ダイビング「に」溺れる44 海は面白い スクーバダイビング歴20年で...

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44 海は面白い スクーバダイビング歴20年で す。年数こそ重ねていますが,最 初の10年間で潜った数は,わずか 50本。もっぱら日帰りで,伊豆近 辺でのダイブばかりでした。 ターニングポイントは2010年, 幸運にも常勤職を得て数年目のこ とです。初めてウェットスーツ をあつらえて,慶良間諸島へ行き ました。トロピカルな海,カラフ ルな生きものやサンゴ礁,ドライ スーツと違って動くのも自在。そ りゃあ,楽しくないわけがありま せん。その数ヵ月後には小笠原諸 島へ行き,慶良間とは全く雰囲気 の違うボニンブルーの海に魅了さ れました。他の地域を知ったこと によって伊豆の特徴と魅力にも改 めて気づき,急激に海の面白さに 引き込まれていきました。 ここ数年は,1年間 4 4 4 で50本以上 潜るのが当たり前になっていま す。 趣味から研究・実践へ? 2012年の日心大会で,ダイビン グ経験と水中ナビゲーション感覚 の関連を調べた研究 1 を見つけま した。聞けば,発表者の先生はダ イビングがご趣味で,プロ資格も お持ちとのこと。お話を伺って, 私も何らかの形でダイビングに関 する研究をしてみたいと思うよう になりました。 プロ資格を取れたのは2017年 です。講習を通して水中ガイドや インストラクターの視点を知って からは,水中でダイバーの行動を 観察するのも面白くなってきま した。同じく2017年,縁あってア ンダーウォーター・インタープリ ター養成セミナー 2 にも参加し, 認定を受けました。 実践経験のないままでは,実際 に人を水中に連れていくことは おいそれとはできませんが,いつ か,ダイバーの研究や,インター プリテーションの実践ができたら いいなと思っています。 海の市民科学・サンゴマップ ダイバー「の」研究はしていま せんが,ダイバー「としての」研 究(協力)は一つしました。それ は「サンゴマップ」 3 。サンゴの 状態は,実際に水中に入って目視 しないと詳細がわからないため, 研究者や専門家だけでは調査の手 が足りません。そこで,市民の調 査報告を募ろうという活動です。 2018年には「サンゴマップ・ キャラバン」が組まれ,これに参 加しました。キャンピングカーで 鹿児島県の海辺を旅しながら,サ ンゴの調査と,サンゴマップの周 知・広報活動をしてきました。 ちなみに,サンゴマップはダイ バーに限らず誰でも参加できま す。みなさまもぜひ,海水浴や磯 遊びのついでにサンゴを観察し て,マップに登録してみてくださ い。 日本の海が面白い よく「どこの海がいい?」と訊 かれます。一つに絞ることはでき ませんが,私は日本の海が断然面 白いと感じており,国内のあちこ ちで潜ってきました。北は知床, 流氷の浮かぶ真冬の海から,南は 西表島まで。同じ日本でも場所に よって海の様子は全く違います し,同じ場所でも季節によってや はり海の様子が違います。どれ一 つとして同じ海はなく,飽きるこ とはありません。 密かな目標は,海のある都道府 県全てで潜ることです。ダイバー 仲間にすら「マニアックだね」と 言われながら,少しずつ経「県」 値を上げています。最近潜ったと ころでは,大田(島根県)や沖ノ 島(福岡県 ※上陸はしていませ ん)がなかなか印象的でした。 直近の予定は,女川(宮城県) です。かの地では,津波で流され たものの捜索ダイビングが行われ ています。難しい潜水なので,今 すぐ私がそれに加わるのは無茶で すが,海底デブリ回収に関する講 習があるそうなので,まずはそれ を受けてみるつもりです。 2019 年 7 月 現 在,ダ イ ブ 数 は 455本まできました。さて,500本 記念はどこで潜ろうかなあ。 1 本誌63号に,この研究の紹介があり ます(中村信次「水中でのナビゲー ション感覚」) 2 日 本 安 全 潜 水 教 育 協 会(JCUE  https://jcue.net)による活動 3 日本全国みんなでつくるサンゴマッ プ(https://www.sangomap.jp) ダイビング「に」溺れる 青山学院女子短期大学 准教授 武田美亜 (たけだ みあ) 2008年,東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程修了。 2013年より現職。専門は社会心理学。国立科学博物館認定 サイエンスコミュニケータ,JCUE認定アンダーウォーター インタープリター,PADIダイブマスター,潜水士。著書は 『心理学基礎実験を学ぶ』(分担執筆,北樹出版)など。 ガラスハゼ。体長約 3cm

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海は面白い スクーバダイビング歴20年です。年数こそ重ねていますが,最初の10年間で潜った数は,わずか50本。もっぱら日帰りで,伊豆近辺でのダイブばかりでした。 ターニングポイントは2010年,幸運にも常勤職を得て数年目のことです。初めてウェットスーツをあつらえて,慶良間諸島へ行きました。トロピカルな海,カラフルな生きものやサンゴ礁,ドライスーツと違って動くのも自在。そりゃあ,楽しくないわけがありません。その数ヵ月後には小笠原諸島へ行き,慶良間とは全く雰囲気の違うボニンブルーの海に魅了されました。他の地域を知ったことによって伊豆の特徴と魅力にも改めて気づき,急激に海の面白さに引き込まれていきました。 ここ数年は,1年間

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で50本以上潜るのが当たり前になっています。趣味から研究・実践へ? 2012年の日心大会で,ダイビング経験と水中ナビゲーション感覚の関連を調べた研究 1を見つけました。聞けば,発表者の先生はダイビングがご趣味で,プロ資格もお持ちとのこと。お話を伺って,私も何らかの形でダイビングに関する研究をしてみたいと思うようになりました。 プロ資格を取れたのは2017年です。講習を通して水中ガイドやインストラクターの視点を知ってからは,水中でダイバーの行動を観察するのも面白くなってきま

した。同じく2017年,縁あってアンダーウォーター・インタープリター養成セミナー 2にも参加し,認定を受けました。 実践経験のないままでは,実際に人を水中に連れていくことはおいそれとはできませんが,いつか,ダイバーの研究や,インタープリテーションの実践ができたらいいなと思っています。海の市民科学・サンゴマップ

 ダイバー「の」研究はしていませんが,ダイバー「としての」研究(協力)は一つしました。それは「サンゴマップ」3。サンゴの状態は,実際に水中に入って目視しないと詳細がわからないため,研究者や専門家だけでは調査の手が足りません。そこで,市民の調査報告を募ろうという活動です。 2018年には「サンゴマップ・キャラバン」が組まれ,これに参加しました。キャンピングカーで鹿児島県の海辺を旅しながら,サンゴの調査と,サンゴマップの周知・広報活動をしてきました。 ちなみに,サンゴマップはダイバーに限らず誰でも参加できます。みなさまもぜひ,海水浴や磯遊びのついでにサンゴを観察して,マップに登録してみてください。日本の海が面白い

 よく「どこの海がいい?」と訊かれます。一つに絞ることはできませんが,私は日本の海が断然面白いと感じており,国内のあちこちで潜ってきました。北は知床,流氷の浮かぶ真冬の海から,南は

西表島まで。同じ日本でも場所によって海の様子は全く違いますし,同じ場所でも季節によってやはり海の様子が違います。どれ一つとして同じ海はなく,飽きることはありません。 密かな目標は,海のある都道府県全てで潜ることです。ダイバー仲間にすら「マニアックだね」と言われながら,少しずつ経「県」値を上げています。最近潜ったところでは,大田(島根県)や沖ノ島(福岡県 ※上陸はしていません)がなかなか印象的でした。 直近の予定は,女川(宮城県)です。かの地では,津波で流されたものの捜索ダイビングが行われています。難しい潜水なので,今すぐ私がそれに加わるのは無茶ですが,海底デブリ回収に関する講習があるそうなので,まずはそれを受けてみるつもりです。 2019年7月現在,ダイブ数は455本まできました。さて,500本記念はどこで潜ろうかなあ。

1 本誌63号に,この研究の紹介があります(中村信次「水中でのナビゲーション感覚」)

2 日本安全潜水教育協会(JCUE https://jcue.net)による活動

3 日本全国みんなでつくるサンゴマップ(https://www.sangomap.jp)

ダイビング「に」溺れる青山学院女子短期大学 准教授

武田美亜(たけだ みあ)

2008年,東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程修了。2013年より現職。専門は社会心理学。国立科学博物館認定サイエンスコミュニケータ,JCUE認定アンダーウォーターインタープリター,PADIダイブマスター,潜水士。著書は『心理学基礎実験を学ぶ』(分担執筆,北樹出版)など。

ガラスハゼ。体長約3cm