パルボウィルスb19感染症による赤芽球 …...症 例 主訴:浮腫...

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症  例 主訴:浮腫 家族歴:特記すべきことなし 既往歴:1996 外陰部 papilloma virus 病変2001 年外陰部 Bowen 病切除植皮術2002 12 月肺ノカルジア2003 2 月帯状疱疹モクロマトーシス 現病歴: 2002 9 月結膜黄染息切れを自覚著明貧血指摘され 10 月当院入院自己免疫性溶血性貧血AIHA診断 PSL1mg/kg 投与開始したが再度貧血進行溶血所見なく網状赤血球低値骨髄穿刺 BMA赤芽球癆PRCA診断巨大 前赤芽球核内封入体末梢血parvo- virus B19PVB19DNAPCR陽性PV 抗体 IgM 4 倍以上抗体価上昇よりPVB19 感染による PRCA 診断入院後投与した MAP 製剤PVB19 抗原DNA 陽性ウイルス DNA 配列患者のものと一致したた 感染経路えられた持続する PRCA 免疫グロブリン量療法IVIG;20 50g/ 投与IVIG 網状赤血球数回復したが末梢血 PVB19 陰性化せずAIHA して ste- roid 減量すると溶血による貧血進行するた 15 20mg/day 継続2003 4 より血小板減少Evans 候群診断8 から AIHA Rituximab 投与溶血PRCA 増悪2004 1 脾摘施行PSL 20mg/5mg 隔日 投与まで減量血小板数回復2 月中旬より全身浮腫出現体重 3kg 増加のため入院なった入院時身体所見:身長155 cm体重50.6 kg体温36.9血圧100/60 mmHg脈拍100/ 意識 清明結膜 貧血+),黄疸-), 表在リンパ触知せず四肢下肢 pitting edema < ),胸部心雑音-, -), 腹部肝臓2 横指触知辺縁鈍脾摘後+),神経学的所見特記すべきことなし 入院時検査所見(表1,表2):貧血るが血小板45 増加生化学では蛋白血症 めるLDH 軽度上昇レステロール中性脂肪高値HbA1c UIBC 低値フェリチンは非常高値であった尿所見蛋白潜血ともに 陽性定量では 8g 以上蛋白尿クレアチニ ンクリアランスは 50ml/min であった免疫ロブリン補体低値ハプトグロビン低値Coombs 直接間接ともに陽性自己抗体陰性であった腎生検までの臨床経過(図1,図2):LDH 上昇から溶血悪化してステロイドをすると網状赤血球減少がみられ PRCA crisis となりIVIG 改善ということをしている血小板脾摘後増加している血清蛋白アルブミンの推移では2004 2 パルボウィルス B19 感染症による赤芽球癆(PRCA)に伴った 膜性増殖性糸球体腎炎 (MPGN) I 型の一例 香 取 秀 幸 1 星 野 純 一 1 澤   直 樹 1 田 上 哲 夫 1 乳 原 善 文 1 竹 本 文 美 1 原   重 雄 2 原   茂 子 3 高 市 憲 明 1 1 虎の門病院 腎センター   2 病理部   3 健康医学センター Key WordパルボウィルスB19膜性増殖性糸球体腎炎 MPGN),赤芽球癆溶血性貧血 - 120 - 腎炎症例研究 21 巻 2005 年

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Page 1: パルボウィルスB19感染症による赤芽球 …...症 例 主訴:浮腫 家族歴:特記すべきことなし 既往歴:1996年~外陰部papilloma virus病変。2001年外陰部Bowen病切除+植皮術。2002年

症  例主訴:浮腫家族歴:特記すべきことなし既往歴:1996年~外陰部papilloma virus病変。

2001年外陰部Bowen病切除+植皮術。2002年12月肺ノカルジア症。2003年2月帯状疱疹,ヘモクロマトーシス現病歴:2002年9月結膜黄染と息切れを自覚,

著明な貧血を指摘され10月当院入院。自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断で

PSL1mg/kg投与開始したが,再度貧血の進行あり。溶血所見なく網状赤血球低値,骨髄穿刺液(BMA)で赤芽球癆(PRCA)と診断。巨大前赤芽球に核内封入体を認め,末梢血のparvo-

virus B19(PVB19)のDNA(PCR)陽性,PV

抗体 IgMの4倍以上の抗体価上昇より,PVB19

感染によるPRCAと診断。入院後に投与したMAP製剤が,PVB19の抗原・DNA共に陽性で,ウイルスDNA配列が患者のものと一致したため,感染経路と考えられた。持続するPRCAに対し,免疫グロブリン大

量療法(IVIG;20~ 50g/日)を繰り返し投与。IVIG後に網状赤血球数は回復したが,末梢血中のPVB19は陰性化せず。AIHAに対して ste-

roidを減量すると溶血による貧血が進行するため,15~ 20mg/day継続。

2003年4月より血小板減少を認め,Evans症候群と診断。8月からAIHAに対しRituximabを

投与。溶血とPRCAの増悪を繰り返す。2004年1月,脾摘施行。PSL 20mg/5mg隔日

投与まで減量,血小板数も回復。2月中旬より,全身の浮腫が出現,体重3kg増加のため入院となった。入院時身体所見:身長:155 cm,体重:50.6

kg,体温:36.9℃,血圧:100/60 mmHg,脈拍:100/分,意識:清明,結膜:貧血(+),黄疸(-),表在リンパ節:触知せず,四肢:下肢pitting

edema (右<左),胸部:心雑音(-), ラ音(-),腹部:肝臓;2横指触知,辺縁鈍,脾摘後の術創(+),神経学的所見:特記すべきことなし入院時検査所見(表1,表2):貧血を認め

るが,血小板は45万と増加。生化学では,低蛋白血症を認める。LDHは軽度上昇。総コレステロール,中性脂肪は高値,HbA1cは低値。鉄,UIBCは低値で,フェリチンは非常に高値であった。尿所見は,蛋白・潜血ともに陽性。定量では8g以上の蛋白尿。クレアチニンクリアランスは50ml/minであった。免疫グロブリン,補体は低値。ハプトグロビン低値,Coombsは直接,間接ともに陽性,自己抗体は,陰性であった。腎生検までの臨床経過(図1,図2):LDH

上昇から溶血の悪化に対してステロイドを増量すると,網状赤血球の減少がみられPRCA

crisisとなり,IVIGで改善ということを繰り返している。血小板は脾摘後に増加している。血清蛋白,アルブミンの推移では,2004年2

パルボウィルスB19感染症による赤芽球癆(PRCA)に伴った膜性増殖性糸球体腎炎 (MPGN) I型の一例

香 取 秀 幸1  星 野 純 一1  澤   直 樹1

田 上 哲 夫1  乳 原 善 文1  竹 本 文 美1

原   重 雄2  原   茂 子3  高 市 憲 明1

1虎の門病院 腎センター  2病理部  3健康医学センター Key Word:パルボウィルスB19,膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN),赤芽球癆,溶血性貧血

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第42回神奈川腎炎研究会

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[血算]RBC 225 x104 μ l

Hb 8.5 g/dl

Ht 26.2 %

Plt 45.7 x104 μ l

WBC 6200 μ l

[生化]TP 4.4 g/dl

Alb 2.4 g/dl

alb 63.5 %

α1 7.0

α2 14.3

β 7.0

γ 8.2

T.Bil 0.5 mg/dl

BUN 17 mg/dl

Cre 0.9 mg/dl

Na 142 mmol/l

K 4.1 mmol/l

Cl 106 mmol/l

Ca 4.2 mmol/l

P 4.7 mg/dl

AST 37 IU/l

ALT 22 IU/l

LDH 370 IU/l

ALP 165 IU/l

CRP 1.3 mg/dl

TC 342 mg/dl

TG 421 mg/dl

HDL 52 mg/dl

FBG 75 mg/dl

HbA1c 2.3 %

Fe 36 μg/dl

UIBC 124 μg/dl

Ferritin 6167 μg/dl

[凝固系]PT INR 0.89

APTT 20.0 sec

表1.入院時検査所見

[尿]pH 6.5

糖 (-)蛋白 (3+)潜血 (3+)沈渣:RBC 11-30 / HPF

WBC 11-30 / HPF

尿蛋白 8.43 g/日

[腎機能]Ccr 50.5 ㎖/ min

[免疫]IgG 226 mg/dl

IgA 28.9 mg/dl

IgM 209 mg/dl

CH50 3

C3 14 mg/dl

C4 0 mg/dl

Cryoglobulin (±)Haptoglobin 9 mg/dl

Coombs: D(+) ID(+)抗核抗体 5.9

抗dsDNA抗体 0.1 IU/ml

C1q <1.0 μg/ml

抗カルジオリピン抗体 <1.3 IU/ml

抗GBM抗体 <10 U

表2.入院時検査所見

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月頃から低下がみられている。尿蛋白は1月には0.03g/gCrだったが,入院時は8g以上であった。腎疾患の診断のため腎生検を施行した。

腎生検所見:組織は全て皮質領域で,糸球体は47個採取した。完全な硬化に陥ったものはなかった。尿細管の萎縮と間質の限局性拡大を所々に認めるが,炎症細胞浸潤はごく軽度であった(図3)。メサンギウム基質の増加,細胞の増殖はともに高度であった。狭小化した係蹄内腔には好中球を伴う炎症細胞浸潤が散見された。係蹄基底膜の二重化は高度で広範囲であった。Spike形成はなく,半月体形成分節状硬化巣は認めなかった(図4)。尿細管上皮細胞の空胞化を認めるところも

あった。小葉間動脈,細動脈の硝子様硬化は認

められなかった(図5)。蛍光所見では,IgG,IgM,C3がメサンギ

ウム領域,係蹄壁に陽性であった。C4,C1q

は+/-であった(図6)。IgGサブクラスでは,IgG1が優位であった(図7)。電子顕微鏡では,メサンギウム領域,内皮下

に多量のdepositを認めた。ウィルスパーティクルは,認められなかった(図8)。

考  察パルボウィルスB19は,DNAウィルスで,

健常人では伝染性紅斑の原因となる。通常は再感染を起こさない。赤血球の turnoverが亢進している,溶血性疾患の場合などにはaplastic

crisisを発症する。免疫不全患者では,持続感染となる危険が高くなる。分子量が小さく,加

Auther Clinical findings Histlogical findings PV detection

Markenson AL, et al

Am J Med, 1978

sickle cell anemia and

hemolytic crisis

FSGS or MCNS

Wierenga KJJ, et al

Lancet, 1995

Sickle cell disease, 7人 Prolif seg GN, FSGS

Chakaravarty, Merry

Postgrad Med J, 1999

MesPGN

Tlaymat et al

Pediatr Nephrol, 1999

Sickle cell desease and

aplastic crisis

focal MesPGN PCR(+),

serum(-)Challine-Lehmann D, et al

Nephron, 1999

SHP, 15人 SHP 7/15 serum IgG

Tanawattanacharien S, et al

AJKD, 2000

20/40人FSGS, MN, MCNSの比較

17/20(+) vs 13/20

Komatsuda A, et al

AJKD, 2000

伝染性紅斑 , AGN, 全身浮腫 Endocap PGN HIC(+)

Schmid ML, et al

Ann Int Med, 2000

急性感染症 acute prolif GN antigen(-)

Nakazawa T, et al

AJKD, 2000

急性感染症,全身浮腫 , 4人 DNA(PCR); (+)

Moudgil A, et al

Kidney Intern, 2001

23/96人HIVGN/FSGS/controlとの比較

Collapsing glomerulopathy DNA(+ ; 78.3%),

ISH(+)Takada S, et al

Nephron, 2001

急性感染症,6人 Endocap PGN PVB19 capsid antigen:

negative

表3. PVB19と関連する腎病変

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熱しても不活化されないため,輸血や血液製剤を介して感染した報告がある。パルボウィルス感染症と腎病変の関連につ

いて文献的に調べてみると(表3),1978年のsickle cell anemiaの患者での報告を初めとして表に示すような症例があった。腎生検組織からの検索では,FSGSの症例,あるいはFSGS組織からのDNA検出の報告が多くみられる。急性感染症後には,急性腎炎症候群を呈し,増殖性腎炎,管内増殖性腎炎の報告がみられる。腎組織でのウィルスDNA,抗原の検出は陽性・陰性いずれもあった。本例の骨髄穿刺液の所見では,前巨赤芽球に

核内封入体を認める(図9)。本例でパルボウィルスの関与をパルボウィルスに対するmonoclo-

nal 抗体を用いて染色をしたところ,骨髄では,陽性に染色される細胞を認めたが,糸球体では染色されなかった(図10)。パルボウィルスの持続感染の他にも,感染

症,AIHAという自己免疫性疾患の合併より本例の基礎疾患として免疫異常が存在すると考えられる。現在のところ最も合致する疾患として,Common Variable Immunodeficiency (CVI)を考えている。感染症,自己免疫疾患など多彩な疾患が同一症例に起こり,中でもAIHAと血小板減少は多くみられる。本例の病態を図で示すと図11のようになる。

AIHAに対するステロイドは,PVB19感染には逆影響となる。CVIの存在が,AIHAとパルボウィルスの持続感染を引き起こしていると考えられる。

まとめAIHAとパルボウィルス感染による赤芽球癆

に合併したネフローゼ症候群の一例を経験した。腎生検では,MPGN type Iであった。パルボウィルスのmonoclonal抗体を用いた検索では,骨髄で陽性,腎組織では陰性だった。本例の腎炎発症の機序についてご検討頂けれ

ば幸いです。

02468

1012

024681012

0 30 60 90 120 150 180 210

(g/d

l)

Hb

0102030405060

0 30 60 90 120 150 180 210

(x10

^4/É

l)

Ret

Plt

0200400600800

0 30 60 90 120 150 180 210

(IU

/l)

LD

2003 2004Sep. Oct. Nov. Dec. Jan. Feb. Mar. Apr.

��� ����

20mg 30mg 40mg 20/5mgIVIG

PSL

図1. 臨床経過

0

1

2

3

4

5

6

7

8

0 30 60 90 120 150 180 210

(g/dl) TP

Alb

2003 2004Sep. Oct. Nov. Dec. Jan. Feb. Mar. Apr.

���

��������� �������

��� ����

20mg 30mg 40mg 20/5mgIVIG

PSL

図2. 臨床経過

Masson-Trichrome x100

図3. 腎生検弱拡像

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PAS x400

PAM x400

図4

HE x400

PAS x200

図5

��� ��� ���

�� �� ���

図6. 蛍光染色

���� ����

���� ����

図7. IgGサブクラス

図8. 電顕所見

HE x40

Gimsa x40

図9. 骨髄穿刺液

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�����

����

図10. PVB19 monoclonal Ab染色

PRCA (������)PRCA (������)

Anemia

AIHA (������)AIHA (������) PSL

PVB19PVB19

IVIG

CVICVI

�����

����

MPGN

MAPMAP

?

?

図11. 本症例の病態

討  論 大竹 ありがとうございました。ただいまのご演題について,何か臨床的側面からのご質問はありますでしょうか。 先生,1つ,まずよろしいでしょうか。この患者さんの抄録を読んで,きょう発表を聞かせていただいたときに,パルボウイルスB19の感染を契機ということですが,多彩な免疫異常があって,最終的には摘脾をきっかけにネフローゼが顕性化したということで,SLEのcriteriaを臨床的に満たすということはないでしょうか。香取 SLEに関しては,自己抗体なども含めて見ると,確定診断まではいきません。大竹 腎生検の IFではC1qはどうだったでしょうか?

香取 ちょっと怪しいところなので,最初からSLEなどを疑われていろいろ検査を繰り返されていたのですが,腎生検のC1qは怪しいかなと思いました。紅斑,漿膜炎などの全身症状として追加されることはあまりありません。大竹 その他,いかがでしょうか。先生,お願いします。小林 今の質問に関連するのですが,パルボB19のassociated nephropathyということで査読をしたときにいろいろ調べたり,そのものをずっと見たりして,やはりSLEの非常に早いときの,SLEはもっといろいろな症状が整ってきて,やがて自己抗体もはっきりとしたり,顕性の臨床症状が出てきます。その前段階でウイルスが惹起して,免疫異常が生じて障害を惹起している。この両者の異同について,なかなか難しいのではないかということで,大竹先生の言われるSLEの早い時期を見ているかもしれないので,今後,フォローをしていただいてどうかなと思いました。香取 当院でも,蛍光の腎組織からループス腎炎をどうでしょうかというレポートが返ってきていますので,今後,SLEについては慎重にフォローしたいと思っています。

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大竹 お願いします。遠藤 東海大学の遠藤ですが,腎炎そのものに対する治療の経過はお話しされましたか。香取 腎炎に関しては,ステロイドはもともと使っている病気がありますので,さらに増やすことはパルボウイルスの関係でできません。遠藤 今はそのままの状態が続いているということですか。香取 ステロイドは,そちらに関してそのままです。ACE inhibitorを使うようなこともやってみましたが,蛋白尿が少し出ています。遠藤 今はあまり改善していない状態ですか。香取 ご本人が気持ちが悪くなるということで,継続できない状況です。遠藤 それから,この方はC4が最初から測定感度以下で0でしたが,それ以前に補体価は測定されたことがありますか。香取 最初に測ったときから。遠藤 0というのは,ほとんど見たことがないので。先天的な補体欠損がないかということを考えたものですから。香取 1桁ということで,非常に低値です。遠藤 では,C4が測定されたこともあるわけですか。香取 はい。遠藤 その後,治療で補体がどう動いたかというのは,ほとんど低補体のまま,あのままの状態が続いているわけですか。香取 低補体のままです。遠藤 わかりました。基本的に,先ほど先生のcommon variable immunodeficiencyというのはありましたが,頻度としては先天的な補体欠損が多く,細菌感染を繰り返したり,感染症を繰り返して,それもMPGNのような病変をともなうという。以前に補体欠損にともなう腎炎を調べたら,かなりの頻度でMPGNをともなうので,そちらのほうかと思ったものですから。大竹 はい,お願いします。河西 北里の小児科の河西です。パルボというと小児科で非常にコモンなものですが。私はこ

ういうケースを経験しました。下肢の非常に典型的なHSPを思わせる紫斑で,ぱらぱらと両下肢に出て。これはもうHSPだろうということで採血,採尿をしましたら,軽い潜血が出ていて,血小板が7万から8万ぐらい動くのですね。これはおかしいぞということで,しばらく経過を見ていましたら,その兄弟が伝染性紅斑を発症して。この患者さんでパルボを調べたら,陽性に出ました。ただ,小児科領域ではパルボを調べると,全部,保険で査定されてしまいます。妊婦さんしか,本当はとれないので。ただ,30歳の女性ならとれるかと思うのですが。 ですから,このケースではすぐに消えてしまいましたので,また一過性の感染で,すぐに治まりましたので,腎生検まではいかなかったのですが。そういう軽症のケースはけっこうあるのではないかと思いました。紫斑までぱっと出ますと,HSPとの鑑別が必要になってくると考えました。そんなケースもあるということで参考までに。大竹 ありがとうございます。その他,いかがでしょうか。はい,先生,どうぞ。守矢 湘南鎌倉総合病院,腎臓内科の守矢という者ですが。先ほど治療の話がちらっと出て,なかなかステロイドも増量しづらい,ACE阻害剤もということですが,SLEかどうかは別にして,赤芽球癆もある。それから,難治性のネフローゼもあって,シクロスポリンのようなものはどうなのかと今,思ったのですが。何か,パルボに対してシクロスポリンが逆に悪さをするとか,ほかの治療についてご検討された経緯はあるのでしょうか。香取 血液内科の先生がずっと診ていらっしゃるのですが,とにかくウイルスを消すことが第一だろうということで,免疫抑制に関する薬はまず使えないというか,使いたくないというお話でした。cytotoxic T cellで,自分のT cellをactivateして輸注するという方法を東大の先生と合同で何回かやっているのですが,それでもウイルスはまだ持続陽性のままです。だんだん

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IVIGの頻度も増えて,今後,どうしようかということで頭を悩ませているところです。守矢 ありがとうございます。大竹 その他,いかがでしょうか。香取 蛋白尿は入院して安静にすると3g程度までは減りますけれども,何回か入退院を繰り返して,体液過剰の状態を何とかコントロールしながら,3gから8gぐらいまでのあいだの蛋白尿で経過しています。大竹 ネフローゼが顕性したのは脾摘後ということは,それはいいんでしょうか。ネフローゼが顕性化したのはその後だということで。1月に摘脾をして,たしか2月以降でしたか。では,腎生検病理のコメントをお願いいたします。よろしくお願いします。重松 【スライド01,02】管内の増生もあるし,膜も厚くなっている。mesangiocapillaryの増生があるということですね。MPGNについては急性のステージと,本当にできあがった,estab-

lishした時期と,やはり組織像に違いがあるだろうということが言えると思いますが。それはPAM染色で見るとよくわかります。【スライド03】PAM染色で見ますと,急性腎炎と同じく,endocapillary GNで,まだほとんどメサンギウムmatrixが増えてない。ただ,このようにdouble controlが出てきているのがendo-

capillary GNと違いますけれども。細胞外基質がまだふえていないという点は非常にendocap-

illary GNとよく似た,したがって急性のMPGN

病変と見ていいのかと思います。【スライド04】ここでもごく一部には二重化がありますが,ほとんど軸部のmatrixもそう増えていない。むしろ網状化しているような状態です。【スライド05】一部,二重線になっていますが,これは上皮下の基底膜と内皮の下に新しくできた基底膜で二重化しているわけで,まだここにmesangial cellが入り込んで,完全なmesangial

matrixをつくるまでには至っていないのだろうと思います。

【スライド06】そうですね。これも非常に微妙で,この辺に遊走細胞と思われるような細胞が内皮下に入り込んでいる,そういうMPGN like

lesionも一緒に見られます。【スライド07】こういう大きな細胞,内皮細胞やmacrophage,好中球はあまり目立ちませんけれども,そういう管内細胞増殖がかなりあるということです。【スライド08】私たちが経験したパルボウィルスB1の感染症では,endovasculitis,peritubular

capillaritisが著明で,あまり immune depositはありません。きょうの症例はきれいな immune

depositがありますので,ICがからんだ腎炎だと思いますが,我々の症例はendocapillary GN

だけれど,血管炎的な様相がよく出ている症例でした。この症例でも,ちょっとそれを示唆するようなところがありますが,ずっと軽い変化だと思いました。【スライド09】ごらんのように,軽いレベルの血管病変peritubular capillaritisが見られます。【スライド10】これもperitubular capillaryの炎症です。 ということで,今まで演者が出していましたように,パルボウィルス感染による腎病変には,だいたい病理のほうから見ると3つぐらいの組織型が報告されています。1つはきょうのようなMPGNタイプになるもの,それからもう1つは内皮細胞がすごく障害されて,HUSのようになってしまう症例です。それから,我々が経験したように,あまり immune complexが見えないで,細胞性免疫異常が出てきた増生性の腎炎。そういうものがある。いろいろなタイプがあるのだろうと思います。ということで二次性のMPGNということでしょうけれど,整理していかなければならない点が多くあると思います。山口 【スライド】この症例はMPGNでいいのか疑問もあると思う。それから,パルボウイルスB19と腎炎がからんでいるのかどうか,問題点が2つあると思います。

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【スライド】弱拡で糸球体はhyper cellularでlobulationがある。尿細管のvacuolizationはネフローゼにからんだ病変と思います。【スライド】尿細管上皮内へのヘモジデリンの沈着があちこちにあります。これは溶血性貧血のエピソードにからんで,糸球体性に漏れている感じはします。人工弁や夜間性,発作性血色素尿症のときなど,ところどころ目立っているそれから,糸球体に外来性の細胞浸潤が主体で,既存のメサンギウムなどは動いてないように思います。【スライド】ヘモジデリンの沈着が糸球体の一部にも見られた。【スライド】lobulationがあって,メサンギウムのところにヘモジデリンの沈着があります。基底膜が肥厚しているのが,通常のendocapillary

にしては違う。メサンギウムはmatrixがルーズに増えている。それから,外来性の細胞が,foam cellが入っている。capillaryの中は多核球,単球系が多いですが,一部,foam cellも,もしかするとヘモジデリンの沈着などがからんでいるのかもしれません。【スライド】capillaryの中は細胞に富んで,めいっぱい入り込んで,糸球体全体が尿細管極まで大きくなって,育っているという状態です。【スライド】PAMで見ても,ご覧のとおりです。外来性の細胞で,double controlも広範囲にあるように思います。【スライド】この辺がcapillaryだとすると,内皮下の領域が開大している状態で。組織像的にMPGNと言っていいと思います。【スライド】そこの強拡大像です。【スライド】IgGと IgMで,メサンギウムと

peripheral,IgMがperipheralに比較的強いです。IgGはややgranularな感じで,メサンギウムにも両方,強陽性に出ていると思います。【スライド】C3に同じようにperipheralで,メサンギウムにも IgG,IgM,C3の強度はほぼ同じぐらいで,少しパターンが違う。C1qはそれほど強くないです。組織像的にはSLEを示唆す

ることにならないのではないかと思います。【スライド】電子顕微鏡で好中球,単球,mac-

rophage,endothelが増えています。それから,基底膜下の沈着物が比較的広範囲に,それほど多量ではありませんけれども,だいたいparamesangiumから内皮下にかけて広範囲に見られています。メサンギウムにも単球様の細胞が入り込んでおります。【スライド】好中球,これはendothelでしょうか。サブエンドの沈着は明瞭です。paramesangium

にまで及んで,mesangial matrixにも少し見えて特に構造があるわけでもなく,SLEのとき濃染するようなdepositが出てきます。mesangial

interpositionでmesangial cellが入り込んで,par-

tialな interpositionが見られています。mesangial

matrixにもdepositがある。組織学的にはMPGN

でいいと思います。 パルボ19で順天堂の小児科で同じようなMPGNのケースレポートが2003年の『Pediatric

Nephrology』に出ていますが,抗体で染めますと immunoglobulin,あるいはC3と同じパターンで,mesangial peripheral patternで抗体で出ている。先ほど遠藤先生から問題にされましたが,補体欠損にともなうMPGNも,この症例では考えておかなければないかと。血中のレベルばかりでなく,各補体系のファンクションを調べる必要があると思います。以上です。大竹 ありがとうございました。今の腎生検病理のコメントで,香取先生,いかがですか。香取 この方は血液内科から相談があったときに,あちらでcommon variable immunodeficiency

がベースにあったところに,パルボウイルスの感染症がかぶっての赤芽球癆というお話がありました。そういうおかしな不規則抗体ができているので,クリオグロブリン血症に見られるような,何かそういうdepositがあってのMPGN

なのかなという想像で腎生検を最初にしたのです。これがパルボウイルスの感染と関係するのかどうかというのは,本当に今でも疑問には思っています。

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Page 10: パルボウィルスB19感染症による赤芽球 …...症 例 主訴:浮腫 家族歴:特記すべきことなし 既往歴:1996年~外陰部papilloma virus病変。2001年外陰部Bowen病切除+植皮術。2002年

 2年くらいのあいだの持続感染ではありますが,急激に発症していること,白血球,多核球の浸潤などもあって,かなり増殖性のような,急性腎炎のような様相も呈しているのではないかと思うのですが。腎炎としては,わりと最近,起こってきたものと考えたほうがよろしいでしょうか。山口 腎炎は古くないと思います。最近のことではないです。ただ,溶血は以前からあったので,その影響が出ている。大竹 はい,お願いします。木村 聖マリアンナ医科大学の木村ですが,病理の所見で教えていただきたいのですが。この腎生検の組織像は尿蛋白が8gのときですね。そのわりには電顕所見で上皮細胞の足突起が非常によく保たれているのですが。これはどういうことが考えられるのでしょうか。非常にきれいで,8gの尿蛋白が出ているネフローゼ症候群とは考えられないような組織像ですが。山口 もう1回,電顕を出して。先生,そんなについてなかったですか。木村 ええ。ものすごくきれいに。山口 所見のとり方で,この辺は先生,ついています。ごまかすわけではないのですが。どうでしょうか,この辺はずっとフラットになっているように思います。木村 ああ,一部ですね。山口 もう1枚ありましたね。強拡大でここはついていますね。MCNSと違って,びまん性にはきませんので。このぐらいついていれば,いいと思います。木村 MCNSと違って,この膜性増殖性糸球体腎炎でこの程度でもあるということですか。山口 はい,この程度でいいと思います。木村 ありがとうございます。 それから,先ほど山口先生がMPGNでいいかどうかという問題点をあげられて,最終的にはMPGNと言われていますが,これはglomeru-

lonephritisということではいいと思いますが,MPGNという典型的なものではないと思うの

ですが。これでかなり,むしろ最初,重松先生がおっしゃったように,形態的にはendocapil-

lary glomerulonephritisという範疇に入るものではないかと思うのですが。それはMPGNと言ったほうがよろしいのでしょうか。もう一度,教えていただきたいと思うのですが。重松 なかなかそれには難しい点がありますが,たしかにおっしゃるように,もちろん問題になるのは secondaryのMPGNですね。MPGN

にもステージがあって急性期にはendocapillary

様で慢性完成期に通常のMPGNパターンをとるわけです。 この症例は,私は非常に早期の secondary

MPGNというように,double controlとか,そういうものはかなりありますので,そう見ましたけれども,lobular GNではあまりdouble control

とか,メサンギウムが係蹄壁に出ていくということがあまりないのですね。そういう点で,MPGN自体かなり動きのあるものだと思うのです。はっきりした結論は出せませんけれども,そういう見解を私は持っています。木村 ありがとうございます。大竹 はい,お願いします。岡本 私見の仮説ですが,脾摘をしたあと腎症が悪くなって,障害は新しいものということですが。今の状態であっても,赤血球に自己免疫性の抗体がついているということで,脾摘する前の段階ではRBCは,主な網内系である脾臓で処理されていましたが,肺,腎臓,肝臓など second lineの網内系で処理されるように移ってしまったという可能性を考えてですね。それが腎臓において第二の網内系として働きはじめて,そういう長年の溶血性の変化でヘモジデリンが腎臓の尿細管,糸球体に沈着していたりするのでしょうか? 網内組織としての変化が腎臓に起きていることは,仮説としてはどうでしょうか。一度,病理の先生にお話を聞きたいと思うのですが。山口 mesangial cellもそれほど貪食能がないと一般的に言われています。先生が言われるよう

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に,体の中に immune complexなり,それに類似したものがあふれ出たときに,糸球体,腎に悪さをすることはあるだろうと考えられます。大竹 その他,いかがでしょうか。非常に貴重な症例を見せていただきまして,組織像も非常に勉強になりました。遅くまで,きょうはどうもありがとうございました。これで後半のセッションを終わらせてもらいます。

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