サスティナブル住宅が求める 新しい住宅設備2009/10/23  · 1...

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1 サスティナブル住宅が求める 新しい住宅設備 巻頭インタビュー 都市型住宅におけるサスティナブルの実践には、どのような視点が必要なのか。 住む人のライフスタイルに加えて、 気密性、断熱性などの住宅性能や設備の高機能化など総合的な取り組みが問われています。サスティナブル建築に 貢献する住宅設備の可能性について、「 アルミエコハウス 」 や「箱の家」シリーズでサスティナブル住宅の提案を続 けておられる東京大学大学院教授の難波和彦氏に話をお聞きしました。 サスティナブル住宅を、どのよ うに考えたらいいのでしょうか。 「 サスティナブル 」 は、「 持続可能 な 」 と訳されます。「サスティナブル住 宅」とは、地球環境の持続に貢献す るような住宅、すなわち環境負荷の小 さな住宅という意味になります。ですか ら、一般的には、省エネとエネルギー を効率よく使うための高気密・高断熱、 さらに長寿命などの要素が備わった住 宅と考えていいでしょう。 しかし、ここで忘れてはならないのは、 建物本来の問題に加えて、社会問題 としての視点です。日本の住宅が25年 から30年で建て替えられる原因の一つ は、老朽化だけではなく、ライフスタイ ルや法律の改正、住宅様式の変化な どが要因であることが知られています。 つまり、建物本来の寿命が来る前に、 様々な社会的な理由で家としての価値 を失って取り壊されてしまう住宅も多い のです。環境問題をグローバルな視点 で考えれば、大きな無駄を続けているこ とがわかります。サスティナブル住宅は、 省エネ性能に加えて、長い間住み続け られていくためのデザインや仕組みが 必要になります。物理的な耐久性だけ でなく、住む人のライフスタイルや建物 の文化性、地域性までを総合的に考え た視点がサスティナブル住宅には必要 だと言えるのです。 サスティナブルを視点に、都市 型住居を考える際に必要なコンセプト サスティナブル住宅に 必要な総合的な視点 東京大学大学院教授 建築家 難波 和彦 [特集]新しい照明で切り拓く環境デザインの未来 1969年東京大学建築学科卒業 1974年同大学院博士課程修了 1977年株式会社難波和彦+界工作舎主宰 2003年9月より東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授 作品に「箱の家」シリーズなど多数 をご説明ください。 人口が過密な都市で戸建てのサス ティナブル住宅を考えたときに、コンセプ トとなるのは、 ❶ 立体最小限住居 できるだけ空間を小さくする。 ❷ 外に開かれた住居 地域社会に開く。 ❸ 一室空間住居 都市型サスティナブル住宅の プロトタイプをめざす

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Page 1: サスティナブル住宅が求める 新しい住宅設備2009/10/23  · 1 サスティナブル住宅が求める 新しい住宅設備 巻頭インタビュー 都市型住宅におけるサスティナブルの実践には、どのような視点が必要なのか。住む人のライフスタイルに加えて、

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サスティナブル住宅が求める新しい住宅設備

巻頭インタビュー

「 サスティナブル」は、「 持続可能

な」と訳されます。「サスティナブル住

宅」とは、地球環境の持続に貢献す

るような住宅、すなわち環境負荷の小

さな住宅という意味になります。ですか

ら、一般的には、省エネとエネルギー

を効率よく使うための高気密・高断熱、

さらに長寿命などの要素が備わった住

宅と考えていいでしょう。

しかし、ここで忘れてはならないのは、

建物本来の問題に加えて、社会問題

としての視点です。日本の住宅が25年

から30年で建て替えられる原因の一つ

は、老朽化だけではなく、ライフスタイ

ルや法律の改正、住宅様式の変化な

どが要因であることが知られています。

つまり、建物本来の寿命が来る前に、

様々な社会的な理由で家としての価値

を失って取り壊されてしまう住宅も多い

のです。環境問題をグローバルな視点

で考えれば、大きな無駄を続けているこ

とがわかります。サスティナブル住宅は、

省エネ性能に加えて、長い間住み続け

られていくためのデザインや仕組みが

必要になります。物理的な耐久性だけ

でなく、住む人のライフスタイルや建物

の文化性、地域性までを総合的に考え

た視点がサスティナブル住宅には必要

だと言えるのです。

サスティナブル住宅に必要な総合的な視点

人口が過密な都市で戸建てのサス

ティナブル住宅を考えたときに、コンセプ

トとなるのは、

❶ 立体最小限住居

❷ 外に開かれた住居

❸ 一室空間住居

都市型サスティナブル住宅のプロトタイプをめざす

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層[建築学の領域]

様相[建築を見る視点]

プログラム[デザインの条件]

技術[問題解決の手段]

時間[歴史]

サスティナブルデザイン[現代建築のプログラム]

第 1層[材料・構法・構造学]

物理的なモノとして見る

材料・部品構造・構法

生産・運搬組立・施工

メンテナンス耐久性・風化

再利用・リサイクル長寿命化

第 2層[環境工学]

エネルギーの制御装置として見る

環境・気候エネルギー

気候制御装置機械電気設備

設備更新エントロピー

省エネルギーLCA・高性能化

第 3層[計画学]

社会的な機能として見る

用途・目的ビルディングタイプ

平面計画断面計画組織化

機能変化ライフサイクル

コンバージョン生活様式の変化

第 4層[歴史・意匠学]

意味を持った記号として見る

形態・空間表象・記号

様式・幾何学コード操作

街並み・記憶ゲニウス・ロキ

リノベーション保存と再生

巻頭インタビュー

❹ 自然との協調

❺ 構法の標準化

❻ 持続する材料

❼ コストパフォーマンス

―などと考えています。

私が取り組んでいる「箱の家」シリー

ズは、こうした都市型のサスティナブル

住居のプロトタイプをめざして考えられ

たものです。サスティナブルな都市住

宅は、標準化することで初めて敷地・

予算等の制約の中で、省エネ、高性

能な家づくりが可能になります。

コンセプトの3で挙げたように、「 箱

の家 」のプランは、基本が一室空間

です。建物全体は、高気密・高断熱

と通気層による結露対策を施すことに

よって、冬暖かく、夏は涼しくするよう

に設計しています。また日射をコントロー

ルする庇の存在も特徴の一つになりま

す。また、床下に水のバッグを敷き詰

めて蓄熱を暖冷房に利用しています。

空調機は、建物全体の空気循環を考

えて最適な場所に設置し、1台でゆる

やかにまんべんなく暖冷房するようにし

ています。

天井扇もよく使う設備の一つです。

建物の性能がよくても、夏の夜は28度

ぐらいに抑えるのが精いっぱいです。

それでも、風(通風)があれば過ごせ

るので、自然風を取り込む工夫をしま

す。

通風による省エネ効果については、

客観的なデータこそ取っていませんが、

間違いなく快適性は向上しています。

日射や風通しを事前に知っておけば、

建て込んだ住宅地でも、うまく通風を

確保できます。

エネルギーに関する設備計画は、施

主様の好みを優先しますが、オール電

化は、エネルギーのコントロールが容易

であることから推奨しています。「箱の

家」の特徴である一室空間では、IH

の方がキッチンを中心にした間取りにし

やすく、家族団らんの場を設定しやす

いと思います。

エコキュートなどヒートポンプ式の給

一室空間の特性を活かして快適空間をつくる

IHのキッチンを中心に家族団らんの場を設定

■ サスティナブル・デザインのためのマトリクス

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湯は、熱効率と深夜電力利用が評価

できます。ただし、お湯の使用時間や

使用量はライフスタイルや家族構成をよ

く考えて提案しないと、使い勝手にも

影響することになります。

また都市型住宅は多くの場合、面積

に限りがありますから、設備機器は基

本的にコンパクトで設置が簡単であるこ

とが重要になります。

「箱の家」では、一室空間の吹き抜

け部分を照らして、やすらぎの空間を

演出し、必要な部分にはスポットライト

を配置するなど、複数の照明を同一空

間で使っています。照明はメンテナンス

を考えて壁や梁にブラケットを取り付け、

椅子に立って取り替えられるように設定

しています。また、トイレや階段には、

センサ付きの照明を採用しています。

可能であれば、LED照明も積極的

に使いたい照明です。玄関の床に埋

め込んだり、クローゼットや棚などこれま

で付けにくかった場所に、小さいLED

を付けたりすることができるので、これ

から様々な用途に使われていくと思いま

す。最近は施主様から「LED照明を

使いたい」との要望もあります。省エネ、

長寿命、メンテナンスの手間がないとい

うLED照明の特性は、サスティナブル

住宅のコンセプトに最適だと思います。

住宅産業を考えれば、商品の特長

を出すために“差別化”を図るのは当

然です。ただし、それは「目立てばよ

い」ということではないと思います。施

主様の要望を反映させつつ、コストコン

トロールし、控えめなデザインの暮らし

やすい家という選択肢もあります。サス

ティナブル住宅は生活と結びついてこ

そ実現できるという点が重要です。

電気工事会社様など住宅建設に関

わる方には、その土地の歴史・文化を

踏まえ、住む人のライフサイクルを考え

る中で、サスティナブル住宅の提案を

お願いしたいと思います。

サスティナブル住宅に最適なLED照明

住む人の生活に合ったサスティナブル住宅の提案を

■ 風の流れと日射の断面図 ■ 箱の家001

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