fontan型手術後例におけるp波同期体表面加算心電...

7
日本小児循環器学会雑誌 10巻4号 501~507頁(1994年) Fontan型手術後例におけるP波同期体表面加算心電図の検討 (平成6年1月20日受付) (平成6年9月16日受理) 1)大阪大学医学部小児科,2伺 第一外科,3)大阪府立病院心臓内科 #大阪府立母子保健総合医療センター小児循環器科 稲村 昇’)#佐野 哲也’) 竹内 真1) 黒飛 俊二1) 松下 享1) 松田 暉2) 福並 正剛3) 萱谷 太1) 島崎 靖久2) 三浦 拓也2) 岡田伸太郎1) key words:Fontan型手術,体表面加算心電図, P波同期法,心房性不整脈 Fontan型手術後14例に対してP波同期法による体表面加算心電図を行い,本手術後のP波の特徴と 心房内興奮伝導について検討した.手術時年齢は3~16歳(平均6.5歳),検査時年齢は4~17歳(平均 9.5歳)で,年齢差のない健常児15例を正常対象群とした.空間Magnitude法によるP波の持続時間( 0.025),最大電位(p〈0.005),時間積分値(p<O.005)は正常群に比し有意に増大していた, また周波数解析では,Fontan群で20,30Hzの信号強度が正常群に比し有意に増大していた(p 0.005,p<0.05).一方,これらの指標と術後血行動態を表す諸指標との間に有意な相関関係は認めな かったが,術後経過年数との間に有意な正の相関関係を認めた.以上より,Fontan型手術後のP波は持 続時間が長く,高電位であった.また,心房内興奮伝導に乱れが存在し,心房筋組織性状の変化が示唆 された. 近年,三尖弁閉鎖,単心室などの複雑心奇形に対す るFontan型手術の成績向上に伴い1),本手術後の遠隔 期での問題点も明らかにされつつある2).なかでも心 房性不整脈は,同手術の成績,遠隔予後を左右する重 要な問題とされている3)4).この心房性不整脈の原因 は,本術式が有する心房への圧負荷など種々の要素が 関与していると考えられているが,未だ明かにされて いない. そこで本研究では,Fontan型手術後患児のP波を P波同期体表面加算心電図で解析することにより,そ の形態と心房内興奮伝導について検討することを目的 とした. 1984年から1992年までに大阪大学第一外科にて 別刷請求先:(〒590-02)大阪府和泉市室堂町840 大阪府立母子保健総合医療センター 小児循環器科 稲村昇 Fontan型手術を施行した患児14例(F群)を対象とし た(表1).疾患の内訳は単心室(SV)9例,三尖弁閉 鎖(TA)3例,純型肺動脈閉鎖(PA/IVS)1例,両 大血管右室起始(DORV)1例である.手術時年齢は 3~16歳(平均6.5±4.1歳)であった.術式は,SVの 2例とTAの1例に右心房と肺動脈の直接吻合を, PA/IVSの1例に右室流出路を利用したBjdrk法5 行い,他の10例は心房内に導管を作成し肺動脈と吻合 するtotal cavo pulmonary connect を行った. 術後カテーテル検査は13例に行い,中心静脈圧 (CVP)は8~18mmHg(平均13±2mmHg), 抗(PVR)は1.6~4.7u・m2(平均2.8+O.9u・m2 係数(C.1.)は1.4~4.91/min/m2(平均2.9±1.ll/ m2)であった.全例術後経過は良好で,安静時心電図 で異常はなかったが,24時間ホルター心電図で3連発 以上の心房性期外収縮(SVT)を4例に認めた.観察 された心房性期外収縮はそのほとんどが単発性で,数 Presented by Medical*Online

Upload: others

Post on 05-Feb-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

日本小児循環器学会雑誌 10巻4号 501~507頁(1994年)

Fontan型手術後例におけるP波同期体表面加算心電図の検討

(平成6年1月20日受付)

(平成6年9月16日受理)

1)大阪大学医学部小児科,2伺 第一外科,3)大阪府立病院心臓内科

#大阪府立母子保健総合医療センター小児循環器科

稲村  昇’)#佐野 哲也’)

竹内  真1) 黒飛 俊二1)

松下  享1) 松田  暉2)

福並 正剛3) 萱谷  太1)

島崎 靖久2) 三浦 拓也2)

岡田伸太郎1)

key words:Fontan型手術,体表面加算心電図, P波同期法,心房性不整脈

                      要  旨

 Fontan型手術後14例に対してP波同期法による体表面加算心電図を行い,本手術後のP波の特徴と

心房内興奮伝導について検討した.手術時年齢は3~16歳(平均6.5歳),検査時年齢は4~17歳(平均

9.5歳)で,年齢差のない健常児15例を正常対象群とした.空間Magnitude法によるP波の持続時間(p〈

0.025),最大電位(p〈0.005),時間積分値(p<O.005)は正常群に比し有意に増大していた,

 また周波数解析では,Fontan群で20,30Hzの信号強度が正常群に比し有意に増大していた(p<

0.005,p<0.05).一方,これらの指標と術後血行動態を表す諸指標との間に有意な相関関係は認めな

かったが,術後経過年数との間に有意な正の相関関係を認めた.以上より,Fontan型手術後のP波は持

続時間が長く,高電位であった.また,心房内興奮伝導に乱れが存在し,心房筋組織性状の変化が示唆

された.

         緒  言

 近年,三尖弁閉鎖,単心室などの複雑心奇形に対す

るFontan型手術の成績向上に伴い1),本手術後の遠隔

期での問題点も明らかにされつつある2).なかでも心

房性不整脈は,同手術の成績,遠隔予後を左右する重

要な問題とされている3)4).この心房性不整脈の原因

は,本術式が有する心房への圧負荷など種々の要素が

関与していると考えられているが,未だ明かにされて

いない.

 そこで本研究では,Fontan型手術後患児のP波を

P波同期体表面加算心電図で解析することにより,そ

の形態と心房内興奮伝導について検討することを目的

とした.

         対  象

 1984年から1992年までに大阪大学第一外科にて

別刷請求先:(〒590-02)大阪府和泉市室堂町840

     大阪府立母子保健総合医療センター

     小児循環器科  稲村昇

Fontan型手術を施行した患児14例(F群)を対象とし

た(表1).疾患の内訳は単心室(SV)9例,三尖弁閉

鎖(TA)3例,純型肺動脈閉鎖(PA/IVS)1例,両

大血管右室起始(DORV)1例である.手術時年齢は

3~16歳(平均6.5±4.1歳)であった.術式は,SVの

2例とTAの1例に右心房と肺動脈の直接吻合を,

PA/IVSの1例に右室流出路を利用したBjdrk法5)を

行い,他の10例は心房内に導管を作成し肺動脈と吻合

するtotal cavo pulmonary connection(TCPC法)6)

を行った.

 術後カテーテル検査は13例に行い,中心静脈圧

(CVP)は8~18mmHg(平均13±2mmHg),肺血管抵

抗(PVR)は1.6~4.7u・m2(平均2.8+O.9u・m2),心

係数(C.1.)は1.4~4.91/min/m2(平均2.9±1.ll/min/

m2)であった.全例術後経過は良好で,安静時心電図

で異常はなかったが,24時間ホルター心電図で3連発

以上の心房性期外収縮(SVT)を4例に認めた.観察

された心房性期外収縮はそのほとんどが単発性で,数

Presented by Medical*Online

502-(10)

表1 対象

症例 診   断手術時年齢

手術術式

1 SV. PS. CAVV 9 RA-PA.1tSVC-PA

2 SV. PS. CAVV 8 RA-PA3 SV. PS. CAVV 17 TCPC4 SV. PS. CAVV. TAPVD 12 TCPC5 SV.2AVV 3 TCPC6 SV.2AVV 5 TCPC7 SV.2AVV 5 TCPC8 SV,2AVV 4 TCPC9 SV.2AVV 13 TCPC

10 TA(Ib) 5 TCPC11 TA(Ib) 4 TCPC12 TA(IIC) 3 RA-PA13 PA/IVS 6 RA-SPRV14 DORV. PS. CAVV 4 TCPC

RA・PA;right atrial to pulmonary artery anastomosis,

RA-SPRV;right atrial to subpulmonic right ventricle

anastomosis, ItSVC・PA;left svc to pulmonary artery

anastomosis, TCPC;total cavo pulmonary connection

回連発を認めたが,4連発以上の症例はなかった.4

例とも自覚症状はなく,抗不整脈薬の投薬は行ってい

ない.

 検査時年齢は4~17歳(平均9.5±4.5歳),術後経過

年数は02~7.8年(平均2.4±2.8年)である.同時に

心疾患のない健康な小児15例(5~18歳;平均10.4±

4.1歳)を正常対象群(N群)とした.

          方  法

 これらの症例に対しP波同期法による体表面加算

心電図を行った.記録方法は両鎖骨下部と両前腸骨部

および胸部誘導V1の5点よりフクダ電子社製マルチ

ガーディナーVCM’3000を用いて行った.加算平均回

数はノイズレベルが1μV以下となる150回以上とし,

加算時のトリガー

法はP波同期法を用いた7).加算心電図より得られた

データは以下の方法で解析した.

 1.空間Magnitude法

 空間Magnitude法記録時の帯域フィルターは40~300Hzとし,それぞれの傾斜は18dB/oct(40Hz),

12dB/oct(300Hz)とした.

 まずP波の空間Magnitude波形を表示させ, P波

持続時間(FPD)を計測した. P波の開始点は,シグ

ナルが連続して1μV以上の電位となった直前のサン

プル点とし,終末点は1μV未満の電位が2msec以上連

続した直前のサンプル点とした.次に,P波の最大電位

日小循誌 10(4),1994

20msec

      /

 TRMS-⊃理.

心電図

・XXN :tuM

LP20

図1 P波同期心電加算法による空間Magnitude波

 形.上段が体表面加算心電図,下段が体表面心電図

 を示す.加算平均化したP波の持続時間(FPD),同

 波の時間積分値(FPA),最大電位(MPV)を計測

 した.

 心房遅延電位の測定法.フィルター化P波の終末部

 20msec間の平均電位(LP20)を計測し, P波の全平

 均電位(TRMS)でLP20を除したLPR求めた.

(MPV)と,同波の時間積分値(FPA)を計測した(図

1).

 心房遅延電位(LP)の検討には同波の終末部20msec

間におけるMagnitude電位の平均(LP20)を計測し

た.また,P波の大きさの違いを補正するため, LP20

を同波の全平均電位(TRMS)で除したLP Ratio

(LPR)を算出し検討に用いた(図1).

 2.周波数解析

 P波の始まりと終わりが最も明確なZ誘導を解析

に使用した.フィルター化せず加算した体表面Z誘導

P波の終末部より前方75msec,後方25msecの計100

msec間をサンプル区間とした.解析はBlackmann-

Harris windowでwindow処理を行い,高速フーリエ

変換(FFT)を行った. FFT後は周波数と信号強度の

曲線から,20,30,40,50Hzでの信号強度(M20, M30,

M40, M50)を計測した(図2).

 3.統計処理

 測定値は平均±標準偏差で示した.各測定値間の統

計学的有意差の検定にはt検定を用い,危険率5%未

満を有意差ありとした.

          結  果

 1.空間Magnitude法

 空間Magnitude法で表した加算心電図では, FPD

Presented by Medical*Online

平成6年12月1日 503-(11)

75msec司    ●一

        P

一     鴫

        100msec

  25

唱喝 一

  ●

msec

            QRS

 一

周波数一信号強度曲線

・40

・60

⇒80

0   20304050 100 Hz

図2 FFT後の周波数一信号強度曲線.加算した体表

 面Z誘導P波の終末点より前方に75msec,後方に

 25msecの計100msec間をサンプル区間とし, FFT

 で解析した.FFT後の周波数一信号強度曲線(下段)

 の20,30,40,50Hzの信号強度を求めた.

はF群125±19msec, N群112±9.Omsec, MPVはF

群26.4±11.2μV,N群18.4±8.7μV, FPAはF群

1,010±358pt V・msec, N群666±284μV・msecといず

れもF群で有意に増大していた(p〈0.025,p<0.005,

p<O.005)(図3).

 LP20は, F群3.6±1.4μV, N群3.3±1.1μVと両群

間に有意差はなかった.また,LPRもF群0.46±

0.15,N群0.39±0.20と有意差を認めなかった.しか

しながら,SVTの4例はLPRで低値をとる傾向にあった(図4).

 2.周波数解析

 M20ではF群169±72μV, N群75±38μV, M30で

は,F群78士33μV, N群49±33μVといずれもF群で

有意に高かった(p<0.005,p<0.05).しかし, M40,

M50では, F群28±17μV,16±13μV, N群34±20μV,

20±9Pt Vと両群間で有意差はなかった(図5).

 3.術後血行動態的指標及び術後経過年数との関係

 術後心臓カテーテル検査より得られたCVP, PVR,

C.1.と体表面加算心電図より得られた各指標との間に

は有意な相関関係は認めなかった(図6).一方,術後

経過月数との関係ではM20, M30との間に有意な正の

相関関係を認めた(r=0.81,p〈0.005, r=0.63, p<

0.01)(図7).

 4.SVTと加算心電図所見の関係

 SVTの4例と他の10例の加算心電図所見を比較す

ると,空間Magnitude法ではFPDがSVT(+)で144±20min, SVT(一)で117±12min, FPAがSVT

(十)で1,160±293μV・min, SVT(一)で950±363μV・

minとSVT(+)が大きな傾向にあったが, MPVは

m8ec

100

FPD

 P<0.025

    ●

μV

40

  ●○

   ●20

   ●   2  ●

MPVP<O.005

●●●  ●

●●

μVm8ec

1000

FPA

P<0.005

●●

 

●●

i

              0                    0  0     F    N             F     N            F      N

         図3 Vector Magnitude波形の解析結果

○はSVTの4例を示す.FPD:フィルター化P波の持続時間, MPV:同波の最大電位, FPA:同波の時間積分

Presented by Medical*Online

V

μ6

3

0

504-(12)

LP20

  n.S

一    ●●

●      ●

●●

●● ●

●●

F

●●

●●●●

 ●● ●

 ●●

N

1.0

0.5

0

LPR

  n.s

一]●●

●●●(○

●●○○

 ●●●●

● ●

 ●

●●●●●

 

●●

F

図4 心房遅延電位の結果

N

○はSVTの4例を示す.

LP20:フィルター化P波の終末部20msec問の平均

電位.LPR:LP20をTRMS(P波の全平均電位)で除

した指数.LP20では明かでないが, LPRではSVTの

4例は低い傾向にある.

SVT(+)で26.2±6.8pt V, SVT(一)で26.5±12.6

Pt V.また,周波数解析では, M20がSVT(寸)が249±

67μV,SVT(一)が137±43pt V, M30がSVT(十)

で68±15μV,SVT(一)が33+31μVとSVT(十)

口本小児循環器学会雑誌 第10巻 第4号

で大きな傾向にあった(図3,図5).

          考  察

 体表面加算心電図法は心筋の組織学的変化により生

ずるリエントリー性不整脈の原因となる局所の遅延電

位を体表面心電図を増幅・加算し検出する検査法であ

る.同検査法は心筋梗塞後の心室頻拍の予知などに有

効な検査法とされ8),またその適応範囲も広がりつつ

ある.小児科領域でもファロー四徴症術後例9)1°),川崎

病後冠動脈障害例1’)などで心室性不整脈と遅延電位と

の関係が検討されている.

 最近に至り,心室ではなく心房性不整脈発生に関し

てP波を同期点としたP波同期加算心電図法が考案

され,心房遅延電位を検出し,心房粗動の予知も可能

となったが’2),小児科領域では未だ応用されていない.

 そこで,今回我々は術後心房負荷を生じ心房性不整

脈が問題となっているFontan型手術後症例に同方法

を応用した.

 1.空間Magnitude法について

 空間Magnitude法で表現されたP波の形態はF群

はN群に比し,FPD, FPA, MPVともに有意に増大

していた.これは,F群で心房興奮波が心房内を伝導す

るのに大きな時間と電位を要するためで,心房容積の

増加,心房筋への手術操作による伝導障害の存在,心

房への圧負荷による心房筋の変化などが原因として考

えられる.

    P<0.005M20

(μv)

 300

200

100

0

○●●

●●●

8

~●●●●●

0●●●

M30

(μV)

 300

200

100

0

M40

(μV)

 300

0

002

010

 

 

 

 

 

 

 

T

…汀謹囎

 

 

 

 

 

 

 

■σ

●●

F   N F N

M50

(μV)

 n.s

一   ●

輩1鉦

300

200

100

0

F N F N

            図5 周波数解析の結果

○はSVTの4例を示す.

M20,30,40,50:周波数20,30,40,50Hzの信号強度

Presented by Medical*Online

平成6年12月1日 505 (13)

200m●●C

FPD100

010

CVP20

mmHg

㎜μv㎜

FPA

1000

010

CVP

20mmH9

・。

MPV

30

010

CVP

20mmH9

   図6 CVPと加算心電図諸指標との関係

CVPとFPD, FPA, MPVとの間に有意な相関関係は

認めなかった.

M20{μV)

300

200

100

(M30)

μV

200

100

  0   50   100 0   50   100       術後経過月数 (Mo)            術後経過年数(Mo)

          図7 術後経過月数と周波数解析の検討

○はSVTの4例を示す.M20,30ともに術後経過月数と有意な正の相関を認めた.

 次に,F群のP波にLPが関係しているかどうかを

検討してみたが,LP20ではN群と有意差はなかった.

LPは本来絶対的指標であり,成人のように体格や心

房の大きさなどがほぼ一定の被験者のP波を対象と

して求めたものである.しかし,今回我々が対象とし

たFontan術後のP波のように明らかに正常の形と異

Presented by Medical*Online

506-(14)

なるものや体格の異なる症例を単純にLP20で比較し

ていいものか疑問の残るところである.そこで,これ

らP波の大きさを補正する目的でLP20をP波の全平

均電位で徐したLPRを用いて検討してみた.結果は

LP20と同様に両群間に有意差は認めなかったが,

SVTの4例はN群に比し低値であった.ことより

LPRのような補正方法が適切か否かさらに検討が必

要であるが,小児科領域でLPを扱う場合,絶対的指標

ではなく小児の成長発育を考えた相対的指標による比

較が必要と思われる.

 2.周波数解析について

 心室頻拍の既往のある症例では傷害心筋内の興奮伝

播の不均一性という電気生理学的基質を持っているた

め,周波数解析では特定の周波数帯域が増加すると考

えられているユ3}.一般的にはLPが存在すれば20~50

Hz帯域の周波数が増加することより,この帯域の波

がLPと関係していると言われている14).

 本研究の結果では,F群はN群に比べ20,30Hzの周

波帯域の信号強度が有意に増加していたことからF

群に何らかの心房筋の変化が存在することが示唆され

た.

 3.術後血行動態的指標および術後経過年数との関

係について

 Fontan型手術は術後CVPが上昇することが特徴

であり,これが心房性不整脈と関連しているとも言わ

れている15)16).しかしながら,今回の加算心電図解析に

て得られた計測値とCVPを始めPVR, C.1.と有意な

相関を認めなかった.これには手術術式の違いや基礎

心疾患の違いも関与すると思われる.今後は術式別の

検討,基礎心疾患別の検討が必要である.一方,術後

経過月数とM20, M30とに有意な相関を認めた.この

ことより,術後経過が長い症例に心房筋組織性状の変

化の存在が示唆された.しかしながら,今回の検討で

は各症例間の年齢差,基礎心疾患,術式の違いなどが

存在することから今後同一症例における術前後を含め

た経年的変化について検討していくことが重要と思わ

れる.

 今回の検討よりFontan型手術後の心房筋には興奮

伝播の乱れを生じる何らかの組織性状の変化が存在す

ることが示唆された’3).このような変化はSVTを認

める症例ほど,また術後経過年数が長いほど強い傾向

にあることから本手術後は遠隔期ほど心房性不整脈発

生に関する注意深い経過観察が必要であると思われた.

日本小児循環器学会雑誌 第10巻 第4号

          総  括

 (1)Fontan型手術後14例のP波をP波同期心電加

算で検討した.

 (2)Fontan群のP波は正常群よりFPD, MPV,

FPAが増大していた.

 (3)周波数解析から,F群では心房筋に興奮伝播の

乱れを生じる何らかの組織性状の変化が示唆され,し

かも術後遠隔期ほどその傾向は強かった.

          文  献

 1)島崎靖久,大西健二,広瀬 一,松田 暉,賀来克

  彦,白倉良太,奥田彰洋,森本静夫,有沢 淳,島

   田康弘,川島康生:複雑心奇形に対するFontan

  手術成績.日胸外会誌 1984;32:913-919

 2)David JD, Kenneth PO, Robert HF, Hartzell

   VS, Francisco JP, Gordon KD: Five to fifteen

  year follow-up after Fontan operation. Circula-

  tior11992;85:469-496

 3)Humes RP, Maie D:Intermediate follow up

  and predicted survival after the Fontan

  procedurea for tricuspid atresia and double-

  inlet ventricle. Circulation l987;76(SupPl 3):67

   -71

 4)Matsuda H, Kawashima Y, Kishimoto H:

   Problems in the modified Fontan operation for

  univentricular heart of the right ventricular

  type. Circulation 1987;76(Suppl 3):45-52

 5)Viking OB, Christiarl LO, Bjorn BB, Claes AT:

   Right atrial-right ventricular anastomosis for

  correction of tricuspid atresia. J Thorac Car-

  diovasc Surg 1979;77:452-458

 6)Marc RL, Philip K, Marc G, Catherine B:

   Total cavopulmonary connection:Alogical

   alternative to atriopulmonary connection for

  complex Fontan operation.J Thorac Car-

  diovasc Surg 1988;96:682-695

 7)Masatake F, Takahisa Y, Masaharu O, Kazuaki

  K,Kiyoshi U, Akihiko S, Nobuhiko K, Tetsuo

   M,Noritake H:Detect{on of patients at risk

  for paroxymal atrial fibrillation during sinus

  rhythm by p wave-triggeted signal-averaged

  electro・cardiogram. Circulation 1991;83:162

   -169

 8)小沢友紀雄:Late Potential.心臓ペーシング

   1989;5:285-317

 9)Marc Z, Beat FM, Richard A, Ingrid O:Fre・

  quency  of ventrcular late  potentials and

  fractionated right ventricular electrograms

   after operative repair of tetralogy of Fallot.

   Am J Cardiol l987;59:448-453

 10)松岡 優,秋田裕司,久保雅宏,早淵康信,田口義

Presented by Medical*Online

平成6年12月1日 507-(15)

   行,北川哲也,三木 理,加藤逸夫,伊井邦雄,黒

   田泰弘:ファロー四徴症術後における平均加算心

   電図の研究:時間領域及び周波数領域解析併用の

   有用性について.日小循誌 1993;8:602-609

11)稲村 昇,佐野哲也,萱谷 太,竹内 真,黒飛俊

   二,岡田伸太郎,島崎靖久,加藤 寛,三浦拓也,

   松田 暉:冠動脈病変を伴った川崎病患児におけ

   る心室内遅延電位の検討.第12回日本川崎病研究

   会抄録 1992,p104

12)Takahisa Y, Masatake F, Kzuaki K, Akihiko S,

   Nobuhiko K, Nobuhiko Kondou,Tetsuo M,

   Noritake H: Characterristics of frequency of

   artial signal-averaged electrocardiograms dur-

   ring sinus rhythm in patients with paroxymal

   artial fibrillation. J Am Coll Cardiol 1992;19:

   559-653

13)Michael EC, Dieter A, Joanne M, Albert EF,

   Burton ES: Quantificatiorユof differences in

   frequency content of signal-averaged electro-

   cardiograms of patients with compared to those

   without sustained ventricular tachycardia. Am

   JCardiol 1985;55:1500  1505

14)Michael EC, Dieter A, Francis XW, Burton ES:

   Fast-Fourier trasform analysis of signal-

   averaged elecyrocardiograms for identification

   of patients prone to sustained ventricular ta・

   chycardia. Circulation l984;69:7/1-720

15)Su-chiung C, Soraya N, Glenn P:   Dysrhythmias after the modified Fontan proce-

   dure. Pediatr Cardiol 1988;9:215-219

16)Marc G, Richard KW, Marc RL, John ED:

   Early and late arrhythmias after the Fontan

   operation l Predisposing factors and clinical

   consequences. Br Heart J 1992;67:72-79

P Wave Triggered Signal Averaged Electrocardiographic Findings in

          Children after the Modified Fontan Procedure

      Noboru Inamura, Tetsuya Sano, Masatake Fukumani*, Futoshi Kayatani,

   Makoto Takeuchi, Shunji Kurotobi, Hikaru Matsuda**, Yasuhisa Shimazaki**,

             Takuya Miura**, Tohru Matsushita and Shintaro Okada

Department of Pediatrics and First Department of Surgery*, Osaka University Medical School

                          Osaka Prefectural Hospital*

   To evaluate the risk of atrial dysrhythmias after the modified Fontan procedure, P wave

triggered signal averaged electrocardiograms(SAE)was recorded in 14 patients(age=9±4)

after operation and 15 normal control children. The duration(FPD), the peak voltage(MPV)and

the area(FPA)of the filtered P wave were significantly higher than normal control children(p<

0.025,p<0.005, p<0.005). Signal magnitudes at 20 and 30 Hz of frequency-power curve were

significantly higher than normal control children(p<0.005, p<0.05).

   Especially, supraventricular tachyarrhythmias were seen in patients having higher M20,

M30. Although hemodynamic indices after operation did not correlate with SAE indices, a

positive linear correlation(r=0.81, p<0.005, r=0.63, p<0.01)was observed between the

postoperative months and these indices. These results suggest that SEA might usrful to detect

atrial myocardial degeneration, responsible atrial dysrhythmias after Fontan procedure.

Presented by Medical*Online