グローバルスタンダード最前線 tm forum最新動向orchestration, operations and...

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NTT技術ジャーナル 2015.11 72 グローバルスタンダード最前線 オペレーションの標準化を議論す る TM(TeleManagement)Forum で は,従来のオペレーションシステム づくりに関する検討に加えて, 3 つ の戦略プログラムを推し進めていま す.ここでは,仮想化に向けたオペ レーションとOTT(Over The Top) などとのサービス連携の取り組み, および実証検証を行うCatalystプロ ジェクトやTM Forumの全体動向に ついて紹介します. TM Forum TM(TeleManagement)Forum (1) は1988年にOSI(Open Source Initia- tive)/NM(Network Management) Forumとして設立され,現在950社以 上が加盟し, 9 万人以上の技術者がオ ペレーション分野の業界標準を検討 し,相互接続性の推進を目指していま す.具体的にはオペレーションシステ ムづくりに関する標準(業務プロセス, 情報モデル,アプリケーション)を中 心に,インタフェースを自動生成する 統合フレームワークやオペレーション 分 野 のKPI(Key Performance Indi- cator)/KQI(Key Quality Indica- tor)をまとめたBusiness Metrics ・ オペレーションのベストプラクティス を半年ごとに改版しFrameworxとし て リ リ ー ス し て い ま す. 現 在, Frameworx 15.0がリリースされてお り,2015年12月 にFrameworx 15.5が リリースされる予定となっています. このFrameworxの改版に向けた検討 は,年 2 回行われるTM Forum Ac- tion Weekと呼ばれる実務者による対 面の会議で議論を開始し,定例の電話 会議等でドキュメント化を進めます. Frameworxの仕様について,プロ ジェクトと呼ばれる単位でメンバが議 論しドキュメント作成を行っていま す.従来は,Frameworxを構成する 要素を単位としたプロジェクトが議論 の主体となっていました.近年は後述 するように戦略プログラムに関連する プロジェクトの議論がさかんであり, 各プロジェクトで議論された内容を Frameworxの本体に反映する検討も 並行して行われています. テレコムオペレーションの 標準化 テレコムオペレーションの標準化で は,管理対象となる装置等と企業にお いてどのように業務を進めるか(プロ セス)を結び付けて検討を行っていま す.管理対象として従来のITU-Tの 勧告に準拠した装置だけでなく,近年 ではETSI NFV(European Telecom- munications Standards Institute Net- work Function Virtualization)やONF (Open Network Foundation) で 議 論 されているNFV/SDN(Software De- fine Network)に対応した仮想化技術 でつくられた装置群も議論されている ことから,これらの団体ともリエゾン 関係を構築して進めています.同時に これらの団体ではネットワークを制御 するレベルの管理を検討しているのに 対して,制御だけではない業務として のオペレーションを意識した検討を 行っている中心的な団体としてTM Forumが注目されています. Frameworxと3つの 戦略プログラム ■Frameworxの検討 TM Forumで は 従 来 か らFrame- worxの検討として,以下の観点で検 討を進めてきています. (1) 業務プロセスマップ(eTOM) eTOM(enhanced Telecom Opera- tion Map)は,業務におけるプロセス をフェーズやSID(Shared Informa- tion/Data)のドメインをベースに整 理したものです. (2) 情報モデル(SID) SIDは,システムで管理し流通させ る情報を具体的なデータモデルとして ではなく情報モデルとして体系化した ものです. (3) アプリケーションマップ(TAM) TAM(Telecom Application Map) は,OSS(Operation Support Sys- tem)における機能をeTOMやSIDと の関係を用いて体系化したものです. 業務プロセスについては,FAB (Fulfillment,Assurance,Billing) と呼ばれる運用中の業務だけでなく, Strategy(意思決定)やReadiness(マ イグレーション,調達)などにも注目 が集まっています. インタフェースのトレンドとして,従来 のmTOP(multi-Technology Operations Program) 検 討 の 中 で, MTNM(Multi-Technology Network TM Forum最新動向 ほりうち NTTアクセスサービスシステム研究所

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NTT技術ジャーナル 2015.1172

グローバルスタンダード最前線

オペレーションの標準化を議論するTM(TeleManagement) Forumでは,従来のオペレーションシステムづくりに関する検討に加えて, 3 つの戦略プログラムを推し進めています.ここでは,仮想化に向けたオペレーションとOTT(Over The Top)などとのサービス連携の取り組み,および実証検証を行うCatalystプロジェクトやTM Forumの全体動向について紹介します.

TM Forum

TM(TeleManagement)Forum(1)

は1988年にOSI(Open Source Initia-tive)/NM(Network Management) Forumとして設立され,現在950社以上が加盟し, 9 万人以上の技術者がオペレーション分野の業界標準を検討し,相互接続性の推進を目指しています.具体的にはオペレーションシステムづくりに関する標準(業務プロセス,情報モデル,アプリケーション)を中心に,インタフェースを自動生成する統合フレームワークやオペレーション分野のKPI(Key Performance Indi-cator)/KQI(Key Quality Indica-tor)をまとめたBusiness Metrics ・オペレーションのベストプラクティスを半年ごとに改版しFrameworxとして リ リ ー ス し て い ま す. 現 在,Frameworx 15.0がリリースされており,2015年12月 にFrameworx 15.5がリリースされる予定となっています.このFrameworxの改版に向けた検討

は,年 2 回行われるTM Forum Ac-tion Weekと呼ばれる実務者による対面の会議で議論を開始し,定例の電話会議等でドキュメント化を進めます.

Frameworxの仕様について,プロジェクトと呼ばれる単位でメンバが議論しドキュメント作成を行っています.従来は,Frameworxを構成する要素を単位としたプロジェクトが議論の主体となっていました.近年は後述するように戦略プログラムに関連するプロジェクトの議論がさかんであり,各プロジェクトで議論された内容をFrameworxの本体に反映する検討も並行して行われています.

テレコムオペレーションの 標準化

テレコムオペレーションの標準化では,管理対象となる装置等と企業においてどのように業務を進めるか(プロセス)を結び付けて検討を行っています.管理対象として従来のITU-Tの勧告に準拠した装置だけでなく,近年ではETSI NFV(European Telecom-munications Standards Institute Net-work Function Virtualization)やONF

(Open Network Foundation)で 議 論されているNFV/SDN(Software De-fine Network)に対応した仮想化技術でつくられた装置群も議論されていることから,これらの団体ともリエゾン関係を構築して進めています.同時にこれらの団体ではネットワークを制御するレベルの管理を検討しているのに対して,制御だけではない業務として

のオペレーションを意識した検討を行っている中心的な団体としてTM Forumが注目されています.

Frameworxと3つの 戦略プログラム

■Frameworxの検討TM Forumで は 従 来 か らFrame-

worxの検討として,以下の観点で検討を進めてきています.

(1) 業務プロセスマップ(eTOM)eTOM(enhanced Telecom Opera-

tion Map)は,業務におけるプロセスをフェーズやSID(Shared Informa-tion/Data)のドメインをベースに整理したものです.

(2) 情報モデル(SID)SIDは,システムで管理し流通させ

る情報を具体的なデータモデルとしてではなく情報モデルとして体系化したものです.

(3) アプリケーションマップ(TAM)TAM(Telecom Application Map)

は,OSS(Operation Support Sys-tem)における機能をeTOMやSIDとの関係を用いて体系化したものです.

業務プロセスについては,FAB(Fulfillment,Assurance,Billing)と呼ばれる運用中の業務だけでなく,Strategy(意思決定)やReadiness(マイグレーション,調達)などにも注目が集まっています.

インタフェースのトレンドとして,従来か ら のmTOP(multi-Technology Oper ations Program) 検 討 の 中 で,MTNM(Multi-Technology Network

TM Forum最新動向

堀ほりうち

内 信し ん ご

吾NTTアクセスサービスシステム研究所

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NTT技術ジャーナル 2015.11 73

Man agement)やMTOSI(Multi-Tech-nology Operations System Interface)の検討がなされてきたものが,TIP

(TM Forum Integration Program)検討を通して従来からあるその他のインタフェースを統合する検討が進んできています.これは,背景としてオペレーションシステムのアーキテクチャの変遷とインタフェースに対する考え方の変革があります(図 1 ).具体的には,従来ITU-Tなどでネットワーク装置の機能をプロトコルごとにモデル化していたものを,無線と有線のネットワーク装置のモデルを統一化する検討が進んできています.この流れとして,従来の情報モデルを拡張し,仮想化されたネットワークも含めたモデルの構築が進められています.■戦略プログラム

Frameworxを拡張する方向性の方針として 2 年前からスタートしてい

る 3 つの戦略プログラムがあります.テレコム業界における状況を踏まえて,仮想化の導入やB2B2Xビジネスへの対応が検討されています.具体的には以下の 3 つの戦略プログラムがあります(図 2 ).

(1) Agile & Virtualizedプログラム仮想化におけるオペレーションの検

討やセキュリティの検討が行われています.

(2) Open & Partner Effectivelyプログラム

Open Digital Ecosystemの実現のためにアーキテクチャやIoT(Internet of Things)などサービス連携によるシナリオの検討を行っています.

(3) Customer Centricプログラム顧客体験における評価指標(Met-

rics)を用いたCustomer Experience Managementやその指標の分析に必要なビッグデータ解析の検討を行ってい

ます.

Open & Partner EffectivelyプログラムとDSRA

Open & Partner Effectivelyプログラムでは,テレコム事業者がサービス連携をし,新たな価値創造を迅速に行える仕組みを検討しています.具体的にはB2B2Xビジネスのベストプラクティスに基づいたシナリオの検討,サ ー ビ ス 連 携 の ア ー キ テ ク チ ャ

(DSRA: Digital Service Reference Architecture)の検討(図 3 ),サービス連携のための具体的なREST

(Representational State Transfer)によるAPI(Application Programming Interface)の検討が進められています.DSRAでは,サービスドメインが提供するDigital Serviceと呼ばれるPrivate CloudやPublic Cloud,NaaS

(Network as a Service)を,サービ

図 1  インタフェースに対する考え方の変革

NGOSS(4つのView) Frameworx

APIsTIPmTOPオペレーションシステム間インタフェース

従来からあるインタフェースの統合

【戦略プログラム】■Agile & Virtualized■Open & Partner Effectively■Customer Centric

Fault Management

ServiceManagement

EMS

EMS

MTNM(TNMモデル)

SMS

NMS

EMS

EMS

MTOSI(共通インタフェースの検討)

オペレーションシステム構成の考え方の変遷

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NTT技術ジャーナル 2015.1174

グローバルスタンダード最前線グローバルスタンダード最前線

スAPIカタログに基づいてAPIブローカを使うことにより連携したサービスを顧客に提供することを考えています.

Agile & VirtualizedプログラムとZOOM

Agile & Virtualizedプログラムでは,NFVやSDNによる仮想化された

ネットワークをどのようにオペレーションするのかをZOOM(Zero-touch Orchestration, Operations and Man-agement)プロジェクトで検討を進めています.ZOOMプロジェクトでは,

ID管理

プロファイル管理

分 析

ポリシーベース

ルーティング

構成&アクティベーション

保全&トレーサビリティ

課 金

請 求

カタログライフサイクル

管理&カタログ統一

オンボーディング

図 3  サービス連携のアーキテクチャの検討

チャネル・マーケットプレース・ストア

サービスAPIカタログ アプリケーションカタログ CONSUMPTION

IMPLEMENTATION

EXPOSURE

サービス構成・オーケストレーション管理APIブローカ・プラットフォーム(機能・管理API)

サービスドメイン(PUBLIC CLOUD)

サービスドメイン(IAAS / PAAS)

サービスドメイン(PRIVATE CLOUD)

サービスドメイン(CAAS/NAAS)

ダウンロード・利用開発

サービス開発

Integrated Bus

iness Architecture

IntegrationFramework

図 2   3 つの戦略プログラム

Agile & Virtualized

【スコープ】・仮想化(ZOOM)・APIs

Open & Partner Effectively

【スコープ】・サービス連携(DSRA)・B2B2X

Customer Centric

【スコープ】・QoE管理(Customer  Experience Management)

戦略プログラム

情報フレームワーク (SID)

業務プロセスに必要となる情報のフレームワーク

統合フレームワーク

各フレームワークを統合しサービスを実現するための技術のフレームワーク

業務プロセスのフレームワーク

業務プロセスと情報の流れをまとめたサービス群のフレームワーク

OSSのつくりに関する基盤

アプリケーションフレームワーク(TAM)

ビジネスプロセスフレームワーク(eTOM)

検討結果を反映

Application Framework

Business Process F

ramework Information Framework

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NTT技術ジャーナル 2015.11 75

仮想化によるCAPEX(Capital Ex-penditure)/OPEX(Operation Ex-pense)の削減だけでなく,サービス導入を迅速に行いサービス機会の創出を 目 指 し て い ま す.そ の た め に,OSSのアーキテクチャや管理する情報モデルの議論に加えて,VNF(Vir-tual Network Function)の調達を実現させるための枠組みの検討などを行っています.OSSのアーキテクチャの検討では,ネットワークを制御する部分と業務を支援する部分の境目が従来明確であったところが仮想化技術等により不明確になってきたことへの対応が目指されています.

Customer Centric プログラム

Customer Centricプログラムでは,テレコムサービスを享受する顧客が体感する品質をメトリクスとして顧客満足度を高めるフレームワークを検討しています.顧客のライフサイクルを定義し,各ライフサイクルのフェーズごとに顧客へアクセスするチャネルごとのメトリクスやメトリクスを算出するためのビッグデータ解析のリファレンスアーキテクチャなどが検討されています.

Catalyst プロジェクト

TM Forumは標準としてドキュメント化されたFrameworxの有効性を確認し,ドキュメントのブラッシュアップを進めるためにCatalystプロジェクトを実施しています.Catalystプロジェクトでは,通信事業者(Operator)2 社以上が集まってつくったシナリオに対して,Frameworxの標準を用いた動態を 4 社以上のソフトウェアベンダで作成し検証を行います.この

取り組みは,従来年 2 回開催されていたTMW(TM Forum Management World)の代わりに開催されているTM Forum Live ! やCatalyst InFocusなどのイベントでTM Forumに加盟する企業を中心としたメンバのコメントをもらうことでFrameworxへの反映を目指しています.

2015年 6 月に開催されたTMF Live ! Nice 2015では,20件程度のCatalystが展示されていました.そのうち約半分は仮想化に関連するもので,仮想化の運用に対する関心の高さが表れていました.

全体的な動向

TM Forumは当初テレコムにおけるオペレーションのつくりを中心に検討してきています.オペレーションのレイヤとして,従来ネットワーク管理の議論が多かったところが,現在上位のレイヤの顧客管理やビジネス管理のレイヤの議論もさかんになってきています.TMFの幹部の講演でも,通信事業者のネットワーク管理やサービス管理は標準化を進め共通化していく領域であり,差別化はビジネスのストラテジー領域であるとの発言もありました.Frameworxの中でBusiness Met-ricsなどの議論がこの流れを表しています.

また,最近TM Forumでは,多くのOTT事業者との連携が見込まれるIoTや5Gに向けたオペレーションの検討を始めています.このため,関連する標準化団体と積極的なリエゾン関係の構築を進めています.具体的な取り組みとして,TM Forum主催のTM Fo-rum Action WeekやTM Forum Live!などの会議においても,他標準化団体とのジョイントの会合も開かれてお

り,積極的な連携を推し進めていることが分かります.

今後の展望

NTTグ ル ー プ で は, 仮 想 化 やB2B2Xモデルでのサービス連携による卸サービスの提供をオープンで競争力のあるアーキテクチャやインタフェースによって実現させることを目指しています.そために,TM Forumの 3 つの戦略プログラムのプロジェクト検討の場でアップストリーム活動を行っており,今後Frameworxのドキュメントへの反映を目指します.

また,市中技術の組み合わせによるオペレーションシナリオの実現性の確認を行うために, Catalystプロジェクトへ参画し実証検証も行っていきます.さらに,このCatalystプロジェクトで得られた知見を2015年11月にダラスで開催されるCatalyst InFocus 2015(2)で紹介する予定です.

■参考文献(1) http://www.tmforum.org/(2) http://catalystinfocus.tmforum.org/