fusarium oxysporumのリアルタイムpcrによる検出measurement of fusarium oxysporum by...

4
Fusarium oxysporumのリアルタイムPCRによる検出 誌名 誌名 日本土壌肥料學雜誌 = Journal of the science of soil and manure, Japan ISSN ISSN 00290610 巻/号 巻/号 844 掲載ページ 掲載ページ p. 299-301 発行年月 発行年月 2013年8月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

Upload: others

Post on 30-Aug-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: Fusarium oxysporumのリアルタイムPCRによる検出Measurement of Fusarium oxysporum by real-time PCR method 中央農業総合研究センター (305-8666 つくば市観音台

Fusarium oxysporumのリアルタイムPCRによる検出

誌名誌名 日本土壌肥料學雜誌 = Journal of the science of soil and manure, Japan

ISSNISSN 00290610

巻/号巻/号 844

掲載ページ掲載ページ p. 299-301

発行年月発行年月 2013年8月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

Page 2: Fusarium oxysporumのリアルタイムPCRによる検出Measurement of Fusarium oxysporum by real-time PCR method 中央農業総合研究センター (305-8666 つくば市観音台

ノート

械川町よ

f

内jJ

、MM唱

Rqc

αPA

mム

・仰イ

川町夕

au

,ノ

Fア

叶けノ

浦嶋泰文・唐津敏彦・長岡一成・橋本知義

キーワード Fusαrium oxysporum, リアルタイム PCR,

インターカレーション法,希釈平板法

1 .はじめに

Fusarium oxysporumは土壌中などに普遍的に生息し

ており,植物病原菌として重要な糸状菌である.土壌中の

Fusarium oxysρorumの菌密度の検出に関しては駒田培

地(駒田, 1976)や西村培地(西村, 2008)などの選択培

地が活用されている.これらの選択培地の使用は低コスト

でとても優れた方法であるが培養時間と手聞がかかるこ

とが難点である.それに加え,駒田培地は含有成分のひと

つである PCNBが日本では 2000年までに登録が全て抹

消され,新たに入手することはできない等の問題がある.

また,それに代替する選択培地として開発された西村培地

も劇物を使用する必要がある.

リアルタイム PCR法はPCRによって増幅する DNA

量をリアルタイムに測定(モニタリング)する方法であ

る. PCRの反応過程で増幅する DNA(量)は蛍光物質

を利用して増幅する DNA量を測定している.その検出法

は大きく分けて 3つの方法がある.それはインターカレー

ション法,ハイブリダイゼーション法およびLUX(Light

Upon eXtension)法である(北条, 2008). 本研究では

インターカレーション法を用いた.インターカレーション

法は SYBR@Green1などの蛍光物質が二本鎖DNAに入

り込み,励起光の照射によって蛍光を発する特性を利用し

てDNA量を測定する方法である.蛍光の強さは核酸の量

に比例して強くなるため蛍光強度を測定することによっ

てDNAの増幅量を知ることができる. この方法は比較的

に安価であるが,ターゲット以外の領域が増えてしまっ

ても,その DNA量が測定されてしまう欠点がある.その

Yasufumi URASHIMA, Toshihiko KARASA WA,

Kazunari NAGAOKA and Tomoyoshi HASHIMOTO: Measurement of Fusarium oxysporum by real-time PCR method 中央農業総合研究センター (305-8666つくば市観音台3-1-1) Corresponding Author :浦嶋泰文2013年3月 14日受付・ 2013年5月30日受理日本土壌肥料学雑誌第 84巻第 4 号 p.299~301 (2013)

299

ためにリアルタイム PCR後に融解曲線分析を行い,ター

ゲット以外の領域が増えていないことを確認する必要があ

る.最近,佐藤および豊田がリアルタイム PCRを用いた

土壌徴生物の検出についてとりまとめており,その中で

Fusarium属菌についても多くの研究を紹介している.

そこで本研究では, リアルタイム PCR法を用いて土壌

中の Fusαriumoxysporumの菌密度を迅速に定量的に検

出する方法を検討し,希釈平板法による結果との関係を比

較・検討した.

2.材料および方法

1) PCR条件

Fusarium oxysporum検出のためのプライマーとして

CLOX1 (5'-CAGCAAAGCA TCAGACCACT AT AAC

TC-3' )および CLOX2(~CTTGTCAGTAACTGGA

CGTTGGT ACT-3' )を用いた (Muleet al., 2004).用

いた単離菌は以下の通りである.Fusarium oxysporum

f.sp. asρaragi (北海道アスパラガス圃場), Fusarium

ρroliferatum (長野県アスパラガス圃場), Fusarium

oxysρorum f. sp. raρhani, Fusarium oxysρorum f. sp. cucumeri世zum,Fusarium oxysρorum f. sp. sρinaciae,

Fusarium solani (以上,東北農業研究センター福島研究

拠点,門田氏保存菌株). Fusarium単離菌から抽出した

DNA (Qiagen社の DNeasyPlant Mini Kit使用)を対

象として Muleet al. (2004) の報告を基に PCRを行い,

プライマーの特異性を確認した.その際の PCR条件は,

950C-2分, (940C-50秒, 60oC-50秒, 720C-1分)

x 35サイクル, 720C一7分, 40C一∞である. PCR酵

素として KOD-Plus- (東洋紡社製)を用いた. PCR

産物を電気泳動にかけ Fusariumoxysporumのみにバン

ドが認められるか確認した.

2) リアルタイム PCR条件

budcell (出芽細胞)密度を測定した Fusarium

oxysρorum菌液を調整した.豊田ら (1994)の方法に基

づき Czapek液体培地(土壌徴生物研究会編, 1992) に

Fusarium oxysporz仰を接種し 280

Cで4日間培養した.

滅菌した 4重脱脂綿をひいたガラスロートを用いて培養

菌液の櫨過を行い, budcellの懸渇液を得た.得られた

budcell懸濁液を 15μLとり, Thoma血球計算盤(深さ

0.1mm)にのせ,顕微鏡下でbudcellの個数を測定 (20

x20のマス内の胞子を測定)した.20 x 20のマス内は0.1

μLのbudcell数に相当するため,測定した budcell数に

104をかけて菌懸濁液 1mLあたりの budcell数を算出し

た.

budcell密度が判明した懸濁液を希釈し, budcell

密度の異なる懸濁液を調整した.その液より DNAを

FastDN A SPIN Kit for Soil (Q-Biogene製)を用いて

抽出した. ここで土壌からの DNA抽出用のキットを用い

たのはその後のサンフ。ル DNAを土壌から抽出することを

目的としているからである.抽出した DNAを用いてリア

ルタイム PCRの条件を設定した.

Page 3: Fusarium oxysporumのリアルタイムPCRによる検出Measurement of Fusarium oxysporum by real-time PCR method 中央農業総合研究センター (305-8666 つくば市観音台

300 日本土壌肥料学雑誌第84巻第4号 (2013)

リアルタイム PCR装置は CFX96(バイオラッド社)を

用い,試薬は SsoAdvanced™SYBR Green@ Supermix

(バイオラッド社製)を使用した.本研究で設定したリア

ルタイム PCRの反応条件は以下の通りである.950C-3

分, (950C-10秒, 600C -10秒, 720C -30秒)x 50サ

イクルで、計測することで増殖曲線分析を行い, 950C-10

秒, 65Tから 95Tまで0.50C刻みで計測することにより

融解曲線分析を行った.反応溶液組成は以下の通り,サン

プル(鋳型DNA)2μL, SsoAdvanced™ SYBR Green@

Supermix10μL, Forwardフライマー 0.6μL,Reverseプ

ライマー 0.6μL,超純水 6.4μLとした.増殖曲線分析でサ

イクル数を 50とかなり多めに設定したが,サイクル数が

多いことによる非特異増幅は融解曲線分析により判断する

ことが可能であった.

3) リアルタイム PCRと希釈平板法による結果の比較

ホウレンソウ連作圃場(東北農業研究センター内ピ

ニルハウス:淡色黒ボク土壌,連作 27作)における

Fusαrium oxysporumの菌密度が異なる土壌を対象とし

て,西村の培地を用いて希釈平板法により計測した菌密度

と抽出した DNAについてリアルタイム PCRにより推定

した菌密度との関係を比較・検討した.

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

23.13kb惨

綱"・・.4.36kb惨 叫

2.02kb惨

--------図1 PCR産物の電気泳動結果

1: A Hind m, 2 ~ 5 : Fusarium oxysporum f. sp. asparagi. 6 : Fusarium oxysporum f. sp. raPha据え 7:Fusarium oxysporum f. sp. cucumerinum, 8 & 9 : Fusarium oxysporum

f. sp. sPinaciaι10: Fusariumproliferatum, 11 : Fusarium solani. 12 :ネガティブコントローノレ

7.0

6,~

y=一0.2767x+ 12.389 R' = 0.9942

6.0 J

~ 5.5

恩..so 5.0

樹 4.5

塑 4.0

" 435 コ..n 3.0

2.5

2.0

20 22 24 a ~ w ~ 34

Ct値

図2 budcell密度と Ct値の相関

3.結果および、考察

図uこ示すように Fusariumの単離菌から抽出

した DNAについて PCRを行ったところ Fusarium

oxysporumは増幅し約 500bp (534 bp)のバンドが得ら

れた.これに対し Fusariumρroliferatum等の他菌株

からの増幅は認められなかった.本研究で,我々が供試し

た菌の種類は少ないが, Mule et al. (2004) がCLOX1

とCLOX2はFusariumoxysporum特異的であると報

告していることから,本 PCRプライマーは Fusarium

oxysporumに特異的であると推察された.

budcell密度を計数した懸濁液から抽出した DNAを用

いてリアルタイム PCRを行ったところ budcell密度に応

じて増幅が認められ, Ct値と budcell密度との聞に負の

相闘が認められ, R2値は 0.9942と高かった(図 2) また,

融解曲線分析により, 86.50Cにシングルピークのある融

解曲線が得られ,ターゲット以外の領域は増幅していない

ことを確認するとともに,本リアルタイム PCR条件は適

切であると確認できた(図 3).ホウレンソウ連作土壌から抽出した DNAについて本

リアルタイム PCR条件に供試したところ,希釈平板で検

出した菌密度の高い圃場サンフ。ルの Ct値が低い傾向にあ

り,比較的菌密度が低い圃場サンフ。ルの Ct値は高い傾向

にあった.希釈平板法により測定した菌密度と図 2に示し

た関係式を用いて Ct値より求めた菌密度との聞には正の

相関が認められた(図 4). リアルタイム PCRで検出され

1600

1400

1200 (

トてコ、、、S 1000 I.!.. 国)

寸コ 800 1-

)

州問題Mm相

70 75 80 85 90 95

温度(OC)

図3 融解曲線分析

4.5

-.,

i44l m ふ極l(d 4.3

.L6

年単位ト証~ 4.2

暗号

y = 0.5201x + 1. 7039 R' = 0.9189

• • 4.1

36 4.5 4.6 4.7 4.8 4.9 5.0 5.1 5.2 5.3

リアルタイムPCRの結果を基に算出した菌密度{!ogcfu/凶

図4 培養法とリアルタイム PCR法の結果の相関

Page 4: Fusarium oxysporumのリアルタイムPCRによる検出Measurement of Fusarium oxysporum by real-time PCR method 中央農業総合研究センター (305-8666 つくば市観音台

浦嶋・唐津・長岡・橋本:Fusarium oxysporumのリアルタイム PCRによる検出 301

る菌密度が若干高い傾向が認められるが,培養法では検出

できない活性の低い菌体まで検出できているためであると

推察される.本来, リアルタイム PCR解析では鋳型溶液

中の目的DNA断片の定量を行っているにすぎず,鋳型溶

液中の目的DNA断片と土壌中の菌の存在量との関係も把

握する必要がある.本研究では, Fusarium oxysporum

の存在量と Ct値との関係を把握で、きたことで有用性はあ

ると思われる.

このリアルタイム PCR法は迅速な測定ができることに

加え,採取可能な土壌サンフ。ル量が少ないものにも適用可

能な点が優れている.なお,本研究ではO.4g程度の土壌

サンプル量で、解析が可能で、あった.例えば,根圏土壌は大

量のサンフ。ル採取が困難で、あるが, このような根圏土壌な

どのサンフ。ルへの適用も利点のひとつと考えられる.実際

に,根圏土壌にリアルタイム PCR分析を適用したところ,

非根圏土壌よりも根圏土壌の Ct値が小さく,非根圏土壌

に比べ根圏土壌に Fusariumoxysporumが集積している

ことを確認できている(データ略).また,土壌消毒を行っ

た閏場などに適用した場合は,菌密度が低いために Ct値

が算出されるほどの PCR増幅が認められずに, リアルタ

イム PCR分析による Fusariumoxysporum菌密度は検

出限界以下となることが明らかとなっている(データ略).

そのために,土壌消毒を行った圃場についての消毒効果確

認などにも使うことができるが,土壌消毒を行った圃場に

ついてはリアルタイム PCRではなく, PCRで確認でき

るかもしれない. PCRを用いた場合はバンドの有無で消

毒効果が判定できる可能性がある.その際には PCR条件

のサイクル数を 38サイクル程度にするなどの検討が必要

となってくると思われる. リアルタイム PCRを行うには

コストがかかり機器も必要なために普及センターレベル

での診断には適さないかもしれないが,簡易・迅速に代表

的な植物病原菌が含まれる Fusariumoxysρorumの菌密

度を把握できることは有用である. しかしながら,本来は

Inami etal. (2010) の報告にあるように分化型に対する

リアルタイム PCR条件を検討すべきであるため,分化型

に対するリアルタイム PCR条件設定については,今後の

課題である.しかしながら,希釈平板法で得られる菌密度

と同様に Fusariumoxysρorum全体の菌密度を迅速に把

握できることは重要だと思われる.

本研究は,新たな農林水産政策を推進する実用技術開発

事業「根部エンドファイト活用によるアスパラガス連作障

害回避技術体系の開発」により行われました.

謝辞・本研究の実施にあたり菌株を提供いただいた児

玉不二雄氏,長野県野菜花き試験場の小木曽秀紀氏および

東北農業研究センターの門田育生氏に深謝いたします.

文献

土壌微生物研究会編 1992.新編土壌微生物実験法, p.384.養賢堂,東京.

北条浩彦編 2008リアルタイム PCRの原理.原理からよくわかるリアルタイム PCR実験ガイド.p.20-34,羊土社,東京.

lnami, K., Yoshida, C. Hirano, Y., Kawabe, M., Tsushima, S., Takeoka, T.,andArie, T. 2010.Real-timePCR fordifferential determination of the tomato wilt fungus, Fusarium oxysporum f. sp.lycopersici, and its races.f Gen.PlantPathol., 76,116-121.

駒田 旦 1976.野菜のフザリウム病菌,Fusarium oxysporumの土壌中における活性評価技術に関する研究.東海近畿農業試験場研究報告, 29,132-269.

Mule, G., Susca A., Stea G., and Moretti 2004. Specifc detection of the toxigenic species Fusarium prol併ratumand F. oxysporum from asparagus plants using primers based on calmodulin gene sequences. FEME Microbiol. Letter., 230, 235-240

西村範夫 2008.PCNBを用いない Fusariumoxysporum用選択培地植物防疫, 62,164-167.

佐藤恵利華・豊田剛己 2013リアルタイム定量PCRによる土壌微生物の特異的・定量的検出 土と微生物, 67,26-31.

豊田剛己・木村長人 1994.Fusarium oxysporum f. sp. raPhani厚膜胞子付着菌の他の病原性フザリウム菌に対する付着能及び括抗能.土と微生物, 43,1-8.