カンボジアだよりno. 49 - jicano. 49 大画面に歓声をあげ る子どもたちと、日...

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ワールドカップ予選、観戦にはじける笑顔 学生らが農村でパブリックビューイング 9月3日の夜、熱気あふれる「埼玉スタジアム」 と、カンボジアの小さな農村が、「サッカー」でつ ながりました。2018年FIFAワールドカップ・アジア 2次予選での日本とカンボジアの対戦を、プレイベン 州スマオン村の子どもたちに生中継で見てもらおう というプロジェクトが実施されました。 プロジェクトを呼びかけたのは、スマオン村で7 年にわたりサッカーを軸とした支援を続けている学 生団体「WorldFut」と、カンボジアでサッカーの普 及やスポーツ振興の活動をしているアルビレックス 新潟プノンペン。JICAが後援し、特定非営利活動法 人ハートオブゴールド及びソニーコンピュータサイ エンス研究所が協力しました。 試合当日、スマオン村には日本からこの日ために 訪れたWorldFutの関係者を含むたくさんの日本人が 集まり、スマオン小学校でのパブリックビューイン グの準備に当たりました。試合を大きなスクリーン で見てもらおうと、まだ陽射しの強い時間から機器 を設定し、白い布で作った大型スクリーンを設営し ました。 また、子どもだけでなく、大人にも見てもらおう と、試合前には大型バスの宣伝カーが村を走り回りま した。試合までの時間でお祭り気分を盛り上げよう と、NPOハートオブゴールドが、子どもたちと一緒に エアロビクスをしたり、ペットボトルと小石で応援グ ッズを作ったりする活動も盛り込まれました。 JICAカンボジア事務所 Sep 21, 2015 No. 49 カンボジアだより 大画面に歓声をあげ る子どもたちと、日 が落ちた会場の様子 (左、上)/子ども たちのサッカー指導 の様子(上) 午後5時半、試合が始まり生中継のテレビ画面が 大型スクリーンに映し出されると、子どもたちは食 い入るように選手たちの動きを見つめていました。 試合は日本の勝利に終わりましたが、カンボジア人 選手たちの健闘は、サッカー大好きな子どもたちに 夢を与えたようです。 WorldFutが活動を始める前、スマオン村にはボー ルも、運動ができるグラウンドもなかったといいま す。そこで彼らは、スマオン村にボールやルールブッ クを贈り、グラウンドを建設して子どもたちがサッカ ーに親しめる環境づくりに取り組んできました。 この日集まった子どもたちも、夢中でボールを蹴 り合っていました。ほとんどの子が裸足でしたが、そ の足さばきはなかなか見事。副代表、岩瀬美南海さん (法政大3年)は、「私たちが贈ったルールブックを 大事に使っていたり、子どもたちが練習を続けていた りする姿を見ると、7年にわたる村での活動の積み重 ねをしっかりと感じます。パブリックビューイングは その一つの集大成です」と、話しました。このイベン トの翌日にも、村の子どもたちを対象に、ハートオブ ゴールドによる体操の指導、アルビレックスによるサ ッカークリニックが開かれ、当地で体育の振興に携わ るJICA青年海外協力隊員も協力しました。 11月17日には今度はプノンペンで2次予選の日本 戦が行われます。カンボジアチームにとっては「ホ ーム」での試合、ますますの健闘が期待されます。

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Page 1: カンボジアだよりNo. 49 - JICANo. 49 大画面に歓声をあげ る子どもたちと、日 が落ちた会場の様子 (左、上)/子ども たちのサッカー指導

ワールドカップ予選、観戦にはじける笑顔学生らが農村でパブリックビューイング

9月3日の夜、熱気あふれる「埼玉スタジアム」と、カンボジアの小さな農村が、「サッカー」でつながりました。2018年FIFAワールドカップ・アジア2次予選での日本とカンボジアの対戦を、プレイベン州スマオン村の子どもたちに生中継で見てもらおうというプロジェクトが実施されました。

プロジェクトを呼びかけたのは、スマオン村で7年にわたりサッカーを軸とした支援を続けている学生団体「WorldFut」と、カンボジアでサッカーの普及やスポーツ振興の活動をしているアルビレックス新潟プノンペン。JICAが後援し、特定非営利活動法人ハートオブゴールド及びソニーコンピュータサイエンス研究所が協力しました。

試合当日、スマオン村には日本からこの日ために訪れたWorldFutの関係者を含むたくさんの日本人が集まり、スマオン小学校でのパブリックビューイングの準備に当たりました。試合を大きなスクリーンで見てもらおうと、まだ陽射しの強い時間から機器を設定し、白い布で作った大型スクリーンを設営しました。

また、子どもだけでなく、大人にも見てもらおうと、試合前には大型バスの宣伝カーが村を走り回りました。試合までの時間でお祭り気分を盛り上げようと、NPOハートオブゴールドが、子どもたちと一緒にエアロビクスをしたり、ペットボトルと小石で応援グッズを作ったりする活動も盛り込まれました。

JICAカンボジア事務所Sep 21, 2015No. 49カンボジアだより

大画面に歓声をあげる子どもたちと、日が落ちた会場の様子(左、上)/子どもたちのサッカー指導の様子(上)

午後5時半、試合が始まり生中継のテレビ画面が大型スクリーンに映し出されると、子どもたちは食い入るように選手たちの動きを見つめていました。試合は日本の勝利に終わりましたが、カンボジア人選手たちの健闘は、サッカー大好きな子どもたちに夢を与えたようです。

WorldFutが活動を始める前、スマオン村にはボールも、運動ができるグラウンドもなかったといいます。そこで彼らは、スマオン村にボールやルールブックを贈り、グラウンドを建設して子どもたちがサッカーに親しめる環境づくりに取り組んできました。

この日集まった子どもたちも、夢中でボールを蹴り合っていました。ほとんどの子が裸足でしたが、その足さばきはなかなか見事。副代表、岩瀬美南海さん(法政大3年)は、「私たちが贈ったルールブックを大事に使っていたり、子どもたちが練習を続けていたりする姿を見ると、7年にわたる村での活動の積み重ねをしっかりと感じます。パブリックビューイングはその一つの集大成です」と、話しました。このイベントの翌日にも、村の子どもたちを対象に、ハートオブゴールドによる体操の指導、アルビレックスによるサッカークリニックが開かれ、当地で体育の振興に携わるJICA青年海外協力隊員も協力しました。

11月17日には今度はプノンペンで2次予選の日本戦が行われます。カンボジアチームにとっては「ホーム」での試合、ますますの健闘が期待されます。

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サッカーを通じた国際協力の連携をJICA、日本サッカー協会、Jリーグが協定

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農協の活性化事業 スバイリエンの豚販売農協が好調

J I C A は 9 月 1 7 日 、 日 本 サ ッ カ ー 協 会(JFA)、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)とともに、サッカーなどスポ―ツを通じた国際協力の一層の発展を目指し、連携協定を結びました。

カンボジアでも見られるように、サッカーは、世界中の若者や子どもたちに広く愛されているスポーツです。JICA、JFA、Jリーグの3者はこれまでも様々な形で、スポーツによる国際協力事業を実施してきましたが、3者の協力をより効率的、効果的に行うことになりました。健康増進だけではなく、地域の開発や振興、生活レベルの向上、災害復興や平和構

カンボジアの「農協」を活性化させる事業の現状やこれからを話し合う会議が、安達JICAカンボジア事務所長、アムノット農林水産省長官の出席のもと、8月20日から2日間にわたってスバイリエン州で開かれました。JICAは2014年から、カンボジア政府農林水産省とともに「ビジネスを志向したモデル農協構築プロジェクト(BPAC)」を、コンポンスプー、タケオ、コンポンチャム、スバイリエンの4州で松田専門家(チーフアドバイザー)と大場専門家(業務調整)を中心に実施しています。

カンボジアでは、2001年以降、農協の振興

にかかわる政策強化と制度整備が進められています。ただ、多くの農協では組織運営の基盤が弱く、共同購買や共同販売などのビジネスを志向した活動があまり行われていませんでした。BPACでは農協の組織運営の基盤整備とともに、事業経営能力向上を支援し、モデルとなる農協をつくることを目指しています。

この日の会議では、スバイリエン州の養豚農家が組織している農協が、優良事例として紹介されました。2009年に設立されたチェンチェムチュローク農協で、組合員数は発足当初の30人から現在は258人(うち女性は83人)まで増えています。同農協は、組合員が販売したい豚の数を毎日とりまとめ、農協が仕入れ業者と価格を交渉。農家が個別に販売先を探すよりも効率がよく、新たな販路拡大にも役立っているといいます。

月平均の販売数は222匹で、組合員農家から農協が買い取る単価は民間仕入れ業者よりも高く、組合員からの信頼も厚くなっています。一方で、「需要は順調に拡大しているが、農家側の供給が間に合わない」という悩みも抱えています。今後は、低金利ローンなどで資金を調達し、農家の生産力を上げる工夫が必要とのことです。

築にも資することを目的としています。これからの具体的な取り組みとして3者は、

ラオスへのサッカー指導者派遣、ボスニアでのスポーツを通した平和構築支援事業などを行います。また、カンボジアも含めた世界各地で、ボランティアとして派遣される指導者の研修や指導教材の提供、開発途上国の研修員とJリーグ選手たちとの交流イベントなど、多彩な事業が展開される予定です。

すでにカンボジアでは、JICAボランティアによる審判や若手選手の育成が行われています。これから更にサッカーを通じたJICAの取組が活発になることを期待したいと思います。

会議では豚の販売を担う農協の活動を視察した(スバイリエン州)

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プノンペンの中心部、1970年代後半のポル・ポト時代に政治犯収容所だった「トゥールスレン虐殺博物館」。おどろおどろしい名前や、その展示内容から、行きたくない、見たくないと思う人たちも多いのではないでしょうか。

カンボジアにとって負の遺産であるポル・ポト時代の経験を、力強い平和のメッセージに変えて発信することはできないだろう

か 。 J I C Aは、沖縄県か ら の 提案 を 受 けて 、 2 0 0 9年 か ら2 0 1 5 年 3月まで、この虐殺博物館を舞台に「平和博物

館づくり」に取り組んできました。沖縄県は、第二次世界大戦で地上戦に巻き

込まれ、たくさんの一般市民が命を落しました。戦後しばらくして、市民の視点から戦争体験を伝えようという動きが盛んになり、それは、現在の「沖縄県立平和祈念資料館」に結実します。

悲惨さを伝えることにとどまらず、歴史的背景をしっかりと伝え、訪れた人たちが最後に平和への希望を持てるような博物館にしたい―。平和祈念資料館は、平和とは何か、という普遍的な問いにこたえる仕組みになっていて、戦争を知らない世代の子どもたちも平和を自分たちの問題として考えることができます。

沖縄県とJICAによる協力事業では、トゥールスレン博物館の館長やスタッフが沖縄を訪れたり、逆に博物館学芸員がカンボジアに出向いたりして、資料の保存方法や展示の技術、平和教育のノウハウなどを伝えました。

事業期間は終わりましたが、トゥールス

レン博物館での取り組みは独自に続いています。これまでの活動の枠を超えて、地方の高校生たちを招いて博物館ツアーを受け入れたり、移動博物館を計画したり、さまざまな取り組みをしています。

その一つが、8月19日に始まった「Skill and Fortune」展です。記録にあるだけで12,000人余りが非人道的な扱いや拷問を受けたとされるこの収容所で、生き残った人が7人いました。そのうち2人、チュン・メイさんとブン・メンさんの半生を紹介する展示です。

2人に共通していたのは、身柄を拘束されたにもかかわらず、その技術ゆえに収容所のスタッフとして命をながらえたことです。チュン・メイさんは技師として、タイプライターから発電機まであらゆる機械の修理を担いました。ブン・メンさんは画家として、ポル・ポト元首相の肖像などを描く仕事で生き抜きました。2人は今もお元気で、展示と合わせ、直接お話を聞く機会も設けられています。

ポル・ポト時代の話というと、「どのように殺されたか」ばかりが注目されがちですが、この展示では2人が「どのように生きたか」に光を当てました。悲惨さを超えて、生命の尊さを訴える展示へ。沖縄の人たちと共に目指した「平和博物館」へ、一歩を踏み出したように感じます。

広 !れが JICAプロジェクトカンボジアと沖縄「負の遺産を平和のメッセージへ」

 展示の説明をするチュン・メイさん(中央)

現在のトゥールスレン虐殺博物館

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発行責任者

JICAカンボジア事務所広報班P.O. Box 613, 6-8th  Floors, #61-64, Preah Nordom Blvd., Phnom Penh, CambodiaTel: +855-23-211-673 Email: [email protected]

*掲載記事、写真、イラストなどの無断転載を禁じます。

JICA PLAZA Cambodia

JICA事業と国際協力の情報窓 口です。興味のある方は是非 お立ちよりください。

JICAカンボジア事務所6階Tel:023-211-673開館時間:月~金8:00-12:00、14:00-17:00

■開発パートナーによるカンボジアへの援助動向や、援助に関係深い政府の動きを、報道からピックアップ。カンボジア援助ニュース

■Webサイトでも、最新情報をご覧いただけます!http://www.jica.go.jp/cam-bodia/index.html

■Like us on Facebook! http://www.facebook.com/JICACambodia

■We’re on Youtube! http://www.youtube. com/user/jicacambodia

●ご案内

<開催済イベント>9月3、4日: サッカーW杯予選、スマオン村パブリックビューイング

<開催予定イベント>9月23日:CJCCでHarvest Moon Festival 開催

<Facebook掲載ニュースハイライト>☆女性企業家オーラルヒストリーが公開(9月8日掲載)☆OJT職員がクメール伝統織物研究所(IKTT)伝統の森へ(9月10日掲載)

■政府、産業の拡大を目指す(プノンペン・ポスト、8月27日)http://www.phnompenhpost.com/business/govt-eyes-industrial-expansion  カンボジア政府は「産業政策2015-2025年」を正式発表。同政策では長期的経済成長に資するため産業基盤と輸出の多角化を目標として掲げ、人材育成や運輸物流改善により日系企業を含むFDI誘致、SME促進と管理、アグロ・インダストリーの発展を促すことをうたう。政府と民間セクターの協力の重要性が強調され、また日本・JICAを含む開発パートナーからの、同政策実施のための技術的・資金的支援が要請された。■政府、今後3年間の外国からの借入増額の計画を承認(カンボジア・デイリー、8月29-30日)https://www.cambodiadaily.com/news/govt-approves-plan-to-increase-foreign-borrowing-over-3-years-92892/  政府閣僚評議会は「公的債務管理戦略2015-2018年」を承認。カンボジアの経済発展が進み、

近々「貧困国」から「低位中所得国」の格付けへの移行が期待されるが、これと共に無償や譲許性の極めて高い優遇借款が相対的に減ることを予想し、当戦略は毎年の外国からの借り入れ上限を2015年の約844百万ドルから2018年までには約1,127百万ドルにまで引き上げるとする。■多くの受験者、試験結果に安堵(プノンペン・ポスト、9月14日)http://www.phnompenhpost.com/national/test-results-please-many  昨年、カンボジア教育省の主導で、それまで不正手段による合格が慣習となっていた高校卒業試験から不正を徹底的に排除する施策をとった結果、合格率がそれまでの80%以上から約26%に落ち内外の関係者を驚かせていた。8月下旬に行われた今年度の同試験でも、昨年同様厳格な不正排除方針が徹底されたが、今年の合格率は半数以上の55.8%(46,560人)にまで改善。人材育成が最優先課題となっているカンボジアにとって、この試験不正排除を含む徹底した教育改革は重要な施策である。