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GIS 教育における地理情報ポータルの構築と活用 王尾和寿,村山祐司 Development and application of the geographic information portal for GIS education Kazuhisa OHBI and Yuji MURAYAMA Abstract: The site license for ArcGIS was introduced to the University of Tsukuba in 2005. At the same time, the geographic information portal named Tsukuba University Geography Network was build with Server GIS of ArcIMS. The purpose of this study is to investigate the application of this portal to GIS education. As a result, we found the geographic information portal is very useful for GIS education because it provides browser-based access to many types of geographic contents, including live maps, downloadable data and more advanced services, and those data are available to the analysis on ArcGIS software. Furthermore, we can build WebGIS easily to promote the sharing and publishing of geographic data which are registered in the geographic information portal. Keywords: GIS 教育(GIS education),地理情報ポータル(geographic information portal), ウェブ GISWebGIS),メタデータ(metadata1.研究の背景および目的 2007 5 月の「地理空間情報活用推進基本法」 の成立を受け,今後,行政サービスやビジネス分野 をはじめとして,地理空間情報の利活用が一層促進 されると考えられる.一方,地理情報科学教育に対 するニーズも高まりをみせ,大学では地理学分野を 中心に GIS に関するカリキュラムの導入が増え, 小・中・高校の学校教育でも GIS を活用した授業が 実践されている(井田ほか編,2001). GIS に関する教育・研究の基盤条件としては,十 分な質・量の GIS ソフトウェアおよび豊富な教材・ 地理データがあげられる.これらに関して,現在, 筑波大学では代表的 GIS ソフトウェアである, ESRI 社の ArcGIS のサイトライセンスを導入 1) るとともに, GIS の効果的な教授法の開発に向けて, 学部および大学院レベルで講義・実習を通じた様々 な取り組みが成されている(村山,20072008). これらの講義・実習では実際に ArcGIS を操作し, 空間解析手法を習得するために,多様な地理データ や統計データが用意され,利用されているが,その 成果図や研究成果としての地理データは学内に分散 し,個人あるいは研究室単位で蓄積されている状況 である.そこでこれらデータを,共有・公開し相互 利用できる環境を整えるとともに, GIS 教育におけ る教材として有効利用するため,地理空間情報に関 王尾: 305-8572 茨城県つくば市天王台 1-1-1 筑波大学大学院生命環境科学研究科 Tel029-853-5694 E-mail[email protected]

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Page 1: GIS 教育における地理情報ポータルの構築と活用gis.sk.tsukuba.ac.jp/research_doc/report2008/ohbi2008_1.pdf · 2009-02-20 · GIS 教育における地理情報ポータルの構築と活用

GIS 教育における地理情報ポータルの構築と活用

王尾和寿,村山祐司

Development and application of the geographic information portal for GIS education

Kazuhisa OHBI and Yuji MURAYAMA

Abstract: The site license for ArcGIS was introduced to the University of Tsukuba in 2005. At

the same time, the geographic information portal named Tsukuba University Geography

Network was build with Server GIS of ArcIMS. The purpose of this study is to investigate the

application of this portal to GIS education. As a result, we found the geographic information

portal is very useful for GIS education because it provides browser-based access to many types

of geographic contents, including live maps, downloadable data and more advanced services,

and those data are available to the analysis on ArcGIS software. Furthermore, we can build

WebGIS easily to promote the sharing and publishing of geographic data which are registered

in the geographic information portal.

Keywords: GIS 教育(GIS education),地理情報ポータル(geographic information portal),

ウェブ GIS(WebGIS),メタデータ(metadata) 1.研究の背景および目的

2007 年 5 月の「地理空間情報活用推進基本法」

の成立を受け,今後,行政サービスやビジネス分野

をはじめとして,地理空間情報の利活用が一層促進

されると考えられる.一方,地理情報科学教育に対

するニーズも高まりをみせ,大学では地理学分野を

中心に GIS に関するカリキュラムの導入が増え,

小・中・高校の学校教育でも GIS を活用した授業が

実践されている(井田ほか編,2001). GIS に関する教育・研究の基盤条件としては,十

分な質・量のGIS ソフトウェアおよび豊富な教材・

地理データがあげられる.これらに関して,現在,

筑波大学では代表的 GIS ソフトウェアである,

ESRI 社の ArcGIS のサイトライセンスを導入1)す

るとともに,GISの効果的な教授法の開発に向けて,

学部および大学院レベルで講義・実習を通じた様々

な取り組みが成されている(村山,2007,2008).これらの講義・実習では実際に ArcGIS を操作し,

空間解析手法を習得するために,多様な地理データ

や統計データが用意され,利用されているが,その

成果図や研究成果としての地理データは学内に分散

し,個人あるいは研究室単位で蓄積されている状況

である.そこでこれらデータを,共有・公開し相互

利用できる環境を整えるとともに,GIS 教育におけ

る教材として有効利用するため,地理空間情報に関

王尾:〒305-8572 茨城県つくば市天王台 1-1-1 筑波大学大学院生命環境科学研究科 Tel:029-853-5694 E-mail:[email protected]

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する統合的ポータルサイトの構築を行った. 本稿では,その過程を紹介するとともに,具体的

なデータの取得・操作方法,WebGIS へのデータ提

供方法などを通じ,GIS 教育における地理情報ポー

タルの活用方法や意義,課題について論じる.

W ebサ ー バ

A rc IM Sコ ネクタ

・A rcM a p ・A rcE xplo re r・A rcP a d ・W e b -B ro w se r・V ie w e r(W eb G IS)

A rc IM Sアプ リケー ション

サ ーバ

A rc IM S空 間 サ ーバ

デー タサ ーバ

A rc IM S管 理 ツール

・A u th or・A d m ini s tra tor・D e s ig ne r

ク ライ アント 2.地理情報ポータルの構築と機能

メタデータの作成や検索機能,画像表示機能,デ

ータダウンロード機能などを有する,地理情報カタ

ログサービスについては,国際連合食糧農業機関

(FAO)を中心に開発された,フリーオープンソフ

ト GeoNetwork の活用例などが報告されている(尾

野・村山,2008)が,筑波大学では ArcGIS Desktopと共に,サイトライセンスにより提供されている,

ESRI 社の情報公開サーバ ArcIMS を利用し,クリ

アリングハウス機能を持つポータルサイトを構築し

た.作成された地理情報ポータルは筑波大学

Geography Network と呼んでおり,本稿では

Geo-Net と略すこととする. 2.1.ArcIMSの構成

情報公開サーバArcIMSの利用は米国ESRI社が図1 ArcIMS の構造

表1 Geo-Net 登録データの概要 オンラインマップサービス

自然環境に関するもの関東地区地形データ(国土数値情報),関東地区表層地質データ(国土数値情報),関東地区土壌データ(国土数値情報)など

標高に関するもの日本全図500mDEMデータ,つくば市周辺標高データ(50mメッシュ標高),筑波山付近標高データ(50mメッシュ標高)など

茨城県に関するもの茨城県環境データ,茨城県公共施設データ,茨城県鉄道路線データ,茨城県河川データ,茨城県道路網データ,つくば市周辺公共施設データなど

行政界に関するもの 都道府県 行政界データ,明治24年(1891年)関東地方行政界データなど

土地利用に関するもの つくば市周辺土地利用(細密数値情報),北関東の明治期(1900年頃)土地利用データなど

指定地域に関するもの 森林地域,都市地域,農業地域,自然公園など

教材・実習・研究成果都市計画情報実習作業イメージデータ,空間情報科学野外実験成果データ,つくば市の小学校区解析データ(現在の学区と解析結果),歩行環境分析マップなど

クリアリングハウス

国土地理院 電子国土事務局 電子国土ポータル

国土地理院 地理情報クリアリングハウス

国土交通省国土計画局 国土情報整備室 国土情報クリアリングハウス

国土交通省 九州地方整備局 熊本港湾・空港整備事務所 有明・八代海 環境情報システム

新潟県中越地震復旧・復興GISプロジェクト事務局 新潟県中越地震復旧・復興GISプロジェクト

ESRIジャパン(株) Geography Network Japan など

ダウンロード可能データ

筑波大学大学院生命環境科学研究科 空間情報科学分野 歴史地域統計データ

総務省統計局 政府統計の総合窓口 など

地理情報サービス/GIS学習情報

国土交通省国土計画局 GISホームページ

NPO法人GIS総合研究所いばらき ホームページ など

E-learningシステム など

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テキストエディタでAXLファイルに

投影情報,カラー情報を付加

ArcCatalogのメタデータウィザードにより

マップサービスのメタデータ作成

マップサービスをメタデータサーバに登録

Geography Networkでの利用WebGISの公開

ArcIMS

AuthorWeb表示マップの作成

(AXLファイルにXML形式で記述)

Administratorオンラインマップサービスの作成

(サービス形式の選定)

DesignerWebGISの設計

原データの作成Shape,GRID形式等

図2 地理データ(マップ)の公開手順

ホストする地理情報に関するポータルサイト

「Geography Network」2)が有名であり,国内で

は,ESRI ジャパン(株)が運営する空間情報共有

のためのポータル「Geography Network Japan」3),

また国土交通省九州地方整備局による「有明・八代

海環境情報システム」4),独立行政法人 防災科学

技術研究所の「地すべり地形分布図データベース」

5),さらに総務省統計局が提供する「地図で見る統

計(統計 GIS)」6)等をはじめ,多くの利用例があ

る.ArcIMS は Web 経由で地理データ,マップ,メ

タデータなどを検索し公開・配信するとともに,簡

単な操作で WebGIS アプリケーションを作成する

ことができ,図1のように機能ごとに分離した多層

構造から構成される.Web ブラウザ上で動作する

HTML ビューア,Java ビューア,Metadata Explorer などのクライアント側からのリクエスト

は,Web サーバを介して,ArcIMS に配信される.

ArcIMS の空間サーバでは,クライアント側からの

リクエストの処理や属性データの取得,マップイメ

ージのレンダリングを行い,最終的に Web サーバ

を介して,空間データとメタデータがクライアント

側に提供される. 2.2.データ整備状況

Geo-Net に登録・配信されているデータは,研究

成果や実習成果としての地理データ(マップ)だけ

でなく,他のクリアリングハウスや地理空間情報に

関する事項,GIS関連授業の情報など多岐にわたり,

それらがコンテンツタイプに分類され,学内ユーザ

に提供されており,表1にその概要を示す. 2.3.データ登録と公開

例えば Shape 形式の地理データを Geo-Net に登

録し,インターネット上に公開する場合,図2に示

す手順が必要となる.最初に ArcGIS Desktop 等で

原データを作成し,ArcIMS の管理ツール群で地理

データをインターネット上に公開するための設定を

行う.おおまかな手順は,まず ArcIMS Author ツ

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ールを用いて,数種類の原データから Web 表示用

のマップの作成を行った後,ArcIMS Administratorツールにより,インターネット上に公開するための,

マップサービスの作成を行う.マップサービスは,

大きくイメージサービスとフィーチャサービスに分

けられ,イメージサービスを選択した場合,JPEG,

GIF,PNG 等のイメージフォーマットのマップが,

リクエストに応じてユーザ側に送信される.次にデ

ータ検索を可能とするため,ArcView(ArcCatalog)のメタデータウィザードを用いてメタデータを付与

する.メタデータは表2に示す ISO(国際標準化機

構)に準拠したもので,これによりデータの検索・

閲覧が可能となる. その他,クリアリングハウス,ウェブサイト,画

像ファイル,文書,地理情報サービスなど,各種の

情報やコンテンツについてもメタデータを付与し,

データ登録を行うことにより,マップサービスと同

様に検索・閲覧ができる. 2.4.Geo-Net の特徴と利用方法

Geo-Netではインターネットに接続できる環境と

通常のブラウザがあれば,Metadata Explorer と呼

ばれる検索画面を通じて,メタデータを参照し,登

録データの検索・閲覧ができる(図3).前述のよう

に,地理情報に関する様々なタイプのデータが登録

されているが,オンラインマップサービスに区分さ

れる地理データの場合,検索された画像データを即

座にブラウザ上で拡大・縮小しながら確認できるた

め,地理データの特性を把握しやすい(図4).筑波

大学では専用のウェブページ7)を開設しており,即

座にこの検索画面にアクセスすることができる.

表2 メタデータの概要 ISO19115 Geographic Information-Metadata に準拠 メタデータの区分 データ概要

一般情報データ集合の題名,作成日,言語,要約,メタデータ作成者,問い合わせ先など

データの系譜 データ集合の作成過程,使用された元情報,工程など

データ集合識別情報データ集合の内容説明,特徴,キーワード,縮尺,更新頻度等の保守情報,使用制限,法律による制限など

空間情報 データが収集された期間,時間,高さ,深さ等の情報

配布情報刊行日,データ配布者,ディジタル刊行形式,オフラインまたはオンラインでの配布形態,購入費用など

また,ArcMap などの GIS ソフトに Geo-Net の登録データを読み込み,手持ちのローカルデータと

重ね合わせ表示したり,GIS ソフトの高度な分析機

能を適用することができる.前述のように,現在,

オンラインマップサービスとしては,土地利用や鉄

道・道路網,河川,公共施設,行政界など国土の骨

格に関するもの,授業における教材,実習の成果図,

教員および学生らの研究成果図など広範囲におよび,

継続して収集整備を進めている.

3.地理情報ポータル(Geo-Net)の活用と意義

GIS教育においては講義によりその理論的基礎を

学習するとともに,実習により具体的教材を分析す

る過程を通じて理解を深める事が重要である.村山

(2004)は学生がコンピュータを操作して GIS を

主体的に学ぶ実習授業の重要性を指摘しており,十

分な数の GIS ソフトと多種多様な教材(地理デー

タ)が必要である.Geo-Net は多様な地理データ,

空間情報にアクセスできる教材として,種々の活用

図3 検索画面(左)と検索結果の表示(右)

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図4 登録データの閲覧(左)と拡大表示(右)

方法が考えられる. 3.2.GIS 学習のための教材提供

3.1.GIS 初心者に対する学習支援 GISソフトを用いた実習には教材としての地理デ

ータが必要であるが,通常それらは授業ごとに,ネ

ットワークや CD メディアなどを通して,学生に配

布され,授業の中だけの閉じられた環境で利用され

る場合が多い.また実習成果としての様々なマップ

は公開されることが少なく,有効利用されないまま

蓄積される事が多かった.

Geo-Net は地理情報ポータルとして,GIS 関連授

業についての情報や,インターネット上の GIS に関

する情報などを広く提供している.したがって GIS初心者は,その機能や操作方法,データ収集方法,

受講すべき授業などについての情報を,Geo-Net を通して得ることができる.また特別なソフトウェア

を必要とせず,登録された様々なマップを,ブラウ

ザで閲覧する事により GIS や地理情報に関して視

覚的・具体的に理解する事ができるため,GIS 学習

の入門編・初心者への学習支援としての役割が期待

できる.

Geo-Net ではこれらの教材や成果を収集し,受講

生以外にも広く公開し,GIS に関する興味を高める

役割を担っている.このような教材として利用でき

る登録データ数が増加し,共有化が進むことにより,

教員にとっても教材選択の幅が広がることになり,

図5 つくば市公共施設データの検索 図6 属性検索による小学校の抽出

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図7 土地利用図とのオーバーレイ 図8 バッファ内土地利用面積の集計

GIS 教育に対する効果が期待できる. また学生にとってはサイトライセンスにより学内

の誰もが自由に ArcGIS を利用できることから,授

業以外でも Geo-Net の多様な地理データを教材と

した学習が可能である.前述の専用ウェブページで

は,登録データを利用した分析例を紹介している. 3.2.1.分析例:バッファ生成による小学校周

辺地域の土地利用分析

この分析例では最初に,図5のように Geo-Netに登録された,つくば市周辺公共施設データ(ポイ

ントデータ)を検索し,そのデータを ArcMap に追

加したのち,小学校を抽出し,その周辺にバッファ

を生成させる(図6).次にラスタ形式の土地利用図

とオーバーレイし(図7),バッファ内の土地利用面

積を集計し,最終的に図8のように小学校ごとの周

辺土地利用種別の割合をパイチャートで表現する.

これらの操作を通じて属性テーブルの構造や属性検

索の方法,バッファ分析手法,土地利用図とのクロ

ス集計の方法などを,理解することができる. 3.2.2.分析例:標高データによる地形分析と

三次元表示

この分析例では,Geo-Net から筑波山周辺地域の

標高値を持ったポイントデータを検索し,ArcMapに追加した上で,分析機能により離散的なポイント

データを補間して標高ラスタデータを生成する(図

9).次にサーフェス解析により等高線や傾斜角(図

図9 標高ラスタデータの生成 図10 傾斜角の算出

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図11 TIN モデルの生成 図12 地形の3次元表示

10)を算出する.さらに等高線から地形のTIN モ

デル(図11)を作成するとともに,標高ラスタデ

ータを用いて筑波山周辺地域の3次元表示を行う

(図12).これらの手順を通して,ポイントデータ

からラスタデータへの変換方法,等高線や傾斜角の

算出など DEM データの取り扱い,および3次元表

示方法について学習できる. 3.3.教育研究成果の公開・共有・利用

従来の GIS 教育過程では実習等で作成したマッ

プ等は公開される事が少なく,公開されても座標を

持たない画像形式で,GIS ソフトで利用する事がで

きない,など有効に活用されてこなかった.これに

対して,成果マップをオンラインマップサービスと

して Geo-Net に登録することにより,ウェブ上で公

開・共有できると共に,ユーザはそれらを用いた新

たな分析を行うことができる.さらに複数の登録デ

ータを組み合わせ,ArcIMS Designer ツールを用い

て,ビューア中心の WebGIS を容易に作成する事が

できるため,特定の教育研究成果の公開・共有化に

も有効である.ArcIMS により作成された WebGISの例として,図13に茨城県つくば市域を対象とし

たつくば市 WebGIS を示す.使用データは,地名,

行政界,大字・町丁目界,道路網,公共施設,水系,

標高,土地利用さらに中心部の航空写真から構成さ

れ,対象地域の拡大・縮小・移動,レイヤの表示・

非表示,データの属性表示等が可能である. 4.まとめ

ArcGIS サイトライセンスと共に導入された

図13 つくば市域を対象としたWebGIS の作成

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空間データの取得

GISで分析

データ格納

GeographyNetwork

教育・研究学習利用

登録

Metadata Explorerによる検索

データ追加

WebGISの作成

GIS関連情報取得

GIS体験

公開・共有

図14 地理データの登録・共有化・有効利用

Geo-Net は,学内外に分散している地理空間情報を

まとめユーザに提供する情報ポータルとして,また

GIS 学習の支援,教材の提供,地理情報の公開・共

有化の面でも効果的であった. これまで,GIS に関する教育,特に演習を中心と

した授業では多くの場合,与えられた地理データを

GIS ソフトにより分析し,成果マップを提出する,

というタイプの授業が多く,地理データの流れとい

う視点でみると,教育者側から受講者側への一方向

の流れが主であった.これに対して Geo-Net を導入

することにより図14に示すように,授業における

成果マップや研究成果を登録・データベース化し,

公開共有化することが可能となり,学生や教員等の

ユーザはそれらを検索して閲覧したり,新たな分析

の材料として利用することが出来るようになった.

すなわち,増加し続ける地理データを共有化し,循

環して利用できる教育研究環境の構築につながるも

のと考えられる. 今後の課題としては,登録データのさらなる拡充

を図るため,多くの研究室や授業担当者から多様な

データを継続的に,効率よく収集する仕組みを構築

すること,また現在,著作権等の問題から学内専用

で運用されているが,データに区分を設けるなどし

て学外への公開も視野に入れた検討を行うべきであ

ると考えている.

1)学内のネットワークに接続されたコンピュータであれば,

ArcGIS Desktop(ArcMap,ArcCatalog,ArcToolbox およ

びエクステンション等)や,サーバGIS(ArcIMS,ArcGIS

Server 等),モバイルGIS(ArcPad 等)などを自由にイン

ストールして利用できる.

2)http://www.geographynetwork.com/

3)http://www.geographynetwork.ne.jp/main/index.jsp

4)http://www.ariake-yatsushiro-system.jp/ay_kankyo/inde

x.html

5)http://lsweb1.ess.bosai.go.jp/jisuberi/index.html

6)http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/toukeiChiri.do?method

=init

7)http://gis.sk.tsukuba.ac.jp/

参考文献

井田仁康・伊藤悟・村山祐司編(2001)『授業のための地理

情報-写真・地図・インターネット-』,古今書院,195p.

尾野久二・村山祐司(2008)フリーオープンソースカタログ

サービスソフトウェアを使った地理空間情報Webサービス

の統合,「地理情報システム学会講演論文集」,17,505-508.

村山祐司(2008)地理情報科学の教授法の確立-筑波大学の

取り組みと今後の課題-,「地理情報システム学会講演論文

集」,17,523-528.

村山祐司編(2007)『地理情報科学の教授法の確立-大学で

いかに効果的にGIS を教えるか-(研究成果中間報告書)』,

112pp.

村山祐司編(2004)『教育 GIS の理論と実践』,古今書院,

81-97.