ゼロから学ぶpid制御(ディジタルコース)– 2– 日本工業出版 web講座...

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2 日本工業出版㈱ web 講座 「ゼロから学ぶ PID 制御(基礎コース)」では PID (P:比例、I:積分、D:微分)制御について、どの ように生まれたか? そして実用形態への工夫から 最先端の2自由度 PID 制御に至るまでの PID 制御 の基礎について、アナログ式(連続系)で説明した。 ところが、アナログ式 PID コントローラは既に 1985 年頃に生産は終焉を迎えており、現在はディ ジタル式(離散系)PID コントローラにほぼ完全に 切り替っている。 ディジタル式の威力は、記憶、演算、伝送や論理 判断などが情報の劣化なしに、正確に実行できるこ とにある。たとえば、アナログ伝送の信号はノイズ の影響を受け易いが、ディジタル信号は、ノイズに よって妨害されにくく(パルスが有るか無いかと いった形で情報が伝送されるため)更にシステムと して伝送情報を容易にチェックできるので、正確に 情報を伝送できる。また、加減乗除などの演算要素 を用いて複雑な演算をする場合、アナログ式では、 多数の演算増幅器が必要となり、大きなスペースや 消費電力を必要とするとともに、ドリフトや演算に 伴う誤差が重畳し、演算が複雑になればなるほど誤 差が増大して、真値を誤差が上回るケースもあり、 何を求めているのか分からなくなってしまうことも 起り得る。これに対し、ディジタル式では、電卓を 叩いて加減乗除の計算をするのと同じように、ドリ フトや演算に伴う誤差がないため、エンジニアが頭 で考えることを忠実に演算処理し、目的を果たすこ とができる。 PID 制御の世界でアナログ式とディジタル式の関 係を眺めて見る。歴史的に制御技術や制御理論はま ずアナログ式のものが生まれ、そこから出発して、 ディジタル式の世界に入っており、逆のケースは見 当たらない。まずアナログ手法(連続信号による技 術や理論)が生まれて、実際に応用して行くと正確 さ、情報の蓄積・保存・活用および情報の品質維持 などの面で種々の限界に遭遇する。これらの限界を 打破し、さらに高度化して行く過程の中から、アナ ログ信号や情報をディジタル信号や数値に変換し、 ディジタル的に演算処理・加工したのちに、再びア ナログ式に変換して活用するという考え方が生まれ て発展・定着してきている。 人工的な、伝送、演算と言った世界から、自然・ 生物世界に目を転じて見たとき、風、水や時間の流 れなどの自然現象、人間の五感や考え方、そして人 生までもすべてがアナログであり、アナログ的変化 が森羅万象の基本になっている。その上で、ディジ タル式はアナログ方式の限界を打破し高度化するた めに、人間がアナログ式の上に人工的に創り、築き 上げた「高度演算・情報処理の世界」と見ることが できる。この見方を下図に示す。 自然界の現象、各種プラントなどの動きは、アナ ログであり、連続信号として取り出し、表示・演算 処理する。また制御しようとする対象の操作端の動 きはアナログの世界が基盤となっている。しかし、 ゼロから学ぶ PID 制御(ディジタルコース) はじめに ディジタル世界 (高度演算・情報処理の世界) アナログ世界 自然界の現象、各種プラントなどの動き 離散化 (ディジタル化) 連続化 (アナログ化) (人工の世界) (現実の世界) アナログ世界とディジタル世界

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日本工業出版㈱ web 講座

 「ゼロから学ぶ PID 制御(基礎コース)」では PID

(P:比例、I:積分、D:微分)制御について、どの

ように生まれたか? そして実用形態への工夫から

最先端の2自由度 PID 制御に至るまでの PID 制御

の基礎について、アナログ式(連続系)で説明した。

 ところが、アナログ式 PID コントローラは既に

1985 年頃に生産は終焉を迎えており、現在はディ

ジタル式(離散系)PID コントローラにほぼ完全に

切り替っている。

 ディジタル式の威力は、記憶、演算、伝送や論理

判断などが情報の劣化なしに、正確に実行できるこ

とにある。たとえば、アナログ伝送の信号はノイズ

の影響を受け易いが、ディジタル信号は、ノイズに

よって妨害されにくく(パルスが有るか無いかと

いった形で情報が伝送されるため)更にシステムと

して伝送情報を容易にチェックできるので、正確に

情報を伝送できる。また、加減乗除などの演算要素

を用いて複雑な演算をする場合、アナログ式では、

多数の演算増幅器が必要となり、大きなスペースや

消費電力を必要とするとともに、ドリフトや演算に

伴う誤差が重畳し、演算が複雑になればなるほど誤

差が増大して、真値を誤差が上回るケースもあり、

何を求めているのか分からなくなってしまうことも

起り得る。これに対し、ディジタル式では、電卓を

叩いて加減乗除の計算をするのと同じように、ドリ

フトや演算に伴う誤差がないため、エンジニアが頭

で考えることを忠実に演算処理し、目的を果たすこ

とができる。

 PID 制御の世界でアナログ式とディジタル式の関

係を眺めて見る。歴史的に制御技術や制御理論はま

ずアナログ式のものが生まれ、そこから出発して、

ディジタル式の世界に入っており、逆のケースは見

当たらない。まずアナログ手法(連続信号による技

術や理論)が生まれて、実際に応用して行くと正確

さ、情報の蓄積・保存・活用および情報の品質維持

などの面で種々の限界に遭遇する。これらの限界を

打破し、さらに高度化して行く過程の中から、アナ

ログ信号や情報をディジタル信号や数値に変換し、

ディジタル的に演算処理・加工したのちに、再びア

ナログ式に変換して活用するという考え方が生まれ

て発展・定着してきている。

 人工的な、伝送、演算と言った世界から、自然・

生物世界に目を転じて見たとき、風、水や時間の流

れなどの自然現象、人間の五感や考え方、そして人

生までもすべてがアナログであり、アナログ的変化

が森羅万象の基本になっている。その上で、ディジ

タル式はアナログ方式の限界を打破し高度化するた

めに、人間がアナログ式の上に人工的に創り、築き

上げた「高度演算・情報処理の世界」と見ることが

できる。この見方を下図に示す。

 自然界の現象、各種プラントなどの動きは、アナ

ログであり、連続信号として取り出し、表示・演算

処理する。また制御しようとする対象の操作端の動

きはアナログの世界が基盤となっている。しかし、

ゼロから学ぶ PID 制御(ディジタルコース)

はじめに

ディジタル世界(高度演算・情報処理の世界)

アナログ世界自然界の現象、各種プラントなどの動き

離散化(ディジタル化)

連続化(アナログ化)

(人工の世界)

(現実の世界)

アナログ世界とディジタル世界

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日本工業出版㈱ web 講座

アナログ式では、正確さや緻密さに対応するには高

度の技術が必要で、高精度演算処理をすることは容

易な問題ではない。世の中の正確さや緻密さの要求

が高度になると、アナログ式の対応限界を超えてし

まい、ディジタル式の力を借りざるを得なくなる。

ディジタルの世界は、アナログ信号を離散(ディジ

タル)化して、正確に高度演算処理を理論式に従い

淡々と実行する。そして、その演算処理結果を数値

や連続に近い動きをする近似アナログ表示や信号に

変換して、人間が監視したり、操作端を動かしたり

する「現実の世界」と結び付けて活用している。

 制御エンジニアが制御系を設計したり、シミュ

レーションしたり、問題に直面した時に、PID 制御

のディジタル演算式を良く理解して駆使できなけれ

ば、的確な判断・処理ができず、効率が悪いという

よりは仕事にならないと言っても過言ではない。し

たがって、制御エンジニアとしては、ディジタル演

算式を導いたり、各部の入力と出力の関係を追った

り、制御の本質を維持したままディジタル演算式の

加工・変形・省略できるレベルに到達することが必

要不可欠な要件である。

 このコースでは PID 制御式に関して各種のディ

ジタル化方法、ディジタル演算方式から、入力と出

力波形の関係、さらにディジタル演算で陥り易い落

とし穴などについて、13 回に分割して、詳しく説

明している。さらに、補足説明を入れたり、わから

ない部分についてはメールで質問して理解を深める

ことができるようにコースが構成されている。1回

あたり2時間~計算確認などをする場合には4時間

程度の時間をかけて、じっくり履修し「ディジタル

PID 制御の達人」に到達されることを期待している。