新桂沢ダムの温度応力対策について ·...

6
Kei Umetsu, Seiichi Chouno, Naoyuki Fukui 平成29年度 新桂沢ダムの温度応力対策について ―技術提案における実施工とその検証(中間報告)― 札幌開発建設部 幾春別川ダム建設事業所 ○梅津 佳 札幌開発建設部 幾春別川ダム建設事業所 蝶野 誠一 鹿島・岩田地崎・伊藤特定工事共同企業体 福井 直之 新桂沢ダムは、直轄初の同軸嵩上げ式の再開発のダムである。積雪寒冷地での施工は、越冬 に伴い発生するコンクリートの温度応力ひび割れの抑制に加え、嵩上げによる新旧コンクリー ト接合部の一体性確保という技術的な課題がある。このため、施工方法に民間技術力を活用す る技術提案評価型AⅢ型の入札方式を採用し、現在施工中である。本報告は、新桂沢ダムにお ける温度応力対策工法と対策効果の検証結果(中間)を報告する。 キーワード:ダム再生、同軸嵩上げ、温度応力対策、給熱養生 1. はじめに (1)ダムの概要 新桂沢ダムは、石狩川水系幾春別川上流に位置する北 海道で最初に建設された直轄多目的ダムである桂沢ダム (昭和32年完成、堤高63.6m、堤頂長334.25m)を、我が 国の直轄ダムとしては初めてダム軸を同じくして11.9m の嵩上げを行う再開発のダムであり、洪水調節、流水の 正常な機能の維持、工業用水、水道用水、発電を目的と している(図-1)平成28年8月より堤体建設工事に着手し、平成29年7月 より本体コンクリート打設を開始した。 図-1 新桂沢ダム位置図 (2)積雪寒冷地における同軸嵩上げダムの課題 1) 新桂沢ダムは、積雪寒冷地で施工する嵩上げダムであ り、越冬時において大きな温度応力が発生する。着目箇 所として下記の3点がある(図-2)① 新旧堤体接合部の越冬面付近に発生する温度応力 → 新桂沢ダム(積雪寒冷地の嵩上げダム)特 有の課題 ② 新設堤体下流面に大きな温度降下により発生する 温度応力 → 積雪寒冷地のダムの共通の課題 ③ 越冬時のリフト表面に発生する温度応力 → 積雪寒冷地のダムの共通の課題 上記の②(堤体下流面)、③(越冬時のリフト表面) については、これまでの道内他ダムでも、「養生(断熱) マット」により対策している。①(新旧堤体接合部)に ついては、③(越冬時のリフト表面)の内部拘束応力に より、越冬面周辺に水平方向の引張応力が発生し、新旧 堤体接合部の隅角部に応力が集中し、新旧堤体接合面に ひび割れが発生するリスクを有している。ダム嵩上げは、 垣谷の嵩上げ公式 2) に基づいた設計を行っており、新 旧堤体接合部の一体化は嵩上げダムの構造系に関わる重 要な前提条件である。本稿は、技術提案による新桂沢ダ ムにおける温度応力対策工法と対策効果の検証結果(中 間)を報告する。 図-2 新桂沢ダムの温度応力の着目点

Upload: others

Post on 31-Jan-2020

9 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Kei Umetsu, Seiichi Chouno, Naoyuki Fukui

平成29年度

新桂沢ダムの温度応力対策について ―技術提案における実施工とその検証(中間報告)―

札幌開発建設部 幾春別川ダム建設事業所 ○梅津 佳

札幌開発建設部 幾春別川ダム建設事業所 蝶野 誠一

鹿島・岩田地崎・伊藤特定工事共同企業体 福井 直之

新桂沢ダムは、直轄初の同軸嵩上げ式の再開発のダムである。積雪寒冷地での施工は、越冬

に伴い発生するコンクリートの温度応力ひび割れの抑制に加え、嵩上げによる新旧コンクリー

ト接合部の一体性確保という技術的な課題がある。このため、施工方法に民間技術力を活用す

る技術提案評価型AⅢ型の入札方式を採用し、現在施工中である。本報告は、新桂沢ダムにお

ける温度応力対策工法と対策効果の検証結果(中間)を報告する。

キーワード:ダム再生、同軸嵩上げ、温度応力対策、給熱養生

1. はじめに

(1)ダムの概要

新桂沢ダムは、石狩川水系幾春別川上流に位置する北

海道で最初に建設された直轄多目的ダムである桂沢ダム

(昭和32年完成、堤高63.6m、堤頂長334.25m)を、我が

国の直轄ダムとしては初めてダム軸を同じくして11.9m

の嵩上げを行う再開発のダムであり、洪水調節、流水の

正常な機能の維持、工業用水、水道用水、発電を目的と

している(図-1)。

平成28年8月より堤体建設工事に着手し、平成29年7月

より本体コンクリート打設を開始した。

図-1 新桂沢ダム位置図

(2)積雪寒冷地における同軸嵩上げダムの課題 1)

新桂沢ダムは、積雪寒冷地で施工する嵩上げダムであ

り、越冬時において大きな温度応力が発生する。着目箇

所として下記の3点がある(図-2)。

① 新旧堤体接合部の越冬面付近に発生する温度応力

→ 新桂沢ダム(積雪寒冷地の嵩上げダム)特

有の課題

② 新設堤体下流面に大きな温度降下により発生する

温度応力

→ 積雪寒冷地のダムの共通の課題

③ 越冬時のリフト表面に発生する温度応力

→ 積雪寒冷地のダムの共通の課題

上記の②(堤体下流面)、③(越冬時のリフト表面)

については、これまでの道内他ダムでも、「養生(断熱)

マット」により対策している。①(新旧堤体接合部)に

ついては、③(越冬時のリフト表面)の内部拘束応力に

より、越冬面周辺に水平方向の引張応力が発生し、新旧

堤体接合部の隅角部に応力が集中し、新旧堤体接合面に

ひび割れが発生するリスクを有している。ダム嵩上げは、

垣谷の嵩上げ公式 2)に基づいた設計を行っており、新

旧堤体接合部の一体化は嵩上げダムの構造系に関わる重

要な前提条件である。本稿は、技術提案による新桂沢ダ

ムにおける温度応力対策工法と対策効果の検証結果(中

間)を報告する。

図-2 新桂沢ダムの温度応力の着目点

Kei Umetsu, Seiichi Chouno, Naoyuki Fukui

2. 温度応力対策計画

(1)同軸嵩上げダムにおける温度応力の影響

越冬面の養生は、コンクリートの水和熱と、コンクリ

ート表面が越冬時に急激に冷やされることで発生する温

度応力により、堤体表面にひび割れが発生する事象への

対策であり、北海道などの積雪寒冷地における共通の技

術的課題である。これに加えて、新桂沢ダムのような同

軸嵩上げダムでは、堤体表面のひび割れだけではなく、

新旧堤体接合部の一体化という特有の技術的課題がある。

前述したように垣谷の嵩上げ公式 2)に基づいた設計

では、新旧堤体の一体化が原則であり、温度応力による

新旧堤体接合部の引張ひずみを、コンクリートの許容引

張ひずみ内に収める必要がある。また、現ダムの貯水池

運用を行いながら、新ダムのコンクリート打設を行う必

要があるため、貯水位変動による外力の変化が新旧堤体

の一体化に影響を及ぼす懸念もある。これら、新旧堤体

接合部の一体化及び堤体表面のひび割れ対策の評価を行

うために、貯水位の変動、コンクリートの水和熱、外気

温、コンクリート打設実施工を考慮した温度応力解析を

実施し、温度応力対策工法を検証する。

(2)当初計画

新桂沢ダムの温度応力対策は、越冬期において、旧堤

体および新堤体の下流面の全体を養生マット及びブルー

シートで覆うとともに、新堤体の越冬面に断熱材

(EPS:Expanded Poly-Styrene)による保温養生を施す

計画とした(図-3)。

(3)実施計画

1)新桂沢ダム工事における技術提案の概要

新桂沢ダム堤体建設工事では民間技術力を活用する技

術提案評価型AⅢ型の入札方式を採用し、下記4項目につ

いて技術提案がされた。

①施工日数の短縮

提案:対象約4.2年に対し約1.8年短縮

②基礎掘削における既設堤体等への影響低減

提案:割裂工法(静的破砕)による取壊しを採用

③堤体コンクリート打設設備撤去時の道道通行止め低減

提案:打設設備をケーブルクレーンに代わりクローラ

クレーンを採用

④新旧堤体コンクリートの一体性確保における品質向上

④の提案については以下の「2)温度応力対策工法の

概要」に示す。

2)温度応力対策工法の概要

温度応力対策は、越冬面の保温養生に加えて、コンク

リートの打込み温度の低減及び旧堤体コンクリートの給

熱を行うことにより、越冬面付近の新旧堤体コンクリー

ト温度差を低減し、新旧接合部や新設堤体下流面の引張

ひずみの発生を抑制する。なお、越冬面の保温養生は、

当初計画のEPSから、同等以上の保温効果を有し運搬性

に優れる「真空断熱材」に変更した。対策の概要は以下

のとおりである。

① 夏期のプレクーリングとして、練混ぜ水は水温の低

い貯水池水深15m位置の水を利用し、更に冷却設備に

より6℃以下に練混ぜ水を冷却及び冷風設備による粗

骨材の冷却によって、堤体コンクリートの打込み温度

を低減する。

② 夏期は、給熱保温シートにより旧堤体を温める。

③ 秋期は、電熱マットにより旧堤体表面を15℃以上に

給熱する。

④ 越冬期養生として、電熱マットにより旧堤体表面を

15℃以上に給熱する。越冬面保温養生の断熱材とし

て真空断熱材(厚さ1.8cm)を用いる。また、旧堤体

及び新設堤体の下流面に養生マット(t=20mm)及びブ

ルーシートを敷設し養生する。

温度応力対策の工程を(図-4)、模式図を(図-5)に

示す。

ⅰ)給熱保温シート

夏期に用いた給熱保温シートは、黒色シートと透明な

独立気泡性シートを複合した特殊シートである。黒色シ

ートは、農業用として用いられる黒色のビニールシート

で、日射による熱を吸収し、シートを敷設するだけで人

工的なエネルギーを用いず、効率的に蓄熱する機能を有

する。透明な独立気泡性シートは、日射を透過し、かつ

気泡により蓄積した熱を逃がさない機能を有する。これ

らのシートを重ね合わせ、黒色シート側が旧堤体コンク

リート面に接するように設置する(図-6)。

図-3 当初計画の温度応力対策工概念図(EPS+養生マット)

図-6 給熱保温シートの模式図

Kei Umetsu, Seiichi Chouno, Naoyuki Fukui

ⅱ)電熱マット

電熱マットは(写真-1)に示すシートタイプのマット

で、制御盤によって任意の温度設定で加熱することがで

きる。また、サーモスタット(温度センサー)を備えて

おり、確実に15℃以上に保温を行う。

ⅲ)真空断熱材

越冬面の保温養生に用いた真空断熱材は、グラスウー

ル芯材をガスバリアフィルムで包み、真空状態にして密

封した断熱材である(図-7)。越冬面養生は真空断熱材

を養生マット2枚で挟んでその上にブルーシートを敷設

する(図-8)。この熱伝達率はη=0.126W/m2Kであり、

当初計画(EPS)のη=0.159W/m2Kに比べて断熱性能が高

い。また、真空断熱材(厚さ:1.8cm)はEPS(厚さ20cm)

よりも材料コストが安く(約2/3)、体積が小さいため

廃棄時のコストも縮減できる。

3)温度応力解析結果

解析モデルは最大断面のモデルを用い、解析は貯水位

変動とコンクリート打設スケジュールを考慮した逐次解

析により行い、当初計画よりも最大引張ひずみが軽減さ

れる結果となった。その解析値は、新旧堤体接合部にお

いて39μと許容値100μ以下、また、新堤体下流面にお

いて116μと許容値120μ以下であることを確認した。

なお、許容値120μは、新堤体コンクリートの伸び能力

確認試験(緩速載荷による割裂引張試験)の結果による。

3. 温度応力対策工の実施結果

(1) 夏期からの給熱保温養生

日射のエネルギーを利用して旧堤体に蓄熱させること

を目的に給熱保温シートによる保温養生を実施した(平

成29年6月4日から平成29年10月2日まで)。夏期におけ

る給熱保温シートによる保温養生について、給熱保温シ

ートの敷設状況を(写真-2)に示す。

図-4 温度応力対策工程(実施計画)

図-5 温度応力対策模式図(実施計画)

打設完了

11/17 越冬期養生

図-8 越冬面養生の模式図

写真-1 越冬期養生に使用する電熱マット

材料の熱伝導率:0.0025W/m・K

図-7 真空断熱材の模式図

Kei Umetsu, Seiichi Chouno, Naoyuki Fukui

給熱保温シートを敷設した箇所(養生あり)と、敷設

していない箇所(養生なし)におけるコンクリート温度

と外気温の推移を(図-9)に示す。温度計は、旧堤体下

流面より深度5cmに設置し計測した(図-10)。 この計測結果より、外気温の高い7月~8月初旬では、

給熱保温シート養生の有り・無しで温度計測結果に明瞭

な違いは認められないが、外気温が低下し始める8月下

旬以降では、給熱保温シート養生を施した方が、コンク

リート温度は高くなる傾向であった。

また、夜間の外気温が低下する時間帯において、給熱

保温シート養生有りの方が無しに比べて高い温度が維持

されており、給熱保温シート養生を施すことにより外気

への放熱が抑制され、昼間の給熱が夜間に保持されてい

ると考えられる。

写真-2 給熱保温シート敷設状況

図-10 堤体内埋設計器設置箇所図(BL18)

(2) 夏期のプレクーリング

コンクリートのプレクーリングとして、冷却設備によ

る練混ぜ水の冷却と冷風設備による粗骨材の冷却を実施

した(平成29年7月10日から9月30日まで)。練混ぜ水に

ついては、水温の低い桂沢ダム湖水深約15m付近から取

水し、冷却設備により6℃以下に低減した。コンクリー

ト製造時の練混ぜ水の温度計測結果を(図-11)に示す。

図-11 練混ぜ水温度計測

(3) 秋期における給熱養生

旧堤体表面を15℃以上に保温することを目的に電熱マ

ットによる給熱養生を実施した(平成29年10月3日から

平成29年12月8日まで)。

電熱マットの敷設状況を(写真-3)に示す。越冬面を

境に、旧堤体下流面の越冬面を含む上方ハーフ3リフト

(EL.156.00~158.25)と下方3リフト(EL.151.50~

156.00)で電熱マットの種類を分けている。上方ハーフ

3リフトの範囲においては、サーモスタット付きの温度

制御可能な電熱マットを使用した。下方3リフトの範囲

においては、一定温度の給熱をするようにした。

電熱マットを敷設した箇所(養生あり)と、敷設して

いない箇所(養生なし)におけるコンクリート温度と外

気温の推移を(図-12)に示す。温度計は、旧堤体下流

面より深度5cmと100cmに設置し計測した(図-10)。 電熱マットを敷設したことにより旧堤体深度5cmの表

面温度を15℃以上に確保した。また、旧堤体表面を給熱

することで、深度100cmにおいてもほぼ15℃以上が保た

れた。

0

5

10

15

20

25

30

35

7/2 7/9 7/16 7/23 7/30 8/6 8/13 8/20 8/27 9/3 9/10 9/17 9/24 10/1

温度( ℃)

外気温度

冷却設備水温度夏期休工期間

8/12~8/16

管理値6℃

0

5

10

15

20

25

30

9/21 9/22 9/23 9/24 9/25 9/26 9/27 9/28 9/29 9/30

温度(℃);時間

外気温

養生無し

養生有り

9/21~9/29拡大

養生有りは、外気温が低下する夜

間に高い温度が維持される

給熱保温シート

写真-3 電熱マット敷設状況

5

10

15

20

25

30

35

H29.7.1 H29.8.1 H29.9.1

温度(℃);日平均

外気温

養生無し

養生有り

8月下旬以降;養生

有りは無しに比べて

温度が高い

H29.9.30H29.9.1H29.8.1H29.7.1

図-9 給熱保温シートによる旧堤体の温度計測

越冬面

電熱マット敷設範囲

Kei Umetsu, Seiichi Chouno, Naoyuki Fukui

(4)越冬期における養生

平成29年度のコンクリート打設は天候不良等の影響

により、越冬面標高(EL154.5m)と最終打設日が(11月

8日から11月28日へ)変更となった。これに伴い、温

度応力対策実施期間を変更した(表-1)。

越冬期における養生は、外気による新設コンクリート

の冷却を抑えることを目的に越冬面に真空断熱材、旧堤

体表面を15℃以上に保温することを目的に越冬面より

上方1リフト+ハーフ3リフトに電熱マットを敷設する

とともに、旧堤体及び新設堤体の下流面に養生マット及

びブルーシートを敷設した(平成29年12月9日から平

成30年6月2日まで)。

(5)寒中コンクリート対策の実施

11/8以降の新桂沢ダムサイトでの日平均気温が連続

して4℃以下となったことから、以下に示す寒中コンク

リート対策を実施した。

① 練り混ぜ水に温水を使用し、コンクリートの練り上

がり温度10℃以上、打ち込み温度5℃以上を確保する。

② 打込直後のコンクリート表面を養生マット(t=20mm)

及びブルーシートで覆い保温養生する。

③ 横継目型枠は、ブルーシートで覆いジェットヒータ

ーで給熱養生する。

④ 下流面型枠(メタルフォーム)は外側の足場をブル

ーシートで覆いアイランプで給熱養生する。

4.実施工の温度応力解析結果(中間結果)

夏期から冬期までの温度応力対策、打設スケジュール、

外気温、貯水位、コンクリート打込温度、寒中コンクリ

ート対策の実績を反映した温度応力解析を実施し、温度

応力対策の検証を行った。 温度応力解析の結果、堤体コンクリートに発生する最

大引張ひずみは、新旧堤体接合部では実施計画39μが

57μ、新堤体下流部では実施計画116μが120μへと増

加したが、いずれも許容値以下となった(図-13)。

5.温度応力対策の今後の検証方法

新桂沢ダムでは、施工管理及び完成後の安全管理を目

的として(図-14)に示す計器を堤体内に埋設する計画

である。埋設計器は、最大断面(BL17)を含む3ブロッ

クを対象として、越冬面の上下リフトと高さ方向に概ね

均等分割になるように6標高に設置するものとした。今

期実施中の温度応力対策の効果は、これらの埋設計器の

計測結果を基に効果検証を行う予定である。

-20

-10

0

10

20

30

40

H29.10.10 H29.10.24 H29.11.7 H29.11.21 H29.12.5

温度(℃);時間

外気温

養生無し(深度5cm)

養生無し(深度100cm)

養生有り(深度5cm)

養生有り(深度100cm)

サーモスタットにより温度制御

管理値:15℃

表-1 温度応力対策概要表(H29.12.1時点)

1.コンクリートの打込温度の低減

①練り混ぜ水を6℃に冷却②粗骨材温度を低減↓打込温度を低減

2.旧堤体コンクリートの夏期給熱

【給熱保温シート】◆計画越冬面(EL156m)の上方3ハーフリフト(EL156~158.25)と下方3リフト(EL151.5~156)に給熱保温シートを敷設

3.旧堤体コンクリートの秋期給熱

【電熱マット】◆計画越冬面(EL156m)の上方3ハーフリフト(EL156~158.25)と下方3リフト(EL151.5~156)に電熱マットを敷設。温度15℃以上を保持

4.越冬期養生【真空断熱材】【電熱マット】【養生マット】

◆越冬面(EL154.5m)に養生マット+真空断熱材を敷設◆越冬面(EL154.5m)の上方(EL154.5~158.25;h=3.75m)に電熱マットを敷設。温度15℃以上を保持◆旧提体の下流面、新設提体の下流面全体に養生マットを敷設

※リフトスケジュール、温度応力対策実施日は17BLの日付を示す。H29.12.1時点版。実線は実績、点線は実施計画を示す。

対策項目 対策内容

H29(2017) H30(2018) H31(2019)

1月 2月 3月 4月 5月

H32(2020)

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 11月 12月5月 6月 7月 8月 9月 10月

打設開始 2年目打設再開

7/10 11/286/4 11/17

6/4 9/30

6/4 10/2 試験湛水

打設完了

9/307/10

リフスケ

17BLリフスケ

17BL

10/3 12/8

3/3111/111/18 3/316/212/9

11/87/10

7/10 9/30

6/4 10/9

10/10 11/8

11/9 6/2

6/411/17

6/4 9/30

11/18 3/31 11/1 3/31

図-12 電熱マットによる旧堤体の温度計測

図-14 堤体内埋設計器設置箇所図(BL17)

設定値を変更

Kei Umetsu, Seiichi Chouno, Naoyuki Fukui

6.まとめ

本論の内容をまとめると以下のとおりである。

① 夏期の給熱保温養生は、旧堤体に蓄熱させること

を目的に給熱保温シートを概ね敷設期間計画どおりの

平成29年6月4日から平成29年10月2日まで敷設した。

給熱保温養生有無の箇所で温度比較を行った結果、給

熱保温養生有りの方がコンクリート温度は高く、また

夜間も高い温度が維持されており、外気への放熱が抑

制される効果を検証した。

② 夏期のプレクーリングは、計画どおり平成29年7月

10日から平成29年9月30日まで練混ぜ水と粗骨材の冷

却を行った。練混ぜ水を冷却した結果、練混ぜ水温

度は6℃以下に保たれたことを確認した。

③ 秋期における給熱養生は、旧堤体を人工給熱するこ

とを目的に電熱マットを打設スケジュール変更による

越冬面養生開始までの敷設期間の平成29年10月3日か

ら平成29年12月8日まで敷設した。旧堤体下流面の温

度を計測した結果、旧堤体コンクリート温度が15℃以

上に確保される効果を検証した。

④ 越冬期における養生は、越冬面に真空断熱材を敷設

したことに加え、秋期から継続して電熱マットによる

給熱を行ったほか、旧提体及び新設提体下流面に養生

マット並びにブルーシートを敷設した。打設スケジュ

ール変更に伴い、敷設期間を平成29年12月9日から平

成30年6月2日までとした。

⑤ 打設スケジュール、外気温、貯水池変動、温度応力

対策、寒中コンクリート対策の実績を反映した温度応

力解析を行った結果(中間)、最大引張ひずみが許容

値以下となることを確認し対策工の妥当性を検証した。

温度応力対策は、今後も継続実施するものであるが、

本報告は平成 29 年の打設完了までの実績を反映し対策

工を検証した。ダムの完成に向けて、打設スケジュール

や外気温条件が解析と異なることがあるため、埋設計器

の計測結果を分析し、確認解析を行い対策工の安全性を

再確認したいと考えている。

謝辞:本検討を行う上で、土木研究所、国土技術政策総

合研究所及び関係者から、評価手法及び評価内容に関わ

る多数の助言を頂いた。ここに感謝の意を表したい。

参考文献

1) 菅野 裕也,山内 洋志,蝶野 誠一:新桂沢ダムの温度応力

対策について-同軸嵩上げダムにおける温度応力対策試験

施工-,国土交通省北海道開発局第 60 回(平成 28 年度)北

海道開発技術研究発表会

2)(財)ダム技術センター:多目的ダムの建設 第 5 巻 設計

Ⅱ編 平成17年,p255,2005年

項目 実施計画 実施工(平成29年打設実績考慮)

最大引張

ひずみ

コンター図

引張ひずみ

経時変化図

0

20

40

60

80

100

120

140

2017/7/1 2019/7/1 2021/7/1 2023/7/1 2025/7/1 2027/7/1 2029/7/1

引張ひずみ(μ)

既設接合 新設接合 新設外部1年目打設

2年目打設試験湛水

116μ

49μ

39μ

(H29) (H31) (H33) (H35) (H37) (H39) (H41)

0

20

40

60

80

100

120

140

2017/7/1 2019/7/1 2021/7/1 2023/7/1 2025/7/1 2027/7/1 2029/7/1

引張ひずみ(μ)

既設接合 新設接合 新設外部1年目打設

2年目打設試験湛水

120μ

31μ

57μ

(H29) (H31) (H33) (H35) (H37) (H39) (H41)

新設内部新設接合部新設下流面既設内部既設外部凡例:

図-13 温度応力解析結果(既往解析との比較)

49μ

1年目

39μ

1年目

116μ

5年目

68μ

11年目

28μ

1年目

69μ

2年目

38μ

13年目

27μ

2年目

71μ

12年目

66μ

12年目

1年目越冬面EL.156m

31μ

1年目

57μ

1年目

120μ

5年目

70μ

12年目

30μ

1年目

1年目越冬面

70μ

2年目

38μ

13年目

27μ

2年目

72μ

12年目

70μ

12年目