるそれではガバメント 20 とは具体的にどのようなことであり我々はどの様にそれを実現すれば良いのであろうか 実現のための 1 つの方向性は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく市民が積極的に利用できる webサービスを提供しなければならない米国オバマ大統領は2009 年の就任時にオープンガバメントに対して「透明性」(transparent)「国民参加」

(participatory)「協業」(collaborative)という 3

科学技術動向研究

概  要

1 はじめに―ガバメント 20実現への 2 つ方向性

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

原則を示した3)この様な背景から生まれたのがdatagav でありガバメント 20 の 1 つの形態であるデータは加工可能な形で提供されるので国民はそのデータを使って新たなサービスや事業を始めることができる もう 1 つの方向性は市民から行政への情報提供とその情報や問題の市民間の共有である国民や市民の意見を聞くというだけではガバメント 20 ではない行政は市民からの情報に即応し即応できない場合には市民と情報を共有し場合によってはボランティアに対応を任せることも重要であるボランティアによる「Do It Ourselves 型」の公共事業または公共社会へと発展し市民と地方行政はより密接に連携することになる世界中の多くの市町村は「シークリックフィックス(SeeClickFix)」4)というアプリを利用して市民参加を促した上で行政サービスを向上させているこのような Do It Ourselves 型の公共政府もローカルガバメント 20 の 1 つの側面と言える

 世界各国の政府は政府が持つ情報やデータの開示およびオープン化を進めつつある具体的にはdatagov(米国)datagovuk(英国)datagovsg (シンガポール)datagovau(オーストラリア)である特に進んでいるのが図表 1 に示す米国の datagov5)で2013 年 4 月末時点で171 の行政機関が参加し373029 のデータセットと1209 のデータツールを提供しているまた312 のアプリと 137のモバイルアプリも提供している(7 月 2 日時点では75714 のデータセット137 のモバイルアプリと 349 の投稿アプリ295 の政府 API を提供している) 英 国 の datagovuk は2013 年 7 月 2 日 時 点 で9596 のデータセットが公開され投稿されたアプリも含め多数のアプリが提供されている天気情報や交通(事故)情報を取得するアプリが人気が高いシンガポールの datagovsg はキーワードを入力してデータセットを探す仕組みになっており最も良くダウンロードされているのは税収や予算関連のものであるオーストラリアの datagovau は114 の行政機関が参加し1126 のデータセットと 20 のアプリが提供されている

 データセットは加工や分析が可能なマシンリ ー ダ ブ ル な フ ォ ー マ ッ ト(CSV XLS XML RSS RDF など)で提供され利用者がデータセットを取得加工分析できるアプリも同時に提供されるまたAPI(Application Programming Interface)も公開されておりAPI を利用したデータの自動取得も可能であるもしAPI が公開されていなければ政府データを使った新たなサービスやビジネスを創造することは困難でありデータガバメントに利用できる様々なアプリすら開発できない単に政府データを公開するのではなく利用者が加工分析しやすい形でデータを提供することがデータガバメントにとって重要である 政府データを上手く利用している 1 つの実例は

(米)Wolfram Research 社がサービス提供している WolframbrvbarAlpha であろう6)「世界の知識を計算可能にする」ことを謳ったこのサービスは政府データを取り込み利用者が入力した様々な質問に答えてくれる例えば「米国で人口が多い都市は」とか「小麦の生産量は」などの質問にその答えを返すだけでなく関連する情報も提示してくれるこれは政府データがマシンリーダブルであるからできることである

 日本でもオープンガバメント化の流れは避けられず首相官邸の高度情報通信ネットワーク社会推

図表 1 米国の datagov

出典参考文献 5

日本の状況2-2

2 公共データのオープン化

世界各国のデータガバメント2-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

20

進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

21

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

27

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

28

 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

29

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

30

金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

概  要

科学研究の投資効果測定を目指す米国のSTAR METRICS事業の現状と今後の見通し

 国際競争力の確保や社会的課題解決のために科学技術によるイノベーションへの期待が高まる中公

 政府の科学投資が雇用知識創造健康などにどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するための情報基盤を整備する米国の事業(STAR METRICS)は科学投資の社会的なインパクト測定手法を幅広く開発することからオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の方向性に沿う形で連邦政府の競争的資金に関する省庁横断的なデータ基盤整備を図る方向に事業目標を修正している事業の第一段階では人事データに限って連邦政府の科学研究投資の労働誘発効果を検証するためにデータを蓄積可視化するシステムが構築された現在の第二段階では引き続き国立衛生研究所(NIH)がホスト機関となりインプットとアウトプットのデータに重点を置いてデータ蓄積と分析システムを開発中であるSTAR METRICSは参加機関の財務情報や研究活動の経営分析ベンチマーキングや連邦政府機関のファンディング業務での利用など現場の実情を踏まえた政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積を進めるとみられる

キーワード政策のための科学研究評価公的研究開発投資オープンガバメントIR(Institutional Research)

白川 展之 上席研究官

的研究開発投資がどのような成果を産みまた今後産み出す可能性を持つかを科学的根拠に基づき評価し政策過程に反映する社会的要請が各国で高まっている日本でも文部科学省では 2011 年度から「科学技術イノベーション政策における『政策のため

表 1 事業開始までの経緯

科学技術動向研究

出典文部科学省作成資料(参考文献 3)およびAPDU News Letter(参考文献 4)をもとに科学技術動向研究センターにて作成

1 はじめに

STT136_レポート2(web用に修正)indd 11STT136_レポート2(web用に修正)indd 11 130712 1557130712 1557

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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STAR METRICS とは2-1

 STAR METRICS とはldquoScience and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effect of Research on Innovation Competitiveness and Sciencerdquoの頭字であり連邦政府による科学への投資が雇用知識創造保健などにどのような影響効果(インパクト)を及ぼしたかを測定するデータ基盤および分析ツール等の整備構築を図る事業である連邦政府大学その他機関の連携のもとに実施することから「省庁横断的なベンチャー的事業」とも表現されている

根拠法令等2-2

 本事業開始当初の目的は米国再生再投資法(ARRA①)において同法に基づく科学投資の支出景気刺激効果について納税者に対する説明責任を果たすためと説明されていたこれに加えて2009 年 1 月 21 日付けのオ-プンガバメントに関する大統領覚書(Presidential Memorandum on Transparency and Open Government)と2009年 12 月 8 日付けの行政管理予算局覚書(Office of Management and Budget Memorandum)にも事業実施の根拠を求めているこの前者のオ-プンガバメントに関する大統領覚書は省庁がオンライン上で情報を取得ダウンロード検索されうる一般的

事業の参加機関数とデータ収集の範囲3-1

 連邦政府では大統領行政府科学技術政策局(OSTP③)国立科学財団(NSF④)国立保健研究所(NIH⑤ )が STAR METRICS のリード機関となったこれに大学で研究開発に関わる職員(研究者管理者等)と省庁が連携して研究開発推進の効率化調整を図るイニシアティブである FDP⑥と一部の高等教育機関がパートナーとなり2010 年1 月にパイロット事業を開始したパイロット事業では 2011 年 7 月まで方法論の開発実証継続的改善に取り組むとともに競争的研究資金のファンディングを行う政府機関や高等教育機関に対しプロジェクトへの参加を呼びかけるアウトリーチ普及活動にも積極的に取り組んだNSF の科学政策のための科学の研究助成事業(SciSIP⑦)の初代プログラムディレクターを務めこの事業の立ち上げにも尽力した Julia Lane 氏は安全保障上の機密の存在から情報公開が難しい国防総省(DOD⑧)に対してもプロジェクト参加の提案を行うなど省庁学協会等に対し働きかけた こうした省庁横断的な事業普及の取り組みは一定の成果を見せFDP の他に全米の有力な研究型大学の団体である全米大学協会(AAU⑨)と公立ランドグラント大学協会(APLU⑩)からの協力もあり参画研究機関大学は 2010 年 10 月の正式な事業発足の段階で 86 機関となった連邦政府機関では環境保護庁(EPA⑪)農務省(USDA⑫)エネルギー省(DOE⑬)を加えた合計 6 機関が参加協力を得たこの結果これら参加協力機関のすべてのデータが得られた場合金額ベースで NIH の研究助成額の 3 分の 1参加協力機関の合計では金額ベースで連邦政府全体の科学研究助成半分以上をカバーするデータ収集を狙える体制となった

の科学』推進事業」を実施している米国では 2005年にマーバーガー前科学担当大統領補佐官が「科学政策の科学化」を目指しデータモデルとコミュニティ開発を図る「科学政策のための科学」を提唱して以来各国に先駆けて省庁間連携や公募型研究開発プログラムや情報基盤の整備を推進してきた 本稿では米国政府による科学への投資がどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するため開始された事業(STAR METRICS)についてこれまでの事業展開や今後の見通しを紹介する

なデータ形式で公開する旨を定めたものであるまた後者の行政管理予算局覚書では情報自由法

(FOIR②)の義務付け範囲を超えて有益な情報を積極的に普及させるために先進的な技術を各省庁が利用するよう推奨している

2 事業概要

3 事業の進捗推移

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

表 2 STAR METRICS の計画目標の推移

事業推進体制の変更強化3-2

 2011 年 10 月に NIH がホスト機関となり2012年 1 月には本事業の新たな段階への移行を見据えて執行体制を刷新したエクゼクティブコミッティーと機関横断ワーキンググループの 2 層の省庁機関間の連携組織のもとホスト機関の NIH の責任者がNIH(2 名)および NSF(1 名)のプログラムマネージャーを統括する事業推進体制としたデータシステム整備等の実務的な作業は技術プロジェクトマネージャー(プログラムマネージャーと兼任)がさらにその下に置かれシステム開発を行う業務委託先のベンダーとのプロジェクト進行管理を行っている 事業の実質的な進展を図るこうした体制変更はNIH の連邦政府における科学投資の予算額のシェアの大きさとその組織能力ノウハウを反映した結果とみられるNIH は米国再生再投資法

(ARRA)における科学研究投資額が最も多かった何よりNIH には根拠に基づく医療(EBM⑭)に不可欠の情報基盤となっている学術文献データベース PubMed を実質的に運営注 1)するなどライフイノベーション関連の各種データベースを学術文献のオープンアクセス化といった学術情報流通政策とともに強力に牽引実施してきた実績がある ただしNIH の担当部署ではSTAR METRICS

の情報システムの開発は付随的業務の位置付けで実施しているしかし事業のシステム開発調整には相当の人役エフォートが必要で実質的にはフルタイムの人員が複数張り付く状態だという

事業目標の変更修正3-3

 STAR METRICS で は 大 変 な 試 行 錯 誤 の 末に 2012 年 4 月に事業目標が修正された当初はフェーズ 1 とフェーズ 2 という 2 段階の計画がレベル 1 とレベル 2 という 2 段階に分けてデータ基盤とツールの整備を行う計画に変更されている(表 2)連邦政府による科学投資の社会的インパクト測定手法の開発という政策科学として挑戦的な目標を掲げた当初の事業目標から先進的技術を活用した政府情報の公開のためのデータフローを蓄積分析する科学技術学術情報関連の実用的な基盤整備事業へと現実的な方向に軌道修正を図ったとみられる この結果科学政策の透明性を確保するための情報基盤の構築データ蓄積を図るという変更後の事業目標設定はオープンデータオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の下で一定の位置付けを得る整理になっている

注1 NIH に国立医学図書館(NLM⑮)の一部門の国立生物工学情報センター(NCBI⑯)が置かれPubMed が運営されている

出典所期の事業計画の表現については(参考文献 5)から修正された目標については(参考文献 1)をもとに科学技術動向センターにて作成

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 レベル 1 のデータ整備では現場の過度の事務負担を避けるために整理正規化を行うデータは競争的資金の種目被雇用者の種別(研究員研究補助者等の区分)業務従事割合(フルタイム換算データ)や間接経費込みの人件費総額など人事関連の 14 項目に限定された参加研究機関はデータポリシーに従ったフォーマットで 4 半期毎にデータを提出するとデータの質の確認処理の後レポートが返される仕組みである 以下の図 1 及び図 2 にはこれまでの事業の成果例を示す 図 1 は開発されたシステムと収集されたデータによる連邦レベルでの成果例であるここではレベル 1 の事業に参画した機関数について州別に可視化されている図 2 は参加機関地域レベルの成果例である図 2 ではインディアナ州の参加機関である Purdue 大学と Indiana 大学に関する 2011財政年度における連邦科学投資による雇用誘発効果に関する情報について可視化した例である

図 1 レベル 1 の成果例(1)STAR METRICS に参加している州別機関数

図 2 レベル 1 の成果例(2)インディアナ州における連邦科学投資のもたらす雇用誘発効果大学キャンパス別の被雇用数の可視化

出典参考文献 1 出典参考文献 2

 現在実施中のレベル 2 の目標は連邦政府所管のファンディングエージェンシーの科学研究助成に関して幅広い範囲のインプットおよびアウトプットに焦点を置いたデータを連邦政府機関とその他の利害関係者に対し提供することである機関レベルの

合意のもとNIH がEPANIHNSFUSDA のデータを収集し他の参画 3 機関はデータベース構築に際して概念実証に必要な協力を行う現在技術的実装計画を策定しパイロット版のシステムを開発中であり構築テスト修正が繰り返されている データ整備はアウトカムよりも予算配分とアウトプットのリンクに重点が置かれているこれまでのところ2012 年財政年度を中心として参加協力 6 機関の 7 万 6 千件の助成プロジェクトがウェブベースで開発したデータシステムに入力され財政年度助成機関州群等の位置等のデータ項目やプロジェクトの概要結果等が検索可能になっている技術的課題としてはデータ整備上はテキスト検索下院選挙区別検索機関プロジェクト等詳細情報との接続などが挙げられている特に政策形成過程での実際的な利用を想定して下院選挙区別検索のためのデータの付加が重要な取り組み事項とされている システム運用では機関の実情と個人情報の保護に配慮しつつ政府の科学投資の透明性を高める方針である研究者個人の給与など個人情報や人事業績評価とも直結するデータが蓄積されていることから機微に触れる情報と公開すべき情報を層別し連邦政府機関関係者のみにアクセス制限を設けるなどの運用を考えているという一方参加機関大学の側では大学運営上の評価意思決定計画策定支援を行う情報分析である IR⑰と事務システムの合理化の観点から開発を進めている財務情報や研究活動のベンチマーキングを行う測定評価手法やそのレポートの様式を共同で開発するほかオープンソースのソフトウェアを用いた大学間でのソースコードの共用化などが検討されている こうした状況からSTAR METRICS の今後は

4 これまで(レベル 1)の事業成果

5 今後(レベル 2)の状況見通し

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

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図 3 成果実装イメージ例外部研究資金による下院選挙区別雇用誘発効果(Purdue 大学および Indiana 大学)

出典参考文献 2

1) Update on the State of STAR METRICS George ChackohttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811642) STAR Metrics Data Consistency Marietta HarrisonhttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811643) 科学技術学術審議会総会(第 36 回)平成 23 年 5 月 31 日資料 1「科学技術イノベーション政策のための「政策のため

の科学」の推進について」httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu0shiryo__icsFilesafieldfile201107011307169_01pdf

4) Science and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effects of Research on Innovation Competitiveness and Science (STAR METRICS) George Chacko etal Association of Public Data Users NewsletterhttpwwwamstatorgmiscNewsletterArticleSTAR_METRICShtm

5) 遠藤悟ホームページ「米国の科学政策」STAR METRICShttphomepage1niftycombicycletoursci-ronstar_metricshtm

幅広い国民利害関係者への説明責任を果たすための科学投資の社会経済的効果の測定の方法論開発を長期的視野に入れつつも連邦政府機関がファンディング業務の際に利用できる現場の実情を踏まえた実用的な政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積が進むものとみられる

謝辞 この種の政策効果(インパクト)を測定する困難性試行錯誤は世界共通である公開資料ではわかりにくい点も多い本稿の執筆に際し関係者のコメントやそのニュアンスも含め有用な情報提供助言をいただいた(独)新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)ワシントン事務所新川達也前所長(現経済産業省資源エネルギー庁電力ガス事業部原子力発電所事故収束対応室長)前野武史副所長に御礼申し上げる

略称① ARRAAmerican Recovery and Reinvestment Act of 2009② FOIRFreedom of Information Act③ OSTPWhite House Office of Science and Technology Policy④ NSFNational Science Foundation⑤ NIHNational Institute of Health⑥ FDPFederal Demonstration Partnership⑦ SciSIPScience of Science amp Innovation Policy program⑧ DODUnited States Department of Defense⑨ AAUthe Association of American Universities⑩ APLUthe Association of Public and Land Grant Universities⑪ EPAEnvironmental protection Agency⑫ USDAUnited States Department of Agriculture⑬ DOEUnited States Department of Energy⑭ EBMEvidence-based medicine⑮ NLMNational Library of Medicine⑯ NCBINational Center for Biotechnology Information⑰ IRInstitutional Research

参考文献

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6) Contact Kevin Boatright Office of Research amp Graduate Studies 785-864-7240 Associate vice chancellor accepts visiting assignment with the National Science Foundation May 21 2012httparchivenewskuedu2012may21rosenbloomshtml

7) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Presidential Memorandum on Transparency and Open Government (Jan 21 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_fy2009m09-12pdf

8) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Open Government Directive(Dec 8 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-08pdf

9) RESEARCH INSTITUTION PARTICIPATION GUIDE in STAR METRICS websitehttpswwwstarmetricsnihgovStarParticipatecalculatingjobs

10) Science and Technology Priorities for the FY 2012 Budget(July 21 2010)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-30pdf

白川 展之科学技術情報分析ユニット 上席研究官httpwwwnistepgojp

広島県職員を経て研究者に2008年 9月より現職科学技術予測などに従事専門はイノベーション政策公共経営評価農業から保健医療など幅広い分野の技術マネジメント産学連携の経験から科学技術にとどまらない幅広いイノベーションを研究

執筆者プロフィール

コラム

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

イノベーション政策のデータ基盤に関する日本での議論 科学技術学術政策研究所では文部科学省の科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環としてエビデンスに基づく科学技術イノベーション政策の基礎となる体系的なデータ情報基盤の構築を進めている多くの専門家が指摘している重要課題はミクロデータの利用複数データベースの接続の 2 点であるつまり各種政策の効果の分析や大学等における研究開発の構造的な分析には従来の集計データのみでは不十分でありミクロデータ利用のニーズが非常に大きいまた複数のデータベースを用いた横断的な分析の必要性からデータベースの接続に大きな関心が寄せられているさらにデータ情報基盤構築が政策評価に役立つ意義とともにデータ情報基盤の構築に際して研究者と政策担当者の相互交流と国際的な交流が不可欠との指摘が出されている

出典NISTEP NOTE(政策のための科学)No3「科学技術イノベーション政策のための科学」におけるデータ情報基盤

構築の推進に関する検討2012 年 11 月科学技術政策研究所 科学技術基盤調査研究室

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

 世界各国の政府は情報やデータの開示およびオープン化を進めており実際に各国でデータガバメント「datagov」が稼働し始めた日本でも日本再興戦略1)の一環として2013 年度末までには日本版 datagov を試行的に立ち上げ2014 年度初めから本格稼働を予定しているしかしdatagov の背景や本質を理解した上で事業を進めなければ決して有用なものとはならないそれには「ガバメント 20」というキーワードが参考になる ガバメント 20 とは(米)オライリーメディア社の創設者 Tim OrsquoReilly 氏が 2009 年に提唱した概念であり彼の主張は「政府はプラットホーム化しなければならない」ということである2)情報通信分野で決定的な勝者になったのはプラットホーム企業である例えばMicrosoft 社は会社や家庭にパソコンを普及させGoogle 社は広告収入で運営され

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

キーワードマシンリーダブル公共データオープンデータデータツールデータシティ鯖江

市口 恒雄 特別研究員

る膨大なスタートアップ企業群を生み出しApple社はアプリ開発の企業を生み出して携帯電話の価値を高めたこれらの企業は「第三者に新たな挑戦の場を与える」ことにより成功したつまり政府のプラットホーム化とは「IT 技術によって国民や市民そして行政に新たな挑戦の場を与えること」である ガバメント 20 は電子政府のことかと言えば決してそうではない単なる IT 化では国民や市民に新たな挑戦の場を与えることはできないからであるそれではガバメント 20 とは具体的にどのようなことであり我々はどの様にそれを実現すれば良いのであろうか 実現のための 1 つの方向性は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく市民が積極的に利用できる webサービスを提供しなければならない米国オバマ大統領は2009 年の就任時にオープンガバメントに対して「透明性」(transparent)「国民参加」

(participatory)「協業」(collaborative)という 3

科学技術動向研究

概  要

1 はじめに―ガバメント 20実現への 2 つ方向性

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

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原則を示した3)この様な背景から生まれたのがdatagav でありガバメント 20 の 1 つの形態であるデータは加工可能な形で提供されるので国民はそのデータを使って新たなサービスや事業を始めることができる もう 1 つの方向性は市民から行政への情報提供とその情報や問題の市民間の共有である国民や市民の意見を聞くというだけではガバメント 20 ではない行政は市民からの情報に即応し即応できない場合には市民と情報を共有し場合によってはボランティアに対応を任せることも重要であるボランティアによる「Do It Ourselves 型」の公共事業または公共社会へと発展し市民と地方行政はより密接に連携することになる世界中の多くの市町村は「シークリックフィックス(SeeClickFix)」4)というアプリを利用して市民参加を促した上で行政サービスを向上させているこのような Do It Ourselves 型の公共政府もローカルガバメント 20 の 1 つの側面と言える

 世界各国の政府は政府が持つ情報やデータの開示およびオープン化を進めつつある具体的にはdatagov(米国)datagovuk(英国)datagovsg (シンガポール)datagovau(オーストラリア)である特に進んでいるのが図表 1 に示す米国の datagov5)で2013 年 4 月末時点で171 の行政機関が参加し373029 のデータセットと1209 のデータツールを提供しているまた312 のアプリと 137のモバイルアプリも提供している(7 月 2 日時点では75714 のデータセット137 のモバイルアプリと 349 の投稿アプリ295 の政府 API を提供している) 英 国 の datagovuk は2013 年 7 月 2 日 時 点 で9596 のデータセットが公開され投稿されたアプリも含め多数のアプリが提供されている天気情報や交通(事故)情報を取得するアプリが人気が高いシンガポールの datagovsg はキーワードを入力してデータセットを探す仕組みになっており最も良くダウンロードされているのは税収や予算関連のものであるオーストラリアの datagovau は114 の行政機関が参加し1126 のデータセットと 20 のアプリが提供されている

 データセットは加工や分析が可能なマシンリ ー ダ ブ ル な フ ォ ー マ ッ ト(CSV XLS XML RSS RDF など)で提供され利用者がデータセットを取得加工分析できるアプリも同時に提供されるまたAPI(Application Programming Interface)も公開されておりAPI を利用したデータの自動取得も可能であるもしAPI が公開されていなければ政府データを使った新たなサービスやビジネスを創造することは困難でありデータガバメントに利用できる様々なアプリすら開発できない単に政府データを公開するのではなく利用者が加工分析しやすい形でデータを提供することがデータガバメントにとって重要である 政府データを上手く利用している 1 つの実例は

(米)Wolfram Research 社がサービス提供している WolframbrvbarAlpha であろう6)「世界の知識を計算可能にする」ことを謳ったこのサービスは政府データを取り込み利用者が入力した様々な質問に答えてくれる例えば「米国で人口が多い都市は」とか「小麦の生産量は」などの質問にその答えを返すだけでなく関連する情報も提示してくれるこれは政府データがマシンリーダブルであるからできることである

 日本でもオープンガバメント化の流れは避けられず首相官邸の高度情報通信ネットワーク社会推

図表 1 米国の datagov

出典参考文献 5

日本の状況2-2

2 公共データのオープン化

世界各国のデータガバメント2-1

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進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

21

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

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(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

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米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

36

辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
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科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

12

STAR METRICS とは2-1

 STAR METRICS とはldquoScience and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effect of Research on Innovation Competitiveness and Sciencerdquoの頭字であり連邦政府による科学への投資が雇用知識創造保健などにどのような影響効果(インパクト)を及ぼしたかを測定するデータ基盤および分析ツール等の整備構築を図る事業である連邦政府大学その他機関の連携のもとに実施することから「省庁横断的なベンチャー的事業」とも表現されている

根拠法令等2-2

 本事業開始当初の目的は米国再生再投資法(ARRA①)において同法に基づく科学投資の支出景気刺激効果について納税者に対する説明責任を果たすためと説明されていたこれに加えて2009 年 1 月 21 日付けのオ-プンガバメントに関する大統領覚書(Presidential Memorandum on Transparency and Open Government)と2009年 12 月 8 日付けの行政管理予算局覚書(Office of Management and Budget Memorandum)にも事業実施の根拠を求めているこの前者のオ-プンガバメントに関する大統領覚書は省庁がオンライン上で情報を取得ダウンロード検索されうる一般的

事業の参加機関数とデータ収集の範囲3-1

 連邦政府では大統領行政府科学技術政策局(OSTP③)国立科学財団(NSF④)国立保健研究所(NIH⑤ )が STAR METRICS のリード機関となったこれに大学で研究開発に関わる職員(研究者管理者等)と省庁が連携して研究開発推進の効率化調整を図るイニシアティブである FDP⑥と一部の高等教育機関がパートナーとなり2010 年1 月にパイロット事業を開始したパイロット事業では 2011 年 7 月まで方法論の開発実証継続的改善に取り組むとともに競争的研究資金のファンディングを行う政府機関や高等教育機関に対しプロジェクトへの参加を呼びかけるアウトリーチ普及活動にも積極的に取り組んだNSF の科学政策のための科学の研究助成事業(SciSIP⑦)の初代プログラムディレクターを務めこの事業の立ち上げにも尽力した Julia Lane 氏は安全保障上の機密の存在から情報公開が難しい国防総省(DOD⑧)に対してもプロジェクト参加の提案を行うなど省庁学協会等に対し働きかけた こうした省庁横断的な事業普及の取り組みは一定の成果を見せFDP の他に全米の有力な研究型大学の団体である全米大学協会(AAU⑨)と公立ランドグラント大学協会(APLU⑩)からの協力もあり参画研究機関大学は 2010 年 10 月の正式な事業発足の段階で 86 機関となった連邦政府機関では環境保護庁(EPA⑪)農務省(USDA⑫)エネルギー省(DOE⑬)を加えた合計 6 機関が参加協力を得たこの結果これら参加協力機関のすべてのデータが得られた場合金額ベースで NIH の研究助成額の 3 分の 1参加協力機関の合計では金額ベースで連邦政府全体の科学研究助成半分以上をカバーするデータ収集を狙える体制となった

の科学』推進事業」を実施している米国では 2005年にマーバーガー前科学担当大統領補佐官が「科学政策の科学化」を目指しデータモデルとコミュニティ開発を図る「科学政策のための科学」を提唱して以来各国に先駆けて省庁間連携や公募型研究開発プログラムや情報基盤の整備を推進してきた 本稿では米国政府による科学への投資がどのような社会的影響(インパクト)をもたらしたかを解明するため開始された事業(STAR METRICS)についてこれまでの事業展開や今後の見通しを紹介する

なデータ形式で公開する旨を定めたものであるまた後者の行政管理予算局覚書では情報自由法

(FOIR②)の義務付け範囲を超えて有益な情報を積極的に普及させるために先進的な技術を各省庁が利用するよう推奨している

2 事業概要

3 事業の進捗推移

13

科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

表 2 STAR METRICS の計画目標の推移

事業推進体制の変更強化3-2

 2011 年 10 月に NIH がホスト機関となり2012年 1 月には本事業の新たな段階への移行を見据えて執行体制を刷新したエクゼクティブコミッティーと機関横断ワーキンググループの 2 層の省庁機関間の連携組織のもとホスト機関の NIH の責任者がNIH(2 名)および NSF(1 名)のプログラムマネージャーを統括する事業推進体制としたデータシステム整備等の実務的な作業は技術プロジェクトマネージャー(プログラムマネージャーと兼任)がさらにその下に置かれシステム開発を行う業務委託先のベンダーとのプロジェクト進行管理を行っている 事業の実質的な進展を図るこうした体制変更はNIH の連邦政府における科学投資の予算額のシェアの大きさとその組織能力ノウハウを反映した結果とみられるNIH は米国再生再投資法

(ARRA)における科学研究投資額が最も多かった何よりNIH には根拠に基づく医療(EBM⑭)に不可欠の情報基盤となっている学術文献データベース PubMed を実質的に運営注 1)するなどライフイノベーション関連の各種データベースを学術文献のオープンアクセス化といった学術情報流通政策とともに強力に牽引実施してきた実績がある ただしNIH の担当部署ではSTAR METRICS

の情報システムの開発は付随的業務の位置付けで実施しているしかし事業のシステム開発調整には相当の人役エフォートが必要で実質的にはフルタイムの人員が複数張り付く状態だという

事業目標の変更修正3-3

 STAR METRICS で は 大 変 な 試 行 錯 誤 の 末に 2012 年 4 月に事業目標が修正された当初はフェーズ 1 とフェーズ 2 という 2 段階の計画がレベル 1 とレベル 2 という 2 段階に分けてデータ基盤とツールの整備を行う計画に変更されている(表 2)連邦政府による科学投資の社会的インパクト測定手法の開発という政策科学として挑戦的な目標を掲げた当初の事業目標から先進的技術を活用した政府情報の公開のためのデータフローを蓄積分析する科学技術学術情報関連の実用的な基盤整備事業へと現実的な方向に軌道修正を図ったとみられる この結果科学政策の透明性を確保するための情報基盤の構築データ蓄積を図るという変更後の事業目標設定はオープンデータオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の下で一定の位置付けを得る整理になっている

注1 NIH に国立医学図書館(NLM⑮)の一部門の国立生物工学情報センター(NCBI⑯)が置かれPubMed が運営されている

出典所期の事業計画の表現については(参考文献 5)から修正された目標については(参考文献 1)をもとに科学技術動向センターにて作成

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

14

 レベル 1 のデータ整備では現場の過度の事務負担を避けるために整理正規化を行うデータは競争的資金の種目被雇用者の種別(研究員研究補助者等の区分)業務従事割合(フルタイム換算データ)や間接経費込みの人件費総額など人事関連の 14 項目に限定された参加研究機関はデータポリシーに従ったフォーマットで 4 半期毎にデータを提出するとデータの質の確認処理の後レポートが返される仕組みである 以下の図 1 及び図 2 にはこれまでの事業の成果例を示す 図 1 は開発されたシステムと収集されたデータによる連邦レベルでの成果例であるここではレベル 1 の事業に参画した機関数について州別に可視化されている図 2 は参加機関地域レベルの成果例である図 2 ではインディアナ州の参加機関である Purdue 大学と Indiana 大学に関する 2011財政年度における連邦科学投資による雇用誘発効果に関する情報について可視化した例である

図 1 レベル 1 の成果例(1)STAR METRICS に参加している州別機関数

図 2 レベル 1 の成果例(2)インディアナ州における連邦科学投資のもたらす雇用誘発効果大学キャンパス別の被雇用数の可視化

出典参考文献 1 出典参考文献 2

 現在実施中のレベル 2 の目標は連邦政府所管のファンディングエージェンシーの科学研究助成に関して幅広い範囲のインプットおよびアウトプットに焦点を置いたデータを連邦政府機関とその他の利害関係者に対し提供することである機関レベルの

合意のもとNIH がEPANIHNSFUSDA のデータを収集し他の参画 3 機関はデータベース構築に際して概念実証に必要な協力を行う現在技術的実装計画を策定しパイロット版のシステムを開発中であり構築テスト修正が繰り返されている データ整備はアウトカムよりも予算配分とアウトプットのリンクに重点が置かれているこれまでのところ2012 年財政年度を中心として参加協力 6 機関の 7 万 6 千件の助成プロジェクトがウェブベースで開発したデータシステムに入力され財政年度助成機関州群等の位置等のデータ項目やプロジェクトの概要結果等が検索可能になっている技術的課題としてはデータ整備上はテキスト検索下院選挙区別検索機関プロジェクト等詳細情報との接続などが挙げられている特に政策形成過程での実際的な利用を想定して下院選挙区別検索のためのデータの付加が重要な取り組み事項とされている システム運用では機関の実情と個人情報の保護に配慮しつつ政府の科学投資の透明性を高める方針である研究者個人の給与など個人情報や人事業績評価とも直結するデータが蓄積されていることから機微に触れる情報と公開すべき情報を層別し連邦政府機関関係者のみにアクセス制限を設けるなどの運用を考えているという一方参加機関大学の側では大学運営上の評価意思決定計画策定支援を行う情報分析である IR⑰と事務システムの合理化の観点から開発を進めている財務情報や研究活動のベンチマーキングを行う測定評価手法やそのレポートの様式を共同で開発するほかオープンソースのソフトウェアを用いた大学間でのソースコードの共用化などが検討されている こうした状況からSTAR METRICS の今後は

4 これまで(レベル 1)の事業成果

5 今後(レベル 2)の状況見通し

15

科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

図 3 成果実装イメージ例外部研究資金による下院選挙区別雇用誘発効果(Purdue 大学および Indiana 大学)

出典参考文献 2

1) Update on the State of STAR METRICS George ChackohttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811642) STAR Metrics Data Consistency Marietta HarrisonhttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811643) 科学技術学術審議会総会(第 36 回)平成 23 年 5 月 31 日資料 1「科学技術イノベーション政策のための「政策のため

の科学」の推進について」httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu0shiryo__icsFilesafieldfile201107011307169_01pdf

4) Science and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effects of Research on Innovation Competitiveness and Science (STAR METRICS) George Chacko etal Association of Public Data Users NewsletterhttpwwwamstatorgmiscNewsletterArticleSTAR_METRICShtm

5) 遠藤悟ホームページ「米国の科学政策」STAR METRICShttphomepage1niftycombicycletoursci-ronstar_metricshtm

幅広い国民利害関係者への説明責任を果たすための科学投資の社会経済的効果の測定の方法論開発を長期的視野に入れつつも連邦政府機関がファンディング業務の際に利用できる現場の実情を踏まえた実用的な政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積が進むものとみられる

謝辞 この種の政策効果(インパクト)を測定する困難性試行錯誤は世界共通である公開資料ではわかりにくい点も多い本稿の執筆に際し関係者のコメントやそのニュアンスも含め有用な情報提供助言をいただいた(独)新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)ワシントン事務所新川達也前所長(現経済産業省資源エネルギー庁電力ガス事業部原子力発電所事故収束対応室長)前野武史副所長に御礼申し上げる

略称① ARRAAmerican Recovery and Reinvestment Act of 2009② FOIRFreedom of Information Act③ OSTPWhite House Office of Science and Technology Policy④ NSFNational Science Foundation⑤ NIHNational Institute of Health⑥ FDPFederal Demonstration Partnership⑦ SciSIPScience of Science amp Innovation Policy program⑧ DODUnited States Department of Defense⑨ AAUthe Association of American Universities⑩ APLUthe Association of Public and Land Grant Universities⑪ EPAEnvironmental protection Agency⑫ USDAUnited States Department of Agriculture⑬ DOEUnited States Department of Energy⑭ EBMEvidence-based medicine⑮ NLMNational Library of Medicine⑯ NCBINational Center for Biotechnology Information⑰ IRInstitutional Research

参考文献

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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6) Contact Kevin Boatright Office of Research amp Graduate Studies 785-864-7240 Associate vice chancellor accepts visiting assignment with the National Science Foundation May 21 2012httparchivenewskuedu2012may21rosenbloomshtml

7) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Presidential Memorandum on Transparency and Open Government (Jan 21 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_fy2009m09-12pdf

8) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Open Government Directive(Dec 8 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-08pdf

9) RESEARCH INSTITUTION PARTICIPATION GUIDE in STAR METRICS websitehttpswwwstarmetricsnihgovStarParticipatecalculatingjobs

10) Science and Technology Priorities for the FY 2012 Budget(July 21 2010)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-30pdf

白川 展之科学技術情報分析ユニット 上席研究官httpwwwnistepgojp

広島県職員を経て研究者に2008年 9月より現職科学技術予測などに従事専門はイノベーション政策公共経営評価農業から保健医療など幅広い分野の技術マネジメント産学連携の経験から科学技術にとどまらない幅広いイノベーションを研究

執筆者プロフィール

コラム

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

イノベーション政策のデータ基盤に関する日本での議論 科学技術学術政策研究所では文部科学省の科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環としてエビデンスに基づく科学技術イノベーション政策の基礎となる体系的なデータ情報基盤の構築を進めている多くの専門家が指摘している重要課題はミクロデータの利用複数データベースの接続の 2 点であるつまり各種政策の効果の分析や大学等における研究開発の構造的な分析には従来の集計データのみでは不十分でありミクロデータ利用のニーズが非常に大きいまた複数のデータベースを用いた横断的な分析の必要性からデータベースの接続に大きな関心が寄せられているさらにデータ情報基盤構築が政策評価に役立つ意義とともにデータ情報基盤の構築に際して研究者と政策担当者の相互交流と国際的な交流が不可欠との指摘が出されている

出典NISTEP NOTE(政策のための科学)No3「科学技術イノベーション政策のための科学」におけるデータ情報基盤

構築の推進に関する検討2012 年 11 月科学技術政策研究所 科学技術基盤調査研究室

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

 世界各国の政府は情報やデータの開示およびオープン化を進めており実際に各国でデータガバメント「datagov」が稼働し始めた日本でも日本再興戦略1)の一環として2013 年度末までには日本版 datagov を試行的に立ち上げ2014 年度初めから本格稼働を予定しているしかしdatagov の背景や本質を理解した上で事業を進めなければ決して有用なものとはならないそれには「ガバメント 20」というキーワードが参考になる ガバメント 20 とは(米)オライリーメディア社の創設者 Tim OrsquoReilly 氏が 2009 年に提唱した概念であり彼の主張は「政府はプラットホーム化しなければならない」ということである2)情報通信分野で決定的な勝者になったのはプラットホーム企業である例えばMicrosoft 社は会社や家庭にパソコンを普及させGoogle 社は広告収入で運営され

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

キーワードマシンリーダブル公共データオープンデータデータツールデータシティ鯖江

市口 恒雄 特別研究員

る膨大なスタートアップ企業群を生み出しApple社はアプリ開発の企業を生み出して携帯電話の価値を高めたこれらの企業は「第三者に新たな挑戦の場を与える」ことにより成功したつまり政府のプラットホーム化とは「IT 技術によって国民や市民そして行政に新たな挑戦の場を与えること」である ガバメント 20 は電子政府のことかと言えば決してそうではない単なる IT 化では国民や市民に新たな挑戦の場を与えることはできないからであるそれではガバメント 20 とは具体的にどのようなことであり我々はどの様にそれを実現すれば良いのであろうか 実現のための 1 つの方向性は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく市民が積極的に利用できる webサービスを提供しなければならない米国オバマ大統領は2009 年の就任時にオープンガバメントに対して「透明性」(transparent)「国民参加」

(participatory)「協業」(collaborative)という 3

科学技術動向研究

概  要

1 はじめに―ガバメント 20実現への 2 つ方向性

19

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

原則を示した3)この様な背景から生まれたのがdatagav でありガバメント 20 の 1 つの形態であるデータは加工可能な形で提供されるので国民はそのデータを使って新たなサービスや事業を始めることができる もう 1 つの方向性は市民から行政への情報提供とその情報や問題の市民間の共有である国民や市民の意見を聞くというだけではガバメント 20 ではない行政は市民からの情報に即応し即応できない場合には市民と情報を共有し場合によってはボランティアに対応を任せることも重要であるボランティアによる「Do It Ourselves 型」の公共事業または公共社会へと発展し市民と地方行政はより密接に連携することになる世界中の多くの市町村は「シークリックフィックス(SeeClickFix)」4)というアプリを利用して市民参加を促した上で行政サービスを向上させているこのような Do It Ourselves 型の公共政府もローカルガバメント 20 の 1 つの側面と言える

 世界各国の政府は政府が持つ情報やデータの開示およびオープン化を進めつつある具体的にはdatagov(米国)datagovuk(英国)datagovsg (シンガポール)datagovau(オーストラリア)である特に進んでいるのが図表 1 に示す米国の datagov5)で2013 年 4 月末時点で171 の行政機関が参加し373029 のデータセットと1209 のデータツールを提供しているまた312 のアプリと 137のモバイルアプリも提供している(7 月 2 日時点では75714 のデータセット137 のモバイルアプリと 349 の投稿アプリ295 の政府 API を提供している) 英 国 の datagovuk は2013 年 7 月 2 日 時 点 で9596 のデータセットが公開され投稿されたアプリも含め多数のアプリが提供されている天気情報や交通(事故)情報を取得するアプリが人気が高いシンガポールの datagovsg はキーワードを入力してデータセットを探す仕組みになっており最も良くダウンロードされているのは税収や予算関連のものであるオーストラリアの datagovau は114 の行政機関が参加し1126 のデータセットと 20 のアプリが提供されている

 データセットは加工や分析が可能なマシンリ ー ダ ブ ル な フ ォ ー マ ッ ト(CSV XLS XML RSS RDF など)で提供され利用者がデータセットを取得加工分析できるアプリも同時に提供されるまたAPI(Application Programming Interface)も公開されておりAPI を利用したデータの自動取得も可能であるもしAPI が公開されていなければ政府データを使った新たなサービスやビジネスを創造することは困難でありデータガバメントに利用できる様々なアプリすら開発できない単に政府データを公開するのではなく利用者が加工分析しやすい形でデータを提供することがデータガバメントにとって重要である 政府データを上手く利用している 1 つの実例は

(米)Wolfram Research 社がサービス提供している WolframbrvbarAlpha であろう6)「世界の知識を計算可能にする」ことを謳ったこのサービスは政府データを取り込み利用者が入力した様々な質問に答えてくれる例えば「米国で人口が多い都市は」とか「小麦の生産量は」などの質問にその答えを返すだけでなく関連する情報も提示してくれるこれは政府データがマシンリーダブルであるからできることである

 日本でもオープンガバメント化の流れは避けられず首相官邸の高度情報通信ネットワーク社会推

図表 1 米国の datagov

出典参考文献 5

日本の状況2-2

2 公共データのオープン化

世界各国のデータガバメント2-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

20

進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

21

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

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 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

29

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

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金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

31

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

32

概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
  • 科学技術7月号レポート5
  • 科学技術7月号研究成果公表
      1. メニューへ戻る メニューへ戻る
Page 13: レポート・トピックス タイトルをクリックすると 各項目に ... · 2017. 1. 18. · ―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

13

科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

表 2 STAR METRICS の計画目標の推移

事業推進体制の変更強化3-2

 2011 年 10 月に NIH がホスト機関となり2012年 1 月には本事業の新たな段階への移行を見据えて執行体制を刷新したエクゼクティブコミッティーと機関横断ワーキンググループの 2 層の省庁機関間の連携組織のもとホスト機関の NIH の責任者がNIH(2 名)および NSF(1 名)のプログラムマネージャーを統括する事業推進体制としたデータシステム整備等の実務的な作業は技術プロジェクトマネージャー(プログラムマネージャーと兼任)がさらにその下に置かれシステム開発を行う業務委託先のベンダーとのプロジェクト進行管理を行っている 事業の実質的な進展を図るこうした体制変更はNIH の連邦政府における科学投資の予算額のシェアの大きさとその組織能力ノウハウを反映した結果とみられるNIH は米国再生再投資法

(ARRA)における科学研究投資額が最も多かった何よりNIH には根拠に基づく医療(EBM⑭)に不可欠の情報基盤となっている学術文献データベース PubMed を実質的に運営注 1)するなどライフイノベーション関連の各種データベースを学術文献のオープンアクセス化といった学術情報流通政策とともに強力に牽引実施してきた実績がある ただしNIH の担当部署ではSTAR METRICS

の情報システムの開発は付随的業務の位置付けで実施しているしかし事業のシステム開発調整には相当の人役エフォートが必要で実質的にはフルタイムの人員が複数張り付く状態だという

事業目標の変更修正3-3

 STAR METRICS で は 大 変 な 試 行 錯 誤 の 末に 2012 年 4 月に事業目標が修正された当初はフェーズ 1 とフェーズ 2 という 2 段階の計画がレベル 1 とレベル 2 という 2 段階に分けてデータ基盤とツールの整備を行う計画に変更されている(表 2)連邦政府による科学投資の社会的インパクト測定手法の開発という政策科学として挑戦的な目標を掲げた当初の事業目標から先進的技術を活用した政府情報の公開のためのデータフローを蓄積分析する科学技術学術情報関連の実用的な基盤整備事業へと現実的な方向に軌道修正を図ったとみられる この結果科学政策の透明性を確保するための情報基盤の構築データ蓄積を図るという変更後の事業目標設定はオープンデータオープンガバメントなどオバマ政権の基本政策の下で一定の位置付けを得る整理になっている

注1 NIH に国立医学図書館(NLM⑮)の一部門の国立生物工学情報センター(NCBI⑯)が置かれPubMed が運営されている

出典所期の事業計画の表現については(参考文献 5)から修正された目標については(参考文献 1)をもとに科学技術動向センターにて作成

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

14

 レベル 1 のデータ整備では現場の過度の事務負担を避けるために整理正規化を行うデータは競争的資金の種目被雇用者の種別(研究員研究補助者等の区分)業務従事割合(フルタイム換算データ)や間接経費込みの人件費総額など人事関連の 14 項目に限定された参加研究機関はデータポリシーに従ったフォーマットで 4 半期毎にデータを提出するとデータの質の確認処理の後レポートが返される仕組みである 以下の図 1 及び図 2 にはこれまでの事業の成果例を示す 図 1 は開発されたシステムと収集されたデータによる連邦レベルでの成果例であるここではレベル 1 の事業に参画した機関数について州別に可視化されている図 2 は参加機関地域レベルの成果例である図 2 ではインディアナ州の参加機関である Purdue 大学と Indiana 大学に関する 2011財政年度における連邦科学投資による雇用誘発効果に関する情報について可視化した例である

図 1 レベル 1 の成果例(1)STAR METRICS に参加している州別機関数

図 2 レベル 1 の成果例(2)インディアナ州における連邦科学投資のもたらす雇用誘発効果大学キャンパス別の被雇用数の可視化

出典参考文献 1 出典参考文献 2

 現在実施中のレベル 2 の目標は連邦政府所管のファンディングエージェンシーの科学研究助成に関して幅広い範囲のインプットおよびアウトプットに焦点を置いたデータを連邦政府機関とその他の利害関係者に対し提供することである機関レベルの

合意のもとNIH がEPANIHNSFUSDA のデータを収集し他の参画 3 機関はデータベース構築に際して概念実証に必要な協力を行う現在技術的実装計画を策定しパイロット版のシステムを開発中であり構築テスト修正が繰り返されている データ整備はアウトカムよりも予算配分とアウトプットのリンクに重点が置かれているこれまでのところ2012 年財政年度を中心として参加協力 6 機関の 7 万 6 千件の助成プロジェクトがウェブベースで開発したデータシステムに入力され財政年度助成機関州群等の位置等のデータ項目やプロジェクトの概要結果等が検索可能になっている技術的課題としてはデータ整備上はテキスト検索下院選挙区別検索機関プロジェクト等詳細情報との接続などが挙げられている特に政策形成過程での実際的な利用を想定して下院選挙区別検索のためのデータの付加が重要な取り組み事項とされている システム運用では機関の実情と個人情報の保護に配慮しつつ政府の科学投資の透明性を高める方針である研究者個人の給与など個人情報や人事業績評価とも直結するデータが蓄積されていることから機微に触れる情報と公開すべき情報を層別し連邦政府機関関係者のみにアクセス制限を設けるなどの運用を考えているという一方参加機関大学の側では大学運営上の評価意思決定計画策定支援を行う情報分析である IR⑰と事務システムの合理化の観点から開発を進めている財務情報や研究活動のベンチマーキングを行う測定評価手法やそのレポートの様式を共同で開発するほかオープンソースのソフトウェアを用いた大学間でのソースコードの共用化などが検討されている こうした状況からSTAR METRICS の今後は

4 これまで(レベル 1)の事業成果

5 今後(レベル 2)の状況見通し

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

図 3 成果実装イメージ例外部研究資金による下院選挙区別雇用誘発効果(Purdue 大学および Indiana 大学)

出典参考文献 2

1) Update on the State of STAR METRICS George ChackohttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811642) STAR Metrics Data Consistency Marietta HarrisonhttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811643) 科学技術学術審議会総会(第 36 回)平成 23 年 5 月 31 日資料 1「科学技術イノベーション政策のための「政策のため

の科学」の推進について」httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu0shiryo__icsFilesafieldfile201107011307169_01pdf

4) Science and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effects of Research on Innovation Competitiveness and Science (STAR METRICS) George Chacko etal Association of Public Data Users NewsletterhttpwwwamstatorgmiscNewsletterArticleSTAR_METRICShtm

5) 遠藤悟ホームページ「米国の科学政策」STAR METRICShttphomepage1niftycombicycletoursci-ronstar_metricshtm

幅広い国民利害関係者への説明責任を果たすための科学投資の社会経済的効果の測定の方法論開発を長期的視野に入れつつも連邦政府機関がファンディング業務の際に利用できる現場の実情を踏まえた実用的な政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積が進むものとみられる

謝辞 この種の政策効果(インパクト)を測定する困難性試行錯誤は世界共通である公開資料ではわかりにくい点も多い本稿の執筆に際し関係者のコメントやそのニュアンスも含め有用な情報提供助言をいただいた(独)新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)ワシントン事務所新川達也前所長(現経済産業省資源エネルギー庁電力ガス事業部原子力発電所事故収束対応室長)前野武史副所長に御礼申し上げる

略称① ARRAAmerican Recovery and Reinvestment Act of 2009② FOIRFreedom of Information Act③ OSTPWhite House Office of Science and Technology Policy④ NSFNational Science Foundation⑤ NIHNational Institute of Health⑥ FDPFederal Demonstration Partnership⑦ SciSIPScience of Science amp Innovation Policy program⑧ DODUnited States Department of Defense⑨ AAUthe Association of American Universities⑩ APLUthe Association of Public and Land Grant Universities⑪ EPAEnvironmental protection Agency⑫ USDAUnited States Department of Agriculture⑬ DOEUnited States Department of Energy⑭ EBMEvidence-based medicine⑮ NLMNational Library of Medicine⑯ NCBINational Center for Biotechnology Information⑰ IRInstitutional Research

参考文献

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

16

6) Contact Kevin Boatright Office of Research amp Graduate Studies 785-864-7240 Associate vice chancellor accepts visiting assignment with the National Science Foundation May 21 2012httparchivenewskuedu2012may21rosenbloomshtml

7) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Presidential Memorandum on Transparency and Open Government (Jan 21 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_fy2009m09-12pdf

8) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Open Government Directive(Dec 8 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-08pdf

9) RESEARCH INSTITUTION PARTICIPATION GUIDE in STAR METRICS websitehttpswwwstarmetricsnihgovStarParticipatecalculatingjobs

10) Science and Technology Priorities for the FY 2012 Budget(July 21 2010)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-30pdf

白川 展之科学技術情報分析ユニット 上席研究官httpwwwnistepgojp

広島県職員を経て研究者に2008年 9月より現職科学技術予測などに従事専門はイノベーション政策公共経営評価農業から保健医療など幅広い分野の技術マネジメント産学連携の経験から科学技術にとどまらない幅広いイノベーションを研究

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コラム

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

イノベーション政策のデータ基盤に関する日本での議論 科学技術学術政策研究所では文部科学省の科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環としてエビデンスに基づく科学技術イノベーション政策の基礎となる体系的なデータ情報基盤の構築を進めている多くの専門家が指摘している重要課題はミクロデータの利用複数データベースの接続の 2 点であるつまり各種政策の効果の分析や大学等における研究開発の構造的な分析には従来の集計データのみでは不十分でありミクロデータ利用のニーズが非常に大きいまた複数のデータベースを用いた横断的な分析の必要性からデータベースの接続に大きな関心が寄せられているさらにデータ情報基盤構築が政策評価に役立つ意義とともにデータ情報基盤の構築に際して研究者と政策担当者の相互交流と国際的な交流が不可欠との指摘が出されている

出典NISTEP NOTE(政策のための科学)No3「科学技術イノベーション政策のための科学」におけるデータ情報基盤

構築の推進に関する検討2012 年 11 月科学技術政策研究所 科学技術基盤調査研究室

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

 世界各国の政府は情報やデータの開示およびオープン化を進めており実際に各国でデータガバメント「datagov」が稼働し始めた日本でも日本再興戦略1)の一環として2013 年度末までには日本版 datagov を試行的に立ち上げ2014 年度初めから本格稼働を予定しているしかしdatagov の背景や本質を理解した上で事業を進めなければ決して有用なものとはならないそれには「ガバメント 20」というキーワードが参考になる ガバメント 20 とは(米)オライリーメディア社の創設者 Tim OrsquoReilly 氏が 2009 年に提唱した概念であり彼の主張は「政府はプラットホーム化しなければならない」ということである2)情報通信分野で決定的な勝者になったのはプラットホーム企業である例えばMicrosoft 社は会社や家庭にパソコンを普及させGoogle 社は広告収入で運営され

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

キーワードマシンリーダブル公共データオープンデータデータツールデータシティ鯖江

市口 恒雄 特別研究員

る膨大なスタートアップ企業群を生み出しApple社はアプリ開発の企業を生み出して携帯電話の価値を高めたこれらの企業は「第三者に新たな挑戦の場を与える」ことにより成功したつまり政府のプラットホーム化とは「IT 技術によって国民や市民そして行政に新たな挑戦の場を与えること」である ガバメント 20 は電子政府のことかと言えば決してそうではない単なる IT 化では国民や市民に新たな挑戦の場を与えることはできないからであるそれではガバメント 20 とは具体的にどのようなことであり我々はどの様にそれを実現すれば良いのであろうか 実現のための 1 つの方向性は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく市民が積極的に利用できる webサービスを提供しなければならない米国オバマ大統領は2009 年の就任時にオープンガバメントに対して「透明性」(transparent)「国民参加」

(participatory)「協業」(collaborative)という 3

科学技術動向研究

概  要

1 はじめに―ガバメント 20実現への 2 つ方向性

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

原則を示した3)この様な背景から生まれたのがdatagav でありガバメント 20 の 1 つの形態であるデータは加工可能な形で提供されるので国民はそのデータを使って新たなサービスや事業を始めることができる もう 1 つの方向性は市民から行政への情報提供とその情報や問題の市民間の共有である国民や市民の意見を聞くというだけではガバメント 20 ではない行政は市民からの情報に即応し即応できない場合には市民と情報を共有し場合によってはボランティアに対応を任せることも重要であるボランティアによる「Do It Ourselves 型」の公共事業または公共社会へと発展し市民と地方行政はより密接に連携することになる世界中の多くの市町村は「シークリックフィックス(SeeClickFix)」4)というアプリを利用して市民参加を促した上で行政サービスを向上させているこのような Do It Ourselves 型の公共政府もローカルガバメント 20 の 1 つの側面と言える

 世界各国の政府は政府が持つ情報やデータの開示およびオープン化を進めつつある具体的にはdatagov(米国)datagovuk(英国)datagovsg (シンガポール)datagovau(オーストラリア)である特に進んでいるのが図表 1 に示す米国の datagov5)で2013 年 4 月末時点で171 の行政機関が参加し373029 のデータセットと1209 のデータツールを提供しているまた312 のアプリと 137のモバイルアプリも提供している(7 月 2 日時点では75714 のデータセット137 のモバイルアプリと 349 の投稿アプリ295 の政府 API を提供している) 英 国 の datagovuk は2013 年 7 月 2 日 時 点 で9596 のデータセットが公開され投稿されたアプリも含め多数のアプリが提供されている天気情報や交通(事故)情報を取得するアプリが人気が高いシンガポールの datagovsg はキーワードを入力してデータセットを探す仕組みになっており最も良くダウンロードされているのは税収や予算関連のものであるオーストラリアの datagovau は114 の行政機関が参加し1126 のデータセットと 20 のアプリが提供されている

 データセットは加工や分析が可能なマシンリ ー ダ ブ ル な フ ォ ー マ ッ ト(CSV XLS XML RSS RDF など)で提供され利用者がデータセットを取得加工分析できるアプリも同時に提供されるまたAPI(Application Programming Interface)も公開されておりAPI を利用したデータの自動取得も可能であるもしAPI が公開されていなければ政府データを使った新たなサービスやビジネスを創造することは困難でありデータガバメントに利用できる様々なアプリすら開発できない単に政府データを公開するのではなく利用者が加工分析しやすい形でデータを提供することがデータガバメントにとって重要である 政府データを上手く利用している 1 つの実例は

(米)Wolfram Research 社がサービス提供している WolframbrvbarAlpha であろう6)「世界の知識を計算可能にする」ことを謳ったこのサービスは政府データを取り込み利用者が入力した様々な質問に答えてくれる例えば「米国で人口が多い都市は」とか「小麦の生産量は」などの質問にその答えを返すだけでなく関連する情報も提示してくれるこれは政府データがマシンリーダブルであるからできることである

 日本でもオープンガバメント化の流れは避けられず首相官邸の高度情報通信ネットワーク社会推

図表 1 米国の datagov

出典参考文献 5

日本の状況2-2

2 公共データのオープン化

世界各国のデータガバメント2-1

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進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

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(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

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 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

29

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

30

金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

32

概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
  • 科学技術7月号レポート5
  • 科学技術7月号研究成果公表
      1. メニューへ戻る メニューへ戻る
Page 14: レポート・トピックス タイトルをクリックすると 各項目に ... · 2017. 1. 18. · ―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

14

 レベル 1 のデータ整備では現場の過度の事務負担を避けるために整理正規化を行うデータは競争的資金の種目被雇用者の種別(研究員研究補助者等の区分)業務従事割合(フルタイム換算データ)や間接経費込みの人件費総額など人事関連の 14 項目に限定された参加研究機関はデータポリシーに従ったフォーマットで 4 半期毎にデータを提出するとデータの質の確認処理の後レポートが返される仕組みである 以下の図 1 及び図 2 にはこれまでの事業の成果例を示す 図 1 は開発されたシステムと収集されたデータによる連邦レベルでの成果例であるここではレベル 1 の事業に参画した機関数について州別に可視化されている図 2 は参加機関地域レベルの成果例である図 2 ではインディアナ州の参加機関である Purdue 大学と Indiana 大学に関する 2011財政年度における連邦科学投資による雇用誘発効果に関する情報について可視化した例である

図 1 レベル 1 の成果例(1)STAR METRICS に参加している州別機関数

図 2 レベル 1 の成果例(2)インディアナ州における連邦科学投資のもたらす雇用誘発効果大学キャンパス別の被雇用数の可視化

出典参考文献 1 出典参考文献 2

 現在実施中のレベル 2 の目標は連邦政府所管のファンディングエージェンシーの科学研究助成に関して幅広い範囲のインプットおよびアウトプットに焦点を置いたデータを連邦政府機関とその他の利害関係者に対し提供することである機関レベルの

合意のもとNIH がEPANIHNSFUSDA のデータを収集し他の参画 3 機関はデータベース構築に際して概念実証に必要な協力を行う現在技術的実装計画を策定しパイロット版のシステムを開発中であり構築テスト修正が繰り返されている データ整備はアウトカムよりも予算配分とアウトプットのリンクに重点が置かれているこれまでのところ2012 年財政年度を中心として参加協力 6 機関の 7 万 6 千件の助成プロジェクトがウェブベースで開発したデータシステムに入力され財政年度助成機関州群等の位置等のデータ項目やプロジェクトの概要結果等が検索可能になっている技術的課題としてはデータ整備上はテキスト検索下院選挙区別検索機関プロジェクト等詳細情報との接続などが挙げられている特に政策形成過程での実際的な利用を想定して下院選挙区別検索のためのデータの付加が重要な取り組み事項とされている システム運用では機関の実情と個人情報の保護に配慮しつつ政府の科学投資の透明性を高める方針である研究者個人の給与など個人情報や人事業績評価とも直結するデータが蓄積されていることから機微に触れる情報と公開すべき情報を層別し連邦政府機関関係者のみにアクセス制限を設けるなどの運用を考えているという一方参加機関大学の側では大学運営上の評価意思決定計画策定支援を行う情報分析である IR⑰と事務システムの合理化の観点から開発を進めている財務情報や研究活動のベンチマーキングを行う測定評価手法やそのレポートの様式を共同で開発するほかオープンソースのソフトウェアを用いた大学間でのソースコードの共用化などが検討されている こうした状況からSTAR METRICS の今後は

4 これまで(レベル 1)の事業成果

5 今後(レベル 2)の状況見通し

15

科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

図 3 成果実装イメージ例外部研究資金による下院選挙区別雇用誘発効果(Purdue 大学および Indiana 大学)

出典参考文献 2

1) Update on the State of STAR METRICS George ChackohttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811642) STAR Metrics Data Consistency Marietta HarrisonhttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811643) 科学技術学術審議会総会(第 36 回)平成 23 年 5 月 31 日資料 1「科学技術イノベーション政策のための「政策のため

の科学」の推進について」httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu0shiryo__icsFilesafieldfile201107011307169_01pdf

4) Science and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effects of Research on Innovation Competitiveness and Science (STAR METRICS) George Chacko etal Association of Public Data Users NewsletterhttpwwwamstatorgmiscNewsletterArticleSTAR_METRICShtm

5) 遠藤悟ホームページ「米国の科学政策」STAR METRICShttphomepage1niftycombicycletoursci-ronstar_metricshtm

幅広い国民利害関係者への説明責任を果たすための科学投資の社会経済的効果の測定の方法論開発を長期的視野に入れつつも連邦政府機関がファンディング業務の際に利用できる現場の実情を踏まえた実用的な政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積が進むものとみられる

謝辞 この種の政策効果(インパクト)を測定する困難性試行錯誤は世界共通である公開資料ではわかりにくい点も多い本稿の執筆に際し関係者のコメントやそのニュアンスも含め有用な情報提供助言をいただいた(独)新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)ワシントン事務所新川達也前所長(現経済産業省資源エネルギー庁電力ガス事業部原子力発電所事故収束対応室長)前野武史副所長に御礼申し上げる

略称① ARRAAmerican Recovery and Reinvestment Act of 2009② FOIRFreedom of Information Act③ OSTPWhite House Office of Science and Technology Policy④ NSFNational Science Foundation⑤ NIHNational Institute of Health⑥ FDPFederal Demonstration Partnership⑦ SciSIPScience of Science amp Innovation Policy program⑧ DODUnited States Department of Defense⑨ AAUthe Association of American Universities⑩ APLUthe Association of Public and Land Grant Universities⑪ EPAEnvironmental protection Agency⑫ USDAUnited States Department of Agriculture⑬ DOEUnited States Department of Energy⑭ EBMEvidence-based medicine⑮ NLMNational Library of Medicine⑯ NCBINational Center for Biotechnology Information⑰ IRInstitutional Research

参考文献

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

16

6) Contact Kevin Boatright Office of Research amp Graduate Studies 785-864-7240 Associate vice chancellor accepts visiting assignment with the National Science Foundation May 21 2012httparchivenewskuedu2012may21rosenbloomshtml

7) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Presidential Memorandum on Transparency and Open Government (Jan 21 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_fy2009m09-12pdf

8) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Open Government Directive(Dec 8 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-08pdf

9) RESEARCH INSTITUTION PARTICIPATION GUIDE in STAR METRICS websitehttpswwwstarmetricsnihgovStarParticipatecalculatingjobs

10) Science and Technology Priorities for the FY 2012 Budget(July 21 2010)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-30pdf

白川 展之科学技術情報分析ユニット 上席研究官httpwwwnistepgojp

広島県職員を経て研究者に2008年 9月より現職科学技術予測などに従事専門はイノベーション政策公共経営評価農業から保健医療など幅広い分野の技術マネジメント産学連携の経験から科学技術にとどまらない幅広いイノベーションを研究

執筆者プロフィール

コラム

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

イノベーション政策のデータ基盤に関する日本での議論 科学技術学術政策研究所では文部科学省の科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環としてエビデンスに基づく科学技術イノベーション政策の基礎となる体系的なデータ情報基盤の構築を進めている多くの専門家が指摘している重要課題はミクロデータの利用複数データベースの接続の 2 点であるつまり各種政策の効果の分析や大学等における研究開発の構造的な分析には従来の集計データのみでは不十分でありミクロデータ利用のニーズが非常に大きいまた複数のデータベースを用いた横断的な分析の必要性からデータベースの接続に大きな関心が寄せられているさらにデータ情報基盤構築が政策評価に役立つ意義とともにデータ情報基盤の構築に際して研究者と政策担当者の相互交流と国際的な交流が不可欠との指摘が出されている

出典NISTEP NOTE(政策のための科学)No3「科学技術イノベーション政策のための科学」におけるデータ情報基盤

構築の推進に関する検討2012 年 11 月科学技術政策研究所 科学技術基盤調査研究室

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

 世界各国の政府は情報やデータの開示およびオープン化を進めており実際に各国でデータガバメント「datagov」が稼働し始めた日本でも日本再興戦略1)の一環として2013 年度末までには日本版 datagov を試行的に立ち上げ2014 年度初めから本格稼働を予定しているしかしdatagov の背景や本質を理解した上で事業を進めなければ決して有用なものとはならないそれには「ガバメント 20」というキーワードが参考になる ガバメント 20 とは(米)オライリーメディア社の創設者 Tim OrsquoReilly 氏が 2009 年に提唱した概念であり彼の主張は「政府はプラットホーム化しなければならない」ということである2)情報通信分野で決定的な勝者になったのはプラットホーム企業である例えばMicrosoft 社は会社や家庭にパソコンを普及させGoogle 社は広告収入で運営され

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

キーワードマシンリーダブル公共データオープンデータデータツールデータシティ鯖江

市口 恒雄 特別研究員

る膨大なスタートアップ企業群を生み出しApple社はアプリ開発の企業を生み出して携帯電話の価値を高めたこれらの企業は「第三者に新たな挑戦の場を与える」ことにより成功したつまり政府のプラットホーム化とは「IT 技術によって国民や市民そして行政に新たな挑戦の場を与えること」である ガバメント 20 は電子政府のことかと言えば決してそうではない単なる IT 化では国民や市民に新たな挑戦の場を与えることはできないからであるそれではガバメント 20 とは具体的にどのようなことであり我々はどの様にそれを実現すれば良いのであろうか 実現のための 1 つの方向性は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく市民が積極的に利用できる webサービスを提供しなければならない米国オバマ大統領は2009 年の就任時にオープンガバメントに対して「透明性」(transparent)「国民参加」

(participatory)「協業」(collaborative)という 3

科学技術動向研究

概  要

1 はじめに―ガバメント 20実現への 2 つ方向性

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

原則を示した3)この様な背景から生まれたのがdatagav でありガバメント 20 の 1 つの形態であるデータは加工可能な形で提供されるので国民はそのデータを使って新たなサービスや事業を始めることができる もう 1 つの方向性は市民から行政への情報提供とその情報や問題の市民間の共有である国民や市民の意見を聞くというだけではガバメント 20 ではない行政は市民からの情報に即応し即応できない場合には市民と情報を共有し場合によってはボランティアに対応を任せることも重要であるボランティアによる「Do It Ourselves 型」の公共事業または公共社会へと発展し市民と地方行政はより密接に連携することになる世界中の多くの市町村は「シークリックフィックス(SeeClickFix)」4)というアプリを利用して市民参加を促した上で行政サービスを向上させているこのような Do It Ourselves 型の公共政府もローカルガバメント 20 の 1 つの側面と言える

 世界各国の政府は政府が持つ情報やデータの開示およびオープン化を進めつつある具体的にはdatagov(米国)datagovuk(英国)datagovsg (シンガポール)datagovau(オーストラリア)である特に進んでいるのが図表 1 に示す米国の datagov5)で2013 年 4 月末時点で171 の行政機関が参加し373029 のデータセットと1209 のデータツールを提供しているまた312 のアプリと 137のモバイルアプリも提供している(7 月 2 日時点では75714 のデータセット137 のモバイルアプリと 349 の投稿アプリ295 の政府 API を提供している) 英 国 の datagovuk は2013 年 7 月 2 日 時 点 で9596 のデータセットが公開され投稿されたアプリも含め多数のアプリが提供されている天気情報や交通(事故)情報を取得するアプリが人気が高いシンガポールの datagovsg はキーワードを入力してデータセットを探す仕組みになっており最も良くダウンロードされているのは税収や予算関連のものであるオーストラリアの datagovau は114 の行政機関が参加し1126 のデータセットと 20 のアプリが提供されている

 データセットは加工や分析が可能なマシンリ ー ダ ブ ル な フ ォ ー マ ッ ト(CSV XLS XML RSS RDF など)で提供され利用者がデータセットを取得加工分析できるアプリも同時に提供されるまたAPI(Application Programming Interface)も公開されておりAPI を利用したデータの自動取得も可能であるもしAPI が公開されていなければ政府データを使った新たなサービスやビジネスを創造することは困難でありデータガバメントに利用できる様々なアプリすら開発できない単に政府データを公開するのではなく利用者が加工分析しやすい形でデータを提供することがデータガバメントにとって重要である 政府データを上手く利用している 1 つの実例は

(米)Wolfram Research 社がサービス提供している WolframbrvbarAlpha であろう6)「世界の知識を計算可能にする」ことを謳ったこのサービスは政府データを取り込み利用者が入力した様々な質問に答えてくれる例えば「米国で人口が多い都市は」とか「小麦の生産量は」などの質問にその答えを返すだけでなく関連する情報も提示してくれるこれは政府データがマシンリーダブルであるからできることである

 日本でもオープンガバメント化の流れは避けられず首相官邸の高度情報通信ネットワーク社会推

図表 1 米国の datagov

出典参考文献 5

日本の状況2-2

2 公共データのオープン化

世界各国のデータガバメント2-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

28

 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

29

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

30

金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

32

概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
  • 科学技術7月号レポート5
  • 科学技術7月号研究成果公表
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15

科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

図 3 成果実装イメージ例外部研究資金による下院選挙区別雇用誘発効果(Purdue 大学および Indiana 大学)

出典参考文献 2

1) Update on the State of STAR METRICS George ChackohttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811642) STAR Metrics Data Consistency Marietta HarrisonhttpsitesnationalacademiesorgPGAfdpPGA_0811643) 科学技術学術審議会総会(第 36 回)平成 23 年 5 月 31 日資料 1「科学技術イノベーション政策のための「政策のため

の科学」の推進について」httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu0shiryo__icsFilesafieldfile201107011307169_01pdf

4) Science and Technology for Americarsquos Reinvestment Measuring the Effects of Research on Innovation Competitiveness and Science (STAR METRICS) George Chacko etal Association of Public Data Users NewsletterhttpwwwamstatorgmiscNewsletterArticleSTAR_METRICShtm

5) 遠藤悟ホームページ「米国の科学政策」STAR METRICShttphomepage1niftycombicycletoursci-ronstar_metricshtm

幅広い国民利害関係者への説明責任を果たすための科学投資の社会経済的効果の測定の方法論開発を長期的視野に入れつつも連邦政府機関がファンディング業務の際に利用できる現場の実情を踏まえた実用的な政策情報システムとして開発運用とデータ蓄積が進むものとみられる

謝辞 この種の政策効果(インパクト)を測定する困難性試行錯誤は世界共通である公開資料ではわかりにくい点も多い本稿の執筆に際し関係者のコメントやそのニュアンスも含め有用な情報提供助言をいただいた(独)新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)ワシントン事務所新川達也前所長(現経済産業省資源エネルギー庁電力ガス事業部原子力発電所事故収束対応室長)前野武史副所長に御礼申し上げる

略称① ARRAAmerican Recovery and Reinvestment Act of 2009② FOIRFreedom of Information Act③ OSTPWhite House Office of Science and Technology Policy④ NSFNational Science Foundation⑤ NIHNational Institute of Health⑥ FDPFederal Demonstration Partnership⑦ SciSIPScience of Science amp Innovation Policy program⑧ DODUnited States Department of Defense⑨ AAUthe Association of American Universities⑩ APLUthe Association of Public and Land Grant Universities⑪ EPAEnvironmental protection Agency⑫ USDAUnited States Department of Agriculture⑬ DOEUnited States Department of Energy⑭ EBMEvidence-based medicine⑮ NLMNational Library of Medicine⑯ NCBINational Center for Biotechnology Information⑰ IRInstitutional Research

参考文献

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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6) Contact Kevin Boatright Office of Research amp Graduate Studies 785-864-7240 Associate vice chancellor accepts visiting assignment with the National Science Foundation May 21 2012httparchivenewskuedu2012may21rosenbloomshtml

7) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Presidential Memorandum on Transparency and Open Government (Jan 21 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_fy2009m09-12pdf

8) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Open Government Directive(Dec 8 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-08pdf

9) RESEARCH INSTITUTION PARTICIPATION GUIDE in STAR METRICS websitehttpswwwstarmetricsnihgovStarParticipatecalculatingjobs

10) Science and Technology Priorities for the FY 2012 Budget(July 21 2010)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-30pdf

白川 展之科学技術情報分析ユニット 上席研究官httpwwwnistepgojp

広島県職員を経て研究者に2008年 9月より現職科学技術予測などに従事専門はイノベーション政策公共経営評価農業から保健医療など幅広い分野の技術マネジメント産学連携の経験から科学技術にとどまらない幅広いイノベーションを研究

執筆者プロフィール

コラム

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

イノベーション政策のデータ基盤に関する日本での議論 科学技術学術政策研究所では文部科学省の科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環としてエビデンスに基づく科学技術イノベーション政策の基礎となる体系的なデータ情報基盤の構築を進めている多くの専門家が指摘している重要課題はミクロデータの利用複数データベースの接続の 2 点であるつまり各種政策の効果の分析や大学等における研究開発の構造的な分析には従来の集計データのみでは不十分でありミクロデータ利用のニーズが非常に大きいまた複数のデータベースを用いた横断的な分析の必要性からデータベースの接続に大きな関心が寄せられているさらにデータ情報基盤構築が政策評価に役立つ意義とともにデータ情報基盤の構築に際して研究者と政策担当者の相互交流と国際的な交流が不可欠との指摘が出されている

出典NISTEP NOTE(政策のための科学)No3「科学技術イノベーション政策のための科学」におけるデータ情報基盤

構築の推進に関する検討2012 年 11 月科学技術政策研究所 科学技術基盤調査研究室

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

 世界各国の政府は情報やデータの開示およびオープン化を進めており実際に各国でデータガバメント「datagov」が稼働し始めた日本でも日本再興戦略1)の一環として2013 年度末までには日本版 datagov を試行的に立ち上げ2014 年度初めから本格稼働を予定しているしかしdatagov の背景や本質を理解した上で事業を進めなければ決して有用なものとはならないそれには「ガバメント 20」というキーワードが参考になる ガバメント 20 とは(米)オライリーメディア社の創設者 Tim OrsquoReilly 氏が 2009 年に提唱した概念であり彼の主張は「政府はプラットホーム化しなければならない」ということである2)情報通信分野で決定的な勝者になったのはプラットホーム企業である例えばMicrosoft 社は会社や家庭にパソコンを普及させGoogle 社は広告収入で運営され

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

キーワードマシンリーダブル公共データオープンデータデータツールデータシティ鯖江

市口 恒雄 特別研究員

る膨大なスタートアップ企業群を生み出しApple社はアプリ開発の企業を生み出して携帯電話の価値を高めたこれらの企業は「第三者に新たな挑戦の場を与える」ことにより成功したつまり政府のプラットホーム化とは「IT 技術によって国民や市民そして行政に新たな挑戦の場を与えること」である ガバメント 20 は電子政府のことかと言えば決してそうではない単なる IT 化では国民や市民に新たな挑戦の場を与えることはできないからであるそれではガバメント 20 とは具体的にどのようなことであり我々はどの様にそれを実現すれば良いのであろうか 実現のための 1 つの方向性は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく市民が積極的に利用できる webサービスを提供しなければならない米国オバマ大統領は2009 年の就任時にオープンガバメントに対して「透明性」(transparent)「国民参加」

(participatory)「協業」(collaborative)という 3

科学技術動向研究

概  要

1 はじめに―ガバメント 20実現への 2 つ方向性

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

原則を示した3)この様な背景から生まれたのがdatagav でありガバメント 20 の 1 つの形態であるデータは加工可能な形で提供されるので国民はそのデータを使って新たなサービスや事業を始めることができる もう 1 つの方向性は市民から行政への情報提供とその情報や問題の市民間の共有である国民や市民の意見を聞くというだけではガバメント 20 ではない行政は市民からの情報に即応し即応できない場合には市民と情報を共有し場合によってはボランティアに対応を任せることも重要であるボランティアによる「Do It Ourselves 型」の公共事業または公共社会へと発展し市民と地方行政はより密接に連携することになる世界中の多くの市町村は「シークリックフィックス(SeeClickFix)」4)というアプリを利用して市民参加を促した上で行政サービスを向上させているこのような Do It Ourselves 型の公共政府もローカルガバメント 20 の 1 つの側面と言える

 世界各国の政府は政府が持つ情報やデータの開示およびオープン化を進めつつある具体的にはdatagov(米国)datagovuk(英国)datagovsg (シンガポール)datagovau(オーストラリア)である特に進んでいるのが図表 1 に示す米国の datagov5)で2013 年 4 月末時点で171 の行政機関が参加し373029 のデータセットと1209 のデータツールを提供しているまた312 のアプリと 137のモバイルアプリも提供している(7 月 2 日時点では75714 のデータセット137 のモバイルアプリと 349 の投稿アプリ295 の政府 API を提供している) 英 国 の datagovuk は2013 年 7 月 2 日 時 点 で9596 のデータセットが公開され投稿されたアプリも含め多数のアプリが提供されている天気情報や交通(事故)情報を取得するアプリが人気が高いシンガポールの datagovsg はキーワードを入力してデータセットを探す仕組みになっており最も良くダウンロードされているのは税収や予算関連のものであるオーストラリアの datagovau は114 の行政機関が参加し1126 のデータセットと 20 のアプリが提供されている

 データセットは加工や分析が可能なマシンリ ー ダ ブ ル な フ ォ ー マ ッ ト(CSV XLS XML RSS RDF など)で提供され利用者がデータセットを取得加工分析できるアプリも同時に提供されるまたAPI(Application Programming Interface)も公開されておりAPI を利用したデータの自動取得も可能であるもしAPI が公開されていなければ政府データを使った新たなサービスやビジネスを創造することは困難でありデータガバメントに利用できる様々なアプリすら開発できない単に政府データを公開するのではなく利用者が加工分析しやすい形でデータを提供することがデータガバメントにとって重要である 政府データを上手く利用している 1 つの実例は

(米)Wolfram Research 社がサービス提供している WolframbrvbarAlpha であろう6)「世界の知識を計算可能にする」ことを謳ったこのサービスは政府データを取り込み利用者が入力した様々な質問に答えてくれる例えば「米国で人口が多い都市は」とか「小麦の生産量は」などの質問にその答えを返すだけでなく関連する情報も提示してくれるこれは政府データがマシンリーダブルであるからできることである

 日本でもオープンガバメント化の流れは避けられず首相官邸の高度情報通信ネットワーク社会推

図表 1 米国の datagov

出典参考文献 5

日本の状況2-2

2 公共データのオープン化

世界各国のデータガバメント2-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

28

 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

29

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

30

金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

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米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
  • 科学技術7月号レポート5
  • 科学技術7月号研究成果公表
      1. メニューへ戻る メニューへ戻る
Page 16: レポート・トピックス タイトルをクリックすると 各項目に ... · 2017. 1. 18. · ―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

16

6) Contact Kevin Boatright Office of Research amp Graduate Studies 785-864-7240 Associate vice chancellor accepts visiting assignment with the National Science Foundation May 21 2012httparchivenewskuedu2012may21rosenbloomshtml

7) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Presidential Memorandum on Transparency and Open Government (Jan 21 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_fy2009m09-12pdf

8) Office of Management and Budget (OMB) Memorandum Open Government Directive(Dec 8 2009)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-08pdf

9) RESEARCH INSTITUTION PARTICIPATION GUIDE in STAR METRICS websitehttpswwwstarmetricsnihgovStarParticipatecalculatingjobs

10) Science and Technology Priorities for the FY 2012 Budget(July 21 2010)httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesombassetsmemoranda_2010m10-30pdf

白川 展之科学技術情報分析ユニット 上席研究官httpwwwnistepgojp

広島県職員を経て研究者に2008年 9月より現職科学技術予測などに従事専門はイノベーション政策公共経営評価農業から保健医療など幅広い分野の技術マネジメント産学連携の経験から科学技術にとどまらない幅広いイノベーションを研究

執筆者プロフィール

コラム

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科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

イノベーション政策のデータ基盤に関する日本での議論 科学技術学術政策研究所では文部科学省の科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環としてエビデンスに基づく科学技術イノベーション政策の基礎となる体系的なデータ情報基盤の構築を進めている多くの専門家が指摘している重要課題はミクロデータの利用複数データベースの接続の 2 点であるつまり各種政策の効果の分析や大学等における研究開発の構造的な分析には従来の集計データのみでは不十分でありミクロデータ利用のニーズが非常に大きいまた複数のデータベースを用いた横断的な分析の必要性からデータベースの接続に大きな関心が寄せられているさらにデータ情報基盤構築が政策評価に役立つ意義とともにデータ情報基盤の構築に際して研究者と政策担当者の相互交流と国際的な交流が不可欠との指摘が出されている

出典NISTEP NOTE(政策のための科学)No3「科学技術イノベーション政策のための科学」におけるデータ情報基盤

構築の推進に関する検討2012 年 11 月科学技術政策研究所 科学技術基盤調査研究室

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

 世界各国の政府は情報やデータの開示およびオープン化を進めており実際に各国でデータガバメント「datagov」が稼働し始めた日本でも日本再興戦略1)の一環として2013 年度末までには日本版 datagov を試行的に立ち上げ2014 年度初めから本格稼働を予定しているしかしdatagov の背景や本質を理解した上で事業を進めなければ決して有用なものとはならないそれには「ガバメント 20」というキーワードが参考になる ガバメント 20 とは(米)オライリーメディア社の創設者 Tim OrsquoReilly 氏が 2009 年に提唱した概念であり彼の主張は「政府はプラットホーム化しなければならない」ということである2)情報通信分野で決定的な勝者になったのはプラットホーム企業である例えばMicrosoft 社は会社や家庭にパソコンを普及させGoogle 社は広告収入で運営され

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

キーワードマシンリーダブル公共データオープンデータデータツールデータシティ鯖江

市口 恒雄 特別研究員

る膨大なスタートアップ企業群を生み出しApple社はアプリ開発の企業を生み出して携帯電話の価値を高めたこれらの企業は「第三者に新たな挑戦の場を与える」ことにより成功したつまり政府のプラットホーム化とは「IT 技術によって国民や市民そして行政に新たな挑戦の場を与えること」である ガバメント 20 は電子政府のことかと言えば決してそうではない単なる IT 化では国民や市民に新たな挑戦の場を与えることはできないからであるそれではガバメント 20 とは具体的にどのようなことであり我々はどの様にそれを実現すれば良いのであろうか 実現のための 1 つの方向性は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく市民が積極的に利用できる webサービスを提供しなければならない米国オバマ大統領は2009 年の就任時にオープンガバメントに対して「透明性」(transparent)「国民参加」

(participatory)「協業」(collaborative)という 3

科学技術動向研究

概  要

1 はじめに―ガバメント 20実現への 2 つ方向性

19

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

原則を示した3)この様な背景から生まれたのがdatagav でありガバメント 20 の 1 つの形態であるデータは加工可能な形で提供されるので国民はそのデータを使って新たなサービスや事業を始めることができる もう 1 つの方向性は市民から行政への情報提供とその情報や問題の市民間の共有である国民や市民の意見を聞くというだけではガバメント 20 ではない行政は市民からの情報に即応し即応できない場合には市民と情報を共有し場合によってはボランティアに対応を任せることも重要であるボランティアによる「Do It Ourselves 型」の公共事業または公共社会へと発展し市民と地方行政はより密接に連携することになる世界中の多くの市町村は「シークリックフィックス(SeeClickFix)」4)というアプリを利用して市民参加を促した上で行政サービスを向上させているこのような Do It Ourselves 型の公共政府もローカルガバメント 20 の 1 つの側面と言える

 世界各国の政府は政府が持つ情報やデータの開示およびオープン化を進めつつある具体的にはdatagov(米国)datagovuk(英国)datagovsg (シンガポール)datagovau(オーストラリア)である特に進んでいるのが図表 1 に示す米国の datagov5)で2013 年 4 月末時点で171 の行政機関が参加し373029 のデータセットと1209 のデータツールを提供しているまた312 のアプリと 137のモバイルアプリも提供している(7 月 2 日時点では75714 のデータセット137 のモバイルアプリと 349 の投稿アプリ295 の政府 API を提供している) 英 国 の datagovuk は2013 年 7 月 2 日 時 点 で9596 のデータセットが公開され投稿されたアプリも含め多数のアプリが提供されている天気情報や交通(事故)情報を取得するアプリが人気が高いシンガポールの datagovsg はキーワードを入力してデータセットを探す仕組みになっており最も良くダウンロードされているのは税収や予算関連のものであるオーストラリアの datagovau は114 の行政機関が参加し1126 のデータセットと 20 のアプリが提供されている

 データセットは加工や分析が可能なマシンリ ー ダ ブ ル な フ ォ ー マ ッ ト(CSV XLS XML RSS RDF など)で提供され利用者がデータセットを取得加工分析できるアプリも同時に提供されるまたAPI(Application Programming Interface)も公開されておりAPI を利用したデータの自動取得も可能であるもしAPI が公開されていなければ政府データを使った新たなサービスやビジネスを創造することは困難でありデータガバメントに利用できる様々なアプリすら開発できない単に政府データを公開するのではなく利用者が加工分析しやすい形でデータを提供することがデータガバメントにとって重要である 政府データを上手く利用している 1 つの実例は

(米)Wolfram Research 社がサービス提供している WolframbrvbarAlpha であろう6)「世界の知識を計算可能にする」ことを謳ったこのサービスは政府データを取り込み利用者が入力した様々な質問に答えてくれる例えば「米国で人口が多い都市は」とか「小麦の生産量は」などの質問にその答えを返すだけでなく関連する情報も提示してくれるこれは政府データがマシンリーダブルであるからできることである

 日本でもオープンガバメント化の流れは避けられず首相官邸の高度情報通信ネットワーク社会推

図表 1 米国の datagov

出典参考文献 5

日本の状況2-2

2 公共データのオープン化

世界各国のデータガバメント2-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

20

進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

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 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

30

金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

31

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

32

概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
  • 科学技術7月号レポート5
  • 科学技術7月号研究成果公表
      1. メニューへ戻る メニューへ戻る
Page 17: レポート・トピックス タイトルをクリックすると 各項目に ... · 2017. 1. 18. · ―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

コラム

17

科学研究の投資効果測定を目指す米国の STAR METRICS事業の現状と今後の見通し

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

イノベーション政策のデータ基盤に関する日本での議論 科学技術学術政策研究所では文部科学省の科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環としてエビデンスに基づく科学技術イノベーション政策の基礎となる体系的なデータ情報基盤の構築を進めている多くの専門家が指摘している重要課題はミクロデータの利用複数データベースの接続の 2 点であるつまり各種政策の効果の分析や大学等における研究開発の構造的な分析には従来の集計データのみでは不十分でありミクロデータ利用のニーズが非常に大きいまた複数のデータベースを用いた横断的な分析の必要性からデータベースの接続に大きな関心が寄せられているさらにデータ情報基盤構築が政策評価に役立つ意義とともにデータ情報基盤の構築に際して研究者と政策担当者の相互交流と国際的な交流が不可欠との指摘が出されている

出典NISTEP NOTE(政策のための科学)No3「科学技術イノベーション政策のための科学」におけるデータ情報基盤

構築の推進に関する検討2012 年 11 月科学技術政策研究所 科学技術基盤調査研究室

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

18

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

 世界各国の政府は情報やデータの開示およびオープン化を進めており実際に各国でデータガバメント「datagov」が稼働し始めた日本でも日本再興戦略1)の一環として2013 年度末までには日本版 datagov を試行的に立ち上げ2014 年度初めから本格稼働を予定しているしかしdatagov の背景や本質を理解した上で事業を進めなければ決して有用なものとはならないそれには「ガバメント 20」というキーワードが参考になる ガバメント 20 とは(米)オライリーメディア社の創設者 Tim OrsquoReilly 氏が 2009 年に提唱した概念であり彼の主張は「政府はプラットホーム化しなければならない」ということである2)情報通信分野で決定的な勝者になったのはプラットホーム企業である例えばMicrosoft 社は会社や家庭にパソコンを普及させGoogle 社は広告収入で運営され

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

キーワードマシンリーダブル公共データオープンデータデータツールデータシティ鯖江

市口 恒雄 特別研究員

る膨大なスタートアップ企業群を生み出しApple社はアプリ開発の企業を生み出して携帯電話の価値を高めたこれらの企業は「第三者に新たな挑戦の場を与える」ことにより成功したつまり政府のプラットホーム化とは「IT 技術によって国民や市民そして行政に新たな挑戦の場を与えること」である ガバメント 20 は電子政府のことかと言えば決してそうではない単なる IT 化では国民や市民に新たな挑戦の場を与えることはできないからであるそれではガバメント 20 とは具体的にどのようなことであり我々はどの様にそれを実現すれば良いのであろうか 実現のための 1 つの方向性は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく市民が積極的に利用できる webサービスを提供しなければならない米国オバマ大統領は2009 年の就任時にオープンガバメントに対して「透明性」(transparent)「国民参加」

(participatory)「協業」(collaborative)という 3

科学技術動向研究

概  要

1 はじめに―ガバメント 20実現への 2 つ方向性

19

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

原則を示した3)この様な背景から生まれたのがdatagav でありガバメント 20 の 1 つの形態であるデータは加工可能な形で提供されるので国民はそのデータを使って新たなサービスや事業を始めることができる もう 1 つの方向性は市民から行政への情報提供とその情報や問題の市民間の共有である国民や市民の意見を聞くというだけではガバメント 20 ではない行政は市民からの情報に即応し即応できない場合には市民と情報を共有し場合によってはボランティアに対応を任せることも重要であるボランティアによる「Do It Ourselves 型」の公共事業または公共社会へと発展し市民と地方行政はより密接に連携することになる世界中の多くの市町村は「シークリックフィックス(SeeClickFix)」4)というアプリを利用して市民参加を促した上で行政サービスを向上させているこのような Do It Ourselves 型の公共政府もローカルガバメント 20 の 1 つの側面と言える

 世界各国の政府は政府が持つ情報やデータの開示およびオープン化を進めつつある具体的にはdatagov(米国)datagovuk(英国)datagovsg (シンガポール)datagovau(オーストラリア)である特に進んでいるのが図表 1 に示す米国の datagov5)で2013 年 4 月末時点で171 の行政機関が参加し373029 のデータセットと1209 のデータツールを提供しているまた312 のアプリと 137のモバイルアプリも提供している(7 月 2 日時点では75714 のデータセット137 のモバイルアプリと 349 の投稿アプリ295 の政府 API を提供している) 英 国 の datagovuk は2013 年 7 月 2 日 時 点 で9596 のデータセットが公開され投稿されたアプリも含め多数のアプリが提供されている天気情報や交通(事故)情報を取得するアプリが人気が高いシンガポールの datagovsg はキーワードを入力してデータセットを探す仕組みになっており最も良くダウンロードされているのは税収や予算関連のものであるオーストラリアの datagovau は114 の行政機関が参加し1126 のデータセットと 20 のアプリが提供されている

 データセットは加工や分析が可能なマシンリ ー ダ ブ ル な フ ォ ー マ ッ ト(CSV XLS XML RSS RDF など)で提供され利用者がデータセットを取得加工分析できるアプリも同時に提供されるまたAPI(Application Programming Interface)も公開されておりAPI を利用したデータの自動取得も可能であるもしAPI が公開されていなければ政府データを使った新たなサービスやビジネスを創造することは困難でありデータガバメントに利用できる様々なアプリすら開発できない単に政府データを公開するのではなく利用者が加工分析しやすい形でデータを提供することがデータガバメントにとって重要である 政府データを上手く利用している 1 つの実例は

(米)Wolfram Research 社がサービス提供している WolframbrvbarAlpha であろう6)「世界の知識を計算可能にする」ことを謳ったこのサービスは政府データを取り込み利用者が入力した様々な質問に答えてくれる例えば「米国で人口が多い都市は」とか「小麦の生産量は」などの質問にその答えを返すだけでなく関連する情報も提示してくれるこれは政府データがマシンリーダブルであるからできることである

 日本でもオープンガバメント化の流れは避けられず首相官邸の高度情報通信ネットワーク社会推

図表 1 米国の datagov

出典参考文献 5

日本の状況2-2

2 公共データのオープン化

世界各国のデータガバメント2-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

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(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

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市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

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団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

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 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

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こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

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金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

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主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

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概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

36

辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
  • 科学技術7月号レポート5
  • 科学技術7月号研究成果公表
      1. メニューへ戻る メニューへ戻る
Page 18: レポート・トピックス タイトルをクリックすると 各項目に ... · 2017. 1. 18. · ―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

18

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

 世界各国の政府は情報やデータの開示およびオープン化を進めており実際に各国でデータガバメント「datagov」が稼働し始めた日本でも日本再興戦略1)の一環として2013 年度末までには日本版 datagov を試行的に立ち上げ2014 年度初めから本格稼働を予定しているしかしdatagov の背景や本質を理解した上で事業を進めなければ決して有用なものとはならないそれには「ガバメント 20」というキーワードが参考になる ガバメント 20 とは(米)オライリーメディア社の創設者 Tim OrsquoReilly 氏が 2009 年に提唱した概念であり彼の主張は「政府はプラットホーム化しなければならない」ということである2)情報通信分野で決定的な勝者になったのはプラットホーム企業である例えばMicrosoft 社は会社や家庭にパソコンを普及させGoogle 社は広告収入で運営され

 世界各国の政府はデータのオープン化を進めておりデータガバメントが立ち上がりつつある日本でもデータガバメントの開始が決まったがその本質を理解しておく必要がありガバメント 20 というキーワードが参考になるガバメント 20 とは国民や行政に新たな挑戦の場を与えることであるつまりデータガバメントの目的は加工や分析が可能なマシンリーダブルな形式でデータを公開しデータを使った新たなサービスやビジネスの創造を可能とすることであるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く利用者がデータを取得加工分析できるツールやアプリも同時に提供することが望まれるガバメント 20 のもう 1つの方向性は住民が積極的に参加する地方行政であり行政は問題点や情報を共有しながら市民と協働することが重要である問題を共有するためのツールやアプリが必要不可欠でありその作成のためにはweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける仕組みが重要である

キーワードマシンリーダブル公共データオープンデータデータツールデータシティ鯖江

市口 恒雄 特別研究員

る膨大なスタートアップ企業群を生み出しApple社はアプリ開発の企業を生み出して携帯電話の価値を高めたこれらの企業は「第三者に新たな挑戦の場を与える」ことにより成功したつまり政府のプラットホーム化とは「IT 技術によって国民や市民そして行政に新たな挑戦の場を与えること」である ガバメント 20 は電子政府のことかと言えば決してそうではない単なる IT 化では国民や市民に新たな挑戦の場を与えることはできないからであるそれではガバメント 20 とは具体的にどのようなことであり我々はどの様にそれを実現すれば良いのであろうか 実現のための 1 つの方向性は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく市民が積極的に利用できる webサービスを提供しなければならない米国オバマ大統領は2009 年の就任時にオープンガバメントに対して「透明性」(transparent)「国民参加」

(participatory)「協業」(collaborative)という 3

科学技術動向研究

概  要

1 はじめに―ガバメント 20実現への 2 つ方向性

19

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

原則を示した3)この様な背景から生まれたのがdatagav でありガバメント 20 の 1 つの形態であるデータは加工可能な形で提供されるので国民はそのデータを使って新たなサービスや事業を始めることができる もう 1 つの方向性は市民から行政への情報提供とその情報や問題の市民間の共有である国民や市民の意見を聞くというだけではガバメント 20 ではない行政は市民からの情報に即応し即応できない場合には市民と情報を共有し場合によってはボランティアに対応を任せることも重要であるボランティアによる「Do It Ourselves 型」の公共事業または公共社会へと発展し市民と地方行政はより密接に連携することになる世界中の多くの市町村は「シークリックフィックス(SeeClickFix)」4)というアプリを利用して市民参加を促した上で行政サービスを向上させているこのような Do It Ourselves 型の公共政府もローカルガバメント 20 の 1 つの側面と言える

 世界各国の政府は政府が持つ情報やデータの開示およびオープン化を進めつつある具体的にはdatagov(米国)datagovuk(英国)datagovsg (シンガポール)datagovau(オーストラリア)である特に進んでいるのが図表 1 に示す米国の datagov5)で2013 年 4 月末時点で171 の行政機関が参加し373029 のデータセットと1209 のデータツールを提供しているまた312 のアプリと 137のモバイルアプリも提供している(7 月 2 日時点では75714 のデータセット137 のモバイルアプリと 349 の投稿アプリ295 の政府 API を提供している) 英 国 の datagovuk は2013 年 7 月 2 日 時 点 で9596 のデータセットが公開され投稿されたアプリも含め多数のアプリが提供されている天気情報や交通(事故)情報を取得するアプリが人気が高いシンガポールの datagovsg はキーワードを入力してデータセットを探す仕組みになっており最も良くダウンロードされているのは税収や予算関連のものであるオーストラリアの datagovau は114 の行政機関が参加し1126 のデータセットと 20 のアプリが提供されている

 データセットは加工や分析が可能なマシンリ ー ダ ブ ル な フ ォ ー マ ッ ト(CSV XLS XML RSS RDF など)で提供され利用者がデータセットを取得加工分析できるアプリも同時に提供されるまたAPI(Application Programming Interface)も公開されておりAPI を利用したデータの自動取得も可能であるもしAPI が公開されていなければ政府データを使った新たなサービスやビジネスを創造することは困難でありデータガバメントに利用できる様々なアプリすら開発できない単に政府データを公開するのではなく利用者が加工分析しやすい形でデータを提供することがデータガバメントにとって重要である 政府データを上手く利用している 1 つの実例は

(米)Wolfram Research 社がサービス提供している WolframbrvbarAlpha であろう6)「世界の知識を計算可能にする」ことを謳ったこのサービスは政府データを取り込み利用者が入力した様々な質問に答えてくれる例えば「米国で人口が多い都市は」とか「小麦の生産量は」などの質問にその答えを返すだけでなく関連する情報も提示してくれるこれは政府データがマシンリーダブルであるからできることである

 日本でもオープンガバメント化の流れは避けられず首相官邸の高度情報通信ネットワーク社会推

図表 1 米国の datagov

出典参考文献 5

日本の状況2-2

2 公共データのオープン化

世界各国のデータガバメント2-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

20

進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

21

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

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ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
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Page 19: レポート・トピックス タイトルをクリックすると 各項目に ... · 2017. 1. 18. · ―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

19

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

原則を示した3)この様な背景から生まれたのがdatagav でありガバメント 20 の 1 つの形態であるデータは加工可能な形で提供されるので国民はそのデータを使って新たなサービスや事業を始めることができる もう 1 つの方向性は市民から行政への情報提供とその情報や問題の市民間の共有である国民や市民の意見を聞くというだけではガバメント 20 ではない行政は市民からの情報に即応し即応できない場合には市民と情報を共有し場合によってはボランティアに対応を任せることも重要であるボランティアによる「Do It Ourselves 型」の公共事業または公共社会へと発展し市民と地方行政はより密接に連携することになる世界中の多くの市町村は「シークリックフィックス(SeeClickFix)」4)というアプリを利用して市民参加を促した上で行政サービスを向上させているこのような Do It Ourselves 型の公共政府もローカルガバメント 20 の 1 つの側面と言える

 世界各国の政府は政府が持つ情報やデータの開示およびオープン化を進めつつある具体的にはdatagov(米国)datagovuk(英国)datagovsg (シンガポール)datagovau(オーストラリア)である特に進んでいるのが図表 1 に示す米国の datagov5)で2013 年 4 月末時点で171 の行政機関が参加し373029 のデータセットと1209 のデータツールを提供しているまた312 のアプリと 137のモバイルアプリも提供している(7 月 2 日時点では75714 のデータセット137 のモバイルアプリと 349 の投稿アプリ295 の政府 API を提供している) 英 国 の datagovuk は2013 年 7 月 2 日 時 点 で9596 のデータセットが公開され投稿されたアプリも含め多数のアプリが提供されている天気情報や交通(事故)情報を取得するアプリが人気が高いシンガポールの datagovsg はキーワードを入力してデータセットを探す仕組みになっており最も良くダウンロードされているのは税収や予算関連のものであるオーストラリアの datagovau は114 の行政機関が参加し1126 のデータセットと 20 のアプリが提供されている

 データセットは加工や分析が可能なマシンリ ー ダ ブ ル な フ ォ ー マ ッ ト(CSV XLS XML RSS RDF など)で提供され利用者がデータセットを取得加工分析できるアプリも同時に提供されるまたAPI(Application Programming Interface)も公開されておりAPI を利用したデータの自動取得も可能であるもしAPI が公開されていなければ政府データを使った新たなサービスやビジネスを創造することは困難でありデータガバメントに利用できる様々なアプリすら開発できない単に政府データを公開するのではなく利用者が加工分析しやすい形でデータを提供することがデータガバメントにとって重要である 政府データを上手く利用している 1 つの実例は

(米)Wolfram Research 社がサービス提供している WolframbrvbarAlpha であろう6)「世界の知識を計算可能にする」ことを謳ったこのサービスは政府データを取り込み利用者が入力した様々な質問に答えてくれる例えば「米国で人口が多い都市は」とか「小麦の生産量は」などの質問にその答えを返すだけでなく関連する情報も提示してくれるこれは政府データがマシンリーダブルであるからできることである

 日本でもオープンガバメント化の流れは避けられず首相官邸の高度情報通信ネットワーク社会推

図表 1 米国の datagov

出典参考文献 5

日本の状況2-2

2 公共データのオープン化

世界各国のデータガバメント2-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

20

進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

21

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

23

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

24

市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

27

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

29

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

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米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

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米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

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Page 20: レポート・トピックス タイトルをクリックすると 各項目に ... · 2017. 1. 18. · ―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

20

進戦略本部(IT 総合戦略本部)は 2010 年 5 月に「新たな情報通信技術戦略」7)を公表し「オープンガバメント等の確立」が明記されたそして同年 7 月には「オープンガバメントラボ」8)が開始されまた内閣官房総務省経済産業省は意見募集サイト「オープンデータアイデアボックス」(2013 年 2月 1 日から 28 日まで)を開設しオープンデータに関する意見募集を行った 2013 年 6 月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部は「世界最先端 IT 国家創造宣言」9)を策定し6 月 14 日に閣議決定された同宣言においては「ビジネスや官民協働のサービスでの利用がしやすいように政府独立行政法人地方公共団体等が保有する多様で膨大なデータを機械判読に適したデータ形式で営利目的も含め自由な編集加工等を認める利用ルールの下インターネットを通じて公開する」としているデータは機械判読に適した形式つまりマシンリーダブルな形式であるべきことが明記されているまた同日に閣議決定された日本再興戦略1)では「公共データの総合案内横断的検索を可能とするデータカタログサイト(日本版 datagov)を本年(2013 年)秋までに試行的に立ち上げ地理空間情報(G 空間情報)調達情報統計情報防災減災情報など優先的に民間開放すべき情報について当該サイトに掲載し来年度(2014 年度)から本格稼働させる」としている この様な状況の中で小規模ながら一足先に欧米のデータガバメントに近い活動をスタートさせたのは福井県鯖江市の「データシティ鯖江」10)

である鯖江市は「情報を多方面で利用できるXMLRDF で積極的に公開するデータシティ鯖江を目指しています近年欧米各国を中心として電子行政の新たな手法として行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし促進して行こうとするオープンガバメントの運動が起こってきています(途中略)鯖江市でもこの方向性を受けできるところから取り組んでいきます」としている現在のところ23 種類のデータセットとそれらを利用するためのアプリが提供されている例えば公共トイレの位置情報が公開されているので現在地から一番近い公共トイレをスマートフォンの地図情報に重ねて探せるといったサービスがある(図表 2)鯖江市はマシンリーダブルなデータの公開だけでなくそれを取り扱うことのできるアプリの重要性も認識しアプリコンテストの開催やアプリ作成ボランティアの募集などアプリ作成を積極的に行っ

 Web の社会に対する影響度および接続環境やインフラ整備などを評価した Web Index 2012 がWorld Wide Web 財団によって発表された13)51種類の 1 次データに加え複数の国際機関のデータを評価指標としたものである1 次データの中から政府のオープンデータに関係する以下の 14 種類のデータ選びそれを基に「オープンデータインデックス」14)も同時に発表された

ている また「WHERE DOES MY MONEY GO」11)という横浜のサイトがあるこれは英国の同名サイトの横浜版であり自分の年収を入力すれば横浜市のオープンデータを使って自分が払った税金が何にいくら使われたかを計算してくれる現在は横浜版だけだがこのサイトは各自治体や日本政府の一般会計特別会計公営企業会計へと対象を広げることを計画している 研究者が対象ではあるがマシンリーダブルなデータが有効に提供されている例として(独)防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET KiK-net)12)

のデータ公開があげられる地震波形とともに数値データを含む生データやそれを解析加工するための各種ツールが提供されている図形として波形データが提供されていれば人間の目には見やすいがコンピュータで解析したり加工したりすることは難しいしかし波形をデジタルデータとして提供していればそのデータをコンピュータに取り込んでの解析や加工が容易となる

出典参考文献 10

図表 2  「データシティ鯖江」のトイレ地図アプリ

各国政府のオープンデータ進捗度2-3

21

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

23

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

24

市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

26

圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

27

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

28

 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

29

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

30

金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

31

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

32

概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
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  • 科学技術7月号レポート3
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Page 21: レポート・トピックス タイトルをクリックすると 各項目に ... · 2017. 1. 18. · ―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

21

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

(₁)政府機関のオープンライセンス使用の割合

(₂)貿易に関する政府データの Web公開

(₃)政府各部門の予算と実支出に関する詳細データの web 公開

(₄)医療(病院および 医 者 ) の パフ ォ ー マ ン ス171864 mm に 関する政府データの web 公開

(₅)教育のパフォーマンスに関する政府データの web 公開

(₆)交通機関に関するデータや計画の web 公開(₇)国民統計(年齢収入選挙など)の web 公開(₈)地図データの web 公開(₉)web 上での納税申告の容易さ(10)公共機関(警察署や図書館など)への連絡   先情報

(11)犯罪データの web 公開(12)政府データへのマシンリーダブルな形式での   アクセス容易性

(13)具体的なオープンガバメント政策の実施(14)政府データを利用した新サービス(新ビジ   ネス)の創造

 これらの指標を用いて総合評価した 61 カ国のスコア(最高値 1407最低値minus1536平均値 0)が公表されており図表 3 は上位 20 カ国についてのスコアであるトップの米国がスコア 1407 であるのに対して 19 位の日本のスコアは 0487 である 著者 Jose M Alonso 氏も指摘しているとおりWeb Index 2012 の総合評価トップのスウェーデンがオープンデータインデックスでは 30 位(スコア0205)となるのは興味深い現象である総合評価22 位のメキシコと 11 位のシンガポールはオープンデータインデックスではそれぞれ 2 位(スコア1263)と 3 位(スコア 1246)となる政府のオープンデータ化の指標は確立しているわけではないが一般的な Web 指標とは異なったものとなることは予想される Web Index 2012 では日本は世界第 3 位の経済国だが総合評価で 20 位と予想外に順位が低いとして特別なコメント「Spotlight on japan」を掲載しているそれによれば日本の順位が高いのは

Web コンテンツ(世界 10 位)社会的インパクト(12位)情報インフラ(14 位)経済的インパクト(16位)であり順位が低いのは政治的インパクト(61 ヶ国中 30 位)であるさらに「日本はIT を用いた政府の効率化に関して平均点以下である」13)とコメントしている

出典参考文献 14

 全米を中心に世界中の 2 万 5 千以上の市町村で「SeeClickFix」4)というアプリが利用されている市民が問題を発見した時スマートフォンなどで報告し行政機関はそれに対処するというシステムである一部は無料で使えるが基本的には月額 400ドル程度で利用可能である過去 90 日間の実績を基にトップパフォーミングシティとして市町村名が公表されシカゴ市やワシントン DC がつねにトップランクに入っている 図表 4 はシカゴ市の例で陸橋上で事故があり橋脚の強度劣化が心配されるので検査をして欲しいという要望が寄せられているスマートフォンのカメラで撮影して送ると位置情報も同時に送られて地図表示がされるこの様に要望や問題点を写真で報告することにより行政サービスの迅速な対応を可能とするシステムである簡単な補修などはボランティアが自主的に対応するという状況も増加している急病人の発見を報告した通行人に AED

図表 3 世界各国のオープンデータインデックス

3 情報共有と市民の行政参加

住民参加型の地方政府3-1

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

22

の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

23

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

24

市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

27

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

29

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

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米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

36

辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
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  • 科学技術7月号レポート4
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  • 科学技術7月号研究成果公表
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Page 22: レポート・トピックス タイトルをクリックすると 各項目に ... · 2017. 1. 18. · ―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

22

の場所と使い方を知らせて救急車の到着までの対応を依頼することによって人名が救われた例も報告されているSeeClickFix はNHK のクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」15)で紹介された日本語にも対応しているので日本の地方自治体も利用可能である SeeClickFix によく似たアプリに英国の公共団体「mySociety」が開発した「FixMyStreet」16)がある日本でも札幌の web 開発会社ダッピスタジオが日本語版の「FixMyStreet Japan」17)を開発した現在のところ無料で本格利用については「市民と行政の双方でその目的や趣旨を共有しておく必要がある」としているが落書きなどの報告が各市町村別にすでに掲示されている千葉市はこのFixMyStreet Japan を利用して市民サービスを行う予定であり市民側も社会を作り上げるのは自分たちだという意識に変わっていく必要があるとしている適切で有用なアプリは市民の意識改革を促し行政と市民との協業を可能にする

 以上述べてきたように行政と市民を繋ぐアプリの役割は重要であるそしてデータガバメントにおいてもマシンリーダブルなデータを提供する限りそれを扱うツールやアプリが必要である実際に米国の datagov は多くのデータツールやアプリを提供している人間が見てわかりやすいデータとコンピュータが読み込めるデータとは異なる

マシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接に読み取ることは想定されていないそこでデータを扱う適切なツールやアプリも同時に提供することが求められる しかし行政担当者にはツールやアプリを作成することは負担であるし使い易いツールやアプリを作成できるとは限 ら な い そ こ で

米国の「Code for America」18)という試みが参考になる Code for America はweb 技術者と地方自治体を結びつけることにより地方自治体のオープン化と住民参加の効率化を推進する目的で2009 年に設立された非営利団体である2011 年から web技術者を 1 年間地方自治体に派遣するフェローシッププログラムが始まった2011 年にはweb技術者 20 名がボストンフィラデルフィアワシントン DCシアトルの各市に派遣され自治体職員と協力しながらウェブツールやアプリの開発を行った2012 年には 26 名の web 技術者が選ばれ8 つの市に派遣された このプログラムの中で開発されたアプリの 1 つが前述の「SeeClickFix」である開発された全てのツールやアプリはオープンソースとして全ての地方自治体が有料または無料で利用が可能であるツールやアプリには作者の著作権や価値(あるいは価格)が発生するその著作権や価格にどう対応していくのかは日本でも重要な課題となると思われる

図表 4 「SeeClickFix」のシカゴの例

出典参考文献 18

 ガバメント 20 の向かう 1 つの方向は行政の透明化と公共データのオープン化であるしかし単なるオープン化ではなく分析加工が可能な形式つまりマシンリーダブルな形式でのデータ提供が重要である加工可能な形でデータが提供されれ

ツールやアプリの重要性3-2

4 まとめと提言

23

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

24

市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

25

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

26

圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

27

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

28

 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

29

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

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米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

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Page 23: レポート・トピックス タイトルをクリックすると 各項目に ... · 2017. 1. 18. · ―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

23

ガバメント 20―データガバメントと住民参加型行政の 2 つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

ばそのデータを使って国民は新たなサービスやビジネスを始めることが可能となる実際にマシンリーダブルな形式でのアクセス容易性や政府データを利用した民間サービス(ビジネス)の創造容易性が各国政府のオープンデータ進捗度の重要な指標として扱われている 世界でもこの様な形でのデータガバメントが始まっており最も進んでいるのが米国の「datagov」であるマシンリーダブルなデータは数値や言葉の羅列であることが多く加工可能ではあるが人間が直接読み取ることを想定していないそこでそ

のデータを扱うツールやアプリが必要となる実際に「datagov」は多くのデータツールやアプリを提供している ガバメント 20 の向かうもう 1 つの方向は住民が積極的に参加する「Do It Ourselves 型」の地方行政である行政は問題点を市民と共有しながら市民と協業していくことが重要であるそれには例えば「SeeClickFix」や「FixMyStreet」の様なツールやアプリが不可欠でありweb 技術者と政府や地方自治体とを結びつける Code for America のような仕組みも重要である

1) 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- (平成 25 年 6 月 14 日)httpwwwkanteigojpjpkakugikettei2013__icsFilesafieldfile2013062020130614-04pdf

2) ldquoGov 20 Its All About The Platformrdquo by Tim OrsquoReilly (Sep 4th 2009 TechCrunch)httptechcrunchcom20090904gov-20-its-all-about-the-platform

3) ldquoTransparency and Open Governmentrdquo (Memorandum for the heads of executive departments and agencies Jan 20th 2009) httpwwwwhitehousegovthe_press_officeTransparency_and_Open_Government

4) SeeClickFixhttpjaseeclickfixcom5) 米国のデータガバメント datagovhttpwwwdatagov6) WolframbrvbarAlphahttpwwwwolframalphacom および

科学技術政策研究所講演録 -246「WolframbrvbarAlpha 情報計算そして知の新時代」(2009 年 10 月)7) 新たな情報通信技術戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部 平成 22 年 5 月 11 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2100511honbunpdf8) オープンガバメントラボhttpwwwopenlabsgojp9) 「世界最先端 IT 国家創造」宣言(平成 25 年 6 月 14 日)

httpwwwkanteigojpjpsingiit2pdfit_kokkasouzousengenpdf10) データシティ鯖江httpwwwcitysabaefukuijppageviewhtmlid=1155211) WHERE DOES MY MONEY GO(税金はどこへ行った)httpspendingjp12) (独)防災科学技術研究所強震観測網(K-NET KiK-net)httpwwwkyoshinbosaigojpkyoshin13) Web Index 2012 (World Wide Web Foundation)httpthewebindexorg2012102012-Web-Index-Key-Findingspdf14) Introducing the open Data Indexhttpwwwwebfoundationorg201209introducing-the-open-data-index15) NHKクローズアップ現代「ガバメント 20 市民の英知が社会を変える」

httpwwwnhkorjpgendaikirokudetail_3326html16) FixMyStreethttpwwwfixmystreetcom17) FixMyStreet Japanhttpswwwfixmystreetjp18) Code for Americahttpcodeforamericaorg

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

27

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

28

 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

29

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

30

金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

32

概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
  • 科学技術7月号レポート5
  • 科学技術7月号研究成果公表
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コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

24

市口 恒雄科学技術動向研究センター 特別研究員httpwwwnistepgojpindex-jhtml

理学博士専門は半導体超伝導磁性体の物理サブミリ波やマイクロ波を用いた物性測定を中心に米国の大学や日本の総合電機メーカーで研究に従事現在は当研究センター常勤として科学技術予測や科学技術動向研究に従事

公的研究機関に関するデータ整備科学技術政策研究所(NISTEP)では平成23年度(2011 年度)から文部科学省の「科学技術イノベーションにおける『政策のための科学』推進事業」の一環として「公的研究機関に関するデータ整備」を進めています    httpwwwnistepgojpwpwp-contentuploadsscheme_data_ infra_publ ic_org_20121218pdf

執筆者プロフィール

STT136_レポート3(web用に修正)indd 24STT136_レポート3(web用に修正)indd 24 130712 1714130712 1714

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

27

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

29

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

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米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

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米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

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25

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 日本にとって食と農の競争力強化は今後の国の成長を支える重要な柱の 1つである2013年 6月 14日に閣議決定した「日本再興戦略」では日本の食と農の産業の国際競争力を高め一大輸出産業として開花させるという大きな展望が広がっている1)これは同時に日本国内の雇用の創出や貿易に占める輸出額の拡大など現在日本が直面している課題の解決の一助となることも期待されている また農業の競争力強化は土地のあるところが出発点となることから最初から地域振興とセットであるというところが大きな特徴である農業における高付加価値化はそのまま地域経済の活性化につながる加えて食品産業全体として捉えると加工流通販売など他の産業の知見を取り入れることによって

 オランダはEU圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきた結果農産物の輸出額は世界第 2位を保持しているその背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点である1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりでその後ワーヘニンゲン大学と近隣の研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された ワーヘニンゲンURの戦略の特徴は企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点にありその結果現在ではワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している特にフードテクノロジーの領域では高い競争力を保持するに至っており社会科学的なアプローチや持続的な発展を志向した高度専門人材の発掘育成にも力を入れているこのようなフードバレーの取り組みは日本で農と食の産業クラスターの構築を設計する場合に参考とすべき点も多い

キーワードオランダフードバレーワーヘニンゲン大学食と農産業クラスター

新たな付加価値を生み出すことが期待される このような期待や展望の背景には次の2つの認識が存在している1つ目は世界の食料需要の増加である世界的な人口増加や新興国における所得水準の向上により付加価値の高い農産物や加工食品の需要は確実に増加すると見込まれているこの巨大市場の拡大を日本の農産業に取り込むことで日本経済の成長を加速させたいという思いがある 2つ目は日本の食と農の国際競争力にはまだ多くの伸びしろが存在するという認識である日本は安全で高品質な食品を提供する技術を有している一方産業として捉えた場合は規模やコストの面で多くの上積みが期待されている このような観点をいち早く取り込み実際に成功させているのがオランダであるオランダは土地の多くが肥沃とは言えない不利な農業条件にも関わらず伝統的な交易の交差路としての強みを活かしてEU

科学技術動向研究

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

金間 大介 客員研究官

 概  要

1 はじめに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

27

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

29

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

30

金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

36

辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
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科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

26

圏内の大消費地へ農産物を送り届けることを戦略的に強化してきたその結果米国に次ぎ世界第2位の食料輸出国として農業分野で高い競争力を保持するに至っている特に野菜や果物花卉類の輸出は世界一となっているそこで本稿ではオランダのフードバレーの取り組みを紹介するとともにその中心的な役割を果たしているワーヘニンゲン大学の活動について概説する

 オランダは国土面積 415 万 km2(九州 422 万km2)人口 1659 万人GDP約 6千億ユーロで歴史的に海路を活かした貿易が盛んな国として知られるライン川下流の低湿地帯に位置し国土のおおよそ 4分の 1が海面より低い干拓地で最高地点も 322 mとほぼ平坦な地形をしている2010年の農産物の輸出額はおおよそ 595 億ユーロで米国に次いで世界第 2位の規模を誇っているただし加工貿易が盛んな分原材料や飼料としての農産物の輸入も多く約 365 億ユーロの農産物を輸入している2)このように同一産業内で輸出額と輸入額がともに大きくなるのはEU各国の貿易の特徴となっているそれでもオランダの農産業がこれほど注目を集めるのは輸出額と輸入額の差(輸出入超過額)の大きさで約 230 億ユーロという輸出超過額は同じようにEU域内の農業国として知られるフランスの約 2倍である(図表 1)この値からオランダの食品加工産業の付加価値の高さがうかがえる

 このようなオランダの農産業の強さの背景にあるのがフードバレーと呼ばれる食の科学とビジネスに関する一大集積拠点であるフードバレーとはオランダの首都アムステルダムから南東方向約80 kmに位置したところにあるオランダの食品関連企業と研究機関が集積した地域を総称した呼び名で1997 年に顧客志向で商品やサービスを創造する世界規模の食品研究開発拠点を築くべく産学官が一体となってワーヘニンゲンに集積したのが始まりとされる3)その後ワーヘニンゲン大学とその近隣に集まる研究機関を統合してワーヘニンゲン大学リサーチセンター(ワーヘニンゲンUR)が設立された(図表 2- ②) 図表 3にワーヘニンゲンURの組織構成と人員規模を示すワーヘニンゲン大学は農業技術食品科学部動物科学部環境科学部植物科学部社会科学部の 5学部で構成されており学生数は約8000 人教職員は約 2950 人となっている45)また農業畜産流通環境経営など農業に関連する総合的な知識を学ぶ機関としてファンハルラーレンスタイン応用科学大学がある そして試験応用開発研究を担う専門機関として食品生物学研究所畜産獣医学研究所アルテラ自然環境研究所国際植物研究所LEI イノベーション研究センター等があるこれらの機関では食品の品質検査や加工保存に関する試験等の様々な研究サービスが提供されている食品関連企業にとってはこれらの機関の持つ最新設備や専門人材へのアクセスが容易となることもフードバレーに参加する大きな要因の 1つとなっている(図表 2- ③)またこのように研究機関と大学食品関連企業等が密接に連携する中では多様で細かなサービスに対するニーズが発生するためその解決を提案するベンチャー企業が生まれているワーヘニンゲン大学で学位を取得した高度な専門人材がこの役割を担うことも少なくない 以上図表 4にワーヘニンゲン大学応用開発を担う研究機関ファンハルラーレンスタイン応用科学大学の予算規模を示すワーヘニンゲンURトータルでおおよそ 71 億ユーロの予算規模となっている さらに 2004 年には食品業界を牽引する数社とオランダ政府ヘルダーランド州等の地方自治体が連携してコーディネータ的な機能を持つフードバレー財団を設立した(図表 2- ④)フードバレー財

図表 1 世界の食料輸出入額(2010 年)とその差額(折れ線グラフ)

出典参考文献 2を基に科学技術動向研究センターにて作成

800

600

400

200

0

200

400

600

800

1000

2 オランダフードバレーの仕組み

オランダの農業の特徴2-1

フードバレーの仕組み2-2

27

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

28

 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

29

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

36

辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
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  • 科学技術7月号研究成果公表
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Page 27: レポート・トピックス タイトルをクリックすると 各項目に ... · 2017. 1. 18. · ―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

27

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

団は次の 5つのサービスを活動の目的としている1つ目は企業と研究機関または企業同士を結びつけるネットワーク機能の発揮である2つ目は様々な革新的プロジェクトの支援である技術を移転するだけでなくスピンオフや起業を促しその発展段階をサポートする3つ目はオランダからEU全域にわたって農産物食品分野の「知」を集積する働きかけである4つ目は他の農産物食品クラスターとの国際的な提携関係の構築である連携を広げることで会員に参画メリットを還元できる5つ目は国際会議や展示会でフードバレーやその成果を紹介する普及活動である7) このような目的のもとで活動した結果現在フー

ドバレーには世界各国から 1500 を超える食品関連企業や化学企業などの民間企業が集積している8)このように国際色豊かで多くのオランダ以外の企業が参加している背景にはEU市場の入り口や物流拠点としての活用食関連の研究集積地としての知へのアクセス食や農に関する新たな需要の把握などが挙げられるフードバレーの定期的な活動としてフードバレー財団が中心的な役割を果たし「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合が開催されているさらにイベントだけではなく財団や協会の会員企業向けに情報のプラットフォームサービスを提供したり専門人材の紹介などの支援も行っている

図表 2 ワーヘニンゲンUR設立の変遷

図表 3 ワーヘニンゲンURの組織構成

出典参考文献 4を基に科学技術動向研究センターにて作成

出典参考文献 56を基に科学技術動向研究センターにて作成

UR 3

2950 6500 1500

3000550

4000

Alterra LEI

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

28

 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

29

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

30

金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

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米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

36

辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
  • 科学技術7月号レポート5
  • 科学技術7月号研究成果公表
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Page 28: レポート・トピックス タイトルをクリックすると 各項目に ... · 2017. 1. 18. · ―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

28

 ワーヘニンゲンURの戦略として①科学のための科学ではなく社会的経済的に価値のある研究をすること②顧客に合わせた研究プログラムとすること③企業や公的機関等と密に連携することなどが挙げられている6)特に注目されるところとして「企業にビジネス需要があったときが研究のスタート地点になる」7)と表明しているように企業の課題解決や新商品開発などのニーズに敏感に反応した研究体制が敷かれている点が挙げられる先に紹介した「フードバレーイノベーションセミナー」等の会合を定期的に開催する中で特に需要側の情報の抽出還流に努めている このような取り組みの結果ワーヘニンゲンURは世界の農業科学分野において大きな存在感を示している図表 5はElsevier 社の論文データベース Scopus で独自に分類している 27 分野のうちの 1つ「農学生物学領域」における学術論文の著者の所属機関ランキングであるワーヘニンゲンURは米国の著名な大学

等を押さえてトップとなっている 特にワーヘニンゲンURの実績で最も突出しているのはフードテクノロジーの領域である食品の加工や保存の領域では鮮度を落とさずに肉や野菜果物や花などをいかに生産地から消費者に届けるかについて様々な角度から研究が進められている図表 6は食品加工の領域における学術論文の著者の所属機関ランキングを示しているワーヘニンゲンURはここでも他の機関を大きく引き離してトップとなっているオランダの選択と集中の成果がこ

図表 4 ワーヘニンゲンURの予算規模

使用データベースSciVerse Scopus検索条件Agricultural and biological sciences 領域のうちArticle あるいは Review の全論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 1959558

出典参考文献 5を基に科学技術動向研究センターにて作成

0 5000 10000 15000 20000

CNRS

3 ワーヘニンゲンURの役割

図表 5 農学生物学領域の学術論文の著者所属機関

29

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

30

金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

32

概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

36

辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
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  • 科学技術7月号研究成果公表
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29

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

こに現れている またビジネス指向の研究開発を表明しているだけあり自然科学的なアプローチだけではなく社会科学的なアプローチも取り入れている例えばキャンパス内にある「未来レストラン」(Restaurant of the Future)では消費者行動の参与観察機能も兼ね備えているここでは新食品の提供やその調理法消費者の飲食行動室内デザイン照明の影響等をビデオカメラやセンサー等を用いて詳細に観察し研究開発にフィードバックしている4) また研究だけではなく農と食の分野の人材育成でも国際的な拠点となるべく力を入れている例えば学生を対象とした「フードバレーアンバサダープログラム」がある4)このプログラムはフードバレー財団ワーヘニンゲンURオランダに拠点を置く企業等の協力のもとで運営されており食品科学分野での国際的なキャリア形成に熱意のある学生を世界各国から受け入れている学生はフードバレーと関係がある企業で 1年間のインターンシップを体験することができる企業側のメリットとしては卒業後に採用することを視野に入れて学生を1年間育成できるだけでなく学生の募集選抜住環境の整備等は同プログラムが代行するため煩雑な手続きに煩わされることなく有望な人材を発掘することができる

図表 6 食品加工領域の学術論文の著者所属機関

使用データベースSciVerse Scopus検索条件ldquoprocessed foodrdquo or ldquofood processingrdquo or ldquofood processrdquo or ldquofood productionrdquo      をタイトル概要キーワードに含む論文検索年198011 - 2013531抽出論文数 19395

 農業は地域性が色濃く反映される産業といわれるこれはその土地の気候や風土文化的歴史的背景等によって栽培される農産物に大きな地域差が生じるためである一方食品製造業は市場に近いほど効率が良く高い鮮度を保ったまま市場に届けることができるため消費地立地型の産業であるといわれるしたがって農と食の産業クラスターをデザインする場合農産物の栽培加工に関するコストや付加価値を考慮することはもちろんのこと保存

流通販売経路といった視点も重要になってくる オランダのフードバレーとワーヘニンゲンURが世界最大規模の食品クラスターとなったのはこれらの要素を全て押さえているためであると捉えることができるもし日本版フードバレーを構築する場合は戦略的に農産物を選択し世界トップとなるまで徹底的な効率化を図る必要があるそして同時に日本国内の農業食品加工業の強み弱みを中長期的に展望する予測調査も必要となるだろう 農産物の選択には想定輸出国におけるマーケットリサーチを出発点とすべきである国際的な需要の把握には現地における市場調査の他に海外企業の誘致も積極的に図っていくという方法がある9)日本における食品クラスターの取り組みはどちらかというと「日本の強みを海外へ」というスローガンのもとで国内の産学官の連携を築いていくという姿が見受けられるこのような連携はもちろん必要であるがそれに加えて海外企業を積極的に誘致した上で日本企業との連携をRampD面流通販売面の双方で促進し海外市場の販路開拓に努めるべきであろう

0 100 200 300

FDA

4 おわりに

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

30

金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

31

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

32

概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

36

辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

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科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

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金間 大介北海道情報大学経営情報学部 准教授httpwwwdo-johodaiacjp

博士(工学)専門は産学連携と知的財産科学技術予測ナノテクノロジー分野の研究動向など産学連携活動の分析や技術予測プロジェクトに従事し中長期的な技術トレンドと経済社会との関係に興味を持つ

1) 「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」pp 79-83 2013 年 6 月httpwwwkanteigojpjpsingikeizaisaiseipdfsaikou_jpnpdf

2) FAOSTAT ldquoTrade-Detailed trade data (September 2012)rdquo Food and agriculture organization of the United Nations 20136

3) 結城正明「都市型健康ソフトバイオ産業クラスター形成の戦略に関する研究バイオ技術の応用とソフトなサービス産業との融合」創造都市研究 e Vol 2 pp 1-23 2007

4) ワーヘニンゲンURホームページ ldquoWageningen UR For quality of liferdquo 2013 年 5 月httpwwwwageningenurnlenhtm

5) ldquo2011 Annual Reportrdquo Wageningen UR 201266) ldquoStrategic Plan 2011- 2014rdquo Wageningen UR 201177) メンスィンクアナマリヌラ「小国オランダが世界の食農業をリードする」農業経営者 2011 年 2 月号8) 「オランダフードサイエンス最前線 Food for Thought」オランダ経済省企業誘致局2013 年 5 月

httpwwwnfi a-japancom9) 堀千珠「クラスターへの取り組みによる我が国食品製造業の競争力強化」Mizuho Industry Focus Vol 88 20108

執筆者プロフィール

参考文献

コラム

31

オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

32

概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

36

辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
  • 科学技術7月号レポート5
  • 科学技術7月号研究成果公表
      1. メニューへ戻る メニューへ戻る
Page 31: レポート・トピックス タイトルをクリックすると 各項目に ... · 2017. 1. 18. · ―データガバメントと住民参加型行政の2つの方向性―

コラム

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オランダフードバレーの取り組みとワーヘニンゲン大学の役割

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

主要国における研究開発費の負担部門の定義主要各国の研究開発費の負担部門をOECDの定義にしたがって分類したこのように先進各国の間でも国の制度や調査方法対象機関の範囲の違いによって統計上研究開発費の負担先が変わってくるので比較する際には注意が必要である

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月科学技術政策研究所httpdatanistepgojpdspacehandle110351154

STT136_レポート4indd 31STT136_レポート4indd 31 130712 1714130712 1714

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

32

概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

36

辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
  • 科学技術7月号レポート5
  • 科学技術7月号研究成果公表
      1. メニューへ戻る メニューへ戻る
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科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

32

概  要

各国の地球観測動向シリーズ(第1回)

米国の地球観測活動の今後の方向性

 地球温暖化や環境問題に対応する世界的な取組みとして2005 年から 2015 年までの 10 年間にわたり地球観測の先進国政府が参加する「GEO(ジオGroup on Earth Observation)」注 1) の地球観測活動として「GEOSS10 年実施計画」が推進されている

「GEOSS」とは「Global Earth Observation System of Systems(複数システムからなる全球地球観測システム)」の略語であるGEOSS において利用されるデータは地球観測衛星による宇宙からの観測だけではなく陸上や海洋など現場で観測したデータと統合化することで9 つの公共的利益分野における社会的課題の解決を目的としている開始当時の状況については「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された

「GEOSS」の推進―」1)を参照されたい

 米国は 2013 年 4月に「米国民生用地球観測戦略」を発表したこの戦略には政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4つの要素が含まれている政策的枠組みの中では12の社会利益分野(SBA)が定義されており今後定期的に国家民生用地球観測計画をアップデートすることとしている我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国の民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

キーワード地球観測戦略社会利益分野データ管理GEOSSビッグデータ

辻野 照久 客員研究官

 米 国 は 2009 年 と 2011 年 に GEOSS へ の 貢 献にとって重要な軌道上炭素観測衛星「OCO」やエアロゾル観測衛星「Glory」の打上げを行ったが相次いで失敗してしまった最近になって陸 域 観 測 衛 星 LANDSAT-8 や 極 軌 道 気 象 衛 星

「Suomi-NPP」が打ち上げられ既存の米国衛星(AquaTerraAura など)や外国衛星(我が国の「いぶき(GOSAT)」および「しずく(GCOM-W1)」を含む)の活用により社会利益に貢献する地球観測の基盤整備を継続的に推進しているところである こうした中米国の大統領府国家科学技術評議会(NSTC)は下部委員会の 1 つである環境天然資源持続可能性委員会(CENRS)に地球観測関係の省庁が連携して検討を行う国家地球観測タスクフォース(NEOTF)注 2) を 2010年 12 月に設置し2 年余りの検討を経て 2013 年4 月に「米国民生用地球観測戦略」2)を発表した今後この戦略に基づき「国家民生用地球観測計

科学技術動向研究

注1 GEOの本部はスイスジュネーブの世界気象機関(WMO)内にある注2 国家地球観測タスクフォース(NEOTF)に参加した省庁は農務省(USDA)商務省(DOC)国防総省

(DoD)エネルギー省(DOE)国土安全保障省(DHS)内務省(DOI)国務省(DOS)NASA全米科学財団(NSF)国際開発庁(USAID)である

1 はじめに

33

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

36

辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

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米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

画」を定期的(3 年おき)にアップデートしていく予定であるなお今回の地球観測戦略は「民生」(civil)を対象としており偵察や早期警戒などの「軍事」(Military)目的の地球観測活動は含まれていない

 米国は地球観測に毎年数十億ドルにのぼる多大な投資を行っておりその成果は気候や気象災害土地利用生態系生物多様性天然資源エネルギーなど連邦政府の長期的な持続可能性の目標を達成するための不可欠な基盤となっている 地球観測データは宇宙にある衛星から取得するだけでなく地上や海洋での現場観測(in situ)のデータと統合化することを目指しておりビッグデータの一角をなす厖大な地球観測データを活用するために関係する省庁間の連携により効率性と有効性を高めることが戦略の眼目である 今回発表された地球観測戦略には社会利益分野(SBA=Societal Benefit Area)の定義を含む政策的枠組み評価手法データ管理および国家民生用地球観測計画策定の 4 つの要素が含まれている

(1)政策的枠組み 地球観測の政策的枠組みの原則として以下の7項目をあげている①社会利益を最大にするための観測要求や測定

に関する情報を識別する②連邦政府の地球観測投資の優先順位づけのた

めに統合化されたポートフォリオ管理を行う③連邦政府の各機関に分散された地球観測活動

を有効に連携させる④データの相互運用性がありユーザーフレンド

リーなアクセスが可能なシステムを構築する⑤国内および国際的なパートナーシップを活用

する⑥米国の技術的および管理的なリーダーシップ

を増進する⑦国家安全保障の資産について民生的な目的

で利用を拡大する 上記にはSBA の定義現在および将来の観測システムの優先順位付け予想されるニーズおよび技術の考慮などが含まれる

 また今回の戦略では SBA は 12 分野が定義されている地球観測戦略の付録 B には各 SBAの簡単な説明に続いて代表的な課題が列挙されている12 分野で 188 の課題があげられており以下に各 SBA 毎に 1 件ずつ課題を抜粋した①農林業干ばつ洪水ハリケーン竜巻

地震野火などの致命的な事象による影響と回復の速度を検出および定量化するためにどのようなシステムが必要とされるか

②生物多様性人間の活動(例えば資源利用建造物障害物等)は生物多様性と生物の分布や動きのパターンにどのように影響を与えるか

③気候人間活動の動向(人口や消費の変化等)は気候にどのように影響を与えるのか

④災害地震洪水火災地滑り火山噴火などの災害リスクに対して脆弱な人口密集地帯や重要インフラをどのように地図化するか

⑤生態系(陸域淡水)土壌の水分分解速度生成速度などのダイナミクスは植生や他の全球的な生態学的プロセスにおける大規模なパターンにどのように影響するのか

⑥エネルギー鉱物資源都市や産業のエネルギー利用は気温水温エアロゾル大気化学人間の健康にどのように影響するか

⑦人間の健康温度変化降雨パターンのシフト他の気候関連の要因は有害な藻類や細菌の分布発生重大性にどのように影響を与えるか

⑧海洋沿岸の資源と生態系自然汚染や人為的汚染に直面している魚介類の安全性をどのように監視し改善するか

⑨宇宙天気厳しい宇宙天気のふるまいにより障害を受ける重要な技術システムの経済的社会的影響は何か

⑩運輸天候に関連した運輸の衝突事故はどのように減らせるのか

⑪水資源水循環のバランスに影響を与える蒸発降水量土壌水分人間の水使用量はどのように変化しているか

⑫気象影響度の高い気象現象からどのようにして生命や財産の損失を低減し障害を最小限に抑えることができるか

(2)評価手法 今回の地球観測戦略で定義された社会利益分野について観測の継続判断や優先順位づけ等のために評価が行われた複数の情報源からの観測の相対的なインパクトや持続的長期的かつ正確な測定に依存する社会利益のための測定の継続の必要性を評価するためタスクフォースは

2 米国の民生用地球観測戦略の主要要素

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

36

辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
  • 科学技術7月号レポート5
  • 科学技術7月号研究成果公表
      1. メニューへ戻る メニューへ戻る
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科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

34

図表 1 に示すようなバリューチェーン分析をすべての観測システムについて繰り返し実施し各分野の詳細さのレベルが同じになったことを確認して完了させたこの作業は後述する国家計画策定のための前提となっている

(3)データ管理 地球観測データを有効に活用するにはデータ管理の枠組みを発展させ情報配信システムを改善することが必要である今回の民生用地球観測戦略では民生利用を目的とする情報システムやデータベースなどの例として以下のようなイニシアティブをあげている①省庁連携の全球気候変動情報システム(GCIS)②海洋データベース(Oceandatagov)③統合海洋観測システム(IOOS)のデータ管理

通信サブシステム(DMAC)④ 大 統 領 科 学 技 術 諮 問 委 員 会(PCAST) の

EcoINFORMA(バイオインフォマティクス)⑤生物多様性監視に関する PCAST のイニシア

ティブ⑥エネルギーデータベース(Datagov and OpenEl)⑦水に関するマークアップ言語(WaterML)⑧農業生産に関する農務省のライフサイクル評

価データベース(LCA databese)⑨国土利用や気候変動に関する内務省イニシア

 ティブ(DOI Initiative)

⑩気象気候に関する連邦気象調整局(OFCM)イニシアティブ

(4)国家民生用地球観測計画の作成 財政やプログラムの制約に配慮しつつ新戦略による各地球観測プログラムの評価結果を基に2014 年度大統領予算教書の補足資料として「国家民生用地球観 測 計 画 」(National Plan for Civil Earth Observations)を策定しその後 3 年ごとにアップデートすることを規定しているこのような計画を維持することによって米国は持続可能な長期の観測統合化された情報の提供各機関の相互依存関係民間からの参加利用者の参加などこれまで以上に有効かつ効率的な地球観測活動を実施できるようになると見込まれる

図表 1 測定の継続を評価するためのバリューチェーン分析

出典参考資料 2 の図を科学技術動向研究センターにて作成

 我が国ではGEOSS が開始される前年の平成 16年 12 月に総合科学技術会議が「地球観測の推進戦略」3)をとりまとめたこの推進戦略は 10 年近く経過した現在も我が国における GEOSS への貢献について毎年の実施計画を定める上で基準となっている例えば平成 24 年度には科学技術学術審議会の地球観測部会が「平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針」4)を策定し気候変動に伴う影響の把握を主要なテーマとして掲げたこの中には水循環風水害や生態系生物多様性など米国の地球観測戦略と同様にどのような観測を行いどのようにして気候変動の影響を把握するかという観点から実施計画が含まれる 日米の地球観測戦略を併せて読むことにより国情の違いを考慮しつつ相似点と相違点を分析することで今後の我が国の方向性の議論に資するものと考える 米国の 12 項目の社会利益分野と基準測定の構成をGEOSS の 9 つの公共的利益分野および我が国の地球観測戦略でまとめられた 15 の分野と対比してみた図表 2 は GEOSS の公共的利益分野に対して米国と日本のそれぞれの分野がどのように対応しているかを示している注 3)

注 3 便宜上米国のアルファベット順の並べ順にできるだけ合わせる形でGEOSS の 9分野および日本の 15分野を並べ変えている

3 我が国の地球観測戦略との対比

35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

36

辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
  • 科学技術7月号レポート5
  • 科学技術7月号研究成果公表
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35

米国の地球観測活動の今後の方向性

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

 今回発表された米国の民生用地球観測戦略はGEOSS10 年実施計画の終了が近づく中でその後の展開を検討する時期に当たり米国として「ポスト GEOSS」あるいは「ネクスト GEOSS」の準備活動を行った成果であると見ることもできる従来の GEOSS に明示的には含まれていなかった

「宇宙天気」や「運輸」も地球観測戦略の対象としたことは地球観測が学術的な研究に止まらず公共サービスを円滑に運営するための実用的な研究にまで広げていこうとする米国の意思を示唆しているこれまで我が国の 15 分野の中で地球科

学と空間情報基盤が GEOSS とどのように対応するのか説明しにくかったが米国の戦略と対比すると我が国の地球科学分野は米国の宇宙天気分野に一部が合致し我が国の空間情報基盤分野は米国の基準測定(SBA には含まれない)と測地学などで一部が合致するポスト GEOSS の枠組みを検討していく上で分野の定義や観測対象などについて GEO 参加各国が協議して合意していく必要があるだろう我が国が地球観測活動で世界に貢献していく上で米国が社会利益分野の定義や観測活動の評価手順等を示した民生用地球観測戦略の内容は十分知悉しておくべきであると考える

出典参考資料 23 を基に科学技術動向研究センターにて作成

1) 辻野照久「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築―エビアン G8 サミットに始まりグレンイーグルズサミットでも言及された「GEOSS」の推進―」 科学技術動向No542005 年 9 月号

  httpwwwnistepgojpachievftxjpnstfcstt054j0509_03_feature_articles200509_fa03200509_fa03html2) NATIONAL STRATEGY FOR CIVIL EARTH OBSERVATIONS 2013 年 4 月 米国科学技術諮問委員会(NSTC)

図表 2 米国と日本の地球観測戦略の対比

4 おわりに

参考文献

コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

36

辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

  • 科学技術7月号表1
  • 科学技術7月号概要1
  • 科学技術7月号概要2
  • 科学技術7月号レポート1
  • 科学技術7月号レポート2
  • 科学技術7月号レポート3
  • 科学技術7月号レポート4
  • 科学技術7月号レポート5
  • 科学技術7月号研究成果公表
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コラム

科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

36

辻野 照久科学技術動向研究センター 客員研究官httpmembersjcomhomenejpttsujinospacesub03htm

専門は電気工学旧国鉄で新幹線の運転管理旧宇宙開発事業団で世界の宇宙開発動向調査などに従事現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)調査国際部調査分析課特任担当役科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローも兼ねる中国語の科学技術文献読解を得意とする

出典調査資料 -214「科学技術指標 2012」2012 年 8月

米国の研究開発費の負担部門と使用部門科学技術学術政策研究所(NISTEP)では平成24年度に「科学技術指標 2012」を発行したその中で分析されている米国の研究開発費の流れを右図に示す本稿で述べた地球観測活動の予算は政府負担の研究開発費の一部となる

  httpwwwwhitehousegovsitesdefaultfilesmicrositesostpnstc_2013_earthobsstrategypdf3) 地球観測の推進戦略 平成 16 年 12 月 27 日総合科学技術会議  httpwww8caogojpcstpoutputiken041227_1pdf4) 平成 25 年度の我が国における地球観測の実施方針 平成 24 年 7 月 30 日科学技術学術審議会  研究計画評価分科会 地球観測部会  httpwwwmextgojpb_menushingigijyutugijyutu2shiryoattach1325008htm

執筆者プロフィール

米国(2009年)研究開発費の流れ

使用部門負担部門

企業674

政府261

318

371

25457 60

58127881

公的機関105

大学129大学35

非営利団体39非営利団体30米国の負担部門に「外国」の分類はない

企業727

37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

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37科 学 技 術 動 向 2013年 7月号(136号)

研究成果公表

図表 東日本大震災による科学技術課題の将来予測(実現時期)の変化

科学技術動向研究センターにて作成

課題No 課 題 技術

実現年社会実現年

2013 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31-

32 ピーク電力の抑制に対して経済的なインセンティブを与えるしくみ ( ネガワット ) 2019

2015

2

各種センサ計測器により室内環境や設備の運用状況を監視しビル内のエネルギー環境負荷を管理するシステム〈Building Energy management SystemBEMS〉(各種のBEMSが中小規模の建物まで広く普及し業務部門の自動化された省エネルギーが進む)

20132014

20182018

17 民生用超高効率ヒートポンプ(空調機用COP(エネルギー効率)≧ 8給湯用COP≧ 6排熱回収も含む)

20172018

20222020

11 自然エネルギー自然通風自然採光及び雨水地下水等の利用を可能とするエネルギー自立型建築技術

20132017

20202024

8 電力効率を向上させ日本の総発電量を 20削減することのできるスマートグリッド技術

20192018

20262025

18オール電化住宅で太陽光発電と二次電池の組み合わせにより100万円以下で安定的に供給可能な約 90の電力量を賄える家庭向け電力貯蔵用電池技術 

20192018

20262025

3

都市部や住宅地域において街区単位で自然未利用エネルギーを活用(建物間で電力熱水などを融通)し物質循環と一体となった面的利用エネルギーシステム(都市部のヒートアイランド現象を緩和し都市部でも郊外でも低炭素コミュニティづくりに寄与する) 

20172018

20252026

27ネットワークインフラの発達により居住仕事の物理的場所の差がなくなりリアルなオフィスに代わってバーチャルオフィスが主流になる

20162020

20252027

23ナノフォトニック技術などにより消費電力が 11000 に低減されたネットワークノード(コンピュータやルータなど)

20202023

20272028

36

人口減少に伴って市街地を縮小する際水循環と生態系および生活文化の持続性を踏まえた土地利用戦略が創り出されコンパクトなインフラ計画による自然共生型の市街地が形成される

20272031

25情報の伝達蓄積システムに係る必要エネルギー量が 2010年と比較して100万分の 1(取り扱い情報量で正規化)になるグリーン ICT システム

20302031

20362031

52

54

年数年数

77

77

77

75

6年以上

97

88

社会的実現予測実現時期(年)

技術的実現予測実現時期(年)

rarr第9回予測調査結果(社会的実現年)rarr本調査結果(社会的実現年)

 科学技術学術政策研究所では東日本大震災直後の計画停電や夏冬の節電経験を踏まえて持続可能な節電に関する調査を実施しました将来節電が普及した社会の姿やそうした社会を実現させるために必要な技術技術では解決しない社会システムの課題など節電に関係する産業界の方を中心にワークショップを開催して持続可能な社会に寄与する研究等について検討しました 報告書(調査資料 -220)では節電に関する科学技術課題の将来予測調査(デルファイ調査)とシナリオ分析の結果についてまとめていますデルファイ調査では東日本大震災前後による各課題の実現時期の変化についても調査分析しています(図表参照)また生活シーン別社会像別にシナリオライティングを行いました結論として持続可能な節電を実現するための提案として以下の2点について具体的に示しています  ①節電に関係するデバイスや材料などの研究開発の推進  ②電力インフラに関係する人材育成と社会システム改革の検討と推進 詳細につきましては以下のWebサイトよりご覧ください httpdatanistepgojpdspacehandle110351197

「持続可能な節電に関する調査~デルファイ調査とシナリオ分析による将来展望」の結果を公表

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  • 科学技術7月号概要2
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