icuにおける眠剤icuにおける眠剤 東京慈恵会医科 学附属病院 集中治療部...

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ICUにおける眠剤 東京慈恵会医科⼤学附属病院 集中治療部 浅野 健吾 202069⽇ 慈恵ICU勉強会

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  • ICUにおける眠剤東京慈恵会医科⼤学附属病院 集中治療部

    浅野 健吾

    2020年6⽉9⽇慈恵ICU勉強会

  • 今⽇の勉強会をやろうと思った理由

    患者さんが眠れなくて純粋に困る困るから仕⽅なく眠剤使うけど,わからず使ってる.本読んでも, ICUでどうしたらいいのか書いてない.

    よくわからない分, 罪悪感すら伴う.この現状をどうにかしたい, と思った.

    皆さんはいかがですか?

  • 睡眠とは「周期的・可逆的に起こる外部環境からの認知的・感覚的な解放状態」

    CHEST 2020; 157(4):977-984

    睡眠の特徴(条件)・⽣命⾃体がもたらす内因性の現象・⾝体・精神が, 全般的かつ⼀時的に低下・外部からの何らかの刺激で回復する・無刺激でも時間経過とともに⾃然に回復する

    ICUとCCU 2018; 42(7): 417-422.

    昏睡, 鎮静下とは⼤きく異なる

  • なぜ重要?①〜⽣命維持に必須〜⻑期間断眠を強いられたラットの研究

    摂⾷量が増すにも関わらずエネルギー消費が増加し, ⽪膚障害や体温低下, 体重減少. ノルエピネフリン増加, チロキシン減少も伴う.

    ついには敗⾎症様の症状を呈して死に⾄る.Sleep 1989; 12: 68-87

    ⽣命は, 眠らないと死んでしまう

  • なぜ重要?②〜様々な機能低下に関与する〜

    呼吸

    免疫

    低O2・⾼CO2への反応↓1秒量・肺活量↓NPPV管理における挿管移⾏↑,離脱困難↑, 院内死亡率↑

    Am Rev Respir Dis. 1983;128(6):984-986.Chest. 1987;91(1):29-32.

    Crit Care Med. 2010;38(2): 477-485.

    免疫機能異常(多核球, NK細胞の機能不全)JAMA. 2002;288(12):1471-1472.

    Sleep Med Rev. 2012;16(2):137-149. Vasc Health Risk Manag. 2008;4(6):1467-1470.

  • 精神運動機能, 短期記憶障害, 遂⾏機能障害, 気分障害

    Sleep. 1996;19(4):318-326. Sleep Med. 2007;8(3):215-221.

    Front Psychiatry. 2018;9:303.

    代謝内分泌

    認知機能

    インスリン抵抗性↑コルチゾール↑

    N Engl J Med. 2001;345(19):1359- 1367.N Engl J Med. 2013;368(16):1477- 1488.

    Lancet. 1999;354(9188):1435- 1439.

    なぜ重要?②〜様々な機能低下に関与する〜

  • Crit Care 2009, 13:234

    なぜ重要③〜せん妄との関連〜

    せん妄と睡眠障害は⾊々と似ている

    <原因>環境, ストレス, 加齢, 薬物など

    <症状>夜間不眠,概⽇リズム障害, 注意⼒の⽋如,認知機能低下,気分の変動,幻覚などせん妄になれば睡眠障害にもなる

    睡眠障害になればせん妄にもなる?※厳密には, 睡眠障害がせん妄の原因になるかは議論がある

    せん妄はICU患者の予後を悪化させる睡眠障害はせん妄の原因になる(かも)

    睡眠を良くすればICU患者の

    予後を良くできる!かも

  • J Intensive Care Med 2012;27(02):97–111Semin Respir Crit Care Med 2019;40:614–628.

    睡眠障害の要因と結果 in ICU

  • 2018年慈恵ICU勉強会「PADISガイドライン2018」(Ns坂⽊さん)より引⽤

    患者⽬線

  • じゃあ実際, ICUに⼊ると睡眠はどうなるの?

  • 正常睡眠のPolysomnography睡眠stage 脳波 ⾝体覚醒(閉眼安静時) β波 or α波 通常通りREM睡眠 低振幅脱同期波

    (覚醒時と類似)急速眼球運動⾻格筋が弛緩⾃律神経活動に変動

    Non-REM睡眠(N1) α波消失, θ波出現 体動ありNon-REM睡眠(N2) 紡錘波, K complex出現 体動ありNon-REM睡眠(N3) δ波出現, SWS 体動あり

    δ波:0.4〜4Hz, δ波:4〜8Hz, α波:8〜13Hz, β波:≧13HzK complex:⾼振幅の2相性徐波と紡錘波

    lCUとCCU 2018; 42(7): 417-422.

  • 90〜120分を1周期としてREMとNREMを繰り返す

    主にN2, N3, REMで構成 主にN2, REMで構成, N3は↓REMが徐々に⻑くなる

    こういった周期性やstagingの理由は不明だが, この睡眠構造が脳を含めた全⾝回復に重要と考えられている

    Acta anaesthesiologica Scandinavica 2012; 56: 950-8.

  • ICUに⼊るとどうなる?

    N3, REMが激減(場合によりほぼ消失)するSemin Respir Crit Care Med 2019;40:614–628.

  • 1時間あたりの覚醒反応の回数(覚醒指数)は最⼤40回(1.3〜39回/ hr)総睡眠時間は⽐較的維持されるという報告もあるが, ⽇中の睡眠時間が1⽇の総睡眠時間の40〜57%を占める

    Minerva Anestesiol 2013; 79; 804-815

  • どうすればよいか?

    ガイドラインを確認

  • 2018年慈恵ICU勉強会「PADISガイドライン2018」(Ns坂⽊さん)より引⽤

    このガイドラインのSleepの項⽬をみてみる

  • 2018年慈恵ICU勉強会「PADISガイドライン2018」(Ns坂⽊さん)より引⽤

  • 睡眠促進プロトコールの前後⽐較研究をもとに

    前後⽐較研究

    眠剤の前にやることがある

    2018年慈恵ICU勉強会「PADISガイドライン2018」(Ns坂⽊さん)より引⽤

  • 2018年慈恵ICU勉強会「PADISガイドライン2018」(Ns坂⽊さん)より引⽤

    推奨されている薬剤はない

  • じゃあどうすれば?

  • 43): Crit Care Med. 2018;46(9):e825-e873. 73): J Am Geriatr Soc. 2016;64(4):705-714.

    最新のreviewより引⽤

    実臨床では使わざるをえない場⾯があり, ガイドラインとの乖離があるそれゆえ, 薬剤の影響について理解することが重要である

    CHEST 2020; 157(4):977-984.

  • と, いうことで

    ICUで使⽤される薬剤について理解を深めてみる

    (ここから本題)

  • 理想の眠剤?(私⾒)

    睡眠潜時が短い 正常な睡眠構造を維持できる

    覚醒頻度を減らすそれでいて

    刺激を受けたら起きる

    ⽇中に眠気を引きづらない副作⽤が少ない

    反跳性不眠, 耐性がない

  • TMN:結節乳頭核LC:⻘斑核DR:背側縫線核

    HIS:ヒスタミンNA:ノルアドレナリン5-HT:セロトニン

    ARAS:上⾏網様体賦活系VLPO:腹外側視索前野

    アデノシンプロスタグランジンD2

    etc.

    メラトニンが調節に関与

    「シーソーモデル」(flip-flop model)眠剤は, 基本このどこかに作⽤している

    Intensive Care Med 2009; 35: 781-795

    (覚醒中に蓄積)

  • ベンゾジアゼピン系はGABAA受容体に結合してGABAを活性化→傾眠, 抗不安

    健常者では睡眠潜時や総睡眠時間を改善させ, 夜間覚醒も減らす⼀⽅で, 脳波上はREMやN3のslow wave sleepを減らしてしまう

    ⾼齢者などのhigh-risk患者ではせん妄のリスクを増加させることが多くの研究で⽰されている(させないという研究もある).

    Age Ageing 2011;40(01): 23–29 Anesthesiology 2006;104(01):21–26

    Benzodiazepines

    ICUとCCU 2018; 42(7): 431〜437

  • Age Ageing 2011;40(01): 23–29

    様々な薬剤について, ハイリスクな⼈へのせん妄リスクを評価→ベンゾジアゼピン系はリスク上昇という結果

  • Anesthesiology 2006;104(1):21–26

    前ページでのICUを対象としている研究

    (観察研究)⼈⼯呼吸患者198⼈を対象

    ロラゼパムで有意差をもってせん妄リスク↑(他薬剤も有意差ないがやや多い傾向)

  • Anesthesiology 2006;104(01):21–26

    量が増えるごとに, 年齢が増すごとに, 重症度が増すごとに,

    せん妄リスク上昇

  • 2013年のRCT meta-analysis(ICU)

    6つのRCT 1235⼈の研究を解析(ベンゾ vs. ⾮ベンゾ)3 RCT:ミダゾラム vs. DEX1 RCT:ロラゼパム vs. DEX1 RCT:ミダゾラム vs. DEX1 RCT:ロラゼパム vs. プロポ

    ⾮ベンゾの⽅が, ・ICU滞在⽇数短縮 (6研究, difference = 1.62 d, 95% CI, 0.68-2.55; I = 0%; p = 0.0007) ・⼈⼯呼吸期間短縮 (4研究, difference = 1.9 d; 95% CI, 1.70-2.09; I2 = 0%; p < 0.00001)

    (ただし, この解析では死亡率やせん妄発症リスクに有意差なし)

    Crit Care Med 2013; 41(9 suppl 1): S30-8,

  • Hum Neurobiol 1985;4(3):189–94. Psychopharmacology (Berl) 1996;126(1):1–16. Clin Pharmacokinet 1990;18(3):245–53.

    N3の抑制は単回投与した後も数⽇間継続Arzneimittelforschung 1983;33(10):1500–2.

    Eur J Pharmacol 1983;89(1–2):157–61.

    睡眠の断⽚化が数ヶ⽉続いてしまうNew York: Oxford University Press; 2011. p. 155–73.

    Crit Care Med 1998;26(4):676–84.

    睡眠構造は? 睡眠効率や睡眠潜時は改善するが, 脳波は変わってしまう

    その後にも影響が出る

    Crit Care Clin 2015; 31: 563–587.

  • 重症患者における使⽤は勧められない

    厳密に⾔えば ,せん妄上昇リスクについては議論がある

    が, あえて使⽤する理由はなく, 避けた⽅がよさそう

    内服についての検討は少ないが, 同様の機序として扱った⽅が良いと思われる

    ※当院のテンプレート

    ベンゾジアゼピンのまとめ

  • “Z-drugs”

    ゾルピデム, ゾピクロン, エスゾピクロン

    短時間作⽤型であり, ⼊眠困難に対して好んで使⽤される.

    ベンゾジアゼピンと同様GABAA受容体に作⽤するが, より鎮静・催眠作⽤に特化したω1受容体に作⽤する→筋弛緩作⽤や抗不安作⽤, 健忘をきたしにくい、とされる

    Nature 1999; 401: 796- 800

  • 脳波上, ⼊眠潜時短縮, 中途覚醒を減らし, N2を増やす. REM睡眠はほとんど抑制しないとされる.

    Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry 2006; 30(1): 22-29.

    複数のメタ解析や⼤規模⽐較試験で, 睡眠潜時, 睡眠時間, 睡眠の質, 安全性などでベンゾジアゼピン系と同等もしくは優れているという結果もあるJ Gen Intern Med 2007; 22(9): 1335-50.

    BMJ 2012; 345: e8343.Int Clin Psychopharmacol 1994; 9(4): 251-61.

    Health Technol Assess 2004; 8(24): iii-x, 1-125.

    エスゾピクロンやゾルピデムを6〜12ヶ⽉服⽤しても耐性が形成されず, 中断後も反跳性不眠が少ない(⾝体依存が形成されにくい)

    Sleep Med 2005; 6(6): 487-95.J Psychopharmacol 2012; 26(8): 1088-95.

    けっこう良いことづくめただし, 重症患者や術後患者での検討は乏しいことに注意

  • J Clin Sleep Med 2014;10(3):321-326.

    ICUでの検討は⾒つけられなかったが・・

    TKA・THA術後に使⽤するとどうか?

    20⼈のTKA or THA術後患者(全員60歳以上)を対象とした⼆重盲検RCT脊椎⿇酔+術後のmultimodal鎮痛で周術期管理術後one nightだけゾルピデム or プラセボを使⽤ポリソムノグラフィーも使⽤

    REM睡眠やslow wave sleepの改善はなし客観的なsleep qualityや疲労感の改善はみられた

    重症患者や, 侵襲が加わった患者に使⽤するとどうか,はもっと知りたいところ

  • ・基本的にはICUでの使⽤は許容される. 少なくともベンゾジアゼピン系よりは安⼼して使⽤できる.

    ・しかし, 重症患者・術後患者における検討は少ない

    ・GABA受容体に作⽤するという点はベンゾジアゼピンと同様であり, せん妄リスクなどには注意を要する. ゾルピデムやゾピクロン使⽤によりせん妄が誘発されたという報告もある

    Prim Care Companion J CIin Psychiatry 2010; 12 (doi:10.4088/PCC.09rOO849broCase Rep Crit Care 2016: 3185873

    Z-drugのまとめ

    安易に使⽤せず, 少量から慎重に使⽤することが妥当と思われる

  • ヒスタミンは⼤脳⽪質を賦活する(ヒスタミン受容体が前頭葉・帯状回に⾼密度に分布)

    眠気が強い第⼀世代の抗ヒスタミン薬は親油性で⾎液脳関⾨を透過→脳内のヒスタミン受容体を競合阻害→⼤脳⽪質賦活機能↓

    Pharmacol Ther 2007; 113: 1-15

    しかし⼀⽅で, 強い抗コリン作⽤を有するため特に⾼齢者ではせん妄発現リスクがあるとされる

    Postgrad Med J 80: 388-393,2004

    Antihistamines

    ※当院のテンプレート

  • TMN:結節乳頭核LC:⻘斑核DR:背側縫線核

    HIS:ヒスタミンNA:ノルアドレナリン5-HT:セロトニン

    ARAS:上⾏網様体賦活系VLPO:腹外側視索前野

    アデノシンプロスタグランジンD2

    etc.

    メラトニンが調節に関与

    「シーソーモデル」(flip-flop model)眠剤は, 基本このどこかに作⽤している

    Intensive Care Med 2009; 35: 781-795

    ココに作⽤

  • よくある誤解①かゆみ⽌め効果が強い薬ほど眠気が強い, わけではない

    よくある誤解②痒みを伴う不眠のとき、第⼀世代抗ヒスタミン薬は⼀⽯⼆⿃、ではない

    よくある誤解③抗コリン作⽤があるからせん妄を助⻑するのは確実、ではない

    しかし, いくつか誤解がある(というか, ⾃分が誤解していた)

  • よくある誤解①かゆみ⽌め効果が強い薬ほど眠気が強い, わけではない

    よくある誤解②痒みを伴う不眠のとき、第⼀世代抗ヒスタミン薬は⼀⽯⼆⿃, ではない

    よくある誤解③抗コリン作⽤があるからせん妄を助⻑するのは確実, ではない

    しかし, いくつか誤解がある(というか, ⾃分が誤解していた)

  • 睡眠薬の適正使⽤・休薬ガイドライン

    鎮静性があるのは第1世代と⼀部の第2世代のみかゆみ⽌めの効果とは相関なし

  • よくある誤解①かゆみ⽌め効果が強い薬ほど眠気が強い, わけではない

    よくある誤解②痒みを伴う不眠のとき、第⼀世代抗ヒスタミン薬は⼀⽯⼆⿃, ではない

    よくある誤解③抗コリン作⽤があるからせん妄を助⻑するのは確実, ではない

    しかし, いくつか誤解がある(というか, ⾃分が誤解していた)

  • ⼤規模RCTの結果, 第⼀世代の多くはアトピー性⽪膚炎, 慢性蕁⿇疹,掻痒症の改善効果を有しないことがわかっている.

    Dermatology 2002; 205(1): 40-45.Journal of Cutaneous Medicine and Surgery: Incorporating Medical and

    SurgicalDetmatology 2003; 7(6): 467-473.

    ⽇本はアレルギーを専⾨としない医師による処⽅が多いためか, 特に欧⽶と⽐較して鎮静作⽤の多い第⼀世代を処⽅することが多いことが指摘されている.

    ⻄⽇本⽪膚科 2009; 71(1): 3-6.Pharmacol Ther 2007; 113(1): 1-15.

  • よくある誤解①かゆみ⽌め効果が強い薬ほど眠気が強い, わけではない

    よくある誤解②痒みを伴う不眠のとき、第⼀世代抗ヒスタミン薬は⼀⽯⼆⿃, ではない

    よくある誤解③抗コリン作⽤があるからせん妄を助⻑する、とは⼀概に⾔えない

    しかし, いくつか誤解がある(というか, ⾃分が誤解していた)

  • せん妄発症のメカニズムとして, 脳神経伝達のびまん性不均衡が⾔われている.

    セロトニン, ノルアドレナリン, ドーパミン, c-アミノ酪酸(GABA)など複数の神経伝達物質がその病因に関与しており, その中でアセチルコリンに対する抗コリン作⽤もそのひとつとされている.

    しかし, 実際に抗コリン作⽤が実際にせん妄を助⻑するのかは議論があるAging Clin Exp Res 2016; 28: 25–35.

  • Age Ageing 2011;40(01): 23–29

    ※ベンゾジアゼピンのところでも紹介した⽂献

    抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン)はせん妄発症に有意差なしという結果

  • 単施設の後ろ向き観察研究Major surgeryを受けた65歳以上の患者3634⼈, うち686⼈が術後せん妄薬剤との関連を検討 より近年の研究

    Neurological Sciences 2019; 40:793–800

    多変量解析をすると, むしろせん妄抑制という結果

  • ジフェンヒドラミンの半減期は5〜8時間であるが, 内服後12時間後でもPETでの脳内占拠率は45%と⾼いという報告(⼀般的に50%以上で鎮静作⽤が発現する)

    J CIin Psychopharmacol 2010; 30: 694-701.

    持ち越し効果に注意

    ジフェンヒドラミンによる鎮静効果は服⽤4⽇⽬でプラセボと同等になってしまったという報告

    J CIin Psychopharmacol 2002; 22: 511-515,

    容易に耐性が形成される

    ⼀般的に抗コリン作⽤は強いとされるため, やはり無邪気には使いにくく(特に⾼齢者), ICUでの使⽤は控えるべきという意⾒もある.

    ICUとCCU 2018; 42(7): 431-437.

    とはいえ・・・

    脳波上はREMを抑制する.Semin Res Crit Care Med 2019; 40(5): 614-28.

  • 抗ヒスタミン薬まとめ

    眠剤として使うなら第⼀世代

    痒みとの⼀⽯⼆⿃は望めないかも?

    ICUでの使⽤を完全に否定するわけではないが, 重症患者での検討は少ないことも含めて注意は必須

    使うなら少量から. 持ち越し効果, 耐性形成にも注意

    ※当院のテンプレート

  • ちなみに:眠剤ではないが, 抗精神病薬は?

    脳波上, REMへの影響は少なく, N2, N3を増加させて睡眠を促す効果があるICUでの使⽤経験も(主に過活動性せん妄に対して)多い.

    せん妄による不眠には, 意外と理にかなっているかも?という意⾒もある.

    意外とよい”眠剤”かも(もちろんルーティン使⽤は推奨されない)

    Crit Care Clin 2015; 31: 563–587.

  • PropofolとDEX

    ICUでは, どちらもベンゾジアゼピンの代わりに⼈⼯呼吸器中の鎮静として使⽤することが推奨されている.

    “眠剤”としては, どうか?

  • Intensive Care Med 2012;38(10):1640–6.

    Propofol

    GABA受容体作動薬

    脳波上, REM睡眠を抑制してしまう

    ⽤量依存性にburst suppressionやγ waveという波形が出現する

    Conscious Cogn 2009;18(1):56–64. Sleep 2011;34(3):283–291A.

    すやすや寝ていても,正常な眠りとは⾔い難い

  • α2作動薬脳幹の⻘斑核に結合することでノルアドレナリン放出を抑制する

    GABA受容体が関与しない →せん妄リスクがないことが期待(ただし, GABA作動薬のpropofolと⽐較して少ないことは証明されていない)

    呼吸抑制を少なくしつつ, 鎮静・抗不安・鎮痛作⽤を持つことでICUで近年頻⽤

    DEX

    ICUとCCU 2018; 42(7): 431-437.

  • Crit Care Nurs Q 2020; 43 (2): 232–250.

    ICUにおけるDEX近年の研究

  • Lancet. 2016;388(10054):1893-1902.

    ⾮⼼臓⼿術後のせん妄を抑制

  • Am J Respir Crit Care Med. 2018;197(9):1147-1156.

    夜間の少量DEX使⽤でせん妄抑制(ただし, 患者⾃⾝が報告した睡眠の質に変化をもたらさなかった)

    2施設 n=100の⼆重盲検RCT21 時 30 分から翌⽇の 6 時 15 分までDEX 0.2mcg/kg/時

    いわゆる”夜DEX”のRCT

    Limitationが多い研究だが, 今後に期待

  • DEXではN2の睡眠紡錘波がより良く保たれるという報告もあるがNeuroimage 2004;22(1):315–22.

    どちらも脳波には影響を与えてしまう

  • PropofolとDEXまとめ

    どちらも, まだ良い眠剤とは⾔いきれない

    すやすや寝ていても, それは正常な眠りではない可能性が⾼い

    ただし, DEXのせん妄予防効果については今後の検証に期待

    夜DEXはひとつの選択肢としてはありか

  • メラトニン/ラメルテオン1958年にウシの松果体から発⾒

    主に⼊眠困難に効果あり

    メラトニン受容体はMT1〜3があるが, 睡眠に関与するのは1と2

    ラメルテオンはMT1とMT2に選択性が⾼い→反跳現象や離脱現象が起きない認知機能への影響や転倒リスクが少ない

    BZP系睡眠薬やZ-drugと⽐較して⾃覚的な睡眠効果はやや弱い

    検討されていないのかもしれないが、脳波への影響も少ないと考えられている.Semin Res Crit Care Med 2019; 40(5): 614-28.

    SCN:視交叉上核

    ICUとCCU 2018; 42(7): 431〜437.

  • TMN:結節乳頭核LC:⻘斑核DR:背側縫線核

    HIS:ヒスタミンNA:ノルアドレナリン5-HT:セロトニン

    ARAS:上⾏網様体賦活系VLPO:腹外側視索前野

    アデノシンプロスタグランジンD2

    etc.

    メラトニンが調節に関与

    「シーソーモデル」(flip-flop model)眠剤は, 基本このどこかに作⽤している

    Intensive Care Med 2009; 35: 781-795

    ココに作⽤

  • Crit Care Nurs Q 2020; 43 (2): 232–250.

    ICUにおけるメラトニンの研究

  • Crit Care Nurs Q 2020; 43 (2): 232–250.

    ICUにおけるメラトニンの研究(続き)

  • ICUにおけるラメルテオンの研究

    Crit Care Nurs Q 2020; 43 (2): 232–250.

  • ICUにおけるRCTを対象とした最新meta-analysis

    Pubmed/Medline, Embase, and Cochrane library からメラトニン or ラメルテオンを検討した8つのRCTを抽出

    Sleep Breath 2019; 23(4): 1059-70.

  • せん妄発症率↓

    ICU死亡率 有意差なし

    Sleep Breath 2019; 23(4): 1059-70.

  • 睡眠時間有意差ないが⻑い傾向 夜間覚醒↓

    ⼈⼯呼吸期間有意差ないが少ない傾向

    ICU滞在期間↓

    Sleep Breath 2019; 23(4): 1059-70.

  • ただし, single-centerが多い(multi-centerは⼀つだけ)

    Sleep Breath 2019; 23(4): 1059-70.

  • Nも少ない

    より⼤規模な研究が望まれる

    Sleep Breath 2019; 23(4): 1059-70.

  • メラトニンを⽤いた850⼈規模の多施設RCTが進⾏中

    今後に期待

    Trials 2017; 18:4

  • スボレキサント(オレキシン受容体拮抗薬)オレキシンは, オーファン受容体のリガンドとして1998年に単離された神経ペプチド

    視床下部から脳内に広く投射し,⻘斑核,縫線核 ,節乳頭体核などを活性化させる

    スボレキサントは, 臨床現場で唯⼀使⽤可能なオレキシン受容体拮抗薬

    TMN:結節乳頭核LC:⻘斑核DR:背側縫線核

    HIS:ヒスタミンNA:ノルアドレナリン5-HT:セロトニン

    ARAS:上⾏網様体賦活系VLPO:腹外側視索前野

    ここをブロック

    ICUとCCU 2018; 42(7): 431〜437.

  • Crit Care Nurs Q 2020; 43 (2): 232–250.

    Placeboと⽐較したRCTは1つ

    ICUにおけるスボレキサントの研究

  • Rater-blinded(測定者がブラインドされている)Placebo-controlled, mulPcenter RCTN=72(mixed ICU+acute ward)

    スボレキサント15mg vs. placeboで3⽇間

    J Clin Psychiatry 2017; 78(8): e970-e979.

  • せん妄予防効果を⽰した(ただし, 睡眠関連のパラメータは差がなかった)

    J Clin Psychiatry 2017; 78(8): e970-e979.

  • スボレキサント+多⾓的介⼊を検討する多施設研究⽇本で進⾏中

  • 終わりに 私⾒ICUでの睡眠は, まだ研究途上であることがわかった.睡眠に関する薬理学的介⼊の多くは, ・⼩規模・⾮ICU対象・評価が1〜3泊程度の睡眠評価に限定されているといった問題があることが多く, 注意が必要

    Semin Respir Crit Care Med 2019; 40 (5): 614-28.

    覚醒中にもかかわらずθ波やδ波のような覚醒中には通常みられない徐波波形が出現する“pathological wakefulness”や重症疾患や脳障害, ⾼⽤量の鎮静薬による影響がある.通常の睡眠カテゴリーでは分類できないatypical sleep, 持続性多形性徐波やburst suppressionなど ,普通の眠りとは異なる

    →そもそも根本的な脳波の評価が困難, という難しさ

  • さらに私⾒結局, ICUでの眠剤はやっぱりわからないことだらけ

    しかしながら, 分かっていないのだということを分からず使うのと,それすら分からずに使うのでは(たぶん)実臨床でも違ってくるだろう.

    どの薬剤も, まず薬剤以外で改善できるところを努⼒して, その上で少量からちょっとずつ使うように⼼がけようと思う.

    個⼈的には, ベンゾジアゼピンは極⼒避ける.