gbifワークショップ 21世紀の生物多様性研究(通算第11回 ... · 2016-11-25 ·...
TRANSCRIPT
つながる・ひろがる生物多様性情報
GBIFワークショップ21世紀の生物多様性研究(通算第11回)
国立科学博物館 上野本館 日本館講堂(2F)http://www.kahaku.go.jp/userguide/access/index.html
主 催:国立科学博物館/東京大学大学院総合文化研究科後 援:国立遺伝学研究所連絡先:[email protected]
2016年12月3日(土)13:00~16:30
要旨集
http://www.kahaku.go.jp/event/all.php?date=20161203
つながる・ひろがる生物多様性情報
GBIFワークショップ21世紀の生物多様性研究(通算第11回)
国立科学博物館 上野本館 日本館講堂(2F)http://www.kahaku.go.jp/userguide/access/index.html
主 催:国立科学博物館/東京大学大学院総合文化研究科後 援:国立遺伝学研究所連絡先:[email protected]
2016年12月3日(土)13:00~16:30
要旨集
http://www.kahaku.go.jp/event/all.php?date=20161203
はじめに
GBIFは、世界中から生物多様性情報(分布情報・観察情報など)を集め、だれ
でも利用できるように公開している機構です。現在公開されているデータは、約6
億件。私たちはこれを時間軸や空間軸に沿って解析し、分布や多様性の変化や種の
分布範囲の検討などに用いることができます。
GBIFに集められたデータは主に野生生物のものですが、カルチャーコレクショ
ンや系統などのデータも集積され、将来的な資源探索への利用も考えられます。ま
た、生物多様性情報を扱うプロジェクトや研究の枠組みはGBIF以外にもあり、
GBIFのデータは他の生物多様性情報関係に関わる活動とも連携して利用されてい
ます。このような連携や利用は今後ますます盛んになるものと予想されます。
GBIFの活動はナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)によってサ
ポートされています。NBRPは5年で1期としており、今年は第3期の最終年度に
あたります。本ワークショップでは、これを機にGBIFの活動を振り返り、次の期
の展望を考えます。日本からGBIFにどのようなデータが出ているのか、GBIFに
集められたデータがどのように利用されるのかなど、集められたデータの利用・活
用に関して考えます。
時 間 演 題 講演者(敬称略) 所 属
13:00~13:30開会あいさつ日本の生物多様性情報公開〜現状と課題〜
細矢 剛 国立科学博物館
13:30~14:00 生物多様性情報とバイオリソース 山崎 由紀子 国立遺伝学研究所
14:00~14:30 生物多様性レガシーデータの集積・発信と利用 伊藤 元己 東京大学大学院
14:30~14:40 休憩
14:40~15:10 OBISの活動とGBIFとの連携 伊勢戸 徹 海洋研究開発機構
15:10~15:40IPBESとそこで活用される生物多様性情報:沿岸・海洋を中心に
山北 剛久 海洋研究開発機構
15:40~16:10データを紡いで社会につなぐ デジタルアーカイブのつくり方
渡邉 英徳 首都大学東京
16:10~16:25 総合討論
16:25~16:30 閉会あいさつ 伊藤 元己 東京大学大学院
2
つながる・ひろがる生物多様性情報GBIF ワークショップ 21世紀の生物多様性研究
日本の生物多様性情報公開~現状と課題~
細矢 剛(国立科学博物館)
GBIFは、世界中の生物多様性情報(標本・観察・文献情報をもとにした、「いつ、どこに、どんな生物がい
るか」というデータ)を集積し、インターネットを通じて公開している世界的なしくみである。これらのデー
タは、地球温暖化などの研究や、資源探索、地域保全などの政治的判断に使われることを想定している。
GBIFの事務局はコペンハーゲンに置かれているが、参加者となるのは国あるいは公共の団体(研究機関など)
で、これらが「ノード」と呼ばれる拠点を形成する。そして、世界を6局に分け(アジア・オセアニア・北
米・ラテンアメリカ・ヨーロッパ・アフリカ)、地域での自主的な活動も推進している。日本は、2001年の
GBIF設立当初から参加国として活動に貢献してきた。また、2014年からは、日本のノード・マネージャーが
アジア地域の代表となり、地域での活動にも貢献してきた。GBIFからは、現在6億を超えるデータが提供さ
れているが、アジア地域からのデータはその3%に過ぎず、生物多様性に富んだアジア地域からの一層のデー
タ提供が求められている。
日本は約500万件のデータをGBIFに提供しており、アジア地域内ではもっとも多くのデータを提供してい
る。また、その大部分は標本をもとにした物的証拠を伴っている点に大きな価値がある。さらに、日本国内で
の日本語環境での利用のために、国立科学博物館が運営するサイエンスミュージアムネット(通称S-Net)で
もデータを公開している。
GBIFは5年を1期として中期計画(戦略計画)を打ち出しており、2017年から始まる次期は、次のような
項目を設定している。
1. 国際協力ネットワークを強化する
2. 生物多様性情報インフラ整備を拡大する
3. データギャップを埋める
4. データを質的に向上させる
5. 適切なデータを提供する
そして、上記の項目をさらに分析的に細分化することによって、実施計画を打ち出している(図参照)。こ
の中で、特に重要で課題が多いのは、国際協力ネットワークの強化である。
GBIFへのデータ提供には、IPTと呼ばれるサーバーを設定する必要がある。日本からのデータは、国立科
学博物館および国立遺伝学研究所に置かれた2台のサーバーから提供されているが、そのもととなっているの
つながる・ひろがる生物多様性情報
3
は、国立科学博物館を含む、日本各地の自然史系博物館・科学館や、東京大学をはじめとする大学、国公立の
研究所などから提供されたデータである。
S-Netには、現在80を超える機関が名を連ねており、その数はさらに増加している。また、講習会・ワーク
ショップなどを通じて交流し、情報交換を図っている。この活動はナショナルバイオリソースプロジェクト
(NBRP)によっても大きくサポートされており、GBIF同様に1期を5年として活動が展開されている。現在、
日本国内の戦略を準備中であるが、GBIF同様に、機関や人との交流や連携が大きな課題である。今後、より
質の高いデータを提供し、活用を推進するためには、間違いのない、データをつくるための基本的な参照デー
タ(特に学名の辞書など)の充実や、教育的情報発信による現場能力の向上、活用事例の収集・広報による、
活用の促進などが求められる。業務の定型化・マニュアル、ガイド類などによる活動の強化・合理化が必要と
なろう。
また、国内には複数の生物多様性情報に関する活動があり、これらとの賢いアライアンスが求められる。こ
れらを通じて、分かりやすい形で成果を公表することにより、生物多様性情報収集事業についての理解向上が
求められよう。
図 実施計画にある各活動間の関連図(右下に多く関連する活動を配置)
4
つながる・ひろがる生物多様性情報GBIF ワークショップ 21世紀の生物多様性研究
生物多様性情報とバイオリソース
山崎由紀子(国立遺伝学研究所)
本ワークショップでは、「地球規模生物多様性情報機構(GBIF)の日本ノード(JBIF)の活動」と「ナショ
ナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)」について紹介させていただきます。
GBIFは、世界中の『生物多様性情報』を誰もが利用できる情報環境を実現することを目指して2001年に発
足した国際プロジェクトで、日本は2003年から参加しています。NBRPは『学術研究用の生物資源』を収集・
保存・提供するための体制整備を目的とした国内のプロジェクトで、2002年に始まりました。発足当初独立
していたこの2つのプロジェクトは、2004年から JBIFの活動がNBRPの情報センターの1課題として位置づけ
られ(図1)、2012年から私自身も一緒に活動するようになりました。
GBIFが対象とする「もの」は、自然界に生息する生物やその標本で、それらの「情報」は生物分類と生息
環境の地理データや気象データなどが中心です。一方NBRPの対象物は、選ばれた生物種の野生由来系統や実
験用に作出された変異系統の個体、種子、細胞、DNAなどで、基本的に増殖して配布可能な「もの」です。
実験研究の再現性を保証するために、均質なリソースを一定量確保する必要があるからです。その情報は遺伝
情報や表現型のような特性情報と、保存状態、品質、提供条件など利用に必要な情報です。前者が「多様性」
を特徴とするリソースに対して、後者は「普遍性」を追求するためのリソースという大枠での区別もできます
が、個々のコンテンツには連続性があり、活動を共にするうちに大きな差を感じなくなったのも事実です。
実際、標本からDNAを抽出することもできますし、最近のGBIFのフォーマットには遺伝資源も格納でき
るようになっています。野生系統の由来情報はGBIFの観察データとオーバーラップします。多様性の情報が
生物進化や生態学における「普遍的」メカニズムの解明に繋がることもあるでしょうし、逆にモデル生物が遺
伝子や形質の多様性の研究に利用されることもあるでしょう。もともと自然界に生息していた生物を実験室で
モデルとして確立した結果、本来の性質とはかなり異なってしまい、失われた性質をまた自然界に求めること
もあるようです。
このように生物を知るための「もの」へのアクセスは、興味の対象や視点の違いによって、自然界、博物館、
動物園、植物園、リソースセンターの中から適当な場所を選択することになると思います。では「情報」につ
いてはどうでしょう。「もの」に比べると格段に軽く、柔軟で扱い易く、自在に活用できるように思いがちで
すが、それほど簡単ではないというのが当事者の本音です。今回のワークショップのテーマである「つなが
る・ひろがる」を意識しながら、現状と取り組みについても紹介したいと思います。
つながる・ひろがる生物多様性情報
5
NBRP
リソース代表機関:29機関
総リソース数:約650万件
22門(phylum)の生物をカバー
関連論文数:27,000報
情報利用者数:10万人/月
図1 情報センターから見たNBRPの体制図
図2 GBIFに登録されている日本関連のデータ(地図情報のあるもののみ)37カ国が日本についてのデータを380万件登録している(上)。日本からは世界209カ所についてのデータ370万件を登録している(下)。
6
つながる・ひろがる生物多様性情報GBIF ワークショップ 21世紀の生物多様性研究
生物多様性レガシーデータの集積・発信と利用
伊藤元己(東京大学大学院)
生物多様性に関する情報は多岐に渡るが、Global Biodiversity Information Facility (GBIF、地球規模生物多
様性情報機構)では主に生物分布情報と生物名情報を集積、公開している。GBIFは、生物多様性情報が、科
学・社会・継続維持できる未来に向けて誰にでも無償で利用できるようにするために、OECDの勧告により設
立された国際組織である。
2002年の設立以来、参加国、参加団体からの生物多様性情報を統合して提供していて、その生物分布情報
の総数は2015年末の時点で約6億4千万件に及ぶ(図1)。日本からGBIFに提供されている生物分布情報は
2015年12月現在、380万件を超えているが、その多くが標本に基づいた情報であることが特徴である(図2)。
ここ数年、日本からのアクセス数は増加していて2015年には年間アクセス数は約2万5千回にのぼり(図3)、
GBIFが提供している情報を使用した論文も着実に増加傾向にある
本講演では、日本における生物多様性情報の発信と利用の現状を、GBIF日本ノード(NBRPによる活動な
ど)の活動を中心に紹介する(図4)。それとともに、さらなる生物多様性情報の充実を目指し、過去の生物
多様性を知るための、標本以外の生物多様性レガシーデータとしての文献や観測記録などに触れ、その重要性
と、どのようにしてそれらの情報の電子化を進めていくかについて議論する。
図1 GBIFから提供されているデータ数の変化
つながる・ひろがる生物多様性情報
7
図2 日本から GBIFに提供されているデータ数の変化
図3 GBIFデータの日本からの利用状況
図4 GBIF日本ノードの国内活動
その他植物動物
8
つながる・ひろがる生物多様性情報GBIF ワークショップ 21世紀の生物多様性研究
OBISの活動とGBIFとの連携
伊勢戸 徹(海洋研究開発機構)
海洋生物地理情報システム(Ocean Biogeographic Information System:OBIS)は、海洋生物の分布情報を
集約する国際的なデータベースであり、Census of Marine Life (海洋生物のセンサス、2000-2010)という国際
プロジェクトにより構築された。同プロジェクト終了後はユネスコの下部機関である国際海洋データ・情報交
換システム(IODE)に移管され管理・運用されている。OBISには56の国や地域から500以上の機関やプロ
ジェクトで得られた約12万種、4,500万件の海洋生物出現記録が登録されている。OBISの目標は、全海域に
おける生物多様性ホットスポットや生態パターンを明らかにすることによって海洋生物の多様性評価を可能と
し、海洋生態系の保全に貢献することで、そのために誰もがデータに自由にアクセスできる。
図1 OBISのトップページと生物分布情報表示画面の例
つながる・ひろがる生物多様性情報
9
図2 J-OBISのホームページ 図3 BISMaLのトップページ
海洋研究開発機構(JAMSTEC)はCensus of Marine Lifeにも関わり、2010年から Japan Regional OBIS Node
(J-RON)としてOBISの日本ノードを担ってきたが、OBISの IODEへの移管に伴い、IODEよりデータ提供機
関であるAssociate Data Unit (ADU)として2015年1月に承認された。これによりJAMSTECでは日本海洋生物
地理情報連携センター(Japan Ocean Biogeographic Information System Center:J-OBIS)を組織し、国際海洋環
境情報センター(沖縄県、名護市)を中心にして日本の活動で得られた海洋生物出現記録の集積を行うOBIS
の日本ノードとして活動している。
J-OBISは JAMSTECが運用する海洋生物情報の統合データベース、Biological Information System for Marine
Life(BISMaL)と連携しており、国内の様々な調査活動で集められたデータをBISMaLに登録した上で、
BISMaLを通じてOBISに提供している。これにより海洋生物情報を日本語でも見られるデータベースに集積
しつつ、同じデータを国際的なデータベースOBISの中でも地球規模で統合的に見られる状況を実現している。
2014年、GBIFとOBISとの間で協力協定が締結され、GBIFはOBISのADUになりデータの共有が進められ
ることになり、より多くのデータがOBISに集積できるようになった。日本には、GBIFのノード JBIFがあり、
そこがデータの集積を行いGBIFにデータを提供している。GBIFとOBISの連携により、国内においてデータ
提供者の利便性、データ重複などに問題が生じることが懸念される。そこで、J-OBISは JBIFとの情報交換を
開始し各問題に対処することにした。国内ノードの協力関係は、OBIS/GBIF間のデータ交換を実現させるた
めだけでなく、国内における生物多様性情報の集積を促進させるために有益だと思われる。我々は、国内の
データ提供者がよりスムーズにデータを提供できるよう、またデータの利用者が双方のデータベースからより
多くの有用なデータを利用できるよう、今後最適な連携をしていく予定である。
10
つながる・ひろがる生物多様性情報GBIF ワークショップ 21世紀の生物多様性研究
IPBESとそこで活用される生物多様性情報: 沿岸・海洋を中心に
山北剛久(海洋研究開発機構)
2010年までの目標を評価し新たな10年間の目標「愛知目標」が生物多様性条約第10回締約国会議(CBD-
COP10)で議決された。2012 年4月にはこの目標達成のための政府間組織として「生物多様性及び生態系
サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)」が設立される(124の国が加盟;2016年2月
現在)。
IPBESは、生物多様性版 IPCCとも称されるように「科学的評価」と「政策立案支援」を研究者が中心に行
う機能を持つ(図1)。一方で、当初の IPCCが気候モデル等を扱う研究者中心に進められた方向性に対し、伝
統的知見をふくめた「知見生成」や、地域や将来の活動を担う人材のための「能力養成」も活動の柱とする。
2018年までの具体的な作業として4つの目標が設定されており(図2)、中でも自然科学の研究者と関係が
深いものに、現状と将来の変化について地域および全球レベルで評価を行う目標2と、花粉媒介や土地劣化、
生態系サービスなど個別のテーマについての評価を行う目標3がある。
目標2のうち、特に地域アセスメントについては、2015年から2018年までの約3年間で自然の恵み、生物多
様性と生態系の現状と傾向、直接的及び間接的変化要因、自然と人間の相互作用の分析、制度や意思決定の各
項目について執筆する。アジア・オセアニア地域の場合、約130名の専門家が結集した執筆者会合が2015年に
開催され、2016年7月にはドラフトの査読者となる専門家の募集を行ったところである。
目標3については2016年2月に開催された第4回総会での承認を経て(1)「花粉媒介者、花粉媒介及び食料
生産に関するテーマ別アセスメント」と(2)「生物多様性及び
生態系サービスのシナリオとモデルの方法論に関するアセスメ
ント」について、IPBESの初のアセスメントの成果が公表され
た。
上記の枠組みの中で生物多様性情報がどのように活用できる
だろうか。IPBESには全体にまつわるKnowledge & Data Task
Forceがあり、ここで全球データを集約・解析し各アセスメン
トへデータを提供することが考えられている。また、各アセス
メントでは、基本的には査読付き論文を引用する形で評価する。
全球レベルでの評価では既に生物多様性データベースを活用し
た論文も複数あり、それらを活用可能である。また、地域の評
価等でも個別の論文で地域全体をくまなく評価できる場合は稀図1 IPBESの主な活動
つながる・ひろがる生物多様性情報
11
であるから、ここでも全球あるいは地域の広域データを用いた面的評価を引用する余地はある。ただし、変化
のトレンドが明瞭な外来種や気候に強く依存した種はともかく、生物多様性の現状と将来の評価には種の在
データだけでは不十分である。個体数などの定量データについて、DwC2.0の属性情報の活用や標準化、前処
理や解析済・論文化済の結果のレポジトリと図化などが課題である。
IPBESの目的
生物多様性及び生態系サービスに関する科学
-
政策インターフェースの強化
図2 IPBESの目標と作業計画(環境省生物多様性ウェブサイト IPBESパンフレットより)
図3 IPBESの検討対象の概念的枠組み(環境省生物多様性ウェブサイト IPBESパンフレットより)
12
つながる・ひろがる生物多様性情報GBIF ワークショップ 21世紀の生物多様性研究
データを紡いで社会につなぐ デジタルアーカイブのつくり方
渡邉英徳(首都大学東京)
私たちは「ヒロシマ・アーカイブ(図1)」をはじめとする、戦災・災害をテーマとしたデジタルアーカイブ
を制作してきた。これらのアーカイブでは、過去のできごとにまつわる多元的な資料が一元化され、デジタル
アースにマッシュアップされている。このことによって、できごとの複雑な「実相」を、実感を持って伝えよ
うとしている。これを「多元的デジタルアーカイブズ」と呼ぶ。なお、「実相」とは、表面的なことばでは推
し量れない「全体像=真実の姿」を指す語彙であり、特に原爆被害についての記述で多用される。
また、アーカイブの題材のひとつである広島においては、被爆者と地元の若者たちを中心とした運動体が形
成され、アーカイブを育み、記憶を継承している(図2)。これを「記憶のコミュニティ」と呼ぶ。
過去のできごとの「実相」を伝えるためには、できるかぎり正確な資料を多面的に網羅する必要があるだろ
う。また、後世に遺していくためには、資料が持つ価値をわかりやすくアピールし、現代の人々と社会の裡に、
継承へのモティベーションを形成することも求められるだろう。これらの要件を充たすコンセプトが「多元的
デジタルアーカイブズ」と「記憶のコミュニティ」であり、私たちの取り組みの核となっている。
「多元的デジタルアーカイブズ」と「記憶のコミュニティ」は、当初のコンセプトを継承しながら、時代に
あわせて進化し、世界に拡がってきている。さらに近年では、報道機関とのコラボレーションの機会が増えて
きている。報道機関は、取材内容を蓄積した独自のアーカイブを保有している。これらのアーカイブには、各
機関による綿密な取材に基づいた資料が収蔵されており、過去のできごとについて検証するための貴重な参照
源となっている。ここに「多元的デジタルアーカイブズ」の手法を組み合わせることによって、報道機関の
アーカイブの価値を社会にアピールし、アーカイブの利活用のモティベーションを生み出すことができる。
本発表では、私たちの取り組みの解説を通して、「多元的デジタルアーカイブズ」と「記憶のコミュニティ」
のあり方について述べる。
つながる・ひろがる生物多様性情報
13
図1 ヒロシマ・アーカイブ
図2 広島における「記憶のコミュニティ」の活動
図3 岩手日報社とのコラボレーション「震災犠牲者の行動記録」
■ GBIFのビジョン科学、社会及び持続可能な未来のために、生物多様性情報が全域で自由に利用可能な世界の実現を目指します。
■ GBIFの使命生物多様性情報を提供する世界随一の情報発信源となり、環境と人類の福祉に役立つスマートソリューションを提供する事を目指します。
570,330,653件のデータを誰もが見ることができます
■ GBIFの組織構成について
■ GBIFポータルの機能
覚書(MOU)を交わすことで各国や機関の参加が認められます。MOUの内容はホームページに公開されています。
GBIFのプログラムは多岐にわたります。この状況を簡便に解説するために、様々なパンフレットやグッズ等が作成されています。これらの情報は、GB I F サイトのResources で公開されています。
GBIFポータルへは、こちらのリンクをどうぞ。スマートフォンでも情報を閲覧することができます。
2015年9月現在
GBIFの果たす役割は以下の論文で強調されています。Guralnick, R. P et al.(2007), Towards a collaborative, global infrastructure for biodiversity assessment. Ecology Letters, 10:663‒672.
GBIF(地球規模生物多様性情報機構)はインターネットを介して、世界の生物多様性情報を共有し、誰でも自由に利用できる仕組みをつくっています。
OECD*のメガサイエンスフォーラム(1998年)の勧告を経て、2001年に発足した国際プロジェクトです。研究や政策決定などの目的に使用する生物多様性情報基盤を整備し、生物多様性情報の集積と提供、情報集積・解析ツールの開発、生物多様性情報に関わる活動の支援と能力開発を行っています。94の参加団体(37正規参加団体・16準参加団体・39その他の参加団体・2連携団体;2015年現在、GBIF年報2014より)。国または公共機関は覚書締結によって参加団体となります。
1.
2.
3.
事務局はデンマークのコペンハーゲン(コペンハーゲン大学)におかれています。正規参加団体からの拠出金により運営されています。日本では環境省が窓口になって拠出金を出しています。現在保有する総レコード(資料+観察データ)数は約5.7億です(2015年9月現在)。最初は種や標本レベルのデータを集中的に整備し、将来は遺伝子や生態系レベルのデータにまでリンクしていきます。
4.
5.
6.
7.
GBIFでこれまで集積した生物多様性情報の分布を示した地図。白い点が多い場所ほどデータ量が多いことを示します。
左図)http://www.gbif.org/resources/summary
http//www.gbif.org/
http://www.gbif.org/
OCCURRENCESをクリックして全件検索する際には、右ページの右上“Add a filter”をクリックしてあらわれるプルダウン・メニューの項目(種名、場所、機関コードなど)によって絞り込みを行います。
GBIFでは、全世界から集められた自然史標本情報、観察などに基づく分布情報、チェックリストなどがこのホームページから発信されています。
全件(OCCURRENCES) 種名(SPECIES) データセット(DATASETS) データ提供機関 (DATA PUBLISHERS)
以下のそれぞれの数字・項目をクリックして検索できます。
(データは2015年9月現在)
*OECD: 経済協力開発機構
GBIFとは何か?
ヨーロッパ40%
北米37%
オセアニア8%
中南米5%
アフリカ4%
アジア3%
公海3%
● 生物界・データタイプごとのレコード数 ● GBIFデータの利用状況
アジア地域からのデータはまだまだ少なく、さらなるデータの収集が求められています。
現在では、GBIFデータポータルにおいて、およそ5.7億以上の情報が集積されています(2015年9月現在)。このデータ内訳は、毎年発刊される“Annual Re-port”やホームページにて紹介されています。分類群ごとのデータ集計や国別の集計、論文での引用状況が分析され、課題のあるテーマや将来的に充実させるべきターゲットを定めて、データ整備の方向性が計画されています。
市民科学者やボランティアによる野鳥観察の情報が各地のネットワークを通じて集積されて、GBIFに提供されています。
分布情報には、目撃による観察情報と、証拠がある標本情報があります。このなかでも最も多いのが、鳥類の観察情報です。
GBIFのデータを利用した論文が急増しています。特に、地球規模での生物多様性研究への引用によって、その存在感が増しています。
Annual Report(年報)には、新たに追加されたデータセットやGBIFデータが活用された学術研究、政策への適用事例が紹介されています。
日本は情報提供数が16位ですが、その大半が、標本に基づいた証拠付きのデータです。この点は国内外で高く評価されています。
GBIFで維持されているデータは自然史標本データおよび観察データを中心にしており、そのデータ収集は世界各地からの貢献に基づいています。
現在は資料データ、観察データともに欧米が多く、アジアから提供されているデータは全データの約3%に過ぎません。生物多様性に富んだアジア地域からのデータ提供が求められています。
*本ページのデータはGBIF2014年報に依っています。
全レコードの提供者別内訳 GBIF参加国別の分布データ数
動物植物
その他
レコード数(
百万)
観察情報
標本情報
不明/その他
300
200
400
100
0
200
150
100
50
0
15
10
5
0
データ数(単位・百万)
アメリカ
イギリス
スウェーデン
オーストラリア
フランス
オランダ
フィンランドドイツ
ノルウェー
南アフリカ
スペイン
コスタリカ
デンマーク
ベルギー
メキシコ
日本
カナダ
アイルランド
オーストリア
OBIS
引用数
BI 韓国
20
動物植物
その他
レコード数(
百万)
観察情報
標本情報
不明/その他 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
2014 年までの掲載数
16位↓
GBIFを議論しているGBIFデータを利用している
● 地域ごと・国ごとにみたデータ提供の状況
GBIFが提供するデータ
●日本ノードの戦略1. 生物多様性情報の重要性に対する認知度を向上させる。2. 生物多様性情報に関する博物館施設の機能を向上させる。3. 一般から行政まで幅広く生物多様性情報の重要性を訴える。4. 日本ノードのプレゼンスを向上する。 5. 関連プロジェクトとの連携を模索する。6. アジア地域での共同的活動においてリーダーシップを発揮する。
各種研究機関プロジェクト印刷物など
国立遺伝学研究所
国 立 科 学博 物 館
東京大学
S-NetGBIF主に国内利用
71団体
国際ネットワーク
世界に発信
国内ネットワーク
研究会や講習会の実施を通じたネットワーク形成
自然史博物館大学博物館など
日本でのGBIFに関する活動は、日本ノード運営委員会によって運営されており、主に文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)によって支えられています。日本からは国立遺伝学研究所および国立科学博物館からGBIFにデータが提供されています。国立科学博物館では全国の博物館から標本情報の提供を受け、GBIFおよびS-Net*を通じて国内外に発信しています。国立遺伝学研究所では、東京大学伊藤元己教授の研究室と協力し、大学や各種研究機関・プロジェクト研究の成果・印刷物などに公表されている既存の生物多様性情報を整備することで、GBIFに情報を公開しています。第3期が開始された2012年からは、日本ノードにおいても戦略目標を定め、データ整備や連携体制の整備が進められています。
S-Netは、サイエンスミュージアムネットの略称で、国立科学博物館が運営する自然史系博物館や科学館に関する情報ポータルサイトです。国内の博物館・研究機関71機関が提供する自然史標本情報の検索ができる(362万件:2015年9月現在)ほか、各館イベントやホームページ内のコンテンツ、研究員・学芸員を検索できます(501名:2015年9月現在)。国内のより多くの博物館や研究機関によるデータ公開を進めるために、毎年ワークショップを開催して意見交流するほか、NPO法人西日本自然史系博物館ネットワークなどの博物館連携を通じた情報集約やヘルプデスク対応を進めています。
*S-Netとはサイエンスミュージアムネットの略称です。詳しくは下記の本文および最後のページを参照ください。
右写真:2012年3月には、兵庫県立大学計算科学センターにて講習を開催し、分布情報をもとづいた生息地の推定や気候変動への応答シミュレーションについて実習しました。
S-NetのQRコードはこちらをご利用下さい。
日本ノードでは、生物多様性情報の提供者を対象とした講習会や実習を開催しています。講習会は、国立科学博物館およびNPO法人西日本自然史系博物館ネットワークが担当し、生物多様性情報に関するデータ提供者への技術講習やデータの高度利用やシミュレーションといった高度な解析技法の実習などを行っています。年に数回は、全国の博物館関係者が集まり、GBIFに関する意見交換や交流が図られています。
■ 地域の博物館・研究機関からの情報を統合・発信するS-Net
■ 講習を通じて生物多様性情報の発信力と活用力を高める
日本ノードの活動450万件のデータ、307のデータセットが、主に2つの機関から世界に提供されています。
URL: http://science-net.kahaku.go.jp/
●
●
●●
●
●●●
●
●
●
●●●●●●
●●
●
●
●●
●
●
●●
●
●
●
●
●
●●
●
●●●
●●
●
●
●●
●
●●
●
●
●●
●
●
●
●
●●●
●
●
●●
●●
●
●
●
●●
●
●
●
●●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●●
●●
●
●●
●
●
●
●●
●
国立遺伝学研究所経由●
国立科学博物館経由●
国立環境研究所経由●
●
●
●
●
●
●
●
●
広がる国内ネットワーク70以上の機関が参加するサイエンスミュージアムネットや、各種プロジェクトによるネットワークにより、日本からの情報発信の輪が広がっています。
国立遺伝学研究所経由●
国立科学博物館経由●
国立環境研究所経由●
「県内産の維管束植物の分布状況を整理するために利用しています。」
島根県産を中心とする維管束植物標本のデータ。
島 根 県 立 三 瓶 自 然 館
「都道府県レベルで生物の分布の有無を調べる時などに使っています。」
主に岩手県産の鱗翅目を中心とする昆虫類、維管束植物・蘚苔類のデータを公開。
岩 手 県 立 博 物 館
「収蔵する標本が世界とつながっている例示として、GBIFを紹介しております。」
維管束植物標本のデータのほか、昆虫類のデータの公開を進めています。
相 模 原 市 立 博 物 館
「サーバーを構えなくてもデータ公開してもらえるのは利点。特定の植物の標本をどこの館が所有しているか調べる時に便利です。」
高知県産標本、牧野富太郎の採集標本の他、明治神宮植物調査の資料を含む矢野佐採集標本のデータ。
高 知 県 立 牧 野 植 物 園
「自前のサーバーを用意できなくても、広くデータを公開できる点が非常に助かります。特定の動植物の分布状況を調べる際などに利用しています。」
豊田市内を中心とした植物および昆虫の標本データを公開。
豊 田 市 自 然 観 察 の 森
「生物分布から地域の特徴を見いだすことに使っています。」
国産の貝類および甲殻類の標本データ10万件を公開。
富 山 市 科 学 博 物 館
「生物情報の基礎資料として研究・GISマップ作成などに利用しています。」
近畿地方を中心とした植物・昆虫コレクションや、1万点以上にのぼる小林コレクションを中心とした鳥類標本のデータを公開。
兵庫県立人と自然の博物館
「世界の標本の有効活用の要となるデータベースとして期待しています。大型化石の標本なども含まれるといいですね。」
ナンジャモンジャゴケの発見者、髙木典雄氏の蘚苔類植物標本などを所蔵し、データベース化できたものから順次公開しています。
名 古 屋 大 学 博 物 館
「サーバの維持管理の手間なしにデータを公開できるので助かります。」
北海道を中心とした維管束植物のコレクションのデータを公開。
北 海 道 大 学 総 合 博 物 館
「小規模の地方博物館では、データベースの構築や公開を単独で実施する事が困難な為、埋もれがちな地域の財産を多くの方に活用していただくための情報発信に活用しています。」
十勝地方を中心とする北海道東部の維管束植物コレクションのデータを公開。植物標本棚の整備も進めているところです。
帯 広 百 年 記 念 館
「登録データを手軽に検索できるので、様々な生物のインベントリー調査の基礎資料として、有用なツールになると思います。」
植物、動物から菌類に至るまで、神奈川県内を中心とする各地の標本および画像データを提供しています。特に魚類画像と植物標本のデータは充実しています。
神奈川県立生命の星・地球博物館
「生物多様性を知るための基礎資料となるデータベース。生物地理特性の調査やインベントリー調査、ひいては社会的課題解決に非常に有用なデータであると考えています。」
日本では数少ない貝類に特化した博物館。当館が所蔵する貝類標本のデータや周辺海洋の生物写真データを提供しています。
真鶴町立遠藤貝類博物館
「当該種の分布記録のチェックなどに利用しています。」
北部九州を中心とした動植物標本、及び当館に寄贈いただいた大型コレクション(三宅貞祥甲殻類コレクションなど)のデータ。
北九州市立自然史・歴史博物館
「館内で管理している収蔵資料のデータベースを、簡単な手順で閲覧できるのでたいへん便利です。」
日本国内各地で得られた無翅昆虫のデータ約3万件のほか、おもに埼玉県内で得られた動植物データなど約6万件を公開。
埼 玉 県 立 自 然 の 博 物 館
「生物学の研究だけでなく、社会的な課題の解決にも役立つツールです。」
当研究所が所蔵する日本最大の鳥類標本コレクションのデータを提供しています。戦前の東アジアのデータがその中核を占めています。
山 階 鳥 類 研 究 所
「自館の公開システムを持たなくても公開できる点が助かります。」
オサムシを中心とした国産・外国産昆虫標本約10万点の山谷文仁(やまやぶんに)コレクションを収蔵・一部公開。
よ ね ざ わ 昆 虫 館
日本国内にはまだ多数のデータが眠っています。日本は生物多様性大国なのです。そのデータを生かし、活用するとともに、世界に発信することが求められています。
北海道 小樽市総合博物館、帯広百年記念館、釧路市立博物館、美幌博物館、北海道大学、北海道大学総合博物館
東 北 秋田県立博物館、岩手県立博物館、弘前大学農学生命科学部、福島大学、山形大学博物館、よねざわ昆虫館、陸前高田市立博物館
関 東 厚木市郷土資料館、我孫子市鳥の博物館、大磯町郷土資料館、神奈川県立生命の星・地球博物館、かわさき宙と緑の科学館、環境省生物多様性センター、群馬県立自然史博物館、国立科学博物館、国立環境研究所、埼玉県立自然の博物館、相模原市立博物館、首都大学東京、森林総合研究所、森林総合研究所多摩森林科学園、製品評価技術基盤機構、千葉県立中央博物館、筑波大学、東京大学、東京大学三崎臨海実験所、東京農業大学、栃木県立博物館、那須野が原博物館、農業環境技術研究所、農業生物資源研究所、パルテノン多摩、平塚市博物館、真鶴町立遠藤貝類博物館、ミュージアムパーク茨城県自然博物館、山階鳥類研究所、横須賀市自然・人文博物館、理化学研究所
中 部 飯田市美術博物館、石川県立自然史資料館、岐阜県博物館、小松市立博物館、十日町市立里山科学館「森の学校」キョロロ、富山市科学博物館、豊田市自然観察の森、豊橋市自然史博物館、長岡市立博物館、長野県環境保全研究所、名古屋大学博物館、福井市自然史博物館、ふじのくに地球環境史ミュージアム、三重県総合博物館、三重大学
近 畿 伊丹市昆虫館、大阪市立自然史博物館、大阪府営箕面公園昆虫館、大阪府立大学、貝塚市立自然遊学館、橿原市昆虫館、きしわだ自然資料館、京都大学、京都大学瀬戸臨海実験所、京都大学総合博物館、滋賀県立琵琶湖博物館、多賀町立博物館、高槻市立自然博物館、西宮市貝類館、姫路科学館、兵庫県立人と自然の博物館、和歌山県立自然博物館
中 国 倉敷市立自然史博物館、芸北高原の自然館、島根県立三瓶自然館、山口大学
四 国 愛媛県総合科学博物館、愛媛大学、面河山岳博物館、黒潮生物研究財団、高知県立牧野植物園、徳島県立博物館
九 州 鹿児島大学、鹿児島大学総合研究博物館、北九州市立自然史・歴史博物館、九州大学、九州大学総合研究博物館、熊本市立熊本博物館、佐賀県立宇宙科学館、宮崎県総合博物館
琉 球 沖縄県立博物館・美術館、琉球大学、琉球大学資料館
データ提供館(~2014年度)