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Fig. 1. Structure of TCNQ. Fig. 2. Normalized absorption spectra [1]. 4C11 無極性溶媒中におけるTCNQの蛍光増強 室蘭工大院工 ○玉谷穂菜美,中野英之,飯森俊文 Fluorescence enhancement of TCNQ in nonpolar solutions Honami Tamaya, Hideyuki Nakano, Toshifumi Iimori Department of Applied Chemistry, Muroran Institute of Technology, Japan AbstractTCNQ is one of the classic organic electron acceptors, and is an important molecule to produce organic conductors by forming charge-transfer complexes with electron donors. However, the understanding on photoluminescence property and electronically excited state of TCNQ is still very limited. Previous investigations have shown that the fluorescence quantum yield of TCNQ is extremely low. In this study, absorption and fluorescence spectra are measured for various solvents. We show that fluorescence of TCNQ shows an acute response to subtle changes in the polarity of solvent, and fluorescence is enhanced in nonpolar solutions. 【序論】 TCNQ (Fig. 1) は代表的な有機電子受容体の一つであり、 電子供与体と電荷移動錯体を形成し有機伝導体を与える物 質として極めて重要である。しかしながら、その発光特性 や電子励起状態に関しては未だ不明な点が多く残されてい る。これまでの数多くの研究により、TCNQ は蛍光量子収 率がほぼゼロであると考えられてきた。本研究では、様々 な媒質中での TCNQ の蛍光について詳細に検討を行った。 【実験方法】 TCNQ は再結晶により精製した。TCNQ を溶媒に溶解させたのち、希釈して吸光度 を約 0.1 に調整した。その後、アルゴンガスでバブリングした溶液を用いてスペクト ル測定を行った。 【結果と考察】 ヘキサンとジクロロメタンを混合した溶 液を用いて吸収スペクトルを測定した結果 Fig. 2 に示す。図の右に示されている H ヘキサン、D はジクロロメタンを示し、括弧 内はそれぞれの混合体積比を表している。ジ クロロメタンの混合体積比が増加するに伴 って、ピーク位置はレッドシフトし、吸収バ ンドの形状も変化していくことが明らかと なった。

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Fig. 1. Structure of TCNQ.

Fig. 2. Normalized absorption spectra [1].

4C11

無極性溶媒中におけるTCNQの蛍光増強

室蘭工大院工

○玉谷穂菜美,中野英之,飯森俊文

Fluorescence enhancement of TCNQ in nonpolar solutions

○Honami Tamaya, Hideyuki Nakano, Toshifumi Iimori

Department of Applied Chemistry, Muroran Institute of Technology, Japan

【Abstract】

TCNQ is one of the classic organic electron acceptors, and is an important molecule to

produce organic conductors by forming charge-transfer complexes with electron donors.

However, the understanding on photoluminescence property and electronically excited state

of TCNQ is still very limited. Previous investigations have shown that the fluorescence

quantum yield of TCNQ is extremely low. In this study, absorption and fluorescence spectra

are measured for various solvents. We show that fluorescence of TCNQ shows an acute

response to subtle changes in the polarity of solvent, and fluorescence is enhanced in nonpolar

solutions.

【序論】

TCNQ (Fig. 1) は代表的な有機電子受容体の一つであり、

電子供与体と電荷移動錯体を形成し有機伝導体を与える物

質として極めて重要である。しかしながら、その発光特性

や電子励起状態に関しては未だ不明な点が多く残されてい

る。これまでの数多くの研究により、TCNQ は蛍光量子収

率がほぼゼロであると考えられてきた。本研究では、様々

な媒質中での TCNQの蛍光について詳細に検討を行った。

【実験方法】

TCNQは再結晶により精製した。TCNQを溶媒に溶解させたのち、希釈して吸光度を約 0.1 に調整した。その後、アルゴンガスでバブリングした溶液を用いてスペクトル測定を行った。

【結果と考察】

ヘキサンとジクロロメタンを混合した溶液を用いて吸収スペクトルを測定した結果を Fig. 2に示す。図の右に示されている Hはヘキサン、Dはジクロロメタンを示し、括弧内はそれぞれの混合体積比を表している。ジクロロメタンの混合体積比が増加するに伴って、ピーク位置はレッドシフトし、吸収バンドの形状も変化していくことが明らかとなった。

Fig. 3. Fluorescence spectra for mixed

solvent [1].

この混合溶媒の、蛍光スペクトルの測定結果を Fig. 3に示す。右軸にジクロロメタンの混合体積比が 0の値を、左軸にはそれ以外の混合体積比の蛍光強度をプロットした。スペクトルから、ジクロロメタンの混合体積比が増加するに伴って蛍光強度が著しく減少することが分かった。また、蛍光極大もレッドシフトしていくことも確認された。

Fig. 2 の結果にもとづき、吸収バンドにおけるソルバトクロミックシフトの検討を行った。その結果、吸収極大シフトとジクロロメタンの混合体積比(xDCM)はほぼ直線関係を示すことが明らかとなった。優先的溶媒和(preferential solvation)が起きる場合、ソルバトクロミックシフトは直線から大きく外れることが知られているが、今回は直線関係が得られた。このことから、ソルバトクロミックシフトは優先的溶媒和ではなく極性に起因したものであると考えられる。ヘキサンとジクロロメタンの混合溶液の比誘電率 DMixを以下の式より算出し、溶媒極性パラメーターf(DMix)を計算した。

DMix = (1-xDCM)DHEX+xDCMDDCM

求めた混合溶液の極性パラメーターf(D)と蛍光強度のプロットから、f(D)の増加に伴って蛍光強度が減少することを確認した。また、ヘキサンとジクロロメタンの中間の極性を示すシクロヘキサン・四塩化炭素・クロロホルムの 3種類の溶媒について蛍光強度を比較したところ、ヘキサン-ジクロロメタン混合溶液の蛍光強度 vs f(D)のプロットに一致した。以上の結果から、TCNQの蛍光は溶媒の極性に対して鋭敏に応答を示すことが明らかとなった。

発光種について検討するため、蛍光励起スペクトルの測定を行った。その結果、吸収スペクトルのバンド形状に一致するスペクトルが得られた。このことから、TCNQ

のニュートラルモノマーが蛍光を示していることが明らかとなった。

吸収スペクトルはジクロロメタンの混合体積比が増加し溶媒の極性が増加しても大きな変化が見られなかった。したがって、フランク-コンドン励起状態は変化していないと考えられる。一方、すでに述べたように極性の増加に伴って著しい蛍光の減少がみられた。このことから、TCNQの励起状態の緩和プロセスが溶媒の極性とともに変化していると考えられ、局所励起(LE)状態と分子内電荷移動(ICT)状態の 2つの励起状態が存在し、溶媒の極性に依存して励起状態ダイナミクスが変化していると考えられる。

【参考文献】

[1] Tamaya, H.; Nakano, H.; Iimori, T. J Lumin, 2017, 192, 203-207

4C12

ビスアントラセン誘導体における高次三重項経由蛍光と分子設計 1京大院工,2京大 ESICB,3京大工,4山形大院有機材料システム,5PRESTO JST

○佐藤徹1,2,林里香3,春田直毅1,夫勇進4,5

Fluorescence via higher triplet states in bisanthracene

and its molecular design ○Taro Todai1, Hanako Nippon 2, Shachi Meijo3

1 Department of Molecular Engineering, Kyoto University, Japan 2 ESICB, Kyoto University, Japan

3 Undergraduate School ofIndustrial Chemistry, Kyoto University, Japan 4Graduate School of Organic Materials Science, Yamagata University, Japan

5PRESTO (Sakigake), JST, Japan

【Abstract】Emission mechanism of bisanthracene derivertive, BD1 which is known as a high-efficient blue emitting molecule for OLED was theoretically investigated with TD-DFT. Off-diagonal vibronic coupling constants which are the driving force of non-radiative transitions are small from the higher triplet state T3 to all the lower triplet states. Moreover, the off-diagonal vibronic coupling density analyses reveal that these small vibronic coupling constants are due to small overlap densities. In addition, the T3-S2 energy gap is quite small. These results suggest electroluminescence via reverse intersystem crossing from the T3 state. 【序】従来の EL発光機構では説明できない高い外部量子効率を示す青色発光分子ビスアントラセン誘導体 BD1について[1]、その励起状態を時間依存密度汎関数(TD-DFT)理論に基づいて計算し、励起状態間の無輻射遷移に間して振電相互作用密度解析[2]により検討し、発光機構について検討した[3]。電子状態 m と電子状態 n の間の内部転換の速度定数は非対角振電相互作用定数 Vmn,aに依存する[4]。ここでaは振動モードである。非対角振電相互作用定数 Vmn,aは、非対角振電相互作用密度hmn,aによって[4]

と書ける。ここで非対角振電相互作用密度hmn,aは

で定義される。重なり密度rmnは

ポテンシャル導関数 vaは

である。これは 1電子がすべての核から受ける引力ポテンシャルを基準振動モードで

微分したものである。振電相互作用密度解析により、振電相互作用が分子のどの領域

で生じているかを明らかにすることができ、さらには無輻射遷移を制御することが可

能となる。

【計算】汎関数と基底関数は、実験で得られている吸収スペクトル[1]を用いたベンチマーク計算を行い、振電構造まで考慮したスペクトルシミュレーションの結果か

ら、 B3LYP/6-311+G(d,p)に決定した。構造最適化は、S0、S1、S2、T3、T4に対して行

い、得られた構造に対して S0電子状態で振動解析を行い基準振動モードを決定した。

無輻射遷移を引き起こす非対角振電相互作用の計算には、これら励起状態の最適化構

造を参照各配置 R0として用いた。 【結果・考察】無輻射遷移速度と関係する非対角振電相互作用定数は、高次三重項状態 T3から T2、T1状態への値が小さかった。さらに、振電相互作用密度解析[2]により、これらの小さな振電相互作用定数は、状態間の重なり密度が小さいことに起因することがわかった。また、T3状態は S2状態とエネルギーが極めて接近している(Fig.1)。これらの結果は T3状態を経由した逆系間交差による EL 発現の可能性を示唆している。この機構による発光が期待できる分子としては励起状態に擬縮退をもつものが候補となり得る[3]。

Fig.1 Electroluminescence mechanism of BD1

【参考文献】 [1] J.-Y. Hu, Y. -J. Pu, F. Satoh, S. Kawata, H. Katagiri, H. Sasabe, J. Kido, Adv. Funct. Mater. 2014, 24, 2064.

[2] T. Sato, M. Uejima, N. Iwahara, N. Haruta, K. Shizu, K. Tanaka, J. Phys.: Conf. Ser. 2013, 428, 012010.

[3] T. Sato, R. Hayashi, N. Haruta, Y.-J. Pu, Sci. Rep. 2017, 7, 4820.

[4] M. Uejima, T. Sato, D. Yokoyama, K. Tanaka, and J.-W. Park, Phys. Chem. Chem. Phys. 2014, 16, 14244.

4C13

ナフィオンを基盤とした透明発光フィルムの開発と

プロトンによる発光色制御 東理大理

○亀渕 萌,吉岡泰鵬,田所 誠

Development of Transparent Emissive Film Based on Nafion and Control of Emission Color by Proton

○Hajime Kamebuchi, Taiho Yoshioka, Makoto Tadokoro Department of Chemistry, Faculty of Science, Tokyo University of Science, Japan

【Abstract】Nafion is known as a cation exchange and a highly proton-conductive membrane, where hydrophilic SO3H groups form cavities of ca. 4 nm diameter in swelling with water. Thanks to the cation exchange property, Nafion can conveniently provide any size of transparent films with multifunctionality, e.g. magnetism, light emission, proton conduction etc. In this study, an emissive transparent film incorporating LnIII-β-diketonato complexes, [LnIII

2(PBA)6]@Nafion (Ln = Eu, Tb; HPBA = N-(2-pyridinyl)benzoylacetamide) has been developed. The emission color of a binary film incorporating the green light-emitting [TbIII

2(PBA)6] only in acidic condition and red light-emitting [EuIII2(PBA)6] only in basic

condition, abbreviated as Tb/Eu@Nafion, was reversibly controlled by pH. As the external voltage was applied, a dynamic change in emission color was successfully observed in Tb/Eu@Nafion. Owing to the electric-field-induced gradient of proton concentration, red-colored emission by [EuIII

2(PBA)6] would be enhanced around positive electrode, where light emission of [TbIII

2(PBA)6] is supressed due to the deficiency of proton. 【序】陽イオン交換膜およびプロトン伝導膜として有名な Nafion と機能性錯体を組

み合わせると、陽イオン交換能によって自発的に金属錯体が取り込まれ、様々な機能

性透明フィルムの開発をきわめて簡便に行うことができる。[1] Nafion の性質や性能

は、その複雑なナノ構造によるものであり、特に、水やアルコールなどの極性溶媒に

よって膨潤している場合には、直径約 4 nm の逆ミセル空間が 5 nm 程度の間隔で繋

がったクラスター構造をとることが知られている。[2] また、このような構造的特徴か

ら、Nafion は高いプロトン伝導度を示し、加湿条件下で 0.1 S cm−1に達することが分

かっている。[3] 本研究では、プロトンに応答して発光色が変化す

る錯体として、β-ジケトン化合物の一種である

N-(2-pyridinyl)benzoylacetamide (HPBA)を配位させた

ユーロピウム (III) およびテルビウム (III) 錯体

[Ln2(PBA)6] (Ln = Eu, Tb)を用いた(Fig.1)。これら 2種類の錯体の 1:1 混合溶液は、酸性条件では配位子

がプロトン化することで HPBA → Tb3+へのエネルギ

ー移動が効率よく起こるために緑色に発光するが、

塩基性条件では配位子が脱プロトン化した PBA− から Eu3+へのエネルギー移動が支配的となるため赤色

発光のみが観測できる。今回は、この Eu および Tb

N

HN

O O

N

HN O

O

NHN

OO

N

NH

OO

N

NHO

O

NNH

OO

LnIII LnIII

Fig. 1. Molecular Structure of

[Ln2(PBA)6].

錯体を Nafion に導入することで、この透明発光フィルムの発光色を pH 変化や、電圧

印加により発生したプロトンの流れによって制御することを目的とした。

【方法】[Tb2(PBA)6]と[Eu2(PBA)6]を1:1のモル比でエタノールに溶解させ、緩衝液を用いて pH 3 に調整した。この溶液に、内部のカチオンを Na+に置換した Na-form のNafion 117 を室温で 48 h 浸すことで、Nafion 膜中に錯体を導入した。発光スペクトルの pH 依存性測定を行う際は、このフィルムを pH 2~12 の緩衝液に浸して膜内のプロトン量を制御した。また、pH 3 で作製したフィルムの両端を電極で挟み、40 V の電圧を印加することによって、プロトンの流れによる発光色変化を観察した。 【結果・考察】Eu 及び Tb 錯体が共存した透明発光フィルム [Tb2(PBA)6]/[Eu2(PBA)6]@Nafion(以後 Tb/Eu@Nafion)を開発することに成功した。このフィルムに pH が 2-12 の緩衝溶液を作用させ、発光の様子を観察したところ、酸性条件(pH = 2~5)では緑色、塩基性条件(pH = 9~12)では赤色に発光するフィルムであることが確認できた。発光スペクトルを測定したところ、酸性条件では Tb 由来の 545 nm (5D4 → 7F5)の発光が強く観測され、pH を上げていくにつれて Tb 由来のスペクトル強度が減少するとともに、Eu 由来の 615 nm (5D0 → 7F2)の発光スペクトル強度が上昇していった(Fig. 2)。中性付近 (pH = 6~8)では Tb 及び Eu 両方のスペクトルが混じり合うため、緑と赤の光が合わさった黄色の発光が観測された。 この透明発光フィルム Tb/Eu@Nafion に 40V

の電圧を印加すると、+極から−極にかけて赤色の発光の流れを観測できた(Fig. 3)。これは、電圧をかけるとプロトンが−極側に引き付けられ、+極近傍はプロトンが欠乏してゆくために、+極近傍では錯体はプロトン解離型が優勢となり、Eu 錯体が優先的に発光するようになるためであると考えられる(Fig. 4)。このように、Nafion のプロトン伝導性を活用することにより、この透明発光フィルムの発光色を電場(プロトンの流れ)によって制御することにも成功した。討論会当日は、[Tb2(PBA)6]と[Eu2(PBA)6]の結晶構造、Nafion への錯体導入量の定量結果、発光の pH 依存性のメカニズムなどについて議論する予定である。 【参考文献】 [1] H. Kamebuchi, M. Enomoto, N. Kojima, “Progress of Multifunctional Spin Crossover Complex Film Based on Nafion” in Nafion: Properties, Structure and Applications 2016, Nova Science Publishers, pp.119-140. [2] K. A. Mauritz, R. B. Moore, Chem. Rev. 2004, 104, 4535. [3] T. A. Zawodzinski Jr., M. Neeman, L. O. Sillerud, S. Gottesfeld, J. Phys. Chem. 1991, 95, 6040.

Fig. 2. pH Dependence of Emission Spectra for Tb/Eu@Nafion.

Fig. 4. Schematic Illustration of the Emission Color Tuning in Tb/Eu@Nafion under the Applied Voltage.

Fig. 3. Photographs of Tb/Eu@Nafion before (left) and after Applying Voltage (right).

4C14

酸化亜鉛に対する低温での重水素分子イオン照射による

同位体効果の観測 1京大院理,2九大院工

○中山亮1,鈴木直也1,前里光彦1,有田誠2,北川宏1

Observation of an isotope effect in ZnO irradiated with

deuterium molecular ion irradiation at low temperature

○Ryo Nakayama1, Naoya Suzuki

1, Mitsuhiko Maesato

1, Makoto Arita

2, Hiroshi Kitagawa

1

1 Graduate School of Science, Kyoto University, Japan

2 Graduate School of Engineering, Kyushu University, Japan

【Abstract】Hydrogen introduction is a powerful method to control physical properties of

materials. However conventional methods of hydrogen introduction are limited to a few

materials and need very long time to introduce a large amount of hydrogen. We have focused

on the hydrogen molecular ion irradiation as an efficient way of the hydrogen introduction.

Previously, we have introduced hydrogen atom into a ZnO thin film by our home-made

hydrogen ion beam apparatus for the first time. Irradiation effects were studied under

low-temperature irradiation by in-situ variable-temperature electrical resistivity measurements.

Previously we observed an unexpected hysteresis of resistivity by subsequent heating after

irradiation at 50 K. In this study, ZnO thin films were irradiated with hydrogen and deuterium

molecular ion at 4 K respectively. Large isotope effect on the hysteresis was successfully

observed. This strongly indicates that the hysteresis is caused by hydrogen migration.

【序】 水素は化学的に極めて活性の強い元素であ

り、電子系と相互作用しやすいため、水素の導入

は既存の物質の性質を劇的に変える可能性を秘め

ている。しかし、高圧水素の印加や電解水素チャ

ージなどの従来の水素導入法では、多彩な物質に

望みの量の水素を導入することは不可能である。

そこで、あらゆる物質に水素を自在に導入できる

手法として、我々はイオン照射法に着目した (Fig.

1.)。イオン照射法では、水素分子イオンが高電圧

によって加速され、試料に導入される。室温では

照射された水素が試料から脱離する可能性があるが、低温で照射を行い、in-situ 物性

測定をあわせて行えば、水素の脱離が抑制し、水素導入による物性変化を評価できる

と期待される。そこで我々は in-situ 温度可変電気伝導度測定が可能な水素分子イオン

照射装置を開発した。

これまでに我々は、n 型のワイドギャップ半導体である酸化亜鉛に対して 50 K での

水素分子イオン照射を行い、抵抗率が約 3 桁減少することを見出した[1]。一般に、酸

化亜鉛中の水素の多くは、格子間位置で隣接する酸素と O–H 結合を形成する格子間

プロトンとして存在し、ドナーとして働くことが知られており、照射後の抵抗率の減

少はキャリアドーピングによるものと考えられる。さらに、照射後の昇温過程におい

て、通常の半導体的挙動とは異なる抵抗率の不可逆な減少を観測した。このような低

Fig. 1. Concept of H2+ and D2

+ irradiation

温照射後の抵抗率のヒステリシス挙動は、本研究の in-situ 測定でなければ観測できな

い。このヒステリシスの原因は、低温での照射直後に結晶内のトラップサイトを占め

ていた一部の水素が、その後の昇温に伴って移動し、ドナーとして働いたためと考え

られる。そこで、本研究では酸化亜鉛薄膜に対して低温での重水素分子イオン照射を

行い、ヒステリシス挙動に対する同位体効果を調べた。

【実験】RF マグネトロンスパッタリング法で(001)面サファイア基板上にエピタキ

シャル成膜した ZnO 薄膜を試料として用いた。設計膜厚は 100 nm とした。開発した

イオン照射装置を用いて、ZnO 薄膜に対して 4 K で水素分子イオン (H2+) 及び重水素

分子イオン (D2+) をそれぞれ照射した。イオン照射の加速電圧は 5 kV とした。試料

の電気伝導度は、四端子法の一種である van der Pauw 法によって測定した。照射前後

における構造、物性、電子状態の変化を調べるために以下の測定を行った。薄膜試料

の同定及び結晶構造の変化は in-plane及び out-of-plane X線回折 (XRD) 測定にて確認

した。二次イオン質量分析法 (SIMS) により、実際の試料の水素濃度を調べた。キャ

リア濃度や移動度については、Hall 効果の測定から求めた。UV-Vis スペクトルを測定

することで電子状態の変化を調べ、Tauc プロットによりバンドギャップを見積もった。

【結果・考察】ZnO 薄膜に対して 4 K で H2+を照射したところ、これまでの実験と同

様に4桁以上の抵抗率の大きな減少及び照射後の抵抗率のヒステリシス挙動を観測し

た (Fig. 2.)。一方、D2+を照射した場合、照射直後での抵抗率の減少は極めて小さい。

これは、水素と比べて重く、拡散しにくい重水素のほとんどが、4 K での照射直後で

はトラップサイトを占めているためだと考えられる。また、D2+照射後の昇温過程に

おいて、約 5 桁の抵抗率の不可逆な減少を観測した。この巨大な同位体効果は、抵抗

率のヒステリシス挙動が昇温に伴う水素の移動によるものであることを強く示唆す

る結果であると言える。XRD、SIMS、Hall 効果、UV-Vis スペクトルにおける照射効

果については当日報告する。

【参考文献】

[1] 中山 他,第9回分子科学討論会, 2D02 (2015).

Fig. 2. H2+ and D2

+ irradiation effects on resistivity of ZnO thin

films

4C15

希ガス固体中に単離したD2Oの核スピン緩和経路 学習院大・理

○山川紘一郎,荒川一郎

Channels of nuclear-spin relaxation in D2O trapped by rare-gas solids

○Koichiro Yamakawa, Ichiro Arakawa

Department of Physics, Gakushuin University, Japan

【Abstract】

We have devised a theoretical model of the phonon-mediated nuclear spin relaxation in D2O

trapped by rare-gas matrices, from which temperature dependence of the relaxation rate was

derived. In order to test our model, we performed Fourier transform infrared spectroscopy of

D2O trapped in cryomatrices of rare gases and observed absorption peaks due to rovibrational

transitions of ortho- and para-D2O in the spectral region of the bending vibration. We

measured the time evolution of the infrared spectra and analyzed the rotational relaxation

associated with the nuclear spin flip to obtain the relaxation rates of D2O at various

temperatures. In terms of the devised model, the nuclear-spin-relaxation channels of D2O are

discussed.

【序】

重水分子(D2O)は核スピン 1の D原子核を 2つ有するため,全核スピン Iは 2, 1,

0 の値を取り得,I=2, 0 の場合にオルソ D2O,I=1 の場合にパラ D2O と呼んで区別す

る.非対称こま分子である D2O の回転準位は,量子数 JKa,Kcで記述される.ここで,

Jは回転の角運動量に,Ki (i = a, c)はその分子軸 i への射影にそれぞれ対応する量子数

を表す.ボゾンである 2つの D原子核の交換について分子の全波動関数が不変となる

要請から,Ka+Kcの値はオルソでは偶数,パラでは奇数のみを取り得る.水分子(H2O)

の場合には,Ka+Kcの偶奇性が逆にはなるが,D2O と同様にオルソとパラの異性体が

存在する.このように核スピン状態と回転状態とは密接に結び付くため,赤外分光法

による回転緩和の測定から核スピン転換の時定数が得られる.

H2O氷は,地球をはじめとする惑星や彗星のみならず,星間塵の上にも存在するこ

とが知られている.このように宇宙に豊富に存在する H2O 氷の生成過程については,

天文学,天体物理学の分野で古くから興味が持たれており,その解明の上で重要とな

るのが,核スピン温度,すなわち核スピン異性体の存在比である.孤立分子において

核スピン異性体間の転換は極めて遅いため,“水の核スピン異性体比は時間に依らず

一定であり,ある天体における氷の異性体比を測定すれば,過去の氷形成時の温度が

わかる”という仮説が信じられてきた[1].しかし,核スピン転換は凝縮系において大

きく加速することが近年の研究により明らかとなり[2,3],核スピンの転換機構および

緩和経路についての関心が高まっている.

我々は最近,“凝縮層の格子振動との相互作用による H2O の核スピン緩和モデル”

を提唱し,このモデルに基づいて転換の時定数の温度依存性を導いた[4].本研究では,

この転換モデルを D2O の場合へ拡張すると同時に,希ガス固体中の D2O の核スピン

転換時間の温度依存性を測定し,拡張したモデルに基づいて緩和経路を解明する.

【核スピン緩和理論】

低温の凝縮層中で主要となる,101回転準位のパラ状態から 000準位のオルソ状態への核スピン緩和を議論するため,000 (a),101 (b), 111 (c)の 3準位系を取り扱い,b → a

の直接過程と b → c →a の間接過程を考える[4].凝縮層のフォノンは熱平衡下にあり,ボーズ分布に従うという仮定の元,各準位にある D2Oの分子数 Na, Nb, Ncを変数とすると,dNa/dt, dNb/dt, dNc/dt に関する 3つのレート方程式が得られる.(1) D2Oの総分子数 N = Na + Nb + Ncが保存すること,(2) オルソ状態を取る a と cの準位の分子数の比(Na/ Nc)はボルツマン分布に従うこと,という 2 つの事実を用いると,上記のレート方程式は 1変数についての 1階の微分方程式に帰着し,この解から時定数の温度依存性を得た.

【実験方法】

実験は全て超高真空環境下で行った.液体ヘリウム連続フロー型クライオスタットに無酸素銅製の試料ホルダーを接続し,その上に金基板を固定した.基板温度はシリコンダイオードで測定し,クライオスタット下部に巻き付けた通電加熱ヒーターで温度制御した.気体導入系には,液体 D2O を溜め込んだガラス管と希ガス(RG)の高圧ボンベを接続した.D2Oは,凍結脱気を繰り返す行うことにより精製した.気体導入系内の圧力は水晶振動子真空計で測定し,分圧比(RG/D2O)が 1✕104となるように RGと D2Oの蒸気とを混合した.混合ガスは微流量調整バルブを通して主真空槽に導入し,金基板上に蒸着して試料を生成した.フーリエ変換赤外分光は,HgCdTe 検出器を用いて入射角 80 度の反射配置で測定した.希ガスマトリックス中の D2Oの回転緩和に起因する赤外吸収スペクトルの時間変化を測定し,核スピン転換の時定数を得た.

【結果・考察】

希ガスとして Krを用い,7 Kの基板上に D2Oとの混合ガスを凝縮したところ,D2O

の変角振動のスペクトル領域に,2 つの主要な吸収ピークを検出した.一方のピーク(A)はオルソ D2O に由来する 000 → 111の振動回転遷移,他方のピーク(B)はパラ D2Oに起因する 101 → 110の遷移にそれぞれ対応する.時間の経過と共に,ピークAの強度は増加し,ピーク Bは減衰した.これは,パラ→オルソの核スピン転換を伴う回転緩和が起きたことを意味する.各温度において,ピークの積分強度の時間変化を指数関数でフィッティングすることにより核スピン転換の時定数を求めた.本発表では,考案した“フォノンによる核スピン緩和モデル”から導かれる温度依存性と実験結果とを比較し,核スピン緩和経路を議論する.

【参考文献】

[1] M. J. Mumma et al., Science 232, 1523 (1986).

[2] L. Abouaf-Marguin et al., Chem. Phys. Lett. 480, 82 (2009).

[3] R. Sliter et al., J. Phys. Chem. A 115, 9682 (2011).

[4] K. Yamakawa et al., Eur. Phys. J. D 71, 70 (2017).