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1 “Footwork-The Bailey Method” David Bailey TennisPro Mar./Apr., 2008 FOOTWORK – THE BAILEY METHOD (ベイリー方式のフットワーク) Part 2: Rallying Contact Move (ラリーにおける打球動作) デビッド・ベイリー テニスが高い運動能力を求められるスポーツであることは疑う余地もありません。ロジャー・フェデラー はこう言いました。「僕のゲームはフットワークが全てです。動きが良ければ、良いプレーができます。」 2回目の今回は「ラリーにおける打球動作」について解説をします。どの打球動作を選択するかは、 次の順番で考えます。 1. どこにボールが飛んでくるかを判断する。 2. そのボールに追いつくためのフットワークを決定する。 3. 打球のスタンスを整える。 4. 打球動作を行う。 5. バランスをとる動きをして、重心の位置のコントロールをする。 6. 体勢を立て直して、相手の次の打球に備える。 連続的に繋がって行く打球動作 以下に、飛んでくるボールへの対応、フットワークの選択、打球時のスタンス、打球動作とそれに伴う バランス保持動作を元に選ばれる打球動作について、段階を追って説明して行きます。それぞれの打 球動作の違いは、次の事柄から生じます。 飛来するボール: 速いか、コート中央に来るか、浮き球か、深いか遠くに来るか フットワークの選択: 攻撃的か、防御的か、ラリーか 打球時のスタンス: オープン、クローズド、ニュートラル、セミオープン、ランニング、バックフット 打球動作: 踏みだし、回転、ホップ、体重移動、腰のピボット バランス保持動作: 非利き足を次のように使う。サイドキック、キックバック、レッグカール、ニード ロップ、インサイド・ニードロップ

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Page 1: FOOTWORK – THE BAILEY METHOD2 “Footwork-The Bailey Method” David Bailey TennisPro Mar./Apr., 2008 ラリーにおける打球動作(Rallying Contact Move): プレーヤーはベースライン沿いに動き、相手からの速く深い打球や、角度のついた打球を処理する

1 “Footwork-The Bailey Method”

David Bailey TennisPro Mar./Apr., 2008

FOOTWORK – THE BAILEY METHOD (ベイリー方式のフットワーク)

Part 2: Rallying Contact Move (ラリーにおける打球動作)

デビッド・ベイリー

テニスが高い運動能力を求められるスポーツであることは疑う余地もありません。ロジャー・フェデラー

はこう言いました。「僕のゲームはフットワークが全てです。動きが良ければ、良いプレーができます。」

2回目の今回は「ラリーにおける打球動作」について解説をします。どの打球動作を選択するかは、

次の順番で考えます。

1. どこにボールが飛んでくるかを判断する。

2. そのボールに追いつくためのフットワークを決定する。

3. 打球のスタンスを整える。

4. 打球動作を行う。

5. バランスをとる動きをして、重心の位置のコントロールをする。

6. 体勢を立て直して、相手の次の打球に備える。

連続的に繋がって行く打球動作

以下に、飛んでくるボールへの対応、フットワークの選択、打球時のスタンス、打球動作とそれに伴う

バランス保持動作を元に選ばれる打球動作について、段階を追って説明して行きます。それぞれの打

球動作の違いは、次の事柄から生じます。

・ 飛来するボール: 速いか、コート中央に来るか、浮き球か、深いか遠くに来るか

・ フットワークの選択: 攻撃的か、防御的か、ラリーか

・ 打球時のスタンス: オープン、クローズド、ニュートラル、セミオープン、ランニング、バックフット

・ 打球動作: 踏みだし、回転、ホップ、体重移動、腰のピボット

・ バランス保持動作: 非利き足を次のように使う。サイドキック、キックバック、レッグカール、ニード

ロップ、インサイド・ニードロップ

Page 2: FOOTWORK – THE BAILEY METHOD2 “Footwork-The Bailey Method” David Bailey TennisPro Mar./Apr., 2008 ラリーにおける打球動作(Rallying Contact Move): プレーヤーはベースライン沿いに動き、相手からの速く深い打球や、角度のついた打球を処理する

2 “Footwork-The Bailey Method”

David Bailey TennisPro Mar./Apr., 2008

ラリーにおける打球動作(Rallying Contact Move):

プレーヤーはベースライン沿いに動き、相手からの速く深い打球や、角度のついた打球を処理する

ためのフットワークを用います。それらは、 “Low Spin Move”、“Two Foot Pivot”、“Closed Pivot”です。

Low Spin Move(低い体勢でスピンをかける)

セミオープンスタンスで、外足のつま先を目標に向けた状態で、力強く腰を回転させて打つ打ち方で

す。打球後は、重心は低いままコートから跳び上がることもよくあります。この Low Spin は身体が跳び上

がるくらいの動作なので、ラリーにおける打球動作としては最も積極的(攻撃的?)な動作です。この処理

をするためには運動能力の高さが求められ、打球のタイミングの取り方からしても、習得が非常に困難

な打球動作といえます。

READ: 少し角度のついた深い打球

ベースライン付近に低く弾む速い打球。そういったボールを待つときには数歩調整のフット

ワークを用い、ラケットをスイングするための空間を作ります。

REACT: フットワークの選択・・・ラリーフットワーク

ラリーフットワークは、自分はベースライン付近から動かずに、ボールがやってくるのを待つ

動作です。身体を使う前に打球することもあり、打点は外足の横になります。打点が身体に

近くないので、思い切り腰の動きを使ってショットにパワーを与えます。

SET UP: 打球時のスタンス・・・セミオープンスタンス

“Low Spin”の動作には、3~5歩の「チャチャチャ」のような調節のフットワークを用いてセ

ミオープンスタンスにはいります。一歩目は右足を横に踏み出し、二歩目は左足を前に、そ

して三歩目は右足を後ろにといった具合です。もし、五歩動くのであれば、二歩目と三歩目

を繰り返します。そうやって体勢を整えたら、後ろ足に体重のおよそ65%をかけてつま先が

サイドフェンスに向くようにして構えます。

準備 ・ ・スプリット ・ステップアウト

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3 “Footwork-The Bailey Method”

David Bailey TennisPro Mar./Apr., 2008

前へステップ ・セミオープンスタンス

RESPOND: 打球動作・・・Low Spin Move(低い体勢でスピンをかける)

セミオープンスタンスの外側の足の横でボールをとらえます。打球後身体は腰の強い回転

を伴って上に動き、外足の爪先は打球方向に向いて打ち終わります。プレーヤーの身体は

地面から跳び上がりますが、重心は低く、両足の間隔も変わりません。打球の前後を通じて

頭はぶれないように、両足の間に保たれなければなりません。跳び上がろうとしたり、腰を回

しすぎないようにすることが重要です。

深くて少し遠目のボールに低い体勢でスピンをかける ・爪先は打球方向に向く

BALANCE: バランス保持動作・・・身体を低く保ち、腰を回す

“Low Spin”の場合には、バランスをとるための特別な動作はありませんが、打球中に姿勢

を低く保つことは不可欠です。うまく打てたときのフィニッシュでは、外足全体でコートを踏み、

姿勢が崩れていません。打球後に身体を沈めるようにします。

足を前に交差してリカバリー ・スプリットステップでバランスをとる

Two Foot Pivot Move (両足でのピボット)

オープンスタンスでの処理です。腰は低く、身体の軸を中心に回転し、膝はしっかりと曲げられていま

す。拇指球の上で腰が回転し、膝を落とし込む動作を伴います。腰を回し始まる前にボールを捉えます。

打球の前から打ち終わるまで、両足はコートから離れません。

READ: 正面に深く来るボール

非常に早い打球が身体の正面に来ます。動作は非常にシンプルです。身体を少し逃がし

て打球スペースを作ってスイングをしやすくするわけです。

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4 “Footwork-The Bailey Method”

David Bailey TennisPro Mar./Apr., 2008

REACT: フットワークの選択・・・ラリーのフットワーク

ベースライン付近で、ボールが飛んでくるのを待って使うフットワークです。ボールを打っ

てから打球動作に入ることが多く、打点は外足の横あたりになります。

SET UP: 打球時のスタンス・・・オープンスタンス

この“Two Foot Pivot”では、足の踏み出しは非常にシンプルです。フォアでもバックでも、

来るボールに対してそのままピボットするか、その方向に一歩踏み出します。オープンスタン

スで、素早く上体を捻ります。スタンスは広くとります。多くの場合、正面のボールはフォアハ

ンドで処理します。というのは、そうすることで打点を遅らせ時間を稼げるのと、手首がラケッ

トの後ろ側に来て力が入るポジションになるからです。

準備 ・ ・スプリット ・ピボット ・フォワードスイング

RESPOND: 打球動作・・・Two Foot Pivot (両足でピボット)

オープンスタンスでの処理です。腰は低く、身体の軸を中心に回転し、膝はしっかりと曲げ

られています。拇指球の上で腰が回転し、膝を落とし込む動作を伴います。腰を回し始まる

前にボールを捉えます。打球の前後を通じて、両足はコートから離れません。

BALANCE: バランス保持動作・・・Inside Knee Drop(後ろ膝の沈み込み)

後ろ膝の沈み込みが鍵となります。打球後に身体の後ろにある膝が真下におろされ、ラケ

ットのスイングが続きます。膝が90°の角度を作り、ラケットを持っている腕の肘はネット方向

を指しています。膝を落とすことで、しっかりとしたスイングができ、また、バランスを崩したり

パワーのロスに繋がる身体の浮き上がりを抑えることになります。

両足でピボット ・後ろの膝を落としてバランスをとる

バランスをとり ・スプリットステップでフィニッシュ

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5 “Footwork-The Bailey Method”

David Bailey TennisPro Mar./Apr., 2008

Closed Pivot Move(クローズドスタンスからピボット)

セミクローズドスタンスで、前足の横で打球するラリーの打球動作です。片手打ちと両手打ち両方の

バックハンドでの処理に使われ、スライスでもフラットでもトップスピンでも用いられます。重心を低く保っ

たまま打ち、前足は打球中も打球後もコートから離れません。

READ: バックハンド側に角度のついた打球

ベースラインを越す前に、シングルスとダブルスのサイドラインを横切っていくボールです。

REACT: フットワークの選択・・・ラリーフットワーク

この場合のラリーフットワークは、相手からの打球に対して動いていきますが、ウィナーを

打つほどしっかりとした体勢ではありません。しかし、ボールに素早く寄ることで、ベースライ

ン上で良い体勢をとることができ、角度をつけて切り返せる状態になります。

準備 ・ ・スプリットステップ ・ピボット ・クロスオーバー

SET UP: 打球時のスタンス・・・クローズドタンス

アウトステップの後、クローズドスタンスをとります。体重は後ろ足から前足へと移動し、しっ

かりと踏み出してからスイングをします。前足はネットポスト方向に向けます。

アウトステップ ・クローズドスタンス

RESPOND: 打球動作・・・Closed Pivot Move (クローズドスタンスでピボット)

クローズドスタンスで、踏み出した足の横で打球するラリーの動作です。打球中も打球後も

前足はコートから離れません。打球中両膝をしっかりと曲げ、打球後はネットテープの下から

打球を見るようにします。スイングが終わってから、バランスをとるために後ろ足を振り出しま

す。右利きだったらその足を10時付近に、左利きだったら2時付近に振り出します。この足

の振り出しは、動作に完全にブレーキをかけるのではなく、次の動きへのきっかけとなるもの

です。片手打ちと両手打ち両方のバックハンドでの処理に使われ、スライスでもフラットでもト

ップスピンでも用いられます。

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6 “Footwork-The Bailey Method”

David Bailey TennisPro Mar./Apr., 2008

後ろ膝を落としながらピボット ・振り出した足で次の動きに

BALANCE: バランス保持動作・・・Back Knee Drop (後ろ膝の沈み込み)

クローズドピボットでのバランスの取り方は、打点の高さにより異なります。打点が低い場合

には、スケートボーダーがコブを乗り越えるときのように後ろ膝を曲げてバランスをとります。

こうすることで、身体の軸の崩れを防ぎ、ラケットヘッドのスピードを上げてトップスピンやスラ

イスを打ちます。打点が高い場合には、後ろ足を後ろに蹴ることでバランスを保ちます。この

動作により、身体が早く開いてバランスを崩すのを防ぎながらしっかりとしたスイングをするこ

とができます。

後ろ足を蹴るにしても膝を沈めるにしても、後ろ足の動きをコントロールすることで、効果的

に次のリカバリーポジションに移る助けとなります。このポジションは、自分のその前のショット

のでき如何によって変わってきます

内足のドロップステップ ・前足をクロスオーバー ・腰を正対させる

サイドスキップ ・スプリットしてフィニッシュ

《第2章 終了》

* 次号は第3章“Defensive Contact Moves”(防御的打球動作)を掲載。

【筆者略歴】 David Bailey: 15 年をかけてトッププロ達のフットワークや動きを検証し、「フットワークとコートでの動き」という最も複

雑で誤解を生んでいた分野にメスを入れた、革新的なフットワーク学習法「ベイリー方式」を考案。名だたるアカデミーのプレーヤ

ー達やコーチ達と協力して実践し、また、PTR のシンポジウムを含めた世界中のコーチングセミナーで講演。ボロテリー・テニスア

カデミーでは、指導カリキュラムに取り入れられている。テニスの動きとフットワークの共通語を伴ったシステムで、世界各地で指導

が始まっている。「ベイリー方式」の詳細については、www.thebaileymethod.com で。

【翻訳・監修】 鈴木真一: アド・イン桜テニススクール(柏市)代表 / PTR インターナショナル・テスター & クリニシャン / PTR テスター委員会委員 /

JPTRプロ・オブ・ザ・イヤー(1986)、PTRプロフェッショナル・オブ・ザ・イヤー(2001)を受賞。2008年2月“マスター・プロフェッショナル”の称号を受ける。

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1 “Periodization Primer for Tennis”

Dr. Mark Kovacs, Ph.D, CSCS TennisPro Mar./Apr., 2008

PERIODIZATION PRIMER for TENNIS (テニスのためのピリオディゼーション入門)

マーク・コバックス博士

リーグレベルであれトーナメントレベルであれ、試合を目指している生徒を指導しているコーチの一番

の目標は、彼らが試合でよい結果を出せるような技術を指導して成果をあげることです。試合に勝つと

いう高い目標達成のために、練習と試合の計画を作成する上で「ピリオディゼーション(トレーニングの

期別計画)」は重要な要素となります。しっかりと専門的に計画されたピリオディゼーションがあれば、技

術をより早く効率的に向上させ、重要な試合にピークを迎えさせることができるでしょう。

ピリオディゼーションとは、オーバートレーニングや怪我の危険を軽減させながら 1、適切な時期に最

高のパフォーマンスを導き出す為に、特定の期間のトレーニングの内容を調整することです。プレーヤ

ーにとっては、計画的でないプログラムよりも、よく練られたプログラムのほうがよりパフォーマンスの改善

に繋がります 2。期を区切ってのプログラム作りはプロの選手のためだけのものではありません。競技テ

ニスをするプレーヤーは誰でも何らかの形で期別の計画をするべきです。

ピリオディゼーションは、型にはまったものではなく、一つの概念ですから、誰にでもあてはめることの

できるものなのです。概念というものは、あらゆる特性を結合させて形成される考え方のことです。それ

ぞれの長所や短所やスケジュールやテニス以外にしなければならないことを元にするので、プレーヤー

の一人一人に異なった期別の計画があるべきです。ピリオディゼーションの良いところは、必要なときに

最良の状態でのプレーができるように、それぞれの長所や短所に合わせて作ることのできる、変容性の

ある概念であることです。効果的なピリオディゼーションのプログラムを立てるための経験や情報を持た

ないコーチにとっては、個別の計画を立てることは簡単なことではありません。良いプログラムを作り上げ

るには、次に述べる4つの主要なエリアを考慮しましょう。

個別性: 回復力は早いか、瞬発型か持久型か、打ち合う練習よりも球出しの練習を好むか等、プレー

ヤーの個性の理解が期別の計画を立てる上で重要です。

専門性: 試合で経験した動きや休憩時間や打ち方などが計画にどの程度反映されているかが大切で、

実際の試合場面により近いトレーニングができれば、より専門化された計画といえます。

適応性: 期別のプログラムを考案することで、プレーヤーにポジティブな適応を生むことを目指すべき

1 = 文末参考文献(3) 2 = 文末参考文献(2)

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2 “Periodization Primer for Tennis”

Dr. Mark Kovacs, Ph.D, CSCS TennisPro Mar./Apr., 2008

です。ポジティブな適応というのは、スピードが上がったり、持久力が高まったり、安定性が高まったり、

プレッシャーへの対応力が高まったりといったことです。

回復: 効果的な計画を立てる上で、休息と回復の時期を適切に計画することも不可欠です。いつどの

ようにこの時期を組み込むかは、トレーニングに対する個々の反応というものを良く見定める必要があり

ます。多くのコーチは、この分野でそれほどの経験がありませんから、回復期をどのように決定したら良

いかについて、運動生理学者やストレングス・コンディショニングのコーチの指導を仰ぐと良いでしょう。

ピリオディゼーションとは、年間の特定の時期や季節に於けるトレーニングの量や強度を調整すること

です。短ければ一週間、長ければプレーヤーの競技生活が終わるまでのものです。短期的な計画は、

反復回数、セット数、休息時間といった物理的要素だけではなく、戦術や技術や心理面のトレーニング

等の細かな部分に着目します。長期的な計画では、サーブの動作とか、一歩目の速さとか、バックハン

ドのクロスコートの打ち方などといった、プレーヤーのゲームに関する、より広範な内容に着目します。プ

レーのパフォーマンスを最適化するために、計画をする上で次の七つの観点を考えねばなりません3。

・ 技術

・ 戦術

・ 体力

・ 生理学

・ 栄養

・ 回復

・ 勉学/仕事/家族

これら全ての部分が相互に機能し、それぞれに最適な結果が生まれるように、頻度や強度、量や回復

期間、年間の時期を調整することで、良いプログラムに仕上げて行きます。

トレーニング処方のための分析(何が必要か)

期別のプログラムを立案するに当たって、その競技者に適したトレーニング処方を施すには、まず何

が必要かを確認する作業を行います。これは、テストの形態をとり、コーチの知識によって簡単にも複雑

にもできます。この部分に関しても、競技者のテストを行った経験のあるエキスパートに相談することも良

いでしょう。競技者のレベルによって、どのくらいのテストを行うかとか、プログラムの作成や調整にどのく

らいの時間をかけるかはある程度決まります。地区優勝を狙う 2.5 のリーグのダブルスの選手よりは、全

3 = 文末参考文献(1)

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3 “Periodization Primer for Tennis”

Dr. Mark Kovacs, Ph.D, CSCS TennisPro Mar./Apr., 2008

国、或いは国際レベルのプレーヤーに対するプログラムの方が、より綿密な内容になるでしょう。しかし、

何れの場合でも、よく考えられしっかりと組み立てられたプログラムは非常に役に立ちます。

ピリオディゼーションの周期

ピリオディゼーションはいくつかのサイクル(周期)に分けられます。多くの場合、年間を通しての計

画は「マクロサイクル(大周期)」と呼ばれます。ジュニアやプロの選手にとっては、1年をマクロサイクルと

呼ぶのが適切でしょう。アメリカのカレッジテニスは秋と春の2シーズン制で行われますから、こういった

場合には、1年に2つのマクロサイクルを設定することが必要となりますが、殆どの場合には、1年をマク

ロサイクルと考えるのが効果的です。

マクロサイクルは月(季節)単位の「メゾサイクル(中周期)」で構成されます。プログラムの目指す内

容によって、2~10のメゾサイクルとなります。プロのサーキットの場合を考えてみると、1年は次のように

なります。それぞれのメゾサイクルの長さは異なります。

第一メゾサイクル(ハードコート) 1~4月

第二メゾサイクル(クレーコート) 4~6月

第三メゾサイクル(グラスコート) 6~7月

第四メゾサイクル(ハードコート) 7~9月

第五メゾサイクル(インドア) 9~11月

第六メゾサイクル(オフ・プレシーズン) 11~12月

「ミクロサイクル(小周期)」は、数日単位の計画のことです。多くの場合は「一週間」です。それぞれ

のサイクルには、はっきりとしたトレーニングの目標が設定され、それを達成するためにいろいろなトレー

ニングの要素が調整されます。以下に、ピリオディゼーションの計画を立てる上で考えるべき時期につ

いて紹介します。

(図1) 6ヶ月のマクロサイクルの例(1週間のマイクロサイクルからなる4週間のメゾサイクル構成)

一般的準備期(General Preparatory Phase = GPP)

この時期は、これから初めて競技の準備を始める競技者にとっても、トレーニングから暫く遠ざかっ

ていて、もう一度トレーニングの基盤を整える必要のある競技者にとっても、トレーニングの導入時期とな

ります。この時期は、スピードや敏捷性やパワーの向上にはあまり重きを置かず、テニスに必要な全般

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4 “Periodization Primer for Tennis”

Dr. Mark Kovacs, Ph.D, CSCS TennisPro Mar./Apr., 2008

的な有酸素能力の向上や、後で必要となってくるテニスに必要な身体や心造りに備えた、しっかりとした

基盤造りに重きを置きます。技術や戦術面から言うと、この時期は試合で見られた問題点(グリップ、基

本的なゲームプラン、ストロークの技術等)を修正する時期となります。

専門的準備期(Specific Preparatory Phase = SPP)

この時期は、トレーニングやトーナメントの計画を個人の目標に合わせてより明確に設定します。通常、

トレーニングの強度は増し、量も中程度から上になってきます。運動の内容は、個人の目指す目標に合

わせたものでなければなりません。筋力、スピード、パワー、敏捷性について、よりテニス特有の内容に

してゆきます。

競技前期(Pre-Competitive Phase = PP)

この時期には、トレーニングの強度は増しますが、負荷は減らして行きます。技術練習の時間を増や

し、実際の試合に即した形でのドリルやトレーニングを行います。ウェイトルームでのトレーニングやスピ

ードや敏捷性のトレーニングもテニスに即したものになり、実際の競技中に見られる動きに近づけるよう

にします。

競技期(Competitive Phase = Comp)

この時期では、競技者は長期に亘って、高いレベルでのプレーを続けなければなりません。ジュニア

の選手にとっては、夏の2ヶ月間です。この時期のトレーニングは、中程度の強度で、量も中程度以下

に抑えます。

ピーキング期(Peaking Phase = Peak)

主要な大会中の数週間に照準を合わせます。プレーヤーのレベルによりますが、ジュニアの場合、地

域大会、州大会、全国大会の時期がそうです。プロの場合は、四大大会やデビスカップやフェデレーシ

ョンカップの時期です。USTA リーグでは、シーズン終盤の地域や州や全国の大会です。こういった大き

な大会の前は、生理学的なピークを迎えるためには、更にトレーニングの量を減らし、競技に備えての

十分な休息をとり心身の回復を心がけるべきです。

回復期(Recovery Phase)

従来のピリオディゼーションの考え方では、この時期を年1回2~6週間設けて、テニスから離れて長

いシーズンの疲れを癒す時期としていました。全くテニスの練習はせずに、積極的に身体を休め、バス

ケットボールやサッカーやスイミングなどのクロストレーニングをして体調を整える時期としました。しかし、

今の考え方は、休息の時期を設けることで身体に良い効果が与えられることへの理解が深まったことも

あり、一つの長い時期を設けるのではなく、より短い期間を年間通じてより頻繁に設けるべきだということ

です。テニスプレーヤーにとって良い成果を出すためには十分な休息が必要なので、この方式をとるこ

とで、年間を通じて高いパフォーマンスレベルを維持することに繋がります。

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5 “Periodization Primer for Tennis”

Dr. Mark Kovacs, Ph.D, CSCS TennisPro Mar./Apr., 2008

これらに関する基本的な経験ができたならば、時間や量の調整や、計画をどのくらいの頻度でどのよ

うに作るかを考えることが重要です。ピリオディゼーションは絶えず変化するものです。競技者に関する

より多くのデータを集めることができれば、そのプログラムはより効率的且つ効果的なものとなります。そ

うなってくれば、あなたの生徒達のプレーのレベルも向上し、より早く成果を上げることができるようにな

るでしょう。

(図2) 週単位のマイクロサイクルからなる4週間を一つの期とした6ヶ月のマクロサイクルの例

*参考文献*

1. Stone, M. H. and H. S. O'Bryant. “Weight training, a scientific approach.” Minneapolis, MN: Burgess, 1987

2. Kraemer,W. J., K. Haekkinen, N. T. Triplett McBride, A. C. Fry, L. P. Koziris, N. A. Ratamess, J. E. Bauer, J.

S. Volek, T. McConnell, R. U. Newton, S. E. Gordon, D. Cummings, J. Hauth, F. Pullo, J. M. Lynch, S. A. Mazzetti,

H. G. Knuttgen, and S. J. Fleck. “Physiological changes with periodized resistance training in women tennis players.”

Med Sci Sports Exerc. 35:157-168, 2003.

3. Kovacs, M.,W. B. Chandler, and T. J. Chandler. “Tennis Training: Enhancing On-Court Performance.” Vista, CA:

Racquet Tech Publishing, 2007

【筆者略歴】 Dr.Mark Kovacs, Ph.D, ストレングス&コンディショニングスペシャリスト: 学生時代は、オールアメリカンと NCAA のチャンピオン

を経験する。現在は、USTA のスポーツか学部長を務め、ジャクソンビル州立大学では“Exercise Science & Wellness(スポーツ健康

科学科)”の准教授を務めた。ジェフ・チャンドラーとブリット・チャンドラー両博士との共著に「テニストレーニング:オンコートパフォ

ーマンスの向上」があり、PTRのプロショップか www.raquettech.com から入手できる。

【翻訳・監修】 鈴木真一: アド・イン桜テニススクール(柏市)代表 / PTR インターナショナル・テスター & クリニシャン / PTR テスター委員会委員 /

JPTRプロ・オブ・ザ・イヤー(1986)、PTRプロフェッショナル・オブ・ザ・イヤー(2001)を受賞。2008年2月“マスター・プロフェッショナル”の称号を受ける。