gisを利用した農薬予測モデルの筑後川流域への適用 · 九大農学芸誌(sci....

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GISを利用した農薬予測モデルの筑後川流域への適用 誌名 誌名 九州大学大学院農学研究院学芸雑誌 ISSN ISSN 13470159 著者 著者 中嶋, 一郎 井芹, 晴香 深田, 泰介 平松, 和昭 原田, 昌佳 Thai, P.K 巻/号 巻/号 64巻2号 掲載ページ 掲載ページ p. 147-160 発行年月 発行年月 2009年10月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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Page 1: GISを利用した農薬予測モデルの筑後川流域への適用 · 九大農学芸誌(ScI. Bull. Fac. Agr., Kyushu Univ.l 第64 巻第2号 147-160 (2009) GISを利用した農薬予測モデ、ルの筑後川流域への適用

GISを利用した農薬予測モデルの筑後川流域への適用

誌名誌名 九州大学大学院農学研究院学芸雑誌

ISSNISSN 13470159

著者著者

中嶋, 一郎井芹, 晴香深田, 泰介平松, 和昭原田, 昌佳Thai, P.K

巻/号巻/号 64巻2号

掲載ページ掲載ページ p. 147-160

発行年月発行年月 2009年10月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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九大農学芸誌 (ScI.Bull. Fac. Agr., Kyushu Univ.l 第 64巻第2号 147-160 (2009)

GISを利用した農薬予測モデ、ルの筑後川流域への適用

中嶋一郎井芹晴 香2・深田泰介2

平松和昭*・原田昌生.Thai Khanh Phong 3

九州大学大学院農学研究続生産環境科学部門地域環境科学講座水環境学研究室

(2009年6月30日受付, 2009年7月13日受理)

Application of a GIS-based Pesticide Runoff Model to Chikugo River Basin

Ichiro NAKASHIMA1, Haruka ISERI

2, Taisuke FUKATA

2, Kazuaki HIRAMATSU*,

Masayoshi HARADA and Phong Khanh THAI3

Laboratory of Drainage and Water Environment, Division of Regional Environment Science,

Department of Bioproduction Environmental Sciences, Faculty of Agriculture, Kyushu University, Fukuoka 812-8581, Japan

はじめに

日本の稲作において,稲の生育を害する多種多様な

病害虫や雑草の防除に農薬の使用は必姿不可欠な資材

となっている.その一方で農薬は病筈虫あるいは雑箪

に対して生理活性を持つ化学物質であるため,近年,

農耕地やゴルフ場などで使舟される農薬が河川や湖沼

などの公共用水域に流出し,飲料水源の汚染や生態系

への慈影響を及ぼしているのではないかという社会的

懸念が強まっている.このような農薬使用の結果とし

て起こりうる環境への影響を未然に紡止する対策を講

じることはきわめて重要である.

これを受け,わが国において農薬の水質汚濁防止に

かかる各種規制,基準などが設定されており,環境省

は湖沼や河川などの公共用水域において,水田で使用

される農薬について一律にモニタリングを実施してい

る.しかしこのようなモニタリングは多大な時間,労

カ,経費を必要とする.またモニタリング結果は農薬

の使用条件や自然条件など様々な条件に依存したもの

であり,特定の条件下における結果でしかない.これ

らの農薬の挙動を支配する個々の要因および,姿因の

関連性を把握することは困難である.環境モニタリン

グに対して数理モデルによるシミュレーションは農薬

の動態研究や流出管理において有効な方法である.数

理モデルを利用する利点として,一定の言平価シナリオ

において農薬の環境動態を迅速に予測できること,土

壌条件,気象条件,散布条件などの様々な条件の下で

の予測ができること,野外試験を行う際の適切な試験

設計が行えること,関場試験にかかる時間・経費を低

減できること,以上が挙げられる.

また,近年の地理情報システム (GIS) と計算機技

術の発達により,地理情報,気象情報,統計情報など

の詳細な空間分布を入手することが容易になってきて

いること,および,最,質,ともに異なる多様なデー

1 1L~トN大学大学説生物資源、環境科学府生産環境科学専攻地域環境科学講座水環境学研究室(現在 NTC コンサルタンツ株式会社)

2九州大学大学院生物資源環境科学府生産環境科学専攻地域環境科学講座水環境学研究室

3臼本学術振興会外国人特別研究員

lLaboratory of Drainage and Water Environment, Division of Regional Environmental Science, Depart-ment of Bioproduction Environmental Sciences, Graduate School of Bioresource and Bioenvironmental Sciences, Kyushu University (now at NTC Consultants Inc.) 2Laboratory of Drainage and Water Environment, Division of Regional Environmental Science, Depart骨

ment of Bioproduction Environmental Sciences, Graduate School of Bioresource and Bioenvironmental Sciences, Kyushu University

3 JSPS Postdoctoral Fellow 本 Correspondingauthor (E-mail: [email protected])

147ー

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148 中嶋一郎ら

タを位置情報と結びつけたまま統一的に扱うことが可

能となってきている.それにより流域スケールが拡大

しでも空間的な分布特性を忠実に反映させる分布裂モ

デルの構築が容易となってきている.分布主主モデルの

メリットは流域の任意の地点での流量,汚濁負荷量な

どを推定できる点にあり,しかもそのプロセスを物理

的に追従しているために,流域内の人間活動や自然条

件の変化などの空間的な分布特性を計算に反映させる

ことが可能なことにある

こうした背景の下に, これらを統合した流域ベース

での水質モデルによる, *63に使泊される農薬を対象

とした流出解析に関する研究は, Matsui et al.

(2006), Karpouzas et al. (2006)などによりなされ

ているが,あまり進んでいない.その原因としては,

農薬の散布民散布震が最終的に営農者の判断に任せ

られている点,および一筆レベルの水管理が農薬の系

外流出震に大きな影響を与える点など,パラメータ設

定の難しい部分にあると考えられる.本研究では筑後

!IIを対象に細密流域情報 (GISデータ)を利用した

分布裂水収支モデルをベースに,農薬動態予測モデル

を組み込むことで農薬の挙動を再現し,流域内におけ

る農薬の動態について考察する.

本研究の実施にあたり,水資源機構筑後川下流総合

管理所,福岡祭執念農林事務所,福岡県南広域水道企

業団,福岡地区水道企業団,久留米市企業局浄水管理

センターから,河川流量,取水量,ダム放流量,河川

水中農薬濃度のデータを提供頂いた.記して,謝意を

表します.

材料と方法

1.研究対象地域

本研究では筑後}IIの筑後大堰から上流側を対象流域

とした 筑後}I!は熊本県阿蘇郡瀬の本高原を源流とし,

福岡県,佐賀県,熊本県,大分県にまたがる九州地方

最大の一級河川である.流域面積は2,860km人流路

長は143kmで,解析対象となるのは筑後大堰よりも

上流の約2,100km2である.上流域に呂田市,中流域

に久留米市,および下流域に大川市,佐賀市など主要

都市が位置しており,九州北部における社会,経済お

よび、文化活動の基盤となっている.流域の治*,手IJ水

は古くから行われており,流路上の筑紫平野は,稲作

をはじめとした農業が盛んな地域である.土地利用に

関しては,上流域は,大部分を森林が占め,中流域で

は,主に水田からなる耕地と都市域が占めており混住

化が進行しているのがこの地域の特徴となっている.

図 1 研究対象流域

水道水源となっている一方,稲作期には多数の農薬が

検出されている そのため農薬の挙動の把援を行う必

要E性が非常に高い地域となっている.

本研究で再現の対象とする流最データは, 2005年4

月 ~8 月筑後大堰における流量(筑後大壊直下流量+

大寝取水量)とした.再現対象となる河川水中農薬濃

度データは, 2005年 4 月 ~8 月来櫛際取水場における

農薬濃度(対象となる農薬:除草剤ブロモブチド,

メフェナセット,カフェンストロール,プレチラクロー

ル)である 流量計測地点の筑後大堰,河川水中農薬

濃度計測地点の東櫛原取水場,および流域上のダム 4

地点を筑後川流域の地図とともに図 lに示す.また本

研究で使用したデータ一覧を表 lに示す.

2. GISによる流域のモデル化

(1) GIS (Geographic Information System) とは

地球上には様々な物事が存在あるいは生起している.

この事物の位霞,形,属性に思号する情報を地理情報と

呼び,地理情報を取り扱うコンビュータシステムおよ

びに地理情報自体を含めて GISという. GISでは,

様々な地理情報を取り扱うことができ,さらに地理情

報の加工や解析,データベース作成などの様々な情報

処理によって,必主主とする地理情報のみを容易に抽出

することができる

(2)本研究で使用する GISデータ

本研究では GISデータとして,国土交通省国土計

額局の国土数値情報ダウンロードサービス (http://

nlftp.mlit.go.jpjksjjindex.htmD からインターネッ

ト上で公務されている以下のデータを用いた.

-土地利用 3次メッシュデータ(平成9年度)

全国の土地利用の状況について, 3次メッシュ

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GISを利用した農薬予測モデルの筑後}II流域への適用 149

表 1 モデル再現に利用したデータ

使用データ

標高・傾斜度 3次メッシュデータ (S56)流域情報 土地利用 3次メッシユデータ (H9)

流量

水質

気象

行政区画データ(H15)

ダム放水量(松原・下釜)

ダム放水量(寺内.IT}lD ダム放水量(合所)

取水量(下流筑後・佐賀,福陪導7]<)

筑後大壊霞下流量

農薬濃度データ

アメダスデータ

農薬製剤i別県別出荷量

農薬 農薬製剤有効成分含有率

(約 1km四方)毎に,各利用区分 (ffi,畑,果

樹園,森林,荒地,建物用地,幹線交通用地,湖

沼,河川等)の面積をま妥備したもの

-標高・傾斜度 3次メッシュデータ(昭和56年度)

襟高(平均,最高,最低),最大傾斜角度・方角,

最小傾斜角度・方角について 3次メッシュ(約

1km凶方)毎に整備したもの

・行政区画データ(平成15年度)

全国の行政界について,都道府県s,支庁名,郡・

政令都市名,市区町村名,行政コード等を整備し

たもの

(3)流域のモデル化

ここでは,流域の様々なデータを GIS上で処理す

る手111震を提示する.なお 3次メッシュデータのメッシュ

のサイズは約 1km凶方であるが,本研究では計算時

間の短縮のためにメッシュの大きさを,各 2km四方

に統合して使用する. GISデータの加工に関しては,

ArcGIS (Esri Japan社)を利用した.

①流域データの作成

ソフトウェアJ二で地理情報を利用して,土地利用 3

次メッシュデータ,標高・傾斜度3次メッシュデータ,

行政区域データをE重ね合わせ, 1つの流域データ(標

高,土地利用および行政区画からなる)を作成する.

②流下方向の決定

各メッシュにおいて,隣接する 8方向のメッシュと

の標高を比較し,最急傾斜方向になるメッシュを落水

方向とする.手喜水方向を探索しそのメッシュが凹地で

入手先

関土数値情報

http://mlit.go.jp/kokudokeikaku/gis/index.html

国土交通省ダム諸量データベース

http://www2/river.go.jp/dam/ 水資源機構筑後川下流総合管理所

福岡県朝倉農林事務所

水資源機構筑後川下流総合管理所

水資源機構筑後川下流総合管理所

福岡県南広域水道企業団

福岡地区水道企業EB,久留米市企業局浄水管理センタ一

層土交通省気象庁ホームページ

http://www.jma.go.jp/jma/index.html

農薬婆覧, 日本植物防疫協会

農薬・農業情報サポート,農林水産消費安全技術センター

http://www.agriculture.jp/agr /home.seam

あれば,そのメッシュの襟高をわずかに上昇させ,落

水方向への追跡をやり直す.この過程を緩て海川を抽

出する.各メッシュの擦高により地形を表現した

DEMを図 2に,襟高データから摘出した海道を凶 4

に示す

③計算領域の決定

流域の下流端となるメッシュを設定し,そのメッシュ

より上流側のメッシュを流域と設定した.また,計算

ではダム放流蚤を直接与えるために,流域上のダム 4

地点も流域界とした.それにより決定した流域界を図

3に示す.

④土地利用の湾設定

土地利用 3次メッシュデータには, 12種類に分類さ

れた土地利用データがメッシュ内に収められている.

ここで,類似した流出特性を持つものをまとめ,モデ

ルを街路化する方針で,以下の 5分類に再分類する.

分類 1(山地):森林,荒地,ゴルフ場

分類 2(水沼):回

分類3は阪地):他農用地

分類 4(都市):建物用地,幹線交通用地,その他用地

分類 5(水域): i飯沼, iiiJJII,海浜,海水域

ただし, 71<1収支モデルの計算上では,分類 2(水田)

に関しては漆海賊のみ存在し,それ以外では分類 3

(畑地)に含まれるものとする.再分類した土地利用

を図 4に示す.

⑤気潟,降水重量データの配分

近傍のアメダス観測地点の位置情報を GIS上に入

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150 中嶋一郎ら

カし,その位置データを利用し, Thiessen法により

雨量を配分する. Thiessen法とは,雨量緩測値が, 1

地点の降雨蚤(点雨量)であるため,河川の流域全体

における降雨量(面雨蚤)を知るために,任意の悶景

観測所が支配する箇穣(当該観測所の降雨が代表降雨

となり得る範顕)を幾何学的に捉える方法である.具

体的には,流域内外の雨景観測所を直線で結ぶことに

より三角形網をつくり,各辺の垂直二等分線によりで

きる多角形を当該銭測所が支配する面積とするもので

ある. Thiessen法で配分した計算対象内のアメダス

観測地点の支配領域を図 5に示す.気温データが不足

するアメダス観測地点(九千部山,耳納山,椿ヶ鼻)

については,距離の逆数による加重平均をとり補完し

た.

3.分布製水収支モデル

(1)水収支モデルの概念

Matsui et al (2006) のモデルを参考にして分布

裂水収支モデルを構築した.このモデルでは,流域を

複数のメッシュに分割し,各メッシュ内に複数のコン

パートメントを設霞し,各コンパートメントでの物質

の挙動について収支式を用いて表現した 各メッシュ

内における物質の挙動の概念、図を図 6に示す.計算に

はRung←KuttaωGill法を使隠し,計算時間ステップ

は30秒とした.

水量流出過程における適用条件・仮定を以下に挙げ

る.

1)平面的にはメッシュ裂,鉛底的には多層型を用い

て,メッシュ型多層流出モデルを適用した.

2) メッシュ帳は, 2km四方とした

3)各メッシュは,土地利用に応じた面積で配分され

た河川7]<,河床,回前7]<,水田土壌 A,7]<83土

壌 B,山地表層,山地土壌,畑地表題,般地土壊,

深層土壌 A,深層土壌 B,都市の12のコンパー

トメントから構成される.

4)水田に関するコンパートメントは,非i肇j筏期は畑

地として扱った.

5 )積雪の影響は計算期間中においては無視できると

し,考慮していない.

6)各コンパートメントの水深の初期績は,モデルを

使用して初期値ゼロの状態から 1年間計算を行い,

そちらの値を実流量と適合性を高めるために試行

錯誤的に変化させて与えた.

7 )コンパートメント間では溶液の濃度,そして水位

は均一と考えられ,それは一つの変量で表される.

ail2 対象流域廃辺の DEM

図3 抽出した海道および流域界

ail4 再分類された土地利用

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GISを利用した農薬予測モデ、ルの筑後川流域への適用 151

図 5 Thiessen法により分割された観誤IJ地点の

支配地域

図6 モデル内の物質挙動の概念図

8)タeム放水量は,ダムを含むメッシュの流下方向の

メッシュに海川流量として与えた

(2)蒸発散過程

蒸発散量の算定には, Thornthwaite法をもちいた

この算定法は,気象学や水文学の分野で広く適用され

ている方法で与えられた気象条件の下で,密に地

表面を覆った緑家地に十分に水を供給した場合に失わ

れる蒸発散量j と定義され,いわばその地点での最大

可能蒸発数量である.最大可能蒸発散量は式(3.1)で

表される.

(lOT¥a(N¥( 1¥ E~^.. = 161一一一 11-:-::-11 - I

¥1, )¥12 J¥30 ) (3.1)

ここに

1, = ~(子)l.514

a = (0.6751,3-77.1//-17,9201,+492,390) X 10-6

δ= 0.4093 cos{0.01689(D-173)}

N= 24(ω。)lC)

ここで Emax:日最大蒸発散最 (mmd-1),T:月平

均気温 ("C),N:月平均可照時間 (h)

D: 1月l日から対象日までの通算日数 (d),<t:

対象地点の緯度 (rad)である. 日蒸発散量は, 日最

大蒸発散量 Emaxに標準値0.7を乗ずることで,算出し

た(照ら, 2002).

(3)流れの基礎式

山地表層,畑地表l霞,都市表層および河川水コンパー

トメントにおける表層の水の流れは Manning式で表

現されるものとすると,式(3.2)で表現される.

A . 1 .,片山

Qh=っ::"h • h'lJ 11/ZX24x3600 (3.2)

~ n

ここで, Qh:水平方向流量 (m3d-1),A コンパー

トメント面積 (m2), L :河道長またはメッシュ長

(m), h:水深 (m),n:等級粗皮 (m山 s),1:傾

斜である.

地下のコンパートメント(山地土壌,畑地土壌,*白

土壌上層,水国土壌下層,深層土壌上層,深層土壌下

層)の水の流れは, Darcy!'(IJに従うと仮定すると式

(3.3)により表現される.

Qh = ah (3.3)

ここで ah :水平方向浸透係数 (md-1),B:グリッ

ドセル悔 (m) である

鉛産方向の流量に関しては,地表部では水深に,地

下層では騎厚に対する水深の比に,浸透係数をそれぞ

れ乗じて算出した.鉛直方向の流量の基礎式を式(3.4)

に示す.

Qv =川(去) (3.4)

ここで, Qv:鉛直方向流量 (m3d-1),av 地表面に

おける鉛直方向浸透係数 (md-1), hc: J霞厚 (m),

但し地表面の計算を行う場合,hc = 1とする.

各係数は同様パラメータ決定の簡易化のためグリッ

ドセルのタイプに係らず,同じコンパートメントなら

ば同じ値を示すとし,土地利用に応じて文献儀を利用

し,試行錯誤約に決定した.水収支モデル内で計算に

使用したパラメータを表2に示す

(4) *63モデル

水田水位に関しては,実際の水管理をモデ、ル化する

ことを念頭に肇獄期間中は別途定める期別港水深が

維持されるように潅j慨するものとした.期別湛水深に

関しては, JAくるめ発行のヒノヒカリの栽培墜に従

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152 中嶋 虫日 ら

い設定した.設定した期73IJI甚水深を,図 7に示す.移

植時期に関しては, 6月 1Bを中心とした10日間の幅

で正規乱数を用いて表現する このモデルでは,7.1<聞

の水深が希望する水深に合うように河川からの濯滋水

蚤,河川|への排水量が調節されている.滋j銃水量i,排

水量は現在の水深と賎73IJ湛水深の差によって与えられ,

瀧減水量が式(3.5)で,排水最が式(3.6)で表現される

震コンパートメントの水深により決定され,式(3.7)

で表現される.

Qin = A.αin' max(O,ho-h) (3.5)

Qv.w =αv.wAw

when hw > 0 and hx < hxo Qv. w = 0

when hwロ oand hx = h

(3.7)

Qout = A 'aout max(O, h-ho) (3.6)

ここで, Qin:濯j銃水蚤 (m3d山 1),Qout:排水嚢 (m3

d-1), ain

:濯減効率 (d吋 1),ao叫:排水効率 (d 1),

ho:期73IJ湛水深 (m) である.il~r~~~~~~--~~~~~~~~

田頭水コンパートメントの鉛磁方向の流れは,回面

7.1<コンパートメントとその直下に位置する水沼土壌上

6/1 711 811 911

an7 設定した期73IJI甚水深

表 2 7.1<収支モデルで用いるモデルパラメータ

等価粗度

鉛直方向

浸透係数

水平方向

浸透係数

層厚

Fお水速度

排水速度

土壌密度

土壌間隙率

パラメータ

n

G V

ah

hc

ain

aout

ρd

rp

吋 1/3立1 .,-s

md 1

mdω1

立1

d d -1

kgm山 3

コンパートメント

j可)1171く山地表層

畑地表層

都市

山地表層

山地土壌

畑地表層

畑地土壌

水田土壌A

7.l<EE土壌B深層土壌 A

深層土壌B都市

山地土壌

畑地土壌

7.1<回二七壌 A

7.1<国土壌B深層土壌 A

深層土壌B

山地土壌

煩地土壌

水田土壌 A

水田土壌8

深層土壌 A

深層土壌B河床

{直

0.04 0.7 0.3 0.03

0.13 0.13 0.6 0.6 0.01 0.09 0.035 0.1 。2500 840 0.01 70 1400 155

0.1 0.1 0.005 0.095 l

5 0.1

5 2

2600 0.5

決定方法

文献値

文献値および

試行錯誤的決定

文献{直および

試行錯誤的決定

文献値

文献値

文献{直

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GISを利用した農薬予測モデルの筑後川流域への適用 153

ここで,添え学 Wは田商水コンパートメントを,添

え字Xは水田土壌Aコンパートメントを表している。

Qv. w 鉛直方向流量 (m3d日 1),針。 w 鉛直方向浸

透係数,Aw 面積 (m'), hw, hx :水深 (m),hxo :

7./<.E13土壌Aコンパートメントの深さ (m) である。

水悶土壌 Aおよび水回土壌Bコンパートメントにお

ける鉛霞方向浸透係数は7./<.E13の平均約な鉛直浸透率か

ら,港減速度,排水速度では実際の水田の港減速度,

および排水速度から決定した(表2).

また,E13面水コンパートメントの排水は,同一メッ

シュ内の河川水コンパートメントへと流入し,濃減水

は,間ーメッシュ内の河川水コンパートメントから取

水するとし,同一コンパートメント内の河川水コンパー

トメントの水量が濃瀬水を供給するのに不十分な場合,

流下方向のメッシュの河川水コンパートメントから濯

減水を得るものとした.

4.農薬動態予測モデル

(1)農薬モデルの概念

本研究では,農薬の挙動に関しては,図面水および、

その直下のコンパートメントに関しては稲生 (2004)

による Paddy-2モテ守ルを参考にモデルを構築し,前

述の水収支モデルの問面水コンパートメントに導入し

た.

農薬動態予測モデルの構築における仮定を示す.

1)問面水コンパートメントに投入した農薬は, ~8

で示される,国簡7./<., 7./<.E13土壌A, 7./<. EI3土壌 B,深層土壌A,深層土壌B,可床および河川水コ

ンパートメント内で移動し,他のコンパートメン

トには存在しないものとする.

2)各コンパートメント間の農薬の挙動プロセスとし

て,製剤からの有効成分の溶出,7./<.国土壌への吸

義,間面水への脱着,表商流出,鉛直浸透,大気

への揮発,および回濁水中および土壌中での分解

があり,化学的反応は, 1次反応式として表現さ

れる.

3)農薬水中濃度は,もし農薬の蚤が水溶解度を越え

た場合,水溶解度として与える

4)土壌コンパートメントは孔隙水と土粒子で構成さ

れる.

5) コンパートメントが干し隙水と土粒子で構成されて

いる場合,土相と水相関で吸脱着が起こる.

6)印面水コンパートメントに吸脱着で影響をおよぽ

すのは,7./<.悶土壌Aコンパートメントのみとす

る.

図8 農薬動態モデルの概念図

7) 吸脱着は,常に平衡状態である(吸着プロセスは

郎座に起こり線形の 1次反応式で表現).

8)土相一二仁相関での溶質の移動はこ仁相一水相関での

物質移動と比較して遥く,全体の溶質の移動に対

しては,影響をあたえるようなものではないとし

9 )植物体による取り込みはこのモデルでは考慮され

ていない. (その他の過程によるものより輸送よ

りも小さく無視できると考えられるため.)

10)農薬の粉体の風による流出は考慮していない.

(対象となる農薬が風で流されやすい製剤形態で

はないため)

11) SSに吸着される形としての農薬は考慮していな

い. (水田からの農薬の流出特性に関する研究に

おいて農薬の濃度,検出頻度において, SS態は

溶存態と比較して非常に少ないということから.)

12)ダム上流僚IJに位援する水田が少ないことから,ダ

ム放水の農薬濃度は無視できると考えゼロと設定

した.

以上の仮定から各コンパートメントにおいて物質収支

式を立てて,農薬の挙動を追跡する.

(2)物質の挙動の基礎式

製剤からの農薬有効成分の溶出は, Nearestと

BrunIlerによる二層薄膜移動理論により次の一時反

応速度式で表すことができる (Grandand Higuchi,

1990) .

dC -.,-.W = k.(Cws-Cw) dt

(4.1)

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154 中嶋一郎ら

ここで Cw :水中の農薬濃度 (gm-3), ks: i容出速度

定数 (d-1), CWS :農薬の水溶解度 (gm-3) である.

水と土壌粒子関での吸着,税着は一時反応速度論で

表されると仮定し, Freundlichの吸者等温式を用い

ることにより,土壌中の農薬濃度変化は次式のように

表される (Davidsonet al., 1973).

パCo ~~ _11" -.~.s = k,"oK,c:;n-k,,"oC (4.2) dt . ~ aus--, -w

ここで, CS :土壌中の農薬濃度 (gm-3),kads:吸着

速度係数 (d-1), kdeS:脱着速度係数 (d-1),K[:フ

ロインドリッヒ吸着係数 (g/g), l/n:非線形度であ

る.

水相と気相問の物質移動は LewisとWhitmanに

よる二層簿膜移動理論により次式のように表される

(Lewis et α1., 1926).

パr;v一;,W = -KLACw (4.3) dt

ここで,V:出面水体積 (m3), KL :揮発速度定数

(md '), A:問面面積 (m')である.

水中および、土壌中の分解フ。ロセスは一時反応として

取り扱うこととしそれぞれ式(4.4),式(4.5)で表され

る.

けれ.::=.:!L = -k出"c.. (4.4) dt

(4.5)

ここで,kd、、:水中分解速度定数 (d-]), kds・土壌

中分解速度定数 (d ])である.

農薬の流入,表前流出および鉛直浸透は次式で表さ

れる.

dC vー--l-./.W = Qiιn-QoutCw-QvCw dt

(4.6)

ここで, Cin:用水中の農薬濃度 (gm-3),Q;n:用水

の流入量 (m3d“'), Qout:図面水の流出量 (m3d-]),

Q,.: a頭水の降下浸透景 (m沼町')である.

(3)モデルパラメータ

粒弗iの溶解に関するパラメータとして,溶出速度定

数ks' 水溶解度 Cwsがある.製剤jからの溶出速度係

数は,本研究では,単位面積当たり農薬投入量が少な

くなることおよび製剤としてフロアブル剤(水和剤)

の使用が多いことから溶出は速やかに進行すると考え,

投入した燐間,完全に溶解するものとして設定してい

ない.

吸脱着に関するパラメータとして,フロインドリッ

ヒ吸着係数K[,非線形度 l/n,吸着速度定数kabs,

脱着速度定数 kd田がある. フロインド 1)ッヒ吸着係

数を実験により得られない場合,土壌吸着平衡定数を

フロインドリッヒ吸着係数として用いる.この場合,

非線形度 l/n= 1である 土壌吸着において,有機

物への吸着が主体と考え,土壌吸器平衡係数は土壌吸

着定数Kocと土壌中の有機炭素含有率九c'そして水

溶解度 Cwsを用いると次式で求められる.

log Koc = -0.55x log Cws十3.64 (4.7)

K" = K",,>くふLロ 100

(4.8)

吸着速度係数と脱着速度係数は等しいと仮定し,脱箸

速度係数は水溶解度と正の相関が見られ次式で求めら

れる.

kd出=0.039十3.0XlO-"XCws (4.9)

海発速度係数はしiss (1974) および Mackay

(1975)が与えた式により,次のように求められる.

KL=(十五日-lklzJF kg=j事 (4.10)

ここで,Hはヘンリ一定数,MWは化学物質の分子

量であり ,Hについては(4.11)式から算出される.

AA

VP

×一W一T

M一×s

x一一C

A斗晶一

nu…

nhv

一H

ここで, v,,:化学物質の蒸気圧 (mmHg),T:絶対

温度 (K) である.

分解に関するパラメータとして,水中分解速度定数

kdw,土壌中分解速度定数kdsがある. これらの速度

定数はそれぞれ,水中における半減期 DT50wate,と土

壌中における半減期 DT5C叫により求められる

k.... = _~693 -dw DT 50water

(4.12)

L = 0.693 一一

由 DT50田i1

(4.13)

ここで,水溶解度と吸着性に関しては,製剤に添加

できる補助剤により変化させることができ,散布され

る農薬の物性を修正することができる.しかし,補助

剤の効果は補助剤についてのデータが無いため考慮し

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GISを利用した農薬予測モテゃルの筑後JII流域への適用 155

ていない.

本研究で対象とする農薬の物性値とパラメータを表

3に示す.

(4)農薬の投入量の決定

農薬の流通経路には近年情報整備が進みつつあるが,

詳細な追跡は現夜行われていない.また,散布最およ

び散布日などの最終的な決定が営農者の判断によるも

ののため,詳細な散布量,散布日のデータは流域全体

で開き取り調査等を行わない限り入手国難である.

本研究では,以下の過程で出荷量を算定した 農薬

要覧から対象農薬を有効成分として含む製剤を抽出す

る. こちらは農薬要覧(日本植物防疫協会, 2006)を

利用した 各農薬の製剤の含有率から,県別に出荷さ

れた農薬有効成分総還を算定する.各製品の農薬の製

期jの含有率はインターネットJ二のデータベース(農薬・

農業情報サポート http://www.agriculture.jp/agr/

home.seam)を参考とした

GISデータである土地利用 3次メッシュデータお

よび行政区画データより各県における水田面積を計算

し,県別単位面積当たり農薬有効成分使用量が算定で

きる.

各メッシュにおける回面水コンパートメントへの投

入震は,上記の景に田面水コンパートメント商積を乗

じたものとする 農薬散布時期は,穏の移植日に準ず

る形で与えられ(移植後日日),その日を基準に,散

布時期には偏差があると考え, 5 B間の幅で,正規乱

数を用いて散布日を決定した.対象農薬の県別出荷量

を表4,5, 6, 7に示す.

表3 農薬の物性綴およびパラメータ

パラメータ メフェナセット ブロモブチド カフェンストロール プレチラクロール

MW 298.4 312.3 350.4 311.9 Cws mgjL 4.00 3.54 2.50 50.00 VP mmHg 4.80X10-1O 4.18X10→ 7.60X10 10 9098X 10-7

Kf gjg 91.01 19.59 79.11 18.84 DT50s0il d 30 40 25 30 DT50water d 30 40 670 200 Kads d 1 5.lOXlO-2 4.96X10-2 4.65X10-2 1.89XlO 1

Kdes d ωI 5.lOXlO-2 4.96XlO-2 4.65X10-2 1.89XlO-' KL

md-' 3.46XlO-8 3.48X 10→ 9.51X10-7 5.98XlO-5

Kdw d -1 2.31XlO-2 1.73X10-2 2.77X10→ 2.31XlO-2

Kds d-1 2.31XlO-2 1.73X10-2 1.03XlO-3 3.47XlO-3

表4 農薬の有効成分出荷量(ブロモブチド)

有効成分名 種類コード 商品名 県日IJ出荷量 (t) 含有率(%)県別有効成分出荷最 (t)

福陪佐賀大分 福岡 佐賀 大分

ブロモブチド 44536 三共シーゼットフロアブル 11.1 1.2 0.7 10.0 1.11 0.12 0.07 44705 シンエート 1キロ粒剤 0.5 6.0 0.03 44827 ナイスショットジャンボ 12 2.9 18.0 2.16 0.52 44907 JAサムライフロアブル 3.9 0.2 12.0 0.47 0.02 44912 サムライジャンボ 3.2 12.0 0.38 0.12 44976 リボルバーエース 1キロ粒剤 6.0 45024 ラクダープロ Lフロアブル 0.3 1.3 12.0 0.04 0.16 45063 パワーウルフ 1kg粒剤 27.1 9.0 2.44 45065 クサトリー DXジャンボL 0.3 15.0 0.05 45070 ラクダープロ 1キロ粒剤51 0.1 6.0 0.01 45094 デュポントップガン GT1キロ粒剤51 1.2 0.4 0.7 9.0 0.11 0.04 0.06

総計 (t) 5.06 2.62 0.96

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156 中嶋一郎ら

表 5 農薬の有効成分出荷量(メフェナセット)

有効成分名 種類コード 高品名 県別出荷量 (t) 含有率(%)祭別有効成分出荷量 (t)

メフェナセット 44507

44527

44552

44593

44595

44596

44618

44716

44725

44788

45063

有効成分名 穣類コード

カフェンストロール 44710

44711

44713

44739

44740

44742

44755

44758

44763

44764

44827

44829

44901

44933

45017

45024

45070

45090

45113

45114

福岡佐賀大分 福岡佐賀大分

ザーク D粒剤17 52.9 2.2 30.6 3.5 1.852 0.077 1.071 ヤシマアクト粒予報 19.9 1.6 28.3 3.5 0.697 0.056 0.991

バイエルウルフェース粒剤17 1.1 79.3 1.0 0.011 0.793

ヤシマアクト lキロ粒予報 5.6 1.0 10.0 0.560 0.100

ウルフェース 1キロ粒剤 2.7 22.3 1.0 3.0 0.081 0.669 0.030

ザーク D1キロ粒RiJ51 20.3 3.4 0.6 10.0 2.030 0.340 0.060

バトル粒期j 3.4 9.0 18.4 3.5 0.119 0.315 0.644

プロスパ-1キロ粒剤51 0.2 0.2 2.3 0.005 0.005

リボルバー lキロ粒剤 24.0 15.6 6.1 7.5 1.800 1.170 0.458 武田ロンゲットフロアブル 1.5 3.1 0.5 8.0 0.120 0.248 0.040

パワーウルフ 1kg粒剤 - 27.1 4.5 1.220

総計 (t) 7.2625 4.2055 4.0905

表 6 農薬の有効成分出荷量(カフェンストロール)

商品名 県別出荷量 (t) 含有率(%)県別有効成分出荷量 (t)

福陪佐賀大分 福間 佐賀 大分

ストライカ-1キロ粒剤 1.0 2.1 0.021

クラッシュ 1キロ粒剤 2.4 0.4 2.2 3.0 0.072 0.012 0.066

ウィードレス粒剤17 5.6 1.0 0.056

ラクダーLフロアブル 2.1 0.9 5.5 0.116 0.050

ウィードレス lキロ粒弗U51 0.9 3.0 0.027

クサトリエース Lジャンボ 3.8 3.6 4.1 7.0 0.266 0.252 0.287

永光ジョイスターLフロアブル 3.5 9.5 0.2 4.2 0.147 0.399 0.008

ジョイスター 1キロ粒剤51 6.1 0.2 2.1 0.128 0.004

ネビロス 1キロ粒剤 0.1 3.0 0.003

ネビロスジャンボ 1.0 3.0 0.030

ナイスショットジャンボ 12.0 2.9 4.0 0.480 0.116

テクノスタージャシボ 0.6 0.5 0.9 7.0 0.042 0.035 0.063

クラッシュ EXジャンボ 1.7 0.8 1.4 4.2 0.071 0.034 0.059

レッドスクープロアブル 0.1 0.1 0.4 4.2 0.004 0.004 0.017

SDSテクノスターワイドジャンボ 0.7 0.1 0.1 5.3 0.037 0.005 0.005

三共ラクダープロ Lフロアブル 0.3 5.5 0.017

三共ラクダーブロ lキロ粒剤51 0.1 3.0 0.003

SDSテラガードフロアブル 0.9 4.2 0.038

テラガード 1キロ粒剤51 0.2 2.1 0.004

テロス 1キロ粒郊 8.6 2.1 0.181

総計 (t) 1.3825 1.0207 0.755

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157 GI8を利用した農薬予測モデ、ルの筑後J!I流域への適用

農薬の有効成分出荷最(プレチラクロール)表 7

含有率(%)県別有効成分出荷量 (t)

福阿 佐賀 分一口一部

0.070 0.040 0.050 0.003

0.028

0.002 0.032

0.002 0.009

0.005 0.060 0.136

0.360 0.122 0.108

0.419 0.023

0.036

0.044

0.051 0.432

0.024

0.110 0.104 0.018

0.878 0.063 0.175 0.193 0.025

qunHUFhυ

ハHυξuphυnυphu

ハHunHUwhυnHVFKυFヘυハHunhunバυ

ハXU

..••.•.••

041AQ4噌

i

A生

A41iFhυnMUS生

υ

4

A

A

4

7

・ηiτiti

BB白血

県別出荷量 (t)

佐賀大分

11.4

0.4

0.1 0.2

1.4 0.5 1.1

0.1

一4一一

ioA

ハHu

n

H

V

327.

AHU宅

BAτ,ム

12.0 2.7 2.4

23.3 1.3

0.3

福岡

-

o,白

A4BAρhv

。,μηべυη4Jυ

一β

一3

3

4

n

U

0

4

1

i

19.5 0.9 2.3 10.7 1.4

商品名

石原ワンオール粒剤

武田バレージ粒奔!

三共スラッシャ粒溺

エリジャン粒剤

ICIスパークスター粒剤

スパークスター lキロ粒剤

ソルネット 1キロ粒剤

ハヤテ粒剤

ユニハーブフロアブル

白藤ブローダックス粒剤

石原ワンオール81キロ粒剤

SDSパデホーフ01キロ粒剤

シエリフ 1キロ粒剤

三共スラッシャ lキロ粒剤

クサナイン Lフロアブル

SDSクサコントフロアブル

アピロスター 1キロ粒郊

アピロトップlキロ粒剤51

種類コード

44421 44466 44550 44573 44576 44611 44613 44617 44633 44651 44653 44655 44687 44844 44877 44952 45027 45029

有効成分名

プレチラクロール

2.1161 1.2688 0.4122 総計 (t)

o 50

1開

帯決弊(ヨミ一色)

水収支モデ、ルの再現給泉

811 611

日{t

巨週

511 0 411

2XIOi

旬、'"'s 1 XI08 )

端器

結果と考察

1.水収支モデル再現結果

水収支モデルによる筑後大壊直上流量の再現結果を

図9に示す.ピークの位置,流量および低水時の水位

など,波形として十分に満足できる結果が得られた.

実演.IJfI践と観測値の相対誤差 (RE) は0.246,再現期間

中の(計算総流量/実測総流量)が0.885と,良好な値

を得られ,これらにより水収支モデルの再現性は十分

といえる.

回9

いかと考えられる.またピーク濃度に関しては,ブロ

モブチド,メフェナセットの 2種類の農薬が,カフェ

ンストロール,プレチラクロールと比較して再現性が

高かった. この原因として考えられるのは農薬の普及

率の差である.福岡県での農薬有効成分出荷量は表4,

5, 6, 7を参考にすると,それぞれ5.02t,7.26t,お

よび1.38t,2.1ltであり,前者は広く用いられている

が後者の使用には地域的な偏差があると考えられる.

以上から, 6月前半の再現率と,使用蚤が少ない農薬

のピーク値の予測l精度の低さは,詳細な農薬の入力デー

タの必要性を示唆するものと考えられる より詳細な

穏作の作付け時期の管理,水管理,農薬散布時期およ

び散布嚢の臼程の設定を行うことで,モデルの再現性

は格段に向上すると考えられる.

2.農薬濃度再現結果

研究では, 4種類の物性の異なる製剤(ブロモブチ

ド,メフエナセット,カフェンストロール,プレチラ

クロール)について計算を行った.その計算結果を図

10に示す.計算に乱数を使用しているため,各10間計

算を行いその最大値,最小伎を示している.ピーク時

の濃度儀の変化およびそのタイミングを良好に再現し

ている.ただし, 6月前半における実測値を再現する

には至らなかった. これは,計算上での農薬の生育ス

ケジュールの設定 (6月 1Bを中心とした10日間)に

原因があると考えられる.すなわち筑後川近辺の稲作

の栽培体系では, 5月中に移様する水聞も存在してお

り,そこで使用された農薬が検出しているためではな

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158 中嶋一郎ら

また,分布裂モデルは,任意の地点での予測値を表

現できるという利点がある.図11は各メッシュにおけ

る河川水中でのブロモブチドの濃度について時系列変

化を表現したものである.主河道と支川とを比較する

と主河道では,農薬投入に対する濃度の上昇が速や

かであることがわかる.また,主河道は比較的高い濃

度を示すことが少なく,支流の方がより高い値を示す

ことが見て取れる.これは,主河道では水田からの排

水量に対する河川流震が非常に大きいことが原因と考

えられる.一方,支川では,水沼排水震に対する河川

流蚤が主河遂と比較して少なく,高濃度の期間が長期

間継続しやすいため,農薬による生態系への悪影響が

出やすい地域である.よって,農薬散布が行われた際

にリスクが大きくなるため,その影響を抑えるために

詳細なモニタリングが必要とされる地域といえる.

3.止水期間についてのシナリオ分析

農薬の使用において,農薬散布効果の維持,7J<悶系

外への農薬流出の阻止のために,通常,農薬散布後に

忠商水の表街流出を起こさない止71<期開を 1週間程度

設定するように農薬の使用方法に明記されている.し

かし,営農若手側の水管理に対する意識が低く,必ずし

も止水期間は厳守されていない状況にある.

本研究では,止水期間の重要性をモデ、ル上で検証す

昔0.8ミ

通話総 0.4終重1

6/1 6/15 7/1

。.8

7/15 6/1 6/15 7/1 7/15

3 1.61 。1.21- ブレチラクローノレ

0.8

0.4

。7/15 6/1 6/15 7/1 7/15

日{寸

レ口IP

スンフカ

o

i

F

i

M

'

i

A

U

n

U

A

υ

(d叫三Mm判明繰越

6/15 7/1

隠{寸

図10 河川水中農薬濃度の再現結果(東櫛原取水場)

(1) 6月23日 (2)6月27日

(3)7月lR

図" 河川水中農薬濃度の地域変位(ブロモブチド)

(4) 7月5R

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GISを利用した農薬予測モデ、ルの筑後川流域への適用 159

2

1

(d?叫

)Mm

難同時鎚

一一一止水期間なし11 日11 3日

(通常)7日実測伎

O 60 80 100

4月113からの経過担数(daの

図12 止水期間の変化による変動(ブロモブチド)

るため,開発したモデルを利用してシナリオ分析を行っ

た.前主主までモデル計算では l週間の止水期間を設定

して湾現を行っていたが,ここでは使用方法が正しく

守られなかった場合を想定し,止水期間を変化させて

シナリオ分析を行った.シナリオ分析に使用する農薬

はブロモブチドとし,全ての水凶において止水期間を

O日, 1日, 3 B, 7日(通常)と変化させて,計算を

行った その結果を関12に示す.

計算の結果,止水期間なしの場合, 6月12日におい

て,降雨があったため,水田から高濃度の排水が発生

し,河川水中濃度が2.5μgjLという言語い値を示して

おり,一筆単位の水管理が農薬流出に大きく影響する

ことがわかる. 3日間の止水期間ではピークは出現し

ているがそれほど顕箸ではなく,ある程度の農薬の水

田系外への流出の阻止が期待できると考えられる.

これらの排水に関しては通常,営爆者により制御で

きるため(落水口の高さの上昇,低水深の維持),営

農者への情報普及の徹底により環境中に排出される農

薬総量は,より低減できるものであると考えられる.

要 約

本研究では GISを援用した分布主主水収支モデルに,

農薬動態予測モデルを組み込み,入手や計算上での設

定が難しい農薬情報に関しては乱数を用いた音t算手法

により,筑後川流域を対象に海川水中農薬濃度の予測

を行った

水収支モデルに隠しては高い精度で再現し,実流域

の水の挙動の再現が必要となる汚濁物質挙動モデルの

ベースとしての利用が可能であると判断した.そして,

農薬動態予測モデルで計算した結果,農薬濃度を比較

的高い値で符現した.ヱドモデルにより再現性の低い 6

月前半部および使用蚤の少ない有効成分の濃度に関し

ては,入力データの不足を示唆される結果となった.

今後,より詳線な農薬の使用される経路の追跡が可能

となれば,モデルの再現性はそれに応じてより高くな

ると考えられる.農薬濃度の地域的変位に関しては,

主河道は比較的濃度が上がることは少なく,支線水路

では高濃度の期間が長期間続く傾向になり,農薬使用

の影響の出やすい地域だといえる.

また,止水期間に関するシナリオ分析から,止水期

間の徹底が環境中への農薬の流出を減少させることが

明らかになり,営農者への理解の徹底を行うことで環

境への負荷を減少できるということがモデル上でも認

められた.農薬は環境負荷の大きい化学物質であるこ

と,またその使用に対して使用法の徹底が行われてい

ない点でも,より詳織な農薬の追跡が今後求められる.

文 献

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Page 15: GISを利用した農薬予測モデルの筑後川流域への適用 · 九大農学芸誌(ScI. Bull. Fac. Agr., Kyushu Univ.l 第64 巻第2号 147-160 (2009) GISを利用した農薬予測モデ、ルの筑後川流域への適用

160 中嶋一郎ら

Summary

A GIS-based integrated distributed-parameter model was applied to Chikugo River Basin for

predicting pestiside runoff from the basin. The targeted ingredients were Mefenacet,

Bromobutide, Cafenstrole and Pretilachlor. The model consisted of the water balance sub-

model and the pestiside runoff sub-model that described rainfall-runoff process and pestisides

transportation process respectively. The model parameters that would be strongly related to

farming pattern of each farmer and therefore could not be treated as deterministic ones, such

as the amout and timing of pestisides application and the water management in each paddy

plot, were dealt in stochastic manner in the model by introducing Monte Carlo method

The water balance sub-model showed high performance to predict the river discharge at

Chikugo Barrage where is located at the downstream end of the targeted basin. The

pestisides runoff sub-model incorporated with the water balance sub-model had a good agree伺

ment between the observed and the simulated pesticide concentrations in river water. The sce-

nario analyses using the integrated model suggested that the water management in each

paddy plot by each farmer was key factor for reducing the pesticide runoff from paddy plots

and lowering the pesticide concentration in river water.