﹁生きる力﹂の変容...ふりかえりの時間 【評価項目の設定】 a...

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事業評価❶ ﹁生きる力﹂の変容 評価方法‥‥「子どもIKR評定用紙(簡易版)」を用いた質問紙調査 事前(事前説明会)・中間(事業5日目)・事後(事業最終日)・追跡(事業終了1か月後) 分析方法‥‥①一元配置分散分析  ②多重検定(Bonferroni) ※有意水準5%で検証 「生きる力」「心理的社会的能力」「身体的能力」が有意に向上した。 (事前 ― 事後) 事業終了1か月後に、これらの能力が持続していた。 (事後 ― 追跡) 「子どもIKR評定用紙」とは? 「生きる力」を構成する指標 「生きる力」を測定するための28項目からなる アンケート用紙である。 質問は「いやなことは、いやとはっきりいえる」 といった心理的社会的能力(14 項目)、「自分かっ てな、わがままは言わない」といった徳育的能力 ( 8 項目)、「早寝早起きである」といった身体的能 力( 6 項目)の 3 つの能力で構成されている。質問 項目ごとに「とてもよくあてはまる( 6 点)」から 「まったくあてはまらない( 1点)」の 6 段階で回 答し、その合計得点で「生きる力」を測る。 事前調査と事後調査を比較して、「生きる力」については10ポイント以上の大きな向上がみられた。また「生 きる力」を構成する 3 能力のうち「心理的社会的能力」「身体的能力」においても得点が有意に向上しており、本 事業の効果がうかがわれる。これらの能力は事前-中間ではなく中間-事後において大きな向上がみられる。樅 沢岳登山やサイクリングといったひとつひとつのプログラムが「生きる力」の向上に影響したのではなく、10泊 11日の長期キャンプを乗り越えた達成感が影響していると考えられる。 考 察 調査の結果 非依存 積極性 明朗性 交友・協調      心理的社会的能力 現実肯定 視野・判断 適応行動 自己規制 自然への関心      徳育的能力 生きる力 まじめ勤勉 思いやり 日常的行動力 身体的耐性      身体的能力 野外技能・生活 「生きる力」の変容 135 130 125 120 115 事前 中間 事後 追跡 「心理的社会的能力」の変容 67 64 61 58 事前 中間 事後 追跡 「徳育的能力」の変容 42 38 34 30 事前 中間 事後 追跡 「身体的能力」の変容 28 27 26 25 24 事前 中間 事後 追跡 14

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Page 1: ﹁生きる力﹂の変容...ふりかえりの時間 【評価項目の設定】 a 全力キャンプの根幹である構想図(p.4参照)にあるように、「ねばり強く

事 業 評 価 ❶

﹁生きる力﹂の変容評価方法‥‥「子どもIKR評定用紙(簡易版)」を用いた質問紙調査      事前(事前説明会)・中間(事業5日目)・事後(事業最終日)・追跡(事業終了1か月後)分析方法‥‥①一元配置分散分析  ②多重検定(Bonferroni) ※有意水準5%で検証

「生きる力」「心理的社会的能力」「身体的能力」が有意に向上した。(事前―事後)事業終了1か月後に、これらの能力が持続していた。(事後―追跡)

「子どもIKR評定用紙」とは? 「生きる力」を構成する指標 「生きる力」を測定するための28項目からなるアンケート用紙である。 質問は「いやなことは、いやとはっきりいえる」といった心理的社会的能力(14項目)、「自分かってな、わがままは言わない」といった徳育的能力(8項目)、「早寝早起きである」といった身体的能力(6項目)の3つの能力で構成されている。質問項目ごとに「とてもよくあてはまる(6点)」から 「まったくあてはまらない(1点)」の6段階で回答し、その合計得点で「生きる力」を測る。

 事前調査と事後調査を比較して、「生きる力」については10ポイント以上の大きな向上がみられた。また「生きる力」を構成する3能力のうち「心理的社会的能力」「身体的能力」においても得点が有意に向上しており、本事業の効果がうかがわれる。これらの能力は事前-中間ではなく中間-事後において大きな向上がみられる。樅沢岳登山やサイクリングといったひとつひとつのプログラムが「生きる力」の向上に影響したのではなく、10泊11日の長期キャンプを乗り越えた達成感が影響していると考えられる。

考 察

調査の結果

非依存積極性明朗性交友・協調      心理的社会的能力現実肯定視野・判断適応行動自己規制自然への関心     徳育的能力       生きる力まじめ勤勉思いやり日常的行動力身体的耐性      身体的能力野外技能・生活

「生きる力」の変容

135

130

125

120

115事前 中間 事後 追跡

「心理的社会的能力」の変容

67

64

61

58事前 中間 事後 追跡

「徳育的能力」の変容

42

38

34

30事前 中間 事後 追跡

「身体的能力」の変容

28

27

26

25

24事前 中間 事後 追跡

14

Page 2: ﹁生きる力﹂の変容...ふりかえりの時間 【評価項目の設定】 a 全力キャンプの根幹である構想図(p.4参照)にあるように、「ねばり強く

Zenryoku Camp Sea & Mountain My Challenge! 2015事 業 評 価 ❷

﹁社会的スキル﹂の変容

「小学生版社会的スキル尺度」とは?

各因子で得点の向上がみられたものの、有意差を示さなかった。(事前―中間、事前―事後、中間―事後)

評価方法‥‥「小学生版社会的スキル尺度」を用いた質問紙調査      事前(事前説明会)・中間(事業5日目)・事後(事業最終日)・追跡(事業終了1か月後)分析方法‥‥①一元配置分散分析  ②多重検定(Bonferroni) ※有意水準5%で検証

 小学生の「社会的スキル」を測定するための15項目からなるアンケート用紙である。この質問紙では、社会的スキルを「ある特定の社会的場面に受け入れられるための行動であり、不適切な行動を遂行しないことを含む」と定義している。 質問は「友だちがしっぱいしたら、はげます」といった向社会的スキル(7項目)、「友だちとはなれて、ひとりだけであそぶ」といった引っ込み思案行動(4項目)、「友だちにけんかをしかける」といった攻撃行動(4項目)の3因子で構成されている。質問項目ごとに「よく当てはまる(4点)」から「全然当てはまらない(1点)」の4段階で回答する。「向社会的スキル」は質問項目に対して、「よく当てはまる」と回答するほうが、社会的スキルが高くなる。「引っ込み思案行動」「攻撃行動」は、「全然当てはまらない」と回答するほうが、社会的スキルが高くなる。

 「社会的スキル」を構成する3因子では能力の向上がみられたものの、有意差は示さなかった。「社会的スキル」は徳育的なスキルであると考えられ、この結果は「徳育的能力」で得点の向上を示さなかった「生きる力」の調査結果と同じといえる。今後はこれらの徳育的なスキルでも得点の向上がみられるよう、指導方法やプログラム内容について検討していきたい。

調査の結果

考 察

「向社会的スキル」の変容

23

22

21

20

19事前 中間 事後 追跡

「攻撃行動」の変容

8

7

6

5

4事前 中間 事後 追跡

「引っ込み思案行動」の変容

10

9

8

7

6事前 中間 事後 追跡

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Page 3: ﹁生きる力﹂の変容...ふりかえりの時間 【評価項目の設定】 a 全力キャンプの根幹である構想図(p.4参照)にあるように、「ねばり強く

教育効果の検証 子供の学びを支える評価の工夫ふりかえりの時間

【評価項目の設定】 A 全力キャンプの根幹である構想図(P.4参照)にあるように、「ねばり強く生き抜く力」を育成するためには、3つの力「⑴かかわる力 ⑵感じる力 ⑶見つめる力」が大切だと考えた。この3つの力を、プログラムの特性と照らし合わせ、子供の姿を想定し、それぞれの力に3観点の評価項目、全9観点の評価項目(以下「付けたい力」)を設定した。

*今日の1日の活動を終えて、今の自分について振り返ってみましょう。 <評価点>かかわる力 ①自分から進んで友達や指導者に話すことができたか。

②相手の立場に立って話したり、行動したりすることができたか。③友達と励まし合って活動に取り組むことができたか。

感じる力 ④友達のよいところを見つけたり、感じたりすることができたか。⑤自然の素晴らしさや厳しさを感じることができたか。⑥成長できた自分を感じることができたか。

見つめる力 ⑦自分自身のよいところを見つけることができたか。⑧あきらめないで最後までがんばりぬくことができたか。⑨指示されるだけでなく、自分で考えて行動することができたか。

評価点 5 ・・・よくできた  4 ・・・まあまあできた  3 ・・・どちらとも言えない    2 ・・・あまりできなかった  1 ・・・できなかった

<今日の活動を振り返って:チャート図を見て気づいたことを書こう>

「全力キャンプ 海・山 My Challenge! 2015」 ふりかえりカード    月   日氏名(            )

【自由記述欄】 C ふりかえりカードに、「自由に感想を書いてみよう」では、その日一日の単なる感想文になってしまい、自分自身にどのような成長が見られたか実感することは難しい。そこで、自由記述の欄には、チャート図から感じたことを、気付いたことを書くようにした。そうすることで、具体的にどのようなことがあったのか、事実に基づいて記述するようになるのではないかと考えたからである。特に書く量に指定はなく、書きたいことがある場合は、裏面に書いてもよいことにした。【チャート式評価】 B

 付けたい力について、5段階で自己評価し、チャート図に表すようにした。9つの点を線で結び、評価全体の様子を視覚的に捉えやすくすることで、観点間の比較ができるようにした。また、日ごとのチャート図を図形的に比較することで、前の自分から今日の自分がどのように変化したかが見て取れるようにした。

【ファイル管理】 毎日書きためていく「ふりかえりカード」は、一人につき一冊のファイルに保管するようにした。そのことにより、前の自分がどのような評価をしたのかをフィードバックしながら、今日の自分を振り返る姿を期待した。

 日々の活動によって得た「学び」を文字にして残す。「学び」とは、その時に感じたことや考えたこと、新しく知ったこと等、全ての事柄である。 とりわけ、全力キャンプで目指す「ねばり強く生き抜く子供」を育成するため、自分自身に強く働きかけ、変化していこうとする子供自身のエネルギーとなる「学び」を残したい。評価で大切なことは、子供が真摯に自分自身と向き合い、自己の成長を実感することである。そのためには、事業全体を通して、統一性のある評価をする必要があると考えた。 また、全力キャンプは、長期移動型キャンプである。前出の方策の他、その日の疲労度を考慮することが最優先である。つまり、休息や睡眠時間を確保するため、短時間で効果的にふりかえることが求められる。子供たちにとって負担がなく、持続可能かつ自己の高まりが感じられるような評価方法について探った。 以下、実際のキャンプで行った、ふりかえりの手法について紹介する。

ふりかえり

参加者に提示したふりかえりカード

◆評価点を下のチャート図に表そう!

①②

⑤⑥

1234

5

9つの点を線で結んでみましょう!

A

C

B

<子供の意識(例)> 今日は、自分から進んで話せたし、あきらめないでがんばれた。でももっと友達と励まし合うことを明日は意識しないといけないな。

542434353

<評価点>◆評価点を下のチャート図に表そう!

①②

⑤⑥

12345

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Page 4: ﹁生きる力﹂の変容...ふりかえりの時間 【評価項目の設定】 a 全力キャンプの根幹である構想図(p.4参照)にあるように、「ねばり強く

Zenryoku Camp Sea & Mountain My Challenge! 2015

【生き抜く力の検証】 子供たちが記述した「付けたい力の評価点の合計÷9」を「生き抜く力点」とし、参加者全員の平均をグラフに表すと下のような推移が見られた。

<かかわる力>❶ 「励まし合う」の評価点が、サイクリング初日(8/7)に大きく下がっている。予想がつかない道を、自転車をこぐことに必死だったために、友達とかかわる余裕がなかったのではないか。そして、登山行程(8/4)に比べて、励まし合いができなかった自分自身に対し、厳しく評価している子供の真摯な姿だと捉える。その姿が、子供に大きな負荷をかけた行程(サイクリング行程8/8・9・11)で意識化され、チーム内で必死に頑張る仲間と励まし合う姿となり、評価点の上昇につながったのではないかと考える。<感じる力>❷ 「成長を感じる」については、事業開始時は低い数値で始まり、事業最終日には高い数値になっている。その推移の仕方は、「自分のよいところを見つける」と類似している。このことから、子供の意識として、2つの観点に大きな関連性があると考える。<見つめる力>❸ サイクリング初日(8/7)は、9観点のうち「最後まであきらめない」だけが上昇した。子供にとって経験したことのない40kmのサイクリングを乗り越えられた自信の表れだと考える。また、この項目は、得点が高い位置で安定していることから、本事業は、全体的に「全力を出し切る」行程であったと言える。❹ 全日程を通じて、「自分自身のよいところを見つける」項目が比較的低い得点(平均で3.8ポイント)であった。全力を出し切る行程であり、各ステージの盛り上がりで達成感を感じていることが、必ずしも自己肯定感につながるとは言えない。今後の支援のあり方について検討する必要がある。❺ サイクリング最終日(8/11)では、全ての項目で上昇がみられ、平均4.7ポイントとなった。その上昇率は高く、前日比で平均0.8ポイントの上昇であった。しかし、「考えて行動する」項目は一番低い4.2ポイントとなるだけでなく、前日比の上昇もわずか0.1ポイントにとどまった。プログラムに、子供が自ら考え判断して行動する要素を取り入れる必要がある。

 ここでは、子供たちが、日々の「ふりかえりカード」に記載した付けたい力の評価点を集計することで、事業全体の子供の変容を見取る。調査は、最終日を除き、毎日実施した。

統計による検証

3.94

4.44.6

4.1 4.1

3.6★

4.24.1

3.9

4.7★ ★

7/19 8/2 8/3 8/4 8/5 8/6生き抜く力点の推移(5点満点)

付けたい力の評価点の推移の検証

【付けたい力の検証】

8/7 8/8 8/9 8/108/11

5

4.5

4

3.5

3

5

4.5

4

3.5

37/19 8/2 8/3 8/4 8/5 8/6 8/7 8/8 8/9 8/10 8/11

●❶

●❷

●❹

●❸

●❺

かかわる力感じる力見つめる力

進んで話す友達のよいところ自分のよいところ

相手の立場に立つ自然を感じる最後まであきらめない

励まし合う成長を感じる考えて行動する

出会い チームづくり チャレンジ 旅立ち

•全体的に見ると、一度上昇した数値が、キャンプの中盤で下がり、サイクリング最終日に再度上昇している。11日間の長期にわたるキャンプのプログラムとの関係性を検証する必要がある。

•2か所のピーク(★)でのプログラムは、8/4は登山行程の2日目の宿である「双六小屋」に到着した日であり、8/11はサイクリング行程のゴール地「禄剛崎」に到着した日である。子供が全力を出し切った達成感が評価点を高くした要因であると言える。付けたい力のうち、どの項目の評価点が高くなったのか観点別のグラフの推移を見て、プログラムとのかかわりについて検証する必要がある。

•評価点が一番低かった8/7(★)は、サイクリングの初日を終えた日である。このこととサイクリングプログラムとの関係性について、付けたい力の評価点を比較し、分析する必要がある。

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