ラグビー日本代表チームの · これからit活用を進めていくこと...

退対談 05 Club Unisys + PLUS VOL.52 Club Unisys + PLUS VOL.52 04

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Page 1: ラグビー日本代表チームの · これからIT活用を進めていくこと 性があるのですね。楽しみです。で、もっと日本代表チームが強くなる可能

受け止めていらっしゃいますか。

岡村

 協会では、これまで長年にわたり、

日本におけるラグビーの人気向上や地位確

立に向けた活動に取り組んできました。

2019年のラグビーワールドカップの日

本開催もその1つです。

福島

実に10年以上も前から、招致活動や

日本代表チームの強化策を進めてこられた

と聞いています。

岡村

 チーム強化の面では、ようやく今回

のワールドカップやオリンピック予選で成果

が現れてきましたが、まだまだ日本にラグ

ビー文化を定着させるスタートを切ったば

かりですので、これからが正念場です。

 とくに、2019年のラグビーワールド

カップ日本大会では今回以上の成績が求め

られますから、一層のチーム強化が必要で

す。そのための取り組みをけん引するとと

もに、国民の皆様に応援していただけるよ

う啓発活動を進めていくことが、われわれ

の使命だと考えています。

福島

昨年のワールドカップでは、エディー・

ジョーンズヘッドコーチというリーダーのも

と、ベスト8という目標を掲げ、その達成に

向けた戦略を綿密に練り、厳しいトレーニン

グを積んできたようですが、南アフリカ戦に

至っては、対戦が決まった3年も前から戦略

を立てていたそうですね。

 この話を伺って、改めてリーダーによる目

標設定と戦略策定の大切さを実感しまし

た。企業経営にも通じる要素が多いのでは

ないでしょうか。

岡村

 そのとおりです。リーダーは明確な

目標を設定すること、そしてメンバーとそ

れを共有することが重要です。今回のワー

ルドカップでは、エディー・ジョーンズと選手

たちとの間でそれが非常にうまくできてい

たと思います。

福島

戦略策定についてはいかがですか。

岡村

 エディー・ジョーンズは戦略を立てる

際、まず日本人選手がもっている特性や強

みを分析し、スピードと忍耐力だと判断し

ました。

 そして、海外の強豪チームに体力では勝

てないと思い込んでいた選手たちに対し、

肉体を強化したうえでスピードと忍耐力を

活かしていく必要性を認識させ、フィジカル

を徹底して鍛えるためのトレーニングを課

したのです。

福島

世界一厳しいトレーニングとも言われ

ましたね。

岡村

 選手たちがそんな過酷なトレーニン

グをやり遂げられたのも、やるべき理由に

納得していたからです。目標に基づく戦略

を選手全員に深く理解させる―

この点が

彼の優れた「リーダー力」だと思っています。

 企業経営もまったく同じです。エディー・

ジョーンズには改めてリーダーのあり方を

教えてもらった気がします。

福島

とはいえ、チームも企業も最初から

全員のベクトルが揃うとは限りません。リー

ダーが目標や戦略を全員に浸透させ、意志

統一を図るためには何がポイントになると

お考えですか。

岡村

 コミュニケーションでしょうね。リー

ダーが目標や戦略を一方的に伝えるだけで

メンバーが理解しなければ、実行力をとも

なうわけがありません。

 一方、メンバーが理解して実行したとして

も上手くいかないこともあるでしょう。そう

した時に大切なのも、やはりコミュニケー

ションです。メンバーがリーダーに相談できる

環境をつくり、リーダーはメンバーの考えを

知ったうえでアドバイスをしたり、時には戦

略を変更したりと柔軟に対応する。常に現

場とリーダーとの間でフィードバックがか

かっている組織が一番理想的です。

福島

岡村会長ご自身、東大ラグビー部に

所属なさっていた現役選手時代には、ある

チームに勝つことを目標に掲げ、そのための

戦略を実行し、実際に勝利を収めた経験を

おもちだそうですね。

岡村

 はい。同程度の実力をもつチームを

3つほどピックアップし、何をどうすれば勝

てるのか、戦略を練りました。さらに、チーム

全体の戦略を個人レベルにまで落とし込み、

選手一人ひとりが強化すべきポイントを設

定しました。

 例えば、当時の私に課せられた課題は、

ボール地点に到達するスピードの短縮、ラ

インアウトでボールを獲得するためのジャン

プ力向上です。この2つに徹底して取り組

福島

エディー・ジョーンズヘッドコーチが

率いたラグビー日本代表チームは、昨年、

イングランドで開催されたラグビーワールド

カップ2015初戦で、強豪の南アフリカ

を破る大金星を上げました。

 後半のロスタイムにペナルティキックで同

点を狙わず、スクラムを選択して逆転トラ

イを果たしたシーンは、いま思い出しても胸

が熱くなります。

 その後もサモアとアメリカを破る快進撃

を続けたことは日本人として誇らしく、勇

気と感動を与えてもらいました。

岡村

 南アフリカ戦は私も試合会場で観戦

していたのですが、逆転トライの場面はハラ

ハラしすぎて見ていられず、思わず目を伏せ

てしまいました。観客の大歓声が上がったの

で、「あぁ、トライしたんだな」と分かり、本

当に嬉しい思いでした。待ちに待った瞬間で

したね。

福島

7人制ラグビーも、日本代表は男

女ともに2016年のリオデジャネイロ

オリンピック出場を決める快挙を成し遂げ

ました。国内の社会人リーグ戦であるトッ

プリーグも含め、日本のラグビー界はかつて

ない盛り上がりを見せています。

 こうしたなか、岡村様は昨年の6月から

日本ラグビーフットボール協会の会長を務

めておられます。現在のラグビー人気をどう

みました。

福島

目標達成に

向け、個々の選手が

やるべきことを果

たすことが、チーム

全体の戦略実行に

つながり、勝利につ

ながっていくという

わけですね。

岡村

 はい。先の話

で言えば、私がジャンプ力を高めることに

よってラインアウトでのボール獲得率が向上

し、チームの勝利にも結びついていきます。

福島

選手自身がそのことを体感できれ

ば、もっとジャンプ力を強化したくなるで

しょうし、その結果、チームはますます強く

なりますね。

岡村

 いわゆる「PDCAサイクル」が回り

始めるわけです。逆に言えば、選手がそれぞ

れの考えで能力を高めたとしても、戦略に

紐づいたものでなければ、チーム力の向上に

直結するとは限りません。

福島

個の強化と組織の強化は切っても

切り離せない関係なのですね。

岡村

 はい。スポーツも企業経営も目標は

勝利であり、勝つための戦略を実行するのは

個人です。個は組織全体が勝つための戦略を

知り、かつ、個の強化が組織全体の強化に

直結することを認識する必要があります。

 肝要なのは、その両輪のバランスをとって

いくことです。両方が上手く噛み合っていな

いと、1回は勝てたとしても勝ち続けるこ

とはできないでしょう。

福島

今後、日本代表チームのさらなる強化

に向けて必要なことは何だと思われますか。

岡村

 幾つかありますが、その1つがIT

活用です。

福島

たしかに、スポーツにおけるIT活

用が進化していますね。具体的にはITが

どのように役立つのでしょうか。

岡村

 一例としては、選手の体力・筋力強化

のための練習内容や栄養摂取です。それら

の統計を分析し、より効率的な方法や目標

を提示することができます。

 もちろん、試合でも自チームと相手チー

ムのデータを収集して解析します。監督以

下、スタッフが数台のパソコンをもち込み、相

手の動きを収集して予測しながら戦術を決

めるなど、次の試合に備えます。世界トップ

レベルの強豪は、専門のアナリストを多数抱

えています。そういう点で日本はまだ追いつ

いていません。

福島

これからIT活用を進めていくこと

で、もっと日本代表チームが強くなる可能

性があるのですね。楽しみです。

 選手の強化といえば、ラグビー以外のス

ポーツも含め、企業とのかかわりについても

お聞きしたいと思います。日本ユニシスも実

業団バドミントン部を長年育て、オリンピッ

クの代表選手を輩出するなど今では日本

有数の強豪チームになりました。企業スポー

ツの意義については、いかがお考えですか。

岡村

 まず、長年にわたり継続なさってき

た点が素晴らしいと思います。

 企業スポーツはスポーツ振興や地域貢献

といった大切な役割があります。また、従業

員の求心力維持・向上にもつながります。し

かし、そうした効果が現れるまでには時間

がかかるのです。ですから、スポーツ支援を

CSRの1つと位置づけた企業は、よほど

のことがない限り続けていくべきではないで

しょうか。

福島

経営環境が厳しい時も含め、中途半

端な気持ちで取り組むべきではないという

ことですね。

岡村

 はい。企業のイメージ向上やブラン

ディングのためだけでなく、社会により広く

貢献するための活動だということを強く意

識することが必要です。

福島

2019年にはラグビーワールド

カップ、2020年には東京オリンピック・

パラリンピックと、続々と日本でスポーツの

国際大会が開催されます。

 経済効果や国際交流など多くの効果が

期待されていますが、岡村様はスポーツの国

際大会を日本で開催する意義をどのように

お考えですか。

岡村

 私は、スポーツを1つの文化だと捉

えています。国際大会は日本の文化を発信

する絶好の機会ではないでしょうか。

福島

「ラグビー文化」というご発言もあり

ましたが、ラグビーをはじめとするスポーツ

の普及や振興によって、どのような文化を伝

えることができるでしょうか。スポーツの価

値と言い換えてもいいかもしれませんが、改

めてお聞かせください。

岡村

 今回のワールドカップで日本チーム

に与えられた評価が「もっともクリーンな規

律のあるチーム」です。

 これがまさしくスポーツの本質であり価

値だと考えます。スポーツは、クリーンで規

律ある社会を形成していくための重要な

ツールになり得るのです。

福島

世界のラグビーファンが選ぶ「ワールド

カップ最高の瞬間」に日本の南アフリカ戦が選

ばれたように、スポーツがもたらす世界への発

信力・影響力は、と

ても大きなものだ

と感じます。私も日

本人として、スポー

ツを通じて日本の

良き文化が世界に

発信されることを

嬉しく思います。

 本日はありがと

うございました。

国際大会での大躍進を契機に

ラグビー文化の定着に取り組む

松江市出身。津田塾大学英文科卒。中部日本

放送を経て、1988年独立。NHK、TBSな

どで報道番組を担当。テレビ東京の経済番組

や、週刊誌「サンデー毎日」でのトップ対談をは

じめ、日本経済新聞、経済誌など、これまでに

700人を超える経営者を取材。上場企業の

社外取締役や経営アドバイザーも務める。島根

大学経営協議会委員。著書に「愛が企業を繁

栄させる」「それでもあきらめない経営」など。

ジャーナリスト

福島

敦子ふくしま・あつこ

東京大学法学部卒業後、東京芝浦電気(のちの

東芝)に入社。ウィスコンシン大学経営学修士

課程修了。2000年に社長に就任。会社存続

の危機を迎えた東芝の舵取りを任され、優れ

た経営手腕で会社を再生。さらなる成長への道

筋を付ける。社長退任後は日本経団連副会

長、日本商工会議所会頭などを務め、中小企

業の発展や地域の活性化に尽力。財界のリー

ダーとして現在も活躍を続ける。

日本ラグビーフットボール協会会長

東芝相談役

岡村

正おかむら・ただし

ラグビー日本代表チームの

大躍進をロールモデルに、

勝利に向けた個と組織の

関係を見すえる。

スポーツに学ぶリーダー力。

昨年のラグビーワールドカップ2015における

日本代表チームの活躍は記憶に新しいところです。

また、2019年にはラグビーワールドカップが

日本で開催され、

7人制ラグビーもオリンピックの正式種目となるなど、

ラグビーへの注目度が急速に高まっています。

今回は日本ラグビーフットボール協会会長の

岡村正氏を迎え、日本代表チーム大躍進の要因や

ご自身のラグビー選手としての経験を活かした

組織づくりなどについて福島氏が話を伺いました。

対談

05 Club Unisys + PLUS VOL.52Club Unisys + PLUS VOL.52 04

Page 2: ラグビー日本代表チームの · これからIT活用を進めていくこと 性があるのですね。楽しみです。で、もっと日本代表チームが強くなる可能

受け止めていらっしゃいますか。

岡村

 協会では、これまで長年にわたり、

日本におけるラグビーの人気向上や地位確

立に向けた活動に取り組んできました。

2019年のラグビーワールドカップの日

本開催もその1つです。

福島

実に10年以上も前から、招致活動や

日本代表チームの強化策を進めてこられた

と聞いています。

岡村

 チーム強化の面では、ようやく今回

のワールドカップやオリンピック予選で成果

が現れてきましたが、まだまだ日本にラグ

ビー文化を定着させるスタートを切ったば

かりですので、これからが正念場です。

 とくに、2019年のラグビーワールド

カップ日本大会では今回以上の成績が求め

られますから、一層のチーム強化が必要で

す。そのための取り組みをけん引するとと

もに、国民の皆様に応援していただけるよ

う啓発活動を進めていくことが、われわれ

の使命だと考えています。

福島

昨年のワールドカップでは、エディー・

ジョーンズヘッドコーチというリーダーのも

と、ベスト8という目標を掲げ、その達成に

向けた戦略を綿密に練り、厳しいトレーニン

グを積んできたようですが、南アフリカ戦に

至っては、対戦が決まった3年も前から戦略

を立てていたそうですね。

 この話を伺って、改めてリーダーによる目

標設定と戦略策定の大切さを実感しまし

た。企業経営にも通じる要素が多いのでは

ないでしょうか。

岡村

 そのとおりです。リーダーは明確な

目標を設定すること、そしてメンバーとそ

れを共有することが重要です。今回のワー

ルドカップでは、エディー・ジョーンズと選手

たちとの間でそれが非常にうまくできてい

たと思います。

福島

戦略策定についてはいかがですか。

岡村

 エディー・ジョーンズは戦略を立てる

際、まず日本人選手がもっている特性や強

みを分析し、スピードと忍耐力だと判断し

ました。

 そして、海外の強豪チームに体力では勝

てないと思い込んでいた選手たちに対し、

肉体を強化したうえでスピードと忍耐力を

活かしていく必要性を認識させ、フィジカル

を徹底して鍛えるためのトレーニングを課

したのです。

福島

世界一厳しいトレーニングとも言われ

ましたね。

岡村

 選手たちがそんな過酷なトレーニン

グをやり遂げられたのも、やるべき理由に

納得していたからです。目標に基づく戦略

を選手全員に深く理解させる―

この点が

彼の優れた「リーダー力」だと思っています。

 企業経営もまったく同じです。エディー・

ジョーンズには改めてリーダーのあり方を

教えてもらった気がします。

福島

とはいえ、チームも企業も最初から

全員のベクトルが揃うとは限りません。リー

ダーが目標や戦略を全員に浸透させ、意志

統一を図るためには何がポイントになると

お考えですか。

岡村

 コミュニケーションでしょうね。リー

ダーが目標や戦略を一方的に伝えるだけで

メンバーが理解しなければ、実行力をとも

なうわけがありません。

 一方、メンバーが理解して実行したとして

も上手くいかないこともあるでしょう。そう

した時に大切なのも、やはりコミュニケー

ションです。メンバーがリーダーに相談できる

環境をつくり、リーダーはメンバーの考えを

知ったうえでアドバイスをしたり、時には戦

略を変更したりと柔軟に対応する。常に現

場とリーダーとの間でフィードバックがか

かっている組織が一番理想的です。

福島

岡村会長ご自身、東大ラグビー部に

所属なさっていた現役選手時代には、ある

チームに勝つことを目標に掲げ、そのための

戦略を実行し、実際に勝利を収めた経験を

おもちだそうですね。

岡村

 はい。同程度の実力をもつチームを

3つほどピックアップし、何をどうすれば勝

てるのか、戦略を練りました。さらに、チーム

全体の戦略を個人レベルにまで落とし込み、

選手一人ひとりが強化すべきポイントを設

定しました。

 例えば、当時の私に課せられた課題は、

ボール地点に到達するスピードの短縮、ラ

インアウトでボールを獲得するためのジャン

プ力向上です。この2つに徹底して取り組

福島

エディー・ジョーンズヘッドコーチが

率いたラグビー日本代表チームは、昨年、

イングランドで開催されたラグビーワールド

カップ2015初戦で、強豪の南アフリカ

を破る大金星を上げました。

 後半のロスタイムにペナルティキックで同

点を狙わず、スクラムを選択して逆転トラ

イを果たしたシーンは、いま思い出しても胸

が熱くなります。

 その後もサモアとアメリカを破る快進撃

を続けたことは日本人として誇らしく、勇

気と感動を与えてもらいました。

岡村

 南アフリカ戦は私も試合会場で観戦

していたのですが、逆転トライの場面はハラ

ハラしすぎて見ていられず、思わず目を伏せ

てしまいました。観客の大歓声が上がったの

で、「あぁ、トライしたんだな」と分かり、本

当に嬉しい思いでした。待ちに待った瞬間で

したね。

福島

7人制ラグビーも、日本代表は男

女ともに2016年のリオデジャネイロ

オリンピック出場を決める快挙を成し遂げ

ました。国内の社会人リーグ戦であるトッ

プリーグも含め、日本のラグビー界はかつて

ない盛り上がりを見せています。

 こうしたなか、岡村様は昨年の6月から

日本ラグビーフットボール協会の会長を務

めておられます。現在のラグビー人気をどう

みました。

福島

目標達成に

向け、個々の選手が

やるべきことを果

たすことが、チーム

全体の戦略実行に

つながり、勝利につ

ながっていくという

わけですね。

岡村

 はい。先の話

で言えば、私がジャンプ力を高めることに

よってラインアウトでのボール獲得率が向上

し、チームの勝利にも結びついていきます。

福島

選手自身がそのことを体感できれ

ば、もっとジャンプ力を強化したくなるで

しょうし、その結果、チームはますます強く

なりますね。

岡村

 いわゆる「PDCAサイクル」が回り

始めるわけです。逆に言えば、選手がそれぞ

れの考えで能力を高めたとしても、戦略に

紐づいたものでなければ、チーム力の向上に

直結するとは限りません。

福島

個の強化と組織の強化は切っても

切り離せない関係なのですね。

岡村

 はい。スポーツも企業経営も目標は

勝利であり、勝つための戦略を実行するのは

個人です。個は組織全体が勝つための戦略を

知り、かつ、個の強化が組織全体の強化に

直結することを認識する必要があります。

 肝要なのは、その両輪のバランスをとって

いくことです。両方が上手く噛み合っていな

いと、1回は勝てたとしても勝ち続けるこ

とはできないでしょう。

福島

今後、日本代表チームのさらなる強化

に向けて必要なことは何だと思われますか。

岡村

 幾つかありますが、その1つがIT

活用です。

福島

たしかに、スポーツにおけるIT活

用が進化していますね。具体的にはITが

どのように役立つのでしょうか。

岡村

 一例としては、選手の体力・筋力強化

のための練習内容や栄養摂取です。それら

の統計を分析し、より効率的な方法や目標

を提示することができます。

 もちろん、試合でも自チームと相手チー

ムのデータを収集して解析します。監督以

下、スタッフが数台のパソコンをもち込み、相

手の動きを収集して予測しながら戦術を決

めるなど、次の試合に備えます。世界トップ

レベルの強豪は、専門のアナリストを多数抱

えています。そういう点で日本はまだ追いつ

いていません。

福島

これからIT活用を進めていくこと

で、もっと日本代表チームが強くなる可能

性があるのですね。楽しみです。

 選手の強化といえば、ラグビー以外のス

ポーツも含め、企業とのかかわりについても

お聞きしたいと思います。日本ユニシスも実

業団バドミントン部を長年育て、オリンピッ

クの代表選手を輩出するなど今では日本

有数の強豪チームになりました。企業スポー

ツの意義については、いかがお考えですか。

岡村

 まず、長年にわたり継続なさってき

た点が素晴らしいと思います。

 企業スポーツはスポーツ振興や地域貢献

といった大切な役割があります。また、従業

員の求心力維持・向上にもつながります。し

かし、そうした効果が現れるまでには時間

がかかるのです。ですから、スポーツ支援を

CSRの1つと位置づけた企業は、よほど

のことがない限り続けていくべきではないで

しょうか。

福島

経営環境が厳しい時も含め、中途半

端な気持ちで取り組むべきではないという

ことですね。

岡村

 はい。企業のイメージ向上やブラン

ディングのためだけでなく、社会により広く

貢献するための活動だということを強く意

識することが必要です。

福島

2019年にはラグビーワールド

カップ、2020年には東京オリンピック・

パラリンピックと、続々と日本でスポーツの

国際大会が開催されます。

 経済効果や国際交流など多くの効果が

期待されていますが、岡村様はスポーツの国

際大会を日本で開催する意義をどのように

お考えですか。

岡村

 私は、スポーツを1つの文化だと捉

えています。国際大会は日本の文化を発信

する絶好の機会ではないでしょうか。

福島

「ラグビー文化」というご発言もあり

ましたが、ラグビーをはじめとするスポーツ

の普及や振興によって、どのような文化を伝

えることができるでしょうか。スポーツの価

値と言い換えてもいいかもしれませんが、改

めてお聞かせください。

岡村

 今回のワールドカップで日本チーム

に与えられた評価が「もっともクリーンな規

律のあるチーム」です。

 これがまさしくスポーツの本質であり価

値だと考えます。スポーツは、クリーンで規

律ある社会を形成していくための重要な

ツールになり得るのです。

福島

世界のラグビーファンが選ぶ「ワールド

カップ最高の瞬間」に日本の南アフリカ戦が選

ばれたように、スポーツがもたらす世界への発

信力・影響力は、と

ても大きなものだ

と感じます。私も日

本人として、スポー

ツを通じて日本の

良き文化が世界に

発信されることを

嬉しく思います。

 本日はありがと

うございました。

スポーツも企業経営も、戦略を成し遂げるためのポイントは

リーダーとメンバーのコミュニケーションです。

目標と戦略を掲げて推進するリーダーの重要性を実感しました。

企業経営にも通じるのではないでしょうか。

スポーツに学ぶリーダー力。

対談

個の強化と組織全体の強化をリンクさせ

継続的な成果を

目標と戦略を選手全員に浸透させた

ヘッドコーチのリーダー力

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07 06Club Unisys + PLUS VOL.52Club Unisys + PLUS VOL.52

Page 3: ラグビー日本代表チームの · これからIT活用を進めていくこと 性があるのですね。楽しみです。で、もっと日本代表チームが強くなる可能

受け止めていらっしゃいますか。

岡村

 協会では、これまで長年にわたり、

日本におけるラグビーの人気向上や地位確

立に向けた活動に取り組んできました。

2019年のラグビーワールドカップの日

本開催もその1つです。

福島

実に10年以上も前から、招致活動や

日本代表チームの強化策を進めてこられた

と聞いています。

岡村

 チーム強化の面では、ようやく今回

のワールドカップやオリンピック予選で成果

が現れてきましたが、まだまだ日本にラグ

ビー文化を定着させるスタートを切ったば

かりですので、これからが正念場です。

 とくに、2019年のラグビーワールド

カップ日本大会では今回以上の成績が求め

られますから、一層のチーム強化が必要で

す。そのための取り組みをけん引するとと

もに、国民の皆様に応援していただけるよ

う啓発活動を進めていくことが、われわれ

の使命だと考えています。

福島

昨年のワールドカップでは、エディー・

ジョーンズヘッドコーチというリーダーのも

と、ベスト8という目標を掲げ、その達成に

向けた戦略を綿密に練り、厳しいトレーニン

グを積んできたようですが、南アフリカ戦に

至っては、対戦が決まった3年も前から戦略

を立てていたそうですね。

 この話を伺って、改めてリーダーによる目

標設定と戦略策定の大切さを実感しまし

た。企業経営にも通じる要素が多いのでは

ないでしょうか。

岡村

 そのとおりです。リーダーは明確な

目標を設定すること、そしてメンバーとそ

れを共有することが重要です。今回のワー

ルドカップでは、エディー・ジョーンズと選手

たちとの間でそれが非常にうまくできてい

たと思います。

福島

戦略策定についてはいかがですか。

岡村

 エディー・ジョーンズは戦略を立てる

際、まず日本人選手がもっている特性や強

みを分析し、スピードと忍耐力だと判断し

ました。

 そして、海外の強豪チームに体力では勝

てないと思い込んでいた選手たちに対し、

肉体を強化したうえでスピードと忍耐力を

活かしていく必要性を認識させ、フィジカル

を徹底して鍛えるためのトレーニングを課

したのです。

福島

世界一厳しいトレーニングとも言われ

ましたね。

岡村

 選手たちがそんな過酷なトレーニン

グをやり遂げられたのも、やるべき理由に

納得していたからです。目標に基づく戦略

を選手全員に深く理解させる―

この点が

彼の優れた「リーダー力」だと思っています。

 企業経営もまったく同じです。エディー・

ジョーンズには改めてリーダーのあり方を

教えてもらった気がします。

福島

とはいえ、チームも企業も最初から

全員のベクトルが揃うとは限りません。リー

ダーが目標や戦略を全員に浸透させ、意志

統一を図るためには何がポイントになると

お考えですか。

岡村

 コミュニケーションでしょうね。リー

ダーが目標や戦略を一方的に伝えるだけで

メンバーが理解しなければ、実行力をとも

なうわけがありません。

 一方、メンバーが理解して実行したとして

も上手くいかないこともあるでしょう。そう

した時に大切なのも、やはりコミュニケー

ションです。メンバーがリーダーに相談できる

環境をつくり、リーダーはメンバーの考えを

知ったうえでアドバイスをしたり、時には戦

略を変更したりと柔軟に対応する。常に現

場とリーダーとの間でフィードバックがか

かっている組織が一番理想的です。

福島

岡村会長ご自身、東大ラグビー部に

所属なさっていた現役選手時代には、ある

チームに勝つことを目標に掲げ、そのための

戦略を実行し、実際に勝利を収めた経験を

おもちだそうですね。

岡村

 はい。同程度の実力をもつチームを

3つほどピックアップし、何をどうすれば勝

てるのか、戦略を練りました。さらに、チーム

全体の戦略を個人レベルにまで落とし込み、

選手一人ひとりが強化すべきポイントを設

定しました。

 例えば、当時の私に課せられた課題は、

ボール地点に到達するスピードの短縮、ラ

インアウトでボールを獲得するためのジャン

プ力向上です。この2つに徹底して取り組

福島

エディー・ジョーンズヘッドコーチが

率いたラグビー日本代表チームは、昨年、

イングランドで開催されたラグビーワールド

カップ2015初戦で、強豪の南アフリカ

を破る大金星を上げました。

 後半のロスタイムにペナルティキックで同

点を狙わず、スクラムを選択して逆転トラ

イを果たしたシーンは、いま思い出しても胸

が熱くなります。

 その後もサモアとアメリカを破る快進撃

を続けたことは日本人として誇らしく、勇

気と感動を与えてもらいました。

岡村

 南アフリカ戦は私も試合会場で観戦

していたのですが、逆転トライの場面はハラ

ハラしすぎて見ていられず、思わず目を伏せ

てしまいました。観客の大歓声が上がったの

で、「あぁ、トライしたんだな」と分かり、本

当に嬉しい思いでした。待ちに待った瞬間で

したね。

福島

7人制ラグビーも、日本代表は男

女ともに2016年のリオデジャネイロ

オリンピック出場を決める快挙を成し遂げ

ました。国内の社会人リーグ戦であるトッ

プリーグも含め、日本のラグビー界はかつて

ない盛り上がりを見せています。

 こうしたなか、岡村様は昨年の6月から

日本ラグビーフットボール協会の会長を務

めておられます。現在のラグビー人気をどう

みました。

福島 目標達成に

向け、個々の選手が

やるべきことを果

たすことが、チーム

全体の戦略実行に

つながり、勝利につ

ながっていくという

わけですね。

岡村

 はい。先の話

で言えば、私がジャンプ力を高めることに

よってラインアウトでのボール獲得率が向上

し、チームの勝利にも結びついていきます。

福島

選手自身がそのことを体感できれ

ば、もっとジャンプ力を強化したくなるで

しょうし、その結果、チームはますます強く

なりますね。

岡村

 いわゆる「PDCAサイクル」が回り

始めるわけです。逆に言えば、選手がそれぞ

れの考えで能力を高めたとしても、戦略に

紐づいたものでなければ、チーム力の向上に

直結するとは限りません。

福島

個の強化と組織の強化は切っても

切り離せない関係なのですね。

岡村

 はい。スポーツも企業経営も目標は

勝利であり、勝つための戦略を実行するのは

個人です。個は組織全体が勝つための戦略を

知り、かつ、個の強化が組織全体の強化に

直結することを認識する必要があります。

 肝要なのは、その両輪のバランスをとって

いくことです。両方が上手く噛み合っていな

いと、1回は勝てたとしても勝ち続けるこ

とはできないでしょう。

福島

今後、日本代表チームのさらなる強化

に向けて必要なことは何だと思われますか。

岡村

 幾つかありますが、その1つがIT

活用です。

福島

たしかに、スポーツにおけるIT活

用が進化していますね。具体的にはITが

どのように役立つのでしょうか。

岡村

 一例としては、選手の体力・筋力強化

のための練習内容や栄養摂取です。それら

の統計を分析し、より効率的な方法や目標

を提示することができます。

 もちろん、試合でも自チームと相手チー

ムのデータを収集して解析します。監督以

下、スタッフが数台のパソコンをもち込み、相

手の動きを収集して予測しながら戦術を決

めるなど、次の試合に備えます。世界トップ

レベルの強豪は、専門のアナリストを多数抱

えています。そういう点で日本はまだ追いつ

いていません。

福島

これからIT活用を進めていくこと

で、もっと日本代表チームが強くなる可能

性があるのですね。楽しみです。

 選手の強化といえば、ラグビー以外のス

ポーツも含め、企業とのかかわりについても

お聞きしたいと思います。日本ユニシスも実

業団バドミントン部を長年育て、オリンピッ

クの代表選手を輩出するなど今では日本

有数の強豪チームになりました。企業スポー

ツの意義については、いかがお考えですか。

岡村

 まず、長年にわたり継続なさってき

た点が素晴らしいと思います。

 企業スポーツはスポーツ振興や地域貢献

といった大切な役割があります。また、従業

員の求心力維持・向上にもつながります。し

かし、そうした効果が現れるまでには時間

がかかるのです。ですから、スポーツ支援を

CSRの1つと位置づけた企業は、よほど

のことがない限り続けていくべきではないで

しょうか。

福島

経営環境が厳しい時も含め、中途半

端な気持ちで取り組むべきではないという

ことですね。

岡村

 はい。企業のイメージ向上やブラン

ディングのためだけでなく、社会により広く

貢献するための活動だということを強く意

識することが必要です。

福島

2019年にはラグビーワールド

カップ、2020年には東京オリンピック・

パラリンピックと、続々と日本でスポーツの

国際大会が開催されます。

 経済効果や国際交流など多くの効果が

期待されていますが、岡村様はスポーツの国

際大会を日本で開催する意義をどのように

お考えですか。

岡村

 私は、スポーツを1つの文化だと捉

えています。国際大会は日本の文化を発信

する絶好の機会ではないでしょうか。

福島

「ラグビー文化」というご発言もあり

ましたが、ラグビーをはじめとするスポーツ

の普及や振興によって、どのような文化を伝

えることができるでしょうか。スポーツの価

値と言い換えてもいいかもしれませんが、改

めてお聞かせください。

岡村

 今回のワールドカップで日本チーム

に与えられた評価が「もっともクリーンな規

律のあるチーム」です。

 これがまさしくスポーツの本質であり価

値だと考えます。スポーツは、クリーンで規

律ある社会を形成していくための重要な

ツールになり得るのです。

福島

世界のラグビーファンが選ぶ「ワールド

カップ最高の瞬間」に日本の南アフリカ戦が選

ばれたように、スポーツがもたらす世界への発

信力・影響力は、と

ても大きなものだ

と感じます。私も日

本人として、スポー

ツを通じて日本の

良き文化が世界に

発信されることを

嬉しく思います。

 本日はありがと

うございました。

スポーツに学ぶリーダー力。

対談

ITを効果的に活用し

さらなるチーム強化を図る

国際大会は日本のスポーツ文化を

発信する絶好の機会

対談からのつの提言3

1

2

3

リーダーは目標と戦略を示しその意義を全員に浸透させよ

個の強化と組織の強化の連関を実感させ好循環につなげよ

国際大会を好機として日本の良き文化を発信せよ

09 08Club Unisys + PLUS VOL.52Club Unisys + PLUS VOL.52