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140 GSJ 地質ニュース Vol. 6 No. 4(2017 年 4 月) ベトナム地球科学鉱物資源研究所  地中熱ヒートポンプシステム設置工事 内田洋平 1) 1.はじめに 平成 28 年 10 月 2 日(日)から 10 月 12 日(水)に かけて,ハノイ市のベトナム 地球科学鉱物資源研究所 (Vietnam Institute of Geoscicne and Mineral Resouces, 以下 VIGMR)への地中熱ヒートポンプシステム施工工事を 行いました(写真1).今回の出張には,高島 勲(秋田大 学名誉教授)と芝宮一郎(全国鑿井協会 技術顧問)両氏か らの技術協力を頂きました.なお,本工事は CCOP-GSJ 地 下水プロジェクト・フェーズⅢの地中熱サブプロジェクト の一環として実施しています. キーワード:CCOP,地中熱ヒートポンプシステム,ベトナム地球科学鉱物資源研究 所,ハノイ 1)産総研 エネルギー・環境領域 再生可能エネルギー研究センター(兼)地圏 資源環境研究部門 2.設置工事の概要 当初の予定では,10 月 3 日(月)より地中熱交換井の 掘削工事を開始し,6 日(木)には掘削を完了するスケ ジュールでしたが,ベトナム側の掘削チームが変更とな り,掘削チームが現場に到着したのが 5 日(水)午前と なりました(写真2).そのため,全体の工期が大幅に遅れ てしまいました.現地掘削場所の地質構造は,表層から地 下 35m 程度まで砂層と泥層の互層で,それ以深では礫層 です.当初予定していた掘削チームが所有する掘削機は小 型であるため,礫層を掘り抜くには長時間を要するという ことで,大型の掘削機を所有するチームに変更となりまし た.なお,地中熱ヒートポンプの室内機と室外機は 9 日 (日)に設置が完了しました. 今回のベトナムにおける熱交換井掘削については,日本 と同様にベントナイトを用いず(地中熱利用促進協会 編, 2014),泥水の濃度調整とポリマー剤の添加による掘削方 法を適用しました(写真 3).ベトナムにおいても,石油 関係の掘削ではポリマー剤を使用するそうですが,一般 の水井戸を対象としている掘削業者はポリマー剤の存在 自体を知りませんでした.今回は,VIGMR の掘削チーム が,ポリマー剤を使用した掘削工法の技術取得を希望した ため,ベトナム国内でポリマー剤を探したところ,Petro Vietnam(ベトナム石油・ガス総公社)を通してポリマー剤 を入手することができました. 前回実施したタイにおける熱交換井の掘削ではケーシン 写真1 ベトナム地球科学鉱物資源研究所(ハノイ市). 写真2 使用したロシア(旧 ソ連)製の掘削器.

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Page 1: GSJ地質ニュース Vol.6 No · ジュールでしたが,ベトナム側の掘削チームが変更とな り,掘削チームが現場に到着したのが5日(水)午前と

140 GSJ 地質ニュース Vol. 6 No. 4(2017 年 4 月)

ベトナム地球科学鉱物資源研究所 地中熱ヒートポンプシステム設置工事

内田洋平 1)

1.はじめに

平成 28 年 10 月 2 日(日)から 10 月 12 日(水)に

かけて,ハノイ市のベトナム 地球科学鉱物資源研究所

(Vietnam Institute of Geoscicne and Mineral Resouces,

以下 VIGMR)への地中熱ヒートポンプシステム施工工事を

行いました(写真 1).今回の出張には,高島 勲(秋田大

学名誉教授)と芝宮一郎(全国鑿井協会 技術顧問)両氏か

らの技術協力を頂きました.なお,本工事は CCOP-GSJ 地

下水プロジェクト・フェーズⅢの地中熱サブプロジェクト

の一環として実施しています.

キーワード: CCOP,地中熱ヒートポンプシステム,ベトナム地球科学鉱物資源研究所,ハノイ

1) 産総研 エネルギー・環境領域 再生可能エネルギー研究センター(兼)地圏資源環境研究部門

2.設置工事の概要

当初の予定では,10 月 3 日(月)より地中熱交換井の

掘削工事を開始し,6 日(木)には掘削を完了するスケ

ジュールでしたが,ベトナム側の掘削チームが変更とな

り,掘削チームが現場に到着したのが 5 日(水)午前と

なりました(写真 2).そのため,全体の工期が大幅に遅れ

てしまいました.現地掘削場所の地質構造は,表層から地

下 35m 程度まで砂層と泥層の互層で,それ以深では礫層

です.当初予定していた掘削チームが所有する掘削機は小

型であるため,礫層を掘り抜くには長時間を要するという

ことで,大型の掘削機を所有するチームに変更となりまし

た.なお,地中熱ヒートポンプの室内機と室外機は 9 日

(日)に設置が完了しました.

今回のベトナムにおける熱交換井掘削については,日本

と同様にベントナイトを用いず(地中熱利用促進協会 編,

2014),泥水の濃度調整とポリマー剤の添加による掘削方

法を適用しました(写真 3).ベトナムにおいても,石油

関係の掘削ではポリマー剤を使用するそうですが,一般

の水井戸を対象としている掘削業者はポリマー剤の存在

自体を知りませんでした.今回は,VIGMR の掘削チーム

が,ポリマー剤を使用した掘削工法の技術取得を希望した

ため,ベトナム国内でポリマー剤を探したところ,Petro

Vietnam(ベトナム石油・ガス総公社)を通してポリマー剤

を入手することができました.

前回実施したタイにおける熱交換井の掘削ではケーシン

写真 1 ベトナム地球科学鉱物資源研究所(ハノイ市).

写真 2 使用したロシア(旧 ソ連)製の掘削器.

Page 2: GSJ地質ニュース Vol.6 No · ジュールでしたが,ベトナム側の掘削チームが変更とな り,掘削チームが現場に到着したのが5日(水)午前と

GSJ 地質ニュース Vol. 6 No. 4(2017 年 4 月) 141

ベトナム地球科学鉱物資源研究所 地中熱ヒートポンプシステム設置工事

グを用いたため(内田,2016),たいへん時間を要しまし

たが,今回はポリマー剤を用いたことにより,50 m 熱交

換井を 2 日で掘削することができました.また,熱交換

パイプの挿入についても,重さ約 25 kg の錘をパイプ底

部に接続し掘削孔へ挿入したので,短時間に熱交換器を完

成させることができました(写真 4).

地上配管の工事に関しては,タイと同様に EF 接合(電

気融着工法)を用いたので,容易に施工が完了しました.

結局,全ての工事作業は予定どおり 10 月 11 日(火)に

完了し,地中熱ヒートポンプシステムによる冷房運転を開

始しました(写真 5).

3.おわりに

VIGMR の地中熱システム実証試験は,2階の所長室で

実施しています.VIGMR の建物は平成 28 年 2016 年の

春に完成したばかりで,まだ,建物内の空調が稼働してい

ません.そのため,地中熱システムの工事を行った 10 月

も日中の外気温度は 34 度前後,室温も同程度の温度で,

研究者は扇風機で凌いでいる状況でした.その中で,所長

室には地中熱システムの冷房が導入されたため,今後,多

くの訪問者に対して地中熱システムのアピール効果は高い

と思われます.また,導入した地中熱システムの案内ポ

スターを英語とベトナム語の両方で掲示しています(写真

6).

北ベトナムに位置するハノイでは,夏期の冷房に加えて

写真 3 デッチ(写真中央)を用いて泥水の濃度を調整.

写真 4 2 階の所長室より熱交換パイプを掘削孔へ挿入.

写真 5  1階に設置した地中熱ヒートポンプ.雨期に洪水が発生しても 水没しないように,50cm 程度かさ上げをして設置している.

写真 6  2階所長室に設置した地中熱室内機.室内機の下にプロジェクト紹介のポスターを掲示.

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142 GSJ 地質ニュース Vol. 6 No. 4(2017 年 4 月)

内田洋平

UCHIDA Youhei(2017) Installation of a Ground Source Heat Pump System in Vietnam Institute of Geoscience and Mineral Resources.

(受付:2016 年 11 月 25 日)

冬期は暖房の需要もあるため,地下への熱負荷(採熱・放

熱)の収支を取りやすい地域と考えられます.今後は,タ

イでの実証試験データと併せて解析し,東南アジアにおけ

る地下水・地中熱利用の普及と促進に努めていく予定です.

文 献

特定非営利活動法人 地中熱利用促進協会 編(2014)地中

熱ヒートポンプシステム施工管理マニュアル,オーム

社,184p.

内田洋平(2016)タイ国立地質博物館 地中熱ヒートポ

ンプシステム設置工事.GSJ 地質ニュース, 5, 287–

289.