クリニカルパス導入で在院日数を短縮 地域連携で退院を円滑にし … ·...

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名古屋第一赤十字病院は、総合周 産期母子医療、救命救急、地域中核 災害医療の各センターを備えている。 加えて、地域医療支援病院、地域が ん診療連携拠点病院の指定も受け、 高度急性期病院として、小児から高 齢者まで、あらゆる疾患に対応でき る機能を有している。救急車の受け 入れは年間約7000件で1日当たり20 件ほどになる。病床利用率は約90% と常に満床に近い状態で、救急の患 者さんを受け入れるための病床管理 に腐心している(図1)。 新しい患者さんを受け入れるため には、入院した患者さんをいかに早 く退院させられるかが重要になる。 同院の平均在院日数は12日を切って いる。クリニカルパスの導入により、 術後の処置を見直すなどして、着々 と短縮が図られてきた。 2013年4月に院長に就任した宮田 完志氏は、「入院が長くなれば入院費 は逓減されるが、そうしたことにこだ わらず、患者さんによかれという治療 を追求してきたら、治療期間も短く なった」と、医療の質の追求を強調す る。結果的に、新しい患者さんを受 け入れる余地を生み出すことにもつ 名古屋第一赤十字病院 所在地 名古屋市中村区道下町 3-35 ホームページ http://www.nagoya-1st.jrc.or.jp/ 1937年に設立された名古屋第一赤十字病院は、 高機能の急性期病院として、地域の医療を支えている。 在院日数の短縮と地域連携による後方病床の確保で 数多い救急患者の受け入れを可能にしている。 病床数 852 床  職員数 1587 人  DPC/PDPS 2006 7 月  病院 ルポルタージュ 病床運営のコツ  Case 2 クリニカルパス導入で在院日数を短縮 地域連携で退院を円滑にして新規の入院に対応 0 20 40 60 80 100 DPC西2003 年度 2004 年度 2005 年度 2006 年度 2007 年度 2008 年度 2009 年度 2010 年度 2011 年度 2012 年度 2013 年度 %1 上空から見た病院の全景 ■ 2 バースセンターの自然分娩対応のお産ルーム ■ 3 同プレイルーム ■ 4 緩和ケアセンターのロビー ■ 5 同チャペルのような瞑想室 6 同病室 急性期治療後の患者さんを 連携する医療機関に送る 図1|病床利用率と主な出来事 利用率は90%前後を維持 病棟の建て替えを経験しつつも病床利用率はほぼ一定。この間、在院日数(年平均)は16.5日(2003年度) から11.5日(2013年度)に短縮している(2013年度の値は4月~8月まで)。 1 4 2 5 6 3 06 Excellent Hospital

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Page 1: クリニカルパス導入で在院日数を短縮 地域連携で退院を円滑にし … · て、地域の医療機関と合同で勉強会 を開催している。最も大きな会合は、

 名古屋第一赤十字病院は、総合周

産期母子医療、救命救急、地域中核

災害医療の各センターを備えている。

加えて、地域医療支援病院、地域が

ん診療連携拠点病院の指定も受け、

高度急性期病院として、小児から高

齢者まで、あらゆる疾患に対応でき

る機能を有している。救急車の受け

入れは年間約7000件で1日当たり20

件ほどになる。病床利用率は約90%

と常に満床に近い状態で、救急の患

者さんを受け入れるための病床管理

に腐心している(図1)。

 新しい患者さんを受け入れるため

には、入院した患者さんをいかに早

く退院させられるかが重要になる。

同院の平均在院日数は12日を切って

いる。クリニカルパスの導入により、

術後の処置を見直すなどして、着々

と短縮が図られてきた。

 2013年4月に院長に就任した宮田

完志氏は、「入院が長くなれば入院費

は逓減されるが、そうしたことにこだ

わらず、患者さんによかれという治療

を追求してきたら、治療期間も短く

なった」と、医療の質の追求を強調す

る。結果的に、新しい患者さんを受

け入れる余地を生み出すことにもつ

名古屋第一赤十字病院■ 所在地 名古屋市中村区道下町3-35 ■ ホームページ http://www.nagoya-1st.jrc.or.jp/

1937年に設立された名古屋第一赤十字病院は、高機能の急性期病院として、地域の医療を支えている。在院日数の短縮と地域連携による後方病床の確保で数多い救急患者の受け入れを可能にしている。

■ 病床数 852床 ■ 職員数 1587人 ■ DPC/PDPS 2006年7月 

病院ルポルタージュ 病床運営のコツ  Case2

クリニカルパス導入で在院日数を短縮地域連携で退院を円滑にして新規の入院に対応

0

20

40

60

80

100

救命救急センター開設

東棟など開設

DPC導入

地域医療支援病院の承認

地域中核災害医療センター

に指定

地域がん診療連携拠点病院

に指定

西棟開設

病院情報システム稼働開始

旧病棟解体

バースセンター棟、

緩和ケアセンター竣工

2003年度

2004年度

2005年度

2006年度

2007年度

2008年度

2009年度

2010年度

2011年度

2012年度

2013年度

[%]

■1 上空から見た病院の全景 ■2 バースセンターの自然分娩対応のお産ルーム ■3 同プレイルーム ■4 緩和ケアセンターのロビー ■5 同チャペルのような瞑想室 ■6 同病室

急性期治療後の患者さんを連携する医療機関に送る

図1|病床利用率と主な出来事利用率は90%前後を維持

病棟の建て替えを経験しつつも病床利用率はほぼ一定。この間、在院日数(年平均)は16.5日(2003年度)から11.5日(2013年度)に短縮している(2013年度の値は4月~8月まで)。

1 4

2

5 6

3

06 Excellent Hospital

Page 2: クリニカルパス導入で在院日数を短縮 地域連携で退院を円滑にし … · て、地域の医療機関と合同で勉強会 を開催している。最も大きな会合は、

ながっている。

 急性期の治療を終える患者さんが

不安を抱かず、納得の上で退院でき

る体制づくりも進めてきた。その1つ

が、地域医療連携だ。

 同院では、医科863件、歯科351

件という登録医から、患者さんの紹

介を受けている。同院には5床の開

放型病床が設けられており、地域の

開業医と一貫した治療を行うために

計画的に利用されている。

 退院する患者さんは紹介元の開業

医に戻すのが原則である。ただし、

脳卒中や大腿骨頸部骨折など、地域

連携パスができている疾患では、急

性期治療後の患者さんを近隣の専門

病院に転院させる道筋ができている。

入院直後から、看護師を中心とする

退院支援の専門チームが、患者さん

とその家族に対し、今後の経過につ

いて細かい説明をして、退院につい

て理解を求めている(図2)。

 同院では、広く連携先を開拓し、

“顔の見える連携”につなげる方策とし

て、地域の医療機関と合同で勉強会

を開催している。最も大きな会合は、

1999年 から年1回 開 催されている

「病診連携システム学術セミナー」で

ある。2013年は、「認知症診療」を

テーマに、150人ほどの医師が参加

して開催された。この勉強会では同

院の医師が一方的に話をするのでは

なく、地域の開業医も医師会の取り

組みなどについて講演を行う。同院

のホームページなどでは伝えきれな

い細かい情報が伝わり、参加した開

業医らからは「理解が深まった」などと

好評を博している。

 宮田氏は、「医師同士がお互いの専

門を知っていれば、患者の希望や

ニーズに沿った連携が円滑に進めら

れる」と効用を語る。看護師や臨床

検査技師などコメディカルに対象を

広げた勉強会など、小規模な勉強会

は毎月開催されている。

 DPCによって蓄積された診療情報

のデータは、コンサルタントにその分

析を委ねている。日本赤十字社本社

傘下の92病院との間でベンチマーキ

ングが可能になっているほか、名古

屋市、愛知県といった同じ地域の病

院と比較することもできる。

 「No Margin, No Mission(利益なく

して、果たせる使命なし)」と宮田氏

が語る通り、同院は利益を地域のた

めの設備投資に回している。

 2009年のアメニティーに配慮した

新病棟(西棟)の開設以来、戸外に出

やすい平屋の緩和ケアセンター、助

産師が分娩を行うバースセンターを

オープンした。さらに、最新の強度

変調放射線治療(IMRT)装置などを

備える放射線治療のための施設は

2014年夏の完成を目指して建築中

だ。

 名古屋第一赤十字病院は、救急患

者の受け入れなどで高度急性期病院

としての役割を果たすと同時に、地

域が必要としている医療設備を拡充

させることで、様々な患者さんのニー

ズに応えている。

院長 宮田 完志 氏

対象者へのパス説明

地域連携パス対象評価

退院支援開始

連携病院に受け入れ調整 転院先・転院

予定日決定

診療情報提供書等作成

パスシート作成・完成

患者用パス、日付・サインを確認の上

CDS*取り込み

患者・家族と面談転院先候補選定

連携パス利用予定者であることを通知

患者へ手渡し

必要物品必要書類準備

パスシート完成確認

(電子カルテへCDS*取り込み)

調整依頼(退院支援スクリーニングシートにて) (準備物品、

移送方法を報告)

通知

パス利用者に対し

候補病院打診

候補病院決定

病 棟

退院支援担当者

入院 退院

患者さん優先で退院先を紹介図2|地域連携パスのフローチャート

急性期治療を終えた患者さんを対象に退院支援を開始する。患者さんは退院後の治療方針などの説明を受けて、納得を得た上で連携病院へ転院する。

* CDSは、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に準拠し、電子保存の三原則を担保した保存が行える画像管理システム。検査や手術の同意書なども保存されている。

“顔の見える連携”のため地域の医師たちと勉強会

地域のニーズに合わせ新施設を次々に建設

Excellent Hospital 07