アセスメントにおける「検査法」の利用について 2009 年8...

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1 アセスメントにおける「検査法」の利用について 2009 8 30 金井孝明 1.アセスメントにおける検査法の位置づけ Plan-Do-Check-Action を明確に位置づけ、実践の充実をめざすために、計画性と一貫性のある指導計画 の作成に必要なアセスメントについて考える必要があるでしょう。アセスメントの方法として、「観察法」、 「情報収集法」、「検査法」の3つの方法を考えることができますが、今回は、「検査法」に関して、その利用 の方法を筆者の実践や経験から提案してみたいと思います。 一般に、アセスメントと言えば、その領域と方法、およびそれらによる目標や課題の設定、指導方法や支 援の工夫の選択までを含んでいると考えることができます。これらの関連は次の図のように考えることがで きるでしょう。なお、検査法に書かれている諸検査は、筆者の勤務校で現在実施しているもののみを示して います。 (※)自閉症の5つの心理学的な特性とは、中枢性統合の弱さ、実行機能の困難、セオリーオブマインドの弱さ、同時処理>継 次処理、感覚機能の特異性をさしている。 (※) アセスメント領域 観察法 情報収集法 検査法 認知発達 言語能力(理解、表出) 認識力(情報処理) 障害特性 自閉症の特性の有無と程度 固有覚、前庭覚、触覚の特性 身体機能 微細運動 粗大運動 社会的能力(社会性) 対人関係 社会的行動 PVT-RLDT-RWPPSIWISC-3K-ABCDAMPEP-3、・・・ CARS JSI-R KIDSPEP-3新版 SM 社会生活能力検査 新版 SM 社会生活能力検査、 KIDS ・個別の教育支援計 画の作成 ・日常生活の観察 ・個別の教育支援計 画の作成 ・家庭生活表の利用 ・家庭訪問の実施 ・他機関との連携、 引き継ぎなど ・必要な検査の実施 アセスメントの方法 (観点)自閉症の5つ の心理学的な特性 コミュニケーション サンプルの収集 目標・課 題の設定 指導方法や支援の 工夫の方法設定 決定に向けて 生活環境・成育歴 (生活年齢含む) T.Kanai(2008,11) は、非常に当てはまる。 は、一部に当てはまる。 ※表中の、

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    アセスメントにおける「検査法」の利用について

    2009年 8月 30日 金井孝明

    1.アセスメントにおける検査法の位置づけ

    Plan-Do-Check-Action を明確に位置づけ、実践の充実をめざすために、計画性と一貫性のある指導計画の作成に必要なアセスメントについて考える必要があるでしょう。アセスメントの方法として、「観察法」、

    「情報収集法」、「検査法」の3つの方法を考えることができますが、今回は、「検査法」に関して、その利用

    の方法を筆者の実践や経験から提案してみたいと思います。 一般に、アセスメントと言えば、その領域と方法、およびそれらによる目標や課題の設定、指導方法や支

    援の工夫の選択までを含んでいると考えることができます。これらの関連は次の図のように考えることがで

    きるでしょう。なお、検査法に書かれている諸検査は、筆者の勤務校で現在実施しているもののみを示して

    います。

    (※)自閉症の5つの心理学的な特性とは、中枢性統合の弱さ、実行機能の困難、セオリーオブマインドの弱さ、同時処理>継

    次処理、感覚機能の特異性をさしている。

    (※)

    アセスメント領域 観察法 情報収集法 検査法

    認知発達 言語能力(理解、表出) 認識力(情報処理)

    障害特性 自閉症の特性の有無と程度

    固有覚、前庭覚、触覚の特性

    身体機能 微細運動 粗大運動

    社会的能力(社会性) 対人関係 社会的行動

    PVT-R、LDT-R、WPPSI、 WISC-3、K-ABC、DAM、 PEP-3、・・・

    CARS

    JSI-R

    KIDS、PEP-3、 新版 SM 社会生活能力検査

    新版 SM 社会生活能力検査、 KIDS

    ・個別の教育支援計

    画の作成 ・日常生活の観察

    ・個別の教育支援計

    画の作成 ・家庭生活表の利用 ・家庭訪問の実施 ・他機関との連携、

    引き継ぎなど

    ・必要な検査の実施

    アセスメントの方法

    (観点)自閉症の5つ

    の心理学的な特性

    コミュニケーション

    サンプルの収集

    目標・課

    題の設定 指導方法や支援の

    工夫の方法設定

    決定に向けて

    生活環境・成育歴

    (生活年齢含む)

    T.Kanai(2008,11)

    は、非常に当てはまる。

    は、一部に当てはまる。

    ※表中の、

  • 2

    (1)上図の説明とアセスメントの領域について

    上の図は、アセスメントの6つの領域を設定して、それぞれの領域に関して3つの方法のそれぞれでアセ

    スメントが可能なことを示しています。特に「検査法」に関しては、それぞれの領域(「生活環境・生育歴」

    を除く5つの領域)ごとに適する検査法(本校で実施可能なもの)を示しています。「観察法」と「情報収集

    法」については、もちろん個別の指導計画や個別の教育支援計画を作成する際には重要な方法となってきま

    す。これら3つのアセスメントの方法について、それぞれどのように行なっているかを図の下段に示してい

    ます。また、障害特性について「観察法」を実施する際には、観点として自閉症の5つの心理学的な特性を

    用いることが適当であること、社会的能力ついてはコミュニケーションサンプルを取ることがひとつの方法

    であることを示しています。 さらに、この図は、目標や課題の設定、および指導の方法や支援の工夫が、どの領域でのアセスメントか

    らなされる可能性が高いのかを示しています。また、ここでは、「認知発達」、「障害特性」、「固有覚、前庭覚、

    触覚の特性」、「身体機能」、「社会的能力(社会性)」の5領域は、「ボトムアップ」の観点から、「生活環境」

    の領域のなかでも特に「生活年齢」は「トップダウン」の観点からの取り組みと言うこともできるでしょう。 (2)「検査法」の利用と他の方法との関連について

    アセスメントの方法のうち、「検査法」は他の2つの方法と比べて、極めて客観的な視点を提供してくれる

    ものと言えます。「検査法」による結果の読み取りと、「観察法」による実際の行動観察での状態像の把握と

    の関連を解釈することが、アセスメントにおいては極めて重要です。「検査法」による客観的な状態把握によ

    って、「観察法」での行動や振る舞いのようすが説明可能となります。ここで大切なのが、「検査法」による

    結果の解釈と読み取りです。アセスメントを実施する者が、各「検査法」の持つ目的をはじめ、コンセプト、

    対象領域、実施方法などの「外的基準」を充分に理解できていなければなりません。また、それぞれの「検

    査法」の持つコンセプトにより、どの「検査法」を用いることが対象児童生徒のアセスメントにより適切な

    のかが分かっていること、つまり検査についての「内的基準」を実施者が持っていることが求められます。 「検査法」のうち、例えばKIDSや新版SM社会生活能力検査のような「発達検査」は、身体機能の表現能力や言語能力、社会的能力等の現在の発達的な到達状況を示します。発達的な道筋のどの位置に到達して

    いるのかを示してくれるのです。それはまた同時に、対象児童生徒を総体的な視点から眺めた場合に、各領

    域の発達的な到達点のばらつきや偏りを示していることにもなります。このような検査結果からは、各領域

    ごとの発達状況やそれらの間のばらつきや偏りを把握することができます。しかし、それだけから指導の目

    標や課題を見つけることは多くの場合難しいかもしれません。なぜなら、他の領域に比べて発達の落ち込ん

    だ領域に指導目標を定めればよいのかというと、そうではない場合が多いからです。また、この種の「検査

    法」の結果だけでは、どのような指導方法が適しているのかについてはほとんど情報は提供されないように

    も思います。この場合、検査結果から指導目標や課題について何らかの見通しを得ようとするなら、特に自

    閉症スペクトラム障害の心理学的な特性について、および発達の連関性についての理解と知識を基盤に持っ

    ていることが必要となるでしょう。このような性格を持つ「発達検査」は、結果から各機能の発達に応じた

    目標の設定やアプローチのあり方の選択は可能となるだろうが、各機能ごとの、そして全般的な発達の到達

    状況と各領域(=機能)間の発達のばらつきや偏りを知ることを大きな目的として用いることがよいでしょ

    う。そして、一定の期間ののちに同じ検査を実施した結果から、取り組んだ指導内容や方法によって、どの

    ように発達的な変化が見られたかを把握することができます。

  • 3

    一方、WPPSIやWISC-3、K-ABC等の「検査法」は、検査対象の領域が認知機能(情報処理)での発達の状況やその特性に限られますが、情報処理における得意な面と苦手な面を示すことができます。つまり、

    刺激や情報の受け取りや反応性のあり方、そしその特異性について読み取ることで、指導方法の選択や工夫、

    環境設定のあり方についての多くの情報を得ることができるでしょう。検査結果の解釈や読み取りはかなり

    の研修と経験の積み重ねが必要ですが、これらの情報はアセスメント、特に目標設定や指導方法の選択や決

    定について非常に重要な部分を占め、極めて重要と言えるでしょう。LDT-R やPVT-R といった「検査法」も、同じような性格を持つと考えてよいでしょう。 「検査法」に関しては、対象児の全般的な、あるいは領域ごとの発達の到達状況を把握する以外にも、対

    象児の認知(情報処理)の得意な面や苦手な面などを明らかにできることが望まれます。そして、検査の結

    果を読みこなし、観察される振る舞い方や行動のようすと合わせて対象児の実態を把握し、そこから今後の

    指導目標を設定し、苦手な部分を補い、得意な力をいかして指導を行なっていく工夫をすることが望まれる

    のです。下の表にこれらの「検査法」について、性格の違う点と使い方をまとめています。

    検査法 KIDS、新版SM社会生活能力検査 WPPSI、WISC-3、K-ABC、LDT-R、PVT-R

    把握内容 ・全般的な発達状況 ・各領域の発達的な到達状況の把握とそれらのばらつき

    や偏りの状況

    ・認知ないし情報処理の能力の発達状況 ・認知ないし情報処理の特異性とそれに基づいた得意な

    面と苦手な面についての情報

    利用方法 諸機能の発達的な到達状況の理解とそのような理解に基づくアプローチのあり方の選択

    指導方法や支援の工夫の具体的な提案

    2.さまざまな検査法の利用

    現在、筆者が実施している検査法を以下に示します。 (1)認知発達検査

    情報処理様式を個人内差によるプロフィールとして表し、分析することができます。多くは標準偏差によ

    る偏差 IQや評価点での評定方法を用いています。

    WISC-3 言語性と動作性に分けて、知能(情報処理)のあり方をプロフィールとして示す。言語性 IQ、動作性IQ、全検査 IQが算出される。IQは偏差 IQなので、同年齢集団内での位置が分かる。下位検査や群指数などを使った分析手法も豊富。

    WPPSI WISC-3の幼児用検査。WISC-3と同じように認知のプロフィールが示される。IQは偏差 IQ。

    K-ABC 同時処理と継次処理という情報処理の様式から認知構造を分析できる。また、習得度尺度とこれらの処理様式との関係についての分析が可能。知能を表す指標として標準得点が用いられる。

    PVT-R 言語理解能力の発達を語いの面から評価する。言語表出を必要としない。

    LDT-R シンボル表象機能による認知発達を 5つの段階(ステージ)で評価する。段階ごとの教材表も整理されている。本来、自閉症児用に開発されたが、自閉症児以外にも適応可能。個別学習課題や課題別学習

    の課題設定の参考になる。

    質問-応答関係検査 ことばでのやり取り関係をことば理解と表出能力によって評定する。ことばでのやり取りの発達年齢

    が算出される。

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    (2)発達検査

    諸機能の発達を発達年齢で評定し、個人内プロフィールとして表す場合があります。分析に当たっては、

    発達についての専門的な知識が必要となります。

    PEP-3 おもに自閉症児の「コミュニケーション」と「運動」に関連した発達についてそれぞれの構成要素で

    評定できる。対象児の年齢が 7歳 5ヵ月までなら、発達尺度以外にも自閉症に特異ないくつかの行動面についての尺度で重症度が判定される。

    KIDS 生活場面での行動観察から記入できる発達検査法。9 つの領域によって構成されている。タイプA,B,C,Tの 4種類がある。発達障害児にはタイプTを用いる。行動観察によって、母親をはじめ療育関係者が記入する。

    新版SM社会生活能力検査

    社会生活の能力の発達を6つの領域にわけて捉えることができる。行動観察によって、母親をはじめ療育関係者が記入する。

    DAM 人物画から知能の発達レベルを捉える。頭から足まで描かれた人物画が描かれていれば検査可能。

    (3)その他の有効に利用できる検査法

    CARS (小児自閉症評定尺度)

    自閉症か否か、あるいは自閉症であるなら重度、中度、軽度の鑑別を行なう。対象児の見せる自閉症特

    性のプロフィール把握ができる。 MAS

    (問題行動の機能分析) 日常生活でいわゆる問題とされる行動の原因を4つの機能から探ってみる。

    JSI-R (日本感覚インベントリ

    ー改訂版)

    感覚機能の特異性について行動のようすから判定する。視覚、聴覚をはじめ前庭感覚や固有受容感覚

    等についても特異性を判定する。

    3.「検査法」の実施と利用(評定)の実際

    上に説明したように、「検査法」の利用にあたっては、検査者自身が検査についての「内的基準」を持ち、

    実施する検査の「外的基準」を守って行なわれる必要があります。では、実際に子どもを目の前にして、ど

    の「検査法」を用いればよいのでしょうか。筆者のこれまでの実践と経験に基づいて、いくつかの実施例を

    示してみたいと思います。もっとも、「検査法」はアセスメントの方法のひとつに過ぎないものであること、

    ただ他の方法(「観察法」、「情報収集法」)と比べて、極めて客観的な視点を提供してくれるものであること

    を理解した上で、他の方法との併用が大切であることを今一度付け加えておきたいと思います。また、「検査

    法」の実施にあたっては、ひとつの検査にのみ頼るのではなく、複数の検査をバッテリーとして用いること

    が望ましいことも付け加えておきます。 以下に示した検査法の実践例のいくつかについては、結果の分析の例とそこから考えられる支援の方向性

    について示しています。

    ① KIDS × 新版 SM 社会生活能力検査 × CARS ⇒

    ≪こんな場合に≫

    ・知的障害が比較的重度な場合、あるいは指示を理解して行動することが難しかったり、こだわりや感覚刺

    激への没頭が見られるなどの孤立型or/and受動型自閉症児の発達の状況について知りたい場合に適用できる。

    ・行動や振る舞いの観察による「検査法」なので、子どもにも検査者にも無理はかからない。

    事例①

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    ≪何が見えてくるのか≫

    ・全般的な発達と社会生活面での発達との差がある場合には、課題設定についての、あるいは生活場面で気

    を付けないといけないことなどへの示唆も得ることができる。 ・発達的な視点と対象児童生徒の持つ障害の特徴から生活場面での支援の方法について考えることができる。 ・CARSの結果についても、事例に示すようにプロフィール表示すると対象児に見られる自閉症の特性が把握しやすい。

    ≪留意事項≫

    ・各項目の判定基準が明確でない場合がある。健常発達についてのある程度以上の専門的な知識を持ち合わ

    せていることが望ましい。 ・孤立型 or/and受動型自閉症の場合、あるいは知的障害が重度な場合には、感覚受容性/反応性での特異な面が見られることがある。そのような場合には、JSI-R による感覚器官での受容性と反応性の偏りについての評定を行なうことが対象児童生徒理解のひとつのヒントとなることがある。

    ・それらのタイプの子どもたちには、いわゆる「問題行動」と呼ばれるものが見られることも少なくない。

    その場合には、MAS による行動の機能分析も有効な資料を提供してくれることもる。その場合、指導者側の「行動分析学」にかかわる専門的な知識と視点を持ち合わせていることが望ましい。

    ② PEP-3 × CARS( × PVT-R × LDT-R) ⇒

    ≪こんな場合に≫

    ・知的障害が比較的重度な自閉症児の発達プロフィールをより正確に評定したい。 ・「コミュニケーション」と「運動」に関する力について、そして特異的な行動について、同じ年齢の自閉症

    児の集団の中での重症度の状態を評定したい。 ・観察法でない他の方法で(=状況依存によらない方法で)発達プロフィールを評定したい。 ≪何が見えてくるのか≫

    ・対象児年齢が 7 歳 5 ヵ月未満なら、「コミュニケーション」と「運動」の力の発達的な特性と自閉症スペクトラム障害に見られる特異行動の状態について、同年齢の自閉症スペクトラム障害のある子ども集団の

    中での対象児の重症度と相対的な位置を判定できる。 ・対象年齢が 7歳 5ヵ月をこえている場合についても、自閉症児の「コミュニケーション」および「運動」の力について、それぞれ 3つの領域での発達的なばらつきから、その特異性を明らかにできる。特に、知的障害が比較的重度な自閉症の場合の発達尺度での個人の発達的なプロフィールをつかむことができる。

    ・対象年齢が 7 歳 5 ヵ月をこえている場合、「コミュニケーション」と「行動」に関しての 6 領域からなる(「身辺処理」を含めると 7 領域)個人内差で見た発達プロフィールと自閉症スペクトラム障害に見られる社会性や行動、対人関係、感覚機能の特異性との関連を考察できる。

    ・以上のことに基づき、日常生活での行動観察だけでは見落としがちな行動特性とその基盤としての認知特

    性について情報を得ることができ、日常生活での本人の見えない困難を知ることができたり、設定場面な

    どでの具体的な支援の方法を提案できる。 ≪留意事項≫

    ・例えば、KIDSでの「理解言語」の質問項目は、日常生活の場において(=状況に依存して)、ことばでの指示で行動が行なえることが観察される。一方、PEP-3の「理解言語」では、検査場面という日常生活とは違った場での(=状況に依存しないで)指示理解が求められている。その中には、2 段階の指示の理解などが含まれている。そのために、KIDS検査での「理解言語」の結果は、PEP-3の「理解言語」の結果よりも高く評価されがちとなるだろう。

    事例②

  • 6

    ・PEP-3では検査具を使ったり、触って行なう項目が多いが、感覚過敏などの子どものために、取り組み順番を工夫する必要があるかも知れない。

    ・解釈にあたり、健常発達についての専門的な知識を持っていることが望ましい。 ・認知発達の状況について、あるいはことばの理解についての情報を得る場合には、LDT-R やPVT-R を同時に実施する。

    ③ WPPSI × PVT( PVT-R ) ⇒

    ≪こんな場合に≫

    ・情報処理の特性について知りたいが、歴年齢がWISC-3の実施対象年齢になっていない時にWPPSIを実施する。

    ・歴年齢がWISC-3の対象年齢になっている場合でも、知的障害があって、WISC-3の下位検査の課題では難しくて、評価点が得られないと思われる場合に実施する。その場合には、分析にあたり、年齢補正によ

    る換算を行なう。また、PVT-R を同時に実施しておくと、WPPSI の言語性下位検査が難しかった場合にも、言語の理解についての情報が得られることがある。

    ※ここに示す実践例では、PVTを用いています。現在は改訂され、PVT-Rとなっています。 ≪何が見えてくるのか≫

    ・比較的重度な自閉症児で歴年齢が7歳 1ヵ月をこえている場合でも、年齢補正によるプロフィール分析を行なうことで、言語性ならびに動作性検査の結果から情報処理のあり方についての得意な側面や苦手な側

    面を推測できる。 ・知的障害が重度の場合で、言語性検査の実施が難しい場合でも、動作性検査については評価点が得られる

    場合がある。その場合には、WPPSIの言語性検査と同時に、あるいはそのかわりにPVT-Rを実施することで、言語発達について推測できる。

    ・PVT-R の結果は、WPPSI と同じく標準得点で表示され、同じ年齢集団の中での語いの力として把握ができる。

    ④ PVT-R × LDT-R ⇒

    ≪こんな場合に≫

    ・WPPSI の実施が難しい場合に、言語理解を含んだことばの発達について、さらにその基盤としての認知発達について評価する。

    ・状況に依存しないで、ことばが理解できているのかどうかを客観的に評価する。 ・言語能力の発達の基盤としての認知発達の状況について知ることで、課題設定やアプローチの仕方につい

    て正確に知る。 ・ことばでの日常生活でのやり取りなどは比較的できるが、ことばでのこだわりや意味理解が充分でないと

    思われる対象児に対して、ことば理解の発達と言語能力の発達的基盤である認知能力の発達について知る。 ≪何が見えてくるのか≫

    ・PVT-R の結果から、ことば理解について把握できることで、日常生活などでことばでのやり取りで気を付けないといけない点を明らかにできる。

    ・LDT-R の結果から、認知発達のStage評価がされ、情報処理のあり方について発達的に把握できる。6つのStageごとに取り組み課題が一覧として整理されており、個別の課題学習などで利用できる。

    ・どちらの検査も比較的短時間で実施でき、しかも検査者が対象児童生徒に対してその場で実施するので、

    反応の仕方なども把握でき、解釈にも利用できる。

    事例③

    事例④

  • 7

    ≪留意事項≫

    ・おもにピアジェによる認知発達の考え方についての専門的な知識を持っていることが望まれる。 ・対象の児童生徒のことば理解や認知発達についての基盤を知ることができ、WPPSIやPEP-3などと同時に、あるいはPVT-RについてはWISC-3と同時に実施することも考える。

    ⑤ WISC-3( × 身ぶり模倣検査) ⇒

    ≪こんな場合に≫

    ・知的発達に関しては平均の域にあったり、あるいは境界域にある児童生徒について、日常生活や学習上で

    何らかの困難を見せている場合に、情報処理の特性を知ることで、原因について推測することができる。

    そして、具体的な支援の方法を探ることができる。

    ・知的障害のない、あるいは軽度の発達障害のある児童生徒について、情報処理の特性を知ることができ、

    具体的な支援の方法を探ることができる。

    ・地域の通常学級に在籍しつつも困難を自分で感じている子どもや、自分では気づいていないようだけれど

    も先生方が気づいてあげないといけない困難を明らかにするために必要な検査と言える。

    ・また、これらの生徒たちは情報処理の特異性だけでなく、身体の使い方、特に身体図式や運動企画に関し

    た固有受容感覚での困難を持ち合わせていることがよくある。どのような運動企画が苦手なのか、身体図

    式の具合を推測するために、身振り模倣検査を合わせて行なうことがおススメなことが多い。

    ≪何が見えてくるのか≫

    ・言語性 IQ、動作性 IQ、全検査 IQ をはじめ、群指数、下位検査結果の評価点やそのプロフィールなどさまざまな分析のための要素を持っていて、情報処理の様式やその特異性、苦手な部分や得意な部分を明ら

    かにしてくれる。

    ・身振り模倣検査からは、身体図式の状況や運動企画のあり方によって、身体の使い方についての苦手な部

    分を推測できる。また、苦手な部分へのアプローチのための感覚統合療法への糸口も見えてくることがあ

    る。身振り模倣検査は全部しなくても、いくつかをすることで苦手なからだの動かし方が分かることもあ

    る。

    ≪留意事項≫

    ・通常クラスに在籍していたり、知的障害の軽度な発達障害の場合に一般的に行なわれる心理検査であり、

    他機関との連携などを視野に入れる場合には、担当教師はある程度の解釈技能を持っていることが望まし

    いだろう。

    ・結果の解釈に関しては、経験を積むことで、さまざまな視点からアプローチできる技能を磨いていく必要

    がある。

    ⑥ K-ABC( × 身ぶり模倣検査) ⇒

    ≪こんな場合に≫

    ・学習や生活場面で、自分では気づかないようだが、何らかの苦手な部分を持っているように感じられる発

    達障害のある児童生徒(歴年齢が 12歳 11ヵ月まで)に対して、情報処理のあり方を知る一つの有力な方法として利用できる。

    ≪何が見えてくるのか≫

    ・情報処理における同時処理的な方法でのやり方が得意なのか、あるいは継次処理的な方法でのやり方が特

    異なのかの推測ができる。継次処理的な方法としては言語的なやり方を、同時処理的な方法としては非言

    語的なやり方が得意なことが考えられる。

    事例⑤

    事例⑥

  • 8

    ・これまで習得した内容を身に付ける際に、それらの情報処理の能力を充分に応用できていたかどうかにつ

    いても評定できる。

    ⑦ KIDS × PVT-R

    ≪こんな場合に≫

    ・日常生活ではことばでのやり取りができていると思われる場合や、言語関連能力がKIDSでは比較的高い場合、ことばの理解について調べる。

    ≪何が見えてくるのか≫

    ・KIDS では日常の生活の流れの中での言語関連能力が把握されるが、その場合は状況に依存したり、関連した力が把握されている可能性が高い。PVT-Rでは、状況に依存しない言語理解能力が把握される。そのために、ことばの発達の状況がより正確に把握でき、ことばでやり取りする場合の留意点などを発達的に

    知ることができる。 ⑧ KIDS × LDT-R

    ≪こんな場合に≫

    ・言語関連能力がKIDSでは比較的高い場合、認知発達の状況を把握する必要がある場合に用いる。 ≪何が見えてくるのか≫

    ・全般的な発達の状況に関して、対象児の認知発達の状況が把握できる。シンボル機能や概念形成の状況に

    応じたアプローチの方法が考察できる。 ・LDT-R の結果からは認知発達についてのStage評価が示され、それに応じた認知発達課題が決定される。 ⑨ KIDS × WPPSI

    ≪こんな場合に≫

    ・知的障害が幾分重度でも、KIDSの言語関連能力が比較的高く、認知検査を行なう必要がある場合、WPPSIの言語性検査が適している場合がある。

    ・あるいは、知的障害のいくぶん重度な場合に、視空間能力について評価する必要のある場合は、WPPSIの動作性下位検査だけを実施することで有効な情報が得られる場合がある。

    ≪何が見えてくるのか≫

    ・このような検査法の使い方の場合には、対象児の年齢がWPPSIの検査対象年齢を超えていることが多い。その場合には下位検査ごとに「テスト年齢」を利用する。自閉症児の場合、WPPSI の動作性下位検査のみ実施して視覚情報の処理について実態把握が有効となる場合がよくある。その場合、言語性についても

    評価したいときは、PVT-R やLDT-Rとバッテリーを組む方法がある。 4.検査法実施で気を付けること

    筆者は勤務校に在籍している児童生徒に対しても保護者ならびに担任の要請で、その目的に最も適した評

    定が可能と思われる検査法を実施しています。そして、検査の結果は、担任ならびに保護者に詳しく説明を

    行なっています。ここで大切なのは、検査結果の説明は、結果のみを報告するだけでは意味がないというこ

    とです。結果の解釈からは発達特性や情報処理特性が推測できます。大切なのは、その理解に基づいた支援

    を具体的にどう工夫し、実施していくかということなのです。結果のみの報告で終わるなら、例えて言うな

  • 9

    ら、医者に「胃潰瘍です」と診断だけを受けて、なんらの処置もされず、生活上の注意事項も聞かされずに、

    そのまますぐに帰されるようなものなのではないでしょうか。検査を依頼する者が知りたいのは、対象児童

    生徒の理解の仕方とそれに基づく学習や生活での支援の工夫のあり方なのではないでのでしょうか。検査は

    実生活に活かされるアドバイスを提供しないならば、結果に表される数字だけに関心がいくなど、むしろ弊

    害の方が大きいこともあり得ると思います。 このような検査の利用の仕方に関して、ことばを換えれば、検査の活かし方について、担任などが充分に

    理解をしておかないといけません。「検査法アレルギー」がある場合には、往々にして自分たちの実践にかか

    わってくる検査結果から考えられる支援のあり方について、担任や関係する大人が否定的になりがちです。

    検査結果をどう利用できるか、つまり的確なアセスメントに基づいた実践をどう行なっていくかは、担当者

    の経験や思い込みに基づく実践に頼ることも多かった古い教育のあり方ではなく、これからの「特別支援教

    育」を進めていく上で非常に重要なのです。

    次ページから、事例①~⑥を示します。結果の書き

    方や支援の考え方の参考にしてください。

  • 1

    検査結果報告

    1.対象児:堺市立A小学校2年生男児(7歳7ヵ月)

    2.実施した検査

    ・KIDS(乳幼児発達スケール) 実施日:200X年 10月 31日 実施者:B先生、C先生(以上担任)

    ・新版SM社会生活能力検査 実施日:200X年 10月 31日 実施者:B先生、C先生(以上担任)

    ・CARS(小児自閉症評定尺度) 実施日:200X年 10月 27日 実施者:B先生、C先生(以上担任)、金井

    3.検査の結果

    (1)KIDS(乳幼児発達スケール:タイプT) 運動 操作 理解言語 表出言語 概念 対子ども社会性 対成人社会性 しつけ 食事

    4歳1ヵ月 1歳3ヵ月 8ヵ月 8ヵ月 ― 1歳0ヵ月 11ヵ月 2歳0ヵ月 11ヵ月 ※ 総合発達年齢:1歳 2ヵ月 (2)新版SM社会生活能力検査

    身辺自立 移動 作業 意思交換 集団参加 自己統制 2歳 8ヵ月 2 歳 11ヵ月 2歳 2ヵ月 1歳 3ヵ月 1 歳 2ヵ月 1歳 8ヵ月

    ※ 社会生活年齢:2歳 0ヵ月

    06

    1218243036424854606672

    月齢

    KIDSによる領域別発達プロフィール

    事例1

  • 2

    (3)CARS(領域プロフィール) 4.結果の説明と考察

    (1)新版SM社会生活能力検査(以下、新版SM検査と記す)での「意思交換(ことばによる)」、そして言語機能も関係していると考えられる「自己統制」がそれほど高いレベルでなかった。また、CARS結果から、「言語性のコミュニケーション」が重度判定(4点)であった。KIDS においては、「表出言語」が低いレベルであり、さらに検査項目から「ちょうだい」や「○○を持ってきて」などの相手の要求に応

    じられなかったり、物の名前を聴いて指すことができないことから、「理解言語」についても低いレベルに

    とどまっていた。 一方、行動観察から、クレーンで人へのかかわりが見られることやトイレサインが見られることから、

    0612182430364248身辺自立

    移動

    作業

    意思交換

    集団参加

    自己統制

    11.52

    2.53

    3.54

    人との関係

    模倣

    情緒反応

    身体の使い方

    物の扱い方

    変化への適応

    視覚による反応

    聴覚による反応味覚・嗅覚・触覚反

    応とその使い方

    恐れや不安

    言語性のコミュニ

    ケーション

    非言語性のコミュニ

    ケーション

    活動水準

    知的機能の水準とバ

    ランス

    全体的な印象

    CARS得点に見る本児の自閉症プロフィール

  • 3

    CARSでは「非言語性コミュニケーション」が中度レベル(3点)と判定された。ここから、非言語的な手段を用いることで、さらに本児からの要求伝達が可能となっていくような方法を獲得させていける可能

    性があると考えられる。 (2)KIDS の結果から、「対成人社会性」と「対子ども社会性」は、ともに「理解言語」「表出言語」の次に低いレベルであった。そして、「対成人社会性」は、若干であるが、「対子ども社会性」よりも低いレ

    ベルであった。CARS結果からは、人に関心を示さなかったり、バイバイなどの模倣が見られないなどのようすから、「人との関係」および「模倣」が重度判定であった。新版 SM 検査での「集団参加」も低いレベルであった。 本児は「特定の人との関係が取れる」ことが担任から報告されており、キーパーソンとしての相手との

    関係をいっそう大切にしてさまざまな活動に参加し、キーパーソンといっしょに経験を増やしていくこと

    で、「対成人社会性」を伸ばしていくことが可能と考えられる。いっしょに活動する中で「集団参加」につ

    いても行動の仕方を学んでいくことが増えるだろうし、「対成人社会性」が改善することで、「対子ども社

    会性」が改善していくことはよく経験することである。同時に、KIDS における「しつけ」についても向上していくと考えられる。見本となる大人との関係で、学校生活をはじめ集団のなかでのさまざまな行動

    の仕方や振る舞い方を身につけていくことが可能と考えられる。 (3)CARS結果では「聴覚による反応」が軽度判定であったことから、キーパーソンと行動をともにし、経験を増やしていくことも比較的やりやすい場合が多いと考えられる。また、アイコンタクトを避けたり、

    斜めに見たりなどのようすから「視覚による反応」は中度判定であったが、行動観察から友だちや先生の

    やることを見ていることが多いので、本児はさまざまな情報を視覚を通じて得ているのではないかと思わ

    れる。やり方が見てわかるように支援を行なうことで、KIDSでの手指の「操作」性や「運動」、さらに新版SM検査での手指を使う「作業」での活動の広がりも期待できると思われる。 (4)KIDSの総合発達年齢が 1歳 2ヵ月、新版SM検査の社会生活年齢が 2歳 0ヵ月であった。つまり、両検査による総合的に捉えた発達年齢が KIDS<新版 SM 検査であった。ここで、KIDS は一般的な発達年齢をはかっており、新版SM検査は社会適応度をはかっているという性格を持つ。つまり、本児の場合は、本児の一般的な発達のレベル以上に社会的な適応行動が行なえていると考えることができるだろう。

    ここから、本児は、特定の大人(キーパーソン)といっしょに行動することで、行動の仕方や振る舞い方

    をいっそう身につけていくことができるのではないかと考えられる。まわりを見て、視覚的に情報を得て、

    行動の仕方や振る舞い方を知って、行動しているというのが今の本児の姿なのかもしれない。 5.支援の方向性

    ・「対子ども社会性」よりも「対成人社会性」の向上を図るような指導をまず計画し、行なっていく。 ・行動の仕方や振る舞い方を目で見てわかるように示す工夫を行なっていく。 ・本児は、見て覚えてたり、実際やって覚えるような力も持っているようだ。そのようなときに、同時に、

    やり方を目で見てわかるように実演したり、見本を見せたりするなどして、目で見てわかるような工夫

    をしていく。 ・特定の大人に対して安心できる関係を作っていき、要求表出の方法を根気強く獲得させていく。「要求カ

    ード」を渡す方法など、シンプルな方法を工夫する。 ・KIDSについては、6ヵ月ごとに実施していき、プロフィールの変化をつかんでいくことが望まれる。

    文責 金井孝明(堺市立百舌鳥養護学校) 200X年 11月 1日

  • [垂∃

    PEP-3

    検査結果とまとめの記録用紙

    セクション2 発達下位検査得点

    領域別検査

    1.認知/前言語(CVP)

    2.表出言語(EL)

    3.理解言語(RL)

    4.微細運動(FM)

    5.粗大運動(GM)

    6.視覚一運動の模倣(VMI)

    7.感情表出(AE)

    8.対人的相互性(SR)

    9.運動面の特徴(CMB)

    10.言語面の特徴(CVB)

    養育者レポート結果

    1.気になる行動(PB)

    2.身辺自立(PSC)

    3.適応行動(AB)

    セクション3 合計得点の記銀

    粗点

    一一許

    __旦夕_

    11

    :豊.」三L

    __」_

    r3

    __」L

    ユ2

    /ク

    検査標準得点(SSs)

    女 □  男 〆

    両親の氏名

    検査者の氏名

    検査者の肩書き

    ンタイル順位  発達/適応レベル

    二重要約弼

    長座塑鯛)

    合計標準 パーセンタ 発達/適応

    合計得点     CVP EL RL FM GM VMl AE SR CMBCVB得点(SS)イル順位  レベル

    コミュニケーション(C)                       (__ ‾‾)

    運動(M)                             ( )

    特異行動(AB)

    -1-

    (‾‾-)

    鵜無イつい

  • セクション6 発達年齢のプロフィール

    下位検査粗点

    PSC  年齢(月)RL FM GM年齢(月)

    3 2 1 0 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 9 8 7 6 5 4 3 2 2

    8 8 8 8 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 1 1 1 1 1 1 1 1 1

    6           5                 4                         3

    2            2                  2                          2

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    合格得点芽生え得点

  • 1

    検査結果報告

    ○検査対象生徒:○□○△(本校中1男子生徒) ○実施検査名:PEP-3、PVT-R ○検査実施日時:200Z年H月K日(月)午前 10時5分~11時 10分 ○検査場所:本校検査室 ○検査者:金井孝明 1.検査前と検査中のようす:

    ・ホームルームのあと、教室で担任に検査がある旨を説明してもらっており、検査者といっしょに検査室へ

    落ち着いて移動した。はじめての部屋であったと思われるが、教室のドアーが開くと、自分から中に入っ

    た。置いてあった検査道具をのぞきこんでいたが、検査者が「イスに座ってください」と言うと、すぐに

    イスに座ることができた。 ・すぐに検査を開始したが、検査者の名前や性別(「男の子?女の子?」)の問いかけには、落ち着いた声で

    回答していた。 ・クレヨンと粘土が目についたようすで、検査途中でも要求することがあったが、検査者が「休憩」と言う

    までは、辛抱できていた。休憩時間には、粘土やクレヨンで好きなように描いたり、こねていたりした。

    休憩終りのことばで、クレヨンや粘土を自分で片付けることもできた。最初のうちは、次の検査問題が提

    示されるまで静かに座ったままで待つことができていたが、30分ほど過ぎたあたりから、検査問題が一つ終わると、立ち上がって部屋の中やとなりの自立活動室へ行って戸棚の中などを見ていた。本を見つけて、

    しばらく見ていることもあった。でも、検査を始めるときには、ことばかけで片付けて、またイスに座る

    ことができていた。途中 2回ほどお茶を飲んだだけで、検査を続けて、終えることができた。 ・PEP-3 に続けて、PVT-R を行なったが、疲れていたり、拒否することもなく、落ち着いて受けることができた。検査は合わせて 1時間 10分ほどかかった。

    2.検査結果:

    ・PEP-3(発達下位検査):→別紙グラフ等参照 認知/前言語 表出言語 理解言語 微細運動 粗大運動 視覚・運動模倣 身辺自立 4歳 5ヵ月 2 歳 8ヵ月 2 歳 4ヵ月 3 歳 6ヵ月 2 歳 4ヵ月 2歳 10カ月

    4歳 4ヵ月 3歳 2ヵ月(コミュニケーション) 2 歳 11ヵ月(運動)

    ・PVT-R:語い年齢(3歳6ヵ月) 3.検査結果の説明と解釈

    ・身近な物の名前や基本的な形、色などはことばと結び付けて正しく理解し、また言うことができている(例

    えば、23、29、36、86、91、92、102、106)。そして、ことばで言われた物を手で触って選び出すこともできており(44)、手で触った形や大きさ、質感を把握することと結び付けることもできていたと言える。身の回りの身近な物については、そのような性質まで理解できているものも少なくないのだろう。

    ・しかし、ことばを組み立てて文にしたり(87)、いくつかのことばがつながった文を読んだり(93、94)、あるいは代名詞を使うことは苦手であったり、できなかった(121、132)。ことばは多く知っているが、いくつかのことばを意味のあるまとまりとして組み立て、意味を伝えたり、理解する力に弱さを持ってい

    ると言えるだろう。3~4語からなる文を聴いて繰り返すこと(115)も、単語でないために難しかったと言えるだろう。

  • 2

    ・また、単語で物の名前や大小などの比較語、色や形は知っていても、それらが組み合わされていくつかの

    ことばで指示されると、その通りには行動できなかったり(96、100)、聴いて行動を自発することがなかなかなかった(103)。言われたことばを手がかりにして、状況との関わりや前後のことばとの関係の中でその場での意味を把握して、それに応じて行動することは難しいのだろう。

    ・PEP-3 検査結果では、「認知/前言語」の発達年齢が「表出言語」や「理解言語」よりも高かった。上記のように、状況把握を促したり、その説明を求める際に、ことばによる意味把握や表出が混乱して、理解

    できなかったり、一部のことばの理解にとどまってしまう可能性が高い。比較的得意と思われる「認知/

    前言語」で評価される力としての視覚的な手がかり刺激を提示することで、どうすればよいのかが分かり

    やすく、自分でできることは多いと思われる(21、25、27、31、33、34、39、43、104、105など)。 ・一方、PVT-R の結果から、語い年齢は 3 歳 6 ヵ月と推定された。PVT-R では、ことばで問われた名前や性質に該当する物を指し示せばよく、ことばでの状況把握や行動指示は含まれていない。そのために、

    PEP-3 の「表出言語」や「理解言語」よりも「語い年齢」が高く評定されていると考えられる。つまり、単語ではその物と理解することができても、ことばを組み立て、まとめて、ある状況で意味あるものとし

    て理解したり、表出することは弱いと言うことができるだろう。 ・手指の器用さや巧緻性も比較的高いと思われる。うさぎのぬり絵では、うさぎ全体を白いクレヨンを自分

    で選んでぬっていた(78)。しかし、そのような手指の器用さや巧緻性も、ことばでの指示だけ(「しっぽか耳か脚をぬってね」)では適切に発揮されないこともあると思われる。目で見た状況に左右されて、求

    められていることとは違ったことに持っている力が発揮されてしまうかもしれない。手指のそのような能

    力がその場での目的に向けて発揮できるためにも、何をするのか、どうするのかが見て分かるような手順

    や段取りを工夫してあげる必要があるだろう。 ・一般に2歳ころから4歳ころまでは、認知発達的に「前概念期」と呼ばれる。物にはそれを表わす名前が

    あることが分かり、その意味も分かり出してきている時期と言える。ただし、その理解し始めてきている

    意味は、一般的なものであるとは限らないのもこの時期の特徴といえる。自分に関係する側面で理解して

    いる場合があったり(例えば、「電車」と言えば、いつも乗っている「JR 阪和線の青い電車」であって、高野線の電車は「電車」ではなく、「高野線」という名前で理解している。我々は、どちらも「電車」と

    して理解しているのだが)、あるいは違った呼び名をつけている場合(例えば、「車で行く」ことを「鍵」

    と呼んでいる、など)もある。このような認知発達の時期での本生徒のことばの理解や使い方を想定する

    なら、本生徒へのことばでの説明や指示には充分に配慮する必要がある。しかも、自閉症スペクトラム障

    害での「セオリーオブマインド」の発達が充分でないことを考慮して、具体的なことばの使い方が必要で

    あり、意味を含ませた言い方は避ける必要がある。目で見て状況が把握できたり、何をすればよいのかの

    理解が促される支援が求められるだろう。 ・腕を上にあげる模倣課題の際に、腕がまっすぐに伸びていないようすが観察された(54)。片方の手で鼻を触り、もう一方の腕を伸ばす際も同じように曲がっていた。よほど意識して腕を伸ばして上にあげると、

    伸びるのかもしれないが、固有受容感覚の弱さが推測される。ビーズ2個が通ったひもを振る際(66)にも、ゆっくりと身体の前で振るのではなく、横で力強く振っていたことも、力の入れ具合が調節できにく

    いことを推測させた。自閉症スペクトラム障害にはこのような固有受容感覚の弱さ(鈍さ)がよく見られ、

    自分の身体の意識が希薄であったり、身体を器用に使いこなせないことがある。本生徒も、粗大運動が 2歳台であることを考慮して、そのような固有受容感覚の弱さを考えることもできるだろう。また、養育者

    レポートで報告されているような自分自身を噛んだり、奇妙な身体の動きは、このような自分の身体の意

    識の希薄さとも関係があるのかもしれない。 ・養育者レポートからは、「3.気になる行動」では、コミュニケーションでのことばの使い方や他者への関

  • 3

    心での問題、友だちとの関わり方での問題や興味の限定、反復的行動など、自閉症スペクトラム障害の特

    徴が報告されている。そのために「5.適応行動」でも、一人遊びや繰り返し行動、周囲への関心の少な

    さ、想像的な遊びの無いこと、自分をたたいたり噛んだりなどの自己刺激的行動、身体の奇妙な動きや不

    自然な姿勢などが報告されている。しかし、「4.身辺自立」では、一人でこぼすことなく飲んだり食べ

    たりできること、歯磨きや風呂での身体洗いが自分でできること、トイレでの排泄に失敗はないことが報

    告されていて、身の回りの処理は一人でできる力を持っている。 4.支援の方向性

    ・ことばでの状況説明はキーワードを明確にし、その状況でどう行動すればよいのかを目で見て分かるよう

    な工夫をする必要があるだろう。ことばに暗黙の了解的な意味合いを含ませることは避ける必要がある。

    例えば、「今着ている服は汚れているでしょう!」とだけ言って、着替えを促すことは、状況の理解にな

    っていないと思われる。「だから、この服に着替えましょう」などという今からする行動を具体的に示す

    ことばを付け加える必要がある(通常、このような内容が暗黙の了解として先のことばには含まれている

    のだが)。 ・ことばの概念形成とことばでの状況理解を促すような課題を加えていく。概念形成には、仲間分けや分類

    学習、あるいは関連するものをグループに集めていくような学習がよいだろう。状況理解のためには、写

    真を見て、それに関連することばを選ぶこと、さらに進めば、それらのことばをつなげて、写真の情景を

    説明する文にしていく、などがある。 ・自分の感情の表現や、いざという時には自分の要求や伝えたいことはことばでは表現できないと思われる。

    感情評定シートで自分の気持ちを表して伝えることや、助けてほしいときに「ヘルプ」を表すカードを使

    うような練習をしていくことも必要だろう。 ・自分の身体についての意識を高めるために、固有受容感覚へのアプローチを考える。姿勢が揺れたり、傾

    いた際に姿勢を保持したり、大人とストレッチをして身体各部への刺激を適度に入力させていくことがよ

    いだろう。水中歩行やジャングルジムのぼりといったような関節や筋肉に負荷がかかることで身体図式を

    育てたり、乾布摩擦などで身体への刺激を感じていくようにしていくこともよいだろう。

    (文責)金井孝明 200Z 年H月L 日

  • 1

    検査報告報告

    ○検査対象生徒:○□△□(本校中 1男子生徒) ○実施検査名:WPPSI・PVT ○検査実施日時:200X 年 6月D日(水)午前 10時40分~11時 20分 〇検査時年齢:12年 9月 ○検査場所:本校自立活動室 ○検査者:金井孝明

    1.検査時の本児のようす

    検査室に担任といっしょに来て、部屋の前で待っていた。鍵を開け、入室すると、リラックスしたようす

    で部屋の中を回って歩いていた。以前一度この部屋に来たことがあると入室後に言っていた。 イスに座るように声をかけると、すぐに検査者の前の用意された位置に座ることができた。表情はニコニ

    コしており、緊張しているようすは見られなかった。担任は少し離れて、本児の横に並ぶようにイスに座っ

    ていた。本児と検査者とが向かい合って、検査を行なった。 WPPSI はことばでの出題や説明が多いが、検査者と向かい合って、落ち着いて聴いていた。検査中、本児の方から、ニコニコした表情を見せることもよくあった。言語性検査では、「知識」や「単語」など、質問

    をよく聴き入っていた。それへの答えも、ことばですぐに返せることが多かった。動作性検査では、「積木模

    様」や「動物の家」など落ち着いて、視線を向けて取り組んでいた。実演等行なったが、やり方が理解でき

    ていないようすも感じられた。「幾何図形」は少し苦手なようすを見せて、ことばでも自分が苦手なことを言

    っていた。描ける図形については「これはできる」と自信ありげに言っていた。 PVTに関しては、検査者の質問を聴いているようだが、絵を指さすときには、適当にさしているようすも感じられた。落ち着いて取り組めた。 WPPSIが 40分ほどかかったが、そのあと、「もうひとつしていい?」との検査者のことばに、「いい」と明るく返事を返していた。続けて行なったPVT は 15分ほどかかった。2つの検査とも、落ち着いて取り組めた。

    2.検査結果

    (1)WPPSIの結果 本児の生活年齢は 12歳9ヵ月であり、WPPSIの対象年齢を超えていたので、年齢補正を行なった。その際、下位検査のテスト年齢が 4 歳以下のものがほとんどであり、WPPSI 実施対象の最低年齢である「3 歳10月 16日~4歳 1月 15日」の年齢レベルでの補正により、各下位検査の評価点を求めた。それによって言語性検査および動作性検査の下位検査によるプロフィールを作成した。なお、この方法によった場合のFIQは換算表から 77 であり、100 に近い値でないことから、この方法による分析は参考として用いるにとどめることが適当と思われる。 上記補正年齢スケールにおける言語性検査および動作性検査の下位検査プロフィールを次のページの図に

    示す。なお、言語性検査の下位検査評価点の平均は 8、動作性検査のそれは 6.8 であった。もっとも、言語性検査の「類似」と動作性検査の「積木模様」は粗点が0であり、換算表からは評価点が 4となるが、これについても参考にとどめることが適当と思われる。 以下に、検査結果の分析を試みるが、上記のいくつかの点に留意しての解釈が必要である。

    事例3

  • 2

    言語性 IQが動作性 IQに対して、少しであるが強い傾向にあるかもしれない。ただ、言語性検査、動作性検査のいずれにおいても下位検査間での差が大きいので、その解釈は慎重に行なわないといけない。 言語性検査において、「知識」と「単語」に強い傾向が見られる。検査場面から、本児の回答が「P(正解)」であったのは、それらの下位検査の最初のいくつかの質問項目であり、それらは日常場面でよく聞くことば

    であったり、本児が実際によく体験するもの(例えば、「知識」では自分の鼻の位置や犬の足の本数など、「単

    語」では帽子、くつ、かさ、自転車の説明など)であったりした。つまり、生活のなかでする体験で、かつ

    身近で知っている具体的な物についての質問に対して、本児は正しく回答が可能であった。 一方で、「類似」は弱いことがわかる(粗点は 0 であった)。「類似」はことばの意味を概念レベルでどの

    程度理解できているかを測定する検査であり、これが弱いと、ことばをよりひろい意味あいで、より広い経

    験世界で使うことが難しくなると考えられる。つまり、具体物についての名称は、自分の生活経験の範囲内

    で知っているが、意味を広く捉えて、柔軟にことばを使っていくことが難しいと考えられる。検査場面から

    も、「くつのほかにどんなものを履くか」の問いに、「青いくつ」と答えるなど、ことばの概念形成に関して、

    「外延」に含まれる具体物で応える傾向が見られた。同じように、「車、自動車」と答えることが期待される

    問いに、「〇〇〇〇」と具体的な車の名称で答えていた。また、「知識」の「動物をあげる」問いでは、「犬、

    ねこ」などというのではなく、「△△、□□□」などと自分の家で飼っている犬やねこの名前(固有名詞)を

    あげていた。これらは概念形成の「外延」部の理解であり、共通性を抽象することによって可能となる「内

    包」の理解には至っていないことが多いことを疑わせる。 「算数」が強い傾向にあった。これについては、絵カードつづりを用いての検査に関してのみ「P」であ

    り、補正年齢レベルでは、それについて評価点が換算されるからであった。1対1対応で数えることはでき

    るが、同じ個数のものを指摘することができなかった。数の操作に関しては、数の「序数性」はかなり理解

    できていると思われるが、「基数性」については理解ができていないと思われる。 動作性検査では、「絵画完成」「幾何図形」「積木模様」が弱い。つまり、図形や形の構成を知覚したり、理

    解し、作ることや模写、再生することが苦手と言える。具体的な物についても、その全体的な構成の理解は

    できていない場合も考えられる。つまり、具体物について持っているイメージが正しく構成されたものとな

    っていない可能性がある。「絵画完成」が弱いことがそのことを表している。このことは、注意を集中して見

    ることができていない、あるいは気が散っている状況がよくあることを意味しているのかもしれない。抽象

    図形に関しても、構成を理解したり再現する力が弱いことがわかる。「迷路」が強いが、一方向性のもの(ひ

    言語性検査

    1

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    動作性検査

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    の家

    8 6.8

  • 3

    よこがニワトリのところへ行く課題)のみが「P」であった。これは公文教室で迷路課題に取り組んでいて、それらがこのような一方向性のものであるから、慣れているのだと考えられる。「4 番」以降の迷路課題は、とたんにできなくなり、ルール(壁を突き破らないで行く)がわかっていないように感じられた。これも、

    言語性検査で考察したように、ルールの持つ共通性の理解という概念に関する理解が充分でないためと考え

    られるだろう。また、「動物の家」の検査では、一列目はこの色、二列目はこの色と「こま」の色を列で決め

    てはめ込んでいるようにも見えた。動物と「こま」の色との対応というルールは実演や練習後も充分に理解

    ができていなかったようである。これに関しても、ルールの理解、つまり抽象された共通性の理解とその記

    憶の保持が「こま」をはめていくという行動が加わることによって混乱させられてしまったのかもしれない。

    事実、途中で、動物を指差して、「これには?」とヒントを与えると、適切な色の「こま」を探してはめるこ

    とができていた。ここからは、目で見てする課題への注意集中と短期記憶の弱さが推測されるのではないだ

    ろうか。 (2)PVTの結果 PVT の実施対象年齢は 10 歳までであり、本児の場合は評価点の算出はできなかった。そのため、語彙年齢によって結果を算出した。換算表から、語彙年齢は4歳 2ヵ月であった。検査場面では、検査者の質問はよく聴いているようで、聴いた後にすぐに絵を指さしていた。その際、難しいと思われる語彙に関しても、

    即座に指さしているようすも見られ、意味を理解しての指さしという反応がすべてにできているかどうかは

    疑問でもある。 (3)2つの検査結果からの考察

    WPPSI の言語性検査および動作性検査の各下位検査のテスト年齢は4歳以下が多かった。そこで、「3 歳10月 16日~4歳 1月 15日」の年齢レベルで補正することで、プロフィールの分析がやりやすくなった。ここから、解釈には慎重さが必要であるが、本児のテスト年齢は「4 歳 1 ヵ月以下」と考えてもよいだろう。特に、言語性検査に関しても、このことは当てはまると考えてよいだろう。 一方、PVTの結果から、語彙年齢が 4歳 2ヵ月と換算された。つまり、両検査の結果から、本児の言語理解に関する能力は、4歳になる前くらいと考えることができるのではないだろうか。 3.検査から考えられる支援の方向性

    ・短期記憶が弱い可能性がある。そのため、ことばをかけたり、質問をしたり、あるいはことばでやり取り

    をするときは、短い文で、ゆっくりと行なう。 ・注意の幅が狭かったり、集中がそれやすいことがあるので、本児が相手とことばなどでやり取りしている

    ときや、あることに取り組んでいるときは、それが終わるまで、あるいは区切りがくるまで、他の者はこ

    とばをかけたり、かかわることは待つ。 ・通常使うことばを新しい状況で使った場合、理解がピンと来ていないようなときもあるかもしれない。そ

    のようなときは、日常生活の場面でそのことばを使っている状況を例に出して、具体的な説明を行なう。 4.今後の取り組み課題の設定についての考え方

    ・ことばの意味理解を広げていくために、具体物の分類や属性の理解に関した課題に取り組む。 ・スケジュール表を用いて、目で見て行動予定が把握できるようにしていく。行動予定の順番を目で見て、

    全体の中の今の行動の位置を自分で理解する。 ・左から順番に取って行き、完成できるような課題、しかもネジ組やボールペン組み立てなどの立体構成の

  • 4

    課題に取り組んでいく力を育てる。 ・手順書を見て積木を組み立てる、手順書を見て簡単なレゴを組み立てるなどの立体での構成力を育ててい

    く。 ・編み物や紐へのビーズ通しなどの両手指を使い、しかも目で見て行動を調整していく必要のある課題に取

    り組み、集中力と手指の巧緻性を育てていく。

    文責 金井孝明

  • 1

    結果結果報告

    ○対象生徒:△△○(本校中学部 2年男子生徒) ○検査日:200W年L月 17日 ○検査日年齢:13年 11ヵ月 ○検査場所:自立活動室 ○検査者:金井孝明 1.検査結果

    PVT-R LDT-R

    語い年齢 4歳 8ヵ月 太田のステージ分けStageⅢ‐2 (2歳 6ヵ月~4歳ころ)

    2.結果から考察される本生徒の認知発達の状況

    ①単語(物)の意味については、かなり理解ができてきていると思われる。また、簡単な比較の概念(大小

    など)はできはじめてきているが、空間での位置関係を示すことばの理解は充分でないと思われる。こと

    ばの意味を理解して行動をコントロールしたり、見通しを持つよりも、その場の気になることがあると、

    行動が左右されてしまいやすい。そのために、ことばの指示に応じて生活場面で行動を制御することが難

    しい場合があるかもしれない。 ②筋道立ててことばで話や説明を理解することもできかけているが、そのなかに気になることばや単語があ

    ると、それに関係したことに考えが行ってしまいやすい(=転導的推理)。 ③物や関係性(「大小」などの対の世界)についての概念もできてきているが、ことばだけでの分類や関係づ

    けなどの操作は、その場の気になる特徴などに左右され、難しいことも考えられる。 ④対の世界の理解ができてきているが、3 つの世界(大中小など)の理解はまだ芽生えつつあるレベルと思われる。そのために、「中くらい」の理解や、「だんだんと~になる」などの理解は現段階では難しいと思

    われる。3 つの世界の理解が充分にできてくることで、時間の概念が育ってきて、自分でも時間的な予測をつけることができてくる。3 つの世界や時間の概念が分かって行動していると思われる場合があるかもしれないが、理解して行動できているのではなく、経験やこれまでの習慣で行動していることが多いと思

    われる(例えば、「中くらい」を取る場合に、いつも中央に置いてあるものを取っているかもしれない)。

    そのために、行動自体に柔軟性がなく、硬直化していることはないだろうか。 ⑤語い年齢(4歳 8ヵ月)>Stage評価(StageⅢ‐2、2歳 6ヵ月~4歳ころ)となっているが、単語の意味理解に関しては、部分的に知っているものが多いのだろう。一方、認知発達として捉えると、概念形成

    が充分でない「前概念期」と考えられる。生活の中で、本生徒が自分の興味や関心から、自分の都合のよ

    いように覚えたことばや行動ガ多いと思われる。 3.本検査結果から考えられる支援の方向性

    ①筋道立てて状況を理解したり、説明(話)が分かるように、キーワードとなることばや話の展開で重要と

    なる個所(おもに関係性について)では、どういう意味でそのことばを使っているのか、どんな関係にな

    っているのかなどが目で見て分かるような工夫が必要となるだろう。 ②ことばの理解や使い方の力をいっそう育てていくために、分類学習や関係性を考える学習に取り組んでい

    く。そのような学習の例としては、反対語を考える、簡単ななぞなぞ(スリーヒントクイズがよい)、示

    事例4

  • 2

    されたことばを入れて文を作る、写真や絵の情景を文にして表す(特に、動詞や助詞の使い方に気をつけ

    て)などがあげられるだろう。

    (文責)金井孝明

  • 氏名‥空]{.男.女利き手:右学校名:●-          学年二   年1

    検査理由:

    下位検査評価点

    言語性検査 動作性検査9

     

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    0

    -●  - ■l■■ ■- - ■-

    l

    ■-

    【 】

    ■- ■■■ ■- ■■- - -■

    検査者:

    日本版

    WISC-Ⅲプロフィール

    年 月

    評価二鳥 IQ/ パーセン 信頼区間滞 帝王 群指数 タイル 90% 95%

    言  語  性 :__-_‾27 -‾_-_‾ 7 1 3 6 7-79 6 6-80

    動  作  性 一‾≡:‾_‾3 80 9 7 5-89 7 4-90$苓

    全  検  査 華 73 4 6 9-88 6 8-8 1

    言 語 理 解 宇一字p ■■転重義‾岳痙 髪窪盗麗

    ・さV.労・拐澤~無

    知 覚 統 合 ニー、‾‾33三・声磁_  _

    至_買 墜y、、鷲

    璧莞‾‾胃璽褒嚢.

    “済‾く‾麗蜃窪

    注 意 記 憶 塁嚢_ 芋肯1 ⊆■鰐- 騒峯滅 巌、隅 _治 弟、誓警聖賢呈 キ:笥≡芸変ぎ:好意

    処 理 速 度 予5 _-‡ 露発露≡惑‾‾′‾さ整ユ■エ‾′■= 一転転籍嶺・護′′汚‾__‾酪童=誓三万童■i◆こ、;破l、教・職諾 蜃蔚簑忘霊

    憲.≧葉   _=一一一_=混 ∴舅、茫欝薫,翳浸ド_騨7

    I Q

    菖蘇性 動作性 全検査

    群指数言語  知覚  注意 処理理解  統合  記位 速度

    ■- ■- ■- ■-

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    】i■一 ・一 -

    】】

    記号探し

    組合せ

    積木模様

    絵画配列

    符号

    絵画完成

    数唱

    理解

    単語

    算数

    類似

    知識

    90抑

    70605

    0咄

    寸1

    80706

    050棚

                   】

  • WISC_ⅠⅠⅠプロフィール分析表

    Ⅰ.言語性下位検査

    受検者氏名-

    検査年月日

    生年月日

    生活年齢  12 年   7 月  19 日

    相当生活年齢(評価点補正した場合に記入)

    年     月

    言語性平均 動作性平均 知識 類似 算数 単語 琴解 数唱絵画完成

    符号絵画配列

    積木模竺

    組合せ

    記号探し

    評  価  点 5.3 6.3 1’■・■-.-_■‾.㌢■■ 守申-∴ 碩 字 2

    衰 号 l +l ± 暮+ 仁一l 二丁墓t ±I w I S l S

    能   力 判定 知識 ≡ 算数 単語 理解 数唱絵画完成 符号

    絵画配列

    積木模様

    組合せ

    記号探し

    長い問題文の理解 × + + -

    [単吾の理解 × ± - ±

    Alコ■貯

    (1)言

    ■■⊂コ抽

    手口

    吾概念および言語的推理

    吾概念化 (Bannatyne) △W ± - -吾概念形成

    × ± -象的言語概奉の操作

    吾的推理 × ± -(2)知

    の蓄えや記嘩

    得知識 (Bannatyne)× + + -期記憶

    化的負荷の高い知識 X + -謎の蓄え × + -

    長い言語反応 △W ト ± - -簡単な言語反応 △S + + ー∴1 ±

    Ⅱ.動作性下位検査

    能   力 判 定 知識 類似  算 数単 語 回 数唱 絵 画

    完成符号

    絵画配 列

    積木模様

    組合せ

    記号探 し

    複雑 な言語 指示 × W S S W

    [ 簡単 な言語 療示 × ± ±

    抽象 的刺激 の視知 覚 × W S W

    [ 有意味 刺激 の視知 覚 △ S ± S ±

    ■貯

    (1)視覚 ・空間 認知

    視覚 的処琴 (Gv)叩O rn)

    A s ± S ±空間 (Bann atyn e)

    図形 の認知 (Gu H fo rd)

    (2)視覚 化 一推 理

    空間 視覚 化 × S W

    [ 非言 語的 推理 △ S S ±

    ′_(3)計画 一試行 錯誤

    計画 能 力 × S W

    [試行 錯誤 的学 習 △ S S ±

    (4)問題解 決能 力

    組み 立 て O s S S ±

    モ デルの 再構成 × W S

    (5)図形 の評価

    図形 の評 価 (6~7歳)(Gu iげord) × ± W S ± W

    図形 の評 価 (8歳以上)(Gu iげord、) × ± S ± W

    出力

    視覚 的体 制化 △ S 卜              ∴l ± 至

    [視覚 一運 動の協 応 × 一一r・一   ㌧ 1-1ご‾ト W S ± W

    出典藤田和弘ほか編著(卸05)WISC-Ⅲアセスメント事例集一理論と実際一 日本文化科学社

    Ⅲ.すべての下位検査

  • 言語性平均 動作性平均 知識 類似 算数 単語 理解 数唱絵画完成

    符号 絵画配列

    積木模様

    組合せ

    記号探し

    評  価  点 5.3 6.3 8 6 7 3 3 5 6 3 10 10 7 2

    記    号 + ± + - - ± ± W S S ± W

    能   力 判定 知識 ≡ 算数 単語 理解 数唱絵画完成

    符号 絵画配列

    積木模様

    組合せ

    記号探し

    注意集中 × + ± ± W W

    非本質的細部からめ本質の区別 × ± ± S W

    情報の符号化 × + ± W W

    血ロ

    ■貯

    (1)流動性一結晶性

    流動性能力 (Gf)(Horn) O s ± + S S ±

    [結晶性能力 (Gc)(Horn) ¥ + ± + - - S

    (2)情報処理

    同時処理 △S ± S ±

    [継次処理 ・系列化 (Bannatyne) × + ± W

    視覚的■系列化 × 十 W 、S

    く3)由憶

    長期記憶<再掲載> × + + -[短期記憶 (聴覚または視覚) × + ± W W

    言語記憶 (Guitford) △S 十 + ±

    [視覚記憶 O w ± W W

    (4)推理

    推理 × ± + - S ±

    言語的推理<再掲載> × ± -

    [非言語的推理<再掲載> a s S ±

    (5)内容

    /常識(原因‾一影響) 巨 】_111 暮

    tt S社会的理解 1

    数を扱う能力 X + ± W

    (6)学習に関する能力

    概念形成 × ± -仁 S

    学習能力 O w - W W

    影 響 因 判定 知識 類似 算数 単語 理解 数唱絵画完成

    符号 絵画配列

    積木模様

    組合せ

    記号探し

    (1)マイナスの影響因・H W のときだけ採択

    (不安暮注意)

    不安X + ± W W

    硬転導性

    注意の範囲 × + ± W

    集中 × + ± W W

    (その他)過度の具体的恵考 × ± 巨 -固執性 O w W ± W

    否定的態度 × ± - ± ±

    (2)プラスまたはマイナスの影響因日・S もW も採択

    環境への敏捷畦 × + ±

    文化的機会 × + - - S

    興味× + ±

    課外読書

    初期環境の豊かさ× +

    知的好奇心と努力

    学校での学習 × + ′l  i_ + -柔軟性 × ± ± ±

    確信が持てなくても答える姿勢 X ± ±

    認知様式 (W :場依存- S :場独立) A s一

    ± S ±

    順位 判定記号 判  定 基 準

    1 O sS が 2 つ以上で.残 りは十か ±。または.S が 1 つ と十が 1 つ以上で.±が あってもよい。

    O w W が 2 つ以上で∴残 りは一か±n または.W が 1 つ と-が 1 つ以上で.士があってもよい(

    2 △ SS が 1 つで,残 りは±。または.S はないが+が 2 つ以上あ り.±があってもよい。

    △W W が 1 つで.残 りは±∩ または.W はないが一が 2 つ以上あ り.±があってもよいn

    3 × 1 , 2 以外の場合。

  • 1

    検査結果報告

    ○被検生徒:△△□□(堺市立□□中学校 1年生男子生徒) ○実施検査:WISC-3 ○検査日年齢:12歳 7ヵ月 ○検査日 200Z 年F月 12日 ○検査場所:□□中学校内・心の教室

    ○検査者:金井孝明(堺市立百舌鳥支援学校教諭)

    1.検査前および検査中のようす

    ・小 3の 10月から不登校ということで、中学校入学後も 5月 28日を最後に 10回ほどしか登校できていない。登校した場合、1 時間ほどで下校している。登下校は他の生徒との接触を避けた時間帯に行なっていて、登校後は支援学級の教室で過ごしている。なお、本生徒は支援学級への在籍ではない。

    ・本日(検査日)は、母親といっしょに登校しており、「心の教室」で席について母親といっしょに待ってい

    た。検査者が入室すると、若干緊張のようすを見せていたが、検査者が「おはよう」と声をかけると、自

    分から小さな声で返すことができた。検査をするということを事前に聞いて登校しており、検査にあたり

    名前を聞いたり、名前を漢字で書いてもらったりしたあとに、検査の順番(下位検査の順)を書いた紙を

    示して、予定を説明した。本生徒は紙に書かれた順番を見ながら、検査者に聞き入っているようすであっ

    た。 ・言語性検査では、「知識」は小学校レベルだが、覚えたことは正しく答えていた。「類似」では「楽器」や

    「感情」、「自然」など回答できたが、回答するまでの時間はかかった「算数」も制限時間いっぱいまで考

    えて回答することがいくつかあった。「単語」では、日常生活で経験すること(「スプーン」、「誕生日」、「は

    だし」)についても「パス」と回答した。説明しようとしても、ことばを選べなかったり、意味を伝える

    べくつなげることが難しいように感じられた。 ・動作性検査では、「絵画完成」で「タンス」「ドア」「トラクター」「車いす」で指さしするまでの時間がか

    かった。「ベルト」についてのみ、「あな」とことばで返した。「ピアノ」では、回答はわかっているのに、

    どう示して伝えればよいのかがわからないようで、時間がかかったあとに鍵盤上を指を滑らせて示した。

    「絵画完成」は、絵をよく見て、頭の中で話しの流れに並べ替えているようで、考えた後はすばやく並べ

    ていることが多かった。「ピクニック」の第 1 試行ができなかったが、最初に自分だけでやるときには躊躇もあるのかもしれない。「積木模様」は比較的短い時間で完成させており、割り増し得点も多かった。

    上側から、あるいは右側から、順番に構成しているようすが見られた。「組合せ」も、全体のつながりを

    イメージしてピースを置くよりも、ひとつずつ試行錯誤的に置いていっているようすが見られた。「迷路」

    は全問題を通じて誤数が非常に少なかった。慎重に進む先を探しているようすも見られた。「符号」と「記

    号探し」は視線を移動しながらの見比べを慎重に行なって、ひとつずつじっくりと処理していっているよ

    うすであり、結果として回答の数が少なかった。 ・分からない場合に「パス」と言ってもよいことを伝えると、時間をかけたあとに自分から「パス」と言え

    ることも多くあった。検査を通じて、緊張のようすは見られたが、実施には協力的であった。言語での回

    答には時間がかかったが、目で見ながら手で操作して構成する課題での回答は時間をかけないでできるこ

    とが多かった。検査時間は、本生徒の回答を待つことが多かったために、1 時間 50 分ほど要した。途中、「算数」のあとに短い休憩を入れたが、席は立たないで、座ったままでいた。鉛筆の持ち方および筆圧も

    適正と思われた。

  • 2

    2.検査結果 ・VIQ は 71、PIQ は 80 でともに境界線の前後にあり、FIQ は 73 で境界線の領域であった。VIQ と PIQの差は 9で、統計的に有意な差はない。

    ・VCは 70でパーセンタイル順位は 2、POは 89でパーセンタイル順位は 23、FDは 76でパーセンタイル順位は 5、PSは 58でパーセンタイル順位は 0.3である。

    ・VCとPOの差は 19で、5%水準で有意な差がある。VC とPSの差は 12で、15%水準で有意な差がある。VC とFD の間には有意な差はない。PO とFD の差は 13 で、