新エネルギー;dme(ジメチルエーテル)はどこま...

27
1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH 3 OCH 3 で表さ れる最小のエーテル化合物である。DMEは, 合成ガスが製造可能な,石炭,バイオマス,製 油所残渣油等,種々の炭素資源から合成可能で あるが,天然ガスから合成するプロセスが最も シンプルで経済性が高い。そのことから,FT Fischer-Tropsch)技術,メタノール合成技術 と並び広義のGTL技術(Gas To Liquid)の一 つとして注目されている。狭義のGTLは,FT 技術のみを指す。広義のGTL技術模式図を図 1に示す。これ以降,GTLは狭義の意味で用 いる。 DMEの物性はLPGに類似する。すなわち, 常温・常圧で気体であるが,常温・6気圧また は常圧・-25℃で容易に液化し,ハンドリング し易くなる。DMEは,現在,主としてスプレ ー噴射剤として,我が国で1万トン/年,世界 でも15万トン/年使われている。最近,DME が注目されている理由は,燃料としての利用可 能性にある。すなわち,DMEが天然ガス等か ら容易・大量・安価に合成できる可能性があ り,且つ,DMEが新規燃料としてポテンシャ ルを有しているからである。 DMEが新規燃料としての有利な点は,易燃 焼性,クリーンな排ガス,LPGに類似した物性 が挙げられる。一般的に,新規な物質を燃料市 場に導入する場合,輸送手段・インフラ・利用 技術に関する問題のハードルが低いことが必要 である。DME は,これらの問題に対して, LPG関連施設や既存のLPG・石油関連利用技術 のマイナーチェンジにより解決が可能であるこ とから,比較的容易に既存のユーザーに浸透で きると考えられている。 本論文は,最初に,DME製造,輸送,供給イ ンフラ,利用の各技術及び問題点について概説 する。次に,DMEのプロジェクト,経済性に付 いて述べ,更に,GTLDMEの相違について論 じ,最後に,DMEの将来を展望する。 2.DME製造技術と問題点 図2に天然ガスを原料としてDMEを製造す 1 石油/天然ガス レビュー’03・9 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこまで有望なのか? 鈴 木 信 市 需要地から離れたところに存在する中小ガス田(ストランデッド・ガス・フィールド)の有 効利用策として,ガス田近傍で天然ガスの主成分であるメタンをジメチルエーテル(DME)に 化学的プロセスで液体化し,改造LPGタンカーで安価に長距離輸送するビジネスモデルが注目 されている。また,エネルギーの需要サイドからも,市況が不安定なLPGの代替物として,或 いは自動車用などの新しいクリーンエネルギーとして,特に我が国や中国などで注目されてき ている。 しかし,DMEの燃焼特性はLPGと微妙に異なり,需要家サイドではLPG燃焼機器がそのまま では使用できないし,ガス田を開発する上流側としてはGTLCNG等の新しい他の天然ガス・ マネタイズ手段と比べて魅力的であるのかどうか明確ではない。このため,セールストーク的 ではないDMEの客観的,かつ他のマネタイズ手段との関係で相対的な商業性評価が重要になっ てくる。 *石油公団石油開発センター天然ガス有効利用技術研究プロ ジェクトチーム調査役:[email protected]

Upload: others

Post on 23-Feb-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

1.DMEが注目される理由

DMEとは,ジメチルエーテル(DimethylEther)のことであり,化学式CH

3OCH

3で表さ

れる最小のエーテル化合物である。DMEは,合成ガスが製造可能な,石炭,バイオマス,製油所残渣油等,種々の炭素資源から合成可能であるが,天然ガスから合成するプロセスが最も

シンプルで経済性が高い。そのことから,FT(Fischer-Tropsch)技術,メタノール合成技術と並び広義のGTL技術(Gas To Liquid)の一つとして注目されている。狭義のGTLは,FT技術のみを指す。広義のGTL技術模式図を図1に示す。これ以降,GTLは狭義の意味で用いる。DMEの物性はLPGに類似する。すなわち,

常温・常圧で気体であるが,常温・6気圧また

は常圧・-25℃で容易に液化し,ハンドリングし易くなる。DMEは,現在,主としてスプレー噴射剤として,我が国で1万トン/年,世界

でも15万トン/年使われている。最近,DME

が注目されている理由は,燃料としての利用可

能性にある。すなわち,DMEが天然ガス等から容易・大量・安価に合成できる可能性があ

り,且つ,DMEが新規燃料としてポテンシャルを有しているからである。DMEが新規燃料としての有利な点は,易燃

焼性,クリーンな排ガス,LPGに類似した物性が挙げられる。一般的に,新規な物質を燃料市場に導入する場合,輸送手段・インフラ・利用技術に関する問題のハードルが低いことが必要

である。DMEは,これらの問題に対して,LPG関連施設や既存のLPG・石油関連利用技術のマイナーチェンジにより解決が可能であることから,比較的容易に既存のユーザーに浸透で

きると考えられている。本論文は,最初に,DME製造,輸送,供給インフラ,利用の各技術及び問題点について概説

する。次に,DMEのプロジェクト,経済性に付いて述べ,更に,GTLとDMEの相違について論じ,最後に,DMEの将来を展望する。

2.DME製造技術と問題点

図2に天然ガスを原料としてDMEを製造す

― 1 ― 石油/天然ガス レビュー’03・9

新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこまで有望なのか?

鈴 木 信 市*

需要地から離れたところに存在する中小ガス田(ストランデッド・ガス・フィールド)の有

効利用策として,ガス田近傍で天然ガスの主成分であるメタンをジメチルエーテル(DME)に化学的プロセスで液体化し,改造LPGタンカーで安価に長距離輸送するビジネスモデルが注目されている。また,エネルギーの需要サイドからも,市況が不安定なLPGの代替物として,或いは自動車用などの新しいクリーンエネルギーとして,特に我が国や中国などで注目されてき

ている。しかし,DMEの燃焼特性はLPGと微妙に異なり,需要家サイドではLPG燃焼機器がそのまま

では使用できないし,ガス田を開発する上流側としてはGTLやCNG等の新しい他の天然ガス・マネタイズ手段と比べて魅力的であるのかどうか明確ではない。このため,セールストーク的

ではないDMEの客観的,かつ他のマネタイズ手段との関係で相対的な商業性評価が重要になってくる。

*石油公団石油開発センター天然ガス有効利用技術研究プロジェクトチーム調査役:[email protected]

Page 2: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

る場合の反応の模式図を示す。DMEを製造する場合,大別して2つの方法

がある。一つは,間接法といって,天然ガスを従来のメタノール合成技術によりメタノールに

転換し,このメタノールを脱水してDMEに転換する方法である。いま一つは,直接法といって,天然ガスを合

成ガス転換して,直接DMEに転換する方法である。直接法は,間接法よりも工程が少なく,間接法の問題点であるメタノール合成の反応制約が緩和できるといわれている。図3に,

DME合成に関係する反応式をまとめる。表1に,間接法と直接法の技術状況をまとめる。間接法は,既存のメタノール合成技術と脱

― 2 ―石油/天然ガス レビュー’03・9

図1 広義GTL 模式図

図2 DME製造 模式図

Page 3: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

水技術との組み合わせ技術であり,ほぼ成熟技

術と言える。現在のDME生産は,この間接法で行われている。一方,更なる大量・安価な

DME製造技術を目指して,直接法が研究されている。間接法の技術提供者には,三菱ガス化

学,東洋エンジニアリング,Lurgi等がある。一方,直接法は研究段階の技術であり,JFE(旧NKK),Topsoe,APCIが技術を開発中である。この中で,JFEは,1997年から釧路にて5トン/日のパイロットプラント実験を行い,2006年の商業プラント稼動開始に焦点を合わせて,

2003年末から100トン/日のより大きなパイロ

ットプラント実験を実施する予定である。図4

に,Topsoe直接法のプロセスフローを示す。

3.DME輸送技術と問題点

DMEの生産地から消費地までDMEを輸送する外航船(オーシャンタンカー)は,DMEとLPGの物性が類似していることから,LPG船に似た仕様の船となると予想される。LPG船には,加圧・低温・加低温の3タイプがあるが,加圧タイプは,5000m3程度の小型船に限られ,4万m3以上の大型船は,低温タ

― 3 ― 石油/天然ガス レビュー’03・9

〔既存合成法〕�

(メタノール合成)�

素反応�

①  CO+2H2→CH3OH+21.7kcal/mol��

②  CO2+3H2→CH3OH+H2O+11.8kcal/mol��

③  CO+H2O→CO2+H2+9.8kcal/mol�

④総括2CO+4H2→2CH3OH+43.4kcal/mol�

(脱水反応)�

⑤  2CH3OH→CH3OCH3+H2O+5.6kcal/mol

〔直接合成法〕�

素反応�

④ メタノール合成法�

  2CO+4H2→2CH3OH +43.4kcal/mol�

⑤ メタノール脱水反応�

  2CH3OH→CH3OCH3+H2O +5.6kcal/mol��

③ 水性ガスシフト反応�

  CO+H2O→CO2+H2 +9.8kcal/mol�

総括反応�

〔直接合成A(④+⑤+③)〕��

3CO+3H2→CH3OCH3+CO2 +58.8kcal/mol�

〔直接合成B(④+⑤)〕�

2CO+4H2→CH3OCH3+H2O +49.0kcal/mol�

図3 DME製造に関係する反応式�

表1 DME製造技術の現状�

�技術完成度�技術提供会社���反応形式�反応式��開発状況�

間接法�完成�三菱ガス化学(日本)�東洋エンジニアリング(日本)�Lurgi(ドイツ)�固定床�CO+2H2→MeOH�2MeOH→DME+H2O�実用化�

�研究開発段階�JFE(日本)���スラリー床�3CO+3H2→�DME+CO2�5トン/D PP�2003年末より�100トン/Dの�PP実験予定�

��APCI(米国)���スラリー床�2CO+4H2→�DME+H2O�4トン/D PP��

直接法��Topsoe�(デンマーク)��固定床�2CO+4H2→�DME+H2O�50kg/D Bench��

注:PP;パイロットプラント�

Page 4: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

イプに限られる。我が国のLPG外航船の標準的大きさは8万m3であるが,大きさは利用される港湾により制限を受ける。現在,DMEの受入はLPG受入基地を利用する,という構想で進んでいる。したがって,DMEの外航船もLPGの外航船と同程度の8万m3・低温タイプとなる。DMEとLPGの物性が類似しているにもかか

わらず,LPG船そのものはDMEを運ぶことはできない。その理由は,技術的問題として,

LPG船で使用されているサブマージポンプがそのままではDMEに利用できないこと,非技術的問題として,DME を輸送するにはIMO(国際海事機関)の承認が必要であること,である。

サブマージポンプの問題は,DMEが有機化合物に対する溶解性を持つため,DMEにより,ポンプに使用されているモータ絶縁材,パッキン等に影響を与えることである。したがって,

DMEを輸送するにはLPG中古船を改造し,LPG/DME兼用船にするか,新造船を作る必要がある。LPG/DME兼用新造船の方がLPG中古船改造より安価であるとの試算も出てい

る。DMEは,後ほど「5. DMEの性状と利用技

術,解決すべき問題点」の項で述べるように,

液体状態での体積当たりの熱量がLPGの8割程度であり,輸送効率が必然的に低くなり・輸送コストは高くなる。輸送効率の向上を目指して,

LPG船と同じ喫水を維持しつつ,より大量のDMEを輸送できるDME船についての検討も行われている。

4.DME供給インフラと問題点

DMEは,LPGの供給インフラを利用することを前提に検討が進められている。我が国のLPG消費量は1883万トン/年@2001であり,そのうち,輸入量は1436万トン/年@2001である。海外で生産・製造されたLPGは,まず一次受入基地で受入られるが,その数は36箇所であり,図5のとおり,その内32箇所は輸入元売会社が所有する基地である。DMEの流通は,LPGの流通を敷衍すれば,図6のDME供給インフラ概念図に示したように,DME製造基地から,外航船,輸入受入基地,内航船,大規模需要家向け(集中型発電所等)パイプライン,二次基地,タンクローリー,充填所,オートスタンド等により構成されると考えられ

る。LPGの供給インフラをDMEに転用する場合,

大きな問題点として次の3つが指摘できる。一

つ目は,DMEはLPGに比べて,単位容積/単位重量あたりの発熱量が低く・且つ液密度が高

いため,LPG施設の転用は設備能力低下・物流コスト増大を招くということである。二つ目は,

DMEがLPGインフラ設備に使用されているゴ

― 4 ―石油/天然ガス レビュー’03・9

図4 DME製造プロセスフロー図(Topsoe)

Page 5: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

― 5 ― 石油/天然ガス レビュー’03・9

基地数及びタンク数は平成11年9月末現在� 資料:「H12年3月LPガス流通関連資料」日本LPガス協会�

��輸入基地�輸入基地(ユーザー)�輸入基地計�生産基地�2次基地�生産+2次基地計�TOTAL�輸入基地�TOTAL

基地数��

32�4�36�37�75�112�148��

プロパン��

2,223�127�2,350�147�81�228�2,578�54%�53%�

ブタン��

1,621�245�1,866�215�48�263�2,129�43%�44%�

冷凍�タンク数�

66�5�71

高圧�タンク数�

60�0�60

冷凍�タンク数�

49�13�62

TOTAL��

3,970�377�4,347�362�130�491�4,838

高圧�タンク数�

60�0�60

冷凍��115�18�133

高圧��120�0�120

単位:Kt��

図5 我が国のLPG1次受入基地

産ガス地�

DME輸入受入�ターミナル�

図6 DME供給インフラ概念図

Page 6: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

ム類・プラスティック類等の有機材料に対して,溶媒作用を持つことである。三つ目は,我

が国では,LPGとDMEでは,利用に際して適用される法規制が異なることである。すなわち,

LPGに対しては高圧ガス保安法液化石油ガス保安規則が適用されることに対して,DME対しては,より厳しい高圧ガス保安法一般高圧ガス

保安規則が適用される。(財)エルピーガス振興センターらは,石油公団の委託事業により,上記の二つ目の問題に

対して,DMEを既存のLPGインフラを活用した場合に問題となるゴム材・シール材への影響を調査した。表2に結果の概要を示す。検討し

た材料の中で,LPG・DME兼用として使用可能性がある材料として抽出されたのは,樹脂で

は,PTFE,PFA,HDPE,PA11,ゴムでは,NBR,HNBR,CR,IIRであった。但し,実際の使用に関しては,材料の置かれる環境,使用条件,要求される仕様が異なるため,上記を参考にして,個別に材料を評価・選定する必要が

ある。

5.DMEの性状と利用技術,解決すべき問題点

DMEの物性値を表3に示す。メタン,プロパン,軽油の物性値と比較する。DMEは,常温・常圧で気体である。常

圧・-25℃,常温・6気圧で,容易に液化する。

液化の条件は,LPGの内のプロパンに近い。液体状態でのDMEの重量当たりの熱量は,

LPGの6割/軽油の7割,体積当たりの熱量は,LPGの8割/軽油の5割である。また,気体状態での体積当たりの熱量は,天然ガスの1.65倍/LPGの6.5割である。同量の熱を発生させるには,軽油・LPGより多くの重量・体積の液体DMEを必要とする。DMEの燃焼速度はメタンの1.5倍速く,自然

発火温度はメタンより280℃低く,非常に燃焼しやすい。従来の天然ガスや軽油を燃料とする

各種燃焼装置をDME用に改造する場合に,燃焼しやすいDMEをうまくコントロールすることがポイントとなる。断熱火炎温度は,メタンと同等であり,燃焼

時のサーマルNOx生成は避けられないと考えられる。また,低粘性・低潤滑性で,燃料ポンプや燃

料噴射装置でのリークや磨耗の問題がある。DMEは液体状態で低体積弾性率であり,圧

力による体積変化が大きい。いわば‘ふわふわした’燃料である。また,温度による体積変化

も大きい。DMEは容易に気化するため,燃焼させる場

合,燃焼室導入後の拡散性は良く・含酸素化合

物であることからすすが生成しないこと,S分がなくサルフェートPM(黒いスス)も発生しないことから,燃焼時におけるPM発生が極め

― 6 ―石油/天然ガス レビュー’03・9

表2 DME及びLPGのゴム材・シール材への影響�

総合評価�(DME,LPG兼用)�

◯~×�◯~×�◯~×�◯~×�△~×�×�

◎~◯�◯~△�◯�

◎~◯�×�

�LPG�◯�◎�

◎~◯�◎~◯�△~×�◎�◎�◎�◎�◎�◯�

ガス透過試験�DME�△~×�◯�

◯~×�◯~×�△~×�◯�◎�◎�◯�◎�

△~×�

�LPG�◎~◯�◯~×�◎~△�◎~◯�△~×�◎~×�◎~◯�◎~△�◎�

◎~◯�◯~△�

材料��CR�IIR�NBR�HNBR�VMQ�FKM�PTFE�PFA�HDPE�PA11�PVC

ガス透過試験�DME�◯~△�◯�

◯~×�◯~×�△�×�

◎~◯�◯~△�◎�

◎~◯�×�

ゴ ム�

樹 脂�

注:◎:適用可能,◯:使用できる可能性あり,△:改善の余地あり,×:限定した使用しかできない�

Page 7: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

て少ないことが期待される。また,セタン価が高く,ディーゼルエンジン燃料に適している。

DMEは,炭化水素燃料ではなく,エーテルであり,有機化合物に対する溶解性が高いため,インフラや利用機器で使われる樹脂やゴムのシ

ール等への侵食性に留意する必要がある。

DME利用を分類すると,図7のように表せる。すなわち,まず,燃料としての利用と燃料

以外の利用に分けられる。DMEの燃料としての利用は,やはり,大別して2つに分かれる。

すなわち,DMEのまま燃焼するか,DMEを改質し・改質ガスを利用するか,である。DME

― 7 ― 石油/天然ガス レビュー’03・9

表3 DMEの物性値�

��沸点 ℃�液密度 ㎏/m3�低位発熱量(液体)�

kcal/kg �低位発熱量(気体)�

kcal/m3��可燃限界濃度 %�自然発火温度 ℃�断熱火炎温度 ℃�燃焼速度 ㎝/s�液の粘性係数�

10-3㎏/ms�セタン価��その他�

プロパン�(C3H8)�-42 �501 �11,050��

21,812��

2.1-9.4 �504 �1,977 �43�0.15��5

メタン�(CH4)�-162��

�11,940���

8,600 ��

5-15�632 �1,963 �37�-��0

軽油��

200~350�831 �10,220��-��

0.5-4.1 �230-250 �2,125 �-�2~4 ��

40-55

DME �(CH3OCH3)-25 �667 �6,870 ��

14,143��

3.4-27 �350 �1,954 �50�0.15��

55-60 ��

溶媒作用�

特 徴��液化しやすい�単位重量あたりの発熱量低い�プロパンの6割,軽油の7割��気体単位体積当たりの発熱量はメタンの1.65倍,プロパンの6.5割�燃えやすい�逆火に留意必要���粘性が低く(無潤滑性,低体積弾性),リーク・磨耗問題がある�セタン価高く,ディーゼル燃料として適する�ゴム・プラスティック類への浸食性あり�適切なシール材選定必要�

燃料電池�

図7 DME利用の分類

Page 8: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

のまま燃料して利用する装置・機器としては,集中型発電のボイラー・タービン,分散型発電のディーゼルエンジン・マイクロガスタービン,自動車用ディーゼルエンジン,家庭用コン

ロ等があり,DMEを改質して利用する装置・機器としては,DMEを改質してSNG化するSNG装置,DMEを改質して水素にして燃料電池用燃料にする燃料電池用燃料改質装置があ

る。上記のように,DMEは,既存の燃料とは,

燃焼性,気液相変化,重量・体積当たりの低い熱量,低潤滑性,低体積弾性率,低粘性,膨潤性等,多くの性質が異なっている。それは,既存の利用機器に対して,メリット及びデメリットをもたらす。表4に,既存燃料に対して異な

ったDMEの性質が既存機器にもたらす効果と対応策をまとめた。

6.石油公団のDME利用技術研究開発

石油公団では,平成13年度から,DME利用技術の研究開発を民間企業等に対する委託研究により実施している。石油公団が支援する

DME利用技術研究開発の実施テーマ,研究実施者,をまとめると表5のとおりである。平成14年度までに,全部で10テーマを実施した・あるいはしている。その内訳は,集中型発電2テーマ,分散型発電2テーマ,ディーゼル

自動車2テーマ,SNG1テーマ,燃料電池2テーマ(平成13年度1年間で終了した1テーマは14年度新たに継続実施されている),設備部材1テーマ,である。ここでは,各々の研究テーマの成果について述べることをせずに,燃焼技術に関して,発電用タービン,ボイラー,ディーゼルエンジン,マイクロガスタービン,ディーゼル自動車,改

― 8 ―石油/天然ガス レビュー’03・9

表4 DMEの性質と利用機器に対する効果・対応策���

燃料クリーン性(S分・アロ

マ分無し) ��

燃料時のクリーン性�

高 燃焼速度�

低 自発火温度�

低 単位体積・重量当り

熱量�

低 潤滑性�

低 体積弾性�

低 沸点�

強 溶媒作用�

低 改質温度�

タービン・ボイラー�

(燃焼機器)�

低PM�

-�

-�

-�

-�

-�

-�

フラッシュパック(逆火)�

対策が必要�

空気混合気の温度制御�

に関する対応が必要�

貯蔵・供給容量増大,燃料�

必要量増大に対する対応�

が必要�

同左�

��

シール材・ゴム材への対�

応必要�

DMEの低温温度制御が�

必要��

高圧噴射系が望ましい�

摺動部の磨耗に対する�

対策が必要�

ディーゼルエンジン・�

ディーゼル自動車�

同左�

高EGR率可能(低NOx)�

燃焼期間が低く,高熱効

率化可能�

低騒音,低振動�

-�

SNG・燃料電池燃料��

前処理工程が省略可能�

-�

-�

-�

-�

-�

-�

-�

-�

効果化・コンパクト化が可

能�

正字:効果���

イタリック:対策

主要な既存燃料(天然ガス・LPG・軽油)に対するDMEの性質�

Page 9: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

― 9 ― 石油/天然ガス レビュー’03・9

表5 石油公団DME利用技術開発 研究テーマ及びプレイヤー����

術�

術�

ラ�

利用技術�

発電�

(集中型

)�

コジェネ�

自動車�

SNG�

燃 料�

電 池�

設 備�

部 材�

研究実施者�

㈱日立製作所�

中部電力�

電源開発㈱�

茨城大学�

三菱重工業㈱�

三菱重工業㈱�

出光興産㈱�

出光ガスアンドライフ㈱�

茨城大学�

ヤンマー㈱�

岩谷産業㈱�

(独)産業技術総合研究所�

岩谷産業㈱�

(独)産業技術総合研究所�

㈱コモテック�

三菱ふそうトラック・バス㈱�

コープ低公害車開発㈱�

(独)産業技術総合研究所�

伊藤忠エネクス㈱�

三菱瓦斯化学㈱�

伊藤忠商事㈱�

JFEホールディングス㈱��

岩谷産業㈱�

日揮㈱�

三菱瓦斯化学㈱�

京葉瓦斯㈱�

大阪ガスエンジニアリング㈱�

伊藤忠商事㈱�

三菱重工業㈱�

出光興産㈱�

出光ガスアンドライフ㈱�

大阪ガス㈱�

三菱瓦斯化学㈱�

日揮㈱�

伊藤忠商事㈱�

úエルビーガス振興センター�

ニチアス㈱�

高圧ガス保安協会�

特別/大型�

大型�

特別�

特別�

特別�

特別�

特別�

大型�

大型�

大型�

大型�

開始年度�

平 成�

13年度�

平 成�

14年度�

平 成�

13年度�

平 成�

13年度�

平 成�

13年度�

平 成�

14年度�

平 成�

13年度�

平 成�

13年度�

平 成

13年度�

平 成

14年度�

平 成

13年度�

実施期間�

2年間�

2年間�

2年間�

2年間�

2年間�

2年間�

2年間�

2年間�

1年間�

2年間�

1年間�

研究テーマ�

燃料グレードDME(ジ

メチルエーテル)高効率

燃焼システム�

��

既設ボイラのDME燃料レ

トロフィット技術の実証�

ディーゼルエンジン及び

マイクロガスタービンへ

のDMEの適用性に関す

る研究開発��

DMEコージェネレーシ

ョンシステム用ディーゼ

ルエンジンの研究開発��

レトロフィット対応

DMEディーゼル自動車

の早期実用化研究開発�

��

中大型DME自動車の実

用化研究開発��

DMEからの都市ガス

(SNG)製造,触媒性能

テスト及び検証,ならび

にプロセスの最適化に関

する研究開発�

分散化電源機器としての

固体高分子型燃料電池の

構成要素に関するDME

適用性に関する研究開発�

DMEを燃料とする小型・

高効率燃料電池用改質シ

ステムの開発�

��

小型で高効率なDME燃

料電池システムの開発��

DME燃料普及のための

LPGインフラ活用に係わ

る設備部材(シール材,

ゴム材等)の研究�

Page 10: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

質技術に関して,SNG製造と燃料電池用燃料製造について,改造ポイントと成果を述べる。

7.各分野の成果

(1)集中型発電

a)タービン図8の通り,LNG発電所をDME発電所に燃

料転換することにより,システムとして改造が必要な部分は,貯蔵・気化設備,圧縮機,燃焼

器である。タービン燃焼器をDME利用とする場合に留意すべき事項は,排出ガス中のNOx低減,DMEのみでなく天然ガスやLPGも燃焼可能なマルチ燃料対応とすることである。研究開発の焦点は,タービン燃焼器の燃焼バーナー

である。20ppm以下という低NOx化とマルチ燃料対

応が同時に達成でき,自然発火温度が低く・燃

焼速度の速いDMEを高効率で燃やすことの出来る燃焼バーナーという観点からは,既存の拡散バーナーや予混合バーナーは使用できない。そこで,これらの要求スペックを満足するバーナーとして,空気と燃料の予混合距離の大幅な短縮が可能である図9のマルチ同軸噴流ノズル

バーナーを開発した。研究は,実圧(14気圧)の半分の圧力での実験が済んだ段階であり,今

後は実圧での実証研究が必要である。

b)ボイラー既存の石油・石炭だきボイラーのDME専

焼・混焼ボイラーへの転換を検討している。改造すべき箇所は,図10の通り,燃料供給設備として燃料供給配管/燃料供給圧力調整弁,

燃焼設備としてバーナーである。燃料供給に関しては,石油・石炭だきボイラーの転換の場合には,気化器が不要である

DMEの液体燃焼が有利である。したがって,DMEの液体供給を前提として,燃料供給配管/燃料供給圧力調整弁を改造・調整する。燃焼に関しては,予測される問題点としては,

混焼時に,ガス燃料であるDMEは,石油・石炭に対して早く燃焼・酸素を消費し,石油・石炭の未燃分が増加する可能性がある。したがっ

て,燃焼性及び排ガスのNOx・CO・煤塵特性の観点から,バーナーを改造・調整する必要が

ある。なお,排ガス中のNOx目標として100ppmに置き,最終的には,脱硝装置で20ppm以下にすることとしている。

(2)分散型発電

a)ディーゼルエンジンDMEはセタン価が高く,ディーゼル燃料に

― 10 ―石油/天然ガス レビュー ’03・9

図8 タービン発電プラントの構成

Page 11: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

適している。含酸素化合物であること等から排

出ガスはスモークレスとなり,PMが大幅に低減する。また,EGR(排出ガス再循環)を強力にかけることによりNOxが低減できる。さらに,エンジンの低騒音化,高価な燃料噴射装置を必

要としない等の多くのメリットを享受できる。DMEは,軽油に比べて,体積当たりの熱量

が小さい・低沸点・低潤滑性・強溶媒作用等の

性質を持つため,このような性質の相違に合わせて,軽油に最適化されているディーゼルエン

ジンを,DME燃料対応に改造を行う必要がある。ディーゼルエンジンのDMEへのレトロフィット改造,すなわち,既存ディーゼルエンジンの燃焼室の改造をせずに燃料供給・噴射系の

みの改造でDMEディーゼルエンジンを造る場合のポイントは,図11のようにDMEを液体状

― 11 ― 石油/天然ガス レビュー ’03・9

図10 DME使用における既存ボイラー発電プラントの改造

図9 DME用同軸噴流クラスターノズル構造バーナー

Page 12: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

― 12 ―石油/天然ガス レビュー ’03・9

【燃焼試験条件】�

・S4S直噴ディーゼル(φ94× 120,43kW/1800rpm)�

・燃料ポンプ dpl=φ 9��

・燃料噴射弁 φ0.26× 4N�

・燃料供給圧力 1.6MPa�

・燃料噴射時期 12°B(軽油),18°B(DME)�

図11 DMEディーゼルエンジンの開発

図12 DMEディーゼル 基本特性の確認

Page 13: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

態に保つための供給圧力の高圧化,軽油と同等の熱量を持った燃料量を燃焼室に供給するため

の燃料噴射弁噴射口径の拡大等である。DME用に調整された43kWディーゼルエンジ

ン燃焼テスト時の排気ガス結果を図12に示す。DME加圧供給で軽油と同等の出力を確保した。また,全運転範囲で無排煙であり,未燃排出物

であるCO,HCとも少なかった。以上から,DMEディーゼルエンジンは,高効率かつクリーンディーゼルエンジンのポテンシャルを有す

ることを確認した。一方,DMEの低潤滑性に起因する噴射系の摺動部の磨耗の問題が,今後

解決すべき課題として認識されている。

b)マイクロガスタービンマイクロガスタービン(MGT)は,図13の

ような構造をもつ天然ガス・石油等を燃料とす

る超小型(発電規模:1kW~200kW程度)のジェットエンジン類似のタービン発電/温水供給(コージェネレーション機器)である。発電

効率は30%程度と言われているが,温水供給も含めた総合熱効率は最大85%と非常に高い。MGTの特徴としては,小容量で比較的高い発電効率を維持できること,シンプルな構成のため部品点数の削減が可能でコスト低減が図れること,定常燃焼のため優れた環境性能を実現できることにある。このため,最近,分散型発電

機器として,注目されている。燃料を従来燃料からDMEに変更する場合に,

変更・改良が必要となる主要部分は燃焼器であ

る。本検討に用いた天然ガス用のMGTの燃焼器の構造は,中心のパイロット部分(拡散燃焼)とそれを取り囲むメイン部分(予混合燃焼)より成っている。このような燃料バーナーにおい

ては,DME燃料による調整の基本は,メイン燃焼に対してパイロット燃焼にどの程度の燃料を供給するか,即ちどの程度のパイロット率を取るかにある。そのため,パイロット率を変化させて,着火特性,燃焼ガス特性(火炎温度,

NOx,COなど)を評価して,最適なパイロット率を把握した。図14に,同一の燃焼器で天然ガスとDMEを用いて,パイロット率を変化させた時の燃焼効率と排ガスNOx濃度を示す。検討の結果,天然ガス用のMGTの燃焼器は,改造なしにDMEをある程度の燃焼効率・低排ガスで燃焼可能なことが判明した。今後は,更なる効率化・低排ガス化のための燃焼器のチュ

ーニングを実施していく必要がある。

(3)ディーゼル自動車ディーゼルエンジンの用途は,上記で述べた定置型(分散型発電電源)と移動型(自動車用エンジン)に大別される。両者におけるエンジン構造は同じであるが,エンジンの要求スペッ

― 13 ― 石油/天然ガス レビュー ’03・9

図13 DMEマイクロガスタービン(MGT)の開発

Page 14: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

クが異なる。すなわち,定置型の分散型発電電源においては,ほぼ一定モードで運転がなされ,そのモードの運転で最大の能力を発揮し,長寿命・ノーメインテナンスであること要求される。これに対して,移動型の自動車用エンジンでは,モードの異なる運転がなされ,そのような各運転モードで十分な能力を発揮することが期待される。また,自動車用のディーゼルエンジンも,定置型と同様に,液状態で燃料室に燃

料を供給することが要求される。石油公団では,小型(分配型燃料供給ポンプ),中大型(列型燃料供給ポンプ)のディーゼル自

動車開発の研究を支援している。DMEディーゼル自動車を開発するには,上記「7.各分野

の成果 (2)分散型発電 a)ディーゼルエンジン」で述べた改造に加え,タンク・燃料供給までのシステム化を含む車全体を纏めることが

必要である。既存の苛載量2トンの小型ディーゼル車両をベースに,エンジン及び燃料タンク・配管など

の燃料供給系統を改造して,図15の通り,DMEディーゼルトラックを試作した。試作車により,産業技術総合研究所の所内で走行テストを実施している。実用化のためには,今後,

エンジン耐久性試験,実車試験が必要である。

(4)SNGDME利用方法の有力な領域である改質によ

― 14 ―石油/天然ガス レビュー ’03・9

図14 MGT高圧燃焼試験:燃焼器特性把握

図15 小型DMEディーゼルトラック 改造箇所�

酸化触媒�ECU

燃料供給系�昇圧ポンプ� 燃料噴射ポンプ�

・シール材変更�・耐圧加工�・燃料循環系追加�燃料タンク�

(ポンプ内蔵)� クーラー�

図15 小型DMEディーゼルトラック  改造箇所

Page 15: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

る利用は,DMEをメタンに改質するSNGとしての利用と水素に改質して燃料電池用燃料としての利用がある。それぞれの場合で,触媒,反応条件が異なる。メタン化の場合の反応条件は,

300~400℃,圧力10~20気圧であり,触媒はNi系触媒等を用いる。水素化の場合の反応条件は,

350~450℃,圧力1~3気圧,触媒は貴金属や銅亜鉛触媒等を用いる。DMEのメタン化及びDMEの水素化の反応を図16に示す。

SNG(Substitute Natural Gas)製造装置とは,LNGが供給できない地域に天然ガスを供給するため,水蒸気改質によりLPGやナフサをメタン(最終的には熱量調整された天然ガス)

に転換する装置である。DMEを原料とするSNG製造装置は次の2点

で有望である。1点目は,DMEは従来の原料であるLPGやナフサよりも低温で改質できることである。2点目は,改質触媒は硫黄に弱く・

― 15 ― 石油/天然ガス レビュー ’03・9

図16.DMEのメタン化及び水素化の反応式��

DME to CH 4総括反応式�

 CH 3OCH

3→ 1.5CH

4+0.5CO

2+29.9kcal/mol(発熱反応)��

素反応式�

 CH 3OCH

3+H

2O→ 4H

2+2CO-49.0kcal/mol(DME改質)律速�

 CO+H 2O→CO

2+H

2+9.8kcal/mol(水性ガスシフト)�

 CO+3H 2→ CH

4+H

2O+49.3kcal/mol(メタン化)�

反応条件:�

 Temp.300~ 400℃, Pressure 10~ 20atm, Catalysts Ni based catalysts, etc. �

DME to H 2総括反応式��

 CH 3OCH

3+ 3H

2O→ 6H

2+2CO

2 -29.3kcal/mol(吸熱反応)�

素反応式�

 CH 3OCH

3+H

2O→ 2CH

3OH-5.8kcal/mol(DME水和)律速��

 CH 3OH+H

2O→ 3H

2+CO

2 -11.7kcal/mol(メタノール分解)��

反応条件:�

 Temp.350~ 450℃, Pressure 1~ 3atm, Catalysts Noble metal, Cu-Zn catalysts

図16 DMEのメタン化及び水素化の反応式

図17 生成ガス組成の実測値と化学平衡組成との比較

Page 16: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

従来のSNG製造装置では脱硫工程が必須であったが,DMEは硫黄分を含まないことから,脱硫工程を省略できる結果,装置の単純化・コスト低減が図れることである。しかしながら,原

料重量ベースのメタン生産効率は,LPG(ブタン)原料の場合に比べて低く,6割程度である。このようなことから,緩和条件で効率的に

DMEをメタン化しうる優れたDME改質触媒の開発が技術開発のポイントとなる。Ni系低温水蒸気改質触媒を用いたDMEの

SNG改質実験結果を図17に示す。どの条件においても,量論的に,1モルのDMEから,1.5モルのメタンと0.5モルのCO

2が生成した。この触

媒を用いて,図18のように,人口10万人規模の都市に都市ガスを供給することのできる生産能

力10万m3/日のDMEからのSNG製造設備のプロセスフローを構築した。DME-SNG製造システムとLPG-SNG製造シス

テムを比較すると,DMEでは,重量当たりのSNG生産効率は低いが,脱硫のための前処理工程不要,改質低温化,原料であるLPGのコスト高等の影響で,DME-SNG製造システムの方が

経済性に有利になる可能性が高い。今後の課題としては,我が国におけるポテンシャルあるユーザーを考えると,人口1~3万人に供給している都市ガス会社が必要とする1

~3万m3/日生産量のSNG製造プラントを検討していく必要があろう。

(5)燃料電池用燃料DME改質燃料電池のうち,固体高分子型(PEFC)は,電解質の取扱が容易でコストダウンのポテンシャルが大きいこと,低温で作動するため瞬時動作が期待できることから,自動車用,家庭用の

小規模分散型電源として期待されている。PEFC用の燃料の水素源として代表的なもの

に,水素とメタノールがある。それぞれ改質により水素を得る。天然ガスを改質する場合には,

700℃という高温が必要である。また,PEFC入口のCO濃度を10ppm以下にするためには,改質の後,CO変性,CO除去の工程を必要とする。その結果,改質システムのコンパクト化が困難である。一方,メタノールを原料とする場

合には,改質温度は200℃と低い。その上触媒

― 16 ―石油/天然ガス レビュー ’03・9

図18 DME-SNG製造システムプロセスフロー

Page 17: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

である銅亜鉛触媒にはCO変性活性があり,最適なCO変性温度と改質温度が同一であることから,改質とCO変性の工程を一体化できる。その結果,改質システムのコンパクト化が容易である。しかしながら,メタノールには毒性の問題がある。このような背景の下,改質システ

ムのコンパクト化の可能性のある水素原料として注目されているのが,毒性の極めて低い

DMEである。開発したDME改質触媒の耐久性を試験した。

触媒は銅亜鉛アルミナ系触媒であり,性能は

1000時間以上安定しており,350℃でDMEをほ

― 17 ― 石油/天然ガス レビュー ’03・9

図20 DME改質燃料電池システム全体プロセスフロー

単位:ミリ�

図19 1kW級燃料電池用改質器・CO除去器 概念図

Page 18: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

ぼ100%の転化率でH2,CO,CO

2に転化できる。

改質・CO変性工程から出てくるCO濃度は3%程度で,次のCO選択酸化により発生する熱は高効率熱除去装置により除去される。1kW級のPEFCの改質システムにおけるDME改質(CO変性)器装置及び高効率熱除去装置の概念図を図19に示す。また,自動車用50kWの改質・選択酸化装置に関しても,極めてコンパクトとなり,オンボード型改質装置の可能性が示

された。図20にDME改質と燃料電池を組み合わせた

全体システムフローを示す。燃料電池は,水素の7~8割程度しか使用できないため,燃料電

池オフガスをDME改質工程の燃料として用いること,CO変性工程の回収熱は水蒸気発生のための熱源として用いること,により熱バラン

スの取れた全体システムフローとなった。

8.計画中のDMEプロジェクト

表6に現在進行中のプロジェクトを纏める。4プロジェクトともすべてわが国の企業が主

導するプロジェクトであり,2006年導入を目指している。生産基地はガス価格が安い中東,あ

るいはガス生産国として,政府がGTLプロジェクト推進に積極的である豪州をターゲットと

している。かつて,メジャーズのBPも,中東のガスを

DME化し,インドの電力向けに供給するプロジェクトを計画し推進していたが,現在は中断

している。また,中国においては,肥料会社が,世界で初めて,国産天然ガスを原料とし,家庭用燃料

市場を対象とした日量30トンの生産能力を持つDMEプラントを2003年の完成・稼動開始を目指して建設している。これは,間接法の製造技

術を用いたDMEプラントであり,東洋エンジニアリング㈱がメタノールを脱水してDMEを製造する工程の技術を供与する。また,中国の他のプロジェクトとして,石炭や炭層メタンを

原料としたDMEプロジェクト計画もある。

9.DMEプロジェクトの経済性

DME燃料の経済性を検討する場合,燃料の最終利用者が燃料選択をするのであるから,最

終利用者の炉前価格でDME価格を競合燃料と比較し検討することが理想的であるが,それは

極めて難しい。したがって,本項では,便宜的に,日本着

CIF価格でのDME価格を推算し,競合する可能性のある各種燃料のCIF価格と比較すること

― 18 ―石油/天然ガス レビュー ’03・9

表6 DME製造プロジェクト�

会 社��日本DMEñ��(2001.6設立)���ディーエムイーイン�ターナショナルñ�(2001.10設立)�������三井物産グループ��住友商事�

構成会社��三菱ガス化学ñ�伊藤忠商事ñ�日揮ñ�三菱重工業ñ�JFEñ�豊田通商ñ�ñ日立製作所�トタルフィナエルフ�丸紅ñ�出光興産ñ�国際石油開発ñ�日本酸素ñ�エル・エヌ・ジー・ジャパンñ�三井物産ñ�東洋エンジニアリングñ�住友商事ñ�

想定場所��豪州 ダンピア����東南アジア,�豪州等��������インドネシア,�イラン�イラン�

状 況��プレFS:�  ~2001.6�フルスケールFS:~2002.6末�FS実施���������FS実施��FS実施�

想定稼動�時期�2006年末�

���

2006年末���������

2006年�

想定規模��4,000~7,000トン/日�(140~240万トン/年)���2,500~4,500トン/日�(80~150万トン/年)��������7,000~8,000トン/日�(240~250万トン/年)�8,000トン/日�(250万トン/年)�

Page 19: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

により,DMEの経済性を論じることとする。

(1)プラント側費用算出の前提条件

a)想定DME製造プラントDME製造プラントには,前述のように,間接法,直接法それぞれ種々のプロセスが存在する。

本検討では,DME製造プラントとしては,直接法Topsoeプロセスを採用することとする。その理由は,Topsoeは,大型化合成ガス製造技術を既に確立しているといわれているためである。

b)プラント生産量5000トン/日をベースケース生産量とした。Topsoeプロセスは1系列最大で7000トン/日

生産量といわれる。そこで,スケールアップ,

スケールダウンケースとして,7000トン/日と2000トン/日を検討する。スケールアップ・ダウンに際してのプラントコストは,基本的に1

系列に納まる規模のため,0.65乗則を用いて検討した。

(2)プラント側費用5000トン/日のDME製造プラントのオンサ

イトコストは,377百万ドル,オフサイト・ユーティリティー・コンティンジェンシー等を含

むプラントコスト全体で536百万ドルとなった。また,この時の操業費は37百万ドル/年となった。

(3)経済計算前提条件及び結果を纏めて,表7に示す。

a)計算方法天然ガス価格等を所与として,税引き後ROI

が10%となるための製品価格(FOB価格)を算出した。さらに,FOB製品価格から,生産地から日本までの輸送費を足して,日本着CIF製品価格を算出した。DMEの輸送は,東南アジア-日本5000kmを,冷凍・常圧のDMEを6万DWT規模の専用新造船で行うものとして,輸送費0.42ドル/MMBTUとした。その他の前提

― 19 ― 石油/天然ガス レビュー ’03・9

表7 DME製造技術の経済性�

前提条件(共通)�DCF法�ROI=10%(税引き後)�立地:東南アジア�自己資本比率:100%�減価償却:10年均等�所得税:35%�インフレ率:0%�海上輸送費(5000㎞):DME:0.42ドル/MMBTU,GTL0.39ドル/MMBTU�

前提条件(ケース別)��

�ガス価(ドル/MMBTU)�プラント�  生産量(B/D)�  生産量(トン/D)�必要ガス量(MMCFD)�初期投資額(百万ドル)�  プラントコスト�  オーナーズコスト�  初期運転資金�操業費(百万ドル/年)�

結 果�FOB価格(ドル/トン)�  (ドル/MMBTU)�CIF価格(ドル/トン)�  (ドル/MMBTU)�

����������基準ケース��

0.5���

5,000�207�586�536�34�16�37��

96.9�3.24�109.4�3.66

���������

DME�高ガス価�ケース�

1.0 ���←�←�←�←�←�←�←�

��119.0�3.98�131.6�4.40

���������

GTL�基準ケース���

0.5��

�19,000���

159��582��537��29��18��29����

4.40���

4.79

����������スケール�ダウンケース�

�0.5�� �

�2,000��83��325��292��26��6��21���

119.6��4.00��132.2��4.42

����������スケール�アップケース�

�0.5���

7,000�290�732�671�39�22�46���

90.9�3.04�103.5�3.46

Page 20: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

条件は,表7の通りである。また,プラント規

模と原料ガス価を変えた場合のDME価格も検討した。

b)結果ア.熱効率DME5000トン/日を生産するのに必要な天

然ガス量は207MMCFDとなった。検討したDMEプラントの冷ガス効率は63%となる。イ.DME価格天然ガス価格0.5ドル/MMBTUの場合の

DME価格(CIF)は,表7のとおり,3.66ドル/MMBTUとなった。プラント規模及び天然ガス価格を変化させた場合のDME価格(CIF)を図21に示す。また,1998年5月から2003年4月までの5年間の原油,LNG,LPGの日本着CIF価格の平均値を併せて図21に示す。

さらに,製品価格構成として,ガス価,プラン

ト費用,操業費,輸送費の割合を図22に示す。

(4)分析・評価ベースケース(生産量5000トン/D,ガス価

0.5ドル/MMBTU)のDMEのCIF価格は3.66ドル/MMBTUである。これは,ここ5年間(1998年5月~2003年4月)の日本着CIFの原油(3.66ドル/MMBTU),軽油(5.05ドル/MMBTU),LNG(3.72ドル/MMBTU),LPG(5.29ドル/MMBTU)の価格と比較して,原油,LNGとほぼ同等,軽油より28%,LPGより30%安い。この5年間の日本着CIF原油価格をドル/bbl で表せば,21.34ドル/bblである。DME原料の天然ガス価,DME製造プラント

規模を変化させた場合のDME価格と競合燃料価格(5年平均)を比較すると,次の通りとな

― 20 ―石油/天然ガス レビュー ’03・9

図21 DME価格(CIF)の感度

($/MMBTU)�

ガス価格�(ドル/MMBTU)�

ベースケース�スケールダウン�スケールアップ�

図22 DME価格(CIF) コスト構成

注:原油,軽油,LNG,LPG価格:日本着工年間(1998.5~2003.4)平均CIF価格

Page 21: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

る。DMEは,LPG及び軽油に対しては,検討したプラント規模2,000~7,000トン/D@ガス価0.5ドル/MMBTU,ガス価0.5~1.5ドル/MMBTU @プラント規模5,000トン/D の範囲においては,競争力がある。LNGに対しては,ガス価が0.5ドル/MMBTUの場合,生産規模5,000トン/D程度以上のプラントで,プラント規模5,000トン/Dの場合,ガス価が0.5ドル/MMBTU程度以下のガス価で,競争力がある。すなわち,概して言えば,DMEは,原料ガス価が1.5ドル/MMBTU以下であれば,標準の燃料規模のプラントで,軽油・LPGに対して経済性で有利となる可能性があり,LNGに対しては,スケールアップした大規模プラントでガ

ス価0.5ドル/MMBTUという安い価格であれば,競争力を持つ可能性がある。但し,LNG価格との比較に関して言えば,

最近の日本輸入LNG価格は,LNG市場におけるスポット・短期市場の拡大,強い買い手市場,

中国広東LNGの低価格での契約締結等の影響から,従来のLNG価格(CIF)の輸入原油価格熱量等価という公式が見直されていく動きもあ

り,今後10年間という中期的なスパンの中でも,LNG価格が他のエネルギー価格に対して従来と同様な動きを示すとは限らない。

DME価格のコスト構成に関しては,次の通りである。DMEのCIF価格に対する天然ガス費,プラント関係費用(CAPEX及びOPEX),輸送費の割合に関しては,ガス価が0.5ドル/MMBTUの場合,プラント規模2,000~7,000トン/Dでは,概ねそれぞれ2割,7割,1割程度である。ガス価が0.5ドル/MMBTUから1.5ドル/MMBTUに上昇すると,天然ガス費の割合が4割まで上昇する。当然のことであるが,ガス価が0.5ドル/MMBTUと低い場合にはプラント関係費用の削減が,ガス価が1.5ドル/MMBTUと高い場合には熱効率の向上が,DME価格に大きな影響を与える。

10.GTLとDMEの相違

GTLとDMEの相違を表8にまとめた。全体を概観すると次の通りである。すなわち,製造技術及び製造製品から見ると,

GTLに比べてDMEの方が,プロセスが単純で・熱効率が高く・製造製品コストが安価で・

単品ができることから,DMEの方がより優れている,と言えるであろう。しかしながら,

DMEの問題は,製造技術ではなくて,輸送・供給インフラと利用技術,更に製品の市場性に

― 21 ― 石油/天然ガス レビュー ’03・9

表8 GTLとDMEの特徴比較�

比較対照�製造技術    プロセス�(比較評価)�        熱効率�        製品製造価格�製品�輸送・供給インフラ�利用技術�排ガスクリーン性(比較評価)�市場性 対象市場�

�1次受入基地から対象ユーザーまでの距離の許容度�社会システムの構築・認知�主要な需要決定要素���地域�競合市場分野�

Take or Pay付長期売買契約の必要性(プロジェクト)�

GTL�複雑(合成ガス-GTL合成-水素化分解-蒸留)�非効率的 6割�高い(FOB価格 $4.40/MMBTU)�連産品(ナフサ,灯油,軽油)�既存(同等の石油製品のものを利用)�既存(同等の石油製品のものを利用)�Soot有り PM多い�開拓不要(但し,プレミアム無しの場合)�各GTL製品は同等の石油製品の市場�比較的長距離��問題少ない�石油製品価格(製油所技術及び環境規制)���先進国�ディーゼルエンジン燃料�必ずしも必要無し�

DME�単純(合成ガス-DME合成-蒸留)��効率的 7割�安い(FOB価格 $3.24/MMBTU)�単品(DME)�新設必要(LPGのものの改良)�新規開発必要(既存利用技術のレトロフィット)�Soot無し PM少ない�開拓必要�DMEの有望なユーザーは未知�比較的短距離��問題多い�インフラ・市場開拓�石油製品価格,LPG価格,LNG価格等は2次的要素�アジア地域�ディーゼルエンジン燃料��必要��

Page 22: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

ある。DMEはGTLと異なり,全くの新規エネルギ

ーであり,市場が存在しない。従って,DMEをエネルギーとして使うという社会的認知の下,市場を創出するとともに,インフラ・利用技術を開発していかなければならない。言い換

えれば,DMEの将来需要は,DMEをエネルギーとして使うという社会システムの構築及び認知という,経済性よりも根本的な問題に大きく

左右される。以下に,表の項目毎に,GTLとDMEの相違

を見ていく。

(1)製造技術GTLプロセスは,合成ガス製造-GTL合

成-水素化分解-蒸留という4工程を必要とす

ることに対して,直接法DMEプロセスは,合成ガス製造-DME合成-蒸留という3工程ですむ。DMEプロセスが単純であることに対して,GTLプロセスは複雑である。現実のプロセスの熱効率を比較すると,

GTLプロセスが6割程度であることに対して,DMEプロセスは7割程度と高い。このように,DMEプロセスの方がGTLプロセスよりも熱効率が高い要因は,表9に示したように,反応の本質的な熱効率の相違と,プロセスから来るエネルギー損失・目的生成物損失の合わせた結果

である。すなわち,GTLプロセスの本質的な熱効率は76%程度であり・C

5+以下の副生成物

により製品収率(炭素効率)が低下する結果,プロセス全体の熱効率が大幅に低下することに

対して,DMEプロセスの本質的な熱効率は82%程度であり・副生成物のメタノール生成は

少なく製品収率(炭素効率)があまり低下しないため,プロセス全体の熱効率はあまり低下し

ない。製品製造価格に関しては,先に示した「9.

DMEプロジェクトの経済性」に記したように,ベースケースにおける生成物熱量当たりの

FOB価格は,GTLが4.40ドル/MMBTUに対して,DMEは3.24ドル/MMBTUであり,製品製造価格は,DMEの方がGTLよりもかなり安くなる。

(2)製品プロセスからの製造製品に関しては,GTLプロセスでは単品はできず・必ず連産品となるの

に対して,DMEではDME単品が生産可能である。GTLプロセスでは,ナフサ・灯油・軽油という連産品の得率をある程度調整することは可能であるが,目的生成物以外の生成物が必ずできるため,それらの製品の販売も可能にする必要がある。また,これらのそれぞれの連産品は,炭素鎖の異なる炭化水素の混合物である。一方,

DMEプロセスでは,DMEという単独の物質をほぼ100%含む単品の生産が可能であることから,販売戦略は比較的立てやすいと言える。

(3)輸送・供給インフラ及び利用技術大雑把にいえば,GTL製品は,対応する石

油製品と同等のものである。従って,GTL製品は,石油製品とのコンタミによる品質低下を許容すれば,対応する石油製品のインフラや利用技術を,ほとんど変更・改造することなく利用でき,石油製品との共存も可能である。市場は,当然の事ながら,対応する石油製品市場で

― 22 ―石油/天然ガス レビュー ’03・9

表9 GTLとDMEの熱効率の相違の主要要因�

�反応���プロセス�����正味の熱効率�

GTLプロセス�12CH4+5.5O2→C12H26+11H2O�

76%��CH4+2O2→CO2+2H2O�CO+H2⇔0.5CH4+0.5CO2 �CO+H2O⇔H2+CO2�C5+ 以下の炭化水素��

6割�

DMEプロセス�2CH4+O2→DME+H2O�

82%��CH4+2O2→CO2+2H2O�CO+H2⇔0.5CH4+0.5CO2 �CO+H2O⇔H2+CO2�メタノール���

7割�

�総括反応式�熱効率�(製品への燃焼エンタルピーの量論回収率)�エネルギー損失�(CO2生成による炭素効率低下)���副生成物生成�(不要物生成による炭素効率低下)��

Page 23: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

ある。GTL製品は,石油製品に比較して,潤滑性が低いこと・単位体積当たりの熱量が若干低いこと等の問題点はあるにしろ,価格さえ問題にしなければ-即ち,石油製品に対するプレミアム・あるいはディスカウント-,それは売れるものである,と考えて差し支えない。市場

性に関して悩む必要は無い。これに対して,DMEは,燃料としては今ま

で使われたことが無い新規なエネルギーであり,インフラも利用技術も新規に開発する必要がある。それより,何よりも燃料における

DME市場は存在しないので,DME市場と言うものを創る必要がある。DMEの市場性は価格以前の問題である。すなわち,製品の市場性という観点から見た

時には,GTLとDMEには大きなレベルの差が存在する。このような,DMEにおけるインフラ・利用

技術・市場性に関する問題は,過去にメタノールが新規エネルギーとしての利用を検討された時の問題と同じであり,また,今後,水素を新規エネルギーとして利用していく時の問題であ

る。但し,DMEが注目されている理由,メタノールや水素に比べてこれらの問題の障害が小

さいとされる点は,DMEの輸送・供給・貯蔵インフラは,LPGでできているLPGインフラの小規模な改造で対応可能であり・LPGとの共存も可能と見られることにある。また,利用技術に関しては,新規開発が必要ではあるものの,一からの新規技術開発ではなく・既存技術のレトロフィット改造で対応できる可能性が高いことによる。その結果,圧縮された研究開発コスト・リードタイムで,利用機器開発が可能とな

ることが予測される。

(4)市場性上記のように,GTLは,価格を問題としな

いならば,市場開拓の必要は無い(もちろん,現実的には価格を問題にしない,ということなどありえない)。ターゲットとする市場も明確である。生産から最終消費者までの社会システムを新たに創る必要は無い。需要に影響を与え

る要因は,GTL供給価格と競合する石油製品

価格(石油製品価格は,原油価格・環境規制・製油所投資コストの関係等で決まる)との関係

であり,根拠ある需要予測も立てやすい。これに対して,DMEの場合には,市場が存

在しないので,市場開拓の必要がある。DMEは,大規模集中型発電・分散型発電・輸送用燃

料・LPG代替・都市ガス原料・燃料電池燃料等なんにでも使える可能性がある,というのは,裏を返せば,ターゲットとすべき市場が明確ではない,ということを意味する。すなわち,

DMEの需要には,DMEの生産から最終消費までのインフラ・利用技術を含めた社会システムの構築という,根本的な問題が影響を与える。

従って,DMEの場合には,GTLの場合のように,製造技術の成熟度や経済性に重きをおく需

要予測を行うことが,極めて困難である。グローバルな視点から見ると,GTLは先進

国向け,DMEはアジア向けエネルギーと言える。これは,次の理由による。まず,GTLに関しては,主要製品であるGTL軽油は,自動車燃料市場の大きい・環境規制の厳しい先進国で最も市場価値が出てくるので,対象マーケットとして先進国が有望であるためである。次に,

DMEに関しては,市場というよりもインフラの状況等がアジア地域において,普及に際して有利だと推定されるためである。すなわち,

DMEは,消費者への供給に際して,インフラ投資を軽減するためLPGインフラを最大限利用するというのが普及の前提である。そのため,

LPGインフラが比較的発達した極東アジア地域はDMEインフラ整備がし易い。また,既存の燃料インフラがあると,DMEのためにインフラを造ることは,インフラ2重投資になる。つ

まり,DME導入に際しては,LPGインフラが無い地域(中国やインドの内陸部等)においては,かえって既存の燃料インフラが無い方が有利である。実際に,中国や韓国等を中心とした

アジア諸国は,DMEを魅力あるエネルギーであると認識しつつある。欧米諸国のLPG需給状況を見ると,フランス,ドイツ,イタリア,英

国のLPG消費量は300~400万トン/年程度であり,輸入割合もフランスが最大で半分程度であ

る。米国のLPG消費量は約5000万トン/年であ

― 23 ― 石油/天然ガス レビュー ’03・9

Page 24: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

るが,国内供給が85%を占める。すなわち,欧州先進国は,LPGインフラが日本ほど発達しておらず,米国はLPG輸入という供給形態をとっていない。その結果,欧米先進国において

DMEを普及させるためには,発電所/ディーゼルエンジン等の既存利用技術改良を必要とす

るのは勿論のこと,DMEのためのインフラ整備に,少なからぬ投資が必要となる。これらの

投資をしても既存のエネルギーからDMEに転換する事に対して,エネルギーセキュリティーや環境性向上等の観点から,欧米先進国が魅力

を感じるかは,疑問がある。一次受入基地に受け入れられた製品がどの程度の距離のユーザーまで対象市場としうるかは,輸送コストに大きく制約される。体積当た

りの低位発熱量ベースで比較すると,DMEの発熱量はGTLの85%程度であるので,輸送手段の相違を無視して熱量だけで考えても,

DMEの輸送コストはGTLに比べて高くなる。したがって,一次受入基地からの製品浸透範囲

は,DMEの方がGTLより小さくなることが予想できる。

(5)市場性がもたらすプロジェクトへの影響GTLは,石油製品と同等の扱いができるの

で,GTLを製造・販売する側にとっては,製品販売リスクが少ないため,プロジェクト成立

には,Take or Pay付き長期販売契約の必要性は少ない。これに対して,DMEは,インフラも限定さ

れ・特定ユーザーしか使用できないことから,製品販売リスクが大きくなるため,プロジェク

ト成立には,Take or Pay付き長期販売契約は必須であろう。

11.まとめ及び将来展望

石油公団が支援した今までの2年間のDME利用技術の研究開発により,次の事項が重要な

知見として把握されている。①インフラ・単位体積,単位重量当たりの熱量が小さく,製造から末端消費者までのチェーン全体の輸

送コストの占める割合は大きい。・DMEの有機材料に対する侵食性は極めて大きい。②燃焼利用・DMEは,燃焼時にすすが出ず・排ガス中のPMは少ない。・タービン等の摺動部を持たない単純な燃焼機

器では,DME対応燃焼器はLNG(天然ガス)対応燃焼器として使用できる可能がある。・ディーゼルエンジン等の摺動部を持つ燃焼機

器では,DMEの低潤滑性に対する対策が極めて重要である。③改質利用・炭化水素に比べて低温での改質が可能であり,技術的ハードルは炭化水素改質に比べて

低い。・水素製造原料としては,メタノールに比べて,改質温度の高温化・単位水素製造量当たりの水蒸気量の増大等により,優位性は低い。しかし,毒性が少ないのは大きなメリットであ

る。

ここでは,DMEの将来展望を,上記のような知見等をベースとして,エネルギー源として

のDMEの認知の問題,供給安定性の向上,製造事業者のリスク低減,DMEのデメリットの認識と解決方法,DMEインフラの問題,DME市場,初期プロジェクト,上流事業者から見た

DME事業という観点から考えてみよう。

(1)エネルギー源としてのDMEの認知の問題今後,DMEをエネルギーとして使用し・需

要が拡大していくためには,国民にとって

DMEを使用することに意義がある,と認められることが必要である。いま,DMEをエネルギーとして使用するこ

とに対して,国民にとっての主要な意義として

認識されているのは,êエネルギー源多様化ê エネルギー供給安定化(中東依存度低下)ê輸入LPGに対する価格低減力êクリーンな排出ガスというものであろう。

― 24 ―石油/天然ガス レビュー ’03・9

Page 25: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

しかしながら,DMEを新しいエネルギー源として,社会システムに組み入れていくには,これらの意義だけでは推進力が不十分であろう。

LNG,天然ガス,石油,石油製品,GTL,石炭,将来的なエネルギーとしての水素という多くの

燃料のメニューの中でのDMEの位置付けを明確にし,社会にアピールしていく必要がある。

(2)供給安定性の向上DMEは,DME用ガスタービンがLNGやLPG

も利用できる可能性はあるにしろ,原則的には,他エネルギーとの代替は困難である。そのため,

DMEの需要家にとっては,DMEの一定量を確実に確保する必要がある。すなわち,DMEが安定供給される必要がある。したがって,製造事業者は需要家から安定供給を強く求められる。そのためには,製造プロセスの技術的な実

証は勿論のこと,万一の事故を考えると,1地域1系列のDME製造プラントでは供給リスクが高いため,多数系列を持つプラントや分散した

地域でのプラント事業が必要であろう。

(3)製造事業者のリスク低減製造事業者にとっては,逆にDME需要家に

よる安定需要が,事業実施の前提となる。製造事業者のリスク低減という観点からは,

間接法プロセスを採用している事業者は直接法プロセスを採用している事業者に比べて有利である。これは,間接法プロセスが一旦メタノー

ルを製造してから,これをDMEにするのに対して,直接法プロセスの場合には,合成ガスから

直接DMEができることによる。すなわち,間接法プロセスでは,メタノール生産への転換や

DMEとの併産が可能であり,合成ガス製造量を変動させずに,メタノールを製造することによ

ってDME製造量を調整できる。このことにより,製造事業者のリスク低減が可能となる。このような方法は,実際に過去にニュージー

ランドのMTG(Methanol To Gasoline)プラントで行われた。このプラントは天然ガスから

メタノールを生産し,これをMobilが開発したゼオライト系触媒であるZSM-5を用いてガソリンに転換するプロセスであった。その後,プロ

ジェクト開始時の見込みほどガソリン価格が上

昇せず・その結果MTGガソリン需要が低下した時,MTGプラントは,すべてをガソリンにせずに一部をメタノールで止めた。現在は,

MTGガソリンの需要が無くなったことから,MTGプラントはメタノール生産に特化している。

(4)DMEのデメリットの認識と解決方法DMEを含む広義のGTLにおける本質的な問

題として,常にユーザーから提示される問題は,ガス生産から使用までのライフサイクルでのエネルギー効率が低いこと,ライフサイクルでの

CO2排出量が大きいことである。利用時の効率

がある程度高くCO2排出量がある程度低くて

も,生産・加工時のエネルギーロス・CO2排出

量が低いLNGや石油製品には,広義GTLはライフサイクル比較では対抗できない。この問題

を解決するには,DMEやGTLを従来の利用方法で使用するという前提に立つならば,広義の

GTL製造工程における更なるエネルギー効率・炭素効率の向上が必要である。DMEに関して言えば,DMEの欠点とされる

低潤滑性・低体積弾性・低粘性・溶媒作用等は,機器側対応や添加剤等で,将来的には解決

されうるであろう。むしろDMEの本質的問題は,体積・重量あたりの熱量の低さにある。これは,供給コストを考えると極めて不利である。これには,大型のオーシャンタンカー・コスタルタンカー・ローリーの導入等による輸送の効

率化,利用効率向上等でカバーするしかない。更に,-25℃という天然ガスに比べて高い液化温度は,寒冷地において,DMEをガス体として使用したい機器の利用を制限する可能性が

ある。

(5)DMEインフラの問題この問題に関しては,現在,LPGインフラを

最大限利用し・LPGとの共存を最大限図るという方針で進んでいる。DMEインフラ整備の問題は,エネルギー全体の中でのDMEの位置付けとも絡み,検討されるべき問題であろう。

― 25 ― 石油/天然ガス レビュー ’03・9

Page 26: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

(6)DME市場・需要市場に関しては,インフラ問題と大きく関わ

ってくる。インフラが少なくてよいLPG1次受入基地近

傍の沿岸部発電所が,最も入りやすい市場である。しかしながら,電力各社においては,安価

な石炭価格・安価になりつつあるLNG価格等の問題で,今後の石炭・油だき発電所がDMEにリプレースしていくかは,かなり疑問がある。

DME発電ユーザーで有力なのは,むしろIPP事業者であろう。その他のユーザーとしては,DME発電ユー

ザーの受入基地近傍で,DMEがアクセス可能な産業用・民生用・輸送用ユーザーがある。輸送用ユーザーは,インフラ投資をミニマイズできる定点を走るバス・トラックとなろう。このような限定区域において,産業用・民生用・輸送用ユーザーが既存のエネルギー源からどの程

度DMEに転換する可能性があるか,筆者には,予想に足る根拠を持たない。DMEのメリットである,燃焼時すすが出ない,天然ガスやその

他の炭化水素より改質しやすい,DME車はCNG車と比較して,可搬性大・輸送距離大・燃費良・大型車向き,等のメリットがどの程度

ユーザーにアピールするかがポイントである。離島におけるエネルギー全てをDMEで賄う,

というアイディアもある。LNGによる発電が現実的ではない離島において,DMEを受け入れて,DMEにより,タービンやエンジンによる発電用の利用,SNGやボンベ供給による工業用・民生用の利用,ディーゼル自動車による輸送用の利用を行おうとするものである。これは,ガス体エネルギーとしては可搬性が高い/受入コストが小さい・利用機器適用範囲が広い,と

いうDMEの特徴を活かした使い方と言える。

(7)初期プロジェクトDMEをある程度安価に供給するには,1プ

ロジェクト170万トン/年程度の生産規模が必要となる。プロジェクトを立ち上げるためには,

この量の内ある程度の量は,Take or Pay付長期契約である必要があろう。1ユーザーでまと

まった量を長期的にコミット可能なのは,IPP

業者を含めた電力業者である。いま,100万KW(稼働率50%・熱効率40%)のDME必要量は120万トン/年である。現在までの知見によるとDME用ガスタービンは,燃焼器の変更無しにLNGだきタービンになる。発電燃料の供給途絶の対策を取らなければならない電力業者に

とっては,少なくとも燃焼機器に関してはLNG用とDME用のダブルに持つ必要が無い,ということは,ある程度DME利用をサポートする材料となろう。また,ボイラーは多種類の燃料

に適応可能なため,DME供給途絶時の他燃料への転換が容易である。しかしながら,DMEは,大規模集中型発電燃料としては,価格・既

存インフラ利用・安定供給等の面からは,LNGに対する優位性は小さいと考える。電力燃料と

してのDMEのメリットは,供給源多角化・供給地分散化等のセーフティー向上にあろう。初期プロジェクトでは,DME製造事業者が

IPP事業を中心とするDME需要家を兼ねるというビジネス(すなわち,DMEで儲けるのではなく売電で設ける)を含む事業形態となるかも

しれない。

(8)上流事業者から見たDME事業上流事業者から見た場合,天然ガス田開発の基本は,ガス田近傍のローカルマーケットへの供給にある。このような近傍にローカルマーケットが無くてもガス田が大規模であった場合に

は,そのガス田はLNGなり長距離パイプラインなりによる開発の可能性がある。最近,長距離パイプラインもLNGも,投資

コストが低下している。特に,LNGのバリューチェーン全体の投資コストの低下は長距離パイプラインの場合よりも大きい。このことは,

LNG販売コストの低減をもたらすとともに・LNGにより経済的に開発できるガス田の範囲を広げている。また,LNG製造プラントのエネルギー効率は9割程度と言われており,

GTLやDMEに比べて高い。また,上流でのCO

2の排出量もLNGの方が広義のGTLに比べて

少ない。一方,GTLやDMEは,スケールメリットが

LNGほど大きくないことや・比較的少量のガ

― 26 ―石油/天然ガス レビュー ’03・9

Page 27: 新エネルギー;DME(ジメチルエーテル)はどこま …...1.DMEが注目される理由 DMEとは,ジメチルエーテル(Dimethyl Ether)のことであり,化学式CH

スでも経済性を持ったプロセスを構築できるため,プロジェクト全体の投資コストは小さくなり,プロジェクトライフで必要なガス量は比較的小さい。そのため,中小ガス田への適用が期

待されている。しかしながら,現実には,現時点では,

GTLもDMEも,安価なガスが得られるインフラが整った地域にしか建設できない。ガスコストとガス田規模には相関があり,大規模ガス田ほど安価なガスを供給できる可能性が高いので,今は,孤立した中小ガス田の開発手段とし

て,広義のGTLを位置付けることはできない。これは,広義GTLのプラントコストがまだ高いため,リーズナブルな製品コストにするには,安価なガスの入手が必須であることによる。広

義GTLを中小ガス田の開発手段とするには,今後,大幅にプラントコストを下げるためのプラント建設経験の積み重ね及び研究開発が必要

である。上流事業者にとっては,LNG・パイプライ

ン・GTL・DME等の開発オプションから最適オプションを選択する場合には,全体的な投資規模,製品の需要規模,製品の需要見通し,ガス販売価格,製品販売価格,経済性等が,決定要素となる。このような観点から見ると,

DME事業は,上流事業者にとっては,現時点では中小ガス田の開発オプションとして位置づける技術では無く,また,上流事業者が安定・長期的な製品需要が見込めないリスクをある程度負う必要があるとすれば,ガス田開発オプションとしては,魅力の乏しい選択肢となる。但

し,広義のGTL(その中でも狭義のGTL)は,輸送コストが比較的安価であることから,

LNGやパイプラインよりも,マーケットまでの距離に影響を受けることが少ない開発手段で

あることを認識しておく必要があろう。因みに,本年6月の世界ガス会議において,

BPのジョン・ブラウン社長は,GTLは天然ガス田開発において,比較的小さな部分にアプラ

イされるだろう,と述べている。

以上のように,種々の観点からDME事業の将来性を考察した。もし,この「11.まとめ及び将来展望」において,筆者がDMEの将来性に対してネガティブな印象を与えているとすれば,それは,筆者の望むところではない。エネルギーは,経済性のみならず,エネルギー供給の安全性・多角化,環境性等種々の要因を考慮して選択されていくであろうし,バリューチェーンに関わる各々の事業者がそれぞれのリスクをミニマイズし・メリットをマキシマイズした時に事業は成立するであろう,ということを言いたかったのである。

重要であるのは,DMEが持つデメリットを認識し,それを地道に解決していくことである。

そして,石油公団が支援するDME利用技術開発は,DMEの今後の実用化・普及拡大に極めて大きな影響を与える。また,それは,我が国だけではなく,アジア地域のエネルギー状況の

改善に貢献する。政府は,エネルギー源多角化・供給安定化等

の観点から,2006年末における我が国でのDME受入・利用の実現を目指して,官民挙げて努力をしている。石油公団では,このような

政府の役割の一翼を担い,DME利用技術の研究開発に意欲的な民間企業等をサポートするこ

とによりプロジェクトを進めてきた。石油公団は,上流事業におけるメリットとともに,国民に意義あるエネルギー源多様化・エネルギー供給安定・環境に対するインパクト等

でメリットのあるDMEに関して,国でしかできないことを実施していきたい,と考えてい

る。

― 27 ― 石油/天然ガス レビュー ’03・9