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I パラメトリックスピーカー

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第 I部

パラメトリックスピーカー

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第 1章

イントロダクション

私たちの身近にある電化製品の一つとしてスピーカーがあります。テレビや音楽プレー

ヤー、携帯電話はもちろん、街に出てみても店頭や信号機、駅のホームなどなど、いたる

ところでスピーカーは使われており、もはや現代の生活はスピーカーと切っても切り離せ

ません。

そのスピーカーに昨今、大きく進化しようとしていることをご存じでしょうか。本来は

人間の耳には聞こえない音「超音波」を応用し、限られた範囲だけに音を伝えるスピー

カーが登場してきているのです。panasonicや三菱電機エンジニアリングなどがすでに製

品化し、販売を開始しています。

まだ普及している数も少なく、街中で見つけるのもなかなか難しいですが、特定の対象

だけに音を伝える技術として、今後、広く普及してくるものと思われます。

私たちパラメトリックスピーカー班では、そんな、超音波を用いたスピーカーの原型で

あるパラメトリックスピーカーについて学んでみようと考え、実際にパラメトリックス

ピーカーの制作にも挑戦しました。

ここからの章で、パラメトリックスピーカーの理論や実際に行った実験について簡単に

解説していきたいと思います.

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第 2章

理論

2.1 高調波の形成

静寂な宇宙空間とは違い、私たちの身の回りは”音”であふれています。テレビのサウン

ド、友達の話し声、雨や風の音など、毎日の生活で様々な音を聞くことが出来ます。梅雨

明けの季節、雷がどのくらい遠くに落ちたかを知りたいときにも私たちは音を利用しま

す。このように、音というものは身近な存在であるため、普段は何気なく接しています

が、具体的にどのように空気中を伝わっていくのかは疑問に思うところです。この節では

空気が音を伝えるときに、その空気自身が持つ性質からおもしろい変化が起こる様子を紹

介します。

音は水面波や地震波、電磁波などと同じく、波の一種です。波はその媒質(波を伝える

もの)が進行方向に対して平行に振動するもの(縦波)、垂直に振動するもの(横波)の

2つに分けられます。音波は縦波です。媒質である空気の粒子が進行方向に順番に振動し

て、次から次へと圧力の変化が伝わり、音として伝播します。

さて、媒質である空気は音が伝わるときにどのような速度で運動しているのでしょう

か。空気は流体なので、その運動は流体の方程式によって記述することができます。流体

力学で知られている連続の式と運動方程式、さらに熱力学の断熱方程式があります。

∂ρ

∂t+

∂x(ρu) = 0

ρ(∂u

∂t+ u

∂u

∂x

)= −∂p

∂x

p = p0

( ρ

ρ0

ρは空気の密度、uは粒子の速度、pは空気の圧力、γ は比熱比(空気の場合 0、1気圧

で約 1.41)を表します。連続の式は、単位時間あたりにある領域内で空気が増減した分量

はその領域から流出入した分量に等しいことを表します。これは粒子が突然消滅したり生

成したりしないという制限を与えます。次に運動方程式は、粒子の速度の変化が圧力の変

化と関係していることを表します。さらに断熱方程式は粒子の密度が増えれば空気の圧力

も増えることを表します。この過程で、空気は摩擦を持たないこと(粘性ゼロ)と熱を伝

えないこと(熱伝導率ゼロ)を仮定しました。

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6 第 2章 理論

また、音の速さ cは密度を変化させたとき(dρ)に、どの程度圧力が変化するか(dp)

によって決まります。

c =(dp

) 12

これらの方程式を組み合わせて、速度 uについて解くと、粒子の速度を記述する方程式

として

∂u

∂t+ (u + c)

∂u

∂x= 0

が得られます。ここで第 2項に着目してみます。これは uに関して 2次になっており、非

線形項と呼ばれます。実はこの項があるために、uの解は複雑になり、後で紹介する高調

波の形成というおもしろい現象を起こす役割を担います。

この方程式を原点 x = 0できれいな波 u = u0 sinωtを入れた条件で解きます。ここで

ω は波の振動数と呼ばれるもので、単位時間あたりにどれだけ振動を繰り返すかを表しま

す。つまり ω が大きいほどより速く振動し、よって音が高いことになります。ここでは

原点で一定の周波数(音の高さ)ω の波を発生させています。すると

u = sin(τ + σ

u

1 + βMu

)という解が得られます。ここで、β は媒質に特有な定数で非線形係数と呼ばれ、β =

(γ+ 1)/2(定数)です。Mは”音響マッハ数”と呼ばれ、M = u0/c0 です。これはもとも

との音速 c0 に比べ、どの程度粒子の振幅 u0 が大きいかを表します。また式を見やすくす

るため、

u =u

u0, τ = ωt′ = ω(t − x

co), σ =

ωβMx

c0

と書きかえました。さらに簡単のためM が1に比べて小さいことを考慮してM の 2次

の項を無視する近似をすると、

u = sin(τ + σu)

が得られます。これを見ると右辺が uに依存した複雑な形をしています。原点 σ = 0(x =

0)では sinωtの形をしていたものが、σ 6= 0(x 6= 0)では単純な形とならないことがわか

ります。uに依存しない形にするために、これを sin nτ でフーリエ展開します。すると、

u =∑n=1

∞un =∞∑

n=1

2Jn(nσ)nσ

sin(nτ)

と表されます。ここで、ベッセル関数の積分表示

Jn(nσ) =1π

∫ π

0

cos(nσ sin θ)dθ

を用いて書き換えました。この表示を各項に分けて見てみます。まず、最初の地点できれ

いな波 u = u0 sin ωtを発生したことを思い出してみます。これは式 (2.1に σ = 0を代入

してみると u(0, 0) = 2J1(0) sin τ = sin τ でしっかりと表されています。おもしろいのは

ここからです。原点から少し離れた場所 (ω 6= 0)での様子を見てみます。すると波の周波

数として ω の整数倍となる振動(高調波)も含んでいることがわかります。つまり ω の

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2.2 Lighthill方程式からの導出 7

みの波だったものが 2ω, 3ω, 4ω . . .にも分配されています。その分配のされ方はベッセル

係数によって決まっています。これは空気自身が持つ非線形効果によって、空中で自動的

に周波数が変えられたものです。ここで、摩擦が無く熱が伝わらない空気を仮定したこと

を思い出すと、全体のエネルギーは保たれているので、ω の波のエネルギーが 2ω, 3ω, . . .

などの波のエネルギーに移ったと考えてもよさそうです。例えば距離 σ = 1 においては

各波の振幅は u1 = 0.88, u2 = 0.35, u3 = 0.21となり、u1 のみだったものが、各波に振

り分けられていることがわかります。

ここまでで、空気が音を伝えるときには最初の音の振動数は保たれないこと、つまり高

調波が生じることがわかりました。これらの波形を n = 1, 2, . . .と全て重ねてみると、σ

が増えるにつれ波形が歪むこと、つまり非線形の効果が出ることを確認することができま

す。もちろん σ = ωβMx/c0 でしたので、低周波数の音、例えば可聴域(数 10~15kHz

程度)の音では σ が十分に大きくなるためには xをとても大きくしなければなりません。

しかし超音波であれば比較的近い距離でこの非線形効果が現れるので、超音波の波形は可

聴域の波形に比べて歪みやすいと言えます。また、M = u0/c0 から u0、つまり音を大き

くすることによっても波形がより歪むことがわかります。そして実は σ = 1 の領域では

垂直な波面が形成されることが次の計算からわかります。つまり、τ について uの傾きを

求めるため微分係数を計算します。(∂u

∂τ

)τ=0

=1

1 − σ

σ = 1を代入すると傾きが発散してしまうので、波面が垂直になっています。このような

波は衝撃波と呼ばれます。

この節では空気が持つ非線形な効果について少し詳しく見てきました。パラメトリック

スピーカではこの非線形効果を可聴域の音の運搬に利用します。非線形効果を効率よく得

るためには、周波数を高くすること、音を大きくすることが有効であるので、スピーカか

らは超音波が強振幅で発生されます。

次節ではどのように可聴域の音が得られるのか、紹介していきたいと思います。

2.2 Lighthill方程式からの導出

音波は空気の中を伝わる波ですが、媒質の空気によって、音源から出た波は元の波形を

崩しながら伝わっていくことになります。また、2つの音波の散乱を利用し、可聴域の音

を得るのが、パラメトリックスピーカーです。

前節の連続の式を 3次元に拡張すると、

∂ρ

∂t+ ∇(ρu) = 0

ここで Pij は応力、特に i = j のとき Pij = P

運動量の式は

∂t(ρui) +

∂xj(ρuiuj − Pji) = ρFi

ここで Pij は応力、特に i = j のとき P{ij}= P , Fi は体積力を表します。

以上の 2式より、Lighthill方程式

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8 第 2章 理論

∂2ρ

∂t2− c2

0∇2ρ =∂2Tij

∂xi∂xj

Tij ≡ ρuiUj + Pij − c2oδρij

c0 は音速です。

ここで得た Lighthill方程式を近似を用いて変形していきます。以下では、散乱波を ps、

音源から出る波を ps のようにに、下付き文字の iと sで区別します。ここで用いる流体

の式は、

運動量の式から

du

dρ=

c0

ρ0

運動方程式と連続の式から、

dP

dρ= c2

0

近似としては空気の粘性を無視することで Pij = 0、渦度無しで ∇× u = 0、ρは二次

までのテイラー展開、uipi.ρi ¿ 1を用います。

以上より、Lighithill方程式は (∂2

∂t2

)Ps = β

∂2

∂t2P 2

i

β ≡ ρ−1c−4[1 +12

ρ0c−20

(d2ρ

dρ2

)] = (定数)

左辺は波動方程式の形で、右辺は pi のみの関数になっています。それゆえ、右辺を散

乱波 ps のソースとみなすことができ、右辺は散乱波に関する項を含んでいないので、こ

の式の解は Pi が与えられれば簡単に求めることができます。

具体的に Ps を求めます。

Pi = P0e−αx[cos(ω1 − k1x) + cos(ω2t − k2x)]

w1 6= ω2 の時の Psω1k1

= ω2k2

= c0

alphaの項は音波が進む際の減衰を表します。

さて、この Pi を代入し、グリーン関数を用いて計算すると

Ps = −ω2

4πβ

∫散乱が起こっている場所

P 20 e−πωst+i(ks+2iα)x

r − r′dV

散乱波の発生地点と散乱波の受信地点が十分離れていてるので、角度 θを一定値で近似

できます。すると、上の式は

Ps =−ωsSoβ

∫ l

0

P 20 e−iωst+i(ks+2iα)r cos θ

rdx

さらに、lの無限大の極限を考えることで元の波が十分減衰するまでの散乱の影響を考

えて

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2.2 Lighthill方程式からの導出 9

Ps =ω2

sP 20 β

8πR0

eiksR0−iωst

[iα + k sin2( θ2 )]

と散乱波が求まります。確かに Ps の周波数は ω1, ω2 の差になっています。そのため、

元の周波数が高すぎて可聴域を超えていても、二つの音波の散乱によって聞こえることに

なります。また、Ps の指向性は強度が最大値の半分になる θ が

θ 12≈ 2

k

) 12

と求まることよろわかります。過去の論文の実験データより、おおよそこの値は 10~

15度となっています。

Pi = P0[1 + mg(t − x

c0)]e−αx cos ω0

(t − x

c0

)の時の Ps (AM復調が起こります)

今回は送りたい音波mg(t) と、乗せる音波 P0 cos ω0tに掛け算回路を用いることで

P = P0mg

(t − x

c0

)e−αx cos ω0

(t − x

c0

)の音波を作成し、次にこれを P = P0e

−αx cos ω0(t − t0)の音波と同じ向きに飛ばしま

す。すると、散乱波として元の周波数の音が作成され、それを聞くことができます。

それでは、この条件で Ps を求めてみます。上記の Pi を代入し、さらに、受信する地点

が音波の進行方向であるとして、

Ps =ρ0P

20

8αR

(m

∂2

∂t2g(t − R

c0) +

m2

2∂2

∂t2g2(t − R

c0))

と求まります。ここで、右辺の第一項は元の音波と同じ周波数を持ちますが、第二項は

音を乱す原因となっています。しかし、最初の項はmに比例しますが、次の項はm2 に比

例するので、mを小さくすればこの音の乱れは無視することができるようになります。

ここで、右辺の第二項を無視できるとすると、

Ps =ρ0P

20 m

8αR

∂2

∂t2g(t − R

c0)

となります。よって空気が AM復調の役割を果たすことで、元の周波数の音を聞くこ

とができることがわかります。

以上のように、散乱波は音源から出される音波の式が与えられれば、流体の満たす式と

適当な近似から求めることができました。パラメトリックスピーカーではこの散乱波を

使って音を届けています。

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第 3章

実験

3.1 回路

掛け算回路

40kHzの超音波と 40+αkHz の超音波を重ね合わせることで、差である αkHz の音を

聴こえるようにするというのが今回の実験の原理です。従ってラジオ放送や CD からの

音をパラメトリックスピーカーで聴こうとするならば、40kHzの超音波と聴きたい音の角

振動数をそれぞれ ωc, ωm として ωc + ωm という角振動数を持った超音波を発生させなけ

ればなりません。

具体的には、求めたい音波の振幅を A、聴きたい音を cos θ でフーリエ級数展開したと

きの各角振動数を nω として、A cos(ωc + nω)t という三角関数で表される波をつくりた

いということになります。三角関数の場合単純に ωc と nω という角振動数の波の和をと

るのではなく、積によって目的の式は得られます。

cos ωct cos nωt − sinωct sinnωt = cos(ωc + nω)t

cos ωct cos nωt + sinωct sinnωt = cos(ωc − nω)t

より二式の両辺を足して 2で割れば

cos ωct cos nωt =12

(cos(ωc + nω)t + cos(ωc − nω)t)

任意の音を再現するには n について和をとればよいだけなので上の式の左辺の波を発

生させることを考えます。そこで使われるのが掛算回路です。掛算回路はトランジスタの

エミッタ結合ペア回路を組み合わせて作られています。

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12 第 3章 実験

この回路における入力電圧と電流の関係は次のようになります。

Ic1 =Iee

1 + e- Vid/Vt

Ic2 =Iee

1 + eVidVt

ここで Vt = 26mV at300K)です。よって出力電流の差は

δIc = Ic1- Ic2 = Iee tanhVod

2Vt

ここで、Vid ¿ Vt とすれば、

δIc= IeeVid

2Vt

となります。1つのエミッタ接地ペア回路と2つのエミッタ接地回路を交叉接続したも

のを直列につなぐとギルバート形掛算回路と呼ばれるものができます。 

前述のエミッタ結合ペア回路の電圧―電流関係を応用すれば

Ic3 =Ic1

1 + e−V1Vt

Ic4 =Ic1

1 + eV1Vt

Ic5 =Ic2

1 + eV1Vt

Ic6 =Ic2

1 + e−V1VT

Ic1 =Iee

1 + e−V2Vt

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3.1 回路 13

Ic2 =Iee

1 + eV2Vt

Ic1, Ic2 を消去すると

Ic3 = Iee

(1+e−V1Vt

)(1+e

−V2Vt

)Ic4 = Iee

(1+eV1Vt )(1+e

−V2Vt

)Ic4 = Iee

(1+eV1Vt )(1+e

−V2Vt

)Ic5 =

Iee

(1+eV1Vt )(1+e

V2Vt

)Ic6 = Iee

(1+e−V1Vt )(1+e

V2Vt

)

δI = Ic3−c5 − Ic4−c6

= Ic3 + Ic5 − (Ic4 + Ic6)

= Iee tanhV1

V2tanh

V2

2Vt

δI = Ic3−c5- Ic4−c6

= Ic3 + Ic5- (Ic4 + Ic6)

= Iee tanhV1

Vttanh

V2

2Vt

V1, V2Vt では δI = IeeV1V24V 2

tとなり δI が V1V2 の積で表されることは簡単に示されます

が、多くの場合は V1, V2> Vtですので、特別な工夫をして V 11.V2の積が出てくる形にしま

す。つまり、はじめ入力電圧に arctanhの変換をかけておけば tanh(arctanh(xV )) = xV

となり結果的に電圧の積が出力されることになります。具体的には入力電圧に比例した差

動出力電流が得られる回路と、2つのダイオード接続のトランジスタをつなげれば実現で

きます。

I1¬- I2が V 1に比例するので、I1 = I02 + K1V1, I2 = I01¬-K1V1

と書けます。I01 は V1 が 0のときに両出力リードを流れる直流電流、K1 はこの電圧-

電流変換回路の伝達コンダクタンスです。このとき、トランジスタ間に発生する差動電

圧は

δV = Vt lnI01 + K1V1

I01 − K1V1

= 2VtarctanK1V1

I01

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14 第 3章 実験

ここで、arctanx = 12 ln 1+x

1−x を用いた。

V1 入力についてはこの逆関数出力回路を通しますが、V2 については、電圧-電流変換回

路のみを通してやれば Ic1 − Ic2 ∝ V2 となるので、2つのダイオード接続のトランジスタ

は必要ありません。

結局

δI = IeeK1V1

I01

K2V2

I02

となります。最後に δI を Voutとして出力する差動-シングルエンド変換回路というも

のを通せば、Vout = K3δI より

Vout = IeeK3K1V1

I01

K2V2

I02V1V2

Vout = 0.1V1V2 となるように選びます。

要するに完全な掛算回路は 2つの電圧-電流変換器 (入力電流に比例した差動出力電

流を発生させる)、トランジスタ回路 (差動電流が入力電圧の tanhの積になるようにす

る)、出力用の電流入力・電圧出力増幅器(最終的に δI を Vout にする)で成り立ってい

ます。

[オペアンプ]

掛算回路を通しただけでは出力が不十分なのでオペアンプを用いて信号を増幅させてや

る必要があります。オペアンプは別名演算増幅器と呼ばれ、多数のトランジスタ、抵抗、

キャパシタンスなどが組み合わされて形成されています。1個のオペアンプは簡略化して

または、

と描きます。今回の実験ではオペアンプ 2個が組み込まれた素子を使い、回路上に反転

増幅器と非反転増幅器を設置することで信号を増幅しています。

[反転増幅器] 基本的なオペアンプの性質として出力Wは入力の差 X- Yにのみ比

例し、W=A(X- Y)と書ける。ただし Aは正の整数で1に比べ十分大きい。オペア

ンプ自身の入力インピーダンスは無限大、出力インピーダンスは 0とみなせる。反転、

非反転入力端子の間にはほとんど電位差が生じない。X Y このことを仮想短絡という。

があります。外付けインピーダンス Zi, Zf を用いて図 6のような回路を組みます。

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3.2 超音波の指向性の測定 15

するとより Vからの電流はオペアンプには流れず、すべて Zf に流れます。よって

I =V − Y

Zi=

Y − W

Zf

従って  X=0に注意すると

Y =ZfV

(A+ 1)Zi + Zf )~0

W =- Ay =- AV Zf

(A+ 1)Zi + Zf~-

Zf

ZiV

二式目より、出力は入力に対して反転増幅されています。

今回の回路では

Zf = 22k[Ω]Zi = 1k[Ω]  です。

[非反転増幅器]

今度は位相を反転させないで増幅させる回路を組みます。

Xの方に電圧 Vを入力すると、仮想短絡のため Yの電圧も Vとなります。電流 Iは出

力端子から Rf , Ri を通りすべてアースへと流れます。

V = RiI = W - RfI

W =1 + Rf

RiV

出力は入力の位相を変えずに増幅されています。今回の回路では

Rf = 22k[Ω]Ri = 1k[Ω]  です。

3.2 超音波の指向性の測定

パラメトリックスピーカーの高い指向性は、もともとは超音波の指向性の高さに由来

するものです。そこで、パラメトリックスピーカーで使用した超音波がどの程度の指向性

を持つものなのか、簡単な実験を行ってみました。

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16 第 3章 実験

3.2.1 使用した超音波センサ

超音波の指向性は、使用する超音波センサ(超音波送受信機)によって異なるので、ま

ず、使用した超音波センサとその公表されている性能を記しておきます。

今回のパラメトリックスピーカーの実験で使用した超音波送信機は秋葉原で購入した日

本セラミックの T40-16というものです。40kHz周辺の超音波を発することが出来、公式

ホームページには「半減全角 (参考値)(deg)」が 55°と記してあります。これは、超音波

の音圧が、超音波送信機の向いている方向を 0°として、左右 27.5°ずつで半分になると

いう意味です。このデータを実際の製品を用いた簡単な実験で確認してみました。

3.2.2 指向性の測定

指向性の測定は超音波送信機 T40-16 で発した約 40kHz の超音波を受信機 R40-16 で

受け、送信機の向いている方向によって、受信される音圧がどのくらい変わるか調べる、

という方法で行いました。R40-16は 40kHz周辺の音に対する感度のみが高いため、もと

の超音波が歪んで発生した周波数の違う (80kHzや 120kHzなどの)超音波は検知できま

せんが、その影響はとりあえずは小さいと考えました。また、音圧と R40-16で超音波を

検知した結果得られた電圧は単純に比例すると考えました。

この仮定の下、T40-16と R-40-16を約 1m離して、超音波送信機である T40-16を 360

°くるくる回しながら受信機 R40-16で超音波が、どの程度の強さで検知できるかを確か

めました。また、T40-16と R40-16の間の距離が約 2mの場合についても同様に実験し

ました。

図 3.1 指向性測定実験の結果

その結果、上図のような音圧の分布が得られました。この図は、音圧を dBになおして

描いた、音圧の角度依存性のグラフです。もっとも強い超音波が得られる送信機の真正面

の音圧を基準値 0dBとして、T40-16と R40-16の間の距離が 1mの時のデータと 2mの

時のデータを平均したグラフを示してあります。

形が歪んでいたり、真後ろでもある程度の音圧が検知されているのは、超音波が部屋の

壁や障害物にぶつかって反射する影響を除ききれなかったためと考えられます。

音圧が半分になる点(約-6dB)はおおよそ全角 60°くらいの範囲にあり、公式データ

の 55°よりも若干広いものの、ほぼ一致しました。

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3.2 超音波の指向性の測定 17

この値は、超音波センサとしてはそれほど高い指向性を持っているとは言えませんが、

通常のスピーカーに比べると十分良い指向性を持っています。

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18 第 3章 実験

3.2.3 パラメトリックスピーカーのθ依存性

 1.実験内容

図?のように、スピーカーを平行に置き、2m先に観測者を立たせた状態でスピーカー

の距離dを変化させていき、可聴域の音が聞こえるかどうかを実験しました。dから、ス

ピーカー間の角度θを求め、音の聞こえ方とθの関係を調べました。

 2.実験結果

   スピーカー間の角度θと、聞こえ方の関係は、次のようになりました。

    θ=0.29° (d=1cm)のとき:よく聞こえる

    θ=0.57° (d=2cm)のとき:弱い音が聞こえる

    θ=0.86° (d=3cm)のとき:耳をすませば、かろうじて聞こえる

    θ=1.1° (d=4cm)のとき:聞こえない

   また、音が聞こえる角度と聞こえない角度の境目(しきい値)は、θ=1.1° (d=4cm)

となりました。これより、スピーカー間の角度が 1.1° 以下の、ごく狭い範囲でのみ、可

聴域の音が聞こえることが言えます。

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19

第 4章

その他

4.1 AM変調の仕組み

テレビやラジオの情報が電波に乗って送られてくることはよく知られています.発信さ

れる情報はもともとは音声や映像です.このような情報を電気信号に変換するためには、

具体的にどのような方法がとられているのでしょうか?たとえば音については,人間はだ

いたい 20Hz~20000Hzの音を聞き取れると言われています.しかし,それぞれのラジオ

局やテレビ局に設定されている電波の周波数帯は決められてるため,その音の波をそのま

まの形で電波にして発信することはできません.情報を適当な別の周波数に変換する(変

調する)必要があります.ここでは,その主要な変調方式のひとつである AM方式につい

て説明します.

一般的に変調は,一定の周波数をもつ電波(搬送波:キャリア)に信号となる波(信号

波)をのせる形で行われます.AMラジオ放送などでなじみ深い AM方式は Amplitude

Modulation:振幅変調の略であり,簡単に言えば信号と特定の基準周波数を単純にかけ

算することで,電波の振幅(強弱)の変化として情報を発信する方法です.(一方,FM方

式とは Frequency Modulation:周波数変調の略であり,情報を周波数の変化として発信

します.)

基準周波数を A cos 2πfctとし,信号波も簡単に vs(t) = B sin 2πfstとすると,被変調

波 vam(t)は

vam(t) = A cos 2πfct · vs(t) (4.1)= A cos 2πfct · B sin 2πfct (4.2)= AB(sin 2π(fc + fs)t + sin 2π(fc − fs)t) (4.3)

というように表せ,搬送波の上下の周波数に対称に信号が発生することがわかります.こ

の信号を側波といい,fc − fs を下側波帯(LSB),fc + fs を上側波帯(USB)とよびま

す.この側波は互いに同等に信号の内容を持つことになりますが,伝送の方法によって,

両方が送られることも片方だけが送られることもあります.また搬送波についても,信号

の大きさをそのままにして側波と一緒に伝送する方法(全搬送)や,搬送波のレベルを落

としたり,完全にカットして側波だけを伝送する方法(抑圧搬送)などがあります.搬送

波信号を合わせて送る場合の被変調信号は,搬送波を C cos 2πfctとして

vam = C cos 2πfct + vs(t)A cos 2πfct (4.4)

= C(1 + vs(t)A

C) cos 2πfct (4.5)

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20 第 4章 その他

= C(1 + m sin 2πfs) cos 2πfct (4.6)

AM ラジオ放送などでは全搬送の方式がとられていますが,この方式で送られてくる波

(右図)の高周波の波の頂点を滑らかに通るような曲線(包絡線)を取り出すことで,簡

単に信号波を復元(復調)することができます.また,m = A · B/C を変調度といい,

m =Vmax − Vmin

Vmax + Vmin

の関係があります(ただし,Vmax,Vmin はそれぞれ被変調信号の最大値と最小値).こ

の値が大きいほど効率の良い通信となりますが,過度に大きくなると占有帯域幅が増加し

て他の通信に妨害を与えるので,無線通信では 40%以内になるよう規制されています.

4.2 音の大きさの単位

ここでは音の大きさの単位を解説します。音の大きさの単位としては、dB SPL(dB

Sound Pressure Level)が使用されています。

dBの目安としては、

dB 目安

120 飛行機のエンジンの近く

110 自動車の警笛(前方 2m)

100 電車が通るときのガードの下

90 犬の鳴き声(正面 5m)・騒々しい工場の中・カラオケ(店内客席中央)

80 地下鉄の車内・電車の車内・ピアノ(正面 1m)

70 ステレオ(正面 1m、夜間)・騒々しい街頭

60 静かな乗用車・普通の会話

50 静かな事務所・クーラー(屋外機、始動時)

40 市内の深夜・図書館・静かな住宅の昼

30 郊外の深夜・ささやき声

20 木の葉のふれあう音・置時計の秒針の音(前方 1m)

音圧は 2 × 10−5Paを 0dB として、音の強さ (エネルギー)は 10−12Wm−2を 0dB と

なっています。音圧レベルとして使用される単位は P0 = 20 × 10−6Paを利用して

Lp(dBSPL) = 10 × log10P 2

P 20

= 20 × log10

(PP0

)音の強さのレベルとしては LI(dBSPL) = 10 log I

I0が使用され、I0 = 10−12Wm−2

です。

4.3 パラメトリックスピーカーの歴史

非線形音響学に関する歴史は、1745年にイタリアのバイオリン奏者が Sorgeが、また、

1754 年にイタリアのバイオリン奏者 Tartiniが 2 つの強い音波を同時に出すと、その差

音が発生することを独自に見出しました。学問的に注目され始めたのはWesterveltがパ

ラメトリックアレーの理論を示してからで、工学的な利用を目的に研究されてきた。この

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4.4 パラメトリックスピーカーの応用例 21

応用としてパラメトリックスピーカーがあり、2005年 4月 22日には、米マサチューセッ

ツ工科大学 (MIT)が優れた発明家に贈っている『レメルソンMIT賞』の受賞者に、超音

波を使った単一指向性の音声伝送システムを開発した米国の発明家エルウッド・ノリス氏

が選ばれた。

4.4 パラメトリックスピーカーの応用例

 人口が密集する地域ではお互い神経質にならざるを得ない騒音問題。パラメトリック

スピーカーはこれを解決する一つの指針を与えます。ここでは、どのようにこの原理が実

社会にて応用されているのかについて紹介します。

博物館、美術館などでの展示品説明

大学周辺で調査したところ、上野にある国立科学博物館の恐竜コーナーでパラメトリッ

クスピーカーを発見しました。実際にモニターの前で聞いてみると果たしてそこに指向性

があるのか分かりにくいのですが、数ある音源すべてから適度に離れると全く音が聞こえ

ないことから、確かにそれらがパラメトリックスピーカーであると分かります。下の資料

は導入された当時のものです。

交通事故対策

  近畿地方のある交差点でパラメトリックスピーカーが使用されています。  坂道

を下って横断歩道を渡る自転車と国道43号を右折・左折する自動車  との事故を防止

するために設置され、自転車に注意を呼びかけます。  このシステムの大まかな仕組み

は、スピーカー前の赤外線センサーで自転  車の進行方向と速度を計算し、それに合わ

せてスピーカーから音声を発す  る、というものです。

 このように公の場ではどんどん実用化されてきているようですが、私の場では価格や

音質の面で試作段階です。しかしながら周りを気にせず大音量で音楽を部屋に響かせるこ

とが出来る日もそう遠くはありません。