ウエイト・コントロール・カーピング・システ...

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ウエイト・コントロール・カーピング・システム(W.C.C.S) 大鯉研究所 高橋富士夫 30 年ほど前にバラケエサを初めて雑誌に紹介した釣人は、なまじハリにエサが付いているから小物に邪魔 されるのだと喝破しましたが、それ以来、日本の野鯉釣りはネリエサの使い方が大きく進歩しました。特に、 吸込み式に措いては、粘りの強いダンゴエサから水底に拡散するバラケエサに主流が移り、微粉のネリエサ から粒エサ主体のネリエサとなり、龍王のような無味無臭コンセプトのエサへと発展してきました。 ヨーロッパでは、その後ボイリーが考案され、ネリエサから固形のボイリーへと主流が移り、ネリエサの 進歩は停滞してしまいました。確かに、ボイリーはそれまでのエサに比べて非常に硬くジャミに強いため、 大物志向の野鯉釣りに嵌りました。ボイリーに適したヘアーリグも考案され、ボイリー用のシステムが次か ら次へと登場し、ヨーロッパの野鯉釣りを席巻しました。 しかし、一方でネリエサの進歩は停止し、ネリエサを使用する吸込み仕掛けは廃り、日本のようなバラケ エサや粒エサ、そして無味無臭コンセプトのような発展は見られませんでした。 確かに、日本でも関東の水郷では雑食性のアメリカナマズが大繁殖して、ネリエサが廃れタニシエサが主 流を占めています。タニシ以外のエサではアメリカナマズしか釣れないと、嘆く釣人が多いようです。 しかし、これから紹介するシステムを活用すれば、その嘆きは無用のものとなるに違いありません。それ どころか、大物を選択して狙うことも可能です。 私は、それをウエイト・コントロール・カーピング・システム(W.C.C.S)と名付けました。 ウエイト・コントロール・カーピング・システム(W.C.C.S)を簡単に言いますと、仕掛けの浮力を調整して 釣る方式の事を言います。 すなわち、ハリやエサなどの比重を調整して、ハリを吸い込み易くしたり吸い込み難くするという釣り方 なのです。 私は、その浮力を調整する道具として発泡材を用いてきましたので、発泡仕掛けと呼んできました。しか し、別に浮力を調整することの出来るものならば発泡材でなくても構いません。オモリを付けて浮力を減ら すのもその方式に含まれます。 直線は曲線の一種であるという方程式がありますが、それと同じように、針の浮力を調整することにより、 野鯉やジャミの活性に応じて、対応することが出来るわけです。エサを付ければ、食わせ仕掛けにもなりま す。 W.C.C.S は、単なる発泡材を付けただけの仕掛けではありません。ハリの浮力を自由に調整することによ り、全ての条件に対応しようという総合釣法なのです。 今まで普通に行われていた釣り方は、この W.C.C.S の中ではウエイト調整 0 の方程式となります。 さて、私の仕掛けに対する考え方は、道具としての使い易さにあります。 それには、シンプル・合理的・効率的・操作性・汎用性を備えた仕掛けが必要となります。 シンプルとは、文字通り簡単で判り易い仕掛けです。作りやすく使いやすい仕掛けです。 合理的とは、物理や自然の法則に適った仕掛けです。 効率的とは、確率の高い仕掛けです。狙った効果が確率高く現れる仕掛けです。 操作性とは、使いやすい仕掛けのことです。道具として自由にコントロール出来る仕掛けです。 汎用性とは、応用の利く仕掛けのことです。同じ仕掛けで、色々な事に対応できる仕掛けです。

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Page 1: ウエイト・コントロール・カーピング・システ …ogoi.org/tansuitaigyoturi/carp/wccs1.pdfウエイト・コントロール・カーピング・システム(W.C.C.S)

ウエイト・コントロール・カーピング・システム(W.C.C.S)

大鯉研究所 高橋富士夫

30年ほど前にバラケエサを初めて雑誌に紹介した釣人は、なまじハリにエサが付いているから小物に邪魔されるのだと喝破しましたが、それ以来、日本の野鯉釣りはネリエサの使い方が大きく進歩しました。特に、

吸込み式に措いては、粘りの強いダンゴエサから水底に拡散するバラケエサに主流が移り、微粉のネリエサ

から粒エサ主体のネリエサとなり、龍王のような無味無臭コンセプトのエサへと発展してきました。 ヨーロッパでは、その後ボイリーが考案され、ネリエサから固形のボイリーへと主流が移り、ネリエサの

進歩は停滞してしまいました。確かに、ボイリーはそれまでのエサに比べて非常に硬くジャミに強いため、

大物志向の野鯉釣りに嵌りました。ボイリーに適したヘアーリグも考案され、ボイリー用のシステムが次か

ら次へと登場し、ヨーロッパの野鯉釣りを席巻しました。 しかし、一方でネリエサの進歩は停止し、ネリエサを使用する吸込み仕掛けは廃り、日本のようなバラケ

エサや粒エサ、そして無味無臭コンセプトのような発展は見られませんでした。 確かに、日本でも関東の水郷では雑食性のアメリカナマズが大繁殖して、ネリエサが廃れタニシエサが主

流を占めています。タニシ以外のエサではアメリカナマズしか釣れないと、嘆く釣人が多いようです。 しかし、これから紹介するシステムを活用すれば、その嘆きは無用のものとなるに違いありません。それ

どころか、大物を選択して狙うことも可能です。 私は、それをウエイト・コントロール・カーピング・システム(W.C.C.S)と名付けました。 ウエイト・コントロール・カーピング・システム(W.C.C.S)を簡単に言いますと、仕掛けの浮力を調整して釣る方式の事を言います。 すなわち、ハリやエサなどの比重を調整して、ハリを吸い込み易くしたり吸い込み難くするという釣り方

なのです。 私は、その浮力を調整する道具として発泡材を用いてきましたので、発泡仕掛けと呼んできました。しか

し、別に浮力を調整することの出来るものならば発泡材でなくても構いません。オモリを付けて浮力を減ら

すのもその方式に含まれます。 直線は曲線の一種であるという方程式がありますが、それと同じように、針の浮力を調整することにより、

野鯉やジャミの活性に応じて、対応することが出来るわけです。エサを付ければ、食わせ仕掛けにもなりま

す。 W.C.C.Sは、単なる発泡材を付けただけの仕掛けではありません。ハリの浮力を自由に調整することにより、全ての条件に対応しようという総合釣法なのです。 今まで普通に行われていた釣り方は、このW.C.C.Sの中ではウエイト調整 0の方程式となります。 さて、私の仕掛けに対する考え方は、道具としての使い易さにあります。 それには、シンプル・合理的・効率的・操作性・汎用性を備えた仕掛けが必要となります。 シンプルとは、文字通り簡単で判り易い仕掛けです。作りやすく使いやすい仕掛けです。 合理的とは、物理や自然の法則に適った仕掛けです。 効率的とは、確率の高い仕掛けです。狙った効果が確率高く現れる仕掛けです。 操作性とは、使いやすい仕掛けのことです。道具として自由にコントロール出来る仕掛けです。 汎用性とは、応用の利く仕掛けのことです。同じ仕掛けで、色々な事に対応できる仕掛けです。

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発泡吸い込み 1本針仕掛け

それらの条件を満たすのが、これから紹介する発泡吸い込み 1本針仕掛けです。 鯉の索餌形態はエサをかじったり引きちぎったりする方法ではなく、吸い込む方式です。 その生態を利用して考えられた最も優れた仕掛けが吸い込み式です。特にバラケエサを使用して空針を吸い

込ませる仕掛けは、針掛かりから云ってもベストの仕掛けといえるでしょう。 したがって、私は、吸い込み仕掛けの使えるポイントではそれをメインに使用し、そうでないポイントで

は食わせ式を使用してきました。 ただ、今までの吸い込み式の欠点は、多数の針を使用するために障害物に弱いという欠点がありました。

それを解消したのが発泡吸い込み 1本針仕掛けなのです。 この仕掛けを簡単に現しますと、食わせ式の 1本針仕掛けと同じ仕掛けを使用して吸込み式として使用するというものです。すなわち、同じ仕掛けで食わせ式も吸込み式も使用できるというものです。 以前、私は、流れのある所は移動式 Y字型ハリスの食わせ仕掛け、掛かりの多い所では 1本針の食わせ仕掛け、流れの無い所では 4本針の吸込み仕掛けと使い分けてきました。 しかし、流れのある所も無い所も、掛かりのある所も無い所も同じ仕掛けで対応できないだろうかと考え

るようになりました。 針掛かりの良いのは空針仕掛けが一番で、その点バラケエサを使用した吸込み式は針掛かりの良さは最高

ですが、針数の多い吸込み仕掛けの弱点は根掛かりです。 食わせ式の場合は食わせ餌が針掛かりの邪魔をします。そのため、餌の大きさや硬さが影響し、活性の低

い時は針掛かりが悪くなります。それを補うエサの付け方がヘアーリグですが、針までの距離が長くなるの

と少し面倒です。 そこで、思い付いたのが 1本針の吸込み仕掛けです。すなわち、最も厳しい条件に対応できる仕掛けを使用する事により、オールマイティを目指そうというものです。 実は、これには伏線がありました。

以前に、故山田勲氏の 1本針仕掛けについて、釣友と議論を交わした事がありました。

山田氏の、伊勢尼12号という小さな針に8mmから 1cm角のイモという、如何にも小さな 1本針の食わせ仕掛

けに、食わせ式か吸込み式か区別が付くのだろうかという議論でした。結局、どちらの場合も当てはまるだろうと

いう事で議論は終わりましたが、この事がいつも頭の隅に引掛かっていたのです。

では、食わせ無しの 1本針仕掛けではどうだろうか?

小さな食わせ仕掛けの弱点はジャミに弱い事です。食わせが無ければ、ジャミも食わせを突っついて仕掛けを

引き釣り回すということはありません。ただ、針数が少なくなれば、針を吸込む確立も少なくなります。そこで思い

付いたのが、発泡スチロールを使用して針の重みを消すと言うことでした。針の重みが無くなれば、周辺の

コマセを吸込む時、より吸込まれやすくなります。あとは、ジャミに合わせて針のサイズや浮力を調整すれ

ばよい。そう考えると、逆の発想も成り立ちます。 すなわち、ジャミ対策として、針に浮力を与えるのではなく、オモリを足して重くする方法もあるという

ことです。また、浮力を大きくして針を浮かせれば、ソウギョやレンギョなどの中層魚を狙うこともできま

す。 更に、ハリを浮かせてハリスの長さを調整することにより、掛かる獲物のサイズを選り分ける事も出来ま

す。すなわち、それによりジャミ対策も OKです。後に述べるアメリカナマズ対策も、これを行えばかなり効果があります。

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これで、方程式の出来上がりです。直線は曲線の一種であるという方程式がありますが、それと同じよう

に、針の浮力を調整することにより、野鯉やジャミの活性に応じて、対応することが出来るわけです。エサ

を付ければ、食わせ仕掛けにもなります。 この発泡吸い込み 1本針仕掛けは、ハリス部分だけを変更するだけでも OKですが、吸い込み式の針掛か

りの確率を上げるために、オモリにネリエサを装着する方法を採っています。これにより、針とオモリとの

距離を短くする事ができ、ばらけたネリエサの中に針が埋もれている状態となり、針をより吸い込みやすく

なります。また、針とオモリとの距離が短いため、向こうアワセになる確率が上がります。 ハリスの長さは、止水域で 10cm、流水域で 15cm 程にします。この理由は、流水域では鯉がエサを取る

時は主に下流から来るためオモリが利きやすいので、吸込み易くする為にハリスを少し長くします。止水域

では、鯉が必ず沖から来るとは限らず、横や手前から吸い込まれた時にもオモリが利きやすいように短くす

るわけです。 オモリは、ネリエサの装着が良く、なおかつ仕掛けの安定の良いスパイクオモリを使用。 注意することは、発泡材の針への付け方ですが、出来るだけ空針に近くなるように小さく分散して針に付け

ます。また、基本的に鯉用の場合は、針を浮かせるのではなくネリエサと一緒に水底に這うようにします。

鯉がネリエサを吸込む時、近くに針があれば水と一緒に吸い込まれるというわけです。 この仕掛けの利点は、1 本針であるから障害物周辺を恐れずに攻めることが出来るだけでなく、非常にシンプルで仕掛けの作成も簡単であり、食わせ式と同じ仕掛けを併用できることです。 更に、針の大きさや浮力の調整により、ジャミ対策も簡単に対応することができ、なおかつ針を浮かせれ

ば中層魚であるレンギョやソウギョも狙うことが出来るという、オールマイティな仕掛けなのです。 私は、この仕掛けで真冬の庄内川でメーターオーバーのソウギョを始めとして、90オーバーの大鯉を多数

ゲットしていますが、釣友達も揖斐川の大鯉 1m5cmや、庄内川でアオウオ 1m28cmなどをゲットしています。 また、常陸利根川では、針を浮かせたブッコミ仕掛けでハクレンも多数ゲットできました。 ブッコミ仕掛けでレンギョを狙うことが出来るようになれば、釣果は飛躍的に増大し、幻の魚であるコクレ

ンのゲットも夢ではなくなるかもしれません。是非、多くの釣人に活用して戴き、鯉釣りだけでなく淡水大

魚釣りの釣果アップに貢献することが出来れば幸いです。

発泡吸込みで釣れた西之湖の野鯉 98cm 発泡吸込みで釣れた常陸利根川の野鯉 90cm

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発泡吸込みで釣れた常陸利根川の野鯉 93cm 発泡吸込みで釣れた長良川の野鯉 96cm

発泡吸込みで釣れた庄内川の草魚1m6cm 発泡吸込みで釣れた羽田野氏の庄内川の青魚1m28cm

発泡吸込みで釣れた庄内川の野鯉 90台 3尾 向こうアワセのウキ釣りで釣れた常陸利根川のハクレン

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発泡吸込みで釣れた広芝池のハクレン 1m6cm 向こうアワセのウキ釣り仕掛け

アメリカナマズと発泡吸い込み

近年、関東の水郷一帯ではアメリカナマズと呼ばれるキャットフィッシュが大繁殖し、生態系や釣りに重

大な影響を与えています。 たとえば、従来のヘラブナ釣りや野鯉釣りで、多く使用されてきたネリエサを用いた釣り方ではアメリカ

ナマズの猛攻に遭い、とても釣りにならないと多くの釣り人が諦めています。 また、水郷一帯に生息する野鯉の姿形も大きく変化しました。以前は水郷の野鯉はブタ鯉と呼ばれるくら

い良く肥えて重量のあるものが多く見られましたが、最近では栄養失調と思われるくらい痩せ細った軽量の

固体が多く見られるようになっています。 これらの原因はアメリカナマズが鯉科の魚たちと同じ雑食である為に、貪欲な彼らに餌を取られて野鯉達

に十分なエサが行き渡らなくなったものと思われます。 そこで、近年の水郷の野鯉釣りでは殆どの釣人がタニシを餌にして野鯉を狙うようになりました。確かに、

タニシは硬い殻に覆われているためアメリカナマズの歯では噛み砕くことが出来ず、滅多にアメリカナマズ

が掛かることはありません。 しかし、タニシにも幾つかの問題があります。一番の問題はエサの調達です。一般の釣具店に在る訳では

無いので、生息している場所まで行って調達しなければなりません。しかし、近年はどこにでも棲息してい

る訳でも無いので、簡単には手に入りません。 次に、保存の問題があります。タニシといえども生き物であるからして、釣行まで生かして保存しておか

ねばなりませんが、それにはかなりの手間隙が掛かります。それらの理由で、野鯉釣りは水郷の釣人には敷

居の高い釣りとなった感があります。 しかし、本当に水郷の野鯉釣りはタニシでなければ、釣りにならないのでしょうか? 実は、繁殖しているアメリカナマズの多くは 30cm以下の小型が多いため、それを避けるには発泡仕掛けを用いると効果を発揮します。 1に針を浮かせエサから離す事 2にハリスの長さを調節する事 3にアメリカナマズを引き付ける集魚材を使用しない事 この三位一体の対策を採れば、殆ど小型のアメリカナマズが掛かることはありません。 それでは、この 3項目に就いて詳しく解説いたします。 1の針を浮かせるためには針の軸に発泡剤を取り付けて浮力を与えます。 その場合、発泡剤が針掛かりを妨げないように出来るだけ小さく分散して取り付けます。

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2のハリスの長さに就きましては、5cmから 15cm程のあいだでジャミの大きさに合わせて調節します。 大型のものほど吸い込む力が大きくなりますので、ジャミが大きくなるほどハリスを長くします。 すなわち、ジャミの大きさと野鯉の大きさの差により、針をエサから離して浮かせる事により、ジャミ掛か

りを防ぐというものです。 そのため、小型の野鯉もあまり掛からず 80cm以上の大鯉が良く釣れる様になりました。 ただし、ジャミが野鯉より大きい場合は効果を現しません。

3 に就いては、アメリカナマズは雑食ですが本来肉食である種から進化してきたために匂いや味の少ない穀物などの植物性のエサには強く反応しません。 そこで、そうした匂いや味の少ない植物性のものをエサに使用します。 私の使用している龍王は無味無臭コンセプトの基に 100パーセント植物性のエサですから、ジャミやアメリカナマズをあまり刺激することはありません。 また、拡散性のある粉末を用いず粒エサだけの使用も効果的です。 PVAバッグを用い、米や麦・コーン・大豆といった匂いや味の無い穀物の粒エサを入れ、発泡仕掛けと併せることにより避ける方法も効果的です。 一般的に行われている、魚を寄せる釣り方が足し算の釣りなら、私の釣り方は、【引き算の釣り】とでも云え

るでしょう。

引き算の釣り

今までの釣りは、殆どが獲物を如何に多く引き寄せるか、如何に早く引き寄せるか、如何に長く引き留め

ておくかということに苦心をしていました。そのために、如何に栄養価の高いものや獲物の好む材料を配合

して獲物の関心を引き付けることに重きを置いていました。そのために、非常に匂いの強いものや味の強い

ものを配合して、如何にそれらが獲物の関心を引き付けるかということを力説してきました。すなわち、足

し算の釣りとでも云えましょう。それは、ネリエサのみならずヨーロッパのボイリーでも同じことでした。 しかし、実際の自然環境の中では、野鯉だけでなく(逆に野鯉は少数派)他の魚種も多く棲息し、それらのエサは他の魚種も野鯉以上に引き付ける効果を発揮しました。 そのため、宣伝するほどの効果は中々得られず、多くの釣り人はあれが一番これが一番と十人十色の答えと

なりました。 しかし、逆の発想をすると、意外に紛らわしい答えが少なくなるのが判ると思います。 たとえば、野鯉の好むエサというものでは無く、野鯉の食べることの出来るエサの中から他の魚種やサイズ

の好まないものや食べることの出来ないエサを残して後は入れないという考え方です。 すなわち、強い匂いや味に敏感な小魚や肉食性の魚種の好む材料を配合しないというものです。いわば、引

き算の釣りです。 押してもだめなら引いてみな-という言葉がありますが、発想を転換してみると意外と道は開けるものです。

針掛かりのメカニズムとブッコミ用の針の形状 今まで針の形状について実に色々な議論がされてきましたが、ブッコミ用として必要な針の形上に就いて

指摘するものはありませんでした。 しかし、永年ブッコミ釣りを行ってきた過程で、十数年前にある事に気付かされました。それは、ブッコ

ミ釣りの場合に針が掛かるのは下顎であるということです。 それは、物理的に考えれば至極当然なことなのですが、ウキ釣りでは上顎に掛かるのが普通ですから、別

に深く考えないで上顎に掛かるのが当たり前として長年釣りをしてきました。 針が掛かる原理は針先に力が掛かったときに初めて刺さって針掛かりします。いかにも当たり前のことで

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すが、何故かブッコミ釣りとなると、かなりベテランの釣人でも針を吐き出す時に掛かると考えているもの

も少なくありません。 現在主流の鉤形の針は針先が軸と平行に近く曲がっているため、軸方向に引かれた場合に針が刺さります。

針が固定されている場合は、針先に当たっている部分が反対に引かれた場合に針が刺さるようになります。 アワセをして掛ける場合は前者で、向こうアワセになる場合は後者になります。 そして、この原理を知らないと、ブッコミ釣りでなぜ下顎に針が掛かるのか判りません。 ブッコミ釣りの場合、常にオモリが水底にあるため魚が針を吸い込んだときは、必ず針がオモリより上に位

置することになります。(ただ、急なカケサガリに仕掛けをぶら下げるような形にした場合を除いて) すると、針はオモリに固定されて下向きの力が掛かり、鉤形の特長により針先が下を向いて下顎に掛かり

ます。 これが、ブッコミ釣り仕掛けの針掛かりのメカニズムです。釣り人の中には、それでは鯉を釣り上げた時

に口の横や上顎に掛かっている場合があるのは何故かという疑問を持つものも居るでしょう。しかし、それ

も初めは下顎に掛かったものの掛かりが浅い時に外れ、鯉が反転したときに横に掛かったり、引き合ってい

る途中で外れたものが、竿で上から引かれることにより上顎に掛かったものです。その場合に良く見れば、

下顎に傷跡が残っているのが判るでしょう。 さて、これでブッコミ釣りの場合は針が下顎に掛かるということが理解して頂けたことと思います。 すると、今までの針の形状は基本的に上顎に掛かることを想定して作られているため、幾つか不都合な点

が多いことに気付かされます。 例えば、昔から獲物と引き合う場合には竿を立てろと云われてきましたが、下顎に掛かっている場合は針

先が上を向き唇の内側を引くことになり肉切れを起こす原因となります。 特に、針先がチモトの方向に向いた形状のものほど掛かりが浅くなります。 したがって、肉切れを起こさないためには竿は低く構えたほうが良いのです。立てるのではなく横に寝か

して引き合うほうが良いのです。 更に、針の形状ですが、下顎に深く刺さるためには、今まで常識とされてきた長軸の針先がチモトに向い

たものではなく、懐が広く針先が外側に開いたものが良いと判ります。力の向きのバランスとしては、チモ

トと針先を結んだ角度が 45 度になるのがベストです。また、多くの針は針先が内側にカーブしているものが多いのですが、その場合には下顎の内側を浅く縫うように掛かるため、ストレートもしくは逆に外側にカ

ーブしている方が深く掛かって良いのです。 ハリのヒネリはヒネリを入れることにより 2次元から 3次元となってフトコロが大きくなる役割を持ちま

す。 ただし、ブッコミ釣りでは、ひねられた針先が下を向いた時は掛かり易くなりますが、反対の場合は掛か

りが浅くなります。したがって、一定の効果を得るためにはヒネリは無いほうが良いのです。 さて、今まで針のメカニズムを解説してきたのは何故かというと、針が掛かるのは吸い込まれたときであ

るということを理解してもらえないと、これから説明する仕掛けの利点を理解できないからなのです。 ブッコミ釣りの場合、向こうアワセで針が掛かるのは針が吸い込まれた時であり、その場合、針が固定さ

れていなければなりません。すなわち、針に結んだラインを通してオモリが針を固定します。それは、オモ

リの重量によって決定します。また、針が刺さる力は吸い込む力と固定するオモリの大きさにより変化しま

す。 したがって、針が吸い込まれた時、オモリが利かなければ針は掛かりません。 針は抵抗無く吸い込まれるのが理想ですが、吸い込まれた時はオモリが利いて針が掛かる…これが仕掛けの

理想です。 そのため、ハリスの長さは、そのバランスによって決定します。

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ハリスは短ければ短いほどオモリが利きます。ルアーの場合はハリスが無く、リングで結ばれているくらい

です。 逆に、ハリスが長いほどオモリの利きが悪くなり、針を吸い込みやすくなる。この基本を良く覚えていて

ほしいと思います。 これが、色々なケースで仕掛けを作る場合の基本となるのです。

次に、この発泡仕掛けはレンギョ釣りにも非常に有効です。

レンギョ釣りへの応用

1.ウキ釣り 1―ボタン付き発泡吸込み 1本針仕掛け

一般的なレンギョのウキ釣り仕掛けとは、2本針もしくは 1本針仕掛けと遊動ウキを用い、ハリにマッシュポテトなどの粉末エサを付けて行うのが普通です。 今回、紹介するボタン付き発泡吸込み 1本針仕掛けは、一般の仕掛けと同じように細長い遊動ウキを用い、ハリスの途中にボタンを取り付けそれにエサを付け、ハリには浮力調整の発泡材を付けるだけでエサは付け

ません。すなわち、空ハリ仕掛けとなります。浮力調整の目安は、発泡材の付いたハリがエサの下に垂れ下

がりながらも、水と同じ比重 1に出来るだけ近くなるようにして、エサの周りの水と一緒に吸い込み易くなるようにします。 このエサとハリを離す事により、ジャミが掛かるのを防ぎ尚且つアタリを取り易くしようというものです。 一般的なハリにエサを付ける方式では、エサと一緒にハリを吸い込まれてジャミが掛かる事も少なくあり

ませんが、エサとハリの距離をコントロールする事によりジャミの掛かる事を防ぐことが出来ます。それだ

けでなく、一般の仕掛けではエサが大きい内は中々ハリが吸い込まれずアタリが出ない場合が多いのですが、

空ハリのためエサの大きさに関係なくアタリは何時でも出ます。 また、空ハリ仕掛けのためアタリが大きくはっきりと出るのが特徴です。特にハリが大きくなればなるほ

どアタリも大きく出ます。すなわち、軸の長さが長くなればなるほどテコの原理でアタリが大きくなるわけ

です。一般の仕掛けではツンというアタリをアワセますが、この仕掛けではもう少し大きなズーッというア

タリになります。この仕掛けのツンというアタリは、ジャミがエサを突く場合に多く出るアタリとなります。 したがって、初心者でもアタリが取り易く、風や波でアタリが取り難いときでもアタリが取り易いのが特

徴です。

2.ウキ釣り 2―スパイクオモリ付き発泡吸込み 1本針仕掛け

次に紹介する仕掛けは、ウキ釣りでありながら向こうアワセでレンギョを狙うというものです。 そのため、ボタンの代わりに 15 号程のスパイクオモリを使用し、それにエサを付けます。遊動ウキは、

15 号のオモリとエサを併せた重さを背負えるだけの負荷の玉ウキを使用します。それに適したウキは、磯で良く使われる 20 号負荷の飛ばし浮きが良いでしょう。その場合のウキに出るアタリは、ゆっくり水中に消しこまれる場合と、持ち上がる食い上げの場合の 2種類があります。いずれも、向こうアワセのアタリになりますので、食わせ式の繊細な当たりを取る楽しさには掛けますが、初心者でも簡単に楽し

むことが出来、さらに疲れた時や、流れや風などの条件の悪い時にも効果を発揮します。

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3.ブッコミ釣り 中層を泳ぐレンギョは流れの無い場所では、中々水底を狙うブッコミ釣り仕掛けでは掛かりません。

しかし、ハリを浮かせる事により、ブッコミ釣りでも釣る事ができます。 それが、これから紹介する発泡吸い込み仕掛けを使用した釣り方です。 ブッコミ釣りでレンギョを狙う場合は、下あごが突き出た形状で水底のエサを撮るのが苦手なレンギ

ョでもエサを採り易いようにハリを浮かせるようにします。 ただ、エサから余り多く離れてしまうと掛かる確率が下がりますので 5cm から 10cm 程度に調節します。エサも、バラケ易いマッシュポテトや米ヌカを用いますが、水に浮くフスマを混ぜると更に効果

的です。オモリはハリから離れすぎないようにエサを付ける役割も兼ねてスパイクオモリを使用します。 ブッコミ釣りの利点は、何と言ってもそのカバーするポイントの広さにあります。また、全天候型の

24時間体制で狙うことが出来ます。 そして、これは隠れた利点ですが、水底のエサを採る魚が掛かりにくいので、小型のアメリカナマズ

の大繁殖している利根川水系でもナマズ対策として効果的です。もし、ハクレン以外の魚が掛かった場

合でも吸い込む力の強い大型の場合が多く、野鯉でも掛かればまず大型です。 ただ、流れの無いポイントでは、中層魚であるハクレンは暖期にはあまり下層には寄らないため、3m以上の水深を狙っても余り効果は期待できません。時期とポイントによって使い分ける事が必要です。 また、ブッコミ釣りでは日本では非常に少ないコクレンにも期待が高まります。 大型に成長するコクレンは岸近くにあまり集らないため、遠くのポイントを狙うことの出来るブッコ

ミ釣りは有利だといえます。

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発泡仕掛けとエサ

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発泡吸込み 1本針仕掛け

さて、その後、私がこの仕掛けと非常に良く似た仕掛けをダイワのザ・フィシングという番組で初めて見

たときは少し驚きましたが、しかし、直ぐに納得しました。 それは、同じような仕掛けが全然見知らぬ地域でも行なわれていることは、私の考え方が正しい方向を向い

ているのだと少し安心したのです。 道具や仕掛けというものは、習性を考えれば同じ様なものに辿り着くのは当然です。 例えば、ヨーロッパでボイリーが考案されたときヘアーリグが考え出されたように、日本ではタニシを使

用する仕掛けとして同じようなものが使われました。 また、アタリ報知器についても、鯉釣り以外では殆ど使用されていませんが、形は違えど日本もヨーロッ

パも野鯉釣りでは使用されています。 発泡吸込み仕掛けは、鯉の習性を考えれば当然の帰結と言えるでしょう。 この仕掛けの応用性はまだまだ無限です。 今までの粉末エサだけでなく、ボイリーやペレット、その他のコーンや色々な固形物と PVA等を組み合わせる方法もあります。 是非、皆さんも単なる知識としてだけでなく、実際に試して更に発展させてください。

三次元釣法

さて、2004 年の秋からこの仕掛けを使い始めて既に 6 年目となりました。初めのうちは、単に吸込み仕掛けの針数を 1 本に減らすために用いていたのですが、途中からその可能性の大きさに気付き始めました。単なる吸込み仕掛けの代用というだけでなく、浮力やハリスの長さをコントロールすることにより、釣れる

獲物のサイズをコントロールしたり種類をコントロールできる事に気付いたのです。 しかも、ブッコミ釣りだけでなくウキ釣りにも応用でき、もちろんクワセ式にも応用できます。それまで

の水底だけの 2次元の釣りから 3次元の釣りへと、大きく発展をしたのでした。浮力をコントロールする考え方により、水底から水面まで全ての層における釣り方が一つのシステムとして統合されたことになります。 ハリとエサとの距離をコントロールするという考え方は、ハリをエサから離す場合だけでなく、ハリにエ

サを付ける場合も含まれます。すなわち、クワセエサの場合も含むということです。 そして、この考え方はネリエサの釣り方を追求してきたからこそ生まれた発想なのです。吸込み式という

野鯉の索餌形態に最も適した仕掛けを追及してきたからこそ生まれた発想なのです。そして、それが世界に

対する日本の野鯉釣りの答えです。 私は、以前、野鯉釣りに学習という言葉を導入し、人間のような言葉を持たない野鯉の知能の限界を考え

るシステムとして、ローテーション釣法を発表しました。今回は、それに加えて仕掛けなどの使い方として

この 3次元釣法を考え出しました。このシステムは、吸込み式もクワセ式も全ての釣り方を含み、その可能

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性は無限です。 今までの粉末エサだけでなく、ボイリーやペレット、その他のコーンや色々な固形物と PVA等を組み合わせる方法もあります。PVAと併用すれば、固形エサの吸い込み式も可能です。 ウエイト・コントロール・カーピング・システム(W.C.C.S)は、今までの野鯉釣りを否定するものではなく、それらを包括する総合的なシステムなのです。是非、多くの方に試していただき、可能性を更に広げて戴け

れば幸いです。