hull-white モデルと...
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【研究ノート】
Hull-Whiteモデルと数値計算プロシージャについて
久 保 徳次郎
1 は じ め に
周知のように,Vasicek(1977)に始まる第 1 世代の利子率モデルは均衡モデ
ル,Ho-Lee(以下 HL)(1986)に始まる第 2 世代の利子率モデルは無裁定モデ
ルとそれぞれ呼ばれている.無裁定モデルは,金利の期間構造をインプットと
するところに特徴があり,HL のほかに,Black-Derman-Toy(1990),Black-
Karasinski(1991),Hull-White(以下 HW)(1990,1993a)などがよく知られてい
る.現在最も一般的な利子率モデルの一つとしては,Heath-Jarrow-Morton(以
下 HJM)(1992)が上げられるが,HJM モデルは HL モデルを大きく拡張したも
ので,本稿で取り上げるHW モデルもその特殊ケースとして含まれる.HJM モ
デルの最大の利点は,フォワード・レート(または割引債券価格)のボラティリ
ティ関数に対する適切な特定化を通じて,様々なケースに対応できる,という
ことである.
利子率モデルあるいは金利の期間構造モデルは,HW(1996)で示されている
ように,次の分類基準で大別することが可能である.
(1)利子率の確率過程が,マルコフ性を有しているかどうか.
(2)1 ファクターのモデルか,あるいは 2 ファクター以上のモデルか.
(3)利子率が正規分布に従うか,あるいはそれ以外の分布に従うか.
HW モデルは,利子率が正規分布に従う 1 ファクター・マルコフ・モデルで,
HL モデルをその特殊ケースとして含むものである.他方,HW(1993b,1994)
(141) 45
では,この HW モデルに対する数値計算プロシージャが提示されている.HW
モデルは,HJM モデルのマルコフ・ケースとして位置づけられるが,解析的な
取り扱いと数値計算の実行面においては,非マルコフ・モデルにはみられない
容易性と明快性を兼ね備えている.また,HW による 3 項ツリー・モデルの一
般化に関しては,単に利子率モデルだけに限らず広くその応用が可能で,ツリ
ー・モデルによる数値計算法の発展に大きく寄与したと評価することができる.
本稿の目的は,数値計算法を含めた HW モデルについて統一的に検討を加え
ることにある.また,HW モデルに対して,新たに Boyle-Tian(1999)の数値
計算プロシージャの適用例を提示することにする.
以下では,まず第 2 節で,利子率の 1 ファクター・モデルを使って均衡モデ
ルの基本的な考え方について述べる.第 3 節では,HW モデルと密接な関係に
ある Vasicek モデルの特徴と問題点について簡単に要約する.第 4 節では,
HJM の枠組みを使って HW モデルについて検討を行い,第 5 節で,このモデ
ルに対する数値計算プロシージャについて詳述する.そして第 6 節では,本稿
のまとめと今後の課題について簡単に触れることにする.
2 1 ファクター・利子率モデル
いま任意の時点 t における短期利子率(瞬時的スポット・レート)を r(t) と表
し,この変化が下記の連続的なマルコフ過程に従うものとする1).
dr(t)=μ(r, t)dt+σ(r, t)dz(t) (1)
ここで,dzはウィーナー過程,μはドリフト,σはボラティリティである.た
だし,以下ではとくに r(t),dz(t) に関しては r,dz と略記する.割引債券価格
を利子率と時間のみの関数と仮定し B(r, t) と表すと,伊藤の補題より,この変
化率は次のようになる.
dB(r, t) / B(r, t)=μB (r, t)dt+σB (r, t)dz (2a)
46(142) 第 56 巻 第 2 号
1)以下の議論に関しては,Kwok(1998),Rebonato(1998)などを参照.
ただし,
(2b)
(2c)
である.
まず,この債券に対するリスクの市場価格が,満期までの長さとは独立であ
ることを示してみよう.そこで,任意の相異なる 2 つの満期時点を Ti,Tj と
し,これらに対応する割引債券価格を B(r, t ; Ti),B(r, t ; Tj) とそれぞれ表すこ
とにする.ただし,表示の簡素化のため,しばらくの間,
B(Ti)=B(r, t ; Ti),B(Tj)=B(r, t ; Tj)
とおくことにする.いま,満期時点 Ti の債券を 1 単位,満期時点 Tj の債券
を-1 単位とするポートフォリオをくむことを考えると,その価値W は,
W=B(Ti)-B(Tj)
となり,その変化は,(2a)より,次のように表すことができる.
dW={μB(Ti)B(Ti)-μB(Tj)B(Tj)}dt+{σB(Ti)B(Ti)-σB(Tj)B(Tj)}dz
ただし,
μB(Ti)=μB(r, t ; Ti),μB(Tj)=μB(r, t ; Tj)
σB(Ti)=σB(r, t ; Ti),σB(Tj)=σB(r, t ; Tj)
である.ここで,
とおくことによって,上式は,
(143) 47Hull-White モデルと数値計算プロシージャについて(久保徳次郎)
μB (r, t)= (r, t)+μ(r, t) (r, t)+ σ(r, t)2 (r, t) B(r, t)-1∂B∂t
∂B∂r
∂2B∂t2
12
σB (r, t)=σ(r, t)B(r, t)-1 (r, t)∂B∂r
B(Ti)= WσB(Tj)σB(Tj)-σB(Ti)
B(Tj)= WσB(Ti)σB(Ti)-σB(Tj)
dW= WdtμB (Ti)σB(Tj)-μB(Tj)σB(Ti)
σB(Tj)-σB(Ti)
となり,瞬時的に無リスクなポートフォリオとすることができる.このとき,
裁定機会が存在しないためには,次式のように,このポートフォリオの収益率
は瞬時的スポット・レートと等しくなければならない.
(dW / dt) / W=r
この無裁定条件を上式において考慮すると,リスクの市場価格に対して,
という関係をえることができる.これは,リスクの市場価格が債券の満期日と
は関係なく等しくなる,ということを表している.したがって,リスクの市場
価格をλとすると,それは次のように満期日とは独立な形で表すことができる.
(3)
さらに,(3)に(2b)と(2c)を代入すると,次のような偏微分方程式をえ
ることができる.
(4a)
これは,割引債券価格に関する基本方程式と呼ばれる.かくして,上式に対し
て,利子率の確率過程,リスクの市場価格および終期条件をそれぞれ特定化す
ることによって,任意の時点の割引債券価格を求めることができる.
(4a)の解は,満期時点を T とすると,次のような積分形式で表すことがで
きる2).
48(144) 第 56 巻 第 2 号
=μB(Ti)-rσB(Ti)
μB(Tj)-rσB(Tj)
μB(r, t)-rσB(r, t)
λ(r, t)=
∂B∂t
∂B∂r
(r, t)+{μ(r, t)-λ(r, t)σ(r, t)} (r, t)
+ σ(r, t)2 (r, t)-rB(r, t)=0∂2B∂t2
12
B(r, t ; T)=Et exp -∫ r(τ)dτ- ∫ λ2 (r(τ), τ)dτ 12{ [ T
t
T
t
2)Vasicek(1977)を参照.
(4b)
また,(4a)を解くことによって求められる債券価格から金利の期間構造も導出
することが可能となる.B(r, t ; T) を満期時点 T でペイオフが 1 となる割引債券
と考えると,満期時点を T とする t 時点のイールド R(t, T) は次のように定義さ
れることになる.
(5)
上式より,満期時点が異なるイールドをそれぞれ求めることによって,イール
ド・カーブあるいは金利の期間構造を導出することが可能となる.
リスクの市場価格λに関しては,次のようにしてその推定値を求めることが
できる.まず,(4b)より,
を,また(5)より,
をそれぞれえることができる.これら 2 式より,原点におけるイールド・カー
ブの傾きは次のように求められる.
(6)
ここで,左辺の値に関しては,市場の割引債券価格を(5)に代入することによ
って直接求めることができ,また右辺のμとσの値に関しては,市場データよ
り統計学的に推定することができる.かくして,(6)より,リスクの市場価格
の推定値をえることが可能となる.
上記の利子率モデルは均衡モデルと呼ばれるが,(1)に対してどのような確
率過程を仮定するかによって,様々なモデルが提示されている.この均衡モデ
(145) 49Hull-White モデルと数値計算プロシージャについて(久保徳次郎)
-∫ λ(r(τ), τ)dz(τ) }] T
t
R(t, T)=- ln B(r, t ; T)T-t
(r, t ; T) T=t
=r2-2 (r, t ; T) T=t
∂2B∂T
2∂R∂T
(r, t ; T) T=t
=r2-μ(r, t)+σ(r, t)λ(r, t)∂B∂T
(r, t ; T) T=t
= {μ(r, t)-σ(r, t)λ(r, t)}∂R∂T
12
ルに対して,無裁定モデルの場合は,金利の初期期間構造を使って,スポッ
ト・レートの確率過程に対して調整を加える.したがって,このモデルは金利
の初期期間構造と整合的になるというメリットをもっている.均衡モデルにお
いて金利の期間構造がアウトプットであるのに対して,無裁定モデルではイン
プットとして取り扱われていると言うことができる.
HW モデルは,「拡張 Vasicek モデル」とも呼ばれるが,HL モデルに Vasicek
モデルの特徴である利子率の平均回帰性を導入したもので無裁定モデルに属す
る.無裁定モデルの特徴に関しては,第 4 節の HW モデルの説明のところで触
れることとし,次節では,均衡モデルの例として Vasicek モデルを取り上げ,
割引債券価格と金利の期間構造の導出を行うとともに,その問題点について簡
単に触れることにする.
3 Vasicek モデル
Vasicek モデルでは,金利のスポット・レートに対して次のような平均回帰過
程が仮定される.
dr=a(b-r)dt+vdz (7)
上式において,a は平均回帰速度(定数),b は長期利子率(定数),そして v
はボラティリティ(定数)をそれぞれ表している.この利子率過程のもとでは,
割引債券価格に関する基本方程式(4a)は,次のように書き換えられる.
(8)
周知のように,上式に対する解は,
B(r, t ; T)=x(t, T)exp[-y(t, T)r] (9)
という形をとるので,これを(8)に代入すると,
50(146) 第 56 巻 第 2 号
(r, t ; T)+{a(b-r)-λv} (r, t ; T)∂B∂t
∂B∂r
+ (r, t ; T)-rB(r, t ; T)=0∂2B∂t2
v2
2
をえることができる.ここで,終期条件,
x(T, T)=1
y(T, T)=0
を考慮しながら上式を解くと,割引債券価格は次のように求めることができる.
(10)
ただし,
A(t, T)=1-exp[-a(T-t)]
である.また,(2b),(2c)より,
となるので,これらを考慮しながら(5)と(10)より,満期時点を T とする
イールドをえることができる.
(11)
ここで,T→∞と極限をとると,
limT→∞
R(t, T)=φ
となるので,かくして,(10)と(11)におけるφは長期のイールドと解釈す
ることができる.
(147) 51Hull-White モデルと数値計算プロシージャについて(久保徳次郎)
(t, T)+(λv-ab)x(t, T)y(t, T)+ v2 x(t, T)y(t, T)2=0dxdt
12
(t, T)-ay(t, T)+1=0dydt
B(r, t ; T)=exp A(t, T)(φ-r)- A(t, T)2-φ(T-t)1a
v2
4a3[ ]
φ=b- -λv a
v2 2a2
μB(r, t ; T)=r- A(t, T)λv a
σB(r, t ; T)= A(t, T)v a
R(t, T)=φ+ + A(t, T)2(r-φ)A(t, T)a(T-t)
v2
4a3 (T-t)
なお,(11)より,イールド・カーブの形状に関しては,
右上がり:r <_φ-v2 / (4a2) のとき
右下がり:r >_φ+v2 / (2a2) のとき
こぶ状 :φ-v2 / (4a2)<_ r <_φ+v2 / (2a2) のとき
となることが確かめられる.
B(r, t ; T) の対数値と R(t, T) は,(10),(11)より,それぞれ利子率の線形
関数となっていることが分かる.利子率は仮定により正規分布に従うので,し
たがって割引債券価格は対数正規分布に,イールドは正規分布にそれぞれ従う
ことになる.
さらに,(11)より,任意の相異なる 2 つの満期時点 Ti,Tj に対するイール
ドをそれぞれ求め整理すると,これら 2 つのイールドの間に次のような関係を
えることができる.
-4a3φA(t, Ti)(Tj-t)+φA(t, Tj)(Ti-t)}
上式は,満期時点を異にする 2 つのイールド間の相関が完全である,というこ
とを示している.しかし,これは現実を反映しているとは言いがたく,HW モ
デルは,この Vasicek モデルの問題点を,HL の無裁定モデルを使うことによっ
て克服することを試みている.つまり,金利の期間構造をアウトプットではな
く,インプットとすることによってこの点に対する改善を試みているわけであ
る.
4 Hull-White モデル
HW モデルは,HJM の枠組みから導出することができる.いま,危険中立世
界における割引債券価格に対して,次のような確率過程を仮定することにする.
52(148) 第 56 巻 第 2 号
R(t, Ti)= R(t, Tj)A(t, Ti)(Tj-t)A(t, Tj)(Ti-t)
+ {A(t, Ti)2A(t, Tj)v2-aA(t, Ti)A(t, Tj)2v214a3A(t, Tj)(Ti-t)
dB(t, T) / B(t, T)=r(t)dt+σB(t, T)dz (12)
ただし,
σB (T, T)=0
である.また,将来時点 T から T+ΔT の間に適用される金利を考え,t 時点
におけるこのフォワード・レートを f (t, T, T+ΔT) と表すと,これと割引債券
価格との間には,
(13)
という関係がある.瞬時的フォワード・レート F(t, T) は,上式においてΔT→
0 と極限をとることによって求めることができる.
F(t, T)=limΔT→0
f (t, T, T+ΔT)
(14)
かくして,上式より,
B(t, T)=exp[-∫T
t F(t,τ)dτ]をえるので,この式と(5)より,満期時点を T とするイールド R(t, T) は,次
のように瞬時的フォワード・レートの期間構造を使って表すことができる.
(15)
次に,瞬時的フォワード・レートの確率過程を求めてみることにしよう.(13)
を微分すると,次のようになる.
また,割引債券価格の対数値は,(12)より,
d ln B(t, T)={r(t)-σB(t, T)2 / 2}dt+σB(t, T)dz
d ln B(t, T+ΔT)={r(t)-σB(t, T+ΔT)2 / 2}dt+σB(t, T+ΔT)dz
に従うので,フォワード・レートは次のような確率過程に従うことになる.
(149) 53Hull-White モデルと数値計算プロシージャについて(久保徳次郎)
f (t, T, T+ΔT)=- ,ln B(t, T+ΔT)-ln B(t, T) ΔT
=- (t, T)∂B∂T
1B(t, T)
R(t, T)= ∫ F(t, τ)dτ 1T-t
T
t
df (t, T, T+ΔT)=- d ln B(t, T+ΔT)-d ln B(t, T)ΔT
(16)
ここで,右辺の 2 つの項のカッコ内に関しては,
となるので,かくして,(16)の両辺に対してΔT→ 0 と極限をとると,次のよ
うな瞬時的フォワード・レートに関する確率過程をえることができる.
dF(t, T)=μF(t, T)dt+σF(t, T)dz (17)
ただし,
(18)
(19)
であり,また,(19)の右辺に関してはマイナス符号を省略している3).したが
って,フォワード・レートの確率過程は,割引債券価格のボラティリティを特
定化することによって求めることが可能となる.さらに,(18)は,(19)を使
うと次のように書き換えることができる.
(20)
ここで注目すべきことは,瞬時的フォワード・レートのドリフトはそのボラテ
ィリティにのみ依存する,ということである.したがって,フォワード・レー
54(150) 第 56 巻 第 2 号
df (t, T, T+ΔT)= dtσB(t, T+ΔT)2-σB(t, T)2
2ΔT{ }
+ dzσB(t, T)-σB(t, T+ΔT)
ΔT{ }
lim =σB(t, T) (t, T)∂σB
∂TσB(t, T+ΔT)2-σB(t, T)2
2ΔTΔT→0
lim =- (t, T)∂σB
∂TσB(t, T)-σB(t, T+ΔT)
ΔTΔT→0
μF(t, T)=σB(t, T) (t, T)∂σB
∂T
σF(t, T)= (t, T)∂σB
∂T
μF (t, T)=σF(t, T)∫ (t, τ)dτ ∂σF
∂TT
t
3)σF(t, T) はウィーナー過程 dzにかかる変数なので,正負の符号を入れ換えても一般性を失わない.
トの確率過程(17)は,それ自身のボラティリティのみによって表すことがで
きるというわけである.これは,HJM(1992)でえられた重要な結論の 1 つで,
フォワード・レートのボラティリティ関数を適切に特定化することによって,
様々なケースに対応することが可能となる4).
このフォワード・レートを使うと,短期利子率の確率過程を容易に求めるこ
とができる.まず,瞬時的スポット・レートは r(t)=F(t, t) とおけるので,(17)
を使うと次のように表すことができる.
(21)
かくして,上式を微分すると,
(22)
という結果をえることができる.これは,HJM のアプローチによってえられる
短期利子率に関する一般的な確率過程である.上式の第 2 項と第 3 項はともに
経路依存性を示しているので,この利子率過程は一般的にマルコフ性を有して
いない.また,(22)から言えることは,短期利子率の確率過程は,割引債券
価格あるいはフォワード・レートのどちらかのボラティリティを特定化するこ
とによって決定することができる,ということである.
HW(1993a)では,(22)に対して,
(151) 55Hull-White モデルと数値計算プロシージャについて(久保徳次郎)
4)以下の本文で示すように,フォワード・レートのボラティリティ関数は,HL モデルの場合,本文の(35),HW モデルの場合,本文の(31)のようにそれぞれ特定化されることとなる.
r(t)=F(0, t)+∫ dF(τ, t)dτ t
0
=F(0, t)+∫ σB(τ, t) (τ, t)dτ ∂σB
∂t t
0
+∫ (τ, t)dz(τ)∂σB
∂t t
0
dr(t)= (0, t)+ ∫ σB(τ, t) (τ, t)+ (τ, t) dτ dt∂σB
∂t∂2σB
∂t2∂F∂t { [ ] } t
0
2
+ ∫ σB(τ, t) (τ, t)dz(τ) dt+ (τ, t) τ=t dz(t)
∂σB
∂t∂2σB
∂t2{ [ ]} t
0
σB(τ, t)=g(τ){h(t)-h(τ)} (23)
という条件が,連続的マルコフ過程となるための必要十分条件であるというこ
とが示されている5).上記の利子率過程を連続的マルコフ過程とするために,こ
の条件を(21)に代入して微分すると,
dr={θ(t)-a(t)r}dt+v(t)dz (24)
という結果をえることができる.ただし,
a(t)=-h″(t) / h′(t)
v(t)=g(t)h′(t)
である.とくに,(24)において,a(t)=a,v(t)=v と定数化した場合を,すな
わち,
dr={θ(t)-ar}dt+vdz (25)
の場合を,拡張 Vasicek モデルあるいは単にHW モデルと呼んでいる6).
それでは,(25)のときに,g(・),h(・) およびθ(t) がどのように特定化される
かを考えてみることにしよう.この場合,(4a)の割引債券価格の基本方程式
は,
(26)
と書き換えることができる.
この偏微分方程式に対する解は,(9)と同様の形をしているので,
B(r, t ; T)=x(t, T)exp[-y (t, T)r]
とおき,これを(26)に代入すると,
56(152) 第 56 巻 第 2 号
θ(t)=a(t)F(0, t)+ (0, t)+{h′(t)}2∫ g(τ)2dτ ∂F∂t
t
0
+ +{θ(t)-vλ(t)-ar} -rB=0∂2B∂r2
∂B∂t
∂B∂r
v2 2
5)この点に関しては,Rebonato(1998)も参照.6)本文の(25)を dr=a{θ(t)/a-r}dt+vdz と書き換えることにより,HW モデルが Vasicek モデルと同様な平均回帰性をもっていることが分かる.
(27a)
(27b)
をえることができる.ここで,終期条件,
x(T, T)= 1
y(T, T)= 0
を考慮しながら,上記の 2 つの微分方程式を解くと,次のような結果をえるこ
とができる.
(28)
y(t, T)={1-exp[-a(T-t)]}/ a (29)
また,割引債券価格のボラティリティσB (t, T) は,(2c)と(9)より,
σB(t, T)=vy (t, T)
となる.かくして,上式に(29)を代入してマイナスをかけると,
σB(t, T)={1-exp[-a(T-t)]}v/a (30)
をえる7).また,この式と(19c)より,
σF(t, T)=vexp[-a(T-t)] (31)
という結果をえることができる.したがって,(30)において t をτに,T を t
にそれぞれ置き換えた式と,(23)より,
g(τ)=-exp[aτ]v/a
h(τ)=exp[-aτ]
h(t)=exp[-at]
という結果をえることができる.さらに,これら 3 式において,τを t に,tを
T にそれぞれ置き換え(24)に代入することによって,(25)の確率過程をえる
(153) 57Hull-White モデルと数値計算プロシージャについて(久保徳次郎)
(t, T)-{θ(t)-vλ(t)}x(t, T)y(t, T)+ v2x(t, T)y(t, T)2=0dxdt
12
(t, T)-ay(t, T)+1=0dydt
ln x(t, T)= ∫ y(τ, T)2dτ-∫ {θ(τ)-vλ(τ)} y(τ, T)dτ v2 2
T
t
T
t
7)σB(t, T) はウィーナー過程 dzにかかる変数なので,正負の符号を入れ換えても一般性を失わない.
ことができ,θ(t) に関しては,
(32)
と決定することができる.上式より,θ(t) の値は,金利のフォワード・レート
の初期期間構造,スポット・レートのボラティリティおよび平均回帰速度の情
報より決定することができる.また,(9),(28)および(29)より,割引債券
価格は,
と求めることができる.
なお,HW モデルは,(25)において a = 0 とすると HL モデルに,また
θ(t)=ab とすると Vasicek モデルにそれぞれ一致することになる.この意味で,
HW モデルは,Vasicek モデルとHL モデルとを融合させたモデルとして位置づ
けることができる.
ちなみに,HL モデルの場合の短期利子率に対する確率過程は,
dr(t)=θ(t) dt+vdz (33)
を仮定するので,(27a)と(27b)の微分方程式のうち,(27a)はそのままで,
(27b)は次のように書き換えられることになる.
終期条件はさきの場合と同様なので,かくして,
58(154) 第 56 巻 第 2 号
∂F∂t
θ(t)=aF(0, t)+ (0, t)+ {1-exp[-2at]}v2 2a
B(r, t ; T)=exp ∫ {1-exp[-a(T-τ)]}2dτ v2 2a2[ T
t
- ∫ {θ(τ)-vλ(τ)}{1-exp[-a(T-τ)]} dτ 1a
T
t
]- {1-exp[-a(T-t)]}ra
(t, T)+1=0dydt
ln x(t, T)= ∫ y(τ, T)2dτ-∫ {θ(τ)-vλ(τ)} y(τ, T)dτ v2 2
T
t
T
t
y(t, T)=-(T-t)
という結果をえることができる.この結果を使うと,HL モデルの場合の割引債
券価格は,
と求めることができる.また,ボラティリティは,
σB(t, T)=(T-t)v (34)
σF(t, T)=v (35)
となり,さらに(34)を(22)に直接代入することによって,
(36)
という結果をえることができる.
5 数値計算プロシージャ
5. 1 3 項ツリー構築のための 2 段階プロシージャ
HW(1993b,1994)では,前節の HW モデルを実際に数値計算するために,3
項モデルによるプロシージャが提示されている.HW(1993b)のプロシージャ
は,ボラティリティが定数でないより一般的なケースにも適用可能である.こ
れに対して,HW(1994)のプロシージャは,(25)の利子率過程に特化する形
で考案されたもので,より効率的な数値計算を可能とするように改良が加えら
れている.以下では,まずHW(1994)のプロシージャを取り上げることにする.
このプロシージャは,3 項ツリーの構築を 2 つの段階に分けて行っていくも
ので,2 段階プロシージャと呼ばれている8).まず第 1 段階では,(25)におい
てθ(t)= 0 とおいた次の確率過程に対して,通常と同様の手順に従って3項ツリ
ーを構築していく.
(155) 59Hull-White モデルと数値計算プロシージャについて(久保徳次郎)
B(r, t ; T)=exp ∫ (T-τ)2dτ+∫ {θ(τ)-vλ(τ)}(T-τ)dτ+(T-t)rv2 2[ ] T
t
T
t
∂F∂t
θ(t)= (0, t)+v2 t
8)以下の説明に関しては,Hull-White(1994,2003)を参照.また,擬似コードを用いた説明に関しては,Clewlow-Strickland(1998)を参照.
dr^=-ar^ dt+vdz (37)
そして,第 2 段階では,上式と(25)とのかい離を調整するように,すなわち
金利の初期期間構造と利子率過程がフィットするように,第 1 段階で構築され
たツリーを修正していくことになる.
それでは,第 1 段階の説明から始めることにしよう.ツリー上の任意の時点
および利子率水準に関しては,
r^=iΔr^ ,t=jΔt, (ただし,i, j = 0, 1, 2, ……)
とし,これに対応するノードを (i, j) と表すことにする.r^ (t+Δt)-r^ (t) の期待
値M と分散 V は,(37)より,
M=-aiΔr^Δt, (ただし,i = 0, 1, 2, ……)
V=v2Δt+(aiΔr^Δt)2, (ただし,i = 0, 1, 2, ……)
と求めることができる.(37)に対するツリー構築は通常の場合と同様の手順で
行われるが,ただし,通常のツリーは時間分割数の増加とともに分枝しながら
広がっていくのに対して,HW のプロシージャでは利子率の上限と下限の値を
それぞれ次の範囲内にある整数から選択する.
imax:0.184 / (aΔt)~0.186 / (aΔt) の間の整数
imin:-0.184 / (aΔt)~-0.186 / (aΔt) の間の整数
ただし,imax はノード上の利子率の上限を表す配列の添え字,imin は下限を表す
添え字である.
3 項ツリーの出発点を r^ (0, 0)= 0 とし,利子率のジャンプ幅を と
設定する9).利子率が任意の水準 iΔr から上昇する確率を pu(i),低下する確率
を pd(i),そして変動しない確率を pm(i) とそれぞれ表すと,上限・下限以外のノ
ードからの分枝確率は,
pu(i)+pm(i)+pd(i)=1
{pu(i)-pd(i)}Δr^ =M
60(156) 第 56 巻 第 2 号
Δ^r=v 3Δt
9)利子率のジャンプ幅に関しては,収束率を無視すれば, (c はプラスの定数)とおくと, c >_ 1 を満たせばどのように設定してもよい.
Δ^r=v cΔt
{pu(i)+pd(i)}Δr^ 2=V
より,
pu(i)=1 / 6+{(aiΔt)2-aiΔt}/ 2 (38a)
pm(i)=2 / 3-(aiΔt)2 (38b)
pd(i)=1 / 6+{(aiΔt)2+aiΔt}/ 2 (38c)
と決定することができる.また,上限ノードからの分枝確率は,
pu(imax)+pm(imax)+pd(imax)=1
-{2pd(imax)+pm(imax)}Δr^=M
{4pd(imax)+pm(imax)}Δr^ 2=V
より,
pu(imax)=7 / 6+{(aimaxΔt)2-3aimaxΔt}/ 2 (39a)
pm(imax)=-1 / 3-(aimaxΔt)2+2aimaxΔt (39b)
pd(imax)=1 / 6+{(aimaxΔt)2-aimaxΔt}/ 2 (39c)
と決定することができる.そして,下限ノードからの分枝確率は,
pu(imin)+pm(imin)+pd(imin)=1
{2pu(imin)+pm(imin)}Δr^=M
{4pu(imin)+pm(imin)}Δr^ 2=V
より,
pu(imin)=1 / 6+{(aiminΔt)2+aiminΔt}/ 2 (40a)
pm(imin)=-1 / 3-(aiminΔt)2-2aiminΔt (40b)
pd(imin)=7 / 6+{(aiminΔt)2+aiminΔt}/ 2 (40c)
と決定することができる.第 1 段階の 3 項ツリーは,以上のような分枝確率を
使いながら構築されていくことになる.
プロシージャの第 2 段階では,第 1 段階で構築された 3 項ツリーに対して,
その(25)からのかい離を,フォワード・レートあるいはゼロ・レートの期間
構造に関する市場データを使いながら調整していくことになる(フォワード・レ
ートはゼロ・レートで表すことができる.脚注 10を参照).いま,任意の時点 jΔtに
(157) 61Hull-White モデルと数値計算プロシージャについて(久保徳次郎)
おける(25)と(37)の利子率のかい離を
α( j )=r(i, j)-r^ (i, j) (41)
と表すと,(25)の利子率は,ノード上で r(i, j)=α( j )+r^ (i, j) を計算すること
によって求めることができる.ここで,α( j ) の値に関しては,ゼロ・レートの
初期期間構造より,以下のようにして求めることができる.
いま任意の時点 jΔt において,ノード (i, j) では通貨 1 単位のペイオフを,そ
れ以外のすべてのノードではゼロのペイオフをそれぞれもたらす純粋証券を考
え,その現在価値を Q(i, j) と表すことにする.また,ノード上の利子率 r(i, j)
の大きさを表す配列の添え字 i に関して,jΔt 時点における最高の利子率を示
す添え字を N( j )(<_ imax),最低の利子率を示す添え字を-N( j )(>_ imin) とそれぞれ
表すことにする.B( j+1) を ( j+1)Δt 時点を満期とする割引債券価格とする
と,これは,
と表すことができる.また,( j+1)Δt 時点を満期とするゼロ・レートを r0( j+
1) と表すと,割引債券価格は,
B( j+1)=exp[-r0( j+1)( j+1)Δt]
と表すこともできる10).かくして,これら 2 式より,jΔt 時点における r(i, j) と
r^ (i, j) のかい離は,
(42)
62(158) 第 56 巻 第 2 号
B( j+1)= Σ Q(i, j)exp[-r(i, j)Δt]N(j)
i=-N(j)
= Σ Q(i, j)exp[-{α(j)+jΔ^r}Δt]N( j )
i=-N( j )
{ }α( j)= +r0 ( j+1)( j+1)
N(j)
i=-N(j)ln Σ Q(i, j)exp[-iΔ^rΔt]
Δt
10)ゼロ・レートの期間構造を用いると,次式よりフォワード・レートの期間構造を求めることができる.
ただし,tj=jΔt である.
r0 (j+2)tj+2-r0 (j+1)tj+1
tj+2-tj+1f(tj, tj+1, tj+2)=
と求めることができる.
なお,(42)における純粋証券の現在価値に関しては,3 項ツリー上で次式を
順次計算していくことによって求めることができる.
Q(i, j+1)=pu(i-1)Q(i-1, j)exp[-r(i-1, j)Δt]
+pm(i)Q(i, j)exp[-r(i, j)Δt]
+pd(i+1)Q(i+1, j)exp[-r(i+1, j)Δt]
ただし,Q(0, 0)= 1 であり,また j = 1 の純粋証券は,
Q(1, 1)=pu(0)Q(0, 0)exp[-r(0, 0)Δt]
Q(0, 1)=pm(0)Q(0, 0)exp[-r(0, 0)Δt]
Q(-1, 1)=pd(0)Q(0, 0)exp[-r(0, 0)Δt]
として決定する.
以上要約すれば,第 1 段階で r^ (i, j)(θ(t)= 0 の場合)の 3 項ツリーを通常の
方法で構築し,第 2 段階でα( j ) を純粋証券と金利の初期期間構造より求め,
各ノード上でα( j )+r^ (i, j ) を順次計算していくことによって,r(i, j) に対する 3
項ツリーを構築することが可能となる.
5. 2 対数正規過程の場合
上記の数値解法では,利子率がマイナスになる可能性を含んでいる.したが
って,とくに低金利の経済を考える場合,確率過程(25)を使う数値計算は適
切であるとは言いがたい.そこで利子率に関しては,(25)に代わって次のよう
な対数正規過程を利用すればこの問題を回避することができる.
d ln r={θ(t)-a ln r}dt+vdz (43)
これは,Black-Karasinski(1991)モデルに対する 1 つのバージョンとみなすこ
とができる11).
いま,x(i, j)=ln r(i, j),x^ (i, j)=ln r^ (i, j), ,α( j )=x(i, j)-x^(i, j)
(159) 63Hull-White モデルと数値計算プロシージャについて(久保徳次郎)
11)Black-Karasinski(1991)モデルでは,a,v は定数ではない.
Δ^x=v 3Δt
とおくと,この場合,( j+1)Δt 時点を満期とする割引債券価格は次のようにな
る.
さきの場合と同様に,上式と B( j+1)=exp[-r0( j+1)( j+1)Δt] より,α( j ) の
値を求めることができるが,しかしこの場合,(42)のように陽表的に解くこと
ができない.そこで,Newton 法(別名 Newton-Raphson 法)などの数値解法を使
ってα( j ) を求める必要がある.次のコードは,Visual Basic(Ver. 6)を使った
Newton 法によるα( j ) の解法例である12).
sum = 0
dsum = 0
alpha( j ) = alpha( j -1)
For i =-N( j ) To N( j )
sum = sum + Q(i, j) _
* Exp(-Exp((alpha( j )+i * dx) * dt))
dsum = dsum-Q(i, j) _
* Exp(-Exp((alpha( j )+i * dx) * dt)) * dt
Next i
B = Exp(-r0( j + 1) * ( j + 1) * dt)
Do While Abs(sum - B) > 0.00000001
alpha( j ) = alpha( j ) - (sum - B) / dsum
sum = 0
dsum = 0
64(160) 第 56 巻 第 2 号
B( j+1)= Σ Q(i, j)exp[-exp[x(i, j)]Δt]N(j)
i=-N(j)
= Σ Q(i, j)exp[-exp[α( j )+iΔ^x]Δt]N(j)
i=-N(j)
12)Visual Basic.net(Ver. 2003)の場合は,配列の添え字の最低値は自動的にゼロと設定されるので,この点に注意しながら本文のコード例を修正する必要がある.
For i = -N( j ) To N( j )
sum = sum + Q(i, j) _
* Exp(-Exp((alpha( j ) + i * dx) * dt))
dsum = dsum - Q( j, i) _
* Exp(-Exp((alpha( j ) + i * dx) * dt)) * dt
Next i
Loop
ただし,dx=Δx^,alpha( j )=α( j ) である.また,このコード例では,解が収
束しない場合の処理は省略されている.
5. 3 より一般的な数値計算プロシージャ
上記の数値計算プロシージャに対して,HW(1993b)で提示されているプロ
シージャは,
dr={θ(t)-ar}dt+vrβdz, (ただし,βは定数) (44)
のように,ボラティリティが定数でないより一般的なケースについても適用可
能である.上式において,例えば,β= 0 のときHW モデル,β=1 / 2 のとき
Cox-Ingersoll-Ross(1985)モデルの拡張バージョンにそれぞれ一致する.この
数値解法では,変数変換を行ってツリーの構築を行っていく.以下では,HW
(1993b)ではなく,Boyle-Tian(1999)で用いられている方法を使って,0 <_β<_
1 のケースについてその解法例を示すことにする13).
さきの方法と違って,この数値解法では,最初のツリーの構築の段階で,不
規則な分枝過程を許すと同時に,下限はゼロのところで設定し,上限に関して
はその設定を行わない.いま,関数 s(r, t) を考え,これがそれ自身の確率過程
に対して定数のボラティリティをもつものと仮定する.すなわち,この一定の
ボラティリティをρとすると,伊藤の補題より,次式のように表すことができ
(161) 65Hull-White モデルと数値計算プロシージャについて(久保徳次郎)
13)詳細については,久保(2002)を参照.
る.
ds=q(r, t)dt+ρdz (45)
ただし,
である.関数 s(r, t) は,それ自身のボラティリティを定数化するので,
とおくことができ,
と求めることができる.かくして,関数 s(r, t) はツリー上では次のように表す
ことができる.
(0 <_β< 1 のとき) (46a)
(β= 1 のとき) (46b)
したがって,3 項ツリーの出発点を
(0 <_β< 1 のとき)
(β= 1 のとき)
とし,例えばジャンプ幅を と定めて,s(i, j) の 3 項分枝過程から利
子率のツリーを構築することができる.ただし,この分枝過程に関しては,以
下のような処理を施しながら構築していく必要がある.
任意のノード (i, j) から次の時点で到達可能な 3 つのノードを,(k+1, j+1),
(k, j+1),(k-1, j+1) と表すことにする.しかし,この場合,通常の 3 項ツリ
66(162) 第 56 巻 第 2 号
q(r, t)= +{θ(t)-ar} + (vrβ)2∂s∂t
∂s∂r
∂2s∂r2
12
vrβ=ρ ∂s∂r
s=∫ drρ vrβ
s(i, j)= r(i, j)1-β,ρ
(1-β)v
s(i, j)= ln r(i, j),ρ v
s(0, 0)= r(0, 0)1-β,ρ
(1-β)v
s(0, 0)= ln r(0, 0),ρ v
Δs=ρ 3Δt
ーの場合と違って k = j となるとは限らない.k の値(整数)に関しては,次式
を満たすように決定してやればよい.
r(k, j+1)={1+μ(i, j)Δt}r(i, j) (47)
ただし,
μ(i, j)=θ(i)-ar(i, j)
である.ここで,(46a),(46b)より,
,(0 <_β< 1 のとき)
r(i, j)=exp[vs(i, j) /ρ] ,(β= 1 のとき)
であり,また s(k, j+1)=s(0, 0)+kΔs であるので,かくして,
(0 <_β< 1 のとき)
(β= 1 のとき)
という結果をえることができる.ここで,Round(・) は変数を四捨五入して整
数化する関数である.
また,ρに関しては,安定条件を満たす範囲で自由に設定できるが,Boyle-
Tian ではρ=v とおいて数値計算を行っている.
任意のノード (i, j) から次の時点のノード (k, j+1) に到る確率を p(k, j+1) と
表すと,分枝確率に関しては,下記の 3 つの方程式から求めることができる.
p(k+1, j+1)+p(k, j+1)+p(k-1, j+1)=1
p(k+1, j+1) r(k+1, j+1)+p(k, j+1) r(k, j+1)
+p(k-1, j+1) r(k-1, j+1)=E(i, j)
p(k+1, j+1) r(k+1, j+1)2+p(k, j+1) r(k, j+1)2
+p(k-1, j+1) r(k-1, j+1)2=E(i, j)2+V(i, j)
ただし,
E(i, j)={1+μ(i, j)Δt}r(i, j),
(163) 67Hull-White モデルと数値計算プロシージャについて(久保徳次郎)
(1-β)v ρ r(i, j)= s(i, j){ }1/(1-β)
k=Round ,{1+μ(i, j)Δt}1-βs(i, j)-s(0, 0)
Δs
k=Round ,
ρ v ln{1+μ(i, j)Δt}+s(i, j)-s(0, 0)
Δs
V(i, j)={vr(i, j)β}2Δt
である.かくして,これらの式より,分枝確率は次のように決定することがで
きる.
また,θ(j) に関しては,純粋証券価格 Q(i, j) を使って,ノード上の各時点で次
のようにして求めていくことができる14).
ただし,
B( j+2)=exp[-r0( j+2)( j+2)Δt]
である.
6 おわりに
本稿では,代表的な 1 ファクター・利子率モデルである HW モデルとそれに
関連する利子率モデルについて考察を行ってきた.また,このモデルのための
HW による数値計算プロシージャについて詳述すると同時に,Boyle-Tian の数
値計算プロシージャを HW モデルに適用できることも示した.理論モデルに対
する数値計算法の選択に関しては,計算効率の観点からモデルごとに行う必要
がある.そういった意味では,いろいろな数値解法をできる限り知っておくべ
68(164) 第 56 巻 第 2 号
p(k+1, j+1)= {r(k, j+1)-E(i, j)}{r(k-1, j+1)-E(i, j)}+V(i, j){r(k, j+1)-r(k+1, j+1)}{r(k-1, j+1)-r(k+1, j+1)}
p(k, j+1)= {r(k+1, j+1)-E(i, j)}{r(k-1, j+1)-E(i, j)}+V(i, j){r(k+1, j+1)-r(k, j+1)}{r(k-1, j+1)-r(k, j+1)}
p(k-1, j+1)= {r(k+1, j+1)-E(i, j)}{r(k, j+1)-E(i, j)}+V(i, j){r(k+1, j+1)-r(k-1, j+1)}{r(k, j+1)-r(k-1, j+1)}
θ( j )=Σ Q(i, j)exp[-2r(i, j)Δt](1+ar(i, j)Δt2)-B( j+2)
N(j)
i=-N(j)
Σ Q(i, j)exp[-2r(i, j)Δt]Δt2N(j)
i=-N(j)
14)θ( j ) の導出に関しては,Hull-White(1993b)を参照.
きである.
なお,本稿では,より一般的な利子率モデルであるHJM モデルおよびその数
値計算プロシージャについては,直接触れてこなかった.このモデルでは一般
的に非マルコフ過程が取り扱われるため,ツリー・モデルを使う数値計算では,
分枝過程に対して再結合条件を適用することができない.モンテカルロ法など
の他の方法を用いる場合もあるが,いずれにしても,精度の高い数値計算結果
をえるためには,膨大な計算量とメモリーとを要するという難点がある.この
ような点に関しては,今後の検討課題としたい.
(165) 69Hull-White モデルと数値計算プロシージャについて(久保徳次郎)
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(167) 71Hull-White モデルと数値計算プロシージャについて(久保徳次郎)
72(168) 第 56 巻 第 2 号
The Doshisha University Economic Review Vol.56 No.2
Abstract
Tokujiro KUBO, On the Hull-White Model and the Numerical Procedures
This note examines the interest-rate model of Hull-White (1993a) and the
numerical procedures for it. This model is a Markovian case of Heath-Jarrow-
Morton (1992), but it has a greater deal of analytic tractability and leads to faster
numerical computation than non-Markovian models. We also apply the numerical
procedure of Boyle-Tian (1999) to the Hull-White model to present another
numerical method.