司h27-3 18 配点:4...⇔2016総合講義・25頁 406 司h27-20/予h27-13 配点:4...

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62 司H27-3 配点:4 次のアからオまでの各事例を判例の立場に従って検討し,( ) 内の甲の行為とVの死亡との間に因果関係が認められる場合には1 を,認められない場合には2を選びなさい。 ア.甲は,自宅に遊びに来た友人Vの態度に腹を立て,その頭部 を平手で1回殴打したところ,Vが家から出て行ったので,謝 りながらVを追い掛けた。Vは,甲が謝りながら追い掛けてき たことに気付いたが,甲と話をしたくなかったので,甲に追い 付かれないように,あえて遮断機が下りていた踏切に入ったと ころ,列車にひかれ,内臓破裂により死亡した。(甲がVの頭 部を平手で1回殴打した行為) イ.甲は,マンション4階の甲方居間で,Vの頭部や腹部を木刀 で多数回殴打した。Vは,このままでは殺されると思い,甲の 隙を見て逃走することを決意し,窓からすぐ隣のマンションの ベランダに飛び移ろうとしたが,これに失敗して転落し,脳挫 滅により死亡した。(甲がVの頭部や腹部を木刀で多数回殴打 した行為) ウ.甲は,Vに致死量の毒薬を飲ませたが,その毒薬が効く前 に,Vは,事情を知らない乙に出刃包丁で腹部を刺されて失血 死した。(甲がVに致死量の毒薬を飲ませた行為) エ.甲は,路上でVの頭部を木刀で多数回殴打し,これにより直 ちに治療しなければ数時間後には死亡するほどの脳出血を伴う 傷害をVに負わせ,倒れたまま動けないVを残して立ち去っ た。そこへ,たまたま通り掛かった事情を知らない乙が,Vの 頭部を1回蹴り付け,Vは,当初の脳出血が悪化し,死期が若 干早まって死亡した。(甲がVの頭部を木刀で多数回殴打した 行為) オ.甲は,面識のないVが電車内で酔って絡んできたため,Vの 顔面を拳で1回殴打したところ,もともとVは特殊な病気によ り脳の組織が脆弱となっており,その1回の殴打で脳の組織が 刑法 18

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62

司H27-3 配点:4

次のアからオまでの各事例を判例の立場に従って検討し,( )

内の甲の行為とVの死亡との間に因果関係が認められる場合には1

を,認められない場合には2を選びなさい。

ア.甲は,自宅に遊びに来た友人Vの態度に腹を立て,その頭部

を平手で1回殴打したところ,Vが家から出て行ったので,謝

りながらVを追い掛けた。Vは,甲が謝りながら追い掛けてき

たことに気付いたが,甲と話をしたくなかったので,甲に追い

付かれないように,あえて遮断機が下りていた踏切に入ったと

ころ,列車にひかれ,内臓破裂により死亡した。(甲がVの頭

部を平手で1回殴打した行為)

イ.甲は,マンション4階の甲方居間で,Vの頭部や腹部を木刀

で多数回殴打した。Vは,このままでは殺されると思い,甲の

隙を見て逃走することを決意し,窓からすぐ隣のマンションの

ベランダに飛び移ろうとしたが,これに失敗して転落し,脳挫

滅により死亡した。(甲がVの頭部や腹部を木刀で多数回殴打

した行為)

ウ.甲は,Vに致死量の毒薬を飲ませたが,その毒薬が効く前

に,Vは,事情を知らない乙に出刃包丁で腹部を刺されて失血

死した。(甲がVに致死量の毒薬を飲ませた行為)

エ.甲は,路上でVの頭部を木刀で多数回殴打し,これにより直

ちに治療しなければ数時間後には死亡するほどの脳出血を伴う

傷害をVに負わせ,倒れたまま動けないVを残して立ち去っ

た。そこへ,たまたま通り掛かった事情を知らない乙が,Vの

頭部を1回蹴り付け,Vは,当初の脳出血が悪化し,死期が若

干早まって死亡した。(甲がVの頭部を木刀で多数回殴打した

行為)

オ.甲は,面識のないVが電車内で酔って絡んできたため,Vの

顔面を拳で1回殴打したところ,もともとVは特殊な病気によ

り脳の組織が脆弱となっており,その1回の殴打で脳の組織が

刑法

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崩壊し,その結果Vが死亡した。(甲がVの顔面を拳で1回殴

打した行為)

64

ア.認められない 判例(最決平 15.7.16【百選Ⅰ13】)は,「被害者が逃走しようとして高

速道路に進入したことは,それ自体極めて危険な行為であるというほかないが,被害者は,被告人らから長時間激しくかつ執ような暴行を受け,被告人らに対し極度の恐怖感を抱き,必死に逃走を図る過程で,とっさにそのような行動を選択したものと認められ,その行動が,被告人らの暴行から逃れる方法として,著しく不自然,不相当であったとはいえない。そうすると被害者が高速道路に進入して死亡したのは被告人らの暴行に起因するものと評価することができる」と判示している。 上記判例を前提として本肢の事例を検討すると,被害者Vが,あえて遮断機が下りていた踏切に入った行為は,それ自体極めて危険な行為である。しかし,甲のVに対する暴行は,頭部を平手で1回殴打したというものにすぎず,その後,甲は謝りながらVを追い掛けていたのであり,甲のVに対する暴行が継続していたわけではない。そうすると,Vは甲から,長時間激しくかつ執ような暴行を受けていたとはいえない。また,Vが踏切に入ったのは,甲と話をしたくなかったという個人的な感情に基づく理由からであり甲に対し極度の恐怖感を抱き,必死に逃走を図る過程で,とっさに選択した行動とはいえない。そうすると,Vの行動は,甲の暴行から逃れる方法として,著しく不自然,不相当であったといえ,Vが遮断機が下りていた踏切に入って死亡したのは,甲の暴行に起因するものと評価することはできない。したがって,因果関係は認められない。 ⇔2016 総合講義・30頁

イ.認められる アの判例を前提として本肢の事例を検討すると, Vの行動は甲の暴行から逃れる方法として,著しく不自然,不相当であったとはいえず,Vが隣のマンションのベランダに飛び移ろうとして,失敗して死亡したことは,甲の暴行に起因するものと評価することができる。したがって,因果関係は認められる。 ⇔2016 総合講義・30頁

正解

21211

刑法

18 司H27-3

因果関係

65

ウ.認められない 実行行為と構成要件的結果との間に因果関係が認められるためには,少

なくとも,その行為がなかったならばその結果が発生しなかったであろうという条件関係が必要であり,判例も,これを前提としているものといえる。そして,同一の結果に向けられた先行行為がその効果を発揮する以前に,それと無関係な後行行為によって結果が発生した場合には,先行行為がなくても結果が発生したといえるため,条件関係が断絶され,因果関係は認められない。したがって,本記述のような場合は,因果関係は認められない。 ⇔2016 総合講義・25頁

エ.認められる 判例(最決平 2.11.20【百選Ⅰ10】)は,「犯人の暴行により被害者の死

因となった傷害が形成された場合には,仮にその後第三者により加えられた暴行によって死期が早められたとしても,犯人の暴行と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができ」るとしている。 上記判例を前提として本肢の事例を検討すると,甲の暴行により死因となった傷害が形成されているから,乙の暴行によりVの死期が若干早められたとしても,甲の暴行とV死亡との間に因果関係が認められる。 ⇔2016 総合講義・28頁

オ.認められる 判例(最判昭 25.3.31)は,「被告人の行為が被害者の脳梅毒による脳の

高度の病的変化という特殊の事情さえなかったらば致死の結果を生じなかったであろうと認められる場合で被告人が行為当時その特殊事情のあることを知らずまた予測もできなかったとしてもその行為がその特殊事情と相まって致死の結果を生ぜしめたときはその行為と結果との間に因果関係を認めることができる。」と判示している。 上記判例を前提として本肢の事例を検討すると,甲の殴打行為とVの特殊事情が相まって死亡結果を生ぜしめたといえ,甲の行為とVの死亡結果との間に因果関係が認められる。 ⇔2016 総合講義・25頁

406

司H27-20/予H27-13 配点:4

次の【事例】に関する後記アからオまでの各【記述】を判例の立

場に従って検討し,正しい場合には1を,誤っている場合には2を

選びなさい。

【事 例】

借金の返済に苦しんでいた甲とその内縁の妻乙は,A市が発行

した乙を被保険者とする国民健康保険被保険者証の氏名を乙から

実在しない丙に改変し,丙になりすまして消費者金融会社から借

入れをして現金を手に入れることを相談した。甲と相談したとお

り,乙は,上記国民健康保険被保険者証の被保険者氏名欄に乙と

あるのを丙と書き換えた。そして,乙は,消費者金融会社の無人

借入手続コーナーにおいて,借入申込書に丙の氏名を記載し,丙

と刻した印鑑を押捺するなどして丙名義の借入申込書1通を完成

させた上,同申込書及び氏名を丙に改変した上記国民健康保険被

保険者証の内容を,同コーナーに設置された機械を使用し,同機

械に接続されている同社本店の端末機に送信し,同社の貸付手続

担当者に対し,丙であるかのように装って100万円の借入れを

申し込んだ。同担当者は,当該申込みをした者が真実丙であり,

かつ,貸付金は約定のとおりに返済されるものと誤信し,同社の

貸付システムに従って丙名義の借入カードを上記コーナーに設置

された機械から発券した。乙は,その場で同カードを入手し,同

カードを現金自動入出機に挿入して同機から現金100万円を引

き出した。その後,乙は,上記行為に及んだことを後悔し,自宅

で,甲に一緒に自首をしようと持ち掛けた。甲は,これを聞いて

激高し,乙を窒息死させようと考え,その首を絞めたところ,乙

は首を絞められたことによるショックで心不全になり死亡した。

甲は,乙の死亡から約30分後,死亡して横たわっている乙の指

に時価20万円相当の乙の指輪がはめてあることに気が付き,同

指輪を奪って逃走した。

【記 述】

刑法

241

407

ア.乙が国民健康保険被保険者証の被保険者氏名欄を丙と書き換

えた行為については,単に文書の内容を書き換えたにすぎない

から,甲と乙には,公文書偽造罪ではなく,公文書変造罪が成

立する。

イ.乙が丙名義の借入申込書を作成した行為については,丙が実

在しなくても,一般人をして真正に作成された文書であると誤

信させる危険があるから,甲と乙には有印私文書偽造罪が成立

する。

ウ.甲と乙は,当初から現金100万円を手に入れる目的で丙名

義の借入カードを入手し,同カードを利用して現金100万円

を引き出したのだから,甲と乙には現金100万円について詐

欺罪が成立する。

エ.甲は,乙を窒息死させようとしていたが,乙はそれとは別の

原因で死亡するに至ったのであるから,甲には,乙の首を絞め

て死亡させた行為について殺人既遂罪は成立せず,殺人未遂罪

と過失致死罪が成立する。

オ.甲が乙の指輪を奪った行為については,その時点で乙は既に

死んでいるから,甲には,窃盗罪ではなく,占有離脱物横領罪

が成立する。

408

ア.× 文書偽造の罪における「変造」とは,真正に成立した文書の非本質的部

分に変更を加えることをいい,文書の本質的部分に変更を加え,既存文書と同一性を欠く新たな証明力を有する文書を作出した場合は,変造ではなく,「偽造」となる。本記述において,乙は国民健康保険被保険者証の被保険者氏名欄を丙と書き換えており,国民健康保険被保険者証の被保険者氏名欄の記載も被保険者を特定するのに重要な記載である。よって,乙は,文書の本質的部分に変更を加え,新たな証明力を有する文書を作出したといえ,甲と乙には公文書偽造罪が成立する。 ⇔2016 総合講義・247 頁

イ.○ 判例(最判昭28.11.13)は,本記述と同様の事案において,「架空人名義

を用いたとしても被告人の行為は私文書偽造罪を構成する」としている。 ⇔2016 総合講義・244 頁

ウ.× 詐欺罪の構成要件要素である欺罔行為は,人による物・利益の交付行為に向けられたものでなければならず,機械を相手にする場合には欺罔行為とならず詐欺罪は成立しない。したがって,本記述の甲と乙に詐欺罪は成立しない。 ⇔2016 総合講義・197 頁

エ.× 判例(大判大 12.4.30【百選Ⅰ15】)は,被害者を絞殺しようとして首を

絞めたところ(第1行為),被害者が動かなくなったので死亡したと思い,犯行の発覚を防ぐ目的で砂浜に同人を運び放置したところ(第2行為),被害者は首を絞められたことと砂末を吸引したことにより死亡したという事案において,第1行為と死亡との間には因果関係が認められ,結論として殺人既遂罪の成立を肯定できるとしている。本記述における甲にも,殺人既遂罪が成立する。 ⇔2016 総合講義・39頁

正解

21222

刑法

241 司H27-20/予H27-13

各種犯罪の成否

409

オ.× 判例(最判昭 41.4.8【百選Ⅱ29】)は,「被害者からその財物の占有を離

脱させた自己の行為を利用して右財物を奪取した一連の被告人の行為は,これを全体的に考察して,他人の財物に対する所持を侵害したもの」として奪取行為に窃盗罪が成立するとしている。その理由として,判例は,このような場合には「被害者が生前有していた財物の所持はその死亡直後においてもなお継続して保護するのが法の目的にかなう」ということを挙げている。本記述における甲には窃盗罪が成立する。 ⇔2016 総合講義・177 頁