fragile navigation人間の自己言及構造

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Fr電 1lё NⅣ igttion/人 間行動 自己言及構造」 Fragile Navlgatlon/the self referenchl Structtlr 平成 8年 修士論文 指導 :渡 辺仁史 教授 早稲田大学大学院理工学研究科 建設工学専攻建築学専門分野 65E089馬 富夫

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1996年度,修士論文,馬渕富夫

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「Fr電1lё NⅣigttion/人間行動の自己言及構造」Fragile Navlgatlon/the self referenchl Structtlre of htlman BehavloF

平成 8年度 修士論文

指導 :渡辺仁史 教授

早稲田大学大学院理工学研究科

建設工学専攻建築学専門分野

65E089馬渕 富夫

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

0章 はじめに

0.は じめに

■Fragileと は

Fragileと は辞書によると以下のように書かれている。

fragile【 ラテン語 「割る」の意から】形

1.こ われやすい、もろい

2.虚弱な、かよわい

3.はかな い

fragileな 感覚は薄弱 。断片・危 うさ・曖味・境界・異端といった要因を導き出す。

誤解を覚悟でいえば、伝統的に建築計画に限らず「強さ」というものはある意味絶対的な良いことで

あると保証されている。ここでは逆にそのことに疑間を提示し、「fragile」 なものに期待を託 して思

考を進めていきたいと考えている。 強いものよりも「弱い」ものを。硬いものよりも「柔 らかい」

ものを。

■経路探索とは

はじめて訪れた建築空間では、自分の位置や目的室の方向がわからなくなり、迷うことがよくある。

これは探索情報を含めた「空間のわかりやすさ」の問題である。しかし簡単にそういっても、そこに

は人間が空間の情報を「視認」し、過去の経験などによる「知識」によって「推論」。「判断」して目

的室に到達するという認知心理学の課題が待ち受けている。また何回か同じ建築空間を訪れると迷わ

なくなり、これも空間の「学習」という認知心理学のふるくて、なお新 しい課題である。

■空間定位 [orientation]と は

空間定位[orientation]と は環境のなかで個が自己を位置づける方法をいう。空間定位は地形的認知表

象を活用 し、自己中心的参照系、固定的参照系、協応的参照系によって環境に関連づけられている。

また別の概念として身体像による定位[location]が ある。身体像とは無意識下に持っている身体の全

体または部分の像で空間的位置関係を示す。身体像は左右、前後、上下の主要方向を持ちそれ らの複

合として成立している。

設計行為

む環境」

。現実と二重の意味での空間 ;「設計者が設計プロセスにおいて構築しその中に住み込

としての「デザインワール ド」(Donald A.Schon)

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

0章 はじめに

一般に建築家の思考は「問題解決型ではなく問題発見型だ」といわれる。つまり、与えられた問題

に対して最適解を求めるだけの直線的な思考ではなく、常に問題のフレームそのものや実践行為の意

味など、設計の主体に直接関わる内容での反省を繰り返す「リフレクティプな」思考のプロセスだ、

というわけである。

現実と設計行為の二重性のなかにある「Navigation」 行為に着目することによって設計および建築

空間自体の構築行為を考察し、建築を自己言及の装置として構築すること、それが目的であるといえ

る。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

■目次 :

0.は じめに

1.研究 目的・・・・・・・・・・・・・・・ 。・・・・・・・・・・・・・・ 1

2.研究背景・・ 。・・・・・・・ 。・・ 。・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

3.Navigation 01・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●5

~従来の建築計画における 「経路探索」の観点 と比較 して~

4.Navigation 02・ ・ ・ ・ ・ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● . . ● ● ●9

~ 「経路」「エン トランス」における解釈の拡張~

5.Navigation 03・ ・ ・ ・ ・ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 0 0 ● ● ● ● ● ● ● ●11

~行動における「自己言及」の観点か ら~

6.Navlgation 04・ ・ ・ ・ ・ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● o ● 018

-affordanceの観点から―

7.Navigation o5。 ・ ・ ・ ・ ● ● ● 0 ● ● ● ● ● ● ● 0 ● 0 ● ● ● ● ● ● o ● 026

~協調設計プロセスにおける 「誘導」行為の観点か ら~

8.最後 :こ・ ・ 。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。 ・ 。30

9.参考文献・・・・・ 。・・・・・・・ 。・・・・・・・・・・・・・・・・・31

10.Navigation files・ ・ ・ ・ ・ ・ ● ● 0 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 。32

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

0章 はじめに

0.は じめに

■Fragileと は

Fragileと は辞書によると以下のように書かれている。

fragile【ラテン語 「割る」の意から】形

1.こ われやすい、もろい

2.虚弱な、かよわい

3.はかない

fragileな 感覚は薄弱・断片・危うさ 。曖味・境界・異端といった要因を導き出す。

誤解を覚悟でいえば、伝統的に建築計画に限らず「強さ」というものはある意味絶対的な良いことで

あると保証されている。ここでは逆にそのことに疑間を提示し、「fragile」 なものに期待を託 して思

考を進めていきたいと考えている。 強いものよりも「弱い」ものを。硬いものよりも「柔らかい」

ものを。

■経路探索とは

はじめて訪れた建築空間では、自分の位置や目的室の方向がわからなくなり、迷うことがよくある。

これは探索情報を含めた「空間のわか りやすさ」の問題である。しかし簡単にそういっても、そこに

は人間が空間の情報を「視認」し、過去の経験などによる「知識」によって「推論」・ 畔」断」して目

的室に到達するという認知心理学の課題が待ち受けている。また何回か同じ建築空間を訪れると迷わ

なくなり、これも空間の 「学習」という認知心理学のふるくて、なお新しい課題である。

■空間定位 [orientation]と は

空間定位[onentatiOn]と は環境のなかで個が自己を位置づける方法をいう。空間定位は地形的認知表

象を活用 し、自己中心的参照系、固定的参照系、協応的参照系によって環境に関連づけられている。

また別の概念として身体像による定位 [location]が ある。身体像とは無意識下に持っている身体の全

体または部分の像で空間的位置関係を示す。身体像は左右、前後、上下の主要方向を持ちそれらの複

合として成立している。

設計行為・・ 。現実と二重の意味での空間 ;「設計者が設計プロセスにおいて構築 しその中に住み込

む環境」 としての 「デザインワール ド」 (Donald A.Schon)

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

0章 はじめに

一般に建築家の思考は「問題解決型ではなく問題発見型だ」といわれる。つまり、与えられた問題

に対して最適解を求めるだけの直線的な思考ではなく、常に問題のフレームそのものや実践行為の意

味など、設計の主体に直接関わる内容での反省を繰り返す「リフレクティプな」思考のプロセスだ、

というわけである。

現実と設計行為の二重性のなかにある「Navigauon」 行為に着目することによって設計および建築

空間自体の構築行為を考察し、建築を自己言及の装置として構築すること、それが目的であるといえ

る。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

1章 研究目的

1.研究目的

建築の設計段階及び実際の建築空間においてもそこに関わる設計者や空間内の人間が溢れる情報を

判断し実行することは情報量の増加とともに大変労力を要するものとなっている。一方それに対処す

る方法として案内板のような誘導物によって対応することが増加しているが、それ自体が過剰である

ために「迷う」というパラドックスも一方では起こっている。そこでは本来使用する人間と与える情

報との関係が応答せずに一方通行の関係になっているのではないかと考えられる。本論文では

「Navigation」 の概念を拡張することにより従来の建築計画における「強い」誘導に頼らない人間の

行動自体が持つ情報と時間概念を用いた弱い「NⅣigation」 のあり方と建築・都市空間内の人間行

動自体が持つ情報における「自己言及」構造との関係を明らかにし、さらに実際の制作活動を通して

実証することを目的とする。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

3章 研究背景

3.研 究背景

ここではまず、設計行為と現実の空間の関係について考察を行いたい。

設計と現実は言うまでもなく、設計されたものが現実の空間として成立するという関係にあるが、設

計者にとっては設計途中のプロセスも思考の中では 「リアル」なものであることは間違いない。

つまり、「ヴァーチャル」なものが 「リアル」なものとして現実に現れるのではなく、設計者にとっ

てはすでにして最初の設計段階から「リアル」なものであるという二重性を持っているのであるとい

える。

そこのところを Dol〕ald A.Schonの 言葉を借りるならば「設計者が設計プロセスにおいて構築 しそ

の中に住み込む環境」としての「デザインワール ド」に設計者は存在しているのであると考えること

ができる。

一般に建築家の思考は「問題解決型ではなく問題発見型だ」といわれる。つまり、与えられた問題

に対 して最適解を求めるだけの直線的な思考ではなく、常に問題のフレームそのものや実践行為の意

味など、設計の主体に直接関わる内容での反省を繰 り返す 「リフレクティブな」思考のプロセスだ、

というわけである。

つまり建築家にとって現実空間の問題は設計行為にとっての問題でもあるといえるし、設計行為に

とっての問題は現実の空間に照射されてくるということがいえる。

ここで設計、現実両方の問題になっているのが、「Navigatior〕」の問題である。これは同時に広く

情報化の問題とも遠からずつながっているといえる。空間内において記号の氾濫が空間内のNa■7iga

tionを難 しくしているのであるが、一方で誘導を助ける手段もまた記号として現象しているので、し

ばしば逆に迷うということもある。

そのような問題の根底にあるのは物事の分類を項目別の言い方をすれば記号に頼って分類することに

起因しているのではないかと考えられる。

「超整理法」に書かれている分類の考え方を引用すると、項 目ごとの分類は項目の種類に当てはまら

ないものや項目が増えていった場合に対して対処することができないというゲーデルの自己言及の間

題と同様の問題を内包しているといえる。

その対処法として 「超整理法Jでは時間軸による分類方法を提案している。

この考え方の中に現在の建築・都市空間が持つ問題にたいする示唆が含まれているのではないかと考

えられる。時間というパラメーターを徹底的に考察することによって記号の氾濫といった問題に触れ

ることなくプログラムを組み立てることができるのではないかと期待が持てる。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

時間によって組み立てられるということは一つは変化、変形自体を取り込むということと言い換え

ることができる。空間内において変化、変形する為の要因をあげていくと、人間の行動、光、風、と

いったことが考えられる。それらの要素によって空間の様相が変化したり、形態が変化することに

よって行為を誘導することができるのではないかと考えられる。

探索において、周りの環境要素を用いることを考えた場合、人の移動する風景も一つの要素と考え

られる。その場合、自分より先に探索行為を行った人の情報 (こ こでは軌跡)を探索の手がかりの一

つとして用いることの可能性があるのではないかと考えられる。

軌跡が付随することが出来る要素として

○色(透明度も含む)

○時間変化 (経つたら消える、あるいは累積する)[運動も含む]が考えられる。

犬が電柱におしっこをかけていくことと同様な感じでその要素を用いて探索行為に用いることは出来

ないのかと。

○自分が過去の軌跡を参照する場合

○他人が他人の軌跡を参照する場合

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

Nαッなα″Jθκ θI

¨ gaJOn。 1

3.Nαッ島『α″ο“θI

~従来の建築計画における「経路探索」の観点と比較して~

従来の建築計画における「経路探索」の多くは案内板及び従来のビルディングタイプの中において

調査がなされている。一方近年の設計段階でのモニターの中の「空間 (以下「設計空間」と呼ぶ )」 お

よび実際の建築・都市空間における空間の様相の多様化において、従来からの案内物に頼るだけの

「強い」誘導だけでは逆に情報過剰のようなものにな り有効ではない。そのような観点から特殊解と

しての「緩やかな」誘導 。経路を制作を積み重ねることを通して考察する。

■経路探索とは

はじめて訪れた建築空間では、自分の位置や目的室の方向がわからなくなり、迷うことがよくある。

これは探索情報を含めた「空間のわか りやすさ」の問題である。しか し簡単にそういっても、そこに

は人間が空間の情報を「視認」し、過去の経験などによる「知識」によって「推論」。「判断」して目

的室に到達するという認知心理学の課題が待ち受けている。また何回か同じ建築空間を訪れると迷わ

なくな り、これも空間の 「学習」という認知心理学のふるくて、なお新 しい課題である。

■経路探索モデルとは

経路探索モデルは、現実の空間や探索情報 (サイン情報など)を探索経路モデルや探索情報配置モ

デルによって置き換え、そこを探索する人間側を探索行動モデルとして設定し、その整合をシミュ

レーションすることによって解析する試みである。

■経路探索モデルのフレーム

経路探索モデルにもいろいろなモデルが考えられる。例えばシャンク[Schank]の MOP理論では<記憶の東>を 「MOP」 と呼び、<一般化 して制御する知識構造>をスーパースクリプ ト、<典型的

な行為の流れ>を スクリプ ト、<場面>を シーン、それを埋める必要条件をスロットと呼び、認知科

学への応用を提案 し、またミンスキー[Minsky]の フレーム理論の応用なども考えられる。

■空間定位[orientation]と は

空間定位[orientation]と は環境のなかで個が自己を位置づける方法をいう。空間定位は地形的認知

表象を活用し、自己中心的参照系、固定的参照系、協応的参照系によって環境に関連づけられている。

また別の概念として身体像による定位 [location]が ある。身体像とは無意識下に持っている身体の全

体または部分の像で空間的位置関係を示す。身体像は左右、前後、上下の主要方向を持ちそれ らの複

合として成立している。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

まずは建築計画の従来の「経路探索」研究において概説すると

従来の「経路探索」研究において

1.知識による判断・視認力と探索情報の整合・不整合によって 「迷い」が発生する

2.方向誘導機能 (案内板や方向指示板)を持つ情報が同じ領域に 2つ あると、2方向を誘導して しま

う。

3.目 的室に類似 した室の方向指示板を発見するとその方向へ誘導される。類似の諸室で構成されると

わかりやすさにつながる

4.探索行動で目的地と違う室名をみて移動力が減少する

5.室名板を最も重視して探索する場合、室名板が内容視認領域にあまりない「廊下型」の施設では最

初から迷いやすい。

6.一度通った領域は視認領域となる。「学習」の概念

7.特異解のモデルを積み重ねてそこでの共通ルールと建物種別、規模、プランなどに応じたルールと

の 2段構えが必要である。

8。 「病院は迷いそう」というイメージからか探索情報を用心して探 し、その通 り行動しようとするた

めに迷いが少ない。見通しの良い「図書館」では「何とかなる」と判断して探索行動を行い、逆に迷

う。

といったことがわかっている。7.で述べられたように特異解を積み重ねることによっている研究であ

るといえ、本論においてめざす空間の参照できる事例が見あたらないために仮設からの出発を行 う理

由の一つがここにある。

従来の建築計画においては既存の空間において調査したものについての結果から考察されてくるも

のであるが、ここで問題になるのが、既存の空間を調査し解析したものを適用するということは言い

換えれば「再編集」すると言い換えることが出来るわけである。ということは「再編集」されたもの

は「編集」するための元データのレベルに依存することになる。そうするとともすれば現在ある空間

の「想像力」を超えることが出来ないということにもな りかねない。それと研究の結果を実際のくう

かんにてきようする場合、ゲーデルの自己言及文と同様な問題を持っている。つまりある空間か ら導

き出された結果が適用する空間の形態に適合するか否かといった問題である。(も ちろんここでは既存

の形態をそのまま適用はしないという前提の上である。)その根拠を ?と 問われれば最終的には不完全

性定理と同様の証明不可能の問題に突き当たる。つまり建築計画研究においても同様に何らかの段階

で 「仮説」をたて、それが成立するとしたらといったところから出発 しているといえる。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

3i菫 こヽ瀾Hσ ,日 On 01

そういう観点から本論では最初期の段階において仮説を提示し、それを実際の制作によって実験し、

それをフィードバックするという方法をとる。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

l{avigation 02

4章 Nav:gation o2

4.Navigation 02

~「経路」「エントランス」における解釈の拡張~

近代以降の建築においてはいわゆる廊下や道路は移動空間としてある特定の機能を持った空間から

切り放され、移動空間としてのみ設計されることも多い。しかしながら、街路等の経路として機能 し

ている空間は空間内に起こる多様な人間行動の緩衝機能やもっと積極的な人間行動を生み出している

といえる。本論では、私が書いた卒論と同様の視点で従来あった部屋的な空間と移動空間の区別をな

くし、等価なものとして見ること、つまり建築や都市空間を連続する一つの経路としてみることに

よつて移動する身体から見た空間の構成として

捉えるという考え方をとる。

一般に「玄関」と呼ばれる部分は住宅なり建築の最重要な部分でファサー ドとしても重要な位置を占

めていることが多い。しかしながら京都の都市空間を例に引くと、都市空間全体が路地でできている

といえるような構成においては門構えなどの概念よりは路地にとっての門の位置づけの方が重要であ

ると考えられる。卒業論文以降引き続き同様にエントランスを経路全体からの位置づけによって意味

付けを考えるという考え方をとり、形態的な意味よりもトポロジカルな構造に着 目をして構想してい

きたいと考えている。

ここで経路と透明性について言及する。近代建築を論じるとき最も重要な語は何か問われれば、透明

性が挙げられるであろう。ただし、注意しなければならないのは透明という言葉は、正確にいうと二

つの意味を持っている。一つは、建築に限らずかなリー般的な使い方で、意味のない何かを透明と形

容することがある。近代を論じるときにその特質の一つに意味の脱色が挙げられるので、近代の特質

として「透明」という言葉が使われる。他の一つは限定された使い方で、コーリン・ロウの論文「透

明性―虚と実」による使い方がある。両者は、時として意図的に混同して使用されたりもするが、こ

こではコーリン・ロウの透明性を念頭に置く。

コーリンロウの透明性は、広く知覚 と空間を論じたものであるが、特にキュビズムの空間の特性を

よく言い当てており、1920年代のコルビュジェの作品やミースの作品を言葉で捉えるときに有効で

ある。この透明性とは要するに奥行き感という知覚や虚構の深さのことである。ロウはこれがどのよ

うにして生じるのかを分析 し、虚構の奥行きは単に一点透視図法によって生じるだけでなく、視線の

反射と直進が共存するときに、そこに透明の皮膜の存在が感 じられることを指摘 し、これが空間を奥

行き方向にスライスすること、透明な幕の重な りが奥行きを知覚させるというメカニズムを明らかに

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

10

したのである。さらにこの考え方をものの配列の仕方に適用して絵画や建築の透明性を取り出してい

く。その意味ではウィットコウアーによるラウレンチアーナ図書館前室の分析やヴェネチアにおける

パラディオの教会ファサードの分析にもこの考え方が示されている。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

Ir{avigation 03

5]義 Nav:gat:on o3 12

5. Navigation 03

~行動における「自己言及」の観点から~

空間内の人間の行動とそれに応答或いはシンクロする空

間とさらにそれが人間の行動に反映されてくる関係につい

てで、方向案内板のような「強い」誘導ではなく空間内の人

間の行為によって誘導される「弱い[fragile]」 誘導のあり方

についての可能性についてで、「第 31回セントラル硝子国

際建築設計競技」においては内部の微少な人間の行動の総

体が建築全体の構造に影響を及ばし、さらにその影響が人

間に照射されてくるという「自己言及」の構造を用いた提案

を行っている。

先程述べたように建築空間内の誘導の多くが方向案内板な

どの「強い」記号を用いたものであることが多い。本論では

そのような「強い」誘導ではなく空間内の人間の行為によっ

て誘導される「弱い[fraglle]」 誘導のあり方についての可能

性について考えてみたいと思う。

本論文における作品に沿って、論を展開させていこうと思

つ。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

13

「国会議事堂」連続変形モデル

「第31回セントラル硝子国際建築設計

競技Jにおいては内部の微少な人間の行

動の総体が建築全体の構造に影響を及ぼ

し、さらにその影響が人間に照射されて

くるという「自己言及」の構造を用いた

提案を行っている。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

14

「Japanハごt Festival'95 in沼 津」に

おいてはセントラル硝子コンペ案と同様

圧縮構造を持つ曲面は微少な変動の力に

よって変形することができるという特質

を利用 し、海側から吹く風によって振動

するシステムを持っており、その変形の

しやすさと内部での人間行動が応答する

ようにできている。

lthe Womb of tha Windl r-, I^> 7

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

F0

「Japa11ハごt Festival'96 in沼 津」におい

ては3作による郡造形として成立しており、

作品としてそれぞれが独立して成立してい

るのではなく、ここで導入されたパラメー

ターによって全体の空間が決定されている

というシステムを持っている。そ してそれ

らが互いに連動している関係を持っている

ために一つのパラメーターを動かすと別の

パ ラメーターが変化する、という関係に

なっている。ここでは一つのパラメーター、

具体的には全体が共通の曲面を共有すると

いう固定したパラメーターを設定している。

そのことによって他のパラメーターを動か

すことはこの値は数値でいうところの一定

値をとるわけであるから、さらに別のパラ

メーターは必然的に最初の影響を受けると

いう関係になっている。

また、この作品では設計プロセスにおいて

それぞれ個々の作品において複数の人間が

(人間は他の作品とだぶる)変形協調関係を

とることによって、ある設計者の変形が他

人の空間決定に介入してくるという関係に

なっている。場合によっては少 しの変形が

別のところで大きな変形を要するといった

ことが起こり得る可能性を持っているし実

際に発生した。つまり構造の中に「複雑系」

と同様に誤差が増幅するという構造がある

考えられる。これらの要因が「自己言及」の

関係になっていると考えられる。

Alias Connections

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

17

「Oriel〕 tation Box/002.6」 においては同

様に装置 (システム)と してのフォリーをイ

ンス トールすることによってその装置に「関

わる」人々の風景が景観を造るのではない

か、そのような「エコロジカル」な関係を構

築 したいと考えていた。さらにフォリーに開

けられたスリットの種類は 3種類有 り、一般

的な表現を用いると日時計としての トップラ

イ トのためのスリット、中から外を眺めるた

めの水平窓としてのス リット、人が中に入

り、通過するためのにじり回のためのスリッ

トがある。これら人間の行為にとって別々の

用途を持つスリットを連続した一体のものに

設定することによってそれぞれのパラメータ

が連動したものになるように設定した。パラ

メータが拘束を受ける条件をここではスリッ

トの面積を一定値にすることを行っている。

このように設定することで内部の人間の行動

をリレフレクティブなつまり「自己言及」的

なものにすることを提案している。

スリットと光の連続面 12:00

スリットと光の連続面 15:00

スリットと光の連続面 :9:00

空間内の人間行動の配列

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年 度修士論文

Navigation 04

6]彗 Navigation 04 19

6. Navigation 04

~ affordanceの観点から~

機能的に決められた形態や使われ方ではなくて、「柔らか

い」形態や使われ方についてのアフォーダンスの観点から

について

一般に見られる建築空間は感覚的にも構築を行う思考構

造の観点から考えても「硬く」、分節されていて「エッジ」

を持っている。

具体的にいうと近代建築以降それまでも含めることができ

るが、建築空間を構成している単位が、部屋、廊下等いわ

ゆる「部屋名」の組み合わせで構成されており、それらを

連結する構成で成立していることが一つの原因であるとい

える。

そしてその単位のフレームと構造を支えるシステムが一致

していることが多い。

これらの根底には我々設計者の思考構造自体がそれらと一

致 し、それを トレースするように構築 しているからである

ということもできる。

しかしながら、それらの持つ「フレーム」は設計者の思考

構造であっても、空間内の人間の行動や知覚とは必ずしも

一致するものではない。むしろずれているとさえいえる。

つまり、人間の行動は時々刻々運動しているのであり、連

続という視点からの解釈が必要であるといえる。

部屋という単位は人間の行動を静的に捉えた視点からの解

釈なのである。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

20

別な言い方をすれば、時間変化が考慮されているかどうかの違

いであるといえるし、あるいは均質空間と密接な関係を持って

いるユークリッド幾何学と空間のつながり方を基準にするトポ

ロジーの関係と言い換えることもできる。

」.J.ギブソンによる「アフォーダンス」の概念を参照すると

我々が例えば「椅子」と認識してから椅子に座るのではなく、

椅子が 「座ること」を誘発しているのである。

いいかえれば、命名しがたい形態の状態あるいは空間自体が行

動によって「変形」するような状態ははそこに新たな人間の行

動を生み出すことができるといえる。

また、「部屋」の単位における空間内の「記号」は静的な視点

において成立している。連続という視点から見た場合、既存の

「記号」が存在する必然性がないといえる。

ここで、記号を消すという行為に関して言及すると、歴史的に

はアイゼンマンのカサ・デル・ファッショの形態分析は形態そ

のものを取 り扱おうとするものであり、研究方法自体が意味に

頼 らない透明なものであろうとしている。

だが本文との関係でいえば、近代は完全な透明性に到達しきれ

ないで非透明性が残る。

その論理的根拠としてゲーデルのの不完全性定理と同様の問題

を挙げられる。

アイゼンマンの研究の問題は「意味」を消すことが同時に新た

な意味を見出す ことにおいて問題を残していることと、彼の研

究自体、建築とプログラムの関係を全く切り放 した状態 (つ ま

リコンセプ ト自体を「建築」にとっての「外部」の問題から持っ

てくるため)で論じているために、最終的な形態の根拠を求め

ていくと、人間の行動とどのような関係があるのかといった基

本的な問題において問題をはらんでいる。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

つろ

本論ではこの点において内部の人間行動と空間の形態自体

が連動するという視点に立っている。

また、ここで「Navigation」 の話に言及すると視覚障害者

にとっては建築空間内を探索するのは「エッジ」を探し求

めることと同様な意味を持つ。

と同時にバリアフリーの問題においては「ェッジ」はバ リ

アを作ってしまうことも問題としてある。

そのことに対 して本論では、「エッジ」のない「NNigation」

のあり方の可能性を考察することも重要な問題であると考

え、そのことが同時にバ リアフリーの問題につながること

であると考えている。

従って連続する身体という視点から捉えた場合、「フレーム

レス」な空間であることの可能性を考えることは重要なの

ではないかと考えられる。

ここで、「フレーム」を構成 している要因を形態、構造、空

間内のプログラムに分けて考えると、

形態 :継ぎ目のない連続 した面の連続で構成した形態

構造 :ダイナミックなシステムを内包 した構造

プログラム :具体的行為と移動行為が等価なプログラム

と大まかに言うことができる。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

0ん

04

ここで本論文における作品に沿って、論を

展開させていこうと思う。

「the House of Parliament」 においては

空間全体の形態が一体成形の形態をしてい

てそれらの圧縮変形を加えた形態をしてい

るために空間を構成している面同志の継ぎ

目がほとんどなくいわゆる床、壁、天丼と

いった空間を分節する要素ははっきりと存

在しない。したがってここでは何をすると

いった厳密な規定がない。従って形態自体

をどう知覚 しているかが人間の行動を決定

するといえる。

「国会議事堂」連続変形モデル

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

23

「Japanフ特t Fest市a1195 in沼津」

においてはセン トラル硝子 と同様

に床、壁等の垂直水平な要素を作

らず全体で包み込むような成形の

仕方を形成 しており、曖味な形態

が人間の微妙な行動を誘発すると

いえる。

「the womb oftha Wind」 シークエンス

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

24

「Japanハごt Festiva1196 in沼 津」に

おいても同様に特定の機能のための形態

を作 り出すということはここでは避けら

れている。むしろ内部にいる人間がどの

ようにその中で時間を過ごすのかといっ

たことを誘発することを意図したものと

して考えている。また、単体としてだけ

で完結するものではなく、3つ の群とし

てさらに別の行為を誘発するようなこと

はできないか、そう構想して 3つのイン

スタレーションは配列された。

Alias Connections

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

E0

,″

「Orientation Box/002.6」 においてはそ

れぞれの部分をとると平 らな面を持ってい

るが、すべての面が壁と床の微妙な角度に

よって傾き、それらの連続によって空間を

構成しているために全体として様々な行為

を誘発することができると考えられる。

雉ヽ鍮 ‐ i

torientatron Box/002.6 |

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

26

IYavigation 05

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

7]置 Navlgation 05 27

7. Navigation 05

~協調設計プロセスにおける「誘導」行為の観点から~

設計行為・・・現実と二重の意味での空間 ;「設計者が設計

プロセスにおいて構築しその中に住み込む環境」としての

「デザインワール ド」 (Donald A.Schon)

一般に建築家の思考は「問題解決型ではなく問題発見型

だ」といわれる。つまり、与えられた問題に対して最適解を

求めるだけの直線的な思考ではなく、常に問題のフレームそ

のものや実践行為の意味など、設計の主体に直接関わる内容

での反省を繰 り返す「リフレクティブな」思考のプロセスで

ある。

設計行為、ここでは建築設計に限らないが、それら設計行

為の中には最終プロセスまでの間に様々な「外部」と協調行

為が発生する。

まず、話をいわゆる建築一般に意味される「設計」行為に話

を限定して進める。具体例を挙げるとセントラル硝子国際建

築設計競技案の「the House of Parliament」 は自分を含め

3人、「Japan Art Festival'96 in沼 津」は4人、 東上坂工

業団地記念モニュメントコンペの「Orientation Box/

002.6」 は2人である。その他は実質 1人による設計行為で

あるといってもよい。行為を人数の観点で分けると個人と複

数という分け方ができる。ここでしばしば見落とされがちな

のは、複数の中における2人 とそれ以上との違いである。協

調行為の潜在的に持っている問題は参加者がアイデアを共有

するのに要する時間である。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

28

そして共有して次のステップに進む場合に要する時間は

0.ア イデアを考え出す時間

1.ア イデアを理解する時間

2.データを送信する時間

3.データが届いてから受け取ったものがそれを見るまで

の時間

に大きく分けられる。

この時間が個人による設計行為とは大きく時間を費やさ

なければならない要素である。3.に 関しては協調行為が

遠隔地を結ぶことによって同時に参加者が同じ場所を共

有する必要がない場合に、生活時間のことなる参加者を

取 り込むことができるというメリットの一方、発生する

問題である。

0.に関して、個人においては

1.に関して、個人においては自らのアイデアであるため

に個々に要する時間はほとんどないといってよい。

しかしながら、複数になった場合には当然のことながら

その問題・アイデアに理解のしやすさが異なるために予

想以上の時間を要する。

連続した「一体」のものとして、一つのパラメーターを

操作すると別のパラメーターが影響を受けて変化する。

パラメーターの数を減らすことによって複数の設計者が

形態の決定を容易にすることができ、多数の候補を トラ

イアンドエラーによって最適解を決定することができ

る。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

29

連続した「一体」のものとして、一つのパラ

メーターを操作すると別のパラメーターが影響

を受けて変化する。パラメーターの数を減 らす

ことによって複数の設計者が形態の決定を容易

にすることができ、多数の候補をトライアンド

エラーによって最適解を決定することができる。

ここではパラメーターを連動したものに設定

することによってある目的の形態を導き出そう

とする場合は、数学における関数と同様にある

束縛条件が必要であり、その条件を初期条件に

おいて どのように設定するのか といった 「フ

レーム」の設定の仕方自体がその建築の方針を

決定していくといえる。

日常的な感覚で連続していないと思われるパラ

メータを連動したものとして捉えていくことは

それ らを繋ぐ見えぎるパラメータを設定 しする

ことであるといえるし、そうすることで可能に

なるといえる。

「Orientation Box/002.6」 における差し込む光

の形とスリットの形態 とは空間的に離れている

ために厳密にはそれらのパラメータだけでは連

動したものにはならない。

ここでそれらが連動 したものになるのは、それ

らを繋ぐ空中の光の塊とでもいったものを一つ

のパラメータとして暗に設定することによって

成立することがわかる。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

8章 最後に

8.最後に

一連の作品の大半は実施を伴うものであり、現場での制作等多大な人の力の上に私の現在が成立し

ています。沼津での竹のインスタレーションの制作、東上坂のプロジェクトなど、ほとんど学術研究

の対局にあるといえなくもない行動を2年間も見守っていただいた渡辺仁史先生、過酷な環境におけ

る沼津での制作をともに行ってくれた約 50人 もの研究室内外の方々、審査の時に温かい励ましの言

葉をくださった勅使河原宏先生、東上坂工業団地のフォリーの制作を精神的に支えていただいた立命

館大学の高田昇先生、京都大学の竹山聖先生、長谷川弘直先生、長浜市役所の方々、厳しい条件の施

工の仕事を快く受けていただいたヤマキエ業様、たちばな建設様、この 1年 ともに制作活動をともに

してくれた⊇A一ν3.のみなさん、吉松秀樹さん、山家京子さん、初めての実施設計で冷や冷やして

いる私を楽しそうに見ながら、励ましてくださった GA」APAN編集部の方々、C&Cの淵上正幸編

集長、他数え切れない人々の支援を受けて自分の建築活動が成立していることを改めて実感させられ

ました。協調という言葉の意味を実施に近づけば近づくほど重要な問題であること、にもかかわらず

改善していかなければならない問題がたくさんあることも同時に身を持って思い知らされました。

人間、身体、知覚、ネットワーク、コンピューター、これ ら研究室の研究どれをとっても時代の重要

テーマであることは、たくさんの雑誌の取材を受けたことでも身を持って実感します。と同時に自ら

の中に強い哲学を持ち続けなければいけないのだと痛感させられたこの 1年でした。

改めて感謝の意を表すとともにこれからの自らの設計活動で御恩に報いたいと思います。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

9章 参考文献

9.参考文献

ニクラス・ルーマ ン『自己言及 について』国文社 1996

建築文化 199411

竹内外史『ゲーデル』日本評論社 1986

古山正雄『壁の探究 安藤忠雄論』鹿島出版会 1994

小林康夫『身体と空間』筑摩書房 1995

馬渕富夫『日本近現代住宅の空間構成に関する研究』早稲田大学卒業論文 1995

ピーター・G.ロ ウ『デザインの思考過程』鹿島出版会 1990

ダグラス・R・ ホフスタッター『ゲーデル ,エ ッシャー ,バ ッハあるいは不思議の環』白揚社 1985

松岡正剛『フラジャイル』筑摩書房 1995

D.A.ノ ーマン『誰のためのデザイン?認知科学者のデザイン原論』新陽社認知科学選書 1990

松岡正岡J『情報の歴史』Nr出 版 1996

松岡正剛『情報の歴史を読む』Nr出 版 1997

『SD9401』 鹿島出版会 1994

柄谷行人『隠喩としての建築』講談社 1989

M・ ミッチェル・ ワール ドロップ『複雑系』新潮社 1996

佐伯、佐々木編『アクティブ・マインド』東京大学出版会 1994

佐々木正人『アフォーダンスー新しい認知の理論』岩波科学ライブラリー 1994

浜田邦裕『アンビル トの理論』IR懸 1995

河本英夫『オー トポイエーシス』青土社 1995

ジル・ ドゥルーズ ,フ ェリックス・ガタリ『千のプラトー』河出書房新社 1994

鷲田清一『人称と行為』昭和堂 1995

『岩波講座認知科学 4-運動』岩波書店 1994

『岩波講座認知科学 8-思考』岩波書店 1994

川久保勝夫『 トポロジーの発想』講談社 1995

槙文彦他『見えがくれする都市』鹿島出版会 1990

クリスチャン・ ノルベルグ・ シュルツ『ゲニウス 。ロキ』住まいの図書館出版局 1994

日本建築学会建築計画委員会『設計方法V― 設計方法と設計主体』彰国社 1989

Hen″ Plurrmer『 Light in」 apanese Architecure』 a+u 1995

G2生 」APAN 25 1997

31

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IYavigation files

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01。 「the Womb ofthe Wind (力 乱舞11等 )」

(」apan Art Festiva1195 in沼津 [Gold Award]at静岡県沼津市・沼津御用邸記念公園 )

制作期間 :1995年 9月

展示期間 :1995年 10/1~ 11/15

審査員 :勅使河原宏 (映画監督 /草月流家元 )

中原祐介 (美術評論家 )

共同製作者 :小松喜一郎 (筑波大学)、 後藤聡、橘木卓、長澤夏

子、家崎雄司、中村聡、平岡健太郎、山田航司、横堀伸、酒井

隆満 (以上当時早稲田大学 )、 森田賢治 (当 時中央大学)

放映 :TBS系列静岡放送制作 「沼津夢舞台」

作品席札 :「the Womb ofthe Wind(風の胎内)」 :phasel;

RespOnse of Wind to bAmboo≡ [ヽ「ヽind ご bAmboo]

phase2;rEsponse[peOple 2=、 vinD] phase3;reSponse

[bambOo=peoplE](.・ .ヽ

~rind =鰤 boo=peOpleど ⅥinD)

.・ .「Kaguya― hil■le」 ≡[Something l,Φ pens ln iT]

この作品においては、都市空間における一般的な建築とは

異なり、具体的な機能は要求されていなかった。その代わり

に材料として、現地でとれる8mの 真竹 50本という条件で

空間を構成しなければならなかった。そこで敷地の地形が

持つ起伏、公園内の人間の動線の方向、及びその 2つの条件

が作 り出す、見え隠れのシークエンス、そしてその場所に

吹く海風の方向及び風力を設計の拠り所として行った。具体

的には内部を移動する時に発生するモアレ、公園内から竹の

裏側だけを見えるように形態を決定すること、風力の負荷を

軽減する形態、そして割竹に半曲点を持たせることにより、

風の揺 らぎによってスリットが揺 らぐように設計されている。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

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02。 「Alias―Connection (7洋后該/孝祥雇I)」

(「Japanノ守t■stiva1196 in沼津」[Gold Award]at静岡県沼津市・沼津御用邸記念公園 )

C)02.1 [「Fdias―Connection/ν「-01.3」

]

C)02.2 [「Fdias―Connection/ν「-02.7」

]

002.3 [「Alias―Connection/ν″-03.8」

]

制作期間 :1996年 9月

展示期間 :1996年 10/1~ 11/15

審査員 :勅使河原宏 (映画監督 /草月流家元)

中原祐介 (美術評論家)

共同製作者 :山本幹子、藤村憲之 (以上東京芸術大学)、 二好

隆之 (東京大学)、 安永頼子、久保田健介、前田弘児、金森道、

岡村あずさ、清水勝広、西村清佳、堀岡明彦、梅田太一、高橋

耕平 (以上東京芸術大学)、 山口あき子、大橋恵子、芦沢麻美

子、石川由希、堀千景、今川由貴 (以上昭和女子大学)、 原田

勝之、飯田晃子、加藤佳寿美、金原泰子、玉井勝士 (以上早稲

田大学)、 庄野健太郎 (武蔵工業大学)、 橿原徹 (東京大学)

掲載誌 :GAゝ繊 ぶ 25「Pick Up Today」

放映 :日 本テレビ「ズームイン朝」

作品席札 :松の傾斜と地形に応答するINDUσMNCE(誘 電

現象)の軌跡、あるいは海と応答する拡散運動の軌跡。

A上as―Connection/ν「 -01.3

場所が持つ地形の起伏を視覚化する曲面を共有する、群造形

三体のうちの一つで、単体として成立し、かつ群としても空間

の統一感を現象させること目的に構想した。御用邸の広大な敷

地には単体だけで完結させるよりも、作品各々が類似性と差異

性を持ちながら、空間を構成する方がふさわしいのではないか

と考えました。この作品を想定した場所は御用邸の中でも開け

た場所で、群としての力が必要な場所なのではないかと思いま

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

した。また三体を一つの「舞台」と考え、曲面の中心から外に

向かって (古代の円形劇場とは視線の向きが反転している)つ

まり海に向かって視線が向くように考えられている。

この作品単体 としては曲面が地面か ら飛び出してきた所 に

VOID(虚 )を作 りだし、その中で人が戯れることが出来るよ

うに考えられている。

Attas― Connection/マ「

-02.7

場所が持つ地形の起伏を視覚化する曲面を共有する、群造形

三体のうちの一つで、単体として成立し、かつ群としても空間

の統一感を現象させること目的に構想 した。御用邸の広大な敷

地には単体だけで完結させるよりも、作品各々が類似性と差異

性を持ちながら、空間を構成する方がふさわしいのではないか

と考えました。この作品を想定した場所は御用邸の中でも開け

た場所で、群としての力が必要な場所なのではないかと思いま

した。また三体を一つの「舞台」と考え、曲面の中心から外に

向かって (古代の円形劇場とは視線の向きが反転している)つ

伏の形態を利用しその垂直方向には海から吹く風と応答する力 |}

学的な曲面形態が用いられている。 ■

LAlias― Connection/ν「 -03.8

場所が持つ地形の起伏を視覚化する曲面を共有する、群造形

三体のうちの一つで、単体として成立し、かつ群としても空間

の統一感を現象させること目的に構想した。御用邸の広大な敷

地には単体だけで完結させるよりも、作品各々が類似性と差異

性を持ちながら、空間を構成する方がふさわしいのではないか

と考えました。この作品を想定した場所は御用邸の中でも開け

た場所で、群としての力が必要な場所なのではないかと思いま

した。また三体を一つの「舞台」と考え、曲面の中心から外に

向かって (古代の円形劇場とは視線の向きが反転している)つ

まり海に向かって視線が向くように考えられている。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

この作品単体 としては海上に浮かぶ船底が持つ曲面を用いて、

種類の異なる曲率で互いに支え合うようにしてある。共有する

曲面は外から二層目にある。三体の差異は共有曲面が空間の外、

内、中に用いられていること、メタファーとして砂浜、風、海

を作品に取 り込んでいるところである。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

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督|ま書量‡!量li:!::!::::i:'

一一一量

早稲 HIブご卜渡辺イ:史イリ「究室 1∫ ,9(ヽ 年 1虻 修 li論 文

03。 「the I―louse of Parliament」

(第 31回セントラル硝子国際建築設計競技「国会議事堂」[入選])

制作期間 :1996年 7月

審査員 :池田武邦 (建築家)

黒川紀章 (建築家)

小倉善明 (日 建設計 /建築家 )

相田武文 (芝浦工大教授 /建築家)

石井和紘 (建築家)

山本理顕 (建築家)

井口知之 (セ ントラル硝子常務取締役 )

共同製作者 :後藤武、西岡隆司 (以上東京大学 )

掲載誌 :新建築 199611

■ 「建築年鑑」199701

lVaiting for Godotin Saraevo

1993年 アメリカの女性批評家スーザン・ ソンタグ Stlsan

Solltagは、戦渦のさなかの Sara■‐ievoでサミュエル・ベケッ

トSanlllel Bcckettの戯曲『ゴドーを待ちながら』を上演した。

ソンタグは上演に際し、三つの異なる民族的出自を持つ役者を

採用した。彼らは、いっこうに現れ来ない調停者[Mediator]た

るゴドーを、おそらく今でも待ち続けている。ここに、分断の

危 機 を は ら む 「 ボ ス ニ ア =ヘ ル ツ ェ ゴ ビ ナ 」

Bosl〕ia=Herzegovinaの 国会を重ね合わせてみよう。

ありうべき国会とは、固有の出自を持った異質な者同志が、安

易にその差異を解消させることなく、しかも同一の場を共有す

ることだ。その困難さが、国家的係争の原因となっているのだ

が、実のところそれはきわめてperformativeな空間ではない

か。国会という場が一種のコミュニケーションの舞台だとすれ

ば、建築の役割とは、コミュニケーションのコレオグラファー

になることだ。つまリコミュニケーションをプログラム化する

こと。空間を規定し、出来事を組織し、コミュニケーションの

発生を促すことである。そのための空間構成。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

Ⅳ〔ethod of Progranlllling Comnlunications

l.多元主義の都市「SaraievO」 に、三つの民族を代理=表象す

る三集団と「調停者[Mediator]」 との四者からなる「舞台」と

しての国会議事堂を計画する。

2.三つの民族を代理 =表象する三つのグループをそれぞれ

「e」 、「i」 、「s」 と名づけ、「調停者[Mediator]」 を「M」 と名づ

ける。

3.e,1,s,Mと いう基本単位をアナグラムの手法で組み合わせる。

それぞれの占有する空間に散布する。空間の「配列」が、コミュ

ニケーションのあり方を左右する。

4.既存の二つの空間モデルを抽出し、この二つの空間モデルの

あいだにありうべき国会の空間モデリレを構築する。

形呻兆

御ヾ

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

04。 「Ml Protome―house」

敷地 :滋賀県長浜市

設計期間 :1995年 10月 ~

施工期間 :未定

プロジェク ト名 :M邸 二Wrapping Womb/02

建築用途 :個人住宅 (二世帯住宅)

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

05。 「カメラオブスキュラ/仮囲い」

設計期間 :1996年 5月 ~

「PEEP HOLE」

Choreography of Enclosure in urban city(都 市囲いのコレ

オグラフィー)

都市のありふれた風景のひとつとして建設工事中の現場を覆う

「仮囲い」がある。

それに「HOLE」 を穿ち、都市装置として変換する。

その「形式」は「覗き」たいという欲望行為と「隠す」という

相反する行為の二重性として現象する。

そのような「仮囲い」を都市中に散蒔き、張 り巡らすのだ。す

ると

囲いの中を覗くと思っていた行為が逆に囲いの中から「外部」

を覗いていたというパラドックスを持っている。

それらを覗く人々の振る舞いを振 り付ける振 り付け師なのだ。

アクティビティをデザインするということはそういうこと。

「仮設の風景 =都市現象」はスタティックな建築より僕らの実

感 に近 い。 arnbientな 。 ・ ・

願わくば「仮囲い」が都市のコレオグラフィーのための装置で

あることを。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

06。 「Dr市 e―in Ganery」

敷地 :滋賀県長浜市

設計期間 :1996年 1月 ~

施工期間 :未定

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

■めてか許さ■島なら

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」進歩村

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」』す一一一,一一一・一・・一 

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甲稲 ||1大 学渡辺仁史研究室 199(,年 1覚修 l fli命 文

イ■●‐■'

長濤市東上坂工業団地記念モニュメントのコンヽ結果発表

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07.「C)rientation Box/002.6」

(東上坂工業団地記念モニュメントat滋賀県長浜市東上坂町)

設計期間 :1996年 10/24~ 1997年 1月

施工期間 :1997年 2/5~ 3月

展示期間 :1997年 4/1~

審査員 :高田昇 (都市計画家 /立命館大学教授 )

竹山聖 (建築家 /京都大学助教授 )

長谷川弘直 (ラ ンドスケープアーキテク ト)

岩井珠恵 (大阪市立大学非常勤講師 /

都市デザイナー)

沖野年昭 (長浜市役所助役 )

施主 :長浜市土地開発公社 (大塚忠夫)

協力 :長浜市経済部商工観光課 (中川勇)

構造設計 :TIS&R事ごNERS(今川憲英、村野清文 )

照明協力 :松下電工株式会社東京 EC(中矢清司、木村靖 )

共同製作者 :山本幹子 (東京芸術大学 )

ヤマキエ業株式会社

たちばな建設株式会社

掲載誌 :新建築 199612「News Report」

建築文化 199701

」T/住宅特集 199701

CC/COMPE&CONTEST 199701 No.50

CttiERY・ N&へ 発行

Vingtaine/ヴ ァンテーヌ 199702「今月のもぎたて」

婦人画報社

G2へ J2生P20(25 「Pick LIp Today」

(実施設計進行中)

長浜市東上坂工業団地

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

Onellt【 ラテン語 「登る太陽 (の方向)」 の意から】:

名 :

1東洋、アジア ;(特に)極東。

2[the~ J(詩)東、東天。

3(真珠の)光沢。

形 :1[○~](詩)東洋 (諸国)の

2(占)<太 陽など>上 る、出る。

3<真珠など>光沢の美しい。

他動 :1<建物などを>東向きにする。<教会を>束向きに建

てる (聖壇が東、入 IJが西)。

2<建物などの>向きを (特定の方位に)合わせる。<地図を

>実際の方位に合わせて置く。;<計測器などを>正 しい位置

に置く。

3<~ を>[新 環境 な どに ]適 応 させ る、方 向付 ける

[to,to、var(1]。

orientation【 oriellt,()rielltatcの 名pril形】:

名 :

1(新しい環境 。考え方などに対する)適応、順応。 (新入生、

新入社員などに対する)方向付け、オリエンテーション。

2態度 (の 決定)[toward]。 志向。

3方位 (を合わせること)。 (教会堂を)東向きに建てること《聖

壇を東、人口を西》。

4(心理)見当識 《自己と時間的 。空間的 。対人的な関係の認

識》。

5(動 )(ハ トなどの)帰巣本能。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

審査報 (lF:

F`ヵ兌8乙1110り J281J

「長浜束 L坂 11業 IJl地 J

I記 念モニュメント企画提案作成コンペ審査報 (lF

「長浜市東上坂 11准団地JI記念モニュメント審査委員会

1高 ll l 昇 立命館大学教授

竹山 型

長谷川弘 |ド 1

ガ1井 珠恵

沖野 年日′イ

(長浜 1打田J並みデザイン委員会委員)

京都大学助教授 (同上)

llkl都 ||「 環境計画研究所代表 (同 11)

大阪 ||「 立大学り|:常勤講師 (風格あるまちづ

くり長浜市民会議風格賞審査委員 )

長浜市助役

 

 

 

標記のコンペ審査にあた り、公 JI:か つ慎重に審査しました結果、

ド記の通 り採用作 ll11を 選出 しましたので報告 します。

応募及び審査の概要

74点 の作品が提 JI期限までに寄せられ、審査委員会において

応募作品の中から応募要項の中から応募要項に合致し、1段 も優

れた作 li占 でかつ記念モニュメントとして設 [′iす るにふさわしい

と判断できるものが選出された。

2.審査の方法

応募疎 のすべてを対象に、作者名を伏せた状態で、作品番.ニュL

}す (順不 |,])を もとに審査委員が審査にあたった。作 Iキ 11に つい

てはまず全体を委ltの 全員が達得lし たところ、作古llの JI来映え

にレベル差がかなり明確に認められることから、第 一段階で各

委員が推薦できる作品を抽JIす る方法をとったところ1(3点 が候

補として残された。

それら13作 占||の すべてについて、審査委員による合キFを 行い

ながら順位付けを進める方法で採月l作 |キ11を絞 り込む方法とった。

|IL稲||1大 学渡辺仁史研究室 1996年度修 lf論文

3.審査の結果

審査にあたっては、デザインの完成度や表現力において一定

の水準に達していることを前提とし、主に次のような視点で作

品の評価を行った。

(1)テーマ、制作意図が明確であること

(2)独創性があって、新しい息吹を感 じること

(3)長浜、湖北の発展への勢い、可能性をはらんでおり、街角

の風景としてアピール しうるもの

審査を通じて、すく゛れた作品群は、従来各地で作 られてきたモ

ニュメントのもつ一般的イメージと共通する類のものと、これ

までにはない新しいイメージを打ち出しているものとに大別さ

れた。前者は無難でわかりやすいという利点はあるが一方で、

大きなインパク トを与え得ないとの危惧がある。長浜市がこれ

まで進めてきたまちづくりが全国的にも注目される先端を行く

ものであることを考え、また見る人に新鮮さをもって受けとめ

られ、空間に新しい力を与えうるという利点を考えて、審査委

員会は後者を選ぶことにした。

そのような検討経過を経て、数点の作品が最終選考に残さ

れ、十分に議論がつくされた上、出席委員の全員一致で作品番

号25(馬渕富夫・山本幹子両氏による共同作品)を採用するこ

とと決定した。

採用作品は、よそには見 られない独自性と若い息吹を強く感

じさせるもので、モニュメントとして全く新しい形態である。

その作品を通じて、工業と人間の共生、そして人間との共生と

いう21世紀に通じるテーマをとりあげ、ヒューマンなスケー

ルと人が参加できる空間構成、太陽の光、夜の光、といった要

素を取 り入れてユニークで芸術性の高い空間の倉J造にチャレン

ジし、成功している。

なお実施にあたっては、技術面や管理面を配慮する上での専

門的な協議が望まれる。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

今後デッサン (企画提案)段階のこの作品が、よりよいプロ

セスを経て実施設計、事業化がはかられることによって、モ

ニュメン ト設置が、その場所に新しい意味を持つことにつなが

るものと大いに期待されるところである。

以 上

「滋賀夕刊」199611/8(水 )

馬渕・山本さんの企画に

東上坂工業団地モニュメント

長浜市が募集していた東 L坂工業団地記念モニュメントの企

画でこのほど審査会が開かれ、応募 54件 (個人 31、 企業 2

3)の 中から長浜市一の宮町の早稲田大学大学院生・馬漱1富夫

さん (25)と、横浜市青葉区の東京芸術大学大学院生・山本幹

子さん (25)の 共同企画が採用された。

モニュメン トは長浜市東上坂町の国道365号線沿いに今秋完

成した工業団地の東側入口に設置するもので、コンペ方式で企

画を募集 していた。

作品は 「Orier〕 tatior〕 Box/002.6」 と題された 2.51n四方

の箱形。厚さ1セ ンチの鉄板で造形し、南北方向に切断した形。

太陽光がスリット (隙間)に入 り、夜間はスリットが浮かび上

がるように照明する。鉄製のため錆びるが、これも作品の狙い

の一つという。

馬渕さんは 「Japan 2牡t Festival in沼 津」で昨年、今年と

2年連続金賞に輝 く新進気鋭の造形作家。山本さんも同フェス

ティバルで活躍 している。

作品は細部の設計を詰め、来年完成を目指す。制作費 1000

万以内。

「近江毎夕新聞」199611/8(水 )

採用作品決まる

東上坂工業団地記念モニュメント

長浜市が東上坂工業団地内の公園内に設置を予定している記

念モニュメントの審査がこのほど行われ、応募者 54人、74作

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

品の中から一の宮町、馬渕富夫さん (25)と横浜市、山本幹子

さん (25)の共同作品「Orientation Box/002.6」 が選ばれ

た。審査は市関係者や大学教授など5人で組織する審査委員会

テーマや制作意図が明確

独創性がある

街角の風景としてアピールする

などの視点から各作品を評価 し、採用作品を決定した。

制作意図について「工業団地とは場所と人間が共生し合う場

であり、従ってモニュメントも唯のシンボル性の強い見るため

だけのものより身体のスケールを基にした体験できる空間造形

であるべきであると思う」と話している。

今後は両氏も協議の和に加わり詳細を検討していく予定で、

来年 3月 に完成。

作品名 「Orientation Box/002.6」

(「 Orienta疸 on Box」 とはその場所からの方位を指し示してい

る[Orientation]「 空間 (BOX)Jであると同時に作品の内部か

ら発 信 され る光 に よ って この場 所 の現 象 を指 し示す

[Orientation]ための「空間 (BOX)」 であるという意味である。

「002.6」 はパラメーター (変数)によって連続的に形態が生成

される状態の値を示すものであり、連続的変形におけるこの作

品の形態の状態を数理的に指 し示しているといえる。)

テーマ :ゲニウスロキと身体の知覚

制作意図 :

「工業団地」とは場所と人間が共生し合う場であり、従ってモ

ニュメントも唯のシンボル性の強い見るためだけのものより身

体のスケールを基にした体験できる空間造形であるべきである

と考えられる。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

○形態は3m立方の形態を変形することによって生成される形

態で、地面と共に切り刻まれた切断面が南北の方位と平行に貫

入している。

○人はその切断面からアプローチし、地盤面よりlm下がった

視点で BOXの 中心に到達する。

○昼間は内部に太陽の運行状態が日光のスリットとして入 り込

み、夜間は内部の照明 (照明はその場所を通過する交通の光量

に反応 して光る)により、スリットの形態だけが外部に浮き上

がる。

○方位を表わすスリットの他に変形回転によって作り出された

スリット、空隙はその場所から周辺の場所を観測するためのス

コープとなり、場所の目印となると共に場所を発見する展望台

として機能する。

静的な形態が変形、切断によって新たな形態に変形 していく途

中の連続体モデルの形態が現在、そして未来への可能性を表わ

していると考えられる。

さらに場所との一体化した空間を形成したいと考え、可能であ

れば周辺部分との設置部分を連続 した形態のものとしたい。

「Vingtaine/ヴ ァンテーヌ」2月 号

滋賀県の長浜市に新しく出来る工業団地の公園にモニュメン

トを作ることになってコンペが行われた。設計案を募って優劣

を競う、設計競技のことだ。建築の世界では神聖かつ熱狂的な

お祭りとしてコンペはある。そのコンペの審査員の 1人 として

招かれて審査に参加した。

とはいえ、コンペといってもモニュメントのコンペ、建築の

コンペとはちと様子が違うのに気づいた。建築の世界だとその

建物が果たすべき機能がある。どんなふうに生活や行為に対応

しているかがまず問題になる。こういったことについてはある

程度客観的な議論が可能だ。つまりうまく機能することを暗黙

の了解事項としている。その上で、建築に込められた夢やら表

現やらが問われていくわけだ。客観に支えられた主観が審査の

土俵に乗ってくるのである。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

ところがモニュメントのコンペだと、いきなり表現というこ

とになる。下手をすると、おもしろいつまらない、好き嫌いの

直観しか、デシジョンの根拠がなくなってしまう。ま、それは

それでとても重要な観点で、だからこそ審査員が十分に時代の

風を呼吸しうる感性を持っているかが問われてくるんだけどね。

でもいきなり表現なのである。機能なしで。これは議論が難し

い。

都市計画、ランドスケープ、アー ト、行政、さまざまなジャ

ンルからの審査員は、それぞれの観点からの意見をさんざんに

戦わせたあげくに、結局全会一致で一つの案を選び出した。僕

も含めて、これこそがかつてなく、また未来を開く案でもある、

と審査員一同、意見の一致を見た。

1等に選ばれたのは25歳の建築を学ぶ早稲田と東京芸大の大

学院生、馬法1富夫君と山本幹子さんのチーム。並みいる彫刻家

やモニュメン トの専門家を押しのけての勝利である。建築の

バックグラウンドを持つだけに、応募作中ほとんど唯一「空間」

を胚胎する案であった。新鮮かつ思い切 りのよいプロジェクト。

若さの勝利だ。

ただ若さというのは時に、いや社会にとって実にしばしばネ

ガティブなファクターとなる。今回も 1等が決まって、最も危

惧されたのは若さ、つまり経験のなさであった。でも経験は安

心を生むけれど、新しいテクノロジーとライフスタイルの融合

をめざす今回のコンペのね らいにぴった りの案は若さがその底

にほとばしる彼らだからこそ生み出せた。

僕自身、どこに勤めたこともなく、実務経験もナシにいきな

り建築の設計をはじめてものが建って しまったものだから、何

事もなせばなる、初めてが許されないな ら人類に進歩はない、

と信じていて、若い彼らの処女作には大いにエールを送りたい

と思っている。長浜市をはじめ関係者一同も同じ気持ちだろう。

来春には完成の予定だ。長浜にこんなシンデレラス トーリー

のモニュメントがあることを、そして若い建築家の卵たちの未

来を、心のどこかにそっととどめておいてくれるととてもうれ

竹山聖 (建築家・京都大学助教

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しい。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

GA JAPぶ 25「pick up tOday」 /モニター上と現実のギャップ

■竹のインスタレーション

藤村 ぼくたちは、建築家の吉松秀樹さん、山家京子さんが一昨

年から主宰している研究会 (A■AB。 )の研究生です。馬渕くん

が去年、早稲田大学の有志と共にこのイベントに参加していたの

で、彼からこのプロジェク トが舞い込んできました。

馬渕 「ツPAN Nご FESTⅣ zttL IN沼津」というイベン トは、四

年前、磯崎新さん、安藤忠雄さん、菊竹清訓さんが茶室を設計さ

れた「現代建築家茶室展」の敷地 (沼津の御用邸記念公園)で、そ

のイベン トを継承するかたちで三年前に始まりました。一昨年か

ら公募作品を集めた「竹のインスタレーション・アー ト展」も同

時開催されたのです。昨年は A一LAB.のメンバーとして応募 し、

作品も、設計者も制作も首都圏の学生三〇人近くにまたがる複数

の形で始まりました。

三好 全体のコンセプ トとして、見えない漠然とした円形の空間

を想定しています。それを繋げるように三つのインスタレーショ

ンを配置しています。今回のインスタレーションは、まず初めに

与条件として竹が三〇本与えられました。その中で何を表現する

かを問われたわけです。竹という単一の部材で何が表現できるか。

ぼくたちはとりあえず建築を志している人間の集まりなので、や

はり空間志向でいこうと全員で合意したわけです。

藤村 四人がそれぞれのコンピュータの前に散らばる前に、この

コンセプ トが根底にありました。そこか ら一つ一つのインスタ

レーションつくりが始まったわけです。個人の自由な表現と、適

度な協調性を保つために、一つのコンピュータにそれぞれのデー

タを集めて総合的な検討も度々行っていました。

山本 一つのインスタレーションに必ず二人が関わるようにして、

相互作用 しながら全体を決めていったわけです。

三好 共同で作業を進めていく場合に何らかの方法を決めた上で

作業を進めていくわけですが、今回は二つの方法を元に作業を進

めました。一つは全体から部分へ展開していく方法。もう一つは

部分からの方法です。今回は最初に全体を決定すること

「長浜市東上坂工業団地」E倉モニュメン嗜ヨ爾自察作理コンペ

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

から始めました。周辺の松林や海といった自然の要素に対して

最もプライマリーな形態として漠然とした円形の空間を規定し

ました。

馬渕 応募規定が単体の作品を求めていたので、それぞれ単独

の作品として提出しています。しかし提出図面に必ず一枚、共

通のコンセプ ト図を貼つていたので、一つの案だけ落とすわけ

にはいかない状況にしたわけです。

藤村 実際に敷地を見ての第一印象は、スケール感のギャップ

です。ビデオや写真で見ていた感覚と全然違う。外側に囲まれ

るエレメン トが、CAD上 の中では削られるから、そういう印

象を受けたのかもしれません。さらに、実際に竹で構成すると

きの施工上のギャップも強く感じました。最終的には現場での

各自のフィー リングで見かけの形状を大胆に変更しないと成立

しないわけです。

三好 実際に竹をいじる感覚は、コンピュータ画面のクリック

操作とは当然違うものです。そのギャップが逆に面白い。結果

として、竹の素材感が作品全体を支配することになったのです。

馬渕 竹というのは素材 自体がダイナミックなテンションを

持っています。CAD上 の仮想空間で形を決定する時は、そも

そも重力を想定 していないので、力学とは無関係の変形をしま

す。弾力、圧縮変形に伴う形状の規定に弱い。

山本 CAD上 ではカーブを八分割した直線の集合体としては

認識しますが、一定の長さの一つ線分とは認識 しません。です

から、コンピュータである一部を動かすと全体に影響が出てし

まう。

藤村 しかし、実際に竹に触ると思いがけず柔 らかい。敷地を

実際に見に行ってから、竹ひごなど竹の素材感が判 りそうな材

料を用いた模型によるスタディの回数が増えてきたと思います。

馬渕 現地での竹の設置は、竹を支える人、竹を結ぶ人、遠く

から全体を見ている人、という完全な分担制でした。つまり、モ

ニター状のViewの数だけの視点のチェックが現場で必要にな

る。

三好 丸竹は地面に打ち込んだ鉄パイプに竹をかぶせる。割竹

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早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

の部分は、地面を這っている竹の横材に針金で結びつける。

藤村 CAD上 の造形システムを何 となく覚えているから、実

際の施工作業の要領がそれに呼応 した形で進められます。CA

D上での作業過程を自分たちの身体 を使って、もう一度反復す

る。

馬渕 実際に出来上がった三つのインスタレーションは、面的

なイメージも強いですね。

藤村 ぼくたちは、最初に面的な立体を想定することからス

ター トしました。初期のコンピュータ上のモデルは、細い線の

集合で構成されたモノではなく、面モデルをいじったものでし

た。

三好 その過程でも、扱 う素材の持っている「八割 りした竹」と

いう意識は常に持つように心がけていました。

藤村 コンピュータ上に竹で立体的に表現する。それを複数の

線分で表現するとメモリをすごく食います。しかし、面で表現

すると何十分の一の単位で使用メモ リを減らすことができると

いう実作業の問題もありました。

山本 曲面に関してはCADを 使った空間操作と、実際につ

くっているときの素材感に対する意識が加わってより有機的な

味が出てきたと思います。

馬渕 コンピュータを使っていなが ら一方で、いかに「いかに

もコンピュータチック」なデザインか ら逃走するかということ

も同時に考え続けています。

藤村 そういった制御不可能な部分でも、実際に身体を使って

作業をすれば、すてきな形が生まれるということを実感しまし

た。

三好 単純な反復作業にも拘わらず微妙な差異が生み出される。

それが非常に面白かったです。それが竹という素材で空間をつ

くった際に強く印象に残ったことです。

馬渕 強引にこちらで強制 して形を出すこともしませんでした。

手懐けるという感じ。だから、建築の「重量」が、全部施工時

に「身体」に返ってくるのです。

■峰

≦ 曜

:金脅|に て

:諄警 ‐なれ

なら

暫了丁力嘉翻聾 卜想

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

■コンピュータ 。エイジ

馬渕 CADが ネガティブな流れで話が進んでいますが、実際

はどうだったのかな。ぼくたちはモデリング・ツールとして主

に使っているわけだけど。

山本 素材の特性を表現できるCADを つくりたいと思っても、

今の状態では、エンジニアの細分化が進みすぎていて、今から

建築家側が追いつくことはできない状態というジレンマがあり

ますね。

藤村 CADっ てもともとコンピュータが設計を支援するとい

う考え方ですよね。非常にフォーマット化されてしまっている。

それに縛られているかも知れない。

山本 でも、コンピュータは一つのディバイスに一つの機能と

固定せずに、一つのディバイスにたくさんの機能を持たせるこ

とが可能なはずですよね。

藤村 使う側の使い方によって機能を変換していく。通信の場

合はそれが広範に渡 りますが、CADの 場合はまだその域まで

達していないのが現状です。

山本 一つのディバイスが限られた一つの機能しか持っていな

い。

藤村 その一つの機能が増幅され過ぎて、全体像が良く判 らな

くなっているのかもしれない。

山本 コンピュータの性能は、一般人でも金銭的に解決できる

状態に現在はなりました。周りを見ても学生の所有率がここ数

年で急激に伸びたのが良くわかります。

藤村 建築のためにコンピュータを導入したという経緯と、生

活の中にコンピュータが既にあった状態では大分違います。ば

くらの世代は後者です。小手先の設計手法の中に

取 り入れたのでは、面白い結果を生まないし、根本的な部分を

変えていくことはできないと思います。現状のCADの 弊害は、

その部分で出てくるかもしれないですね。

馬渕 ぼくはもうほとんどギャップを感じなくなっている。あ

まりにも自然になり過ぎて、過去の状態を気にしなくな りまし

た。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

三好 平面を重ねるという感覚はほとんど無いですね。最初か

ら立体をつくる。模型を作っている感覚に近い。

藤村 そうなるとどこまで図面が必要なのか判らなくなります

ね。パーツの組み合わせを指示して、且つ、つくり易ければ、そ

れがベス トだという考え方のほうが良いかもしれない。なぜ図

面を書くのか、なぜ模型をつくるかを、もう一度考える必要が

ありますね。

山本 でも、データだけだと相手とその空間を共有することは

難しい。アニメーションで動かしても全体の構造は判 らない。

例えば、大きな壁全面のスクリーンを使えば映像から距離感な

どがつかめて、空間を共有できるかもしれない。そのようにイ

ンターフェイスが少し変われば、理解度は深まると思います。

藤村 今までは、建築を理解するときに、XYZと いう軸で

切って、そのレイヤーで共通認識として理解 していました。今

は、そういう方法もあるなという程度ですね。今後、相手に私

たちの意志を伝える方法は考えなければいけない。

山本 今は、どうやって結果が出たかという、CAD上 の手法・

操作を伝えると理解する。

藤村 昔の大工が弟子に伝えたような、秘伝書的な部分は多々

ありますね。

■着工直前の記念モニュメント

馬渕 このコンペはぼくと山本さんのユニットで参加しました。

滋賀県の長浜市の中に東上坂工業団地が新 しく造成されて、そ

このゲー ト部分の公園内に記念モニュメントをつくるという昨

年行われた企画提案のコンペです。そこでぼくたちの案が採用

されました。総工費は上限が一千万円までで、メンテナンスが

不要。そして施工までを作家が一括して背負う、そういう条件

でした。

山本 外から眺めるモニュメントというのが従来の形でしたが、

竹のインスタレーションと同じように中にはいって、そこから

外を眺める、そういう装置になれば良いと思いました。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

馬渕 そこで規定の三m平方を最大限使い、どういうデザィン

を施し、人間にどういう体験をさせるかの二点を、あるパラメー

ターに置き換えて変形させていくわけです。具体的には、昼間

は太陽の運行が連続したス リットによる影で表現される。

山本 また、厚さ一〇mmの コールテン鋼の板を、切断面で溶

接 して、面だけで構成する。つまり柱や梁から脱却する意図が

ありました。

馬渕 迂回しながら内部に連続した経路で内部を一体化 したも

のにしようと考えました。また、天空にあわせて、全体が三五

度傾いている。その他、いくつもやりたいことはあったのです

が、限られた、かなり厳 しい予算の中で優先順位が低いモノは

諦めざるを得なかったわけです。

山本 仲介する市役所と、クライアントである市の開発公社で、

この作品に対する解釈が分かれてしまうような曖味なモノでし

たから。

馬渕 建築作品として建築工事として捉えるか、いわゆる彫刻

品としてモノを買い上げる形で捉えるかで、工事に必要な書類

の数が全然違います。結局、建築工事として捉える部分が多く

なり、必要な書類が膨大に増えました。

山本 私たちの間ではCADデ ータのみで設計上のや り取 りを

していました。上モノの鉄の部分をつくってくれる鉄鋼業者さ

んは、すでにCADを 導入 しているので、スムーズに連絡でき

たのです。

馬渕 しかし、コンクリー ト基礎の部分は、地元の工務店さん

の仕事です。この部分でコンピュータ化されてないために……。

山本 私たちの作業量が増えるわけです。形が複雑なので、平

面・立面を細かく切って、何枚も図面を用意 しなければなりま

せん。

馬渕 ギリギリまでCADで 検討していたデータが、その段階

で一旦手書きに戻されてしまう。ほんの少し全体を傾けること

は、CADで はそれほど大きな問題ではないのですが、手書き

では、すべての座標を拾い出すのに時間が膨大に掛かるわけで

す。最終的に、施工者の方々に形態を把握 してもらうまでが大

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

変でした。

山本 予算は、今少しオーバーしている状況です。鉄の加工に

おいて、溶接の仕方が特殊なのが大きな要因です。

馬渕 この予算は普通の建築からすると遥かに小さい額です。

しかし、面のみで構成する片持ちの構造にこだわっていました。

この部分をケチると、コンセプトとのバランスがとれなくなる

と思ったのです。

山本 だから、裏でボル ト締めするなど、費用が嵩む小細工は

避けています。

馬渕 最初は一千万だと、モニュメン トだからかな りのモノが

できるのではないかと思っていたのです。しかし、いざ蓋をあ

けると項目がたくさん出てきて、その数字を見ると、すごい低

予算だと感 じます。

山本 クライアント側の前提は、既完のモニュメン トを持って

きて置くだけという考えなので、どうしてここまで面倒くさい

手続きをしなければいけないのかを、彼 らに分か りやすく、た

くさん説明しなければいけないわけです。

馬渕 しかし、見積では上モノはモニュメントとして認識され

つつも、「スロープ」を持った「台座」は建築だと認識したりし

て。こちらは余 り分類することは意識 していなくて、通路とし

ても機能できるというアフォーダンス的な考え方でいるわけで

す。

山本 私たちのは四角くて、お家っぼく見えるからかもしれま

せん。

馬渕 また、問題が起こる度に、呼び出されるので、交通費が

設計料以上に掛かっているかもしれません。今後建築をやるに

は一生つきまとう問題でしょうね。

山本 今までの大学教育と、今回のモニュメントの仕事では急

に会う人間が変わったと思います。クライアント、構造、基礎、

材料、加工と、会う人間が今までと全然違います。

馬渕 業者によっては、「本当は学生さんとはやりたくないんだ

けど」と、最初に釘を打たれる場合もありました。(笑)あ る意

味、お金で動く構造に対してそれに負けないだけのパワーと哲

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

学が必要だと痛感させられました。

山本 私たちの無知な部分が、すぐに露呈してしまうのです。

馬渕 だから今回は、構造設計のTISの 方々に間に入つても

らわないと、どうしようもなかった部分があります。私たちで

は、適正値の判断がつかないわけです。

山本 実際の施工が始まって、これでは納まらないという部分

が絶対出てくるでしょうね。

馬渕 現場監理は、可能なかぎり、現場を往復します。

山本 工期は約二ヶ月です。

馬渕 建築に関してまった く知らない人と、それとは対照的に

本当に細かい所まで知っている人と、今回はその両端の人たち

を繋がなければいけない。建築家の職能は本来はそうなのかも

しれませが、そこに初めてやるぼくたちが放 り込まれたので、

大変と言えば大変だったのかもしれません。

山本 初めは誰に何を聞けば良いのか本当に判りませんでした。

電話を前にしてどうしようと、そういう感 じが強かったと思い

ます。だから、審査員のバ ックアップと、それに伴う人脈がな

かったら、とてもできなかったと思います。

撮影 :坂下智広

(談 )

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

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一i」亀奪

|1稲 田大学渡辺仁史研究室 1996年度修Ilf論 文

08。 「⊇ ⊆ 」

(仏シラク大統領来日記念講演空間インスタレーション[未完プ

ロジェクト案])

設計期間 :1996年 10/

共同設計者 :山本幹子 (東京芸術大学)

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

09。 「⊆⊇」

OapanArt Festiva1 97 in沼 津 ;メ インステージ&イ ンスタレーション)(設計進行中)

設計期間 :1996年 10月 ~

施工期間 :1997年 9月

展示期間 :1997年 10/1~ 11/15

総合プロデュース :勅使河原宏 (映画監督 /草月流家元 )

舞台上演 :東儀秀樹 (宮内庁式部職楽部楽師)

野村万之丞 (和泉流狂言方)他

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

10.「Hikiyama一Museum」

設計期間:1996年 12月 ~

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

r.´

|IL稲 田大学渡辺仁史イリ1究室 1,,1り ('イ li度 修 |:論 文

11.香港日本庭園ランドスケープデザイン[未完プロジェクト案]

設計期間 :1996年 2月

共同設計者 :川 名哲紀 (イ ンスタレーション作家 )

川名哲紀 :1945年 東京生まれ。1987年 頃からインスタレー

ション作品をニューヨーク、東京、香港などで発表。1992年

勅使河原宏氏演出のオペラ「トゥーラン ドッ ト」演出助手。

1993年 国際交流基金よリミャンマー・ マ レーシアに派遣され

る。1994年 2月 リレハンメリレ冬季オリンピック閉会式にて次

期開催地である長野市のデモンストレーションの演出を手がけ

る。1995年イタリアで世界中から10人選ばれるランドアー

ティス トの 1人に選出される。1997年イタリア「ARF SELLA」

にて作品を発表。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

12.企画展・空間構成・草月ギャラリー

展示期間 :1996年 2月

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

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一三十,一一一〓一一一一一一一一一一早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

13JR米原駅改装プロジェク ト

米原駅再生Proposa1 2/15二 Wrapping Womb/06

琵琶湖を意識させること

■視点 :

○付近住民 (駅の横断時・駅付近)

○山の上

○駅のプラットフォーム

旅客

通過・停車・乗換 0乗降

通過・駅舎の形態 停車 0駅舎の形態、プラットフォーム 乗

換・プラットフォーム、機能 乗降・機能

通勤・通学

■東西分断

■鉄道進行垂直方向の流れ (形態・人間流動)を重ね合わせる

こと

人と鉄道の流れを重ね合わせること

住民と旅客

駅と付近

駅と風景 (第二の地形として)

■利用形態

○改札の存在

○駅と駅前地区との分断

○乗換駅

待ち時間の長さ

駅内部に滞在

速度・停止・速度

比較 ;空港・ トランジット

「テーマパーク」と読み換えることもできるあるいはその新た

な機能がさらに別の関係をつくりだすという意味では「ファク

トリー」と言い換えられるかもしれない

「旅行」という「シナリオ[文脈 ]」 、「日常」という「シナリオ[文

してのステー

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

にス トーリーを書き加えるための「

シ ョン

ステーションギャラリー

米原駅を利用する人の立場あるいは「視点」は以下のように分

類されると考えられる

○付近の住民

駅の横断時の視点

駅前からの視点

付近の山の上からの視点

○旅行客・通勤者・通学者

駅のプラットフォームからの視点

さらに旅客には米原駅に関わるケースとしてさらに通過・停

車・乗換・乗降の4つに分けられると考えられる

通過・駅舎の形態

停車・駅舎の形態、プラットフォーム

乗換・プラットフォーム、機能

乗降・機能

米原駅の現状としては、

○地域の東西分断、

○駅の機能と付近との関係の不在、

○旅行客にとって乗換駅としての機能が強いためにプラット

フォームにある程度の時間滞在したあとに次の電車に乗って

去っていくといった現象があり、そのような人々が地域に取り

込むことができていない、

○乗換の時間が長いにも関わらず、その時間を過ごすための施

設の不在、

といった問題点がある。

そのような現状に対して

●今まで関係性を持たなかった各々の「流れ」を重ね合わせる

こと

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

具体的には

Station Area(ステーション・エリア)

■℃melhrk Area(テーマパータ・エリア)

Pronlenade Area(プ ロムナード・エリア)

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

早稲目1大学渡辺仁史研究室 1996年 度修士論文

15。 「Urban Acupuncture」

都市の「EDGE(あ るいは政治的構造の歴史 )」 を視覚化する

→ 「Kい きヾヽ GAW勺 の通遇に意味を付加する。

「Invisible Edge」 都市の見えぎるエッジ 知覚によって経絡す

る空間

エッジの集合体が自らの知覚に経絡する

Pllasel l時間「距離 (あ るいは歴史的経緯 )」 を隔てて現象す

る 「AcupunctureJ(歴 史的事実の形態化)Affordance

Phase2:通常時「地」として現象している 「空間」が非常時

「図」として現象する「Acupuncture」 (Lfe一五neの形態化)

Phase3:様々な交通「経路」が誘導する「Acupuncture」 (都

市 「速度」集積の形態化)Affordance

Phase4:向 こう岸に応答する「Acupllncture」 (空間配列変換

の形態化 )

Pllase5:「建築」と「土木 (ラ ンドスケープ)」 が経絡 (応答)

する

Phase6:

Phasel、 Phase2:「 時間」配列の変換によって「EDGE」 を生

成させ、「時の間」を「経絡」する

Phase3、 Phase4:「 空間」配列の変換によって「EDGE」 を生

成させ、「空の間」を「経絡」する

[○江戸のネットワークとして結ばれた一方で 「本郷台」の地

形を不連続にしているという「paradcx」

○「水害」を防く`ために形成 した「空間」が災害時「水」を供

給するという「paradc刈

の Representation] Phasel+Phase2+Phase3+Pllase4

我々は都市空間を彿往する時において、ある空間からさらに別

の空間に移動する際に「NⅣigation」 を行っている (時 に見知

らぬ空間を探索し、時に環境に誘導される)。 そしてそのNa■71-

障害者を問わず、都市の「EDGE」

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年 度修士論文

を探し知覚して、その環境情報をもとに目的地へ「経絡」して

いる。ここでは歴史的「paradox」 を持つ「KANTDA―GAWAl

に「EDGE」 としての空間 (巨大な水道管としての貯水施設と

水害博物館)を INSTALLす ることにより「時間」「空間」を

Navigateし 「経絡」する「SYSTEM」 を都市に生成させる。

敷地として選ばれたのはお茶の水の台地の削り取られた

エッジであった。そこに失われた地形の連続性、横断交通

を回復させること、そして台地を分断している神田川が

本来水供給のためにできたにもかかわらず、水害で逆に

物を飲み込んでいってしまうというparadoxに 対して水害

博物館と災害時に水供給等の拠点となる施設の複合機能が

プログラムされた。また一般に都市景観においては鉛直

上向き方向に視線がのびていくが、この計画においては

下向きに視線を誘導するように意図された。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

14.ホテルニューオータニ・メインロビーインスタレーション

設計期間 :1996年 12月

制作期間 :19964手 12/30

展示期間 :1996年 12/30~ 1997年 1/15

共同制作者 :高橋耕平、梅田太一、中村君

(以上東京芸術大学 1年 )

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

15.DESK TOP COMMUNHY

現在、私たちは都市居住を考えるうえにおいて重大な転換期を

迎えている。環境に対する概念が、コンピューターネットワー

クに代表される新しいコミュニケーション・ツールの普及によ

り、着実に変化 し始めているからである。 この新 しい情報メ

ディアの到来は、ただ単に情報の選択肢が増えただけにとどま

らない。それはグーテンベルグの印刷革命によって世界中の言

語文化が定着したのと同様に、環境や生活の概念の歴史的な転

換期であるとも考えらるだろう。本研究は、これらの新しいイ

ンタラクティブなコミュニケーション・ツールの出現によって

どのように私たちの環境や空間に関する概念や感覚が変化 して

いるのか、また今後どのように進化 していくのかを探 り、その

変化が都市や居住に対する意識をどのように変えていくのかを

考えるものである。

都市や建築を考える際、その形態や空間構成を分析しそれらを

再構成するシステムを提議することが一般的な手法となってい

るが、その前提となる感覚が揺らぎ始めている現在、形態や構

成を論議する以前の問題を整理し考察することは都市の未来を

構想するうえににおいて避けることができない作業である。そ

してそれは、「集合住宅Jのみならず「都市」という言葉そのも

のを考え直す作業でもある。私たちは 「建築」や 「都市Jを考

える際に、あまりにそれ らの定義を疑わなさすぎた。あるいは

疑う必要性を帯びていなかった。人間の生活から建築や都市が

生まれるという原点に立ち戻って、そのヴィジョンを指し示す

ことから、新 しい都市居住像はみえてくるのではないだろうか。

物理的な接触を基本とするコミュニケーションと電子的なコ

ミュニケーションは、対峙するするものではなく、これからの

生活の中で共存していくだろうと推測される。むしろ非接触的

なコミュニケーション・ツールが普及することによって、接触

型のコミュニケーションやよリヒューマニスティックな空間や

環境に対する志向は増大すると考えられるだろう。しかし、人

間工学的な側面で規定さす■る快通性のみならず、仮想的な快適

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文

性が認知された近未来社会における理想的な空間は、一見同様

の構造を持っているように見えながらも、生活意識では異なる

空間イメージを形成していると考えられる。この日に見えにく

い違いを可視化ないしは記述することによって、物理的な空間

構造がどのようにゆがんでいくのかを考えていかねばならない。

それらを推し量る基準として「デスクトップ。コミュニティ」と

いう概念を導入したい。この概念は非接触型のコミュニケー

ションによってつくられる人間関係をコミュニティと名付ける

ことによって、従来のコミュニティとの違いを浮かび 卜がらせ

ようとするものである。

このあくまで仮想的なコミュニティ像を定義し、その概念につ

いて考察する。またそのイメージを様々な切断モデルとして可

視化することによって、近未来社会の居住空間のありかたを考

えるプロセスを提案することが本研究の目的である。

早稲田大学渡辺仁史研究室 1996年度修士論文