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国際イノベーションデザインスクールおよび国際ワークショップ開催報告 国際イノベーションデザインスクール実行委員 田浦 俊春,嶋田 憲司,山田 香織,妻屋 貝原 俊哉,横小路 泰義,佐藤 隆太 1.はじめに 国際イノベーションデザインスクールおよびシステム構想力とその教育に関する国際ワークショップ が,2017 5 24 日から 27 日にかけて神戸大学統合研究拠点において,デザイン学に関する国際 学会である The Design Society の主催,神戸大学工学研究科とカーネギーメロン大学機械工学科の共 催で開催されました.本デザインスクールは,海外の学生たちとのグループワークによるコンセプトデザ インの実践を通して,革新的なプロダクトをデザインするために重要となる能力を鍛えることを目的とし たもので,海外の大学からの参加者12 名を含む20 名の参加者がありました.また,プログラムの最後に 開催したワークショップでは,国内外から審査員を招き,参加者らのグループワークの成果についての 審査と,スクールで用いた教育方法についての議論と評価が行われました.本報告では,まず,本デザ インスクールの特徴を紹介し,次にデザインスクールの開催概要を紹介します. 2.国際イノベーションデザインスクールの特徴 昨今,実践型のデザイン教育方法として世界各所でデザインスクールが実施されています.世界的 には,先駆けとなったスタンフォード大学の d.school が有名であり,国内でも 2010 年代に入ってから, 東京大学の i.school や京都大学の京都大学デザインスクールなどが実施されています.この度開催し た国際イノベーションデザインスクール 2017 もこのようなデザインスクールの一つとなりますが,デザイ ンの手順が他に類をみないユニークなものとなっています. 国内外で実施されているほとんどのデザインスクールでは,ユーザニーズの把握ないし課題が外部 から与えられてからデザインを始めるという手順がとられています.対して,本デザインスクールでは, 我々の研究チームが Design Creativity に関して長年行ってきた研究成果に基づくデザイン方法を導入 し,「未来のプロダクトを構想してみよう」をテーマに従来製品の延長線上にない製品を考えるということ に重点をおいて,まず,製品のアイデアを考え,さらに未来シナリオの中で,考えた製品によって出現 する使用シーンや生活スタイルを検討するという手順をとっています.具体的には,まず始めに,既存 製品と生物の概念を直感的に結びつけることによって,製品の初期アイデアを生成します.次に,将来 起こり得る非線形に変化した未来のシナリオの中でそれがどのように使用されるのかを洞察させます. そして,その内容を神戸大学が統合研究拠点に所有するヴァーチャルリアリティ装置 π-CAVE を用いて 仮想体験することによって確認しながら,検討を深めていきます. また,本デザインスクールは国際性も意識しており,国際公募を行い,スクールのプログラムを全て英 語で行っていることも特徴の一つです.デザインの手順のユニークさもあり,共催校であるカーネギーメ ロン大学からの参加者に加え,公募により海外から 5 名の参加者がありました. 3.国際イノベーションデザインスクールの開催概要 国際イノベーションデザインスクールは神戸大学の田浦俊春教授とカーネギーメロン大学の嶋田憲 司教授がオーガナイザーを務め,神戸大学研究環重点チーム「システム構築戦略」や工学研究科機械 工学専攻に所属する教員の有志が実行委員として運営にあたりました.スクール参加学生の構成とスク ールプログラムを次ページの表にそれぞれ示します.以下,実施内容について紹介します.

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Page 1: First International Conference on Design …学会であるThe Design Societyの主催,神戸大学工学研究科とカーネギーメロン大学機械工学科の共 催で開催されました.本デザインスクールは,海外の学生たちとのグループワークによるコンセプトデザ

国際イノベーションデザインスクールおよび国際ワークショップ開催報告

国際イノベーションデザインスクール実行委員 田浦 俊春,嶋田 憲司,山田 香織,妻屋 彰

貝原 俊哉,横小路 泰義,佐藤 隆太

1.はじめに

国際イノベーションデザインスクールおよびシステム構想力とその教育に関する国際ワークショップ

が,2017年 5月 24 日から 27日にかけて神戸大学統合研究拠点において,デザイン学に関する国際

学会である The Design Societyの主催,神戸大学工学研究科とカーネギーメロン大学機械工学科の共

催で開催されました.本デザインスクールは,海外の学生たちとのグループワークによるコンセプトデザ

インの実践を通して,革新的なプロダクトをデザインするために重要となる能力を鍛えることを目的とし

たもので,海外の大学からの参加者12名を含む20名の参加者がありました.また,プログラムの最後に

開催したワークショップでは,国内外から審査員を招き,参加者らのグループワークの成果についての

審査と,スクールで用いた教育方法についての議論と評価が行われました.本報告では,まず,本デザ

インスクールの特徴を紹介し,次にデザインスクールの開催概要を紹介します.

2.国際イノベーションデザインスクールの特徴

昨今,実践型のデザイン教育方法として世界各所でデザインスクールが実施されています.世界的

には,先駆けとなったスタンフォード大学の d.school が有名であり,国内でも 2010 年代に入ってから,

東京大学の i.school や京都大学の京都大学デザインスクールなどが実施されています.この度開催し

た国際イノベーションデザインスクール 2017 もこのようなデザインスクールの一つとなりますが,デザイ

ンの手順が他に類をみないユニークなものとなっています.

国内外で実施されているほとんどのデザインスクールでは,ユーザニーズの把握ないし課題が外部

から与えられてからデザインを始めるという手順がとられています.対して,本デザインスクールでは,

我々の研究チームがDesign Creativityに関して長年行ってきた研究成果に基づくデザイン方法を導入

し,「未来のプロダクトを構想してみよう」をテーマに従来製品の延長線上にない製品を考えるということ

に重点をおいて,まず,製品のアイデアを考え,さらに未来シナリオの中で,考えた製品によって出現

する使用シーンや生活スタイルを検討するという手順をとっています.具体的には,まず始めに,既存

製品と生物の概念を直感的に結びつけることによって,製品の初期アイデアを生成します.次に,将来

起こり得る非線形に変化した未来のシナリオの中でそれがどのように使用されるのかを洞察させます.

そして,その内容を神戸大学が統合研究拠点に所有するヴァーチャルリアリティ装置 π-CAVEを用いて

仮想体験することによって確認しながら,検討を深めていきます.

また,本デザインスクールは国際性も意識しており,国際公募を行い,スクールのプログラムを全て英

語で行っていることも特徴の一つです.デザインの手順のユニークさもあり,共催校であるカーネギーメ

ロン大学からの参加者に加え,公募により海外から 5名の参加者がありました.

3.国際イノベーションデザインスクールの開催概要

国際イノベーションデザインスクールは神戸大学の田浦俊春教授とカーネギーメロン大学の嶋田憲

司教授がオーガナイザーを務め,神戸大学研究環重点チーム「システム構築戦略」や工学研究科機械

工学専攻に所属する教員の有志が実行委員として運営にあたりました.スクール参加学生の構成とスク

ールプログラムを次ページの表にそれぞれ示します.以下,実施内容について紹介します.

Page 2: First International Conference on Design …学会であるThe Design Societyの主催,神戸大学工学研究科とカーネギーメロン大学機械工学科の共 催で開催されました.本デザインスクールは,海外の学生たちとのグループワークによるコンセプトデザ

デザインスクール参加者の構成

参加学生所属大学 人数

神戸大学 7名

カーネギーメロン大学(米国) 7名

ヤゲウォ大学(ポーランド) 4名 (公募)

ペンシルバニア工科大学(米国) 1名 (公募)

大阪大学 1名 (公募)

国際イノベーションデザインスクール および

システム構想力の方法論とその教育に関する国際ワークショップ プログラム

3-1:講演

期間中は毎朝,本国際イノベーションデザインスクールの基幹となる話題について,講演が行われま

した.初日である 24 日は田浦俊春教授より,国際イノベーションデザインスクールで実践するグループ

ワークによる設計活動の基本的な理論と方法論について,「Creative Design Thinking for Innovation」と

題する講演が行われました.25 日には,一橋大学の鷲田祐一教授による「Introduction to Foresight

Methodology」と題した,未来の社会を洞察する方法についての講演が行われ,あわせて,未来シナリ

オの例が参加者らに提示されました.26 日はカーネギーメロン大学の嶋田憲司教授が,設計における

3DCADの使用について「Sketch-based Interfaces for 3D Shape Modelling」と題した講演を行いました.

最終日 27 日は University of North Carolina, Charlotte の John Gero 教授により,「The Cognitive

Dimension in Design: Designers, Products and Consumers」と題してデザイン活動の認知科学的な側面に

ついて講演がなされました.

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初日:田浦俊春教授(神戸大学) 2日目:鷲田祐一教授(一橋大学)

3日目:嶋田憲司教授(カーネギーメロン大学) 4日目:John Gero氏(UNC Charlotte)

3-2:グループワーク

コンセプトデザインの実践はグループワークで行います.今回は,参加者 20 名を国内外混成 4 人組

で構成した 5チームに編成して,チームごとに未来のプロダクトをデザインしました.

グループワークの様子

グループワークではまず初日に,製品と生物を直感的に結びつけ初期アイデアを生成し,生物の特

徴を製品に取り込むことで,従来製品の延長線上にはない製品となるような方法をとりました.各人で挙

げた製品と生物の組み合わせの中からグループで一つ選び,議論して生成した初期アイデアのスケッ

チを作成し,最初のプレゼンテーションを行いました.2 日目からは,生成した製品のアイデアを鷲田教

授の講演で提示された未来シナリオと結びつけました.ここでは,将来起こり得る非線形に変化した未

来の社会を洞察し,その中で,考案している製品がどのように役立つか検討し,製品のアイデアを磨き

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上げていきました.その際,製品のCADモデルを作成し,使用するシーンとともにVR装置π-CAVEに

投影することで,その中で体感しながらの検討も各グループで行われました.3 日目には中間レビュー

が行われ,各グループのコンセプト説明に対し,実行委員の教員がコメント・アドバイスを行いました.

これらのアドバイスやグループワークでの未来シナリオを考えた議論と仮想体験を通して,使い方を含

めた製品のコンセプトが初期アイデアから大きく膨らんだチームもありました.

フィールドワークおよびVR装置の使用

このような方法により 4日間のグループワークでデザインされた,未来の製品のアイデアと,それがど

のような未来社会でどのように使用されるかについて,最終日にプレゼンテーションとVR投影を用いた

デモンストレーションを行われました.プレゼンテーションとデモンストレーションは,公開で行われ,参

加者・審査委員の他,外部からの見学者もありました.

最終プレゼンテーションおよびVRデモンストレーション

下表に,最初に組み合わせた生物と製品と初期アイデアのスケッチおよび,それを基に VR 装置

π-CAVE を用いながら未来シナリオの中でどのように使用するかを検討し最終的に考案された製品のコ

ンセプトを示します.

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各グループの考案した製品コンセプト 初期アイデア 最終コンセプト

カンガルー×車いす

Kanga-run

ヒマワリ×ハット

Slam Dump

エイ×ロボット掃除機

Robotic Deep Sea Manganese Mining

コウモリ×ナイフ

Bat Survival Kit

ハス×ランプ

Light The Way

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3-3:パネルディスカッション

グループワークによるデザインの最終プレゼンテーションおよび VRデモンストレーション後に,総合

討論として審査委員によるパネルディスカッション,およびグループワークの評価とフィードバックが行

われました.審査委員は,世界的に活躍する研究者である John Gero氏(UNC Charlotte, USA)を審査

委員長とし,経産省クリエイティブ産業課の藤原宗久良氏,三菱電機の吉川智哉氏,一橋大学の鷲田

祐一氏,北陸先端科学技術大学院大学の永井由佳里氏を迎え,参加者らと,デザインのための構想力

について,4 日間のグループワークの実際のデザイン活動の経験に基づき的を絞った議論が行われま

した.また,本デザインスクールで実践した教育方法についても講評を頂きました.

パネルディスカッションの様子

優秀デザイン賞の発表 クロージングでの集合写真

3-4:見学

本デザインスクールではデザイン実践だけでなく,実際の企業での現場の見学を実施しました.25 日

には兵庫県尼崎市の三菱電機・伊丹製作所,26 日には神戸市ポートアイランドにある理化学研究所

計算科学研究機構(AICS)のスーパーコンピュータ「京」を見学しました.

三菱電機・伊丹製作所にて AICS京コンピュータの見学

Page 7: First International Conference on Design …学会であるThe Design Societyの主催,神戸大学工学研究科とカーネギーメロン大学機械工学科の共 催で開催されました.本デザインスクールは,海外の学生たちとのグループワークによるコンセプトデザ

4.おわりに

国際イノベーションデザインスクールおよびシステム構想力とその教育に関する国際ワークショップ

は,グループワークによるコンセプトデザインの実践を通じて,革新的なプロダクトをデザインする能力

を鍛え,それを基に議論を行うことを目的に開催されました.海外の大学からの参加者 12 名を含む 20

名の参加者に加え,産業界や行政からも含む5名の審査委員を交え,実践的な議論を行うことができま

した.また,参加者からは,講演やディスカッションはとても魅力的であり,ここでしか得られない経験を

することができたとの声がありました.

本スクールおよびワークショップを開催するに当たり,神戸大学から研究環ワークショップ経費および

益田奨学基金による援助を頂きました.この場をお借りして,すべての関係者の皆様に深く感謝いたし

ます.ありがとうございました.