カボスのパウンドケーキ - 料理通信[カボスのパウンドケーキ]...

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text by Kei Sasaki / photographs by Masahiro Goda 食の文化遺産巡り 〈番外編〉 1 鎧塚俊彦シェフ パティシエ。恵比寿「トシ・ヨロイヅカ」、八幡山「ア トリエ・ヨロイヅカ」をはじめ東京、神奈川に5 店舗 を展開。産地訪問はライフワーク。 葉を剪定するのは竹田市一帯の独特な栽培方法 だという。収穫は8月下旬から約20日間で、和田 さん夫妻含め6 7人で一気に行う。 和田久光さん 「柑橘類の中でも、カボスは栽 培の歴史が浅く、まとまった栽 培資料も少ない」と話す和田さ ん。ミカンなど他の柑橘につい ても勉強し、得た知識をカボス 栽培に活かしてきた。 収穫したカボスは、農協で選果されて出荷され、 九州各地、京阪、東京などに出荷先される。 奥様の京子さんから嬉しい差 し入れ。茄子と瓜の浅漬けを カボスの果汁に漬けたもの。 瑞々しくさっぱりとしていて、 炎天下の取材中の心地よい 清涼剤に。 トップシェフが訪ねる 大分のお宝食材 カボス 1 さんさんと日光びた 露地ものカボスをめ、 竹田

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Page 1: カボスのパウンドケーキ - 料理通信[カボスのパウンドケーキ] 生地は新鮮な果汁をしっかり抱き込んでいて、 焼き菓子ながら「ジューシー!」と感じるほど。ピールのほろ苦さがアクセントに。

text by Kei Sasaki / photographs by Masahiro Goda

、。し

食の文化遺産巡り 〈番外編〉

 

地方に出かけたらできる限りその

地の野菜や果物の産地に足を運ぶよ

うにしているという鎧塚俊彦シェフ。

「農業なくしてパティシエの仕事はな

い」と、2年前「ヨロイヅカ・ファ

ーム」という新たなブランドを立ち

上げ、各地の農家と組んだ菓子作り

にも取り組んでいる。大分を訪れる

のは2回目。まずは収穫を目前に控

えたカボス農家を訪ねた。

 

大分のカボスの生産量は日本一で、

全国の生産量の9割以上を占める。

8月の終わり、主産地の竹田市にあ

る和田久光さんの畑でも、青々とし

たカボスが鈴なりに実をつけていた。

幹の下の方から枝が伸びているのに

気付いた鎧塚シェフがそのことにつ

いて尋ねると「毎年安定して実をつ

けさせるには下枝が大事。6〜7月

の間は、実がつかない枝を剪定して

余分な葉を落とし、実に十分な日照

と養分が行き渡るようにして収穫に

備えます」と和田さん。畑では、主

力品種の「大分1号」と緑色の濃い「豊

のミドリ」を栽培している。もぎた

てのカボスを手渡された鎧塚シェフ

は香りを確かめ、かじりついた。

「青く爽やかな香りがいいですね。

果汁も豊かで、酸味にもとんがった

感じがなくまろやかさがある」

 

酷暑に加え雨が少なく、生産者に

とっては厳しい年だったという。で

も和田さんは「今から収穫まではい

ちばん果汁がのる時期。この時期の

雨は日照不足に

つながるので困

るんです」と言

う。

「香りや風味は

もちろん、色も

とてもいい。こ

の色も活かして

何か作ってみた

くなりました」

 

鎧塚シェフは

そう言って畑を

後にした。

鎧塚俊彦シェフパティシエ。恵比寿「トシ・ヨロイヅカ」、八幡山「アトリエ・ヨロイヅカ」をはじめ東京、神奈川に5店舗を展開。産地訪問はライフワーク。

葉を剪定するのは竹田市一帯の独特な栽培方法だという。収穫は8月下旬から約20日間で、和田さん夫妻含め6~7人で一気に行う。

和田久光さん「柑橘類の中でも、カボスは栽培の歴史が浅く、まとまった栽培資料も少ない」と話す和田さん。ミカンなど他の柑橘についても勉強し、得た知識をカボス栽培に活かしてきた。

収穫したカボスは、農協で選果されて出荷され、九州各地、京阪、東京などに出荷先される。

収穫前の実が色鮮やか

竹田のカボス畑を歩く

奥様の京子さんから嬉しい差し入れ。茄子と瓜の浅漬けをカボスの果汁に漬けたもの。瑞々しくさっぱりとしていて、炎天下の取材中の心地よい清涼剤に。

ト ッ プ シ ェ フ が 訪 ね る

大分のお宝食材

[カボス]1

さんさんと降り注ぐ日光を浴びた露地ものカボスを求め、竹田へ

仮   ( 068 )12

角川春樹

事務所

料理通信11月号

KS

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Page 2: カボスのパウンドケーキ - 料理通信[カボスのパウンドケーキ] 生地は新鮮な果汁をしっかり抱き込んでいて、 焼き菓子ながら「ジューシー!」と感じるほど。ピールのほろ苦さがアクセントに。

[カボスのパウンドケーキ]

生地は新鮮な果汁をしっかり抱き込んでいて、焼き菓子ながら「ジューシー!」と感じるほど。ピールのほろ苦さがアクセントに。いきいきとした香りは余韻まで爽やかに続く。

カボスの果汁と皮をたっぷり使って焼き上げました。

069|NOVEMBER 2013

「畑にお邪魔して初めて見えるもの

がある。土の香りや空の色。太陽の

光の下で見る果実の色やもぎたての

香り。産地で受けるインスピレーシ

ョンは何にも代えがたいものです」

 

大分県でカボス農家を訪れた鎧塚

シェフは東京に戻り、カボスを使っ

たパウンドケーキを作ってくれた。

生地にメレンゲを重ねることで、上

はさくっと、中は軽やかで瑞々しい

食感に。どちらにもたっぷりとカボ

スが使われている。

「果汁はもちろん、果皮もたくさん

使いました。鮮やかな緑色、心地よ

いほろ苦さ。カボスのよさは皮にも

詰まっていると感じたので」

 

切った瞬間、カボスの香りがふわ

っと立ちのぼる。カボスピールが浮

かび上がる断面はうっすら緑色に。

「皮は入れすぎるとえぐみが出てし

まう。色も例えばフリーズドライに

したパウダーを使えばもっと出るけ

れど、フレッシュ感がなくなる」

 

わかりやすさよりカボスそのもの

の果実感を表現したい。鎧塚シェフ

の気持ちが伝わるパウンドケーキだ。

レシピは料理通信ホームページで公開中!www.r-tsushin.com

角川春樹

事務所

料理通信11月号

仮   ( 069 )13

KS

鎧塚シェフ

◎Toshi Yoroizuka東京都渋谷区恵比寿1-32-6アルス恵比寿イスト1F☎ 03-3443-4390

|11:00~20:00

|火曜休|JR、東京メトロ恵比寿駅より徒歩5分

うっすらグリーンを帯びた焼き菓子

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