fintech-取り組むべき3つの課題とは? -...

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2015 年 10 月 26、27 日の 2 日間、「東京イノベーションリーダーサミット」が開催されました。ビジネスマッチ ングやピッチコンテストなど、さまざまなトークイベントが開催されるなか、EY JAPAN(新日本監査法人)により、ア ベノミクス効果で賑わう金融のビッグトレンド「FinTech」をテーマとしたセッション「FinTech 企業の挑戦~勝ち抜 くための戦略~」が開催された。マネーフォワードの瀧俊雄氏、コイニ―の佐俣奈緒子氏を含めた FinTech 最前線を 牽引する 5 名が登壇。FinTech の今、そして、これからを勝ち抜く戦略を語った。 FinTech とは、個をエンパワーメントする思想でつくる 金融サービス FinTech とは、Finance と Technology を掛け合わせ た造語で、テクノロジーを駆使して、金融サービスを生 み出したり、見直したりする「金融×IT」分野でのサー ビスや一連の動きだと言われている。 サービス領域は、家計簿・会計ソフトから、貸付、決 済、銀行インフラ系など、多岐に渡る。国内の代表的な サービスとしては、クラウド会計ソフト「freee」、資産 管理ツール「マネーフォワード」、決済サービスの「コイ ニー」などが挙げられ、2015 年現在は、大手金融機関 の市場参入も見られる。三菱東京 UFJ 銀行はビジネスコ ンテストを開催した。オープンイノベーションの一環と してのハッカソンの開催など、大手金融機関も取り組み に積極姿勢をみせている。 “インターネット的”思想で課題を解決する FinTech-取り組むべき3つの課題とは?

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Page 1: FinTech-取り組むべき3つの課題とは? - Hitachiて解決していくようなイノベーションが求められる。 パネルディスカッションの2 つ目のテーマは「解決す

2015 年 10 月 26、27 日の 2 日間、「東京イノベーションリーダーサミット」が開催されました。ビジネスマッチ

ングやピッチコンテストなど、さまざまなトークイベントが開催されるなか、EY JAPAN(新日本監査法人)により、ア

ベノミクス効果で賑わう金融のビッグトレンド「FinTech」をテーマとしたセッション「FinTech 企業の挑戦~勝ち抜

くための戦略~」が開催された。マネーフォワードの瀧俊雄氏、コイニ―の佐俣奈緒子氏を含めた FinTech 最前線を

牽引する 5 名が登壇。FinTech の今、そして、これからを勝ち抜く戦略を語った。

FinTech とは、個をエンパワーメントする思想でつくる

金融サービス

FinTech とは、Finance と Technology を掛け合わせ

た造語で、テクノロジーを駆使して、金融サービスを生

み出したり、見直したりする「金融×IT」分野でのサー

ビスや一連の動きだと言われている。

サービス領域は、家計簿・会計ソフトから、貸付、決

済、銀行インフラ系など、多岐に渡る。国内の代表的な

サービスとしては、クラウド会計ソフト「freee」、資産

管理ツール「マネーフォワード」、決済サービスの「コイ

ニー」などが挙げられ、2015 年現在は、大手金融機関

の市場参入も見られる。三菱東京 UFJ 銀行はビジネスコ

ンテストを開催した。オープンイノベーションの一環と

してのハッカソンの開催など、大手金融機関も取り組み

に積極姿勢をみせている。

“インターネット的”思想で課題を解決する

FinTech-取り組むべき3つの課題とは?

Page 2: FinTech-取り組むべき3つの課題とは? - Hitachiて解決していくようなイノベーションが求められる。 パネルディスカッションの2 つ目のテーマは「解決す

最近では、金融庁は FinTech に関する法制度も含めた

環境整備や規制緩和の検討を進め、経産省は FinTech の

研究会を立ち上げている。まさに関心の高まるこの分野。

「FinTech」とはそもそも何か?

今回パネルディスカッションでの最初のテーマとなっ

たのは「FinTech とは何か?」という、そもそもの話。

FinTech によって社会がどう変わるのか、どんなベネ

フィットを持っている領域なのか。このテーマで最初に

口火を切ったのは、決済サービスを提供し始めて3年目

となるコイニ―株式会社の代表取締役社長 佐俣 奈緒子

氏だ。

佐俣奈緒子 氏/コイニ―株式会社 代表取締役社長

“FinTech は、本質的にインターネットの思想からつく

る金融サービスのことだと思っています。では、インタ

ーネットの思想とは何かというと、個をエンパワーメン

トする思想。つまり、権限委譲された個人が力を持ち、

民主的な活動を加速する取り組みがインターネットの本

質だと思っています。その思想でつくられた金融サービ

スが FinTech と呼ばれるもので、我々自身もそういうサ

ービスをつくっていきたいなと思っています。“

この考えには、株式会社お金のデザイン取締役 COO

の北澤 直 氏も同意する。

北澤 直 氏/株式会社お金のデザイン 取締役 COO

“佐俣さんがおっしゃった“個をエンパワーメントする”

ということ。FinTech とは何かに答えるとしたら、この

表現に尽きると思います。ユーザーの立場から考え、テ

クノロジーが代替できるものに限らず、やるべきことは

もっとあるんじゃないかという、イノベーティブな発想

にもとづき現状を革新していくところに本質があるのか

なと思っています。“

株式会社マネーフォワード取締役で Fintech 研究所長

でもある瀧 俊雄 氏も、同じ立場でさらに踏み込んで、

FinTech を“面倒見のいいオカン”と表現する。

瀧 俊雄 氏/株式会社マネーフォワード 取締役 兼

Fintech 研究所長

“ただ、ツールを提供するだけではなくて、面倒見のい

いオカンになってあげる。これしなさい、このまま放置

しているとひどい目にあうよ、などの“お節介“まで含め

て面倒を見てくれて、ユーザーの「お金まわり」で正し

い解決策をみせていくことが大事な側面かと思っていま

す。“

それでは、解決すべき「顧客の課題」とは何なのか?

FinTech 領域で事業を考える場合に重要なディスカッシ

ョンが続いた。

Page 3: FinTech-取り組むべき3つの課題とは? - Hitachiて解決していくようなイノベーションが求められる。 パネルディスカッションの2 つ目のテーマは「解決す

「支払う」という行為そのものを消去する?!

パネルディスカッションの最初のテーマでは、

FinTech を「インターネットの思想である、個をエンパ

ワーメントし民主主義を加速する思想でつくられた金融

サービス」と定義した。これからの FinTech 事業では、

顕在化していない顧客それぞれの課題にまで焦点を当て

て解決していくようなイノベーションが求められる。

パネルディスカッションの 2 つ目のテーマは「解決す

べき顧客の課題とは何か?」が議題となった。この業界

を牽引する 5 人の眼には何がどのような課題として映っ

ているのだろうか。

マネックスグループ株式会社 執行役員 新事業企画室

長 高岡 美緒 氏は、課題を照らし出すキーワードを二つ

あげた。

高岡 美緒 氏/マネックスグループ株式会社 執行役員

新事業企画室長・マネックスベンチャーズ株式会社 取締

“一つは、データです。もう一つは UX です。すべて

の商品やサービスがコモディティ化していくなかで、顧

客体験をどのように統計していくのか。この 2 つの観点

は重要になると考えています。“

金融リテラシーにバラつきがありニーズが多様化する

なかで、画一的なサービスでは個別ニーズに対応するコ

ストが非常に高くなり、ある一定の顧客にしかサービス

が提供できない。そこで、様々な顧客データを取得・活

用することで、サービスをマスに提供できるようにする。

ここでは「データ取得」が鍵となる。

一方、「UX(顧客体験)」では、ユーザーが触れる機会

が多いのは「決済」の場面だが、決済サービスを展開す

るコイニーの佐俣氏はどう考えているのか。

“顧客体験の観点からベストなサービスを提供するの

に、必ずしもテクノロジーありきではいけないと思って

います。

地方の自営業の方々はだいたい 45 歳前後の方が多く、

必ずしも最高の顧客体験は、モバイルから申し込めるこ

とではなくて、ファックスで送れることであったりしま

す。顧客体験を受け取るのが誰かという根本部分から考

えれば、テクノロジーありきの発想では、ベストな顧客

体験は提供できないのではないかと思っています。

また、FinTech プレイヤーである私たちにとっては、

ユーザーとのコミュニケーションにスマホすら介在させ

たくないって思っているところもある。事例としては、

Uber の取り組みが参考になります。Uber は“決済を見え

なくした”というところが、とてもイノベーティブです。

これが「決済」が目指すべき次のフェーズかな、と思っ

ています。

本質的に取り組まなければならないことは、支払いの

ためのクレジットカードそのものを無くす、見えなくす

ること。あるいは「支払う」という行動を意識させない

こと。この取組みを成功させた会社が次のプラットフォ

ームを取っていくだろうな、と。FinTech における顧客

体験の進化、本当に破壊的なイノベーションと呼べるよ

うな進化は、今の延長線上ではなく、違う角度からプレ

イヤーが現れるのではないかと思っています。“

ここで、「いろいろな方面から“破壊“されちゃっていま

す」と冗談交じりに語るのは、三菱東京 UFJ 銀行法人企

画部 業務開発グループ 産業デザインオフィス次長の上

原 高志 氏。

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株式会社三菱東京UFJ銀行 法人企画部 業務開発グル

ープ産業デザインオフィス 次長

上原氏は、ベンチャーがスピード感を持ってさまざま

なサービス提供をしている状況で、「新しいことをやろ

うとするとき、自社内のリソースに閉じたままでは難し

い部分もあり、同じ目線で考えている人がいれば、企業

の規模にかかわらず一緒にやっていきたいというのが、

FinTech への見解です」と、自身の立場や想いを語った。

ベンチャーか大企業かという対立軸は、もはや時代遅

れだろう。ともに金融という分野の顧客体験を革新して

いこうとする未来を感じた。

次の話題は、今後、FinTech サービスが拡大していく

ため議論すべきことに話題が移った。

今後、FinTech が拡大するために議論すべきこと

「伸びる分野かどうかはこれからになるが」と前置き

をして高岡氏が語ったのは、現代の日本のテーマと重な

る内容であった。

“地域創生、少子高齢化など日本全体に関わる課題があ

るなか、その課題と資産運用、貯蓄、投資なども、関連

して考えるテーマだと思っています。国全体で抱える課

題に対して、FinTech から新しいイノベーションが起き

て、日本全体が抱える問題が解決されていけばと思って

います。“

この論点を拡張させて佐俣氏が語る。

“FinTech 領域に自身のビジネスドメインがあり、そこ

でジレンマが生じるだろうなと思うのが、日本の少子高

齢化です。テクノロジーありきでサービスを考えるだけ

では、お客さんにとって使い勝手のよいサービスにはな

らず、サービス提供者側と顧客のギャップがどんどん拡

大すると思っています。“

現在、日本が抱える課題の中で、サービスをどのよう

に拡張し、フィンテックに関するリテラシーを啓蒙して

いくかということが、顧客サービス以上にケアしていく

べきだという論点をまず、佐俣氏は提示した。

もう一点、佐俣氏が挙げたのは、FinTech に関しての

「国の管轄」に関する盲点だった。

“我々は FinTech と一言で括られますが、決済に関す

る事業は金融庁管轄ではなく経産省の管轄です。でも、

送金に関する事業は金融庁の管轄です。コイニーでやる

かは別の話ですが、送金と決済の両方をまたいでサービ

スを提供していくこと。そして、テクノロジーへのリテ

ラシーを持ち、インターネット的な思想を持つ人材がい

ること。この 2 つの要素が、日本全体が抱える課題を

FinTech サービスで解決していくうえで重要だと思って

います。この省庁による管轄の問題はあまり議論されて

いませんが、重要な課題です。この状況を放置すれば、

日本で管轄の壁を越えたサービスが出ずに、海外勢に日

本国内の市場を持っていかれるという、一番避けたいパ

ターンが現実のものとなります。国力を考えるうえでも

非常に重要な課題だと思っています。“

最後に日本の課題を総括した上で、それぞれが今後の

想いを語った。

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FinTech にとって重要な「3 つの課題」とは?

今後の課題として挙がったのは大きく 3 点だ。

一点目は、あらためて一般の方に FinTech は何が既存

の選択肢と違うかを認識してもらいながら、顧客の課題

を解決していくという「啓蒙と課題解決」に関する部分。

二点目は「人材とその流動性」。今、大企業で働いてい

る優秀な人材がベンチャーに行きたがっている。ベンチ

ャーでチャレンジして失敗しても、再度、大企業で活躍

できるような「人材の流動性」が重要であり、また、優

秀な人材を雇用するためには会社のグローバル化も課題

となってくる。三点目は「経営の時間軸の問題」。今、

メディアでは FinTech という言葉が流行っているが、バ

ズワードの賞味期限はせいぜい 1 年。理想の事業を構築

するには、起業して 10 年が必要だと言われ、FinTech

に関わる事業者は、ステークホルダーとこの時間軸に対

して理解を得る努力をし、関わり合えるかどうかが今後

の課題といえる。

最後に登壇者それぞれの想いが語られた。何人かのコ

メントを本コラムのまとめとしたい。まずは上原氏。

“引き続き、新しいプレイヤーや領域を開拓していかな

いと、閉塞感を突き破れない時代だと認識しています。

やれることは自分達でやる、やれないことは一緒にやる

前提で物事を考えていこうと我々は思っております。ご

提案がありましたら、ディスカッションをはじめるとこ

ろから、一歩ずつやっていきたいと思います。“

続いて、佐俣氏。

““我々が事業を続けるなかで何を目指しているのかと

いうと、お金のやりとりはもっと簡単でいいはずだ、と。

安くて早くて、誰でも、簡単に、現金以外の方法でお金

のやりとりができる未来。キャッシュレスみたいなとこ

ろを追求していきたいと思っています。この FinTech の

流れの中で、より加速できればいいなと思っています。“

瀧氏は「お金が見えると未来が見える」と最後に語っ

た。「お金」に関係のない人間はいない。未来を見据え

て、よりよい世界を実現していくためには、FinTech の

動向から目が離せないだろう。

<了>