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ICS-10 2 第 10 回犬山比較社会認知シンポジウム 共催 : 科学研究費補助金基盤 (S)「海のこころ、森のこころ . ─ 鯨類と霊長類の知性に関する 比較認知科学─」 H26年度 共同利用研究会 後援 : 京都大学こころの先端研究ユニット 世話人 : 友永雅己、林美里、足立幾磨、服部裕子、川上文人 (京都大学霊長類研究所)、板倉昭二(京都大学文学研究科)、 田中正之(京都市動物園)、明和政子(京都大学教育学研究科)

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ICS-102

第 10回犬山比較社会認知シンポジウム

共催 : 科学研究費補助金基盤 (S)「海のこころ、森のこころ . ─鯨類と霊長類の知性に関する 比較認知科学─」

H26年度 共同利用研究会

後援 : 京都大学こころの先端研究ユニット

世話人 : 友永雅己、林美里、足立幾磨、服部裕子、川上文人(京都大学霊長類研究所)、板倉昭二(京都大学文学研究科)、田中正之(京都市動物園)、明和政子(京都大学教育学研究科)

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第 10 回犬山比較社会認知シンポジウム (iCS2-10)

2015 年 2 月 28 日(土)-3 月 1 日(日)

京都大学霊長類研究所大会議室

PROGRAM

2 月 28 日(土)

SESSION I 13:00-13:30 T1 板倉昭二(京都大)

Shoji Itakura (Kyoto University) Infants rely on helping and hindering actions to generate expectations about agents’ fairness 13:30-14:00 T2 岩崎純衣(京都大)

Sumie Iwasaki (Kyoto University) ハトにおける展望的記憶の検討

Do pigeons have prospective memory? 14:00-14:30 T3 植田彩容子(京都大)

Sayoko Ueda (Kyoto University) オオカミの目はなぜ目立つ?イヌ科動物の顔の色彩パターンの比較から

Why does gray wolf (Canis lupus) make the eyes conspicuous in the face? 14:30-15:00 T4 島田将喜(帝京科学大)

Masaki Shimada (Teikyo University of Science) 社会的遊びとホモルーデンスの進化

Social Play and the Insights on Evolution of Homo ludens 15:00-16:00 施設見学

SESSION II 16:00-16:30 T5 関 義正(愛知大)

Yoshimasa Seki (Aichi University) 動物は視聴覚機器を介した対面コミュニケーションを好むだろうか-セキセイインコを用い

た研究 “Do animals like Face-to-Face communication via audio-visual devices? – A study in Budgerigars.”

16:30-17:00 T6 澤 幸祐(専修大) Kosuke Sawa (Senshu University)

“Sense of self-agency” in rats 17:00-17:30 T7 今野晃嗣(帝京科学大)

Akitsugu Konno (Teikyo University of Science) イヌの尻尾振りと情動伝染

Dog’s tail-wagging and its relation to emotional contagion 17:30-18:00 T8 幡地祐哉(京都大)

Yuya Hataji (Kyoto University) 鳥類における視野安定機能―歩行時頭部運動の分析―

Visual stability in birds: An analysis of head movement during walking 18:00-18:30 T9 吉田弥生(京都大)

Yayoi Yoshida (Kyoto University) イロワケイルカにおける音声研究の可能性

Possibility of the Acoustic Study in Commerson’s dolphins 19:00- 懇親会

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3 月 1 日(日)

SESSION III 9:00-9:30 T10 池田彩夏(京都大)

Ayaka Ikeda (Kyoto University) 日本語学習児における Infant-Directed Speech と Adult-Directed Speech の使い分けの理解

Understanding of how to use Infant-Directed Speech and Adult-Directed Speech: Evidence from Japanese-learning toddlers

9:30-10:00 T11 磯村朋子(京都大) Tomoko Isomura (Kyoto University)

自閉症児における怒り顔への視覚的注意 Visual attention to angry faces in children with Autism Spectrum Disorder

10:00-10:30 T12 新屋裕太(京都大) Yuta Shinya (Kyoto University)

早産児における自発的啼泣と自律神経活動との関連 Spontaneous crying and autonomic nervous system in preterm and full-term infants

10:30-10:45 休憩

SESSION IV 10:45-11:15 T13 田中友香理(京都大)

Yukari Tanaka (Kyoto University) 触覚を介した母子間相互作用経験が母親の脳内情報処理に与える影響

Mothers' multimodal information processing modulated by multimodal interactions with their infants 11:15-11:45 T14 古見文一(京都大)

Fumikazu Furumi (Kyoto University) ロールプレイがマインドリーディングに及ぼす効果の転移

Transfer of role-play effect on mindreading 11:45-12:15 T15 大久保街亜(専修大)

Matia Okubo (Senshu University) 裏切り者よ,汝,左の頬を出せ:ポーズの左右差と信頼感

Cheaters turn the other cheek forward: Lateral posing asymmetries for displaying trustworthiness 12:15-13:15 昼食

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SESSION V 13:15-13:45 T16 山田祐樹(九州大)

Yuki Yamada (Kyushu University) 情動の配置

Allocation of emotion 13:45-14:15 T17 白井 述(新潟大)

Nobu Shirai (Niigata University) 乳児期における Implied motion 知覚の発達

Development of implied motion perception in infancy 14:15-14:45 T18 平松千尋(九州大)

Chihiro Hiramatsu (Kyushu University) 視知覚の種間比較研究: 素材質感知覚や顔色知覚、種間比較の難しさについて

Comparative studies on visual perception: material perception and face color perception, the difficulty of comparative studies

14:45-15:15 T19 平山高嗣(名古屋大) Takatsugu Hirayama (Nagoya University)

人の内部状態を顕在化する視覚的インタラクションのデザインとマイニング Design and Mining of Gaze-Based Interaction Making Cognitive State Explicit

15:15-15:45 T20 石井敬子(神戸大) Keiko Ishii (Kobe University)

感情情報に対する注意の文化差 Cultural differences in attention to emotional information

15:45-16:00 総合討論

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ABSTRACTS T1 Infants rely on helping and hindering actions to generate expectations about agents’ fairness 板倉昭二 京都大学文学研究科心理学研究室

The present study investigated whether 15-month-olds react differently to events that instantiate fair and unfair distributions agents performed by agents that has previously performed a helping or hindering action towards a third party. Infants were first familiarized with two agents (i.e. simple geometrical shapes with eyes and mouth) who helped or hindered another agent that was trying to climb a slope. In the test phase, the helper/hinderer distributed resources to two identical potential recipients. Half of the participants saw was presented with the agents that distributed the goods fairly (equally), while the other half saw the agents performing an unfair (unequal) distribution by giving all to one recipient and ignoring the other. Infants tested in the helper condition looked reliably longer when the agent performed an unfair distribution. By contrast, infants tested in the hinderer condition did not look longer to any of the two test events. We discuss these results in the context of recent studies investigating infants’ sense of fairness and the development of fairness behavior in older children. We argue that these findings provide further support for the claim that infants possess a tacit socio-moral competence that is independent of linguistic experience and domain-general learning mechanisms. Crucially, these findings suggest that infants’ sense of fairness is linked from early on to the competence underlying evaluation of events involving harm and help.

T2 ハトにおける展望的記憶の検討 Do pigeons have prospective memory?

岩崎純衣・藤田和生 京都大学文学研究科

展望的記憶とは、自身が将来行う行為を記銘し、それを適切なタイミングで想起する記憶である。本実験では、

ハトが展望的記憶を有するかを検討した。被験体(N = 3)には 2 つの課題を課した。一つは線分二分課題(Ongoing task)であり、もう一つは背景が黄色になったら即座に星印へ反応する課題(Prospective task)である。1 セッション

は、Ongoing task を 10 試行行った後、Prospective task を 1 試行挿入し、これを 24 回繰り返したものであった。将

来の行為を想起しそれを心に留めておくためにはある程度の注意資源が必要であるため、将来の行為の想起と保持

は Ongoing task の成績に影響を及ぼすと考えられる。つまり、もしハトが展望的記憶を有するのであれば、

Prospective task の到来が間近に迫った試行より、そうでない試行において Ongoing task の弁別成績が高くなるはず

である。しかし本実験において、Prospective task が間近に迫っているか否かは、弁別成績に全く影響を及ぼさなか

ったため、今回ハトが展望的記憶を有する証拠は得られなかった。今後、詳細な検討を続ける予定である。

T3 オオカミの目はなぜ目立つ?イヌ科動物の顔の色彩パターンの比較から Why does gray wolf (Canis lupus) make the eyes conspicuous in the face?

植田彩容子 1・熊谷岳 2・大滝侑介 3・山口進也 3・幸島司郎 1 1 野生動物研究センター・2多摩動物公園・3よこはま動物園ズーラシア

イヌ科動物は南極を除くすべての大陸に分布し、タヌキからオオカミまで形態も生態もさまざまであるが、ペア

を中心とした家族単位で動く、血縁の繋がりの強い動物である。彼らのコミュニケーションは、イエイヌにみられ

るように、体の姿勢や顔の表情、尾、耳による視覚シグナルが用いられていることが知られているが、これまでイ

ヌ科各種の顔の色形態とその種の行動を関連付けた研究はなされてこなかった。そこで 25 種のイヌ科動物の顔の

色彩パターンを比較したところ、目の周辺の色彩コントラストから、視線の目立ちやすさが異なる 3 タイプに分類

でき、視線強調型の顔の色彩パターンが、年間を通して群れ生活を営む種に多いことがわかった。また顔の色彩パ

ターンの異なる種の他個体への凝視行動の比較と、視線強調型の顔を持つハイイロオオカミの凝視行動の分析か

ら、イヌ科動物の一部が、視線を利用した同種間コミュニケーションを行っている可能性があることがわかった。

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T4 社会的遊びとホモルーデンスの進化 Social Play and the Insights on Evolution of Homo ludens

島田将喜 帝京科学大学アニマルサイエンス学科

動物の遊びの研究が近年盛んになってきている。著者は野生ニホンザル・チンパンジー・ヒトに対する長期フィ

ールドワークを継続し、社会的遊びに関する行動学的研究を行っている。これまでに遊びが形成する社会的ネット

ワークや、遊びと毛づくろいの関係、遊びと狩猟の関係を種ごとに検討してきた。さらに今後は種間比較、異文化

間比較を通じて、人類やその他の動物にとっての遊びやコドモ期、そして子ども(コドモ)社会の本質的重要性を

明らかにしようと構想している。目指されているのは、人類進化論を遊びの観点から一元的に捉えようとする、新

しいホモルーデンス論である。本発表では、「遊び学」の最近の動向をレビューしつつ、著者自身の最近の研究、

とくに遊びがその他のコドモ同士の社会関係におよぼす影響について紹介する。

T5 動物は視聴覚機器を介した対面コミュニケーションを好むだろうか-セキセイインコを用いた研究 Social Play and the Insights on Evolution of Homo ludens

関義正 1・岡ノ谷一夫 2, 3・一方井祐子 3 1 愛知大学文学・2 東京大学大学院総合文化研究科・3 理化学研究所 BSI

動物の認知研究における統制された視聴覚刺激として、他個体の動画は広く用いられている。また、一般にヒト

も他個体の現れる動画を頻繁かつ自発的に視聴する。一方、かつての夢の技術「テレビ電話」が非常に容易に利用

できる今日でも、通信回線越しのコミュニケーションにおいては、むしろ音声のみまたはテキストの利用が好まれ

る傾向にある。その理由については諸説あるが、テレビ放送のような単方向のものと異なる、映像提示装置等の媒

介物を用いた双方向コミュニケーションには、生物種を超えて“気恥ずかしさ”のようなものを感じさせる要因があ

るのだろうか。それが明らかになれば、比較認知科学的に、より自然なコミュニケーション手段の開発にも繋がる

だろう。そこで我々は、ヒト同様に視聴覚優位で社会性の強いセキセイインコを動物モデルとし、通信回線を介し

たコミュニケーションに関わる一連の実験を行った。現在までに得られている結果を紹介する。

T6 “Sense of self-agency” in rats 澤幸祐・栗原彬 専修大学人間科学部・専修大学文学研究科

自己主体感は、「ある行為を自分が行っている」という感覚とされており、広義の自己を支える重要なプロセス

である。しかしながら、その主観的側面のため、動物においては十分に研究がなされているわけではない。本研究

では、ある因果構造を持った事象の生起を観察した場合と、自らの行動が因果構造に介入して事象の生起を促した

場合でラットが異なる反応を示すという因果推論事態の手続きを応用し、ラットにおいて自己主体感の検討を試み

た。ラットは事象 A と事象 B の継時対提示、および事象 A とショ糖溶液の継時対提示を訓練として経験し、テス

トではレバー押しに対して事象 B が後続する事態を経験した。レバー押し直後に事象 B が提示される条件、500msの遅延後に提示される条件、1s の遅延後に提示される条件が設定され、事象 B 提示中のショ糖溶液予期反応を測定

した。その結果、500ms の遅延によって予期反応の減弱が観察され、「事象 B 生起は自らのレバー押しが原因では

ない」という判断が生じた可能性が示唆された。

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T7 イヌの尻尾振りと情動伝染 Dog’s tail-wagging and its relation to emotional contagion

今野晃嗣 帝京科学大学

動物の尻尾振り(tail-wagging)は、個体の情動状態を反映した反応であり、同種間コミュニケーションにおける

社会的シグナルの役割を果たすと考えられている。とくにイヌ Canis familiaris は、相手に対して親和的に近づいた

り興奮したりするときに尾を左右に振ることが知られている。しかし、イヌの尻尾振りとそれを引き起こす社会的

文脈の関連についてはよくわかっていない。そこで本研究は、まず、イヌがどのような文脈においてどのように尻

尾を振るのかという問題を明らかにするため、さまざまな種類の報酬を与えたときのイヌの尻尾振り反応を調べ

た。次に、尻尾振り反応の個体間伝染が生じるかどうかを明らかにするため、他のイヌが尻尾を振っている場面を

観察させたときのイヌの尻尾振り反応を調べた。これらの結果から、イヌにおける尻尾振り反応を介した情動伝染

がどのような社会的機能をもつのかという点について考察する。

T8 鳥類における視野安定機能―歩行時頭部運動の分析― Visual stability in birds: An analysis of head movement during walking

幡地祐哉 京都大学文学研究科

いくつかの鳥類種は歩行時に示す前後の規則的な頭部運動(head bobbing)を示す。この頭部運動について視野安定

と歩行安定の2つの機能が示唆されてきた。本研究の目的は,head bobbing が歩行運動とそれに伴う視野のずれの

いずれに対して生起するのか調べることであった。トレッドミル上を歩行するニワトリ(Gallus gallus domesticus)の両側,及び正面に視覚運動刺激を提示し,頭部運動を分析した。運動刺激と同方向へ頭部運動が生じ,静止刺激に

対して頭部運動は生起しなかった。歩行速度の影響はほとんど見られなかった。前面の拡大するオプティックフロ

ーに対して頭部運動が生じた。これらの結果から,ニワトリの head bobbing は歩行自体ではなくそれに伴う視覚全

体の運動に対して生じることが示唆される。これを踏まえ,視野安定の方略と形態的制約,知覚との関連について

考察する。

T9 イロワケイルカにおける音声研究の可能性 Possibility of the Acoustic Study in Commerson’s dolphins

吉田 弥生・幸島 司郎 京都大学 野生動物研究センター

多くのイルカ類は広帯域のパルスをエコーロケーション(エコロケ)に用い、ホイッスルを同種間のコミュニケー

ションに用いている。水中で生活をするイルカ類は、陸上と比較して視覚や嗅覚(化学知覚)を用い難く、聴覚情報

が非常に重要な知覚であると考えられる。しかし、一部のイルカ類の中には、狭帯域高周波の特殊なパルス音のみ

を発し、ホイッスルを発さない種が存在する。彼らが、広大な海中生活のなかで重要な情報である音声をコミュニ

ケーションに用いないとは考えにくい。本研究は、この特殊なパルス音を発するイロワケイルカに着目し、彼らの

音声とその行動を詳細に調べることで、パルスにおけるエコロケ機能以外、つまり「音声コミュニケーション機能

の可能性」を探ることを目的としている。また、イルカ類の行うエコロケには、彼らが定位する距離や物の見方が

反映されると考えられる。イルカの音声行動研究を通して、認知的・進化的視点による考察から、今後の研究への

展望を紹介したい。

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T10 日本語学習児における Infant-Directed Speech と Adult-Directed Speech の使い分けの理解 Understanding of how to use Infant-Directed Speech and Adult-Directed Speech: Evidence from Japanese-learning toddlers

池田 彩夏 1, 2・小林 哲生 3・板倉 昭二 1 1 京都大学文学研究科・2日本学術振興会・3NTT コミュニケーション科学基礎研究所

私たち人間は、話し相手の年齢や地位、また状況に合わせて、自らの話し方を柔軟に変える。例えば、相手が目

上の人であれば敬語を使うし、相手が乳幼児であれば単純な文法で、ゆっくり話す、というような Infant-Directed Speech (IDS) を用いる。近年、3 歳児でさえこのような話し方の使い分けを適切に理解できることが明らかとなっ

た。そこで本研究では、言語獲得期の 20・27 ヶ月児が、彼らがさらされる頻度の高い IDS と大人向けの話し方で

ある Adult-Directed Speech (ADS) の使い分け方を理解しているかを habituation-switch 法で検討した。参加児は、2種類の映像(幼児に IDS で話しかけている映像と大人に ADS で話しかけている映像)に馴化した後、話し手、聞

き手、話し方のそれぞれが変化したテスト映像を呈示された。その結果、聞き手と話し方が不一致のときに注視時

間が増加する傾向があったものの、テスト刺激によって異なる傾向を示し、2 歳前後の乳幼児であっても IDS と

ADS の使い分け方の理解は始まっているが、まだ不完全である可能性が示唆された。

T11 自閉症児における怒り顔への視覚的注意 Visual attention to angry faces in children with Autism Spectrum Disorder

磯村朋子 京都大学・霊長類研究所

自閉症における社会相互作用の障害の背景に、表情処理の特異性が注目されてきた。本研究では特に、より自動

的・無意識的な処理を伴う反応を調べるため、「怒り顔優位性効果」に着目した。怒り顔優位性効果は、怒り顔は

笑い顔や中性顔よりも速く発見されるという現象である。私たちが怒り顔のような脅威刺激に対して迅速に注意を

向けるために生じる効果であり、重要なシグナルの評価とそれに伴う自動的な行動調節の機能を反映していると考

えられている。今回、学齢期の自閉症児を対象に視覚探索課題を実施し、怒り顔に対する迅速な注意の機能につい

て調べた。その結果、自閉症児では怒り顔優位性効果が見られなかった。さらなる検討の結果、より高年齢の自閉

症児では定型発達児同様に怒り顔優位性効果を示したが、自閉症児では、怒り顔の探索時により顔の部分特徴に着

目した処理の仕方をしていることが示唆された。これらの結果から、自閉症における表情処理のメカニズムについ

て考察したい。

T12 早産児における自発的啼泣と自律神経活動との関連 Spontaneous crying and autonomic nervous system in preterm and full-term infants

新屋裕太 京都大学大学院教育学研究科

近年、早産で出生した児の救命率は、医療技術の進歩に伴い上昇傾向にあるが、一方で、出生時に重篤な合併症

のない児においても、認知・情動面の予後にリスクを抱えることが明らかになりつつある。早産に伴うリスクの神

経生理学的背景については未だ解明されていないが、その要因の一つとして、発達早期からの自律神経活動の不全

が指摘されている。本研究では、早産児の自律神経活動の個人差を反映すると思われる間接指標として、自発的啼

泣(泣き声)に注目した。新生児・乳児期の啼泣は、児の神経生理状態を測る簡便な指標として注目されてきた

が、特に、主要な副交感神経系の一つである迷走神経は、心拍の変動や声帯の緊張緩和に関与し、啼泣の基本周波

数に影響すると考えられている。本研究では、出産予定日前後の早産児と満期産児を対象に、自発的啼泣の音響特

徴と心拍変動の関連を調べた。その結果、迷走神経活動の個人差が、自発的啼泣の基本周波数に反映されることを

明らかにした。

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T13 触覚を介した母子間相互作用経験が母親の脳内情報処理に与える影響 Mothers' multimodal information processing modulated by multimodal interactions with their infants

田中友香理 京都大学大学院教育学研究科

養育者は、多種の感覚モダリティ(視線・発話・接触)を介して乳児と相互作用をする。なかでも、乳児に対す

る接触と発話の同期的使用は、養育場面で特に豊富に経験される。こうした養育者からの働きかけは、乳児の社会

的学習や情動制御を促すことが指摘されてきた。しかし、母子相互作用における接触と発話の同期的使用経験が、

母親にどのような影響を与えるのかについては十分検討されてこなかった。本研究では、触覚を介した母子間相互

作用経験が、養育者の情報処理に与える影響について、以下の二点に焦点をあてて検討した。①母親と養育経験の

ない女性とでは、養育行動に関連する触覚-言語情報の統合処理パターンに差異がみられるか、②差異がみられると

したら、母親の日常的な養育行動とどのように関連するのか。さらに、母親が文脈に応じてどのように身体接触行

動を調整するのかについても考察したい。

T14 ロールプレイがマインドリーディングに及ぼす効果の転移 Transfer of role-play effect on mindreading

古見文一・子安増生 京都大学大学院教育学研究科

他者の心を読む能力については,「心の理論」研究として,比較認知科学,発達心理学の分野で多く研究されて

きた。ヒトを対象とした研究では,乳児期から児童期を対象とした研究が多く行われてきたが、近年ではマインド

リーディング研究として成人期を含めて検討が行われている。マインドリーディングの発達要因と考えられている

社会経験の一つであるロールプレイは、特殊的な状況における他者の心の理解、および特殊的な他者の心を読み取

るマインドリーディングのそれぞれで効果があることがわかっている。しかしながら、それぞれのロールプレイは

状況に合わせたものであり、ロールプレイの効果は転移を起こすのかは未検討であった。本研究では,これまでの

研究で用いられてきたディレクター課題を修正し,さらに 2 種類のロールプレイを行うことにより,ロールプレイ

の効果の転移について検討した。その結果,特殊的な他者とのコミュニケーションを想定したロールプレイは転移

を起こす可能性があることが示唆された。

T15 裏切り者よ,汝,左の頬を出せ:ポーズの左右差と信頼感 Cheaters turn the other cheek forward: Lateral posing asymmetries for displaying trustworthiness

大久保街亜 専修大学

表情の表出には左右差がある。われわれはこれまで,(1) 笑顔が見た目の信頼感を高めること,(2) その効果は社

会的交換における裏切り者で大きく,(3) 顔の左側に相対的に強くなることを示した。本研究では,信頼ゲームと

いう金銭的な報酬を伴う交渉型の社会的ゲームを用い,ゲーム内で表情表出の左右差について検討した。信頼ゲー

ムにおいて裏切りの回数が多いものを裏切り者,少ないものを協調者とした。実験の結果,裏切り回数に関わら

ず,参加者は顔の左側を信頼ゲームの交渉相手に見せることが明らかになった。ただし,その傾向は,裏切り者で

協調者に比べて強くなることが示された。この結果から,裏切り者は,右半球がコントロールする顔左側を使い巧

み表情を利用し,見た目の信頼感上昇につなげていると考えられる。

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T16 情動の配置 Allocation of emotion

山田祐樹 九州大学

ヒトの情動と身体空間上での位置との関係性についての研究では,上に快/下に不快というマッピングがなされ

やすいことが分かっている。また,利き手側 (右利きなら右側) に快/非利き手側に不快が関連付けられることも

示されてきた。この身体化された情動について,発表者はこれまで実験室や模擬日常場面での実験に基づくいくつ

かの研究を行ってきた。その結果,例えば情動の配置における文化差,身体動作や移動と情動の統合,視覚意識の

役割,博物館鑑賞・刑事裁判での量刑判断に対する情動身体化の影響についての新たな側面が明らかになった。こ

れらの知見から推測される情動身体化メカニズムについての議論を行い,ヒト以外の動物との共通性と相違性の検

討可能性を探る。

T17 乳児期における Implied motion 知覚の発達 Development of implied motion perception in infancy

白井述 1・伊村知子 2

1 新潟大学・2新潟国際情報大学

乳児期における静止画からの運動(implied motion: 以下、IM)知覚について検討した。5−8ヶ月児に対して、刺

激呈示画面中央に、左右いずれかへ向かって走っている、あるいは直立している成人男性の写真(手がかり刺激)

を呈示し(それぞれ run、stand 条件)、600ms が経過した後、写真の左右に1つずつ、計 2 つの円図形を同時に呈

示した。その際、乳児がどちらの円を先に注視したかを記録した。こうした手続を run、stand 条件で 20 回ずつ繰

り返し、各条件における手がかり刺激の定位と乳児の初発眼球運動の方向の一致率を求めた。その結果、run 条件

においてのみ、手がかり-眼球運動間の一致率がチャンスレベルを有意に上回った。一方、類似の手続きによって生

後 4、5 ヶ月児の IM 知覚について再検討したところ、生後 4 ヶ月児では手がかり−眼球運動間の一致率とチャンス

レベルの差は有意では無かった。一連の結果は、IM 知覚が生後 4、5 ヶ月前後で発達する可能性を示唆する。

T18 視知覚の種間比較研究: 素材質感知覚や顔色知覚、種間比較の難しさについて Comparative studies on visual perception: material perception and face color perception, the difficulty of comparative studies

平松千尋 九州大学 芸術工学研究院

現在我々が享受している知覚世界は、長い進化の過程で動物が獲得してきた生物学的基盤に、ヒト特有の行動様

式や環境への適応が加味されて特殊化したものである。ゆえに、ヒトと他の動物との相違点を明らかにすること

で、ヒトをより理解できるようになると考える。このような立場から、霊長類を対象として視知覚の種間比較に取

り組んできた。種間比較研究では、ある性質についての種間の共通性と違いを明らかにしようと試みる。しかし、

ヒトと動物の間には、言語の有無のみならず、調べたい性質以外にも多くの違いがあり、まったく同一のパラダイ

ムを適用することが難しい。よって、得られた結果の解釈にも制約が伴う。本発表では、素材質感知覚や顔色知覚

のヒトとオマキザルとの種間比較を例にとり、共通点や相違点について紹介すると共に、種間比較の難しさについ

ても触れたい。また、その過程で思いがけなく得られた知見についても紹介したい。

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Page 11: ICS-10 2langint.pri.kyoto-u.ac.jp/langint/news/ics2/pdf/ICS2-10...Homo ludens 島田将喜 帝京科学大学アニマルサイエンス学科 動物の遊びの研究が近年盛んになってきている。著者は野生ニホンザル・チンパンジー・ヒトに対する長期フィ

T19 人の内部状態を顕在化する視覚的インタラクションのデザインとマイニング Design and Mining of Gaze-Based Interaction Making Cognitive State Explicit

平山 高嗣 名古屋大学 大学院情報科学研究科

人と共生するシステムを構築することはコンピュータサイエンスにおける主要な課題の一つである.システムが

人と協調的に活動するためには,人の振る舞いを外部から観測し,興味や意図などの内部状態を推定することが重

要となる.「目は心の窓」と言われるように,視線はその手がかりの一つであり,目から人の内部状態にアクセス

することができるが,多次元変数によって記述されるであろう内部状態とそれに比べれば低次元情報を持つ視線と

の関係は一意に定まらない.その関係を解きほぐす鍵が視覚環境のダイナミクスである.私は,外環境からの視覚

的な働きかけに対する人の反応に基づいて内部状態を推定する Mind Probing を提案しており,本発表では,そのコ

ンセプトに沿った情報学的アプローチを導入して分析,設計された人の内部状態を顕在化する視覚的インタラクシ

ョンの研究動向を紹介する.

T20 感情情報に対する注意の文化差 Cultural differences in attention to emotional information

石井敬子 神戸大学大学院人文学研究科

この 20 年間に及ぶ文化心理学の研究は、自己や推論、感情経験のみならず、知覚や注意といった比較的低次の

心理プロセスにも、当該の文化内で共有された人間観や世界観、特に北米を代表する西洋文化において優勢な相互

独立的自己観、および日本や韓国などの東アジア文化において優勢な相互協調的自己観の影響が及ぶことを明らか

にしてきた。本発表では、協調的自己観の影響の表れとして、文脈情報への注意、および他者の否定的なシグナル

に対する敏感さの 2 点に注目する。特に、高コンテクストなコミュニケーション様式に対応し、東アジア人は語調

に対して選択的に注意を向けやすいこと、また他者の笑顔の消失に敏感に反応しやすく、そのプロセスには関係性

に対する不安が媒介していることを明らかにした一連の研究成果について報告する。

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