hi-bsc 処理 - hitachi metals · 2020-02-05 · 66 日立金属技 vol.36(2020)...

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66 日立金属技報 Vol.36(2020) ショットピーニングを利用した新表面処理 New Surface Treatment Using Shot Peening Hi-BSC ® 処理 図1 Hi-BSC ® 処理の概要(a)断面模式図(b)耐食性試験結果 Fig. 1 Outline of Hi-BSC ® : (a) cross section, (b) corrosion resistance test 図3 耐ヒートチェック性(5,000 サイクル後の断面ヒート クラック)(a)Hi-BSC ® 処理(b)ガス軟窒化 Fig. 3 Heat check test: (a) Hi-BSC ® , (b) gas nitrocarburizing 図4 Hi-BSC ® 処理の効果(a)離型抵抗値(b)摩擦係数( 指数) Fig. 4 Effect of Hi-BSC ® : (a) mold release resistance, (b) coefficient of friction 図2 Hi-BSC ® 処理前後細穴先端への圧縮応力値 Fig. 2 Compressive stress value (before and after Hi-BSC ® ) 15 mm 15 mm 15 mm 15 mm Special metal film layer Dimple shape (a) (b) No processing Hi-BSC ® before 650 [Hr] after Base material Compressive stress layer 100 µm 100 µm (a)Hi-BSC ® (b)Gas nitrocarburizing 5,000 cycle after heat check photo 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 Hi-BSC ® gas nitrocarburizing Mold release resistance (index) (gas nitrocarburizing = 1) 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 (a) Hi-BSC ® gas nitrocarburizing Coefficient of friction (index) (gas nitrocarburizing = 1) (b) 20% Down 14% Down [MPa] -1,000 -500 0 500 1,000 Hi-BSC ® after Hi-BSC ® before ダイカスト金型において生産サイク ルの短縮化による型温度上昇と,これ に伴う早期ヒートクラックの抑制のた めに,冷却穴を金型表面近くに設ける ことが多くなっている。そのため,応 力腐食割れが問題となっており,それ を抑制するため,ショットピーニング を利用した表面処理である「Hi-BSC ® 処理」を開発した。 図1 に Hi-BSC 処理の (a) 断面模式 図と (b) 耐食性の結果を示す。メディ アの成分である金属成分が金型の最表 層面に特殊金属皮膜層として形成され ることで耐食性が向上する。また, ショットピーニングにより圧縮応力が 付与されることで,冷却穴近傍の金型 の表面応力に有効に作用して,耐応力 腐食割れ性の向上に寄与する。図2 冷却穴を想定した未貫通細穴に Hi-BSC 処理を施した結果を示す。処 理の前後で,穴先端へ圧縮応力が付与 されたことが確認できた。 また,ガス軟窒化と組み合わせて使 用することで耐ヒートチェック性の向 上も確認されている。図3 にヒート チェック試験の結果を示す。一般的な ガス軟窒化よりもガス軟窒化の上から Hi-BSC処理を施した試験片では耐 ヒートチェック性の向上が見られた。 これはショットピーニングにより圧縮 応力が付与されたためと推察される。 加えて離型性や摺動性についても Hi-BSC 処理を実施することでそれぞ れの値に低減が見られた。図4 にガ ス軟窒化とガス軟窒化の上に Hi-BSC 処理を実施した際の (a) 離型抵抗値, (b) 摩擦係数の指数を示す。離型抵抗 値では約 20%,摩擦係数では約 14% の低減が確認された。この結果は ショットピーニングによるディンプル 形状が起因しているものと推察され る。 上記より Hi-BSC 処理を実施する ことで冷却穴の耐応力腐食割れ性向上 だけでなく,ダイカスト金型全般の寿 命改善が期待される。また,ガス軟窒 化後に Hi-BSC 処理をすると摩擦係 数が低くなっていることからダイカス ト金型だけでなく鍛造金型への寿命向 上効果も期待される。 ( 日立金属工具鋼株式会社) Hi-BSC ® 処理に用いるショットピーニングには(株)不二機販の WPC ® 処理を使用しています。 WPC ® 処理に関連する特許は,特許第 6286470 号,特許第 4772082 号, 特許第 5341971 号です。 WPC ® は, (株)不二機販,(株)不二製作所,(株)不二WPCの登録商標です。

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Page 1: Hi-BSC 処理 - Hitachi Metals · 2020-02-05 · 66 日立金属技 Vol.36(2020) 新製品紹介 ショットピーニングを利用した新表面処理 New Surface Treatment

66 日立金属技報 Vol.36(2020)

新製品紹介

ショットピーニングを利用した新表面処理New Surface Treatment Using Shot Peening

Hi-BSC®処理

図 1 Hi-BSC® 処理の概要(a)断面模式図(b)耐食性試験結果Fig. 1 Outline of Hi-BSC®: (a) cross section, (b) corrosion resistance test

図 3 耐ヒートチェック性(5,000 サイクル後の断面ヒートクラック)(a)Hi-BSC® 処理(b)ガス軟窒化

Fig. 3 Heat check test: (a) Hi-BSC®, (b) gas nitrocarburizing

図 4 Hi-BSC® 処理の効果(a)離型抵抗値(b)摩擦係数(指数)Fig. 4 Effect of Hi-BSC®: (a) mold release resistance, (b) coefficient of

friction

図 2 Hi-BSC® 処理前後細穴先端への圧縮応力値Fig. 2 Compressive stress value (before and after Hi-BSC®)

15 mm15 mm

15 mm15 mm

Special metal film layer

Dimple shape(a) (b) No processingHi-BSC®

before

650 [Hr] afterBase material

Compressive stresslayer

100 µm 100 µm

(a)Hi-BSC® (b)Gas nitrocarburizing

5,000 cycle after

heat check photo

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

Hi-BSC® gasnitrocarburizing

Mold release resistance (index)

(gas nitrocarburizing = 1)

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0(a)

Hi-BSC® gasnitrocarburizing

Coefficient of friction (index)

(gas nitrocarburizing = 1)

(b)

20% Down 14% Down

[MPa]

-1,000

-500

0

500

1,000

Hi-BSC®after

Hi-BSC®before

 ダイカスト金型において生産サイク

ルの短縮化による型温度上昇と,これ

に伴う早期ヒートクラックの抑制のた

めに,冷却穴を金型表面近くに設ける

ことが多くなっている。そのため,応

力腐食割れが問題となっており,それ

を抑制するため,ショットピーニング

を利用した表面処理である「Hi-BSC®

処理」を開発した。

 図 1に Hi-BSC 処理の (a) 断面模式

図と (b) 耐食性の結果を示す。メディ

アの成分である金属成分が金型の最表

層面に特殊金属皮膜層として形成され

ることで耐食性が向上する。また,

ショットピーニングにより圧縮応力が

付与されることで,冷却穴近傍の金型

の表面応力に有効に作用して,耐応力

腐食割れ性の向上に寄与する。図 2に

冷 却 穴 を 想 定 し た 未 貫 通 細 穴 に

Hi-BSC 処理を施した結果を示す。処

理の前後で,穴先端へ圧縮応力が付与

されたことが確認できた。

 また,ガス軟窒化と組み合わせて使

用することで耐ヒートチェック性の向

上も確認されている。図 3にヒート

チェック試験の結果を示す。一般的な

ガス軟窒化よりもガス軟窒化の上から

Hi-BSC 処理を施した試験片では耐

ヒートチェック性の向上が見られた。

これはショットピーニングにより圧縮

応力が付与されたためと推察される。

 加えて離型性や摺動性についても

Hi-BSC 処理を実施することでそれぞ

れの値に低減が見られた。図 4にガ

ス軟窒化とガス軟窒化の上に Hi-BSC

処理を実施した際の (a) 離型抵抗値,

(b) 摩擦係数の指数を示す。離型抵抗

値では約 20%,摩擦係数では約 14%

の低減が確認された。この結果は

ショットピーニングによるディンプル

形状が起因しているものと推察され

る。

 上記より Hi-BSC 処理を実施する

ことで冷却穴の耐応力腐食割れ性向上

だけでなく,ダイカスト金型全般の寿

命改善が期待される。また,ガス軟窒

化後に Hi-BSC 処理をすると摩擦係

数が低くなっていることからダイカス

ト金型だけでなく鍛造金型への寿命向

上効果も期待される。

(日立金属工具鋼株式会社)

Hi-BSC® 処理に用いるショットピーニングには(株)不二機販のWPC®処理を使用しています。WPC® 処理に関連する特許は,特許第 6286470 号,特許第 4772082 号,特許第 5341971 号です。WPC®は,(株)不二機販,(株)不二製作所,(株)不二WPCの登録商標です。