デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する革新的治療法の開発...デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する革新的治療法の開発...

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デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する革新的治療法の開発 薬理学講座 堀尾嘉幸 Development of the innovative remedy for Duchenne Muscular Dystropy Yoshiyuki Horio, MD, PhD Department of Pharmacology 連絡先札幌医科大学附属産学・地域連携センター TEL:011‐611‐2111(内線21570) email:[email protected] 概要 summary デュシェンヌ型ジストロフィー(DMD) は治療法のない遺伝性進行性の致死性疾患です。 我々は、タンパク質脱アセチル化酵素SIRT1活性化薬レスベラトロールがDMD骨格筋の筋量増加、線維化抑制、 筋崩壊抑制、筋力と筋持久力増加、心筋線維化抑制と心機能を保つことを見出し、小規模臨床研究でも効果 を得た。レスベラトロールをDMD治療薬として開発する。 Duchenne Muscular Dystrophy (DMD) is the most prevalent lethal X‐linked myopathy, and it is severe. We found that resveratrol, an activator of protein deacetylase SIRT1, ameliorates muscular and cardiac pathophysiology of DMD. Our clinical trial also showed its effectiveness. We are trying to develop resveratrol as a standard remedy for DMD. DMD ってなに? 次第に筋肉や心臓が衰えていく希少遺 伝病であり、治療法がない。3歳ぐらいか ら発症 。 SIRT1ってなに? 長寿遺伝子と呼ばれ、酵母の寿命を延ばす 遺伝子のホモログ。転写調節を行う脱アセ チル化酵素として機能し、酸化ストレスを下 げ細胞の生存を促す。 レスベラトロール (RSV) って なに? 赤ワインなどに含まれるポリフェノール。 SIRT1の強い活性化薬である。 レスベラトロール(RSV)DMD モデル マウス骨格筋への作用 Effects on skeletal muscles 酸化ストレスROS著減 筋肉mRNA量増加 繊維化抑制 レスベラトロール(RSV)DMD モデル マウス心筋への作用 Effects on the heart 心筋肥大の抑制 心筋線維化の抑制 心機能の亢進 Hori et al. J. Pharmacol. Exp. Ther. 338, 784, 2011; Patent No. 5850503

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Page 1: デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する革新的治療法の開発...デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する革新的治療法の開発 薬理学講座堀尾嘉幸

デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する革新的治療法の開発薬理学講座 堀尾嘉幸

Development of the innovative remedy for Duchenne Muscular DystropyYoshiyuki Horio, MD, PhD

Department of Pharmacology

≪連絡先≫ 札幌医科大学附属産学・地域連携センターTEL:011‐611‐2111(内線21570) email:[email protected]

概要 summaryデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD) は治療法のない遺伝性進行性の致死性疾患です。我々は、タンパク質脱アセチル化酵素SIRT1活性化薬レスベラトロールがDMD骨格筋の筋量増加、線維化抑制、

筋崩壊抑制、筋力と筋持久力増加、心筋線維化抑制と心機能を保つことを見出し、小規模臨床研究でも効果を得た。レスベラトロールをDMD治療薬として開発する。Duchenne Muscular Dystrophy (DMD ) is the most prevalent lethal X‐linked myopathy, and it is severe. We found that resveratrol, an activator of protein deacetylase SIRT1, ameliorates muscular and cardiac pathophysiology of DMD. Our clinical trial also showed its effectiveness. We  are trying to develop resveratrol as a standard remedy for DMD.

DMD ってなに?次第に筋肉や心臓が衰えていく希少遺伝病であり、治療法がない。3歳ぐらいから発症 。

SIRT1ってなに?長寿遺伝子と呼ばれ、酵母の寿命を延ばす遺伝子のホモログ。転写調節を行う脱アセチル化酵素として機能し、酸化ストレスを下げ細胞の生存を促す。

レスベラトロール (RSV) ってなに?赤ワインなどに含まれるポリフェノール。SIRT1の強い活性化薬である。

レスベラトロール(RSV)の DMD モデル

マウス骨格筋への作用 Effects on skeletal muscles

酸化ストレスROS著減 筋肉mRNA量増加 繊維化抑制

レスベラトロール(RSV)の DMD モデル

マウス心筋への作用 Effects on the heart

心筋肥大の抑制 心筋線維化の抑制 心機能の亢進

Hori et al. J. Pharmacol. Exp. Ther. 338, 784, 2011; Patent No. 5850503

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レスベラトロール(RSV) はSIRT1を介して効いているの? SIRT1 involved?

レスベラトロール(RSV) の分子作用 Molecular Mechanisms

Kuno et al. J. Biol. Chem. 288, 5963, 2013; Hori & Horio et al. PLoS ONE 8, e73875. 2013; Kobayashi & Horio et al. Int J Mol Med 16, 237, 2005; Timmers et al. Cell Metabol 14, 612, 2011; Rodgers et al. Nature 434, 113, 2005; Brunet et al. Science 303, 2011, 2004

Tanno et al. J. Biol. Chem. 285, 8375, 2010

展望 Future Prospects

(1) 医薬品としてレスベラトロールの化学合成Chemical Synthesis of Resveratrol for Medical Uses

(2)  レスベラトロールの安全性試験Safety Tests    (GLP levels)

(3) 製剤化 Fromulation for Child Patients   (GMP levels)

(4) 臨床試験 Clinical Trials for Duchenne Muscular Dystrophy

(5) レスベラトロール (RSV) 利用の応用Explore Other Possibilities of RSV

レスベラトロール (RSV)は細胞死を抑制Resveratrol (RSV) inhibits cell death

細胞

死cell death

SIRT1がないとレスベラトロールは細胞死を抑制できないResveratrol does not inhibit cell death in the absence of SIRT1

transcription factors

RSV RSV

レスベラトロール(RSV) の利点Advantages of RSV

(1)長い歴史Long history as a health food

(2) 低副作用Mild adverse effects 

(3) 経口Oral administration    

特許情報1. 日本国特許第5850503号

筋ジストロフィーを処置するための組成物

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≪連絡先≫ 札幌医科大学附属産学・地域連携センターTEL:011‐611‐2111(内線21570) email:[email protected]

研究の背景 ~ Background ~

呼吸器疾患における肺マイクロバイオームの役割

Mechanistic insight into the function of the microbiome in lung diseasesAtsushi Saito, MD, PhD, Koji Kuronuma MD, PhD

医化学講座 齋藤 充史、呼吸器・アレルギー内科学講座 黒沼 幸治

特発性肺線維症の予後に肺マイクロバイオームは関与するか?

12ヶ月以内に死亡した患者群では、診断時の多様性が低いほど将来病態が悪化する可能性があることが示唆された。

生存群(n=30)

死亡群(n=4)

悪化群 : (n=8)%FVC低下(n=7) 肺機能検査施行不可能 (n=1)

早期悪化の定義:12ヶ月以内の%FVCの10%以上の低下or呼吸状態不良で肺機能検査施行不可能

①生存群と早期死亡群における比較

②安定群と早期悪化群における比較

非増悪群 : (n=22)

Dickson RP et. al. PLOS Pathogens 2017; e1004923. 

健常肺の細菌群は、不顕性誤嚥などによる流入、繊毛運動などInnate immunityによる流出で、ほぼ一

定に維持されている。炎症や線維化などの肺内環境変化により、特定菌種の増加や多様性に変化が生ずると考えられている。近年、喘息・COPD・肺癌などの呼吸器疾患と肺マイクロバイオームとの関連性が報告されている。

肺におけるマイクロバイオーム~ Microbiome in the Lung ~

これまで健常肺は無菌と信じられており、呼吸器の教科書にもそのように記載がある。近年の分子生物学の進歩により、培養不可能な菌を含め、肺にも多彩な細菌叢が存在することが明らかになってきた。

医化学講座では、肺コレクチン(SP‐A、SP‐D)と細菌とのinteractionなど肺の自然免疫について注力し研究し

てきたことから、肺におけるマイクロバイオームの役割についても着目した。一方で、呼吸器・アレルギー内科学講座では「北海道Study」と呼ばれる特発性肺線維症(IPF)に対する臨床研究で同疾患の疫学を報告したり、

産学連携・医化学講座と共同で同疾患の病勢マーカーとして肺コレクチンを世に送り出してきた。そのため、本学における肺マイクロバイオーム研究の先駆けとしてIPFを選択して検討することとした。

※Shannon diversity index

多様性を示す指標。高いほど多様性が大きく、低いほど多様性が小さい。

※多様性

幅広く性質の異なる群が存在すること。本研究においては菌種の種類・数のバラエティを示す。

本学における特発性肺線維症に対するマイクロバイオーム研究

① 2013年から2015年まで札幌医科大学付属病院を受診され特発性肺線維症と診断された患者様34例を対象とした。

② 診断時検査で得られた気管支肺胞洗浄液から、細菌の16S rDNA遺伝子を抽出し、次世代シークエンサーを用いて解析した。

③ Ion Torrentのデータベースを用いて菌種を同定し、血液生化学・呼吸機能など臨床所見との関連について検討した。

※ ブレオマイシン肺線維化誘導モデルマウスは、ブレオマイシンを持続皮下注することで作製し、線維化期の肺の気管支肺胞

洗浄液から上記と同様の方法で解析した。

参考文献 (Reference); Takahashi Y, Saito A, Chiba H, Kuronuma Ket al. Resp Res 2018,19:34

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Shannon diversity index Simpson diversity index

ρ p-value ρ p-value

vs FVC (L) 0.4280 0.0116 ** 0.3757 0.0286 *

vs %FVC (%) 0.4948 0.0029 ** 0.4154 0.0145 *

vs 6MWD (m) 0.3716 0.0332 * 0.3509 0.0452 *

vs SP-D (ng/ml) -0.4230 0.0127 * -0.4538 0.0070 **

vs LDH (IU/L) -0.3283 0.0580 -0.3471 0.0443 *

・多様性の低下はFVC低下と相関を示す。

・臨床マーカー、生理学的所見とも相関を認める。

結果;

・ブレオマイシン誘導の肺線維化では肺の菌叢は大きく変化する。

・線維性変化で多様性は減少しており、ヒト臨床検体(特発性肺線維症)と同様の傾向を示した。

方法;ブレオマイシン(100mg/kg) or 生

理食塩水を持続皮下注し、線維化期である28日目に気管支肺胞洗浄して、16S rRNAを解析した。

Firmicutesの増加やProteobacteriaの減少に伴う多様性低下が早期死亡や病勢悪化と関連があった。またFVCやSP‐Dなどの臨床所見とも関連が認められた。現在のところ、これらの結果が、

・結果論(線維化の結果→菌叢の変化)・病因病態論(菌叢の変化→線維化の進行)

であるかの結論は得られない。

臨床所見と肺マイクロバイオームにはどのような関連があるか?

①肺コレクチン(SP‐A, SP‐D)は当学で開発された間質性肺炎の病勢を把握する病勢マーカーであるが、特発性肺線維症において肺マイクロバイオームの変化は、このSP‐D値とも相関が認められた。

②菌種とFVCを比較すると特定の菌種において相関関係を認めた。(Firmicutes門・Streptococcaceae科が多く、Proteobacteria門が低いほどFVCは低値)

FVC減少とFirmicutesの相対的割合の増加は相関を示す。

①Diversity index was correlated with the FVC and clinical biomarkers FVC

②Decreased in inverse proportion to the relative abundance of Firmicutes 

ブレオマイシン投与肺線維化マウス〜肺マイクロバイオームの変化

今後の展望 (Future Directions)

呼吸器領域の細菌叢研究はまだ研究段階であるが、炎症性腸疾患の糞便移植の様な臨床応用を目指している。

現在、下記プロジェクトが進行しているが、肺癌、気管支喘息、COPD、サルコイドーシスなど呼吸器疾患全般における解析も検討していく。

謝辞 (Acknowledgement)本研究は、医化学講座、呼吸器・アレルギー内科学講座、フロンティア医学研究所ゲノム医科学部門との共同研究です。

①特発性肺線維症とその他の間質性肺炎における呼吸

器細菌叢についての前向き研究 (IRB承認番号 272‐174)

②間質性肺炎合併肺癌の手術検体を用いた線維化病巣

における局所細菌叢の解析 (IRB承認番号 292‐243)

③重喫煙者における肺マイクロバイオームについての

前向き観察研究 (IRB承認番号 292‐178)

④肺の自然免疫(特に肺サーファクタント蛋白質)の

肺マイクロバイオームに及ぼす影響 (動物実験計画書

18‐020)

主成分分析にて、線維化肺(Bleo)と正常肺(NS)では細菌叢が大きく異なることがわかる。

線維化肺(Bleo)では正常肺(NS)に比較して多

様性が低下する。また、門レベルにおける細菌叢はHumanと類似している。

現在進行中の研究プロジェクト

しかし、IPFの予後や病態の進展に肺マイクロバイオー

ム(特に多様性)が関与している可能性が示され、今後は特定菌種をターゲットとした治療で線維化の進行を抑える、もしくは菌相解析で、急性増悪の起こる可能性の予測やIPFの予後を予測できるようになる可能性は高い。

Conclusions

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長鎖非コードRNAを標的とした口腔扁平上皮癌の診断・治療分子生物学講座 鈴木 拓

Identification a long non-coding RNA as a therapeutic target in oral squamous cell carcinomaHiromu Suzuki MD, PhD

Department of Molecular Biology

≪連絡先≫ 札幌医科大学附属産学・地域連携センターTEL:011‐611‐2111(内線21570) email:[email protected]

背景 Background

口腔扁平上皮癌は予後不良の疾患であり、新たな治療標的や予後予測マーカーの開発が望まれている。近年、長鎖非コードRNA (lncRNA)の癌における役割が注目されているが、一万種類あるとされるlncRNAの大半は機能が明らかにされていない。

我々は扁平上皮癌で発現上昇するlncRNAとしてDLEU1 (deleted in lymphocytic leukemia 1)を見いだした。

0

20

40

60

80

100

DLEU1発

現(%

)

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

0 48 72 96

siCtrl

siDLEU1-1

siDLEU1-2

細胞

増殖

時間

siCtrl

siDLEU1-2siDLEU1-1

0

20

40

60

80

100

遊走

能(%

)

0

20

40

60

80

100

浸潤

能(%

)

DLEU1ノックダウンによる増殖・遊走・浸潤能の抑制

癌細胞増殖の抑制 遊走・浸潤能の抑制

0

10

20

30

40

50

60

G0-G1 S G2-M

siCtrl

siDLEU1-1

siDLEU1-2

% o

fce

lls

siCtrl siDLEU1-2siDLEU1-1

26.1 17.0

16.8

59.9

11.0

57.8

3.46

54.0

12.0

DAPIDAPI DAPI

Ed

U

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

Early phase Late phase

siCtrl

siDLEU1-1

siDLEU1-2

アポ

トー

シス(%

)siCtrl siDLEU1-2siDLEU1-1

2.2677.8

15.86.488.301.88

3.3286.5 3.1174.6

16.83.12

Pro

pid

ium

iod

ide

Annexin V Annexin V Annexin V

細胞周期停止の誘導 アポトーシスの誘導

siRNAによるDLEU1のノックダウンは口腔扁平上皮癌細胞の増殖・遊走・浸潤能を抑制し、細胞周期停止とアポトーシスを誘導した。

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これらの結果から、DLEU1は口腔扁平上皮癌の治療標的および予後予測マーカーとなりうることが示された。

特許情報 特願2018-129450

siDLEU1-2

siCtrl

in vivo腫瘍形成能の抑制

siC

trl

siC

trl

siD

LEU

1-2

siD

LEU

1-2

H&E Ki-67

0.00

0.05

0.10

0.15

siCtrl siDLEU1-2腫

瘍重

量(g)

口腔扁平上皮癌細胞にsiRNAをトランスフェクトし、ヌードマウスに移植した。7日後からsiRNAを4日ごとに局所投与した。その結果、腫瘍形成の抑制効果が認められた。

0

50

100

150

200

250

300

350

0 7 11 15 19 23 27

siCtrl

siDLEU1‐2

腫瘍

容積

(mm³)

DLEU1の下流標的遺伝子

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2HAS3

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2CD44

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

発現

TP63

DLEU1

⊿Np63

HAS3

CD44

?

マイクロアレイ解析の結果、DLEU1ノックダウンによってHAS3、CD44、TP63など癌促進的に働く遺伝子の発現が抑制された。DLEU1がこれらの遺

伝子の転写を活性化することで、腫瘍促進的に働くことが示唆された。

siCont

siDLEU1‐1

siDLEU1‐2

β‐actin

HAS3

p63

CD44

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大腸がん血管内皮および間質を標的とした治療法の開発分子生物学講座 山本英一郎、鈴木 拓

Development of a colorectal cancer therapy by targeting tumor endothelium and stromaEiichiro Yamamoto MD, PhD, Hiromu Suzuki MD, PhD

Department of Molecular Biology

≪連絡先≫ 札幌医科大学附属産学・地域連携センターTEL:011‐611‐2111(内線21570) email:[email protected]

背景 Background

腫瘍血管や腫瘍間質は、がんの増殖・浸潤・転移に重要な役割を担っており、有望な治療標的である。

我々は大腸がん組織から間質と上皮を分離し、RNA‐seq解析を

行い、大腸がん血管内皮および間質で高発現する遺伝子としてAEBP1を同定した。

AEBP1ノックダウンによる血管内皮細胞の増殖・遊走・チューブ形成能の抑制

AEBP1をノックダウンすることで、血管内皮細胞HUVECの増殖・遊走・チューブ形成能が抑制された。

抗EpiCAM抗体

抗CD146抗体CD146陽性細胞(内⽪細胞 etc)

EpiCAM陽性細胞(上⽪細胞)

⼤腸がんおよび正常⼤腸組織

Relative expression

(AEB

P1/ GAPDH)

正常粘膜 大腸がん

CD31 CD146 AEBP1癌

部非

癌部

AEBP1

0.0000

0.0005

0.0010

0.0015

0.0020

0.0025

0.0030

AEB

P1 / GAPDH

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

0 48 72 96h

細胞

増殖

siCONT

siAEBP1_1

siAEBP1_2

0h

24h

siCONT siAEBP1_1 siAEBP1_2

siCONT siAEBP1_1 siAEBP1_2

血管内皮細胞HUVECの増殖の抑制 HUVECの遊走能の抑制

HUVECのチューブ形成能の抑制

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特許情報 特願2018-146981

AEBP1ノックダウンによる腫瘍血管新生の抑制

ヒト大腸がん細胞株DLD1をヌードマウスに移植後、マウスAebp1に対するsiRNAを局所投与した結果、腫瘍形成および血管新生の抑制効果が認められた。

がん繊維芽細胞のAEBP1の機能

AEBP1をノックダウンしたHUVECと、ヒト大腸がん細胞株をヌードマウスに移植した結果、コントロールと比較して微小血管新生の低下が認められた。

がん繊維芽細胞(CAF)のAEBP1は

がん細胞の遊走能を促進することが示された。

これらの結果から、AEBP1は大腸がんの新たな治療標的となりうることが示された。

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胃がんに関わる長鎖非コードRNAを標的とした治療法の開発分子生物学講座 北嶋洋志、鈴木 拓

Identification of a long non-coding RNA as a therapeutic target in gastric cancerHiroshi Kitajima MS, Hiromu Suzuki MD, PhD

Department of Molecular Biology

≪連絡先≫ 札幌医科大学附属産学・地域連携センターTEL:011-611-2111(内線21570) email:[email protected]

背景 Background

胃がんはヘリコバクターピロリ菌感染による慢性胃炎が発生母地となる。近年、長鎖非コードRNA (lncRNA)のがんにおける役割が注目されているが、一万種類あるとされるlncRNAの大半は機能が明らかにされていない。我々は、胃がんおよび慢性胃炎において高発現するlncRNAとしてTM4SF1AS1を同定した。

TM4SF1AS1ノックダウンによる増殖・遊走・浸潤能の抑制

細胞増殖能の抑制 遊走浸潤能の抑制

これらの結果から、TM4SF1AS1のがん遺伝子的機能が示唆された。

TM4SF1AS1ノックダウンによるin vivo腫瘍形成能の抑制

TM4SF1AS1の過剰発現は腫瘍形成を促進し、そのノックダウンは腫瘍形成を抑制する。

GFP

TM4SF1AS1

これらの結果から、TM4SF1AS1を標的とした、胃癌の新たな治療法の可能性が示された。

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特許情報 特願-067701、PCT/JP2019/014028

他のがん細胞におけるTM4SF1AS1の発現

大腸がん細胞株SW620HT29DLD1T84WiDr

肝がん細胞株Huh7HLFHT17Li-7PLC/PRF/5

乳がん細胞株SK-BR-3MDA-MB-231MDA-MB-435S

赤字の細胞株において、TM4SF1AS1ノックダウンによる細胞増殖の抑制が確認された。胃以外の

組織においてもTM4SF1AS1の発現は亢進し、がん遺伝子として機能していることが示唆された。

各胃がんステージの臨床検体におけるTM4SF1AS1の発現

TM4SF1AS1は胃がんの早期から発現上昇することから、early stageでの検出等、胃がんの予防や早期治療の標的となりうる可能性がある。

がん化の進行に伴うTM4SF1AS1の発現亢進が確認された。

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がん幹細胞抗原を標的とした人工抗体の開発病理学第一講座 鳥越 敏彦、塚原 智英

Development of artificial antibody targeting HLA/cancer stem cell antigen-derived peptide complexToshihiko Torigoe MD, PhD, Tomohide Tsukahara MD, PhD

Department of Pathology

≪連絡先≫ 札幌医科大学附属産学・地域連携センターTEL:011‐611‐2111(内線21570) email:[email protected]

背景 Backgroundがん幹細胞は,がんに数%含まれる細胞集団であり,高い増殖能,抗がん剤耐性や転移に

関わるとされる.がんを制圧するためには,がん幹細胞を標的とした治療を確立することが重要である.我々は,がん幹細胞を標的とした免疫療法を開発するために,様々な癌種や肉腫よりがん幹細胞抗原を同定した.

しかし,ペプチド単剤によるがんワクチンによって,腫瘍拒絶に十分ながん抗原特異的CTLを誘導することはしばしば困難である.

そこでT細胞受容体と同様の特異性を持つHLA/がん幹細胞抗原ペプチド複合体に対する抗体の開発に着手した.がん幹細胞抗原にはDNAJB8 (DNAJB8_143ペプチド) とFAM83B (SF9ペプチド) を用いた.

抗原ペプチド

細胞傷害性T細胞

CTL

HLA-A2 4

抗原遺伝子

がん幹細胞

抗原遺伝子

がん幹細胞

CH2 C

H3CH2 C

H3

VL

VH

VL

VH

T細胞受容体

T細胞受容体様抗体

抗原ペプチド

HLA-A2 4

HLA‐A24/がん幹細胞抗原DNAJB8ペプチド複合体に特異的なBi‐specific抗体は,T細胞とDNAJB8ペプチドを会合させ,骨肉腫細胞に対して細胞傷害活性を示した

特許情報 特願2018-189834

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≪連絡先≫ 札幌医科大学附属産学・地域連携センターTEL:011‐611‐2111(内線21570) email:[email protected]

消化管悪性腫瘍における幹細胞関連転写因子に着目した分子診断・標的治療の開発

消化器内科学講座 五十嵐央祥、仲瀬裕志Analysis of stemness-related transcription factor aimed at developing new biomarker and

therapy targeting cancer stem cells for gastrointestinal malignanciesHisayoshi Igarashi, MD, PhD, Hiroshi Nakase, MD, PhD

Department of Gastroenterology and Hepatology

背景 Background

食道癌、胃癌、大腸癌に代表される消化管悪性腫瘍は、全悪性腫瘍のなかで3割程度を

占める。特に大腸癌は発生率・死亡率とも増加の一途をたどっており、より効果的な診断や治療の研究開発が急務となっている。

近年の分子標的治療研究の発展により数々の分子標的治療薬が臨床応用されているが、副作用や薬剤耐性の問題は解決されていない。分子標的治療薬における副作用は、その標的が正常細胞にも発現していることが原因となる。また薬剤耐性の重要な原因の一つとして幹細胞性をもつ癌細胞、いわゆる癌幹細胞の存在が指摘されている。

上記の背景から、正常細胞に発現を認めず、かつ癌の幹細胞性に関与するような分子として、我々は幹細胞関連転写因子であるPRDM14に着目した。

悪性腫瘍におけるPRDM14PRDM14とは

• 転写因子であるPR domain containing (PRDM) familyに属する

• 幹細胞性を高める遺伝子の発現を亢進し、また分化に関わる遺伝子の発現を抑制することで、幹細胞性の維持に重要な役割を果たしている

• 正常ではES細胞や始原生殖細胞にの

み発現し、成人の分化した正常細胞には発現しないと考えられている

• 乳癌を用いた研究で、癌組織においてPRDM14が高発現していることを当科の共同研究チームが初めて報告した

• その後、肺癌や白血病などでPRDM14高発現が報告されている

• 悪性腫瘍におけるPRDM14の機能は明

らかではないが、癌幹細胞性への関与が示唆されている

• しかし消化管悪性腫瘍におけるPRDM14の発現・機能は明らかにされていない

Nakaki F, et al. Trends Biochem 2014 Nishikawa N, et al. Cancer Res 2007Taniguchi  H, et al. Oncotarget 2017

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大腸癌組織におけるPRDM14は予後不良と相関する

今後の展望 Future Prospects• 胃や食道の悪性腫瘍におけるPRDM14発現の解析

• 消化管悪性腫瘍におけるPRDM14の機能の解明

• PRDM14を標的とした新規治療薬の開発

• 血液中のPRDM14測定による悪性腫瘍の発症・再発診断方法の開発

大腸癌細胞におけるPRDM14は薬剤耐性や幹細胞性と関連する

大腸癌組織を用いて複数の方法でPRDM14発現を解析した結果、一部の大腸癌細胞においてPRDM14が発現していることを見出した。また大腸正常組織には発現がみられないことを確認した。さらに免疫染色の結果に基づく群分けによる解析では、PRDM14高発現群は有意に予後不良であった。

PRDM14遺伝子を導入した大腸癌細胞株では、コントロール株と比較して幹細胞性に関連する機能や薬剤耐性が上昇していた。

正常大腸粘膜

癌(先進部)

Immunohistochemical score

100

0

300

200

正常大腸粘膜(N = 300)

大腸腺腫(N = 67)

大腸癌(N = 414)

発現無しNegative

255例

低発現Low

82例

高発現High

77例

Cancer‐specific SurvivalPRDM14 expression is correlated to prognosis of patients with colorectal cancer 

0

20

40

60

80

100

Viable cells 

(%)

***

**

5‐FU SN‐38 oxaliplatinM P M P M P

PRDM14 enhances drug‐resistance or stemness in colon cancer cells

MP

M: mock, P: PRDM14導入株

薬剤耐性試験 スフィア形成試験 ヌードマウスに対する腫瘍形成試験

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心血管・腎・代謝疾患における脂肪酸結合タンパク4 (FABP4)の役割解明循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座 古橋 眞人

Elucidation of role of fatty acid-binding protein 4 (FABP4) in cardiovascular, renal and metabolic diseasesMasato Furuhashi, MD, PhD

Department of Cardiovascular, Renal and Metabolic Medicine

≪連絡先≫ 札幌医科大学附属産学・地域連携センターTEL:011‐611‐2111(内線21570) email:[email protected]

脂肪酸結合タンパク (FABP: Fatty Acid-Binding Protein) は長鎖脂肪酸などの疎水性リガンドと結合する分子量約14-15 kDaの可溶性タンパク質で、これまでに少なくとも9つのアイソフォームが同定されている。このうち、FABP4 (A-FABP/aP2) は脂肪細胞とマクロファージに発現し、欠損マウスの解析からインスリン抵抗性および動脈硬化の形成に重要な役割を果たすことが示されている (Furuhashi M, et al. Nat Rev DrugDiscov 2008)。我々は、骨髄移植や共培養実験からFABP4が脂肪細胞とマクロファージの両者で代謝および炎症反応をつかさどり、インスリン抵抗性および動脈硬化に関連することを見いだした (Furuhashi M, et al.J Clin Invest 2008)。さらに、製薬会社との共同研究でFABP4の特異的阻害薬を開発し、新規カテゴリーの治療薬として糖尿病および動脈硬化を改善させることを明らかにした (Furuhashi M, et al. Nature 2007)。

FABP4はアミノ酸配列上明らかなシグナルペプ

チドを持たないため、非分泌タンパクと考えられていたが、最近我々はFABP4が脂肪分解とともに

非古典的経路を介して脂肪細胞から分泌されることを明らかにし (Mita T, Furuhashi M, et al.Obesity 2015)、in vivoおよびin vitroの検討からFABP4が新規のアディポカインとしてインスリン抵抗性を惹起することを初めて見いだした (CaoH, et al. Cell Metab 2013)。

Furuhashi M & Hotamisligil GS. Nat Rev Drug Discov 7: 489-503, 2008

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臨床的な意義を検討するために、当教室で35年以上継続している端野・壮瞥町研究の血液サンプルを用いて、無治療の健診者を対象として血清FABP1~5濃度を測定したところ、FABP4濃度が最も高値で、インスリン抵抗性の指標であるHOMA-Rと独立して関連すること (Ishimura S, Furuhashi M, et al. PLoS ONE 2013) やFABP4濃度が心エコーで評価した左室拡張能障害と関連することを明らかにした (Fuseya T, Furuhashi M, etal. Cardiovasc Diabetol 2014)。また別の検討から、本態性高血圧患者や高血圧の家族歴のある若年者では対照群に比べてFABP4濃度が有意に高値であること (Ota H, Furuhashi M, et al. Am J Hypertens 2012)、降圧薬である各種アンジオテンシン受容体拮抗薬 (Furuhashi M, et al. Hypertens Res 2015)や糖尿病薬であるDPP-4阻害薬のシタグリプチン (Furuhashi M, et al. J Lipid Res 2015)がFABP4濃度を有意に低下させること、さらにはFABP4濃度が心血管イベントの独立した新規の予後規定因子になる可能性を初めて報告した(Furuhashi M, et al. PLoS ONE 2011)。

最近、FABP4は脂肪細胞やマクロファージのみならず、心臓や腎臓を含めた臓器における末梢の毛細血管

や小静脈の血管内皮細胞に発現することが示された。その生理的意義については、毛細血管レベルでの脂肪酸輸送に関わっていることが示唆されている。通常、動脈の血管内皮細胞にはFABP4の発現は認めないが、興味深いことに細胞老化や血管傷害などにより血管内皮細胞にFABP4が異所性に誘導され、内皮機能障害と関連することが報告された。

現在、尿中FABP1 (L-FABP)排泄量が腎尿細管障害マーカーとして臨床応用されているが、我々はヒト腎組織での検討において、障害された糸球体にFABP1ではなくFABP4が異所性に新規に発現することを初めて見出し、糸球体FABP4発現量が尿蛋白や腎予後に関わることを見いだした (Tanaka M, Furuhashi M, et al.Nephron Clin Pract 2014)。

特許情報1. 特開2017-003529 (2017年1月5日 公開)古橋眞人. 糸球体障害の検査方法 (尿中FABP4)

さらに、端野・壮瞥町研究の尿サンプルを用いた検討から、尿中FABP4排泄量が早期糸球体障害の指標になる可能性を初めて明らかにした (Okazaki Y, Furuhashi M, et al.PLoS ONE 2014)。今後各種腎疾患でのさらなる検討を予定している。

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≪連絡先≫ 札幌医科大学附属産学・地域連携センターTEL:011‐611‐2111(内線21570) email:[email protected]

陰茎海綿体神経電気損傷ラットモデルの勃起障害に対する

骨髄幹細胞移植の有効性泌尿器科学講座 松田 洋平、 舛森 直哉

Intravenous infusion of mesenchymal stem cells reduces erectile dysfunction following cavernous nerve injury in rats

Yohei Matsuda, MD, Naoya Masumori, MD, PhD

Department of Urology

根治的前立腺摘除術後の勃起障害を想定した陰茎海綿体神経電気損傷モデルを用いて

骨髄間葉系幹細胞(MSC)移植の勃起機能に対する有効性を検討した

MSC移植により勃起機能は改善 MSC移植により陰茎海綿体神経は保護された

MSCは神経節・神経損傷部にhoming 骨盤神経節にて神経栄養因子の発現亢進

図1 図2

図3 図4

陰茎海綿体神経電気損傷後のMSC移植により勃起機能・神経細胞は温存された(図1,2)。MSCは移

植後に陰茎海綿体神経や骨盤神経節にhomingし、神経栄養因子の発現亢進に寄与していると考

えられる(図3,4)。MSC移植は前立腺全摘除術後の勃起障害に対する新規治療として期待される。

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ヒト鼻粘膜を用いた機能物質の評価系の確立附属フロンティア医学研究所 細胞科学部門 小島 隆

Establishment of evaluation systems for functional materials in human nasal mucosa

Kojima Takashi, PhD Department of Cell Science, Research Institute for Frontier Medicine

≪連絡先≫ 札幌医科大学附属産学・地域連携センターTEL:011‐611‐2111(内線21570) email:[email protected]

鼻粘膜は気道防御機構の最前線に位置しそのホメオスタシスの維持は重要である

アレルゲンウイルス

1.ヒト鼻粘膜上皮バリアを用いた評価系:ヒト鼻粘膜上皮バリアの維持・亢進作用をもつ機能物質の評価およびその分子メカニズムの解析

2.ヒト鼻粘膜上皮産生TSLP/IL-33を用いた評価系:アレルギー発症に重要な上皮由来アレルギー誘導サイトカインTSLP/IL-33の抑制作用をもつ機能物質の評価および分子メカニズムの解析。

3. p63陽性ヒト鼻粘膜上皮を用いた評価系:ヒト鼻粘膜上皮バリア維持および線毛形成に関与がみられるp63の発現変化を指標とした機能物質の評価

4.ヒト鼻粘膜上皮を用いたウイルス感染症評価系:乳幼児に重篤な症状を起こすRSウイルスなどの感染症モデルの確立および感染抑制作用を持つ機能物質の評価

ヒト鼻粘膜を用いた評価系hTERT導入ヒト鼻粘膜上皮細胞

手術で得られたヒト鼻粘膜から長期および安定維持可能なテロメラーゼ(hTERT)遺伝子導入培養ヒト鼻粘膜上皮細胞系を確立する。呼吸器疾患に密接な関係のある気道上皮バ

リアの低下、アレルギー、ウイルス感染症をターゲットとする機能物質を見出す。転写因子、シグナル伝達経路などを用いて

その機能物質がどのステップで作用しているか分子レベルで明確に機序解明する。

位相差像

SEM像

p63

バリア機能分子

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≪連絡先≫ 札幌医科大学附属産学・地域連携センターTEL:011‐611‐2111(内線21570) email:[email protected]

0

10

20

30

0

10

20

30

0

10

20

30

40

50

HLF(肝癌,p53変異)

Hep3B(肝癌,p53欠失)

DLD1(大腸癌,p53変異)

Sub

G1

(%

)

p53miR-p21

++

+-

-+

--

++

+-

-+

--

p=0.025 p=0.008 p=0.030

++

+-

-+

--

単一アデノウイルス

p21に対するmiRNAとp53の共発現によるアポトーシス増強

0

5

10

15

0 6 12 18 240

5

10

15

20

25

30

0 6 12 18 24

アデノウイルス局所投与

p53/miR-p21共発現アデノウイルスによる治療効果(マウスモデル)

Ad-MOCK/miR-controlAd-p53/miR-controlAd-p53/miR-p21 Ad-MOCK/miR-p21

Day

Tu

mo

r V

olu

me

(D

ay

0=

1)

p=0.004

DLD1(大腸癌)

Day

p=0.015

SW480(大腸癌)

Tu

mo

r V

olu

me

(D

ay

0=1)

Idogawa, et al. Clinical Cancer Research 2009.

p53とそのアポトーシス阻害遺伝子p21を抑制するmiRNAのアデノウイルスによる共発現が癌治療効果を増強する.

日本国特許第5630769号 アポトーシス誘導剤米国特許US8686127 Apoptosis Inducer中国特許ZL 200980121910.2

p53誘導アポトーシス阻害遺伝子の抑制による癌治療附属フロンティア医学研究所 ゲノム医科学部門 井戸川雅史,佐々木泰史,時野隆至

A single adenovirus co-expressing p53 and p21-targeting artificial microRNAs

improves therapeutic outcome in cancer

Masashi Idogawa, MD, PhD, Yasushi Sasaki, MD, PhD, Takashi Tokino, PhD

Dept. of Medical Genome Sciences, Research Institute for Frontier Medicine

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Tfh/Tph免疫バランスによる慢性炎症の病態研究附属フロンティア医学研究所 免疫制御医学部門 亀倉隆太、高木宏美、一宮慎吾

Research of the pathogenesis of chronic inflammation in Tph/Tfh immunological balance Ryuta Kamekura, Hiromi Takaki, Shingo Ichimiya

Department of Human Immunology, Research Institute for Frontier Medicine

≪連絡先≫ 札幌医科大学附属産学・地域連携センターTEL:011‐611‐2111(内線21570) email:[email protected]

濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh細胞 PD-1+CXCR5+)末梢性ヘルパーT細胞(Tph細胞 PD-1+CXCR5-)

AYA世代におけるTfh2/Tfh17細胞の特徴的変容J Hum Genet. 62:81, 2017.

IgG4関連疾患で見出されるPD-1(hi)BCL6(hi)Tfh細胞の特性J Immunol. 199:2624, 2017.

Tfh細胞/Tph細胞生理調節機構

Tfh細胞/Tph細胞免疫病理

効果的ワクチン開発に向けた自然免疫センサーとTfh細胞の研究Mucosal Immunol. 11:107, 2018.

Bob1によるTfh細胞の新たな機能調節機構Eur J Immunol. 46:136, 2016.

臨床検体の解析 マウスモデルの解析

特異的抗体産生を促すTfh細胞と細胞傷害活性を示すTph細胞の基礎・臨床研究

【アレルギー疾患の発症と重症化に関与するTfh細胞とBreg細胞】

Clin Immunol. 158:204, 2015. 2017年度日本アレルギー学会学術大会賞受賞

具体的事例について次頁で紹介

睡眠時無呼吸症候群の肥大扁桃とTfh細胞の機能異常Immunol Lett. 191:23, 2017.

Tph細胞とTfh細胞による慢性炎症の新たな視点Curr Opin Reumatol. 31:9, 2019.

Page 20: デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する革新的治療法の開発...デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する革新的治療法の開発 薬理学講座堀尾嘉幸

構築された理論はスギ花粉症やアトピー性皮膚炎、ダニアレルギーの病態理解・治療にも応用可能

PD-1

CXCR5

ICOS

Quiescent

シラカバ特異的

Tfh

シラカバ花粉症における ICOS+ Tfh 細胞 • 飛散期に増加し、非飛散期には減少 • 症状スコアと相関 • シラカバ特異的 IgE 値と相関

血液 ICOS+ Tfh 細胞はシラカバ花粉症の病態形成に関与し、臨床病態を反映するマーカーとしての可能性をもっている

Allergic inflammation

シラカバIgE

シラカバ花粉

抗原提示細胞

B cell

CXCR5

CXCR5

PD-1

ICOS+++

Activated

シラカバ特異的

Tfh

花粉飛散期

CXCR5

PD-1

ICOS+++

Activated

シラカバ特異的

Tfh

CXCR5

PD-1

ICOS+++

抗原提示細胞

B cell

CXCR5

シラカバ IgE

アレルギー性炎症

シラカバ特異的

Tfh

鼻粘膜 上皮

シラカバ花粉症におけるICOS(+)Tfh細胞の機能的役割

シラカバ花粉症の新規リスク評価法の確立に向けた研究フロー

・ シラ カ バ花粉症( Betv1テト ラ マーによるTCR解析)

Breg 細胞減少( Breg -DOW N) の基礎研究 Tfh2 細胞上昇( Tfh2 -UP) の基礎研究

シラ カ バ花粉症素因のリ スク 評価 シラ カ バ花粉症増悪要因のリ スク 評価

健常者、 発症者の血液T細胞( Tfh2、 ナイ ーブT)

シラ カ バ花粉症の総合的リ スク 評価法の確立

血液リ ンパ球の研究 健常者 アレルギー性鼻炎

( 軽症、 重症) アレ ルギー性鼻炎

( 軽症)

アレ ルギー性鼻炎 ( 重症) Tfh2

細胞 上昇

Breg 細胞 減少

未発症例、 発症例( 治療前後) における 候補分子の検出比較

候補マーカ ーの 有用性の検証

発症( 軽症、 重症) 例( 治療前後) における候補分子の検出比較

データ 解析によるスコ アリ ング( 既存の指標と の比較)

各 年 代 に お け る 検 証

・ フ ローサイ ト メ ト リ ー

・ セルソ ーティ ング

・ ト ラ ンスク リ プト ーム解析

・ シラ カ バ花粉症( Betv1 抗原によ るBCR解析)

・ プロ テオーム解析

・ フ ローサイ ト メ ト リ ー

・ セルソ ーティ ング

・ ト ラ ン スク リ プト ーム解析

・ プロテオーム解析

( 我々の先行研究)

表面抗原、 発現遺伝子を対象と し た広汎な解析

健常者、 発症者の血液B細胞( Breg 、 ナイ ーブB)

表面抗原、 発現遺伝子を対象と し た広汎な解析

候補マーカ ーの 有用性の検証

他アレ ルギー疾患と の関連性

新たな マーカ ー の抽出

特異的 FACSプロフ ァ イ ル

基礎研究へのフ ィ ード バッ ク

新たな マーカ ー の抽出

特異的 FACSプロフ ァ イ ル

基礎研究へのフ ィ ード バッ ク

簡便な評価法の統合

Page 21: デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する革新的治療法の開発...デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する革新的治療法の開発 薬理学講座堀尾嘉幸

IgG4関連疾患(IgG4-RD)の病態形成に

おける新たなCD4+ T細胞サブセット

(Tfh細胞やTph細胞)の研究は、他の

難治性疾患(免疫関連疾患、炎症性疾

患、腫瘍性疾患など)の病態解明や臨

床応用につながる.

Kamekura et al. Curr Opin Rheumatol. 2019.

Kamekura et al. Rheumatol Adv Prac. 2018.

≪連絡先≫ 札幌医科大学附属産学・地域連携センターTEL:011‐611‐2111(内線21570) email:[email protected]

Systemic organ involvement in IgG4-related disease.(Yamamoto M. et al., Nat Rev Rheumatol., 2014)

Kamekura et al. J Immunol. 2017.

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創薬スクリーニング向け小型肝細胞附属フロンティア医学研究所 組織再生学部門 三高俊広

Toshihiro Mitaka, MD, PhDDept. of Tissue Development and Regeneration, Research Institute for Frontier Medicine

≪連絡先≫ 札幌医科大学附属産学・地域連携センターTEL:011‐611‐2111(内線21570) email:[email protected]

Core Benefit 肝臓細胞は取扱いが難しいといわれるが、 小型肝細胞(肝臓前駆細胞)は凍結保存・解凍後

も肝臓細胞の機能を有するため 肝細胞機能解明や薬理試験用途において利用価値が高い。

Background and Technology 現在、劇症肝炎や肝硬変症、肝臓がんなどの重篤な肝臓疾患に対する根治的治療法は肝移

植しかなく、その代替法として肝細胞移植や人工肝臓が期待されている。本研究者らはこれま

でに、肝前駆細胞の一種でコロニー形成能力を有する小型肝細胞(Small hepatocyte)を見出し

ている。

小型肝細胞は、生体肝臓より分離・培養するとクローナルに増殖しコロニーを形成する。コロ

ニーごと冷凍保存することが可能で、解凍後も初代培養時と同様に増殖し、成熟化・組織化し、

培養皿内で小さな肝組織を作ることも可能である。また、成熟化した小型肝細胞はチトクロー

ムP4 50などの薬物代謝酵素を誘導できるばかりではなく、毛細胆管を形成し、胆汁の分泌

が生体内と同様に行われることが確認されている。

一方、これらの小型肝細胞は、増殖するとはいえ、肝細胞の形質を維持したまま継代培養す

ることは困難であった。

<本技術>

本発明は、小型肝細胞の有する肝細胞の機能及び増殖能を維持したまま、より長期に継代

出来る培養技術である。

具体的には、基底膜に含まれる特定成分をコートした培養器で培養することによって、小型

肝細胞が少なくとも5 代は継代可能になる。この小型肝細胞は、肝前駆細胞としての性質が

維持され、胆管系細胞への分化転換などが抑制されている。

小型肝細胞は、凍結可能(発明者の関連特許技術)であるため、本発明によって、より長期

に一定段階まで培養して育てた小型肝細胞を凍結保存し、必要な時に解凍し、培養した細

胞を成熟化させることにより肝細胞として使用することが可能となった。

Patent日本国特許第4998969号

凍結保存可能な小型肝細胞の調製方法、およびその凍結保存方法

特開2017-131194号(2017年8月3日公開)

小型肝細胞の継代培養方法